説明

車両の障害物検知装置

【課題】自車両の発進時に駆動輪が空転して自車両が走行できない状況を想定し、この状況下で、自車両前方の障害物が静止物であることを精度良く確実に判定できる、車両の障害物検知装置を提供する。
【解決手段】レーダユニット2により自車両Cに対して自車両前方の障害物の相対位置と相対速度とが検知され、その障害物検知情報に基づいて自車両Cの作動機器が制御されるが、更に、自車両Cの駆動輪の回転の有無と自車両Cの移動の有無が検知され、駆動輪の回転が検知された場合であって、自車両Cの移動が検知されない場合、検知された障害物の自車両に対する相対速度に変化がない障害物は静止物であると判定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の障害物検知装置に関し、特に自車両の発進時に駆動輪が空転した場合、自車両前方の静止物である障害物が移動物であると誤判定しないようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両において、ミリ波レーダ等のレーダユニットを用いて自車両に対して自車両前方の障害物の相対位置と相対速度とを検知し、その障害物検知情報から障害物との衝突判定を行い、衝突が予知された場合に、衝突予知警報を出力したり、ブレーキを作動させたり、使用中のシートベルトを引締めたりする、所謂プリクラッシュセーフティシステム(PCS)が広く普及しつつある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このPCSでは、障害物との衝突予知のために、更に、自車両の車速やヨーレイト等を検出し、その検出情報から自車両の進路を推定し、所定時間後の障害物に対する自車両の位置を推定することが一般に行われている。尚、特許文献1には、自車両の車速とレーダユニットで検知された障害物の自車両に対する相対速度とに基づいて、障害物が静止物であるか否かの判定を行うことが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−278892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、平均気温が低い地域の冬場等、路面が凍結している場合に、自車両の発進時に駆動輪が空転して自車両が走行(移動)できない状況を想定でき、この状況下では、自車両の空転している駆動輪の車輪速から得られる車速によって、自車両は走行していると判断し、自車両前方に静止物である障害物が存在する場合、自車両の車速とレーダユニットで検知された障害物の自車両に対する相対速度から、その障害物が静止物であると精度良く確実に判定できないため、その障害物との衝突予知が誤って行われ、衝突予知警報の出力、ブレーキの作動、使用中のシートベルトの引締め等が不適切に行われる虞がある。
【0006】
本発明の目的は、自車両の発進時に駆動輪が空転して自車両が走行できない状況を想定し、この状況下で、自車両前方に静止物である障害物が存在する場合、例えば、その障害物との衝突予知が誤って行われ、衝突予知警報の出力、ブレーキの作動、使用中のシートベルトの引締め等が不適切に行われないように、その障害物が静止物であることを精度良く確実に判定できる、車両の障害物検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の障害物検知装置は、自車両に対して自車両前方の障害物の相対位置と相対速度とを検知可能な障害物検知手段と、この障害物検知手段からの障害物検知情報を受けて自車両の作動機器を制御する作動機器制御手段とを備えた車両の障害物検知装置である。
【0008】
請求項1の発明は、自車両の駆動輪の回転の有無を検知する駆動輪回転検知手段と、自車両の移動の有無を検知する自車両移動検知手段と、前記駆動輪回転検知手段で駆動輪の回転が検知された場合であって、前記自車両移動検知手段で自車両の移動が検知されない場合、前記障害物検知手段で検知された障害物の自車両に対する相対速度に変化がない障害物は静止物であると判定する静止物判定手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
