説明

電源制御システム

【課題】電源制御システムにおいて、インバータの冷却系に異常が生じたときに、電圧変換器の温度上昇を効果的に抑制することである。
【解決手段】電源制御システム10は、蓄電装置14、電圧変換器20、インバータユニット34、インバータ冷却系40、低電圧作動補機50を含む電源回路12と、制御部60とを含んで構成される。制御部60は、インバータ冷却系40の状態を取得し、その状態が正常か異常かを判断するインバータ冷却系状態取得モジュール62と、インバータ冷却系が異常の場合に、蓄電装置14のWINとWOUTとを制限する蓄電装置WIN,WOUT制限モジュール64と、インバータ冷却系40が異常の場合に、低電圧作動補機50の出力を制限する補機出力制限モジュール66を含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電源制御システムに係り、特に、リアクトルを含み、低電圧と高電圧との間で昇降圧を行うことのできる電圧変換器を備える電源の作動を制御する電源制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機を駆動する電源装置には、直交変換回路であるインバータと、低電圧と高電圧との間で昇降圧を行うコンバータが設けられものがある。これらのインバータ、コンバータはスイッチング素子を用い大電力を扱うので、作動に伴って発熱し、温度が上昇する。そのために、温度が監視され、適当な冷却システムが用いられ、また、温度に応じて負荷への出力制限等が行なわれる。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両駆動システムとして、コンバータのリアクトルの温度を検出し、検出された温度になまし処理を施し、冷却水温度が高いときにはなまし処理係数を大きくして温度の傾きを大きくし、温度変化を拡大して反映するようにし、この温度に基いてトルク電流についての負荷率制限を行うことが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、電圧変換装置において、その昇圧コンバータの低圧側に補機が接続される場合、回生時にバッテリ電流の最大値に補機電流の最大値を加えた大電流が昇圧コンバータに通電し得るため過電圧となることが指摘されている。ここでは、昇圧コンバータに最大許容電流を設定し、その範囲内で、複数の補機の中で必要度の低いものから負荷を制限することが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−149064号公報
【特許文献2】特開2006−288024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インバータの冷却系に異常が生じた場合等において、インバータの温度が上昇するときは、例えば、負荷である回転電機の駆動出力あるいは回生電力の制限等が行われ、インバータの作動電力を抑制することができる。また、これに伴って電圧変換器であるコンバータの温度が上昇するときは、低電圧蓄電装置である2次電池に対する電力の入出力を制限し、電圧変換器に流れる電力を制限することができる。
【0007】
ところで、低電圧蓄電装置と電圧変換器との間に低電圧で作動する補機等が接続されている場合、低電圧蓄電装置の電力の入出力を制限すると、補機への供給電力がその作動電力に不足することが生じ得る。このときには、不足電力を補うため、高電圧側から電圧変換器を介して電力が供給されることになる。すなわちインバータもその分の作動を行い、また、電圧変換器のリアクトルにも電流が流れる。このように、低電圧蓄電装置の電力の入出力を制限しているにもかかわらず、インバータの温度も上昇し、リアクトルの温度も上昇してしまう。このように、従来技術では、インバータ、電圧変換器の温度上昇抑制が不十分となる場合がある。
【0008】
