説明

車両制御装置

【課題】 減速制御の減速度をドライバが調整できる車両制御装置を提供する。
【解決手段】 車輪に制動力を発生させるブレーキアクチュエータ70と、自車両の前方の環境を検出するカメラ10と、ドライバによるアクセルペダル20の操作状態が加速方向でないとき、環境に応じてブレーキアクチュエータ70を作動させ、あらかじめ設定された基準減速度Accbに応じて車両を減速制御する速度制御コントローラ60と、を備え、速度制御コントローラ60は、速度制御コントローラ60による減速中にアクセルペダル20の操作状態とブレーキペダル30の操作状態とに応じて基準減速度Accbに乗算する減速度補正ゲインKaadjを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の車両制御装置では、アクセル操作が行われている状態(アクセル操作ON)から行われない状態(アクセル操作OFF)へ移行したことが検出された時点での先行車との距離を車間距離閾値に設定し、実際の車間距離が車間距離閾値よりも短くなった場合、自車両を自動的に減速させる減速制御を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−238031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、減速制御により発生させる減速度は、車間距離と相対速度とによって一意的に決められたものであるため、ドライバは減速度を調整できないという問題があった。
本発明の目的は、減速度をドライバが調整できる車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、ドライバによるアクセル操作装置の操作方向が加速方向でないとき、自車両前方の環境に応じてあらかじめ設定された減速度で車両を減速させる減速させ、減速中のアクセル操作装置の操作状態とブレーキ操作装置の操作状態とに基づいてあらかじめ設定された減速度を補正する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、減速度をドライバが調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の車両制御装置の構成図である。
【図2】実施例1の減速制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】実施例1の入力処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1の減速度補正ゲイン算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例1の減速制御の基本動作を示すタイムチャートである。
【図6】減速制御中にドライバがブレーキ操作を行った場合の実施例1の減速制御の動作を示すタイムチャートである。
【図7】減速制御中にドライバがアクセル操作を行った場合の実施例1の減速制御の動作を示すタイムチャートである。
【図8】制御許可範囲外でドライバがアクセル操作OFFした場合の実施例1の減速制御の動作を示すタイムチャートである。
【図9】減速制御中に先行車が減速し相対速度が変化した場合の実施例1の減速制御の動作を示すタイムチャートである。
【図10】減速制御終了後、ドライバが車間距離を調整するためにアクセル操作を行った場合の実施例1の減速制御の動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の車両制御装置を実施するための形態を、図面に基づく実施例により説明する。
【実施例1】
【0009】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の車両制御装置の構成図であり、実施例1の車両制御装置は、カメラ(環境検出手段)10と、アクセルペダル(アクセル操作装置)20と、ブレーキペダル(ブレーキ操作装置)30と、車輪速センサ40と、車速制御作動スイッチ50と、速度制御コントローラ(減速制御手段)60と、ブレーキアクチュエータ(制動力発生手段)70と、駆動アクチュエータ80と、メータユニット90とを有する。実施例1の車両制御装置は、実施例1の車両制御装置は、車両の動力源としてエンジンを備えた車両に適用している。
カメラ10は、例えば、ステレオカメラであり、自車両前方の環境を撮像し、撮像画像を速度制御コントローラ60へ出力する。
アクセルペダル20は、ドライバがエンジン回転数をコントロールする場合に操作する。アクセルペダル20は、アクセルペダル20が操作されているとき、アクセル操作信号を速度制御コントローラ60へ出力する。
