説明

車両制御装置

【課題】車両の停車時において、エンジンから発生する熱量を増大させることが可能な車両制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンと、エンジンから入力された駆動力を変速して出力可能な変速機と、エンジンの出力軸と変速機の入力軸とを係合可能なクラッチと、を備えた車両を制御可能な車両制御装置において、エンジン負荷を検出可能なエンジン負荷検出手段と、車両の停車時において、検出されたエンジン負荷が目標エンジン負荷となるように、クラッチの係合状態を制御可能なクラッチ制御部と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行する車両を制御可能な車両制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、開放した自動クラッチを、有段変速機のギア段の切替操作の完了に応答して半係合とした後、完全係合するクラッチの制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このクラッチの制御装置では、クラッチの入力軸および出力軸の回転から、回転速度差および回転速度差の変化率を求め、求められた回転速度差が予め定められた第1判断基準を下回り、且つ、求められた回転速度差の変化率が予め定められた第2判断基準を下回った場合に、クラッチを半係合から完全係合にしている。これにより、クラッチの制御装置は、クラッチの完全係合時に発生するショックを軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−134324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両には、車両から排出されるエミッションを低減する触媒装置が設けられている。このとき、触媒装置の好適に作動させるべく、車両の走行前にできるだけ多くの熱量をエンジンから発生させて、触媒装置の温度を上昇させる必要がある。
【0005】
しかしながら、従来の構成によれば、回転速度差および回転速度差の変化率が、第1判断基準および第2判断基準を下回れば、クラッチを半係合から完全係合することから、車両の停車時において、従来のクラッチの係合制御を行うことができない。つまり、車両の停車を維持した状態でクラッチを完全係合してしまうと、変速機の回転軸は回転することができないため、エンジンの回転軸の回転も停止してしまい、エンジン停止となってしまう。このため、車両の停車時において、車両は、エンジンから発生する熱量を増大させることができず、触媒装置を好適に作動させることが困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、車両の停車時において、エンジンから発生する熱量を増大させることが可能な車両制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両の制御装置は、エンジンと、エンジンから入力された駆動力を変速して出力可能な変速機と、エンジンの出力軸と変速機の入力軸とを係合可能なクラッチと、を備えた車両を制御可能な車両制御装置において、エンジン負荷を検出可能なエンジン負荷検出手段と、車両の停車時において、検出されたエンジン負荷が目標エンジン負荷となるように、クラッチの係合状態を制御可能なクラッチ制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この場合、クラッチの入力軸と出力軸との回転数差からクラッチの滑り量を導出可能な滑り量導出手段をさらに備え、クラッチ制御部は、車両の走行時において、クラッチの滑り量が目標滑り量となるように、クラッチの係合状態を制御することが、好ましい。
【0009】
この場合、エンジンには、エンジンに吸入される吸入空気量を調整可能な空気量調整手段が設けられており、空気量調整手段を制御可能な空気量調整制御部をさらに備え、空気量調整制御部は、車両の停車時において、クラッチ制御部によるクラッチの係合制御と共に、エンジン回転数が目標エンジン回転数となるように、空気量調整手段による吸入空気量の流量を制御することが、好ましい。
【0010】
この場合、変速機には、低速ギア段と高速ギア段とが設けられており、変速機のギアを切替制御可能な変速制御部をさらに備え、変速制御部は、車両の停車時において、クラッチ制御部によるクラッチの係合制御の実行前に、変速機を高速ギア段側へ切り替えていることが、好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両制御装置によれば、クラッチ制御部によりクラッチの係合制御を行うことで、エンジン負荷を目標エンジン負荷とすることができるため、エンジンから発生する熱量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例1に係る車両制御装置によって制御される車両の構成を模式的に表した概略構成図である。