本発明の目的は、電圧変換器の温度上昇を効果的に抑制することを可能とする電源制御システムを提供することである。他の目的は、インバータの冷却系に異常が生じたときに、電圧変換器の温度上昇を効果的に抑制することを可能とする電源制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電源制御システムは、リアクトルを含み、低電圧と高電圧との間で昇降圧を行うことのできる電圧変換器と、高電圧交流電力で作動する負荷と電圧変換器との間に接続配置されるインバータと、低電圧蓄電装置と電圧変換器との間に並列に接続配置され低電圧電力で作動する補機について、リアクトルの温度に応じ補機の出力を制限する補機出力制限手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る電源制御システムにおいて、インバータ冷却系の状態を取得する手段を備え、補機出力制限手段は、さらに、インバータ冷却系の状態に応じ補機の出力を制限することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る電源制御システムにおいて、リアクトルの温度に応じて低電圧蓄電装置に対する入力電力と出力電力について制限を行う蓄電装置入出力制限手段を備えることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る電源制御システムにおいて、補機は、DC/DCコンバータまたはエアコンプレッサであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成により、電源制御システムは、低電圧蓄電装置と電圧変換器との間に並列に接続配置され低電圧電力で作動する補機について、リアクトルの温度に応じ補機の出力を制限する。これによって、例えば、低電圧蓄電装置の電力の入出力が制限されているときに、電圧変換器が補機への電力供給を行うことが抑制され、インバータの温度上昇、電圧変換器の温度上昇を抑制できる。
【0014】
また、電源制御システムにおいて、インバータ冷却系の状態を取得し、取得されたインバータ冷却系の状態に応じ補機の出力を制限するので、インバータの冷却系に異常が生じたときに、電圧変換器の温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0015】
また、電源制御システムにおいて、リアクトルの温度に応じて低電圧蓄電装置に対する入力電力と出力電力について制限を行うので、リアクトルの温度上昇を抑制できる。
【0016】
また、電源制御システムにおいて、補機は、DC/DCコンバータまたはエアコンプレッサであるので、これらの補機の出力制限を行うことで、例えば、インバータの冷却系に異常が生じたとき、あるいは、低電圧蓄電装置の電力の入出力が制限されているときでも、電圧変換器の温度上昇を効果的に抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態に付き詳細に説明する。なお以下では、回転電機として、車両に搭載されるモータ・ジェネレータを説明するが、車両は、インバータ、電圧変換器を含む電源回路を搭載する車両であれば、エンジンと回転電機とを搭載するハイブリッド車両の他、エンジンを搭載しない電気自動車、燃料電池を搭載する車両等であってもよい。また、回転電機は、車両に搭載されるもの以外、例えば据置型のモータ・ジェネレータであってもよい。また、回転電機として、単にモータとしての機能を有するものでもよく、あるいは単に発電機としての機能を有するものであってもよい。また、以下では回転電機に対応して2つのインバータを備える電源回路の制御について説明するが、勿論1つの回転電機に対応して1つのインバータのみを備える場合であってもよく、それ以上のインバータを備えるものであってもよい。また、電源回路の構成として、蓄電装置、システムメインリレー、電圧変換器、平滑コンデンサ、放電抵抗、インバータ回路を有するものとして説明するが、これらの要素を適宜省略してもよく、またその他の要素を適宜付加するものとしてもよい。また、低電圧で作動する補機として、DC/DCコンバータ、空調用電気制御ユニット(A/C Electric Control Unit:A/C−ECU)、空調用インバータ(A/Cインバータ)、空調用のコンプレッサ(COMP)を説明するが、これら以外のもの、例えば、各種の低電圧作動モータ、ECU、ランプ、オーディオ機器等の各種車両搭載用電子機器等であってもよい。
【0018】
