車両の運動制御装置
【課題】目標加速度に基づいて駆動系を制御する車両において、応答性とショック抑制を両立する。
【解決手段】
アクセル開度と機関回転速度または車速等によって設定される目標加速度に対し、その微分値(目標躍度)が、車両駆動系によって実現可能な瞬間下限躍度と、車両の乗員に加わるショックを制限するための車両の常用下限躍度を超えないように制限し、該制限した目標加速度に基づいて、スロットル開度による吸入空気量制御を行うことにより、該制限後の目標加速度に実減速度を追従させることができ、減速応答性を最大限高め、かつ、ショックも抑制することができる。
【解決手段】
アクセル開度と機関回転速度または車速等によって設定される目標加速度に対し、その微分値(目標躍度)が、車両駆動系によって実現可能な瞬間下限躍度と、車両の乗員に加わるショックを制限するための車両の常用下限躍度を超えないように制限し、該制限した目標加速度に基づいて、スロットル開度による吸入空気量制御を行うことにより、該制限後の目標加速度に実減速度を追従させることができ、減速応答性を最大限高め、かつ、ショックも抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者が操作する操作部材の操作量に基づいて、車両の運動に関わる制御対象を制御する運動制御装置に関し、特に、加減速性能の改善技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アクセル操作量に基づいて車両の目標加速度を決定し、該目標加速度で走行されるように、スロットル弁の開度等を制御する装置が開示されている。
【特許文献1】特開2006−125213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1のように乗員が実感する車両加速度を目標値として制御することにより、機関トルクを目標値とする制御などに比較して、運転フィーリングの向上を図っている。
しかしながら、実際には、スロットル弁での吸入空気量制御でのトルク制御の応答遅れによって、良好に目標加速度に追従した走行を行うことができなかった。
【0004】
例えば、急減速時に目標加速度(目標減速度)に応じてスロットル開度を設定すると、最も閉じた状態に保持される時間が短く、実際の減速の遅れが大きくなって速やかな減速が行われず燃費も悪化する場合がある。
【0005】
加速時も同様に、スロットル開度を最も増大した状態に保持される時間が短く、良好な加速応答性が得られないことがあった。
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、加速度の微分値である躍度を適切に制限することによって、目標値に近い加速度(減速度)で走行できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため、本発明に係る車両の運動制御装置は、運転者が車両の運転を制御すべく操作する操作部材の操作量を検出する操作量検出手段と、前記操作量に基づいて車両の目標加速度を演算する目標加速度演算手段と、車両駆動系によって実現可能な瞬間限界躍度を演算する瞬間限界躍度演算手段と、前記目標加速度を、その微分値である目標躍度が前記瞬間限界躍度を超えないように制限する目標加速度制限手段と、前記制御した目標加速度に追従して車両を運動させるように、車両駆動系を制御する駆動系制御手段と、
を含んで構成した。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によると、例えばアクセルなどの操作部材の操作量が検出され、該操作量に基づいて目標加速度が設定されるが、この操作量に見合う目標加速度に基づいてそのまま車両を制御するのではなく、加速度の微分値である躍度が、車両駆動系によって実現可能な瞬間限界躍度を超えないように制限し、該制限した加速度に追従するように車両の運動を制御する。
【0008】
従って、本発明に係る車両の運動制御装置によると、例えば、減速時には、瞬間限界躍度で制限した目標加速度(目標減速度)に対して、実際の減速度を良好に追従させることができ、応答性の高い減速を行え、燃費を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る車両の運動制御装置が適用される車両用内燃機関のシステム図である。
【0010】
図1に示す内燃機関1は、図示省略した自動車に搭載され、前記内燃機関1のクランク軸から取り出される機関発生トルクが、変速機を介して駆動輪に伝達されるようになっている。
【0011】
前記内燃機関1は、多気筒からなる4サイクルガソリンエンジンであり、各気筒には、エアクリーナ2を通過した空気が、吸気ダクト3,吸気コレクタ4,吸気マニホールド5,吸気バルブ6を介して吸引される。
【0012】
内燃機関1の吸入空気量は、前記吸気ダクト3に介装される電制スロットル7によって調整される。
前記電制スロットル7は、バタフライ式のスロットルバルブ7aをスロットルモータ(スロットルアクチュエータ)7bで開閉駆動する機構である。
【0013】
各気筒の吸気ポート部には、燃料噴射弁9がそれぞれ設けられ、各気筒の吸気ポート内に燃料(ガソリン)を噴射する。
但し、燃料噴射弁9が燃焼室10内に直接燃料を噴射する筒内直接噴射式内燃機関であっても良い。
【0014】
前記燃料噴射弁9から噴射された燃料は、燃焼室10内で点火プラグ15による火花点火によって着火燃焼する。
前記点火プラグ15それぞれには、パワートランジスタを内蔵する点火コイル16が直付けされており、前記点火コイル16への通電を制御することで、前記点火プラグ15の点火時期及び点火エネルギーが調整される。
【0015】
前記燃焼室10内の燃焼排気は、排気バルブ11,排気マニホールド12,排気ダクト13を介して大気中へ排出される。
前記排気ダクト13には、排気中の有害成分を浄化するための触媒コンバータ14が介装される。
【0016】
前記スロットルモータ8、燃料噴射弁9、及び、点火コイル16への通電を制御するパワートランジスタは、マイクロコンピュータを内蔵するエンジンコントロールユニット(ECU)21によって制御される。
【0017】
前記エンジンコントロールユニット21には、各種センサからの検出信号が入力される。
前記各種センサとしては、前記電制スロットル7の上流側で内燃機関1の吸入空気流量Qa(質量流量)を検出するエアフローメータ22、前記触媒コンバータ14の上流側で排気中の酸素濃度に基づいて空燃比を検出する空燃比センサ23、内燃機関1の回転速度Neを検出する回転速度センサ24、運転者が操作するアクセルペダル25の踏み込み量(アクセル開度)APOを検出するアクセル開度センサ26、前記スロットルバルブ7aの開度TVOを検出するスロットルセンサ27、内燃機関1が搭載される車両の走行速度(車速)Vを検出する車速センサ28などが設けられている。
【0018】
尚、アクセル操作は、アクセルペダル25の踏み込みによるものに限定されず、レバー操作、グリップ操作などによるものであっても良い。
前記エンジンコントロールユニット21は、前記燃料噴射弁9による燃料噴射量を以下のようにして制御する。
【0019】
まず、エアフローメータ22で検出される吸入空気流量Qaと、回転速度センサ24で検出される機関回転速度Neとから、そのときのシリンダ吸入空気量において目標空燃比の混合気を形成するための基本燃料噴射量Tpを算出する。
【0020】
また、内燃機関1の冷却水温度等に基づいて各種補正係数COを算出し、更に、空燃比センサ23で検出される空燃比が目標空燃比に近づくように空燃比フィードバック補正係数ALPHAを算出し、これら補正係数CO,ALPHAで前記基本燃料噴射量Tpを補正して最終的な燃料噴射量Tiを設定する。
【0021】
そして、前記最終的な燃料噴射量Tiに相当するパルス幅の噴射パルス信号を、各気筒の行程に合わせてそれぞれの燃料噴射弁9に出力する。
前記燃料噴射弁9が、その開弁時間に比例する量の燃料を噴射するように、燃料噴射弁9に供給される燃料の圧力が調整されるようになっており、前記噴射パルス信号のパルス幅、即ち、燃料噴射弁9の開弁時間に比例する量の燃料が噴射される。
【0022】
また、前記エンジンコントロールユニット21は、前記基本燃料噴射量Tp(機関負荷)及び機関回転速度Neから点火時期(点火進角値)を算出し、該点火時期及び所定の通電時間に基づいて前記点火コイル16に内蔵されたパワートランジスタのオン・オフを制御する。
【0023】
更に、前記エンジンコントロールユニット21は、前記電制スロットル7の開度を制御することで、内燃機関1の吸入空気量(出力)を制御する。
ここで、本発明に係る構成として、減速時に応答よく減速を行いつつショックを回避するため、瞬間下限躍度と常用下限躍度とで目標加速度を制限するように、吸入空気量を制御する。
【0024】
図2は、上記第1の実施形態における吸入空気量制御の概要構成を示す。
常用下限躍度演算部は、車両の乗員に加わるショックを制限できる常用下限躍度dαmin0を演算する。具体的には、−5m/s3以下に設定し、車種によっても適正値が相違するので、−5m/s3〜−20m/s3の範囲内で適正値に設定する。この範囲は、将来的な性能向上に応じて変化しうることは勿論である。