【図2】図2は、実施例1に係る車両制御装置のクラッチの係合制御に関する一連のタイムチャートである。
【図3】図3は、実施例2に係る車両制御装置によって制御される車両のクラッチおよび変速機を表した概略構成図である。
【図4】図4は、実施例2の変形例1に係る車両制御装置によって制御される車両のクラッチおよび変速機を表した概略構成図である。
【図5】図5は、実施例2の変形例2に係る車両制御装置によって制御される車両のクラッチおよび変速機を表した概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照して、本発明に係る車両制御装置について説明する。なお、以下の実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0014】
先ず、図1を参照して、実施例1に係る車両制御装置30により制御される車両1の駆動系2について説明する。車両1の駆動系2は、駆動源となるエンジン5と、エンジン5のクランクシャフト6(出力軸)に連結されたクラッチ7と、クラッチ7の出力軸8に連結された変速機9とを備えている。このとき、クラッチ7および変速機9は一体に構成されており、いわゆるオートメイテッド・マニュアル・トランスミッションとして機能している。
【0015】
また、変速機9の出力軸10には、デファレンシャルギヤ11が連結しており、デファレンシャルギヤ11には、ドライブシャフト12を介して駆動輪13が連結している。さらに、ドライブシャフト12にはブレーキ装置14が設けられており、ブレーキ装置14は、車両1を制動可能に構成されている。従って、エンジン5が駆動すると、その駆動力は、クラッチ7を介して変速機9に入力され、デファレンシャルギヤ11及びドライブシャフト12を介して駆動輪13に伝達される。
【0016】
エンジン5は、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンが用いられており、エンジン5には、エンジン5内に取り込まれる吸入空気量を調整可能なスロットルバルブ15が設けられている。また、エンジン5内には、吸入空気量の流量を検出可能なエアフローセンサ16(空気量調整手段)や、エンジン回転数を検出可能なクランク角センサ17等の各種センサが設けられている。そして、エアフローセンサ16およびクランク角センサ17等の各種センサは、後述するエンジンECU35に接続されている。
【0017】
変速機9は、例えば、高速ギア段、低速ギア段および後進ギア段で構成された有段変速機が用いられており、シフトアクチュエータ20によりギア段を自動的に切替可能に構成されている。そして、シフトアクチュエータ20は、後述するトランスミッションECU36に接続され、トランスミッションECU36は、シフトアクチュエータ20を制御することにより、所定のギア段に切り替えることができる。
【0018】
クラッチ7は、例えば、シングルクラッチで構成されており、クラッチアクチュエータ21によりクラッチ7を自動的に係合可能に構成されている。そして、クラッチアクチュエータ21は、後述するトランスミッションECU36に接続され、トランスミッションECU36は、クラッチアクチュエータ21を制御することにより、クラッチ7の係合状態を制御することができる。つまり、クラッチ7の係合状態とは、クラッチ7の開放から半係合状態を経て完全係合(ロックアップ)するまでの間の係合状態である。また、クラッチ7の入力軸には、入力軸の回転数を検出する入力軸回転数検出センサ25が設けられると共に、クラッチ7の出力軸には、出力軸の回転数を検出する出力軸回転数検出センサ26が設けられている。
【0019】
ブレーキ装置14は、例えば、ハイドロリック式(油圧式)ブレーキであり、このブレーキ装置14には、油圧制御装置23から調圧された制動油圧が供給されるように構成されている。そして、油圧制御装置23は、後述するブレーキECU37に接続され、ブレーキECU37は、油圧制御装置23を制御することにより、制動力を発生させることができる。
【0020】
次に、上記した車両1の駆動系2を制御する車両制御装置30について説明する。車両制御装置30は、エンジン5を制御するエンジンECU35(エンジン制御部)と、クラッチ7および変速機9を制御するトランスミッションECU36(クラッチ制御部および変速制御部)と、油圧制御装置23を介してブレーキ装置14を制御するブレーキECU37とを有している。そして、エンジンECU35、トランスミッションECU36およびブレーキECU37は、相互に通信可能に構成されている。
【0021】
エンジンECU35は、エンジン5内に設けられたクランク角センサ17により検出されたクランク角に基づいて、エンジン回転数を導出する。また、エンジンECU35は、エアフローセンサ16により検出した吸入空気量や、クランク角センサ17により検出したエンジン回転数等に基づいて、エンジン負荷を導出する。また、エンジンECU35には、スロットルバルブ15が接続されており、スロットルバルブ15を制御する空気量調整制御部40が設けられている。
