説明

車両の挙動制御装置

【課題】 走行中と停車時にそれぞれヨーレートセンサのゼロ点補正を可能とした車両の挙動制御装置において、適切なゼロ点補正を行うことを可能とした車両の挙動制御装置を提供する。
【解決手段】 車両走行中で走行中のヨーレート補正値(YR0)演算条件が成立した場合には、走行中ヨーレート補正値YR0Mを求め(ステップS11、12)、停止中に停止中のヨーレート補正値(YR0)演算条件が成立した場合には、停止中ヨーレート補正値YR0Sを求める(ステップS15、17)。直近のYR0M補正時点からの経過時間を示すカウンタ値CTが所定のしきい値Thxを越えている場合には、YR0MをYR0Sで置き換える(ステップS18、19)。そして、YR0MとYR0Sとの差の絶対値Ydiffがしきい値Aを越えている場合には、車両挙動制御(ステップS26)の制御しきい値をかさ上げする(ステップS23、24)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両状態量のうち少なくともヨーレートを利用して車両挙動を制御する車両の挙動制御装置に関し、特に、この挙動制御装置におけるヨーレートセンサの補正に関する。
【背景技術】
【0002】
車両状態量のうちヨーレートは車両の左右方向の回転速度を表すものであり、旋回時の挙動制御を行うための状態量として用いられる。ヨーレート測定に用いられるヨーレートセンサは、周囲の温度変化や経時変化等によってその出力が変動する。そこで、停止中のヨーレートセンサ出力を用いてゼロ点補正する手法が知られている。
【0003】
特許文献1は、そうした停止中のゼロ点補正を確実に行うための技術であり、車両が実質的に停止状態にある期間中に、ヨーレートセンサの出力値を微分することで、その微分値に基づいて車両の回転を検出することにより、車両が例えばターンテーブル上で回転しているような場合には、ヨーレートのゼロ点補正を行わないようにすることで、確実なゼロ点補正を実施しようとしている。
【特許文献1】特開平11−148828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この装置では、ゼロ点補正が停止時にしか行うことができないため、長時間連続走行している場合には、ゼロ点補正を行うことができないという問題がある。そこで、走行中においても適宜ゼロ点補正を行うことが考えられる。その場合に、走行中にゼロ点補正を行った後に、停車させた場合等、停車時のゼロ点補正と走行中のゼロ点補正との関係をどのように設定すべきかが問題となる。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みて、走行中と停車時にそれぞれヨーレートセンサのゼロ点補正を可能とした車両の挙動制御装置において、適切なゼロ点補正を行うことを可能とした車両の挙動制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る車両の挙動制御装置は、少なくともヨーレートセンサの検出結果を用いて車両の挙動を制御する車両挙動制御装置において、車両の停止中にヨーレートセンサのゼロ点出力の補正値である第1補正値を演算する停止中ゼロ点補正手段と、車両の走行中にヨーレートセンサのゼロ点出力の補正値である第2補正値を演算する走行中ゼロ点補正手段と、第1補正値と第2補正値との差が大きい場合には、小さい場合に比較して挙動制御の制御開始しきい値を大きくする制御しきい値変更手段と、最新の第2補正値を取得してから所定時間経過し、かつ、停車中の場合に、第2補正値を第1補正値に一致させるゼロ点補正値変更手段と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
走行中のゼロ点補正は、停車中のゼロ点補正に比べて精度は低下する。そこで、走行中のゼロ点補正値(第2補正値)と停車中のゼロ点補正値(第1補正値)との差が大きい場合には、ゼロ点補正後の制御開始しきい値を大きくすることで、ゼロ点補正の精度が低い場合に、誤って制御を開始してしまうのを抑制する。一方、走行中のゼロ点補正から十分に時間が経過し、かつ、停車中の場合には、その際の第1補正値で第2補正値を書き換える(第2補正値を第1補正値に一致させる。)ことにより、制御開始しきい値をリセットする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、走行中のゼロ点補正と、停止時のゼロ点補正を適切に組み合わせることができるため、走行中に周囲の環境変化等によってヨーレートセンサのゼロ点が変動した場合でも、その変動を適切に補正することができる。このため、ヨーレートセンサの検出結果を用いた車両挙動の制御の精度が向上し、安定性が増す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。
