説明

車両用駆動装置

【課題】モータ走行時のエンジン押し掛け始動の際に、要求駆動力に応じた最適な駆動ギヤ段に高応答で変速制御できるようにする。
【解決手段】エンジン押し掛け始動を行うときに、押し掛け始動に使用する変速段として、押し掛け始動を行うときのエンジン回転速度が予め設定された必要回転速度以上となる変速段を選択し、該選択した変速段を使用して前記エンジンの押し掛け始動を行うよう制御する(SR1)。エンジンの押し掛け始動を行うときに、現在の目標駆動力に基づきエンジン始動の所定時間後に予測される予測目標駆動力を求め、該予測目標駆動力に基づき予測駆動ギア段を決定する(SR2)。エンジンの押し掛け始動後のエンジン走行用の変速段として、前記決定した予測駆動ギア段を実現するよう制御する(SR3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機として内燃機関エンジンと電気モータとを備えた車両(いわゆるハイブリッド車両)に用いられる駆動装置に関し、特にモータ単独走行状態からエンジン始動を行って内燃機関を使用して走行する状態に切り替える際の変速制御の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の変速機には、近年、変速時における機械的動力の伝達の途切れをなくすために、奇数段の変速段で構成される第1の変速機構の入力軸(以下、第1入力軸という)と内燃機関の出力軸(以下、機関出力軸又はエンジン出力軸という)とを係合可能な第1のクラッチと、偶数段の変速段で構成される第2の変速機構の入力軸(以下、第2入力軸という)と機関出力軸とを係合可能な第2のクラッチとを備え、これら2つのクラッチを交互につなぎ替えることで変速を行う、いわゆるデュアルクラッチ式変速機が知られている。デュアルクラッチ式変速機は、例えば、奇数段から偶数段に変速する際には、偶数段の歯車対を予め噛み合わせておき、奇数段に機械的動力を伝達する第1のクラッチを解放状態にすると共に、偶数段に機械的動力を伝達する第2のクラッチを係合状態にすることで、変速時における動力伝達の途切れを抑制している。
【0003】
また、下記の特許文献1には、上述のように2つの変速機構を備え、一方の変速機構の入力軸に係合する電気モータを更に具えたハイブリッドタイプの車両用駆動装置が示されている。このようなハイブリッドタイプの車両用駆動装置における動力供給形態には、エンジン単独走行、モータ単独走行、エンジンとモータの組み合わせによるハイブリッド走行、の3形態がある。どの動力供給形態を採用すべきかは、車両の運転状態に応じて適切に制御されるようになっている。
【0004】
ところで、モータ単独走行状態にあってはエンジンは停止されているため、車両走行中にモータ単独走行からエンジン走行に移行する場合には、エンジンを始動させる必要がある。そのために、車両走行に使用しているモータの回転を利用してエンジンの押し掛け始動(クランキング)を行い、エンジン始動した後に適切な変速段に設定してエンジン走行を行うようになっている。例えば、第1の変速機構の入力軸にモータが係合しているとすると、第1の変速機構の変速段(奇数変速段)を使用してモータ単独走行を行っているときにエンジン走行に移行するには、第1の変速機構の変速段(奇数変速段)の選択(変速出力軸への連結)を維持しつつ、第2の変速機構の変速段(偶数変速段)のうち適切な変速段を選択し且つ第2のクラッチを係合状態にして、モータの動力を該第2の変速機構の該選択された変速段及び第2のクラッチを介してエンジンの機関出力軸に伝達し、これによってエンジンを押し掛け始動(クランキング)するようにしている。この場合、押し掛け始動に使用する変速段としては、該変速段が機関出力軸に接続された場合の機関回転速度が、予め設定された必要回転速度(押し掛け始動に必要な回転速度)以上となり且つ最も低くなるように該変速段が選択されるようになっている。これにより、瞬時にエンジン始動可能な高いギヤ段(変速段)で押し掛けを行い、押し掛け時のモータのエネルギーロスを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4285571号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来のエンジンの押し掛け始動制御にあっては、エンジン始動後の目標駆動ギヤ段(目標変速段)を通常の変速段選択基準に従って決定し、変速制御を行うようになっている。そのため、最終的な駆動力到達への応答性が良くない、という問題があった。その理由は、モータ単独走行からのエンジン押し掛け始動は、アクセルペダルの踏み込み途中に実施されるケースが多く、押し掛け始動時点若しくはエンジン点火完了時点でのアクセルペダル開度(すなわち踏み込み途中のアクセルペダル開度)に従ってエンジン駆動用の目標駆動ギヤ段(目標変速段)を決定すると、その後のアクセルペダル開度の更なる踏み込みによって、すぐに駆動ギヤ段(変速段)を持ち替えなければならない必要性が生じるからである。これにより、押し掛け始動制御時における駆動ギヤ段(変速段)の持ち替え回数が増すことにより、最終的な駆動力到達への応答性が悪くなる。例えば、3速でモータ単独走行しているときに押し掛け始動用の変速段として4速を選択して押し掛け始動を行い、押し掛け始動時点若しくはエンジン点火完了時点でのアクセルペダル開度(すなわち踏み込み途中のアクセルペダル開度)に従って決定されるエンジン駆動用の目標駆動ギヤ段(目標変速段)が3速であるような場合、該決定された3速に一旦ギアシフトされるが、その後のアクセルペダル開度の更なる踏み込みに応じて2速へのキックダウン指示がすぐになされることにより、最終的に2速にギアシフトされる、という変速制御形態となり易い。