説明

車両用駆動装置の制御装置

【課題】 ホイールブレーキの負担を軽減する。
【解決手段】 駆動輪34を駆動するモータ20と、該モータ20に対して作動電力を供給するとともに該モータ20の減速回生により充電されるバッテリ28とを備えた車両用駆動装置の制御装置であって、バッテリ28から電力の供給を受けて作動し、モータ20に冷却用作動油を供給する電動式オイルポンプ50と、バッテリ28の充電率を検出する充電率検出手段108と、モータ20の減速回生時であって且つ充電率検出手段108が検出する充電率が所定値を超えている場合は、モータ20の減速回生で得られた電力を消費するために電動式オイルポンプ50を最大消費電力で作動させるオイルポンプ制御手段とを有する。これにより、減速時に、モータの発電抵抗を利用でき、ホイールブレーキの負担が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリを備えた車両用駆動装置の制御装置に関し、自動車の駆動技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、駆動源としてモータとエンジンとを搭載し、選択的にいずれかを用いることにより駆動輪を駆動するいわゆるハイブリッド車両が知られている。例えば特許文献1に記載されているハイブリッド車両は、エンジンと自動変速機を介して連結されて駆動輪を駆動する駆動軸に対して、モータがクラッチにより接続されるまたは切り離されるように構成されている。
【0003】
このように駆動源として使用されるモータは、バッテリから電力の供給を受けて作動する。また、減速時には発電機として作動し、そのとき発電した電力でバッテリを充電することにより、エネルギの回生が図られる。その際、発電機としての駆動抵抗が、エンジンブレーキと同様の減速時における車両に対する制動力として作用する。
【0004】
ところで、回生エネルギでバッテリを充電する際、前記モータの発電量がバッテリの許容充電量を超えることがあり、その場合、バッテリが過充電状態となり、寿命を低下させることになるので、減速時に前記モータが発電した電力の一部を廃棄する廃電制御が行われることがある。この廃電制御に関連するものとして、特許文献2に開示された発明がある。
【0005】
【特許文献1】特開2006−335190号公報
【特許文献2】特開平07−131905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献2記載されているハイブリッド車両のように、減速時にバッテリが満充電状態にある場合、バッテリの過充電を防止するために、モータの発電機としての使用を停止した場合、次のような不具合の発生が考えられる。
【0007】
つまり、図10に示すように、モータの減速回生によりバッテリ充電率が許容限度のCh%に達した場合、過充電防止のためモータの減速回生を停止すると、符号aに示すように、発電抵抗による車両に対する制動トルクが消滅するので、運転者が要求している減速度が得られなくなる。そのため、符号bに示すように、ホイールブレーキを作動させることになって、該ホイールブレーキの負担が大きくなるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、駆動輪を駆動するモータと、該モータに対して作動電力を供給するとともに該モータの減速回生により充電されるバッテリとを備えたハイブリッド車両において、減速時にバッテリが満充電状態であっても、モータを発電機として使用でき、ホイールブレーキの負担を軽減することができる車両用駆動装置の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、駆動輪を駆動するモータと、該モータに対して作動電力を供給するとともに該モータの減速回生により充電されるバッテリとを備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
前記バッテリから電力の供給を受けて作動し、前記モータに冷却用作動油を供給する電動式オイルポンプと、
前記バッテリの充電率を検出する充電率検出手段と、
前記モータの減速回生時であって且つ前記充電率検出手段が検出する充電率が所定値を超えている場合は、前記モータの減速回生で得られた電力を消費するために前記電動式オイルポンプを最大消費電力で作動させるオイルポンプ制御手段とを有することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置において、
前記電動式オイルポンプから断続制御用油圧の供給を受けて前記モータと駆動輪とを接続する油圧式の断続手段と、