【0025】
瞬間下限躍度演算部は、車両駆動系によって実現可能な瞬間下限躍度dαmin1を演算する。
目標加速度演算部は、アクセル開度と機関回転速度または車速とに基づいて設定した目標加速度の基本値tα0を、加速度の微分値である躍度が前記常用下限躍度dαmin0以上、かつ、瞬間下限躍度dαmin1以上に維持されるように制限した目標加速度tαを演算する。
【0026】
目標吸気圧力演算部は、車両が上記目標加速度tαに追従した加速度αで走行するのに必要な機関1のトルクが得られるように目標吸気圧力tPBを演算する。
スロットル制御部は、前記電制スロットル7を、前記目標吸気圧力tPBを得るのに必要なスロットル開度TVOとなるように制御する。
【0027】
上記下限躍度で制限した制御による作用を、該制限を行わない場合と比較して説明する。
図3は、目標加速度を常用下限躍度dαmin0で制限した場合(B)の作用を、制限しない場合(A)と比較して示している。
【0028】
目標加速度tαの制限がないと、スロットル開度は、目標加速度tαの減少に応じて減少し、アクセル開放後まで全閉状態に維持される。目標加速度tαを微分して算出される目標躍度tdαもマイナス方向に大きく増大し、ショック(つんのめり感)を生じる。
【0029】
これに対し、目標躍度tdαを常用下限躍度dαmin0以上に維持するように目標加速度tαを制限することにより、スロットル開度TVOの減少速度を遅らせてショックを抑制でき、減速時に滑らかに停車させることができる。
【0030】
一方、急減速操作を行った場合は、目標加速度tαの変化が車両の駆動性能によって達成しうる実加速度の限界を超えてしまい、スロットル開度増大への戻しが早められ、減速応答性が損なわれてしまうことがある。
【0031】
図4は、急減速操作時の目標加速度tαを瞬間下限躍度dαmin1で制限した場合(B)の作用を、制限しない場合(A)と比較して示している。
アクセル開度の急減に伴い目標加速度tαも急減し、制限を行わない場合は、吸入空気量制御の遅れによって、実加速度の減少(実減速度)が追従できないまま、目標加速度tαが最小となる付近でこの目標加速度tαに維持しようとしてスロットル開度の増大制御に転じてしまう。この結果、本来急減速を所望しているにも関わらず、スロットル開度を最小に維持する時間が短すぎて、却って実際の減速が遅れてしまい、要求とおりの減速性が得られない。
【0032】
これに対し、目標躍度tdαをリアルタイムで駆動系性能によって達成しうる瞬間下限躍度dαL1以上に維持するように目標加速度tαを制限した場合は、目標加速度tαの減少が緩やかとなり、スロットル開度を最小に維持する時間を長引かせて、該制限後の目標加速度tαに実減速度を追従させることができ、減速応答性を最大限高めることができる。
【0033】
図5は、目標加速度tαを常用下限躍度dαmin0と瞬間下限躍度dαmin1の両方で制限した場合(B)の作用を、何も制限しない場合(A)と比較して示している。
瞬間下限躍度dαmin1によって目標加速度tαの減少を緩やかにし、実減速度を追従させて減速応答性を高めつつ、常用下限躍度dαmin0以上に維持することにより、ショックも抑制することができる。
【0034】
このように、目標加速度を、常用下限躍度と瞬間下限躍度の両方で制限することで、減速応答性とショック抑制とを両立でき、望ましいが、車種等によって、許容下限躍度を下げる(絶対値を大きくする)ことが可能である場合など、瞬間下限躍度のみによる制限を行って、減速応答性を高めるだけの構成としたものであってもよい。
【0035】
以下、図2に示した各部の演算の詳細を、図6以下のフローチャートにしたがって、説明する。ただし、常用下限躍度演算部における常用下限躍度dαmin0の演算は、上記のように予め定めた固定値の設定であるので、省略する。
【0036】
図6は、前記瞬間下限躍度演算部のフローを示す。
車両の駆動源である内燃機関1のトルク変化が瞬間下限躍度を決める主要因であり、吸入空気量(吸気圧力)でトルク制御を行う機関では、吸入空気量変化(吸気圧力変化)がトルク変化に相当する。
【0037】
したがって、ステップS1で内燃機関1が実現しうる瞬間下限吸気圧力変化dPBminを演算し、ステップS2で該瞬間下限吸気圧力変化dPBminに相当する瞬間下限図示トルク変化dTEminを演算し、ステップS3で該瞬間下限図示トルク変化dTEminに相当する瞬間下限躍度dαmin1を算出する。
【0038】
図7は、前記図6のステップS1での瞬間下限吸気圧力変化dPBminを演算するサブフローを示す。
ステップS11では、下限有効スロットル開度tTVOminを演算する。これは、図8に示すように、現在の目標スロットル開度(前回算出値)tTVOzに、電制スロットル7によってスロットルバルブ7aを最大速度で閉方向に駆動したときの次回算出時までのスロットル開度変化量dTVOを減算し、この減算した値と、最小開度TVOmin(例えば、0.5°)とのうち、大きい方を選択して求める。簡易的には、最小開度TVOminを下限有効スロットル開度tTVOminとしてもよいが、上記の演算により、現実に取り得る目標値に近づけて、精度を高めることができる。
【0039】
ステップS12では、前記下限有効スロットル開度tTVOminを、下限有効スロットル開口面積tAminに変換する。
ステップS13では、一次元定常エントロピー流れとして、前記下限有効スロットル開口面積tAminに基づいて、次式に示すスロットルバルブ下流のコレクタに流入する下限吸気流量n_in_minを演算する。
【0040】
【数1】
【0041】
tPBは目標吸気圧力、P0は大気圧、Rは吸気のガス定数である。
具体的には、図9に示すように、前記下限有効スロットル開口面積tAminに、スロットルバルブ7aをバイパスする吸気通路(アイドル制御弁やアシストエア通路など)の開口面積Aetcを加算した下限有効開口面積tAminと、スロットルバルブ7aの前後圧力比の目標値tPB/P0を臨界圧で制限した上で変換して求めた流量係数Fcとを乗じ、この値を、吸気温度Tに吸気(空気)のガス定数Rを乗じた値の平方根(TR)1/2で除し、モル流量に換算して算出する。
【0042】
ステップS14では、次式に示すシリンダに流入する吸気流量(シリンダ吸入流量)n_outを、シリンダを容積ポンプとして近似し、コレクタから流出する流量として演算する。
【0043】
n_out=tPB・ηv・Ve/(T・R・120)・・・(2)
ηvはシリンダ体積効率、Veは排気量である。
具体的には、図10に示すように、目標吸気圧力tP1を、吸気温度Tとガス定数Rとの乗算値T・Rで除した値と、機関回転速度Neに基づいてマップ参照等によって求めた体積効率ηvと、サイクル換算定数1/120と、排気量Veと、を乗じてモル流量として演算する。
【0044】
ステップS15では、前記下限吸気流量n_in_min、つまり、スロットル弁の開度を最速で減少したときにコレクタに流入する流量と、前記シリンダ吸入流量n_out、つまり、コレクタから流出する流量とに基づいて、次式により瞬間下限吸気圧力変化dPBminを演算する。
【0045】
dPBmin=(n_in_min−n_out)・R・T/Vc・・・(3)
Rはガス定数、Tは吸気温度、Vcはコレクタ容積である。
すなわち、図11に示すように、単位時間内に、コレクタに流入する吸気流量n_in_minから流出する吸気流量n_outを差し引いて、コレクタ内の吸気量の変化量を算出し、この吸気量変化量を吸気圧力変化量に換算して算出する。
【0046】
図6に戻って、ステップS2では、前記瞬間下限吸気圧力変化dPBminに基づいて、瞬間下限図示トルク変化dTEを次式により演算する。
dTE=dPBmin/a(Ne)・・・(4)
a(Ne)は、吸気圧力変化dPBに対する図示トルク変化dTEの傾きa(=dTE/dPB)であり、機関回転速度Neの関数として示される。
【0047】
具体的には、図12に示すように、機関回転速度Ne一定の条件で、吸気圧力PBと図示エンジントルクTEとの関係は、所定の傾きa(Ne)を有した一次関数で近似することができ、したがって、吸気圧力変化dPBと図示トルク変化dTEとの関係も同じ傾きa(Ne)を有する。
【0048】
そして、図12に示すように、前記傾きa(Ne)は、機関回転速度Neが低い(高い)ときほど大きい(小さい)特性を有する。
そこで、図13に示すように、傾きa(Ne)をマップ化しておけば、機関回転速度Neに基づいて検索した傾きa(Ne)を用いるだけの極めて容易な演算で、瞬間下限図示トルク変化dTEminを算出することができる。
【0049】
ステップS3では、前記下限図示トルク変化dTEminに基づいて、瞬間下限躍度dαmin1を次式により算出する。なお、瞬時のエンジントルク変化による車両の転がり抵抗の変化や走行抵抗の変化は小さいので無視できる。
【0050】
dαmin1=dTEmin・RD・i/(I+IE)・・・(5)
