説明

車両の高圧タンク支持構造および燃料電池自動車

【課題】燃費を悪化させることなく乗り心地を向上させることができる高圧タンクの支持構造および燃料電池自動車を提供する。
【解決手段】気体燃料が充填された高圧タンク9が設置された車両1の高圧タンク支持構造において、高圧タンクが車体の後方において弾性体24を介して車体に支持され、路面からの入力により車体に発生する振動に対して、高圧タンクおよび弾性体をダイナミックダンパとして構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の高圧タンク支持構造および燃料電池自動車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の固有振動に伴って共振するダイナミックダンパを設けて車両の固有振動を低減する方法が知られている。ここでダイナミックダンパとは、主振動系に副振動系を取り付けて振動を吸収させ、主振動系の振動抑制を行うものである。つまり、主振動系の固有振動数と略同一の共振周波数を有する副振動系(ダイナミックダンパ)を取り付けて、主振動系の振動を副振動系の振動で打ち消すことにより、主振動系の揺れが無くなるという現象を利用した制振方法である。
【0003】
従来、車両において、ラジエータをマスとし、ゴムブッシュをダンパ(バネ)にしてダイナミックダンパを構成した手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
ここで、特許文献1のラジエータ支持構造は、車両の前部においてメインフレームに対して弾性体を介してサブフレームを取り付けるとともに、サブフレームに対して第1および第2の弾性体(ゴムブッシュ)を介してラジエータを取り付け、このラジエータをダイナミックダンパとして機能するように構成したものである。
また、車両において、弾性体とマス部材とで構成されたダイナミックダンパを別個取り付けたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−82897号公報
【特許文献2】特開2002−89618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のラジエータ支持構造では、ラジエータの重量は40kg程度であり、それほど重くないため、ダイナミックダンパとしての共振周波数を低くすることができなかった。つまり、車体の振動などの低周波数の振動に起因する車体の固有振動を抑制することができなかった。また、車両の前部で発生した振動は、インパネなどが配置されているためにある程度吸収することができ、乗員にとって大きな問題とはならない。それに対して、車両の後部で発生した振動は、一般的な車両の構造上、車体などで吸収されることなく後部座席の乗員に対して伝播され、乗り心地が悪くなるという問題がある。ところが、ラジエータをダイナミックダンパとして機能させても、この問題は解消されなかった。
また、特許文献2のようにダイナミックダンパを車体に別個取り付けると車両の全体重量が重くなるため、燃費が悪くなるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、燃費を悪化させることなく乗り心地を向上させることができる車両の高圧タンク支持構造および燃料電池自動車を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、気体燃料が充填された高圧タンク(例えば、実施形態における水素タンク9)が設置された車両(例えば、実施形態における燃料電池車両1)の高圧タンク支持構造において、前記高圧タンクが車体の後方において弾性体(例えば、実施形態におけるゴム部材24)を介して前記車体に支持され、路面(例えば、実施形態における路面E)からの入力により前記車体に発生する振動に対して、前記高圧タンクおよび前記弾性体をダイナミックダンパとして構成したことを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載した発明は、前記高圧タンクが前記弾性体を介して前記車体のリアサブフレーム(例えば、実施形態におけるリアサブフレーム12)に支持され、前記高圧タンクの重心(例えば、実施形態における重心G)が前記車両の側面視においてリアタイヤ(例えば、実施形態におけるリアタイヤ15)の外形内に収まるように前記高圧タンクが配置されていることを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載した発明は、前記高圧タンクが前記弾性体を介して前記車体のリアサブフレームに支持され、前記高圧タンクがトランクルーム(例えば、実施形態におけるトランクルーム50)内に配置されていることを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載した発明は、前記弾性体の弾性率を調節可能に構成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項5に記載した発明は、前記弾性体はゴム材料で形成され、前記高圧タンクは、該高圧タンクの重心より下方または上方で前記弾性体を介して前記車体のリアサブフレームに支持されるとともに、前記高圧タンクの重心方向に向かって支持されていることを特徴としている。
