説明

電動駆動システム

【課題】潤滑油の量を少なくしつつ差動装置の焼き付きを防止する。
【解決手段】モータ軸34の回転数を検出するレゾルバ38と、第1出力軸58の回転数を検出するMRセンサ63と、レゾルバ38からのモータ回転数MnとMRセンサ63からの第1出力軸回転数Rnとに基づき、各出力軸58,59の回転数差を算出する回転数差算出部74aと、回転数差が回転数差閾値以上のときに、モータ軸34の駆動力を制御して回転数差の増大を抑える駆動力制御部74bとを設けた。よって、各出力軸58,59の回転数差が回転数差閾値以上に大きくなるような差動装置50の高速動作を抑制することができ、モータ軸34と各出力軸58,59とを同軸上に設けた配置構造を採用しつつ、潤滑油の量を少なくしたとしても差動装置50の焼き付きを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車等に搭載され、特に電動モータと差動装置とを備えた駆動ユニットを有する電動駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車等に搭載される電動駆動システムとしては、電動モータと差動装置とを備えた駆動ユニットを有するものが知られている。電動モータの駆動力は差動装置を介して車両の左右側に設けられた各駆動輪に伝達され、差動装置は、車両のコーナリング時等における左右側の各駆動輪間で生じる速度差(内輪差)を吸収するようになっている。
【0003】
駆動ユニットは各駆動輪の間に設けられ、電動モータおよび差動装置は、車両側の配置スペース等に応じてレイアウトされる。例えば、特許文献1に記載された技術においては、電動モータのモータ軸と差動装置に連結される左右側の出力軸とを、それぞれ平行となるよう別軸上に設けた配置構造を採用している(タイプA)。また、特許文献2,3に記載された技術においては、電動モータのモータ軸と差動装置に連結される左右側の出力軸とを、それぞれ同軸上に設けた配置構造を採用している(タイプB)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−175455号公報(図3)
【特許文献2】特開平08−048164号公報(図1)
【特許文献3】特開2005−125920号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
配置構造をタイプA(特許文献1)とした場合には、電動モータおよび差動装置を車両の上下方向に互いに離間させて配置し、差動装置のみを潤滑油に浸かるようにすることができ、これにより差動装置の焼き付きを防止することができる。その反面、車両の上下方向に比較的大きな配置スペースが必要となるため、車両のデザイン性が低下する等の問題が生じ得る。
【0006】
配置構造をタイプB(特許文献2,3)とした場合には、車両の上下方向への配置スペースを小さくして車両のデザイン性を向上させることができる。その反面、電動モータおよび差動装置が車両の上下方向に対して同じ高さ位置に配置されるため、差動装置および電動モータの双方が潤滑油に浸かるようになる。電動モータを潤滑油雰囲気で使用すると、潤滑油の攪拌抵抗による電動モータの回転抵抗の増大や、油温上昇による潤滑油の早期劣化等の問題が生じ得る。
【0007】
そこで、タイプBの配置構造において潤滑油の量を少なくして、電動モータを潤滑油に浸からないようにすることも考えられる。しかしながらこの場合には、差動装置も潤滑油に浸からなくなるため、車両の停車中等において差動装置から潤滑油が滴下して、差動装置に保持させておくべき潤滑油の量が不足した状態となる。このような潤滑油不足の状態のもとで、差動装置を高速動作、つまり左右の出力軸の回転数差が大きくなるよう動作させると、差動装置の焼き付きが発生する虞がある。
【0008】
