説明

車両走行制御装置及び車両走行制御方法

【課題】車両が路面の凸部を通過する際の衝撃を和らげることができる車両走行制御装置及び車両走行制御方法を提供する。
【解決手段】車両の前方路面にある凸部の形状を検出する凸部検出手段と、前記凸部の形状に基づいて加速度を設定する減速加速度設定手段と、前記凸部から第一の距離手前の地点を第一地点、前記第一地点から第二の距離手前の地点を第二地点として設定する地点設定手段と、前記第二地点から前記第一地点の間において前記車両を前記加速度で減速させ、前記第一地点に到達すると前記車両の減速を解除する速度制御手段と、を備える車両走行制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両走行制御装置及び車両走行制御方法に関し、特に路面の凸部通過時の走行制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、路面の凸部を車両が通過する際、前輪が凸部を通過後にノーズダイブ状態にさせ後輪の接地荷重を減少させることにより、後輪の凸部通過時の衝撃を和らげるスロットルバルブ制御装置が知られている(例えば特許文献1)。しかし、前輪の凸部通過時の衝撃対策は十分ではない。
住宅地や公園内の道路区画が始まる箇所や駐車場入り口に、減速を促すためにスピードバンプが設置されていることがある。このような凸部を通過する際に、減速したことによりノーズダイブして、前輪のショックアブソーバが縮んだ状態で凸部を通過すると、凸部乗り越えによる鉛直方向の衝撃は吸収できない。また、前輪が凸部に乗り上げることによりサスペンションに進行方向の衝撃が発生するが、これはショックアブソーバ等では十分に吸収できず、サスペンションリンク部分に設置してあるラバーブッシュやマウント等で吸収するしかなかった。結果として十分に進行方向の衝撃を吸収できず、凸部通過時の乗り心地を低下させていた。また、衝撃吸収のためにラバーブッシュ等を柔らかくしすぎると、通常走行時の操縦安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
【特許文献1】特開平8−319863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、車両が路面の凸部を通過する際の衝撃を和らげることができる車両走行制御装置及び車両走行制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記目的を達成するための車両走行制御装置は、車両の前方路面にある凸部の形状を検出する凸部検出手段と、前記凸部の形状に基づいて加速度を設定する減速加速度設定手段と、前記凸部から第一の距離手前の地点を第一地点、前記第一地点から第二の距離手前の地点を第二地点として設定する地点設定手段と、前記第二地点から前記第一地点の間において前記車両を前記加速度で減速させ、前記第一地点に到達すると前記車両の減速を解除する速度制御手段と、を備える。
この車両走行制御装置によると、第二地点から第一地点の間において車両を減速させることにより、車両の前部が車両の後部より低いノーズダイブ状態となる。また、第一地点に到達するとその減速を解除することにより、車両の前部が車両の後部より高いノーズアップ状態となり、ノーズアップ状態のまま凸部を通過させることができる。また、第二地点から第一地点の間で減速する際の加速度は凸部の形状に基づいて設定されるので、凸部の形状に関わらず同じ加速度が設定されその加速度で減速される場合と比較して、凸部の形状に応じた適切なノーズアップ状態を実現することができる。車両が凸部を通過する際、凸部の形状に応じた適切なノーズアップ状態で前輪に凸部を通過させることにより、凸部に前輪が最初に接触するとき、凸部の斜面と前輪の衝撃吸収機構の作動軸とのなす角度が略直角となり、前輪に加えられる車両の進行方向及び鉛直方向の衝撃を衝撃吸収機構に吸収させることができる。また、車両がノーズアップ状態であるので、例えば前輪のショックアブソーバが伸びきった状態、つまり十分なストローク量が確保された状態で前輪が凸部に接触することになり、前輪のショックアブソーバが縮んだ状態で前輪が凸部に接触する場合と比較して衝撃を吸収させやすい。また、ノーズアップ状態で前輪が凸部に接触するので、車両前部の下端が凸部に接触するのを防ぐことができる。
