説明

車両制御装置

【課題】自動変速機の制御の複雑化を抑制できる車両制御装置を提供すること。
【解決手段】自動変速機が駆動状態でアップシフトさせる駆動アップシフト制御を実行可能であり、駆動アップシフト制御は、変速前に対し変速中の自動変速機の要求入力トルクをトルク減少側の値である所定量変化させるものであり、自動変速機が被駆動状態でのダウンシフトにおいて、現在の変速段の係合手段を変速前係合手段とし、ダウンシフトの目標変速段の係合手段を変速後係合手段として(S10)駆動アップシフト制御を作動させる(S20)。ダウンシフトにおける変速前に対する変速中の自動変速機の要求入力トルクの変化量は、現在の変速段を変速後の変速段、目標変速段を変速前の変速段として駆動アップシフト制御を作動させる場合の所定量を正負反転した値とされる(S60)。ダウンシフト所定量のトルク変化を実現するMG出力トルクの制御が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータジェネレータを発電させ、車両の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する回生制御の効率を向上させるためなど、多くの変速制御が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両の減速状態を検出した時に、モータジェネレータを発電させ、制動エネルギーを回収させるモータジェネレータ制御手段と、変速機を、現在の変速段と現在の変速段よりも大きなギヤ比の変速段との中で、回収可能な制動エネルギーが最大となる最適変速段に変速させる変速制御手段を有する車両用駆動装置の制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−9407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回生時のダウンシフト制御など、新規モードを追加するたびに自動変速機の制御に新たな制御を追加すると、制御ロジックの複雑化などの問題が生じる。
【0006】
本発明の目的は、自動変速機の制御の複雑化を抑制できる車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両制御装置は、モータジェネレータと、前記モータジェネレータと異なる原動機と、前記モータジェネレータおよび前記原動機と駆動輪との間でトルクを伝達する有段の自動変速機と、が搭載された車両を制御する車両制御装置であって、前記自動変速機が駆動状態で前記自動変速機をアップシフトさせる駆動アップシフト制御を実行可能であり、前記駆動アップシフト制御は、前記自動変速機において変速前の変速段に対応する係合手段である変速前係合手段を解放すると共に変速後の変速段に対応する係合手段である変速後係合手段を係合させ、かつ、前記変速前の変速段と前記変速後の変速段とに基づいて、前記駆動アップシフト制御の変速前に対して、変速中の前記自動変速機の要求入力トルクをトルク減少側の値である所定量変化させるものであり、前記自動変速機が被駆動状態でのダウンシフトにおいて、前記自動変速機の現在の変速段に対応する係合手段を前記変速前係合手段とし、前記ダウンシフトの目標変速段に対応する係合手段を前記変速後係合手段として前記駆動アップシフト制御を作動させ、かつ、前記ダウンシフトにおける変速前に対する変速中の前記自動変速機の要求入力トルクの変化量は、前記現在の変速段を前記変速後の変速段とし、前記ダウンシフトの目標変速段を前記変速前の変速段として前記駆動アップシフト制御を作動させる場合の前記所定量を正負反転したダウンシフト所定量とされ、
前記ダウンシフトにおいて、前記ダウンシフト所定量のトルク変化を実現するように前記モータジェネレータの出力トルクの制御が行われることを特徴とする。
【0008】
本発明の車両制御装置において、前記ダウンシフト所定量が、前記モータジェネレータの出力トルクの増加量の上限値を超える場合には、前記駆動アップシフト制御を作動させることによる前記ダウンシフトを禁止することを特徴とする。
【0009】
本発明の車両制御装置において、前記ダウンシフトは、前記モータジェネレータにより回生を行っているときに、前記モータジェネレータの状態量に基づくダウンシフト要求によって行われるものであることを特徴とする。
【0010】
