説明

車両用ブレーキ装置

【課題】回生ブレーキ装置における回生可能制動力を知りつつ制動制御を行うことで、良好な制動フィーリングおよび高い回生効率が得られる車両用ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】液圧制動力を車輪に付与する液圧ブレーキ装置と、発電電動機に駆動される駆動輪に回生制動力を付与する回生ブレーキ装置と、液圧制動力および回生制動力を協調制御する制動制御装置とを備える車両用ブレーキ装置であって、制動制御装置は、発電電動機に指令した回生要求制動力FRから発電電動機が実行した回生実行制動力FGを減算して差分量DFを演算する手段(S9)と、回生要求制動力FRが発電電動機の実行可能な回生可能制動力FX(FXU、FXL)の範囲内であるか否かを判定する手段(S11)と、差分量DFが正でかつ回生要求制動力FRが回生可能制動力FXの範囲内である場合に液圧制動力FCの増加を抑制する手段(S12)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧ブレーキ装置および回生ブレーキ装置を備えた車両用ブレーキ装置に関し、より詳細には、液圧ブレーキ装置が付与する液圧制動力および回生ブレーキ装置が付与する回生制動力を協調制御する制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行駆動源としてエンジンおよび発電電動機を備えるハイブリッド車両では、制動時に発電電動機で運動エネルギを電気エネルギに回生して蓄電し、燃費を向上するのが一般的になっている。この意味で、発電電動機は、駆動輪に回生制動力を付与する回生ブレーキ装置と考えることができる。回生ブレーキ装置は、単独では十分な制動力が得られないので、通常は油圧で作動する従来の液圧ブレーキ装置と併用される。したがって、液圧ブレーキ装置の液圧制動力および回生ブレーキ装置の回生制動力を協調制御することが必要となり、特許文献1など各種の協調制御技術が提案されている。
【0003】
特許文献1に開示される車両の回生制動および摩擦制動装置は、回生制動手段(回生ブレーキ装置)および回生制動トルク制御手段と、摩擦制動手段(液圧ブレーキ装置)および摩擦制動トルク制御手段と、総制動トルク決定手段とを備え、回生制動トルクおよび摩擦制動トルクの協調制御を行うように構成されている。さらに、回生制動トルク(回生制動力)の指示値に対する実際値の遅れを考慮して予測値を求める予測手段を含み、摩擦制動トルク制御手段は、総制動トルクと回生制動トルクの予測値とに基づいて摩擦制動トルクを制御するようになっている。これにより、回生制動トルクの指示値に対する実際値の遅れを補償するように摩擦制動トルクを高精度に制御して制動フィーリングの悪化を防止できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−312384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1を始めとするハイブリッド車両用のブレーキ装置では、液圧ブレーキ装置の制御部と回生ブレーキ装置(すなわち発電電動機)の制御部とは異なる電子制御装置で構成されて通信手段により機能的に結合されるのが一般的である。このため、特許文献1の技術は、回生制動力の指示値に対する実際値の遅れ、すなわち指示値が発電電動機に到達するまでの通信時間や発電電動機の応動時間の影響を低減する効果があった。しかしながら、回生制動力指示値(回生要求制動値)および実際値(回生実行制動値)を受け渡す通信は一定時間間隔で行われるため、実際値が戻ってくるときの通信遅れも問題になる。例えば、液圧ブレーキ装置の制御部は、或る指示値を通信により指令したのち発電電動機が回生制動力を発生していても、通信遅れがあるため直ちには実際値を知り得ない。したがって、液圧ブレーキ装置の制御部は、実際値を認識するまでの間、回生制動力が無いものとして液圧制動力を発生させる。すると、実際には回生制動力が発生していてさらに液圧制動力が重畳するため、制動力が過剰になって制動フィーリングの悪化するおそれがあった。また、液圧制動力の重畳により回生制動力が削減され、回生効率の低下を招くおそれがあった。
【0006】
また、特許文献1の技術は回生制動力の予測値を求めているが、回生ブレーキ装置は、車両走行状態などの作動条件に依存して回生可能な制動力(回生可能制動力)が変化するため、必ずしも予測値のとおりに作動するとは限らない。したがって、回生ブレーキ装置における回生可能制動力を知りつつ、液圧ブレーキ装置および回生ブレーキ装置を協調制御することが好ましい。
【0007】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたもので、回生ブレーキ装置における回生可能制動力を知りつつ制動制御を行うことで、良好な制動フィーリングおよび高い回生効率が得られる車両用ブレーキ装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する請求項1に係る車両用ブレーキ装置の発明は、液圧制動力を車輪に付与する液圧ブレーキ装置と、前記車輪の中で発電電動機に駆動される駆動輪に回生制動力を付与する回生ブレーキ装置と、ブレーキ操作部材の操作量に応じて、前記液圧ブレーキ装置が付与する液圧制動力および前記回生ブレーキ装置が付与する回生制動力を協調制御する制動制御装置と、を備える車両用ブレーキ装置であって、前記制動制御装置は、前記発電電動機に指令した回生要求制動力から前記発電電動機が実行した回生実行制動力を減算して差分量を演算する差分量演算手段と、前記回生要求制動力が前記発電電動機の実行可能な回生可能制動力の範囲内であるか否かを判定する回生範囲判定手段と、前記差分量が正でかつ前記回生要求制動力が前記回生可能制動力の範囲内である場合に、前記液圧制動力の増加を抑制する液圧抑制手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、液圧制動力を車輪に付与する液圧ブレーキ装置と、前記車輪の中で発電電動機に駆動される駆動輪に回生制動力を付与する回生ブレーキ装置と、ブレーキ操作部材の操作量に応じて、前記液圧ブレーキ装置が付与する液圧制動力および前記回生ブレーキ装置が付与する回生制動力を協調制御する制動制御装置と、を備える車両用ブレーキ装置であって、前記制動制御装置は、前記ブレーキ操作部材の操作量により定まる全要求制動量に対する前記回生制動力の比率を減少させるときに、前記発電電動機に指令した回生要求制動力から前記発電電動機が実行した回生実行制動力を減算して差分量を演算する差分量演算手段と、前記回生要求制動力が前記発電電動機の実行可能な回生可能制動力の範囲内であるか否かを判定する回生範囲判定手段と、前記差分量が負でかつ前記回生要求制動力が前記回生可能制動力の範囲内である場合に、前記液圧制動力を増加させる液圧増加手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または2において、前記制動制御装置は、前記液圧ブレーキ装置を制御する液圧ブレーキ制御部と前記回生ブレーキ装置を制御する回生ブレーキ制御部とが通信手段により機能的に結合されて構成され、前記回生要求制動力と前記回生実行制動力との間に通信遅れに起因する時間差を有することを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記液圧ブレーキ装置は、前記ブレーキ操作部材の操作量に応じた基礎液圧を発生するマスタシリンダと、制御液圧を発生するポンプと、前記基礎液圧に応じた基礎液圧制動力および前記制御液圧に応じた制御液圧制動力を加算して前記車輪に付与する液圧制御ユニットとを有し、前記制動制御装置は、前記基礎液圧制動力と前記回生可能制動力との和が前記ブレーキ操作部材の操作量により定まる全要求制動力を上回る場合に、前記ポンプの駆動を抑制するポンプ抑制手段を有することを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項4において、前記制動制御装置は、或る時点において前記発電電動機が回生可能な制動力の全量を示す回生制動容量を特定する回生制動容量特定手段と、或る時点において前記発電電動機の前記回生可能制動力が変化し得る時間変化率を示す回生可能勾配を特定する回生可能勾配特定手段と、或る時点における回生要求制動力または回生実行制動力と、回生制動容量と、回生可能勾配とを基にして、次の時点における回生可能制動力の範囲を推定する回生可能範囲推定手段と、を有することを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項5において、前記制動制御装置は、所定条件が成立する場合に前記ポンプを駆動するポンプ駆動手段を有することを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項6において、前記所定条件は、前記回生可能勾配が所定の第1勾配よりも小さいときであることを特徴とする。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項6または7において、前記所定条件は、前記回生制動容量から前記回生要求制動力を減算した回生余力が所定余力よりも小さいときであることを特徴とする。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項6〜8のいずれか一項において、前記所定条件は、前記回生要求制動力の時間変化率を示す回生要求勾配が所定の第2勾配よりも大きいときであることを特徴とする。
【0017】
請求項10に係る発明は、請求項1〜9のいずれか一項において、前記制動制御装置は、前記発電電動機に前記回生要求制動力を要求したのち所定の遅延時間を経過しても前記回生実行制動力が発生していないときに、前記液圧制動力を増加させるバックアップ手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る液圧ブレーキ装置の発明では、ブレーキ操作部材の操作量に応じて液圧制動力および回生制動力を協調制御する制動制御装置は、発電電動機に指令した回生要求制動力から回生実行制動力を減算した差分量が正で、かつ回生要求制動力が発電電動機の実行可能な回生可能制動力の範囲内である場合に、液圧制動力の増加を抑制する。差分量が正となるのは、通常、回生要求制動力を増加させたときに、時間遅れに起因して回生実行制動力が表面的に過少に見える場合である。この場合制動制御装置は、指令しただけの回生実行制動力を認識できていなくとも、回生要求制動力が発電電動機の実行可能な範囲内である場合には、発電電動機は指令どおりに回生制動力を増加させているものと判断できるので、液圧制動力の増加を抑制する。したがって、実際に発生している回生制動力を知り得なくとも、過剰な液圧制動力の増加を防止でき、良好な制動フィーリングおよび高い回生効率が得られる。
【0019】
請求項2に係る液圧ブレーキ装置の発明では、制動制御装置は、全要求制動量に対する回生制動力の比率を減少させるときに、発電電動機に指令した回生要求制動力から回生実行制動力を減算した差分量が負で、回生要求制動力が発電電動機の実行可能な回生可能制動力の範囲内である場合に、液圧制動力を増加させる。差分量が負となるのは、通常、回生制動力を減少させたときに、時間遅れに起因して回生実行制動力が表面的に過大に見える場合である。この場合、制動制御装置は、要求を超える回生実行制動力を表面上認識していても、回生要求制動力が発電電動機の実行可能な範囲内である場合には、発電電動機は指令どおりに回生制動力を減少させているものと判断できるので、液圧制動力を増加させる。したがって、実際に発生している回生制動力を知り得なくとも、回生制動力の減少による不足分を補償するように液圧制動力を増加でき、良好な制動フィーリングが得られる。
【0020】
請求項3に係る発明では、制動制御装置は、液圧ブレーキ装置を制御する液圧ブレーキ制御部と回生ブレーキ装置を制御する回生ブレーキ制御部とが通信手段により機能的に結合されて構成され、回生要求制動力と回生実行制動力との間に通信遅れに起因する時間差を有している。本発明は、通信遅れにより実際に発生している回生制動力をリアルタイムで知り得ない構成において、請求項1および請求項2の効果が顕著になる。
【0021】
請求項4に係る発明では、液圧ブレーキ装置は、基礎液圧を発生するマスタシリンダと、制御液圧を発生するポンプと、基礎液圧に応じた基礎液圧制動力および制御液圧に応じた制御液圧制動力を加算して車輪に付与する液圧制御ユニットとを有し、制動制御装置は、基礎液圧制動力と回生可能制動力との和が全要求制動力を上回る場合に、ポンプの駆動を抑制する。つまり、制動制御装置は、ブレーキ操作部材の操作量に応じて自動的に定まる基礎液圧制動力と回生可能制動力との和が全要求制動力を上回っていれば、回生実行制動力の大きさに関わらず十分な制動力が得られると判断できるので、ポンプの駆動を抑制する。したがって、実際に発生している回生制動力を知り得なくとも、過剰な制御液圧制動力の発生を防止でき、良好な制動フィーリングおよび高い回生効率が得られる。
【0022】
請求項5に係る発明では、制動制御装置は、或る時点における回生制動容量および回生可能勾配を特定し、或る時点の回生要求制動力または回生実行制動力から次の時点における回生可能制動力の範囲を推定する。この推定を逐次行うことにより回生可能制動力の範囲が高精度に推定され、全要求制動力を基礎液圧制動力、制御液圧制動力、および回生制動力に配分する制御が高精度化され、良好な制動フィーリングおよび高い回生効率が得られる。
【0023】
請求項6に係る発明では、制動制御装置は、所定条件が成立する場合にポンプを駆動するポンプ駆動手段を有している。さらに、請求項7に係る発明では、前記所定条件は、回生可能勾配が所定の第1勾配よりも小さいときとされている。回生可能勾配が小さいことは、回生要求制動力の変化に対して、発電電動機の実際の回生制動力が追従し得ないおそれを示している。したがって、ポンプを駆動して制御液圧制動力を発生させることにより確実に全要求制動力を発生でき、制動制御の信頼性が向上する。
【0024】
また、請求項8に係る発明では、ポンプを駆動する場合の所定条件は、回生制動容量から回生要求制動力を減算した回生余力が所定余力よりも小さいときとされている。回生余力が小さいことは、回生要求制動力が増加したときに、発電電動機の実際の回生制動力が追従し得ないおそれを示している。したがって、ポンプを駆動して制御液圧制動力を発生させることにより確実に全要求制動力を発生でき、制動制御の信頼性が向上する。
【0025】
さらに、請求項9に係る発明では、ポンプを駆動する場合の所定条件は、回生要求制動力の時間変化率を示す回生要求勾配が所定の第2勾配よりも大きいときとされている。回生要求勾配が大きいことは、回生要求制動力が大きく変化することを意味し、発電電動機の実際の回生制動力が追従し得ないおそれを示している。したがって、ポンプを駆動して制御液圧制動力を発生させることにより確実に全要求制動力を発生でき、制動制御の信頼性が向上する。
【0026】
