車両運転支援装置及び車両運転支援方法
【課題】運転者に違和感のない制御感を与えつつ、支援制御を適切に行うことができる車両運転支援装置及び車両運転支援方法を提供する。
【解決手段】設定時間後の自車両の将来位置を予測する。予測した自車両の将来位置が、予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみ外側にあるほど、自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを大きく自車両に付与して自車両を制御する。その際、自車両に付与する前記ヨーモーメントが小さいほど、自車両に大きな減速加速度を付与する。
【解決手段】設定時間後の自車両の将来位置を予測する。予測した自車両の将来位置が、予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみ外側にあるほど、自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを大きく自車両に付与して自車両を制御する。その際、自車両に付与する前記ヨーモーメントが小さいほど、自車両に大きな減速加速度を付与する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の横位置が設定した車線幅方向横位置に達すると、自車両を車線中央方向へ制御することで運転者の運転を支援する車両運転支援装置及び車両運転支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両運転支援装置として、例えば特許文献1に記載の技術がある。この技術では、障害物と自車両との距離を検出し、検出した距離に応じて障害物に対するリスクポテンシャルを算出する。そして、当該リスクポテンシャルに基づいて操舵反力を発生することにより、自車両の障害物への接近を運転者に報知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−125933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自車両の障害物への接近を防止する方法として、リスクポテンシャルに基づいて自車両の障害物への接近を防止する方向のヨーモーメントを自車両に付与するものがある。しかしながら、この場合、リスクポテンシャルが比較的低い場合には自車両に付与するヨーモーメントが小さいため、運転者に対する報知効果を十分に得られない。
また、十分な報知効果を得るために自車両に付与するヨーモーメントを大きくすると、車両が回頭しすぎてしまい、運転者に違和感を与える。
【0005】
そこで、本発明は、運転者に違和感のない制御感を与えつつ、支援制御を適切に行うことができる車両運転支援装置及び車両運転支援方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、設定時間後の自車両の将来位置を予測し、予測した自車両の将来位置が、予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にある場合に、自車両に自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを付与すると共に、自車両に減速加速度を付与する。その際、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にあるほど大きな前記ヨーモーメントを自車両に付与すると共に、前記ヨーモーメントが小さいほど前記減速加速度を大きくする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、自車両に付与するヨーモーメントが比較的小さい場合には、自車両に付与するヨーモーメントはそのままで、自車両を減速する減速制御を行う。そのため、運転者に適切な制御感を与えることができると共に、過剰なヨー制御を抑制して安定した運転支援制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る装置の概要構成図である。
【図2】コントロールユニットの構成を説明する図である。
【図3】コントロールユニットの処理手順を示すフローチャートである。
【図4】自車両と障害物との関係を示す概念図である。
【図5】ゲインK2recvの特性を示す図である。
【図6】制御配分比率算出マップである。
【図7】第1の補正係数算出マップである。
【図8】第2の補正係数算出マップである。
【図9】第3の補正係数算出マップ(イン側)である。
【図10】第3の補正係数算出マップ(アウト側)である。
【図11】第4の補正係数算出マップである。
【図12】第1の実施形態における支援制御を説明する図である。
【図13】従来方式の支援制御を説明する図である。
【図14】第2の実施形態における支援制御を説明する図である。
【図15】制御配分比率算出マップの別の例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、後輪駆動車両に対し、車両運転支援装置を搭載する場合について説明する。なお、対象とする車両として、前輪駆動車両や四輪駆動車両を適用することもできる。
【0010】
(第1の実施の形態)
(構成)
図1は、本実施形態に係る装置の概要構成図である。
ブレーキペダル1は、ブースタ2を介してマスタシリンダ3に連結する。また、図中符号4はリザーバである。
マスタシリンダ3は、流体圧回路30を介して各輪の各ホイールシリンダ6FL〜6RRに連結する。これにより、制動制御が作動しない状態では、運転者によるブレーキペダル1の踏込み量に応じて、マスタシリンダ3で制動流体圧を昇圧する。その昇圧した制動流体圧を、流体圧回路30を通じて、各車輪5FL〜5RRの各ホイールシリンダ6FL〜6RRに供給する。
【0011】
制動流体圧制御部7は、流体圧回路30中のアクチュエータを制御して、各輪への制動流体圧を個別に制御する。そして、各輪への制動流体圧を、制駆動力コントロールユニット8からの指令値に応じた値に制御する。アクチュエータとしては、各ホイールシリンダ液圧を任意の制動液圧に制御可能な比例ソレノイド弁がある。
ここで、制動流体圧制御部7及び流体圧回路30は、例えばアンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TCS)又はビークルダイナミックスコントロール装置(VDC)で使用する制動流体圧制御部を利用すればよい。制動流体圧制御部7は、単独で各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を制御する構成とすることもできる。そして、後述する制駆動力コントロールユニット8から制動流体圧指令値を入力した場合には、その制動流体圧指令値に応じて各制動流体圧を制御する。
【0012】
また、この車両には、駆動トルクコントロールユニット12を設ける。
駆動トルクコントロールユニット12は、駆動輪である後輪5RL、5RRへの駆動トルクを制御する。この制御は、エンジン9の運転状態、自動変速機10の選択変速比、及びスロットルバルブ11のスロットル開度を制御することで実現する。すなわち、駆動トルクコントロールユニット12は、燃料噴射量や点火時期を制御する。また同時に、スロットル開度を制御する。これにより、エンジン9の運転状態を制御する。
【0013】
また、駆動トルクコントロールユニット12は、制御の際の情報である駆動トルクTwの値を、制駆動力コントロールユニット8に出力する。
なお、この駆動トルクコントロールユニット12は、単独で後輪5RL、5RRの駆動トルクを制御することも可能である。ただし、制駆動力コントロールユニット8から駆動トルク指令値を入力したときには、その駆動トルク指令値に応じて駆動輪トルクを制御する。
【0014】
またこの車両前部には、画像処理機能付きの撮像部13を備える。撮像部13は、走行車線内の自車両の位置を検出するために使用する。この撮像部13は、例えばCCD(Charge Coupled Device)カメラからなる単眼カメラで構成する。
撮像部13は、自車両前方を撮像する。そして、撮像部13は、撮像した自車両前方の撮像画像について画像処理を行い、白線(レーンマーカ)等の車線区分線を検出し、検出した白線に基づいて、走行車線を検出する。
【0015】
さらに、撮像部13は、その検出した走行車線に基づいて、自車両の走行車線と自車両の前後方向軸とのなす角(ヨー角)φfront、走行車線に対する横変位Xfront、及び走行車線曲率β等を算出する。撮像部13は、算出したヨー角φfront、横変位Xfront、及び走行車線曲率β等を、制駆動力コントロールユニット8に出力する。
また、撮像部13は、横変位Xfrontの変化量から自車両の横速度(車線幅方向の速度)Vxを算出し、これを制駆動力コントロールユニット8に出力する。
【0016】
ここで、撮像部13は、走行車線を区分する白線(レーンマーカー)を検出して、その検出した白線に基づき、ヨー角φfrontを算出している。このため、ヨー角φfrontは、撮像部13の白線の検出精度に大きく影響する。
なお、走行車線曲率βfrontを、後述のステアリングホイール21の操舵角δに基づいて算出することもできる。
【0017】
また、この車両には、レーダー装置24L/Rを備える。レーダー装置24L/Rは、それぞれ自車両左右の側方障害物を検出する為のセンサである。このレーダー装置24L/Rは、少なくとも自車両側方の所定の死角エリア(範囲)に電磁波を出射し、出射した電磁波に対する反射波を検出することによって、所定の死角エリア(範囲)存在する障害物の存在可否の検出ができる例えばミリ波レーダーであり、以下では単にミリ波レーダーとも記載する。このレーダー装置24L/Rは望ましくは、障害物の自車両に対する相対横位置POSXobst、相対縦位置DISTobst、相対縦速度dDISTobstの検出を左右それぞれ検出できるものとする。なおここで、本明細書実施例中における横方向とは車線幅方向を意味し、縦方向とは車線延在方向を意味する。
【0018】
また、この車両は、マスタシリンダ圧センサ17、アクセル開度センサ18、操舵角センサ19、方向指示スイッチ20、車輪速度センサ22FL〜22RRを備える。
マスタシリンダ圧センサ17は、マスタシリンダ3の出力圧、すなわちマスタシリンダ液圧Pmを検出する。アクセル開度センサ18は、アクセルペダルの踏込み量、すなわちアクセル開度θtを検出する。操舵角センサ19は、ステアリングホイール21の操舵角(ステアリング舵角)δを検出する。方向指示スイッチ20は、方向指示器による方向指示操作を検出する。車輪速度センサ22FL〜22RRは、各車輪5FL〜5RRの回転速度、所謂車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を検出する。そして、これらセンサ等は、検出した検出信号を、制駆動力コントロールユニット8に出力する。
【0019】
図2は、制駆動力コントロールユニット8の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、制駆動力コントロールユニット8は、将来位置予測手段8A、ヨー制御量算出手段8B、減速制御手段8Cを備える。
将来位置予測手段8Aは、操作入力検出手段で検出した運転者の操舵入力に基づいて、予め設定してある所定時間である前方注視時間Tt後の自車両の将来位置を予測する。
【0020】
ヨー制御量算出手段8Bは、障害物検出手段で自車両側方の障害物を検出していると判定している場合に、自車両の将来位置(将来の横位置)が、障害物に近い側の車線区分線を基準とした障害物距離X2obstの横位置(予め設定した車線幅方向横位置)に到達、若しくは障害物距離X2obstよりも障害物側の横位置に位置することで、制御開始を判定する。障害物距離X2obstの横位置よりも障害物側とは、自車線中央側からみて障害物距離X2obstの横位置よりも外側を意味する。
【0021】
そして、制御開始と判定した場合には、自車両の将来の横位置と上記予め設定した車線幅方向横位置との差が大きいほど、自車両に付与するヨーモーメントMs(ヨー制御量)を大きく算出する。ここで、上記ヨーモーメントMsは、障害物への接近を防止する方向(即ち車線中央方向)のヨーモーメントである。
減速制御手段8Cは、ヨー制御量算出手段8Bで算出したヨーモーメントMsが予め設定したヨーモーメント閾値より小さいとき、ヨーモーメントMsが小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与する減速制御を行う。
【0022】
すなわち、制駆動力コントロールユニット8は、ヨーモーメントMsに基づいて、減速制御の制御配分を考慮した目標ヨーモーメントMs_allを算出し、その目標ヨーモーメントMs_allに応じた制動力を各輪に付与する。
図3は、制駆動力コントロールユニット8で実行する障害物回避制御処理手順を示すフローチャートである。
【0023】
この障害物回避制御処理は、所定サンプリング時間(制御サイクル)ΔT毎(例えば、10msec毎)にタイマ割込によって実行する。なお、この図3に示す処理内には通信処理を設けていないが、演算処理によって取得した情報は、随時記憶装置に更新記憶すると共に、必要な情報を随時記憶装置から読み出す。
先ずステップS10で、制駆動力コントロールユニット8は、上記各センサやコントローラ、コントロールユニットから各種データを読み込む。具体的には、各センサが検出した、各車輪速度Vwi、操舵角δ、マスタシリンダ液圧Pm及び方向スイッチ信号を取得する。
【0024】
次にステップS20で、制駆動力コントロールユニット8は、車速Vを算出する。すなわち、車速Vを、下記式のように車輪速度Vwiに基づいて算出する。
V=(Vwrl+Vwrr)/2 (:前輪駆動の場合),
V=(Vwfl+Vwfr)/2 (:後輪駆動の場合) ………(1)
ここで、Vwfl、Vwfrは左右前輪それぞれの車輪速度である。Vwrl、Vwrrは左右後輪それぞれの車輪速度である。すなわち、上記(1)式では、車速Vを、従動輪の車輪速の平均値として算出している。なお、本実施形態では、後輪駆動の車両であるので、後者の式、すなわち前輪の車輪速度により車速Vを算出する。
【0025】
また、ABS(Anti−lock Brake System)制御などの別の自動制動制御装置が作動している場合には、その別の制動制御装置で推定している推定車体速度を取得して、上記車速Vとして用いる。
ステップS30では、制駆動力コントロールユニット8は、左右の各レーダー装置24L/Rからの信号に基づき、自車両MMの左右側方について、障害物SMの存在Lobst・Robstの有無を取得する。なお、より検出精度の高いセンサを使用する場合には、自車両MMに対する側方障害物SMの相対位置および相対速度も取得する。ここで、図4に示すように、自車両MM側方とは、自車両MMに対して斜め後方位置も含む。
【0026】
図4に示す障害物検出範囲は、自車両MMの側方における、所定の縦・横位置となるように設定する。また、縦位置については、障害物SMが自車両MMに対して接近する相対速度が大きいほど、障害物検出範囲が広くなるように設定してもよい。
次に、ステップS40では、制駆動力コントロールユニット8は、撮像部13から、現在走行している走行路における自車両MMの横変位(横位置)Xfront、及び走行車線の曲率βfrontを読み込む。
【0027】
ただし、走行車線の曲率βfrontの取得は、撮像部13に限定しない。例えば、ナビゲーションシステムの自車位置において記録している曲率情報などによって取得してもよい。
また、現在走行している走行路に対する自車両MMのヨー角φfrontを算出する。このヨー角φfrontは、レーン内の走行状況を検出するために使用する。
【0028】
本実施形態では、このヨー角φfrontは、撮像部13による実測値を使用する。
なお、撮像部13による実測値を用いる代わりに、撮像部13が撮像した近傍の白線に基づいて、ヨー角φfrontを算出してもよい。この場合には、例えば、自車両MMの横変位Xfrontの変化量を用いて、下記(2)式によりヨー角φfrontを算出する。
φfront=tan-1(dX′/V(=dX/dY)) ………(2)
【0029】
ここで、dXは横変位Xfrontの単位時間当たりの変化量、dYは単位時間当たりの進行方向の変化量、dX´は上記変化量dXの微分値である。
なお、近傍の白線に基づいてヨー角φfrontを算出する場合、上記(2)式のように、横変位Xfrontを用いてヨー角φfrontを算出することに限定しない。例えば、近傍で検出した白線を遠方に延長し、その延長した白線に基づいて、ヨー角φfrontを算出してもよい。
【0030】
ステップS50では、制駆動力コントロールユニット8は、下記(3)式をもとに、中立ヨーレートφ’pathを算出する。中立ヨーレートφ’pathは、自車両MMが走行路に沿った走行を維持するために必要なヨーレートである。中立ヨーレートφ’pathは、直進路を走行中はゼロとなる。しかし、カーブ路ではその曲率βfrontによって、中立ヨーレートφ’pathが変化する。したがって、この中立ヨーレートφ’pathを算出する際に、上記走行車線の曲率βfrontを用いる。
φ’path=βfront・V ………(3)
【0031】
