説明

車両の想定視線角度制御装置

【課題】 車両の減速時にドライバに自然な減速感を与えることができる車両の想定視線角度制御装置を提供する。
【解決手段】 サスペンション制御量設定部12は、制動状態演算部11から出力される減速度Gに基づいて、目標ピッチ角Apを求める。このとき、車両M1の車速に応じて、減速度を補正し、車速が大きいほど目標ピッチ角Apが後傾側となるようにする。また、目標ピッチ角Apを補正するとともに、ブレーキペダルの操作量に対する減速度Gも補正する。減速度Gの補正では、車速が大きいほど、ブレーキペダルの操作量に対する減速度Gが大きくなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるドライバの想定視線角度を制御する車両の想定視線角度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が発進する際には、後輪の沈み込み(スクワット)という現象が生じ、停止時には、前輪の沈み込み(ダイブ)という現象が生じ、車体のピッチ角が変動する。このようなスクワットやダイブといった現象が生じると、車体姿勢を一定にできないという問題がある。この問題に対して、特開平4−126621号公報(特許文献1)に開示された車両用アクティブサスペンション装置がある。この車両用アクティブサスペンション装置は、車体の前後加速度を検出し、前方向の加速度を検出した際には、加速度と第1ゲインとを乗じて求めた荷重移動量に基づいてサスペンションを制御するとともに、後方向の加速度を検出した際には、加速度と第1ゲインよりも小さい第2ゲインとを乗じて求めた荷重移動量に基づいてサスペンションを制御するというものである。このようにサスペンションを制御することにより、車両に生じるスクワットやダイブを抑制するようにしている。
【特許文献1】特開平4−126621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、上記特許文献1に開示された車両用アクティブサスペンション装置では、前後方向の加速度に基づいて、所定のサスペンション制御を行うのみである。ところで、車両のスクワットやダイブが生じると、ドライバの視線角度(ドライバの視線方向と車両の走行路とのなす角度)が安定しないという現象が生じる。ここで、上記特許文献1に開示された車両用アクティブサスペンション装置を用いて車両のスクワットやダイブを防止したとしても、ドライバの視線角度を安定させるには至らないという問題があった。また、車両が減速している際にドライバの視線角度が安定しないと、自然な減速感を得ることができないという問題があった。
【0004】
そこで、本発明の課題は、車両の減速時にドライバに自然な減速感を与えることができる車両の想定視線角度制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決した本発明に係る車両の想定視線角度制御装置は、車両の制動状態を検出する制動状態検出手段と、制動状態検出手段で検出された制動状態に基づいて、路面に対するドライバの目標想定視線角度を設定する目標想定視線角度設定手段と、目標想定視線角度設定手段で設定された目標想定視線角度に基づいて、目標想定視線角度を調整する想定視線角度調整手段と、車両の車速を検出する車速検出手段と、を備え、目標想定視線角度設定手段は、車速検出手段で検出された車速に基づいて、目標想定視線角度を補正するものである。
【0006】
車両のピッチ角が変化すると、ドライバの視線角度も変化するが、ドライバが体感する視線角度は、ピッチ角の変化のほか、車速の影響をも受けることが分かった。具体的には、車速が小さいほど視線角度が前傾方向を向くことが分かった。かかる知見に基づいて、本発明に係る車両の想定視線角度制御装置においては、制動状態に基づいて路面に対するドライバの目標想定視線角度を設定した後、車両の車速を検出し、検出された車速に基づいて、ドライバの目標想定視線角度を補正するようにしている。このため、車両の減速時におけるドライバの視線角度を安定させることができ、ドライバに自然な減速感を与えることができる。
【0007】
ここで、目標想定視線角度設定手段は、車速検出手段で検出された車速が大きいほど、目標想定視線角度が後傾側となるように、目標想定視線角度を補正する態様とすることができる。
【0008】
