説明

車両の変速制御装置

【課題】CVT等の変速制御において燃費とドライバビリティとを両立させる。
【解決手段】ECU100は、変速制御処理を実行する。当該処理においては、要求加速度atが取得され、予め設定された閾値atthと比較される。要求加速度atが閾値atthよりも大きい場合、変速に伴うイナーシャトルクに起因するドライバビリティの悪化を抑制する目的から、要求加速度atが閾値atth以下である場合に目標入力軸回転速度Vinaとして設定される最適燃費動作点に対応する機関回転速度よりも低回転側で目標入力軸回転速度Vinaが設定される。変速過程において、入力軸回転速度Vinが目標入力軸回転速度Vinaに到達すると、目標入力軸回転速度Vinaが通常時の値に再度設定され、変速が継続されるが、この際の変速速度Vcvtは、基準となるVcvt1よりも低いVcvt2に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばCVT(Continuously Variable Transmission:連続式無段変速装置)等の変速機を備えた車両の変速制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この主の装置として、実用域の変速線を設定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された車両の駆動力制御装置(以下、「従来の技術」と称する)によれば、実用域において最適燃費線よりも低回転数側に設定された変速線に従って変速比を制御することによって、イナーシャトルク分の燃料消費を抑制し、全体としての効率を向上させ燃費を改善することが可能であるとされている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−328464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最適燃費線は、最適な燃費を得るために設定されており、実用域において常に最適燃費線よりも低回転数側で変速線を設定すると、かえって燃費の悪化を招く可能性がある。一方、イナーシャトルクによるドライバビリティの悪化を防止する観点からは、必ずしも最適燃費線を目標とした変速は有効ではないから、実践的にみれば、変速制御は、燃費とドライバビリティとの双方を勘案して決定される必要がある。即ち、従来の技術には、不要な燃費の悪化を招きかねないために、燃費とドライバビリティの両立が困難であるという技術的な問題点がある。
【0005】
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、燃費とドライバビリティとを両立させ得る車両の変速制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明に係る車両の変速制御装置は、内燃機関と、該内燃機関の機関出力軸に該機関出力軸の回転に伴って回転可能に連結される入力軸及び車軸に該車軸の回転に伴って回転可能に連結される出力軸を有し、該入力軸の回転速度たる入力軸回転速度と該出力軸の回転速度たる出力軸回転速度との比を連続的に変化させることにより変速が可能な変速機とを備えた車両の変速制御装置であって、前記車両の要求出力を特定する要求出力特定手段と、所定の変速条件に基づいて前記入力軸回転速度の基準値を設定する基準値設定手段と、前記車両の要求加速度を特定する要求加速度特定手段と、前記特定された要求加速度に応じて、前記特定された要求出力を満たし且つ前記設定された基準値以下となる前記入力軸回転速度の目標値を設定する目標値設定手段と、前記入力軸回転速度が前記設定された目標値となるように前記変速機を制御する変速制御手段とを具備することを特徴とする。
【0007】
本発明における「内燃機関」とは、例えば複数の気筒を有し、当該各々の燃焼室において、例えばガソリン或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する爆発力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等を適宜介して動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念であり、例えば2サイクル或いは4サイクルレシプロエンジン等を指す。
【0008】
この内燃機関における、例えばクランクシャフト等の機関出力軸には、例えば、プーリ方式のCVTやトロイダル方式のCVT等、公知の各種態様を採り得る本発明に係る変速機の入力軸が、例えば、物理的又は機械的に直接、又はトルクコンバータ等の流体伝達手段が介在した状態で間接的に、或いはロックアップクラッチ等各種係合手段の係合状態に応じて直接又は間接の態様が適宜に切り替わる形で、当該機関出力軸の回転に伴って回転可能に連結される。従って、内燃機関の機関出力軸の回転速度(即ち、機関回転速度)は、変速機の入力軸の回転速度(即ち、入力軸回転速度)と相互に一対一の関係を有し得る。特に、内燃機関の機関出力軸と変速機の入力軸とが例えばロックアップクラッチ等の摩擦係合手段等を介して直接連結されている場合、入力軸回転速度と機関回転速度とは相互に一致する。
【0009】
一方、この変速機の出力軸は、例えばプロペラシャフトを介して(例えばFR型の駆動形態を採る場合や4輪駆動である場合等)或いは介することなく(例えばFF型の駆動形態を採る場合等)、また例えばデファレンシャル等の最終減速機等を適宜介して、駆動輪と一体に回転する車軸(例えば、ドライブシャフトやアクスルシャフト)に連結され、当該車軸の回転に伴って回転可能に構成される。本発明に係る変速機とは、上述した入力軸回転速度と、この出力軸の回転速度たる出力軸回転速度との比、即ち変速比を、連続的に変化させることが可能な物理的、機械的、機構的又は電気的構成を有する変速装置を包括する概念である。
【0010】
本発明に係る第1の車両の変速制御装置によれば、その動作時には、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る要求出力特定手段により、ドライバによる運転操作がなされる過程で該運転操作に応じて要求される出力等として規定される要求出力が特定される。
【0011】
ここで、本発明に係る「特定」とは、例えば、何らかの検出手段を介して直接的に又は間接的に物理的数値又は物理的数値に対応する電気信号等として検出すること、予め然るべき記憶手段等に記憶されたマップ等から該当する数値を選択又は推定すること、それら検出された物理的数値若しくは電気信号又は選択若しくは推定された数値等から、予め設定されたアルゴリズムや計算式等に従った論理演算や数値演算の結果として導出すること、或いはこのように検出、選択、推定又は導出された値等を単に電気信号等として取得すること等を包括する広い概念である。係る概念の範囲内において、要求出力特定手段は、例えば、ドライバが直接操作するアクセルペダルの操作量(以下、適宜「アクセル開度」と称する)及び車両の速度(以下、適宜「車速」と称する)に基づいて決定される要求駆動力に駆動輪の半径及び車速を乗じること等によって要求出力を特定してもよい。
【0012】
一方、本発明に係る車両の変速制御装置によれば、その動作時には、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る基準値設定手段により、例えば車速及びアクセル開度等、所定の変速条件に基づいて、上述した入力軸回転速度の基準値が設定される。この際、好適な一形態としては、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、内燃機関を最も効率良く動作させ得るように、言い換えれば内燃機関の燃料消費率が最小或いはそれに準じる程度に小さくなるように適合されてなる機関回転速度に対応する入力軸回転速度が、当該基準値として設定されてもよい。
【0013】
この際、入力軸と機関出力軸とが物理的、機械的又は電気的な形態を問わず直結されているならば、基準値は当該機関回転速度であってもよい。この基準値は、入力軸回転速度の基準を与える指標値であり、好適な一形態として、例えば内燃機関の通常の変速期間において、後述する目標値として採用される。
【0014】
尚、例えばROM等揮発性或いは不揮発性の記憶領域を備えた然るべき記憶手段に、変速制御用の適合マップとして、当該所定の変速条件と当該基準値とが相互に対応付けられて記憶されていてもよい。この場合、基準値設定手段は、当該適合マップから現時点における車速やアクセル開度等、変速条件を構成する各種指標値に応じて定まる一の値を選択的に取得して、基準値として設定してもよい。
【0015】
尚、上述したように、要求出力は、その時点の車速及びアクセル開度等に基づいて特定され得るから、基準値の設定に係る「所定の変速条件」とは、即ち、この要求出力を少なくとも含むものであってもよい。即ち、要求出力と基準値とが相互に対応付けられていてもよい。
【0016】
一方、本発明に係る車両の変速制御装置には、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る目標値設定手段が備わり、入力軸回転速度の目標値を設定可能に構成されている。ここで、上述した基準値が、例えば内燃機関の動作効率を最適化し得る(例えば、燃料消費を可及的に抑制し得る)ように定められ得ることに鑑みれば、この入力軸回転速度の目標値は、好適な一形態としては、少なくとも何らかの指針に基づいて付与される適切な条件の下では上述した基準値であってよい。
【0017】
目標値の設定を経ると、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る変速制御手段により、入力軸回転速度がこの設定された目標値となるように、例えば、変速比の制御等の形で変速機が制御され、変速が行われる。尚、内燃機関の出力は、機関回転速度と出力トルクとによって好適に規定され得るから、例えば上述したように要求出力と機関回転速度(即ち、入力軸回転速度と一義的な関係を有する)とが決まれば、一義的に内燃機関が出力すべき出力トルクの値も決定され得る。従って、当該変速が行われる際には、当然ながら、例えばスロットルバルブの開度(以下、適宜「スロットル開度」等と称する)の制御等を経て、要求出力が満たされるように内燃機関の出力トルクが制御される。例えば、このような制御プロセスを経て、内燃機関において機関回転速度と出力トルクとの組み合わせとして規定される動作点は、要求出力に対応する動作点を繋げて得られる等出力線上で、目標値に対応する動作点となるように制御される。
【0018】