ブレーキペダル30は、ドライバが制動力を発生させる場合に操作する。ブレーキペダル30は、ブレーキペダル30が操作されているとき、その操作量を表すブレーキ操作信号を速度制御コントローラ60へ出力する。
車輪速センサ40は、各車輪の回転速度(車輪速)を検出する。
車速制御作動スイッチ50は、ドライバが速度制御の作動/非作動を切り替える場合に操作する。
速度制御コントローラ60は、カメラ10の撮像画像により得られた自車両前方の環境に関する情報に基づいて、速度制御の対象物の有無、当該対象物との相対距離を算出する。また、車輪速センサ40により検出された車輪速に基づいて、自車両の推定車体速度(以下、自車速度と記載する。)を算出すると共に、対象物との相対速度を算出する。実施例1では、対象物として、先行車、停止物体やカーブを想定している。
【0010】
速度制御コントローラ60は、車速制御作動スイッチ50からON信号が出力され、相対距離が速度制御を許可する制御許可範囲内である場合、対象物との相対関係に応じて、自車両を自動で加減速させる速度制御を実行する。自車両を減速させる場合、ブレーキアクチュエータ70に対し減速指令を出力し、自車両を加速させる場合、駆動アクチュエータ80に対し加速指令を出力する。速度制御コントローラ60は、速度制御の実行中、表示指令をメータユニット90へ出力する。
ブレーキアクチュエータ70は、速度制御コントローラ60からの減速指令に基づいて、車輪に制動トルクを付与する。実施例1では、ブレーキアクチュエータ70として、ドライバのブレーキ操作と独立して制動液圧を調整可能な液圧式の摩擦ブレーキ装置を用いている。
駆動アクチュエータ80は、速度制御コントローラ60からの加速指令に基づいて、車両に駆動トルクを付与する。実施例1の駆動アクチュエータ80は、エンジンとする。
メータユニット90は、速度制御コントローラ60からの表示指令に基づいて、速度制御の作動状態を表示する。また、メータユニット90は、相対距離が制御許可範囲内に入っているとき、ランプを点灯させる。なお、メータユニット90に代えて、ブザーや音声により速度制御の作動状態等を通知する構成としてもよい。
【0011】
実施例1の速度制御コントローラ60では、対象物との相対関係に応じて自車両を減速させる速度制御において、本発明が狙いとするドライバによる減速度の調整を実現するために、次に示すような制御プログラムを実行する。なお、本発明は、速度制御のうち自車両を減速させるシーンを前提とするものであるため、以下の説明では、特に区別する場合を除き、速度制御を減速制御と呼称する。
[減速制御処理]
図2は、実施例1の減速制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。この処理は所定の演算周期で繰り返す。
ステップS1では、入力処理を実行する。入力処理の流れを図3に示す。ステップS101では、車速制御作動スイッチ50からON信号が出力されているか否かを検出する。ステップS102では、ドライバ操作(アクセル操作、ブレーキ操作)を検出する。このステップでは、アクセルペダル20が操作されている場合、アクセルペダル20が操作されていることを示すアクセル操作フラグをセット(=1)する。また、ブレーキペダル30が操作されている場合、システムが操作している制動トルク以上のドライバ要求制動トルクが検出されたときにのみブレーキ操作フラグをセットする。これは、減速制御が作動している場合にドライバ要求制動トルク(ブレーキ操作量に対応する制動トルク)以上に減速制御による制動トルクが出力されているときには、ドライバのブレーキ操作を判定しないようにするためである。ステップS103では、車両状態を検出する。このステップでは、車輪速センサ40により検出された車輪速から自車速度を算出する。ステップS104では、対象物を検出する。このステップでは、カメラ10により撮像された自車両前方の撮像画像から、対象物の種別(先行車、停止物体、カーブ等)を判別し、当該対象物との相対距離、相対速度を算出する。
【0012】
