説明

運転支援装置

【課題】車両の走行状況に適した運転方法を運転者が容易に把握することができる運転支援装置を提供する。
【解決手段】運転者が車両を運転する運転方法によって特徴づけられる運転特性に応じて車両特性を変更する運転支援装置10であって、運転特性を推定する運転特性推定部16と、推定された運転特性が車両の走行状況に適しているか否かを判断する運転特性判断部17と、運転特性が走行状況に適していないと運転特性判断部17が判断した場合に車両特性を変更する車両特性変更指示部18と、運転特性が走行状況に適していないと運転特性判断部17が判断した場合に運転特性が走行状況に適合するように運転者に対して運転方法を教示する運転方法教示部19と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転操作を支援する運転支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の運転状態に適するように車両特性を変化させて運転者の運転操作を支援する運転支援装置が知られている。例えば、特許文献1には、運転者の視線がどれだけ前方を見ているかにより、運転者が予測的にステアリング操作を行っている度合い(予測操作度)を算出し、予測操作度が低い場合には周波数の高い操舵領域におけるステアリング操作の応答性を向上させ、予測操作度が高い場合にはその操舵領域におけるステアリング操作の安定性を向上する車両用操舵制御装置が記載されている。この車両用操舵制御装置は、予測操作度が異なる運転者に対して、周波数の高い操舵領域での最適な操舵特性が得られることを実現しようとするものである。
【特許文献1】特開2003−276623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的に、不慣れな運転者は、高速走行時において車両の近傍をみて(予測操作度の低い状態で)運転する傾向がある。そのため、進行方向の変化の認知が遅れ過剰な操舵によって車両のふらつきが発生しやすい。この場合、特許文献1に記載された運転支援装置にあっては、高速走行時においてステアリング操作に対する応答性を低減しているものの(特許文献1の図5参照)、予測操作度の低い運転に対してステアリング操作の応答性が向上されるため、不慣れな運転者にとっては車両のふらつきが助長されかえって運転しにくい操舵特性となる。運転者は、ステアリング操作の応答性などの車両特性の変化に対応して自分なりの運転をしてしまい、自分の運転方法の問題点に気づきにくいため、車両の走行状況に適した運転方法を体得することが困難であった。
【0004】
本発明は、上記した事情に鑑みて為されたものであり、車両の走行状況に適した運転方法を運転者が容易に把握することが可能な運転支援装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る運転支援装置は、運転者が車両を運転する運転方法によって特徴づけられる運転特性に応じて車両特性を変更する運転支援装置であって、運転特性を推定する運転特性推定手段と、推定された運転特性が車両の走行状況に適しているか否かを判断する運転特性判断手段と、運転特性が走行状況に適していないと運転特性判断手段が判断した場合に車両特性を変更する車両特性変更手段と、運転特性が走行状況に適していないと運転特性判断手段が判断した場合に運転特性が走行状況に適合するように運転者に対して運転方法を教示する運転方法教示手段と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
本発明の運転支援装置によれば、運転者が車両を運転する際の運転特性が運転特性推定手段によって推定され、推定された運転特性が車両の走行状況に適していないと運転特性判断手段によって判断された場合に、車両特性が変更されるとともに車両の走行状況に適した運転方法が運転方法教示手段によって運転者に対して教示される。そのため、運転者は車両特性の変化に惑わされずに車両の走行状況に適した運転方法を容易に把握することができる
【0007】
ここで、運転特性推定手段は、運転特性として運転者が前方を注視する前方注視距離を推定し、運転特性判断手段は、推定された前方注視距離が基準注視距離以下である場合に運転特性が走行状況に適していないと判断し、車両特性変更手段は、推定された前方注視距離が基準注視距離以下である場合に車両の走行安定性を向上させるように車両特性を変更し、運転方法教示手段は、推定された前方注視距離が基準注視距離以下である場合に運転者に対して前方注視距離を大きくするように運転方法を教示することが好ましい。