本発明の目的は、潤滑油の量を少なくしつつ差動装置の焼き付きを防止することができる電動駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電動駆動システムは、ステータおよびロータを有する電動モータと、前記ロータに一体に設けられるモータ軸と、前記モータ軸と同軸上に設けられる一対の出力軸と、前記モータ軸の駆動力を前記各出力軸に配分する差動装置とを備えた駆動ユニットと、前記駆動ユニットを制御するコントローラとを備えた電動駆動システムであって、前記モータ軸の回転数を検出する第1回転数検出手段と、前記各出力軸のうちの何れか一方の回転数を検出する第2回転数検出手段と、前記コントローラに設けられ、前記第1回転数検出手段の検出回転数と前記第2回転数検出手段の検出回転数とに基づき、前記各出力軸の回転数差を算出する回転数差算出手段と、前記コントローラに設けられ、前記回転数差が所定値以上のときに、前記モータ軸の駆動力を制御して前記回転数差の増大を抑える駆動力制御手段とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明の電動駆動システムは、前記差動装置は、前記モータ軸の駆動力が伝達されるケーシングと、前記ケーシング内に設けられて前記モータ軸と直交する歯車軸と、前記歯車軸に回動自在に設けられる第1歯車と、前記各出力軸に設けられて前記第1歯車と噛合する一対の第2歯車とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の電動駆動システムは、前記モータ軸を中空構造とし、前記各出力軸のうちの何れか一方を前記モータ軸の中空部に貫通させて設け、前記第2回転数検出手段は、前記モータ軸を貫通する前記出力軸の回転数を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電動駆動システムによれば、モータ軸の回転数を検出する第1回転数検出手段と、各出力軸のうちの何れか一方の回転数を検出する第2回転数検出手段と、第1回転数検出手段の検出回転数と第2回転数検出手段の検出回転数とに基づき、各出力軸の回転数差を算出する回転数差算出手段と、回転数差が所定値以上のときに、モータ軸の駆動力を制御して回転数差の増大を抑える駆動力制御手段とを有する。
【0013】
したがって、各出力軸の回転数差が所定値以上に大きくなるような差動装置の高速動作を抑制することができ、モータ軸と各出力軸とを同軸上に設けた配置構造を採用しつつ潤滑油の量を少なくしたとしても差動装置の焼き付きを防止することができる。これにより駆動ユニットの小型化および耐久性の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る電動駆動システムを搭載した電気自動車の模式図である。
【図2】図1の駆動ユニットの詳細構造を示す断面図である。
【図3】図2の駆動ユニットの下部側を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図4】電動駆動システムの制御内容を示すフローチャートである。
【図5】ギヤ機構収容室内での潤滑油の流れを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明に係る電動駆動システムを搭載した電気自動車の模式図を、図2は図1の駆動ユニットの詳細構造を示す断面図を、図3は図2の駆動ユニットの下部側を拡大して示す部分拡大断面図をそれぞれ表している。
【0017】
図1に示すように、電気自動車10には電動駆動システム11が搭載され、電動駆動システム11は駆動ユニット20を備えている。駆動ユニット20は、電気自動車10の車体前方に設けられ、駆動輪としての右側前輪12aと左側前輪12bとの間に配置されている。このように本実施の形態に係る電気自動車10は、駆動ユニット20により各前輪12a,12bを駆動する前輪駆動方式を採用している。
【0018】
右側前輪12aには、右側ドライブシャフト13aの一端側がユニバーサルジョイント(図示せず)を介して一体回転可能に連結され、左側前輪12bには、左側ドライブシャフト(他方の出力軸)13bの他端側がユニバーサルジョイントを介して一体回転可能に連結されている。各ドライブシャフト13a,13bはそれぞれ同軸上に配置され、駆動ユニット20には、右側ドライブシャフト13aの他端側および左側ドライブシャフト13bの一端側が連結されている。
