説明

音叉振動子および電子機器

【課題】極めて小型で、例えば数十kHz帯の共振周波数を得ることができ、かつ電気機械結合係数の大きな音叉振動子を提供すること。
【解決手段】音叉振動子100は、基板と、該基板の上方に形成された酸化物層と、該酸化物層の上方に形成された半導体層と、を有する基体と、前記半導体層と前記酸化物層を加工して形成された、半導体層からなる音叉型の振動部10と、前記振動部10の屈曲振動を生成するための駆動部20a〜20dと、を含む。振動部10は、支持部12と、該支持部12を基端として片持ち梁状に形成された二本のビーム部14a、14bと、を有し、駆動部20a〜20dは、二本のビーム部14a、14bの上方にそれぞれ一対ずつ形成され、ひとつの駆動部は、第1電極層と、該第1電極層の上方に形成された圧電体層と、該圧電体層の上方に形成された第2電極層とを有し、前記ビーム部14a、14bの厚さをT0とし、前記圧電体層の厚さをT1とするとき、T0/T1≦1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOI基板などの基体に形成された音叉型の振動部を圧電体層の振動で駆動する音叉振動子、およびこれを含む電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、時計やマイコンなどの情報機器では小型化や省電力化が進展しつつあり、このために、クロックモジュールの小型化や省電力化が要求されるようになってきている。この中で、クロックモジュールの発振器部分に用いられる振動子としては、従来の設計資産や省電力性を生かすために32kHz音叉振動子が今なお用いられている。この音叉振動子は、音叉形状に加工された水晶などの圧電体を電極で挟んで駆動できる構造にしたものであり、温度特性が良好である、省電力性に優れる、などの利点を備えている。ただし、このような32kHz音叉振動子の場合には、音叉の腕長さが数mmになり、パッケージングを含めた全体の長さは10mm近くになってしまう。
【0003】
最近になって、水晶ではなく、シリコン基板上に形成された圧電薄膜を用いた振動子が開発されるようになってきた。かかる振動子は、シリコン基板上において、圧電体薄膜を上下の電極で挟んだ積層構造を有し、面内の伸縮運動によって屈曲振動を駆動するものである。このような振動子の構造としては、ビーム状構造のもの(特許文献1の図1)と、ビーム二本から音叉振動子を形成したもの(特許文献2の図1)と、が知られている。このうち、振動子の振動部分が基板と直接接しておらず、振動エネルギーが基板に漏洩しない、という点で優れているのは、音叉振動子構造のものである。
【0004】
ところで、このようなシリコン基板上に形成された圧電薄膜を用いた振動子においても、シリコン基板の厚さをせいぜい100μm程度にしかできないため、屈曲振動の音速を数100m/s程度までしか下げることができず、数10kHz帯での共振周波数を得るためには、ビームの腕長を数mm以上にする必要があり、クロックモジュールの小型化が困難である、という問題があった。
【特許文献1】特開2005−291858号公報
【特許文献2】特開2005−249395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するものであり、その課題は、極めて小型で、例えば数十kHz帯の共振周波数を得ることができ、かつ電気機械結合係数の大きな音叉振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる音叉振動子は、
基板と、該基板の上方に形成された酸化物層と、該酸化物層の上方に形成された半導体層と、を有する基体と、
前記半導体層と前記酸化物層を加工して形成された、半導体層からなる音叉型の振動部と、
前記振動部の屈曲振動を生成するための駆動部と、
を含み、
前記振動部は、支持部と、該支持部を基端として片持ち梁状に形成された二本のビーム部と、を有し、
前記駆動部は、前記二本のビーム部の上方にそれぞれ一対ずつ形成され、ひとつの駆動部は、第1電極層と、該第1電極層の上方に形成された圧電体層と、該圧電体層の上方に形成された第2電極層とを有し、
前記ビーム部の厚さをT0とし、前記圧電体層の厚さをT1とするとき、T0/T1≦1である。