【0006】
(2)上記目的を達成するための車両走行制御装置において、前記地点設定手段は、前記凸部の形状に基づいて前記第一地点及び前記第二地点を設定してもよい。
この車両走行制御装置によると、減速加速度設定手段で設定された加速度で減速する区間としての第一地点及び第二地点が、凸部の形状に基づいて設定されるので、凸部の形状に関わらずそれらの地点が設定される場合と比較して、凸部の形状に応じた適切なノーズアップ状態を実現することができる。
【0007】
(3)上記目的を達成するための車両走行制御装置において、前記地点設定手段は、前記第二地点から第三の距離手前の地点を第三地点として設定してもよい。前記速度制御手段は、前記第三地点から前記第二地点の間において前記車両を前記加速度よりも小さい加速度で減速させてもよい。
この車両走行制御装置によると、減速のための速度制御は、第三地点から第二地点の間と、第二地点から第一地点の間との二段階に分けて実施される。ノーズアップ状態をノーズダイブ状態の自然反力として実現するために、ノーズダイブ状態が実現されることが期待される。このようなノーズダイブ状態を実現するために、第三地点から第二地点の間は、第二地点から第一地点での間の加速度よりも小さな加速度で減速させるような速度制御を行う。したがって、減速のための速度制御を二段階に分けず、例えば第二地点まで減速せずに第二地点から第一地点の間でいきなり減速する場合と比較すると、ノーズダイブ状態及びノーズアップ状態を緩やかに、乗り心地を悪化させずに実現することができる。
【0008】
(4)上記目的を達成するための車両走行制御装置は、車輪に設けられたショックアブソーバの減衰力を制御する減衰力制御手段をさらに備えてもよい。前記速度制御手段は、前記車両が前記第二地点から前記第一地点までの間、及び、前記第一地点から前記凸部までの間の少なくともいずれか一方を走行しているとき、前記減衰力制御手段に前記車両の前輪のショックアブソーバの減衰力を低下させてもよい。
この車両走行制御装置によると、車両が第二地点から第一地点までの間、及び、第一地点から凸部までの間の少なくともいずれか一方を走行しているときに、前輪のショックアブソーバの減衰力を低下させるので、減衰力を変化させない場合や増加させる場合と比較して、車両をノーズダイブ又はノーズアップさせやすくすることができる。
【0009】
(5)上記目的を達成するための車両走行制御装置は、前記車両の速度を検出する速度検出手段と、前記凸部の通過速度を設定する通過速度設定手段と、をさらに備えてもよい。前記地点設定手段は、前記車両の速度、前記凸部の通過速度、設定された前記加速度に基づいて、前記第一地点及び前記第二地点を設定してもよい。
この車両走行制御装置によると、車両の速度、凸部の通過速度及び設定された加速度に基づいて、その加速度で減速する区間を示す第一地点及び第二地点を設定することができる。
【0010】
(6)上記目的を達成するための車両走行制御装置は、車両の前方路面にある凸部の形状を検出する凸部検出手段と、前記凸部の形状に基づいて第一の距離及び第二の距離を設定し、前記凸部から前記第一の距離手前の地点を前記第一地点、前記第一地点から前記第二の距離手前の地点を第二地点として設定する地点設定手段と、前記第二地点から前記第一地点の間において前記車両を減速させ、前記第一地点に到達すると減速を解除する速度制御手段と、を備える。
この車両走行制御装置によると、第二地点から第一地点の間において車両を減速させることにより、車両の前部が車両の後部より低いノーズダイブ状態となる。また、第一地点に到達するとその減速を解除することにより、車両の前部が車両の後部より高いノーズアップ状態となり、ノーズアップ状態のまま凸部を通過させることができる。このようなノーズダイブ状態及びノーズアップ状態を実現するための速度制御地点である第二地点及び第一地点が凸部の形状に基づいて設定されるので、凸部の形状に関わらずそれらの地点が設定される場合と比較して、凸部の形状に応じた適切なノーズアップ状態を実現することができる。また、車両が凸部を通過する際、凸部の形状に応じて適切に実現されたノーズアップ状態で前輪に凸部を通過させることにより、凸部に前輪が最初に接触するときの凸部の斜面と前輪の衝撃吸収機構の作動軸とのなす角度が略直角となり、前輪に加えられる車両の進行方向及び鉛直方向の衝撃を衝撃吸収機構に吸収させることができる。また、車両がノーズアップ状態であるので、例えば前輪のショックアブソーバが伸びきった状態、つまり十分なストローク量が確保された状態で前輪が凸部に接触することになり、前輪のショックアブソーバが縮んだ状態で前輪が凸部に接触する場合と比較して衝撃を吸収させやすい。また、ノーズアップ状態で前輪が凸部に接触するので、車両前部の下端が凸部に接触するのを防ぐことができる。
