説明

車両の動力伝達制御装置

【課題】AMT付ハイブリッド車両において、電動機駆動トルクのアシストを利用しながらシフトアップ作動が行われる際の電動機駆動に伴う消費電力を小さくすること。
【解決手段】内燃機関駆動トルクTeが駆動輪に伝達されながら車両が走行する状態において、シフトアップ条件が成立したことに基づいて(t1)、Te及びクラッチトルクTcが減少させられ且つ電動機駆動トルクTmが増大させられる。その後、Tcがゼロになったことに基づいて(t2)、Tcをゼロに維持し且つTmが駆動輪に伝達される状態を維持しながら、シフトアップ作動が行われる(t2〜t3)。その後、シフトアップ作動が終了したことに基づいて(t3)、Te及びTcが増大させられ且つTmが減少させられる(t3〜t5)。シフトアップ条件の成立後、Tcがゼロになるまでの間(t1〜t2)、内燃機関の出力軸により回転駆動される発電機の負荷トルクTsを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として内燃機関と電動機とを備え、且つクラッチを備えた車両に適用されるものに係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の変速段を有し且つトルクコンバータを備えていない有段変速機と、内燃機関の出力軸と有段変速機の入力軸との間に介装されてクラッチトルク(クラッチが伝達し得るトルクの最大値)を調整可能なクラッチと、車両の走行状態に応じてアクチュエータを用いてクラッチトルク及び有段変速機の変速段を制御する制御手段と、を備えた動力伝達制御装置が開発されてきている(例えば、特許文献1を参照)。係る動力伝達制御装置は、オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)とも呼ばれる。
【0003】
AMTを搭載した車両では、変速作動(変速機の変速段を変更する作動)が行われる際、変速作動の開始前にクラッチが接合状態(クラッチトルク>0)から分断状態(クラッチトルク=0)へと変更され、クラッチが分断状態に維持された状態で変速作動が行われ、変速作動の終了後にクラッチが分断状態から接合状態へと戻される。
【0004】
また、近年、動力源としてエンジンと電動機(電動モータ、電動発電機)とを備えた所謂ハイブリッド車両が開発されてきている(例えば、特許文献2を参照)。ハイブリット車両では、電動機の出力軸が、内燃機関の出力軸、変速機の入力軸、及び変速機の出力軸の何れかに接続される構成が採用され得る。以下、内燃機関の出力軸の駆動トルクを「内燃機関駆動トルク」と呼び、電動機の出力軸の駆動トルクを「電動機駆動トルク」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−97740号公報
【特許文献2】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0006】
AMTを搭載し、且つ、電動機の出力軸が変速機の出力軸に接続される構成を備えたハイブリッド車両(以下、「AMT付ハイブリッド車両」と呼ぶ。)を想定する。AMT付ハイブリッド車両では、変速作動中(即ち、クラッチの分断等によって内燃機関駆動トルクが変速機の出力軸へ伝達され得ない間)において、電動機駆動トルクを変速機の出力軸(従って、駆動輪)へ伝達することができる。このように、電動機駆動トルクのアシストを利用することにより、変速作動に伴う変速ショック(駆動トルクの谷の発生)を抑制することができる。
【0007】
以下、車両が内燃機関駆動トルクを利用して走行している場合(内燃機関駆動トルクが駆動輪に伝達されている場合)において、電動機駆動トルクのアシストを利用しながらシフトアップ作動(変速段がより高速側に変更される変速作動)が行われる場合についての作動についてより具体的に説明する。この場合、シフトアップ作動の開始前では、通常、クラッチに滑りが発生しないようにクラッチトルクが内燃機関駆動トルクより大きい値に調整されている。
【0008】