請求項10に係る発明では、制動制御装置は、発電電動機に回生要求制動力を要求したのち所定の遅延時間を経過しても回生実行制動力が発生していないときに、液圧制動力を増加させるバックアップ手段を有する。通常、発電電動機は、回生要求制動力に基づき回生可能制動力の範囲内で回生制動力を発生するが、何らかの原因で回生制動力が過少となり、あるいは発生が時間的に遅れる不具合のおそれがある。この場合に、例えば通信遅れなどによって定まる遅延時間を経過しても回生実行制動力が発生しないことから、制動制御装置は不具合を検出でき、液圧制動力を増加させる。これにより、回生ブレーキ装置の不具合時にも、回生制動力の未発生分を液圧制動力で補償できて、バックアップ機能を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態の車両用ブレーキ装置の装置構成を示す概要図である。
【図2】図1中の液圧ブレーキ装置の構成を詳細に説明する図である。
【図3】第1実施形態の車両用ブレーキ装置の作動特性を説明する図である。
【図4】第1実施形態におけるブレーキECUの制御フローを説明する図である。
【図5】ブレーキペダルの操作量が増加したときに、ブレーキECUが図4の制御フローを実行した結果を模式的に示した図である。
【図6】ブレーキペダルが二段階で操作されたときに、第1実施形態のブレーキECUにより制動制御を行った結果を模式的に示した図である。
【図7】図6と同じブレーキペダルの操作が行われたときに、従来技術による制動制御を行った結果を模式的に示した図である。
【図8】第1実施形態の第1応用例の作用を説明する図である。
【図9】第1実施形態の第2応用例の作用を説明する図である。
【図10】第2実施形態におけるブレーキECUの制御フローを説明する図である。
【図11】ブレーキペダルの操作量が一定のときに、全要求制動量に対する回生制動力の比率を減少させる制動制御を、第2実施形態のブレーキECUにより行った結果を模式的に示した図である。
【図12】図11と同じ制動制御を従来技術により行った結果を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第1実施形態の車両用ブレーキ装置について、図1〜図9を参考にして説明する。図1は、本発明の第1実施形態の車両用ブレーキ装置1の装置構成を示す概要図である。図示されるように、車両用ブレーキ装置1は、回生ブレーキ装置A、液圧ブレーキ装置B、ハイブリッドECU50、ブレーキECU60、などにより構成されている。車両用ブレーキ装置1は、前輪駆動の4輪ハイブリッド車両に搭載されるもので、通常はドライバーのブレーキペダル21の踏み込み操作に応じて作動し、これとは別にブレーキECU60が車両走行状況に応じて自動的に制動力を設定して調整する機能を有する。
【0029】
回生ブレーキ装置Aは、図略の発電電動機で構成され、図略のインバータ装置およびバッテリ装置を含んでいる。発電電動機は、バッテリ装置の直流電圧を交流電圧に変換するインバータ装置により駆動されて電動機として作動し、駆動輪である前右輪7FRおよび前左輪7FLを駆動する。また、発電電動機は、前右輪7FRおよび前左輪7FLにより駆動されて発電機として作動し、インバータ装置を介してバッテリ装置を充電する。このとき、発電電動機からの反力により前右輪7FRおよび前左輪7FLに回生制動力が付与されるので、一般的にこの機能を回生ブレーキ装置Aと呼称している。前右輪7FRおよび前左輪7FLは、共通の車軸で発電電動機に連結されているので、概ね同量の回生制動力が発生する。なお、発電電動機に代えて発電機および電動機を別々に備え、発電機に回生ブレーキ装置Aの機能を設けることもできる。
【0030】
ハイブリッドECU50は、ハイブリッド車両のパワートレイン全体を制御する電子制御装置であり、図略のエンジンおよび発電電動機を協調して制御するものである。ハイブリッドECU50は回生ブレーキ制御部の機能を有し、インバータ装置に接続されて、回生ブレーキ装置Aを制御するようになっている。
【0031】
液圧ブレーキ装置Bは、作動液として作動油を使用しており、図示されるようにブレーキペダル21、負圧式ブレーキブースタ22、マスタシリンダ23、液圧制御ユニット25、などで構成されている。液圧ブレーキ装置Bは、ブレーキペダル21の踏み込み操作による踏力を負圧式ブレーキブースタ22で助勢し、マスタシリンダ23を作動させて基礎液圧を発生させ、液圧制御ユニット25でポンプにより制御液圧を基礎液圧に加えて前右輪7FR、前左輪7FL、後右輪7RR、および後左輪7RLの各ホイールシリンダWC2、WC3、WC4、WC1に付与するものである。以下、図2を参考にして詳述する。
【0032】
図2は、図1中の液圧ブレーキ装置Bの構成を詳細に説明する図である。ブレーキペダル21は、ブレーキ操作部材に相当する部材であり、踏み込み操作量に応じて負圧式ブレーキブースタ22を作動させる。ブレーキペダル21の操作量であるストローク量は、ペダルストロークセンサ21aにより検出されて、ブレーキECU60に検出信号が出力されるようになっている。負圧式ブレーキブースタ22は、図略のエンジンから供給される負圧を利用して、ブレーキペダル21の踏み込み操作による踏力を助勢し、マスタシリンダ23を作動させる。
【0033】
マスタシリンダ23は、タンデム式であり、有底筒状に形成されたハウジング23aと、ハウジング23a内に液密かつ摺動可能に並べて収納された第1および第2ピストン23b、23cとにより構成されている。第1ピストン23bと第2ピストン23cとの間には第1液圧室23dが形成され、第2ピストン23cとハウジング23aの底部との間には第2液圧室23fが形成されている。第1および第2ピストン23b、23cは負圧式ブレーキブースタ22に駆動され、第1および第2液圧室23d、23fに基礎液圧が発生するようになっている。また、リザーバ24は、第1および第2ピストン23b、23cが作動していない状態で第1および第2液圧室23d、23fに連通し、作動油の量を調整する機能を有している。
【0034】
液圧制御ユニット25は、液圧制御弁31、41、ABS制御弁を構成する増圧制御弁32、33、42、43および減圧制御弁35、36、45、46、調圧リザーバ34、44、ポンプ37、47、モータMなどが一つのケースにパッケージされて構成されている。図2に示されるように、本第1実施形態の液圧ブレーキ装置Bのブレーキ配管経路は、前右輪7FRおよび後左輪7RLに液圧制動力を付与する第1配管経路L1と、前左輪7FLおよび後右輪7RRに液圧制動力を付与する第2配管経路L2とを有するX配管方式で構成されている。マスタシリンダ23の第1液圧室23dは第2配管経路L2に接続され、第2液圧室23fは第1配管経路L1に接続されている。
【0035】
まず、液圧制御ユニット25の第1配管経路L1の構成について説明する。第1配管経路L1には、差圧制御弁で構成される液圧制御弁31が備えられている。液圧制御弁31は、ブレーキECU60からの制御により、連通状態および差圧状態に切り替わるものである。液圧制御弁31は通常連通状態とされており、差圧状態に切り替わることによりホイールシリンダWC1、WC2側の油経路L12をマスタシリンダ23側の油経路L11の基礎液圧よりも所定の差圧分高い圧力に保持することができる。この差圧が制御液圧であり、後述するポンプ37、47の吐出圧から得ることができる。
【0036】
油経路L12は2つに分岐しており、分岐した一方には、後左輪RLのホイールシリンダWC1へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁32が備えられている。分岐した他方には、前右輪FRのホイールシリンダWC2へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁33が備えられている。増圧制御弁32、33は、ブレーキECU60により連通状態および遮断状態を切り替え制御できる2位置弁として構成されている。そして、増圧制御弁32、33が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ23の基礎液圧、またはポンプ37の駆動によって形成される制御液圧と基礎液圧とを加算した液圧を各ホイールシリンダWC1、WC2に加えることができる。