【0019】
駆動ユニット20は、図2に示すように電動モータ30とギヤ機構40とを備え、電動モータ30およびギヤ機構40は、何れも共通のユニットケース21内に収容されている。ユニットケース21は、右側ドライブシャフト13a側に設けられる第1壁部22と、左側ドライブシャフト13b側に設けられる第2壁部23と、第1壁部22と第2壁部23との間に設けられる中央壁部24とを備えている。中央壁部24は、ユニットケース21内を、電動モータ収容室21aとギヤ機構収容室21bとに画成している。
【0020】
電動モータ収容室21aには、複数の鋼板(図示せず)を積層して略円筒状に形成されたステータ(固定子)31が設けられ、ステータ31には所定の巻き数および巻き方でコイル32が巻装されている。ステータ31の内側には、所定の隙間を介して鋼材等よりなるロータ(可動子)33が回転自在に設けられ、ロータ33の回転中心には、中空構造のモータ軸34が一体に設けられている。モータ軸34の一端側(図中右側)は、第1壁部22のボス部22aに装着されたラジアル軸受35に回動自在に支持され、モータ軸34の他端側(図中左側)は、中央壁部24のボス部24aに装着されたラジアル軸受36に回動自在に支持されている。
【0021】
モータ軸34の他端部には小径ギヤ37が一体に設けられ、小径ギヤ37には、ギヤ部材41の第1ギヤ42が噛み合わされている。モータ軸34の小径ギヤ37とロータ33との間には、モータ軸34(ロータ33)の回転数を検出するレゾルバ(第1回転数検出手段)38が設けられ、レゾルバ38は、通電線38aを介してインバータ72(図1参照)に電気的に接続されている。
【0022】
ギヤ機構収容室21bには、第1ギヤ42と第2ギヤ43とを備えたギヤ部材41が回動自在に設けられている。ギヤ部材41は、モータ軸34から所定距離オフセットして車体上方に配置され、ギヤ部材41の一端側は、中央壁部24に装着されたラジアル軸受44に回動自在に支持され、ギヤ部材41の他端側は、第2壁部23に装着されたラジアル軸受45に回動自在に支持されている。なお、第2ギヤ43の直径寸法は、第1ギヤ42の直径寸法よりも小径に設定され、さらにモータ軸34の小径ギヤ37の直径寸法と略同じ直径寸法に設定されている。
【0023】
ギヤ機構収容室21bには、ギヤ部材41に加えて差動装置50が回動自在に収容され、差動装置50は、モータ軸34の駆動力を第1出力軸58および第2出力軸59に配分するようになっている。差動装置50は略球状に形成されたケーシング51を備え、ケーシング51には、当該ケーシング51の内外を連通する複数のケース窓(図示せず)が設けられている。ケーシング51の一端側は、中央壁部24のボス部24aに装着されたラジアル軸受52に回動自在に支持され、ケーシング51の他端側は、第2壁部23のボス部23aに装着されたラジアル軸受53に回動自在に支持されている。
【0024】
ケーシング51の一端側には、ギヤ部材41の第2ギヤ43に噛み合う差動ギヤ54が固定され、これによりケーシング51には、小径ギヤ37,ギヤ部材41および差動ギヤ54を介してモータ軸34の駆動力が伝達される。差動ギヤ54の直径寸法は、ギヤ部材41の第1ギヤ42の直径寸法と略同じ直径寸法に設定され、モータ軸34の回転は、小径ギヤ37,第1ギヤ42,第2ギヤ43および差動ギヤ54により減速されて高トルク化される。つまり、小径ギヤ37,第1ギヤ42,第2ギヤ43および差動ギヤ54は減速機構を形成している。
【0025】
ケーシング51内には、モータ軸34の軸方向と直交する方向に延びる円筒状の歯車軸55が設けられている。歯車軸55の両端側には、一対の第1傘歯車(第1歯車)56が回動自在に設けられ、各第1傘歯車56の歯部はそれぞれ略45°の傾斜角度を持ってケーシング51内に向けられている。各第1傘歯車56の背面には、所定の曲率半径を有する球面部56aが設けられ、各球面部56aは、ケーシング51の各球面部56aと対向する箇所に設けられた球面部51aに摺動自在に支持されている。なお、各球面部51aの曲率半径は各球面部56aの曲率半径と同じ曲率半径に設定されている。