【0010】
図1は、本発明に係る車両挙動制御装置の一実施形態を示す構成図である。本実施形態は、ヨーレートを含む車両状態量を用いて制動力、駆動力を制御することで旋回時の車両挙動を安定させるVSC(Vehicle Stability Control:車両安定性制御)システムである。
【0011】
制動系は、各車輪FL、FR、RL、RRに設けられるディスクブレーキ10FL〜10RRと各ディスクブレーキ10FL〜10RRのホイルシリンダへ供給する油圧を独立して調整するブレーキアクチュエータ11と、運転者がブレーキ操作量を入力するブレーキペダル12と、運転者によるブレーキペダル12操作量を増倍するブレーキブースタ13と、増倍したブレーキ踏力をブレーキアクチュエータ11に伝達するマスタシリンダ14と、マスタシリンダ14の油圧を検出するマスタシリンダ圧力センサ15とからなる。
【0012】
ここで、ブレーキアクチュエータ11は、例えば、油圧回路の接続を切り換えるソレノイド弁や油圧を増大させるポンプ、アキュムレータを組み合わせて構成されており、各弁やポンプの作動を制御することで、各ディスクブレーキ10FL〜10RRのホイルシリンダへ供給する油圧を独立して調整することができるように構成されている。
【0013】
一方、駆動系は、図示していないエンジンと同じく図示していないスロットルを駆動するためのスロットルアクチュエータ31、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ32と、エンジンの駆動を制御するエンジンECU30とを備える。エンジンECU30は、CPU、ROM、RAM等によって構成されており、スロットル開度センサ32の出力のほか図示していないエンジン回転数センサや、冷却水温センサ、アクセル開度センサ等の出力を受けて、スロットルアクチュエータ31をはじめとする駆動系の機器の作動を制御する。
【0014】
VSCシステム全体の制御は、VSC ECU40によって行われる。このVSC ECU40もCPU、ROM、RAM等によって構成されており、エンジンECU30とは、車内LAN等によって相互通信可能に接続されている。VSC ECU40には、上述したマスタシリンダ圧力センサ15の出力のほか、車両に作用するヨーレートを検出するヨーレートセンサ21、車両の前後方向の加速度を検出する加速度センサ22、ステアリングホイール23の操舵量を検出する操舵角センサ24、各車輪に設置された車輪速センサ25FL〜25RRの各出力が入力されており、ブレーキアクチュエータ11の作動を制御する。
【0015】
ここで、本実施形態におけるVSCの制御について簡単に説明する。VSC ECU40は、加速度センサ22から得た加速度、車輪速センサ25FL〜25RRから得た車速、操舵角センサ24から得た操舵角を基にして、目標ヨーレートを算出し、ヨーレートセンサ21で検出した実際のヨーレートと比較する。実ヨーレートが目標ヨーレートより小さい場合には、VSC ECU40は、車両が目標コースから外側にはみ出す可能性があると判定し、エンジンECU30に指示して、スロットルアクチュエータ31を駆動してスロットルを絞り、エンジン出力を抑えるとともに、ブレーキアクチュエータ11により、各車輪FL〜RRのディスクブレーキ10FL〜10RRにより制動力を付与し、減速することでコースからの逸脱を防止する。一方、実ヨーレートが目標ヨーレートより大きい場合には、VSC ECU40は、車両がスピンする可能性があると判定し、ブレーキアクチュエータ11により旋回外側前輪のディスクブレーキ(例えば、右旋回時なら左前輪のディスクブレーキ10FL)に制動力を付与することで、スピンを抑制する。これにより、旋回時における車両挙動を安定させることができる。
【0016】
VSC制御により車両挙動を効果的に制御するには、ヨーレート測定を精度よく行う必要がある。ヨーレートセンサ21としては、ジャイロセンサ、歪みを利用したセンサ等が用いられるが、これらのセンサは、温度や経年変化によって出力が変動する。据え付けで使用される機器と異なり、車両は極端に差のある環境間を移動することも多く、据え付けの機器に搭載された場合に比べて出力の変動が生じやすい。そして、ヨーレート出力が変動すると、本来、安定化制御が必要でないにもかかわらず、安定化制御を行う場合や、それとは逆に安定化制御が必要であるにもかかわらず、安定化制御のタイミングが遅れてしまう場合が生じうる。そこでヨーレート出力を環境等に応じて補正する必要が生じる。
【0017】