本発明の車両制御装置において、前記ダウンシフトの目標変速段は、前記モータジェネレータの回生効率に基づいて設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる車両制御装置は、自動変速機が駆動状態で自動変速機をアップシフトさせる駆動アップシフト制御を実行可能であり、自動変速機が被駆動状態でのダウンシフトにおいて、自動変速機の現在の変速段に対応する係合手段を変速前係合手段とし、ダウンシフトの目標変速段に対応する係合手段を変速後係合手段として駆動アップシフト制御を作動させる。また、ダウンシフトにおける変速前に対する変速中の自動変速機の要求入力トルクの変化量は、現在の変速段を変速後の変速段とし、ダウンシフトの目標変速段を変速前の変速段として駆動アップシフト制御を作動させる場合の所定量を正負反転したダウンシフト所定量とされる。また、ダウンシフトにおいて、ダウンシフト所定量のトルク変化を実現するようにモータジェネレータの出力トルクの制御が行われる。これにより、新たな制御を追加することなく、自動変速機が被駆動状態でのダウンシフトを実行可能となり、自動変速機の制御の複雑化を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態に係る車両制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施形態に係る車両の要部の概略構成を示す図である。
【図3】図3は、実施形態の車両制御装置によるパワーオンアップシフトに係るタイムチャートである。
【図4】図4は、実施形態の車両制御装置による回生ダウンシフトに係るタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる車両制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
(実施形態)
図1から図4を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、モータジェネレータと、モータジェネレータと異なる原動機と、モータジェネレータおよび原動機と駆動輪との間でトルクを伝達する有段の自動変速機と、が搭載された車両を制御する車両制御装置に関する。図1は、本発明の実施形態に係る車両制御装置の動作を示すフローチャート、図2は、実施形態に係る車両の要部の概略構成を示す図である。
【0015】
本実施形態では、エンジンとモータジェネレータ(以下、「MG」と記載する)とを備えたハイブリッド車両において、MGのみを動力源とする電気自動車モードの車両減速時に、ブレーキに代わりMGを用いてバッテリへの充電モード(回生)を実施することで燃費を向上させる。また、車速の低下に伴い、MGの回転数が低下した場合には、自動変速機のダウンシフトを行うことによってMGの回転数を上昇させ、MGの回生効率を高める回生ダウンシフトを行う。
【0016】
ここで、回生ダウンシフトのための制御をハイブリッド車両の機能として追加する場合に、従来の減速時ダウンシフト制御を改良して新たに回生ダウンシフト制御を追加作成することが考えられる。例えば、従来のエンジン車両において、車両減速時にダウンシフトをさせることによってエンジン回転数を上昇させ、エンジンのフューエルカット時間を延ばす減速時ダウンシフト制御が知られているが、こうしたダウンシフト制御を改良して回生ダウンシフト制御を作成することは可能である。しかしながら、新規モードを追加するたびに新たな制御を追加すると、制御の複雑化を招くこととなる。ハイブリッド車両においては、エンジン等とMGとの2種類の原動機を備え、制御モードが増えやすい。例えば、自動変速機の制御を構築する際に、原動機の状態、アップシフト、ダウンシフト、駆動、被駆動の組み合わせでそれぞれに制御を作るとすると、制御が複雑化してしまう。このため、制御の複雑化を抑制できることが望まれる。
【0017】
本実施形態では、新たな制御を追加することなく、パワーオンアップシフト制御を利用して回生ダウンシフトを実行する。従来のエンジン車両とは異なり、ハイブリッド車両ではMGによるトルクアップが可能であることを活かし、回生ダウンシフト制御を新規追加することに代えて、入力トルク情報の正負反転、トルクダウンのための遅角制御の代わりにMGによるトルクアップ制御を作動、などにより辻褄を合わせ、パワーオンアップシフト制御を作動させる。これにより、新たな制御を追加することなく、回生ダウンシフトの変速制御を実施可能とする。