【0007】
本発明の音叉振動子によれば、ビーム部と圧電体層の厚さが上記関係を有することにより、圧電体層にかかる駆動力の負荷が小さく、電気機械結合係数を大きくすることができる。
【0008】
本発明の音叉振動子において、0.3≦T0/T1≦1.0であることができる。
【0009】
本発明の音叉振動子において、前記駆動部の幅をW1とし、前記ビーム部の幅をW0とするとき、0.2≦W1/W0≦0.4であることができる。
【0010】
本発明の音叉振動子において、前記圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛あるいはチタン酸ジルコン酸鉛固溶体からなることができる。
【0011】
本発明の音叉振動子において、前記圧電体層は、窒化アルミニウムあるいは窒化アルミニウム固溶体からなることができる。
【0012】
本発明の音叉振動子において、前記基体は、SOI(Silicon On Insulator)基板であることができる。
【0013】
本発明の音叉振動子において、前記振動部と前記駆動部の前記第1電極層との間に下地層を有することができる。
【0014】
本発明にかかる電子機器は、本発明の音叉振動子を含む。
【0015】
本発明において、特定のA部材(以下、「A部材」という。)の上方に設けられた特定のB部材(以下、「B部材」という。)というとき、A部材の上に直接B部材が設けられた場合と、A部材の上に他の部材を介してB部材が設けられた場合とを含む意味である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
1.音叉振動子
図1は、本実施形態の音叉振動子100の構造を模式的に示す平面図であり、図2は、図1におけるA−A線に沿った構造を模式的に示す断面図である。
【0018】
図1に示すように、音叉振動子100は、基体としてのSOI基板1と、該SOI基板1に形成された音叉型の振動部10と、該振動部10の屈曲振動を生成するための駆動部20(20a〜20d)と、を含む。基体は、基板と、該基板の上方に形成された酸化物層と、該酸化物層の上方に形成された半導体層と、を有することができる。
【0019】
図2に示すように、SOI基板1は、シリコン基板2上に、酸化物層(酸化シリコン層)3および半導体層(シリコン層)4が順次積層されている。半導体層4の厚さは、音叉振動子100の小型化のためには、20μm以下であることが望ましい。SOI基板1は半導体基板として用いることもでき、SOI基板1内に各種の半導体回路を作り込むことができるため、音叉振動子100と半導体集積回路とを一体化することができる。この中でも、シリコン基板を用いることが一般的な半導体製造技術を利用できる点で有利である。
【0020】
振動部10は、図1に示すように、平面形状が音叉型を有し、図2に示すように、SOI基板1の酸化物層3を除去して形成された第1開口部3a上に形成されている。また、振動部10の周りには、該振動部10の振動を許容する第2開口部4aが形成されている。第1開口部3aと第2開口部4aは、連続している。そして、振動部10は、半導体層4の一部によって形成され、支持部12と、該支持部12を基端として片持ち梁状に形成された二本のビーム部14a,14bと、を有する。二本の第1ビーム部14aおよび第2ビーム部14bは、その長手方向にそれぞれ平行に所定間隔をおいて配置されている。
【0021】
支持部12は、半導体層4に連続する第1支持部12aと、該第1支持部12aより幅の大きい第2支持部12bとを有する。第2支持部12bは、第1ビーム部14aおよび第2ビーム部14bを支持する機能と、これらのビーム部14a,14bの振動を第1支持部12aに伝搬させない機能とを有する。第2支持部12bは、かかる機能を有するために、例えば図1に示すように、その側部に凹凸形状を有することができる。
【0022】