この状態において、シフトアップ作動が行われる条件が成立すると、先ず、内燃機関駆動トルク及びクラッチトルクが減少させられ、且つ、電動機駆動トルクが増大される。その後、クラッチトルクがゼロになると、クラッチトルクをゼロに維持し且つ電動機駆動トルクが駆動輪に伝達される状態(即ち、電動機駆動トルクのアシストが利用されている状態)を維持しながら、シフトアップ作動がなされる。その後、シフトアップ作動が終了すると、内燃機関駆動トルク及びクラッチトルクが増大されるとともに電動機駆動トルクが減少させられる。
【0009】
以上、説明したように、電動機駆動トルクのアシストを利用しながらシフトアップ作動が行われる場合、電動機駆動トルクを一時的に増大するために電力が消費される。この消費電力は、電動機駆動トルクが増大される時間が短ければ短いほど、小さくなる。従って、消費電力の低減の観点からすると、電動機駆動トルクが増大される時間が短ければ短いほど好ましい。
【0010】
本発明の目的は、AMT付ハイブリッド車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、電動機駆動トルクのアシストを利用しながらシフトアップ作動が行われる際の電動機駆動に伴う消費電力が小さいものを提供することにある。
【0011】
本発明による車両の動力伝達制御装置は、動力源として内燃機関と電動機とを備えたハイブリッド車両に適用される。この動力伝達装置は、有段変速機(T/M)と、クラッチ(C/D)と、制御手段(ECU、AC/D1,AC/D2)とを備える。
【0012】
前記有段変速機は、前記内燃機関の出力軸(A1)から動力が入力される入力軸(A2)と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸(A3)とを備える。前記有段変速機は、減速比(前記出力軸の回転速度(No)に対する前記入力軸の回転速度(Ni)の割合)が異なる予め定められた複数の変速段を有し、且つトルクコンバータを備えていない。前記有段変速機の出力軸には、前記有段変速機を介することなく前記電動機の出力軸から動力が入力される。
【0013】
前記クラッチは、前記内燃機関の出力軸と前記有段変速機の入力軸との間に介装されていて、クラッチトルク(前記クラッチが伝達し得るトルクの最大値)が調整可能となっている。
【0014】
前記制御手段は、前記車両の走行状態に基づいて、前記内燃機関駆動トルク(Te)、前記電動機駆動トルク(Tm)、前記クラッチのクラッチトルク(Tc)、及び前記有段変速機の変速段を制御する。即ち、この動力伝達制御装置は、上述した「AMT付ハイブリッド車両」に適用される。
【0015】
前記制御手段は、前記クラッチトルクが前記内燃機関駆動トルクより大きい値に調整され、且つ、前記内燃機関駆動トルクが前記駆動輪に伝達されながら前記車両が走行する状態において、前記有段変速機の変速段を現在の変速段から前記現在の変速段より前記減速比が小さい高速側変速段に変更するシフトアップ条件が成立したことに基づいて、前記内燃機関駆動トルク及び前記クラッチトルクを減少するとともに前記電動機駆動トルクを増大する。その後、前記制御手段は、前記クラッチトルクがゼロになったことに基づいて、前記クラッチトルクをゼロに維持し且つ前記電動機駆動トルクが前記駆動輪に伝達される状態を維持しながら、前記有段変速機の変速段を前記現在の変速段から前記高速側変速段に変更する変速作動を行う。その後、前記制御手段は、前記変速作動が終了したことに基づいて、前記内燃機関駆動トルク及び前記クラッチトルクを増大するとともに前記電動機駆動トルクを減少する。即ち、この動力伝達制御装置は、電動機駆動トルクのアシストを利用しながらシフトアップ作動を行う。なお、「内燃機関駆動トルクが駆動輪に伝達されながら車両が走行する状態」とは、内燃機関駆動トルク(>0)のみが駆動輪に伝達されながら車両が走行する状態、並びに、内燃機関駆動トルク(>0)及び電動機駆動トルク(>0)が共に駆動輪に伝達されながら車両が走行する状態を含む。
【0016】
ここにおいて、前記シフトアップ条件の成立後、前記クラッチトルクがゼロになるまで(即ち、クラッチが分断状態になるまで)の間(以下、「クラッチトルク減少期間」と呼ぶ。)において、前記クラッチトルクが前記内燃機関駆動トルクより大きい状態が維持されながら、前記内燃機関駆動トルク及び前記クラッチトルクが減少させられることが必要である。これにより、クラッチトルク減少期間において、クラッチに滑りが発生することが抑制され得る。
【0017】