このように、車速が大きいほど目標想定視線角度が後傾側となるように目標想定視線角度を補正することにより、車両が停止する際にドライバの目標停止位置に対する視点が安定するので、自然な減速感を与えることができる。たとえば、高車速では目標想定視線角度が後傾側となるように目標想定視線角度が補正されるので、ブレーキペダルを大きく踏み込むことによって車両に大きな減速度を与えるようになる。このとき、ドライバは減速感を得にくくなっていることから、大きな減速度を与えたとしてもドライバに大きな減速感を与えないようにすることができる。一方、低車速では目標想定視線角度が前傾側となるように目標想定視線角度が補正されるので、ドライバは減速感を得やすくなり、減速感を確実に得ることができる。また、ドライバは目標停止位置に視点を置きやすくなるため、車両を目標停止位置に確実停止しやすくすることができる。なお、ここでの車速としては、制動開始時の車速と、制動を継続している際の車速のいずれをも用いることができる。
【0009】
また、目標想定視線角度設定手段は、車速検出手段で検出された車速が所定のしきい値以下である場合に、目標想定視線角度が所定想定視線角度以下となるように、目標想定視線角度を補正する態様とすることができる。
【0010】
このように、車速が所定のしきい値以下である場合に目標想定視線角度が所定想定視線角度以下となるように目標想定視線角度を補正することにより、車両が停止する際のピッチショックを抑制することができる。
【0011】
さらに、車両を制動する制動手段と、制動手段を制御する制動制御手段と、をさらに備えており、制動制御手段は、車速検出手段で検出された車速が大きいほど、制動手段における制動量を大きく設定する態様とすることができる。
【0012】
車速が大きくなるほど目標想定視線角度が後傾側となるように制御を行うにあたり、視線角度が後傾側に向くほど減速感を得にくくなることから、高速で走行するほどドライバが減速感を得にくくなる。このため、高速であるほど、減速動作に対する減速感が小さくなり、ドライバが感じるストローク感が大きくなってしまう可能性がある。そこで、車速検出手段で検出された車速が大きいほど、制動手段における制動量を大きく設定することにより、ドライバに対して、減速動作に見合った減速感を与えることができる。
【0013】
また、制動手段を操作する制動操作手段と、制動操作手段の制動操作量を検出する制動操作量検出手段と、車両の加速度を検出する加速度検出手段と、をさらに備えており、制動状態検出手段は、制動操作量検出手段で検出された制動操作手段の制動操作量および加速度検出手段で検出された車両の加速度に基づいて、車両の制動状態を検出し、想定視線角度設定手段は、制動操作手段の操作量に対する想定視線角度の関係を一定にするとともに、車両の加速度に対する想定視線角度設定割合を車速検出手段で検出された車速に基づいて決定する態様とすることもできる。
【0014】
このように、制動操作手段の操作量に対する想定視線角度の関係を一定にするとともに、車両の加速度に対する想定視線角度設定割合を車速検出手段で検出された車速に基づいて決定することにより、ドライバに対して与える制動操作量に対する違和感を小さくしながら、制動力と視線角度とを調整することができる。
【0015】
さらに、目標想定視線角度は、車両のピッチ角に基づいて定められ、目標想定視線角度設定手段は、車両のピッチ角を設定するピッチ角設定手段であり、想定視線角度調整手段は、車両のピッチ角を調整するピッチ角調整手段である態様とすることができる。あるいは、目標想定視線角度は、車両における運転席シートにおけるシートバックのシートバック角度に基づいて定められ、目標想定視線角度設定手段は、シートバックのシートバック角度を設定するシートバック角度設定手段であり、想定視線角度調整手段は、シートバック角度を調整するシートバック角度調整手段である態様とすることもできる。
【0016】
このように、目標想定視線角度は、車両のピッチ角や運転席シートにおけるシートバックのシートバック角度に基づいて定めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る車両の想定視線角度制御装置によれば、車両の減速時にドライバに自然な減速感を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明に係る本実施形態に係る車両の想定視線角度制御装置の実施形態を説明する。なお、同一の部材、要素については、その説明を省略することがある。