ここで、この走行経路を維持するための中立ヨーレートφ’pathは、所定期間のヨーレートφ’の平均値φ’aveを用いたり、あるいは時定数の大きいフィルタをヨーレートφ’にかけたりした値を、簡易的に算出しても良い。
【0032】
ステップS60では、制駆動力コントロールユニット8は、前方注視時間Ttを設定する。すなわち、下記式のように、予め設定してある前方注視時間Tt0を、前方注視時間Ttとして設定する。
Tt ← Tt0
前方注視時間Tt0は、運転者の将来の障害物SMとの接近状況を予測するための閾値を決定づけるための予め設定された所定の時間である。例えば、前方注視時間Tt0を1秒に設定しておく。
【0033】
次に、目標ヨーレートΨdriver及びΨdriverhoseiを算出する。
目標ヨーレートΨdriverは、下記式のように、操舵角δと車速度Vから算出する。この目標ヨーレートΨdriverは、操舵に応じて発生させる目標のヨーレートである。
Ψdriver = Kv・δ・V ………(4)
ここで、Kvはゲインである。
【0034】
さらに、目標ヨーレートΨdriverhoseiを、下記式によって算出する。この目標ヨーレートΨdriverhoseiは、目標ヨーレートΨdriverから、走行路を走行するために必要となるヨーレートφ’pathを除いた値である。これによって、カーブ路を走行するために行う操舵による影響を除去する。
Ψdriverhosei= Ψdriver − φ’path ………(5)
【0035】
次に、ステップS70では、制駆動力コントロールユニット8は、下記(6)式をもとに、現在の走行路位置に対する横方向の自車両予測位置ΔXbを算出する。この自車両予測位置ΔXbは、走行路を離脱して車線変更を行うか否かの判定にも使用する。すなわち、自車両予測位置ΔXbは、障害物SMに対する回避制御を開始するかどうかの判定に用いる。
ΔXb =(K1φ+K2φm+K3φm’) ………(6)
ここで、
φ :ヨー角,
φm :目標ヨー角速度,
φm’:目標ヨー角加速度
である。
【0036】
また、上記目標ヨー角速度φmは、下記式となる。
φm = Ψdriverhosei・Tt ………(7)
さらに、目標ヨー角加速度φm’は、下記式となる。
φm’= φm・Tt2 ………(8)
ここで、自車両予測位置ΔXbを、ヨー角の次元とするために、前方注視距離Lを用いると、下式で表すことができる。
ΔXb = L・(k1φ+k2φm・T+k3φm’・Tt2) ………(9)
ここで、前方注視距離Lと前方注視時間Ttとは、下記式の関係にある。
前方注視距離L=前方注視時間Tt・車速V ………(10)
【0037】
こうした特性をふまえると、設定ゲインK1は車速を関数とした値となる。また、設定ゲインK2は、車速と前方注視時間を関数とした値となる。設定ゲインK3は、車速と、前方注視時間の2乗を関数とした値となる。
なお、自車両MMの予測位置を、下記式のように、操舵角成分と操舵速度成分を個別に求めてセレクトハイをして算出しても良い。
ΔXb = max(K2φm,K3∫φm’) ………(11)
【0038】
次に、ステップS80では、制駆動力コントロールユニット8は、制御開始のための判定閾値を設定する。この判定閾値は、側方障害物SMに対する回避制御を開始するかどうかの判定閾値であり、上述した制御開始位置(予め設定した車線幅方向横位置)に相当する。
【0039】
本実施形態では、図4に示す障害物距離X2obstを、上記判定閾値とする。障害物距離X2obstは、仮想的に障害物SMが存在するものとして設定するものであり、白線の位置からの横方向距離として設定する。すなわち、車線区分線から横方向に障害物距離X2obst変位した位置に、障害物SMが存在するものとして処理することとなる。
ここでは、走行路に沿った方向(縦方向)にY軸をとり、走行路と垂直方向つまり車線幅方向(横方向)にX軸を取ったX−Y座標系を使用する。そして、X軸座標上で障害物距離X2obstを設定する。なお、障害物距離X2obstは、仮想障害物が存在する位置を白線位置とした場合に0となり、白線の外側とした場合に正値、白線の内側とした場合に負値となるものとする。
【0040】
本実施形態では、仮想障害物が存在する位置を、白線の外側の所定距離の位置とする。
なお、制御開始のための判定閾値として、障害物距離X2obstに代えて、自車両MMと障害物SMとの横方向相対距離ΔOを用いることもできる(図4)。この横方向相対距離ΔOは、レーダー装置24L/Rにより検出する。
【0041】
また、制御開始のための判定閾値として、既定の閾値Xthreshを用いることもできる。この閾値Xthreshは、自車両の将来位置が現在の自車両位置からどのくらい離れているかを予め設定した値である。
ステップS90では、制駆動力コントロールユニット8は、制御開始の判定を実施する。
ここでは、下記式を満足する場合に制御開始と判定する。
ΔX2=ΔXb−X0 ≧ X2obst ………(12)
【0042】
すなわち、図4に示すように、白線と自車両MMの将来予測位置との横方向距離ΔX2が、障害物距離X2obst以上となったか否かを判定する。言い換えると、側方障害物を検出している状態で、自車両の将来位置が制御開始位置に達したか否かを判定する。
【0043】
そして、上記条件を満足した場合に、障害物SM側への車線変更操作等があったとして、障害物SMに対する制御開始と判定する。障害物SMに対する制御開始と判定した場合には、障害物回避制御判断フラグFout_obstをONに設定する。一方、上記条件を満足しない場合には、障害物回避制御判断フラグFout_obstをOFFに設定する。
【0044】
なお、制御開始のための判定閾値として、自車両MMと障害物SMとの横方向相対距離ΔOを用いる場合には、下記式を満足する場合に制御開始と判定する。
ΔXb ≧ ΔO ………(13)
さらに、制御開始のための判定閾値として、既定の閾値Xthreshを用いる場合には、下記式を満足する場合に制御開始と判定する。
ΔXb ≧ Xthresh ………(14)
【0045】
この自車両予測位置ΔXbは、実施には、車両の左側及び右側のそれぞれについてΔXbL /ΔXbRとして求めて、個別に判定を行う。
また、制御対象とする障害物SMは、自車両MMの後側方向の車両だけでなく、隣接車線前方の対向車両も含めるようにしてもよい。
【0046】
ここで、将来予測位置ΔXbが判定閾値未満か判定する場合に、ΔX2<X2obst−FのようにしてF分のヒスをもたせてもよい。すなわち、不感帯を設定してもよい。すなわち、制御介入閾値と制御終了閾値との間に不感帯を設けても良い。
【0047】
また、Fout_obstをONに設定可能なのは、Fout_obstがOFFとなっている場合とする。また、Fout_obstをONに設定可能とする条件として、Fout_obstをOFFと設定した後所定時間経過した後とするなど、時間的な条件を加えてもよい。また、Fout_obstをONと判定してから所定時間Tcontrolが経過したら、Fout_obst=OFFとし制御を終了してもよい。
【0048】
さらに、障害物回避制御の実施中においては、将来予測位置の判定方向によって、制御の実施方向Dout_obstを判定する。将来予測位置が左になった場合には、Dout_obst=LEFTとし、右になった場合にはDout_obst=RIGHTとする。
【0049】
ここで、アンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TCS)又はビークルダイナミックスコントロール装置(VDC)などの車両挙動安定化制御が作動している場合には、障害物回避制御判断フラグFout_obstをOFFに設定する。これは、車両挙動安定化制御の作動中は、障害物回避制御を作動させないようにするためである。
なお、こうした判定方法は、障害物SM方向へのヨー角φ、操舵角δ、操舵速度δ’それぞれに対して閾値を設定し、それらの閾値を障害物SMに接近すればするほど、制御開始の判定がし難くなるように設定することと同義となる。目標ヨーレートφm’は一般的に広く使用する公式のとおり操舵角(と車速)の関係によって求まるものだからである。
【0050】
次に、ステップS100では、制駆動力コントロールユニット8は、警報発生の処理を行う。
ここでは、前記ステップS90にて制御開始の位置に到達したと判定した場合に、警報を発生する。
【0051】
なお警報は、上述の前方注視時間に基づく前方注視点(自車両の将来位置)が制御開始の位置に到達する前に発生するようにしても良い。例えば、前記ステップS90での検出に用いている前方注視時間Ttよりも長くなるように、所定のゲインKbuzz(>1)を掛ける。そして、(Tt・Kbuzz)を使用して、前記(6)式に基づき算出した前方注視点が、前記ステップS90での制御開始の位置に到達したと判断したときに警報を発生する。
また、前記ステップS90において障害物回避システムの作動を開始すると判定して警報を発生し、それから所定の時間経過の後に、制御を開始するようにしてもよい。
【0052】
次に、ステップS110にて、制駆動力コントロールユニット8は、目標ヨーモーメントMsを設定する。
障害物回避制御判断フラグFout_obstがOFFの場合には、目標ヨーモーメントMsを0に設定して、ステップS120に移行する。
一方、障害物回避制御判断フラグFout_obstがONの場合には、目標ヨーモーメントMsを次式により算出し、ステップS120に移行する。
Ms=K1recv・K2recv・ΔXs ………(15)
ΔXs=(K1mon・φ+K2mon・φm)
【0053】
ここで、K1recvは車両諸元から決まる比例ゲイン(ヨー慣性モーメント)である。K2recvは車速Vに応じて変動するゲインである。ゲインK2recvの例を、図5に示す。図5に示すように、例えばゲインK2recvは、低速域で大きい値になり、車速Vがある値になると、車速Vと反比例の関係となり、その後ある車速Vに達すると小さい値で一定値となる。また設定ゲインK1monは車速を関数とした値となる。また、設定ゲインK2monは、車速と前方注視時間を関数とした値となる。
【0054】
上記(15)式によれば、白線とのヨー角度φや運転者が切り増しをしたステアリングによって定常的に発生するヨーレートが大きくなるほど、目標ヨーモーメントMsは大きくなる。
あるいは、目標ヨーモーメントMsを、下記(16)式から算出してもよい。この(16)式は、上記(15)式に対して、ゲインK3(=1/Tt2)を掛けることと同義である。このゲインK3は、前方注視時間Ttが大きくなるほど減少するゲインとなる。
Ms=K1recv・ΔXb/(L・Tt2) ………(16)
【0055】
どの程度の時間Tをかけてヨー角を制御するかを示す前記(16)式を使用すると、次のようになる。すなわち、制御時間Tを前方注視時間Ttと一致させて設定させておくことで、制御開始タイミングの前方注視時間Ttが短くなった際には、車両を戻すための時間Tが短くなる。この結果として制御量が強くなる。すなわち、前方注視時間Ttが短くなるようにしても、制御開始する際の制御量は大きくなる。また、前方注視時間Ttが長くなるようにした際には制御量は小さくなる。この結果、運転者に対しては前方注視時間Ttの設定によらず、状況に沿った違和感の少ない制御を実施することが可能となる。
【0056】
また、障害物回避制御判断フラグFout_obstがONの場合には、自車走行車線の曲率βfrontに基づいて、目標ヨーモーメントMsを補正する。具体的には、曲率βfrontから自車走行車線がカーブ路であると判定し、且つ自車両が車線中央位置に対してイン側(カーブ内側)に逸脱していると判定した場合に、目標ヨーモーメントMsを減少する補正を行う。このとき、自車走行車線のカーブがきついほど(曲率βfrontが大きいほど)、目標ヨーモーメントMsが小さくなるよう補正する(大きく減少補正する)。
【0057】
一方、自車両が車線中央位置に対してアウト側(カーブ外側)に逸脱していると判定した場合には、目標ヨーモーメントMsを増加する補正を行う。このとき、自車走行車線のカーブがきついほど(曲率βfrontが大きいほど)、目標ヨーモーメントMsが大きくなるよう補正する(大きく増加補正する)。
これにより、イン側では、自車両予測位置ΔXbに応じたヨーモーメントをそのまま自車両に付与してヨーが出すぎてしまうのを抑制することができる。すなわち、過剰な制御を抑制することができる。そして、アウト側ではヨー制御不足となるのを抑制することができる。
【0058】
なお、上記Fout_obstの判定は、操舵情報に基づいて将来の進路変更を予測するものである。
ここで、本制御とは別に、自車両の車線からの逸脱傾向が検出された場合に自車両に車線内へ向かうヨーモーメントを発生させて車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御を備える場合にあっては、本制御が作動開始するときと車線逸脱防止制御が作動開始するときとで、いずれかが先に制御を開始するかによって、先に制御開始した制御を優先し、その制御が終了するまで他方の制御を実施しないようにしてもよい。
【0059】
次に、ステップS115では、制駆動力コントロールユニット8は、減速制御配分を示す制御配分比率α(0≦α<1)を算出する。
本実施形態では、前記ステップS110で算出した目標ヨーモーメントMsの絶対値が予め定めたヨーモーメント閾値以上である場合には、減速制御を行わないものとして、制御配分比率α=0とする。ここで、上記ヨーモーメント閾値とは、自車両に付与したときに運転者が回頭感を認識できる最低限のヨーモーメントに設定する。
【0060】
一方、目標ヨーモーメントMsが上記ヨーモーメント閾値より小さい場合には、目標ヨーモーメントMsが小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与するように、制御配分比率αを0より大きい値に設定する。
【0061】
以下、制御配分比率αの設定方法について説明する。
先ず、図6に示す制御配分比率算出マップを参照し、目標ヨーモーメントMsに基づいて制御配分比率α0を算出する。この制御配分比率算出マップは、縦軸に制御配分比率α0、横軸に前記ステップS110で算出した目標ヨーモーメントMsの絶対値をとる。そして、|Ms|が上記ヨーモーメント閾値であるMsTH以上でα0=0となり、|Ms|<MsTHの範囲では、目標ヨーモーメントの絶対値|Ms|が小さいほど制御配分比率α0が大きくなるように設定する。ここで、0≦α0<1である。
【0062】
次に、図7に示す第1の補正係数算出マップを参照し、第1の補正係数α1を算出する。この第1の補正係数算出マップは、縦軸に第1の補正係数α1、横軸に前記ステップS40で算出したヨー角φfrontをとる。そして、ヨー角φfrontが予め設定したヨー角閾値φfront1以上でα1=0となり、φfront<φfront1の範囲では、ヨー角φfrontが小さいほど第1の補正係数α1が大きくなるように設定する。
【0063】
なお、ヨー角φfrontに代えて、ヨー角φfrontの変化量に基づいて第1の補正係数α1を算出してもよい。この場合には、ヨー角φfrontの変化量が小さいほど第1の補正係数α1が大きくなるように設定する。また、ヨー角φfrontの変化量に代えて、自車両予測位置ΔXbの変化量を用いることもできる。
【0064】
また、図8に示す第2の補正係数算出マップを参照し、第2の補正係数α2を算出する。この第2の補正係数算出マップは、縦軸に第2の補正係数α2、横軸に車速Vをとる。そして、車速Vが予め設定した車速閾値V1より小さい範囲ではα2=0となり、V≧V1の範囲では、車速Vが大きいほど第2の補正係数α2が大きくなるように設定する。
【0065】
さらに、走行車線曲率βfrontに基づいて第3の補正係数α3を算出する。ここでは、自車両が走行車線中央に対してカーブ内側を走行している場合には(走行車線中央に対してイン側に逸脱している場合には)、図9に示す第3の補正係数算出マップを参照して第3の補正係数α3を算出する。一方、自車両が走行車線中央に対してカーブ外側を走行している場合には(走行車線中央に対してアウト側に逸脱している場合には)、図10に示す第3の補正係数算出マップを参照して第3の補正係数α3を算出する。
【0066】
図9に示す第3の補正係数算出マップは、縦軸に第3の補正係数α3、横軸に走行車線曲率βfrontをとる。そして、走行車線曲率βfrontが予め設定した曲率閾値βfront1より小さい範囲ではα3=0となり、βfront≧βfront1の範囲では、走行車線曲率βfrontが大きいほど第3の補正係数α3が大きくなるように設定する。
【0067】
図10に示す第3の補正係数算出マップは、縦軸に第3の補正係数α3、横軸に走行車線曲率βfrontをとる。そして、走行車線曲率βfrontが予め設定した曲率閾値βfront1以上でα3=0となり、βfront<βfront1の範囲では、走行車線曲率βfrontが小さいほど第3の補正係数α3が大きくなるように設定する。
【0068】
次に、図11に示す第4の補正係数算出マップを参照し、第4の補正係数α4を算出する。この第4の補正係数算出マップは、縦軸に第4の補正係数α4、横軸に自車両の横速度Vxをとる。そして、横速度Vxが予め設定した横速度閾値Vx1以上でα4=0となり、Vx<Vx1の範囲では、横速度Vxが小さいほど第4の補正係数α4が大きくなるように設定する。