RDは駆動輪の半径、iは減速比、Iは車体等価慣性モーメント、IEは駆動系回転部分の慣性モーメント
具体的には、図14に示すようにして算出する。
【0051】
車体重量Mに駆動輪半径RDの二乗RD2を乗算して車体等価慣性モーメントIを算出し、これに、駆動系回転部分の慣性モーメントIEを加算して求めた駆動輪回りの慣性モーメントを、減速比iの二乗i2で除算することにより、エンジンの慣性モーメント[=(I+IE)/i2]に変換する。
【0052】
下限図示トルク変化dTEを、エンジンの慣性モーメント[=(I+IE)/i2]で除算することにより、エンジンの下限回転角加速度ωEαL[=dTEmin・i2/(I+IE)]を算出する。
【0053】
前記エンジンの下限回転角加速度ωEαLを、減速比iで除算して駆動輪の下限回転角加速度ωRαLとし、さらに駆動輪半径RDを乗じることで車両加速度の変化量dαの下限値、すなわち、瞬間下限躍度dαmin1[=dTE・RD・i/(I+IE)]を算出する。
【0054】
図15は、以上のように設定、算出した常用下限躍度dαmin0及び瞬間下限躍度dαmin1以上に維持されるように制限した目標加速度tαを演算する前記目標加速度演算部の詳細を示す。
【0055】
前記のようにアクセル開度と機関回転速度または車速とに基づいて設定した目標加速度tα0と、最終的に設定される目標加速度tαの前回値tα-1との偏差を、演算周期stで除算して、制限なしでの目標躍度tdαBを算出する。
【0056】
一方、前記常用下限躍度と瞬間下限躍度とのうち、大きい方を選択する。ここで下限躍度は負の値であるから、大きい方とは負の絶対値が小さい方である。
上記のように選択した大きい方の下限躍度dαminと、制限無しでの目標躍度tdαBとのうち、大きい方を、最終的な目標躍度tdαとして選択する。
【0057】
そして、前記目標躍度tdαに演算周期stを乗じた値を、目標加速度tαの前回値tα-1に加算して、新たな目標加速度tαを設定する。
すなわち、常用下限躍度dαmin0と瞬間下限躍度dαmin1との大きい方の下限躍度dαminで制限した目標加速度tαが設定される。
【0058】
図16は、上記のように下限躍度dαmin以上に制限した目標加速度tαが得られるように、エンジンのスロットル制御を行うフローを示す。
ステップS21では、上記のように演算された目標加速度tαを読み込む。
【0059】
ステップS22では、前記目標加速度tαを得るのに必要な目標駆動力tFを、次式により演算する。
tF=(M+ME)/g・α+μr・M+μ1・Ac・V2・・・(6)
Mは車重、MEは駆動系回転部分の重量、μrは転がり抵抗係数、Acは車の前面投影面積、Vは車速である。
【0060】
ステップS23では、目標エンジントルクtTE0を次式により演算する。
tTE0=F・RD/(i・ηt・t)+Tetc・・・(7)
右辺の前項は、前記目標駆動力Fの発生に必要なトルク、Tetcは、駆動軸・エンジンのフリクションや慣性モーメント、補機負荷等を加算したトルクである。
【0061】
ステップS24では、前記目標エンジントルクtTE0をエンジン効率ηEで除算して、目標エンジントルクTE0を正味エンジントルクとして得るのに必要な目標図示エンジントルクtTEi、あるいは、これに相当する目標図示平均有効圧tPiを、算出する。
【0062】
ステップS25では、前記目標図示エンジントルクtTEi、あるいは、目標図示平均有効圧tPiを得るのに必要な目標吸気圧力tPBを算出する。
この演算を行う代わりに、目標図示エンジントルクtTEiから、上述の図9に示したエンジントルクと吸気圧力との関係を用いて、次式により、目標吸気圧力tPBを算出するようにしてもよい。
【0063】
tPB=a(Ne)・tTEi+b(Ne)・・・(8)
b(Ne)は、機関回転速度Neの関数で示される切片であり、マップを作成して機関回転速度Neに基づいて検索する構成とすればよく、機関回転速度Neによる相違が小さい場合は、平均的な値を固定値として用いるようにしてもよい。
【0064】
また、tTEi=tTE0/ηEの関係より、ステップS24を省略して、tTE0を用いて次式により目標吸気圧力tPBを算出することもできる。
tPB=a(Ne)・tTE0/ηE+b(Ne)・・・(9)
以上のように、a(Ne)のマップを共用すれば、複雑な演算を行うことなく、容易に目標吸気圧力tPBを算出することができる。
【0065】
すなわち、「トルクと吸気圧力」、「トルク変化と吸気圧力変化」の、少なくとも4つの変換パターンを、1次方程式を変形するだけで適用できるので、マップの枚数が少なくて済むだけでなく、マップ1枚当たりのデータ量も通常量の平方根程度で済む。
【0066】
また、「トルク」と「トルク変化」のように、微分したパラメータを、「トルクと吸気圧力」のマップから差分を取るなどの複雑な処理を省くことができるので、プログラムサイズや演算負荷も小さくて済む。
【0067】
ステップS25では、前記目標吸気圧力tPBを満たすように前記吸気コレクタ4に流入させる空気の流入流量n_inを算出する。
具体的には、前記瞬間吸気圧力変化dPBminを、コレクタ流出流量n_outと下限吸気流量n_in_min(コレクタ流入流量)とを用いて算出したのと同様の手法で演算することができる。すなわち、コレクタ流出流量n_outを前記同様に(2)式を用いて算出すると共に、目標吸気圧力変化d(tPB)を目標吸気圧力tPBの微分(今回値と前回値との偏差)演算等で算出し、これら、n_out及びd(tPB)を用いて、(3)式を変形した形の次式により算出する。
【0068】
n_in=n_out+d(tPB)・Vc/(R・T)・・・(10)
ステップS26では、前記コレクタ流入流量n_inを得るための目標スロットル開口面積tAを、(1)式を変形した形の次式により演算する。
【0069】
【数2】
【0070】
次のステップS27では、前記目標スロットル開口面積tAを、目標スロットル開度tTVOに変換する。
そして、エンジンコントロールユニット21は、前記目標スロットル開度tTVOを実現すべく、前記スロットルモータ(スロットルアクチュエータ)7bをフィードバック制御することで、目標加速度tαを実現する。
【0071】
以上の第1の実施形態では、吸気系の応答によって決まる瞬間下限躍度を演算して目標加速度を制限することで、物理的に実現可能な指令値を出力することになるので、理想に近い速さでエンジン出力を低減させて、燃費を極力抑えることができる。
【0072】
また、目標加速度以降の指令値が現実の物理値に、より近くなるため、トランスミッションのクラッチの締結油圧やCVTの制御油圧を低く抑えて燃費を改善できるような効果も得られる。
【0073】
ただし、吸気圧力変化の遅さが瞬間下限躍度を決める主要因であるので、該瞬間下限躍度で躍度を制限する代わりに、瞬間下限躍度の前に算出される瞬間吸気圧力変化を用いて、目標吸気圧力変化を制限する構成としてもよい。
【0074】
図17は、前記目標吸気圧力変化を瞬間吸気圧力変化で制限する第2の実施形態の制御ブロック図を示す。
目標加速度tdαを常用下限躍度以上の躍度となるように制限することは第1の実施形態と同様であるが、瞬間下限躍度で直接制限する代わりに、目標加速度に応じて算出される目標吸気圧力の変化が瞬間吸気圧力変化以上とならないように目標吸気圧力を制限して設定する。
【0075】
図17では、第1の実施形態の対応する図15に比較して、瞬間下限躍度と常用下限躍度とを比較して大きい方を選択するブロックを省略し、常用下限躍度のみで変化を制限した目標加速度を設定する。
【0076】
また、スロットル制御を示す図16は、本実施形態でも共通して用いることができるが、ステップS11では、目標加速度が上述のように常用下限躍度のみにより制限して算出され、ステップS15で、目標吸気圧力を演算する際に、該目標吸気圧力の変化が瞬間下限圧力変化より小さい値とならないように(負値なので絶対値が大きい値とならないように)制限して目標吸気圧力が演算される。
【0077】
図18は、目標吸気圧力tPBを瞬間下限圧力変化dPBminで制限したときの(B)の作用を、何も制限しない場合(A)とを比較して示す。
このように、瞬間下限圧力変化で制限する構成とすれば、瞬間下限躍度を算出する前に算出されるから、演算が簡単になり、プログラムサイズや演算負荷を軽減して、より安価なマイクロコンピュータ(CPU)を使用でき、製造コストを低減できる。
【0078】
あるいは、第1の実施形態において、瞬間下限躍度の算出途中で算出される瞬間下限圧力変化を記憶しておき、通常は目標加速度を瞬間下限躍度で制限するが、瞬間下限圧力変化の後の演算のミスなどで、瞬間下限躍度の算出値の信頼性が乏しいと判断したときに、記憶させた瞬間下限圧力変化で目標吸気圧力を制限する方式に切り換えるような構成とすることもでき、信頼性を向上できる。
【0079】
また、以上の実施形態では、下限躍度で制限する場合を示したが、正の加速時に躍度が上限躍度以下となるように制限することもできる。
図19は、目標加速度を下限躍度と共に、上限躍度によっても制限する第3の実施形態の制御ブロック図を示す。
【0080】