自車両の発進時に駆動輪が空転して自車両が走行できない場合、駆動輪回転検知手段では自車両の駆動輪の回転が検知され、自車両前方に静止物である障害物が存在する場合、障害物検知手段で検知されたその障害物の自車両に対する相対速度に変化はないが、ここで、自車両前方の障害物が移動物であるか否か判定せずに、自車両移動検知手段により自車両の移動の有無が検知され、自車両の駆動輪の回転が検知され且つ自車両の移動が検知されない場合に、静止物判定手段により、障害物検知手段で検知された障害物の自車両に対する相対速度に変化がない障害物は静止物であると判定される。故に、作動機器制御手段により、障害物検知手段からの障害物検知情報に基づいて、更に、静止物判定手段による判定結果に基づいて、自車両の作動機器が適切に作動するように制御される。
【0010】
請求項2の発明は、前記作動機器制御手段は、自車両の駆動輪回転開始時に、前記静止物判定手段で前記障害物が静止物であると判定された場合に、その判定結果を受けて作動機器を誤作動させないように制御することを特徴とし、請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記自車両移動検知手段は、自車両が2輪駆動の場合に、自車両の従動輪の回転の有無を検知する従動輪回転検知手段を備え、この従動輪回転検知手段で従動輪の回転が検知されることで自車両の移動を検知することを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、前記自車両移動検知手段は、自車両の現在地を取得するGPS装置を備え、自車両の駆動輪回転開始時にGPS装置で取得された現在地に対して駆動軸回転開始時から微小時間後にGPS装置で取得された現在地の移動量を算出することで、自車両の移動の有無を検知することを特徴とし、請求項5の発明は、前記自車両移動検知手段は、自車両の前方を撮像する撮像手段を備え、自車両の駆動輪回転開始時に撮像手段で撮像された画像と駆動軸回転開始時から微小時間後に撮像手段で撮像された画像とを対比して、自車両の移動の有無を検知することを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、前記作動機器は、自車両前方の障害物との衝突が予知された場合に警報を出力する衝突予知警報装置からなることを特徴とし、請求項7の発明は、前記作動機器は、自車両前方の障害物との衝突が予知された場合に自車両のブレーキを作動させるブレーキ装置からなることを特徴とし、請求項8の発明は、前記作動機器は、自車両前方の障害物との衝突が予知又は検出された場合に自車両の使用中のシートベルトを引締めるシートベルトプリテンショナからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の車両の障害物検知装置によれば、駆動輪回転検知手段により自車両の駆動輪の回転の有無を検知し、自車両移動検知手段により自車両の移動の有無を検知し、自車両の駆動輪の回転を検知し且つ自車両の移動を検知しない場合、例えば、平均気温が低い地域の冬場等、路面が凍結している場合に、自車両の発進時に駆動輪が空転して自車両が走行できない状況を想定できるが、この状況下で、静止物判定手段により、障害物検知手段で検知された障害物の自車両に対する相対速度に変化がない障害物は静止物であると判定するので、その障害物が他車両等の移動物であると誤判定せずに、つまり、自車両前方の障害物が静止物であると精度良く確実に判定でき、故に、作動機器制御手段により、障害物検知手段からの障害物検知情報に基づいて、更に、静止物判定手段による判定結果に基づいて、自車両の作動機器を適切に作動させるように制御できる。
【0014】
請求項2の車両の障害物検知装置によれば、作動機器制御手段は、自車両の駆動輪回転開始時に、静止物判定手段で障害物が静止物であると判定された場合に、その判定結果を受けて作動機器を誤作動させないように制御するので、自車両の発進時に駆動輪が空転して自車両が走行できない場合、特に、作動機器が所謂プリクラッシュセーフティシステムに用いられるものでは、その作動機器を不適切に作動させることを確実に防止できる。
【0015】
請求項3の車両の障害物検知装置によれば、自車両移動検知手段は、自車両が2輪駆動の場合に、自車両の従動輪の回転の有無を検知する従動輪回転検知手段を備え、この従動輪回転検知手段で従動輪の回転が検知されることで自車両の移動を検知するので、自車両が移動していることを簡単に確実に検知できる。
【0016】