【0022】
空気量調整制御部40は、エンジン5内のスロットルバルブ15を制御してスロットル開度を調整し、エンジン5内に取り込まれる吸入空気量の流量を制御することで、エンジン回転数を制御している。
【0023】
トランスミッションECU36は、クラッチ7および変速機9を制御可能に構成されており、クラッチ7を制御可能なクラッチ制御部43と、変速機9を制御可能な変速制御部42とを有している。変速制御部42は、要求された所定のギア段となるように、シフトアクチュエータ20を制御することで、変速機9のギア段を切替制御しており、また、クラッチ制御部43は、クラッチアクチュエータ21を制御することで、クラッチ7の係合状態を制御している。なお、詳細は後述するが、クラッチ制御部43は、エンジンECU35で導出されたエンジン負荷が目標エンジン負荷となるように、クラッチ7の係合状態を制御する。
【0024】
ブレーキECU37は、油圧制御装置23を介してブレーキ装置14を制御するブレーキ制御部44を有しており、ブレーキ制御部44は、油圧制御装置23の制動油圧を調整することにより、ブレーキ装置14の制動力を制御している。
【0025】
ところで、車両1を好適に走行させるには、車両1の走行前にエンジン5を暖気させることが好ましい。つまり、エンジン5を暖気させることで、例えば、車両1に設けられた触媒装置の触媒温度を上昇させることができ、これにより、エミッションの排出を好適に抑制することができる。そこで、実施例1の車両制御装置30では、エミッションの排出を好適に抑制すべく、車両1の停車時においてエンジン負荷が目標エンジン負荷となるようにクラッチ7の係合状態を制御している。以下、車両1の停止時における車両制御装置30のクラッチ7の係合制御について詳細に説明する。
【0026】
車両1の走行前、すなわち、車両1の停車時において、トランスミッションECU36は、エンジン負荷を目標エンジン負荷とすべく、クラッチ制御部43によりクラッチ7の係合状態を制御することで、エンジン負荷を調整している。つまり、クラッチ制御部43は、クラッチ7を開放してしまうと、エンジン5の出力軸に変速機9の入力軸が係合されないため、エンジン負荷を増加させることはできない。一方、クラッチ制御部43は、クラッチ7を完全係合してしまうと、エンジン5の出力軸に変速機9の入力軸が完全に係合するが、車両1が停止しているため、変速機9の入力軸が回転せずにエンジン5の出力軸の回転が停止し、エンジン5が停止してしまう。このため、クラッチ制御部43は、クラッチ7を半係合状態とし、半係合状態において、クラッチ7の係合力を調整することで、エンジン負荷を目標エンジン負荷とする。ここで、目標エンジン負荷とは、触媒温度を好適に上昇させることが可能な負荷である。
【0027】
また、車両1の停車時における上記のクラッチ7の係合制御時において、トランスミッションECU36は、変速機9のギア段を高速ギア段側へ切り替えている。つまり、変速機9のギア段を低速ギア段側とした状態でクラッチ7を半係合状態とすると、変速機9は、エンジン5から入力された入力トルクを増大させて、変速機9の出力軸から出力する。この場合、変速機9の出力トルクが増大すると、車両1が発進してしまう虞がある。一方、変速機9のギア段を高速ギア段側とした状態でクラッチ7を半係合状態とすると、変速機9は、エンジン5から入力された入力トルクを、低速ギア段時における出力トルクに比して小さい出力トルクとすることができる。この場合、高速ギア段時における変速機9の出力トルクは、低速ギア段時における出力トルクに比して小さいため、車両1の発進を低速ギア段時に比して抑制することができる。
【0028】
このとき、上記のギア段の切替制御時において、ブレーキECU37は、ブレーキ装置14による制動を行っている。つまり、車両1の停車時において、クラッチ7を半係合状態とすると、車両1が発進してしまう虞があるため、ブレーキECU37は、ブレーキ装置14を作動させて、車両1を制動させる。そして、この状態において、トランスミッションECU36が、上記したクラッチ7の係合制御を行うことにより、車両1の停車状態を維持させることができ、これにより、車両1の安全性の向上を図ることができる。
【0029】
さらに、車両1の停車時における上記のクラッチ7の係合制御時において、エンジンECU35は、エンジン回転数が目標エンジン回転数となるように、スロットルバルブ15を制御している。つまり、クラッチ7を半係合状態とすると、エンジン負荷が高くなるため、エンジン回転数が減少するが、過度に減少してしまうと、エンジン5が停止してしまう虞がある。このため、エンジンECU35は、スロットルバルブ15のスロットル開度を開くことにより、エンジン回転数の減少を抑制し、エンジン5が停止することを回避している。ここで、目標エンジン回転数とは、エンジン停止とならない回転数である。