【0011】
請求項6に記載した発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の高圧タンク支持構造により前記高圧タンクが燃料電池自動車に取り付けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載した発明によれば、高圧タンクを路面からの入力により車体に発生する固有振動(タイヤから伝わる振動)に対して共振させるダイナミックダンパとして機能させることで、車体の固有振動を低減させることができる。
また、燃料を保管する高圧タンクをダイナミックダンパとして利用するため、ダイナミックダンパを別個設置することなく、車両の重量を増やすことがない。したがって、車両の燃費を悪化させることなく、また、製造コストを増加させることがない。
また、高圧タンクには燃料となる気体が封入されているため、燃料の使用前後において全体重量の変化が少ない。したがって、高圧タンクを用いたダイナミックダンパでは、燃料となる気体の残量の如何にかかわらず共振周波数を略一定にすることができるため、車体の固有振動に対して確実に共振させて、車体の固有振動を低減させることができる。
さらに、路面入力に起因する振動現象は、低次のサス〜ボディ共振(数Hz)、ボディの弾性振動(10数Hz〜数十Hz)、ロードノイズ(数十Hz〜300Hz程度)の様々な現象があり、路面からのロードノイズに起因して低周波数帯域で車体の固有振動が発生するが、高圧タンクは通常100kg程度の重さがあるため、共振周波数を低周波数帯域に設定することができ、低周波数の車体の固有振動を確実に抑制することができる。
そして、高圧タンクを車体の後方に取り付けたため、車両の後部の振動をダイナミックダンパで効率よく吸収することができる。したがって、後部座席の乗員に対して伝播される振動を低減することができるため、乗り心地を改善することができる効果がある。
【0013】
請求項2に記載した発明によれば、車両のリアタイヤと車室内とは距離が近く、振動を吸収できる部材などが少ないが、リアサブフレームに取り付けた高圧タンクをダイナミックダンパとして使用することで、車両の後部の振動(リアタイヤから伝わるロードノイズなどに起因する車体の固有振動)を効果的に低減することができる効果がある。
【0014】
請求項3に記載した発明によれば、車両のリアタイヤと車室内とは距離が近く、振動を吸収できる部材などが少ないが、リアサブフレームに取り付け、トランクルーム内に配置された高圧タンクをダイナミックダンパとして使用することで、車両の後部の振動(リアタイヤから伝わるロードノイズなどに起因する車体の固有振動)を効果的に低減することができる効果がある。
【0015】
請求項4に記載した発明によれば、弾性体の弾性率を調節できるようにすることで、ダイナミックダンパの共振周波数を車体の固有振動と略同一になるように微調整することができる。したがって、車体の固有振動を確実に低減することができ、乗り心地を向上させることができる効果がある。
具体的には、車体の曲げ振動モードに伴う上下方向振動を調整するには、弾性率を変化させる。弾性率は弾性体の厚さを変化させることで調整する。つまり、弾性体の厚さを厚くすることで柔らかくし、薄くすることで硬く設定することができる。
【0016】
請求項5に記載した発明によれば、車体の振動方向(車両上下方向)にのみ弾性体の弾性率を下げて防振支持(高圧タンクをダイナミックダンパとして機能させる)とし、それ以外の方向については十分な剛性支持(高圧タンクの動きを抑える)を確保することができる。つまり、ゴム材料による防振で単に固有振動数を下げるためだけに高圧タンクの支持剛性を下げる(弾性体の弾性率を全方向について下げる)と、駆動反力や走行外力により高圧タンクが動きすぎることによる高圧タンクと他部品との接触や配管の破損が生ずる虞があるが、それを防止することができる。