駆動部20は、第1ビーム部14aおよび第2ビーム部14bの上にそれぞれ1対づつ形成されている。すなわち、第1ビーム部14a上には、第1駆動部20aと第2駆動部20bとが、第1ビーム部14aの長手方向に沿って平行に形成されている。同様に、第2ビーム部14b上には、第3駆動部20cと第4駆動部20dとが、第2ビーム部14bの長手方向に沿って平行に形成されている。そして、第1ビーム部14aの外側に配置された第1駆動部20aと、第2ビーム部14bの外側に配置されている第3駆動部20cとが、図示しない配線によって電気的に接続されている。また、第1ビーム部14aの内側に配置された第2駆動部20bと、第2ビーム部14bの内側に配置されている第4駆動部20dとが、図示しない配線によって電気的に接続されている。したがって、これらの配線に交流電界を印加すると、第1ビーム14aおよび第2ビーム部14bは、それぞれ鏡映対称に屈曲振動し、音叉振動を実現することができる。
【0023】
駆動部20(20aないし20d)は、図2に示すように、下地層5上に形成された第1電極層22と、該第1電極層22の上方に形成された圧電体層24と、該圧電体層24の上方に形成された第2電極層26とを有する。
【0024】
下地層5は、酸化シリコン層(SiO)、窒化シリコン層(Si)等の絶縁膜であり、2層以上の複合層で構成されていてもよい。第1電極層22は、任意の電極材料を用いることができ、例えば白金などを例示することができる。第1電極層22の厚さは充分に低い電気抵抗値が得られるのであればよく、10nm以上5μm以下とすることができる。
【0025】
圧電体層24は、任意の圧電材料を用いることができ、例えばチタン酸ジルコン酸鉛あるいは窒化アルミニウムを例示することができる。
【0026】
第2電極層26は、任意の電極材料を用いることができ、白金などを例示できる。第2電極層26の厚さは充分に低い電気抵抗値が得られるのであればよく、10nm以上5μm以下とすることができる。
【0027】
圧電体層24の厚さは、以下に述べるように、ビーム部14a、14bの厚さと特定の関係を有する。すなわち、ビーム部14a、14bの厚さをT0とし、圧電体層24の厚さをT1とするとき、T0/T1≦1であることができる。本実施形態では、さらに、後述するモード解析の結果からも明らかなように、0.3≦T0/T1≦1.0であることが好ましい。従って、例えば、ビーム部14a、14bの厚さを0.3μmないし4.0μmとした場合、圧電体層24の厚さは1.0μm以上4.0μm以下とすることができる。ビーム部14a、14bと圧電体層24の厚さが上記関係を有することにより、圧電体層にかかる駆動力の負荷が小さく、電気機械結合係数を大きくすることができる。その結果、音叉振動子100の小型化や高効率化を図ることができる。
【0028】
以下に、ビーム部14a、14bの厚さT0と、圧電体層24の厚さT1との関係について行った解析とその結果を図3に示す。図3は、横軸にビーム部の厚さと圧電体層の厚さとの比(T0/T1)を示し、縦軸に電気機械結合係数(k2)を示す。
【0029】
具体的には、音叉振動子100について、有限要素法を用いてモード解析を行い、1次の屈曲振動モードでの共振周波数と反共振周波数とを計算し、その差から電気機械結合係数を算出した。
【0030】
モード解析では、ビーム部を構成するシリコンの材料定数を、密度2.33g/cm、弾性定数を、Y11=167GPa、Y44=80GPaとする。また、圧電体層を構成するPZTの材料定数を、密度7.50g/cm、誘電率をε11=804.6、ε33=659.7、圧電定数を、e31=−4.1C/m,e33=14.1C/m,e15=10.5C/mとし、弾性定数をY11=132GPa、Y33=115GPa、Y44=30GPaとする。ビーム部の長さを500μm、幅W0を6μm、ビーム部の間隔を6μm、圧電体層の厚さT1を1μmとする。
【0031】
そして、圧電体層の厚さT1を一定としたままで、ビーム部の厚さT0を変化させた場合の電気機械結合係数を求めたところ、図3に示す結果が得られた。図3に示すように、T0/T1≦1、好ましくは0.3≦T0/T1≦1.0の領域で、ビーム部の厚さT0の減少に伴って電気機械結合係数が著しく増大する。
【0032】
さらに、本実施形態の音叉振動子100において、図1に示すように、駆動部20(20a〜20d)の幅をW1とし、ビーム部14a、14bの幅をW0とするとき、0.2≦W1/W0≦0.4であることが好ましい。駆動部20の幅W1とビーム部14a、14bの幅W0が上記関係を有することにより、駆動部分の面積が増えると電気機械結合係数が大きくなる効果と、幅の中心部分に駆動部分があると、却って振動を妨げる効果が釣り合うことから、電気機械結合係数を大きくすることができる。その結果、音叉振動子100の小型化や高効率化を図ることができる。