請求項4の車両の障害物検知装置によれば、自車両移動検知手段は、自車両の現在地を取得するGPS装置を備え、自車両の駆動輪回転開始時にGPS装置で取得された現在地に対して駆動軸回転開始時から微小時間後にGPS装置で取得された現在地の移動量を算出することで、自車両の移動の有無を検知するので、この自車両の移動の有無を、特に自車両が移動しない場合、それをGPS装置を利用して検知できる。
【0017】
請求項5の車両の障害物検知装置によれば、自車両移動検知手段は、自車両の前方を撮像する撮像手段を備え、自車両の駆動輪回転開始時に撮像手段で撮像された画像と駆動軸回転開始時から微小時間後に撮像手段で撮像された画像とを対比して、自車両の移動の有無を検知するので、この自車両の移動の有無を、特に自車両が移動しない場合、それを撮像手段を利用して検知できる。
【0018】
請求項6の車両の障害物検知装置によれば、作動機器は、自車両前方の障害物との衝突が予知された場合に警報を出力する衝突予知警報装置からなるので、自車両の発進時に駆動輪が空転して自車両が走行できない場合、衝突予知警報装置を不適切に作動させて、警報を出力するのを確実に防止できる。
【0019】
請求項7の車両の障害物検知装置によれば、作動機器は、自車両前方の障害物との衝突が予知された場合に自車両のブレーキを作動させるブレーキ装置からなるので、自車両の発進時に駆動輪が空転して自車両が走行できない場合、ブレーキ装置を不適切に作動させて、自車両のブレーキを作動させるのを確実に防止できる。
【0020】
請求項8の車両の障害物検知装置によれば、作動機器は、自車両前方の障害物との衝突が予知又は検出された場合に自車両の使用中のシートベルトを引締めるシートベルトプリテンショナからなるので、自車両の発進時に駆動輪が空転して自車両が走行できない場合、シートベルトプリテンショナを不適切に作動させて、自車両の使用中のシートベルトを引締めるのを確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の車両の障害物検知装置では、自車両に対して自車両前方の障害物の相対位置と相対速度とが検知され、その障害物検知情報に基づいて自車両の作動機器が制御されるが、更に、自車両の駆動輪の回転の有無と自車両の移動の有無が検知され、駆動輪の回転が検知された場合であって、自車両の移動が検知されない場合、検知された障害物の自車両に対する相対速度に変化がない障害物は静止物であると判定される。
【実施例1】
【0022】
図1、図2に示すように、車両C(自動車C)には、ECU1、レーダユニット2、車載カメラ3、GPS装置4、車輪速センサ5a,5b、加速度センサ6、ヨーレイトセンサ7、衝突予知警報装置8、ブレーキ装置9、シートベルトプリテンショナ10が、図1に示す配置で且つ図2に示す電気的な接続を介して設けられている。
【0023】
この符号1〜10の機器が、自車両前方の障害物との衝突を予知した場合に、衝突予知警報装置8とブレーキ装置9とシートベルトプリテンショナ10とを作動させ、自車両前方の障害物との衝突を検出した場合に、更にシートベルトプリテンショナ10を作動させる、所謂プリクラッシュセーフティシステム11(PCS11)を構成し、このPCS11に符号1〜7の機器を有する本案特有の障害物検知装置12が設けられている。
【0024】
レーダユニット2は、自車両Cに対して自車両前方の障害物の相対位置と相対速度とを検知可能な障害物検知手段に相当し、例えば、車両Cのフロントバンパにエンブレム等の後側において前方へ向けて取付けられたミリ波レーダからなる。レーダユニット2は、レーダ波(ミリ波)を発信する発信部2aと、その反射波を受信する受信部2bと、この発信波と受信波の情報を処理して自車両前方の障害物の自車両Cに対する相対位置と相対速度とを算出する情報処理部2cとを有し、この障害物検知情報(自車両前方の障害物の自車両Cに対する相対位置と相対速度に関する情報)がECU1に供給される。
【0025】
衝突予知警報装置8とブレーキ装置9とシートベルトプリテンショナ10が作動機器に相当し、ECU1(作動機器制御部21)が障害物検知手段(レーダユニット2)からの障害物検知情報を受けて自車両Cの作動機器を制御する作動機器制御手段に相当する。
【0026】
車載カメラ3は、自車両Cの前方を撮像する撮像手段に相当し、例えば、自車両CAのフロントガラスの上部後側に前方へ向けて取付けられたCCDカメラからなり、この画像情報がECU1に供給される。実施例1の場合、この車載カメラ3を省略可能であるが、ECU1が行う衝突予知判定の精度を高め得るように使用することができる。