【0030】
一方、車両1の走行時において、トランスミッションECU36は、クラッチ7の滑り量を目標滑り量とすべく、クラッチ制御部43によりクラッチ7の係合状態を制御することで、エンジン負荷を調整している。具体的に、トランスミッションECU36は、入力軸回転数検出センサ25により検出された入力回転数と出力軸回転数検出センサ26により検出された出力回転数との差分であるクラッチ7の滑り量が目標滑り量となるように、クラッチ制御部43によりクラッチ7の係合状態を制御する。ここで、目標滑り量とは、車両1の走行中において、触媒温度を好適に上昇させることが可能な滑り量である。
【0031】
次に、図2を参照して、停車した車両1がエンジン5を始動して走行するまでの一連のクラッチ7の係合制御に係るタイムチャートについて説明すると共に、従来の一連のクラッチ7の係合制御に係るタイムチャートと比較する。先ず、エンジン5を始動させる(T1)と、エンジン5の回転抵抗に抗してエンジン5の回転数が上昇する一方、エンジン負荷が減少してゆく。そして、所定時間の経過後、車両制御装置30は車両1が停車状態であるとして、トランスミッションECU36により、変速機9のギア段を高速ギア段側に切り替えると共に、ブレーキECU37により、ブレーキ装置14を作動させて車両1の停車状態を維持する(T2)。この後、トランスミッションECU36は、クラッチ制御部43により目標エンジン負荷となるようにクラッチ7の係合制御を行うと共に、エンジンECU35は、目標エンジン回転数となるようにスロットルバルブ15の開閉制御を行う(T3)。これにより、エンジン5は、目標エンジン回転数および目標エンジン負荷を維持することで、エンジン5からの熱量を増大させることができるため、触媒温度を好適に上昇させることができる。
【0032】
一方、従来のクラッチ7の係合制御では、車両1の停車時において、クラッチ7が開放状態となるため、実施例1のクラッチ7の係合制御に比してエンジン負荷が低下することで、エンジン5からの熱量を増大させることができず、実施例1の触媒温度の上昇に比して触媒温度の上昇も鈍化する。
【0033】
そして、車両1の発進時となると、車両制御装置30は車両1が走行状態に移行するとして、車両1の発進前に、トランスミッションECU36は、変速機9のギア段を低速ギア段側に切り替えると共に、ブレーキECU37は、ブレーキ装置14の作動を解除して車両1を発進状態とする(T4)。この後、トランスミッションECU36は、目標エンジン負荷となるクラッチ7の係合制御に代えて、クラッチ7が目標滑り量となるようにクラッチ7の係合制御を行う。これにより、エンジン負荷が増加し、これに伴ってエンジン回転数が増加することで、エンジン5からの熱量を増大させることができるため、車両1の走行時においても、触媒温度を好適に上昇させることができる。
【0034】
一方、従来のクラッチ7の係合制御では、クラッチ7が目標滑り量となるように制御されていないため、実施例1のクラッチ7の係合制御に比してエンジン負荷が低下することで、エンジン5からの熱量を増大させることができず、実施例1の触媒温度の上昇に比して触媒温度の上昇も鈍化する。
【0035】
この後、クラッチ7が完全係合する(T5)と、エンジン5に加わるエンジン負荷が最大となり、これ以上、エンジン負荷を上昇させることができなくなるため、エンジン回転率およびエンジン負荷は、従来と同様の大きさとなる。このため、実施例1の触媒温度の上昇と、従来の触媒温度の上昇とは、ほぼ同程度となる。
【0036】
以上の構成によれば、車両1の停車時において、トランスミッションECU36は、目標エンジン負荷率となるようにクラッチ7の係合制御を行うことで、エンジン5からの熱量を従来に比して増大させることができ、これにより、触媒温度を上昇させることができる。このため、排気エミッションを低減することができ、車両1を好適に走行させることができる。
【0037】
また、車両1の停車時において、エンジンECU35は、目標エンジン回転数となるようにスロットルバルブ15の開閉制御を行うことで、エンジン回転数の低下または停止を回避することができるため、エンジン5を好適に駆動させることができる。
【0038】
さらに、車両1の停車時における上記のクラッチ7の係合制御時において、トランスミッションECU36は、変速機9のギア段を高速ギア段側へ切り替えることで、変速機9のギア段を低速ギア段側へ切り替えた場合に比して、変速機9の出力トルクを小さくすることができる。これにより、車両1の発進を抑制することができ、車両1の安全性を確保することができる。
【0039】
また、車両1の停車時における上記のクラッチ7の係合制御時において、ブレーキ装置14を作動させることで、車両1の停車状態を維持させることができるため、車両1の安全性を確保することができる。
【実施例2】
【0040】
