説明

車両制御装置

【課題】 多段階で一連の運転支援を適切に行う。
【解決手段】 多段階で一連の運転支援を行う車両制御装置において、自車位置検出手段と、地図データ記憶手段と、進行方向前方の注意地点を検出する注意地点検出手段と、自車の走行状態を検出する走行状態検出手段と、走行状態、及び、注意地点に対する自車位置の位置関係に基づいて、少なくとも2段階以上の支援実施タイミングを検出し、各支援実施タイミングでそれぞれ異なる態様の運転支援を行う運転支援手段と、を備え、前記運転支援手段は、前回周期で把握された注意地点に対する自車位置の位置関係が、今回周期で行われたGPS誤差補正等の定期的又は不定期的な自車位置補正処理により大きく変化したことに起因して、第1段階と第2段階の支援実施タイミングが時間的に近くなった場合、第2段階の支援実施タイミングを補正することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が注意地点(例えば一時停止地点や急コーナの入口地点)を適切に走行できるように各種運転支援を行う車両制御装置に関し、特に、多段階で一連の運転支援を行う車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一時停止するべき地点を含む地図情報並びに自車位置を出力するナビゲーションシステムと、前記一時停止地点と前記自車位置との間の距離を演算する距離演算手段と、運転者の停止意志の有無を判断する停止意志判断手段と、前記距離の演算値が所定値以下でかつ運転者の停止意志が無いものと判断された場合に運転者に対して警告を発する警告手段とを有することを特徴とする運転操作支援装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−76922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年では、GPS測位の高精度化や地図情報の詳細化などに伴い、上述の従来技術のように、GPS信号に基づいて導出される自車位置情報と、ナビゲーションシステムの地図情報を協働的に利用して、各種運転支援を行う技術が提案されている。
【0004】
GPS信号に基づいて演算される自車位置情報は、GPS信号に基づく測位結果自体に誤差が含まれる(特に単独測位の場合は大きな誤差を含む)ため、地図データの道路形状等にマッチングさせることによる補正(いわゆるマップマッチング技術)や、基準局からFM放送等で車両に定期的に供給されるGPS補正データ(既知点に設置された基準局が受信するGPS信号に基づいて作成される。)を用いた補正(いわゆるD−GPS技術)等の自車位置補正処理によって、高精度化が図られている。
【0005】
しかしながら、この自車位置補正処理は、GPS信号に基づく自車位置演算周期と周期が一致せず、例えばマップマッチングであれば必要に応じて不定期的に行われ、GPS補正データであれば自車位置演算周期(例えば、0.1秒)に比べて大きな周期(例えば、5秒)で供給されるものであるため、各種運転支援に用いる自車位置情報には、自車位置補正処理に起因して、定期的又は不定期的に比較的大きな変動が生じうる。したがって、かかる不定期的に大きな変動に対してなんら考慮がなされていないと、多段階で行う一連の運転支援が適切なタイミングで実施されなかったり、一連の運転支援のうちの一部の運転支援が実施されない虞があり、その結果、運転支援の有用性が損なわれてしまったり、ユーザに違和感を与えてしまう虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、自車位置補正処理に起因して自車位置情報に定期的又は不定期的に変動が生じた場合にも、多段階で一連の運転支援を適切に行うことができる車両制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、第1の発明は、多段階で一連の運転支援を行う車両制御装置において、
GPS信号に基づいて所定周期毎の自車位置を検出する自車位置検出手段と、注意地点の位置情報を含む地図データ記憶手段と、前記検出された自車位置と前記地図データ内の各注意地点の位置情報に基づいて進行方向前方の注意地点を検出する注意地点検出手段と、自車の走行状態を検出する走行状態検出手段と、前記検出された走行状態、及び、注意地点に対する自車位置の位置関係に基づいて、少なくとも2段階以上の支援実施タイミングを検出し、各支援実施タイミングでそれぞれ異なる態様の運転支援を行う運転支援手段と、を備え、