また、ダイナミックダンパの効果を得るためには、通常、図8や図13のように重心位置に対称となる位置で支持する必要がある。ただし、取り付けるフレームとの位置や、スペースの関係上、重心位置において取り付けることが困難な場合には、取り付け位置で弾性体の向きを傾斜させて振動方向が重心方向を向かせることで同様のダイナミックダンパの効果を得ることが可能となる。例えば、高圧タンクの重心位置より下方で支持する場合には、支持方向が重心を向くように弾性体の向きを傾斜させることでダイナミックダンパとしての効果を得ることができる。
【0017】
請求項6に記載した発明によれば、燃料電池自動車では燃料電池スタックの振動は少なく、路面からの振動(ロードノイズ)に限定して車体の固有振動を低減すれば足りる。ここで、重量のある高圧タンクをダイナミックダンパに用いるとダイナミックダンパの共振周波数を低周波数帯域に設定することができ、路面からのロードノイズに起因して発生する低周波数帯域での車体の固有振動を好適に低減することができる。結果として、燃料電池自動車の乗り心地を改善することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態を図1〜図10に基づいて説明する。なお、以下の説明における前後左右などの向きは、特に特記が無ければ車両における向きと同一とする。また、図中矢印FRは車両前方を、矢印LHは車両左方を、矢印UPは車両上方をそれぞれ示す。
【0019】
図1に示すように、燃料電池車両1は、水素と酸素との電気化学反応によって発電を行う燃料電池スタック(以下、燃料電池という)2を車体のフロア下に搭載し、この燃料電池2で生じた電力によりモータ3を駆動して走行する。燃料電池2は、単位電池(単位セル)を例えば車両前後方向に沿って多数積層してなる。この単位電池は周知の固体高分子膜型燃料電池(PEMFC)であり、そのアノード側に燃料ガスとして水素ガスを供給し、カソード側に酸化剤ガスとして酸素を含む空気を供給することで、電気化学反応により電力および水を生成する。
【0020】
モータ3は、燃料電池2のカソード側へ供給する空気を圧縮するコンプレッサ4とともに、フロントサブフレーム5に搭載された状態で、車体前部のモータルーム(エンジンルーム)内に配置される。また、燃料電池2および燃料電池2のための補機6は、サブフレーム7に搭載された状態で、車体前後方向中間部のフロアパネル8の車室外側に配置される。さらに、燃料電池2のアノード側へ供給する水素ガスを蓄える水素タンク9は、モータ3からの回生電力を蓄電するバッテリ11とともに、リアサブフレーム12に搭載された状態で、車体後部のリアフロア13の車室外側に配置されている。
【0021】
なお、燃料電池2のための補機6とは、レギュレータやエゼクタなどの水素供給補機および加湿器や希釈ボックスなどの空気排出補機である。また、図1中符号14,15は燃料電池車両1の前後輪を、符号16,17は車室内の前後シートをそれぞれ示す。
【0022】
また、水素タンク9は、その重心Gが燃料電池車両1の側面視においてリアタイヤ15の外形内に収まるように配置されている。
【0023】
図2に示すように、水素タンク9は、その軸線方向が燃料電池車両1の左右方向に向くように配置されている。また、水素タンク9には、リアサブフレーム12に支持するための支持部材20が水素タンク9の長手方向に沿って2箇所取り付けられている。なお、支持部材20は、水素タンク9の周面に沿うように形成された円環部21と、後述するゴム部材24と接合する接合部22とで構成されている。また、2個の支持部材20は、水素タンク9の重心Gからそれぞれ等距離に配置されている(図4参照)。
【0024】
図3、図4に示すように、リアサブフレーム12には、支持部材20の接合部22に対応する位置に接合部材25が取り付けられ、接合部材25の上面26にゴム部材24が取り付けられている。そして、ゴム部材24と支持部材20の接合部22とが当接して、水素タンク9はリアサブフレーム12に支持されている。本実施形態においては、水素タンク9、支持部材20およびゴム部材24でダイナミックダンパ30を構成するように調整されている。
【0025】
なお、接合部22とゴム部材24とはボルト28により連結されている。ただし、水素タンク9の振動力を利用してダイナミックダンパ30として機能させるために、ずれ防止などの目的でボルト28を取り付けており、ボルト28は強固には締結されていない。
【0026】
ここで、車体に生ずる振動モードは、図5に示すように、車体41の前後方向の軸Lに対して回転する方向に発生するねじり振動と、車体41の上下方向に撓むように発生する曲げ振動とがある。
【0027】
それぞれの振動(ねじり振動および曲げ振動)をダイナミックダンパ30で振動を抑制する際の構成について説明する。