【0069】
なお、横速度Vxに代えて、横速度Vxの変化量に基づいて第4の補正係数α4を算出してもよい。この場合には、横速度Vxの変化量が小さいほど第4の補正係数α4が大きくなるように設定する。
そして、これら4つの補正係数α1,α2,α3,α4のセレクトハイで、制御配分比率α0を補正し、最終的な制御配分比率αとして設定する。ただし、このとき、補正後の制御配分比率αが、α<1となるよう上限を設ける。
α=α0・max(α1,α2,α3,α4) ………(17)
【0070】
すなわち、目標ヨーモーメントMsの絶対値がヨーモーメント閾値MsTHより小さい場合に、目標ヨーモーメントMsの絶対値が小さいほど減速制御の制御量が大きくなるように、制御配分比率αを設定する。
また、このとき、制御開始時のヨー角φfrontが大きいほど減速制御の制御量を小さくすると共に、ヨー角φfrontがヨー角閾値φfront1以上である場合には、減速制御を非作動とするようにする。また、制御開始時の車速Vが小さいほど減速制御の制御量を小さくすると共に、車速Vが車速閾値V1より小さい場合には、減速制御を非作動とするようにする。
【0071】
さらに、カーブのイン側では、走行車線曲率βfrontが小さいほど減速制御の制御量を小さくすると共に、走行車線曲率βfrontが曲率閾値βfront1より小さい場合には、減速制御を非作動とするようにする。また、カーブのアウト側では、走行車線曲率βfrontが大きいほど減速制御の制御量を小さくすると共に、走行車線曲率βfrontが曲率閾値βfront1以上である場合には、減速制御を非作動とするようにする。
また、制御開始時の横速度Vxが大きいほど減速制御の制御量を小さくすると共に、横速度Vxが横速度閾値Vx1以上である場合には、減速制御を非作動とするようにする。
【0072】
次に、左右輪のうちヨーモーメント発生方向とは反対側の2輪の制動力配分を考慮した目標ヨーモーメントMs_allを以下の式を用いて算出する。
Ms_all=Ms/(1−α) ………(18)
ステップS120では、制駆動力コントロールユニット8は、障害物回避のための目標ヨーレートMs及び自車両を減速するための制動力を発生させるための指令を算出し、これを出力した後、最初の処理に復帰する。
【0073】
ここで、本実施形態では、障害物回避のためのヨーレートMsを発生するための手段として、制駆動力を用いてヨーモーメントを発生する場合の例を、以下に説明する。
なお、ヨーレートを発生させる手段としてステアリング反力制御装置を用いる場合には、ステアリング反力FrstrはFrstr=K・Msとして反力を発生すればよい。
またヨーレートを発生させる手段としてステアリング制御装置を用いる場合には、ステアリング角STRθはSTRθ=K・Ms’として求めた結果をステアリングに付与すればよい。
【0074】
またヨーレートを発生させる手段としてはステアリング制御装置を用い、その操舵力(操舵トルク)をSTRtrg=K・Msとして求めて発生してもよい。
目標ヨーモーメントMsが0の場合、すなわちヨーモーメント制御を実施しない条件との判定結果を得た場合には、下記(19)式及び(20)式に示すように、制動液圧Pmf、Pmrを各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)とする。
Psfl=Psfr=Pmf ………(19)
Psrl=Psrr=Pmr ………(20)
【0075】
ここで、Pmfは前輪用の制動液圧である。また、Pmrは後輪用の制動液圧であり、前後配分を考慮して前輪用の制動液圧Pmfに基づいて算出した値になる。例えば、運転者がブレーキ操作をしていれば、制動液圧Pmf、Pmrはそのブレーキ操作の操作量(マスタシリンダ液圧Pm)に応じた値になる。
【0076】
一方、目標ヨーモーメントMsの絶対値が0より大きい場合、すなわち障害物回避制御を開始するとの判定結果を得た場合には、次のような処理を行う。
すなわち、目標ヨーモーメントMsに基づいて、前輪目標制動液圧差ΔPsf,ΔPsf2及び後輪目標制動液圧差ΔPsr,ΔPsr2を算出する。具体的には、下記(21)〜(24)式により目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsf2、ΔPsr、ΔPsr2を算出する。
ΔPsf=2・Kbf・(Ms_all・FRratio)/T ………(21)
ΔPsr=2・Kbr・(Ms_all・(1−FRratio))/T ………(22)
ΔPsf2=2・Kbf・(α・Ms_all・FRratio)/T ………(23)
ΔPsr2=2・Kbr・(α・Ms_all・(1−FRratio))/T ………(24)
【0077】
ここで、FRratioは設定用しきい値、Tはトレッド、Kbf及びKbrは制動力を制動液圧に換算する場合の前輪及び後輪についての換算係数である。
なお、上記トレッドTは、ここでは便宜上、前後同じ値として扱う。また、Kbf、Kbrは、ブレーキ諸元により定まる。
【0078】
このように、目標ヨーモーメントMsの大きさに応じて車輪で発生する制動力を配分する。つまり、各目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsf2、ΔPsr、ΔPsr2に所定値を与え、前後それぞれの左右輪で制動力差を発生すると共に、自車両を減速するための制動力を各輪に発生する。そして、算出した目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsf2、ΔPsr、ΔPsr2を用いて、最終的な各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
【0079】
具体的には、制御の実施方向Dout_obstがLEFTの場合、すなわち左側の障害物SMに対する障害物回避制御を実施する場合には、下記(25)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
Psfl=Pmf+ΔPsf2,
Psfr=Pmf+ΔPsf,
Psrl=Pmr+ΔPsr2,
Psrr=Pmr+ΔPsr ………(25)
【0080】
また、制御の実施方向Dout_obstがRIGHTの場合、すなわち右側の障害物SMに対する障害物回避制御を実施する場合、下記(26)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
Psfl=Pmf+ΔPsf,
Psfr=Pmf+ΔPsf2,
Psrl=Pmr+ΔPsr,
Psrr=Pmr+ΔPsr2 ………(26)
【0081】
上記(25)式及び(26)式によれば、障害物回避側の車輪の制動力が大きくなるように、左右輪の制駆動力差が発生することになる。
また、ここでは、(25)式及び(26)式が示すように、運転者によるブレーキ操作、すなわち制動液圧Pmf、Pmrを考慮して各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出している。
【0082】
そして、制駆動力コントロールユニット8は、このようにして算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を制動流体圧指令値として、制動流体圧制御部7に出力する。
【0083】
(動作)
次に、第1の実施形態の動作について説明する。
先ず、自車両の走行状態であるヨー角φ、ヨー角速度φm等に基づいて、前方注視時間Tt後の自車両の将来位置として自車両予測位置ΔXbを算出する(図3のステップS70)。このとき、ΔXb≧X2obst+X0であるものとすると、障害物回避のための支援制御を開始すると判定する(ステップS90)。つまり、隣接車両SMを検出しているときの自車両の将来位置である自車両予測位置ΔXbが、予め定めた車線幅方向横位置(X2obst+X0)に達したとき、制御開始と判定する。
【0084】
支援制御開始と判定すると、自車両予測位置ΔXbに基づいて、ヨー制御量としての目標ヨーモーメントMsを算出する(ステップS110)。ここで、自車両予測位置ΔXbが比較的大きい場合には、目標ヨーモーメントMsがヨーモーメント閾値MsTH以上となる。そのため、図6をもとに制御配分比率α0=0となるので、最終的な制御配分比率αも0となる(ステップS115)。
【0085】
したがって、この場合には、(23)式及び(24)式をもとに算出するΔPsf2及びΔPsr2がそれぞれ0となるため、目標ヨーモーメントMsのみを発生するように制駆動力を制御する(ステップS120)。つまり、自車両を減速する減速制御は行わない。これにより、隣接車両SMへの接近を防止する方向に自車両MMを制御する。
【0086】
一方、微小なレーンチェンジ等により、|Ms|<MsTHとなる目標ヨーモーメントMsを算出した場合には、制御配分比率α>0となる(ステップS115)。そして、逸脱方向Dout_strがLEFTである場合には、(25)式をもとに各輪の目標制動液圧Psiを算出し、これを制動流体圧制御部7に出力する(ステップS120)。
【0087】
これにより、図12に示すように、障害物回避制御による自車両の制御方向(ヨーモーメント発生方向)である右輪には、自車両にヨーモーメントMsを付与するための制動力P1(前輪はP1f、後輪はP1r)と、自車両を減速するための制動力P2(前輪はP2f、後輪はP2r)との和が発生する。そして、左輪には、自車両を減速するための制動力P2(前輪はP2f、後輪はP2r)のみが発生する。このようにして、ヨーモーメント発生方向の車輪に制動力を発生するヨー制御と、左右輪で均等に制動力を発生して自車両を減速する減速制御とを行う。
【0088】
ところで、本実施形態のような減速制御を重畳しない従来方式の場合、図13に示すように、|Ms|<MsTHの場合でも、ヨーモーメント発生方向である右輪のみに目標ヨーモーメントMsを自車両に付与するための制動力P1(前輪はP1f、後輪はP1r)のみが発生する。ところが、この場合、目標ヨーモーメントMsを付与することで自車両を障害物回避方向に制御するものの、当該目標ヨーモーメントMsが小さいために、運転者は回頭感を認識し難く、制御開始の報知効果が十分に得られない。
【0089】
また、報知効果を得るために、目標ヨーモーメントMsを増加補正すると、運転者に制御感を与えることはできるが、車両が回頭しすぎてしまい(ヨーが出すぎてしまい)適切な障害物回避制御を行うことができない。
これに対して、本実施形態では、自車両に付与するヨーモーメントは障害物回避に必要なヨーモーメントのままで(ヨーモーメントは小さいままで)、自車両を減速することで運転者に減速感を与える。すなわち、運転者に回頭感を与えられなくても、その分減速感を与えることで、適切に制御感を与えることができる。また、ヨーモーメントは変更しないため、適切な障害物回避制御を行うことができる。
【0090】
また、本実施形態では、制御開始と判定したときのヨー角φfrontや車速V、走行車線曲率βfront、横速度Vxに応じて制御配分比率αを設定することで、減速制御の制御量の大きさを調整する。これにより、より適切な制御感を運転者に与えることができる。
なお、図1において、レーダー装置24L/Rが側方障害物検出手段を構成している。また、撮像部13がヨー角検出手段、曲率検出手段、車線区分線検出手段および横速度検出手段を構成し、車輪速度センサ22FL〜22RRが車速検出手段を構成している。
【0091】
また、図3のステップS70が将来位置予測手段を構成し、ステップS80〜S120が車両制御手段を構成している。
【0092】
(効果)
(1)将来位置予測手段は、設定時間後の自車両の将来位置を予測する。車両制御手段は、将来位置予測手段で予測した自車両の将来位置が、予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にある場合に、自車両に自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを付与すると共に、自車両に減速加速度を付与する。また、車両制御手段は、車両制御手段は、自車両の将来位置が制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にあるほど大きなヨーモーメントを自車両に付与すると共に、前記ヨーモーメントが小さいほど前記減速加速度を大きくする。
【0093】
このように、自車両に付与するヨーモーメント(ヨー制御量)が比較的小さい場合には、自車両に付与するヨーモーメントはそのままで、自車両を減速する減速制御を行うことで、運転者に減速感を与える。そのため、運転者に適切な制御感を与えることができると共に、適切な運転支援制御を行うことができる。
【0094】
(2)車両制御手段は、前記ヨーモーメントが予め設定したヨーモーメント閾値より小さいとき、自車両に減速加速度を付与する。
ヨー制御量が小さいほど、運転者は回頭感を認識し難い。したがって、ヨー制御量が小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与することで、運転者に与える減速感を大きくして、運転者に制御感を与えることができる。
【0095】
(3)車両制御手段は、制動力を左右輪に対して均等に付与することによって、前記減速加速度を自車両に付与する。
このように、ヨーモーメント制御に減速制御を重畳するので、自車両に付与するヨーモーメントの大きさを変えずに、運転者に減速感を与えることができる。
【0096】
(4)ヨー角検出手段は、自車両のヨー角を検出する。車両制御手段は、ヨー角検出手段で検出したヨー角が小さいほど、自車両に大きな減速加速度を付与する。
ヨー角が比較的小さい場合には、次の制御サイクルでもヨー制御量が比較的小さくなり、運転者は制御感を認識し難い。そのため、ヨー角が小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与することで、運転者に確実に制御感を与えることができる。
一方、ヨー角が比較的大きい場合には、運転者が意図的に車線変更等を行っている可能性が高いため、減速制御を抑制することで運転者に与える制御感を抑制し、運転者の違和感を低減することができる。
【0097】
(5)車速検出手段は自車速を検出する。車両制御手段は、車速検出手段で検出した自車速が大きいほど、自車両に大きな減速加速度を付与する。
同じヨーモーメントを付与した場合、車速が大きいほど車両は過敏に反応し、ヨーが出すぎる傾向がある。そのため、車速が大きいほど自車両に大きな減速加速度を付与することで、余分な回頭感を出すことなく、適切な制御感を運転者に与えることができる。
【0098】
(6)曲率検出手段は自車走行車線の曲率を検出する。車両制御手段は、自車両の将来位置が制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ内側に位置するとき、曲率検出手段で検出した曲率が大きいほど自車両に付与するヨーモーメントを減少する補正を行う。さらに、車両制御手段は、自車両の将来位置が制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ内側に位置するとき、曲率検出手段で検出した曲率が大きいほど自車両に大きな減速加速度を付与する。
【0099】
このように、カーブのイン側でヨー制御量を減少補正することで、自車両予測位置ΔXbに応じたヨーモーメントをそのまま自車両に付与してヨーが出すぎてしまうのを抑制することができる。
また、ヨー制御量を減少補正して回頭感が減った分、減速制御により運転者に減速感を与えることができる。
【0100】
(7)曲率検出手段は自車走行車線の曲率を検出する。車両制御手段は、自車両の将来位置が制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ外側に位置するとき、曲率検出手段で検出した曲率が大きいほど自車両に付与する前記ヨーモーメントを増加する補正を行う。さらに、車両制御手段は、自車両の将来位置が制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ外側に位置するとき、曲率検出手段で検出した曲率が小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与する。
【0101】
このように、カーブのアウト側でヨー制御量を増加補正することで、自車両予測位置ΔXbに応じたヨーモーメントをそのまま自車両に付与して制御不足となるのを抑制することができる。
また、ヨー制御量を増加補正する分、減速制御を抑制することにより運転者に余分な制御感を与えるのを抑制することができる。
【0102】
(8)横速度検出手段は自車両の車線幅方向の速度を検出する。車両制御手段は、横速度検出手段で検出した車線幅方向の速度が小さいほど、自車両に大きな減速加速度を付与する。
横速度が比較的小さい場合には、次の制御サイクルでもヨー制御量が比較的小さくなり、運転者は制御感を認識し難い。そのため、横速度が小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与することで、運転者に確実に制御感を与えることができる。
【0103】