この動力伝達制御装置の特徴は、前記制御手段が、クラッチトルク減少期間において、前記内燃機関の出力軸により回転駆動される前記車両に設けられた発電機の負荷トルク(Ts、減速方向のトルク)を前記シフトアップ条件の成立前よりも大きい値に調整するように構成されたことにある。前記発電機としては、例えば、前記内燃機関駆動トルクに基づいて発電を行う機能を有するオルタネータ(交流発電機)が使用され得る。また、前記内燃機関の始動のために前記内燃機関の出力軸を回転駆動する機能と前記オルタネータの機能とを有するスタータモータジェネレータも使用され得る。更には、前記車両の動力源として前記車両に備えられた第2の電動機であって第2の電動機の出力軸から動力が前記内燃機関の出力軸に入力される第2の電動機(前記電動機とは異なる。駆動トルクを発生する機能と回生トルクを発生する機能とを有する。)も使用され得る。
【0018】
前記発電機の負荷トルクは、正味の内燃機関駆動トルク(Tne=Te+Ts)を減少させる方向に作用する。従って、クラッチトルク減少期間において発電機の負荷トルクを増大すると、発電機の負荷トルクを増大しない場合に比して、クラッチトルク減少期間における正味の内燃機関駆動トルクの減少勾配を大きくすることができる。この結果、クラッチトルク減少期間におけるクラッチトルクの減少勾配を大きくすることができ、クラッチトルクがゼロになる時期を早めることができる。換言すれば、クラッチトルク減少期間を短くすることができる。
【0019】
ここで、上述のように、クラッチトルク減少期間では、電動機駆動トルクが増大される。即ち、クラッチトルク減少期間が短ければ短いほど、クラッチトルク減少期間において電動機駆動に伴って消費される電力が小さくなる。以上より、上記構成によれば、発電機の負荷トルクを増大しない場合に比して、電動機駆動トルクのアシストを利用しながらシフトアップ作動が行われる際の電動機駆動に伴う消費電力を小さくすることができる。加えて、発電機の負荷トルクを増大することにより、発電機による発電量が増大する。このように量が増大した電力を車両に搭載された種々の電気機器に効率良く活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示したクラッチについての「ストローク−トルク特性」を規定するマップを示したグラフである。
【図3】本発明の実施形態の比較例によって、電動機駆動トルクのアシストを利用しながらシフトアップ作動が行われる際の作動の一例を示したタイムチャートである。
【図4】本発明の実施形態によって、電動機駆動トルクのアシストを利用しながらシフトアップ作動が行われる際の作動の一例を示した図3に対応するタイムチャートである。
【図5】本発明の実施形態の変形例に係る車両の動力伝達制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0022】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関とモータジェネレータとを備え、且つ、トルクコンバータを備えない有段変速機とクラッチとを使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)を備えたハイブリッド車両である。
【0023】
この車両は、エンジンE/Gと、変速機T/Mと、クラッチC/Dと、モータジェネレータM/Gと、を備えている。E/Gは、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。
【0024】
エンジンE/Gの出力軸A1は、バッテリBATから電力の供給を受けるスタータモータ・ジェネレータ(以下、「スタータジェネレータ」)SM/Gにより回転駆動されるようになっている。スタータジェネレータSM/Gを使用することにより、運転停止中のエンジンE/Gが始動するようになっている。スタータジェネレータSM/Gは、E/Gの出力軸A1により回転駆動されることにより、E/Gの出力軸A1に負荷トルクを与える発電機としても機能する。E/Gの出力軸A1は、フライホイールF/W、及び、クラッチC/Dを介して、変速機T/Mの入力軸A2と接続されている。
【0025】