【0037】
また、増圧制御弁32、33と各ホイールシリンダWC1、WC2との間における油経路L12は、油経路L13により調圧リザーバ34のリザーバ孔34aに連通されている。油経路L13には、ブレーキECU60により連通状態および遮断状態を切り替え制御できる減圧制御弁35、36がそれぞれ配設されている。
【0038】
ABS機能が実行されていない通常の作動状態では、増圧制御弁32、33は連通状態とされ、減圧制御弁35、36は遮断状態とされている。ABS制御が実行されると、減圧モードでは増圧制御弁32、33が閉じられて減圧制御弁35、36が開かれる。これにより、油経路L13を経由して調圧リザーバ34へ作動油が排出され、ホイールシリンダWC1、WC2における液圧が減圧され、前右輪7FRおよび後左輪7RLがロック傾向に至ることを防止するようになっている。
【0039】
また、ABS機能時の増圧モードでは、増圧制御弁32、33が開かれて減圧制御弁35、36が閉じられる。これにより、ホイールシリンダWC1、WC2における液圧が増圧され、前右輪7FRおよび後左輪7RLの制動力が増加するようになっている。なお、増圧制御弁32、33には、それぞれ安全弁32a、33aが並列に設けられている。安全弁32a、33aにより、ABS機能時においてブレーキペダル21の踏み込みがなくなったときに、ホイールシリンダWC1、WC2の作動油をリザーバ24に戻すようになっている。
【0040】
さらに、液圧制御弁31と増圧制御弁32、33との間における油経路L12と調圧リザーバ34のリザーバ孔34aとを結ぶ油経路L14には、ポンプ37が安全弁37aとともに配設されている。ポンプ37の吐出側に配設されているダンパ38は、吐出された作動油の液圧の脈動を吸収して油経路L12に作動油を圧送する。ポンプ37の吸入側は、調圧リザーバ34のリザーバ孔34aに接続されている。また、調圧リザーバ34のリザーバ孔34bと油経路L11とを連通する油経路L15が設けられ、調圧リザーバ34とマスタシリンダ23とが連通されている。
【0041】
ポンプ37は、ブレーキECU60からの指令でモータMの駆動電流が調整されることにより、吐出流量が調整される。ポンプ37は、ABS制御の減圧モード時に作動し、ホイールシリンダWC1、WC2内の作動油または調圧リザーバ34に貯められている作動油を吸い込み、連通状態の液圧制御弁31を介してマスタシリンダ23に戻す。また、ポンプ37は、アクティブクルーズコントロール機能やブレーキアシスト機能の他、トラクションコントロール機能や電子安定性制御機能などの車両の姿勢を安定に制御する機能を実施する際に、制御液圧を発生させるために作動する。
【0042】
すなわち、ポンプ37は、差圧状態に切り替えられている液圧制御弁31に差圧を発生させるべく、マスタシリンダ23内の作動油を油経路L11および油経路L15を経由して吸い込み、油経路L14、L12および連通状態の増圧制御弁32、33を介して各ホイールシリンダWC1、WC2に吐出して制御液圧を付与する。さらに、ポンプ37は、回生ブレーキ装置Aで十分な回生制動力が得られない場合などにも作動して差圧を発生させ、各ホイールシリンダWC1、WC2に制御液圧を付与する。
【0043】
また、油経路L11には、マスタシリンダ23で生成された基礎液圧を検出する圧力センサPが設けられており、この検出信号はブレーキECU60に送信されるようになっている。圧力センサPが検出する基礎液圧からマスタシリンダ23内の第1および第2ピストン23b、23cの位置が分かり、ブレーキペダル21の操作量を知ることができる。なお、圧力センサPは、第2配管経路L2の油経路L21に設けるようにしてもよい。
【0044】
さらに、液圧制御ユニット25の第2配管経路L2も前述した第1配管経路L1と同様な構成であり、第2配管経路L2は油経路L21〜L25から構成されている。弁類なども同様であり、第2配管経路L2に液圧制御弁41および調圧リザーバ44が備えられている。分岐した油経路L22の一方には前左輪7FLのホイールシリンダWC3のブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁42が備えられ、分岐した他方には後後輪7RRのホイールシリンダWC2へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁43が備えられている。さらに、油経路L23に減圧制御弁45、46、油経路L24にポンプ47がそれぞれ備えられている。
【0045】
液圧制御ユニット25により、マスタシリンダ23の基礎液圧および、ポンプ37、47の駆動と液圧制御弁31、41の制御によって形成された制御液圧を各車輪7RL、7FR、7FL、7RRのホイールシリンダWC1、WC2、WC3、WC4に付与できる。各ホイールシリンダWC1、WC2、WC3、WC4は、基礎液圧および制御液圧が供給されると、ブレーキ手段BK1〜BK4を作動させて各車輪7RL、7FR、7FL、7RRに基礎液圧制動力FBおよび制御液圧制動力FCを付与する。ブレーキ手段BK1〜BK4としては、ディスクブレーキ、ドラムブレーキ等があり、ブレーキパッド、ブレーキシュー等の摩擦部材が車輪に一体のディスクロータ、ブレーキドラム等の回転を規制するようになっている。
【0046】
ブレーキECU60は液圧ブレーキ制御部に相当し、ハイブリッドECU50と協働して車両用ブレーキ装置1全体を制御する電子制御装置である。ブレーキECU60は、液圧制御ユニット25内の弁類を開閉制御し、モータMを駆動制御してポンプ37、47を制御する。また、ブレーキECU60は、ペダルストロークセンサ21aおよび圧力センサPから検出信号を受け取るようになっている。ブレーキECU60は、ブレーキペダル21の操作量に応じた全目標制動力FTを演算し、これから基礎液圧制動力FBを減算した残りを目標制御制動力FAとし、目標制御制動力FAを制御液圧制動力FCおよび回生制動力に配分する。ブレーキECU60およびハイブリッドECU50は、通信手段により機能的に結合されており、制御液圧制動力FCおよび回生制動力を協調制御する制動制御装置に相当する。
【0047】
図3は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置1の作動特性を説明する図である。図3の横軸はブレーキペダルの操作量、縦軸は制動力である。図中の実線の曲線は、ブレーキペダル21の操作量により定まる全目標制動力FTを示し、破線の曲線は、ブレーキペダル21の操作量に応じてマスタシリンダで発生する基礎液圧に応じた基礎液圧制動力FBを示している。全目標制動力FTから基礎液圧制動力FBを減算した目標制御制動力FAは、回生ブレーキ装置Aによる回生制動力(回生実行制動力FG)とポンプ駆動による制御液圧制動力FCとに配分され、全目標制動力FTがちょうど発生するように制御される。なお、実際に発生した回生制動力と制御液圧制動力FCとの和が、実際の制御制動力である。図3の作動特性は、一覧表形式のマップや関係式の形態で予めブレーキECU60内に記憶され、逐次使用される。
【0048】