前記電動式オイルポンプと断続手段との間に設けられ、前記バッテリから電力の供給を受けて前記断続手段に断続制御用油圧を供給する電磁弁と、
前記モータの減速回生時に通常電力で前記電磁弁を作動させ、前記モータの減速回生時であって且つ前記充電率検出手段が検出する充電率が所定値を超えている場合に、前記モータの減速回生で得られた電力を消費するために前記電磁弁を最大消費電力で作動させる電磁弁制御手段とを有することを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の車両用駆動装置の制御装置において、
前記電動式オイルポンプが出力する油圧を蓄圧し、蓄圧した油圧で電動式オイルポンプの出力油圧を補助するアキュムレータが備えていることを特徴とする。
【0012】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の車両用駆動装置の制御装置において、
アキュムレータの蓄圧量を検出する蓄圧量検出手段を有し、
前記オイルポンプ制御手段は、前記蓄圧量検出手段が検出するアキュムレータの蓄圧量が所定値を超えている場合は、前記電動式オイルポンプを停止させることを特徴とする。
【0013】
加えて、請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載の車両用駆動装置の制御装置において、
前記電動式オイルポンプの停止時に、前記アキュムレータを蓄圧状態で維持する蓄圧状態維持手段が設けられていることを特徴とする
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、モータの減速回生時にバッテリの充電率が所定値を超えている場合は、モータの減速回生により発電した電力で、該モータに冷却用作動油を供給する電動式オイルポンプを電力消費が最大になるように作動させる。これにより、減速時に、モータを発電機として使用でき、ホイールブレーキの負担を軽減することができる。また、そのとき、モータが発電した電力が、棄てられることなく、電動式オイルポンプを介して、有効にモータの冷却に使用される。
【0015】
また、請求項2に記載の発明によれば、モータの減速回生時にバッテリの充電率が所定値を超えている場合は、モータの減速回生により発電した電力で、電動式オイルポンプと、該オイルポンプから断続制御用油圧の供給を受けて該モータと駆動輪とを接続する油圧式の断続手段との間に設けられ、バッテリから電力の供給を受けて該断続手段に断続制御用油圧を供給する電磁弁とを、電力消費が最大になるように作動させる。これにより、減速時に、モータをより発電機として使用でき、ホイールブレーキの負担をより軽減することができる。
【0016】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、電動式オイルポンプが出力した油圧を蓄圧し、蓄圧した油圧で電動式オイルポンプの出力油圧を補助するアキュムレータが備えられる。アキュムレータが出力油圧を補助することにより、電動式オイルポンプの出力油圧が変化しても、安定した油圧で作動油をその供給先である断続手段やモータに供給することができる。
【0017】
さらにまた、請求項4に記載の発明によれば、アキュムレータの蓄圧量が所定値を超えている間は、電動式オイルポンプを停止させる。アキュムレータが所定値を超えた蓄圧量であるときは、そのアキュムレータが電動式オイルポンプの代わりに油圧を出力できるので、該電動式オイルポンプを停止させることができる。これにより、電動式オイルポンプの電力消費が抑制される。
【0018】
加えて、請求項5に記載の発明によれば、電動式オイルポンプの停止時に、前記アキュムレータを蓄圧状態で維持する蓄圧状態維持手段が設けられる。これにより、電動式オイルポンプが停止しても、アキュムレータは蓄圧状態で維持され、これにより、電動式オイルポンプが始動したからアキュムレータが蓄圧状態になるまでの時間が短縮される。その結果、アキュムレータが蓄圧状態になるまで待つことなく、始動した電動式オイルポンプがすぐに油圧供給先に必要な油圧を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
図1は本発明の一実施形態に係る、ハイブリッド車両の構成を簡略的に示している。図中において破線は、電力の流れを示している。
【0021】
図1に示すハイブリッド車両10は、一方の駆動源であるエンジン12と、エンジン12の出力軸に連結された第1モータ14と、入力軸がエンジン12の出力軸に連結されるとともに出力軸が駆動軸16に連結され、エンジン12と駆動軸16とを断接する第1断接手段でもある自動変速機18と、他方の駆動源である第2モータ20と、モータ20の回転を減速する減速機22と、減速機22と駆動軸16とを断続する第2断続手段24と、車両を停止させるホイールブレーキ26とを有する。また、第1モータ14と第2モータ20とに電力を供給するバッテリ28を有する。