図2は、本実施形態において行われる制御処理を示すフローチャートであり、本制御処理は、ヨーレート出力のゼロ点補正処理を含んでいる。この制御は、VSC ECU40により、車両の電装機器類の電源スイッチがオンにされてからオフにされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0018】
最初に、エンジンが始動しているか否かを判定する(ステップS1)。エンジンが始動していない場合には、VSC制御を行う必要もないため、そのまま処理を終了する。エンジンが始動している場合には、さらに、ヨーレートセンサ21の出力であるヨーレート値YRを読み込む(ステップS2)。次に、時刻カウンタ値Tを1加算する(ステップS3)。このカウンタ値Tは、電源スイッチがオンにされた時点で0にリセットされている。
【0019】
ステップS4では、現在の時刻カウンタ値Tをしきい値T1と比較する。このT1は、電源オン後、ヨーレートセンサ21の出力が安定するまでに要する時間を上回るように設定されている。時刻カウンタ値TがT1以下の場合には、Ydiffに初期値Yiniを代入し(ステップS5)、後述するステップS9へと移行する。ここで、Yiniには、後述する定数Aより若干大きな値が設定されている。
【0020】
一方、時刻カウンタ値TがT1より大きい場合には、さらに、YRAにステップS2で読み込んだYR値を加算する(ステップS6)。ここで、YRAは、電源スイッチがオンにされた時点で0にリセットされている。つまり、YRAは、時刻カウンタ値T1以降のヨーレート値YRの積算値に相当する。
【0021】
ステップS7では、現在の時刻カウンタ値TがT1+T2と略等しいか否かを判定する。ここで、T2は、ヨーレートセンサ21の出力に時間的変動がある場合に、その変動周期より十分に長い時間として設定される。時刻カウンタ値TがT1+T2と略等しい場合には、YdiffにYRAをT2で除した値、つまり、時刻カウンタ値TがT1の時点からそれよりT2増大するまでの間のヨーレート値YRの平均値を設定する(ステップS8)。ステップS8終了後、または、ステップS7で時刻カウンタ値TがT1+T2と略等しくはないと判定した場合には、ステップS9へと移行し、カウンタ値CTに1を加算する。このカウンタ値CTも電源スイッチがオンにされた時点で0にリセットされている。
【0022】
続く、ステップS10では、車両が停止中か否かが判定される。この停止中か否かは、車輪速センサ25により検出した車速が0であることを基にして判定を行えばよい。ここで、停止中でないと判定した場合には、さらにステップS11へと移行し、走行中のヨーレート0点(YR0)演算条件が成立しているか否かを判定する。走行中のYR0演算条件とは、例えば、操舵角が所定の範囲内で、車速が所定値を上回っており、車両の前後加速度の絶対値が所定値未満で、YR値が所定の範囲内にある場合として設定される。つまり、一定速度で平坦路を直進していると推定される場合である。なお、YR値に制限を課しているのは、補正後のゼロ点が当初のゼロ点から極端にずれている場合には、ヨーレートセンサ21の故障が考えられるほか、補正後に一方向のヨーレート感度が確保できなくなる可能性があるからである。
【0023】
ステップS11で走行中YR0演算条件が成立したと判定した場合には、ステップS12へと移行し、走行中のYR0値であるYR0Mを求める。このYR0Mは、走行中YR0演算条件が成立し、かつ、連続している所定時間におけるヨーレートセンサ21の出力値の時間平均値として設定するとよい。また、ゼロ点を急激に変動させると不安定な制御を行うおそれがあることから、その変動量には制限をかけることが好ましい。
【0024】
YR0M設定後は、走行中YR0演算フラグであるFMに設定済みをしめす1をセットし、カウンタ値CTをリセットして0にし(ステップS13)、後述するステップS21へと移行する。ステップS11で走行中YR0演算条件が成立していないと判定した場合には、ステップS14へと移行する。この場合には、YR0Mは前回値を保持し、後述するステップS21へと移行する。
【0025】
ステップS10で車両停止中と判定した場合には、ステップS15へと移行し、停止中のYR0演算条件が成立しているか否かを判定する。ここで、停止中のYR0演算条件とは、例えば、YR値が所定の範囲内にある場合として設定される。ここで、YR値に制限を課しているのは、走行中のYR0演算条件と同様の理由に基づく。また、車両は停止中であっても、例えば、駐車場のターンテーブル上で車両が回転している場合等が考えられるからである。制限するYR値の範囲は、走行中の場合と同一であってもよいが、異ならせてもよい。
【0026】