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、モータ単独走行状態からエンジン始動を行ってエンジンを使用して走行する状態に切り替える際に、要求駆動力に応じた最適な駆動ギヤ段に高応答で変速制御できるようにした車両用駆動装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両用駆動装置は、原動機として内燃機関エンジン(2)とモータ(3)とを備えた車両に用いられ、内燃機関エンジン及びモータからの機械的動力を変速して、駆動輪に係合する車両推進軸に伝達可能な車両用駆動装置であって、エンジン出力軸及び前記モータからの機械的動力を第1入力軸(IMS)で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、車両推進軸に伝達可能な第1変速機構と、前記エンジン出力軸からの機械的動力を第2入力軸(SS)で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、車両推進軸に伝達可能な第2変速機構と、前記エンジン出力軸と前記第1入力軸とを係合可能な第1クラッチ(C1)と、前記エンジン出力軸と前記第2入力軸とを係合可能な第2クラッチ(C2)と、前記第1変速機構及び第2変速機構における変速段の選択と、前記第1クラッチ及び第2クラッチの係合状態とを制御可能な制御手段(10)とを備え、前記制御手段(10)は、原動機としてモータのみを用いた車両走行であるモータ走行中に前記エンジンの押し掛け始動を行うときに、前記押し掛け始動に使用する変速段として、押し掛け始動を行うときのエンジン回転速度が予め設定された必要回転速度以上となる変速段を選択し、該選択した変速段を使用して前記エンジンの押し掛け始動を行うよう制御する第1手段(SR1)と、前記エンジンの押し掛け始動を行うときに、現在の目標駆動力に基づきエンジン始動の所定時間後に予測される予測目標駆動力を求め、該予測目標駆動力に基づき予測駆動ギア段を決定する第2手段(SR2)と、前記エンジンの押し掛け始動後のエンジン走行用の変速段として、前記決定した予測駆動ギア段を実現するよう制御する第3手段(SR3)とを含むことを特徴とする。なお、上記で括弧内に記した番号は、後述する実施例における対応する図面参照番号を、参考のために示すものである。
【0009】
本発明によれば、エンジンの押し掛け始動を行うときに、現在の目標駆動力に基づきエンジン始動の所定時間後に予測される予測目標駆動力を求め、該予測目標駆動力に基づき予測駆動ギア段を決定し、エンジンの押し掛け始動後のエンジン走行用の変速段として、該決定した予測駆動ギア段を実現するよう制御することを特徴としている。このように、エンジン押し掛け始動に際して、現在の目標駆動力から予測した予測目標駆動力に基づき予測駆動ギア段を決定するようにしているので、アクセルペダルの踏み込み途中にエンジン押し掛け始動が行われる場合、運転者の最終的な要求駆動力をできるだけ正確に反映させた予測駆動ギア段を決定することができることとなり、モータ単独走行状態からエンジン始動を行ってエンジンを使用して走行する状態に切り替える際に、要求駆動力に応じた最適な駆動ギヤ段に高応答で変速制御できるようになる。
【0010】
一実施態様において、前記第1手段は、前記予測駆動ギア段が現在の変速段と異なる前記第1変速機構を使用する場合、前記第2変速機構の変速段の中で前記予め設定された必要回転速度以上となる変速段を選択し、該選択した変速段のある前記第2クラッチを係合して前記エンジンの押し掛け始動を行うよう制御し、前記第3手段は、前記エンジンの押し掛け始動中に前記第1変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替えるよう制御してよい。このように、エンジンの押し掛け始動中に前記第1変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替える(例えば該予測駆動ギア段が選択されるようにシンクロを入れ替える)ことにより、素早い変速が可能となる。
【0011】
一実施態様において、前記第1手段は、前記エンジンの押し掛け始動のために選択した変速段のある前記第1又は第2クラッチを係合して前記エンジンの押し掛け始動を行い、前記第3手段は、前記エンジンの押し掛け始動中に前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替えるよう制御するようにしてよい。この場合も、エンジンの押し掛け始動中に前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替える(例えば該予測駆動ギア段が選択されるようにシンクロを入れ替える)ことにより、素早い変速が可能となる。
【0012】
一実施態様において、前記第3手段は、前記決定した予測駆動ギア段を実現するために、前記エンジンの押し掛け始動に使用している前記第1又は第2クラッチの係合を解除し、前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構に対応する前記第1又は第2クラッチを係合するよう制御してよい。このようなクラッチ切り替えにより、エンジン出力軸に連結する変速機構を、押し掛け始動用のものからエンジン走行用のものに滑らかに且つ速やかに切り替えることができ、エンジン始動時の不安定な挙動が変速機の駆動出力軸に伝わらないようにして、安定した変速制御を行うことができる。
【0013】
一実施態様において、前記第3手段は、前記決定した予測駆動ギア段を実現するために、前記押し掛けによって前記エンジンが初爆又は完爆したことを判断したら該押し掛けに使用している前記第1又は第2クラッチの係合を一旦解除し、その後、前記予測駆動ギア段に相当する変速段を選択した前記第1又は第2変速機構に対応する前記第1又は第2クラッチを係合するよう制御してよい。このようなクラッチ切り替えにより、エンジン出力軸に連結する変速機構を、押し掛け始動用のものからエンジン走行用のものに滑らかに切り替えることができ、エンジン始動時の不安定な挙動が変速機の駆動出力軸に伝わらないようにして、安定した変速制御を行うことができる。
【0014】
一実施態様において、前記第3手段は、前記押し掛け始動に使用する変速段及び前記予測駆動ギア段に相当する変速段が前記第2変速機構の異なる変速段である場合、前記押し掛けに使用している前記第2クラッチの係合を一旦解除するときに前記第2変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に相当する変速段に切り替え、その後、該予測駆動ギア段に相当する変速段を選択した前記第2変速機構に対応する前記第2クラッチを係合するよう制御してよい。このように、押し掛け始動用のギヤ段及びエンジン走行用の駆動ギア段として同じ第2変速機構の異なる変速段を使用する場合に、押し掛け始動終了時に第2クラッチの係合を一旦解除し、そのときに第2変速機構において選択する変速段を予測駆動ギア段に相当する変速段に切り替え(例えばシンクロを入れ替え)、その後第2クラッチの再び係合するようにしているので、押し掛け始動用の変速段からエンジン走行用の変速段へと滑らかに安定したギヤチェンジを行うことができる。