【0022】
エンジン12は、駆動源として選択されたとき(例えば、走行状態に応じて車両制御装置が選択したとき、または運転者が駆動源として選択したとき)、自動変速機18、駆動軸16、差動装置30、車軸32と順に介して駆動輪34を駆動する。
【0023】
第1モータ14は、バッテリ28から電力の供給を受けてエンジン12をクランキングするスタータとして機能する。また、減速回生時(特にエンジンブレーキが使用される時)、駆動輪34により駆動軸16などを介して駆動されて発電し、バッテリ28を充電する。
【0024】
自動変速機18は、運転者が要求する変速段に応じてエンジン12の回転を、増速して、または減速して、若しくはそのまま駆動軸16に伝達する。また、ニュートラル状態になることにより、エンジン12と駆動軸16とを切り離す、第1断接手段として機能する。
【0025】
第2モータ20は、駆動源として選択されたとき、バッテリ28から電力の供給を受けて、減速機22、締結状態(動力伝達状態)の第2断続手段24、駆動軸16、差動装置30、車軸32と順に介して駆動輪34を駆動する。また、減速回生時、駆動輪34により駆動軸16などを介して駆動されて発電し、バッテリ28を充電する。
【0026】
第2断続手段24は、油圧の供給を受けて駆動軸16と減速機22とを接続する油圧式の、例えばブレーキであって、電動式オイルポンプ50から断続制御用油圧の供給を受けるように構成されている。
【0027】
図2は、その電動式オイルポンプ50を含む油圧系統を概略的に示している。
【0028】
この油圧系統は、電動式オイルポンプ50を油圧源とし、ON−OFFソレノイドバルブ52、リニアソレノイドバルブ54、およびシフトバルブ56、58からなるコントロールバルブユニットCVUとアキュムレータ60を有し、第2断続手段24に断続制御用油圧を供給する以外に、第2モータ20を作動油によって冷却するために該第2モータ20に作動油を供給し、また減速機22のギヤやシャフト、軸受などの被潤滑部62に潤滑油として作動油を供給するように構成されている。
【0029】
電動式オイルポンプ50は、後述するコントローラに制御されて、バッテリ28から電力の供給を受けて、ストレーナ64を介してオイルパン66に貯留する作動油を取込み、その取込んだ作動油をメイン油路68内に吐出するように構成されている。また、その出力(作動油の吐出量)が、供給される電力が大きくなるほど、高出力になる(吐出量が多くなる)ように構成されている。通常時は、最大出力ではない通常出力(最大消費電力ではない通常消費電力)で作動している。
【0030】
ON−OFFソレノイドバルブ52は、後述するコントローラに制御されて、バッテリ28から電力の供給を受けて、メイン油路68の油圧をパイロット圧としてシフトバルブ56に供給するように構成されている。また、ON−OFFソレノイドバルブ54は、電動式オイルポンプ50が作動しているときのみ、シフトバルブ56へパイロット圧を供給するようにコントローラに制御されている。
【0031】
ON−OFFソレノイドバルブ52に制御されるシフトバルブ56は、3つの入力ポート56a、56b、56cと、3つの出力ポート56d、56e、56fと、パイロット圧が入力されるパイロット圧用ポート56gとを備える。パイロット圧用ポート56gにON−OFFソレノイドバルブ54からのパイロット圧が入力されると、入力ポート56aと出力ポート56dとを、56bと56eとを、56cと56fとを同時に連通するように構成されている。
【0032】
また、シフトバルブ56は、3つの入力ポート56a〜56c全てがメイン油路68に接続されており、出力ポート56dは第2断続手段24に断続制御用油圧を供給する上流側断続制御用油路70に、出力ポート56eは第2モータ20に冷却用作動油を供給する上流側モータ冷却用油路72に、出力ポート56fは被潤滑部62に作動油を潤滑油として供給する潤滑用油路74に接続されている。
【0033】
リニアソレノイドバルブ54は、入力ポート54aと出力ポート54bとを備え、その入力ポート54aが上流側断続制御用油路70に接続されており、後述するコントローラに制御されて、バッテリ28から電力の供給を受けて、入力ポート54aを介して入力された油圧を調整し、その調整した油圧を出力ポート54bを介して出力するように構成されている。また、その出力ポート54bは、第2断続手段24に油圧を供給するとともに、シフトバルブ58にパイロット圧を供給する下流側断続制御用油路76に接続されている。
【0034】