【0008】
このようにすれば、運転者が前方を注視する前方注視距離が運転特性推定手段によって推定され、前方注視距離が基準注視距離以下であると運転特性判断手段によって判断された場合に、車両の走行安定性を向上させるように車両特性が変更されるとともに運転者に対して前方注視距離を大きくするような運転方法が運転方法教示手段によって教示される。そのため、運転者が車両の近傍をみて運転している場合にも、車両の走行に適したより大きな前方注視距離での運転方法を運転者が把握することができる。
【0009】
また、本発明に係る運転支援装置は、車両の車速を検出する車速検出手段をさらに備え、運転特性判断手段は、車速に応じて基準注視距離を設定することが好ましい。
【0010】
このようにすれば、上記の基準注視距離が車速に応じて設定される。例えば、高車速時には低車速時に比べて基準注視距離を大きく設定することによって、上記に比べて、より走行状況に適した基準注視距離を設定することができる。
【0011】
また、運転特性推定手段は、運転特性として車両が走る道路の車線方向と車両が進行する進行方向とのずれの度合いを示す走行偏差を推定し、運転特性判断手段は、推定された走行偏差が基準偏差より大きい場合に運転特性が走行状況に適していないと判断し、車両特性変更手段は、推定された走行偏差が基準偏差より大きい場合に車両の走行安定性を向上させるように車両特性を変更し、運転方法教示手段は、推定された走行偏差が基準偏差より大きい場合に運転者に対して走行偏差を小さくするように運転方法を教示することが好ましい。
【0012】
このようにすれば、車両が走る道路の車線方向と車両が進行する進行方向とのずれの度合いを示す走行偏差が運転特性推定手段によって推定され、走行偏差が基準偏差より大きいと運転特性判断手段によって判断された場合に、車両の走行安定性を向上させるように車両特性が変更されるとともに運転者に対して走行偏差を小さくするような運転方法が運転方法教示手段によって教示される。そのため、運転者が車両の近傍をみて大きな走行偏差で運転している場合にも、車両の走行に適したより小さな走行偏差での運転方法を運転者が把握することができる。
【0013】
また、運転特性推定手段は、所定時間にサンプリングされた走行偏差の標準偏差を推定することが好ましい。
【0014】
このようにすれば、上記の走行偏差が統計的に算出され、信頼度が向上された走行偏差によって運転特性の適否判断が行われる。それによって、誤った適否判断による運転方法の教示が低減されるので、車両の走行状況に適した運転方法を運転者が容易に把握することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の運転支援装置によれば、車両の走行状況に適した運転方法を運転者が容易に把握することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
(第一実施形態)
【0017】
まず、図1および図2を参照して、第一実施形態に係る運転支援装置の構成について説明する。ここで、図1は、第1実施形態に係る運転支援装置の構成概要を示す図、図2は、前方注視距離を説明するための図である。
【0018】
図1を参照すると、運転支援装置10は、ECU(Electronic Control Unit)11と、視線検出部12と、車速センサ13と、車両特性変更部14と、教示部15とを備えて構成されている。
【0019】
視線検出部12は、前方を注視する運転者の視線の方向を検出する視線検出手段として機能するものである。具体的には、視線検出部12は、例えば、CMOSカメラ等によって運転者の顔を撮像し、顔の特徴に基づいて顔向きの方向ベクトルAi(図2参照)を抽出する。運転支援装置10の動作時には、視線検出部12は、顔向きの方向ベクトルAiを所定の時間間隔で抽出し、顔向きの方向ベクトルAiが水平面に対してなす角度θiに応じた信号を後述する運転特性推定部16に入力する。
【0020】
図1に戻って説明を続けると、車速センサ13は、車両の各車輪に取り付けられた車輪速センサである。運転支援装置10の動作時には、車両の速度に応じた周期でパルス信号を発生し後述する運転特性判断部17に入力する。
【0021】