【0027】
GPS装置4は、複数の人工衛星からの電波を受信し、この電波到着時間の差によって、自車両Cの現在地を測定して取得し、この現在地の情報がECU1に供給される。GPS装置4とECU1(自車両移動判定部24)が、自車両Cの駆動輪回転開始時にGPS装置4で取得された現在地に対して駆動軸回転開始時から微小時間後にGPS装置4で取得された現在地の移動量を算出することで、自車両Cの移動の有無を検知する自車両移動検知手段に相当する。
【0028】
この車両Cは、手動操作で又は自動で、前輪13aと後輪13bの一方が駆動輪となり他方が従動輪となる2輪駆動(2WD)と、前輪13a及び後輪13bの両方が駆動輪となる4輪駆動(4WD)とに択一的に切換わるように構成されている。但し。車両Cとして、常時2輪駆動となる車両C、或いは、常時4輪駆動となる車両Cを採用してもよい。
【0029】
車輪速センサ5a,5bは、前輪13a、後輪13bの車輪速を夫々検出するものであり、この車輪速の情報がECU1に供給される。駆動輪に対応する車輪速センサ5a,5bの少なくとも一方とECU1(駆動輪回転判定部22)が、自車両Cの駆動輪の回転の有無を検知する駆動輪回転検知手段に相当し、従動輪に対応する車輪速センサ5a,5bの一方とECU1(従動輪回転判定部23)が、自車両Cの従動輪の回転の有無を検知する従動輪回転検知手段に相当する。ここで、前記自車両移動検知手段は、自車両Cが2輪駆動の場合に、従動輪の回転が検知されることで自車両Cの移動を検知する。
【0030】
加速度センサ6は自車両Cの加速度を検出し、ヨーレイトセンサ7は自車両Cのヨーレイト(旋回速度)を検出し、この加速度とヨーレイトの情報がECU1に供給される。
【0031】
衝突予知警報装置8は、自車両前方の障害物との衝突が予知された場合に警報を出力するものであり、例えば、スピーカ、ブザー、ランプ、ディスプレイの少なくとも1つからなる。ブレーキ装置9は、自車両前方の障害物との衝突が予知された場合に、前輪13a,13bに制動力を与える自車両Cのブレーキを作動させるものである。
【0032】
シートベルトプリテンショナ10は、自車両前方の障害物との衝突が予知された場合に自車両Cの使用中のシートベルトを引締め、自車両前方の障害物との衝突が検出された場合に自車両Cの使用中のシートベルトを更に強く引締めるものであり、例えば、前席2列と後席2列用に装備された4つシートベルト装置に夫々設けられている。
【0033】
ECU1は、コンピュータを備えたコントロールユニットであり、そのコンピュータ処理部に、衝突判定部20、作動機器制御部21、駆動輪回転判定部22、従動輪回転判定部23、自車両移動判定部24、静止物判定部25を備えている。
【0034】
衝突判定部20は、レーダユニット2、(車載カメラ3、)GPS装置4、車輪速センサ5a,5b、加速度センサ6、ヨーレイトセンサ7からの情報に基づいて、自車両前方の障害物との衝突の予知及び検出の為の判定を行い、作動機器制御部21は、衝突判定部20による判定で障害物との衝突が予知された場合に、衝突予知警報装置8とブレーキ装置9とシートベルトプリテンショナ10を作動させるように制御し、衝突判定部20による判定で障害物との衝突が検出された場合に、更にシートベルトプリテンショナ10を作動させるように制御する。
【0035】
駆動輪回転判定部22は、駆動輪に対応する車輪速センサ5a,5bの少なくとも一方からの車輪速の情報に基づいて、駆動輪の回転の有無を検知し、例えば、駆動輪の車輪速が0の場合に駆動輪回転無しと判定し、駆動輪の車輪速が0よりも大きい場合に駆動輪回転有りと判定する。従動輪回転判定部23は、従動輪に対応する車輪速センサ5a,5bの一方からの車輪速の情報に基づいて、従動輪の回転の有無を判定し、例えば、従動輪の車輪速が0又は0に近い車輪速以下の場合に駆動輪回転無しと判定し、従動輪の車輪速が0又は0に近い車輪速よりも大きい場合に従動輪回転有りと判定する。
【0036】
自車両移動判定部24は、自車両Cが2輪駆動(2WD)の場合に、従動輪回転判定部23の判定結果を受けて、従動輪の回転が検知されることで自車両Cの移動を検知し、従動輪の回転が検知されない場合には、また、自車両Cが4輪駆動(4WD)の場合には、GPS装置4からの現在地の情報に基づいて、自車両Cの駆動輪回転開始時にGPS装置4で取得された現在地に対して駆動軸回転開始時から微小時間後にGPS装置4で取得された現在地の移動量を算出することで、自車両Cの移動の有無を判定し、例えば、自車両Cの移動量が0又は0に近い移動量以下の場合に自車両移動無しと判定し、自車両Cの移動量が0又は0に近い移動量よりも大きい場合に自車両移動有りと判定する。