このリニアソレノイドバルブ54は、図3に示すように、バッテリ28から供給される電力が大きくなるほど(消費電力が大きくなるほど)、大きな油圧を出力するように構成されている。第2モータ20が駆動源として選択されているときは、最大消費電力ではない通常消費電力Wvnで作動し、出力圧Pnを出力している。
【0035】
シフトバルブ58は、入力ポート58a、出力ポート58b、および下流側断続制御用油路76に接続されて該油路76からパイロット圧が入力されるパイロット圧用ポート58cを備え、その入力ポート58aが上流側モータ冷却用油路72に接続されており、入力ポート58aを介して流入した作動油を、パイロット圧用ポート58cに入力されたパイロット圧に対応した流量に調整して出力ポート54bを介して流出するように構成されている。また、その出力ポート58bは、第2モータ20に冷却のために作動油を供給する下流側モータ冷却用油路78に接続されている。
【0036】
また、具体的には、図4のシフトバルブ58の出力特性に示すように、パイロット圧用ポート58cに入力されるパイロット圧がPを超えると、入力ポート58aと出力ポート58bとを連通し始め、それ以後パイロット圧が高圧になると出力流量が増加するように、シフトバルブ54は構成されている。第2モータ20が駆動源として選択されているとき、シフトバルブ58は、パイロット圧Pnの入力を受けて、流量Qnを出力している。なお、油圧Pは、第2断続手段24が駆動軸16と減速機22とを接続する油圧P以上の油圧に設定されている。
【0037】
アキュムレータ60は、安定した油圧をその供給先である第2断続手段24などに供給するために、電動式オイルポンプ50が出力した油圧を蓄圧し、蓄圧した油圧で電動式オイルポンプ50の出力油圧を補助するものであって、メイン油路68に接続されている。このアキュムレータ60が蓄える油圧(作動油)が、電動式オイルポンプ50に逆流しないように、メイン油路68には逆止弁80が備えられている。
【0038】
また、アキュムレータ60は、電動式オイルポンプ50が停止しても、蓄圧状態で維持されるように構成されている。具体的に言えば、電動式オイルポンプ50の停止中、ON−OFFソレノイドバルブ52がシフトバルブ56へのパイロット圧の供給を停止することによりメイン油路68が閉じられ、それによりアキュムレータ60が蓄圧状態に維持される。これにより、電動式オイルポンプ50が始動したときからアキュムレータ60が蓄圧状態になるまでの時間が短縮され、その結果、アキュムレータ60が蓄圧状態になるまで待つことなく、始動した電動式オイルポンプ50がすぐに油圧供給先である第2断続手段24などに必要な油圧を供給することができる。
【0039】
被潤滑部62には、潤滑用油路74を介して電動式オイルポンプ50から作動油が供給される。その潤滑用油路74には、被潤滑部60に必要以上の作動油が流れ入らないように、オリフィス82が備えられている。このオリフィス82により、第2断続手段24に供給される油圧が、駆動軸16と減速機22との接続に最低限必要な油圧より低下することが抑制され、また、第2モータ20に対して、冷却に必要な量の作動油が確実に供給される。
【0040】
この図2に示す油圧系統によれば、第2モータ20が駆動源として選択されると、後述するコントローラによって制御されて電動式オイルポンプ50が始動し、オイルパン64に貯留する作動油がメイン油路66に吐出される。
【0041】
メイン油路66に吐出された作動油は、シフトバルブ56を介して、メイン油路66から、上流側断続制御油路70、上流側モータ冷却用油路72、および潤滑用油路74に流入する。潤滑用油路74に流入した作動油は潤滑部62に流れ着く。
【0042】
後述するコントローラがリニアソレノイドバルブ54を下流側断続制御用油路76の油圧が上昇するように制御し、その油圧がPになると、第2断続手段24が第2モータ20と駆動軸16とを接続する。また、そこから上昇して油圧がPになると、その油圧をパイロット圧として供給されたシフトバルブ58が、上流側モータ冷却用油路72と下流側モータ冷却用油路78とを連通し始める。
【0043】
さらに、コントローラがリニアソレノイドバルブ54を上流側断続制御用油路76の油圧がPnになるように制御すると、パイロット圧Pnを供給されたシフトバルブ58が、作動油を流量Qnで出力する。そして、第2モータ20に流量Qnの作動油が供給され、該第2モータ20が冷却される。
【0044】
ここからは、上述したコントローラを中心とする制御系統、特に本発明に係る、減速の制御に関連する制御系統を説明する。
【0045】
図5は、本発明に係る制御系統を概略的に示している。
【0046】