【0028】
図6は、車体の上下方向の曲げ振動を抑制する際のダイナミックダンパの構成である。図6に示すように、ダイナミックダンパ(バネマス系)30を振動発生源の近傍に配置する。このダイナミックダンパ30の共振周波数fは、(1)式のようになる。
【数1】

ここで、バネ定数k(本実施形態ではゴム部材24の弾性係数)を調整して共振周波数fを調整することができる。つまり、本実施形態ではゴム部材24の厚さや枚数を調整することで共振周波数fを調整することができる。なお、mはマスの重量(本実施形態では水素タンク9の重量)である。
【0029】
図7は、車体のねじり振動を抑制する際のダイナミックダンパの構成である。図7に示すように、ダイナミックダンパ30の支持部材20およびゴム部材24(バネ)を水素タンク9(マス)の重心Gから車体の左右方向(水平方向)にそれぞれ距離Lずつ離隔した位置に配置する。このダイナミックダンパ30の共振周波数fnは、(2)式のようになる。
【数2】

ここで、距離Lを調整して共振周波数fnを調整することができる。なお、Iは水素タンク9の慣性モーメントである。
【0030】
図8は、車体のねじり振動を抑制する際のダイナミックダンパの別の構成である。図8に示すように、ダイナミックダンパ30の支持部材20およびゴム部材24(バネ)を水素タンク9の重心Gから車体の前後方向にそれぞれ距離Dずつ離隔した位置に配置する。このように構成すれば、距離Dを調整して共振周波数を調整することができる。なお、本実施形態においては、距離Dはリアサブフレーム12の位置で決定(固定)されているため、調整はできない。したがって、本実施形態では、図7の構成を採用して車体のねじり振動を抑制するように調整をする。
【0031】
図9は本実施形態のダイナミックダンパの構成を示す説明図である。
図9に示すように、リアサブフレーム12とリアフレーム33との間にゴム部材35が設けられている。さらに、リアサブフレーム12と水素タンク9との間にゴム部材24が設けられている。このゴム部材24および35はともに、バネマス系のバネの役割を果たす。
【0032】
図3,4に戻り、本実施形態においては、接合部材25の表面26およびゴム部材24の表面27が水素タンク9の重心G方向に指向するように配置されている。つまり、ゴム部材24は高圧タンクの重心方向に向かって傾斜配置されている。
【0033】
このように構成されたダイナミックダンパを燃料電池車両1に搭載する方法としては、まずリアサブフレーム12上に水素タンク9を取り付ける。そして、ゴム部材24の位置をリアサブフレーム12上で調整するとともに、ゴム部材24の厚み(枚数)を調整して、所望の共振周波数が得られるようにする。次に、水素タンク9が取り付けられたリアサブフレーム12とリアフレーム33とをゴム部材35を介して連接する。そして、この状態で低周波数の車体の固有振動に対して効果的に振動を抑制できるように、ゴム部材35を調整してダイナミックダンパ30を構成する。
【0034】
図10は燃料電池車両1の周波数と振幅との関係を示す。図10に示すように、ダイナミックダンパ30を設けない場合(図10の線分(a))と比較すると、ダイナミックダンパ30を設けた場合(図10の線分(b))は、振幅が大きい低周波数帯域において、その振幅を抑制することができ、効果的に車体の固有振動(振幅)を抑制できることが分かる。この低周波数帯域はロードノイズのピーク周波数と略一致しており、ロードノイズの低減に効果的であることが分かる。
【0035】
本実施形態によれば、水素タンク9およびゴム部材24を路面Eからの入力により車体に発生する固有振動(タイヤ14,15から伝わる振動)に対して共振させるダイナミックダンパ30として機能させることで、振動を低減させることができる。
【0036】
また、燃料を保管する水素タンク9をダイナミックダンパ30のマスとして利用するため、ダイナミックダンパ30を別個設置することなく、燃料電池車両1の重量を増やすことがない。したがって、燃料電池車両1の燃費を悪化させることなく、また、製造コストを増加させることがない。
【0037】
また、水素タンク9には燃料となる気体(水素)が封入されているため、燃料の使用前後において全体重量の変化が少ない。したがって、水素タンク9を用いたダイナミックダンパ30では、燃料となる気体の残量の如何にかかわらず共振周波数を略一定にすることができるため、車体の固有振動に対して確実に共振させて、車体の固有振動を低減させることができる。
【0038】
また、路面Eからのロードノイズに起因して、低周波数帯域で車体の固有振動が発生するが、水素タンク9は通常100kg程度の重さがあるため、共振周波数を低周波数帯域に設定することができ、低周波数の車体の固有振動を確実に抑制することができる。