【0018】
本実施形態は、以下のハード要件を備えることを前提としている。
(1)原動機を複数切り替えられること。例えば、図2に示すようにエンジン(符号20参照)とMG(符号30参照)とを切り離すクラッチ(符号22参照)が存在すること。あるいは、トヨタハイブリッドシステム(THS)のように、プラネタリーギヤを用いてEVとEHVとを切り替えられること。
【0019】
また、本実施形態は、以下のソフト要件を備えることを前提としている。
(1)回生中の変速と判断できること。
(2)変速前の変速段と変速後の変速段が定められたとき、動かすべきアクチュエータが規定されていること。
(3)変速進行の判断を出力軸回転数×ギヤ比と入力軸回転数の差分で判断できること。
(4)MGトルク制御ができること。
(5)駆動時のアップシフト用の制御が存在すること。
(6)上記ソフト要件の(1)から、(2)、(3)の情報をアップシフト用に変換できること。
(7)上記ソフト要件の(3)、(6)から変速の終了を判断し、変換を元に戻せること。
【0020】
図2において、符号1は、ハイブリッド車両を示す。ハイブリッド車両1は、原動機としてのエンジン20と、MG30と、自動変速機40とを有する。エンジン20は、熱機関であり、本実施形態では、エンジン20が燃焼室内で燃焼させた燃料の熱エネルギーを機械的エネルギーに変換して動力として出力する内燃機関である場合を例に説明する。エンジン20は、出力軸(クランクシャフト)21から機械的な動力を出力する公知の内燃機関であることができる。エンジン20の出力軸21とMG30の回転軸31との間には、クラッチ22が設けられている。クラッチ22は、出力軸21と回転軸31とを接続または切断するものであり、例えば摩擦係合式のクラッチであることができる。クラッチ22には、制御信号に応じてクラッチ22の係合または解放状態を切り替える図示しないアクチュエータが設けられている。
【0021】
MG30は、回転軸31と連結され、回転軸31と一体に回転するロータ32と、ロータ32の径方向外側に配置され、車体側に固定されたステータ33とを有する。MG30は、供給された電力を機械的な動力(モータ出力トルク)に変換して回転軸31から出力するモータ(電動機)としての機能と、回転軸31に入力された機械的な動力を電力に変換して回収するジェネレータ(発電機)としての機能とを有する。MG30は、図示しないバッテリと接続されており、バッテリとの間で電力を授受することができる。MG30がモータとして機能する場合、ステータ33は、電力の供給を受けて回転磁界を発生させ、その回転磁界に引き付けられてロータ32が回転して出力軸31からモータ出力トルクを出力する。一方、MG30がジェネレータとして機能する場合、出力軸31に入力されるトルクによりロータ32が回転し、その回転がステータ33で交流電力に変換される。MG30には、回転軸31の回転数を検出する図示しないレゾルバが設けられており、レゾルバの検出結果を示す信号がECU100に出力される。
【0022】
自動変速機40は、トルクコンバータ50と、ギヤトレーン(変速機構)60と、電動式のオイルポンプ70と、油圧制御装置80とを有する。トルクコンバータ50は、入力軸51、出力軸54、流体伝達機構52およびロックアップクラッチ53を有する。入力軸51は、MG30の回転軸31と接続されており、回転軸31と一体に回転する。流体伝達機構52は、入力軸51と出力軸54との間でトルクを伝達できる流体継手である。ロックアップクラッチ53は、入力軸51と出力軸54とを接続または切断するクラッチである。ロックアップクラッチ53が係合すると、トルクコンバータ50は、流体伝達機構52を介さずに入力軸51から出力軸54に直接トルクを伝達することができる。
【0023】
トルクコンバータ50の出力軸54は、ギヤトレーン60の入力軸61に接続されており、トルクコンバータ50を介して伝達されるエンジン20やMG30の出力トルクは、入力軸61に入力される。ギヤトレーン60は、トルクコンバータ50から入力される回転を変速して、出力軸62から図示しない駆動輪に出力する有段の変速機構である。
【0024】
