説明

電動車両

【課題】電動機の回転軸の回転角を検出するセンサに角度ズレが生じていても、電動機の予期しない回生制動を回避して、二次電池の過充電をより確実に抑止する。
【解決手段】d軸にマイナス方向の電流Idを流すと共にq軸に電流が流れないように電流指令Id*,Iq*を設定してモータを制御する際には、制御に用いる回転角センサからの回転角θをモータの正転時には逆転方向に補正し、モータの逆転時には正転方向に補正することにより、回転角θを回生から力行に向かう方向に補正する。これにより、回転角センサにオフセット誤差が含まれていても、補正した回転角θに基づいてモータMG2を制御することにより、q軸にモータMG2の回転方向とは逆方向の電流が流れない、即ち回生トルクが出力されないようにすることができる。この結果、モータが予期せずに回生するのを防止でき、二次電池の過充電を抑止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用の動力を入出力可能な電動機と、電動機と電力のやり取りが可能な二次電池と、電動機の状態を検出する状態検出センサと、を備え、電動機に要求される要求トルクと電動機の状態とに基づいて電動機を制御する電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動車両としては、発電が可能な三相のモータと、モータを駆動するインバータと、モータと電力をやり取りする直流電源(バッテリ)と、モータの回転位置(回転角)を検出する回転位置センサと、モータの各相に流れる電流を検出する電流センサとを備え、モータのトルク指令に基づいてd軸とq軸とを座標軸とするd−q座標系におけるd軸電流指令とq軸電流指令とを設定し、回転位置センサからのモータの回転角を用いて電流センサからのモータの各相電流をd軸電流とq軸電流に変換し(三相二相変換)、d軸電流指令とd軸電流との偏差に基づくフィードバック制御によりd軸電圧指令を設定すると共にq軸電流指令とq軸電流との偏差に基づくフィードバック制御によりq軸電圧指令を設定し、回転位置センサからのモータの回転角を用いてd軸電圧指令とq軸電圧指令とをモータの各相に印加すべき各相電圧指令に変換し(二相三相変換)、変換した各相電圧指令に基づいてPWM信号を生成してインバータをスイッチング制御することによりモータを駆動するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この車両では、モータのトルクリプルが最小となるときのトルクと電流進角との関係を予め求めてマップとして記憶しておき、モータのトルク指令値が与えられたときに、トルク指令値に基づいてマップから電流進角αを抽出する。そして、回転位置センサからのセンサ値θを抽出した電流進角αにより補正し、この補正値(θ+α)を上述した三相二相変換や二相三相変換に用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−237054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した車両では、回転位置センサに誤差が含まれていると、モータから実際に出力されるトルクがトルク指令とは異なったものとなるため、場合によってはバッテリに過充電が生じる。いま、バッテリの蓄電割合(SOC)が高くバッテリを充電することができない状態でモータを制御する場合を考えると、上述したd−q座標系におけるd軸だけに電流が流れるようにインバータを制御すれば、モータからは回生トルクが出力されないため、バッテリは充電されないはずである。しかしながら、回転位置センサに誤差が含まれていると、検出値に基づくd軸が実際のd軸に対して角度ズレが生じることから、q軸にも電流が流れ、モータが回生する場合が生じる。バッテリに充電できない状態でモータが回生すると、回生電力がバッテリに充電され続け、バッテリが過充電するおそれも考えられる。こうした問題は、回転位置センサに誤差が含まれている場合に限られずモータの相電流を検出する電流センサなどモータの制御に用いる他の状態検出センサに誤差が含まれている場合にも同様に生じうる。
【0005】
本発明の電動車両は、電動機の状態を検出するセンサに検出誤差が含まれるものとしても、電動機の予期しない回生制動を回避して、二次電池の過充電をより確実に抑止することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電動車両は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の電動車両は、
走行用の動力を入出力可能な電動機と、該電動機と電力のやり取りが可能な二次電池と、前記電動機の状態を検出する状態検出センサと、前記電動機に要求される要求トルクと前記電動機の状態とに基づいて該電動機を制御する制御手段とを備える電動車両であって、
前記二次電池の蓄電割合が所定割合以上のときには、前記状態検出センサにより検出された検出値を前記電動機の制御が回生から力行に向かう方向に補正する検出値補正手段を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の電動車両では、電動機に要求される要求トルクと電動機の状態とに基づいて電動機を制御するものにおいて、二次電池の蓄電割合が所定割合以上のときには、電動機の状態を検出する状態検出センサからの検出値を、電動機の制御が回生から力行に向かう方向に補正する。これにより、状態検出センサに検出誤差が含まれるものとしても、電動機の予期しない回生制動を回避することができる。この結果、二次電池の過充電をより確実に抑止することができる。
【0009】
こうした本発明の電動車両において、前記状態検出センサは、前記電動機の回転角を検出する回転角検出センサであり、前記制御手段は、前記要求トルクに基づいて前記電動機の回転角を基準としたd−q座標系におけるd軸の電流指令とq軸の電流指令とを設定し、該設定した各電流指令に基づいて前記電動機を制御する手段であり、前記検出値補正手段は、前記検出された電動機の回転角を該電動機の制御が回生から力行に向かう方向に補正する手段であるものとすることもできる。こうすれば、回転角検出センサに角度ズレが生じていても、電動機の予期しない回生制動を回避することができる。