【0011】
(7)上記目的を達成するための車両走行制御方法は、車両の前方路面にある凸部の形状を検出し、前記凸部の形状に基づいて加速度を設定し、前記凸部から第一の距離手前の地点を第一地点、前記第一地点から第二の距離手前の地点を第二地点として設定し、前記第二地点から前記第一地点の間において前記車両を前記加速度で減速させ、前記第一地点に到達すると前記車両の減速を解除する、ことを含む。
この車両走行制御方法によると、第二地点から第一地点の間において車両を減速させることにより、車両の前部が車両の後部より低いノーズダイブ状態となる。また、第一地点に到達するとその減速を解除することにより、車両の前部が車両の後部より高いノーズアップ状態となり、ノーズアップ状態のまま凸部を通過させることができる。また、第二地点から第一地点の間で減速する際の加速度は凸部の形状に基づいて設定されるので、凸部の形状に関わらず同じ加速度が設定されその加速度で減速される場合と比較して、凸部の形状に応じた適切なノーズアップ状態を実現することができる。車両が凸部を通過する際、凸部の形状に応じた適切なノーズアップ状態で前輪に凸部を通過させることにより、凸部に前輪が最初に接触するときの凸部の斜面と前輪の衝撃吸収機構の作動軸とのなす角度が略直角となり、前輪に加えられる車両の進行方向及び鉛直方向の衝撃を衝撃吸収機構に吸収させることができる。また、車両がノーズアップ状態であるので、例えば前輪のショックアブソーバが伸びきった状態、つまり十分なストローク量が確保された状態で前輪が凸部に接触することになり、前輪のショックアブソーバが縮んだ状態で前輪が凸部に接触する場合と比較して衝撃を吸収させやすい。また、ノーズアップ状態で前輪が凸部に接触するので、車両前部の下端が凸部に接触するのを防ぐことができる。
【0012】
尚、本発明に備わる複数の手段の各機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、又はそれらの組み合わせにより実現される。また、これら複数の手段の各機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。また、請求項に記載された方法の各動作の順序は、技術上の阻害要因がない限り、記載順に限定されるものではなく、どのような順序で実行されてもよく、また同時に実行されてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。
(第1実施形態)
図2は、本発明の第1実施形態に係る車両走行制御装置1の構成を示すブロック図である。車両走行制御装置1は自動車、オートバイ等の車両に搭載される。
ブレーキユニット10は、走行制御パラメータに基づいてブレーキアクチュエータを制御する。ブレーキアクチュエータの電磁弁は、ブレーキアクチュエータのピストンを駆動する油圧を制御する油圧制御弁である。ブレーキアクチュエータのピストンが油圧制御弁に制御された駆動油圧に応じて移動することにより、ブレーキディスクに押し付けられるブレーキパッド、またはブレーキドラムに押し付けられるブレーキライニングが駆動される。
【0014】
ショックアブソーバユニット14は、各車輪に設けられ、路面から受ける衝撃を吸収するスプリングと、スプリングの伸縮を減衰させて車体を安定させるピストン部等からなるショックアブソーバを有する。ショックアブソーバは、油圧式であっても、油と窒素ガスを入れたガス封入式であってもよい。ショックアブソーバユニット14は、CPU50の制御に応じてショックアブソーバの減衰力を変化させる機能を有する。減衰力を変化させる方法は、周知の方法が適用されてよい。制動時に車両の前部が一時的に沈むノーズダイブ状態に車両があるとき、前輪のショックアブソーバはストローク量が少ない縮んだ状態となり、後輪のショックアブソーバはストローク量が大きい伸びた状態となる。反対に、車両がノーズアップ状態にあるとき、前輪のショックアブソーバは伸びた状態となり、後輪のショックアブソーバは縮んだ状態となる。