一方、横速度が比較的大きい場合には、運転者が意図的に車線変更等を行っている可能性が高いため、減速制御を抑制することで運転者に与える制御感を抑制し、運転者の違和感を低減することができる。
【0104】
(9)側方障害物検出手段は、自車両の側方に存在する障害物を検出する。車両制御手段は、側方障害物検出手段で障害物を検出している状態で、自車両の将来位置が制御開始位置よりも障害物側に位置すると判定すると、側方障害物検出手段で検出した障害物を回避する方向のヨーモーメントを自車両に付与して自車両を制御する。
これにより、自車両の側方障害物への接近を防止する障害物回避制御において、運転者に適切な制御感を与えることができる。
【0105】
(10)設定時間後の自車両の将来位置を予測し、予測した自車両の将来位置が、予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にある場合に、自車両に自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを付与すると共に、自車両に減速加速度を付与する。その際、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にあるほど大きな前記ヨーモーメントを自車両に付与すると共に、前記ヨーモーメントが小さいほど前記減速加速度を大きくする。
これにより、自車両に過剰なヨーモーメントを付与することなく安定した運転支援制御を行うことができると共に、適切な制御感を与えることができると共に、
【0106】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態は、前述した第1の実施形態において、左右輪に均等に自車両を減速するための制動力を付与することで自車両を減速しているのに対し、ヨーモーメントを発生するための制動力の後輪側配分を大きくすることで自車両を減速するようにしたものである。
【0107】
(構成)
第2の実施形態の基本構成は、前述した第1の実施形態と同様である。
第2の実施形態における制駆動力コントロールユニット8で実行する障害物回避制御処理は、図3のステップS120の処理が異なることを除いては、第1の実施形態における障害物回避制御処理と同様である。したがって、ここでは処理の異なる部分を中心に説明する。
ステップS120では、制駆動力コントロールユニット8は、障害物回避のための目標ヨーレートMsを発生させるための指令を算出し、これを出力した後、最初の処理に復帰する。
【0108】
ここで、本実施形態では、前述した第1の実施形態と同様に、障害物回避のためのヨーレートMsを発生するための手段として、制駆動力を用いてヨーモーメントを発生する。
目標ヨーモーメントMsが0の場合、すなわちヨーモーメント制御を実施しない条件との判定結果を得た場合には、第1の実施形態と同様に、上記(19)式及び(20)式に示すように、制動液圧Pmf、Pmrを各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)とする。
【0109】
一方、目標ヨーモーメントMsの絶対値が0より大きい場合、すなわち障害物回避制御を開始するとの判定結果を得た場合には、次のような処理を行う。
すなわち、目標ヨーモーメントMsに基づいて、前輪目標制動液圧差ΔPsf及び後輪目標制動液圧差ΔPsrを算出する。具体的には、下記(27)及び(28)式により目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsrを算出する。
【0110】
ΔPsf=2・Kbf・((1−α)Ms・FRratio)/T ………(27)
ΔPsr=2・Kbr・(Ms・(1−FRratio))/T
+2・Kbf・(α・Ms・FRratio)/T ………(28)
【0111】
このように、目標ヨーモーメントMsの大きさに応じて車輪で発生する制動力を配分する。つまり、各目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsrに所定値を与え、前後それぞれの左右輪で制動力差を発生する。このとき、前後輪の制動力配分を制御配分比率αによって設定し、自車両を減速する。そして、算出した目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsrを用いて、最終的な各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
【0112】
具体的には、制御の実施方向Dout_obstがLEFTの場合、すなわち左側の障害物SMに対する障害物回避制御を実施する場合には、下記(29)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
Psfl=Pmf,
Psfr=Pmf+ΔPsf,
Psrl=Pmr,
Psrr=Pmr+ΔPsr ………(29)
【0113】
また、制御の実施方向Dout_obstがRIGHTの場合、すなわち右側の障害物SMに対する障害物回避制御を実施する場合、下記(30)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
Psfl=Pmf+ΔPsf,
Psfr=Pmf,
Psrl=Pmr+ΔPsr,
Psrr=Pmr ………(30)
上記(29)式及び(30)式によれば、障害物回避側の車輪の制動力が大きくなるように、左右輪の制駆動力差が発生することになる。
【0114】
また、ここでは、(29)式及び(30)式が示すように、運転者によるブレーキ操作、すなわち制動液圧Pmf、Pmrを考慮して各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出している。
そして、制駆動力コントロールユニット8は、このようにして算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を制動流体圧指令値として、制動流体圧制御部7に出力する。
【0115】
(動作)
次に、第2の実施形態の動作について説明する。
今、自車両の将来の横位置が制御開始位置よりも自車走行車線の中央側からみて大きく外側にずれており、|Ms|≧MsTHとなる比較的大きな目標ヨーモーメントMsを算出しているものとする。この場合、制御配分比率α0=0となるので、最終的な制御配分比率αも0となる(ステップS115)。
【0116】
そして、逸脱方向Dout_strがLEFTである場合には、(29)式をもとに各輪の目標制動液圧Psiを算出し、これを制動流体圧制御部7に出力する(ステップS120)。すなわち、右輪のみにヨーモーメントを発生するための制動力を付与する。このとき、α=0であるため、前輪には目標ヨーモーメントMsを付与するための通常の制動力P1fが発生し、後輪には目標ヨーモーメントMsを付与するための通常の制動力P1rが発生する。
【0117】
一方、|Ms|<MsTHである場合には、制御配分比率α>0となる(ステップS115)。そして、(27)式及び(28)式をもとに算出したΔPsf及びΔPsrに応じて、(29)式をもとに各輪の目標制動液圧Psiを算出し、これを制動流体圧制御部7に出力する(ステップS120)。
これにより、図14に示すように、右輪のみにヨーモーメントを発生するための制動力を付与する。このとき、後輪には目標ヨーモーメントMsを付与するための通常の制動力P1rと、前輪に付与する通常の制動力の一部であるP3との和が発生する。そして、前輪には、通常の制動力P1fから後輪に配分した制動力P3を差し引いた(P1f−P3)が発生する。
【0118】
このように、目標ヨーモーメントの絶対値|Ms|がヨーモーメント閾値より小さい場合には、目標ヨーモーメントMsを発生するための制動力の後輪側配分を大きくする。そのため、運転者に減速感を与えることができる。また、自車両に付与するヨーモーメントは変更しないため、適切な障害物回避制御を行うことができる。
【0119】
(効果)
(11)車両制御手段は、車両左側および右側の何れかの前後輪に制動力を付与してヨーモーメントを発生するものであって、車両左側および右側の何れかの前後輪のうち、前輪よりも後輪に対してヨーモーメントを発生するための制動力を大きく配分する。
このように、後輪側の制動力配分を大きくすることで、自車両に付与するヨーモーメントの大きさを変えずに、運転者に減速感を与えることができる。
【0120】
(変形例)
(1)上記各実施形態においては、支援制御として、側方障害物との接触を回避する障害物回避制御を適用する場合について説明したが、側方障害物の有無にかかわらず、車線を対象として自車両を制御する車線逸脱防止制御にも適用可能である。
すなわち、車線区分線検出手段で自車走行車線の車線区分線を検出する。そして、車両制御手段は、自車両の将来位置が、車線区分線検出手段で検出した車線区分線の位置を基準として設定した制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側に位置すると判定すると、自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを自車両に付与して自車両を制御する。
【0121】
この場合、制駆動力コントロールユニット8は、図3のステップS20で車速Vを算出した後、ステップS30の処理を行わずにステップS40に移行する点を除いては、上述した各実施形態と同様の処理を行う。このとき、車線逸脱防止制御を開始するための判定閾値として障害物距離X2obstを用い、仮想障害物が存在する位置を白線の内側の所定距離の位置とする。
これにより、運転者に適切な制御感を与えつつ、安定した車線逸脱制御を行うことができる。
【0122】
(2)上記各実施形態においては、図6に示すように、目標ヨーモーメントの絶対値|Ms|がヨーモーメント閾値MsTH以上であるときに減速制御を非作動とする(α=0とする)場合について説明したが、例えば、図15に示すように、ヨーモーメント閾値MsTHを設けずに、目標ヨーモーメントの絶対値|Ms|が小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与する(αを大きくする)ようにしてもよい。
【0123】
(3)上記各実施形態においては、図7において、ヨー角閾値φfront1を設けずに、ヨー角φfrontが小さいほど補正係数α1を大きくすることもできる。同様に、図8〜図11において、車速Vが大きいほど補正係数α2を大きくしたり、イン側で曲率βfrontが大きいほど補正係数α3を大きくしたり、アウト側で曲率βfrontが小さいほど補正係数α3を大きくしたり、横速度Vxが小さいほど補正係数α4を大きくしたりすることもできる。
【0124】
(4)上記第1の実施形態においては、前後の左右輪に対して均等に自車両を減速するための制動力を付与する場合について説明したが、例えば、後側左右輪のみに自車両を減速するための制動力を付与するようにしてもよい。この場合にも、自車両を減速し運転者に減速感を与えることができる。
【符号の説明】
【0125】
1 ブレーキペダル
3 マスタシリンダ
6FL〜6RR ホイールシリンダ
7 制動流体圧制御部
8 制駆動力コントロールユニット
8A 将来位置予測手段
8B ヨー制御量算出手段
8C 減速制御手段
13 撮像部
21 ステアリングホイール
24L/R レーダー装置
30 流体圧回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の横位置が設定した車線幅方向横位置に達すると、自車両を車線中央方向へ制御することで運転者の運転を支援する車両運転支援装置及び車両運転支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両運転支援装置として、例えば特許文献1に記載の技術がある。この技術では、障害物と自車両との距離を検出し、検出した距離に応じて障害物に対するリスクポテンシャルを算出する。そして、当該リスクポテンシャルに基づいて操舵反力を発生することにより、自車両の障害物への接近を運転者に報知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−125933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自車両の障害物への接近を防止する方法として、リスクポテンシャルに基づいて自車両の障害物への接近を防止する方向のヨーモーメントを自車両に付与するものがある。しかしながら、この場合、リスクポテンシャルが比較的低い場合には自車両に付与するヨーモーメントが小さいため、運転者に対する報知効果を十分に得られない。
また、十分な報知効果を得るために自車両に付与するヨーモーメントを大きくすると、車両が回頭しすぎてしまい、運転者に違和感を与える。
【0005】
そこで、本発明は、運転者に違和感のない制御感を与えつつ、支援制御を適切に行うことができる車両運転支援装置及び車両運転支援方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、設定時間後の自車両の将来位置を予測し、予測した自車両の将来位置が、予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にある場合に、自車両に自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを付与すると共に、自車両に減速加速度を付与する。その際、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にあるほど大きな前記ヨーモーメントを自車両に付与すると共に、前記ヨーモーメントが小さいほど前記減速加速度を大きくする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、自車両に付与するヨーモーメントが比較的小さい場合には、自車両に付与するヨーモーメントはそのままで、自車両を減速する減速制御を行う。そのため、運転者に適切な制御感を与えることができると共に、過剰なヨー制御を抑制して安定した運転支援制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る装置の概要構成図である。
【図2】コントロールユニットの構成を説明する図である。
【図3】コントロールユニットの処理手順を示すフローチャートである。
【図4】自車両と障害物との関係を示す概念図である。
【図5】ゲインK2recvの特性を示す図である。
【図6】制御配分比率算出マップである。
【図7】第1の補正係数算出マップである。
【図8】第2の補正係数算出マップである。
【図9】第3の補正係数算出マップ(イン側)である。
【図10】第3の補正係数算出マップ(アウト側)である。
【図11】第4の補正係数算出マップである。
【図12】第1の実施形態における支援制御を説明する図である。
【図13】従来方式の支援制御を説明する図である。
【図14】第2の実施形態における支援制御を説明する図である。
【図15】制御配分比率算出マップの別の例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、後輪駆動車両に対し、車両運転支援装置を搭載する場合について説明する。なお、対象とする車両として、前輪駆動車両や四輪駆動車両を適用することもできる。
【0010】
(第1の実施の形態)
(構成)
図1は、本実施形態に係る装置の概要構成図である。
ブレーキペダル1は、ブースタ2を介してマスタシリンダ3に連結する。また、図中符号4はリザーバである。
マスタシリンダ3は、流体圧回路30を介して各輪の各ホイールシリンダ6FL〜6RRに連結する。これにより、制動制御が作動しない状態では、運転者によるブレーキペダル1の踏込み量に応じて、マスタシリンダ3で制動流体圧を昇圧する。その昇圧した制動流体圧を、流体圧回路30を通じて、各車輪5FL〜5RRの各ホイールシリンダ6FL〜6RRに供給する。
【0011】
制動流体圧制御部7は、流体圧回路30中のアクチュエータを制御して、各輪への制動流体圧を個別に制御する。そして、各輪への制動流体圧を、制駆動力コントロールユニット8からの指令値に応じた値に制御する。アクチュエータとしては、各ホイールシリンダ液圧を任意の制動液圧に制御可能な比例ソレノイド弁がある。
ここで、制動流体圧制御部7及び流体圧回路30は、例えばアンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TCS)又はビークルダイナミックスコントロール装置(VDC)で使用する制動流体圧制御部を利用すればよい。制動流体圧制御部7は、単独で各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を制御する構成とすることもできる。そして、後述する制駆動力コントロールユニット8から制動流体圧指令値を入力した場合には、その制動流体圧指令値に応じて各制動流体圧を制御する。
【0012】
また、この車両には、駆動トルクコントロールユニット12を設ける。
駆動トルクコントロールユニット12は、駆動輪である後輪5RL、5RRへの駆動トルクを制御する。この制御は、エンジン9の運転状態、自動変速機10の選択変速比、及びスロットルバルブ11のスロットル開度を制御することで実現する。すなわち、駆動トルクコントロールユニット12は、燃料噴射量や点火時期を制御する。また同時に、スロットル開度を制御する。これにより、エンジン9の運転状態を制御する。