【0015】
一実施態様において、前記第3手段は、前記エンジンの押し掛け始動中に前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替えるよう制御し、エンジン始動後に前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構に対応する前記第1又は第2クラッチを係合することで、前記決定した予測駆動ギア段を実現するようにしてよい。これにより、素早い変速が可能となると共に、エンジン回転が安定したときにエンジン走行に移ることができる。
【0016】
一実施態様において、前記第1手段は、前記予測駆動ギア段が現在の変速段と異なる前記第1変速機構を使用する変速段である場合、前記第2変速機構の変速段の中でエンジン始動可能回転数以上の変速段を選択し、該選択した変速段のある前記第2クラッチを係合して前記エンジンの押し掛け始動を行うよう制御し、前記第3手段は、前記第1変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替えると同時に前記第1クラッチを係合することで、前記決定した予測駆動ギア段を実現するようにしてよい。これにより、素早い変速が可能となり、また、素早くエンジン走行に移ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態における車両の概略的な接続構成図。
【図2】図1に示す変速機のスケルトン図。
【図3】図2に示す変速機の各シャフトの係合関係を示す概念図。
【図4】図1に示す電子制御ユニットにより実行されるエンジン押し掛け始動処理の概略を示すフローチャート。
【図5】図4における予測駆動ギヤ段決定サブルーチンの一例を示すフローチャート。
【図6】図5における予測目標駆動力算出ステップにおける予測目標駆動力算出法の一例を説明するための図。
【図7】本発明の動作例を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照して詳細に説明しよう。
【0019】
本発明に係る車両用駆動装置は、ハイブリッド自動車などのバッテリの電力と燃料とにより駆動される車両に適用される。本発明に係る車両用駆動装置に具備される制御装置(制御手段)は、例えば、車両全体を制御するために車両に搭載された電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)10により実現される。以下の実施形態では、電子制御ユニット10は、エンジンを制御するとともに、変速機やバッテリ、電動機(モータ)を制御するものとして説明する。
【0020】
まず、本実施形態における車両の構成を説明する。図1は、本発明の一実施形態における車両の概略的な接続構成図である。本実施形態の車両1は、いわゆるハイブリッド車両であり、図1に示すように、エンジン2と、モータ3と、モータ3を制御するためのモータ制御手段20と、バッテリ30と、変速機4と、ディファレンシャル機構5と、左右のドライブシャフト6R、6Lと、左右の駆動輪7R、7Lとを備える。エンジン2とモータジェネレータ3の回転駆動力は、変速機4、ディファレンシャル機構5およびドライブシャフト6R、6Lを介して左右の駆動輪7R、7Lに伝達される。
【0021】
また、この車両1は、エンジン2、モータ3、変速機4、ディファレンシャル機構5、モータ制御手段20およびバッテリ30をそれぞれ制御するための電子制御ユニット(ECU)10を備える。電子制御ユニット10は、1つのユニットとして構成されるだけでなく、例えば、エンジン2を制御するためのエンジンECU、モータジェネレータ3やモータジェネレータ制御手段20を制御するためのモータジェネレータECU、バッテリ30を制御するためのバッテリECU、変速機4を制御するためのATECUなど複数のECUから構成されてもよい。
【0022】
電子制御ユニット10は、各種の運転条件に応じて、モータ3のみを動力源とするモータ単独走行(EV走行)をするように制御したり、エンジン2のみを動力源とするエンジン単独走行をするように制御したり、エンジン2とモータ3の両方を動力源として併用する協働走行をするように制御する。また、電子制御ユニット10は、アクセルペダル開度検出器40で検出されるアクセルペダル開度及びその他の公知の各種の運転パラメータに従って変速制御を行い、また、その他の各種の運転に必要な制御を行う。
【0023】
エンジン2は、燃料を空気と混合して燃焼することにより車両1を走行させるための駆動力を発生する内燃機関エンジンである。モータ3は、エンジン2とモータ3との協働走行やモータ3のみのEV走行の際には、バッテリ30の電気エネルギーを利用して車両1を走行させるための駆動力を発生するモータとして機能するとともに、車両1の減速時にはモータ3の回生により電力を発電する発電機としても機能する。このモータ3の回生時には、バッテリ30は、モータ3により発電された電力(回生エネルギー)により充電される。
【0024】
なお、本実施形態では、エンジン2、モータ3等は公知の構成を備えていればよく、本発明の特徴部分ではないため、それらの詳細な説明を省略するものとする。
【0025】
次に、本実施形態の変速機4の構成を説明する。図2は、図1に示す変速機4のスケルトン図である。図3は、図2に示す変速機4の各シャフトの係合関係を示す概念図である。図1に示す変速機4は、前進7速、後進1速の平行軸式トランスミッションであり、乾式のツインクラッチ式変速機(DCT:デュアルクラッチトランスミッション)である。
【0026】
変速機4には、エンジン2の機関出力軸をなすクランクシャフト(図示せず)およびモータ3に接続される内側メインシャフトIMS(第1入力軸)と、この内側メインシャフトIMSの外筒をなす外側メインシャフトOMS(第2入力軸)と、内側メインシャフトIMSにそれぞれ平行なセカンダリシャフトSS(第2入力軸)、アイドルシャフトIDS、リバースシャフトRVSと、これらのシャフトに平行で出力軸をなすカウンタシャフトCSとが設けられる。
【0027】
これらのシャフトのうち、外側メインシャフトOMSがアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSおよびセカンダリシャフトSSに常時係合し、カウンタシャフトCSがさらに図2では図示しないディファレンシャル機構5に常時係合するように配置される。
【0028】