【0037】
静止物判定部25は、駆動輪回転検知手段で駆動輪の回転が検知(駆動輪回転判定部22で駆動輪回転有りと判定)された場合であって、自車両移動検知手段で自車両Cの移動が検知(自車両移動判定部24で自車両移動有りと判定)されない場合、障害物検知手段(レーダユニット2)で検知された障害物の自車両Cに対する相対速度に変化がない障害物は静止物であると判定する静止物判定手段に相当する。
【0038】
つまり、静止物判定部25は、駆動輪回転判定部22、従動輪回転判定部23、自車両移動判定部24の判定結果を受けて、自車両前方の障害物が静止物であるか否か判定し、駆動輪の回転が検知された場合、4輪駆動の場合又は従動輪の回転が検知されない場合に、自車両Cの移動が検知された(自車両Cの移動量が0又は0に近い移動量よりも大きい)場合には、自車両前方の障害物が移動物であると判定し、自車両Cの移動が検知されない(自車両Cの移動量が0又は0に近い移動量以下の)場合には、自車両前方の障害物が静止物であると判定する。
【0039】
そして、作動機器制御部21は、自車両Cの駆動輪回転開始時に、静止物判定部25で自車両前方の障害物が静止物であると判定された場合に、その判定結果を受けて、衝突判定部20では衝突予知が判定されないようにすることで、衝突予知警報装置8とブレーキ装置9とシートベルトプリテンショナ10を誤作動させないように制御する。
【0040】
次に、ECU1が実行する処理・制御について、図3〜図5のフローチャートに基づいて詳しく説明する。尚、この処理・制御を実行する為のプログラムがECU1のコンピュータROM等に格納されている。
【0041】
図3に示すように、この処理・制御は、自車両Cのイグニションスイッチのオンと共に開始され、先ず、車輪速センサ5a,5b、加速度センサ6、ヨーレイトセンサ7で検出された車輪速、加速度、ヨーレイトが読込まれ(S1)、次に、レーダユニット2で検知された障害物検知情報(自車両前方の障害物の自車両Cに対する相対位置と相対速度に関する情報)が読込まれ、その後、S3において、静止物判定処理、衝突予知処理が実行され、S6において、衝突検出処理が実行される。
【0042】
S3の衝突予知処理の結果、自車両前方の障害物との衝突が予知された場合(S4;Yes )、衝突予知警報装置8、ブレーキ装置9、シートベルトプリテンショナ10が作動するように制御され(S5)、S6の衝突検出処理の結果、自車両前方の障害物との衝突が検出された場合(S7;Yes )、更にシートベルトプリテンショナ10が作動するように制御される(S8)。シートベルトプリテンショナ10は、モータにより駆動される第1のシートベルトプリテンショナとガス膨張により駆動される第2のシートベルトプリテンショナとを備え、S5では第1のシートベルトプリテンショナが作動し、S8では第2のシートベルトプリテンショナが作動する。
【0043】
図4に示すように、S3の衝突予知処理では、自車両Cの車速とヨーレイト等から自車両Cの進路が推定され(S10)、この推定進路の情報と障害物検知情報から所定時間後の自車両前方の障害物に対する自車両Cの位置が推定され(S11)、次に、所定時間内に自車両Cと障害物の位置が一致するか否か判定され(S12)、S12;Noの場合、衝突が予知されずにリターンし、S12;Yes の場合、S13へ移行する。尚、自車両Cの車速は駆動輪に対応する車輪速センサ5a,5bで検出された車輪速から得られる。
【0044】
ここで、自車両Cの発進時に駆動輪が空転して自車両Cが走行できない場合、自車両前方近くに静止物である障害物が存在する場合にS12;Yes となる場合があり、この場合、従来では衝突が予知され(S14)リターンするが、この状況下で、自車両Cと静止物とは衝突することがなく、ここで、S13において、後述の静止物判定処理において設定された静止物フラグSFが参照され、SF=1の場合(S13;Yes )、つまり、自車両前方の障害物が静止物であると判定された場合、衝突が予知されずにリターンし、S13;Noの場合、衝突が予知され(S14)リターンする。
【0045】