【0013】
また、駆動トルクコントロールユニット12は、制御の際の情報である駆動トルクTwの値を、制駆動力コントロールユニット8に出力する。
なお、この駆動トルクコントロールユニット12は、単独で後輪5RL、5RRの駆動トルクを制御することも可能である。ただし、制駆動力コントロールユニット8から駆動トルク指令値を入力したときには、その駆動トルク指令値に応じて駆動輪トルクを制御する。
【0014】
またこの車両前部には、画像処理機能付きの撮像部13を備える。撮像部13は、走行車線内の自車両の位置を検出するために使用する。この撮像部13は、例えばCCD(Charge Coupled Device)カメラからなる単眼カメラで構成する。
撮像部13は、自車両前方を撮像する。そして、撮像部13は、撮像した自車両前方の撮像画像について画像処理を行い、白線(レーンマーカ)等の車線区分線を検出し、検出した白線に基づいて、走行車線を検出する。
【0015】
さらに、撮像部13は、その検出した走行車線に基づいて、自車両の走行車線と自車両の前後方向軸とのなす角(ヨー角)φfront、走行車線に対する横変位Xfront、及び走行車線曲率β等を算出する。撮像部13は、算出したヨー角φfront、横変位Xfront、及び走行車線曲率β等を、制駆動力コントロールユニット8に出力する。
また、撮像部13は、横変位Xfrontの変化量から自車両の横速度(車線幅方向の速度)Vxを算出し、これを制駆動力コントロールユニット8に出力する。
【0016】
ここで、撮像部13は、走行車線を区分する白線(レーンマーカー)を検出して、その検出した白線に基づき、ヨー角φfrontを算出している。このため、ヨー角φfrontは、撮像部13の白線の検出精度に大きく影響する。
なお、走行車線曲率βfrontを、後述のステアリングホイール21の操舵角δに基づいて算出することもできる。
【0017】
また、この車両には、レーダー装置24L/Rを備える。レーダー装置24L/Rは、それぞれ自車両左右の側方障害物を検出する為のセンサである。このレーダー装置24L/Rは、少なくとも自車両側方の所定の死角エリア(範囲)に電磁波を出射し、出射した電磁波に対する反射波を検出することによって、所定の死角エリア(範囲)存在する障害物の存在可否の検出ができる例えばミリ波レーダーであり、以下では単にミリ波レーダーとも記載する。このレーダー装置24L/Rは望ましくは、障害物の自車両に対する相対横位置POSXobst、相対縦位置DISTobst、相対縦速度dDISTobstの検出を左右それぞれ検出できるものとする。なおここで、本明細書実施例中における横方向とは車線幅方向を意味し、縦方向とは車線延在方向を意味する。
【0018】
また、この車両は、マスタシリンダ圧センサ17、アクセル開度センサ18、操舵角センサ19、方向指示スイッチ20、車輪速度センサ22FL〜22RRを備える。
マスタシリンダ圧センサ17は、マスタシリンダ3の出力圧、すなわちマスタシリンダ液圧Pmを検出する。アクセル開度センサ18は、アクセルペダルの踏込み量、すなわちアクセル開度θtを検出する。操舵角センサ19は、ステアリングホイール21の操舵角(ステアリング舵角)δを検出する。方向指示スイッチ20は、方向指示器による方向指示操作を検出する。車輪速度センサ22FL〜22RRは、各車輪5FL〜5RRの回転速度、所謂車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を検出する。そして、これらセンサ等は、検出した検出信号を、制駆動力コントロールユニット8に出力する。
【0019】
図2は、制駆動力コントロールユニット8の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、制駆動力コントロールユニット8は、将来位置予測手段8A、ヨー制御量算出手段8B、減速制御手段8Cを備える。
将来位置予測手段8Aは、操作入力検出手段で検出した運転者の操舵入力に基づいて、予め設定してある所定時間である前方注視時間Tt後の自車両の将来位置を予測する。
【0020】
ヨー制御量算出手段8Bは、障害物検出手段で自車両側方の障害物を検出していると判定している場合に、自車両の将来位置(将来の横位置)が、障害物に近い側の車線区分線を基準とした障害物距離X2obstの横位置(予め設定した車線幅方向横位置)に到達、若しくは障害物距離X2obstよりも障害物側の横位置に位置することで、制御開始を判定する。障害物距離X2obstの横位置よりも障害物側とは、自車線中央側からみて障害物距離X2obstの横位置よりも外側を意味する。
【0021】
そして、制御開始と判定した場合には、自車両の将来の横位置と上記予め設定した車線幅方向横位置との差が大きいほど、自車両に付与するヨーモーメントMs(ヨー制御量)を大きく算出する。ここで、上記ヨーモーメントMsは、障害物への接近を防止する方向(即ち車線中央方向)のヨーモーメントである。
減速制御手段8Cは、ヨー制御量算出手段8Bで算出したヨーモーメントMsが予め設定したヨーモーメント閾値より小さいとき、ヨーモーメントMsが小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与する減速制御を行う。
【0022】
すなわち、制駆動力コントロールユニット8は、ヨーモーメントMsに基づいて、減速制御の制御配分を考慮した目標ヨーモーメントMs_allを算出し、その目標ヨーモーメントMs_allに応じた制動力を各輪に付与する。
図3は、制駆動力コントロールユニット8で実行する障害物回避制御処理手順を示すフローチャートである。
【0023】
この障害物回避制御処理は、所定サンプリング時間(制御サイクル)ΔT毎(例えば、10msec毎)にタイマ割込によって実行する。なお、この図3に示す処理内には通信処理を設けていないが、演算処理によって取得した情報は、随時記憶装置に更新記憶すると共に、必要な情報を随時記憶装置から読み出す。
先ずステップS10で、制駆動力コントロールユニット8は、上記各センサやコントローラ、コントロールユニットから各種データを読み込む。具体的には、各センサが検出した、各車輪速度Vwi、操舵角δ、マスタシリンダ液圧Pm及び方向スイッチ信号を取得する。
【0024】
次にステップS20で、制駆動力コントロールユニット8は、車速Vを算出する。すなわち、車速Vを、下記式のように車輪速度Vwiに基づいて算出する。
V=(Vwrl+Vwrr)/2 (:前輪駆動の場合),
V=(Vwfl+Vwfr)/2 (:後輪駆動の場合) ………(1)
ここで、Vwfl、Vwfrは左右前輪それぞれの車輪速度である。Vwrl、Vwrrは左右後輪それぞれの車輪速度である。すなわち、上記(1)式では、車速Vを、従動輪の車輪速の平均値として算出している。なお、本実施形態では、後輪駆動の車両であるので、後者の式、すなわち前輪の車輪速度により車速Vを算出する。
【0025】
また、ABS(Anti−lock Brake System)制御などの別の自動制動制御装置が作動している場合には、その別の制動制御装置で推定している推定車体速度を取得して、上記車速Vとして用いる。
ステップS30では、制駆動力コントロールユニット8は、左右の各レーダー装置24L/Rからの信号に基づき、自車両MMの左右側方について、障害物SMの存在Lobst・Robstの有無を取得する。なお、より検出精度の高いセンサを使用する場合には、自車両MMに対する側方障害物SMの相対位置および相対速度も取得する。ここで、図4に示すように、自車両MM側方とは、自車両MMに対して斜め後方位置も含む。
【0026】
図4に示す障害物検出範囲は、自車両MMの側方における、所定の縦・横位置となるように設定する。また、縦位置については、障害物SMが自車両MMに対して接近する相対速度が大きいほど、障害物検出範囲が広くなるように設定してもよい。
次に、ステップS40では、制駆動力コントロールユニット8は、撮像部13から、現在走行している走行路における自車両MMの横変位(横位置)Xfront、及び走行車線の曲率βfrontを読み込む。
【0027】
ただし、走行車線の曲率βfrontの取得は、撮像部13に限定しない。例えば、ナビゲーションシステムの自車位置において記録している曲率情報などによって取得してもよい。
また、現在走行している走行路に対する自車両MMのヨー角φfrontを算出する。このヨー角φfrontは、レーン内の走行状況を検出するために使用する。
【0028】
本実施形態では、このヨー角φfrontは、撮像部13による実測値を使用する。
なお、撮像部13による実測値を用いる代わりに、撮像部13が撮像した近傍の白線に基づいて、ヨー角φfrontを算出してもよい。この場合には、例えば、自車両MMの横変位Xfrontの変化量を用いて、下記(2)式によりヨー角φfrontを算出する。
φfront=tan-1(dX′/V(=dX/dY)) ………(2)
【0029】
ここで、dXは横変位Xfrontの単位時間当たりの変化量、dYは単位時間当たりの進行方向の変化量、dX´は上記変化量dXの微分値である。
なお、近傍の白線に基づいてヨー角φfrontを算出する場合、上記(2)式のように、横変位Xfrontを用いてヨー角φfrontを算出することに限定しない。例えば、近傍で検出した白線を遠方に延長し、その延長した白線に基づいて、ヨー角φfrontを算出してもよい。
【0030】
ステップS50では、制駆動力コントロールユニット8は、下記(3)式をもとに、中立ヨーレートφ’pathを算出する。中立ヨーレートφ’pathは、自車両MMが走行路に沿った走行を維持するために必要なヨーレートである。中立ヨーレートφ’pathは、直進路を走行中はゼロとなる。しかし、カーブ路ではその曲率βfrontによって、中立ヨーレートφ’pathが変化する。したがって、この中立ヨーレートφ’pathを算出する際に、上記走行車線の曲率βfrontを用いる。
φ’path=βfront・V ………(3)
【0031】
ここで、この走行経路を維持するための中立ヨーレートφ’pathは、所定期間のヨーレートφ’の平均値φ’aveを用いたり、あるいは時定数の大きいフィルタをヨーレートφ’にかけたりした値を、簡易的に算出しても良い。
【0032】
ステップS60では、制駆動力コントロールユニット8は、前方注視時間Ttを設定する。すなわち、下記式のように、予め設定してある前方注視時間Tt0を、前方注視時間Ttとして設定する。
Tt ← Tt0
前方注視時間Tt0は、運転者の将来の障害物SMとの接近状況を予測するための閾値を決定づけるための予め設定された所定の時間である。例えば、前方注視時間Tt0を1秒に設定しておく。
【0033】
次に、目標ヨーレートΨdriver及びΨdriverhoseiを算出する。
目標ヨーレートΨdriverは、下記式のように、操舵角δと車速度Vから算出する。この目標ヨーレートΨdriverは、操舵に応じて発生させる目標のヨーレートである。
Ψdriver = Kv・δ・V ………(4)
ここで、Kvはゲインである。
【0034】
さらに、目標ヨーレートΨdriverhoseiを、下記式によって算出する。この目標ヨーレートΨdriverhoseiは、目標ヨーレートΨdriverから、走行路を走行するために必要となるヨーレートφ’pathを除いた値である。これによって、カーブ路を走行するために行う操舵による影響を除去する。
Ψdriverhosei= Ψdriver − φ’path ………(5)
【0035】
次に、ステップS70では、制駆動力コントロールユニット8は、下記(6)式をもとに、現在の走行路位置に対する横方向の自車両予測位置ΔXbを算出する。この自車両予測位置ΔXbは、走行路を離脱して車線変更を行うか否かの判定にも使用する。すなわち、自車両予測位置ΔXbは、障害物SMに対する回避制御を開始するかどうかの判定に用いる。
ΔXb =(K1φ+K2φm+K3φm’) ………(6)
ここで、
φ :ヨー角,
φm :目標ヨー角速度,
φm’:目標ヨー角加速度
である。
【0036】
また、上記目標ヨー角速度φmは、下記式となる。
φm = Ψdriverhosei・Tt ………(7)
さらに、目標ヨー角加速度φm’は、下記式となる。
φm’= φm・Tt2 ………(8)
ここで、自車両予測位置ΔXbを、ヨー角の次元とするために、前方注視距離Lを用いると、下式で表すことができる。
ΔXb = L・(k1φ+k2φm・T+k3φm’・Tt2) ………(9)
ここで、前方注視距離Lと前方注視時間Ttとは、下記式の関係にある。
前方注視距離L=前方注視時間Tt・車速V ………(10)
【0037】
こうした特性をふまえると、設定ゲインK1は車速を関数とした値となる。また、設定ゲインK2は、車速と前方注視時間を関数とした値となる。設定ゲインK3は、車速と、前方注視時間の2乗を関数とした値となる。
なお、自車両MMの予測位置を、下記式のように、操舵角成分と操舵速度成分を個別に求めてセレクトハイをして算出しても良い。
ΔXb = max(K2φm,K3∫φm’) ………(11)
【0038】
次に、ステップS80では、制駆動力コントロールユニット8は、制御開始のための判定閾値を設定する。この判定閾値は、側方障害物SMに対する回避制御を開始するかどうかの判定閾値であり、上述した制御開始位置(予め設定した車線幅方向横位置)に相当する。
【0039】
本実施形態では、図4に示す障害物距離X2obstを、上記判定閾値とする。障害物距離X2obstは、仮想的に障害物SMが存在するものとして設定するものであり、白線の位置からの横方向距離として設定する。すなわち、車線区分線から横方向に障害物距離X2obst変位した位置に、障害物SMが存在するものとして処理することとなる。
ここでは、走行路に沿った方向(縦方向)にY軸をとり、走行路と垂直方向つまり車線幅方向(横方向)にX軸を取ったX−Y座標系を使用する。そして、X軸座標上で障害物距離X2obstを設定する。なお、障害物距離X2obstは、仮想障害物が存在する位置を白線位置とした場合に0となり、白線の外側とした場合に正値、白線の内側とした場合に負値となるものとする。
【0040】
本実施形態では、仮想障害物が存在する位置を、白線の外側の所定距離の位置とする。
なお、制御開始のための判定閾値として、障害物距離X2obstに代えて、自車両MMと障害物SMとの横方向相対距離ΔOを用いることもできる(図4)。この横方向相対距離ΔOは、レーダー装置24L/Rにより検出する。
【0041】
また、制御開始のための判定閾値として、既定の閾値Xthreshを用いることもできる。この閾値Xthreshは、自車両の将来位置が現在の自車両位置からどのくらい離れているかを予め設定した値である。
ステップS90では、制駆動力コントロールユニット8は、制御開始の判定を実施する。
ここでは、下記式を満足する場合に制御開始と判定する。
ΔX2=ΔXb−X0 ≧ X2obst ………(12)
【0042】
すなわち、図4に示すように、白線と自車両MMの将来予測位置との横方向距離ΔX2が、障害物距離X2obst以上となったか否かを判定する。言い換えると、側方障害物を検出している状態で、自車両の将来位置が制御開始位置に達したか否かを判定する。
【0043】
そして、上記条件を満足した場合に、障害物SM側への車線変更操作等があったとして、障害物SMに対する制御開始と判定する。障害物SMに対する制御開始と判定した場合には、障害物回避制御判断フラグFout_obstをONに設定する。一方、上記条件を満足しない場合には、障害物回避制御判断フラグFout_obstをOFFに設定する。
【0044】
なお、制御開始のための判定閾値として、自車両MMと障害物SMとの横方向相対距離ΔOを用いる場合には、下記式を満足する場合に制御開始と判定する。
ΔXb ≧ ΔO ………(13)
さらに、制御開始のための判定閾値として、既定の閾値Xthreshを用いる場合には、下記式を満足する場合に制御開始と判定する。
ΔXb ≧ Xthresh ………(14)
【0045】
この自車両予測位置ΔXbは、実施には、車両の左側及び右側のそれぞれについてΔXbL /ΔXbRとして求めて、個別に判定を行う。
また、制御対象とする障害物SMは、自車両MMの後側方向の車両だけでなく、隣接車線前方の対向車両も含めるようにしてもよい。
【0046】
ここで、将来予測位置ΔXbが判定閾値未満か判定する場合に、ΔX2<X2obst−FのようにしてF分のヒスをもたせてもよい。すなわち、不感帯を設定してもよい。すなわち、制御介入閾値と制御終了閾値との間に不感帯を設けても良い。
【0047】
また、Fout_obstをONに設定可能なのは、Fout_obstがOFFとなっている場合とする。また、Fout_obstをONに設定可能とする条件として、Fout_obstをOFFと設定した後所定時間経過した後とするなど、時間的な条件を加えてもよい。また、Fout_obstをONと判定してから所定時間Tcontrolが経過したら、Fout_obst=OFFとし制御を終了してもよい。
【0048】
さらに、障害物回避制御の実施中においては、将来予測位置の判定方向によって、制御の実施方向Dout_obstを判定する。将来予測位置が左になった場合には、Dout_obst=LEFTとし、右になった場合にはDout_obst=RIGHTとする。