ここで特に、要求出力の増加に対し機関回転速度の上昇、即ち変速機の入力軸回転速度の上昇が伴い得る、車両の加速時等には、内燃機関の出力トルクによって機関回転速度を上昇させる際に出力トルクの一部がイナーシャトルクとして損失し、車両の駆動力として供し得る出力トルクが相対的に減少する。このため、車両の加速性能が鈍重となり(顕著には、加速の立ち上がりが遅れ)、ドライバビリティの悪化が生じかねない。とりわけ、相対的に急激な加速度変化(即ち、要求駆動力の変化であり、要求出力の変化である)を伴い得る過渡運転時等には、その傾向が顕著である。
【0019】
そこで、本発明に係る車両の変速制御装置には、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る要求加速度特定手段が備わり、例えば、目標駆動力、走行抵抗、路面勾配及び車両重量等に基づいた数値演算の結果等として、或いはこれら指標値に対応付けられた適合マップ等から該当する値が選択的に取得される等して、車両の要求加速度(即ち、好適にはドライバが要求する加速度)が特定される。
【0020】
前述した目標値設定手段は、この特定された要求加速度に応じて、例えば二値的に、段階的に、或いは連続的に、要求出力を満たし且つ前述した基準値以下となる範囲で入力軸回転速度の目標値を設定する。
【0021】
ここで、イナーシャトルクは、機関回転速度の変化量が大きい程、ドライバビリティに悪影響を及ぼす。従って、目標値が基準値未満である場合には、目標値が基準値である場合と較べて幾らかなりイナーシャトルクが低減され、ドライバビリティの向上を図ることが可能となる。即ち、特定された要求加速度に応じて、基準値以下の範囲で目標値が設定された場合には、少なくともドライバビリティを悪化させることなく、場合によっては顕著にドライバビリティを向上させつつ、変速を実行することが可能となる。
【0022】
この際、要求加速度に応じた目標値の設定態様、例えば要求加速度の反映態様及び設定される目標値と基準値との相対関係等は、好適な一形態として、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に、又はシミュレーション等に基づいて燃費とドライバビリティの悪化を夫々実践的にみて顕在化させることのないように定められてなる各種のアルゴリズム、算出式、論理式或いは対応関係等に従った数値演算、論理演算或いは選択取得動作等により好適に決定される。
【0023】
このように、本発明に係る車両の変速制御装置によれば、イナーシャトルクによるドライバビリティの悪化に対応付けられた車両の要求加速度に応じて、基準値以下の範囲、即ち低回転側の範囲で適切に定められる。従って、ドライバビリティと燃費とを両立することが可能となるのである。
【0024】
本発明に係る車両の変速制御装置の第1の態様では、前記基準値設定手段は、前記内燃機関の機関回転速度が、該機関回転速度と前記内燃機関の出力トルクとの組み合わせとして規定される動作点のうち前記内燃機関の出力毎に前記内燃機関の燃料消費率が小さくなるように定められてなる最適燃費動作点に対応する値となるように前記基準値を設定する。
【0025】
この態様によれば、平常時の内燃機関の動作点を好適に規定し得る入力軸回転速度の基準値が、最適燃費動作点に対応する値に設定される。ここで、「最適燃費動作点」とは、内燃機関の動作点のうち燃料消費率が少なくとも相対的にみて小さくなるように、好適には燃料消費率が理論的に、実質的に或いは現実的にみて最小(言い換えれば、効率が理論的に、実質的に或いは現実的に最大)となるように、内燃機関の出力毎に(無論、適当な間隔毎であってよく、それらの間は相互に補間されてもよい)定まる動作点である。
【0026】
尚、本発明における「燃料消費率」とは、例えば単位出力当たりの消費燃料量(例えば、g(グラム)/kwh(キロワット時)等として表される)等として規定される、定性的にみて、小さい程燃料の消費量が少ないことを、且つ大きい程燃料の消費量が多いことを表す指標値を包括してなる概念であり、例えば、単位燃料消費量当たりの走行距離数(例えば、km(キロメートル)/L(リットル)等として表される)等として一般的に「燃費」と称される、大きい程燃料の消費量が少ないことを、且つ小さい程燃料の消費量が多いことを表す指標値とは異なる趣旨である。本願明細書においては、「燃料消費率」なる言葉と「燃費」なる言葉とが併用されるが、これらが上述した概念を有することに鑑みれば、燃料消費率を小さくすることにより、一義的であるか否かは別として少なくとも総体的且つ定性的には、或いは理論的にみれば一義的に、燃費を向上(ここで言う「向上」とは、即ち燃料消費量が相対的に少なくて済むことを意味する)させることが可能となる。
【0027】
ここで、「最適燃費動作点に対応する値」とは、内燃機関の機関回転速度を最適燃費動作点に対応する機関回転速度に維持するための入力軸回転速度であり、既に述べたように、入力軸回転速度と機関回転速度とが相互に一致する場合には、又は実践上一致しているとみなし得る程度に同等である場合には、最適燃費動作点に対応する機関回転速度そのものであってよい。
【0028】
この態様によれば、内燃機関は、例えば平常時において、機関回転速度と出力トルクとを相互に直交する二軸に配してなる現実的な又は仮想的な座標系において最適燃費動作点を繋ぎ合わせてなる最適燃費線上で動作するように制御されるから、燃費が可及的に最適化され得る。その一方で、要求加速度に基づいてドライバビリティの悪化が顕在化する旨の判断を下し得る場合等には、内燃機関の動作点が、より低回転(即ち高トルク)側に設定され、入力軸回転速度の変動量を相対的に減少させることによってイナーシャトルクを抑制し、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。即ち、燃費とドライバビリティの両立が好適に図られる。
【0029】
本発明に係る車両の変速制御装置の第2の態様では、前記内燃機関の機関回転速度が、該機関回転速度と前記内燃機関の出力トルクとの組み合わせとして規定される動作点のうち前記内燃機関の出力毎に前記出力トルクが最大となるように定められてなる最大トルク動作点に対応する値となるように前記目標値の下限値を設定する下限値設定手段を更に具備し、前記目標値設定手段は、前記目標値を、前記下限値以上且つ前記基準値以下の範囲で設定する。
【0030】
この態様によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る下限値設定手段により、入力軸回転速度の目標値が採り得る範囲の下限値が設定される。この下限値は、内燃機関の出力毎に(無論、適当な間隔毎であってよく、それらの間は相互に補間されてもよい)、出力トルクが理論的に、実質的に、或いは現実的に最大となるように定められた最大トルク動作点に対応する値に設定される。従って、入力軸回転速度の目標値は、好適には前述した最適燃費動作点に対応する値として設定される基準値以下、且つこの下限値以上の範囲で設定される。より具体的には、先に述べた座標系における要求出力に対応する等出力線上であって、且つ当該範囲内に属する動作点に対応する値に設定される。
【0031】
ここで、「最大トルク」とは、典型的な一例として、内燃機関が物理的に出力し得る最大のトルク、即ちWOT(Wide Open Throttle)トルク、或いは実践的に又は実質的にWOTトルクとみなし得る程度にWOTトルクに近いトルクを含みつつ、そのような物理的に規定され得るトルクとは別に、例えば燃費に代表される経済性能、或いは例えばエミッション量に代表される環境性能等、内燃機関に要求される他の性能を勘案して総合的に定められるトルクであってもよい。
【0032】
例えば、より具体的な一例としては、平常時に内燃機関の動作制御に供される動作点に対し燃費の悪化の度合い(同様にエミッション量の度合い)が予め設定される基準を超えるものとして規定される領域の下限を規定する出力トルクが、当該最大トルクとして採用されてもよい。このような、燃費やエミッションが顕著に悪化する領域は、例えば、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、例えば悪化の有無に係る判断基準と共に、実践上過不足が生じない程度の信頼性が担保されるように設定されていてもよい。より実践的な形態の一つとしては、このような燃費又はエミッションの悪化を招く動作領域(或いは動作点)が、予め機関回転速度及び出力トルク等に対応付けられたマップとして、或いは更にアクセル開度や車速をパラメータとして、然るべき記憶手段に記憶され、その都度参照されてもよい。
【0033】
この態様によれば、要求加速度に応じて定められる目標値の採り得る範囲を、理論的に、実質的に或いは現実的に見て最大とし得るから、目標値が当該下限値に設定され変速がなされることによって入力軸回転速度の変動量を理論的に、実質的に或いは現実的に見て最小とすることも可能となるし、或いは目標値を基準値に設定することによって、燃費を可及的に向上させることも可能となり、実践上極めて有益である。
【0034】
尚、この態様では、前記最大トルク動作点は、前記内燃機関のWOTトルクに対応する動作点であってもよい。
【0035】
最大トルク動作点がWOTトルクに対応する動作点(以下、適宜「WOTトルク動作点」と称する)であれば、入力軸回転速度の目標値の採り得る範囲を理論的に最大とすることが可能となり、実践上有益である。
【0036】
本発明に係る車両の変速制御装置の第3の態様では、前記目標値設定手段は、前記特定された要求加速度が所定の閾値以上及び未満となる場合について、前記目標値を夫々前記基準値未満の暫定値及び前記基準値に設定する。
【0037】
この態様によれば、入力軸回転速度の目標値が、要求加速度に応じて暫定値又は基準値に二値的に設定される。暫定値は、基準値未満であり且つ要求出力を満たす限りにおいて特段の制約なく設定される固定又は可変な値であるが、好適な一形態としては、上述したように最大トルク動作点に対応する値に設定される。即ち、好適な一形態として、目標値は、基準値としての最適燃費動作点に対応する値と、暫定値としてのWOTトルク動作点に対応する値とのいずれかに設定される。より限定的に言えば、目標値が、最適燃費動作点に対応する機関回転速度と、WOTトルク動作点に対応する機関回転速度のいずれかに設定される。
【0038】
ここで、最適燃費線と等出力線との相対関係に鑑みて定性的に言えば、当該目標値に対応する機関回転速度は、最適燃費動作点に接近する程燃費が向上し、最大トルク動作点に接近する程ドライバビリティの悪化を抑制することができる。従って、実践上有益な制御態様の一として、このように二値的に目標値が決定された場合には、ドライバビリティと燃費の両立が、効率的に且つ簡便にして可能となる。
【0039】