【0033】
以下に、駆動部20の幅W1と、ビーム部14a、14bの幅W0との関係について行った解析とその結果を図4に示す。図4は、横軸に駆動部の幅とビーム部の幅との比(W1/W0)を示し、縦軸に電気機械結合係数(k2)を示す。なお、解析法は、上述したモード解析と同様である。このモード解析では、ビーム部の幅W0を一定としたままで、駆動部の幅W1を変化させた場合の電気機械結合係数の変化を求めたところ、図4に示す結果が得られた。図4に示すように、電気機械結合係数は、ビーム部の幅W1の増大に伴ってほぼ直線的に増大し、比(W1/W0)が0.33付近で極大になり、これを越えると減少に転ずる。以上のことから、0.2≦W1/W0≦0.4の関係を満たすことが電気機械結合係数の観点から望ましい。
【0034】
本実施形態では、駆動部20において、第1電極層22と第2電極層26の間には圧電体層26のみが存在するが、両電極層22,26間に上記の圧電体層24以外の層を有していてもよい。この場合、共振条件に応じて圧電体層24の膜厚を適宜に変更すればよい。
【0035】
次に、本実施形態の音叉振動子100の構成例について述べる。
【0036】
音叉振動子100は、下地層(SiO層)の厚さが1μm、第1電極層22の厚さが0.1μm、圧電体層24の厚さT1が1μm、第2電極層26の厚さが0.1μmで、駆動部20の全体の厚さが1.2μm、駆動部20の幅W1が2μm、ビーム部14a、14bの厚さT0が1μm、長さが250μm、幅W0が6μmである。この構成例では、T0/T1=1.0、W1/W0=0.33である。なお、駆動部20の幅W1は、具体的には、圧電体層24の幅である。また、第2支持部12bの長さが125μm、幅(最大幅)が18μmである。振動部10は、長辺950μm、短辺350μmの第2開口部4aの中に収まっている。このような構造の音叉振動子100について、有限要素法によって運動方程式を解いてシミュレーションすると、屈曲振動の共振周波数は32kHzとなる。
【0037】
本実施形態の音叉振動子100によれば、振動部10がSOI基板1の半導体層4によって構成されるため、振動部10の厚さを小さくし、さらにビーム部14a、14bの長さを短くすることができる。例えば、本実施形態において、振動部10の厚さを4μm以下、振動部10の長さを500μm以下とすることができる。そして、本実施形態の音叉振動子100は、32kHz帯の周波数を用いる場合には、1mm以下の長さのパッケージとすることができる。
【0038】
また、本実施形態の音叉振動子100によれば、ビーム部の厚さと圧電体層の厚さとの比(T0/T1)が特定の範囲にあり、さらに、駆動部の幅とビーム部の幅との比(W1/W0)が特定の範囲にあることにより、高い電気機械結合係数を得ることができる。
【0039】
さらに、本実施形態によれば、SOI基板1に音叉振動子100を形成することができるので、SOI基板1に発振回路と音叉振動子とを一体化して形成することができる。その結果、SOI基板1を用いたデバイスの低動作電圧の特徴を生かして、超低消費電力のワンチップ音叉振動子モジュールを実現することができる。
【0040】
2.音叉振動子の製造方法
次に、図5から図7を参照して、本実施形態にかかる音叉振動子100の製造方法の一例について述べる。
【0041】
(1)図5に示すように、SOI基板1上に、下地層5、第1電極層22、圧電体層24および第2電極層26を順次形成する。SOI基板1は、シリコン基板2上に、酸化物層(酸化シリコン層)3および半導体層4が順次形成されたものである。
【0042】
下地層5は熱酸化法、CVD法、スパッタリング法などで形成することができる。下地層5は、パターニングされて所望の形状を有するように形成される。このパターニングは、通常のフォトリソグラフィーおよびエッチング技術によって行うことができる。
【0043】