ステップS2では、減速度算出のための基準値を算出する。このステップでは、まず、対象物の相対距離、相対速度、あらかじめ設定された車間時間最大値および車間時間最小値に基づいて、制御許可範囲を算出する。制御許可範囲は、最小制御範囲(車間時間最小値×自車速度)と最大制御範囲(車間時間再々値×自車速度)との間の範囲をいう。続いて、自車両が減速しながら走行可能な距離を基準相対距離として算出する。基準相対距離の算出方法は、相対距離が最大制御範囲よりも大きい場合には制御許可範囲内で減速制御を開始するので、最大制御範囲を基準相対距離に設定する。同時に、このステップでは、ドライバ操作が行われているか否かを評価し、いずれかの操作が行われている場合は、相対距離が基準相対距離となるよう、相対距離に応じて基準相対距離を常に更新し続ける。相対速度が負の状態(対象物に自車が接近している状態)となった場合は更新していた基準相対距離の算出を停止し、ドライバ操作OFFとなった時点の相対距離に基づいて減速制御を行う。減速制御により相対速度がほぼゼロとなった場合は、減速制御を終了(解除)しブレーキアクチュエータ70に対する減速指令の出力を停止する。したがって、相対速度がゼロ近傍の所定値を超える場合は基準相対距離を更新し続け、相対速度が負となったときに更新を停止するので、先行車が減速したときも新たに基準減速度を算出することが可能となる。さらに、このステップでは、ブレーキアクチュエータ70を駆動し始めてから制動力が発生するまでの時間Toで自車が走行してしまう空走距離(Vo × To)を算出する。
【0013】
ステップS3では、減速制御作動判断を行う。このステップでは、車速制御作動スイッチ50がON信号を出力し、ドライバ操作が行われておらず、相対距離が最大制御範囲以下であり、かつ、相対速度が負であるとき、減速制御タイマに所定値を設定する。また、上記いずれかの条件が成立していない場合にはこの減速制御タイマを減算する。減速制御タイマが正である場合には減速制御が作動中であることを示す減速制御作動フラグをセットし、減速制御タイマがゼロである場合には減速制御作動フラグをクリア(=0)する。
ステップS4では、減速制御の対象物が切り替わったことを示す目標対象物切り替えフラグを算出する。対象物が検出されていない場合、相対速度および相対距離は無限大となる。よって、相対速度または相対距離の一方が無限大の場合は目標対象物切り替えカウンタをインクリメント(++)する。また、相対速度または相対距離が無限大以外のときは目標対象物切り替えカウンタをクリアする。目標対象物切り替えフラグは、目標対象物切り替えカウンタが所定値以上である場合に目標対象切り替えフラグをセットし、所定値未満である場合は目標対象物切り替えフラグをクリアする。これは、ノイズ等でカメラ10の情報が一時的に途切れた場合、瞬時に対象物が検出されていないとの誤判断防止するためのものである。
【0014】
ステップS5では、減速制御中のドライバ操作を判断する。このステップでは、目標対象物切り替えフラグがセットされている場合、アクセル操作中タイマ、ブレーキ操作中タイマをそれぞれクリアする。目標対象物切り替えフラグがクリアされ、かつ、減速制御作動フラグがセットされている場合に、アクセル操作フラグがONのときにはアクセル操作中タイマをインクリメントし(加速方向操作カウント手段)、ブレーキ操作フラグがONのときにはブレーキ操作中タイマをインクリメントする(減速方向操作カウント手段)。両操作フラグが共にOFFの場合は操作中タイマを更新しない。また、減速制御作動フラグがゼロの場合には、対象物の動作のばらつきの可能性があるため、アクセル操作中タイマおよびブレーキ操作中タイマの更新は行わない。アクセル操作中タイマのカウント値は減速制御中の加速方向操作回数を表し、ブレーキ操作中タイマのカウント値は減速制御中の減速方向操作回数を表す。
【0015】
ステップS6では、減速度補正ゲインKaadjの算出処理を行う。減速度補正ゲインKaadjの算出処理の流れを図4に示す。ステップS601では、目標対象物切り替えフラグがセットされているか否かを判定し、セットされていない場合、減速制御中のドライバ操作を評価し、ステップS606(比較手段)でブレーキ操作中タイマのカウント値がアクセル操作中タイマのカウント値よりも大きい場合は、ステップS607で補正状態を正(1)にセットする。ステップS608(比較手段)でアクセル操作中タイマのカウント値がブレーキ操作中タイマのカウント値よりも大きい場合は、ステップS609で補正状態を負(-1)にセットする。ブレーキ操作中タイマのカウント値とアクセル操作中タイマのカウント値とが同じ場合は補正不要と判断し、ステップS610で補正状態をゼロとする。ステップS601で目標対象物切り替えフラグがセットされている場合、ステップS602で減速制御中に算出された補正状態を評価する。ここでは、補正状態が正の場合はドライバの減速操作が多く減速度不足であると判断し、ステップS603で減速度補正ゲインKaadjをインクリメントする。ステップS604で補正状態が負の場合はドライバの加速操作が多く減速度過大であると判断し、ステップS605で減速度補正ゲインKaadjをデクリメント(--)する。なお、補正状態がゼロである場合は減速度が適正と判断し、減速度補正ゲインKaadjの更新を行わない。