また、変速機4は、奇数段用の第1クラッチC1と、偶数段用の第2クラッチC2とを備える。第1および第2クラッチC1、C2は乾式のクラッチである。第1クラッチC1は内側メインシャフトIMS(第1入力軸)に結合される。第2クラッチC2は、外側メインシャフトOMS(第2入力軸の一部)に結合され、外側メインシャフトOMS上に固定されたギヤ48からアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSおよびセカンダリシャフトSS(第2入力軸の一部)に連結される。
【0029】
内側メインシャフトIMS(第1入力軸)のモータ3よりの所定箇所にはプラネタリギヤ機構70のサンギヤ71が固定配置される。また、内側メインシャフトIMS(第1入力軸)の外周には、図2において左側から順に、1速駆動ギヤとなるプラネタリギヤ機構70のキャリヤ73と、3速駆動ギヤ43と、7速駆動ギヤ47と、5速駆動ギヤ45が配置される。3速駆動ギヤ43、7速駆動ギヤ47、5速駆動ギヤ45はそれぞれ内側メインシャフトIMSに対して相対的に回転可能であり、ギヤ43はプラネタリギヤ機構70のキャリヤ73に連結している。更に、内側メインシャフトIMS上には、3速駆動ギヤ43と7速駆動ギヤ47との間に3−7速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)81が軸方向にスライド可能に設けられ、かつ、5速駆動ギヤ45に対応して5速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)82が軸方向にスライド可能に設けられる。所望のギヤ段に対応するシンクロメッシュ機構(セレクタ機構)をスライドさせて該ギヤ段のシンクロを入れることにより、該ギヤ段が内側メインシャフトIMS(第1入力軸)に連結される。メインシャフトIMS(第1入力軸)に関連して設けられたこれらのギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、奇数段の変速段を実現するための第1変速機構が構成される。第1変速機構の各駆動ギヤは、カウンタシャフトCS上に設けられた対応する従動ギヤに噛み合い、カウンタシャフトCSを回転駆動する。
【0030】
セカンダリシャフトSS(第2入力軸)の外周には、図2において左側から順に、2速駆動ギヤ42、6速駆動ギヤ46と、4速駆動ギヤ44とが相対的に回転可能に配置される。更に、セカンダリシャフトSS上には、2速駆動ギヤ42と6速駆動ギヤ46との間に2−6速シンクロメッシュ機構83が軸方向にスライド可能に設けられ、かつ、4速駆動ギヤ44に対応して4速シンクロメッシュ機構(セレクタ機構)84が軸方向にスライド可能に設けられる。この場合も、所望のギヤ段に対応するシンクロメッシュ機構(セレクタ機構)をスライドさせて該ギヤ段のシンクロを入れることにより、該ギヤ段がセカンダリシャフトSS(第2入力軸)に連結される。セカンダリシャフトSS(第2入力軸)に関連して設けられたこれらのギヤ及びシンクロメッシュ機構によって、偶数段の変速段を実現するための第2変速機構が構成される。第2変速機構の各駆動ギヤも、カウンタシャフトCS上に設けられた対応する従動ギヤに噛み合い、カウンタシャフトCSを回転駆動する。なお、セカンダリシャフトSSに固定されたギヤ49はアイドルシャフトIDSに結合しており、該アイドルシャフトIDSから外側メインシャフトOMSを介して第2クラッチC2に結合される。
【0031】
なお、第1変速機構において、任意の或る変速段を選択するとは、当該変速段に対応するギヤのシンクロが入れられて該ギヤが内側メインシャフトIMS(第1入力軸)に連結されることを意味する。また、この第1変速機構において、エンジン走行用の変速段(又は駆動ギヤ段)を実現するとは、該変速段(又は駆動ギヤ段)を上記のように選択した(シンクロを入れた)上で、対応する第1クラッチC1を係合させて内側メインシャフトIMS(第1入力軸)をエンジン出力軸に連結することを意味する。
【0032】
同様に、第2変速機構において、任意の或る変速段を選択するとは、当該変速段に対応するギヤのシンクロが入れられて該ギヤがセカンダリシャフトSS(第2入力軸)に連結されることを意味する。また、この第2変速機構において、エンジン走行用の変速段(又は駆動ギヤ段)を実現するとは、該変速段(又は駆動ギヤ段)を上記のように選択した(シンクロを入れた)上で、対応する第2クラッチC2を係合させてセカンダリシャフトSS(第2入力軸)をエンジン出力軸に連結することを意味する。
【0033】
リバースシャフトRVSの外周にはリバース駆動ギヤ46が相対的に回転可能に配置される。また、リバースシャフトRVS上には、リバース駆動ギヤ46に対応してリバースシンクロメッシュ機構85が軸方向にスライド可能に設けられ、また、アイドルシャフトIDSに係合するギヤ50が固定されている。リバース走行する場合は、シンクロメッシュ機構85のシンクロを入れて、第2クラッチC2を係合することにより、第2クラッチC2の回転が外側メインシャフトOMS及びアイドルシャフトIDSを介してリバースシャフトRVSに伝達され、リバース駆動ギヤ46が回転される。リバース駆動ギヤ46は内側メインシャフトIMS上のギヤ56に噛み合っており、リバース駆動ギヤ46が回転するとき内側メインシャフトIMSは前進時とは逆方向に回転する。内側メインシャフトIMSの逆方向の回転はプラネタリギヤ機構70に連結したギヤ43を介してカウンタシャフトCSに伝達される。
【0034】
カウンタシャフトCS上には、図2において左側から順に、2−3速従動ギヤ51と、6−7速従動ギヤ52と、4−5速従動ギヤ53と、パーキング用ギヤ54と、ファイナル駆動ギヤ55とが固定的に配置される。ファイナル駆動ギヤ55は、ディファレンシャル機構5のディファレンシャルリングギヤ(図示せず)と噛み合うようになっており、これにより、カウンタシャフトCSの出力軸の回転がディファレンシャル機構5の入力軸(つまり車両推進軸)に伝達される。
【0035】
また、プラネタリギヤ機構70のリングギヤ75とプラネタリギヤ72に係合するように、ワンウェイクラッチ41が設けられる。
【0036】
2−6速シンクロメッシュ機構83のシンクロスリープを左方向にスライドすると、2速駆動ギヤ42がセカンダリシャフトSSに結合され、右方向にスライドすると、6速駆動ギヤ46がセカンダリシャフトSSに結合される。また、4速シンクロメッシュ機構84のシンクロスリープを右方向にスライドすると、4速駆動ギヤ44がセカンダリシャフトSSに結合される。このように偶数の駆動ギヤ段を選択した状態で、第2クラッチC2を係合することにより、変速機4は偶数の変速段(2速、4速、又は6速)に設定される。