【0049】
ここで、アンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TCS)又はビークルダイナミックスコントロール装置(VDC)などの車両挙動安定化制御が作動している場合には、障害物回避制御判断フラグFout_obstをOFFに設定する。これは、車両挙動安定化制御の作動中は、障害物回避制御を作動させないようにするためである。
なお、こうした判定方法は、障害物SM方向へのヨー角φ、操舵角δ、操舵速度δ’それぞれに対して閾値を設定し、それらの閾値を障害物SMに接近すればするほど、制御開始の判定がし難くなるように設定することと同義となる。目標ヨーレートφm’は一般的に広く使用する公式のとおり操舵角(と車速)の関係によって求まるものだからである。
【0050】
次に、ステップS100では、制駆動力コントロールユニット8は、警報発生の処理を行う。
ここでは、前記ステップS90にて制御開始の位置に到達したと判定した場合に、警報を発生する。
【0051】
なお警報は、上述の前方注視時間に基づく前方注視点(自車両の将来位置)が制御開始の位置に到達する前に発生するようにしても良い。例えば、前記ステップS90での検出に用いている前方注視時間Ttよりも長くなるように、所定のゲインKbuzz(>1)を掛ける。そして、(Tt・Kbuzz)を使用して、前記(6)式に基づき算出した前方注視点が、前記ステップS90での制御開始の位置に到達したと判断したときに警報を発生する。
また、前記ステップS90において障害物回避システムの作動を開始すると判定して警報を発生し、それから所定の時間経過の後に、制御を開始するようにしてもよい。
【0052】
次に、ステップS110にて、制駆動力コントロールユニット8は、目標ヨーモーメントMsを設定する。
障害物回避制御判断フラグFout_obstがOFFの場合には、目標ヨーモーメントMsを0に設定して、ステップS120に移行する。
一方、障害物回避制御判断フラグFout_obstがONの場合には、目標ヨーモーメントMsを次式により算出し、ステップS120に移行する。
Ms=K1recv・K2recv・ΔXs ………(15)
ΔXs=(K1mon・φ+K2mon・φm)
【0053】
ここで、K1recvは車両諸元から決まる比例ゲイン(ヨー慣性モーメント)である。K2recvは車速Vに応じて変動するゲインである。ゲインK2recvの例を、図5に示す。図5に示すように、例えばゲインK2recvは、低速域で大きい値になり、車速Vがある値になると、車速Vと反比例の関係となり、その後ある車速Vに達すると小さい値で一定値となる。また設定ゲインK1monは車速を関数とした値となる。また、設定ゲインK2monは、車速と前方注視時間を関数とした値となる。
【0054】
上記(15)式によれば、白線とのヨー角度φや運転者が切り増しをしたステアリングによって定常的に発生するヨーレートが大きくなるほど、目標ヨーモーメントMsは大きくなる。
あるいは、目標ヨーモーメントMsを、下記(16)式から算出してもよい。この(16)式は、上記(15)式に対して、ゲインK3(=1/Tt2)を掛けることと同義である。このゲインK3は、前方注視時間Ttが大きくなるほど減少するゲインとなる。
Ms=K1recv・ΔXb/(L・Tt2) ………(16)
【0055】
どの程度の時間Tをかけてヨー角を制御するかを示す前記(16)式を使用すると、次のようになる。すなわち、制御時間Tを前方注視時間Ttと一致させて設定させておくことで、制御開始タイミングの前方注視時間Ttが短くなった際には、車両を戻すための時間Tが短くなる。この結果として制御量が強くなる。すなわち、前方注視時間Ttが短くなるようにしても、制御開始する際の制御量は大きくなる。また、前方注視時間Ttが長くなるようにした際には制御量は小さくなる。この結果、運転者に対しては前方注視時間Ttの設定によらず、状況に沿った違和感の少ない制御を実施することが可能となる。
【0056】
また、障害物回避制御判断フラグFout_obstがONの場合には、自車走行車線の曲率βfrontに基づいて、目標ヨーモーメントMsを補正する。具体的には、曲率βfrontから自車走行車線がカーブ路であると判定し、且つ自車両が車線中央位置に対してイン側(カーブ内側)に逸脱していると判定した場合に、目標ヨーモーメントMsを減少する補正を行う。このとき、自車走行車線のカーブがきついほど(曲率βfrontが大きいほど)、目標ヨーモーメントMsが小さくなるよう補正する(大きく減少補正する)。
【0057】
一方、自車両が車線中央位置に対してアウト側(カーブ外側)に逸脱していると判定した場合には、目標ヨーモーメントMsを増加する補正を行う。このとき、自車走行車線のカーブがきついほど(曲率βfrontが大きいほど)、目標ヨーモーメントMsが大きくなるよう補正する(大きく増加補正する)。
これにより、イン側では、自車両予測位置ΔXbに応じたヨーモーメントをそのまま自車両に付与してヨーが出すぎてしまうのを抑制することができる。すなわち、過剰な制御を抑制することができる。そして、アウト側ではヨー制御不足となるのを抑制することができる。
【0058】
なお、上記Fout_obstの判定は、操舵情報に基づいて将来の進路変更を予測するものである。
ここで、本制御とは別に、自車両の車線からの逸脱傾向が検出された場合に自車両に車線内へ向かうヨーモーメントを発生させて車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御を備える場合にあっては、本制御が作動開始するときと車線逸脱防止制御が作動開始するときとで、いずれかが先に制御を開始するかによって、先に制御開始した制御を優先し、その制御が終了するまで他方の制御を実施しないようにしてもよい。
【0059】
次に、ステップS115では、制駆動力コントロールユニット8は、減速制御配分を示す制御配分比率α(0≦α<1)を算出する。
本実施形態では、前記ステップS110で算出した目標ヨーモーメントMsの絶対値が予め定めたヨーモーメント閾値以上である場合には、減速制御を行わないものとして、制御配分比率α=0とする。ここで、上記ヨーモーメント閾値とは、自車両に付与したときに運転者が回頭感を認識できる最低限のヨーモーメントに設定する。
【0060】
一方、目標ヨーモーメントMsが上記ヨーモーメント閾値より小さい場合には、目標ヨーモーメントMsが小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与するように、制御配分比率αを0より大きい値に設定する。
【0061】
以下、制御配分比率αの設定方法について説明する。
先ず、図6に示す制御配分比率算出マップを参照し、目標ヨーモーメントMsに基づいて制御配分比率α0を算出する。この制御配分比率算出マップは、縦軸に制御配分比率α0、横軸に前記ステップS110で算出した目標ヨーモーメントMsの絶対値をとる。そして、|Ms|が上記ヨーモーメント閾値であるMsTH以上でα0=0となり、|Ms|<MsTHの範囲では、目標ヨーモーメントの絶対値|Ms|が小さいほど制御配分比率α0が大きくなるように設定する。ここで、0≦α0<1である。
【0062】
次に、図7に示す第1の補正係数算出マップを参照し、第1の補正係数α1を算出する。この第1の補正係数算出マップは、縦軸に第1の補正係数α1、横軸に前記ステップS40で算出したヨー角φfrontをとる。そして、ヨー角φfrontが予め設定したヨー角閾値φfront1以上でα1=0となり、φfront<φfront1の範囲では、ヨー角φfrontが小さいほど第1の補正係数α1が大きくなるように設定する。
【0063】
なお、ヨー角φfrontに代えて、ヨー角φfrontの変化量に基づいて第1の補正係数α1を算出してもよい。この場合には、ヨー角φfrontの変化量が小さいほど第1の補正係数α1が大きくなるように設定する。また、ヨー角φfrontの変化量に代えて、自車両予測位置ΔXbの変化量を用いることもできる。
【0064】
また、図8に示す第2の補正係数算出マップを参照し、第2の補正係数α2を算出する。この第2の補正係数算出マップは、縦軸に第2の補正係数α2、横軸に車速Vをとる。そして、車速Vが予め設定した車速閾値V1より小さい範囲ではα2=0となり、V≧V1の範囲では、車速Vが大きいほど第2の補正係数α2が大きくなるように設定する。
【0065】
さらに、走行車線曲率βfrontに基づいて第3の補正係数α3を算出する。ここでは、自車両が走行車線中央に対してカーブ内側を走行している場合には(走行車線中央に対してイン側に逸脱している場合には)、図9に示す第3の補正係数算出マップを参照して第3の補正係数α3を算出する。一方、自車両が走行車線中央に対してカーブ外側を走行している場合には(走行車線中央に対してアウト側に逸脱している場合には)、図10に示す第3の補正係数算出マップを参照して第3の補正係数α3を算出する。
【0066】
図9に示す第3の補正係数算出マップは、縦軸に第3の補正係数α3、横軸に走行車線曲率βfrontをとる。そして、走行車線曲率βfrontが予め設定した曲率閾値βfront1より小さい範囲ではα3=0となり、βfront≧βfront1の範囲では、走行車線曲率βfrontが大きいほど第3の補正係数α3が大きくなるように設定する。
【0067】
図10に示す第3の補正係数算出マップは、縦軸に第3の補正係数α3、横軸に走行車線曲率βfrontをとる。そして、走行車線曲率βfrontが予め設定した曲率閾値βfront1以上でα3=0となり、βfront<βfront1の範囲では、走行車線曲率βfrontが小さいほど第3の補正係数α3が大きくなるように設定する。
【0068】
次に、図11に示す第4の補正係数算出マップを参照し、第4の補正係数α4を算出する。この第4の補正係数算出マップは、縦軸に第4の補正係数α4、横軸に自車両の横速度Vxをとる。そして、横速度Vxが予め設定した横速度閾値Vx1以上でα4=0となり、Vx<Vx1の範囲では、横速度Vxが小さいほど第4の補正係数α4が大きくなるように設定する。
【0069】
なお、横速度Vxに代えて、横速度Vxの変化量に基づいて第4の補正係数α4を算出してもよい。この場合には、横速度Vxの変化量が小さいほど第4の補正係数α4が大きくなるように設定する。
そして、これら4つの補正係数α1,α2,α3,α4のセレクトハイで、制御配分比率α0を補正し、最終的な制御配分比率αとして設定する。ただし、このとき、補正後の制御配分比率αが、α<1となるよう上限を設ける。
α=α0・max(α1,α2,α3,α4) ………(17)
【0070】
すなわち、目標ヨーモーメントMsの絶対値がヨーモーメント閾値MsTHより小さい場合に、目標ヨーモーメントMsの絶対値が小さいほど減速制御の制御量が大きくなるように、制御配分比率αを設定する。
また、このとき、制御開始時のヨー角φfrontが大きいほど減速制御の制御量を小さくすると共に、ヨー角φfrontがヨー角閾値φfront1以上である場合には、減速制御を非作動とするようにする。また、制御開始時の車速Vが小さいほど減速制御の制御量を小さくすると共に、車速Vが車速閾値V1より小さい場合には、減速制御を非作動とするようにする。
【0071】
さらに、カーブのイン側では、走行車線曲率βfrontが小さいほど減速制御の制御量を小さくすると共に、走行車線曲率βfrontが曲率閾値βfront1より小さい場合には、減速制御を非作動とするようにする。また、カーブのアウト側では、走行車線曲率βfrontが大きいほど減速制御の制御量を小さくすると共に、走行車線曲率βfrontが曲率閾値βfront1以上である場合には、減速制御を非作動とするようにする。
また、制御開始時の横速度Vxが大きいほど減速制御の制御量を小さくすると共に、横速度Vxが横速度閾値Vx1以上である場合には、減速制御を非作動とするようにする。
【0072】
次に、左右輪のうちヨーモーメント発生方向とは反対側の2輪の制動力配分を考慮した目標ヨーモーメントMs_allを以下の式を用いて算出する。
Ms_all=Ms/(1−α) ………(18)
ステップS120では、制駆動力コントロールユニット8は、障害物回避のための目標ヨーレートMs及び自車両を減速するための制動力を発生させるための指令を算出し、これを出力した後、最初の処理に復帰する。
【0073】
ここで、本実施形態では、障害物回避のためのヨーレートMsを発生するための手段として、制駆動力を用いてヨーモーメントを発生する場合の例を、以下に説明する。
なお、ヨーレートを発生させる手段としてステアリング反力制御装置を用いる場合には、ステアリング反力FrstrはFrstr=K・Msとして反力を発生すればよい。
またヨーレートを発生させる手段としてステアリング制御装置を用いる場合には、ステアリング角STRθはSTRθ=K・Ms’として求めた結果をステアリングに付与すればよい。
【0074】
またヨーレートを発生させる手段としてはステアリング制御装置を用い、その操舵力(操舵トルク)をSTRtrg=K・Msとして求めて発生してもよい。
目標ヨーモーメントMsが0の場合、すなわちヨーモーメント制御を実施しない条件との判定結果を得た場合には、下記(19)式及び(20)式に示すように、制動液圧Pmf、Pmrを各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)とする。
Psfl=Psfr=Pmf ………(19)
Psrl=Psrr=Pmr ………(20)
【0075】
ここで、Pmfは前輪用の制動液圧である。また、Pmrは後輪用の制動液圧であり、前後配分を考慮して前輪用の制動液圧Pmfに基づいて算出した値になる。例えば、運転者がブレーキ操作をしていれば、制動液圧Pmf、Pmrはそのブレーキ操作の操作量(マスタシリンダ液圧Pm)に応じた値になる。
【0076】
一方、目標ヨーモーメントMsの絶対値が0より大きい場合、すなわち障害物回避制御を開始するとの判定結果を得た場合には、次のような処理を行う。
すなわち、目標ヨーモーメントMsに基づいて、前輪目標制動液圧差ΔPsf,ΔPsf2及び後輪目標制動液圧差ΔPsr,ΔPsr2を算出する。具体的には、下記(21)〜(24)式により目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsf2、ΔPsr、ΔPsr2を算出する。
ΔPsf=2・Kbf・(Ms_all・FRratio)/T ………(21)
ΔPsr=2・Kbr・(Ms_all・(1−FRratio))/T ………(22)
ΔPsf2=2・Kbf・(α・Ms_all・FRratio)/T ………(23)
ΔPsr2=2・Kbr・(α・Ms_all・(1−FRratio))/T ………(24)
【0077】
ここで、FRratioは設定用しきい値、Tはトレッド、Kbf及びKbrは制動力を制動液圧に換算する場合の前輪及び後輪についての換算係数である。
なお、上記トレッドTは、ここでは便宜上、前後同じ値として扱う。また、Kbf、Kbrは、ブレーキ諸元により定まる。
【0078】
このように、目標ヨーモーメントMsの大きさに応じて車輪で発生する制動力を配分する。つまり、各目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsf2、ΔPsr、ΔPsr2に所定値を与え、前後それぞれの左右輪で制動力差を発生すると共に、自車両を減速するための制動力を各輪に発生する。そして、算出した目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsf2、ΔPsr、ΔPsr2を用いて、最終的な各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
【0079】
具体的には、制御の実施方向Dout_obstがLEFTの場合、すなわち左側の障害物SMに対する障害物回避制御を実施する場合には、下記(25)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
Psfl=Pmf+ΔPsf2,
Psfr=Pmf+ΔPsf,
Psrl=Pmr+ΔPsr2,
Psrr=Pmr+ΔPsr ………(25)
【0080】
また、制御の実施方向Dout_obstがRIGHTの場合、すなわち右側の障害物SMに対する障害物回避制御を実施する場合、下記(26)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
Psfl=Pmf+ΔPsf,
Psfr=Pmf+ΔPsf2,
Psrl=Pmr+ΔPsr,
Psrr=Pmr+ΔPsr2 ………(26)
【0081】
上記(25)式及び(26)式によれば、障害物回避側の車輪の制動力が大きくなるように、左右輪の制駆動力差が発生することになる。
また、ここでは、(25)式及び(26)式が示すように、運転者によるブレーキ操作、すなわち制動液圧Pmf、Pmrを考慮して各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出している。
【0082】