尚、この態様では、前記変速制御手段は、前記変速がなされる過程において前記入力軸回転速度が前記暫定値に到達した場合に、前記入力軸回転速度が、前記入力軸回転速度が前記暫定値に到達するまでの期間に対応する変速速度未満となる変速速度で前記暫定値から前記基準値に到達するように前記変速機を更に制御してもよい。
【0040】
この場合、変速制御手段によってなされる実際の変速制御は、変速開始時点の入力軸回転速度から暫定値に至るまでの第1のプロセスと、暫定値から基準値に至る第2のプロセスとに分類される。ここで、変速に際して少なくとも要求出力は迅速に満たす必要があるから、第1のプロセスに係る変速速度は、例えば予め設定される基準速度に維持される。一方、第2のプロセスにおいては、既に要求出力自体は満たされているため、変速速度に関しては比較的高い自由度が与えられる。
【0041】
一方で、燃費に限って言えば、基準値が最適燃費動作点に対応付けられているものとすれば、基準値が最小であるから、入力軸回転速度の最終的な目標値を基準値に置くことにより実践上少なからず利益が生じる。そこで、この場合、第2のプロセスにおける変速速度が少なくとも第1のプロセスに係る変速速度に比して緩慢となるように制御される。その結果、入力軸回転速度の変化率が低くなり、イナーシャトルクの増加が抑制されつつ、燃費自体を徐々に向上させることが可能となる。即ち、この場合、ドライバビリティの悪化を可及的に抑制しつつ、可及的に燃費の向上を図り得るといった、実践上極めて高い利益が提供される。
【0042】
尚、「変速速度」とは、入力軸回転速度の変化率として規定される。この際、変速速度の減少に係る制御態様は、変速速度を減少させ得る限りにおいて何ら限定されない趣旨であり、例えば、変速機がプーリ方式のCVTである場合には、目標変速比(駆動輪の回転速度に対応する出力回転速度と入力軸回転速度の目標値とによって一義的に定まる)を実現するためにプーリの可動片に付与される油圧の増加速度又は減少速度を減少させることによって変速速度を減少させてもよい。また、このように変速速度を減少させる際の変速速度の値は、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、イナーシャトルクによるドライバビリティの悪化を少なくとも実践上顕在化させることなく、且つ燃費を可及的に速やかに良好とし得るように決定されていてもよい。
【0043】
本発明に係る車両の変速装置の第3の態様の一態様では、変速開始時点における前記車両の速度及び前記内燃機関の機関回転速度のうち少なくとも一方に基づいて前記閾値を設定する閾値設定手段を更に具備する。
【0044】
車両の加速度は車速と相関し、また加速時の機関回転速度の変化量は、機関回転速度と相関する。この態様によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る閾値設定手段により、変速開始時点における車速、又は機関回転速度、或いはその両方に基づいて要求加速度の前述した閾値が設定されるため、より精細に燃費とドライバビリティの両立を図ることが可能となる。
【0045】
尚、この態様では、前記閾値設定手段は、前記車両の速度が高い場合に小さくなるように、又は前記機関回転速度が低い場合に小さくなるように前記閾値を設定する。
【0046】
車両では一般的に、高車速側程、加速度の上昇度合いが低下する。従って、変速開始時点の車速が高車速側である程、例えば二値的に、段階的に又は連続的に要求加速度の閾値を小さく設定することによって、実践上ドライバビリティの悪化が顕在化し易い状況において確実にドライバビリティの悪化を抑制することが可能となる。また、変速開始時点の機関回転速度が低い程、加速時の機関回転速度の変化量は大きくなる。機関回転速度の変化量は、イナーシャトルクの大きさと一義的な関係を有し得るから、変速開始以前の機関回転速度が低い程、例えば二値的に、段階的に又は連続的に閾値を小さく設定することによって、ドライバビリティの悪化を相対的に抑制することが可能となる。
【0047】
本発明に係る車両の変速装置の第3の態様の他の態様では、変速開始時点における前記車両の速度及び前記内燃機関の機関回転速度のうち少なくとも一方に基づいて前記暫定値を設定する暫定値設定手段を更に具備する。
【0048】
車両の加速度は車速と相関し、また加速時の機関回転速度の変化量は、機関回転速度と相関する。この態様によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る暫定値設定手段により、変速開始時点における車速、又は機関回転速度、或いはその両方に基づいて入力軸回転速度の暫定値が設定される。即ち、この場合、目標値として基準値又は暫定値を採るとは言え、暫定値が可変となることに鑑みれば実質的には目標値の採り得る態様は段階的又は連続的に変化し得る。従って、より精細に燃費とドライバビリティの両立を図ることが可能となる。
【0049】
尚、この態様では、前記暫定値設定手段は、前記車両の速度が高い場合に低くなるように、又は前記機関回転速度が低い場合に低くなるように前記暫定値を設定する。
【0050】
車両では一般的に、高車速側程、加速度の上昇度合いが低下する。従って、変速開始時点の車速が高車速側である程、暫定値を例えば二値的に、段階的に又は連続的に低回転側にシフトすることによって、実践上ドライバビリティの悪化が顕在化し易い状況において確実にドライバビリティの悪化を抑制することが可能となる。また、変速開始時点の機関回転速度が低い程、加速時の機関回転速度の変化量は大きくなる。機関回転速度の変化量は、イナーシャトルクの大きさと一義的な関係を有し得るから、変速開始以前の機関回転速度が低い程、暫定値を例えば二値的に、段階的に又は連続的に低回転側にシフトすることによって、ドライバビリティの悪化を相対的に抑制することが可能となる。
【0051】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<第1実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の第1実施形態に係る車両10の構成について説明する。ここに、図1は、本発明に係る車両の変速制御装置に対応する車両10の要部構成を概念的且つ模式的に表してなる概略構成図である。
【0053】
図1において、車両10は、ECU100、エンジン200、トルクコンバータ300及びCVT400を備える。
【0054】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、車両10の動作全体を制御する電子制御ユニットであり、本発明に係る「車両の変速制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する変速制御処理を実行することが可能に構成されている。
【0055】
エンジン200は、車両10の動力源として機能するように構成されたガソリンエンジンである。ここで、図2を参照して、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図2はエンジン200の模式図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0056】
図2において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205(即ち、本発明に係る「機関出力軸」の一例である)の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0057】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100(不図示)と電気的に接続されており、ECU100では、上述した制御部110が、このクランクポジションセンサ206から出力されるクランク角信号に基づいて、エンジン200の機関回転速度NEを算出する構成となっている。
【0058】
尚、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図2においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。また、本発明に係る内燃機関は、エンジン200として図3に示すものに限定されず、例えば、6気筒、8気筒或いは12気筒エンジンであってもよいし、V型、水平対向型等であってもよく、各種の態様を採ることが可能である。
【0059】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210において、インジェクタ212から噴射された燃料と混合されて前述の混合気となる。燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に圧送供給されている。尚、燃料を噴射する噴射手段の形態は、図示するような所謂吸気ポートインジェクタの構成を採らずともよく、例えば、フィードポンプ或いは他の低圧ポンプにより圧送される燃料の圧力を更に高圧ポンプによって昇圧せしめ、高温高圧の気筒201内部へ燃料を直接噴射することが可能に構成された、所謂直噴インジェクタ等の形態を有していてもよい。
【0060】
気筒201内部と吸気管207とは、吸気バルブ211の開閉によってその連通状態が制御されている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
【0061】
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節するスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的にはアクセル開度に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ209は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0062】
排気管215には、三元触媒216が設置されている。三元触媒216は、エンジン200から排出されるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を夫々浄化することが可能な触媒である。また、排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ217が設置されている。更に、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ218が配設されている。水温センサ218は、ECU100と電気的に接続されており、検出された冷却水温は、ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