次に、第1実施形態におけるブレーキECU60の制御フローについて、図4を参考にして説明する。図示されるように、ブレーキECU60は、ステップS1で入力処理を行う。具体的には、ペダルストロークセンサ21a、および圧力センサPの検出信号を取り込み、また、ハイブリッドECU50と情報を交換する。ステップS2では、ペダルストロークセンサ21aおよび圧力センサPの検出信号に基づいてブレーキペダル21の操作量Zを演算する。なお、操作量Zの精度を向上するために、ペダルストロークセンサ21aおよび圧力センサPを併用しており、一方のセンサのみを用いてもよい。ステップS3では、図3の作動特性から操作量Zに相当する全目標制動力FTおよび基礎液圧制動力FBを求める。ステップS4では、ステップ3で求めた全目標制動力FTから基礎液圧制動力FBを減算して目標制御制動力FAを演算する。
【0049】
次のステップS5では、ブレーキECU60は、目標制御制動力FAに等しい回生要求制動力FRを送信し、ハイブリッドECU50経由で発電電動機に指令する。ステップS6では、ブレーキECU60は、ハイブリッドECU50から回生制動容量CA、回生可能勾配SL、および回生実行制動力FGを受信する。
【0050】
回生制動容量CAは、或る時点において発電電動機が回生可能な制動力の全量を示し、発電電動機の特性に加えて、駆動輪である前右輪7FRおよび前左輪7FLの回転数や、バッテリ装置の充電量などに依存して定まる量である。発電電動機が実際に発生する回生制動力は、回生制動容量CAを超えることはない。回生可能勾配SLは、或る時点において発電電動機の回生可能制動力が変化し得る時間変化率であり、或る時点で発生している回生制動力が次の時点でどこまで変化し得るかを示す指標である。回生可能勾配SLは、増加の上限を示す上限回生可能勾配SLUおよび、減少の下限を示す下限回生可能勾配SLLで示される。上限回生可能勾配SLUおよび下限回生可能勾配SLLは、発電電動機の特性や駆動輪の回転数に加えて、その時点で実際に発生している回生制動力の大きさなどに依存して定まる量である。
【0051】
回生制動容量CAおよび回生可能勾配SL(SLU、SLL)は、一覧表形式のマップや関係式の形態で予めハイブリッドECU50内に記憶されている。ハイブリッドECU50が回生制動容量CAおよび回生可能勾配SLを特定する機能がそれぞれ、回生制動容量特定手段および回生可能勾配特定手段に対応する。なお、回生実行制動力FGは、発電電動機が実際に発生した回生制動力を示す量である。
【0052】
次のステップS7では、回生可能制動力FXを演算する。この演算は、今の時点における実際の回生制動力が次の時点までに変化し得る上下限の範囲を求めることに相当する。範囲の上限である上限回生可能制動力FXUは回生要求制動力FRに上限回生可能勾配SLUを加算して求める。ただし、演算結果で仮に上限回生可能制動力FXUが回生制動容量CAを超えても、実際に生じることはあり得ないので、上限回生可能制動力FXUは回生制動容量CAで頭切りされる。一方、下限回生可能制動力FXLは回生要求制動力FRに下限回生可能勾配SLLを加算して求める。
【0053】
ブレーキECU60では実際の回生制動力を知り得ないので、尤も確からしいと考えられる回生要求制動力FRを基準にして、回生可能制動力FXの上下限を設定する。つまり、発電電動機(回生ブレーキ装置A)が良好に作動している間は回生要求制動力FRを満足するように回生制動力を発生する、という考え方に依拠している。別の方法として、通信遅れに起因する時間差があっても回生実行制動力FGを基準にして上下限を設定するようにしてもよい。また、今の時点における回生要求制動力FRまたは回生実行制動力と、回生制動容量CAと、回生可能勾配SL(SLU、SLL)とを基にして、次の時点だけでなく、次の次の時点およびそれ以降の回生可能制動力の範囲(回生可能制動力FX)を推定するようにしてもよい。ステップS7は、回生可能範囲推定手段に対応する。次のステップS8では、制御液圧制動力FCを次式により演算する。
【0054】
制御液圧制動力FC=目標制御制動力FA− MED(回生要求制動力FR,
上限回生可能制動力FXU,下限回生可能制動力FXL)
上式で、論理演算記号MEDは、3つの引数のうちの中間値を選択することを意味し、中間値は実際に発生する回生制動力の期待値になる。つまり、回生要求制動力FRが上限回生可能制動力FXUと下限回生可能制動力FXLの間にあれば、回生要求制動力FRどおりの回生制動力の発生を期待できる。また、回生要求制動力FRが上限回生可能制動力FXUを超えていれば、上限回生可能制動力FXUの発生が期待できる。回生要求制動力FRが下限回生可能制動力FXL未満となれば、下限回生可能制動力FXLの発生が期待できる。したがって、制御液圧制動力FCは、目標制御制動力FAから上記の中間値を減算して求められる。
【0055】
次のステップS9では、回生要求制動力FRから回生実行制動力FGを減算して差分量DFを演算する。ステップS10では、差分量DFの正負を調べ、正であればステップS11に進む。ステップS11では、回生要求制動力FRが回生可能制動力FXの範囲内、すなわち、上限回生可能制動力FXUと下限回生可能制動力FXLの間にあるか判定し、間にあればステップS12に進む。ステップS12では、ステップS8の制御液圧制動力FCの演算結果に関わらず、液圧制御ユニット25内のポンプ37、47を停止して制御液圧制動力FCを抑制する。ステップ9は差分量演算手段に対応し、ステップ11は回生範囲判定手段に対応し、ステップ12は液圧抑制手段およびポンプ抑制手段に対応する。
【0056】
ステップS10またはステップS11の条件が満たされない場合はステップ13に進み、ステップS8で演算した制御液圧制動力FCが正であればステップS14に進み、正でなければステップ12に進む。ステップS14では、液圧制御ユニット25内のポンプ37、47を駆動して制御液圧制動力FCを発生する。ステップS12およびステップS14はステップ15で合流し、液圧制御ユニット25内の液圧制御弁31、41を制御する。これにより制御液圧制動力FCの抑制および発生が達成される。また、これで制御フローの1サイクルが終了し、ステップS1に戻り、以降繰り返して制御する。
【0057】
次に、上述のように構成された第1実施形態の車両用ブレーキ装置1の作動について例示説明する。図5は、ブレーキペダル21の操作量が増加したときにブレーキECU60が図4の制御フローを実行した結果を模式的に示した図である。図中の横軸は時間軸t、縦軸は制動力を示している。ブレーキペダル21の操作量は、時刻t1から時刻t3にかけて概ね一定で、時刻t3から時刻t6にかけて増加し、時刻t6以降概ね一定となっている。ブレーキペダル21の操作量の増加に伴い、目標制御制動力FAすなわち回生要求制動力FRも同様に変化している。すなわち、時刻t1のFR1から時刻t3のFR3まで概ね一定で、時刻t3から時刻t6にかけて増加し、時刻t6のFR6以降概ね一定となり、3本の折れ線状に変化している。
【0058】
ここで、回生可能制動力FX(FXU,FXL)の演算について、図式的に説明する。いま、時刻tiで回生要求制動力FRiを発信指令し、回生制動容量CAi、上限回生可能勾配SLUiおよび下限回生可能勾配SLLi(負値)を受信したと場合を考える。次の時刻tjにおける上限および下限回生可能制動力FXUj、FXLjは次式により求める。
【0059】
上限回生可能制動力FXUj=回生要求制動力FRi+上限回生可能勾配SLUi
下限回生可能制動力FXLj=回生要求制動力FRi+下限回生可能勾配SLLi
ただし、上限回生可能制動力FXUjについては、回生制動容量CAiで頭切りされる。このようにして順次得られた上下限回生可能制動力FXU、FXLが、図中に破線で示されている。また、順次受信した回生制動容量CAが細い実線で示されている。
【0060】