【0026】
ケーシング51内には、歯車軸55を挟むようにして一対の第2傘歯車(第2歯車)57が設けられている。各第2傘歯車57の歯部は、それぞれ略45°の傾斜角度を持ってケーシング51内に向けられて、各第1傘歯車56の歯部に噛み合わされている。各第2傘歯車57の回転中心には、モータ軸34と同軸上に設けられる第1出力軸(出力軸)58の他端部および第2出力軸(出力軸)59の一端部が、それぞれ一体回転可能に連結されている。
【0027】
第1出力軸58の長さ寸法は、第2出力軸59の長さ寸法よりも長い長さ寸法に設定され、第1出力軸58はモータ軸34の中空部34aを貫通している。第1出力軸58の一端側は、第1壁部22のボス部22aを介してユニットケース21外に延出され、第1出力軸58の一端側には右側ドライブシャフト13a(図1参照)が連結される。第1出力軸58とボス部22aとの間には、電動モータ収容室21aと外部との間を密封するシール部材60が設けられ、モータ軸34の中空部34aと第1出力軸58との間には、モータ軸34と第1出力軸58との相対回転を滑らかにするラジアル軸受61が設けられている。
【0028】
第2出力軸59の他端側は、第2壁部23のボス部23aを介してユニットケース21外に延出され、第2出力軸59の他端側には左側ドライブシャフト13b(図1参照)が連結される。第2出力軸59とボス部23aとの間には、ギヤ機構収容室21bと外部との間を密封するシール部材62が設けられている。
【0029】
ユニットケース21の第1壁部22には、第1出力軸58の回転数を検出するMRセンサ(第2回転数検出手段)63が設けられ、MRセンサ63は、通電線63aを介してEVCU74(図1参照)に電気的に接続されている。MRセンサ63は、ステータ31に巻装されたコイル32の内側に入り込んで設けられ、これにより駆動ユニット20の長さ寸法を詰めている。第1出力軸58のMRセンサ63と対向する箇所には、第1出力軸58の周方向に沿って多極着磁された多極着磁部58aが一体に設けられ、これによりMRセンサ63は第1出力軸58の回転に伴って矩形パルスを発生する。
【0030】
ユニットケース21の車体下方には、図3に示すように所定量の潤滑油LOが入っており、潤滑油LOとしては、一般的に用いられるオートマチックトランスミッションフルード(ATF)と略同じ組成のものを用いている。潤滑油LOは、中央壁部24の車体下方に設けられた連通孔24bを介して、電動モータ収容室21aとギヤ機構収容室21bとの間を行き来できるようになっている。
【0031】
ユニットケース21に入れる潤滑油LOの量(図中破線矢印A)としては、本実施の形態においては、直径寸法d1に設定した差動ギヤ54の歯先に潤滑油LOが触れて、かつ直径寸法d2に設定したロータ33に潤滑油LOが触れない量としている(d1>d2)。このように潤滑油LOの量を設定することで、潤滑油LOの攪拌抵抗によりロータ33の回転抵抗の増大を抑制している。また、ステータ31の車体下方を潤滑油LO内に浸かるようにして、ステータ31およびコイル32を部分的に冷却(油冷)できるようにしている。ただし、潤滑油LOの量としては上記に限らず、ロータ33の回転抵抗の増大に影響を与えない範囲でロータ33の一部が触れる量とすることもできる。
【0032】
図1に示すように、電動駆動システム11は、駆動ユニット20に加えて、高電圧バッテリ70,BCU(バッテリコントロールユニット)71,インバータ72,DC/DCコンバータ73およびEVCU(電気自動車コントロールユニット)74を備えている。BCU71,インバータ72,DC/DCコンバータ73およびEVCU74は、電気自動車10に設けられたCAN等の通信ネットワーク75にそれぞれ電気的に接続され、これにより相互間で種々の信号(走行状態信号等)を通信できるようにしている。
【0033】