前記運転支援手段は、前回周期で把握された注意地点に対する自車位置の位置関係が、今回周期で行われたGPS誤差補正又はマップマッチング等の定期的又は不定期的な自車位置補正処理により大きく変化したことに起因して、第1段階の支援実施タイミングと第2段階の支援実施タイミングとが時間的に近くなった場合、第2段階の支援実施タイミングを補正することを特徴とする、車両制御装置が提供される。
【0008】
第2の発明は、第1の発明に係る車両制御装置において、前記注意喚起手段は、前記注意地点に対する自車位置の位置関係の変化に起因して、所期の第1段階の支援実施タイミングを逸した場合、直ちに第1段階の運転支援を行うと共に、それに後続する第2段階の支援実施タイミングを遅らせることを特徴とする。
【0009】
第3の発明は、第1の発明に係る車両制御装置において、前記注意喚起手段は、前記注意地点に対する自車位置の位置関係の変化に起因して、第1段階での支援実施タイミングが、第2段階での支援実施タイミングに略一致した場合、直ちに第1段階の運転支援を行うと共に、それに後続する第2段階の支援実施タイミングを遅らせることを特徴とする。
【0010】
第4の発明は、第1〜3発明に係る車両制御装置において、前記注意喚起手段は、第2段階の支援実施タイミングを、所期のタイミングに対して、前記検出された走行状態に基づいて決定される許容最大遅延時間ΔT2だけ遅らせることを特徴とする。
【0011】
第5の発明は、第1〜4発明に係る車両制御装置において、前記第2段階の運転支援は、注意地点で所定車速を強制的に実現すべく行う介入制動であり、前記第1段階の運転支援は、警報出力である。
【0012】
第6の発明は、多段階で一連の運転支援を行う車両制御装置において、
GPS信号に基づいて所定周期毎の自車位置を検出する自車位置検出手段と、注意地点の位置情報を含む地図データ記憶手段と、前記検出された自車位置と前記地図データ内の各注意地点の位置情報に基づいて進行方向前方の注意地点を検出する注意地点検出手段と、注意地点に対する自車位置の位置関係の検出結果を、所与の条件に適用して、少なくとも2段階以上の支援実施タイミングを検出し、各支援実施タイミングでそれぞれ異なる態様の運転支援を行う運転支援手段と、を備え、
前記運転支援手段は、周期的に把握する注意地点に対する自車位置の位置関係の検出結果が、GPS誤差補正又はマップマッチング等の定期的又は不定期的な自車位置補正処理により大きく変化した場合、前記所与の条件を変更することで、前記一連の運転支援の支援実施タイミングを補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、自車位置補正処理に起因して自車位置情報に定期的又は不定期的に変動が生じた場合にも、多段階で一連の運転支援を適切に行うことができる車両制御装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0015】
図1は、本発明による車両制御装置の一実施態様を示すシステム構成図である。本実施態様の車両制御装置は、電子制御ユニット10(以下、「車両制御ECU10」という)を中心に構成される。車両制御ECU10は、通常的なECU(電子制御ユニット)と同様、図示しないバスを介して互いに接続されたCPU、ROM、及びRAM等からなるマイクロコンピュータとして構成されている。
【0016】
車両制御ECU10は、以下で詳説する如く、後述する地図データに含まれる例えば一時停止地点やコーナ入口地点のような注意地点の位置情報に基づいて、車両進行方向前方に迫る注意地点を把握し、当該注意地点を車両が適切に走行できるように、必要に応じて各種制御対象デバイスに各種制御指示を出して運転支援制御を行う制御装置である。
【0017】
上記の制御対象デバイスは、ブレーキ、エンジンやトランスミッションのような車両の運動を制御する装置のみならず、インジケータや、ディスプレイ、オーディオのような警報装置として機能できる装置を含む。従って、車両制御ECU10からこれらの制御対象デバイスに送信される制御指示には、運動制御装置に対する減速指示や、警報装置に対する減速を促す警報出力指示が含まれる。
【0018】