ギヤトレーン60は、例えば、変速要素としての図示しない複数の遊星歯車機構と、摩擦係合手段としての図示しない複数のクラッチおよびブレーキとを組み合わせて構成される多段式の変速装置である。変速要素が有するキャリヤやリングギヤ等の回転要素において、停止させる回転要素をブレーキにより切り替え、また、入力されるトルクを伝達する回転要素をクラッチで切り替えることにより、ギヤトレーン60の変速段が変更される。
【0025】
オイルポンプ70は、各摩擦係合手段を動作させるための油圧を発生させる。油圧制御装置80は、オイルポンプ70が発生させる油圧を摩擦係合手段に配分すると共に、摩擦係合手段に配分する油圧を調整することができる。ギヤトレーン60では、変速段ごとに係合させる摩擦係合手段の組合せが決められており、油圧制御装置80は、ギヤトレーン60の目標変速段に応じて係合させる各摩擦係合手段に油圧を供給する。これにより、油圧制御装置80は、変速前の変速段に対応する摩擦係合手段を解放すると共に変速後の変速段に対応する摩擦係合手段を係合させる。油圧制御装置80は、各変速段の摩擦係合手段に対応するソレノイドバルブ(クラッチソレノイド)を有しており、変速前後の変速段に対応するソレノイドバルブをそれぞれ制御して変速を実行する。
【0026】
ハイブリッド車両1には、車両の各部を制御するECU(車両制御装置)100が設けられている。ECU100は、エンジン20、クラッチ22、MG30および自動変速機40をそれぞれ制御する。ECU100は、エンジン20の燃料噴射量や燃料噴射時期、点火時期等を制御することで、エンジン20から出力される動力(エンジン出力トルク)の大きさを調整する。また、ECU100は、MG30とバッテリとの間に設けられた図示しないインバータの動作を制御することで、MG30を制御する。また、ECU100は、トルクコンバータ50および油圧制御装置80を制御して変速制御を行う。
【0027】
ECU100は、自動変速機40の駆動状態で自動変速機40をアップシフトさせるパワーオンアップシフト制御(駆動アップシフト制御)を実行可能に構成されている。ここで、自動変速機40の「駆動状態」とは、原動機であるエンジン20やMG30によって駆動されて自動変速機40が回転している状態であり、「被駆動状態」とは、駆動輪によって駆動されて自動変速機40が回転している状態である。パワーオンアップシフト制御は、例えば、アクセルONで走行中に、エンジン20等の動力源の出力が増加することで実行される。パワーオンアップシフトは、自動変速機40において変速前の変速段に対応する係合手段(クラッチ、ブレーキ)である変速前係合手段を解放すると共に変速後の変速段に対応する係合手段である変速後係合手段を係合させ、かつ、変速前の変速段と変速後の変速段とに基づいて、パワーオンアップシフト制御の変速前に対して、変速中の自動変速機40の要求入力トルクをトルク減少側の値である所定量変化させるものである。
【0028】
図3は、本実施形態の車両制御装置によるパワーオンアップシフトに係るタイムチャートである。図3において、(a)は、ギヤトレーン60の入力軸61の回転数を示す。符号301は、パワーオンアップシフト制御において(n−1)速変速段からn速変速段にアップシフトするときの入力軸61の回転数の推移を示す。符号300aは、出力軸62の回転数と(n−1)速変速段のギヤ比との積を示し、符号300bは、出力軸62の回転数とn速変速段のギヤ比との積を示す。
【0029】
図3の(b)は、油圧制御装置80のクラッチソレノイドの出力油圧を示す。符号302は、変速前の(n−1)速変速段に対応する摩擦係合手段(変速前係合手段)の係合・解放を制御するクラッチソレノイドの出力油圧を示し、符号303は、変速後のn速変速段(目標変速段)に対応する摩擦係合手段(変速後係合手段)の係合・解放を制御するクラッチソレノイドの出力油圧を示す。パワーオンアップシフト制御では、変速前係合手段を解放すると共に、変速後係合手段を係合させる。
【0030】
また、図3の(c)は、エンジン20における遅角要求量であり、エンジン出力トルクの低下量を示す。パワーオンアップシフトにおいて、ECU100は、入力軸回転数301を変速後の目標入力軸回転数(符号300b参照)に同期させること等のために、変速中にエンジン20の出力トルクを変速前に対して低下させる。符号304は、変速前の目標エンジン出力トルクを示し、符号305は、パワーオンアップシフト制御の変速中の目標エンジン出力トルクを示す。符号ΔTdは、パワーオンアップシフト制御の変速前に対する変速中の自動変速機40の要求入力トルクの低下量(所定量)であり、自動変速機40の入力トルクにおけるトルク減少側の値である。自動変速機40の入力トルクにおいて、正のトルクとは、エンジン20の出力トルクで駆動されて回転する回転方向のトルクである。要求入力トルクの低下量ΔTdは、変速前の変速段と変速後の変速段とに基づいて決定される。