高電圧バッテリ70は、例えば、400Vのリチウムイオン二次電池により形成され、右側後輪14aと左側後輪14bとの間に位置するよう電気自動車10の車体後方に設けられている。このように高電圧バッテリ70を車体後方に配置することで、特に車体前方の重量が嵩む前輪駆動方式の電気自動車10において前後重量配分を最適なものとしている。また、BCU71は高電圧バッテリ70の近傍に設けられ、高電圧バッテリ70の充放電を制御するようになっている。
【0034】
インバータ72は、通電線76,77を介して高電圧バッテリ70に電気的に接続されている。インバータ72は、電動モータ30を電動機として駆動する際に、高電圧バッテリ70からの直流電流を交流電流に変換し、当該交流電流を電動モータ30に供給する。一方、インバータ72は、電動モータ30を発電機として駆動する際に、電動モータ30からの交流電流を直流電流に変換し、当該直流電流を高電圧バッテリ70に供給する。また、インバータ72は、レゾルバ38からのモータ軸34の回転数信号に基づき、交流電流の電流値や周波数を制御して電動モータ30の駆動力や回転数を制御する。なお、通電線76,77の途中には、一対のメインリレー78が設けられている。
【0035】
高電圧バッテリ70には、DC/DCコンバータ73を介して低電圧バッテリ79が電気的に接続されている。低電圧バッテリ79としては、例えば、12Vの鉛蓄電池を用いている。低電圧バッテリ79は、インバータ72,DC/DCコンバータ73,BCU71およびEVCU74等を駆動するための電源として用いられ、その他の空調機器やヘッドライト等(何れも図示せず)を駆動するための電源としても用いられる。
【0036】
EVCU74には、アクセルペダル15の操作量を検出するアクセルセンサ15aおよびMRセンサ63が電気的に接続されている。EVCU74には、この他にブレーキペダルの操作量を検出するブレーキセンサや車速を検出する車速センサ等(何れも図示せず)、電気自動車10の走行状態を検出し得る複数のセンサが電気的に接続されている。これによりEVCU74は、駆動ユニット20を含む電気自動車10を統括的に制御するようになっている。ここで、EVCU74は本発明におけるコントローラを構成している。
【0037】
EVCU74には、回転数差算出部(回転数差算出手段)74aと駆動力制御部(駆動力制御手段)74bとが設けられている。
【0038】
回転数差算出部74aには、インバータ72,通信ネットワーク75を介してレゾルバ38からモータ回転数Mn(検出回転数)が入力されるとともに、MRセンサ63から第1出力軸回転数Rn(検出回転数)が入力される。回転数差算出部74aは、モータ回転数Mnと第1出力軸回転数Rnとに基づいて、第1出力軸58と第2出力軸59との回転数差|Rn−Ln|を算出するようになっている。ここで、Lnは第2出力軸回転数を示し、当該第2出力軸回転数Lnは、モータ回転数Mn,第1出力軸回転数Rn,小径ギヤ37,第1ギヤ42,第2ギヤ43,差動ギヤ54および第1,第2傘歯車56,57(図2参照)のギヤ比等から求めることができる。回転数差算出部74aには、上記ギヤ比のデータが予め格納されている。
【0039】
駆動力制御部74bには、回転数差算出部74aにより算出された回転数差|Rn−Ln|が入力され、駆動力制御部74bは、入力された回転数差|Rn−Ln|と、予め格納された回転数差閾値(所定値)Nとを比較するようになっている。そして駆動力制御部74bは、回転数差|Rn−Ln|が回転数差閾値N以上のときに、モータ軸34の駆動力を制御して回転数差|Rn−Ln|の増大を抑えるようになっている。
【0040】
次に、以上のように構成した電動駆動システム11の動作について図面を用いて詳細に説明する。図4は電動駆動システムの制御内容を示すフローチャートを、図5はギヤ機構収容室内での潤滑油の流れを説明する説明図をそれぞれ表している。
【0041】
図4に示すように、ステップS1では、イグニッションスイッチのオン操作等をトリガとして電動駆動システム11の制御が開始される。ここで、ステップS1を開始するためのトリガとしては、イグニッションスイッチのオン操作の他に、アクセルペダル15の操作量が大きい場合(アクセルセンサ15aからの出力が急激に立ち上がる場合)等であっても良い。
【0042】