【0010】
また、本発明の電動車両において、前記電動機は、三相交流電動機であり、前記状態検出センサは、前記電動機の相電流を検出する相電流検出センサであり、前記制御手段は、前記要求トルクに基づいてd−q座標系におけるd軸の電流指令とq軸の電流指令とを設定し、前記d軸の電流指令と前記相電流により得られるd軸電流と偏差に基づくフィードバック制御により該d軸の電圧指令を設定すると共に前記q軸電流指令と前記相電流により得られるq軸電流との偏差に基づくフィードバック制御により該q軸の電圧指令を設定し、該設定した各電圧指令に基づいて前記電動機を制御する手段であり、前記検出値補正手段は、前記検出された相電流を前記電動機の制御が回生から力行に向かうよう補正する手段であるものとすることもできる。こうすれば、相電流検出センサに誤差が含まれていても、電動機の予期しない回生制動を回避することができる。
【0011】
さらに、本発明の電動車両において、前記検出値補正手段は、前記二次電池が充電しているときに前記状態検出センサにより検出された検出値を前記電動機の制御が回生から力行に向かう方向に補正する手段であるものとすることもできる。
【0012】
また、本発明の電動車両において、前記検出値補正手段は、車速が所定車速以上のときに前記状態検出センサにより検出された検出値を前記電動機の制御が回生から力行に向かう方向に補正する手段であるものとすることもできる。
【0013】
また、本発明の電動車両において、前記制御手段は、矩形波制御と正弦波制御とを含む複数の制御モードを切り替えて前記電動機を制御する手段であり、前記検出値補正手段は、前記矩形波制御により前記電動機が制御されているときに前記状態検出センサにより検出された検出値を前記電動機の制御が回生から力行に向かう方向に補正する手段であるものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】電池温度Tbと入出力制限Win,Woutの基本値との関係の一例を示す説明図である。
【図3】蓄電割合SOCと補正係数との関係の一例を示す説明図である。
【図4】モータMG2を制御する制御ブロックの一例を示すブロック図である。
【図5】モータMG2の制御モードを設定するための制御モード設定用マップの一例を示す説明図である。
【図6】モータECU40により実行される回転角補正ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図7】d軸にマイナスの電流Idを流してモータMG2からトルクが出力されないようモータMG2を制御する際に制御に用いる回転角センサ44からの回転角θを補正する様子を示す説明図である。
【図8】モータECU40により実行される相電流補正ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図9】電流センサ46V,46Wからの相電流Iv,Iwにゲイン誤差が含まれている状態で座標変換した際の電流ベクトルを示す説明図である。
【図10】モータMG2のU相,V相,W相のいずれか2つの電流をセンサにより検出する場合に、モータMG2が回生するモータ回転方向と各相の電流検出値に含まれるゲイン誤差の符号との組み合わせを説明する説明図である。
【図11】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図12】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図13】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【図14】変形例のハイブリッド自動車420の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、例えばガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関として構成されたエンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して複数のピニオンギヤ33を連結したキャリア34が接続されると共に駆動輪39a,39bにギヤ機構37とデファレンシャルギヤ38とを介して連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aにリングギヤ32が接続されて遊星歯車機構として構成された3軸式の動力分配統合機構30と、例えば周知の同期発電電動機として構成されて動力分配統合機構30のサンギヤ31にロータが接続されたモータMG1と、例えば周知の同期発電電動機として構成されて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに減速ギヤ35を介してロータが接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するための駆動回路として構成されたインバータ41,42と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されインバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやり取りするバッテリ50と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0017】
エンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24によりその燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御がなされている。エンジンECU24には、エンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力されており、エンジンECU24からは、図示しないスロットルバルブや燃料噴射弁,点火プラグ,可変バルブタイミング機構などへの駆動制御信号が出力されている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。また、エンジンECU24は、図示しないクランクポジションセンサからのクランクポジションに基づいてクランクシャフト26の回転数、即ちエンジン回転数Neも演算している。