第1または第2の実施形態同様に、常用下限躍度dαmin0と瞬間下限躍度dαmin1のうち大きい方を下限躍度dαminとして選択する一方、加速時のショックを抑制するように常用上限躍度dαmax0を設定すると共に、駆動系によって達成しうる瞬間上限躍度dαmax1を算出する。
【0081】
常用上限躍度dαmax0は、常用下限躍度dαmin0と同様、加速時に車両の乗員に加わるショックを制限できる大きさの値に設定する。
これら常用上限躍度dαmax0と瞬間上限躍度dαmax1のうち、小さい方を上限躍度dαmaxとして選択した上で、前記下限躍度dαmin以上に制限した目標躍度と比較し、小さい方を選択することで、上限躍度dαmax以下に制限した最終的な目標躍度を算出する。
【0082】
そして、前記最終的に算出した目標躍度に演算周期stを乗算した値を、目標加速度の前回値tα-1に加算して、新たな目標加速度tαを算出する。
瞬間上限躍度dαmax1は、以下のように算出する。
【0083】
図20では、上限有効スロットル開度tTVOmaxを、現在の目標スロットル開度(前回算出値)tTVOzに、電制スロットル7によってスロットルバルブ7aを最大速度で開方向に駆動したときの次回算出時までのスロットル開度変化量dTVOを加算し、この加算した値と、最大開度との小さい方を選択して求める。
【0084】
以下、図9で下限有効スロットル開度tTVOminの代わりに、上限有効スロットル開度TVOmaxを用いて、上限吸気流量n_in_maxを算出し、図11において、下限吸気流量n_in_minの代わりに上限吸気流量n_in_maxを用いると共に、図10で算出したコレクタ流出流量n_outを用いて瞬間上限吸気圧力変化dPBmaxを算出する。
【0085】
さらに、図12で、瞬間下限吸気圧力変化dPBminの代わりに瞬間上限吸気圧力変化dPBmaxを用いて、瞬間上限図示トルク変化dTBmaxを算出し、図13で瞬間下限図示トルク変化dTBminの代わりに瞬間上限図示トルク変化dTBmaxを用いて、瞬間上限躍度dαmax1を算出する。
【0086】
このように、加速時に目標加速度tαを上限躍度dαmaxで制限する構成とすれば、下限躍度dαminで制限した場合と同様の効果が得られる。
すなわち、瞬間上限躍度dαmax1以下に制限することによって、スロットルバルブ7aを最大開度に保持する時間を長引かせて加速応答性を高められ、また、常用上限躍度dαmax0以下に制限することによって、加速ショックも効果的に抑制することができる。
【0087】
また、瞬間上限躍度で直接制限する代わりに、目標加速度に応じて算出される目標吸気圧力の変化が瞬間吸気圧力変化以上とならないように目標吸気圧力を制限して設定してもよいことも同様である。
【0088】
さらに、本発明の実施形態としては、常用上限躍度の制限は行わず、瞬間上限躍度のみで制限する構成としたもの、また、下限躍度の制限は行わず、上限躍度のみで制限する構成の実施形態も含む。
【0089】
なお、瞬間限界躍度による制限をすることによる過渡応答の改善は、上述したように、スロットル制御等、吸入空気量変化(吸気圧変化)の遅れが大きい機関で特に有効であるが、アクチュエータの応答が遅いことなどによる機関出力応答が遅い機関でも有効である。さらに、ハイブリッド車などモーターとエンジンとを併用する場合に、応答の差を縮めて運転性を高めるような効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施形態における車両用内燃機関のシステム図。
【図2】第1の実施形態における吸入空気量制御の概要を示すブロック図。
【図3】同じく目標加速度を常用下限躍度dαmin0で制限した場合(B)の作用を、制限しない場合(A)と比較して示す図。
【図4】同じく、急減速操作時の目標加速度tαを瞬間下限躍度dαmin1で制限した場合(B)の作用を、制限しない場合(A)と比較して示す図。
【図5】同じく、目標加速度tαを常用下限躍度dαmin0と瞬間下限躍度dαmin1の両方で制限した場合(B)の作用を、何も制限しない場合(A)と比較して示す図。
【図6】同じく、瞬間下限躍度演算を示すフローチャート。
【図7】同じく、瞬間下限吸気圧力変化dPBminを演算するサブフローを示すフローチャート。
【図8】同じく、下限有効スロットル開度tTVOminを演算するブロック図。
【図9】同じく、コレクタに流入する下限吸気流量n_in_minの演算を示すブロック図。
【図10】同じく、コレクタから流出する吸気流量(シリンダ吸入流量)n_outの演算を示すブロック図。
【図11】同じく、瞬間下限吸気圧力変化dPBminの演算を示すブロック図。
【図12】同じく、吸気圧力PBと図示エンジントルクTEとの関係を示す図。
【図13】同じく、瞬間下限図示トルク変化dTEminの演算を示すブロック図。
【図14】同じく、瞬間下限躍度dαmin1の演算を示すブロック図。
【図15】同じく、常用下限躍度dαmin0及び瞬間下限躍度dαmin1以上に維持されるように制限した目標加速度tαの演算を示すブロック図。
【図16】同じく、エンジンのスロットル制御のフローチャート。
【図17】目標吸気圧力変化を瞬間吸気圧力変化で制限する第2の実施形態の制御ブロック図。
【図18】同じく、目標吸気圧力tPBを瞬間下限圧力変化dPBminで制限したときの(B)の作用を、何も制限しない場合(A)とを比較して示す図。
【図19】同じく、目標加速度を下限躍度と共に、上限躍度によっても制限する第3の実施形態の制御ブロック図。
【図20】同じく、上限有効スロットル開度tTVOmaxの演算を示すブロック図。
【符号の説明】
【0091】
1…内燃機関,2…エアクリーナ,3…吸気ダクト,4…吸気コレクタ,5…吸気マニホールド,6…吸気バルブ,7…スロットルバルブ,8…スロットルモータ,9…燃料噴射弁,10…燃焼室,11…排気バルブ,12…排気マニホールド,13…排気ダクト,14…触媒コンバータ,21…エンジンコントロールユニット,22…エアフローメータ,23…空燃比センサ,24…回転速度センサ,25…アクセルペダル,26…アクセル開度センサ,27…スロットルセンサ,28…車速センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者が操作する操作部材の操作量に基づいて、車両の運動に関わる制御対象を制御する運動制御装置に関し、特に、加減速性能の改善技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アクセル操作量に基づいて車両の目標加速度を決定し、該目標加速度で走行されるように、スロットル弁の開度等を制御する装置が開示されている。
【特許文献1】特開2006−125213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1のように乗員が実感する車両加速度を目標値として制御することにより、機関トルクを目標値とする制御などに比較して、運転フィーリングの向上を図っている。
しかしながら、実際には、スロットル弁での吸入空気量制御でのトルク制御の応答遅れによって、良好に目標加速度に追従した走行を行うことができなかった。
【0004】
例えば、急減速時に目標加速度(目標減速度)に応じてスロットル開度を設定すると、最も閉じた状態に保持される時間が短く、実際の減速の遅れが大きくなって速やかな減速が行われず燃費も悪化する場合がある。
【0005】
加速時も同様に、スロットル開度を最も増大した状態に保持される時間が短く、良好な加速応答性が得られないことがあった。
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、加速度の微分値である躍度を適切に制限することによって、目標値に近い加速度(減速度)で走行できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため、本発明に係る車両の運動制御装置は、運転者が車両の運転を制御すべく操作する操作部材の操作量を検出する操作量検出手段と、前記操作量に基づいて車両の目標加速度を演算する目標加速度演算手段と、車両駆動系によって実現可能な瞬間限界躍度を演算する瞬間限界躍度演算手段と、前記目標加速度を、その微分値である目標躍度が前記瞬間限界躍度を超えないように制限する目標加速度制限手段と、前記制御した目標加速度に追従して車両を運動させるように、車両駆動系を制御する駆動系制御手段と、
を含んで構成した。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によると、例えばアクセルなどの操作部材の操作量が検出され、該操作量に基づいて目標加速度が設定されるが、この操作量に見合う目標加速度に基づいてそのまま車両を制御するのではなく、加速度の微分値である躍度が、車両駆動系によって実現可能な瞬間限界躍度を超えないように制限し、該制限した加速度に追従するように車両の運動を制御する。
【0008】