図5に示すように、S3の静止物判定処理では、障害物検知情報から自車両前方に障害物が存在するか否か判定され(S20)、S20;Yes の場合、駆動輪の車輪速から駆動輪回転か否か判定される(S21)。S21;Yes の場合、4WD(4輪駆動)か否か判定され(S22)、S22;Noの場合、従動輪回転か否か判定される(S23)。S20;Noの場合とS21;Noの場合とS23;Yes の場合、自車両前方の障害物は静止物でないとして、SF=1の場合にはSF←0にしてリターンする。
【0046】
S22;Yes の場合とS23;Noの場合、GPS装置4から自車両Cの現在地情報が読込まれ(S24)、ここで、この現在地情報と過去数回に亙ってS24で読込まれた現在地情報は記憶保持されるものとして、次に、これらの現在地情報から、自車両Cの駆動輪回転開始時にGPS装置4で取得された現在地に対して駆動軸回転開始時から微小時間後にGPS装置で取得された現在地の移動量が算出される(S25)。
【0047】
S25で算出され移動量が0又は0に近い移動量よりも大きい場合、移動有り(S26;Yes )と判定され、自車両前方の障害物は静止物でないとして、SF=1の場合にはSF←0にしてリターンし、S25で算出され移動量が0又は0に近い移動量以下の場合、移動無し(S26;No)と判定され、自車両前方の障害物は静止物であると判定され(S27)、SF=0の場合にはSF←1にして(S28)、リターンする。
【0048】
以上説明し障害物検知装置12を含むPCS11では次の作用・効果を奏する。
自車両Cの駆動輪の回転の有無を検知し、自車両Cの移動の有無を検知し、自車両Cの駆動輪の回転を検知し且つ自車両Cの移動を検知しない場合、例えば、平均気温が低い地域の冬場等、路面が凍結している場合に、自車両Cの発進時に駆動輪が空転して自車両Cが走行できない状況を想定できるが、この状況下で、レーダユニット2で検知された障害物の自車両Cに対する相対速度に変化がない障害物は静止物であると判定するので、その障害物が他車両等の移動物であると誤判定せずに、つまり、自車両前方の障害物が静止物であると精度良く確実に判定でき、故に、レーダユニット2からの障害物検知情報に基づいて、更に、前記静止物の判定結果に基づいて、自車両Cの衝突予知警報装置8、ブレーキ装置9、シートベルトプリテンショナ10を適切に作動させるように制御できる。
【0049】
つまり、自車両Cの駆動輪回転開始時に障害物が静止物であると判定された場合に、その判定結果を受けて自車両Cの衝突予知警報装置8、ブレーキ装置9、シートベルトプリテンショナ10を誤作動させないように制御するので、自車両Cの発進時に駆動輪が空転して自車両が走行できない場合、衝突予知警報装置8、ブレーキ装置9、シートベルトプリテンショナ10を不適切に作動させることを確実に防止できる。
【0050】
自車両Cが2輪駆動の場合に、自車両Cの従動輪の回転の有無を検知し、従動輪の回転が検知されることで自車両Cの移動を検知するので、自車両Cが移動していることを簡単に確実に検知できる。自車両Cの現在地を取得するGPS装置4を備え、自車両Cの駆動輪回転開始時にGPS装置4で取得された現在地に対して駆動軸回転開始時から微小時間後にGPS装置4で取得された現在地の移動量を算出することで、自車両Cの移動の有無を検知するので、この自車両Cの移動の有無を、特に自車両Cが移動しない場合、それをGPS装置4を利用して検知できる。
【実施例2】
【0051】
実施例2は、実施例1の自車両移動検知手段と静止物判定手段とを変更したものである。実施例2の自車両移動検知手段に相当する車載カメラ3とECU1(自車両移動判定部24)は、自車両Cの駆動輪回転開始時に車載カメラ3で撮像された画像と駆動軸回転開始時から微小時間後に車載カメラ3で撮像された画像とを対比して、自車両Cの移動の有無を検知し、この場合、自車両移動判定部24は、例えば、自車両Cの走行による画像変化が無い場合に自車両移動無しと判定し、自車両Cの走行による画像変化が有る場合に自車両移動有りと判定する。
【0052】
静止物判定手段に相当するECU1の静止物判定部25は、駆動輪回転判定部22、従動輪回転判定部23、自車両移動判定部24の判定結果を受けて、駆動輪の回転が検知された場合、4輪駆動の場合又は従動輪の回転が検知されない場合に、自車両Cの移動が検知された(自車両Cの走行による画像変化が有る)場合には、自車両前方の障害物が移動物であると判定し、自車両Cの移動が検知されない(自車両Cの走行による画像変化が無い)場合には、自車両前方の障害物が静止物であると判定する。
【0053】