変速機T/Mは、前進用の複数(例えば、5つ)の変速段、後進用の1つの変速段、及びニュートラル段を有するトルクコンバータを備えない周知の有段変速機の1つである。T/Mの出力軸A3は、ディファレンシャルD/Fを介して車両の駆動輪と接続されている。T/Mの変速段の切り替えは、変速機アクチュエータAC/D2を制御することで実行される。変速段を切り替えることで、減速比(出力軸A3の回転速度Noに対する入力軸A2の回転速度Niの割合)が調整される。
【0026】
クラッチC/Dは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦クラッチディスクである。より具体的には、エンジンE/Gの出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールF/Wに対して、クラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)が互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールF/Wに対するクラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)の軸方向の位置が調整可能となっている。クラッチC/Dの軸方向位置は、クラッチアクチュエータAC/D1により調整される。
【0027】
以下、クラッチC/Dの原位置(クラッチディスクがフライホイールから最も離れた位置)からの接合方向(圧着方向)への軸方向の移動量をクラッチストロークCStと呼ぶ。クラッチC/Dが「原位置」にあるとき、クラッチストロークCStが「0」となる。図2に示すように、クラッチストロークCStを調整することにより、クラッチC/Dが伝達可能な最大トルク(クラッチトルクTc)が調整される。「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。
【0028】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)がM/Gの出力軸と一体回転するようになっている。M/Gの出力軸は、所定の歯車列を介してT/Mの出力軸A3と接続されている。即ち、M/Gの出力軸の駆動トルクは、T/Mを介することなくT/Mの出力軸A3(従って、駆動輪)に伝達される。M/Gの出力軸の駆動トルクは、バッテリBATからの電力を用いてインバータINVを介して制御される。
【0029】
また、本装置は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサS1と、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサS2と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサS3と、を備えている。
【0030】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S3、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータAC/D1、AC/D2を制御することで、C/DのクラッチストロークCSt(従って、クラッチトルクTc)、及び、T/Mの変速段を制御する。また、ECUは、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでE/Gの出力軸A1の駆動トルクを制御するとともに、インバータINVを制御することでM/Gの出力軸の駆動トルクを制御する。更には、スタータジェネレータSM/Gが発電機として機能する場合、ECUは、インバータINVを制御することで、スタータジェネレータSM/GがE/Gの出力軸A1に与える負荷トルクを制御する。
【0031】
以上、この車両は、AMTを搭載し、且つ、M/Gの出力軸がT/Mの出力軸A3に接続される構成を備えた「AMT付ハイブリッド車両」である。以下、説明の便宜上、E/Gの燃焼により出力軸A1に発生する駆動トルクを「E/G駆動トルクTe」と呼ぶ。スタータジェネレータSM/Gが発電機として機能する場合においてスタータジェネレータSM/GがE/Gの出力軸A1に与える負荷トルク(減速方向のトルク)を「SM/G負荷トルクTs」と呼ぶ。TeとTs(負の値)とを合計して得られる正味の駆動トルクを「E/G正味駆動トルクTne」と呼ぶ(Tne=Te+Ts)。また、M/Gの出力軸の駆動トルクを「M/G駆動トルクTm」と呼ぶ。なお、説明の簡略化のため、本明細書では、E/Gの出力軸の回転やM/Gの出力軸の回転に伴う摺動抵抗等に起因する減速方向のトルクはゼロであるものとする。