従って、本発明に係る車両の運動制御装置によると、例えば、減速時には、瞬間限界躍度で制限した目標加速度(目標減速度)に対して、実際の減速度を良好に追従させることができ、応答性の高い減速を行え、燃費を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る車両の運動制御装置が適用される車両用内燃機関のシステム図である。
【0010】
図1に示す内燃機関1は、図示省略した自動車に搭載され、前記内燃機関1のクランク軸から取り出される機関発生トルクが、変速機を介して駆動輪に伝達されるようになっている。
【0011】
前記内燃機関1は、多気筒からなる4サイクルガソリンエンジンであり、各気筒には、エアクリーナ2を通過した空気が、吸気ダクト3,吸気コレクタ4,吸気マニホールド5,吸気バルブ6を介して吸引される。
【0012】
内燃機関1の吸入空気量は、前記吸気ダクト3に介装される電制スロットル7によって調整される。
前記電制スロットル7は、バタフライ式のスロットルバルブ7aをスロットルモータ(スロットルアクチュエータ)7bで開閉駆動する機構である。
【0013】
各気筒の吸気ポート部には、燃料噴射弁9がそれぞれ設けられ、各気筒の吸気ポート内に燃料(ガソリン)を噴射する。
但し、燃料噴射弁9が燃焼室10内に直接燃料を噴射する筒内直接噴射式内燃機関であっても良い。
【0014】
前記燃料噴射弁9から噴射された燃料は、燃焼室10内で点火プラグ15による火花点火によって着火燃焼する。
前記点火プラグ15それぞれには、パワートランジスタを内蔵する点火コイル16が直付けされており、前記点火コイル16への通電を制御することで、前記点火プラグ15の点火時期及び点火エネルギーが調整される。
【0015】
前記燃焼室10内の燃焼排気は、排気バルブ11,排気マニホールド12,排気ダクト13を介して大気中へ排出される。
前記排気ダクト13には、排気中の有害成分を浄化するための触媒コンバータ14が介装される。
【0016】
前記スロットルモータ8、燃料噴射弁9、及び、点火コイル16への通電を制御するパワートランジスタは、マイクロコンピュータを内蔵するエンジンコントロールユニット(ECU)21によって制御される。
【0017】
前記エンジンコントロールユニット21には、各種センサからの検出信号が入力される。
前記各種センサとしては、前記電制スロットル7の上流側で内燃機関1の吸入空気流量Qa(質量流量)を検出するエアフローメータ22、前記触媒コンバータ14の上流側で排気中の酸素濃度に基づいて空燃比を検出する空燃比センサ23、内燃機関1の回転速度Neを検出する回転速度センサ24、運転者が操作するアクセルペダル25の踏み込み量(アクセル開度)APOを検出するアクセル開度センサ26、前記スロットルバルブ7aの開度TVOを検出するスロットルセンサ27、内燃機関1が搭載される車両の走行速度(車速)Vを検出する車速センサ28などが設けられている。
【0018】
尚、アクセル操作は、アクセルペダル25の踏み込みによるものに限定されず、レバー操作、グリップ操作などによるものであっても良い。
前記エンジンコントロールユニット21は、前記燃料噴射弁9による燃料噴射量を以下のようにして制御する。
【0019】
まず、エアフローメータ22で検出される吸入空気流量Qaと、回転速度センサ24で検出される機関回転速度Neとから、そのときのシリンダ吸入空気量において目標空燃比の混合気を形成するための基本燃料噴射量Tpを算出する。
【0020】
また、内燃機関1の冷却水温度等に基づいて各種補正係数COを算出し、更に、空燃比センサ23で検出される空燃比が目標空燃比に近づくように空燃比フィードバック補正係数ALPHAを算出し、これら補正係数CO,ALPHAで前記基本燃料噴射量Tpを補正して最終的な燃料噴射量Tiを設定する。
【0021】
そして、前記最終的な燃料噴射量Tiに相当するパルス幅の噴射パルス信号を、各気筒の行程に合わせてそれぞれの燃料噴射弁9に出力する。
前記燃料噴射弁9が、その開弁時間に比例する量の燃料を噴射するように、燃料噴射弁9に供給される燃料の圧力が調整されるようになっており、前記噴射パルス信号のパルス幅、即ち、燃料噴射弁9の開弁時間に比例する量の燃料が噴射される。
【0022】
また、前記エンジンコントロールユニット21は、前記基本燃料噴射量Tp(機関負荷)及び機関回転速度Neから点火時期(点火進角値)を算出し、該点火時期及び所定の通電時間に基づいて前記点火コイル16に内蔵されたパワートランジスタのオン・オフを制御する。
【0023】
更に、前記エンジンコントロールユニット21は、前記電制スロットル7の開度を制御することで、内燃機関1の吸入空気量(出力)を制御する。
ここで、本発明に係る構成として、減速時に応答よく減速を行いつつショックを回避するため、瞬間下限躍度と常用下限躍度とで目標加速度を制限するように、吸入空気量を制御する。
【0024】
図2は、上記第1の実施形態における吸入空気量制御の概要構成を示す。
常用下限躍度演算部は、車両の乗員に加わるショックを制限できる常用下限躍度dαmin0を演算する。具体的には、−5m/s3以下に設定し、車種によっても適正値が相違するので、−5m/s3〜−20m/s3の範囲内で適正値に設定する。この範囲は、将来的な性能向上に応じて変化しうることは勿論である。
【0025】
瞬間下限躍度演算部は、車両駆動系によって実現可能な瞬間下限躍度dαmin1を演算する。
目標加速度演算部は、アクセル開度と機関回転速度または車速とに基づいて設定した目標加速度の基本値tα0を、加速度の微分値である躍度が前記常用下限躍度dαmin0以上、かつ、瞬間下限躍度dαmin1以上に維持されるように制限した目標加速度tαを演算する。
【0026】
目標吸気圧力演算部は、車両が上記目標加速度tαに追従した加速度αで走行するのに必要な機関1のトルクが得られるように目標吸気圧力tPBを演算する。
スロットル制御部は、前記電制スロットル7を、前記目標吸気圧力tPBを得るのに必要なスロットル開度TVOとなるように制御する。
【0027】
上記下限躍度で制限した制御による作用を、該制限を行わない場合と比較して説明する。
図3は、目標加速度を常用下限躍度dαmin0で制限した場合(B)の作用を、制限しない場合(A)と比較して示している。
【0028】
目標加速度tαの制限がないと、スロットル開度は、目標加速度tαの減少に応じて減少し、アクセル開放後まで全閉状態に維持される。目標加速度tαを微分して算出される目標躍度tdαもマイナス方向に大きく増大し、ショック(つんのめり感)を生じる。
【0029】
これに対し、目標躍度tdαを常用下限躍度dαmin0以上に維持するように目標加速度tαを制限することにより、スロットル開度TVOの減少速度を遅らせてショックを抑制でき、減速時に滑らかに停車させることができる。
【0030】
一方、急減速操作を行った場合は、目標加速度tαの変化が車両の駆動性能によって達成しうる実加速度の限界を超えてしまい、スロットル開度増大への戻しが早められ、減速応答性が損なわれてしまうことがある。
【0031】
図4は、急減速操作時の目標加速度tαを瞬間下限躍度dαmin1で制限した場合(B)の作用を、制限しない場合(A)と比較して示している。
アクセル開度の急減に伴い目標加速度tαも急減し、制限を行わない場合は、吸入空気量制御の遅れによって、実加速度の減少(実減速度)が追従できないまま、目標加速度tαが最小となる付近でこの目標加速度tαに維持しようとしてスロットル開度の増大制御に転じてしまう。この結果、本来急減速を所望しているにも関わらず、スロットル開度を最小に維持する時間が短すぎて、却って実際の減速が遅れてしまい、要求とおりの減速性が得られない。
【0032】
これに対し、目標躍度tdαをリアルタイムで駆動系性能によって達成しうる瞬間下限躍度dαL1以上に維持するように目標加速度tαを制限した場合は、目標加速度tαの減少が緩やかとなり、スロットル開度を最小に維持する時間を長引かせて、該制限後の目標加速度tαに実減速度を追従させることができ、減速応答性を最大限高めることができる。
【0033】
図5は、目標加速度tαを常用下限躍度dαmin0と瞬間下限躍度dαmin1の両方で制限した場合(B)の作用を、何も制限しない場合(A)と比較して示している。
瞬間下限躍度dαmin1によって目標加速度tαの減少を緩やかにし、実減速度を追従させて減速応答性を高めつつ、常用下限躍度dαmin0以上に維持することにより、ショックも抑制することができる。
【0034】
このように、目標加速度を、常用下限躍度と瞬間下限躍度の両方で制限することで、減速応答性とショック抑制とを両立でき、望ましいが、車種等によって、許容下限躍度を下げる(絶対値を大きくする)ことが可能である場合など、瞬間下限躍度のみによる制限を行って、減速応答性を高めるだけの構成としたものであってもよい。
【0035】
以下、図2に示した各部の演算の詳細を、図6以下のフローチャートにしたがって、説明する。ただし、常用下限躍度演算部における常用下限躍度dαmin0の演算は、上記のように予め定めた固定値の設定であるので、省略する。
【0036】
図6は、前記瞬間下限躍度演算部のフローを示す。