車両特性変更部14は、後述する車両特性変更指示部18が出力する信号を受けて自身の車両特性を変更する装置である。より詳しくは、車両特性を変更することによって車両の走行安定性を可変する装置である。具体的には、後輪操舵装置、可変ギヤ比ステアリング装置、可変スタビライザ装置などが挙げられる。
【0022】
後輪操舵装置は、操舵角に比例して同一方向に後輪を転舵する割合を増大させることによって、操舵に対する車両の旋回感度を鈍くし、少ない回頭量で車両をレーンチェンジさせ不安定になりにくくすることができる。また、後輪操舵装置は、車両に発生するヨーレートを抑制する方向に後輪を転舵する割合を増大させることによって、操舵に対する旋回感度を鈍くすると共に、車両の応答性、安定性を増大させる。
【0023】
可変ギヤ比ステアリング装置は、ハンドル角と前輪角の減速比を大きくすることによって、操舵に対するタイヤの切れ角を減少させ、車両の旋回感度を鈍くして車両の安定性を増大させる。
【0024】
可変スタビライザ装置は、後輪のロール剛性比率を増大させることによって、車両のコーナーリングにおけるアンダステア特性を強くし、車両の安定性を増大させる。
【0025】
教示部15は、運転方法教示部19が出力する信号を受けて運転方法を運転者に対して伝達する装置である。具体的には、音声によって運転方法を伝達するスピーカや、メッセージとして運転方法を表示するモニタが挙げられる。
【0026】
ECU11は、演算を行うマイクロプロセッサ、マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、および入出力インターフェース等を備え、運転特性推定部16、運転特性判断部17、車両特性変更指示部18、および運転方法教示部19を有して構成されている。ECU11内の各構成要素は、ハードウエア的に個別に構成されてもよいし、あるいは、共通のハードウエア上で稼働する各ソフトウエアによって構成されてもよい。これらのソフトウェアが別々のプログラム、サブルーチン等によって構成される場合には、一部またはその大部分のルーチンを共有していてもよい。
【0027】
次に、ECU11の各構成要素について説明する。
【0028】
運転特性推定部16は、運転者が車両を運転する際の運転特性を推定する機能を有する。
【0029】
より詳しくは、運転特性推定部16は、視線検出部12より入力される角度θiを用いて、運転者が前方を注視する前方注視距離Liを次の式(1)によって算出する(図2参照)。
Li=H1/tanθi・・・(1)
ここで、H1は運転者1の目の高さ、θiは顔向きの方向ベクトルAiが水平面に対してなす角度、をそれぞれ示す。
【0030】
前方注視距離Liは、運転者1の運転方法によって特徴づけられる運転特性を示す量である。運転者が車両近傍を見て運転する運転方法をとっている場合には、前方注視距離Liは小さくなり、運転者が遠方を見て運転する運転方法をとっている場合には、前方注視距離Liは大きくなる。
【0031】
運転支援装置10の動作時には、運転特性推定部16は、前方注視距離Liを一定の時間蓄積し、次の式(2)によって算出される平均前方注視距離Lを運転特性判断部17に出力する。
L=ΣLi/n・・・(2)
ここで、nは一定時間に蓄積された前方注視距離Liのサンプル数を示す。
【0032】
運転特性判断部17は、運転特性推定部16によって推定された運転特性が車両の走行状況に適しているか否かを判断する機能を有する。
【0033】
より詳しくは、運転特性判断部17は、基準注視距離L0を設定し、平均前方注視距離Lが基準注視距離L0以下であった場合に運転特性が走行状況に適していないと判断する。
【0034】
運転支援装置10の動作時には、運転特性判断部17は、車速センサ13より車速Vを取得して、取得された車速Vに応じて基準注視距離L0を設定し、設定された基準注視距離L0と平均前方注視距離Lとの大小関係を判断し、その判断結果を車両特性変更指示部18および運転方法教示部19に出力する。
【0035】
基準注視距離L0は、例えば、車速Vが高いほど大きく設定される。このようにすれば、車両3の車速Vに適した基準注視距離L0を設定することができる。
【0036】
運転特性変更指示部18は、運転特性が車両の走行状況に適していないと運転特性判断部17が判断した場合に、車両特性変更部14に対して車両特性の変更を指示する。
【0037】
より詳しくは、運転特性変更部18は、運転特性が車両の走行状況に適していないとの判断結果を運転特性判断部17より受けた場合に、車両の走行安定性を向上するように車両特性を設定するための設定信号を車両特性変更部14に出力する。
