説明

車両挙動制御装置

【課題】 運動状態検出センサの故障時等における車両挙動の乱れを抑制した車両挙動制御装置を提供する。
【解決手段】 ヨーレイトFB値設定制御を開始すると、ATTS−ECU16は、ステップS21で実ヨーレイトγrealと規範ヨーレイトγrefとの差Δγを算出する。次に、ATTS−ECU16は、差Δγの絶対値|Δγ|に基づき、ステップS22でヨーレイト差−ゲインマップからヨーレイト制御ゲインGyを検索/設定する。次に、ATTS−ECU16は、ステップS23で実ヨーレイトγrealと規範ヨーレイトγrefとに基づきヨーレイトFBベース値YRbaseを設定した後、ステップS24でYRbaseにヨーレイト制御ゲインGyを乗じることによってヨーレイトFB値YRfbを設定/出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動状態検出センサの故障時等における車両挙動の乱れを抑制した車両挙動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行安定性等を向上させる車両挙動制御装置としては、ABS(Anti-lock Breaking System)およびTCS(Traction Control System)に旋回時における横滑りの抑制機能等を加えたVSA(Vehicle Stability Assist system:車両挙動安定化制御システム:特許文献1参照)や、旋回能力の向上を図るべく左右駆動輪間での駆動力配分を連続的に変化させるATTS(Active Torque Transfer System:左右駆動力配分装置:特許文献2参照)、高速走行時における操縦安定性の向上や車庫入れ時における旋回半径の縮小等を実現するRTC(Rear Toe Control system:後輪操舵システム:特許文献3参照)等が存在する。これら車両挙動制御装置では、例えば、前輪操舵角や車速、横加速度等に基づき規範ヨーレイトを設定した後、ヨーレイトセンサによって検出された実ヨーレイトを規範ヨーレイトに一致させるように、各車輪の制動力、左右駆動輪間での駆動力配分、左右後輪のトー角の制御指示値(目標制御量)を設定してアクチュエータをフィードバック制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−284485号公報
【特許文献2】特許第3340038号
【特許文献3】特公平5−33193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した車両挙動制御装置では、例えば、実ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサが故障した場合、規範ヨーレイトと実ヨーレイトとが乖離することにより、フィードバック制御が不適切に行われて車両挙動が乱れる等の虞がある。そこで、ヨーレイトセンサの故障時にフィードバック制御を中止あるいは抑制する方法が提案されているが、この種の方法においては、通常、誤検知によってフィードバック制御が中断されることを防止すべく、ヨーレイトセンサの故障検知は異常な検出信号が出力された際にのみ行われる(すなわち、故障判定に極端に大きな閾値を用いている)。そのため、実際にヨーレイトセンサが故障していた場合であっても、走行状況等によっては故障検知までに比較的長い時間が経過してしまい、その間は車両挙動の乱れ等を防止できなかった。また、タイヤと路面との摩擦係数が小さい圧雪路を走行することで規範ヨーレイトと実ヨーレイトとが大きく乖離し、ヨーレイトセンサが故障していると判定された場合、走行路面が乾燥アスファルト路等に変化してもフィードバック制御を再開させることが難しい問題もあった。
【0005】
本発明は上記状況に鑑みなされたもので、運動状態検出センサの故障時等における車両挙動の乱れを抑制した車両挙動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、車両の目標運動状態量を設定する目標運動状態量設定手段と、車両の実運動状態量を検出する実運動状態量検出手段と、前記目標運動状態量と前記実運動状態量とから制御指示値を算出する制御指示値算出手段とを有し、前記制御指示値に基づいて前記車両の挙動制御を行う車両挙動制御装置であって、前記目標運動状態量と前記実運動状態量との差が大きくなるほど、前記制御指示値を小さくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、運動状態検出センサが故障した場合等においても、車両挙動の乱れを迅速かつ効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る車両の装置構成を示す平面図である。
【図2】実施形態に係るATTS−ECUの概略構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る駆動力配分設定部の概略構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態に係る駆動力配分制御の手順を示すフローチャートである。