【0018】
モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転角センサ43,44からの信号や電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流Iv,Iwなどが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転角センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0019】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された電圧センサ51aからの端子間電圧Vb,バッテリ50の正極側の出力端子に取り付けられた電流センサ51bからの充放電電流Ib,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51cからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために、電流センサ51bにより検出された充放電電流Ibの積算値に基づいてバッテリ50から放電可能な蓄電量の全容量に対する割合としての蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりする。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。図2に電池温度Tbと入出力制限Win,Woutの基本値との関係の一例を示し、図3に蓄電割合SOCと補正係数との関係の一例を示す。ここで、図3に示すように、蓄電割合SOCが所定割合(例えば、80%など)以上のときには、入力制限用補正係数が値0となるため、基本値に入力制限用補正係数を乗じて設定される入力制限Winは値0となり、バッテリ50の充電が禁止される。
【0020】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号やシフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0021】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するモードであるから、以下、両者を合わせてエンジン運転モードとして考えることができる。
【0022】
エンジン運転モードでは、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに基づいてリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を設定する。続いて、設定した要求トルクTr*にリングギヤ軸32aの回転数Nr(例えば、モータMG2の回転数Nm2や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrvを計算すると共に計算した走行用パワーPdrvからバッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて得られるバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じてエンジン22から出力すべきパワーとしての要求パワーPe*を設定する。そして、要求パワーPe*を効率よくエンジン22から出力することができるエンジン22の回転数NeとトルクTeとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共にモータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときに動力分配統合機構30を介してリングギヤ軸32aに作用するトルクを要求トルクTr*から減じてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、設定した目標回転数Ne*と目標トルクTe*とについてはエンジンECU24に送信し、トルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを行ない、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0023】
モータ運転モードでは、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定する共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG2のトルク指令Tm2*を設定してモータECU40に送信する。そして、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0024】
また、実施例のハイブリッド自動車20では、モータECU40は、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2とトルク指令Tm1*,Tm2*とに基づいてそれぞれ複数の制御モードから1つの制御モードを選択してモータMG1,MG2が駆動されるようインバータ41,42をスイッチング制御する。図5に、モータMG2の制御モード設定用マップの一例を示す。図中、実線で示すように、回転数およびトルクが小さい領域から大きい領域への順に、三角波比較によるパルス幅変調(PWM)制御における三角波の振幅以下の振幅で正弦波状の相電圧指令Vu,Vv,Vwを生成して変換した擬似的三相交流電圧としてのPWM信号でインバータをスイッチングする正弦波制御モード,三角波の振幅を超えた振幅で正弦波状の電圧指令Vu,Vv,Vwを生成して変換した過変調電圧としてのPWM信号でインバータをスイッチングする過変調制御モード,トルク指令に応じた電圧位相をもつ矩形波状の電圧でインバータをスイッチングする矩形波制御モードが選択されるよう予め定められている。したがって、低回転数低トルクの領域で正弦波制御モードを用いることにより、モータMG2を応答性よく駆動することができ、高回転数高トルクの領域で矩形波制御モードを用いることにより、インバータ42への入力電圧に対する出力電圧(基本波成分の振幅)の割合である変調率(正弦波制御モード,過変調制御モード,矩形波制御モードの順で高くなる)を高くしてより大きいトルクを出力可能とすると共にインバータ42のスイッチング損失などを低減することができる。なお、モータMG1の制御モードについても同様に定められている。