【0063】
図1に戻り、CVT300は、二個のプーリを備え、当該プーリ各々において無端状のベルトを巻回するためのV溝の溝幅を可変とすることにより変速比を連続的に変化させることが可能に構成された、本発明に係る「変速機」の一例たる電子制御式自動変速機である。尚、CVT300の構成については、後に図3を参照する形で詳述する。
【0064】
車両10には更に、減速機構11、左車軸SFL、右車軸SFR、左前輪FL、右前輪FR、車速センサ12、アクセル開度センサ13及びアクセルペダル14が備わる。
【0065】
減速機構11は、CVT300の後述する出力回転軸340に接続され、駆動輪且つ操舵輪たる左前輪FL及び右前輪FR相互間の回転差を吸収するデファレンシャルを含むギア機構であり、CVT300の出力回転軸340の回転速度(即ち、本発明に係る「出力軸回転速度」の一例)を固有の最終減速比に従って減速することが可能に構成されている。
【0066】
左車軸SFL及び左車軸SFRは、夫々左前輪FL及び右前輪FRに連結された回転軸であり、夫々が減速機構11に連結される構成となっている。従って、車両10において、エンジン200から発せられる動力は、クランクシャフト205、CVT300、減速機構11及び当該左右の車軸を介して駆動輪たる左右の前輪に伝達される構成となっている。
【0067】
車速センサ12は、車両10の車速Vを検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ12は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって絶えず或いは一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
【0068】
アクセル開度センサ13は、ドライバにより踏下されるアクセルペダル14の踏下量を表すアクセル開度Accを検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Accは、ECU100によって絶えず、或いは一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
【0069】
ここで、図3を参照して、CVT300の詳細な構成について説明する。ここに、図3は、CVT300の構成を概念的且つ模式的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1及び図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0070】
図3において、CVT300は、動力伝達部310、入力回転軸320、変速部330、出力回転軸340及び油圧制御部350を備える。
【0071】
動力伝達部310は、エンジン200の前述したクランクシャフト205に連結され、エンジン200の発する回転動力を入力回転軸320に伝達するためのユニットであり、トルクコンバータ311、ロックアップクラッチ312、シャフト313及び前後進切替装置314を含んで構成される。
【0072】
トルクコンバータ311は、クランクシャフト205に連結されたポンプインペラ311aと、シャフト313に連結されたタービンランナ311bとを有し、ポンプインペラ311aとタービンランナ311bとの間で流体(例えばATF等)の運動エネルギによる動力伝達を行うことが可能に構成されている。また、トルクコンバータ311は、ロックアップクラッチ312が解放されている場合には、伝達されるトルクを増幅することが可能に構成される。
【0073】
ロックアップクラッチ312は、クランクシャフト205とシャフト313との間で、摩擦力による動力伝達が可能となるように構成された摩擦係合手段である。ロックアップクラッチ312が締結された状態にある場合、エンジン200の機関回転速度NEは、入力回転軸320の回転速度たる入力軸回転速度Vinと相互に一致する。
【0074】
前後進切替装置314は、出力側に入力回転軸320が、また入力側にシャフト313が連結されてなり、シャフト313に対する入力回転軸320の回転方向を正逆の間で切り替えることが可能に構成されたプラネタリギアユニットである。前後進切換装置314は、差動回転可能な3つの回転要素を有する遊星歯車機構と、遊星歯車機構の回転要素の回転を停止させるブレーキと、回転要素同士を選択的に連結するクラッチとを有しており、当該ブレーキ及びクラッチ各々の締結解放の状態に応じて、シャフト313の回転方向に対する入力回転軸320の回転方向が切り替わる構成となっている。
【0075】
入力回転軸(プライマリシャフトとも称される)320は、本発明に係る「入力軸」の一例たる回転軸である。入力回転軸320は、シャフト313の回転に伴って回転可能な軸体を有し、その回転速度たる入力軸回転速度Vinは、エンジン200の機関回転速度NEと少なくとも一義的な関係を有する構成となっている。
【0076】
変速部330は、駆動プーリ(プライマリプーリとも称される)331、無端ベルト332及び従動プーリ(セカンダリプーリとも称される)333、油圧アクチュエータ334、回転センサ335及び336を含んで構成され、CVT300の変速比を物理的且つ機械的に規定するユニットである。駆動プーリ331と従動プーリ333とは、夫々の中心軸線を互いに平行にし、且つ所定の間隔を隔てて配置されている。
【0077】
駆動プーリ331は、入力回転軸320と一体に回転し、且つ軸線方向に固定された固定プーリ片331aと、入力回転軸320と一体回転し、且つ軸線方向に動作可能に構成された可動プーリ片331bとを有している。この可動プーリ片331bの背面側には、可動プーリ片331bを軸線方向に動作させるための油圧アクチュエータ334が設けられている。油圧アクチュエータ334は更に、可動プーリ片331bに軸線方向の推力を与える油圧室(不図示)を有している。一方、これら固定プーリ片331aと可動プーリ片331bとの対向面は、テーパ角を一定とするテーパ面を形成しており、当該テーパ面によって断面視V字型の溝(以下、適宜「V溝」と称する)が形成されている。駆動プーリ331は、このV溝に係る溝幅を変更することが可能に構成されている。
【0078】
一方、従動プーリ333は、出力回転軸340と一体に回転し、且つ軸線方向に固定された固定プーリ片333aと、出力回転軸340と一体に回転し、且つ軸線方向に動作可能な可動プーリ片333bとを有している。この可動プーリ片333bの背面側には、可動プーリ片333bを軸線方向に動作させるための油圧アクチュエータ(不図示)が設けられている。当該油圧アクチュエータは更に、可動プーリ片333bに軸線方向の推力を与える油圧室を有している。一方、これら固定プーリ片333aと可動プーリ片333bとの対向面は、テーパ角を一定とするテーパ面を形成しており、当該テーパ面によって、駆動プーリ331と同様にV溝が形成されている。
【0079】
無端ベルト332は、駆動プーリ331と従動プーリ333との間の動力伝達を行うことが可能に構成された金属製且つ無端状のベルトである。無端ベルト332は、上述した各プーリのV溝に挟み込まれる形状の多数の金属片が環状に配列してなると共に、それらの金属片がフープと称される環状の金属バンドによって結束された構成を有している。
【0080】
係る構成において、無端ベルト332の全長は、当該フープによって制限される。従って、各プーリによって無端ベルト332を挟み付けると、V溝のテーパ面(傾斜面)によって無端ベルト332を半径方向で外側に押し出す向きの力が作用し、その結果、無端ベルト332に張力が加えられるとともに、無端ベルト332と各プーリとの接触圧力が発生し、その接触圧力と摩擦係数とで決まる摩擦力によって、無端ベルト332と各プーリとの間でトルクが伝達される。このように無端ベルト332を挟み付ける圧力として規定される挟圧力は、例えば、従動プーリ333側の油圧アクチュエータ(不図示)の油圧室の油圧に応じて制御される。
【0081】
これに対し、いずれか一方のプーリにおいて無端ベルト332を挟み付ける圧力が相対的に増大し、あるいは低下すると、無端ベルト332の張力に抗して無端ベルト332が当該一方のプーリにおいて半径方向で外側に押し出され、或いは反対に半径方向で内側に入り込み、同時に他方のプーリでは無端ベルト332が半径方向で内側に入り込み、或いは半径方向で外側に押し出される。その結果、無端ベルト332の巻き掛け半径の変化が生じ、変速が実行される。この際、例えば、駆動プーリ331側の油圧アクチュエータ334の油圧室に供給される作動油の流量が制御されることによって、当該変速に係る変速比が制御される。このように、CVT300における変速は、駆動プーリ331における上述した溝幅を変化させて、無端ベルト332の各プーリに対する巻き掛け半径を変更することにより実行される。
【0082】
回転センサ335は、入力回転軸320の回転速度、即ち、入力軸回転速度Vinを検出することが可能に構成されたセンサである。回転センサ335は、ECU100と電気的に接続されており、検出された入力軸回転速度Vinは、ECU100によって常に、或いは一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
【0083】
回転センサ336は、出力回転軸340の回転速度、即ち、出力回転速度Voutを検出することが可能に構成されたセンサである。回転センサ336は、ECU100と電気的に接続されており、検出された出力回転速度Voutは、ECU100によって常に、或いは一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
【0084】
油圧制御部350は、駆動プーリ331側の油圧アクチュエータ334の油圧室に供給される作動油の油圧を制御するための制御ユニットであり、当該油圧室に対し相互に並列して配置されたアップシフト制御弁351及びダウンシフト制御弁353を備える。
【0085】
アップシフト制御弁351は、駆動プーリ331側の油圧アクチュエータ334の油圧室に対する作動油の供給を制御するバルブであり、電気的に接続された第1ソレノイド352から出力される信号によって動作するように構成されている。具体的には、アップシフト制御弁351は、第1ソレノイド352における駆動デューティ比に応じて油圧アクチュエータ334の油圧室に作動油を供給するように構成されている。
【0086】
ダウンシフト制御弁353は、油圧アクチュエータ334の油圧室から作動油を排出するためのバルブであり、第2ソレノイド354から出力される信号によって動作するように構成されている。具体的には、ダウンシフト制御弁353は、第2ソレノイド354における駆動デューティ比に応じて油圧アクチュエータ334の油圧室から作動油を排出する構成となっている。