【0038】
運転支援装置10の動作時には、運転特性変更部18は、運転特性判断部17によって出力された比較結果に応じて設定信号を生成し、生成された信号を車両特性変更部14に対して出力する。
【0039】
運転方法教示部19は、運転特性が車両の走行状況に適していないと運転特性判断部17が判断した場合に、運転特性が車両の走行状況に適合するような運転方法を教示する。
【0040】
より詳しくは、運転方法教示部19は、運転特性が車両の走行状況に適していないとの判断結果を運転特性判断部17より受けた場合に、平均前方注視距離Lを大きくするような運転方法を運転者1に伝達するための指示信号を車両特性変更部14に対して出力する。この指示信号は、例えば、「遠くを見て運転しましょう」といったメッセージを教示部15に出力させる。
【0041】
運転支援装置10の動作時には、運転方法教示部19は、運転特性判断部17によって出力された比較結果に応じて指示信号を生成し、生成された指示信号を教示部15に対して出力する。
【0042】
次に、図3を参照して、運転支援装置10の動作を説明する。ここで、図3は、運転支援装置10の処理手順の一例を示すフローチャートである。この処理は、例えば、運転支援装置10において、運転支援装置10の電源がオンされてからオフされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0043】
まず、視線検出部12が検出した角度θiが運動特性推定部16によって取得される(S1)。
【0044】
次に、S1において取得された角度θiと式(1)とを用いて前方注視距離Liが運動特性推定部16によって算出される(S3)。
【0045】
次に、式(2)を用いて平均前方注視距離Lが算出され、運転特性判断部17に出力される(S5)。ここで、S5は、S1およびS3が一定時間繰り返され運動特性推定部16において前方注視距離Liが蓄積された後に、行われることが好ましい。
【0046】
次に、車速センサ13が検出した車速Vが運動特性判断部17によって取得される(S7)。
【0047】
次に、運動特性判断部17において、取得された車速Vに応じて基準注視距離L0が設定され、平均前方注視距離Lが基準注視距離L0に比べて大きいか否かについての判断が行われる。その後、その判断結果が車両特性変更指示部18および運転方法教示部19に出力される。(S9)。
【0048】
S9における判断が否定された場合、車両特性変更指示部18において車両特性変更部14の車両特性を第1の車両特性に設定する信号が生成され、車両特性変更部14に対して出力される。ここで、第1の車両特性は、工業出荷時に設定される基本特性を示す。信号を受信した車両特性変更部14では、第1の車両特性がその車両特性として設定される(S11)。
【0049】
S13における判断が肯定された場合、車両特性変更指示部18において車両特性変更部14の車両特性を第2の車両特性に設定する信号が生成され、車両特性変更部14に対して出力される。ここで、第2の車両特性は、第1の車両特性に比べて車両の走行安定性を向上させるように設定された特性を示す。信号を受信した車両特性変更部14では、第2の車両特性がその車両特性として設定される(S13)。
【0050】
S13に引き続いて、運転方法教示部19において平均前方注視距離Lを大きくするような運転方法を運転者1に伝達するための信号が生成され、教示部15に対して出力される。指示信号を受けた教示部15では、走行状況に適した運転方法が音声やモニタ表示によって運転者に対して伝達される。その後、本処理を終了する。
【0051】
以上のように、第1実施形態に係る運転支援装置10によれば、運転者が車両を運転する際の運転方法によって特徴づけられる運転特性が運転特性推定部16によって推定され、推定された運転特性が車両の走行状況に適していないと運転特性判断部17によって判断された場合に、車両特性変更部14の車両特性が車両特性変更指示部14によって変更されるとともに車両3の走行状況に適した運転方法が運転方法教示部19によって運転者に対して教示される。そのため、運転者1は車両特性の変化に惑わされずに車両3の走行状況に適した運転方法を容易に把握することができる
【0052】