なお、以下では、回転電機を作動制御するインバータの作動電圧である約600V程度の電圧を高電圧とし、蓄電装置の両端電圧である約200Vから約300V程度の電圧を低電圧として説明するが、これらの電圧値は説明のための例示であって、勿論これ以外の電圧値であっても構わない。また、低電圧で作動する補機とは、蓄電装置の両端電圧である約200Vから約300V程度の電圧で直接作動する機器の他、この約200Vから約300V程度の電圧をさらに降圧して、例えば、約12Vの電圧で作動する各種電気機器も含む。その意味では、低電圧で作動する補機とは、電圧変換器の昇圧前の電圧で作動する機器全般を指すものである。
【0019】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0020】
図1は、車両に搭載される回転電機等についての電源回路を制御する電源制御システム10の構成を示す図である。電源制御システム10は、車両の走行状態等に応じて、車両に搭載される電源回路の各構成要素の作動を制御する機能を有する。電源制御システム10は、電源回路12と制御部60とを含んで構成される。なお、図1には、電源制御システム10の構成要素ではないが、2つの回転電機6,8、空調用コンプレッサ4が図示されている。
【0021】
2つの回転電機6,8のうち、第1の回転電機(MG1)6は、例えば、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(MG)であって、その場合には、図示されていないエンジンに接続され、エンジンの駆動力によって発電する機能を有する三相同期型回転電機である。第1の回転電機6は、例えば、約600Vの高電圧で作動する第1のインバータ(MG1インバータ)36によって作動制御される。
【0022】
第2の回転電機(MG2)8は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(MG)であって、電力が供給されるときは電動機として機能し、制動時には発電機として機能する三相同期型回転電機である。車両に搭載される第2の回転電機8は、図示されていない車両の車軸に伝達されるエンジンの動力を補助して、駆動力を高める機能を有する。第2の回転電機8も、第1の回転電機6と同様に、例えば、約600V程度の高電圧で作動する第2のインバータ(MG2インバータ)38によって作動制御される。
【0023】
空調用コンプレッサ(COMP)4は、車両に搭載される空調装置を構成する圧縮機である。空調用コンプレッサ4は、例えば、約200Vから約300V程度の低電圧で作動する空調用インバータ(A/Cインバータ)58によって作動制御される。
【0024】
電源回路12は、蓄電装置14、システムメインリレー16、蓄電装置側の平滑コンデンサ18、電圧変換器20、インバータ側の平滑コンデンサ30、インバータユニット34、インバータ冷却系40、低電圧作動補機50を含んで構成される。
【0025】
蓄電装置14は、充放電可能な2次電池で、この蓄電装置14は、電圧変換器20の低電圧側に配置されるので、低電圧蓄電装置と呼ぶことができる。蓄電装置14としては、例えば、約200Vから約300Vの端子電圧を有するリチウムイオン組電池あるいはニッケル水素組電池、またはキャパシタ等を用いることができる。
【0026】
システムメインリレー16は、蓄電装置14の正極母線と負極母線にそれぞれ設けられる大電力用リレーを含んで構成される大電力用遮断装置である。システムメインリレー16は、電源回路12が作動状態に入るときに接続状態とされ、電源回路12が作動を終了すると遮断状態とされる。このように、システムメインリレー16は、電源回路12が作動していないときに蓄電装置14をその他の要素から電力的に遮断することができ、これによって、例えば、車両の車体を、約200Vから約300Vの電圧またはこれを昇圧した約600Vの電圧から安全に遮断する機能を有する。
【0027】
蓄電装置14と電圧変換器20との間に設けられる蓄電装置側の平滑コンデンサ18は、低電圧側の電圧変動を抑制する機能を有するコンデンサである。平滑コンデンサ18の両端電圧としてVLが図1に図示されているが、このVLが、電圧変換器20の低電圧側の電圧である。
【0028】
電圧変換器20は、リアクトル22と、2つのスイッチング素子24,26とを含んで構成される昇降圧回路である。電圧変換器20は、蓄電装置14側の約200Vから約300V程度の低電圧を、リアクトル22のエネルギ蓄積作用を利用して、例えば約600Vの高電圧に昇圧する機能を有する回路で、昇圧コンバータとも呼ばれる。また、電圧変換器20は双方向機能を有し、インバータユニット34を構成する第1のインバータ36及び第2のインバータ38の側からの電力を蓄電装置14側に充電電力として供給するときには、第1のインバータ36、第2のインバータ38の側の高電圧を蓄電装置14に適した低電圧に降圧する作用も有する。