【0016】
ステップS7では、基準減速度Accbを算出する。このステップでは、ステップS2で算出した対象物速度Vp、自車速度Vo、基準相対距離L0、空走距離(Vo × To)、最小制御範囲Dminに基づき、下記の式(1)を参照して算出する。
Accb = (Vp2 - Vo2) / {2 × (L0 - Vo × To - Dmin)} …(1)
ステップS8では、相対速度依存減速度Accvfbを算出する。このステップでは、相対速度が負か否かを評価し、負の場合、相対速度偏差(Verror = Vp - Vo)、相対速度偏差微分(dVerror)とフィードバックゲインGvfbp(比例ゲイン)、Gvfbd(微分ゲイン)に基づき、下記の式(2)を参照して相対速度依存減速度Accvfbを算出する。
Accvfb = Verror × Gvfbp + dVerror × Gvfbd …(2)
一方、相対速度が正またはゼロの場合、減速制御は不要であるため、相対速度依存減速度Accvfbをゼロとする。
ステップS9では、相対距離依存減速度Acclfbを算出する。このステップでは、相対距離Lmが最小制御範囲Dmin以下である場合、相対距離Lm、最小制御範囲Dmin、フィードバックゲインGlfbに基づき、下記の式(3)を参照して相対距離依存減速度Acclfbを算出する。
Acclfb = (Lm - Dmin) × Glfb …(3)
一方、相対距離Lmが最小制御範囲Dminよりも大きい場合、相対距離依存減速度Acclfbをゼロとする。
【0017】
ステップS10では、目標減速度Acctargetを算出する。このステップでは、ステップS6〜S9で算出した減速度補正ゲインKaadj、基準減速度Accb、相対速度依存減速度Accvfb、相対距離依存減速度Acclfbに基づき、下記の式(4)を参照して目標減速度Acctargetを算出する。
Acctarget = Accb × Kaadj + Accvfb + Acclfb …(4)
ステップS6とステップS10は、減速制御中にアクセルペダル20の操作状態とブレーキペダル30の操作状態とに応じてあらかじめ設定された基準減速度Accbを補正する減速度補正手段を構成する。
ステップS11では、目標制動トルクTBtargetを算出する。このステップでは、ステップS10で算出した目標減速度Acctargetと所定の目標制動トルク算出係数Ka2tbに基づき、下記の式(5)を参照して目標制動トルクTBtargetを算出する。
TBtarget = Acctarget × Ka2tb …(5)
速度制御コントローラ60は、目標制動トルクTBtargetを実現するための減速指令をブレーキアクチュエータ70へ出力し、車両を減速させる。
【0018】
次に、作用を説明する。
以下、図5〜10に示すタイムチャートを用いて実施例1の減速制御の作用を説明する。各図はいずれも自車両がアクセル操作により加速した後、先行車に対して減速制御を実施したときの車速制御作動スイッチ50の信号、アクセル操作信号、ブレーキ操作信号、相対距離Lm、自車速度Vo、対象物(先行車)速度Vp、目標減速度Acctarget、目標制動トルクTBtargetの動きを示すものである。
[減速制御の基本動作]
図5は、実施例1の減速制御の基本動作を示すタイムチャートである。
時点T11では、ドライバがアクセル操作OFFし、このとき相対距離Lmは制御許可範囲内(Dmin<Lm<Dmax)にあるため、減速制御を開始する。速度制御コントローラ60は、基準減速度Accbと減速度補正ゲインKaadjとを乗算した値に相対速度依存減速度Accvfbを加算して目標減速度Acctargetを算出すると共に、目標減速度Acctargetと目標制動トルク算出係数Ka2tbとを乗算して目標制動トルクTBtargetを算出する。同時に、メータユニット90に減速制御が作動中であることを表示する。
時点T11からT12の区間では、減速制御により目標制動トルクTBtargetは算出されているが、制動力が十分発生していないため、自車両はほとんど減速していない。
時点T12以降では十分な制動トルクが得られ自車両は減速を開始する。時点T12から徐々に自車速度Voが減少し、時点T13で自車速度Voが先行車の速度Vpと一致する。このとき、相対距離Lmは制御許可範囲内にあるため、相対距離Lmにかかわらず減速制御を解除する。