【0037】
3−7速シンクロメッシュ機構81のシンクロスリープを左方向にスライドすると、3速駆動ギヤ43が内側メインシャフトIMSに結合されて3速の変速段が選択され、右方向にスライドすると、7速駆動ギヤ47が内側メインシャフトIMSに結合されて7速の変速段が選択される。また、5速シンクロメッシュ機構82のシンクロスリープを右方向にスライドすると、5速駆動ギヤ45が内側メインシャフトIMSに結合されて5速の変速段が選択される。シンクロメッシュ機構81、82がどのギヤ43、47、45も選択していない状態では、プラネタリギヤ機構70の回転がこれに連結したギヤ43を介してカウンタシャフトCSに伝達され、1速の変速段が選択されることになる。このように奇数の駆動ギヤ段を選択した状態で、第1クラッチC1を係合することにより、変速機4は奇数の変速段(1速、3速、5速、又は7速)に設定される。
【0038】
変速機4で実現すべき変速段の決定及び該変速段を実現するための制御(第1変速機構及び第2変速機構における変速段の選択すなわちシンクロの切り替え制御と、第1クラッチ及び第2クラッチの係合及び係合解除の制御等)は、公知のように、運転状況に従って、電子制御ユニット10によって実行される。
【0039】
次に、電子制御ユニット10によって実行されるエンジン押し掛け始動時の制御例について図4を参照して説明する。
【0040】
図4に示すエンジン押し掛け始動ルーチンの処理は、原動機としてモータのみを用いた車両走行であるモータ走行(モータ単独走行)中に、エンジン走行(エンジン単独走行又は協働走行)に切り替えるべきことが決定されたときに、開始される。このエンジン押し掛け始動ルーチンは、大別して、押し掛け実行サブルーチンSR1(第1手段)、予測駆動ギヤ段決定サブルーチンSR2(第2手段)、予測駆動ギア段実現サブルーチンSR3(第3手段)を含む。なお、押し掛け実行サブルーチンSR1(第1手段)と予測駆動ギヤ段決定サブルーチンSR2(第2手段)の実行順序は、どちらが先でもよいし、同時並行的に行うようにしてもよい。
【0041】
押し掛け実行サブルーチンSR1(第1手段)では、押し掛け始動に使用する変速段として、押し掛け始動を行うときのエンジン回転速度が予め設定された必要回転速度(所定のエンジン始動回転数)以上となる変速段を選択し、該選択した変速段を使用してエンジンの押し掛け始動を行うよう制御する。この押し掛け実行サブルーチンSR1は前記特許文献1等で公知の手法を適宜用いてよい。一例を示すと、この実施例においてはモータ走行は奇数変速段で行われるようになっているため、エンジン押し掛けに使用できる変速段は、偶数変速段のすべてと現在の変速段(モータ走行に使用している奇数変速段)である。これらのエンジン押し掛けに使用できる変速段のうち、押し掛け始動を行うときのエンジン回転速度(エンジンクランク軸の回転数)が予め設定された必要回転速度(エンジンを押し掛け始動させるのに必要な最低クランク軸回転数)以上になるかどうかを、現在のモータ回転数と各変速段のギヤ比の演算に基づいて判定する。そして、予め設定された必要回転速度以上になる変速段が複数ある場合、そのうち最も低い回転速度(クランク軸回転数)となる変速段(つまり、最も高速側の変速段)を、押し掛け始動に使用する変速段として選択する。必要回転速度以上のうち最も低い回転速度となる変速段(つまり、最も高速側の変速段)を押し掛け始動に使用する理由は、押し掛け時のモータのエネルギーロスを最小限にするためである。
【0042】
予測駆動ギヤ段決定サブルーチンSR2(第2手段)では、現在の目標駆動力に基づきエンジン始動の所定時間後に予測される予測目標駆動力を求め、該予測目標駆動力に基づき予測駆動ギア段を決定する。図5は、予測駆動ギヤ段決定サブルーチンSR2の具体例を示す。
【0043】
ステップS1では、現在の目標駆動力Nmを取得する。例えば、現在のアクセルペダル開度APによって所定のマップを検索することにより、該現在のアクセルペダル開度APに対応する現在の目標駆動力Nmを取得する。
【0044】
次に、ステップS2では、目標駆動力Nmの微分値(若しくは単位時間当りの変化量)ΔNmを算出し、これに所定のゲイン値Gainを乗算し、その積を現在の目標駆動力Nmに加算することで、予測目標駆動力(=Nm+ΔNm×Gain)を算出する。なお、ゲイン値Gainとして、現在時点tcから予測時点tdまでの時間差Tのデータを使用する。この場合、予測時点tdは、エンジン始動(点火)の所定時間後の時点に設定するものとし、例えば、エンジン始動が安定して行われることでエンジン走行を開始できるようになると予測される時点である。図6は、ステップS2における予測目標駆動力の算出を模式的に示す図である。なお、この例ではリニア関数を用いて予測目標駆動力を算出しているが、それ以外の適宜の非リニア関数を用いて予測目標駆動力を算出してもよいし、若しくは適宜のテーブル又はマップ等を参照することにより予測目標駆動力を求める(引き出す)ようにしてもよい。
【0045】
次に、ステップS3では、算出した予測目標駆動力に基づき予測駆動ギア段を決定する。この決定は、公知の変速段決定処理に従って行うようにしてよく、例えば、予測目標駆動力と車速等に基づき所定の変速マップを参照することにより予測駆動ギア段を決定する。なお、決定した予測駆動ギア段は、エンジン始動後の最初のエンジン走行用の変速段となる。
【0046】
なお、予測駆動ギヤ段決定サブルーチンSR2は、1回の処理に限らず、予測駆動ギア段が最終的に確定するまで、何回も行ってよい。例えば、押し掛け実行サブルーチンSR1の開始と同時に開始して、それに並行して繰り返し行うようにしてよい。その場合、時々刻々と変化する現在時点tcにおいてその都度最適の予測駆動ギア段を決定するようにしてよく、最終的な予測駆動ギア段はエンジン点火(初爆乃至完爆)時に決定(確定)するようにしてよい。あるいは、別の実施形態として、エンジン点火(初爆乃至完爆)時にのみ予測駆動ギヤ段決定サブルーチンSR2を1回又は数回実行して予測駆動ギア段を決定(確定)するようにしてもよい。
【0047】
図4に戻ると、予測駆動ギア段実現サブルーチンSR3(第3手段)は、前記決定(確定)した予測駆動ギア段を実現するよう変速機4を制御する。具体的には、該予測駆動ギア段を選択するために使用するシンクロを接続し、かつ、該予測駆動ギア段の奇数/偶数に対応して第1又は第2クラッチC1,C2を係合する。