【0029】
リアクトル22は、一方端が蓄電装置14の側の正極母線に接続され、他方端が2つのスイッチング素子24,26の間の接続点に接続され、磁気エネルギを蓄積できる装置である。リアクトル22は、磁性体であるコアにコイルを巻回し、コイルに高周波信号を流すことでインダクタンスとして利用するもので、スイッチング素子24,26と合わせて用いて、昇降圧回路を構成することができる。コイルに高周波信号を流すことでコア、コイルは発熱し、例えば、約100℃から約200℃程度に温度が上昇することがある。
【0030】
リアクトル22の近傍に配置される温度センサ28は、リアクトル22の温度θ1を検出し、適当な信号線を介して制御部60にその検出結果を伝送する機能を有する温度検出素子である。
【0031】
2つのスイッチング素子24,26は、互いに直列に接続されて、インバータユニット34の正極母線と負極母線の間に配置される大電力スイッチングトランジスタである。2つのスイッチング素子24,26の間の接続点は、上記のように、リアクトル22の他方端に接続される。スイッチング素子24,26としては、ゲート絶縁型バイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transister:IGBT)を用いることができる。図1では、スイッチング素子24,26をnチャネル型として示されているが、電圧の関係でこれをpチャネル型とすることもできる。2つのスイッチング素子24,26には、それぞれに並列に、ダイオードが接続される。
【0032】
2つのスイッチング素子24,26のうち、一方側のスイッチング素子24は、コレクタ端子がインバータユニット34の正極母線に接続され、エミッタ端子が他方側のスイッチング素子26のコレクタ端子に接続され、ゲート端子が制御端子として、制御部60からの制御信号線に接続される。他方側のスイッチング素子26は、上記のようにコレクタ端子が一方側のスイッチング素子24のエミッタ端子に接続され、エミッタ端子が蓄電装置14とインバータユニット34に共通の負極母線に接続され、ゲート端子が制御端子として、制御部60からの制御信号線に接続される。
【0033】
電圧変換器20は、スイッチング素子24,26の制御によって次のように昇圧動作と降圧動作を行う。昇圧動作のときは、インバータユニット34の側から蓄電装置14の側に電力が供給され、降圧動作のときは、蓄電装置14の側からインバータユニット34の側に電力が供給される。
【0034】
昇圧動作の場合は、スイッチング素子24がオフとされ、スイッチング素子26がオンとされる。これによって、インバータユニット34との間の接続が開放状態となる。一方で、リアクトル22の他方端が負極母線と接続状態となるので、蓄電装置14の正極母線からリアクトル22を介して負極母線に向かって電流が流れる。このように、リアクトル22には、蓄電装置14から電流が流れ込むので、その電流をIとし、リアクトルのインピーダンスをLとして、(LI2)/2のエネルギがリアクトル22に蓄積される。これによりリアクトル22の他方端の電圧が上昇し、スイッチング素子24に並列に接続されるダイオードの作用によって、インバータユニット34の側の電圧との差がある程度以上となると、そのエネルギがインバータユニット34の側に流れ込む。これによって、インバータ側の平滑コンデンサ30の電圧が次第に上昇する。このようにして、インバータユニット34の正極母線と負極母線との間の電圧が高められて昇圧が行われる。
【0035】
降圧動作の場合は、昇圧動作と逆で、スイッチング素子26がオフとされ、スイッチング素子24がオンとされる。これによって、リアクトル22と負極母線との間の接続が開放状態となる。一方で、インバータユニット34の正極母線がリアクトル22の他方端と接続状態となるので、インバータ側の平滑コンデンサ30に蓄積されたエネルギが、リアクトル22に流れ込み、蓄電装置14の側の平滑コンデンサ18に転送される。このようにして、インバータユニット34側の電力が降圧されて蓄電装置14の側に供給される。