ステップS2では、レゾルバ38によりモータ回転数Mnを検出するとともに、MRセンサ63により第1出力軸回転数Rnを検出する。その後、検出されたモータ回転数Mnおよび第1出力軸回転数Rnは、それぞれ回転数差算出部74aに入力される。
【0043】
ステップS3では、回転数差算出部74aにより、所定の演算式に基づいて入力されたモータ回転数Mnおよび第1出力軸回転数Rnから第2出力軸回転数Lnを算出する。また、第1出力軸回転数Rnと第2出力軸回転数Lnとの差分値である回転数差|Rn−Ln|を算出し、その後、回転数差|Rn−Ln|は駆動力制御部74bに入力される。
【0044】
ステップS4では、駆動力制御部74bにより、回転数差|Rn−Ln|が回転数差閾値Nよりも大きいか否かを判定する。回転数差|Rn−Ln|が回転数差閾値N以下である場合(no判定)には、ステップS6に進んでステップS2に戻るリターン処理が実行される。一方、回転数差|Rn−Ln|が回転数差閾値Nよりも大きい場合(yes判定)にはステップS5に進む。
【0045】
ステップS5では、差動装置50が高速動作し、第1出力軸58と第2出力軸59との回転数差が大きいとして、モータ軸34の駆動力Moutを抑えるよう制御(制限制御)する。ここで、ステップS5におけるモータ軸34の制御について具体的に説明する。
【0046】
図5の矢印(1),(2)に示すように、第1出力軸58と第2出力軸59との回転数差|Rn−Ln|が回転数差閾値Nを超えると、各第1傘歯車56は歯車軸55を中心にそれぞれ高速回転するようになる。例えば、電気自動車10を停車状態から発進状態とする場合、球面部56aと球面部51aとの間の潤滑油LOが不足しているため、各球面部56a,51a間の摺接部分CP(図中黒丸部分)が摩擦熱で焼き付く場合がある。そこで、ステップS5においては、モータ軸34の駆動力Moutを抑えるよう、電動モータ30への供給電流をゼロとする制御や、モータ軸34に逆回転の駆動力を発生させる制御等を実行する。これにより、差動装置50の高速動作を抑制して回転数差|Rn−Ln|の増大が抑えられる。したがって、各第1傘歯車56のケーシング51内での高速回転を抑制して、摺接部分CPの焼き付きを防止することができる。
【0047】
回転数差|Rn−Ln|が小さくなる直進走行時等においては、差動ギヤ54に付着した潤滑油LOが、差動ギヤ54の回転に伴う遠心力によりギヤ機構収容室21b内のギヤ部材41側に汲み上げられ散布される。その後、図中二点鎖線矢印に示すように、潤滑油LOは、第2ギヤ43と差動ギヤ54との噛み合い部分や第1ギヤ42と小径ギヤ37との噛み合い部分等に行き渡る。また、潤滑油LOは、図中二点鎖線矢印に示すように、ケーシング51に設けられた複数のケース窓(図示せず)を介してケーシング51内に入り込み、各球面部56a,51a間の摺接部分CPや、各第1傘歯車56と各第2傘歯車57との噛み合い部分等に行き渡る。
【0048】
以上詳述したように、本実施の形態に係る電動駆動システム11によれば、モータ軸34の回転数を検出するレゾルバ38と、第1出力軸58の回転数を検出するMRセンサ63と、レゾルバ38からのモータ回転数MnとMRセンサ63からの第1出力軸回転数Rnとに基づき、各出力軸58,59の回転数差|Rn−Ln|を算出する回転数差算出部74aと、回転数差|Rn−Ln|が回転数差閾値N以上のときに、モータ軸34の駆動力Moutを制御して回転数差|Rn−Ln|の増大を抑える駆動力制御部74bとを備えている。
【0049】
したがって、各出力軸58,59の回転数差|Rn−Ln|が回転数差閾値N以上に大きくなるような差動装置50の高速動作を抑制することができ、モータ軸34と各出力軸58,59とを同軸上に設けた配置構造を採用しつつ、潤滑油LOの量を少なくしたとしても差動装置50の焼き付きを防止することができる。これにより駆動ユニット20の小型化および耐久性の向上を実現することができる。
【0050】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態においては、電気自動車10の各前輪12a,12bを駆動する電動駆動システム11を示したが、本発明はこれに限らず、電気自動車10の各後輪14a,14bを駆動する後輪駆動方式の電気自動車にも適用することができる。