そして、制駆動力コントロールユニット8は、このようにして算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を制動流体圧指令値として、制動流体圧制御部7に出力する。
【0083】
(動作)
次に、第1の実施形態の動作について説明する。
先ず、自車両の走行状態であるヨー角φ、ヨー角速度φm等に基づいて、前方注視時間Tt後の自車両の将来位置として自車両予測位置ΔXbを算出する(図3のステップS70)。このとき、ΔXb≧X2obst+X0であるものとすると、障害物回避のための支援制御を開始すると判定する(ステップS90)。つまり、隣接車両SMを検出しているときの自車両の将来位置である自車両予測位置ΔXbが、予め定めた車線幅方向横位置(X2obst+X0)に達したとき、制御開始と判定する。
【0084】
支援制御開始と判定すると、自車両予測位置ΔXbに基づいて、ヨー制御量としての目標ヨーモーメントMsを算出する(ステップS110)。ここで、自車両予測位置ΔXbが比較的大きい場合には、目標ヨーモーメントMsがヨーモーメント閾値MsTH以上となる。そのため、図6をもとに制御配分比率α0=0となるので、最終的な制御配分比率αも0となる(ステップS115)。
【0085】
したがって、この場合には、(23)式及び(24)式をもとに算出するΔPsf2及びΔPsr2がそれぞれ0となるため、目標ヨーモーメントMsのみを発生するように制駆動力を制御する(ステップS120)。つまり、自車両を減速する減速制御は行わない。これにより、隣接車両SMへの接近を防止する方向に自車両MMを制御する。
【0086】
一方、微小なレーンチェンジ等により、|Ms|<MsTHとなる目標ヨーモーメントMsを算出した場合には、制御配分比率α>0となる(ステップS115)。そして、逸脱方向Dout_strがLEFTである場合には、(25)式をもとに各輪の目標制動液圧Psiを算出し、これを制動流体圧制御部7に出力する(ステップS120)。
【0087】
これにより、図12に示すように、障害物回避制御による自車両の制御方向(ヨーモーメント発生方向)である右輪には、自車両にヨーモーメントMsを付与するための制動力P1(前輪はP1f、後輪はP1r)と、自車両を減速するための制動力P2(前輪はP2f、後輪はP2r)との和が発生する。そして、左輪には、自車両を減速するための制動力P2(前輪はP2f、後輪はP2r)のみが発生する。このようにして、ヨーモーメント発生方向の車輪に制動力を発生するヨー制御と、左右輪で均等に制動力を発生して自車両を減速する減速制御とを行う。
【0088】
ところで、本実施形態のような減速制御を重畳しない従来方式の場合、図13に示すように、|Ms|<MsTHの場合でも、ヨーモーメント発生方向である右輪のみに目標ヨーモーメントMsを自車両に付与するための制動力P1(前輪はP1f、後輪はP1r)のみが発生する。ところが、この場合、目標ヨーモーメントMsを付与することで自車両を障害物回避方向に制御するものの、当該目標ヨーモーメントMsが小さいために、運転者は回頭感を認識し難く、制御開始の報知効果が十分に得られない。
【0089】
また、報知効果を得るために、目標ヨーモーメントMsを増加補正すると、運転者に制御感を与えることはできるが、車両が回頭しすぎてしまい(ヨーが出すぎてしまい)適切な障害物回避制御を行うことができない。
これに対して、本実施形態では、自車両に付与するヨーモーメントは障害物回避に必要なヨーモーメントのままで(ヨーモーメントは小さいままで)、自車両を減速することで運転者に減速感を与える。すなわち、運転者に回頭感を与えられなくても、その分減速感を与えることで、適切に制御感を与えることができる。また、ヨーモーメントは変更しないため、適切な障害物回避制御を行うことができる。
【0090】
また、本実施形態では、制御開始と判定したときのヨー角φfrontや車速V、走行車線曲率βfront、横速度Vxに応じて制御配分比率αを設定することで、減速制御の制御量の大きさを調整する。これにより、より適切な制御感を運転者に与えることができる。
なお、図1において、レーダー装置24L/Rが側方障害物検出手段を構成している。また、撮像部13がヨー角検出手段、曲率検出手段、車線区分線検出手段および横速度検出手段を構成し、車輪速度センサ22FL〜22RRが車速検出手段を構成している。
【0091】
また、図3のステップS70が将来位置予測手段を構成し、ステップS80〜S120が車両制御手段を構成している。
【0092】
(効果)
(1)将来位置予測手段は、設定時間後の自車両の将来位置を予測する。車両制御手段は、将来位置予測手段で予測した自車両の将来位置が、予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にある場合に、自車両に自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを付与すると共に、自車両に減速加速度を付与する。また、車両制御手段は、車両制御手段は、自車両の将来位置が制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にあるほど大きなヨーモーメントを自車両に付与すると共に、前記ヨーモーメントが小さいほど前記減速加速度を大きくする。
【0093】
このように、自車両に付与するヨーモーメント(ヨー制御量)が比較的小さい場合には、自車両に付与するヨーモーメントはそのままで、自車両を減速する減速制御を行うことで、運転者に減速感を与える。そのため、運転者に適切な制御感を与えることができると共に、適切な運転支援制御を行うことができる。
【0094】
(2)車両制御手段は、前記ヨーモーメントが予め設定したヨーモーメント閾値より小さいとき、自車両に減速加速度を付与する。
ヨー制御量が小さいほど、運転者は回頭感を認識し難い。したがって、ヨー制御量が小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与することで、運転者に与える減速感を大きくして、運転者に制御感を与えることができる。
【0095】
(3)車両制御手段は、制動力を左右輪に対して均等に付与することによって、前記減速加速度を自車両に付与する。
このように、ヨーモーメント制御に減速制御を重畳するので、自車両に付与するヨーモーメントの大きさを変えずに、運転者に減速感を与えることができる。
【0096】
(4)ヨー角検出手段は、自車両のヨー角を検出する。車両制御手段は、ヨー角検出手段で検出したヨー角が小さいほど、自車両に大きな減速加速度を付与する。
ヨー角が比較的小さい場合には、次の制御サイクルでもヨー制御量が比較的小さくなり、運転者は制御感を認識し難い。そのため、ヨー角が小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与することで、運転者に確実に制御感を与えることができる。
一方、ヨー角が比較的大きい場合には、運転者が意図的に車線変更等を行っている可能性が高いため、減速制御を抑制することで運転者に与える制御感を抑制し、運転者の違和感を低減することができる。
【0097】
(5)車速検出手段は自車速を検出する。車両制御手段は、車速検出手段で検出した自車速が大きいほど、自車両に大きな減速加速度を付与する。
同じヨーモーメントを付与した場合、車速が大きいほど車両は過敏に反応し、ヨーが出すぎる傾向がある。そのため、車速が大きいほど自車両に大きな減速加速度を付与することで、余分な回頭感を出すことなく、適切な制御感を運転者に与えることができる。
【0098】
(6)曲率検出手段は自車走行車線の曲率を検出する。車両制御手段は、自車両の将来位置が制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ内側に位置するとき、曲率検出手段で検出した曲率が大きいほど自車両に付与するヨーモーメントを減少する補正を行う。さらに、車両制御手段は、自車両の将来位置が制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ内側に位置するとき、曲率検出手段で検出した曲率が大きいほど自車両に大きな減速加速度を付与する。
【0099】
このように、カーブのイン側でヨー制御量を減少補正することで、自車両予測位置ΔXbに応じたヨーモーメントをそのまま自車両に付与してヨーが出すぎてしまうのを抑制することができる。
また、ヨー制御量を減少補正して回頭感が減った分、減速制御により運転者に減速感を与えることができる。
【0100】
(7)曲率検出手段は自車走行車線の曲率を検出する。車両制御手段は、自車両の将来位置が制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ外側に位置するとき、曲率検出手段で検出した曲率が大きいほど自車両に付与する前記ヨーモーメントを増加する補正を行う。さらに、車両制御手段は、自車両の将来位置が制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ外側に位置するとき、曲率検出手段で検出した曲率が小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与する。
【0101】
このように、カーブのアウト側でヨー制御量を増加補正することで、自車両予測位置ΔXbに応じたヨーモーメントをそのまま自車両に付与して制御不足となるのを抑制することができる。
また、ヨー制御量を増加補正する分、減速制御を抑制することにより運転者に余分な制御感を与えるのを抑制することができる。
【0102】
(8)横速度検出手段は自車両の車線幅方向の速度を検出する。車両制御手段は、横速度検出手段で検出した車線幅方向の速度が小さいほど、自車両に大きな減速加速度を付与する。
横速度が比較的小さい場合には、次の制御サイクルでもヨー制御量が比較的小さくなり、運転者は制御感を認識し難い。そのため、横速度が小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与することで、運転者に確実に制御感を与えることができる。
【0103】
一方、横速度が比較的大きい場合には、運転者が意図的に車線変更等を行っている可能性が高いため、減速制御を抑制することで運転者に与える制御感を抑制し、運転者の違和感を低減することができる。
【0104】
(9)側方障害物検出手段は、自車両の側方に存在する障害物を検出する。車両制御手段は、側方障害物検出手段で障害物を検出している状態で、自車両の将来位置が制御開始位置よりも障害物側に位置すると判定すると、側方障害物検出手段で検出した障害物を回避する方向のヨーモーメントを自車両に付与して自車両を制御する。
これにより、自車両の側方障害物への接近を防止する障害物回避制御において、運転者に適切な制御感を与えることができる。
【0105】
(10)設定時間後の自車両の将来位置を予測し、予測した自車両の将来位置が、予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にある場合に、自車両に自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを付与すると共に、自車両に減速加速度を付与する。その際、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にあるほど大きな前記ヨーモーメントを自車両に付与すると共に、前記ヨーモーメントが小さいほど前記減速加速度を大きくする。
これにより、自車両に過剰なヨーモーメントを付与することなく安定した運転支援制御を行うことができると共に、適切な制御感を与えることができると共に、
【0106】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
この第2の実施形態は、前述した第1の実施形態において、左右輪に均等に自車両を減速するための制動力を付与することで自車両を減速しているのに対し、ヨーモーメントを発生するための制動力の後輪側配分を大きくすることで自車両を減速するようにしたものである。
【0107】
(構成)
第2の実施形態の基本構成は、前述した第1の実施形態と同様である。
第2の実施形態における制駆動力コントロールユニット8で実行する障害物回避制御処理は、図3のステップS120の処理が異なることを除いては、第1の実施形態における障害物回避制御処理と同様である。したがって、ここでは処理の異なる部分を中心に説明する。
ステップS120では、制駆動力コントロールユニット8は、障害物回避のための目標ヨーレートMsを発生させるための指令を算出し、これを出力した後、最初の処理に復帰する。
【0108】
ここで、本実施形態では、前述した第1の実施形態と同様に、障害物回避のためのヨーレートMsを発生するための手段として、制駆動力を用いてヨーモーメントを発生する。
目標ヨーモーメントMsが0の場合、すなわちヨーモーメント制御を実施しない条件との判定結果を得た場合には、第1の実施形態と同様に、上記(19)式及び(20)式に示すように、制動液圧Pmf、Pmrを各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)とする。
【0109】
一方、目標ヨーモーメントMsの絶対値が0より大きい場合、すなわち障害物回避制御を開始するとの判定結果を得た場合には、次のような処理を行う。
すなわち、目標ヨーモーメントMsに基づいて、前輪目標制動液圧差ΔPsf及び後輪目標制動液圧差ΔPsrを算出する。具体的には、下記(27)及び(28)式により目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsrを算出する。
【0110】
ΔPsf=2・Kbf・((1−α)Ms・FRratio)/T ………(27)
ΔPsr=2・Kbr・(Ms・(1−FRratio))/T
+2・Kbf・(α・Ms・FRratio)/T ………(28)
【0111】
このように、目標ヨーモーメントMsの大きさに応じて車輪で発生する制動力を配分する。つまり、各目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsrに所定値を与え、前後それぞれの左右輪で制動力差を発生する。このとき、前後輪の制動力配分を制御配分比率αによって設定し、自車両を減速する。そして、算出した目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsrを用いて、最終的な各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
【0112】
具体的には、制御の実施方向Dout_obstがLEFTの場合、すなわち左側の障害物SMに対する障害物回避制御を実施する場合には、下記(29)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
Psfl=Pmf,
Psfr=Pmf+ΔPsf,
Psrl=Pmr,
Psrr=Pmr+ΔPsr ………(29)
【0113】
また、制御の実施方向Dout_obstがRIGHTの場合、すなわち右側の障害物SMに対する障害物回避制御を実施する場合、下記(30)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
Psfl=Pmf+ΔPsf,
Psfr=Pmf,
Psrl=Pmr+ΔPsr,
Psrr=Pmr ………(30)
上記(29)式及び(30)式によれば、障害物回避側の車輪の制動力が大きくなるように、左右輪の制駆動力差が発生することになる。
【0114】
また、ここでは、(29)式及び(30)式が示すように、運転者によるブレーキ操作、すなわち制動液圧Pmf、Pmrを考慮して各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出している。
そして、制駆動力コントロールユニット8は、このようにして算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を制動流体圧指令値として、制動流体圧制御部7に出力する。
【0115】
(動作)
次に、第2の実施形態の動作について説明する。
今、自車両の将来の横位置が制御開始位置よりも自車走行車線の中央側からみて大きく外側にずれており、|Ms|≧MsTHとなる比較的大きな目標ヨーモーメントMsを算出しているものとする。この場合、制御配分比率α0=0となるので、最終的な制御配分比率αも0となる(ステップS115)。
【0116】
そして、逸脱方向Dout_strがLEFTである場合には、(29)式をもとに各輪の目標制動液圧Psiを算出し、これを制動流体圧制御部7に出力する(ステップS120)。すなわち、右輪のみにヨーモーメントを発生するための制動力を付与する。このとき、α=0であるため、前輪には目標ヨーモーメントMsを付与するための通常の制動力P1fが発生し、後輪には目標ヨーモーメントMsを付与するための通常の制動力P1rが発生する。
【0117】
一方、|Ms|<MsTHである場合には、制御配分比率α>0となる(ステップS115)。そして、(27)式及び(28)式をもとに算出したΔPsf及びΔPsrに応じて、(29)式をもとに各輪の目標制動液圧Psiを算出し、これを制動流体圧制御部7に出力する(ステップS120)。