回生制動容量CAは、時刻t1で回生要求制動力FR1よりも大きなCA1であり、時刻t1と時刻t3との中間辺りから徐々に増加し、時刻t5で回生要求制動力FR5に一致し、時刻t6で回生要求制動力FR6よりも小さなCA6となり、時刻t7で再び回生要求制動力FR7に一致し、以降回生要求制動力FRに一致して推移している。上限回生可能制動力FXUは、時刻t1で回生要求制動力FR1と回生制動容量CA1との間のFXU1で、時刻t3まで概ね一定であり、時刻t3から増加し、時刻t4で回生制動容量C4に一致し、時刻t4以降は頭切りされて回生制動容量C4に一致して推移している。下限回生可能制動力FXLは、時刻t1で回生要求制動力FR2よりも小さなFXL1であり、以降は回生要求制動力FRよりも常に小さく推移している。
【0061】
回生要求制動力FRの指令を受けた発電電動機(回生ブレーキ装置A)は、時刻t1から時刻t5の間は指令された回生要求制動力FRに等しい回生制動力を発生する。なぜなら、回生要求制動力FRが、上限回生可能制動力FXUと下限回生可能制動力FXLの範囲内にあるからである。ところが、時刻t5から時刻t7までの間、発電電動機は上限回生可能制動力FXUすなわち回生制動容量CAに沿った回生制動力(FR5からCA6を経てFR7に至る曲線)しか発生できない。したがって、図中に斜線部で示される不足分が生じる。時刻t7以降、発電電動機は、再び回生要求制動力FRに等しい回生制動力を発生する。
【0062】
一方、ブレーキECUは、図4の制御フローのステップ8で、時刻t5から時刻t7までの間の斜線部で示される不足分を制御液圧制動力FC1として演算できる。また、ステップ11の条件が満たされないのでステップ13からステップ14に進み、ポンプ31、41を駆動する。これにより、不足分に相当する制御液圧制動力FCが発生して、全要求制動力FTが達成される。
【0063】
本実施形態では、上述したように通信遅れのある回生実行制動力FGを参照せずとも、液圧ブレーキ装置Bの制御液圧制動力FCおよび回生ブレーキ装置Aの回生制動力を協調制御して、全要求制動力FTを達成できる。
【0064】
次に、上述のように構成された第1実施形態の車両用ブレーキ装置1の作用および効果について、従来技術と比較して説明する。図6は、ブレーキペダル21が二段階で操作されたときに、第1実施形態のブレーキECU60により制動制御を行った結果を模式的に示した図である。また、図7は、図6と同じブレーキペダル21の操作が行われたときに、従来技術による制動制御を行った結果を模式的に示した図である。図6および図7において、上段のグラフは回生要求御制動力FR(=目標制御制動力FA)、中段のグラフは実際の制御制動力、下段のグラフはモータ駆動信号を示し、横軸は共通の時間軸tである。
【0065】
図6の第1実施形態において、上段に示されるように、時刻t11でブレーキペダル21の踏み込み操作が開始されて目標制御制動力FAおよび回生要求御制動力FRが発生し、時刻t13まで増加する。回生要求御制動力FRは、時刻t13から時刻t15までの間は概ね一定値FA2で、時刻t15から時刻t16まで増加し、以降は概ね一定値FA3となっている。ここで、時刻t13から時刻t15まの間の一定値FA2は、回生制動容量CAに略一致している。また、二点鎖線で示される回生実行制動力FGは通信遅れに起因する時間差DTにより時刻t12で立ち上がり、時刻t14で回生要求御制動力FRに一致する。時刻t11〜t14の間、図示されるように、回生要求制動力FRから回生実行制動力FGを減算した差分量DFは正となる。かつ、回生要求制動力FRが上限回生可能制動力FXUと下限回生可能制動力FXLの範囲内にある。したがって、図4のステップS10およびステップS11が満足され、ステップ12が実行されてポンプ37、47は停止する。また、時刻t14〜t15の間、差分量DFおよび制御液圧制動力FCがゼロとなり、やはりステップ12が実行されてポンプ37、47は停止する。このポンプ37、47の停止により、液圧制動力の増加が抑制される。
【0066】
時刻t15を過ぎると、回生要求制動力FRが上限回生可能制動力FXUを超えるので、制御液圧制動力FCが必要になる。ブレーキECU60は、下段に示されるモータ駆動信号を発してポンプ37、47を駆動する。この結果、中段に示されるように、時刻t11から時刻t15までは回生制動力のみが発生し、時刻t15以降は回生制動力と制御液圧制動力FCの両方が発生する。そして、両者を加算した実際の制御制動力の波形は、上段の目標制御制動力FAに一致する。
【0067】
これに対して、図7の従来技術では、時刻t11で目標制御制動力FAに等しい回生要求制動力FRを発電電動機に指令しても、通信遅れに起因する時間差DTにより二点鎖線で示される回生実行制動力FGは直ちには増加しない。したがって、回生実行制動力FGが表面的に過少に見え、時刻t11で下段に示されるモータ駆動信号を発してポンプ37、47を駆動する。ポンプ37、47の駆動は、時間差DTが解消される時刻t14まで続く。この結果、中段に示されるように、時刻t11から時刻t14までの間、実際には回生制動力が発生していてさらに制御液圧制動力FCが重畳する。したがって、実際の制御制動力が過剰になって制動フィーリングが悪化する。また、制御液圧制動力FCの重畳により回生制動力が削減され、回生効率の低下を招くおそれがある。
【0068】
本第1実施形態によれば、実際に発生している回生制動力をリアルタイムで知り得なくとも、過剰な制御液圧制動力FCの増加を防止でき、良好な制動フィーリングおよび高い回生効率が得られる。また、或る時点の回生要求制動力FR、回生制動容量CA、および回生可能勾配SL(SLU、SLL)に基づいて、次の時点における回生可能制動力の範囲を推定するので、回生可能制動力FX(FXU、FXL)の範囲が高精度に推定される。したがって、全要求制動力FTを基礎液圧制動力FB、制御液圧制動力FC、および回生制動力に配分する制御が高精度化される。
【0069】
次に、制動制御の信頼性を向上した第1実施形態の第1応用例について説明する。第1応用例では、回生要求制動力FRが上限回生可能制動力FXUと下限回生可能制動力FXLの範囲から逸脱して発電電動機の回生制動力が追従しなくなるおそれを未然に判定して、制御液圧制動力FCを増加させる。すなわち、ブレーキECU60は、回生可能勾配SL(SLU,SLL)が所定の第1勾配よりも小さいとき、回生制動容量CAから回生要求制動力FRを減算した回生余力が所定余力よりも小さいとき、回生要求制動力FRの時間変化率を示す回生要求勾配が所定の第2勾配よりも大きいとき、のいずれかの条件が成立する場合にポンプ37、47を駆動する。
【0070】
図8は、第1実施形態の第1応用例の作用を説明する図である。図8で時刻tkにおける上限回生可能勾配SLUkおよび下限回生可能勾配SLLkが所定の第1勾配よりも小さいとき、次の時刻tlにおける回生可能制動力FXの範囲RGは狭くなる。数式で示せば、
範囲RG=上限回生可能制動力FXUl−下限回生可能制動力FXLl
=上限回生可能勾配SLUk−下限回生可能勾配SLLk
したがって、時刻tkの回生要求制動力FRkがわずかに変化するだけで、次の時刻tlの回生要求制動力FRlが回生可能制動力FXの範囲RGから逸脱するおそれがある。また、仮に時刻tmにおける回生要求制動力FRmの回生要求勾配SLRが所定の第2勾配よりも大きいと、図示されるように次の時刻tnの回生要求制動力FRnが大きく変化して上限回生可能制動力FXUnと下限回生可能制動力FXLnの範囲から逸脱するおそれがある。さらに、時刻tpで回生要求制動力FRpが回生制動容量CAに一致するが、前の時刻toにおいて、回生制動容量CAoから回生要求制動力FRoを減算した回生余力RHが所定余力よりも小さくなっている。したがって、時刻toの時点で、次の時刻tpの回生要求制動力FRpが回生制動容量CAを超過するおそれを予測できる。