コントローラ100は、運転者が要求する減速を検出するためのアクセルペダルセンサ102およびブレーキペダルセンサ104と、ハイブリッド車両10の車速を検出する車速センサ106と、バッテリ28の充電率(SOC)を検出するバッテリSOCセンサ108と、アキュムレータ60の蓄圧を検出するアキュムレータ蓄圧センサ110とからの検出信号に基づいて、減速に関連する制御を、エンジン12、第1モータ14、自動変速機18、第2モータ20、ホイールブレーキ26、電動式オイルポンプ50、リニアソレノイドバルブ54に対して実行するように構成されている。
【0047】
コントローラ100は、アクセルペダルの踏込量を検出するアクセルペダルセンサ102とブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキペダルセンサ104とからの検出信号に基づいて、運転者が要求する、減速の開始やその減速度、また減速の終了を検出するように構成されている。
【0048】
具体的には、コントローラ100は、車速センサ106が検出する車速が所定速度を超えていてエンジン12を駆動源として走行している場合に、言い換えると第2断接手段24により駆動軸16と減速機22とが切り離された状態にある場合に、運転者の減速の開始の要求を検出すると、第1モータ14を発電機として制御し、エンジン12を停止させる(燃料の燃焼を停止させる。)。すなわち、第1モータ14の減速回生を開始する(バッテリ28の第1モータ14による充電を開始する。)。
【0049】
なお、「所定速度」は、車速がこれを超えている場合はエンジン12を駆動源として選択し、超えていない場合は第2モータ20を駆動源として選択する、駆動源決定のためのしきい値として設定されており、コントローラ100はこれに基づき駆動源を決定している。
【0050】
第1モータ14が減速回生することにより、すなわち第1モータ14の発電抵抗によりハイブリッド車両10の車速が上述の所定速度に低下すると、コントローラ100は、自動変速機18をニュートラル状態に制御してエンジン12と駆動軸16とを切り離す、すなわち第1モータ14の減速回生を終了させるとともに、リニアソレノイドバルブ54を制御して第2断続手段24に駆動軸16と減速機22とを接続させる、すなわち第2モータ20の減速回生を開始する(バッテリ28の第2モータ20による充電を開始する。)。
【0051】
なお、運転者の減速の開始の要求を検出したときに、車速が所定速度を越えていないときは、すなわち第2モータ20が駆動源として選択されているときは、そのまま、第2モータ20の減速回生を開始する。
【0052】
また、コントローラ100は、運転者が要求する減速度が大きいときは、第1モータ14または第2モータ20の減速回生とともに、またはこれらを実行せずに、ホイールブレーキ26を制御してハイブリッド車両10を減速するように構成されている。
【0053】
さらに、コントローラ100は、第1モータ14または第2モータ20の減速回生時に、バッテリSOCセンサ108が検出するSOCが所定値を超えている場合、電動式オイルポンプ50および/またはリニアソレノイドバルブ54を最大消費電力で作動するように制御する。
【0054】
具体的には、第1モータ14の減速回生時にバッテリSOCセンサ108が検出するバッテリ28のSOCが所定値を超えている場合、コントローラ100は、電動式オイルポンプ50を最大消費電力で作動させる。その結果として、最大消費電力で作動する電動式オイルポンプ50に、第1モータ14が発電した電力が消費される。これにより、第1モータ14によりバッテリ28がそのSOCが所定値を超えて過充電されることが抑制される。
【0055】
また、第2モータ20の減速回生時にバッテリSOCセンサ108が検出するバッテリ28のSOCが所定値を超えている場合、コントローラ100は、電動式オイルポンプ50を最大消費電力で作動させるとともに、リニアソレノイドバルブ54を最大消費電力で作動させる。その結果として、最大消費電力で作動する電動式オイルポンプ50とリニアソレノイドバルブ54とに、第2モータ20が発電した電力が消費される。これにより、第2モータ20によりバッテリ28がそのSOCが所定値を超えて過充電されることが抑制される。
【0056】
このことは、効果として、減速時のホイールブレーキ26の負担を軽減することにもつながる。
【0057】