車両の駆動源である内燃機関1のトルク変化が瞬間下限躍度を決める主要因であり、吸入空気量(吸気圧力)でトルク制御を行う機関では、吸入空気量変化(吸気圧力変化)がトルク変化に相当する。
【0037】
したがって、ステップS1で内燃機関1が実現しうる瞬間下限吸気圧力変化dPBminを演算し、ステップS2で該瞬間下限吸気圧力変化dPBminに相当する瞬間下限図示トルク変化dTEminを演算し、ステップS3で該瞬間下限図示トルク変化dTEminに相当する瞬間下限躍度dαmin1を算出する。
【0038】
図7は、前記図6のステップS1での瞬間下限吸気圧力変化dPBminを演算するサブフローを示す。
ステップS11では、下限有効スロットル開度tTVOminを演算する。これは、図8に示すように、現在の目標スロットル開度(前回算出値)tTVOzに、電制スロットル7によってスロットルバルブ7aを最大速度で閉方向に駆動したときの次回算出時までのスロットル開度変化量dTVOを減算し、この減算した値と、最小開度TVOmin(例えば、0.5°)とのうち、大きい方を選択して求める。簡易的には、最小開度TVOminを下限有効スロットル開度tTVOminとしてもよいが、上記の演算により、現実に取り得る目標値に近づけて、精度を高めることができる。
【0039】
ステップS12では、前記下限有効スロットル開度tTVOminを、下限有効スロットル開口面積tAminに変換する。
ステップS13では、一次元定常エントロピー流れとして、前記下限有効スロットル開口面積tAminに基づいて、次式に示すスロットルバルブ下流のコレクタに流入する下限吸気流量n_in_minを演算する。
【0040】
【数1】
【0041】
tPBは目標吸気圧力、P0は大気圧、Rは吸気のガス定数である。
具体的には、図9に示すように、前記下限有効スロットル開口面積tAminに、スロットルバルブ7aをバイパスする吸気通路(アイドル制御弁やアシストエア通路など)の開口面積Aetcを加算した下限有効開口面積tAminと、スロットルバルブ7aの前後圧力比の目標値tPB/P0を臨界圧で制限した上で変換して求めた流量係数Fcとを乗じ、この値を、吸気温度Tに吸気(空気)のガス定数Rを乗じた値の平方根(TR)1/2で除し、モル流量に換算して算出する。
【0042】
ステップS14では、次式に示すシリンダに流入する吸気流量(シリンダ吸入流量)n_outを、シリンダを容積ポンプとして近似し、コレクタから流出する流量として演算する。
【0043】
n_out=tPB・ηv・Ve/(T・R・120)・・・(2)
ηvはシリンダ体積効率、Veは排気量である。
具体的には、図10に示すように、目標吸気圧力tP1を、吸気温度Tとガス定数Rとの乗算値T・Rで除した値と、機関回転速度Neに基づいてマップ参照等によって求めた体積効率ηvと、サイクル換算定数1/120と、排気量Veと、を乗じてモル流量として演算する。
【0044】
ステップS15では、前記下限吸気流量n_in_min、つまり、スロットル弁の開度を最速で減少したときにコレクタに流入する流量と、前記シリンダ吸入流量n_out、つまり、コレクタから流出する流量とに基づいて、次式により瞬間下限吸気圧力変化dPBminを演算する。
【0045】
dPBmin=(n_in_min−n_out)・R・T/Vc・・・(3)
Rはガス定数、Tは吸気温度、Vcはコレクタ容積である。
すなわち、図11に示すように、単位時間内に、コレクタに流入する吸気流量n_in_minから流出する吸気流量n_outを差し引いて、コレクタ内の吸気量の変化量を算出し、この吸気量変化量を吸気圧力変化量に換算して算出する。
【0046】
図6に戻って、ステップS2では、前記瞬間下限吸気圧力変化dPBminに基づいて、瞬間下限図示トルク変化dTEを次式により演算する。
dTE=dPBmin/a(Ne)・・・(4)
a(Ne)は、吸気圧力変化dPBに対する図示トルク変化dTEの傾きa(=dTE/dPB)であり、機関回転速度Neの関数として示される。
【0047】
具体的には、図12に示すように、機関回転速度Ne一定の条件で、吸気圧力PBと図示エンジントルクTEとの関係は、所定の傾きa(Ne)を有した一次関数で近似することができ、したがって、吸気圧力変化dPBと図示トルク変化dTEとの関係も同じ傾きa(Ne)を有する。
【0048】
そして、図12に示すように、前記傾きa(Ne)は、機関回転速度Neが低い(高い)ときほど大きい(小さい)特性を有する。
そこで、図13に示すように、傾きa(Ne)をマップ化しておけば、機関回転速度Neに基づいて検索した傾きa(Ne)を用いるだけの極めて容易な演算で、瞬間下限図示トルク変化dTEminを算出することができる。
【0049】
ステップS3では、前記下限図示トルク変化dTEminに基づいて、瞬間下限躍度dαmin1を次式により算出する。なお、瞬時のエンジントルク変化による車両の転がり抵抗の変化や走行抵抗の変化は小さいので無視できる。
【0050】
dαmin1=dTEmin・RD・i/(I+IE)・・・(5)
RDは駆動輪の半径、iは減速比、Iは車体等価慣性モーメント、IEは駆動系回転部分の慣性モーメント
具体的には、図14に示すようにして算出する。
【0051】
車体重量Mに駆動輪半径RDの二乗RD2を乗算して車体等価慣性モーメントIを算出し、これに、駆動系回転部分の慣性モーメントIEを加算して求めた駆動輪回りの慣性モーメントを、減速比iの二乗i2で除算することにより、エンジンの慣性モーメント[=(I+IE)/i2]に変換する。
【0052】
下限図示トルク変化dTEを、エンジンの慣性モーメント[=(I+IE)/i2]で除算することにより、エンジンの下限回転角加速度ωEαL[=dTEmin・i2/(I+IE)]を算出する。
【0053】
前記エンジンの下限回転角加速度ωEαLを、減速比iで除算して駆動輪の下限回転角加速度ωRαLとし、さらに駆動輪半径RDを乗じることで車両加速度の変化量dαの下限値、すなわち、瞬間下限躍度dαmin1[=dTE・RD・i/(I+IE)]を算出する。
【0054】
図15は、以上のように設定、算出した常用下限躍度dαmin0及び瞬間下限躍度dαmin1以上に維持されるように制限した目標加速度tαを演算する前記目標加速度演算部の詳細を示す。
【0055】
前記のようにアクセル開度と機関回転速度または車速とに基づいて設定した目標加速度tα0と、最終的に設定される目標加速度tαの前回値tα-1との偏差を、演算周期stで除算して、制限なしでの目標躍度tdαBを算出する。
【0056】
一方、前記常用下限躍度と瞬間下限躍度とのうち、大きい方を選択する。ここで下限躍度は負の値であるから、大きい方とは負の絶対値が小さい方である。
上記のように選択した大きい方の下限躍度dαminと、制限無しでの目標躍度tdαBとのうち、大きい方を、最終的な目標躍度tdαとして選択する。
【0057】
そして、前記目標躍度tdαに演算周期stを乗じた値を、目標加速度tαの前回値tα-1に加算して、新たな目標加速度tαを設定する。
すなわち、常用下限躍度dαmin0と瞬間下限躍度dαmin1との大きい方の下限躍度dαminで制限した目標加速度tαが設定される。
【0058】
図16は、上記のように下限躍度dαmin以上に制限した目標加速度tαが得られるように、エンジンのスロットル制御を行うフローを示す。
ステップS21では、上記のように演算された目標加速度tαを読み込む。
【0059】
ステップS22では、前記目標加速度tαを得るのに必要な目標駆動力tFを、次式により演算する。
tF=(M+ME)/g・α+μr・M+μ1・Ac・V2・・・(6)
Mは車重、MEは駆動系回転部分の重量、μrは転がり抵抗係数、Acは車の前面投影面積、Vは車速である。
【0060】
ステップS23では、目標エンジントルクtTE0を次式により演算する。
tTE0=F・RD/(i・ηt・t)+Tetc・・・(7)
右辺の前項は、前記目標駆動力Fの発生に必要なトルク、Tetcは、駆動軸・エンジンのフリクションや慣性モーメント、補機負荷等を加算したトルクである。
【0061】
ステップS24では、前記目標エンジントルクtTE0をエンジン効率ηEで除算して、目標エンジントルクTE0を正味エンジントルクとして得るのに必要な目標図示エンジントルクtTEi、あるいは、これに相当する目標図示平均有効圧tPiを、算出する。
【0062】
ステップS25では、前記目標図示エンジントルクtTEi、あるいは、目標図示平均有効圧tPiを得るのに必要な目標吸気圧力tPBを算出する。
この演算を行う代わりに、目標図示エンジントルクtTEiから、上述の図9に示したエンジントルクと吸気圧力との関係を用いて、次式により、目標吸気圧力tPBを算出するようにしてもよい。
【0063】
tPB=a(Ne)・tTEi+b(Ne)・・・(8)
b(Ne)は、機関回転速度Neの関数で示される切片であり、マップを作成して機関回転速度Neに基づいて検索する構成とすればよく、機関回転速度Neによる相違が小さい場合は、平均的な値を固定値として用いるようにしてもよい。
【0064】