ステップS15で停止中YR0演算条件が成立したと判定した場合には、ステップS17へと移行し、停止中のYR0値であるYR0Sを求める。このYR0Sは、上述したYR0Mの演算と同様に、停止中YR0演算条件が成立し、かつ、連続している所定時間におけるヨーレートセンサ21の出力値の時間平均値として設定するとよい。YR0S設定後は、カウンタ値CTをしきい値Thxと比較する(ステップS18)。CTがしきい値Thxを越えている場合、つまり、直近の走行中YR0点補正から長時間(カウンタ値の加算がThxを越える時間)経過している場合に走行中のYR0点補正値YR0Mを、ここで求めたYR0Sにより置き換える(ステップS19)。置き換え後、または、ステップS18でCTがしきい値Thx以下である場合には、ステップS20へと移行して、停止中YR0演算フラグであるFSに設定済みをしめす1をセットし、ステップS21へと移行する。ステップS15で停止中YR0演算条件が成立していないと判定した場合には、ステップS16へと移行する。この場合には、YR0Sは前回値を保持し、ステップS21へと移行する。
【0027】
ステップS21では、停止中および走行中のYR0演算フラグであるFS、FMの少なくとも一方が設定済みである1であるか否かを判定する。いずれか一方が1の場合には、Ydiffに停止中のYR0値であるYR0Sと走行中のYR0値であるYR0Mの差の絶対値を設定する(ステップS22)。ステップS22終了後、および、ステップS21で両方が0と判定した場合には、ステップS23へと移行してYdiffがしきい値Aを越えているか否かを判定する。YdiffがAを越えていると判定した場合には、ステップS24へと移行してVSCの制御しきい値Thを基準値のTh1よりTh2大きく設定する。YdiffがA以下の場合には、VSCの制御しきい値Thは基準値のTh1とする(ステップS25)。しきい値Th設定後、VSC制御処理を行い(ステップS26)、処理を終了する。このVSC制御において用いるヨーレートは、YR0Mで補正した値が用いられる。
【0028】
停止中と異なり、走行中においては、運転者が直進を意図していても路面状態や走行条件によって実ヨーレートが完全に0になるものではない。そのため、走行中のYR0補正は、停止中のYR0補正に比べて補正精度が低くならざるを得ない。そこで、本実施形態においては、走行中のYR0補正値により停止中のYR0補正値を置き換えるのではなく、それぞれ独自に補正値を設定し、その差が大きい場合に、小さい場合に比較して挙動制御開始のしきい値を大きく設定することで挙動制御に入りにくくすることで、不安定な制御が行われるのを防止している。
【0029】
一方で、長時間走行を続け、最前の停止状態から長時間経過して停止時のYR0補正からゼロ点がずれた場合でも走行中のゼロ点補正により、より近接した時点のゼロ点補正を行うことが可能となっている。特に、走行によって、異なる環境下に移動するなどして直前のYR0Sによる補正値を用いることが適切でない場合においても精度よく制御を行うことができる。
【0030】
図3は、本実施形態における制御(ケース1)と、別の制御方法(ケース2)におけるヨーレート、車速、Ydiff、制御しきい値Thの時間変化を比較して示すグラフである。ここでケース2としては、YR0MをYR0Sとは独立して設定することにした制御方法であり、図2に示される制御処理のうちで、ステップS18およびS19を除外した制御処理に相当する。つまり、走行中YR0演算条件が成立しない限り、途中で停止中のYR0補正が実行された場合であっても、YR0Mの更新は行われないことを意味する。
【0031】
ここでは、時刻tまで走行中YR0演算条件が成立しており、その後、時刻tからtまで停車し、再発進後、時刻tで再び、走行中YR0演算条件が成立した場合を想定する。なお、tは発進直後、車速が所定の速度に達した時点である。
【0032】
ケース1、ケース2いずれの場合でも、時刻tから時刻tまでの間は、YR0M演算条件は成立していない。このため、ケース2の場合には、破線で示されるように、時刻tから時刻tまで時刻tで設定したαが維持され、時刻t以降に徐々にYR0Mが低下し、時刻tに至って現在の測定YR値に一致させることができる。これはYR0Mの時間変動に制限をかけているからである。この結果、時刻tに至るまでYdiffはA以下にならず、制御しきい値Thは、時刻tまで拡大された状態となり、制御に入りにくい状態が継続する。しかもYR0M自体が時刻t〜tの間は、実際のゼロ点からずれた状態にとどまるので、車両挙動制御の精度も低くならざるを得ない。
【0033】