車両制御ECU10には、CAN(controller area network)などの適切な通信ネットワークを介して、上記の制御デバイスの他、車両内の各種の電子部品(車速センサのような各種センサや各種ECU)が接続される。特に、本実施形態の車両制御ECU10には、ナビゲーション装置の主要機能を実現するナビゲーションECU20が接続される。ナビゲーションECU20は、マイクロコンピュータで構成され、CPU、ROM、RAM、I/O等を備えている。
【0019】
ナビゲーションECU20には、DVD、CD−ROM等の記録媒体上に地図データを保有する地図データベース22や、地図表示や経路案内表示を映像により出力する液晶ディスプレイ等の表示装置24、ユーザインターフェースとなるタッチパネル等の操作入力部26等が接続されている。
【0020】
ナビゲーションECU20は、自車位置検出手段28及び地図データベース22を備えている。自車位置検出手段28は、GPS(Global Positioning System)受信機、ビーコン受信機及びFM多重受信機や、車速センサやジャイロセンサ等の各種センサを含む。自車位置は、GPS受信機によりGPSアンテナを介してGPS衛星が出力するGPS信号に基づいて測位・演算される(例えば、演算周期0.1秒)。測位方法は、単独測位や相対測位(干渉測位を含む。)等の如何なる方法であってもよい。この際、自車位置は、車速センサやジャイロセンサ等の各種センサの出力や、ビーコン受信機及びFM多重受信機を介して受信される各種情報に基づいて補正されてよい。
【0021】
例えば、相対測位の1つであるD-GPS(Differential GPS)では、自車位置は、4個以上のGPS衛星からの距離を算出することで単独測位され、次いで、既知点に設置された受信機(基準局)から供給されるGPS補正データに基づいて補正される(いわゆるディファレンシャル補正:2つの点で受信されるGPS信号には同一の誤差が含まれるという仮定の下で、誤差を差し引いて測位精度を上げるもの。)。尚、GPS補正データは、例えば全国に複数設置される基準局から周期的(例えば5秒周期)にFM多重により放送され、車両のFM多重受信機で受信される。
【0022】
自車位置は、また、公知のマップマッチング技術により、不定期的に、地図データベース22内の地図データを用いて適宜補正される。例えば、自車位置の軌跡(走行軌跡)と地図データの道路形状の比較が行われ、その際に応じて自車位置が道路上の点に来るように補正される。
【0023】
このようにして得られる自車位置は、自車位置の演算周期毎(例えば、0.1秒毎)に、車両制御ECU10に供給されることになる。
【0024】
車両制御ECU10は、供給される自車位置情報に基づいて自車位置を周期的に把握し、車両が注意地点(例えば一時停止地点や急コーナの入口地点)を適切に走行できるように、注意地点に対する自車位置の位置関係、及び、自車の走行状態(典型的には、車速、加速度であるが、ブレーキペダルやアクセルペダルの操作状態を含む。)に基づいて、2段階以上の支援実施タイミングを検出し、各支援実施タイミングでそれぞれ異なる態様の運転支援を行う。
【0025】
本実施態様では、図2に示すように、注意地点Xの手前で、運転支援が2段階に分けて実施される。具体的には、車両制御ECU10は、注意地点Xから離れた側(遠い側)での支援実施タイミングT1で、警報装置に対して警報出力指示を出力し、注意地点Xに近い側での支援実施タイミングT2で、運動制御装置に対して減速指示を出力する。即ち、車両制御ECU10は、注意地点Xに近くなるにつれて、警報出力、減速制御(介入)の順に、2つの異なる運転支援を実行する。以下、支援実施タイミングT1で実行される運転支援を、「第1段階の運転支援」といい、支援実施タイミングT2で実行される運転支援を、「第2段階の運転支援」という。
【0026】
尚、警報装置による警報の出力態様は、音響的、視覚的、触覚的(例えば振動発生)を含む如何なる態様で実施されてもよい。また、運動制御装置による減速制御(介入)は、典型的には、必要減速度に応じたブレーキアクチュエータの強制的な作動であるが、ハイブリッド車両の場合は電気モータによる回生ブレーキが付加されてもよいし、また、エンジン、トランスミッションなどによる減速補助を受けてもよい。
【0027】
このように、本実施態様では、減速制御を行う前に、予め注意喚起のための警報を出力しておくことで、注意喚起無しでいきなり減速制御が実行されるようなことがなく、運転者に違和感を与えないような運転支援制御が実現される。
【0028】