【0087】
尚、動力伝達部310及び油圧制御部350は、夫々ECU100と電気的に接続されており、その動作状態、例えば、ロックアップクラッチ312の締結状態、前後進切替装置314の切替状態、第1ソレノイド352及び第2ソレノイド354各々における駆動デューティ比等は、ECU100により制御される構成となっている。例えば、ECU100は、アクセル開度Accや車速V、機関回転速度NE等の入力信号に基づいて変速の要否を判断するとともに、当該変速の要否に基づいて、第1ソレノイド352及び第2ソレノイド354の通電状態を制御するための駆動デューティ比等を演算し、その駆動デューティ比に応じた制御信号を出力するように構成されている。また、ECU100は、従動プーリ333が無端ベルト332を挟み付けることによって生じる上述した挟圧力を制御し、CVT300における伝達トルク容量を制御することも可能に構成されている。
【0088】
このような構成の下、CVT300は、ECU100により、アクセル開度Accや車速V等の車両の走行状態に基づいて、目標変速比又は目標入力軸回転速度Vina(本発明に係る「目標値」の一例であり、一義的に、エンジン200の機関回転速度NEの目標値である)が設定され、変速比(即ち、出力回転速度Voutと入力軸回転速度Vinとの比)又は入力軸回転速度Vinがその目標値に一致するように制御される。この際、第1ソレノイド352又は第2ソレノイド354が、ECU100から入力された駆動デューティ比に応じた信号を出力することにより、アップシフト制御弁351から駆動プーリ331側の油圧アクチュエータ334に作動油が供給されてアップシフトが実行される。アップシフトとは、CVT300変速比を減少側に制御することを指す。これに対して、油圧アクチュエータ334からダウンシフト制御弁353を介して作動油が排出させられてダウンシフトが実行される。ダウンシフトとは、CVT300の変速比を増加側に制御することを指す。尚、アップシフト制御弁351及びダウンシフト制御弁353を制御することにより、CVT300の変速比を略一定に制御することも可能である。
【0089】
尚、油圧制御部350には、ロックアップクラッチ312の係合状態(即ち、締結及び解放の状態)を制御するためのソレノイドバルブも備わるが、図示は省略されている。
【0090】
<実施形態の動作>
<CVT300の基本的な変速制御>
CVT300は、ECU100によって、その入力軸回転速度Vinが目標入力軸回転速度Vinaに収束するように、例えば油圧制御部350の制御及びそれに伴う油圧アクチュエータ334の動作(作動油の供給及び排出)を介して制御される。この目標入力軸回転速度Vinaは、基本的には予めROMに記憶された変速マップMPVINに基づいて決定される。ここで、図4を参照し、変速マップMPVINの詳細について説明する。ここに、図4は、変速マップMPVINを概念的に表してなる概略構成図である。
【0091】
図4において、変速マップMPVINは、縦軸及び横軸に、夫々基準入力軸回転速度Vinb及び車速を配してなる二次元座標平面として表され、当該平面上に、アクセル開度Accをパラメータとして複数の基準入力軸回転速度Vinbが表された構成を採る。ここで、基準入力軸回転速度Vinbは、通常時において目標入力軸回転速度Vinaとして設定される、入力軸回転速度Vinの基準値を表す。即ち、基準入力軸回転速度Vinbは、本発明に係る「基準値」の一例である。
【0092】
変速マップMPMVにおいて、基準入力軸回転速度Vinbは、高車速側程増加し、且つアクセル開度Accが大きい程増加する。また、基準入力軸回転速度Vinbには、車速Vに応じて定まる上限値及び下限値が存在し、夫々図示上限ガード線UPL及び下限ガード線LWLによって規定されている。ECU100は、通常、変速マップMPVINから、車速センサ12及びアクセル開度センサ13により夫々検出される車速V及びアクセル開度Accに対応する基準入力軸回転速度Vinbを選択的に取得し、目標入力軸回転速度Vinaとして設定する。
【0093】
一方、ロックアップクラッチ312の係合状態は、ECU100のROMに格納されたクラッチ制御マップMPCLに基づいて行われる。ここで、図5を参照し、クラッチ制御マップMPCLの詳細について説明する。ここに、図5は、クラッチ制御マップMPCLを概念的に表してなる概略構成図である。
【0094】
図5に示すように、ロックアップクラッチ312の係合状態は、アクセル開度Acc及び車速Vをパラメータとして決定される。より具体的には、ECU100は、その時点の車速V及びアクセル開度Accによって規定されるマップ上の位置が、図示解放領域に属する場合、ロックアップクラッチ312が解放されるように油圧制御部350を制御すると共に、図示締結領域に属する場合、ロックアップクラッチ312が締結されるように油圧制御部350を制御する。
【0095】
CVT300の目標入力軸回転速度Vinaは、基本的には上述したように変速マップMPVINに基づいて基準入力軸回転速度Vinbに決定されるが、この際、変速マップMPVINに規定される基準入力軸回転速度Vinbは、エンジン200の燃料消費率が最小となるように設定される。ここで、エンジン200の機関回転速度NE及び出力トルクTrの組み合わせとして動作点MVを規定すると、基準入力軸回転速度Vinbは、エンジン200が、エンジン200の出力P毎に定まる、エンジン200の燃料消費率が最小となる最適燃費動作点で動作するように設定される。
【0096】
ここで、図6を参照し、最適燃費動作点について説明する。ここに、図6は、最適燃費動作点を規定する動作点マップMPMVの模式図である。
【0097】
図6において、動作点マップMPMVは、縦軸及び横軸に夫々出力トルクTr及び機関回転速度NEを配してなる二次元座標平面として表される。動作点マップMPMVにおいて、最適燃費動作点は、エンジン200の出力P毎に、予め実験的に定まる動作点であり、図6には、動作点MV1(出力P=PWR1に対応し、機関回転速度NE1及び出力トルクTr1を採る)、動作点MV2(出力P=PWR2(PWR2>PWR1)に対応し、機関回転速度NE2(NE2>NE1)及び出力トルクTr2(Tr2>Tr1)を採る)、動作点MV3(出力P=PWR3(PWR3>PWR2)に対応し、機関回転速度NE3(NE3>NE2)及び出力トルクTr3(Tr3>Tr2)を採る)及び動作点MV4(出力P=PWR4(PWR4>PWR3)に対応し、機関回転速度NE4(NE4>NE3)及び出力トルクTr4(Tr4>Tr3)を採る)の4個の最適燃費動作点が模式的に表されている。
【0098】
尚、実際には、エンジン200の出力Pに応じて、より精細に最適燃費動作点が規定されており、全ての最適燃費動作点を繋げることにより、燃料消費率が最小となる動作線、即ち図示最適燃費線MVsfcを規定することができる。ECU100は通常、エンジン200が、後述する要求出力Ptに応じて、この最適燃費線MVsfc上のいずれかの動作点で動作するように、エンジン200及びCVT300を制御している。即ち、要求出力Ptが決定されると、ECU100は通常、入力軸回転速度Vinの制御を介して機関回転速度NEを制御し(制御目標となる基準入力軸回転速度Vinbの値は、最適燃費動作点の機関回転速度NEに対応する値として変速マップMPVINに設定されている)、最適燃費動作点に対応する出力トルクが得られるように、スロットルバルブ208に係るスロットル開度を制御する。その結果、エンジン200の燃料消費率は可及的に最適に維持される。尚、ECU100は、動作点マップMPMVに対応するデータ(例えば、当該最適燃費動作点に関する機関回転速度及び出力トルクのデータ等)を、予めROMにマップとして(動作点マップMPMVそのものであってもよい)記憶している。
【0099】
尚、ECU100は、動作点マップMPMVを、CVT300の基準入力軸回転速度Vinbの設定に使用することも可能である。即ち、機関回転速度NEは入力軸回転速度Vinと一義的な関係を有しており、動作点マップMPMVにより要求出力Ptに対応する最適燃費動作点が定まれば、必然的に機関回転速度NE及び出力トルクTrの目標値は定まり得る。従って、当該機関回転速度NEの目標値に基づいて、基準入力軸回転速度Vinbを設定することが可能である。
【0100】
尚、本実施形態では、説明の煩雑化を防ぐ目的から、変速マップMPVINに基づいて設定された基準入力軸回転速度Vinbは、最適燃費動作点に対応する機関回転速度NEと一致するものとする(ロックアップクラッチ312も締結されているものとする)。但し、基準入力軸回転速度Vinbの設定態様は、ここに述べたものに限定されず、例えば、トルクコンバータ311の伝達ロスや、作動油の応答遅延等を考慮した適宜の補正がなされてもよい。
【0101】
<変速制御処理の詳細>
最適燃費線MVsfc上の動作点でエンジン200を動作させることにより、基本的にエンジン200は最も効率良く動作し得るが、エンジン200の動作点を変更するためになされるCVT300の変速に際しては、例えば機関回転速度NEの上昇を伴う加速時において、出力トルクの一部がイナーシャトルクとして損失し(即ち、出力トルクの一部が機関回転速度の上昇に供され)、トルク感の減少によってドライバビリティが悪化する場合がある。そのような問題点に鑑みれば、変速時における入力軸回転速度Vinの目標値たる目標入力軸回転速度Vinaを、常に最適燃費動作点に対応する基準入力軸回転速度Vinbに設定すると、このようなドライバビリティの悪化が顕在化しかねない。そこで、車両10では、ECU100が変速制御処理を実行することによって、目標入力軸回転速度Vinaを適切な値に設定することが可能となっている。ここで、図7を参照し、変速制御処理の詳細について説明する。ここに、図7は、変速制御処理のフローチャートである。
【0102】
図7において、ECU100は、要求駆動力Ftを算出する(ステップS101)。要求駆動力Ftは、駆動輪たる左前輪FL及び右前輪FRに要求される駆動力である。ECU100のROMには、予め車速V及びアクセル開度Accに対応付けられた駆動力マップが格納されており、ECU100は、車速センサ12により検出される車速V及びアクセル開度センサ13により検出されるアクセル開度Accに対応する値を当該駆動力マップから選択的に取得することによって要求駆動力Ftを取得する。尚、要求駆動力Ftの取得態様はこれに限定されず、各種の態様を採ってよい。
【0103】