【0039】
また、水素タンク9を車体の後方に取り付けたため、燃料電池車両1の後部の振動をダイナミックダンパ30で効率よく吸収することができる。したがって、後部座席17の乗員に対して伝播される振動を低減することができるため、乗り心地を改善することができる。
【0040】
また、燃料電池車両1のリアタイヤ15と車室内(後部座席17)とは距離が近く、振動を吸収できる部材などが少ないが、リアサブフレーム12に取り付けた水素タンク9をダイナミックダンパ30として使用することで、燃料電池車両1の後部の振動(リアタイヤ15から伝わるロードノイズなどに起因する車体の固有振動)を効果的に低減することができる。
【0041】
また、ゴム部材24の弾性率を調節できるようにすることで、ダイナミックダンパ30の共振周波数を車体の固有振動と略同一になるように調整することができる。したがって、車体の固有振動を確実に低減することができ、乗り心地を向上させることができる。
具体的には、車体の曲げ振動モードに伴う上下方向振動を調整するには、弾性率を変化させる。弾性率はゴム部材24の厚さを変化させることで調整する。つまり、ゴム部材24の厚さを厚くすることで柔らかくし、薄くすることで硬く設定することができる。また、ゴム部材24の材質を変更することで弾性率を調整してもよい。
【0042】
さらに、車体の振動方向(車両上下方向)にのみゴム部材24の弾性率を下げて防振支持(水素タンク9をダイナミックダンパ30として機能させる)とし、それ以外の方向については十分な剛性支持(水素タンク9の動きを抑える)を確保することができる。つまり、ゴム部材24による防振で単に固有振動数を下げるためだけに水素タンク9の支持剛性を下げる(ゴム部材24の弾性率を全方向について下げる)と、駆動反力や走行外力により水素タンク9が動きすぎることによる水素タンク9と他部品との接触や配管の破損が生ずる虞があるが、それを防止することができる。
また、水素タンク9をリアサブフレーム12に取り付ける際に、ゴム部材24を傾斜させて、ゴム部材24の表面27が水素タンク9の重心Gを指向するようにすることで、確実にダイナミックダンパ30としての機能を発揮させることができる。
【0043】
そして、燃料電池車両1では燃料電池2の振動は少なく、路面Eからの振動(ロードノイズ)に限定して車体の固有振動を低減すれば足りる。ここで、重量のある水素タンク9をダイナミックダンパ30に用いるとダイナミックダンパ30の共振周波数を低周波数帯域に設定することができ、路面Eからのロードノイズに起因して発生する低周波数帯域での車体の固有振動を好適に低減することができる。結果として、燃料電池車両1の乗り心地を改善することができる。
【0044】
尚、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な構造や構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態において、リアフレームとリアサブフレームとの間にゴム部材を設けてバネマス系のバネとして機能するように構成したが、図11に示すように、リアサブフレーム12を車体のビーム(リアフレーム33)に固定し、リアサブフレーム12と水素タンク9(支持部材)との間にのみゴム部材24を設けてダイナミックダンパとして機能するように構成してもよい。また、図12に示すように、水素タンク9はリアサブフレーム12に強固に固定し、リアサブフレーム12とリアフレーム33との間にのみゴム部材35を設けてダイナミックダンパとして機能するように構成してもよい。
【0045】
また、本実施形態において、水素タンク9の重心Gがリアサブフレーム12の位置(水素タンクを支持する位置)よりも側面視において高い位置に配置されるような構造であったため、ゴム部材を傾斜配置させたが、図13,14に示すように、水素タンク9の重心Gがリアサブフレーム12の位置と側面視において略同一の高さに配置される構造を採用すれば、ゴム部材24Aを水平配置させてもダイナミックダンパとして確実に機能させることができる。
【0046】
また、本実施形態において、水素タンクの重心が車両の側面視においてリアタイヤの外形内に収まるように配置したが、水素タンクを室内やトランクルーム50内に配置しても同様の機能を発揮することができる(図15参照)。
また、本実施形態において、水素タンクを横置きにした場合の説明をしたが、水素タンクを縦置きに配置してもよい。
また、本実施形態において、水素タンクの重心より下方側でゴム部材を介して車体のリアサブフレームに支持するように構成したが、水素タンクの重心より上方側から吊り下げるように水素タンクを支持してもよい。