【0019】
図1は本発明の実施形態に係る車両の想定視線角度制御装置としてのサスペンション制御装置の構成を示すブロック構成図、図2は、本実施形態に係るサスペンション制御装置における制御手順を示すフローチャートである。本実施形態では、路面に対するドライバの目標想定視線角度をサスペンション制御によって調整する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係るサスペンション制御装置は、車両M1に設けられ、電子制御ユニット(Electronic Control Unit、以下「ECU」という)1を備えている。ECU1は、制動状態演算部11、目標想定視線角度設定手段であるサスペンション制御量設定部12、および制動制御手段である制動制御量設定部13を備えている。このECU1には、加速度センサ2、ブレーキスイッチ3、制動操作量検出手段であるペダルストロークセンサ4、車速検出手段である車速センサ5、およびサスストロークセンサ6が接続されている。
【0021】
また、車両M1は車体Bを備えており、車体Bの前後位置には、それぞれ目標想定視線角度調整手段およびピッチ角調整手段であるフロントサスペンション装置7Fおよびリアサスペンション装置7Rが設けられている。さらに、車体Bの前後位置には、前輪FWおよび後輪RWが設けられており、これらの前後輪FW,RWには制動手段であるブレーキ8が設けられている。また、サスペンション装置7F,7RにはECU1におけるサスペンション制御量設定部12が接続されており、ブレーキ8には、ECU1における制動制御量設定部13が接続されている。サスペンション装置7F,7Rは、それぞれサスペンションスプリングおよび油圧シリンダを備えており、油圧シリンダの伸縮状態によって車高を調整するとともにサスペンションスプリングによって振動吸収を行っている。また、前後サスペンション装置7F,7Rの伸縮状態を制御することによって車体Bの前後の傾きであるピッチ角を調整する。
【0022】
加速度センサ2は、たとえば車両M1の中央部に取り付けられており、車両M1の加速度(減速度)を検出している。加速度センサ2は、検出した加速度をECU1における制動状態演算部11に出力する。
【0023】
ブレーキスイッチ3は、たとえば車室内における制動操作手段であるブレーキペダルに取り付けられており、ブレーキペダルの操作状態(ON/OFF)を検出する。ブレーキスイッチ3は、ブレーキペダルが操作された際に、ブレーキON信号をECU1における制動状態演算部11に出力する。
【0024】
ペダルストロークセンサ4は、たとえば車室内に設けられたブレーキペダルに取り付けられており、制動操作量であるブレーキペダルの操作量を検出している。ペダルストロークセンサ4は、検出したブレーキペダルの操作量をECU1における制動状態演算部11に出力する。
【0025】
車速センサ5は、たとえば車輪のホイール部分に取り付けられており、車輪速を検出することによって車速を検出する。車速センサ5は、検出した車速をECU1のサスペンション制御量設定部12および制動制御量設定部13に出力する。
【0026】
サスストロークセンサ6は、前後サスペンション装置7F,7Rのそれぞれにおける油圧シリンダに設けられており、油圧シリンダの伸縮量であるサスストロークを検出している。サスストロークセンサ6は、検出したサスストロークをECU1におけるサスペンション制御量設定部12に出力する。
【0027】
ECU1における制動状態演算部11は、車両の制動状態として、制動操作の有無、減速度、およびブレーキペダルの操作量を求める。制動状態演算部11では、ブレーキスイッチ3から出力されたブレーキON信号に基づいて、ブレーキのON/OFFを検出する。ブレーキON信号が出力されている際には制動操作があり、ブレーキON信号が出力されていない場合には、制動操作がないと判断する。制動状態演算部11は、ブレーキON信号を受信した際に、ブレーキON信号をサスペンション制御量設定部12および制動制御量設定部13に出力する。
【0028】
また、制動状態演算部11は、加速度センサ2から出力された車両M1の加速度に基づいて、車両の減速度を求める。制動状態演算部11は、加速度センサ2から出力された車両M1の加速度が負である場合に、その加速度(=減速度)をサスペンション制御量設定部12および制動制御量設定部13に出力する。さらに、制動状態演算部11は、ペダルストロークセンサ4から出力されるブレーキペダルの操作量をサスペンション制御量設定部12および制動制御量設定部13に出力する。