第1電極層22は、下地層5上に、蒸着法、スパッタリング法などを用いて形成することができる。第1電極層22は、パターニングされて所望の形状を有するように形成される。このパターニングは、通常のフォトリソグラフィーおよびエッチング技術によって行うことができる。
【0044】
圧電体層24は、ゾルゲル法などの溶液法、蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、CVD法などの種々の方法で形成することができる。例えば、レーザーアブレーション法を用いてチタン酸ジルコン酸鉛層を形成する場合には、レーザー光をチタン酸ジルコン酸鉛用ターゲット、例えば、Pb1.05Zr0.52Ti0.48NbOのターゲットに照射する。そして、このターゲットから鉛原子、ジルコニウム原子、チタン原子、および酸素原子をアブレーションによって放出させ、レーザーエネルギーによってプルームを発生させ、このプルームをSOI基板1に向けて照射する。このようにすると、第1電極層22,32上にチタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体層24が形成される。圧電体層24は、パターニングされて所望の形状を有するように形成される。このパターニングは、通常のフォトリソグラフィーおよびエッチング技術によって行うことができる。
【0045】
第2電極層26は、蒸着法、スパッタリング法、CVD法等によって形成することができる。第2電極層26は、パターニングされて所望の形状を有するように形成される。このパターニングは、通常のフォトリソグラフィーおよびエッチング技術によって行うことができる。
【0046】
下地層5,第1電極層22、圧電体層24および第2電極層26のパターニングは、各層毎に行うこともできるし、複数層を一括して行うこともできる。
【0047】
(2)図6に示すように、SOI基板1の半導体層4を所望の形状にパターニングする。具体的には、半導体層4は、図1に示すように、第2開口部4a内に、所望の平面形状の振動部10が形成される。半導体層4のパターニングは、公知のフォトリソグラフィーおよびエッチング技術によって行うことができる。エッチングは、ドライエッチングまたはウェットエッチングを用いることができる。このパターニング工程においては、SOI基板1の酸化物層3をエッチングストッパ層として用いることができる。
【0048】
(3)図7に示すように、SOI基板1の酸化物層3をエッチングして振動部10の下に、第1開口部3aを形成する。エッチングとしては、酸化シリコンのエッチャントとして、例えばフッ化水素を用いたウェットエッチングを用いることができる。この第1開口部3aは、シリコン基板2および半導体層4をエッチングストッパ層として用いることができる。上述した第2開口部4aと第1開口部3aとを設けることで、音叉型の振動子10の機械的拘束力が低減され、振動部10が自由に振動できるようになる。
【0049】
以上の工程を経て、図1および図2に示す音叉振動子100を形成することができる。本実施形態の製造方法によれば、公知のMEMS技術を用いて容易に音叉振動子を製造することができる。
【0050】
3.音叉振動子を適用した電子機器の例
3.1.発振器
上述した音叉振動子100を有する発振器を説明する。
【0051】
図8は、上述した音叉振動子100を有する発振器500の基本的構成を示す回路図である。発振器500は、この回路(発振回路)を含むことができる。発振回路は、電気信号を増幅する増幅器401と、増幅器401の入出力間に接続された帰還回路410と、を有する。増幅器401は、例えばCMOSインバータからなる。帰還回路410は、例えば、音叉振動子100と、抵抗403と、2つのコンデンサ404,405と、を備える。増幅器401には、直流電源から電圧Eが印加されている。電源電圧Eを増大させていき発振開始電圧になると、電流Iが急激に増加して発振が開始される。さらに電源電圧Eを増大させると、発振状態を保ちながら電流Iがほぼ比例して増加する。
【0052】
図9は、本実施形態に係る発振器500を概略的に示す平面図であり、図10は、発振器500を概略的に示す断面図である。なお、図10は、図9のX−X線断面図である。また、図9および図10では、便宜上、音叉振動子100を簡略化して示している。
【0053】