尚、本実施態様(及び以下の各実施例)では、第1段階の運転支援が警報出力であるが、それに代えて又は加えて、第2段階の運転支援の減速制御よりも緩やかな減速制御(減速度の小さい減速制御)であってもよい。同様に、本実施態様(及び以下の各実施例)では、第2段階の運転支援が減速制御であるが、それに代えて又は加えて、第1段階の運転支援の警報出力よりも注意喚起度の高い警報出力であってもよい。
【0029】
次に、以上の基本実施態様を前提として、本発明の特徴的な構成について幾つかの実施例に分けて説明していく。
【実施例1】
【0030】
図3は、実施例1による車両制御ECU10が、進行方向前方に注意地点が存在する際に実行する多段階運転支援処理のフローチャートである。本実施例1では、注意地点は、一時停止地点であり、典型的には、信号機の無い又は信号機が機能してない交差点手前の一時停止線の地点である。
【0031】
先ず、前提として、この多段階運転支援処理は、ナビゲーションECU20により、車両の現在位置と地図データに基づいて進行方向前方に注意地点が検出された際に起動され、以後、所定の終了条件が成立するまで、自車位置の演算周期毎に繰り返し実行される。尚、注意地点は、予め地図データ内にその旨の登録がなされていてもよく、或いは、地図データから推定されて決定されてもよい。尚、車両進行方向前方の注意地点が検出された際、ナビゲーションECU20は、当該検出した注意地点付近の地図データ(当該検出した注意地点の位置情報を含み、以下、「注意地点情報」という。)を地図データベース22内から検索して取り出し、当該取り出した注意地点情報を車両制御ECU10に送信する。また、車両制御ECU10には、ナビゲーションECU20からの自車位置情報及び車速センサからの自車速情報が、本処理ルーチンと同期した演算周期毎に供給されており、車両制御ECU10は、常時、最新の車両位置及び車速を算出・把握しているものとする。
【0032】
図3を参照するに、先ず、ステップ100において、車両制御ECU10は、第1段階の運転支援の実施条件が成立したか否かを判定する。即ち、支援実施タイミングT1を検出する。第1段階の運転支援の実施条件は、例えば必要減速度が第1閾値Gxth1を上回る際に成立するものであってよい。この場合、車両制御ECU10は、自車位置検出手段35からの自車位置情報及び注意地点情報に基づいて、自車位置と一時停止線との距離x[m](図4参照)を算出し、車速v[m/s]を用いて、例えば次の式により、一時停止線で停止するのに必要な減速度Gx[m/s](必要減速度Gx)を算出する。
Gx=v/(2×x)
ここで、車速vは、簡易的に現在の車速V0が維持されるものと仮定してもよく、或いは、現在までの車速の履歴に基づいて推定可能な以後の加減速態様が加味されてもよい。また、距離xは、地図データベース22内の地図データと自車位置情報から導出される。
【0033】
先ず、必要減速度Gxが第1閾値Gxth1を超えない場合は、今回周期では運転支援が何ら実行されることなく(運転支援の必要がないため)、ステップ140で終了条件が判定される。終了条件は、例えば、車両位置が注意地点手前所定距離L[m]内に入った場合に成立するものであってよい。所定距離Lは、注意地点に十分近い距離、即ち比較的小さい値に設定される。
【0034】
一方、必要減速度Gxが第1閾値Gxth1を超えた場合には(ステップ100のYES)、第1段階の運転支援の実施条件が成立したことを表すフラグが既に設定されているか否かが判定される(ステップ110)。今回の周期で初めて必要減速度Gxが第1閾値Gxth1を超えた場合は、フラグが既に設定されていることはない(フラグが初期値のゼロ)ので、否定判定となる。この場合、ステップ200以降の処理が実行される。
【0035】
先ず、ステップ200では、車両制御ECU10は、警報装置をして所定の警報出力を実施させる。これにより、運転者による自主的な減速、即ち、一時停止地点での停止が促進される。
【0036】
続くステップ210では、第1段階の運転支援の実施条件が成立したこと、即ち警報出力実施済みであることを表すフラグを設定する処理が実行される(フラグを初期値のゼロから1にする)。
【0037】
続くステップ220では、車両制御ECU10は、第2段階の運転支援の実施条件が成立したか否かを判定する。即ち、支援実施タイミングT2を検出する。第2段階の運転支援の実施条件は、例えば必要減速度が第2閾値Gxth2[m/s]を上回る際に成立する。即ち、車両制御ECU10は、上記ステップ100で算出した必要減速度Gxが第2閾値Gxth2を超えたか否かを判定する。ここで、第2閾値Gxth2は、第1閾値Gxth1よりも大きい。即ち、第2閾値Gxth2は、介入制動せざるを得ないような大きな制動力が必要な緊急的な状態を検出するための閾値である。