【0029】
サスペンション制御量設定部12は、図3に示す減速度と目標ピッチ角との関係を示すマップと、図4に示す制動初速と目標ピッチ角補正係数との関係を示すマップを記憶している。サスペンション制御量設定部12は、制動状態演算部11から出力された減速度を図3に示すマップに参照するとともに、サスストロークセンサ6から出力された制御前のサスペンション装置7F,7Rの制御量に基づいて、補正前目標ピッチ角を算出する。
【0030】
また、サスペンション制御量設定部12は、制動状態演算部11からブレーキON信号が出力された際に車速センサ5から出力された車速を図4に示すマップに参照し、目標ピッチ角補正係数を算出する。このように、ここでの目標ピッチ角補正係数は、制動状態が開始された瞬間の初速である制動初速に基づいて求める。図4に示すマップでは、制動初速が大きいほど、目標ピッチ角補正係数が小さくなるものとされている。このマップを用いると、目標ピッチ角は、制動初速が大きいほど後傾側となるように補正される。サスペンション制御量設定部12は、図3を用いて算出した補正前目標ピッチ角および図4に示すマップを参照して算出した目標ピッチ角補正係数に基づいて、目標ピッチ角を求める。この目標ピッチ角に基づいて、サスペンション装置7F,7Rを制御する。
【0031】
制動制御量設定部13は、図5に示すブレーキペダルの操作量と減速度との関係を示すマップを記憶している。また、図6に示す車両の速度と制動制御量補正係数との関係を示すマップを記憶している。制動制御量設定部13では、制動状態演算部11から出力されたブレーキペダルの操作量を図5に示すマップに参照するとともに、制動状態演算部11から出力された現在の減速度に基づいて、目標制動制御量を算出する。また、制動制御量設定部13では、制動状態演算部11からブレーキON信号が出力されたときに車速センサ5から出力された車速を制動初速として図6に示すマップに参照し、制動制御量を補正する目標制動制御量補正係数を求める。図6に示すマップは、制動初速が大きいほど、目標制動制御量補正係数が大きくなるものとされている。このマップを用いると、ブレーキペダルの操作量に対する目標制動制御量は、制動初速が大きいほど大きくなるように補正される。制動制御量設定部13では、目標制動制御量補正係数aを用いて制動制御量を補正して補正制動制御量を求め、補正制動制御量に基づいてブレーキ8を駆動させる。
【0032】
次に、本実施形態に係るサスペンション制御装置における制御手順について、図2を参照して説明する。図2に示すように、本実施形態に係るサスペンション制御装置では、まず、加速度センサ2、ブレーキスイッチ3、ペダルストロークセンサ4、車速センサ5、およびサスストロークセンサ6の各センサによってそれぞれ検出され、ECU1に出力された各値を読み出す(S1)。制動状態演算部11では、各センサから出力された値に基づいて、制動操作の有無、減速度、ブレーキペダルの操作量を求める。そして、制動操作があった場合には、ブレーキON信号をサスペンション制御量設定部12および制動制御量設定部13に出力する。また、減速度およびブレーキペダルの操作量をサスペンション制御量設定部12および制動制御量設定部13に出力する。
【0033】
サスペンション制御量設定部12では、制動状態演算部11から出力された車両M1の減速度を図3に示すマップの「基準」を表すラインに参照するとともに、サスストロークセンサ6から出力された制御前のサスペンション装置7F,7Rの制御量に基づいて、下記(1)式により、補正前目標ピッチ角Apqを算出する(S2)。ここで、補正前目標ピッチ角Apqは、前傾方向を正としている。
【0034】
Apq=G …(1)
ただし、G:減速度
x:定数
【0035】
なお、図3に示すグラフでは、定数xを1としているが、他の数であってもよい。補正前目標ピッチ角Apqを算出したら、制動状態演算部11からブレーキON信号が出力されているか否かを判断する(S3)。その結果、ブレーキON信号が出力されている場合には、制動初速を特定する(S4)。サスペンション制御量設定部12では、ブレーキON信号が出力されたときに車速センサ5から出力された車両M1の車速を制動初速VBOとする。
【0036】