【図5】実施形態に係るヨーレイトFB値設定制御の手順を示すフローチャートである。
【図6】実施形態に係るヨーレイト差−制御ゲインマップである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、ATTSを搭載したFF(フロントエンジン・フロントドライブ)式4輪自動車(以下、単に自動車と記す)に本発明を適用した実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は実施形態に係る自動車の装置構成を示す平面図であり、図2は実施形態に係るATTS−ECUの概略構成を示すブロック図であり、図4は実施形態に係るヨーレイトFB設定部の概略構成を示すブロック図である。
【0010】
≪実施形態の構成≫
<車両の装置構成>
先ず、図1を参照して、自動車の装置構成について説明する。説明にあたり、4本の車輪やそれらに対応して配置された部材については、それぞれ数字の符号に前後左右を示す添字を付して例えば車輪4fl(左前)、車輪4fr(右前)、車輪4rl(左後)、車輪4rr(右後)と記すとともに、総称する場合には例えば車輪4と記す。
【0011】
図1に示すように、自動車1は、車体2の前後左右に、タイヤ3が装着された4つの車輪4を有しており、操舵アシストを行うEPS(Electric Power Steering:電動パワーステアリング)11と、左右前輪4fl,4fr(左右ドライブシャフト5fl,5fr)に対して駆動力を可変配分するATTS13と、ATTS13を駆動制御するATTS−ECU16(車両挙動制御装置)とを搭載している。
【0012】
自動車1は、車輪速を検出する車輪速センサ21を各車輪4ごとに備える他、ステアリングホイール7の操舵角を検出する操舵角センサ22、車体2の実ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ23、車体2の横加速度を検出する横Gセンサ24、車体2の前後加速度を検出する前後Gセンサ25、ATTS13の制御油圧を検出する油圧センサ26等を適所に有している。
【0013】
ATTS13は、各一対の遊星歯車機構および油圧クラッチ、油圧クラッチを駆動制御する油圧制御弁等から形成されており、ATTS−ECU16からの制御電流に応じて左右前輪4fl,4frに対する駆動力の配分を連続的に変化させる。ATTS−ECU16は、マイクロコンピュータやROM、RAM、周辺回路、入出力インタフェース、各種ドライバ等から構成されており、通信回線(本実施形態では、CAN(Controller Area Network))を介して、他の各種制御装置やATTS13、各センサ21〜26と接続されている。
【0014】
<ATTS−ECU>
図2に示すように、ATTS−ECU16は、図示しない入出力インタフェースの他、車速推定部41と、FF(フィードフォワード)制御部42と、規範車両モデル43と、オブザーバ44と、ヨーレイトFB(フィードバック)設定部45と、ヨーモーメントFB設定部46と、スリップ角FB設定部47と、FB制御部48と、駆動力配分設定部49と、制御電流生成部50とを備えている。
【0015】
車速推定部41は、各車輪4の車輪速に基づき、自動車1の車速を推定する。FF制御部42は、操舵角や車速に基づき、駆動力配分FF制御量を設定する。規範車両モデル43は、操舵角や車速等に基づき、規範ヨーレイトや規範ヨーモーメント、規範スリップ角を設定する。オブザーバ44は、車速や横加速度、前後加速度、実ヨーレイト、制御油圧に基づき、推定ヨーモーメントや推定スリップ角を算出する。
【0016】
ヨーレイトFB設定部45は、後述するように、規範ヨーレイトや実ヨーレイトに基づき、ヨーレイトFB値を設定する。ヨーモーメントFB設定部46は、規範ヨーモーメントと推定ヨーモーメントとに基づき、ヨーモーメントFB値を設定する。スリップ角FB設定部47は、規範スリップ角と推定スリップ角とに基づき、スリップ角FB値を設定する。FB制御部48は、ヨーレイトFB値とヨーモーメントFB値とスリップ角FB値とに基づき、駆動力配分FB制御量を設定する。
【0017】
駆動力配分設定部49は、駆動力配分FF制御量と駆動力配分FB制御量とに基づき、駆動力配分制御量を設定する。制御電流生成部50は、駆動力配分制御量に基づき、駆動電流を設定してATTS13に出力する。
【0018】
<ヨーレイトFB設定部>
図3に示すように、ヨーレイトFB設定部45は、両ヨーレイトγreal,γrefに基づきヨーレイト制御ゲインGyを設定するゲイン設定部61と、両ヨーレイトγreal,γrefとヨーレイト制御ゲインGyとに基づきヨーレイトFB値YRfbを設定するヨーレイトFB値設定部62とから構成されている。
【0019】
≪実施形態の作用≫
<駆動力配分制御>
自動車1が走行を開始すると、ATTS−ECU16は、図4のフローチャートにその手順を示す駆動力配分制御を所定の制御インターバル(例えば、10ms)で繰り返し実行する。