これにより、図14に示すように、右輪のみにヨーモーメントを発生するための制動力を付与する。このとき、後輪には目標ヨーモーメントMsを付与するための通常の制動力P1rと、前輪に付与する通常の制動力の一部であるP3との和が発生する。そして、前輪には、通常の制動力P1fから後輪に配分した制動力P3を差し引いた(P1f−P3)が発生する。
【0118】
このように、目標ヨーモーメントの絶対値|Ms|がヨーモーメント閾値より小さい場合には、目標ヨーモーメントMsを発生するための制動力の後輪側配分を大きくする。そのため、運転者に減速感を与えることができる。また、自車両に付与するヨーモーメントは変更しないため、適切な障害物回避制御を行うことができる。
【0119】
(効果)
(11)車両制御手段は、車両左側および右側の何れかの前後輪に制動力を付与してヨーモーメントを発生するものであって、車両左側および右側の何れかの前後輪のうち、前輪よりも後輪に対してヨーモーメントを発生するための制動力を大きく配分する。
このように、後輪側の制動力配分を大きくすることで、自車両に付与するヨーモーメントの大きさを変えずに、運転者に減速感を与えることができる。
【0120】
(変形例)
(1)上記各実施形態においては、支援制御として、側方障害物との接触を回避する障害物回避制御を適用する場合について説明したが、側方障害物の有無にかかわらず、車線を対象として自車両を制御する車線逸脱防止制御にも適用可能である。
すなわち、車線区分線検出手段で自車走行車線の車線区分線を検出する。そして、車両制御手段は、自車両の将来位置が、車線区分線検出手段で検出した車線区分線の位置を基準として設定した制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側に位置すると判定すると、自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを自車両に付与して自車両を制御する。
【0121】
この場合、制駆動力コントロールユニット8は、図3のステップS20で車速Vを算出した後、ステップS30の処理を行わずにステップS40に移行する点を除いては、上述した各実施形態と同様の処理を行う。このとき、車線逸脱防止制御を開始するための判定閾値として障害物距離X2obstを用い、仮想障害物が存在する位置を白線の内側の所定距離の位置とする。
これにより、運転者に適切な制御感を与えつつ、安定した車線逸脱制御を行うことができる。
【0122】
(2)上記各実施形態においては、図6に示すように、目標ヨーモーメントの絶対値|Ms|がヨーモーメント閾値MsTH以上であるときに減速制御を非作動とする(α=0とする)場合について説明したが、例えば、図15に示すように、ヨーモーメント閾値MsTHを設けずに、目標ヨーモーメントの絶対値|Ms|が小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与する(αを大きくする)ようにしてもよい。
【0123】
(3)上記各実施形態においては、図7において、ヨー角閾値φfront1を設けずに、ヨー角φfrontが小さいほど補正係数α1を大きくすることもできる。同様に、図8〜図11において、車速Vが大きいほど補正係数α2を大きくしたり、イン側で曲率βfrontが大きいほど補正係数α3を大きくしたり、アウト側で曲率βfrontが小さいほど補正係数α3を大きくしたり、横速度Vxが小さいほど補正係数α4を大きくしたりすることもできる。
【0124】
(4)上記第1の実施形態においては、前後の左右輪に対して均等に自車両を減速するための制動力を付与する場合について説明したが、例えば、後側左右輪のみに自車両を減速するための制動力を付与するようにしてもよい。この場合にも、自車両を減速し運転者に減速感を与えることができる。
【符号の説明】
【0125】
1 ブレーキペダル
3 マスタシリンダ
6FL〜6RR ホイールシリンダ
7 制動流体圧制御部
8 制駆動力コントロールユニット
8A 将来位置予測手段
8B ヨー制御量算出手段
8C 減速制御手段
13 撮像部
21 ステアリングホイール
24L/R レーダー装置
30 流体圧回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定時間後の自車両の将来位置を予測する将来位置予測手段と、
前記将来位置予測手段で予測した自車両の将来位置が、予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にある場合に、自車両に自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを付与すると共に、自車両に減速加速度を付与する車両制御手段と、を備え、
前記車両制御手段は、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にあるほど大きな前記ヨーモーメントを自車両に付与すると共に、前記ヨーモーメントが小さいほど前記減速加速度を大きくすることを特徴とする車両運転支援装置。
【請求項2】
前記車両制御手段は、前記ヨーモーメントが予め設定したヨーモーメント閾値より小さいとき、自車両に減速加速度を付与することを特徴とする請求項1に記載の車両運転支援装置。
【請求項3】
前記車両制御手段は、制動力を左右輪に対して均等に付与することによって、前記減速加速度を自車両に付与することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両運転支援装置。
【請求項4】
前記車両制御手段は、車両左側および右側の何れかの前後輪に制動力を付与して前記ヨーモーメントを発生するものであって、
車両左側および右側の何れかの前後輪のうち、前輪よりも後輪に対して前記ヨーモーメントを発生するための制動力を大きく配分することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両運転支援装置。
【請求項5】
自車両のヨー角を検出するヨー角検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記ヨー角検出手段で検出したヨー角が小さいほど、自車両に大きな減速加速度を付与することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項6】
自車速を検出する車速検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記車速検出手段で検出した自車速が大きいほど、自車両に大きな減速加速度を付与することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項7】
自車走行車線の曲率を検出する曲率検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ内側に位置するとき、前記曲率検出手段で検出した曲率が大きいほど自車両に付与する前記ヨーモーメントを減少する補正を行うと共に、
前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ内側に位置するとき、前記曲率検出手段で検出した曲率が大きいほど自車両に大きな減速加速度を付与することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項8】
自車走行車線の曲率を検出する曲率検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ外側に位置するとき、前記曲率検出手段で検出した曲率が大きいほど自車両に付与する前記ヨーモーメントを増加する補正を行うと共に、
前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ外側に位置するとき、前記曲率検出手段で検出した曲率が小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与することを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項9】
自車両の車線幅方向の速度を検出する横速度検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記横速度検出手段で検出した車線幅方向の速度が小さいほど、自車両に大きな減速加速度を付与することを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項10】
自車両の側方に存在する障害物を検出する側方障害物検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記側方障害物検出手段で障害物を検出している状態で、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも前記障害物側に位置すると判定すると、前記側方障害物検出手段で検出した障害物を回避する方向のヨーモーメントを自車両に付与して自車両を制御することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項11】
自車走行車線の車線区分線を検出する車線区分線検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記自車両の将来位置が、前記車線区分線検出手段で検出した車線区分線の位置を基準として設定した前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側に位置すると判定すると、自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを自車両に付与して自車両を制御することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項12】
設定時間後の自車両の将来位置を予測し、予測した自車両の将来位置が、予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にある場合に、自車両に自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを付与すると共に、自車両に減速加速度を付与する際に、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にあるほど大きな前記ヨーモーメントを自車両に付与すると共に、前記ヨーモーメントが小さいほど前記減速加速度を大きくすることを特徴とする車両運転支援方法。
【請求項1】
設定時間後の自車両の将来位置を予測する将来位置予測手段と、
前記将来位置予測手段で予測した自車両の将来位置が、予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にある場合に、自車両に自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを付与すると共に、自車両に減速加速度を付与する車両制御手段と、を備え、
前記車両制御手段は、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にあるほど大きな前記ヨーモーメントを自車両に付与すると共に、前記ヨーモーメントが小さいほど前記減速加速度を大きくすることを特徴とする車両運転支援装置。
【請求項2】
前記車両制御手段は、前記ヨーモーメントが予め設定したヨーモーメント閾値より小さいとき、自車両に減速加速度を付与することを特徴とする請求項1に記載の車両運転支援装置。
【請求項3】
前記車両制御手段は、制動力を左右輪に対して均等に付与することによって、前記減速加速度を自車両に付与することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両運転支援装置。
【請求項4】
前記車両制御手段は、車両左側および右側の何れかの前後輪に制動力を付与して前記ヨーモーメントを発生するものであって、
車両左側および右側の何れかの前後輪のうち、前輪よりも後輪に対して前記ヨーモーメントを発生するための制動力を大きく配分することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両運転支援装置。
【請求項5】
自車両のヨー角を検出するヨー角検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記ヨー角検出手段で検出したヨー角が小さいほど、自車両に大きな減速加速度を付与することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項6】
自車速を検出する車速検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記車速検出手段で検出した自車速が大きいほど、自車両に大きな減速加速度を付与することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項7】
自車走行車線の曲率を検出する曲率検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ内側に位置するとき、前記曲率検出手段で検出した曲率が大きいほど自車両に付与する前記ヨーモーメントを減少する補正を行うと共に、
前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ内側に位置するとき、前記曲率検出手段で検出した曲率が大きいほど自車両に大きな減速加速度を付与することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項8】
自車走行車線の曲率を検出する曲率検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ外側に位置するとき、前記曲率検出手段で検出した曲率が大きいほど自車両に付与する前記ヨーモーメントを増加する補正を行うと共に、
前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側で且つカーブ外側に位置するとき、前記曲率検出手段で検出した曲率が小さいほど自車両に大きな減速加速度を付与することを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項9】
自車両の車線幅方向の速度を検出する横速度検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記横速度検出手段で検出した車線幅方向の速度が小さいほど、自車両に大きな減速加速度を付与することを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項10】
自車両の側方に存在する障害物を検出する側方障害物検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記側方障害物検出手段で障害物を検出している状態で、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも前記障害物側に位置すると判定すると、前記側方障害物検出手段で検出した障害物を回避する方向のヨーモーメントを自車両に付与して自車両を制御することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項11】
自車走行車線の車線区分線を検出する車線区分線検出手段を備え、
前記車両制御手段は、前記自車両の将来位置が、前記車線区分線検出手段で検出した車線区分線の位置を基準として設定した前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側に位置すると判定すると、自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを自車両に付与して自車両を制御することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の車両運転支援装置。
【請求項12】
設定時間後の自車両の将来位置を予測し、予測した自車両の将来位置が、予め設定した車線幅方向横位置である制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にある場合に、自車両に自車走行車線の中央に向かうヨーモーメントを付与すると共に、自車両に減速加速度を付与する際に、前記自車両の将来位置が前記制御開始位置よりも自車走行車線の中央からみて外側にあるほど大きな前記ヨーモーメントを自車両に付与すると共に、前記ヨーモーメントが小さいほど前記減速加速度を大きくすることを特徴とする車両運転支援方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−25867(P2011−25867A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175457(P2009−175457)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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