制動初速VBOを特定したら、目標ピッチ角を補正する(S5)。目標ピッチ角を補正するにあたり、まず、目標ピッチ角補正係数αを求める。ここでは、目標ピッチ角補正係数としては、制動初速に対応する目標ピッチ角補正係数αを用いる。このため、ステップS4で求めた制動初速VBOを図4に示すマップに参照し、下記(2)式に基づいて制動初速VBOに対応する目標ピッチ角補正係数αを求める。図4に示すマップでは、制動初速が大きいほど目標ピッチ角補正係数αが後傾側となるようにされている。
【0037】
α=F(VBO) …(2)
【0038】
こうして、目標ピッチ角補正係数αを求めたら、下記(3)式に基づいて、補正前目標ピッチ角Apqを補正して目標ピッチ角Apを求める。目標ピッチ角を補正すると、図3に示す「基準」を表すラインが、「低速」や「高速」を表すラインに移動する。
【0039】
Ap=α …(3)
【0040】
補正前目標ピッチ角Apqを補正した目標ピッチ角Apを求めたら、目標ピッチ角Apを達成するように、サスペンション装置7F,7Rを制御する(S6)。たとえば、ピッチ角が大きくなる(前傾となる)目標ピッチ角である場合には、フロントサスペンション装置7Fのサスペンションストローク(油圧シリンダの伸長長さ)よりも、リアサスペンション装置7Rのサスペンションストロークの方が相対的に小さく(短く)なるように制御する。
【0041】
また、ステップS3において、サスペンション制御量設定部12にブレーキON信号が出力されていないと判断した場合には、補正前目標ピッチ角Apqを補正することなく、あるいは目標ピッチ角補正係数αを1とし、補正前目標ピッチ角Apqをそのまま目標ピッチ角Apとする。その後、目標ピッチ角Apを達成するようにサスペンション装置7F,7Rを制御する(S6)。
【0042】
サスペンション装置7F,7Rの制御が済んだら、制動制御量設定部13において、目標減速度を算出する(S7)。制動制御量設定部13では、制動状態演算部11から出力された車両M1の減速度およびブレーキペダルの操作量を図5に示すマップの「基準」を表すラインに参照し、下記(4)式のよって補正前目標減速度Gqを算出する。
【0043】
Gq=S …(4)
ただし、S:ブレーキペダルの操作量
b:定数
【0044】
また、この補正前目標減速度Gqに対して、制動状態演算部11からブレーキON信号が出力されたときに車速センサ5から出力された車両M1の車速を図6に示すマップに参照し、目標制動制御量補正係数aを下記(5)式によって求める。
【0045】
a=dVBO+c …(5)
ただし、c,d:定数
【0046】
目標制動制御量補正係数aを求めたら、下記(6)式に基づいて、補正前目標減速度Gbを補正して目標減速度Gを求める。図6に示すマップでは、ブレーキペダルの操作量が大きいほど目標制動制御量補正係数aが大きくなるようにされている。目標制動制御量を補正すると、図5に示す「基準」を表すラインが、「低速」や「高速」を表すラインに移動する。
【0047】
G=aS …(6)
【0048】
目標減速度Gを求めたら、目標減速度Gを達成するように、ブレーキ8を制御する(S8)。こうして、サスペンション制御装置における制御を終了する。
【0049】
このように、本実施形態に係るサスペンション制御装置においては、サスペンション制御量設定部12において、目標ピッチ角を設定するにあたり、車両M1の車速を参照して目標ピッチ角を補正している。このため、車両M1の減速時におけるドライバの視線角度を安定させることができ、ドライバに自然な減速感を与えることができる。
【0050】
また、目標ピッチ角を補正するにあたり、車速が大きいほど目標ピッチ角が後傾側となるように、目標ピッチ角を補正している。このため、高車速では目標想定視線角度が後傾側となるように目標想定視線角度が補正されるので、ブレーキペダルを大きく踏み込むことによって車両に大きな減速度を与えるようになる。このとき、ドライバは減速感を得にくくなっていることから、大きな減速度を与えたとしてもドライバに大きな減速感を与えないようにすることができる。一方、低車速では目標想定視線角度が前傾側となるように目標想定視線角度が補正されるので、ドライバは減速感を得やすくなり、減速感を確実に得ることができる。また、ドライバは目標停止位置に視点を置きやすくなるため、車両を目標停止位置に確実停止しやすくすることができる。
【0051】