【0025】
また、実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の駆動制御は、図4に例示する制御ブロックに従って行なわれる。モータECU40は、まず、トルク指令Tm2*に基づいてトルク指令に対応する電流指令の関係を予め定めた電流指令テーブル61を用いてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定し、設定した電流指令Id*,Iq*と電流フィードバックのために得られるフィードバック用電流Id,Iqとの差分ΔId,ΔIqを加減器62d,62qにより演算し、演算した差分ΔId,ΔIqに基づいて電圧指令変換器63d,63qにより電圧指令Vd,Vqを生成する。続いて、回転角センサ44により検出されたモータMG2の回転角θを用いて座標変換器64により電圧指令Vd,Vqに2相3相変換を適用して相電圧指令Vu,Vv,Vwを生成し、相電圧指令Vu,Vv,Vwに基づいてPWM変換器66によりパルス幅変調信号を生成する。そして、生成したパルス幅変調制御信号に基づいてインバータ42のトランジスタをスイッチングすることによって直流電力を三相交流電力としてモータMG2に印加する。電流フィードバックのために得られるフィードバック用電流Id,Iqは、回転角センサ44からの回転角θを用いて座標変換器68により電流センサ46V,46Wから得られる相電流Iv,Iwに3相2相変換を適用することによって生成する。ここで、モータMG2は、その回転数(車速V)の上昇に伴って生じる逆起電力がインバータ42に入力される電圧を超えて要求トルクが出力できなくなるのを防止するために弱め界磁制御が行なわれる。この弱め界磁制御では、界磁の力を弱めるためにd軸に対して電流を印加することにより行なわれる。なお、モータMG1についても図4と同様の制御ブロックを用いて駆動制御されている。
【0026】
次に、実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、モータMG2からトルクが出力されない、即ちd軸だけに電流が流れるようにモータMG2を駆動制御している最中に回転角センサ44により検出されるモータMG2の回転角θを補正する動作について説明する。このルーチンは、所定時間(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0027】
回転角補正ルーチンが実行されると、モータECU40のCPUは、アクセル開度Accや車速V,バッテリ50の入力制限Win,充放電電流Ib,回転角センサ44からのモータMG2の回転角θなどのデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、アクセル開度Accと車速Vは、アクセルペダルポジションセンサ84と車速センサ88により検出されたものをハイブリッド用電子制御ユニット70から通信により入力するものとした。入力制限Winは、電池温度Tbと蓄電割合SOCとに基づいて設定されたものをバッテリECU52により通信により入力するものとした。充放電電流Ibは、電流センサ51bにより検出されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。
【0028】
続いて、入力した入力制限Winが0kw、即ち、バッテリ50の充電が禁止されているか否か(ステップS110)、車速Vが弱め界磁制御が必要な所定車速(例えば、100km/hなど)Vrefよりも大きいか否か(ステップS120)、アクセル開度Accがアクセルオフとみなせる所定開度(例えば、10%など)Arefよりも小さいか否か(ステップS130)、バッテリ50の充放電電流Ibが値0よりも小さいか否か、即ち、バッテリ50が充電しているか否か(ステップS140)、現在の制御モードが矩形波制御モードであるか否か(ステップS150)をそれぞれ判定する。ステップS110〜S150のの判定のうちいずれかが否定的な判定のときには、回転角θの補正をすることなく、本ルーチンを終了する。一方、ステップS110〜S150の判定のうちいずれもが肯定的な判定のときには、d軸にマイナス方向の電流Idを流すと共にq軸に電流が流れないよう(即ち、モータMG2からトルクが出力されないよう)にモータMG2を制御する際にモータMG2の回転方向が正転方向か逆転方向かを判定する(ステップS160)。モータMG2の回転方向が正転方向のときには、補正角Δθにマイナスの値−βを設定し(ステップS170)、モータMG2の回転方向が逆転方向のときには、補正角Δθにプラスの値βを設定し(ステップS180)、設定した補正角Δθを入力した回転角θに加えることにより回転角θを補正して(ステップS190)、本ルーチンを終了する。
【0029】
図7は、d軸にマイナス方向の電流Idを流すと共にq軸に電流が流れないようモータMG2を制御する際に制御に用いる回転角センサ44からの回転角θを補正する様子を示す説明図である。なお、図7(a)は、モータMG2の正転時の補正の様子を示し、図7(b)は、モータMG2の逆転時の補正の様子を示す。いま、モータMG2の正転時に回転角センサ44からの回転角θに正転(プラス)方向のオフセット誤差αが含まれている場合を考える。この場合、d軸だけにマイナス方向の電流が流れるようモータMG2を制御しても、実際にモータMG2に流れる電流のベクトルの方向はd軸から角度αだけ正転側にズレたdc軸上の方向となる。このため、本来の正しいd軸およびq軸を基準として考えると、モータMG2には、d軸にマイナス方向の電流が流れるだけでなく、q軸にもマイナス方向の電流が流れ、モータMG2からマイナス方向のトルクが出力される。この場合、モータMG2の正転時には、回転の方向とトルクの方向とが逆方向となるから、モータMG2が回生してしまう。