【0015】
本実施形態では、車両走行制御装置1は、目的地点までの推奨経路や自車の走行地点を案内するナビゲーション装置と殆どのハードウェアを共有している。これに対し、車両走行制御装置1は、ナビゲーション装置と独立したハードウェアで構成されてもよい。
【0016】
凸部検出手段としてのハードディスク装置(HDD)30には、地図データ等が格納されている。地図データは、グラフ形式で地図をディジタル表現した情報で構成されるデータであって、自車位置の検出、減速を促すために路面に設けられているスピードバンプ等の凸部の形、幅、高さ等の形状の取得などに用いられる。地図データでは、交差点、曲がり点、行き止まり点などはノードであり、道路はノードとノードを結ぶリンクとして定義されている。また各リンクには距離、制限速度、レーン数、幅員、コーナーの半径、スピードダンプ等の凸部の有無及び凸部の形状等が属性情報として定義されている。
【0017】
方位センサ32は、推測航法に用いる地磁気センサ、左右車輪速度差センサ、振動ジャイロ、ガスレートジャイロ、光ファイバジャイロ等で構成されている。
GPSユニット34は、衛星航法に用いる3個又は4個の衛星から送られてくる軌道データを受信し、自車90の現在地の緯度経度データを出力するためのアンテナ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成される。
【0018】
車速センサ36は、車両の走行速度の検出と、車両の走行位置を走行距離から特定するための推測航法とに用いられる。単位時間当たりの車輪の回転数から求まる車速を時間で積分することにより走行距離が求まる。電波や超音波を用いたドップラ対地速度センサ、光と空間フィルタを用いた対地速度センサを用いてもよい。
【0019】
凸部検出手段としてのカメラユニット38は、車両前方が被写範囲となるように設置され、車両前方の路面や標識などを撮影し、路面に設けられたスピードバンプ等の凸部の有無や走行道路の制限速度等の検出に用いられる。尚、凸部検出手段としてレーダユニットを備え、レーダユニットの出力値から、前方路面の凸部の有無及び、凸部の形状を取得してもよい。
【0020】
CPU50は、制御プログラムを実行することにより、車両走行制御装置1内の各部を制御する。ナビゲーション装置のCPUが車両走行制御装置1のCPU50を兼ねてもよいし、車両走行制御装置1の専用としてCPU50を用いてもよい。
【0021】
RAM52は、CPU50で処理されるデータやプログラムを一時的に格納する。フラッシュメモリ54は、CPU50で実行される制御プログラムを格納している書き換え可能な不揮発性のメモリである。制御プログラムはHDD30に格納してもよい。制御プログラムや地図データは、所定のサーバからのネットワークを介したダウンロード、図示しないリムーバブルメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体からの読み出し等によってもHDD30またはフラッシュメモリ54に格納することができる。
CPU50は、後述する車両走行制御処理を実行することにより、凸部検出手段、減速加速度設定手段、地点設定手段、速度制御手段、減衰力制御手段として機能する。
以上、車両走行制御装置1の構成を説明した。
【0022】
図3は、本実施形態に係る車両走行制御処理の流れを示すフローチャートである。車両走行制御処理は、車両の前方路面に凸部が存在することが検出されると実行される。図1は、車両走行制御処理が実行されることによって凸部通過前及び通過時の車両の姿勢変化の例を示す模式図である。
自車90の現在位置は、地図データを用いたマップマッチングによる補正と、GPSユニット34から入力される自車90の現在地の緯度経度データと、車速センサ36などを用いた距離センサから入力される走行距離と、方位センサ32から入力される進行方位とに基づいて、所定時間間隔おきに検出される。
【0023】