【0036】
電圧変換器20とインバータユニット34の間に設けられるインバータ側の平滑コンデンサ30は、高電圧側の電圧変動を抑制する機能を有するコンデンサである。平滑コンデンサ30の両端電圧としてVHが図1に図示されているが、このVHが、電圧変換器20の高電圧側の電圧である。なお、放電抵抗32は、電源回路12の作動が停止して、平滑コンデンサ30に蓄積されている電気エネルギを放電する必要のあるときに用いられる抵抗素子である。
【0037】
インバータユニット34は、2つのインバータ36,38を含んで構成される。2つのインバータ36,38は、いずれも、高圧直流電力を交流三相駆動電力に変換し、それぞれに接続される回転電機に供給する機能と、逆にそれぞれの回転電機からの交流三相回生電力を高圧直流充電電力に変換する機能とを有する回路である。2つのインバータ36,38のうち、第1の回転電機(MG1)6に接続され方を第1のインバータ(MG1インバータ)36、第2の回転電機(MG2)8に接続される方を第2のインバータ(MG2インバータ)38と呼ぶことができる。
【0038】
インバータ36,38は、それぞれの基本構成は互いに同じで、複数のスイッチング素子と複数のダイオードとを含んで構成される。スイッチング素子は、電圧変換器20におけるスイッチング素子24,26と同様に、大電力用スイッチングトランジスタで、IGBT等を用いることができる。これらのスイッチング素子は、大電力のスイッチングを行うため、作動に伴って発熱し、温度が上昇する。
【0039】
インバータ冷却系40は、インバータユニット34を冷却するための冷却システムである。図1では、インバータユニット34と共に電圧変換器20も冷却するシステムとして示されているが、これは、電圧変換器20からインバータユニット34までが高電圧系として、1つのPCU(Power Control Unit)としてまとめられ、1つのユニットケースに収納されていることが多いからである。その意味では、インバータ冷却系40は、インバータを含むパワーユニットの冷却系ということができる。
【0040】
インバータ冷却系40は、冷却水等の冷媒を循環ポンプ42によって冷媒循環流路44に沿って循環させ、インバータ36,38と電圧変換器20から熱を運び出して適当なラジエータ46で外部に放熱する冷却システムである。
【0041】
冷媒循環流路の近傍に配置される温度センサ48は、冷媒である冷却水の温度θ2を検出し、適当な信号線を介して制御部60にその検出結果を伝送する機能を有する温度検出素子である。
【0042】
低電圧作動補機50は、電圧変換器20の低電圧側の電圧VLによって作動する電気機器等である。図1では、VLを有する低電圧電力を約12Vの直流電力に変換して12Vバッテリ54に供給するDC/DCコンバータ52と、12Vの電圧で作動する空調用ECU(A/C−ECU)56と、VLで作動し、空調用コンプレッサ(COMP)4を作動制御する空調用インバータ(A/Cインバータ)58が示されている。
【0043】
制御部60は、電源回路12を構成する各要素の作動を全体として制御する機能を有する制御回路である。制御部60は、図示されていない車両の走行等を制御する統合制御部の指示の下で作動する。制御部60は、ここでは特に、インバータ冷却系40に不具合が生じたときに、インバータユニット34と電圧変換器20の過度の温度上昇を抑制する制御を行う機能を有する。かかる制御部60は、車両の搭載に適したコンピュータで構成することができる。これを独立のコンピュータとしてもよく、車両に搭載される他の制御装置の機能の一部に制御部60の機能を含めるものとしてもよい。例えば、上記の統括制御部に制御部60の機能を含めるものとしてもよい。
【0044】
制御部60は、インバータ冷却系40の状態を取得し、その状態が正常か異常かを判断するインバータ冷却系状態取得モジュール62と、インバータ冷却系が異常の場合に、蓄電装置14に持ち込まれる入力電力であるWINと持ち出される出力電力であるWOUTを制限する蓄電装置WIN,WOUT制限モジュール64と、インバータ冷却系40が異常の場合に、低電圧作動補機50の出力を制限する補機出力制限モジュール66を含んで構成される。これらの各機能は、ソフトウェアによって実現され、具体的には、電源制御プログラムを実行することで実現できる。これらの機能の一部をハードウェアによって実現するものとしてもよい。