【0032】
ここで、E/G駆動トルクTeは、例えば、スロットル弁の開度とE/Gの回転速度とを引数とする予め作製されたトルクマップに基づいて推定され得る。M/G駆動トルクTm、及び、SM/G負荷トルクTsは、供給される電流の値(又は電圧の値)又はその周波数を引数とする予め作製されたトルクマップに基づいて推定され得る。
【0033】
本装置では、シフトレバーSFの位置が「自動モード」に対応する位置にある場合、ECU内のROM(図示せず)に記憶された変速マップと、上述のセンサからの情報とに基づいて選択すべき変速段(選択変速段)が決定される。シフトレバーSFの位置が「手動モード」に対応する位置にある場合、運転者によるシフトレバーSFの操作に基づいて選択変速段が決定される。変速機T/Mでは、変速段が選択変速段に確立される。選択変速段が変化したとき、変速機T/Mの変速作動(変速段が変更される際の作動)が行われる。変速作動の開始は、変速段の変更に関連して移動する部材(具体的には、スリーブ)の移動の開始に対応し、変速作動の終了は、その部材の移動の終了に対応する。
【0034】
(シフトアップ作動)
上述のように、本装置は、AMTを搭載し、且つ、M/Gの出力軸がT/Mの出力軸A3に接続される構成を備えた「AMT付ハイブリッド車両」に適用される。このAMT付ハイブリッド車両では、変速作動が行われる際、変速作動の開始前にクラッチC/Dが接合状態(クラッチトルク>0)から分断状態(クラッチトルク=0)へと変更され、クラッチが分断状態に維持された状態で変速作動が行われ、変速作動の終了後にクラッチが分断状態から接合状態へと戻される。
【0035】
従って、変速作動中では、クラッチC/Dが分断状態に維持されることによって、E/G正味駆動トルクTneが変速機T/Mの出力軸A3へ伝達され得ない。一方、このAMT付ハイブリッド車両では、変速作動中においても、M/G駆動トルクTmを変速機T/Mの出力軸A3(従って、駆動輪)へ伝達することができる。このように、M/G駆動トルクTmのアシストを利用することにより、変速作動に伴う変速ショック(駆動トルクの谷の発生)を抑制することができる。
【0036】
以下、車両がE/G正味駆動トルクTne(>0)のみを利用して走行している場合(M/G駆動トルクTm=0)において、M/G駆動トルクTmのアシストを利用しながらシフトアップ作動(変速段がより高速側に変更される変速作動)が行われる場合について考察する。先ず、図3を参照しながら、本装置の比較例が採用された場合の作動の一例について説明する。NEは、E/Gの出力軸A1の回転速度であり、Niは、T/Mの入力軸A2の回転速度である。図3から理解できるように、この比較例では、説明の簡略化のため、シフトアップ作動の前後、並びに、シフトアップ作動中において、SM/G負荷トルクTsがゼロに維持されるものとする。即ち、TneがTeと等しい値に維持されるものとする。
【0037】
図3に示す例では、時刻t1以前にて、変速機T/Mの変速段が或る低速段(例えば、2速)に確立され、E/G正味駆動トルクTne及びM/G駆動トルクTmが走行状態に応じた値(Tne>0、Tm=0)にそれぞれ調整され、クラッチトルクTcが走行状態に応じた値(Tneよりも大きい値)に維持されている。即ち、時刻t1以前では、車両は、低速段が確立された状態でE/G正味駆動トルクTne(>0)のみを利用して走行(加速)している。
【0038】
時刻t1にて、シフトアップ条件が成立している。シフトアップ条件は、上述した「選択変速段」が現在の低速段からより高速側の段に変化したときに成立する。シフトアップ条件が成立すると、E/G正味駆動トルクTne及びクラッチトルクTcが減少させられ、且つ、M/G駆動トルクTmがゼロから増大させられる。このM/G駆動トルクTmのゼロから増大によって、M/G駆動トルクTmのアシストが開始・実行される。
【0039】