【0031】
パワーオンアップシフトでは、例えば、エンジン20の出力トルクの低下により、要求入力トルクの低下量ΔTdに応じたトルクダウンが実現される。例えば、要求入力トルクの低下量ΔTdに応じたエンジン20の遅角要求量が、ECU100からエンジン20に出力される。なお、パワーオンアップシフト制御の変速中における自動変速機40の要求入力トルクの低下ΔTdは、スロットル制御等のエンジン20の他の制御で実現されてもよく、エンジン20の制御以外の他の装置の制御で実現されてもよい。
【0032】
ハイブリッド車両1では、クラッチ22を切断してMG30のみを動力源とする電気自動車(EV)モードと、クラッチ22を接続してエンジン20とMG30とを動力源とするハイブリッド電気自動車(EHV)モードとを切り替え可能となっている。EVモードにおいて、減速時には、MG30を用いて回生を実施することで燃費の向上を図る。例えば、ブレーキに代わり、MG30における発電負荷によりハイブリッド車両1に制動力を作用させることができる。ここで、MG30の発電効率は、ロータ32の回転数が高回転である方が低回転である場合と比較して高くなる。このため、本実施形態では、MG30による回生制御の実行時に、車速が低下し、ロータ32の回転数が低下すると、ギヤトレーン60において変速比の大きい変速段に変速する回生ダウンシフトを行う。回生ダウンシフトは、MG30により回生を行っているときに、MG30の状態量(例えば、ロータ32の回転数)に基づくダウンシフト要求によって行われる。
【0033】
また、回生ダウンシフトの目標変速段は、MG30の回生効率に基づいて設定される。例えば、自動変速機40の変速段のうち、MG30の回生効率を最も高くすることができる変速段が目標変速段として設定される。回生ダウンシフトでは、自動変速機40が被駆動状態でのダウンシフトとなる。回生ダウンシフトにより、MG30の回生効率を高めることが可能となる。しかしながら、回生ダウンシフトのためにギヤトレーン60における新たな(専用の)制御モード(プログラム等)を追加すると、ROM等の記憶装置の容量の増加や、制御ロジックの複雑化等につながることとなる。
【0034】
本実施形態では、以下に図3および図4を参照して説明するように、パワーオンアップシフト制御を利用して回生ダウンシフトを実行する。これにより、新たな制御を追加することなく、回生ダウンシフトを行うことができる。図4は、本実施形態の車両制御装置による回生ダウンシフトに係るタイムチャートである。図4において、(a)は、ギヤトレーン60の入力軸61の回転数を示す。符号401は、パワーオンアップシフト制御を利用してn速変速段から(n−1)速変速段にダウンシフトするときの入力軸61の回転数の推移を示す。符号400aは、出力軸62の回転数と(n−1)速変速段のギヤ比との積を示し、符号400bは、出力軸62の回転数とn速変速段のギヤ比との積を示す。図4の(b)は、油圧制御装置80のクラッチソレノイドの出力油圧を示す。符号402は、変速前のn速変速段に対応するクラッチソレノイドの出力油圧を示し、符号403は、変速後の(n−1)速変速段(目標変速段)に対応するクラッチソレノイドの出力油圧を示す。図4の(c)は、MG30に対する出力トルクの要求量を示す。
【0035】
本実施形態では、自動変速機40の被駆動状態での回生ダウンシフトにおいて、自動変速機40の現在の変速段に対応する係合手段を変速前係合手段とし、ダウンシフトの目標変速段に対応する係合手段を変速後係合手段としてパワーオンアップシフト制御を作動させ、かつ、回生ダウンシフトにおける変速前に対する変速中の自動変速機40の要求入力トルクの変化量は、現在の変速段を変速後の変速段とし、ダウンシフトの目標変速段を変速前の変速段としてパワーオンアップシフト制御を作動させる場合の所定量(要求入力トルク低下量ΔTd)を正負反転したダウンシフト所定量(図4の符号ΔTu参照)とされる。
【0036】