【0038】
ここで、第2閾値Gxth2は、上述の如く、第1閾値Gxth1よりも大きいので、第1段階の運転支援の実施条件が成立する前に、第2段階の運転支援の実施条件が成立することは、高速な演算周期毎(例えば、0.1秒毎)で実行する本処理ルーチンでは通常的にはありえない(例外的な場合について後に説明)。従って、通常的な場合は、ステップ220で第2段階の運転支援の実施条件が成立することはなく、従って、ステップ220で否定判定となり、次の周期から再びステップ100以降の処理が繰り返し実行される。
【0039】
以下では、先ず、ステップ220で否定判定となった場合、即ち通常的な場合の処理(ステップ110等)について説明し、その後、図6に示す運転支援遅延処理について説明していく。
【0040】
先ず、通常的な場合として、ステップ220で否定判定となった場合は、例えば次回以降のある周期で、再びステップ100で肯定判定されると、ステップ110では肯定判定されるので、ステップ120に移行し、第2段階の運転支援の実施条件が成立したか否かが判定される。第2段階の運転支援の実施条件が成立した場合は(ステップ120のYES)、警報出力による運転者の自主的な減速がなかったか又は不十分であった場合であり、車両制御ECU10は、運動制御装置をして所定の減速制御を実施させる(ステップ130)。この際、車両制御ECU10は、減速制御で実現されるべき目標減速度を指示してもよい。この場合、目標減速度は、上述と同様、一時停止線で車速がゼロとなるのに必要な減速度が用いられてよい。この場合、図2に示すように、警報出力、減速制御(介入)の順に、2つの異なる運転支援が実行される。これに対して、ステップ220で否定判定となった後、それ以後の周期では、運転者による自主的な減速の結果、第2段階の運転支援の実施条件が成立することなく(ステップ120のNO)、車両位置が注意地点手前所定距離L[m]内に至った場合(ステップ140のYES)には、減速制御が実行されることはなく(即ち、第2段階の運転支援が実行されることなく)、今回検出された注意地点に対する多段階運転支援処理が終了される。従って、この場合は、警報出力のみが実行されたことになる。
【0041】
次に、第1段階の運転支援の実施条件が成立すると同時に、第2段階の運転支援の実施条件が成立する例外的な場合の処理について、図6を参照して説明する。この例外的な場合は、上述の如く、マップマッチング等の自車位置補正処理が、GPS信号に基づく自車位置演算周期と周期が一致しないために生ずる(即ち、自車位置情報に、自車位置補正処理により定期的又は不定期的に比較的大きな変動が生ずるために生ずる)。具体的には、今回周期で自車位置補正処理が実行され、自車位置が注意地点に近いほうに大きく補正されると、図5に示すように、前回周期で第1段階の運転支援の実施条件が成立してなかった状態から、一気に、今回周期で第2段階の運転支援の実施条件が成立する状態(もっとも、第2段階の運転支援の実施条件が成立すると、第1段階の運転支援の実施条件が成立した状態になるが)へと移行する。このような大きな変動に対して何ら対策がなされていないと、第1段階の運転支援が実行されることなく、いきなり第2段階の運転支援が実行されてしまったり、第1段階の運転支援と第2段階の運転支援が同時に実行されてしまったりする虞がある。
【0042】
これに対して、本実施例では、このような場合にも、可能な限り第1段階の運転支援及び第2段階の運転支援が本来の順序で適切に実現されるように、先ず、上記ステップ200にて第1段階の運転支援が実行されると共に、その周期以後の適切な周期で、第2段階の運転支援が実行される。
【0043】
図6は、かかる運転支援遅延処理の一例を示すフローチャートである。図6の処理ルーチンは、第1段階の運転支援の実施条件が初めて成立した同一周期と同一周期で初回の処理が実行され、以後、自車位置情報の演算周期毎に実行されるものであってよい。尚、図6の処理ルーチンが実施される最初の周期では、上述の如く(上記ステップ200にて)、第1段階の運転支援が実行されている。この第1段階の運転支援は、第2段階の運転支援の実施条件が成立した際に実行される運転支援であり、本来ではあればより時間的に前に実行されているべき運転支援であったことになる(即ち、第1段階の運転支援の実施条件が実質的に補正されたことになる(図8における、補正された第1段階の支援実施タイミングT1’参照))。