次に、図3ないし図5を参照して、実施例2に係る車両制御装置50について説明する。なお、重複した記載を避けるべく、異なる部分についてのみ説明する。実施例1の車両制御装置30により制御される車両1の駆動系2において、クラッチ7は、シングルクラッチで構成されていたが、実施例2に係る車両制御装置50により制御される車両1の駆動系2において、クラッチ51は、デュアルクラッチで構成されている。以下、クラッチ51およびクラッチ51に連結した変速機52について説明する。
【0041】
図3に示すように、クラッチ51は、エンジン5から出力された回転力が入力される入力軸55と、入力軸55に対し変速機52側(先端側)に設けられた第1クラッチ56と、第1クラッチ56に対しエンジン5側(基端側)に設けられた第2クラッチ57と、で構成されている。そして、クラッチ51は、クラッチアクチュエータ59により第1クラッチ56および第2クラッチ57を自動的に係合可能に構成されている。
【0042】
また、変速機52は、前進6速および後進1速のギア段で構成されており、シフトアクチュエータ60によりギア段を自動的に切替可能に構成されている。変速機52は、第1クラッチ56により連結される第1伝達軸と、第2クラッチ57により連結される第2伝達軸62と、変速後の回転力を出力する出力軸63と、各伝達軸61,62と出力軸63との間に設けられた前進6速の各ギア段G1〜G6,GBとを備えている。そして、第1伝達軸61には奇数ギア段G1,G3,G5および後進ギア段GBが、第2伝達軸62には偶数ギア段G2,G4,G6が配設されている。
【0043】
具体的には、第1伝達軸61の先端に後進ギア段GBが設けられ、後進ギア段GBの基端側に第5速ギア段G5が設けられ、第5速ギア段G5の基端側に第3速ギア段G3が設けられ、第3速ギア段G3の基端側に第1速ギア段G1が設けられている。また、第2伝達軸62の先端に第6速ギア段G6が設けられ、第6速ギア段G6の基端側に第4速ギア段G4が設けられ、第4速ギア段G4の基端側に第2速ギア段G2が設けられている。そして、シフトアクチュエータ60は、選択された各ギア段G1〜G6,GBへ切り替えることにより、変速機52は、各伝達軸61,62へ入力された回転力を、切り替えられた各ギア段G1〜G6,GBを介して出力軸63へ出力することができる。
【0044】
次に、上記のクラッチ51および変速機52で構成された場合の車両1の停車時におけるクラッチ51の係合制御について説明する。図3に示すように、車両1の停車時において、トランスミッションECU70は、シフトアクチュエータ60を制御して変速機52の各ギア段G1〜G6,GBを高速ギア段側へ切り替えている。例えば、トランスミッションECU70は、第6速ギア段G6へ切り替える場合、シフトアクチュエータ60を制御して、第2伝達軸62に配設された第6速ギア段G6を連結させる。この状態において、トランスミッションECU70は、クラッチアクチュエータ59を制御して、第1クラッチ56を開放する一方で、第2クラッチ57を係合制御している。これにより、トランスミッションECU70は、変速機52のギア段G1〜G6,GBを高速ギア段側とした状態で、クラッチ51の係合制御を行うことができるため、車両1の安全性を確保しつつ、触媒温度を好適に上昇させることができる。
【0045】
続いて、実施例2の車両制御装置50の変形例1に関するクラッチ51の係合制御について説明する。図4に示すように、実施例2では、車両1の停車時におけるクラッチ51の係合制御時において、トランスミッションECU70は、第1クラッチ56を開放して第2クラッチ57を係合制御すると共に、第2クラッチ57により係合される第2伝達軸62のギア段を高速ギア段側としたが、変形例1のクラッチ52の係合制御では、トランスミッションECU70は、第1伝達軸61において後進ギア段GBに切り替えると共に第2伝達軸62において低速ギア段側に切り替え、この状態において、第1クラッチ56および第2クラッチ57の両方を係合制御している。
【0046】
具体的に、車両1の停車時において、トランスミッションECU70は、シフトアクチュエータ60を制御して、第1伝達軸61における変速機52のギア段を後進ギア段GBに切り替えると共に、第2伝達軸62における変速機52のギア段を低速ギア段側(例えば、第2速ギア段G2)に切り替える。この状態において、トランスミッションECU70は、クラッチアクチュエータ59を制御して、第1クラッチ56および第2クラッチ57を係合制御している。これにより、変速機52の第2伝達軸62において低速ギア段側とした状態であっても、変速機52の第1伝達軸61において後進ギア段GBとすることができる。このため、第2クラッチ57の係合制御により車両1が前進する方向へ駆動力が加わったとしても、第1クラッチ56の係合制御により車両1が後進する方向へ駆動力が加わる。これにより、トランスミッションECU70は、駆動力を相殺することができるため、車両1の安全性を確保しつつ、触媒温度を好適に上昇させることができる。