続いて、ECU100は、車両10の走行抵抗Frを算出する(ステップS102)。走行抵抗Frは、車両重量、車速、空気抵抗、転がり抵抗及び路面勾配の関数であり、車速及び路面勾配が決定されると一義的に定まる指標値である。ECU100のROMには、予め車速及び路面勾配をパラメータとする走行抵抗マップが格納されており、ECU100は、車速センサ12により検出される車速Vと、例えば不図示の前後加速度センサ等により検出される車両10の前後加速度とに対応する値を当該走行抵抗マップから選択的に取得することによって走行抵抗Frを取得する。尚、走行抵抗Frの取得態様はこれに限定されず、各種の態様を採ってよい。
【0104】
次に、ECU100は、車両10の要求加速度atを算出する(ステップS103)。要求加速度atは、要求駆動力Ftと走行抵抗Frとの差分を車重で除することにより(即ち、運動方程式により)、好適に算出することが可能となる。要求加速度atを算出すると、ECU100は、要求加速度atの閾値atthを取得する(ステップS104)。要求加速度の閾値atthは、予めROMに格納されている。
【0105】
続いて、ECU100は、要求出力Ptを算出する(ステップS105)。この際、ECU100は、先に取得された要求駆動力Ft、並びに車速V及び駆動輪の半径rに基づいて、「Ft×r×V」なる演算処理を行い、当該演算処理の結果に適宜単位換算を行うことにより最終的に要求出力Ptを算出する。
【0106】
要求出力Ptを算出すると、ECU100は、第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1を決定し(ステップS106)、更に第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2を決定する(ステップS107)。ここで、図8を参照し、第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1及び第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2について説明する。ここに、図8は、動作点マップMPMVの他の模式図である。尚、同図において、図6と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0107】
図8における動作点マップMPMVの構成は、図6に示した動作点マップMPMVと基本的に同一であり、最適燃費線MVsfcの他にWOTトルク動作線MVwotを追加したものとなっている。ここで、WOTトルク動作線MVwotは、エンジン200の機関回転速度NE毎に(或いは、エンジン200の出力P毎に)、スロットルバルブ208が全開(WOT)状態に制御されている場合のトルク、即ちWOTトルクTrwに対応する動作点(即ち、WOTトルク動作点であり、本発明に係る「最大トルク動作点」の一例)を繋げて得られる動作線であり、機関回転数NE毎にエンジン200の物理的な最大出力(即ち、WOT出力)を表してなる動作線である。例えば、図示機関回転速度NE1において、最適燃費線MVsfc上の動作点(即ち、最適燃費動作点)は動作点MV1であり、WOTトルク動作線MVwot上の動作点は、出力トルクTrw1に対応する図示動作点MVW1である。
【0108】
一方、動作点マップMPMVにおいては、エンジン200の出力Pが相互に等しい動作点を繋げて得られる等出力線EPを規定することができる。図8においては、出力PWR1及びPWR4に夫々対応する二種類の等出力線EP1及びEP4が模式的に示されている。尚、ECU100は、当該WOTトルク動作点に関するデータ(例えば、機関回転速度及び出力トルク(即ち、WOTトルク)のデータ)、即ち図8に示す動作点マップMPMVに対応するデータを、予めROMにマップとして格納することによって保持しており、機関回転速度NEに応じてWOTトルクを特定することが可能である。
【0109】
ここで、本実施形態において、第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1は、要求出力Ptに対応する等出力線EPと、WOTトルク動作線MVwotとの交点たるWOTトルク動作点に対応する入力軸回転速度Vinとして設定される、本発明に係る「暫定値」の一例である。第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1は、既に述べたようにロックアップクラッチ312がロックアップされているものとすれば、当該WOTトルク動作点に対応する機関回転速度NEに一致する。
【0110】
一方、第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2は、要求出力Ptに対応する最適燃費動作点に対応する入力軸回転速度Vinであり、即ち基準入力軸回転速度Vinbに一致する。尚、第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2は、第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1と同様に、ロックアップクラッチ312がロックアップされているとすれば、当該最適燃費動作点に対応する機関回転速度NEに一致する。
【0111】
即ち、より具体的に言えば、現時点のエンジン200の動作点が図示動作点MV1(出力PWR1)であり、要求出力PtがPWR4であるとすれば、第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1は、WOTトルク動作点MVW2に対応する機関回転速度NE3であり、第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2は、基準入力軸回転速度Vinb(即ち、最適燃費動作点MV4に対応する機関回転速度)たる機関回転速度NE4となる。尚、これ以降の説明においては、現時点の動作点と要求出力Ptとが、このような関係を有するものとする。
【0112】
図7に戻り、第1及び第2ステップ目標入力軸回転速度が決定されると、ECU100は、要求加速度atが閾値atthよりも大きいか否かを判別する(ステップS108)。要求加速度atが閾値atth以下である場合(ステップS108:NO)、ECU100は、CVT300の変速制御により、入力軸回転速度Vinを現時点の入力軸回転速度Vinから第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2(即ち、目標入力軸回転速度Vina)まで、基準となる変速速度Vcvt1で変速させる(ステップS112)。一方、要求加速度atが閾値atthよりも大きい場合(ステップS108:YES)、ECU100は更に、機関回転速度NEが第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1未満であるか否かを判別する(ステップS109)。
【0113】
ステップS110に係る処理において、機関回転速度NEが第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1未満である場合(ステップS109:YES)、ECU100は、CVT300の変速制御により、入力軸回転速度Vinを現時点の入力軸回転速度Vinから第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1(即ち、目標入力軸回転速度Vina)まで、変速速度Vcvt1で変速させ(ステップS110)、処理をステップS109に戻す。即ち、入力軸回転速度Nint1を目標入力軸回転速度Vinaとした変速速度Vcvt1での変速制御が継続される。
【0114】
一方、ステップS109に係る処理において、機関回転速度NEが第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1以上である場合(ステップS109:NO)、ECU100は、CVT300の変速制御により、入力軸回転速度Vinを第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2(即ち、再度設定された目標入力軸回転速度Vinaに相当する)まで、変速速度Vcvt2(Vcvt2<Vcvt1)で変速をさせる(ステップS111)。ステップS111又はステップS112に係る処理を実行すると、ECU100は、処理をステップS101に戻し、一連の処理を繰り返す。変速制御処理は以上の如くに進行する。
【0115】
ここで、CVT300の変速速度とは即ち、入力軸回転速度Vinの時間変化率であり、基準となる変速速度Vcvt1は、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、エンジン200の動作点が、実践上燃費の悪化を顕在化させることのない程度に最適燃費線MVsfcをトレースし得るように定められている。一方、変速速度Vcvt2は、少なくとも基準となる変速速度Vcvt1に対し低い限りにおいて、設定に係る自由度は比較的高く、例えば規準となる変速速度Vcvt1に対し、加算、減算、乗算及び除算等の各種数値演算処理を施すことより算出されてもよいし、変速速度Vcvt1と共に予め然るべきマップに格納されていてもよい。
【0116】
また、CVT300の変速速度は、油圧制御部350における第1及び第2ソレノイドの駆動デューティ比の制御により制御することができる。即ち、定性的にみて、当該駆動デューティ比を大きく設定すれば、入力軸回転速度Vinは目標入力軸回転速度Vinaに対し相対的に短時間で収束し、変速速度は速くなり、当該駆動デューティ比を小さく設定すれば、入力軸回転速度Vinは目標入力軸回転速度Vinaに対し相対的に長い時間をかけて収束し、変速速度は遅くなる。従って、ECU100は、基準変速速度に対応する駆動デューティ比に対して小さい駆動デューティ比を設定することにより、変速速度を基準変速速度に対し遅らせることが可能である。
【0117】
ここで、図9を参照し、このような変速制御処理の実行過程を視覚的に説明する。ここに、図9は、変速制御処理の実行過程における、アクセル開度Acc、要求加速度at及び入力軸回転速度Vinの時間特性を表すタイミングチャートである。
【0118】
図9において、横軸には共通に時刻が採られており、縦軸の系列には、上段から順にアクセル開度Acc、要求加速度at及びCVT300の入力軸回転速度Vinが表されている。
【0119】
図9において、上述した変速制御処理が実行される過程で、時刻T1においてドライバがアクセルペダル14を踏下することによってアクセル開度Accが図示Acc1から変化を開始し、図示Acc2(Acc2>Acc1)まで変化したとする。また、このようなドライバのアクセル操作に伴い、要求加速度atも時刻T1において変化を開始し、図示at1から図示at2(at2>at1)まで変化したとする。この際、要求加速度at2は、閾値atthよりも大きい値であるとする。