はじめに、前方路面の凸部の形状が検出される(ステップS100)。具体的には例えば、自車90が走行する道路の属性情報が参照され、自車90の所定距離前方に凸部が存在する場合、その凸部の形状が取得される。凸部の有無及び形状は、カメラユニット38が撮影する前方路面の画像を解析することによって検出されてもよい。尚、レーダユニットの出力値によって凸部の有無及び形状が検出されてもよい。
【0024】
ステップS102では、凸部の形状に基づいて加速度Aが設定される。具体的には、凸部80の形状に応じてノーズアップ目標量が設定され、そのノーズアップ目標量分のノーズアップ状態を実現するための加速度Aが算出され設定される。ノーズアップ目標量とは、例えばショックアブソーバのストローク量である。ノーズアップ目標量は、例えば小さな凸部より大きな凸部の方が大きくノーズアップするように設定される。
【0025】
ステップS104では、凸部の形状に基づいて第一地点及び第二地点が設定される。具体的には例えば、まず自車90の現在位置と、ステップS100で走行道路の属性情報から取得された凸部の位置とから距離が算出される。カメラユニット38やレーダユニットによる出力データから距離が算出されてもよい。そして、ステップS102で設定されたノーズアップ目標量分のノーズアップ状態を実現するための速度制御地点である第一地点、及びノーズダイブ状態を実現するための速度制御を開始する地点である第二地点が設定される(図1参照)。第一地点及び第二地点は、もちろん自車90の現在位置と凸部80との間の地点として設定される。第一地点は、自車90をノーズアップ状態にするために減速を解除する地点であって、本実施形態では凸部80から第一の距離はなれた地点を指す。第一地点は、凸部の形状に基づいて設定される。第二地点は、自車90をノーズダイブ状態にするためにステップS102で設定された加速度Aで自車90を減速させる制御を開始する地点であって、第一地点から第二の距離はなれた地点を指す。第二地点は、凸部の形状に基づいて設定される。
【0026】
ステップS105では、第三地点が設定される。第三地点は、乗り心地を悪化させることなく自車90をノーズダイブ及びノーズアップさせるために、加速度B(例えば0.2G)で自車90を減速する制御を開始する地点であって、第二地点から第三の距離はなれた地点を指す。第三地点は、第三地点より手前の位置を走行しているときの自車90の車速に応じて設定される。もちろん第三地点も、自車90の現在位置と凸部80との間の地点として設定される。
図6は、凸部、第一地点、第二地点及び第三地点と、それらの地点間の自車90の速度との関係を示す模式図である。
【0027】
本実施形態において第一地点で行われる減速の解除は、第一地点までに行われてきた減速を完全に解除することを意味する。尚、第一地点では、完全に解除するのではなくて、例えば第二地点から第一地点までに用いられた加速度Aよりも小さな加速度で減速するような速度制御がなされてもよい。
【0028】
このように、本実施形態では、凸部の形状に基づいて、加速度A、第一地点及び第二地点が設定され、自車90の速度が制御されるので、凸部の形状に基づくことなくそれらが設定され速度が制御される場合と比較して、凸部の形状に応じた適切なノーズアップ状態を実現することができる。
【0029】
ステップS106では、自車90が第三地点を通過したか判定される。
ステップS108では、ステップS106で第三地点を通過したと判定されると、加速度Bで減速する制御が開始される。具体的には、CPU50に設定された加速度Bに応じて、ブレーキユニット10によって速度が制御される。図1(A)はこのときの自車90を表している。急激な減速ではないので、自車90は大きくノーズダイブしない。
【0030】
ステップS110では、自車90が第二地点を通過したか判定される。
ステップS112では、ステップS110で第二地点を通過したと判定されると、加速度Aで減速する制御が開始される。具体的には、CPU50に設定された加速度Aに応じて、ブレーキユニット10によって速度が制御される。第二地点から第一地点までは、第三地点から第二地点までの加速度Bよりも大きな加速度Aで自車90を減速する制御がなされることにより、自車90はノーズダイブ状態となる。図1(B)はこのときの自車90を表している。尚、このとき、前輪のショックアブソーバ92は縮んだ状態である。
【0031】