ここで、E/G正味駆動トルクTneの減少は、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を減少することによりE/G駆動トルクTeが減少することで達成される。また、Tne,Tcの減少中においてクラッチC/Dに滑りが発生しないように、Tcは、Tneより大きい状態を維持しながら減少させられる。
【0040】
時刻t2にて、クラッチトルクTcがゼロに達している(即ち、クラッチC/Dが接合状態から分断状態に移行する)。これにより、E/G正味駆動トルクTneが駆動輪に伝達されなくなる。クラッチトルクTcがゼロに達すると、シフトアップ作動が開始される。シフトアップ作動では、変速機T/Mの変速段が低速段(例えば、2速)から高速段(例えば、3速)に変更される。シフトアップ作動中、クラッチトルクTcがゼロに維持され、且つ、M/G駆動トルクTm(>0)が駆動輪に伝達される状態(即ち、M/G駆動トルクTmのアシストが利用されている状態)が維持される。
【0041】
時刻t3にて、シフトアップ作動が終了している。シフトアップ作動が終了すると、E/G正味駆動トルクTne及びクラッチトルクTcが増大させられ、且つ、M/G駆動トルクTmが減少させられる。Tcは、Tneより大きい状態を維持しながら増大させられる。このクラッチトルクTcのゼロからの増大によって、クラッチC/Dが分断状態から接合状態に戻される。時刻t3の直後では、E/Gの出力軸A1の回転速度NEとT/Mの入力軸A2の回転速度Niとの間に差が生じている。即ち、クラッチC/Dに滑りが発生している(半接合状態)。
【0042】
時刻t4にて、NEとNiとの間の差が消滅して(即ち、クラッチC/Dの滑りが消滅して)、クラッチC/Dが完全接合状態となるとともに、E/G正味駆動トルクTne及びM/G駆動トルクTmが走行状態に応じた値(Tne>0、Tm=0)にそれぞれ戻っている。そして、時刻t5にて、クラッチトルクTcが走行状態に応じた値(Tneよりも大きい値)に戻っている。以下、図3に示す例において、時刻t1〜t5を「変速時間」と呼ぶ。
【0043】
以上、図3を参照しながら説明したように、M/G駆動トルクTmのアシストを利用しながらシフトアップ作動が行われる場合、M/G駆動トルクTmを一時的に増大するために電力が消費される。この消費電力の量は、図3において微細なドットで示した領域の面積に相当する。この消費電力は、M/G駆動トルクTmが増大される時間(図3では、時刻t1〜t4)が短ければ短いほど、小さくなる。従って、消費電力の低減の観点からすると、M/G駆動トルクTmが増大される時間が短ければ短いほど好ましい。
【0044】
以下、時刻t1〜t2(シフトアップ条件の成立後、クラッチトルクTcがゼロになるまでの期間)に着目する。この期間を「クラッチトルク減少期間」と呼ぶ。クラッチトルク減少期間を短くするためには、時刻t1以降においてクラッチトルクがゼロになる時期を早める必要がある。クラッチトルクがゼロになる時期を早めるためには、クラッチトルクTcの減少勾配を大きくする必要がある。クラッチトルクTcの減少勾配を大きくするためには、E/G正味駆動トルクTneの減少勾配を大きくする必要がある。
【0045】
上述したように、E/G正味駆動トルクTneの減少勾配は、E/Gの燃料噴射量の調整によりE/G駆動トルクTeの減少勾配を調整することで調整され得る。従って、例えば、時刻t1以降における燃料噴射量の減少量を大きくすることにより、Teの減少勾配が大きくなることで、Tneの減少勾配を大きくすることができる。しかしながら、燃料噴射量によってE/G駆動トルクTeの減少勾配を調整できる範囲には限度がある。従って、クラッチトルク減少期間を十分に短くすることは困難である。この結果、本装置の比較例(図3を参照)では、クラッチトルク減少期間においてM/G駆動トルクTmが増大したことに起因する消費電力の量(図3において斜線で示した領域の面積)を十分に小さくすることは困難である。
【0046】
これに対し、図4は、本装置によってM/G駆動トルクTmのアシストを利用しながらシフトアップ作動が行われる場合についての作動の一例を示した図3に対応するタイムチャートである。図4における時刻t1〜t5はそれぞれ、図3における時刻t1〜t5に対応する。図4から理解できるように、本装置では、クラッチトルク減少期間(t1〜t2)、並びにその後の所定期間において、スタータジェネレータSM/GによるSM/G負荷トルクTsが、クラッチトルク減少期間の開始前の値(本例では、ゼロ)よりも大きい値に調整される。なお、図4では、Tsの値を負の方向で示している。