回生時にダウンシフト要求がなされた場合、ECU100は、変速前後の変速段をアップシフト用からダウンシフト用に入れ替え、かつ、ギヤトレーン60の入力トルク情報を正負反転させて、パワーオンアップシフト制御を作動させる。例えば、回生制御の実行時に、4速(n速)変速段から3速(n−1速)変速段へのダウンシフト要求がなされた場合について説明すると、ECU100は、4速変速段に対応する摩擦係合手段を変速前係合手段とし、3速変速段に対応する摩擦係合手段を変速後係合手段としてパワーオンアップシフト制御を作動させる。また、入力トルク情報は、通常のパワーオンアップシフト制御用の正の値から回生ダウンシフト用の負の値に反転される。
【0037】
回生ダウンシフトの変速中には、変速前よりも自動変速機40の要求入力トルクを増加させる。このときの要求入力トルクの増加量(図4の符号ΔTu)は、3速変速段から4速変速段へパワーオンアップシフトする場合の要求入力トルクの低下量(図3の符号ΔTd)を正負反転させた値である。また、パワーオンアップシフト制御を作動させることによる回生ダウンシフトにおいて、要求入力トルクの増加量ΔTuを実現するようにMG30の出力トルクの制御が行われる。EVモードでは、クラッチ22が解放されているため、エンジン20の出力トルクの制御により自動変速機40の入力トルクを調節することはできないが、エンジン20に代えて、MG30の出力トルクの制御により、自動変速機40の入力トルクを調節する。ここで、MG30の出力トルクとは、MG30がモータとして機能して自動変速機40を駆動するトルク(正トルク)には限定されず、MG30がジェネレータとして機能して自動変速機40によって駆動されるトルク(発電負荷により自動変速機40に作用する負トルク)を含む。MG30は、回生における発電量を減少させることで発電負荷を低下させ、変速前に対して変速中の出力トルクを増加させることができる。
【0038】
駆動状態で自動変速機40をアップシフトさせるパワーオンアップシフトにおける変速中の要求トルク低下量ΔTd(図3)と、被駆動状態で自動変速機40をダウンシフトさせる回生ダウンシフトにおける変速中の要求トルクの増加量ΔTu(図4)とでは、トルクの増減の大きさは実質的に等しく、符号が正負反転した関係にある。よって、パワーオンアップシフト制御で算出される要求トルクの低下量ΔTdを正負反転させることで、パワーオンアップシフト制御を回生ダウンシフトに適合させることができる。また、MG30の出力トルクを変化させる場合、エンジン20の遅角制御による場合と同様に自動変速機40の入力トルク制御の応答性がよい。このため、要求入力トルクを変化させるタイミングを調節することなく、パワーオンアップシフト制御を回生ダウンシフトに利用することも可能である。
【0039】
図1を参照して、本実施形態の動作について説明する。ECU100の記憶装置には、予め図1のフローチャートに示す動作(制御ステップ)が記述されたプログラムが格納されているとともに、自動変速機40の変速段を変速するための変速マップ及び変速制御の動作(図示せず)が記述されたプログラムが格納されている。図1に示す制御フローは、自動変速機40が被駆動状態でMG30により回生を行っているときに、MG30の状態量に基づきダウンシフトの判定がなされた場合に実行される。なお、ダウンシフトの判定を行うためのMG30の状態量は、ロータ32の回転量以外の物理量であってもよい。
【0040】
まず、ステップS10では、ECU100により、各種必要情報の変換がなされる。ECU100は、パワーオンアップシフト制御を回生ダウンシフトを実現する制御として機能させるために、パワーオンアップシフト制御に入力するパラメータの変換を行う。具体的には、ECU100は、例えば以下の3つの情報の変換を行う。
(1)ギヤトレーン60の入力軸回転数を上昇傾向から低下傾向に変換する。
(2)回生ダウンシフトに合わせて変速において解放する摩擦係合手段と係合する摩擦係合手段とを入れ替える。例えば、回生ダウンシフトにおいて現在の4速変速段から3速変速段へのダウンシフト判定がなされた場合、3速変速段から4速変速段へのパワーオンアップシフト制御において、解放すべき摩擦係合手段を元の3速変速段から4速変速段に対応する摩擦係合手段に、係合すべき摩擦係合手段を元の4速変速段から3速変速段に対応する摩擦係合手段にそれぞれ入れ替える。
(3)自動変速機40の入力トルクを駆動時の正トルクから被駆動時の負トルクに変換する。
【0041】