また、ステップS112のノーズダイブ制御において、CPU50の制御に応じてショックアブソーバユニット14は、前輪のショックアブソーバ92の減衰力を低下させてもよい。前輪のショックアブソーバ92の減衰力が低下することにより、減衰力が変化しない場合や増加させる場合と比較してノーズダイブしやすくなる。
【0032】
ステップS114では、自車90が第一地点を通過したか判定される。
ステップS116では、ステップS114で第一地点を通過したと判定されると、減速が解除される。減速が解除されると、自車90はノーズアップ状態となる。図1(C)は、自車90がノーズアップ状態のままで、凸部80に接触した瞬間を表している。このとき、前輪のショックアブソーバ92は、伸びた状態であり十分なストローク量が確保されて、矢印100方向の振動を減衰する。また、ノーズアップ状態であるため、自車90の前部下端は凸部80に接触しない。図5に示すように、ショックアブソーバ92の作動方向を示す矢印100が凸部80の斜面80aに対し略直角になるようにノーズアップされた状態で凸部80に接触すると、凸部80との接触による進行方向(破線矢印100b)の衝撃、及び凸部80への乗り上げによる鉛直方向(破線矢印100a)の衝撃も、ショックアブソーバ92は同時に吸収することができる。
【0033】
また、ステップS116において、CPU50の制御に応じてショックアブソーバユニット14は、前輪のショックアブソーバ92の減衰力を低下させてもよい。前輪のショックアブソーバ92の減衰力が低下することにより、減衰力が変化しない場合や増加させる場合と比較してノーズアップしやすくなる。ステップS112、S116での前輪のショックアブソーバ92の減衰力を低下させる制御は、両方で実施されても、どちらか一方で実施されてもよい。
【0034】
図1(D)は凸部80を前輪が通過している様子を示している。前輪が凸部80へ乗り上げることによる鉛直方向(矢印102)の衝撃が吸収される。ノーズダイブ状態であるときに比べてストローク量に余裕があるため、衝撃を吸収しやすい。
【0035】
このように、本実施形態では、減速のための速度制御は、第三地点から第二地点の間と、第二地点から第一地点の間との二段階に分けて実施される。ノーズアップ状態をノーズダイブ状態の自然反力として実現するために、ノーズダイブ状態は実現されることが期待される。このようなノーズダイブ状態を実現するために、第三地点から第二地点の間は、第二地点から第一地点の間で減速する際の加速度よりも小さな加速度で減速させるような速度制御が行われる。したがって、減速のための速度制御を二段階に分けず、例えば第二地点まで減速せずに第二地点から第一地点の間でいきなり減速する場合と比較すると、本実施形態ではノーズダイブ状態及びノーズアップ状態を緩やかに、乗り心地を悪化させずに実現することができる。
【0036】
尚、加速度A、第一地点及び第二地点は、ノーズアップ状態で前輪が凸部80を通過した後、その自然反力によって、後輪が凸部80を通過する時にノーズダイブ状態となるように設定されてもよい。すなわち例えば、小さな凸部に対して、大きくノーズアップするような加速度Aや第一地点及び第二地点が設定されると、ノーズダイブ状態にならないうちに後輪が凸部80を通過することも考えられるので、後輪が凸部80を通過するタイミングと自車90の姿勢とを考慮して加速度A、第一地点及び第二地点が設定される。
【0037】
図4は、図1(D)に示すように前輪が凸部80を通過した後の自車90を表している。ステップS102及びS104で設定された加速度及び速度制御地点によって自車90の速度が制御されることにより、前輪がノーズアップ状態で凸部80を通過すると、その自然反力によって自車90は再びノーズダイブ状態となる。このとき後輪のショックアブソーバ94は、図4に示すように伸びた状態であるためストローク量に余裕があり、凸部80に乗り上げることによる鉛直方向(矢印104)の衝撃を吸収することができる。前輪が凸部80をノーズアップ状態で通過するために設定された加速度A、第一地点及び第二地点は、ノーズアップ状態の自然反力によって自車90が再びノーズダイブ状態となるのに同期して後輪が凸部80を通過するように設定されるため、前輪が凸部80を通過する際の衝撃を吸収できるのみならず、後輪が凸部80を通過する際の衝撃も吸収することができる。