また、tTEi=tTE0/ηEの関係より、ステップS24を省略して、tTE0を用いて次式により目標吸気圧力tPBを算出することもできる。
tPB=a(Ne)・tTE0/ηE+b(Ne)・・・(9)
以上のように、a(Ne)のマップを共用すれば、複雑な演算を行うことなく、容易に目標吸気圧力tPBを算出することができる。
【0065】
すなわち、「トルクと吸気圧力」、「トルク変化と吸気圧力変化」の、少なくとも4つの変換パターンを、1次方程式を変形するだけで適用できるので、マップの枚数が少なくて済むだけでなく、マップ1枚当たりのデータ量も通常量の平方根程度で済む。
【0066】
また、「トルク」と「トルク変化」のように、微分したパラメータを、「トルクと吸気圧力」のマップから差分を取るなどの複雑な処理を省くことができるので、プログラムサイズや演算負荷も小さくて済む。
【0067】
ステップS25では、前記目標吸気圧力tPBを満たすように前記吸気コレクタ4に流入させる空気の流入流量n_inを算出する。
具体的には、前記瞬間吸気圧力変化dPBminを、コレクタ流出流量n_outと下限吸気流量n_in_min(コレクタ流入流量)とを用いて算出したのと同様の手法で演算することができる。すなわち、コレクタ流出流量n_outを前記同様に(2)式を用いて算出すると共に、目標吸気圧力変化d(tPB)を目標吸気圧力tPBの微分(今回値と前回値との偏差)演算等で算出し、これら、n_out及びd(tPB)を用いて、(3)式を変形した形の次式により算出する。
【0068】
n_in=n_out+d(tPB)・Vc/(R・T)・・・(10)
ステップS26では、前記コレクタ流入流量n_inを得るための目標スロットル開口面積tAを、(1)式を変形した形の次式により演算する。
【0069】
【数2】
【0070】
次のステップS27では、前記目標スロットル開口面積tAを、目標スロットル開度tTVOに変換する。
そして、エンジンコントロールユニット21は、前記目標スロットル開度tTVOを実現すべく、前記スロットルモータ(スロットルアクチュエータ)7bをフィードバック制御することで、目標加速度tαを実現する。
【0071】
以上の第1の実施形態では、吸気系の応答によって決まる瞬間下限躍度を演算して目標加速度を制限することで、物理的に実現可能な指令値を出力することになるので、理想に近い速さでエンジン出力を低減させて、燃費を極力抑えることができる。
【0072】
また、目標加速度以降の指令値が現実の物理値に、より近くなるため、トランスミッションのクラッチの締結油圧やCVTの制御油圧を低く抑えて燃費を改善できるような効果も得られる。
【0073】
ただし、吸気圧力変化の遅さが瞬間下限躍度を決める主要因であるので、該瞬間下限躍度で躍度を制限する代わりに、瞬間下限躍度の前に算出される瞬間吸気圧力変化を用いて、目標吸気圧力変化を制限する構成としてもよい。
【0074】
図17は、前記目標吸気圧力変化を瞬間吸気圧力変化で制限する第2の実施形態の制御ブロック図を示す。
目標加速度tdαを常用下限躍度以上の躍度となるように制限することは第1の実施形態と同様であるが、瞬間下限躍度で直接制限する代わりに、目標加速度に応じて算出される目標吸気圧力の変化が瞬間吸気圧力変化以上とならないように目標吸気圧力を制限して設定する。
【0075】
図17では、第1の実施形態の対応する図15に比較して、瞬間下限躍度と常用下限躍度とを比較して大きい方を選択するブロックを省略し、常用下限躍度のみで変化を制限した目標加速度を設定する。
【0076】
また、スロットル制御を示す図16は、本実施形態でも共通して用いることができるが、ステップS11では、目標加速度が上述のように常用下限躍度のみにより制限して算出され、ステップS15で、目標吸気圧力を演算する際に、該目標吸気圧力の変化が瞬間下限圧力変化より小さい値とならないように(負値なので絶対値が大きい値とならないように)制限して目標吸気圧力が演算される。
【0077】
図18は、目標吸気圧力tPBを瞬間下限圧力変化dPBminで制限したときの(B)の作用を、何も制限しない場合(A)とを比較して示す。
このように、瞬間下限圧力変化で制限する構成とすれば、瞬間下限躍度を算出する前に算出されるから、演算が簡単になり、プログラムサイズや演算負荷を軽減して、より安価なマイクロコンピュータ(CPU)を使用でき、製造コストを低減できる。
【0078】
あるいは、第1の実施形態において、瞬間下限躍度の算出途中で算出される瞬間下限圧力変化を記憶しておき、通常は目標加速度を瞬間下限躍度で制限するが、瞬間下限圧力変化の後の演算のミスなどで、瞬間下限躍度の算出値の信頼性が乏しいと判断したときに、記憶させた瞬間下限圧力変化で目標吸気圧力を制限する方式に切り換えるような構成とすることもでき、信頼性を向上できる。
【0079】
また、以上の実施形態では、下限躍度で制限する場合を示したが、正の加速時に躍度が上限躍度以下となるように制限することもできる。
図19は、目標加速度を下限躍度と共に、上限躍度によっても制限する第3の実施形態の制御ブロック図を示す。
【0080】
第1または第2の実施形態同様に、常用下限躍度dαmin0と瞬間下限躍度dαmin1のうち大きい方を下限躍度dαminとして選択する一方、加速時のショックを抑制するように常用上限躍度dαmax0を設定すると共に、駆動系によって達成しうる瞬間上限躍度dαmax1を算出する。
【0081】
常用上限躍度dαmax0は、常用下限躍度dαmin0と同様、加速時に車両の乗員に加わるショックを制限できる大きさの値に設定する。
これら常用上限躍度dαmax0と瞬間上限躍度dαmax1のうち、小さい方を上限躍度dαmaxとして選択した上で、前記下限躍度dαmin以上に制限した目標躍度と比較し、小さい方を選択することで、上限躍度dαmax以下に制限した最終的な目標躍度を算出する。
【0082】
そして、前記最終的に算出した目標躍度に演算周期stを乗算した値を、目標加速度の前回値tα-1に加算して、新たな目標加速度tαを算出する。
瞬間上限躍度dαmax1は、以下のように算出する。
【0083】
図20では、上限有効スロットル開度tTVOmaxを、現在の目標スロットル開度(前回算出値)tTVOzに、電制スロットル7によってスロットルバルブ7aを最大速度で開方向に駆動したときの次回算出時までのスロットル開度変化量dTVOを加算し、この加算した値と、最大開度との小さい方を選択して求める。
【0084】
以下、図9で下限有効スロットル開度tTVOminの代わりに、上限有効スロットル開度TVOmaxを用いて、上限吸気流量n_in_maxを算出し、図11において、下限吸気流量n_in_minの代わりに上限吸気流量n_in_maxを用いると共に、図10で算出したコレクタ流出流量n_outを用いて瞬間上限吸気圧力変化dPBmaxを算出する。
【0085】
さらに、図12で、瞬間下限吸気圧力変化dPBminの代わりに瞬間上限吸気圧力変化dPBmaxを用いて、瞬間上限図示トルク変化dTBmaxを算出し、図13で瞬間下限図示トルク変化dTBminの代わりに瞬間上限図示トルク変化dTBmaxを用いて、瞬間上限躍度dαmax1を算出する。
【0086】
このように、加速時に目標加速度tαを上限躍度dαmaxで制限する構成とすれば、下限躍度dαminで制限した場合と同様の効果が得られる。
すなわち、瞬間上限躍度dαmax1以下に制限することによって、スロットルバルブ7aを最大開度に保持する時間を長引かせて加速応答性を高められ、また、常用上限躍度dαmax0以下に制限することによって、加速ショックも効果的に抑制することができる。
【0087】
また、瞬間上限躍度で直接制限する代わりに、目標加速度に応じて算出される目標吸気圧力の変化が瞬間吸気圧力変化以上とならないように目標吸気圧力を制限して設定してもよいことも同様である。
【0088】
さらに、本発明の実施形態としては、常用上限躍度の制限は行わず、瞬間上限躍度のみで制限する構成としたもの、また、下限躍度の制限は行わず、上限躍度のみで制限する構成の実施形態も含む。
【0089】
なお、瞬間限界躍度による制限をすることによる過渡応答の改善は、上述したように、スロットル制御等、吸入空気量変化(吸気圧変化)の遅れが大きい機関で特に有効であるが、アクチュエータの応答が遅いことなどによる機関出力応答が遅い機関でも有効である。さらに、ハイブリッド車などモーターとエンジンとを併用する場合に、応答の差を縮めて運転性を高めるような効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施形態における車両用内燃機関のシステム図。
【図2】第1の実施形態における吸入空気量制御の概要を示すブロック図。
【図3】同じく目標加速度を常用下限躍度dαmin0で制限した場合(B)の作用を、制限しない場合(A)と比較して示す図。
【図4】同じく、急減速操作時の目標加速度tαを瞬間下限躍度dαmin1で制限した場合(B)の作用を、制限しない場合(A)と比較して示す図。
【図5】同じく、目標加速度tαを常用下限躍度dαmin0と瞬間下限躍度dαmin1の両方で制限した場合(B)の作用を、何も制限しない場合(A)と比較して示す図。