【0044】
図6を参照するに、ステップ300では、第2段階の運転支援の実施条件が補正すべく、許容最大遅延時間ΔT2が算出される。即ち、第2段階の運転支援の実施条件が成立したからといって、本ステップ300で直ちに第2段階の運転支援を実施したのでは、今回周期の処理ルーチンで第1段階の運転支援及び第2段階の運転支援(即ち、警報出力と減速制御)が同時に実行されることになるので、第1段階の運転支援の意義が低減されると共に、運転者にも違和感を与えてしまう。そこで、本実施例では、遅延可能な場合は、第1段階の運転支援の実行から許容最大遅延時間ΔT2だけ遅らせて第2段階の運転支援を実行することで、かかる不都合が効果的に防止される。
【0045】
許容最大遅延時間ΔT2は、適切な第2段階の運転支援を実現できる条件に対する許容公差分の遅延時間であり、第2段階の運転支援の実施条件が成立した後から計時される固定時間であってよい。或いは、図7に示すように、第2段階の運転支援の実施条件自体を、許容公差を加味して補正することとしてもよい。図7では、横軸に各条件の成立タイミングが示され、縦軸に現在車速が示され、各直線は各条件、即ち必要減速度の各閾値を表す。図7に示す例では、第1段階の運転支援の第1閾値Gxth1は、0.2Gであり、第2段階の運転支援の第2閾値Gxth2は、0.3Gであるとし、タイミング許容交差を±0.05Gとした場合、第2閾値Gxth2が0.05Gだけ増加される。例えば、30km/hの一定車速の場合、第2段階の支援実施タイミングT2は、
T2=V0/(30/3.6)/(0.3×9.8)=2.8[sec]
であるが、
タイミング許容交差が0.05Gだけ増加することで、補正された第2段階の支援実施タイミングT2’は、
T2’ =V0/(30/3.6)/((0.3+0.05)×9.8)=2.8[sec]=2.4[sec]
であり、この場合の許容最大遅延時間ΔT2は、
ΔT2=T2−T2’ =0.4[sec]となる。即ち、この場合、第1段階の運転支援が実施された周期の後、0.4秒後に第2段階の運転支援が実施されることになる(ステップ320)。
【0046】
このようにして第2段階の運転支援の実施条件が補正されると、以後の各周期にて、当該補正された第2段階の運転支援の実施条件が満たされるか否かが判定され、即ち、補正された第2段階の支援実施タイミングT2’が検出される(ステップ310)。そして、補正された第2段階の支援実施タイミングT2’にて、車両制御ECU10は、運動制御装置をして所定の減速制御を実施させる(ステップ320)。この際、車両制御ECU10は、上記ステップ130と同様、減速制御で実現されるべき目標減速度を指示してもよい。この場合、目標減速度は、上述と同様、一時停止線で車速がゼロとなるのに必要な減速度が用いられてよい。
【0047】
このように本実施例によれば、図8(A)に示すように、前回周期で把握された注意地点に対する自車位置の位置関係が、今回周期で行われたGPS誤差補正又はマップマッチング等の定期的又は不定期的な自車位置補正処理により大きく変化したことに起因して、第1段階での支援実施タイミングを逸した場合であっても、図8(B)に示すように、直ちに第1段階の運転支援が実行され、その実行後、許容範囲の遅延時間をおいて第2段階の運転支援が実行される。これにより、運転者等に違和感を与えることなく、多段階の一連の運転支援を適切な順序で実行することができ、GPS誤差補正又はマップマッチング等の定期的又は不定期的な自車位置補正処理に対してロバストな運転支援処理を実現できる。
【0048】
尚、図8(A)には、GPS誤差補正又はマップマッチング等の定期的又は不定期的な自車位置補正処理により、第1段階での支援実施タイミングが、第2段階での支援実施タイミングと一致した場合が図示されているが、本発明は、自車位置補正処理により第1段階の支援実施タイミングと第2段階の支援実施タイミングとが一致する場合だけに適用されるものではなく、例えば自車位置補正処理により第1段階の支援実施タイミングが第2段階の支援実施タイミングに大きく接近した場合にも適用可能である。
【0049】