【0038】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る車両走行制御処理のフローチャートを図7に示す。第2実施形態の車両走行制御装置1の構成は第1実施形態の車両走行制御装置1と実質的に同一である。また、図7に示すフローチャートにおいて、図3のフローチャートと同じ処理を行うステップには同じステップ番号を付している。また、図7に示す車両走行制御処理を実行することによりCPU50は、速度検出手段及び通過速度設定手段としても機能する。また、車速センサ36は、請求項に記載の速度検出手段に相当する。
【0039】
第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、第1実施形態では第一地点及び第二地点が凸部の形状に基づいて設定されるのに対して、第2実施形態では現在の車両の速度、凸部の通過速度、及び、第二地点から第一地点の間で減速する際の加速度(加速度A)に基づいて設定される点である。
ステップS100及びステップS102では、図3のフローチャートと同じ処理が行われる。
ステップS204では、車両の速度が検出される。具体的には、車速センサ36から現在の自車90の速度が取得される。
【0040】
ステップS206では、凸部の通過速度が設定される。凸部の通過速度は、凸部の形状に応じて設定されてもよいし、例えば駐車場内であれば15km/hなどのように予め決められている速度に従って設定されてもよい。
ステップS208では、車両の速度、凸部の通過速度及び加速度Aに基づいて、第一地点及び第二地点が設定される。
ステップS110、S112、S114及びS116では、図3のフローチャートと同じ処理が行われる。
【0041】
尚、ステップS208において、第二地点から第三の距離はなれた第三地点がさらに設定され、第三地点から第二地点までの間は、加速度Aより小さな加速度B(例えば0.2G)で自車90を減速させてもよい。
また、ステップS112及びS116の少なくともいずれか一方の処理が実行されるときに、CPU50の制御に応じてショックアブソーバユニット14は、前輪のショックアブソーバ92の減衰力を低下させてもよい。
【0042】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る車両走行制御処理のフローチャートを図8に示す。第3実施形態の車両走行制御装置1の構成は第1実施形態の車両走行制御装置1と実質的に同一である。また、図8に示すフローチャートにおいて、図3のフローチャートと同じ処理を行うステップには同じステップ番号を付している。
【0043】
第3実施形態が第1実施形態と異なる点は、第1実施形態では凸部の形状に基づいて速度制御地点(第一地点及び第二地点)と加速度(加速度A)が設定されるのに対し、第2実施形態では凸部の形状に応じて設定されるのは、速度制御地点(第一地点及び第二地点)である点である。
【0044】
ステップS100、S104、S110、S114及びS116では、図3のフローチャートと同一の処理が行われる。
ステップS312では、ステップS104で設定された第二地点及び第一地点の間において自車90の速度を一定の加速度(例えば0.3G)で減速する制御がなされる。
尚、ステップS312及びS116の少なくともいずれか一方の処理が実行されるときに、CPU50の制御に応じてショックアブソーバユニット14は、前輪のショックアブソーバ92の減衰力を低下させてもよい。
【0045】
(他の実施形態)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。例えば、上記実施形態で説明したショックアブソーバ以外の衝撃吸収機構を制御する場合にも本発明は適用可能である。また、減速は、オートマチック車のギア比を変えることによるエンジンブレーキとして実現されてもよいし、内燃機関における燃料の噴射量やスロットル開度を制御することによって実現されてもよい。また、回生ブレーキのモータの回転数を変化させることによって実現されてもよい。尚、凸部の位置や大きさは、車両に設置された加速度センサの記録によって地図データに記憶されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両走行制御を示す模式図。