次に、ECU1が実行する静止物判定処理は図6に示す通りである。図6に示すように、この静止物判定処理において、S30〜S33は実施例1のS20〜S23と同様であり、S32;Yes の場合とS33;Noの場合、車載カメラ3から画像情報が読込まれ(S34)、ここで、この画像情報と過去数回に亙ってS34で読込まれた画像情報は記憶保持されるものとして、次に、これらの画像情報から、画像処理(S35)が実行され、自車両Cの駆動輪回転開始時に車載カメラ3で撮像された画像と駆動軸回転開始時から微小時間後に車載カメラ3で撮像された画像とが対比され(S36)、前記のようにして、移動有り(S37;Yes )と判定されると、自車両前方の障害物は静止物でないとしてリターンし、移動無し(S37;No)と判定されると、自車両前方の障害物は静止物であると判定され(S38)、SF←1にして(S39)、リターンする。
【0054】
このように、自車両Cの前方を撮像する車載カメラ3を備え、自車両Cの駆動輪回転開始時に車載カメラ3で撮像された画像と駆動軸回転開始時から微小時間後に車載カメラ3で撮像された画像とを対比して、自車両Cの移動の有無を検知するので、この自車両Cの移動の有無を、特に自車両Cが移動しない場合、それを車載カメラ3を利用して検知できる。尚、上記変更に伴う構成・作用・効果以外については、基本的に実施例1と同様の構成・作用・効果と同様である。
【実施例3】
【0055】
実施例3は、実施例1の図5の静止物判定処理を変更したものである。図7に示すように、この静止物判定処理は、常時2輪駆動(2WでP)となる車両C用で、図5のS20、S21、S23と同様の処理を行うS40、S41、S42を有する。そして、S40;No又はS41;No又はS42;Yes の場合はリターンし、S40;Yes 、S41;Yes 、S42;Noの場合、自車両前方の障害物は静止物であると判定され(S43)、SF←1にして(S44)、リターンする。
【実施例4】
【0056】
実施例4は、実施例1の図5の静止物判定処理を変更したものである。図8に示すように、この静止物判定処理は、常時4輪駆動(4WでP)となる車両C用で、図5のS20、S21、S24、S25、S26と同様の処理を行うS50、S51、S52、S53、S54を有する。そして、S50;No又はS51;Noの場合リターンする。S51;Yes の場合、S52、S53、S54が順次実行されるが、S54;Yes の場合、リターンし、S54;Noの場合、自車両前方の障害物は静止物であると判定され(S55)、SF←1にして(S56)、リターンする。
【実施例5】
【0057】
実施例5は、実施例1の図5の静止物判定処理を変更したものである。図9に示すように、この静止物判定処理では、先ず、駆動輪に対応する車輪速センサ5a,5bの少なくとも1方からの車輪速の情報に基づいて、自車両Cの発進時か否か判定される(S60)。駆動輪の回転開始時に、自車両Cが発進時である(S60;Yes )と判定されるが、そうでない場合(S60;No)はリターンする。
【0058】
S60;Yes の場合、次に、自車両前方に障害物が有るか否か判定され(S61)、S61;Noの場合にはリターンする。S61;Yes の場合、次に、駆動輪回転か否か判定され(S62)、S62;Noの場合にはリターンする。S62;Yes の場合、加速度センサ6で検出された加速度が読込まれ、但し、この加速度と過去数回に亙って読込まれた加速度は記憶保持されるものとして、自車両Cの駆動輪回転開始時の加速度に対して駆動軸回転開始時から微小時間後の加速度の変化が算出され、加速度変化有りか否か判定される(S63)。S63;Yes の場合リターンし、S63;Noの場合、自車両前方の障害物は静止物であると判定され(S64)、SF←1にして(S65)、リターンする。
【0059】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を付加して実施可能であり、本発明の車両の障害物検知装置については、種々の自動車等の車両に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】自車両のPCSの機器を示す平面図である。
【図2】自車両のPCSの機器のブロック図である。
【図3】PCSにおける処理・制御のフローチャートである。
【図4】衝突予知処理のフローチャートである。
【図5】実施例1の静止物判定処理のフローチャートである。