説明すると、減速時にバッテリSOCセンサ108が検出するバッテリ28のSOCが所定値を超えている場合、バッテリ28の過充電を抑制するために、仮に第1モータ14または第2モータ20を発電機として作動させないとすると、発電機として作動するモータの発電抵抗によりハイブリッド車両10を減速することができないので、ホイールブレーキ26のみで減速しなければならない。その分、ホイールブレーキ26の負担が大きくなる。したがって、減速時にバッテリ28のSOCが所定値を超えている場合、電動式オイルポンプ50やリニアソレノイドバルブ54を最大消費電力で作動させることにより第1モータ14や第2モータ20を発電機として作動させることが可能になり、その結果としてこれらのモータの発電抵抗によりハイブリッド車両10を減速でき、その効果として、ホイールブレーキ26の負担が軽減される。
【0058】
さらにまた、コントローラ100は、アキュムレータ蓄圧センサ110が検出するアキュムレータ60の蓄圧が所定値を超えている場合、電動式オイルポンプ50を停止させる。
【0059】
具体的に言うと、アキュムレータ60は、電動式オイルポンプ50が通常消費電力(通常出力)で作動しているときは対応する所定値の油圧を蓄圧し、該オイルポンプ50が最大消費電力で作動しているときは、その所定値を超えた油圧を蓄圧する。所定値を超えた油圧を蓄圧するアキュムレータ60は、その蓄圧が所定値になるまで、電動式オイルポンプ50の代わりにすることができる。したがって、アキュムレータ60が所定値を超えて蓄圧し、その蓄圧が再び所定値になるまでの間は、電動式オイルポンプ50を停止することができる。その結果、電動式オイルポンプ50の電力消費を抑制できる。
【0060】
ただし、当然ながら、コントローラ100は、電動式オイルポンプ50が最大消費電力で作動している間は、アキュムレータ60を十分蓄圧するために、また該オイルポンプ50が最大消費電力で作動する理由が第1モータ14や第2モータ20が発電した電力を消費することが目的なので、アキュムレータ60の蓄圧が所定値を超えていても、電動式オイルポンプ50を停止しないように構成されている。
【0061】
ここからは、コントローラ100が実行する減速に関する制御の流れを説明する。
【0062】
図6は、第1モータ14の減速回生中に実行される制御のフローを示している。
【0063】
まず、コントローラ100は、ステップS200において、第1モータ14が減速回生中であるか否かを判定する。減速回生中である場合は、ステップS210に進む。そうでない場合は、リターンに進み、スタートに戻る。
【0064】
ステップS210において、コントローラ100は、バッテリSOCセンサ108が検出するバッテリ28の充電率(SOC)が所定値Ch以上であるか否かを判定する。すなわち、バッテリ28の充電が不可能か否かを判定する。所定値Ch以上である場合(バッテリ28の充電が不可能な場合)は、ステップS220に進む。そうでない場合(バッテリ28の充電が可能である場合)は、ステップS230に進む。
【0065】
ステップS220において、コントローラ100は、第1モータ14が発生した電力をバッテリ28の充電に使用せず消費するために、電動式オイルポンプ50を最大消費電力で作動させる(最大出力にする。)。そして、リターンに進む。
【0066】
一方、ステップS230において、コントローラ100は、第1モータ14が発生した電力をバッテリ28の充電に使用するために、電動式オイルポンプ50を通常消費電力で作動させる(通常出力にする。)。そして、リターンに進む。
【0067】
次の図7は、第2モータ20の減速回生中に実行される制御のフローを示している。
【0068】
まず、コントローラ100は、ステップS300において、第2モータ20が減速回生中であるか否かを判定する。減速回生中である場合は、ステップS310に進む。そうでない場合は、リターンに進み、スタートに戻る。
【0069】
ステップS310において、コントローラ100は、バッテリSOCセンサ108が検出するバッテリ28の充電率(SOC)が所定値Ch以上であるか否かを判定する。すなわち、バッテリ28の充電が不可能か否かを判定する。所定値Ch以上である場合(バッテリ28の充電が不可能な場合)は、ステップS320に進む。そうでない場合(バッテリ28の充電が可能である場合)は、ステップS340に進む。
【0070】
ステップS320において、コントローラ100は、第2モータ20が発生した電力をバッテリ28の充電に使用せず消費するために、電動式オイルポンプ50を最大消費電力で作動させる(最大出力にする。)。
【0071】
続くステップS330において、コントローラ100は、第2モータ20が発生した電力をバッテリ28の充電に使用せず消費するために、リニアソレノイドバルブ54を最大消費電力で作動させる。そして、リターンに進む。
【0072】
一方、ステップS340において、コントローラ100は、第2モータ20が発生した電力をバッテリ28の充電に使用するために、電動式オイルポンプ50を通常消費電力で作動させる(通常出力にする。)。
【0073】