【0045】
上記構成の作用、特に制御部60の各機能について、図2から図5を用いて詳細に説明する。図2はインバータ冷却系40に異常がある場合の処理手順を示すフローチャートであり、図3は、蓄電装置14の負荷率制限の様子を説明する図、図4は低電圧作動補機50の出力制限マップの切り替えを説明する図、図5は低電圧作動補機50の負荷率とリアクトル22の温度との関係を説明する図である。図2のフローチャートの各手順は、電源制御プログラムの処理手順のそれぞれに対応する。
【0046】
電源制御プログラムが立ち上がると、インバータ冷却系40の状態の取得が行われる(S10)。この工程は、制御部60のインバータ冷却系状態取得モジュール62の機能によって実行される。具体的には、温度センサ48によってインバータ冷却系40の冷媒である冷却水の温度θ2が検出され、その検出結果を制御部60が取得する。
【0047】
そして、インバータ冷却系40の状態について正常か異常かが判断される(S12)。正常か異常かの判断基準としては、温度センサ48が検出した温度θ2と、予め定めた閾値温度とを比較し、検出した温度θ2が閾値温度を超えるときに、インバータ冷却系40の状態が異常であると判断するものとできる。
【0048】
インバータ冷却系40の状態が異常となるときには、インバータ36,38が過負荷等で温度が異常に上昇する場合と、インバータ36,38は正常に作動しているが、インバータ冷却系40を構成する要素に故障が発生し、インバータユニット34を正常に冷却できなくなっている場合がある。いずれの場合も、結果として冷媒である冷却水の温度が上昇するので、温度センサ48の温度θ2を監視することでインバータ冷却系40の異常を検出することができる。さらに迅速に異常を検出するには、インバータ冷却系40を構成する要素の故障を直接的に検出することが望ましい。
【0049】
したがって、循環ポンプ42の回転数が正常か異常か、ラジエータ46の回転数が正常か異常か等も考慮して、インバータ冷却系40の状態を判断するものとすることが望ましい。例えば、循環ポンプ42の回転数情報を適当な信号線によって制御部60に伝送し、この回転数情報を予め定めた閾値回転数と比較して、インバータ冷却系40が正常か異常かを判断するものとできる。
【0050】
S12において、インバータ冷却系40の状態が異常であると判断されると、次に、蓄電装置14に持ち込まれる入力電力であるWINと持ち出される出力電力であるWOUTを制限することが行われる(S14)。この工程は、制御部60の蓄電装置のWIN,WOUT制限モジュール64の機能によって実行される。蓄電装置14とリアクトル22の間に電力を消費する他の装置がない場合、あるいはあってもその消費電力が少ない場合には、蓄電装置14のWIN,WOUTを制限することで、リアクトル22を流れる電流を効果的に抑制することができ、これによってリアクトル22発熱及び温度上昇を抑制することができる。
【0051】
蓄電装置14のWIN,WOUTの制限は、リアクトル22の温度θ1に応じて蓄電装置14の負荷率制限マップを用いて行うことができる。図3はその様子を示す図で、横軸にリアクトル22の温度θ1をとり、縦軸に正規化した蓄電装置のWINまたはWOUTの量を取ってある。正規化したWINまたはWOUTの値は、リアクトル22の温度θ1が十分低い温度のときを1とし、任意の温度については、この1に対する割合を負荷率として示してある。図3において、インバータ冷却系40が正常の場合の負荷率制限特性が実線で、インバータ冷却系40が異常の場合の負荷率制限特性が破線で示されている。
【0052】
インバータ冷却系40が正常の場合は、リアクトル22の温度θ1がB℃以下の低温では負荷率=1で、蓄電装置のWINまたはWOUTの制限が行われない。リアクトル22の温度θ1がB℃以上となると、リアクトル22の温度θ1が上昇するにつれて、蓄電装置の負荷率が1よりも小さくなるように制限される。すなわち、WIN及びWOUTが小さく制限される。
【0053】
インバータ冷却系40が異常のときは、蓄電装置14の負荷率の制限が始まるリアクトル22の温度が、正常のときの温度B℃よりも低温側の温度A℃とされる。例えば、B=110℃として、A=100℃に設定される。つまり、インバータ冷却系40が異常と判定されると、より低温側で、蓄電装置14の負荷率制限が開始される。これによって、正常状態の場合よりも低温側で、リアクトル22を流れる電流の制限が開始し、リアクトル22の発熱及び温度上昇を抑制することができる。