【図6】同じく、瞬間下限躍度演算を示すフローチャート。
【図7】同じく、瞬間下限吸気圧力変化dPBminを演算するサブフローを示すフローチャート。
【図8】同じく、下限有効スロットル開度tTVOminを演算するブロック図。
【図9】同じく、コレクタに流入する下限吸気流量n_in_minの演算を示すブロック図。
【図10】同じく、コレクタから流出する吸気流量(シリンダ吸入流量)n_outの演算を示すブロック図。
【図11】同じく、瞬間下限吸気圧力変化dPBminの演算を示すブロック図。
【図12】同じく、吸気圧力PBと図示エンジントルクTEとの関係を示す図。
【図13】同じく、瞬間下限図示トルク変化dTEminの演算を示すブロック図。
【図14】同じく、瞬間下限躍度dαmin1の演算を示すブロック図。
【図15】同じく、常用下限躍度dαmin0及び瞬間下限躍度dαmin1以上に維持されるように制限した目標加速度tαの演算を示すブロック図。
【図16】同じく、エンジンのスロットル制御のフローチャート。
【図17】目標吸気圧力変化を瞬間吸気圧力変化で制限する第2の実施形態の制御ブロック図。
【図18】同じく、目標吸気圧力tPBを瞬間下限圧力変化dPBminで制限したときの(B)の作用を、何も制限しない場合(A)とを比較して示す図。
【図19】同じく、目標加速度を下限躍度と共に、上限躍度によっても制限する第3の実施形態の制御ブロック図。
【図20】同じく、上限有効スロットル開度tTVOmaxの演算を示すブロック図。
【符号の説明】
【0091】
1…内燃機関,2…エアクリーナ,3…吸気ダクト,4…吸気コレクタ,5…吸気マニホールド,6…吸気バルブ,7…スロットルバルブ,8…スロットルモータ,9…燃料噴射弁,10…燃焼室,11…排気バルブ,12…排気マニホールド,13…排気ダクト,14…触媒コンバータ,21…エンジンコントロールユニット,22…エアフローメータ,23…空燃比センサ,24…回転速度センサ,25…アクセルペダル,26…アクセル開度センサ,27…スロットルセンサ,28…車速センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が車両の運転を制御すべく操作する操作部材の操作量を検出する操作量検出手段と、
前記操作量に基づいて車両の目標加速度を演算する目標加速度演算手段と、
車両駆動系によって実現可能な瞬間限界躍度を演算する瞬間限界躍度演算手段と、
前記目標加速度を、その微分値である目標躍度が前記瞬間限界躍度を超えないように制限する目標加速度制限手段と、
前記制御威厳した目標加速度に追従して車両を運動させるように、車両駆動系を制御する駆動系制御手段と、
を含んで構成したことを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項2】
車両の乗員に加わるショックを制限するための車両の常用限界躍度を演算する常用限界躍度演算手段を含み、
前記目標加速度制限手段は、目標加速度を、目標躍度が前記瞬間限界躍度及び常用限界躍度を超えないように制限することを特徴とする請求項1に記載の車両の運動制御装置。
【請求項3】
前記瞬間限界躍度または常用限界躍度は、車両駆動出力を減少時に加速度減少方向の限界値である瞬間下限躍度または常用下限躍度であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の運動制御装置。
【請求項4】
前記瞬間限界躍度または常用限界躍度は、車両駆動出力を増大時に加速度増大方向の限界値である瞬間上限躍度または常用上限躍度であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の運動制御装置。
【請求項5】
前記駆動系制御手段は、車両搭載内燃機関の吸気系に備えられるスロットル弁の開度を制御することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の車両の運動制御装置。
【請求項6】
前記瞬間限界躍度演算手段は、前記スロットル弁の有効開度作動範囲から有効限界開度を演算し、少なくとも前記有効限界開度と吸気圧力とから限界吸気流量を演算し、少なくとも機関回転速度と吸気圧力とからシリンダ流入吸気流量を演算し、前記限界吸気流量と前記シリンダ流入吸気流量とから瞬間限界吸気圧力変化を演算し、前記瞬間限界吸気圧力変化が実現したときに予測される瞬間限界躍度を演算することを特徴とする請求項5に記載の車両の運動制御装置。
【請求項7】
前記瞬間限界躍度演算手段は、前記スロットル弁の有効開度作動範囲から有効限界開度を演算し、少なくとも前記有効限界開度と吸気圧力とから限界吸気流量を演算し、少なくとも機関回転速度と吸気圧力とからシリンダ流入吸気流量を演算し、前記限界吸気流量と前記シリンダ流入吸気流量とから瞬間限界吸気圧力変化を演算し、前記瞬間限界吸気圧力変化によって目標吸気圧力の変化量を制限することを特徴とする請求項5に記載の車両の運動制御装置。
【請求項8】
前記瞬間限界躍度演算手段は、機関回転速度の関数として求めた傾きを有した一次方程式を用いて、吸気圧力変化と機関トルク変化との相互変換演算を行うことを特徴とする請求項5〜請求項7のいずれか1つに記載の車両の運動制御装置。
【請求項9】
前記傾きを用いて、吸気圧力と機関トルクとの相互変換演算を共有して行うことを特徴とする請求項8に記載の車両の運動制御装置。
【請求項1】
運転者が車両の運転を制御すべく操作する操作部材の操作量を検出する操作量検出手段と、
前記操作量に基づいて車両の目標加速度を演算する目標加速度演算手段と、
車両駆動系によって実現可能な瞬間限界躍度を演算する瞬間限界躍度演算手段と、
前記目標加速度を、その微分値である目標躍度が前記瞬間限界躍度を超えないように制限する目標加速度制限手段と、
前記制御威厳した目標加速度に追従して車両を運動させるように、車両駆動系を制御する駆動系制御手段と、
を含んで構成したことを特徴とする車両の運動制御装置。
【請求項2】
車両の乗員に加わるショックを制限するための車両の常用限界躍度を演算する常用限界躍度演算手段を含み、
前記目標加速度制限手段は、目標加速度を、目標躍度が前記瞬間限界躍度及び常用限界躍度を超えないように制限することを特徴とする請求項1に記載の車両の運動制御装置。
【請求項3】
前記瞬間限界躍度または常用限界躍度は、車両駆動出力を減少時に加速度減少方向の限界値である瞬間下限躍度または常用下限躍度であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の運動制御装置。
【請求項4】
前記瞬間限界躍度または常用限界躍度は、車両駆動出力を増大時に加速度増大方向の限界値である瞬間上限躍度または常用上限躍度であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の運動制御装置。
【請求項5】
前記駆動系制御手段は、車両搭載内燃機関の吸気系に備えられるスロットル弁の開度を制御することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の車両の運動制御装置。
【請求項6】
前記瞬間限界躍度演算手段は、前記スロットル弁の有効開度作動範囲から有効限界開度を演算し、少なくとも前記有効限界開度と吸気圧力とから限界吸気流量を演算し、少なくとも機関回転速度と吸気圧力とからシリンダ流入吸気流量を演算し、前記限界吸気流量と前記シリンダ流入吸気流量とから瞬間限界吸気圧力変化を演算し、前記瞬間限界吸気圧力変化が実現したときに予測される瞬間限界躍度を演算することを特徴とする請求項5に記載の車両の運動制御装置。
【請求項7】
前記瞬間限界躍度演算手段は、前記スロットル弁の有効開度作動範囲から有効限界開度を演算し、少なくとも前記有効限界開度と吸気圧力とから限界吸気流量を演算し、少なくとも機関回転速度と吸気圧力とからシリンダ流入吸気流量を演算し、前記限界吸気流量と前記シリンダ流入吸気流量とから瞬間限界吸気圧力変化を演算し、前記瞬間限界吸気圧力変化によって目標吸気圧力の変化量を制限することを特徴とする請求項5に記載の車両の運動制御装置。
【請求項8】
前記瞬間限界躍度演算手段は、機関回転速度の関数として求めた傾きを有した一次方程式を用いて、吸気圧力変化と機関トルク変化との相互変換演算を行うことを特徴とする請求項5〜請求項7のいずれか1つに記載の車両の運動制御装置。
【請求項9】
前記傾きを用いて、吸気圧力と機関トルクとの相互変換演算を共有して行うことを特徴とする請求項8に記載の車両の運動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−41461(P2009−41461A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207722(P2007−207722)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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