また、運転者1が前方を注視する平均前方注視距離Lが運転特性推定部16によって推定され、平均前方注視距離Lが基準注視距離L0以下であると運転特性判断部17によって判断された場合に、車両の走行安定性を向上させる車両特性2に車両特性変更部14の車両特性が設定されるとともに運転者1に対して「遠くを見て運転しましょう」というメッセージが運転方法教示部19によって生成される。そのため、運転者1が車両3の近傍をみて運転している場合にも、車両1の走行に適したより大きな前方注視距離Liでの運転方法を運転者が把握することができる。
【0053】
また、上記の基準注視距離L0は、運転特性判断部17において車速Vが高いほど大きく設定される。そのため、車両3の車速Vに適した基準注視距離L0を設定することができる。
(第二実施形態)
【0054】
次に、図4〜図6を参照して、第2実施形態に係る運転支援装置20の構成について説明する。ここで、図4は第2実施形態に係る運転支援装置の構成概要を示す図であり、図5は車両位置および方向を検出する検出方法の一例を説明するための図であり、図6は走行偏差を説明するための図である。
【0055】
図1および図4を参照すると、運転支援装置20と第1実施形態に係る運転支援装置20との構成上の相違点は、視線検出部12および車速センサ13の代わりに車両位置・方向検出部22を有する点である。
【0056】
車両位置・方向検出部22は、道路内における車両の位置と向きとを推定する車両位置・方向検出手段として機能するものである。
【0057】
より詳しくは、CMOSカメラ等によって前方の道路を撮影した撮影画像(図5(a)参照)から、図6に示されるようなモデルにおいて、車両3の道路2における位置diと車両3の進行方向ベクトルBiが車線方向に対してなす角度αiとを検出する。
【0058】
運転支援装置20の動作時には、車両位置・方向検出部22は、位置diと角度αiとを所定の時間間隔で抽出し、位置diと角度αiとに応じた信号を後述する運転特性推定部26に入力する。
【0059】
ここで、図5を参照して、図6に記載された位置diと角度αiとを検出する方法の概要について説明する。図5(a)は道路を撮影した撮影画像を示し、図5(b)は道路2の形状と車両3との関係を示す平面図である。図5左側の図は車両3が道路境界白線P,Qに対して平行に走行している場合、図5右側の図は車両3が道路2の中央からずれた位置を2本の道路境界白線P,Qに対して傾きを有して走行している場合、をそれぞれ示す。
【0060】
図5(a)に示された撮影画像対におけるカメラ基準点Xと2本の道路境界白線P,Qとの配置形態の相違によって、図5(b)に示されるような道路2の形状と道路2における車両3の位置関係が推定され、車両3の位置diと角度αiを算出することができる。
【0061】
図4に戻って説明を続けると、運転特性推定部26は、運転者が車両を運転する際の運転特性を推定する機能を有する。
【0062】
より詳しくは、車両位置・方向検出部22より入力される位置diおよび角度αiを用いて、道路2の車線方向と車両3が進行する進行方向とのずれの度合いを示す走行偏差eiを次の式(3)によって算出する(図6参照)。
ei=di+D・tan(αi)・・・(3)
ここで、Dはある時間後に進む距離を示す。
【0063】
走行偏差eiは、運転者1の運転方法によって特徴づけられる運転特性を示す量である。運転者が車両近傍を見て運転する運転方法をとっている場合には、走行偏差eiは大きくなり、運転者が遠方を見て運転する運転方法をとっている場合には、走行偏差eiは小さくなる。
【0064】
運転支援装置20の動作時には、運転特性推定部26は、走行偏差eiを所定時間サンプリングし、次の式(4)によって算出される走行偏差の標準偏差Eを運転特性判断部27に出力する。
E=√(Σei)/n・・・(4)
ここで、nは一定時間にサンプリングされた走行偏差eiのサンプル数を示す。
【0065】
運転特性判断部27は、運転特性推定部26によって推定された運転特性が車両の走行状況に適しているか否かを判断する機能を有する。
【0066】
より詳しくは、運転特性判断部27は、基準偏差E0を設定し、標準偏差Eが基準偏差E0より大きい場合に運転特性が走行状況に適していないと判断する。
【0067】
運転支援装置10の動作時には、運転特性判断部27は、基準偏差E0を設定し、設定された基準偏差E0と走行偏差eiの標準偏差Eとの大小関係を判断し、その判断結果を車両特性変更指示部18および運転方法教示部29に出力する。
【0068】