【0054】
再び図2に戻り、S14の次に、低電圧で作動する補機の出力制限が行われる。この制限は、リアクトル22の温度θ1と補機出力上限値との関係を示す補機出力制限マップの切替によって行われる(S16)。補機出力制限マップの切替の様子を図4に示す。図4は、横軸にリアクトル22の温度以外の任意のパラメータをとり、縦軸にはリアクトル22の温度θ1に応じた補機の出力の上限値の例が示されている。
【0055】
ここでは、一例として、インバータ冷却系40が正常のときの補機出力の上限値を示す補機出力制限マップが実線で示され、インバータ冷却系40が異常のときの補機出力の上限値を示す補機出力制限マップが破線で示されている。すなわち、インバータ冷却系40が正常のときの補機出力制限マップは、補機出力の上限値がP0であるのに対し、インバータ冷却系40が異常のときの補機出力制限マップは、補機出力の上限値がαP0とされる。αは補機の負荷率を示すもので1以下の数字である。αはリアクトル22の温度によって異なる値を設定することができる。図4では、そのことを示すために、補機出力の上限値がP0のときをθ1=65℃、θ1=85℃となると、補機出力の上限値が0.5P0となるものとしてある。
【0056】
図5は、リアクトル22の温度θ1と補機負荷率αとの関係を示す図である。補機負荷率αは、リアクトル22の温度θ1が閾値温度であるD℃以下の低温であるときは実線で示されるように、α=1をとる。そして、閾値温度であるD℃を超えると、破線で示されるように、1以下の値をとる。図5では、図4の例に合わせて、α=0.5をとるものとしてあるが、勿論これ以外の値に設定することができる。このように、閾値温度D℃を境にして、αを1からそれ以外の小さな値に不連続的に切り替える。
【0057】
図5では、補機負荷率αの設定のもう1つの方法として、リアクトル22の温度θ1に応じて、1から連続的に小さな値に設定する例が一点鎖線で示されている。ここでは、もう1つの閾値温度C℃が設けられ、リアクトル22の温度θ1がC℃以下の低温であるときはα=1、閾値温度であるD℃を超えると、例えばα=0.5をとる。そして、C℃からD℃の間は、補機負荷率αは、リアクトル22の温度θ1に応じて、α=1からα=0.5へ連続的に変化する値をとる。
【0058】
再び図2に戻り、S16においてリアクトル22の温度θ1に応じて補機出力制限マップの切替が行われると、その切替にしたがって、各補機の出力制限が行われる。図2では、図1の構成にしたがって、DC/DCコンバータ52の出力制限が実行され(S18)、空調用インバータ58の出力制限が実行される(S20)。例えば、上記の例で、インバータ冷却系40の状態が異常であると判断され、リアクトル22の温度が閾値温度D℃を超えると、DC/DCコンバータ52の出力が50%に制限され、空調用インバータ58の出力が50%に制限される。S16,S18,S20の工程は、制御部60の補機出力制限モジュール66の機能によって実行される。S20の処理の後は、再びS10に戻り、上記の処理手順が繰り返される。なお、S12において判断が否定された場合も同様にS10に戻る。
【0059】
このように、インバータ冷却系40の状態が異常であると判断されると、蓄電装置14のWIN,WOUTの制限と共に低電圧作動補機50の出力が制限されるのは、次のような場合があるからである。すなわち、インバータ冷却系40に異常が生じた場合において、インバータの温度が上昇するときは、一般的には、負荷である回転電機6,8の駆動出力あるいは回生電力の制限等が行われるので、インバータ36,38の作動電力を抑制することができる。また、これに伴って電圧変換器20の温度が上昇するときは、蓄電装置14に対する入出力電力であるWIN,WOUTを制限し、電圧変換器20に流れる電力を制限することができる。
【0060】