【0020】
駆動力配分制御を開始すると、ATTS−ECU16は先ず、運転者の操舵に応じた迅速な駆動力配分を実現すべく、図4のステップS1で車速と操舵角とに基づいて駆動力配分FF制御量Dffを設定する。
【0021】
次に、ATTS−ECU16は、ステップS2で規範ヨーレイトと推定ヨーレイトとの差に応じてヨーレイトFB値YRfbを設定し、ステップS3で規範ヨーモーメントと推定ヨーモーメントとの差に応じてヨーモーメントFB値YMfbを設定し、ステップS4で規範スリップ角と推定スリップ角との差に応じてスリップ角FB値SAfbを設定する。次に、ATTS−ECU16は、ステップS5で、ヨーレイトFB値YRfbとヨーモーメントFB値YMfbとスリップ角FB値SAfbとを和すことにより、駆動力配分FB制御量Dfbを設定する。
【0022】
次に、ATTS−ECU16は、駆動力配分FF制御量Dffと駆動力配分FB制御量Dfbとの和に基づきステップS6で制御指示ベース値Dbを設定した後、ステップS7で制御指示ベース値Dbに後述する不感帯係数Knを乗じることによって目標駆動力配分制御値Dtgtを設定する。しかる後、ATTS−ECU16は、ステップS8でATTS13(油圧制御弁駆動用リニアソレノイド)に対する目標駆動電流Itgtを設定/出力する。
【0023】
<ヨーレイトFB値設定制御>
ATTS−ECU16は、上述した駆動力配分制御と並行して、図5のフローチャートにその手順を示すヨーレイトFB値設定制御を所定の制御インターバル(例えば、10ms)で繰り返し実行する。
【0024】
ヨーレイトFB値設定制御を開始すると、ATTS−ECU16は、図5のステップS21で実ヨーレイトγrealと規範ヨーレイトγrefとの差Δγを算出する。次に、ATTS−ECU16は、差Δγの絶対値|Δγ|に基づき、ステップS22で図6のヨーレイト差−制御ゲインマップからヨーレイト制御ゲインGyを検索/設定する。図6に示すように、ヨーレイト制御ゲインGyは、絶対値|Δγ|がある程度大きくなるまでは1.0に固定され、絶対値|Δγ|が故障閾値Δγthを超えると急激に小さくなる。
【0025】
次に、ATTS−ECU16は、ステップS23で実ヨーレイトγrealと規範ヨーレイトγrefとに基づきヨーレイトFBベース値YRbaseを設定した後、ステップS24でYRbaseにヨーレイト制御ゲインGyを乗じることによってヨーレイトFB値YRfbを設定/出力する。
【0026】
これにより、実ヨーレイトγrealと規範ヨーレイトγrefとが大きく乖離した場合、ヨーレイトFB値YRfb(すなわち、目標駆動力配分制御値Dtgt)が瞬時に低減されるため、ヨーレイトセンサ23の故障等による車両挙動の乱れが効果的に抑制される。また、圧雪路走行時等に規範ヨーレイトと実ヨーレイトとが大きく乖離した場合には、ヨーレイト制御ゲインGyが一時的に小さくなってヨーレイトFB値YRfbが低減されるが、このような走行状況ではヨーレイトFB値YRfbに伴って目標駆動力配分制御値Dtgtが小さくなっても車両挙動の乱れは殆ど無視し得る。そして、走行路面が圧雪路から乾燥アスファルト路に変化した場合には、ヨーレイト制御ゲインGyが1.0に直ちに復帰することで所期の挙動制御が再び行われる。
【0027】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態はATTSの制御に本発明を適用したものであるが、VSAやRTC等の制御にも当然に適用可能である。また、対象とする運動状態量として、上記実施形態ではヨーレイトを挙げたが、横加速度やヨーモーメント、前後加速度等であってもよい。更に、車両の具体的構成や制御の具体的手順等についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 自動車(車両)
2 車体
4 車輪
13 ATTS
16 ATTS−ECU(車両挙動制御装置)
23 ヨーレイトセンサ(実運動状態量検出手段)
43 規範車両モデル(目標運動状態量設定手段)
48 FB制御部(制御指示値算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の目標運動状態量を設定する目標運動状態量設定手段と、車両の実運動状態量を検出する実運動状態量検出手段と、前記目標運動状態量と前記実運動状態量とから制御指示値を算出する制御指示値算出手段とを有し、前記制御指示値に基づいて前記車両の挙動制御を行う車両挙動制御装置であって、
前記目標運動状態量と前記実運動状態量との差が大きくなるほど、前記制御指示値を小さくすることを特徴とする車両挙動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−221944(P2010−221944A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73870(P2009−73870)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】