さらに、本実施形態では水素タンクを搭載した燃料電池車両の場合について説明したが、水素タンクを利用する水素エンジン自動車、天然ガス自動車、およびLPガス自動車に同様の構造を採用してダイナミックダンパとして機能するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態における燃料電池車両の概略構成図(側断面図)である。
【図2】本発明の実施形態における燃料電池車両の要部断面斜視図である。
【図3】本発明の実施形態における水素タンクの支持方法を示す側面図である。
【図4】本発明の実施形態における水素タンクの支持方法を示す正面図である。
【図5】車体の振動モードを示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態におけるダイナミックダンパの構成(上下振動に対する構成)を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態におけるダイナミックダンパの構成(ねじり振動に対する構成)を示す説明図である。
【図8】ダイナミックダンパの構成(ねじり振動に対する別の構成)を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態におけるダイナミックダンパの配置構成を示す説明図である。
【図10】燃料電池車両の周波数と振幅との関係を示すグラフであり、(a)はダイナミックダンパを設けない場合、(b)は本実施形態のダイナミックダンパを設けた場合である。
【図11】本発明の実施形態におけるダイナミックダンパの別の配置構成を示す説明図である。
【図12】本発明の実施形態におけるダイナミックダンパのさらに別の配置構成を示す説明図である。
【図13】本発明の実施形態における水素タンクの別の支持方法を示す側面図である。
【図14】本発明の実施形態における水素タンクの別の支持方法を示す正面図である。
【図15】本発明の実施形態における水素タンクの別の配置位置を示す側面図である。
【符号の説明】
【0048】
1…燃料電池車両(車両) 9…水素タンク(高圧タンク) 12…リアサブフレーム15…リアタイヤ 24…ゴム部材(弾性体) 50…トランクルーム E…路面 G…重心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体燃料が充填された高圧タンクが設置された車両の高圧タンク支持構造において、
前記高圧タンクが車体の後方において弾性体を介して前記車体に支持され、
路面からの入力により前記車体に発生する振動に対して、前記高圧タンクおよび前記弾性体をダイナミックダンパとして構成したことを特徴とする車両の高圧タンク支持構造。
【請求項2】
前記高圧タンクが前記弾性体を介して前記車体のリアサブフレームに支持され、
前記高圧タンクの重心が前記車両の側面視においてリアタイヤの外形内に収まるように前記高圧タンクが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の高圧タンク支持構造。
【請求項3】
前記高圧タンクが前記弾性体を介して前記車体のリアサブフレームに支持され、
前記高圧タンクがトランクルーム内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の高圧タンク支持構造。
【請求項4】
前記弾性体の弾性率を調節可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両の高圧タンク支持構造
【請求項5】
前記弾性体はゴム材料で形成され、
前記高圧タンクは、該高圧タンクの重心より下方または上方で前記弾性体を介して前記車体のリアサブフレームに支持されるとともに、前記高圧タンクの重心方向に向かって支持されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両の高圧タンク支持構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の高圧タンク支持構造により前記高圧タンクが取り付けられていることを特徴とする燃料電池自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−255759(P2009−255759A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107738(P2008−107738)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】