実施例では、モータMG2の正転時には、誤差αにマイナスの符号を付した値−βを補正角Δθに設定して回転角θを補正することにより、q軸にマイナス方向の電流が発生するのを防止し、モータMG2が意図せずに回生しないようにしているのである。ここで、値−βは、実施例では、回転角センサ44に原点に対する設計上の最大誤差よりも若干大きな値に定められている。したがって、回転角センサ44に設計上の最大誤差が含まれていても、回転角センサ44からの回転角θを補正角Δθで補正した回転角θに基づいてd軸だけに電流が流れるようにモータMG2を制御したときに、q軸にマイナス方向の電流が流れることはなく、モータMG2が回生することはない。次に、モータMG2の逆転時に回転角センサ44からの回転角θに逆転(マイナス)方向のオフセット誤差−αが含まれている場合を考える。この場合、d軸だけにマイナスの電流が流れるようモータMG2を制御しても、実際にモータMG2に流れる電流のベクトルの方向はd軸から角度αだけ逆転側にズレだdc軸上の方向となる。このため、本来の正しいd軸およびq軸を基準として考えると、モータMG2には、d軸にマイナス方向の電流が流れるだけでなく、q軸にプラス方向の電流が流れ、モータMG2からプラス方向のトルクが出力される。この場合、モータMG2の逆転時には、回転の方向とトルクの方向とが逆方向となるから、モータMG2が回生してしまう。実施例では、モータMG2の逆転時には、誤差−αにマイナスの符号を付した値βを補正角Δθに設定して回転角θを補正することにより、q軸にプラス方向の電流が発生するのを防止し、モータMG2が意図せずに回生しないようにしているのである。なお、モータMG2の正転時に回転角センサ44に逆転方向のオフセット誤差が含まれている場合(即ち、d軸だけに電流が流れるようモータMG2を制御したときにq軸にプラス方向の電流が流れてモータMG2が力行する場合)やモータMG2の逆転時に回転角センサ44に正転方向のオフセット誤差が含まれている場合(即ち、d軸だけに電流が流れるようモータMG2を制御したときにq軸にマイナス方向の電流が流れてモータMG2が力行する場合)も、同様に、回転角θの補正が施されるため、モータMG2からは力行を助長するトルクが出力されるが、こうした補正は回転角センサ44の誤差に対応する僅かな量であるから、問題は生じない。
【0030】
次に、モータMG2からトルクが出力されない、即ちd軸だけに電流が流れるようにモータMG2を駆動制御している最中に電流センサ46V,46Wにより検出される相電流Iv,Iwを補正する動作について説明する。図8は、モータECU40により実行される相電流補正ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0031】
相電流補正ルーチンが実行されると、モータECU40のCPUは、アクセル開度Accや車速V,バッテリ50の入力制限Win,充放電電流Ib,電流センサ46V,46Wからの相電流Iv,Iwなどのデータを入力する処理を実行する(ステップS200)。続いて、
【0032】
続いて、図6の回転角補正ルーチンのステップS110〜S150と同様に、入力した入力制限Winが0kwか否か(ステップS210)、車速Vが所定車速Vrefよりも大きいか否か(ステップS220)、アクセル開度Accが所定開度Arefよりも小さいか否か(ステップS230)、バッテリ50の充放電電流Ibが値0よりも小さいか否か(ステップS240)、現在の制御モードが矩形波制御モードであるか否か(ステップS250)をそれぞれ判定する。ステップS210〜S250のの判定のうちいずれかが否定的な判定のときには、電流センサ46V用の補正ゲインであるゲインkvと電流センサ46W用の補正ゲインであるゲインkwとにそれぞれ予め定められた適合値kを設定する(ステップS260)。一方、ステップS210〜S250の判定のうちいずれもが肯定的な判定のときには、モータMG2の回転方向が正転方向か逆転方向かを判定する(ステップS270)。モータMG2の回転方向が正転方向のときには、ゲインkvに値kに補正値Δkを加えたものを設定すると共にゲインkwに値kから補正値Δkを減じたものを設定し(ステップS280)、モータMG2の回転方向が逆転方向のときには、ゲインkvに値kから補正値Δkを減じたものを設定すると共にゲインkwに値kに補正値Δkを加えたものを設定し(ステップS290)。そして、入力した相電流Ivにゲインkvを乗じたものを制御に用いる相電流Ivに設定すると共に入力した相電流Iwにゲインkwを乗じたものを制御に用いる相電流Iwに設定して(ステップS300)、本ルーチンを終了する。なお、制御用の相電流Iv,Iwが設定されると、ステップS210〜S250が成立しているときには、d軸にマイナス方向の電流が流れ、q軸に電流が流れないよう(即ち、モータMG2からトルクが出力されないよう)に電流指令Id*,Iq*を設定し、制御用の相電流Iv,Iwを座標変換してフィードバック用電流Id,Iqを生成し、電流指令Id*,Iq*とフィードバック電流Id,Iqとに基づいてフィードバック制御によりモータMG2を制御する。
【0033】
図9は、電流センサ46V,46Wからの相電流Iv,Iwにゲイン誤差が含まれている状態で座標変換した際の電流ベクトルを示す説明図である。なお、図9(a)は、モータMG2の正転時の様子を示し、図9(b)は、モータMG2の逆転時の様子を示す。いま、モータMG2が正転している場合を考える。電流指令Id*にマイナスの値を設定し電流指令Iq*に値0を設定すると、電流センサ46V,46Wにゲイン誤差が含まれていなければ、電流センサ46V,46Wにより検出された相電流Iv,Iwを座標変換して得られるフィードバック用電流Id,Iqと電流指令Id*,Iq*との偏差に基づく電流フィードバック制御によりモータMG2を制御したときに、d軸にだけマイナス方向の電流が流れる。しかしながら、V相の電流センサ46Vにマイナス側のゲイン誤差が含まれ、W相の電流センサ46Wにプラス側のゲイン誤差が含まれていると、図9(a)に示すように、モータMG2にはd軸にマイナス方向の電流が流れるだけでなく、q軸にもマイナス方向の電流が流れ、モータMG2からマイナス方向のトルクが出力される。