続くステップS350において、コントローラ100は、第2モータ20が発生した電力をバッテリ28の充電に使用するために、リニアソレノイドバルブ54を通常消費電力で作動させる。そしてリターンに進む。
【0074】
次の図8は、アキュムレータ60を電動式オイルポンプ50の代わりとして使用するか否かを決定するためのフローを示している。
【0075】
まず、ステップS400において、コントローラ100は、電動式オイルポンプ50が通常出力中であるか否かを判定する。通常出力中、すなわち第1モータ14や第2モータ20が減速回生により発電した電力を消費するために最大出力で作動していないか否かを判定する。通常出力中である場合は、ステップS410に進む。そうでない場合、リターンに進み、スタートに戻る。
【0076】
ステップS410において、コントローラ100は、アキュムレータ蓄圧センサ110が検出するアキュムレータ60の蓄圧が所定値PAnを超えているか否かを判定する。超えている場合は、ステップS420に進む。そうでない場合はステップS430に進む。
【0077】
ステップS420において、コントローラ100は、作動中の電動式オイルポンプ50を停止させる、または停止中の電動式オイルポンプ50をその状態で維持する。そして、リターンに進む。
【0078】
一方、ステップS430において、コントローラ100は、停止中の電動式オイルポンプ50を作動させる、または作動中の電動式オイルポンプ50をその状態で維持する。そして、リターンに進む。
【0079】
これら図6〜8に示すフローに従った場合の、一例のタイムチャートを図9に示す。
【0080】
図9に示すように、車両の減速中、厳密に言えば第2モータ20の減速回生中に、バッテリ28の充電率(SOC)が、所定値Chに達すると、通常消費電力Wpnで作動していた電動式オイルポンプ50が最大消費電力で作動し始める。それと同時に通常消費電力Wvnで作動していたリニアソレノイドバルブ54が最大消費電力で作動し始める。
【0081】
電動式オイルポンプ50が最大消費電力で作動し始めると、アキュムレータ60の蓄圧がPAnから高くなり始める。また、第2モータ20に供給される冷却のための作動油量が増加する。そしてそれにより、第2モータ20の温度が低下し始める。
【0082】
アクセルペダルが踏まれて加速が開始されると(減速が終了すると)、第2モータ20は、発電機としてではなく駆動源として制御され、電動式オイルポンプ50が最大消費電力での作動状態から停止される。リニアソレノイドバルブ54は、最大消費電力での作動状態から通常消費電力Wvnでの作動状態に切り替えられる。
【0083】
電動式オイルポンプ50が停止することによりアキュムレータ60の蓄圧が減少し始める。すなわちアキュムレータ60が電動式オイルポンプ50の代わりに油圧を供給し始める。
【0084】
このアキュムレータ60の蓄圧が所定値PAnまで低下すると、停止した電動式オイルポンプ50が始動される。これにより、アキュムレータ60の蓄圧の低下が止まり、PAnで維持される。
【0085】
この間、図に示すように、バッテリ28は、その充電率(SOC)が所定値Chを超えることなく維持され、ホイルブレーキ26は使用されることなく維持されている。
【0086】
本実施形態によれば、第1モータ14または第2モータ20の減速回生時にバッテリ28の充電率(SOC)が所定値を超えている場合は、該モータの減速回生により発電した電力で、電動式オイルポンプ50を電力消費が最大になるように作動させるとともに、リニアソレノイドバルブ54を電力消費が最大になるように作動させる。これにより、減速時に、第1モータ14または第2モータ20を発電機として使用でき、ホイールブレーキ26の負担を軽減することができる。また、そのとき、第1モータ14または第2モータ20が発電した電力が、棄てられることなく、電動式オイルポンプ50を介して、有効に第2モータ20の冷却や被潤滑部62の潤滑に使用される。
【0087】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0088】
上述の実施形態の場合、第1モータ14や第2モータ20の減速回生時に、バッテリ28の充電率(SOC)が所定値を超えている場合、該モータが発電した電力を消費する手段は、電動式オイルポンプ50やリニアソレノイドバルブ54としているが、これに限らない。消費電力を大きくするため、電動式オイルポンプ50やリニアソレノイドバルブ54とともに、例えば、空調用モータなどの車載用モータを制御してもよい。
【0089】