【0047】
スタータジェネレータSM/GによるSM/G負荷トルクTsは、E/G正味駆動トルクTneを減少させる方向に作用する。従って、クラッチトルク減少期間においてSM/G負荷トルクTsを増大すると、SM/G負荷トルクTsを増大しない場合に比して、クラッチトルク減少期間におけるE/G正味駆動トルクTneの減少勾配を大きくすることができる。従って、本装置(図4を参照)では、本装置の比較例(図3を参照)に比して、クラッチトルク減少期間におけるクラッチトルクTcの減少勾配を大きくすることができる。この結果、クラッチトルクTcがゼロになる時期(時刻t2)を早めることができる。換言すれば、クラッチトルク減少期間(t1〜t2)を短くすることができ、ひいては、変速時間(t1〜t5)を短くすることができる。
【0048】
従って、本装置(図4を参照)では、本装置の比較例(図3を参照)に比して、クラッチトルク減少期間(t1〜t2)においてM/G駆動トルクTmが増大したことに起因する消費電力の量(図4において斜線で示した領域の面積)を小さくすることができる。この結果、変速時間(t1〜t5)においてM/G駆動トルクTmが増大したことに起因する消費電力の量(図4において微細なドットで示した領域の面積)を小さくすることができる。以上より、本装置(図4を参照)では、本装置の比較例(図3を参照)に比して、M/G駆動トルクTmのアシストを利用しながらシフトアップ作動が行われる際のM/G駆動に伴う消費電力を小さくすることができる。
【0049】
加えて、本装置(図4を参照)では、SM/G負荷トルクTsを増大することにより、スタータジェネレータSM/Gによる発電量が増大する。このように量が増大した電力を車両に搭載された種々の電気機器に効率良く活用することができる。
【0050】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、エンジンE/Gの出力軸A1により回転駆動される発電機の負荷トルクとして、スタータジェネレータSM/Gが発電機として機能する場合のスタータジェネレータSM/Gの負荷トルクが使用されている。これに対し、エンジンE/Gの出力軸A1により回転駆動される発電機の負荷トルクとして、車両に搭載されたオルタネータALT(図1を参照)の負荷トルクが使用されてもよい。
【0051】
或いは、図5に示すように、車両の動力源として、上述したモータジェネレータM/Gとは別に、エンジンE/Gの出力軸A1に接続された第2のモータジェネレータM/G2が車両に搭載されている場合、第2のモータジェネレータM/G2の負荷トルクが使用されてもよい。或いは、スタータジェネレータSM/G、オルタネータALT、及び第2のモータジェネレータM/G2のうちの2つ以上の負荷トルクが使用されてもよい。
【0052】
また、上記実施形態の作動例(図4を参照)では、E/G正味駆動トルクTneのみが駆動輪に伝達されながら車両が走行する状態(時刻t1以前を参照)においてシフトアップ作動が行われているが、E/G正味駆動トルクTneとM/G駆動トルクTmの和(Tne+Tm)が「Tmの最大値」を超えない条件下においてTne及びTmが共に駆動輪に伝達されながら車両が走行する状態において、シフトアップ作動が行われる場合も、同様の作用・効果が奏される。
【0053】
また、上記実施形態の作動例(図4を参照)では、クラッチトルク減少期間以前(時刻t1以前)にてスタータジェネレータSM/Gの負荷トルクがゼロに維持されているが、クラッチトルク減少期間以前(時刻t1以前)にてスタータジェネレータSM/Gの負荷トルクがゼロより大きい値(減速方向の値)に調整されている場合、クラッチトルク減少期間(t1〜t2)では、スタータジェネレータSM/Gの負荷トルクがより大きい値(図4では、負方向により大きい値)に調整される。
【0054】
また、上記実施形態では、1本の入力軸を備えた変速機と、その1本の入力軸に接続された1つのクラッチと、を含む動力伝達制御装置が適用されているが、2本の入力軸を備えた変速機と、それら2本の入力軸のそれぞれと接続された2つのクラッチと、を含む動力伝達制御装置が適用されてもよい。この装置は、ダブル・クラッチ・トランスミッション(DCT)とも呼ばれる。