さらに、制動制御量設定部13においては、車速センサ5から出力される車速に基づいて制動制御量を補正し、車速が大きいほどブレーキペダルの操作量に対するブレーキ8の制動量(減速度)を大きく設定するようにしている。車速が大きくなるほど目標ピッチ角が後傾側となるように制御を行うにあたり、ピッチ角が後傾側に向くほど減速感を得にくくなることから、高速で走行するほどドライバが減速感を得にくくなる。これに対して、車速が大きいほどブレーキペダルの操作量に対するブレーキ8の制動量を大きく設定することにより、ドライバに与えられる減速感と実際の減速度とを近づけることができ、ドライバに対して、制動力に見合った制動感を与えることができる。
【0052】
また、上記実施形態では、目標ピッチ角補正係数を求めるにあたり、制動初速を車速として用いて図4に示すマップに参照していたが、制動操作が行われている間に検出されたそれぞれの車速に応じて目標ピッチ角補正係数を求める態様とすることもできる。図7は、車速と目標ピッチ角補正係数との関係を示すマップである。サスペンション制御量設定部12は、図4に示すマップに代えて、図7に示すマップを用いて目標ピッチ角補正係数を求めることもできる。
【0053】
車速に応じた目標ピッチ角補正係数αを求める際には、図7に示すマップを参照し、下記(7)式によって求めることができる。
【0054】
α=(α/VBO)・V …(7)
ただし、α:上記(2)式で求めた値
BO:制動初速
:車速検出値
【0055】
このように、制動初速を用いることなく、車速センサ5で検出された車速に基づいてその都度目標ピッチ角補正係数αを求める態様とすることもできる。この態様で目標ピッチ角補正係数を求めた場合でも、車両が停止する際にドライバの目標停止位置に対する視点を安定させることができるので、自然な減速感を与えることができる。また、この態様の場合、制動制御量を設定するにあたり、上記(5)式における「VBO」に代えて、「V」を用いて制動制御量を設定することにより、ドライバに与えられる減速感と実際の減速度とを近づけることがで、ドライバに対して、制動力に見合った制動感を与えることができる。
【0056】
このとき、車速Vが小さくなり、所定のしきい値以下となった場合に、目標ピッチ角が所定角度以下の角度となるように補正係数を設定することもできる。ここでの所定のしきい値としては、具体的に、車両M1が停止する直前の速度である0km/hを超え、20km/h以下の間の任意の速度とすることができる。また、所定角度としては、0度とすることができる。このように目標ピッチ角を設定することにより、車両が停止する際のピッチショックを抑制することができる。
【0057】
さらに、上記実施形態において、図2のステップS5において求められる目標ピッチ角は、加速度センサ2で検出された車両M1の減速度に基づいて決定されているが、ペダルストロークセンサ4で検出されたブレーキペダルの操作量に基づいて決定することもできる。また、車両M1の減速度から求められる目標ピッチ角とブレーキペダルの操作量から求められる目標ピッチ角との合算した量など、車両M1の減速度とブレーキペダルの操作量に基づいて求められた量に基づいて目標ピッチ角を決定することもできる。
【0058】
ここで、目標ピッチ角を車両M1の減速度から求められる目標ピッチ角(第一目標ピッチ角)とブレーキペダルの操作量から求められる目標ピッチ角(第二目標ピッチ角)の合算値に基づいて決定するにあたり、以下の態様とすることができる。図8は、ブレーキペダルの操作量と第二目標ピッチ角との関係を示すマップである。サスペンション制御量設定部12は、車両M1の減速度に対する第一目標ピッチ角Ap1の設定割合を決定するにあたり、図3に示すものと同様に車両M1の速度に応じて変化するマップに減速度を参照して、上記(3)式を用いて目標ピッチ角Apを求める場合と同様に車両M1の速度に基づいて決定する。一方、ブレーキペダルの操作量に対する第二目標ピッチ角Ap2の設定割合を決定するにあたり、図8に示すマップのブレーキペダルの操作量Sを参照して、下記(8)式によって第二目標ピッチ角Ap2を求める。
【0059】
Ap2=βSb …(8)
ただし、β=(β/VBO)・V
β:const
S:ブレーキペダルの操作量
【0060】
そして、下記(9)式によって、目標ピッチ角Apを求める。
【0061】
Ap=Ap1+Ap2 …(9)
【0062】
このように、ブレーキペダルの操作量に対する第二目標ピッチ角Ap2を一定にするとともに、車両の減速度に対する第一目標ピッチ角Ap1を車両M1の車速に基づいて決定することにより、ドライバに対して与えるブレーキペダルの操作量に対する違和感を小さくしながら、制動力と視線角度とを調整することができる。