ところが、図1で説明した構成のように、蓄電装置14と電圧変換器20との間に低電圧作動補機50が接続されている場合、蓄電装置14のWIN,WOUTを制限すると、低電圧作動補機50への供給電力がその作動電力に不足することが生じ得る。このときには、不足電力を補うため、高電圧側のインバータ36,38から電圧変換器20を介して電力が供給されることになる。すなわちインバータ36,38もその分の作動を行い、また、電圧変換器20のリアクトル22にも電流が流れる。このように、蓄電装置14のWIN,WOUTを制限しているにもかかわらず、インバータ36,38の温度も上昇し、リアクトル22の温度も上昇してしまうことが生じ得る。
【0061】
そこで、インバータ冷却系40の状態が異常であると判断されるときには、蓄電装置14のWIN,WOUTの制限を行うと共に、低電圧作動補機50の出力を制限することとすれば、リアクトル22の温度上昇を抑制でき、またインバータ36,38の温度上昇も抑制できる。そして、低電圧作動補機50の出力制限をリアクトル22の温度θ1に応じて行うこととすることで、低電圧作動補機50の出力制限が過度となることを防ぎつつ、リアクトル22の温度上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る実施の形態の電源制御システムの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、インバータ冷却系に異常がある場合の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る実施の形態において、蓄電装置の負荷率制限の様子を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、低電圧作動補機の出力制限マップの切り替えを説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、低電圧作動補機の負荷率とリアクトルの温度との関係を説明する図である。
【符号の説明】
【0063】
4 空調用コンプレッサ、6,8 回転電機、10 電源制御システム、12 電源回路、14 蓄電装置、16 システムメインリレー、18,30 平滑コンデンサ、20 電圧変換器、22 リアクトル、24,26 スイッチング素子、28,48 温度センサ、32 放電抵抗、34 インバータユニット、36,38 インバータ、40 インバータ冷却系、42 循環ポンプ、44 冷媒循環流路、46 ラジエータ、50 低電圧作動補機、52 DC/DCコンバータ、54 バッテリ、56 空調用ECU、58 空調用インバータ、60 制御部、62 インバータ冷却系状態取得モジュール、64 蓄電装置WIN,WOUT制限モジュール、66 補機出力制限モジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアクトルを含み、低電圧と高電圧との間で昇降圧を行うことのできる電圧変換器と、
高電圧交流電力で作動する負荷と電圧変換器との間に接続配置されるインバータと、
低電圧蓄電装置と電圧変換器との間に並列に接続配置され低電圧電力で作動する補機について、リアクトルの温度に応じ補機の出力を制限する補機出力制限手段と、
を備えることを特徴とする電源制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電源制御システムにおいて、
インバータ冷却系の状態を取得する手段を備え、
補機出力制限手段は、さらに、
インバータ冷却系の状態に応じ補機の出力を制限することを特徴とする電源制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の電源制御システムにおいて、
リアクトルの温度に応じて低電圧蓄電装置に対する入力電力と出力電力について制限を行う蓄電装置入出力制限手段を備えることを特徴とする電源制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載の電源制御システムにおいて、
補機は、DC/DCコンバータまたはエアコンプレッサであることを特徴とする電源制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−254206(P2009−254206A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102520(P2008−102520)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】