次に、ステップS20では、ECU100により、パワーオンアップシフト制御が実施される。ECU100は、ステップS10で変換された情報に基づき、パワーオンアップシフト制御を作動させる。
【0042】
次に、ステップS30では、ECU100により、ソレノイド出力圧が算出される。ECU100は、回生ダウンシフトの変速前変速段であるn速変速段のクラッチソレノイドの出力油圧402と、目標変速段である(n−1)速変速段のクラッチソレノイドの出力油圧403のそれぞれについて、目標とする油圧を算出する。この油圧の算出は、変速の進行度合いと油圧との関係を示す予め定められたマップ等に基づいて行われる。変速進行の判断は、例えば、出力軸62の回転数とギヤ比との積400a,400bと入力軸回転数401との差分に基づいて行われる。ECU100は、算出されたそれぞれの油圧をクラッチソレノイドの出力油圧402,403の指令値として出力する。
【0043】
一方、ステップS30のソレノイド出力圧の算出と並行して、以下のステップS40〜S60の各ステップが実行される。
【0044】
ステップS40では、ECU100により、遅角要求量が算出される。ECU100は、例えば、変速前後の変速段の組合せと、車両の走行条件等に基づいて、パワーオンアップシフト制御における変速中の遅角要求量を算出する。ここで、遅角要求量とは、例えば、変速前の燃焼タイミングに対する変速中の燃焼タイミングの遅角量を示す。遅角要求量は、パワーオンアップシフト制御における変速前の自動変速機40の要求入力トルクに対する変速中の要求入力トルクの低下量ΔTdに基づいて設定される。
【0045】
次に、ステップS50では、ECU100により、MG要求量の算出への変換がなされる。ECU100は、ステップS40で算出された遅角要求量に応じた入力トルクの低下をMG30で実現する場合のMG30の出力トルクの変化量を算出する。
【0046】
次に、ステップS60では、ECU100により、正負反転がなされる。ECU100は、ステップS50で算出されたMG30の出力トルクの変化量を正負反転させる。ECU100は、算出された出力トルクの変化量を変速前のMG30の出力トルクに加算した値を変速中のMG30の出力トルクの指令値として出力する。これにより、変速前のMG30の出力トルク404に対して、変速中の出力トルク405を増加させることができる。ステップS30〜S60が実行されると、ステップS70に進む。
【0047】
ステップS70では、ECU100により、変速制御が終了したか否かが判定される。その判定の結果、n速変速段から(n−1)速変速段への変速制御が終了したと判定された場合(ステップS70−Y)にはステップS80に進み、そうでない場合(ステップS70−N)にはステップS20へ移行して変速制御を継続する。
【0048】
ステップS80では、ECU100による各種必要情報の変換が終了する。ステップS80が実行されると、本制御フローは終了する。
【0049】
本実施形態によれば、パワーオンアップシフト制御を利用して回生ダウンシフトを実行することができる。これにより、回生時のダウンシフトを実行可能で、かつ、自動変速機40の制御の複雑化を抑制することが可能となる。
【0050】
なお、本実施形態のパワーオンアップシフト制御を作動させることによるダウンシフトは、MG30の回生効率を向上させるためのダウンシフトに限らず、他の要求によるダウンシフトに適用されてもよい。対象とするダウンシフトは、自動変速機40が被駆動状態で行われるものであればよい。パワーオンアップシフト制御を作動させることによるダウンシフトは、MG30の回生中に限らず実行可能である。これにより、多くの運転領域で新たな制御を追加することなく、自動変速機40が被駆動状態のダウンシフトを実行することが可能となり、変速制御の複雑化が抑制される。
【0051】
なお、パワーオンアップシフト制御を作動させることによるダウンシフトは、ダウンシフト所定量(要求入力トルクの増加量ΔTu)が、MG30の出力トルクの増加量の上限値を超える場合、禁止されることが好ましい。例えば、強くブレーキが踏まれている場合など、自動変速機40が強い被駆動状態であると、MG30によるトルクアップに制限がかけられる場合がある。このような場合に、ダウンシフト所定量が、MG30の出力トルクの増加量の上限値を超える場合、パワーオンアップシフト制御を作動させることによるダウンシフトが禁止されるようにすればよい。また、パワーオンアップシフト制御を作動させることによるダウンシフトの実行中に、アクセルが踏まれた場合など、自動変速機40が被駆動状態でなくなる場合には、変速制御を中止することが好ましい。