これに対してケース1の場合は太実線で示されるように、時刻tの時点でYR0MとYR0Sとを一致させているため、走行開始直後から最新のゼロ点に応じた制御を行うことが可能となる。ここで、tからカウンタ値にしてThx経過した時点でYR0MをYR0Sで置き換えるのではなく、発進後しばらく経過した時点(具体的には所定の車速を超えた時点)で置き換えを行っているのは、車両自体は車輪を回転させずに停止しているが、ターンテーブル上で車両を転動させているような場合を除くためであり、確実に車両が停止していると予想される発進直前のヨーレート値を用いて補正を行うためである。
【0034】
制御しきい値Thについても走行開始直後(時刻t)から嵩上げされないTh1を用いることができるので、特に発進直後における車両挙動を安定的に制御することができる。また、YR0M自体とも直近に補正したより補正精度の高いYR0Sにより置き換えているため、実ヨーレートに近い補正値を得ることができ、制御精度が向上する。
【0035】
図3に示される制御では、Th1、Th2をいずれも定数とする制御を例に説明したが、Th2を図4に示されるように、Ydiffが大きいほど大きく設定してもよい。このように制御しきい値を無段階または多段階に変化させることで、不安定な制御を防止するための制御しきい値の嵩上げをきめ細かく設定することが可能となり、不安定な制御の防止と積極的な制御とをできるだけ両立させることが可能となる。
【0036】
ヨーレートセンサ21の出力変動は温度変動の影響を強く受けることから、ヨーレートセンサ21の設置位置付近の温度を推定する手段を備え、ステップS18の判定条件に、直近の走行中YR0補正時からの温度変化が所定の変化量より大きいことを加えてもよい。
【0037】
また、ステップS18の判定で、CTがしきい値Thxを下回っている場合には、YR0MとYR0Sとの差を所定値と比較し、所定値以上の場合には、ヨーレートセンサ21の異常と判定するようにしてもよい。このような場合は、直近の走行中YR0補正時点から時間が経過していない場合にも関わらず、停止中YR0補正との差が大きいことを意味しており、温度変化や経時変化等に起因する出力変動というより、いずれかの出力が異常であると推定されるからである。この場合は、合わせて制御しきい値Thを嵩上げすることが好ましい。
【0038】
以上の説明では、VSC制御を例に説明したが、本発明に係る車両の挙動制御装置はこれに限られるものではなく、ヨーレートを用いる各種の車両挙動制御装置に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る車両挙動制御装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】本実施形態において行われる制御処理を示すフローチャートである。
【図3】本実施形態における制御と、従来の実施形態における制御におけるヨーレート、車速、Ydiff、制御しきい値Thの時間変化を比較して示すグラフである。
【図4】Ydiffに対する制御しきい値の変数Th2の設定例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
10FL〜10RR…ディスクブレーキ、11…ブレーキアクチュエータ、12…ブレーキペダル、13…ブレーキブースタ、14…マスタシリンダ、15…マスタシリンダ圧力センサ、21…ヨーレートセンサ、22…加速度センサ、23…ステアリングホイール、24…操舵角センサ、25FL〜25RR…車輪速センサ、30…エンジンECU、31…スロットルアクチュエータ、32…スロットル開度センサ、40…VSC ECU、FL〜RR…車輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともヨーレートセンサの検出結果を用いて車両の挙動を制御する車両挙動制御装置において、
車両の停止中に前記ヨーレートセンサのゼロ点出力の補正値である第1補正値を演算する停止中ゼロ点補正手段と、
車両の走行中に前記ヨーレートセンサのゼロ点出力の補正値である第2補正値を演算する走行中ゼロ点補正手段と、
前記第1補正値と前記第2補正値との差が大きい場合には、小さい場合に比較して挙動制御の制御開始しきい値を大きくする制御しきい値変更手段と、
最新の前記第2補正値を取得してから所定時間経過し、かつ、停車中の場合に、前記第2補正値を前記第1補正値に一致させるゼロ点補正値変更手段と、を備えていることを特徴とする車両の挙動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−106210(P2007−106210A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297900(P2005−297900)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】