上記のように、速度制御コントローラ60では、アクセル操作ON→OFFを減速制御開始のトリガとし、アクセル操作ON→OFFを検出したとき自車速度Voを先行車の速度Vpと一致させる減速制御を実施する。このため、ドライバは減速したいタイミングでアクセル操作をOFFするだけで減速制御を開始できる。
また、速度制御コントローラ60では、先行車と自車両との相対速度をゼロとする相対速度依存減速度Accvfbに基づいて減速度を制御する相対速度フィードバック制御を行っている。
【0019】
従来装置では、先行車と自車との車間距離を目標車間距離に一致させる距離フィードバック制御を行っているため、例えば、先行車が停止して速度ゼロとなった場合、先行車に追従して自車両を停止させることができず、先行車への追従を継続できないことがある。このため、先行車の速度がゼロとならない高速道路走行時には対応できるものの、先行車の速度が頻繁にゼロとなる市街地走行時には速度制御を継続できない。
これに対し、実施例1の減速制御では、相対速度フィードバック制御を行うため、先行車が停止した場合であっても、それに応じて自車両を停止させることができる。つまり、先行車の速度がゼロとなってからも速度制御を継続できるため、高速道路走行時のみならず、市街地走行時にも対応可能であり、距離フィードバック制御を行う従来装置と比較して、適用可能シーンを拡大できる。
加えて、実施例1の減速制御では、目標車間距離を設定せず、相対距離が制御許可範囲内のときに相対速度フィードバック制御を行っているため、従来装置と比較して、追従性および制御応答性をより高めることができる。なお、実施例1では、目標車間距離は設定していないものの、減速制御開始時の基準相対距離L0に基づいて基準減速度Accbを決めているため、先行車との距離をドライバの所望する距離に近付けつつ、自車速Voを先行車の速度Vpに追従させることができる。
ここで、実施例1の減速制御では、先行車が制御許可範囲内にある等の減速制御作動許可条件が成立したとき、減速制御作動フラグをセットし、自動的に減速制御を開始する。このため、ドライバは現在減速制御中であるのか否かを判断しづらい。そこで、実施例1では、減速制御中はメータユニット90を用いてドライバに減速制御が作動中であることを知らせるため、ドライバは減速制御中であるか否かを容易に判断できる。
【0020】
[減速制御中にドライバがブレーキ操作した場合]
図6は、減速制御中にドライバがブレーキ操作を行った場合の実施例1の減速制御の動作を示すタイムチャートである。
時点T21からT22の区間の動作は、図5の時点T11からT12の区間の動作と同様である。
時点T23では、ドライバが減速度不足を感じてブレーキ操作を開始し、時点T24までブレーキ操作を継続する。速度制御コントローラ60は、ドライバがブレーキ操作により目標制動トルクTBtarget以上の制動トルク(ドライバ要求制動トルク)を発生させているとき、発生させる制動トルクをドライバ要求制動トルクとして減速制御を行う。このため、減速制御中であってもドライバの要求する減速度を発生させることができる。
また、速度制御コントローラ60は、減速制御中にブレーキ操作を検出した場合、ブレーキ操作中タイマをインクリメントし、補正状態を正にセットする。その後、先行車が切り替わったとき、基準減速度Accbに乗算する減速度補正ゲインKaadjをインクリメントするため、今回の減速制御における減速度は、前回の減速度よりも大きくなり、目標減速度Acctargetをドライバの要求する減速度に近付けることができる。
実施例1では、減速制御中にドライバがブレーキ操作を行った場合、先行車が切り替わったときに減速度補正ゲインKaadjを補正している。これは、減速制御中に減速度補正ゲインKaadjを補正した場合、ドライバがブレーキ操作により減速度を調整した後に減速度が変化するため、ドライバが状況に対応できず、最適な減速度が得られないからである。よって、先行車が切り替わったときに減速度補正ゲインKaadjを補正することで、最適な減速度を得ることができる。
【0021】
[減速制御中にドライバがアクセル操作した場合]
図7は、減速制御中にドライバがアクセル操作を行った場合の実施例1の減速制御の動作を示すタイムチャートである。
時点T31からT32の区間の動作は、図5のT11からT12の区間の動作と同様である。
時点T33では、ドライバがアクセル操作を開始し、時点T34までアクセル操作を継続する。速度制御コントローラ60は、減速制御中にアクセル操作を検出した場合、アクセル操作中タイマをインクリメントし、補正状態を負にセットする。