また、上述の実施形態の場合、アキュムレータ60が設けられているが、電動式オイルポンプ50の出力が安定している場合、なくてもよい。この場合、電動式オイルポンプ50の停止時にアキュムレータ60を蓄圧状態で維持するためのON−OFFソレノイドバルブ52とシフトバルブ56とが必要なくなる。その結果、コントロールバルブユニットCVUの構造が簡単になる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上のように、本発明は、駆動輪を駆動するモータと、該モータに対して作動電力を供給するとともに該モータの減速回生により充電されるバッテリとを備えたハイブリッド車両において、減速時にバッテリが満充電状態であっても、モータを発電機として使用でき、ホイールブレーキの負担を軽減することができる。したがって、モータを駆動源とする車両の分野において好適に利用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両の概略的な構成図である。
【図2】油圧系統を概略的に示す図である。
【図3】図2に示すリニアソレノイドバルブの出力特性を示す図である。
【図4】図2に示すシフトバルブの出力特性を示す図である。
【図5】制御系統を概略的に示す図である。
【図6】第1モータの減速回生制御のフローを示す図である。
【図7】第2モータの減速回生制御のフローを示す図である。
【図8】電動式オイルポンプに代わりアキュムレータを使用するか否かを決定するためのフローである。
【図9】図6〜8に示すフローに従う、一例のタイムチャートである。
【図10】従来の問題点を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0092】
20 モータ(第2モータ)
28 バッテリ
38 駆動輪
50 電動式オイルポンプ
108 充電率検出手段(バッテリSOCセンサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪を駆動するモータと、該モータに対して作動電力を供給するとともに該モータの減速回生により充電されるバッテリとを備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
前記バッテリから電力の供給を受けて作動し、前記モータに冷却用作動油を供給する電動式オイルポンプと、
前記バッテリの充電率を検出する充電率検出手段と、
前記モータの減速回生時であって且つ前記充電率検出手段が検出する充電率が所定値を超えている場合は、前記モータの減速回生で得られた電力を消費するために前記電動式オイルポンプを最大消費電力で作動させるオイルポンプ制御手段とを有することを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置において、
前記電動式オイルポンプから断続制御用油圧の供給を受けて前記モータと駆動輪とを接続する油圧式の断続手段と、
前記電動式オイルポンプと断続手段との間に設けられ、前記バッテリから電力の供給を受けて前記断続手段に断続制御用油圧を供給する電磁弁と、
前記モータの減速回生時に通常電力で前記電磁弁を作動させ、前記モータの減速回生時であって且つ前記充電率検出手段が検出する充電率が所定値を超えている場合に、前記モータの減速回生で得られた電力を消費するために前記電磁弁を最大消費電力で作動させる電磁弁制御手段とを有することを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用駆動装置の制御装置において、
前記電動式オイルポンプが出力する油圧を蓄圧し、蓄圧した油圧で電動式オイルポンプの出力油圧を補助するアキュムレータが備えていることを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用駆動装置の制御装置において、
アキュムレータの蓄圧量を検出する蓄圧量検出手段を有し、
前記オイルポンプ制御手段は、前記蓄圧量検出手段が検出するアキュムレータの蓄圧量が所定値を超えている場合は、前記電動式オイルポンプを停止させることを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の車両用駆動装置の制御装置において、
前記電動式オイルポンプの停止時に、前記アキュムレータを蓄圧状態で維持する蓄圧状態維持手段が設けられていることを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−151200(P2010−151200A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328941(P2008−328941)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】