【0047】
最後に、実施例2の車両制御装置50の変形例2に関するクラッチ51の係合制御について説明する。図5に示すように、実施例2では、車両1の停車時におけるクラッチ51の係合制御時において、第1クラッチ56を開放して第2クラッチ57を係合制御すると共に、第2クラッチ57により係合される第2伝達軸62のギア段を高速ギア段側としたが、変形例2のクラッチ51の係合制御では、車両1の発進前に、開放した第1クラッチ56により係合する第1伝達軸61のギア段を、低速ギア段側に予め切り替えておき、車両1の発進時において、係合制御した第2クラッチ57を開放すると共に、開放した第1クラッチ56を係合制御する。
【0048】
具体的に、車両1の発進前において、トランスミッションECU70は、クラッチアクチュエータ59を制御して、第1クラッチ56を開放すると共に第2クラッチ57の係合制御を行っているが、このとき、トランスミッションECU70は、シフトアクチュエータ60を制御して、第1伝達軸61のギア段を第1速ギア段G1に予め切り替える。そして、車両1の発進時において、トランスミッションECU70は、第1クラッチ56を係合制御すると共に第2クラッチ57を開放する。これにより、トランスミッションECU70は、車両1の発進を迅速に行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明に係る車両制御装置は、触媒装置を有する車両のクラッチを制御する場合において有用であり、特に、オートメイテッド・マニュアル・トランスミッションを制御する場合に適している。
【符号の説明】
【0050】
1 車両
2 駆動系
5 エンジン
6 クランクシャフト
7 クラッチ
9 変速機
11 デファレンシャルギヤ
12 ドライブシャフト
13 駆動輪
14 ブレーキ装置
15 スロットルバルブ
16 エアフローセンサ
17 クランク角センサ
20 シフトアクチュエータ
21 クラッチアクチュエータ
23 油圧制御装置
25 入力軸回転数検出センサ
26 出力軸回転数検出センサ
30 車両制御装置
35 エンジンECU
36 トランスミッションECU
37 ブレーキECU
40 空気量調整制御部
42 変速制御部
43 クラッチ制御部
44 ブレーキ制御部
50 車両制御装置(実施例2)
51 クラッチ(実施例2)
52 変速機(実施例2)
55 入力軸
56 第1クラッチ
57 第2クラッチ
59 クラッチアクチュエータ(実施例2)
60 シフトアクチュエータ(実施例2)
61 第1伝達軸
62 第2伝達軸
63 出力軸
70 トランスミッションECU(実施例2)
G1〜G6,GB ギア段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンから入力された駆動力を変速して出力可能な変速機と、前記エンジンの出力軸と前記変速機の入力軸とを係合可能なクラッチと、を備えた車両を制御可能な車両制御装置において、
エンジン負荷を検出可能なエンジン負荷検出手段と、
前記車両の停車時において、検出されたエンジン負荷が目標エンジン負荷となるように、前記クラッチの係合状態を制御可能なクラッチ制御部と、を備えたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記クラッチの入力軸と出力軸との回転数差から前記クラッチの滑り量を導出可能な滑り量導出手段をさらに備え、
前記クラッチ制御部は、前記車両の走行時において、前記クラッチの滑り量が目標滑り量となるように、前記クラッチの係合状態を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記エンジンには、前記エンジンに吸入される吸入空気量を調整可能な空気量調整手段が設けられており、
前記空気量調整手段を制御可能な空気量調整制御部をさらに備え、
前記空気量調整制御部は、前記車両の停車時において、前記クラッチ制御部によるクラッチの係合制御と共に、エンジン回転数が目標エンジン回転数となるように、前記空気量調整手段による吸入空気量の流量を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記変速機には、低速ギア段と高速ギア段とが設けられており、
前記変速機のギアを切替制御可能な変速制御部をさらに備え、
前記変速制御部は、前記車両の停車時において、前記クラッチ制御部によるクラッチの係合制御の実行前に、前記変速機を高速ギア段側へ切り替えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−255806(P2010−255806A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109255(P2009−109255)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】