この場合、モータMG2の正転時には、回転の方向とトルクの方向とが逆方向となるから、モータMG2が回生してしまう。実施例では、モータMG2の正転時には、V相の相電流Ivをプラス側にゲイン補正すると共にW相の相電流Iwをマイナス側にゲイン補正することで、q軸にマイナス方向の電流が発生するのを防止し、モータMG2が意図せずに回生しないようにしているのである。次に、モータMG2が逆転している場合を考える。この場合も、電流指令Id*にマイナスの値を設定し電流指令Iq*に値0を設定してモータMG2を電流フィードバック制御すると、電流センサ46V,46Wにゲイン誤差が含まれていなければ、d軸にだけマイナス方向の電流が流れる。しかしながら、V相の電流センサ46Vにプラス側のゲイン誤差が含まれ、W相の電流センサ46Wにマイナス側のゲイン誤差が含まれていると、図9(b)に示すように、モータMG2にはd軸にマイナス方向の電流が流れるだけでなく、q軸にプラス方向の電流が流れ、モータMG2からプラス方向のトルクが出力される。この場合、モータMG2の逆転時には、回転の方向とトルクの方向とが逆方向となるから、モータMG2が回生してしまう。実施例では、モータMG2の逆転時には、V相の相電流Ivをマイナス側にゲイン補正すると共にW相の相電流Iwをプラス側にゲイン補正することで、q軸にプラス方向の電流が発生するのを防止し、モータMG2が意図せずに回生しないようにしているのである。なお、前述した回転角θの補正と同様に、電流センサ46V,46Wのゲイン誤差はプラス,マイナスいずれの方向にも生じ得るため、ゲイン誤差の方向によっては、ゲイン補正を施すと、モータMG2から力行を助長するトルクが出力される場合があるが、ゲイン補正は電流センサ46V,46Wの誤差に対応する僅かな量であるから、問題は生じない。
【0034】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、d軸にマイナス方向の電流を流すと共にq軸に電流が流れないようにしてモータMG2を制御する際には、制御に用いる回転角センサ44からの回転角θを、モータMG2の正転時には逆転方向に補正し、モータMG2の逆転時には正転方向に補正することにより、回転角θをモータMG2の制御が回生から力行に向かう方向に補正するから、回転角センサ44にオフセット誤差が含まれていても、補正した回転角θに基づいてモータMG2を制御することにより、q軸にモータMG2の回転方向とは逆方向の電流が流れない、即ち回生トルクが出力されないようにすることができる。この結果、モータMG2が予期せずに回生するのを防止することができ、バッテリ50に過充電が生じるのをより確実に抑止することができる。
【0035】
また、実施例のハイブリッド自動車20によれば、d軸にマイナス方向の電流を流すと共にq軸に電流が流れないようにしてモータMG2を制御する際には、モータMG2の正転時には電流センサ46VからのV相の相電流Ivをプラス側にゲイン補正すると共に電流センサ46WからのW相の相電流Iwをマイナス側にゲイン補正し、モータMG2の逆転時には電流センサ46VからのV相の相電流Ivをマイナス側にゲイン補正すると共に電流センサ46WからのW相の相電流Iwをプラス側にゲイン補正することにより、相電流Iv,IwをモータMG2の制御が回生から力行へ向かう方向に補正するから、電流センサ46V,46Wにゲイン誤差が含まれていても、補正した相電流Iv,Iwに基づいてモータMG2を制御することにより、q軸にモータMG2の回転方向とは逆方向の電流が流れない、即ち回生トルクが出力されないようにすることができる。この結果、モータMG2が予期せずに回生するのを防止することができ、バッテリ50に過充電が生じるのをより確実に抑止することができる。
【0036】
実施例のハイブリッド自動車20では、d軸にマイナス方向の電流Idが流れるよう電流指令Id*を設定することによりモータMG2からトルクが出力されないよう制御するものとしたが、d軸にプラス方向の電流Idが流れるよう電流指令Id*を設定するものとしてもよい。このとき、制御に用いる回転角センサ44からの回転角θを補正する場合には、モータMG2の正転時には正転方向に補正し、モータMG2の逆転時には逆転方向に補正するものとすればよく、制御に用いる電流センサ46V,46Wからの相電流Iv,Iwを補正する場合には、モータMG2の正転時にはV相の相電流Ivをマイナス側にゲイン補正すると共にW相の相電流Iwをプラス側にゲイン補正し、モータMG2の逆転時にはV相の相電流Ivをプラス側にゲイン補正すると共にW相の相電流Iwをマイナス側にゲイン補正するものとすればよい。
【0037】
実施例のハイブリッド自動車20では、回転角センサ44からの回転角θに対する補正と、電流センサ46V,46Wからの相電流Iv,Iwに対する補正の双方を実行するものとしたが、いずれか一方だけの補正を実行するものとしてもよい。
【0038】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2のV相コイルを流れる電流を検出する電流センサ46VからのV相の相電流IvとW相コイルを流れる電流を検出する電流センサ46WからのW相の相電流Iwとを用いてフィードバック用電流Id,Iqを生成してモータMG2を制御するものとしたが、これに限られず、モータMG2のU相コイルとV相コイルとに電流センサをそれぞれ取り付けるものとしU相の電流センサにより検出されるU相の相電流IuとV相の電流センサにより検出されるV相の相電流Ivとを用いてモータMG2を制御するものとしてもよいし、モータMG2のU相コイルとW相コイルとに電流センサをそれぞれ取り付けるものとしU相の電流センサにより検出されるU相の相電流IuとW相の電流センサにより検出されるW相の相電流Iwとを用いてモータMG2を制御するものとしてもよい。図10に、モータMG2のU相,V相,W相のいずれか2つの電流をセンサにより検出する場合に、モータMG2が回生するモータ回転方向と各相の電流検出値に含まれるゲイン誤差の符号との組み合わせを示す。ここで、V相の相電流IvとW相の相電流IwとがモータMG2の制御に用いられる実施例の組み合わせは、モータMG2の正転時には図中の「2」の組み合わせが該当し、モータMG2の逆転時には図中の「5」の組み合わせが該当する。