【0052】
なお、本実施形態では、自動変速機40が有段の自動変速機である場合を例に説明したが、これには限定されない。例えば、自動変速機40は、無段変速機であってもよい。
【0053】
また、エンジン20とMG30と自動変速機40との関係(配置、接続方法等)は、本実施形態で説明したものには限定されない。ハイブリッド車両1において、MG30のみを動力源とする電気自動車モードと、MG30と他の原動機とを動力源とするハイブリッド電気自動車モードとが切り替え可能で、かつ、動力源の出力トルクが自動変速機40を介して駆動輪に伝達されるように構成されていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明にかかる車両制御装置は、変速制御の複雑化を抑制する場合に有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 ハイブリッド車両
20 エンジン
21 出力軸
22 クラッチ
30 MG(モータジェネレータ)
31 回転軸
32 ロータ
33 ステータ
40 自動変速機
50 トルクコンバータ
60 ギヤトレーン
61 入力軸
62 出力軸
70 オイルポンプ
80 油圧制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータジェネレータと、前記モータジェネレータと異なる原動機と、前記モータジェネレータおよび前記原動機と駆動輪との間でトルクを伝達する有段の自動変速機と、が搭載された車両を制御する車両制御装置であって、
前記自動変速機が駆動状態で前記自動変速機をアップシフトさせる駆動アップシフト制御を実行可能であり、
前記駆動アップシフト制御は、前記自動変速機において変速前の変速段に対応する係合手段である変速前係合手段を解放すると共に変速後の変速段に対応する係合手段である変速後係合手段を係合させ、かつ、前記変速前の変速段と前記変速後の変速段とに基づいて、前記駆動アップシフト制御の変速前に対して、変速中の前記自動変速機の要求入力トルクをトルク減少側の値である所定量変化させるものであり、
前記自動変速機が被駆動状態でのダウンシフトにおいて、前記自動変速機の現在の変速段に対応する係合手段を前記変速前係合手段とし、前記ダウンシフトの目標変速段に対応する係合手段を前記変速後係合手段として前記駆動アップシフト制御を作動させ、かつ、前記ダウンシフトにおける変速前に対する変速中の前記自動変速機の要求入力トルクの変化量は、前記現在の変速段を前記変速後の変速段とし、前記ダウンシフトの目標変速段を前記変速前の変速段として前記駆動アップシフト制御を作動させる場合の前記所定量を正負反転したダウンシフト所定量とされ、
前記ダウンシフトにおいて、前記ダウンシフト所定量のトルク変化を実現するように前記モータジェネレータの出力トルクの制御が行われる
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記ダウンシフト所定量が、前記モータジェネレータの出力トルクの増加量の上限値を超える場合には、前記駆動アップシフト制御を作動させることによる前記ダウンシフトを禁止する
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両制御装置において、
前記ダウンシフトは、前記モータジェネレータにより回生を行っているときに、前記モータジェネレータの状態量に基づくダウンシフト要求によって行われるものである
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両制御装置において、
前記ダウンシフトの目標変速段は、前記モータジェネレータの回生効率に基づいて設定される
ことを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−183846(P2011−183846A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48362(P2010−48362)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】