【符号の説明】
【0055】
T/M…変速機、E/G…エンジン、C/D…クラッチ、SM/G…スタータ、M/G…モータジェネレータ、A1…エンジンの出力軸、A2…変速機の入力軸、A3…変速機の出力軸、ACT1…クラッチアクチュエータ、ACT2…変速機アクチュエータ、ECU…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、
前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である減速比が異なる予め定められた複数の変速段を有する有段変速機であって、有段変速機を介することなく前記電動機の出力軸から動力が有段変速機の出力軸に入力される有段変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記有段変速機の入力軸との間に介装されたクラッチであってクラッチが伝達し得るトルクの最大値であるクラッチトルクを調整可能なクラッチと、
前記車両の走行状態に基づいて、前記内燃機関の出力軸の駆動トルクである内燃機関駆動トルク、前記電動機の出力軸の駆動トルクである電動機駆動トルク、前記クラッチのクラッチトルク、及び前記有段変速機の変速段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記クラッチトルクが前記内燃機関駆動トルクより大きい値に調整され、且つ、前記内燃機関駆動トルクが前記駆動輪に伝達されながら前記車両が走行する状態において、前記有段変速機の変速段を現在の変速段から前記現在の変速段より前記減速比が小さい高速側変速段に変更するシフトアップ条件が成立したことに基づいて、前記内燃機関駆動トルク及び前記クラッチトルクを減少するとともに前記電動機駆動トルクを増大し、その後、前記クラッチトルクがゼロになったことに基づいて、前記クラッチトルクをゼロに維持し且つ前記電動機駆動トルクが前記駆動輪に伝達される状態を維持しながら、前記有段変速機の変速段を前記現在の変速段から前記高速側変速段に変更する変速作動を行い、その後、前記変速作動が終了したことに基づいて、前記内燃機関駆動トルク及び前記クラッチトルクを増大するとともに前記電動機駆動トルクを減少するように構成された車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記シフトアップ条件の成立後、前記クラッチトルクがゼロになるまでの間において、前記内燃機関の出力軸により回転駆動される前記車両に設けられた発電機の負荷トルクを前記シフトアップ条件の成立前よりも大きい値に調整するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記シフトアップ条件の成立後、前記クラッチトルクがゼロになるまでの間において、前記クラッチトルクが前記内燃機関駆動トルクより大きい状態を維持しながら、前記内燃機関駆動トルク及び前記クラッチトルクを減少するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記発電機は、前記内燃機関の始動のために前記内燃機関の出力軸を回転駆動する機能と前記内燃機関駆動トルクに基づいて発電を行う機能とを有するスタータモータジェネレータである、車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記発電機は、前記内燃機関駆動トルクに基づいて発電を行う機能を有するオルタネータである、車両の動力伝達制御装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記発電機は、前記車両の動力源として前記車両に備えられた第2の電動機であって第2の電動機の出力軸から動力が前記内燃機関の出力軸に入力される第2の電動機である、車両の動力伝達制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−20619(P2012−20619A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158715(P2010−158715)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】