なお、図10の組み合わせは、いずれも、d軸にマイナス方向の電流を流す場合を示しており、d軸にプラス方向の電流を流す場合にはq軸電流の符号が逆となり、ゲイン補正の方向も逆となる。U相の相電流IuとV相の相電流IvとがモータMG2の制御に用いられる組み合わせは、モータMG2の正転時には、U相の相電流Iuにマイナス側のゲイン誤差が含まれV相の相電流Ivにプラス側のゲイン誤差が含まれているときに、d軸に電流が流れq軸に電流が流れないよう電流フィードバック制御によりモータMG2を制御してもq軸にマイナス方向の電流が流れてモータMG2が回生し(図10中の「1」参照)、モータMG2の逆転時には、U相の相電流Iuにプラス側のゲイン誤差が含まれV相の相電流Ivにマイナス側のゲイン誤差が含まれているときに、d軸に電流が流れq軸に電流が流れないよう電流フィードバック制御によりモータMG2を制御してもq軸にプラス方向の電流が流れてモータMG2が回生する(図10中の「4」参照)。したがって、モータMG2の正転時には、U相の相電流Iuをプラス側にゲイン補正すると共にV相の相電流Ivをマイナス側にゲイン補正し、モータMG2の逆転時には、U相の相電流Iuをマイナス側にゲイン補正すると共にV相の相電流Ivをプラス側にゲイン補正すればよい。また、U相の相電流IuとW相の相電流IwとがモータMG2の制御に用いられる組み合わせは、モータMG2の正転時には、U相の相電流Iuにプラス側のゲイン誤差が含まれW相の相電流Iwにマイナス側のゲイン誤差が含まれているときに、d軸に電流が流れq軸に電流が流れないよう電流フィードバック制御によりモータMG2を制御してもq軸にマイナス方向の電流が流れてモータMG2が回生し(図10中の「3」参照)、モータMG2の逆転時には、U相の相電流Iuにマイナス側のゲイン誤差が含まれW相の相電流Iwにプラス側のゲイン誤差が含まれているときに、d軸に電流が流れq軸に電流が流れないよう電流フィードバック制御によりモータMG2を制御してもq軸にプラス方向の電流が流れてモータMG2が回生する(図10中の「6」参照)。したがって、モータMG2の正転時には、U相の相電流Iuをマイナス側にゲイン補正すると共にW相の相電流Iwをプラス側にゲイン補正し、モータMG2の逆転時には、U相の相電流Iuをプラス側にゲイン補正すると共にW相の相電流Iwをマイナス側にゲイン補正すればよい。
【0039】
実施例のハイブリッド自動車20では、回転角センサからの回転角θの補正や電流センサからの相電流の補正を行なう条件として、入力制限Winが0kwか否か、車速Vが所定車速Vrefよりも大きいか否か、アクセルオフか否か、バッテリ50の充放電電流Ibが値0よりも小さいか否か、現在の制御モードが矩形波制御モードであるか否かを判定するものとしたが、これらの条件のうち入力制限Winが0kwである条件を除く他の条件の一部または全部を省略するものとしてもよい。また、入力制限Winが0kwであるか否かの判定に代えて、蓄電割合SOCがバッテリ50の充電が禁止される所定割合以上か否かを直接判定するものとしてもよい。
【0040】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図11の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2の動力を駆動軸が接続された車軸(駆動輪39a,39bが接続された車軸)とは異なる車軸(図11における車輪39c,39dに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
【0041】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の動力を動力分配統合機構30を介して駆動輪39a,39bに接続された駆動軸に出力するものとしたが、図12の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と駆動輪39a,39bに動力を出力する駆動軸に接続されたアウターロータ234とを有し、エンジン22の動力の一部を駆動軸に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。
【0042】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力を動力分配統合機構30を介して駆動輪39a,39bに接続された駆動軸に出力すると共にモータMG2からの動力を駆動軸に出力するものとしたが、図13の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動輪39a,39bに接続された駆動軸に変速機330を介してモータMGを取り付け、モータMGの回転軸にクラッチ329を介してエンジン22を接続する構成とし、エンジン22からの動力をモータMGの回転軸と変速機330とを介して駆動軸に出力すると共にモータMGからの動力を変速機330を介して駆動軸に出力するものとしてもよい。あるいは、図14の変形例のハイブリッド自動車420に例示するように、エンジン22からの動力を変速機430を介して駆動輪39a,39bに接続された駆動軸に出力すると共にモータMGからの動力を駆動輪39a,39bが接続された車軸とは異なる車軸(図14における車輪39a,39bに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。即ち、エンジンと走行用の動力を出力する電動機とを備えるものであれば如何なるタイプのハイブリッド自動車としてもよいのである。
【0043】
実施例では、本発明をハイブリッド自動車20の形態として説明したが、走行用の動力源としてモータのみを備える電気自動車してもよいし、自動車以外の車両の形態としてもよい。