【図6】実施例2の静止物判定処理のフローチャートである。
【図7】実施例3の静止物判定処理のフローチャートである。
【図8】実施例4の静止物判定処理のフローチャートである。
【図9】実施例5の静止物判定処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0061】
C 車両(自車両)
1 ECU
2 レーダユニット
3 車載カメラ
4 GPS装置
5a,5b 車輪速センサ
8 衝突予知警報装置
9 ブレーキ装置
10 シートベルトプリテンショナ
12 障害物検知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両に対して自車両前方の障害物の相対位置と相対速度とを検知可能な障害物検知手段と、この障害物検知手段からの障害物検知情報を受けて自車両の作動機器を制御する作動機器制御手段とを備えた車両の障害物検知装置において、
自車両の駆動輪の回転の有無を検知する駆動輪回転検知手段と、
自車両の移動の有無を検知する自車両移動検知手段と、
前記駆動輪回転検知手段で駆動輪の回転が検知された場合であって、前記自車両移動検知手段で自車両の移動が検知されない場合、前記障害物検知手段で検知された障害物の自車両に対する相対速度に変化がない障害物は静止物であると判定する静止物判定手段と、
を備えたことを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項2】
前記作動機器制御手段は、自車両の駆動輪回転開始時に、前記静止物判定手段で前記障害物が静止物であると判定された場合に、その判定結果を受けて作動機器を誤作動させないように制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の障害物検知装置。
【請求項3】
前記自車両移動検知手段は、自車両が2輪駆動の場合に、自車両の従動輪の回転の有無を検知する従動輪回転検知手段を備え、この従動輪回転検知手段で従動輪の回転が検知されることで自車両の移動を検知することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の障害物検知装置。
【請求項4】
前記自車両移動検知手段は、自車両の現在地を取得するGPS装置を備え、自車両の駆動輪回転開始時にGPS装置で取得された現在地に対して駆動軸回転開始時から微小時間後にGPS装置で取得された現在地の移動量を算出することで、自車両の移動の有無を検知することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の車両の障害物検知装置。
【請求項5】
前記自車両移動検知手段は、自車両の前方を撮像する撮像手段を備え、自車両の駆動輪回転開始時に撮像手段で撮像された画像と駆動軸回転開始時から微小時間後に撮像手段で撮像された画像とを対比して、自車両の移動の有無を検知することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の車両の障害物検知装置。
【請求項6】
前記作動機器は、自車両前方の障害物との衝突が予知された場合に警報を出力する衝突予知警報装置からなることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の車両の障害物検知装置。
【請求項7】
前記作動機器は、自車両前方の障害物との衝突が予知された場合に自車両のブレーキを作動させるブレーキ装置からなることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の車両の障害物検知装置。
【請求項8】
前記作動機器は、自車両前方の障害物との衝突が予知又は検出された場合に自車両の使用中のシートベルトを引締めるシートベルトプリテンショナからなることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の車両の障害物検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−277179(P2009−277179A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130563(P2008−130563)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】