【0048】
次に、本発明の動作例について図7を参照して説明する。図7は、エンジン押し掛け始動の際の各機器の動作状態の時間的変化例を示すもので、(a)はモータ3のトルクの時間的変化例を示し、(b)は第1クラッチC1(奇数段用のクラッチ)のトルクの時間的変化例を示し、(c)は第2クラッチC2(偶数段用のクラッチ)のトルクの時間的変化例を示し、(d)はエンジン2のトルクの時間的変化例を示し、(e)はエンジン2の回転数Neの時間的変化例を示す。また、(f)はモータ走行用変速段の例を示し、(g)は押し掛け用変速段の例を示し、(h)は予測駆動ギヤ段及びエンジン走行に使用される変速段の例を示す。
【0049】
この例では、時点t0に至るまで、3速でモータ単独走行しているとする(図7(f))。
【0050】
時点t0は、エンジン押し掛け始動処理を実行すべきと判断された時点であり、この時点t0で、前述の押し掛け実行サブルーチンSR1の処理が開始される。この例では、押し掛け始動に使用する変速段として4速が選択されるとする(図7(g))。偶数段をエンジンに結合するための第2クラッチC2のトルクは時点t0からt1の間で徐々に増加する(図7(c))。また、モータ走行を確保する一方でエンジン押し掛けの動力も提供するので、モータ3のトルクも時点t0からt1の間で徐々に増加する(図7(a))。一方、奇数段をエンジンに結合するための第1クラッチC1はオフのまま(トルク0)である(図7(b))。
【0051】
時点t1でエンジン2が回転し始める(図7(e))。時点t2でエンジン2が点火(初爆)したことが検出され、時点t3でエンジン2が完爆したことが検出される。時点t1からt3の間でモータ3のトルク及び第2クラッチC2のトルクが徐々に減少される(図7(a),(c))。また、時点t2からエンジン2のトルクが発生する(図7(d))。
【0052】
予測駆動ギヤ段決定サブルーチンSR2は、時点t0からt3の間で処理を開始し実行し、時点t3においては、予測駆動ギア段を最終的に決定(確定)しているものとする。この例では2速が予測駆動ギア段として決定される(図7(h))。なお、時点t4の辺りが前述の予測時点tdに概ね相当すると考えてよい。
【0053】
時点t3からt4の間、第2クラッチC2のトルクを0(係合解除)として、押し掛け用に使用した変速段(4速)をエンジン2から切り離し(図7(c))、かつ、第2変速機構における押し掛け用に使用した変速段(4速)の選択を解除する(対応するシンクロをオフとする)(図7(g))。予測駆動ギア段実現サブルーチンSR3(第3手段)は、この間に(つまり、押し掛け始動中に)、予測駆動ギア段を選択するためのシンクロを接続し、前記第1又は第2変速機構において選択する変速段を該予測駆動ギア段に切り替えるよう制御する。この例では2速用のシンクロメッシュ機構83をギヤ42に接続する。こうして、追って速やかに予測駆動ギア段を実現できるように準備しておく。また、時点t3からt4の間では、モータ3のトルクをモータ走行に必要な一定レベルに維持し、走行性を確保する。また、この例では、この間、アクセルペダルの更なる踏み込みにより、エンジン回転数Neが上昇するものとしている(図7(e))。
【0054】
時点t4では、第2クラッチC2の係合を開始し、トルクを徐々に上げる(図7(c))。これにより、予測駆動ギア段に対応する変速段(2速)が速やかにかつ滑らかにエンジンに結合され、該予測駆動ギア段に対応する変速段(2速)でのエンジン走行が実現される。このとき、モータ3のトルクは徐々に下げられ(図7(a))、モータ走行からエンジン走行への切換が滑らかに行われる。なお、時点t4では、アクセルペダルの更なる踏み込みによりエンジン回転数Neが上昇し、通常の変速マップでも2速走行が最適であると判定されるところ、本発明によれば、上述した予測により、既に2速を適切に選択している。時点t4からt5の間で、モータ3からエンジン2へのトルクの持ち替えが行われ、時点t5の頃にはエンジン単独走行に移行する。
【0055】
従来技術と比較すると、従来技術では、本発明のような予測制御を行っていないため、例えば、完爆が確認された時点t3で、通常の変速マップに従い、駆動ギア段として3速を選択し、3速の変速段を一旦実現するが、その後のアクセルペダルの更なる踏み込みにより3速から2速へのキックダウンと判断して、更に2速にシフトダウンする、といったような変速制御となっていた。従って、本発明実施例では、上記時点t4で最適の2速への変速制御が実現されるのに対して、従来技術では、そのような時点ではまだ3速への制御を行っており、その後に2速への変速制御に移行する、というように応答遅れが生じる。そのため、従来技術では、運転者による最終的な要求駆動力に応じたギヤ段(たとえば2速)が実現されるまでにもたつきがあり、応答性が良くなかった。これに対して、本発明では、予測目標駆動力に基づき予測駆動ギヤ段を判定するので、運転者による最終的な要求駆動力に応じたギヤ段(たとえば2速)を応答性よく実現することができる。
【0056】
更に、本発明の様々な実施態様について説明する。
[態様1]
この態様では、エンジン押し掛け始動処理を実行すべきと判断された時点(図7の時点t0)で、予測駆動ギヤ段決定サブルーチンSR2の処理を開始し、予測駆動ギヤ段を暫定的に決定する。並行して実行される前記押し掛け実行サブルーチンSR1(第1手段)では、暫定的に決定された予測駆動ギヤ段が、現在の変速段(モータ走行に使用している変速段、例えば3速)とは異なる第1変速機構を使用する変速段(例えば5速)である場合、第2変速機構の変速段(偶数段)の中で前記予め設定された必要回転速度(エンジン始動可能回転数)以上となる変速段(例えば4速)を選択し、該選択した変速段のある第2クラッチC2を係合してエンジン2の押し掛け始動を行うよう制御する。前記予測駆動ギア段実現サブルーチンSR3(第3手段)では、エンジンの押し掛け始動中に第1変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段(例えば5速)に切り替えるよう、該予測駆動ギア段(例えば5速)に対応するシンクロメッシュ機構(例えば82)を制御する。この制御は、図7の時点t3〜t4の間で行われる処理と同様である。すなわち、第1変速機構をエンジンに結合させるための第1クラッチC1の係合とは別途に(クラッチ係合に先行して)予測駆動ギア段を選択するためのシンクロ制御を行う。なお、第1変速機構において、予測駆動ギア段(例えば5速)へのシンクロ入れに伴い、現在の変速段(例えば3速)へのシンクロ切りを行う。このように、エンジンの押し掛け始動中に第1変速機構において選択する変速段を予測駆動ギア段に切り替える(例えば該予測駆動ギア段が選択されるようにシンクロを入れ替える)ことにより、素早い変速が可能となる。