運転方法教示部29は、運転特性が車両の走行状況に適していないと運転特性判断部27が判断した場合に、運転特性が車両の走行状況に適合するような運転方法を教示する機能を有する。
【0069】
より詳しくは、運転方法教示部29は、運転特性が車両の走行状況に適していないとの判断結果を運転特性判断部27より受けた場合に、標準偏差Eを小さくするような運転方法を運転者1に伝達するための指示信号を教示部15に対して出力する。この指示信号は、例えば、「遠くを見て運転しましょう」といったメッセージを教示部15に出力させる。
【0070】
運転支援装置10の動作時には、運転方法教示部29は、運転特性判断部27によって出力された判断結果に応じて指示信号を生成し、生成された指示信号を教示部15に対して出力する。
【0071】
次に、図7を参照して、運転支援装置20の動作を説明する。ここで、図7は、運転支援装置20の処理手順の一例を示すフローチャートである。この処理は、運転支援装置20において、運転支援装置20の電源がオンされてからオフされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0072】
まず、車両位置・方向検出部22が検出した位置diおよび角度αiが運動特性推定部26によって取得され、式(3)を用いて走行偏差eiが運動特性推定部16によって算出される(S21)。
【0073】
次に、式(4)を用いて走行偏差eiの標準偏差Eが算出され、運転特性判断部27に出力される(S23)。ここで、S23は、S21が一定時間繰り返され運動特性推定部16において走行偏差eiが蓄積された後に、行われることが好ましい。
【0074】
次に、運動特性判断部27において、基準偏差E0が設定され、標準偏差Eが基準偏差E0に比べて大きいか否かについての判断が行われる。その後、その判断結果が車両特性変更指示部18および運転方法教示部29に出力される。(S25)。
【0075】
S25における判断が否定された場合、車両特性変更指示部18において車両特性変更部14の車両特性を第1の車両特性に設定する信号が生成され、車両特性変更部14に対して出力される。ここで、第1の車両特性は、工業出荷時に設定される基本特性を示す。信号を受信した車両特性変更部14では、第1の車両特性がその車両特性として設定される(S27)。
【0076】
S25における判断が肯定された場合、車両特性変更指示部18において車両特性変更部14の車両特性を第2の車両特性に設定する信号が生成され、車両特性変更部14に対して出力される。ここで、第2の車両特性は、第1の車両特性に比べて車両の走行安定性を向上させるように設定された特性を示す。信号を受信した車両特性変更部14では、第2の車両特性がその車両特性として設定される(S29)。
【0077】
S29に引き続いて、運転方法教示部29において走行偏差eiを小さくするような運転方法を運転者1に伝達するための信号が生成され、教示部15に対して出力される。指示信号を受けた教示部15では、走行状況に適した運転方法が音声やモニタ表示によって運転者に対して伝達される(S31)。その後、本処理を終了する。
【0078】
以上のように、第2実施形態に係る運転支援装置20によれば、車両3が走る道路2の車線方向と車両3が進行する進行方向とのずれの度合いを示す走行偏差eiが運転特性推定部26によって推定され、走行偏差の標準偏差Eが基準偏差E0より大きいと運転特性判断部27によって判断された場合に、車両3の走行安定性を向上させる車両特性2に車両特性変更部14の車両特性が設定されるとともに運転者1に対して「遠くを見て運転しましょう」というメッセージが運転方法教示部29によって生成される。そのため、運転者1が車両3の近傍をみて大きな走行偏差eiで運転している場合にも、車両1の走行に適したより小さな走行偏差eiでの運転方法を運転者が把握することができる。
【0079】
また、運転特性推定部26においては上記の走行偏差eiが統計的に算出され、信頼度が向上された走行偏差の標準偏差Eによって運転特性の適否判断が運転特性判断部27において行われる。それによって、誤った適否判断による運転方法の教示が低減されるので、車両3の走行状況に適した運転方法を運転者1が容易に把握することができる。
【0080】
なお、本発明による運転支援装置は、上記実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。
【0081】