【0071】
これら3つのおそれは、発電電動機の回生制動力が回生要求制動力FRに追従しなくなるおそれを意味している。したがって、上述の3条件のいずれかが成立する時刻tk、tm、toで、ポンプ37、47を駆動する。これにより、制御液圧制動力ECを増加させて発電電動機の回生制動力が不足するおそれを解消し、確実に全要求制動力FTを発生でき、制動制御の信頼性が向上する。なお、所定の第1勾配および第2勾配や所定余力の大きさは、回生ブレーキ装置Aの特性に応じて適宜定めることができる。また、上述の3条件の一部だけを用いるようにしてもよい。
【0072】
次に、バックアップ機能を有する第1実施形態の第2応用例について説明する。第2応用例では、ブレーキECU60は、発電電動機に回生要求制動力FRを要求したのち所定の遅延時間を経過しても回生実行制動力RGが発生していないときに、制御液圧制動力FCを増加させるバックアップ手段を有している。所定の遅延時間は、例えば、図6および図7に示された通信遅れに起因する時間差DTに等しい時間とする。
【0073】
図9は、第1実施形態の第2応用例の作用を説明する図である。図9において、上段のグラフは発信指令した回生要求制動力FRおよび受信した回生実行制動力FG、中段のグラフは制御液圧制動力FC、下段のグラフはモータ駆動信号を示し、横軸は共通の時間軸tである。図9の上段に示されるように、時刻t21でブレーキペダル21の踏み込み操作が開始されて回生要求制動力FRが発生する場合、正常時には二点鎖線で示されるように、時間差DTだけ遅れた時刻t22から回生実行制動力FG1が発生し、時刻t24で一定値に落ち着いている回生要求制動力FRに一致する。
【0074】
ここで、何らかの原因により回生ブレーキ装置Aに不具合が発生し、回生実行制動力FG2が正常時よりも遅れた時刻t23から緩慢な増加率で発生し、目標制御制動力FAに時刻t25で一致した場合を想定する。すると、ブレーキECUは、時刻t22で正常時の回生実行制動力FG1を受信できないことから不具合を検出でき、下段に示されるモータ駆動信号を発してポンプ37,47により制御液圧制動力FCを増加させる。さらに、時刻t22〜t23間、時刻t23〜t24間、および時刻t24〜t25間に分けて、正常時の回生実行制動力FG1から不具合時の回生実行制動力FG2を減算した不足分を補償できるように、液圧制御弁31、41を制御する。
【0075】
これにより、中段に示される制御液圧制動力FCが発生し、斜線部d、e、およびfの面積が、それぞれ上段の斜線部a、b、cの面積に等しくなる。したがって、回生制動力の未発生分を制御液圧制動力ECで補償できて、バックアップ機能を実現できる。
【0076】
次に、第2実施形態の車両用ブレーキ装置について説明する。第2実施形態の車両用ブレーキ装置は、図1及び図2に示される第1実施形態と同一の装置構成を有し、全要求制動量に対する回生制動力の比率を減少させる制動制御を対象としている。このような制動制御は、例えば、車両走行速度が減少しつつあるときに、回生ブレーキ装置Aを停止させながら液圧ブレーキ装置Bに制動力を移行する場合に生起する。図10は、第2実施形態におけるブレーキECU60の制御フローを説明する図である。第2実施形態では、図4中のステップS5が図10のステップS5Aに置き換えられ、また、ステップS10A〜S14Aの制御内容が異なる。
【0077】
図10のステップS5Aでは、ブレーキECU60は、目標制御制動力FAよりも小さな回生要求制動力FRを送信しハイブリッドECU50経由で発電電動機に指令する。目標制御制動力FAよりも小さな回生要求制動力FRを指令する条件は、予めブレーキECU60内に定められており、条件を満足する場合のみステップ5A以降の処理が実行される。また、回生要求制動力FRを小さくする程度も予め定められている。
【0078】
図10のステップS10Aでは、ステップS9で演算した差分量DFの正負を調べ、負であればステップS11に進む。ステップS11では、回生要求制動力FRが回生可能制動力の範囲内、すなわち、上限回生可能制動力FXUと下限回生可能制動力FXLの間にあるか判定し、間にあればステップS12Aに進む。ステップS12Aでは、ステップS8の制御液圧制動力FCの演算結果に関わらず、液圧制御ユニット25内のポンプ37、47を駆動して制御液圧制動力FCを増加させる。ステップS12Aは液圧増加手段に対応する。
【0079】
ステップS10AまたはステップS11の条件が満たされない場合はステップ13に進み、ステップS8で演算した制御液圧制動力FC1が正であればステップS12Aに進み、正でなければステップ14に進む。ステップS14では、液圧制御ユニット25内のポンプ37、47を停止して制御液圧制動力FCの増加を抑制する。ステップS12AおよびステップS14Aはステップ15で合流し、液圧制御ユニット25内の液圧制御弁31、41を制御する。これにより制御液圧制動力FCの増加の実施および増加の抑制が達成される。また、これで制御フローの1サイクルが終了し、ステップS1に戻り、以降繰り返して制御する。
【0080】
次に、第2実施形態の車両用ブレーキ装置の作用および効果について、従来技術と比較して説明する。図11は、ブレーキペダル21の操作量が一定のときに、全要求制動量に対する回生制動力の比率を減少させる制動制御を、第2実施形態のブレーキECU60により行った結果を模式的に示した図である。また、図12は、図11と同じ制動制御を従来技術により行った結果を模式的に示した図である。図11および図12において、上段のグラフは目標制御制動力FAおよび回生要求御制動力FR、中段のグラフは実際の制御制動力、下段のグラフはモータ駆動信号を示し、横軸は共通の時間軸tである。
【0081】
図11の第2実施形態において、上段に示されるように、ブレーキペダル21の操作量が一定の条件下で目標制御制動力FAは概ね一定となっている。ブレーキECU60は、例えば、車両走行速度の減少を参照して、回生要求制動力FRを時刻t21で減らし始め、時刻t23でゼロに制御する。また、回生実行制動力FGは、通信遅れに起因する時間差DTにより時刻t22で減り始め、時刻t24でゼロになる。時刻t21〜t23の間、図示されるように、回生要求制動力FRから回生実行制動力FGを減算した差分量DFは負となる。かつ、回生要求制動力FRが上限回生可能制動力FXUと下限回生可能制動力FXLの範囲内にある。したがって、図10のステップS10AおよびステップS11が満足され、ブレーキECU60はステップ12Aを実行し、時刻t21で図11下段に示されるモータ駆動信号を発してポンプ37、47を駆動する。
【0082】
また、時刻t23以降は、ステップS11は満足されなくなるが、大きな制御液圧制動力FC1が演算されるため、やはりポンプ37、47を駆動する。このポンプ37、47の駆動により、中段に示されるように、時刻t11から時刻t13までの実際の回生制動力の減少分を補償するように制御液圧制動力FCを増加させることができる。そして、実際の回生制動力と制御液圧制動力FCとを加算した実際の制御制動力の波形は、上段の目標制御制動力FAに一致する。
【0083】
これに対して、図12の従来技術では、回生要求制動力FRを時刻t21で減らし始め、ても、通信遅れに起因する時間差DTにより回生実行制動力FGは直ちには減少しない。したがって、回生実行制動力FGが表面的に過大に見え、時刻t11ではポンプ37、47を停止する。そして、時刻t22で回生実行制動力FGの減少を受信してから下段に示されるモータ駆動信号を発してポンプ37、47を駆動する。したがって、中段に示されるように、実際の制御制動力がV字状に不足する。
【0084】