【図2】本発明の第1実施形態に係る車両走行制御装置の構成を示すブロック図。
【図3】本発明の第1実施形態に係る車両走行制御処理を示すフローチャート。
【図4】本発明の第1実施形態に係る車両走行制御を示す模式図。
【図5】本発明の第1実施形態に係る模式図。
【図6】本発明の第1実施形態に係る模式図。
【図7】本発明の第2実施形態に係る車両走行制御処理を示すフローチャート。
【図8】本発明の第3実施形態に係る車両走行制御処理を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0047】
1:車両走行制御装置、10:ブレーキユニット、14:ショックアブソーバユニット、30:HDD(凸部検出手段)、32:方位センサ、34:GPSユニット、36:車速センサ、38:カメラユニット(凸部検出手段)、50:CPU(凸部検出手段、減速加速度設定手段、地点設定手段、速度制御手段、減衰力制御手段、速度検出手段、通過速度設定手段)、52:RAM、54:フラッシュメモリ、80:凸部、90:自車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方路面にある凸部の形状を検出する凸部検出手段と、
前記凸部の形状に基づいて加速度を設定する減速加速度設定手段と、
前記凸部から第一の距離手前の地点を第一地点、前記第一地点から第二の距離手前の地点を第二地点として設定する地点設定手段と、
前記第二地点から前記第一地点の間において前記車両を前記加速度で減速させ、前記第一地点に到達すると前記車両の減速を解除する速度制御手段と、
を備える車両走行制御装置。
【請求項2】
前記地点設定手段は、前記凸部の形状に基づいて前記第一地点及び前記第二地点を設定する、
請求項1に記載の車両走行制御装置。
【請求項3】
前記地点設定手段は、前記第二地点から第三の距離手前の地点を第三地点として設定し、
前記速度制御手段は、前記第三地点から前記第二地点の間において前記車両を前記加速度よりも小さい加速度で減速させる、
請求項1又は2に記載の車両走行制御装置。
【請求項4】
車輪に設けられたショックアブソーバの減衰力を制御する減衰力制御手段をさらに備え、
前記速度制御手段は、前記車両が前記第二地点から前記第一地点までの間、及び、前記第一地点から前記凸部までの間の少なくともいずれか一方を走行しているとき、前記減衰力制御手段に前記車両の前輪のショックアブソーバの減衰力を低下させる、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両走行制御装置。
【請求項5】
前記車両の速度を検出する速度検出手段と、
前記凸部の通過速度を設定する通過速度設定手段と、をさらに備え、
前記地点設定手段は、前記車両の速度、前記凸部の通過速度、設定された前記加速度に基づいて、前記第一地点及び前記第二地点を設定する、
請求項1に記載の車両走行制御装置。
【請求項6】
車両の前方路面にある凸部の形状を検出する凸部検出手段と、
前記凸部の形状に基づいて第一の距離及び第二の距離を設定し、前記凸部から前記第一の距離手前の地点を前記第一地点、前記第一地点から前記第二の距離手前の地点を第二地点として設定する地点設定手段と、
前記第二地点から前記第一地点の間において前記車両を減速させ、前記第一地点に到達すると減速を解除する速度制御手段と、
を備える車両走行制御装置。
【請求項7】
車両の前方路面にある凸部の形状を検出し、
前記凸部の形状に基づいて加速度を設定し、
前記凸部から第一の距離手前の地点を第一地点、前記第一地点から第二の距離手前の地点を第二地点として設定し、
前記第二地点から前記第一地点の間において前記車両を前記加速度で減速させ、前記第一地点に到達すると前記車両の減速を解除する、
ことを含む。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−1302(P2008−1302A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174973(P2006−174973)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】