【0063】
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。図9は、本実施形態に係る想定視線角度制御装置としてのシートバック角度制御装置の構成を示す構成図である。本実施形態では、想定視線角度をシートバック角度の制御によって調整する。図9に示すように、本実施形態に係るシートバック角度制御装置は、車両M2に設けられており、上記第一の実施形態と比較して、サスストロークセンサ6に代えてシートバック角度センサ31を備える点で異なる。
【0064】
また、ECU20においては、サスペンション制御量設定部12に代えて、シートバック角度設定手段であるシートバック角度制御量設定部21が設けられている。さらに、シートバック角度制御量設定部21は、ドライバMが着座する運転席シートSに設けられたシートバック角度調整用モータ32に接続されている。シートバック角度調整用モータ32は、運転席シートにおけるシートバックのシートバック角度を調整するシートバック角度調整機構33に接続されており、シートバック角度調整用モータ32を駆動することにより、シートバック角度調整機構33が作動して、ドライバ席のシートバック角度が調整される。これらのシートバック角度調整用モータ32およびシートバック角度調整機構33がシートバッグ角度調整手段を構成する。シートバック角度制御量設定部21では、シートバック角度調整用モータ32を駆動させることによりドライバ席のシートバック角度を調整する。その他の点については、上記第一の実施形態と同様の構成を有している。
【0065】
以上の構成を有する本実施形態に係るシートバック角度制御装置においては、上記第一の実施形態と同様、センサの読取を行い、続いて目標シートバック角度を演算によって求める。ここでの目標シートバック角度は、上記第一の実施形態における目標ピッチ角を求める考え方と同様の考え方によって求める。具体的には、減速度が大きくなるほど、シートバック角度を前傾とするように、目標シートバック角度を求める。
【0066】
目標シートバック角度を求めたら、ブレーキON信号が出力されているか否かを判断し、ブレーキON信号が出力されていれば制動初速を特定し、制動初速に基づいて目標シートバック角度を補正する。ここでは、制動初速が大きいほど、シートバック角度が後傾側となるようにされている。
【0067】
それから、上記第一の実施形態と同様にして目標減速度を演算によって求めた後、補正した目標シート角に基づいてシートバック角度調整用モータ32を作動させて、シート角を調整する。その後、上記第一の実施形態と同様のブレーキ制御を行ってシートバック角度制御を終了する。
【0068】
このように、シートバック角度を調整することによっても、車両M2の減速時におけるドライバの視線角度を安定させることができ、ドライバに自然な減速感を与えることができる。また、高車速では車両に大きな減速度を与えても、ドライバに大きな減速感を与えないようにすることができる。一方、低車速ではドライバは減速感を得やすくなり、減速感を確実に得ることができる。また、ドライバは目標停止位置に視点を置きやすくなるため、車両を目標停止位置に確実停止しやすくすることができる。
【0069】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態においては、制動初速が大きいほど後傾側となるように補正するために、目標ピッチ角補正係数を乗じるようにしているが、所定の係数に基づいて算出した値を減算する態様とすることもできる。また、上記第一の実施形態ではサスペンション制御によって想定視線角度を調整し、上記第二の実施形態ではシートバック角度制御によって想定視線角度を調整しているが、サスペンション制御とシートバック角度制御を併用することによって想定視線角度を調整する態様とするとこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】サスペンション制御装置の構成を示すブロック構成図である。
【図2】サスペンション制御装置における制御手順を示すフローチャートである。
【図3】減速度と目標ピッチ角との関係を示すマップである。
【図4】制動初速と目標ピッチ角補正係数との関係を示すマップである。
【図5】ブレーキペダルの操作量と減速度との関係を示すマップである。