【0057】
[態様2]
この態様では、前記押し掛け実行サブルーチンSR1(第1手段)では、エンジン2の押し掛け始動のために選択した変速段のある前記第1又は第2クラッチを係合してエンジン2の押し掛け始動を行う。そして、前記予測駆動ギア段実現サブルーチンSR3(第3手段)では、エンジンの押し掛け始動中に前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替えるよう制御する。この制御も、図7の時点t3〜t4の間で行われる処理と同様である。すなわち、予測駆動ギア段をエンジンに結合させるための第1又は第2クラッチC1又はC2の係合とは別途に(クラッチ係合に先行して)予測駆動ギア段を選択するためのシンクロ制御を行う。この場合も、エンジンの押し掛け始動中に前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替える(例えば該予測駆動ギア段が選択されるようにシンクロを入れ替える)ことにより、素早い変速が可能となる。
【0058】
[態様3]
この態様では、前記予測駆動ギア段実現サブルーチンSR3(第3手段)では、前記決定した予測駆動ギア段を実現するために、前記エンジンの押し掛け始動に使用している前記第1又は第2クラッチの係合を解除し、前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構に対応する前記第1又は第2クラッチを係合するよう制御する。押し掛け始動用のクラッチと予測駆動ギア段用のクラッチが同じである場合、図7(c)のような制御となる(時点t3〜t4で一旦オフとする)。押し掛け始動用のクラッチと予測駆動ギア段用のクラッチが異なる場合は、係合解除されたクラッチとは異なるクラッチが係合される。このようなクラッチ切り替えにより、エンジン出力軸に連結する変速機構を、押し掛け始動用のものからエンジン走行用のものに滑らかに切り替えることができ、エンジン始動時の不安定な挙動が変速機の駆動出力軸に伝わらないようにして、安定した変速制御を行うことができる。
【0059】
[態様4]
この態様では、前記予測駆動ギア段実現サブルーチンSR3(第3手段)では、前記決定した予測駆動ギア段を実現するために、前記押し掛けによって前記エンジンが初爆又は完爆したことを判断したら該押し掛けに使用している前記第1又は第2クラッチの係合を一旦解除し、その後、前記予測駆動ギア段に相当する変速段を選択した前記第1又は第2変速機構に対応する前記第1又は第2クラッチを係合するよう制御する。これは、図7の例において、時点t3でエンジン点火(初爆又は完爆)を確認して押し掛け始動用クラッチの係合解除及び予測駆動ギア段用のクラッチの係合を行うことな対応している。このようなクラッチ切り替えにより、エンジン出力軸に連結する変速機構を、押し掛け始動用のものからエンジン走行用のものに滑らかに切り替えることができ、エンジン始動時の不安定な挙動が変速機の駆動出力軸に伝わらないようにして、安定した変速制御を行うことができる。
【0060】
[態様5]
この態様では、前記予測駆動ギア段実現サブルーチンSR3(第3手段)では、前記押し掛け始動に使用する変速段及び前記予測駆動ギア段に相当する変速段が前記第2変速機構の異なる変速段(例えば押し掛け始動用が4速、予測駆動ギア段用が2速)である場合、前記押し掛けに使用している第2クラッチC2の係合を一旦解除するときに前記第2変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に相当する変速段(例えば2速)に切り替え、その後、該予測駆動ギア段に相当する変速段を選択した前記第2変速機構に対応する前記第2クラッチC2を係合するよう制御する。これは、図7で説明した例と同様である。このように、押し掛け始動用のギヤ段及びエンジン走行用の駆動ギア段として同じ第2変速機構の異なる変速段を使用する場合に、押し掛け始動終了時に第2クラッチの係合を一旦解除し、そのときに第2変速機構において選択する変速段を予測駆動ギア段に相当する変速段に切り替え(例えばシンクロを入れ替え)、その後第2クラッチの再び係合するようにしているので、押し掛け始動用の変速段からエンジン走行用の変速段へと滑らかに安定したギヤチェンジを行うことができる。
【0061】
[態様6]
この態様では、前記予測駆動ギア段実現サブルーチンSR3(第3手段)では、前記エンジンの押し掛け始動中に前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替えるよう制御し、エンジン始動後に前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構に対応する前記第1又は第2クラッチを係合することで、前記決定した予測駆動ギア段を実現する。この制御も、図7の時点t3〜t4の間で行われる処理と同様である。すなわち、予測駆動ギア段をエンジンに結合させるための第1又は第2クラッチC1又はC2の係合に先行して予測駆動ギア段を選択するためのシンクロ制御を行い、その後、クラッチC1又はC2の係合を行う。これにより、素早い変速が可能となると共に、エンジン回転が安定したときにエンジン走行に移ることができる。
【0062】
[態様7]
この態様では、前記押し掛け実行サブルーチンSR1(第1手段)では、前記予測駆動ギア段が現在の変速段(モータ走行用の変速段;例えば3速)と異なる前記第1変速機構を使用する変速段(例えば5速)である場合、前記第2変速機構の変速段の中でエンジン始動可能回転数以上の変速段(例えば4速)を選択し、該選択した変速段のある前記第2クラッチC2を係合して前記エンジンの押し掛け始動を行うよう制御する。前記予測駆動ギア段実現サブルーチンSR3(第3手段)では、前記第1変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段(例えば5速)に切り替えると同時に前記第1クラッチC1を係合することで、前記決定した予測駆動ギア段を実現する。例えば、図7の時点t3〜t4で、予測駆動ギア段(例えば5速)に対応するシンクロメッシュ機構(例えば82)をオンとし、同時に第1クラッチC1のトルクを徐々に上げてゆくような制御を行う。これにより、素早い変速が可能となり、また、素早くエンジン走行に移ることができる。なお、第1変速機構において、予測駆動ギア段(例えば5速)へのシンクロ入れに伴い、現在の変速段(例えば3速)へのシンクロ切りを行う。