【0044】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータMG2が「電動機」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当し、回転角センサ44や電流センサ46V,46Wが「状態検出センサ」に相当し、トルク指令Tm2*に基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定し、設定した電流指令Id*,Iq*と電流フィードバックのために得られるフィードバック用電流Id,Iqとの差分ΔId,ΔIqに基づくフィードバック制御によりインバータ42をスイッチング制御するモータECU40が「制御手段」に相当し、図6の回転角補正ルーチンや図8の相電流補正ルーチンを実行するモータECU40が「検出値補正手段」に相当する。ここで、「電動機」としては、同期発電電動機として構成されたモータMG2に限定されるものではなく、誘導電動機など、走行用の動力を出力可能なものであれば如何なるタイプの電動機であっても構わない。また、「二次電池」としては、リチウムイオン二次電池に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池など如何なるタイプの二次電池であっても構わない。「状態検出センサ」としては、回転角センサ44や電流センサ46V,46Wに限定されるものではなく、電動機の制御に用いられる電動機の状態を検出するものであれば如何なるセンサであっても構わない。
【0045】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0046】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、電動車両の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
20,120,220,320 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、37 ギヤ機構、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、39c,39d 車輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転角センサ、50 バッテリ、51a 電圧センサ、51b 電流センサ、51c 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 ブレーキマスターシリンダ、92 ブレーキアクチュエータ、94 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU)、96a〜96d ブレーキホイールシリンダ、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、329 クラッチ、330,430 変速機、MG,MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力を入出力可能な電動機と、該電動機と電力のやり取りが可能な二次電池と、前記電動機の状態を検出する状態検出センサと、前記電動機に要求される要求トルクと前記電動機の状態とに基づいて該電動機を制御する制御手段とを備える電動車両であって、
前記二次電池の蓄電割合が所定割合以上のときには、前記状態検出センサにより検出された検出値を前記電動機の制御が回生から力行に向かう方向に補正する検出値補正手段を備える
ことを特徴とする電動車両。
【請求項2】
請求項1記載の電動車両であって、
前記状態検出センサは、前記電動機の回転角を検出する回転角検出センサであり、
前記制御手段は、前記要求トルクに基づいて前記電動機の回転角を基準としたd−q座標系におけるd軸の電流指令とq軸の電流指令とを設定し、該設定した各電流指令に基づいて前記電動機を制御する手段であり、
前記検出値補正手段は、前記検出された電動機の回転角を該電動機の制御が回生から力行に向かう方向に補正する手段である
ことを特徴とする電動車両。
【請求項3】
請求項1または2記載の電動車両であって、
前記電動機は、三相交流電動機であり、
前記状態検出センサは、前記電動機の相電流を検出する相電流検出センサであり、
前記制御手段は、前記要求トルクに基づいてd−q座標系におけるd軸の電流指令とq軸の電流指令とを設定し、前記d軸の電流指令と前記相電流により得られるd軸電流と偏差に基づくフィードバック制御により該d軸の電圧指令を設定すると共に前記q軸電流指令と前記相電流により得られるq軸電流との偏差に基づくフィードバック制御により該q軸の電圧指令を設定し、該設定した各電圧指令に基づいて前記電動機を制御する手段であり、
前記検出値補正手段は、前記検出された相電流を前記電動機の制御が回生から力行に向かうよう補正する手段である
ことを特徴とする電動車両。
【請求項4】
前記検出値補正手段は、前記二次電池が充電しているときに前記状態検出センサにより検出された検出値を前記電動機の制御が回生から力行に向かう方向に補正する手段であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項に記載の電動車両。
【請求項5】
前記検出値補正手段は、車速が所定車速以上のときに前記状態検出センサにより検出された検出値を前記電動機の制御が回生から力行に向かう方向に補正する手段であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項に記載の電動車両。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1項に記載の電動車両であって、
前記制御手段は、矩形波制御と正弦波制御とを含む複数の制御モードを切り替えて前記電動機を制御する手段であり、
前記検出値補正手段は、前記矩形波制御により前記電動機が制御されているときに前記状態検出センサにより検出された検出値を前記電動機の制御が回生から力行に向かう方向に補正する手段である
ことを特徴とする電動車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2013−5582(P2013−5582A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134059(P2011−134059)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】