【0051】
また、上記実施の形態においては、電動駆動システム11を、各前輪12a,12bを駆動する電気自動車10に適用したものを示したが、本発明はこれに限らず、例えば、各後輪14a,14bを電動駆動システム11により駆動させ、各前輪12a,12bを内燃機関(エンジン)により駆動させる、所謂ハイブリッド車両にも適用することができる。
【0052】
さらに、上記実施の形態においては、第2回転数検出手段としてのMRセンサ63を、第1出力軸58側に設けたものを示したが、本発明はこれに限らず、車両への配置スペース等に応じて第2出力軸59側に設けることもできる。
【0053】
また、上記実施の形態においては、第1回転数検出手段としてレゾルバ38を、第2回転数検出手段としてMRセンサ63をそれぞれ用いたものを示したが、本発明はこれに限らず、モータ軸34および第1出力軸58の回転数を検出し得る回転センサであれば、他の方式の回転センサ(光学式のエンコーダやホールセンサ式のエンコーダ等)を用いることもできる。
【符号の説明】
【0054】
10 電気自動車
11 電動駆動システム
20 駆動ユニット
30 電動モータ
31 ステータ
33 ロータ
34 モータ軸
34a 中空部
38 レゾルバ(第1回転数検出手段)
50 差動装置
51 ケーシング
55 歯車軸
56 第1傘歯車(第1歯車)
57 第2傘歯車(第2歯車)
58 第1出力軸(出力軸)
59 第2出力軸(出力軸)
63 MRセンサ(第2回転数検出センサ)
74 EVCU(コントローラ)
74a 回転数差算出部(回転数差算出手段)
74b 駆動力制御部(駆動力制御手段)
LO 潤滑油
Mn モータ回転数(検出回転数)
Rn 第1出力軸回転数(検出回転数)
N 回転数差閾値(所定値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータおよびロータを有する電動モータと、前記ロータに一体に設けられるモータ軸と、前記モータ軸と同軸上に設けられる一対の出力軸と、前記モータ軸の駆動力を前記各出力軸に配分する差動装置とを備えた駆動ユニットと、前記駆動ユニットを制御するコントローラとを備えた電動駆動システムであって、
前記モータ軸の回転数を検出する第1回転数検出手段と、
前記各出力軸のうちの何れか一方の回転数を検出する第2回転数検出手段と、
前記コントローラに設けられ、前記第1回転数検出手段の検出回転数と前記第2回転数検出手段の検出回転数とに基づき、前記各出力軸の回転数差を算出する回転数差算出手段と、
前記コントローラに設けられ、前記回転数差が所定値以上のときに、前記モータ軸の駆動力を制御して前記回転数差の増大を抑える駆動力制御手段とを有することを特徴とする電動駆動システム。
【請求項2】
請求項1記載の電動駆動システムにおいて、前記差動装置は、前記モータ軸の駆動力が伝達されるケーシングと、前記ケーシング内に設けられて前記モータ軸と直交する歯車軸と、前記歯車軸に回動自在に設けられる第1歯車と、前記各出力軸に設けられて前記第1歯車と噛合する一対の第2歯車とを備えることを特徴とする電動駆動システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の電動駆動システムにおいて、前記モータ軸を中空構造とし、前記各出力軸のうちの何れか一方を前記モータ軸の中空部に貫通させて設け、前記第2回転数検出手段は、前記モータ軸を貫通する前記出力軸の回転数を検出することを特徴とする電動駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−246180(P2010−246180A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88908(P2009−88908)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】