例えば、第1実施形態の運転支援装置10の動作においては、1つ基準注視距離L0との大小関係に応じて第1および第2の車両特性を設定する構成を示したが、2つ以上の基準注視距離に応じて3つ以上の車両特性を設定する構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】第1実施形態に係る運転支援装置の構成概要を示す図である。
【図2】前方注視距離を説明するための図である。
【図3】図1に示す運転支援装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態に係る運転支援装置の構成概要を示す図である。
【図5】車両位置および方向を検出する検出方法の一例を説明するための図である。
【図6】走行偏差を説明するための図である。
【図7】図4に示す運転支援装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0083】
1…運転者、2…道路、3…車両、10,20…運転支援装置、11,21…ECU、12…視線検出部、13…車速センサ(車速検出手段)、14…車両特性変更部(車両特性変更手段)、15…教示部(運転方法教示手段)、16,26…運転特性推定部(運転特性推定手段)、17,27…運転特性判断部(運転特性判断手段)、18…車両特性変更指示部(車両特性変更手段)、19,29…運転方法教示部(運転方法教示手段)、22…車両位置・方向検出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が車両を運転する運転方法によって特徴づけられる運転特性に応じて車両特性を変更する運転支援装置であって、
前記運転特性を推定する運転特性推定手段と、
推定された前記運転特性が前記車両の走行状況に適しているか否かを判断する運転特性判断手段と、
前記運転特性が前記走行状況に適していないと運転特性判断手段が判断した場合に前記車両特性を変更する車両特性変更手段と、
前記運転特性が前記走行状況に適していないと運転特性判断手段が判断した場合に前記運転特性が前記走行状況に適合するように前記運転者に対して運転方法を教示する運転方法教示手段と、
を備えたことを特徴とする運転支援装置。

【請求項2】
前記運転特性推定手段は、前記運転特性として前記運転者が前方を注視する前方注視距離を推定し、
前記運転特性判断手段は、推定された前記前方注視距離が基準注視距離以下である場合に前記運転特性が前記走行状況に適していないと判断し、
前記車両特性変更手段は、推定された前記前方注視距離が基準注視距離以下である場合に前記車両の走行安定性を向上させるように前記車両特性を変更し、
前記運転方法教示手段は、推定された前記前方注視距離が基準注視距離以下である場合に運転者に対して前記前方注視距離を大きくするように前記運転方法を教示すること、
を特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。

【請求項3】
前記車両の車速を検出する車速検出手段をさらに備え、
前記運転特性判断手段は、前記車速に応じて前記基準注視距離を設定すること、
を特徴とする請求項2に記載の運転支援装置。

【請求項4】
前記運転特性推定手段は、前記運転特性として前記車両が走る道路の車線方向と前記車両が進行する進行方向とのずれの度合いを示す走行偏差を推定し、
前記運転特性判断手段は、推定された走行偏差が基準偏差より大きい場合に前記運転特性が前記走行状況に適していないと判断し、
前記車両特性変更手段は、推定された走行偏差が基準偏差より大きい場合に前記車両の走行安定性を向上させるように前記車両特性を変更し、
前記運転方法教示手段は、推定された走行偏差が基準偏差より大きい場合に運転者に対して走行偏差を小さくするように前記運転方法を教示すること、
を特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。

【請求項5】
前記運転特性推定手段は、所定時間にサンプリングされた前記走行偏差の標準偏差を推定することを特徴とする請求項4に記載の運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−198014(P2008−198014A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33916(P2007−33916)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】