時点T34では、アクセル操作OFFとなるため、速度制御コントローラ60は、相対速度がゼロとなる時点T35までの間、ドライバのアクセル操作によって発生した相対速度をゼロにするための減速制御を行う。
その後、速度制御コントローラ60は、先行車が切り替わったとき、基準減速度Accbに乗算する減速度補正ゲインKaadjをデクリメントするため、今回の減速制御における減速度は、前回の減速度よりも小さくなり、目標減速度Acctargetをドライバの要求する減速度に近付けることができる。
【0022】
[制御許可範囲外でドライバがアクセル操作OFFした場合]
図8は、制動許可範囲外でドライバがアクセル操作OFFした場合の実施例1の減速制御の動作を示すタイムチャートである。
時点T41でドライバがアクセル操作OFFとするが、時点T42までは相対距離Lmが最大制御範囲Dmaxを超えているため、速度制御コントローラ60は、ブレーキアクチュエータ70は作動させず、エンジンブレーキのみで減速が行われる。時点T42では、相対距離Lmが制御許可範囲に入るため、減速制御を開始する。時点T44では、相対速度がゼロとなるため、減速制御を終了する。
【0023】
[減速制御中に先行車が減速した場合]
図9は、減速制御中に先行車が減速し相対速度が変化した場合の実施例1の減速制御の動作を示すタイムチャートである。
時点T51からT53の区間の動作は、図5のT11からT13の区間の動作と同様である。
時点T53では、先行車が減速を開始し、相対距離Lmが最小制御範囲Dmin以下となる。このとき、相対速度はゼロであるが、速度制御コントローラ60は、相対距離を最小制御範囲Dminに維持すべく、自車両を減速させる。このため、先行車との衝突を回避できる。
時点T54では、相対距離Lmが最小制御範囲Dminとなったため、以降、相対速度がゼロとなった時点で減速制御を終了する。
【0024】
[減速制御終了後にドライバがアクセル操作した場合]
図10は、減速制御終了後、ドライバが車間距離を調整するためにアクセル操作を行った場合の実施例1の減速制御の動作を示すタイムチャートである。
時点T61からT63の区間の動作では、図5のT11からT13の区間の動作と同様である。
時点T63では、ドライバが先行車との車間距離を小さくするためにアクセル操作を開始し、時点T64までアクセル操作を継続する。この場合、減速制御から十分時間が経過しているため、減速制御作動中フラグはゼロであるため、アクセル操作中タイマはインクリメントせず、補正状態をゼロとする。よって、先行車が切り替わっても、減速度補正ゲインKaadjを更新しない。
つまり、減速制御終了から十分に時間が経過し、相対速度がゼロ付近の値となった後のアクセル操作は、減速制御による過大な減速度の修正を目的としたものではなく、車間距離の調整を目的としたものである。そこで、このような場合には減速度補正ゲインKaadjを更新しないようにすることで、不要な減速度の補正を抑制でき、減速度がドライバの要求する減速度から乖離するのを防止できる。
時点T64では、ドライバのアクセル操作が終了したため、減速制御を開始する。
【0025】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両制御装置では、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 車輪に制動力を発生させるブレーキアクチュエータ70と、自車両の前方の環境を検出するカメラ10と、ドライバによるアクセルペダル20の操作状態が加速方向でないとき、環境に応じてブレーキアクチュエータ70を作動させ、あらかじめ設定された基準減速度Accbに応じて車両を減速制御する速度制御コントローラ60と、速度制御コントローラ60による減速中にアクセルペダル20の操作状態とブレーキペダル30の操作状態とに応じて基準減速度Accbに乗算する減速度補正ゲインKaadjを補正する減速度補正手段(ステップS6,ステップS10)と、を備えた。これにより、減速度をドライバが調整できる。
【0026】
(2) 減速度補正手段(ステップS6)は、ブレーキペダル30の操作状態が減速方向である場合には、目標減速度Acctargetが大きくなるように減速度補正ゲインKaadjをインクリメントするため、減速度をドライバの要求する減速度に近付けることができる。
【0027】
(3) 減速度補正手段(ステップS6)は、アクセルペダル20の操作状態が加速方向である場合には、目標減速度Acctargetが小さくなるように減速度補正ゲインKaadjをデクリメントするため、減速度をドライバの要求する減速度に近付けることができる。
【0028】