本第2実施形態によれば、実際に発生している回生制動力をリアルタイムで知り得なくとも、回生制動力の減少による不足分を補償するように制御液圧制動力FCを増加させることができ、良好な制動フィーリングが得られる。
【0085】
なお、第1実施形態と第2実施形態は併用可能である。さらに、第1実施形態の第1応用例および第2応用例も、併せて実施可能である。また、第1および第2実施形態では、液圧ブレーキ装置Bは基礎液圧を発生するマスタシリンダ23および制御液圧を発生するポンプ37、47を有するが、これに限定されない。例えば、マスタシリンダを有さずポンプのみにより液圧を発生する、いわゆるブレーキバイワイヤ方式の液圧ブレーキ装置であってもよい。本発明は、その他様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0086】
1:車両用ブレーキ装置
21:ブレーキペダル(ブレーキ操作部材) 21a:ペダルストロークセンサ
22:負圧式ブレーキブースタ 23:マスタシリンダ 24:リザーバ
25:液圧制御ユニット 31、41:液圧制御弁
32、33、42、43:増圧制御弁 35、36、45、46:減圧制御弁
34、44:調圧リザーバ 37、47:ポンプ
50:ハイブリッドECU(制動制御装置)
60:ブレーキECU(制動制御装置)
7FR:前右輪 7FL:前左輪 7RR:後右輪 7RL:後左輪
A:回生ブレーキ装置 B:液圧ブレーキ装置
L1:第1配管経路 L11〜L15:油経路
L2:第2配管経路 L21〜L25:油経路
M:モータ P:圧力センサ
WC1、WC2、WC3、WC4:ホイールシリンダ
FT:全目標制動力 FB:基礎液圧制動力 FA:目標制御制動力
FC:制御液圧制動力 FR:回生要求制動力 FG:回生実行制動力
FX:回生可能制動力 CA:回生制動容量 SL:回生可能勾倍
DF:差分量 DT:時間差
RG:回生可能制動力の範囲 RH:所定余力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧制動力(FB、FC)を車輪(7FR、7FL、7RR、7RL)に付与する液圧ブレーキ装置(B)と、前記車輪の中で発電電動機に駆動される駆動輪(7FR、7FL)に回生制動力を付与する回生ブレーキ装置(A)と、ブレーキ操作部材(21)の操作量に応じて、前記液圧ブレーキ装置が付与する液圧制動力および前記回生ブレーキ装置が付与する回生制動力を協調制御する制動制御装置(50,60)と、を備える車両用ブレーキ装置(1)であって、
前記制動制御装置は、
前記発電電動機に指令した回生要求制動力(FR)から前記発電電動機が実行した回生実行制動力(FG)を減算して差分量(DF)を演算する差分量演算手段(S9)と、
前記回生要求制動力が前記発電電動機の実行可能な回生可能制動力(FX)の範囲内であるか否かを判定する回生範囲判定手段(S11)と、
前記差分量が正でかつ前記回生要求制動力が前記回生可能制動力の範囲内である場合に、前記液圧制動力の増加を抑制する液圧抑制手段(S12)と、
を有することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
液圧制動力を車輪に付与する液圧ブレーキ装置と、前記車輪の中で発電電動機に駆動される駆動輪に回生制動力を付与する回生ブレーキ装置と、ブレーキ操作部材の操作量に応じて、前記液圧ブレーキ装置が付与する液圧制動力および前記回生ブレーキ装置が付与する回生制動力を協調制御する制動制御装置と、を備える車両用ブレーキ装置であって、
前記制動制御装置は、前記ブレーキ操作部材の操作量により定まる全要求制動量(FT)に対する前記回生制動力の比率を減少させるときに、
前記発電電動機に指令した回生要求制動力から前記発電電動機が実行した回生実行制動力を減算して差分量を演算する差分量演算手段と、
前記回生要求制動力が前記発電電動機の実行可能な回生可能制動力の範囲内であるか否かを判定する回生範囲判定手段と、
前記差分量が負でかつ前記回生要求制動力が前記回生可能制動力の範囲内である場合に、前記液圧制動力を増加させる液圧増加手段(S12A)と、
を有することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記制動制御装置は、前記液圧ブレーキ装置を制御する液圧ブレーキ制御部(60)と前記回生ブレーキ装置を制御する回生ブレーキ制御部(50)とが通信手段により機能的に結合されて構成され、前記回生要求制動力と前記回生実行制動力との間に通信遅れに起因する時間差(DT)を有することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、
前記液圧ブレーキ装置は、前記ブレーキ操作部材の操作量に応じた基礎液圧を発生するマスタシリンダ(23)と、制御液圧を発生するポンプ(37、47)と、前記基礎液圧に応じた基礎液圧制動力(FB)および前記制御液圧に応じた制御液圧制動力(FC)を加算して前記車輪に付与する液圧制御ユニット(25)とを有し、
前記制動制御装置は、前記基礎液圧制動力と前記回生可能制動力との和が前記ブレーキ操作部材の操作量により定まる全要求制動力を上回る場合に、前記ポンプの駆動を抑制するポンプ抑制手段を有することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4において、前記制動制御装置は、
或る時点において前記発電電動機が回生可能な制動力の全量を示す回生制動容量(CA)を特定する回生制動容量特定手段と、
或る時点において前記発電電動機の前記回生可能制動力が変化し得る時間変化率を示す回生可能勾配(SL,SLU,SLL)を特定する回生可能勾配特定手段と、
或る時点における回生要求制動力または回生実行制動力と、回生制動容量と、回生可能勾配とを基にして、次の時点における回生可能制動力(FX、FXU、FXL)の範囲を推定する回生可能範囲推定手段(S7)と、
を有することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項5において、前記制動制御装置は、所定条件が成立する場合に前記ポンプを駆動するポンプ駆動手段を有することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項6において、前記所定条件は、前記回生可能勾配が所定の第1勾配よりも小さいときであることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項6または7において、前記所定条件は、前記回生制動容量から前記回生要求制動力を減算した回生余力(RH)が所定余力よりも小さいときであることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項において、前記所定条件は、前記回生要求制動力の時間変化率を示す回生要求勾配が所定の第2勾配よりも大きいときであることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項において、前記制動制御装置は、前記発電電動機に前記回生要求制動力を要求したのち所定の遅延時間(DT)を経過しても前記回生実行制動力が発生していないときに、前記液圧制動力を増加させるバックアップ手段を有することを特徴とする車両用ブレーキ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−71666(P2012−71666A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217417(P2010−217417)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】