【符号の説明】
【0063】
1 車両
2 エンジン
3 モータ
4 変速機
5 ディファレンシャル機構
10 電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機として内燃機関エンジンとモータとを備えた車両に用いられ、内燃機関エンジン及びモータからの機械的動力を変速して、駆動輪に係合する車両推進軸に伝達可能な車両用駆動装置であって、
エンジン出力軸及び前記モータからの機械的動力を第1入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、車両推進軸に伝達可能な第1変速機構と、
前記エンジン出力軸からの機械的動力を第2入力軸で受け、複数の変速段のうちいずれか1つにより変速して、車両推進軸に伝達可能な第2変速機構と、
前記エンジン出力軸と前記第1入力軸とを係合可能な第1クラッチと、
前記エンジン出力軸と前記第2入力軸とを係合可能な第2クラッチと、
前記第1変速機構及び第2変速機構における変速段の選択と、前記第1クラッチ及び第2クラッチの係合状態とを制御可能な制御手段と
を備え、
前記制御手段は、
原動機としてモータのみを用いた車両走行であるモータ走行中に前記エンジンの押し掛け始動を行うときに、前記押し掛け始動に使用する変速段として、押し掛け始動を行うときのエンジン回転速度が予め設定された必要回転速度以上となる変速段を選択し、該選択した変速段を使用して前記エンジンの押し掛け始動を行うよう制御する第1手段と、
前記エンジンの押し掛け始動を行うときに、現在の目標駆動力に基づきエンジン始動の所定時間後に予測される予測目標駆動力を求め、該予測目標駆動力に基づき予測駆動ギア段を決定する第2手段と、
前記エンジンの押し掛け始動後のエンジン走行用の変速段として、前記決定した予測駆動ギア段を実現するよう制御する第3手段と
を含むことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記第1手段は、前記予測駆動ギア段が現在の変速段と異なる前記第1変速機構を使用する場合、前記第2変速機構の変速段の中で前記予め設定された必要回転速度以上となる変速段を選択し、該選択した変速段のある前記第2クラッチを係合して前記エンジンの押し掛け始動を行うよう制御し、
前記第3手段は、前記エンジンの押し掛け始動中に前記第1変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替えるよう制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記第1手段は、前記エンジンの押し掛け始動のために選択した変速段のある前記第1又は第2クラッチを係合して前記エンジンの押し掛け始動を行い、
前記第3手段は、前記エンジンの押し掛け始動中に前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替えるよう制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記第3手段は、前記決定した予測駆動ギア段を実現するために、前記エンジンの押し掛け始動に使用している前記第1又は第2クラッチの係合を解除し、前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構に対応する前記第1又は第2クラッチを係合するよう制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記第3手段は、前記決定した予測駆動ギア段を実現するために、前記押し掛けによって前記エンジンが初爆又は完爆したことを判断したら該押し掛けに使用している前記第1又は第2クラッチの係合を一旦解除し、その後、前記予測駆動ギア段に相当する変速段を選択した前記第1又は第2変速機構に対応する前記第1又は第2クラッチを係合するよう制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記第3手段は、前記押し掛け始動に使用する変速段及び前記予測駆動ギア段に相当する変速段が前記第2変速機構の異なる変速段である場合、前記押し掛けに使用している前記第2クラッチの係合を一旦解除するときに前記第2変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に相当する変速段に切り替え、その後、該予測駆動ギア段に相当する変速段を選択した前記第2変速機構に対応する前記第2クラッチを係合するよう制御することを特徴とする請求項5に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記第3手段は、前記エンジンの押し掛け始動中に前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替えるよう制御し、エンジン始動後に前記予測駆動ギア段のある前記第1又は第2変速機構に対応する前記第1又は第2クラッチを係合することで、前記決定した予測駆動ギア段を実現することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の車両用駆動装置。
【請求項8】
前記第1手段は、前記予測駆動ギア段が現在の変速段と異なる前記第1変速機構を使用する変速段である場合、前記第2変速機構の変速段の中でエンジン始動可能回転数以上の変速段を選択し、該選択した変速段のある前記第2クラッチを係合して前記エンジンの押し掛け始動を行うよう制御し、
前記第3手段は、前記第1変速機構において選択する変速段を前記予測駆動ギア段に切り替えると同時に前記第1クラッチを係合することで、前記決定した予測駆動ギア段を実現することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−166575(P2012−166575A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26454(P2011−26454)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】