【0120】
このような状況では、目標入力軸回転速度Vinaは、図示PRF_Vina(一点鎖線参照)として示す特性で推移する。即ち、時刻T1において、目標入力軸回転速度Vinaは、第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1に相当する機関回転速度NE3に設定される。一方、入力軸回転速度Vin(実線参照)は、目標入力軸回転速度Vinaの設定から若干の時間遅延を経て、目標入力軸回転速度Vinaと同等の波形で変化を開始する。
【0121】
時刻T2付近において、実際の入力軸回転速度Vinが第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1たる機関回転速度NE3に到達すると、ECU100は、上述したステップS111に係る処理を実行して、次なる目標入力軸回転速度Vinaとして、第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2(即ち、基準入力軸回転速度Vinb)たるNE4を設定する。入力軸回転速度Vinは、この第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2の設定に伴い、上昇を続け、最終的に時刻T3で第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2に収束する。尚、図示するように、時刻T2から時刻T3に至る変速期間の変速速度(すなわち、Vcvt2)は、時刻T1から時刻T2に至る変速期間の変速速度(即ち、Vcvt1)に対して緩やかである。
【0122】
ここで、本実施形態との比較に供すべき比較例として、基準入力軸回転速度Vinbが目標入力軸回転速度Vinaとしてされた場合の入力軸回転速度Vinの時間特性が図示PRF_compとして示される(破線参照)。PRF_compに示されるように、比較例では、変速速度は基準となる変速速度Vcvt1に固定され、また目標入力軸回転速度Vinaは、時刻T1に時点で既に基準入力軸回転速度Vinbに設定される。
【0123】
ここで、図8に戻って、本実施形態に係る変速制御処理を補足して説明する。図8において、図9における比較例と同等の変速制御が行われた場合、エンジン200の動作点は、(1)動作点MV1から機関回転速度NE1を維持しつつ、WOTトルク動作線MVwot上のWOTトルク動作点MVW1まで移動する。続いて、(2)WOTトルク動作線MVwot上を移動しつつ、等出力線EP4(即ち、この場合の要求出力Ptに対応する等出力線)との交点に当たる図示WOTトルク動作点MVW2まで移動する。次に、(3)等出力線EP4上を最適燃費線MVsfcとの交点に当たる図示動作点MV4まで移動する。これらのプロセスが基準となる変速速度Vcvt1を維持しつつ実行される。尚、当該比較例において、入力軸回転速度Vinの変化量は、「NE4−NE1」となる。
【0124】
一方、本実施形態に係る変速制御が適用された場合、上記(1)及び(2)については比較例と同様であるが、(2)のプロセスが終了した時点で、入力軸回転速度Vinは、第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1に到達したことになり、一旦変速制御は終了する。この時点で、要求出力Ptは既に実現されているため、少なくとも車両10の動力性能は担保される。ここで、この時点の入力軸回転速度Vinの変化量は「NE3−NE1」であり、上述した比較例に係る変化量よりも「NE4−NE3」に相当する量だけ小さくなっている。
【0125】
CVT300において、変速に伴うイナーシャトルクは、入力軸回転速度Vinの変化量が大きい程大きくなる。イナーシャトルクが大きい程、トルク損失は大きくなり加速レスポンスが低下してドライバビリティが悪化する。従って、本実施形態に係る変速制御処理がなされた場合には、比較例に係る変速制御と較べて、イナーシャトルクが小さい分加速レスポンスが向上し、ドライバビリティの悪化が抑制される。
【0126】
また、本実施形態に係る変速制御処理によれば、入力軸回転速度Vinが第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1に到達して以降、新たに第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2が設定される。この第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2により、入力軸回転速度Vinは、最終的には比較例と同様に最適燃費線MVsfc上の動作点に対応する機関回転速度NE4まで移行するが、この際の変速速度たるVcvt2は、Vcvt1と比較して低く設定される。イナーシャトルクは、変速速度に依存するから、変速速度が相対的に低く設定されることにより、イナーシャトルクによるトルク損失が比較例と較べて抑制される。一方、動作点MV4は、最適燃費動作点であるから、エンジン200の燃料消費率としてはWOTトルク動作点MVW2よりも優れている。そのため、本実施形態に係る変速制御がなされることによって、ドライバビリティと燃費との両立が実現されるのである。
【0127】
尚、このような本実施形態に係る変速制御は、要求加速度atと閾値atthとの相対比較に基づいてその実行可否が選択される。従って、本実施形態に係る閾値atthは、基準となる変速速度Vcvt1で最適燃費動作点に対応する機関回転速度(即ち、ここではNE4)まで一気に変速が行われた場合に、ドライバビリティの悪化による不利益が、燃料消費率を迅速に最小とすることによる利益を上回るものと推定される程度に、入力軸回転速度Vinの変化量が大きくなる要求加速度の値等として設定されている。このため、実践的にみてドライバビリティの悪化が顕在化しないと判断される要求加速度の範囲では、基準となる変速速度Vcvt1に従って、現時点の入力軸回転速度Vin(ここではNE1)から要求出力Ptに対応する入力軸回転速度Vinまで通常の変速が行われる。
【0128】
<第2実施形態>
変速制御処理の形態としては、上述した第1実施形態のものに限らず他の態様も考えられる。ここで、図10を参照し、本発明の第2実施形態に係る変速制御処理について説明する。ここに、図10は、本発明の第2実施形態に係る変速制御処理のフローチャートである。尚、同図において、図7と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0129】
図10において、第2実施形態に係る変速制御処理は、第1実施形態に係る変速制御処理と較べ、ステップS109及びステップS111が削除された構成となっている。即ち、第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1到達後の第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2の設定及びそれに伴う変速速度Vcvt2での変速がなされない構成となっている。
【0130】
より具体的には、ステップS108に係る処理において、要求加速度atが閾値atth以下であれば(ステップS108:NO)、目標入力軸回転速度Vinaが第2ステップ目標入力軸回転速度Nint2に設定され変速速度Vcvt1に従った変速が行われる(ステップS112)。一方、要求加速度atが閾値atthよりも大きければ(ステップS108:YES)、目標入力軸回転速度Vinaが第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1に設定され、同じく変速速度Vcvt1に従った変速が実行される(ステップS110)。
【0131】
ここで、図11を参照し、このような第2実施形態に係る変速制御処理の実行過程を視覚的に説明する。ここに、図11は、第2実施形態に係る変速制御処理の実行過程における、アクセル開度Acc、要求加速度at及び入力軸回転速度Vinの時間特性を表すタイミングチャートである。尚、同図において、図9と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0132】
図11において、目標入力軸回転速度Vina(図示PRF_Vina参照)は、第1実施形態と異なり、時刻T1において、要求出力Pt(ここではPWR4)に相当するWOTトルク動作点MVW2に対応する機関回転速度NE3に設定されてから不変であり、従って、入力軸回転速度Vin(図示PRF_Vin参照)も時刻T2においてNE3に到達して以降、NE3のまま不変となる。
【0133】
このような第2実施形態の効果について、再び図8に戻って補足すると、第2実施形態によれば、入力軸回転速度VinがNE1からNE3に変化した時点(言い換えれば、動作点が動作点MV1からWOTトルク動作点MVW2に変化した時点)において、変速が終了する。このため、入力軸回転速度Vinの変化幅(即ち、この場合、「NE3−NE1」)は、最小限に(即ち、要求出力Ptを満たす限りにおいて最小に)抑えられ、イナーシャトルクによるドライバビリティの悪化が顕著に抑制される。
【0134】
この場合、第1実施形態と較べれば、最適燃費動作点に対応する機関回転速度NE4まで入力軸回転速度Vinが変化しないから、エンジン200の燃費は相対的に悪化しかねないが、ドライバビリティの悪化は燃費の悪化と較べて不可逆性が強く、生じるか否かが問題となり易いのに比べ、燃費は車両10の動作期間全域で平滑化することができ、瞬間的に燃費が悪化したとして、他の動作期間で補償することが、少なくともドライバビリティと較べれば容易である。また、第2実施形態に係る変速制御は、燃費を顕著に悪化させるものではないから、エンジン200の動作点を、常に最適燃費線MVsfc上で設定する場合と較べてドライバビリティの低下を顕著に図り得る点に鑑みれば、このようにドライバビリティの悪化抑制が優先的に図られることにより、燃費とドライバビリティの両立が好適に実現される。
【0135】
<第3実施形態>
上述した各実施形態においては、要求加速度atが単一の閾値atthとの比較に供され、ドライバビリティの悪化を抑制し得る変速制御の実行可否が選択される構成となっているが、要求加速度atの閾値は可変であってもよい。このような趣旨に基づいた本発明の第4実施形態について説明する。
【0136】
車両10の加速度は、車速に応じてその変化特性が異なる。即ち、高車速側では低車速側と較べて加速度の上昇が鈍重となり易い。即ち、高車速側では要求出力Ptに対する加速度atの感度が低下し易い。このため、加速度atに単一の閾値を適用すると、高車速側において、上述した本発明に係る変速制御の実行機会が相対的に減少する可能性がある。このような事態を防止するため、本実施形態では、加速度atの閾値が、変速開始時点の車速に応じた関数として設定され、より具体的には、高車速側でより小さくなるように段階的に又は連続的に設定される。