また、本発明は、自車位置補正処理により第2段階の支援実施タイミングが第1段階の支援実施タイミングに大きく接近した場合にも適用可能である。即ち、本実施例では、初めて第1段階の運転支援の実施条件が成立した周期で第2段階の運転支援の実施条件が成立した場合に対するものであったが、本発明は、第1段階の運転支援の実施条件が成立した後、短い周期で、第2段階の運転支援の実施条件が成立した場合に対しても適用可能である。これは、例えば、第1段階の運転支援の実施条件が成立した後、直ぐに自車位置補正処理が実行され、その結果、第2段階の運転支援の実施条件が成立する場合等が考えられる。この場合、上記ステップ120で第2段階の運転支援の実施条件が成立した際に、第1段階の運転支援の実施条件が成立した後の経過時間(即ち周期数)を算出し、経過時間が異常に短い場合(例えば1,2周期程度の間隔しかなく、運転者が実質的に第1段階の運転支援と第2段階の運転支援が同時に実行された感覚を受けるような場合)、図6の運転支援遅延処理に移行することとしてもよい。
【実施例2】
【0050】
本実施例2では、注意地点が、一時停止地点に代わって、コーナ入口地点である点だけが上述の実施例1と異なる。従って、異なる構成以外については説明を省略する。
【0051】
本実施例2では、車両進行方向前方にコーナが検出された際、ナビゲーションECU20は、当該検出したコーナに関する地図データ(注意地点情報)を地図データベース22内から検索して取り出し、当該取り出した注意地点情報を車両制御ECU10に送信する。
【0052】
車両制御ECU10は、注意地点情報(例えば一定曲率区間の曲率半径R及びカントα)を用いて、当該コーナ走行時の目標速度Vtg[m/s]を算出する。この際、目標速度Vtgは、所定の横加速度(旋回横加速度)の許容限度値をGy[m/s]としたとき、Gy=Vtg/R+α・g/100なる関係に基づいて、Vtg={R(Gy−α・g/100)}1/2により導出されてよい(gは重力加速度)。尚、許容限度値Gyは、車種毎に異なる走行性能等の相違に応じて適宜設定される設計値であるが、可変値であってよく、例えば安全性を重視するユーザに対しては下方修正されてもよい。目標速度Vtgは、コーナ毎に予め生成されていてもよく、この場合、各コーナの目標速度Vtgは、車両制御ECU10のアクセス可能なメモリに記憶されていてもよく、若しくは、車両制御ECU10に注意地点情報の一部として供給されても良い。
【0053】
車両制御ECU10は、現時点までの車両の走行態様に基づいて、該コーナに目標速度Vtgで進入するために必要な減速度を算出する。具体的には、車両制御ECU10は、現在の車速をV0[m/s]として、コーナ入口側のクロソイド区間の開始点(コーナ入口地点)で目標速度Vtgとなるように減速可能区間内で減速する場合の必要減速度Gr[m/s]を算出する。この算出では、簡易的に現在の車速V0が維持されるものと仮定してもよく、或いは、現在までの車速の履歴に基づいて推定可能な以後の加減速態様が加味されてもよい。
【0054】
その他は、上述の実施例1と同様であってよく、算出した必要減速度Grを用いて(必要減速度Gxに対応。)、第1段階の運転支援と第2段階の運転支援の各実施条件が判断され、同様に、上述の運転支援遅延処理が実行されてよい。
【0055】
このように、注意地点は、一時停止地点に限られず、コーナ入口地点、その他、土砂崩れ地点や事故地点等(これらの情報については、ビーコン受信機、FM多重受信機、又は無線端末により外部から取得可能)、多段階の運転支援が必要な地点であれば如何なる地点であってもよい。
【0056】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0057】
例えば、上述の実施例では、自車位置が大きく変動する要因として、GPS誤差補正又はマップマッチングを例示しているが、本発明は特にこれに限定されることは無く、例えば自車位置が干渉測位法で測位されている場合、サイクルスリップ(電波が一時的に遮断され受信不能な状態)が生じた後、電波を再び捕捉した際の演算周期で生ずる変動等に対しても適用可能である。
【0058】
また、上述の実施例において、自車位置補正処理による補正量が大きく許容最大遅延時間ΔT2がゼロ又はそれに近い値になる場合は、やむを得ない場合として、第1段階の運転支援と第2段階の運転支援が同時に実行され、又は、第2段階の運転支援だけが実行されてよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明による車両制御装置の一実施例を示すシステム構成図である。
【図2】支援実施タイミングの説明図である。