発振器500は、封止材502により封止されている。IC(集積回路)503は、金線などのボンディングワイヤ504により外部端子570に接続されている。外部端子570は、リードフレーム505および接合材506を介して、実装端子541と電気的に接続されている。実装端子541は、配線(図示せず)などにより、音叉振動子100の各電極と電気的に接続されている。音叉振動子100は、蓋部材539やシール部材540などにより封止されている。
【0054】
図11は、本実施形態に係る発振器500の製造工程例を概略的に示す図である。
【0055】
まず、ICウェハに対してテープ貼りおよびダイシングを行う。次に、IC503のチップをリードフレーム505に搭載する。次に、ボンディングワイヤ504を用いてIC503に対してワイヤボンディングを行う。
【0056】
次に、音叉振動子100の実装端子541を、半田などの接合材506を用いてリードフレーム505に接合して、音叉振動子100をマウントする。次に、封止材(モールド材)502を用いて、音叉振動子100、IC503などを樹脂封止する。その後、特性検査、マーキングを行い、テーピング、梱包し、出荷される。
【0057】
また、図示はしないが、例えば、音叉振動子100が形成される基体1(図2参照)に対して半導体プロセスを用いて音叉振動子100に平面的に隣接するICを形成し、本実施形態に係る発振器を形成することもできる。これにより、パッケージを省略することができ、ワンチップ型の発振器を形成することができる。
【0058】
3.2.リアルタイムクロック
次に、上述した音叉振動子100を有するリアルタイムクロックを説明する。
【0059】
図12は、上述した発振器(OSC)500を有するリアルタイムクロック600を概略的に示す回路ブロック図である。リアルタイムクロック600の集積回路部は、単一の基板601に集積され、マイクロプロセッサ(図示せず)と接続されている。
【0060】
計時用接続端子602,603に接続されている発振器500からは高周波(例えば32kHz)のクロックパルスが出力される。クロックパルスは分周回路605で分周され、1Hzの計時パルスが計時カウンタ606に入力される。計時カウンタ606は、例えば、秒計時ビットsと、分計時ビットmと、時計時ビットhと、曜日計時ビットdと、日計時ビットDと、月計時ビットMと、年計時ビットYとから構成されている。所定数の計時パルスが計時カウンタ606に入力されると、それぞれの計時ビットは繰り上がることができる。計時カウンタ606には、計時ビットの書き換えおよび読み出しを行う制御部620が接続されている。制御部620は、例えば、コマンドデコーダ612と、シフトレジスタ609,610と、を有することができる。
【0061】
計時カウンタ606の計時ビットを書き換える場合には、まず、マイクロプロセッサからセレクト入力端子607にセレクト信号を供給する。次に、マイクロプロセッサからデータ入力端子608に、書き換えるべき情報を表すデータビットと、計時ビットのアドレスを表すアドレスビットと、計時カウンタ606への書き込み動作を表す操作ビットとから構成される外部情報を供給する。その結果、外部情報は、直列に接続されたシフトレジスタ609,610に記憶される。そして、コマンドデコーダ612は、シフトレジスタ610に記憶された操作ビットとアドレスビットに基づき、ライトイネーブル信号を計時カウンタ606に送出するとともに、計時ビットを指定するアドレス信号を出力する。その結果、シフトレジスタ609に記憶されたデータビットが計時カウンタ606の計時ビットに書き込まれ、リアルタイムデータの書き換えが行われる。
【0062】
また、計時カウンタ606からリアルタイムデータを読み出す場合には、マイクロプロセッサから、読み出し動作を表す操作ビットを有する外部情報を送出させる。そして、コマンドデコーダ612は、計時カウンタ606へのライトイネーブル信号をインアクティブ状態にする。その結果、インバータ613がアクティブ状態のライトイネーブル信号をシフトレジスタ609に供給し、シフトレジスタ609が読み込み可能状態になり、計時カウンタ606の内容はシフトレジスタ609に読み出される。シフトレジスタ609に読み出されたリアルタイムデータは、クロック入力端子614に印加されるクロック信号に同期して、データ出力端子615に転送され、例えばマイクロプロセッサのレジスタなどに送出される。