【0137】
また、車両10の加速時における機関回転速度NEの変化量は、加速開始時の機関回転速度NEが低い程大きくなる。即ち、低回転領域程、加速度に対する機関回転数NEの感度が上昇する。従って、加速度atに単一の閾値を適用すると、低回転領域において、実践上無視し得ない大きなイナーシャトルクが発生する可能性が高くなる。このような事態を防止するため、本実施形態では、加速度atの閾値が、変速開始時点の機関回転速度NEに応じた関数として設定され、より具体的には、低回転側でより小さくなるように段階的に又は連続的に設定される。
【0138】
このように、第3実施形態によれば、要求加速度atの閾値atthが、変速開始時点における車速及び機関回転速度に応じた可変値として設定される。従って、変速がなされるに際して機関回転速度NEの変化を抑制してイナーシャトルクの低減を図る旨の変速制御(即ち、上述した第2実施形態に相当する変速制御)、及びこのようなイナーシャトルクの低減に加え、変速速度を低下させつつ最適燃費線まで動作点をシフトすることにより燃費の向上を図る旨の変速制御(即ち、上述した第1実施形態に相当する変速制御)を、より効果的に実行することが可能となり、ドライバビリティ及び燃費の両立が実践上の高い利益を伴って実現される。
【0139】
<第4実施形態>
上述した各実施形態においては、本発明に係る「暫定値」の一例、且つ「下限値」の一例として、本発明に係る「最大トルク動作点」の一例たるWOTトルク動作点に対応する機関回転速度NEが挙げられているが、下限値と基準値とによって規定される、目標入力軸回転速度Vinaの採り得る範囲(即ち、上述した各実施形態では、図8に示す機関回転速度NE3以上NE4以下の範囲)の中から選択される暫定値は、可変であってもよい。このような趣旨に基づいた、本発明の第4実施形態について、図8を参照して説明する。
【0140】
図8において、本発明に係る「暫定値」の一例として、WOTトルク動作点MVW2に対応する機関回転速度NE3が設定されている。機関回転速度NE3は、目標入力軸回転速度Vinaの採り得る最小値である(即ち、これ未満では要求出力が満たされない)から、変速に伴う機関回転速度NEの変化量を最小とし得る値である。然るに、第3実施形態で述べたように、ドライバビリティの悪化に係る顕在化し易さの度合いは、変速開始時点の車速や機関回転速度によって異なる。
【0141】
そこで、本実施形態では、当該車速及び機関回転速度に基づいて、暫定値が可変とされる。より具体的には、要求加速度atが閾値atthよりも大きい場合に設定される、本発明に係る暫定値としての第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1は、変速開始時点の車速が高い程、低回転側、即ち機関回転速度NE3に近付くように設定される。同様に、Nint1は、変速開始時点の機関回転速度NEが低い程、低回転側、即ち機関回転速度NE3に近付くように設定される。
【0142】
このようにすれば、ドライバビリティの悪化が相対的にみて顕在化し難い低車速領域や高回転領域において、第1ステップ目標入力回転速度Nint1(即ち、変速時に変速速度Vcvt1で変速される期間を規定する機関回転速度)をより高回転側にシフトすることが可能となる。第1ステップ目標入力軸回転速度Nint1が高回転側へシフトされる程、即ち、基準値としての最適燃費線MVsfc上の動作点に対応する機関回転速度(即ち、この場合、NE4)に接近する程、エンジン200の燃費は向上する。このように、第4実施形態では、ドライバビリティの悪化を実践上顕在化させない限りにおいて、可及的に通常の変速制御が行われる。従って、燃費とドライバビリティとの両立を極めて効果的になし得るのである。
【0143】
尚、上述した各種実施形態では、本発明に係る「最大トルク動作点」の一例としてWOTトルク動作点が示されるが、本発明に係る最大トルクとは、この種の理論的な最大トルクに限定されず、実質的に或いは多様な制約に基づいて規定される現実的な最大トルクも含む趣旨である。即ち、燃費やエミッション等が、例えば極端に悪化することが予め判明している、或いはリアルタイムにそのような判断を下し得る動作点等については、最大トルク動作点の対象動作点から除外してもよい。
【0144】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の変速制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明の第1実施形態に係り、本発明に係る車両の変速制御装置に対応する車両の要部構成を概念的且つ模式的に表してなる概略構成図である。
【図2】図1の車両におけるエンジンの模式図である。
【図3】図1の車両に備わるCVTの構成を概念的且つ模式的に表してなる概略構成図である。
【図4】図3のCVTの入力軸回転速度の設定に供される変速マップの概略構成図である。
【図5】図3のCVTにおけるロックアップクラッチの係合状態の決定に供されるクラッチ制御マップの概略構成図である。
【図6】最適燃費動作点を規定する動作点マップの模式図である。
【図7】ECUにより実行される変速制御処理のフローチャートである。
【図8】動作点マップの他の模式図である。
【図9】図7の変速制御処理の実行過程における、アクセル開度、要求加速度及び入力軸回転速度の時間特性を表すタイミングチャートである。
【図10】本発明の第2実施形態に係る変速制御処理のフローチャートである。
【図11】図10の変速制御処理の実行過程における、アクセル開度、要求加速度及び入力軸回転速度の時間特性を表すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0146】
10…車両、100…ECU、200…エンジン、208…スロットルバルブ、300…CVT、310…動力伝達部、320…入力回転軸、330…変速部、340…出力回転軸、350…油圧制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、該内燃機関の機関出力軸に該機関出力軸の回転に伴って回転可能に連結される入力軸及び車軸に該車軸の回転に伴って回転可能に連結される出力軸を有し、該入力軸の回転速度たる入力軸回転速度と該出力軸の回転速度たる出力軸回転速度との比を連続的に変化させることにより変速が可能な変速機とを備えた車両の変速制御装置であって、
前記車両の要求出力を特定する要求出力特定手段と、
所定の変速条件に基づいて前記入力軸回転速度の基準値を設定する基準値設定手段と、
前記車両の要求加速度を特定する要求加速度特定手段と、
前記特定された要求加速度に応じて、前記特定された要求出力を満たし且つ前記設定された基準値以下となる前記入力軸回転速度の目標値を設定する目標値設定手段と、
前記入力軸回転速度が前記設定された目標値となるように前記変速機を制御する変速制御手段と
を具備することを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項2】
前記基準値設定手段は、前記内燃機関の機関回転速度が、該機関回転速度と前記内燃機関の出力トルクとの組み合わせとして規定される動作点のうち前記内燃機関の出力毎に前記内燃機関の燃料消費率が小さくなるように定められてなる最適燃費動作点に対応する値となるように前記基準値を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の変速制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関の機関回転速度が、該機関回転速度と前記内燃機関の出力トルクとの組み合わせとして規定される動作点のうち前記内燃機関の出力毎に前記出力トルクが最大となるように定められてなる最大トルク動作点に対応する値となるように前記目標値の下限値を設定する下限値設定手段を更に具備し、
前記目標値設定手段は、前記目標値を、前記下限値以上且つ前記基準値以下の範囲で設定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の変速制御装置。
【請求項4】
前記最大トルク動作点は、前記内燃機関のWOTトルクに対応する動作点である
ことを特徴とする請求項3に記載の車両の変速制御装置。
【請求項5】
前記目標値設定手段は、前記特定された要求加速度が所定の閾値以上及び未満となる場合について、前記目標値を夫々前記基準値未満の暫定値及び前記基準値に設定する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両の変速制御装置。
【請求項6】
前記変速制御手段は、前記変速がなされる過程において前記入力軸回転速度が前記暫定値に到達した場合に、前記入力軸回転速度が、前記入力軸回転速度が前記暫定値に到達するまでの期間に対応する変速速度未満となる変速速度で前記暫定値から前記基準値に到達するように前記変速機を更に制御する
ことを特徴とする請求項5に記載の車両の変速制御装置。
【請求項7】
変速開始時点における前記車両の速度及び前記内燃機関の機関回転速度のうち少なくとも一方に基づいて前記閾値を設定する閾値設定手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の車両の変速制御装置。
【請求項8】
前記閾値設定手段は、前記車両の速度が高い場合に小さくなるように、又は前記機関回転速度が低い場合に小さくなるように前記閾値を設定する
ことを特徴とする請求項7に記載の車両の変速制御装置。
【請求項9】
変速開始時点における前記車両の速度及び前記内燃機関の機関回転速度のうち少なくとも一方に基づいて前記暫定値を設定する暫定値設定手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項5から8のいずれか一項に記載の車両の変速制御装置。
【請求項10】
前記暫定値設定手段は、前記車両の速度が高い場合に低くなるように、又は前記機関回転速度が低い場合に低くなるように前記暫定値を設定する
ことを特徴とする請求項9に記載の車両の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−281089(P2008−281089A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125056(P2007−125056)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】