(4) 減速度補正手段(ステップS6)は、アクセル操作中タイマのカウント値がブレーキ操作中タイマのカウント値よりも大きい場合には、減速度補正ゲインKaadjをデクリメントし、ブレーキ操作中タイマのカウント値がアクセル操作中タイマのカウント値よりも大きい場合には、減速度補正ゲインKaadjをインクリメントし、それ以外の場合には、減速度補正ゲインKaadjを補正しない。これにより、減速度をドライバの要求する減速度へとより近付けることができる。
【0029】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
実施例1では、ブレーキアクチュエータとして液圧式の摩擦ブレーキ装置を用いた例を示したが、電気式の摩擦ブレーキ装置、電動機による回生ブレーキ装置等を用いてもよい。また、実施例1では、車両の動力源としてエンジンを搭載した車両について説明したため、駆動アクチュエータはエンジンを用いたが、電動車両の場合には電動モータ、ハイブリッド車両の場合にはエンジンおよび電動モータとしてもよい。
実施例1では、環境検出手段としてステレオカメラを用いた例を示したが、環境検出手段は、カメラ、ナビゲーションシステム、レーダ、車車間通信等、またはこれらの組み合わせとしてもよい。
実施例1では、アクセル操作OFFが検出されたときに減速制御を開始する例を示したが、減速制御の開始は、アクセル操作量の減少または保持が検出されたとき、すなわち、ドライバによるアクセルペダルの操作状態が加速方向でないときであればよい。
実施例1では、アクセル操作中タイマがブレーキ操作中タイマよりも大きい場合に減速度が小さくなるように補正し、ブレーキ操作中タイマがアクセル操作中タイマよりも大きい場合に減速度が大きくなるように補正する例を示したが、アクセル操作中タイマがブレーキ操作中タイマよりも第1の所定数多い場合に減速度が小さくなるように補正し、ブレーキ操作中タイマがアクセル操作中タイマよりも第2の所定数多い場合に減速度が大きくなるように補正してもよい。ここで、第1の所定数と第2の所定数は自然数であり、同じ値としてもよい。
【符号の説明】
【0030】
10 カメラ(環境検出手段)
20 アクセルペダル(アクセル操作装置)
30 ブレーキペダル(ブレーキ操作装置)
60 速度制御コントローラ(減速制御手段)
70 ブレーキアクチュエータ(制動力発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に制動力を発生させる制動力発生手段と、
自車両の前方の環境を検出する環境検出手段と、
ドライバによるアクセル操作装置の操作状態が加速方向でないとき、前記環境に応じて前記制動力発生手段を作動させ、あらかじめ設定された減速度に応じて車両を減速制御する減速制御手段と、
前記減速制御手段による減速中に前記アクセル操作装置の操作状態とブレーキ操作装置の操作状態とに応じて前記あらかじめ設定された減速度を補正する減速度補正手段と、
を備えたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記減速度補正手段は、前記ブレーキ操作装置の操作状態が減速方向である場合には、前記減速度が大きくなるように補正し、および/または、前記アクセル操作装置の操作状態が加速方向である場合には、前記減速度が小さくなるように補正することを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記減速度補正手段は、
前記ブレーキ操作装置の操作状態が減速方向に操作された回数である減速方向操作回数をカウントする減速方向操作カウント手段と、
前記アクセル操作装置の操作状態が加速方向に操作された回数である加速方向操作回数をカウントする加速方向操作カウント手段と、
前記両カウント手段のカウント値を比較する比較手段と、
を備え、
前記加速方向操作回数が前記減速方向操作回数よりも第1の所定数多い場合には、前記減速度が小さくなるように補正し、
前記減速方向操作回数が前記加速方向操作回数よりも第2の所定数多い場合には、前記減速度が大きくなるように補正し、
それ以外の場合には、前記減速度を補正しないことを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−20575(P2011−20575A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167707(P2009−167707)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】