【図6】車両の速度と制動制御量補正係数との関係を示すマップである。
【図7】車速と目標ピッチ角補正係数との関係を示すマップである。
【図8】ブレーキペダルの操作量と第二目標ピッチ角との関係を示すマップである。
【図9】シート角度制御装置の構成を示すブロック構成図である。
【符号の説明】
【0071】
1,20…ECU、2…加速度センサ、3…ブレーキスイッチ、4…ペダルストロークセンサ、5…車速センサ、6…サスストロークセンサ、7F,7R…サスペンション装置、8…ブレーキ、11…制動状態演算部、12…サスペンション制御量設定部、13…制動制御量設定部、21…シート角度制御量設定部、31…シート角度センサ、32…シート角度調整用モータ、33…シート角度調整機構、B…車体、FW…前輪、RW…後輪、M1,M2…車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動状態を検出する制動状態検出手段と、
前記制動状態検出手段で検出された制動状態に基づいて、路面に対するドライバの目標想定視線角度を設定する目標想定視線角度設定手段と、
前記目標想定視線角度設定手段で設定された目標想定視線角度に基づいて、前記目標想定視線角度を調整する想定視線角度調整手段と、
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、を備え、
前記目標想定視線角度設定手段は、前記車速検出手段で検出された車速に基づいて、前記目標想定視線角度を補正することを特徴とする車両の想定視線角度制御装置。
【請求項2】
前記目標想定視線角度設定手段は、前記車速検出手段で検出された車速が大きいほど、前記目標想定視線角度が後傾側となるように、前記目標想定視線角度を補正する請求項1に記載の車両の想定視線角度制御装置。
【請求項3】
前記目標想定視線角度設定手段は、前記車速検出手段で検出された車速が所定のしきい値以下である場合に、前記目標想定視線角度が所定想定視線角度以下となるように、前記目標想定視線角度を補正する請求項1または請求項2に記載の車両の想定視線角度制御装置。
【請求項4】
前記車両を制動する制動手段と、前記制動手段を制御する制動制御手段と、をさらに備えており、
前記制動制御手段は、前記車速検出手段で検出された車速が大きいほど、前記制動手段における制動量を大きく設定する請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載の車両の想定視線角度制御装置。
【請求項5】
前記制動手段を操作する制動操作手段と、前記制動操作手段の制動操作量を検出する制動操作量検出手段と、前記車両の加速度を検出する加速度検出手段と、をさらに備えており、
前記制動状態検出手段は、前記制動操作量検出手段で検出された前記制動操作手段の制動操作量および前記加速度検出手段で検出された前記車両の加速度に基づいて、前記車両の制動状態を検出し、
前記目標想定視線角度設定手段は、前記制動操作手段の操作量に対する想定視線角度の関係を一定にするとともに、前記車両の加速度に対する想定視線角度設定割合を前記車速検出手段で検出された車速に基づいて決定する請求項4に記載の車両の想定視線角度制御装置。
【請求項6】
前記目標想定視線角度は、車両のピッチ角に基づいて定められ、
前記目標想定視線角度設定手段は、車両のピッチ角を設定するピッチ角設定手段であり、
前記想定視線角度調整手段は、車両のピッチ角を調整するピッチ角調整手段である請求項1〜請求項5のうちのいずれか1項に記載の車両の想定視線角度制御装置。
【請求項7】
前記目標想定視線角度は、車両における運転席シートにおけるシートバックのシートバック角度に基づいて定められ、
前記目標想定視線角度設定手段は、前記シートバックのシートバック角度を設定するシートバック角度設定手段であり、
前記想定視線角度調整手段は、前記シートバック角度を調整するシートバック角度調整手段である請求項1〜請求項6のうちのいずれか1項に記載の車両の想定視線角度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−37200(P2008−37200A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212146(P2006−212146)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】