【図3】実施例1によるナビゲーションECU20及び車両制御ECU10の処理に関するフローチャートである。
【図4】第1及び第2段階の運転支援の実施条件の説明図である。
【図5】自車位置補正処理により演算周期間で自車位置が大きく変化した様子を示す図である。
【図6】自車位置補正処理により演算周期間で自車位置が大きく変化した場合の補正処理に関するフローチャートである。
【図7】許容最大遅延時間ΔT2の算出方法の一例を示す図である。
【図8】本実施例による運転支援の実施態様の説明図である。
【符号の説明】
【0060】
10 車両制御ECU
20 ナビゲーションECU
22 地図データベース
24 表示装置
26 操作入力部
28 自車位置検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段階で一連の運転支援を行う車両制御装置において、
GPS信号に基づいて所定周期毎の自車位置を検出する自車位置検出手段と、注意地点の位置情報を含む地図データ記憶手段と、前記検出された自車位置と前記地図データ内の各注意地点の位置情報に基づいて進行方向前方の注意地点を検出する注意地点検出手段と、自車の走行状態を検出する走行状態検出手段と、前記検出された走行状態、及び、注意地点に対する自車位置の位置関係に基づいて、少なくとも2段階以上の支援実施タイミングを検出し、各支援実施タイミングでそれぞれ異なる態様の運転支援を行う運転支援手段と、を備え、
前記運転支援手段は、前回周期で把握された注意地点に対する自車位置の位置関係が、今回周期で行われたGPS誤差補正又はマップマッチング等の定期的又は不定期的な自車位置補正処理により大きく変化したことに起因して、第1段階の支援実施タイミングと第2段階の支援実施タイミングとが時間的に近くなった場合、第2段階の支援実施タイミングを補正することを特徴とする、車両制御装置。
【請求項2】
前記注意喚起手段は、前記注意地点に対する自車位置の位置関係の変化に起因して、所期の第1段階の支援実施タイミングを逸した場合、直ちに第1段階の運転支援を行うと共に、それに後続する第2段階の支援実施タイミングを遅らせることを特徴とする、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記注意喚起手段は、前記注意地点に対する自車位置の位置関係の変化に起因して、第1段階での支援実施タイミングが、第2段階での支援実施タイミングに略一致した場合、直ちに第1段階の運転支援を行うと共に、それに後続する第2段階の支援実施タイミングを遅らせることを特徴とする、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記注意喚起手段は、前記検出された走行状態に基づいて決定される許容最大遅延時間ΔT2だけ第2段階の支援実施タイミングを遅らせることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記第2段階の運転支援は、注意地点で所定車速を強制的に実現すべく行う介入制動であり、前記第1段階の運転支援は、警報出力である、請求項1〜4の何れかに記載の車両制御装置。
【請求項6】
多段階で一連の運転支援を行う車両制御装置において、
GPS信号に基づいて所定周期毎の自車位置を検出する自車位置検出手段と、注意地点の位置情報を含む地図データ記憶手段と、前記検出された自車位置と前記地図データ内の各注意地点の位置情報に基づいて進行方向前方の注意地点を検出する注意地点検出手段と、注意地点に対する自車位置の位置関係の検出結果を、所与の条件に適用して、少なくとも2段階以上の支援実施タイミングを検出し、各支援実施タイミングでそれぞれ異なる態様の運転支援を行う運転支援手段と、を備え、
前記運転支援手段は、周期的に把握する注意地点に対する自車位置の位置関係の検出結果が、GPS誤差補正又はマップマッチング等の定期的又は不定期的な自車位置補正処理により大きく変化した場合、前記所与の条件を変更することで、前記一連の運転支援の支援実施タイミングを補正することを特徴とする、車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−34383(P2007−34383A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212609(P2005−212609)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】