【0063】
なお、例えば計算結果などのデータは、ランダムアクセスメモリ(RAM)616に記憶させることができる。
【0064】
図13は、本実施形態に係るリアルタイムクロック600を概略的に示す上面透視図であり、図14は、リアルタイムクロック600を概略的に示す側面透視図である。なお、図14は、図13の矢印XIVの方向に見た図である。
【0065】
発振回路などを有するICチップ651は、リードフレーム652のアイランド部653に導電性接着剤などで接着固定されている。ICチップ651の上面に設けられた各電極パッド654は、ボンディングワイヤ655により、パッケージの外周部に配置された入出力用リード端子656と電気的に接続されている。平面視において、ICチップ651の隣には、音叉振動子100を内部に収めている振動子用筐体657が配置されている。振動子用筐体657内には、例えば図1および図2に示す音叉振動子100が気密状態で封止されている。音叉振動子100の各電極に電気的に接続されたリード658は、振動子用筐体657内から外に突出している。リード658は、リードフレーム652の接続パッド659に導電性接着剤などで接着固定されている。ICチップ651、リードフレーム652および振動子用筐体657は、樹脂660により一体成形されてパッケージ化されている。
【0066】
また、図示はしないが、例えば、音叉振動子100が形成される基体1(図2参照)に対して半導体プロセスを用いて音叉振動子100に平面的に隣接するICを形成し、本実施形態に係るリアルタイムクロックを形成することもできる。これにより、パッケージを省略することができ、ワンチップ型のリアルタイムクロックを形成することができる。
【0067】
3.3.電波時計受信モジュール
次に、上述した音叉振動子100を有する電波時計受信モジュールを説明する。
【0068】
図15は、本実施形態に係る電波時計受信モジュール800を概略的に示す回路ブロック図である。
【0069】
電波時計受信モジュール800は、受信部801と、周波数フィルタ805と、周辺回路810と、上述したリアルタイムクロック(RTC)600と、を含む。周波数フィルタ805は、例えば図1および図2に示す音叉振動子100(100A,100B)を有する。周辺回路810は、例えば、検波・整流回路806と、波形整形回路807と、中央演算処理装置(CPU)808と、を有することができる。
【0070】
電波時計は、時刻情報を含む標準電波を受信して、正確な時刻に自動修正して表示する機能を備えた時計である。日本国内には、福島県(40kHz)と佐賀県(60kHz)に標準電波を送信する送信所がある。
【0071】
受信部(例えばアンテナ)801は、40kHzまたは60kHzの長波の標準電波を受信する。標準電波は、40kHzまたは60kHzの搬送波に振幅変調(AM)をかけて時刻情報(タイムコード)を乗せたものである。
【0072】
受信された電気信号は、アンプ802によって増幅され、搬送周波数と同一の共振周波数を有する音叉振動子100A,100Bを有する周波数フィルタ805によって、濾波、同調される。濾波された電気信号からは、周辺回路810により、タイムコードを読み出すことができる。具体的には、まず、濾波された所定周波数の信号は、検波・整流回路806により検波復調される。そして、波形整形回路807を介してタイムコードが取り出され、CPU808でカウントされる。CPU808では、例えば、現在の年、積算日、曜日、時刻などの情報が読み取られる。読み取られた情報は、RTC600に反映されて、正確な時刻情報が表示される。
【0073】
搬送波は40kHzまたは60kHzであるから、周波数フィルタ805の音叉振動子100A,100Bには、本発明に係る音叉振動子が好適である。
【0074】
また、図示はしないが、例えば、音叉振動子100が形成される基体1(図2参照)に対して半導体プロセスを用いて音叉振動子100に平面的に隣接するICを形成し、本実施形態に係る電波時計受信モジュールを形成することもできる。これにより、パッケージを省略することができ、ワンチップ型の電波時計受信モジュールを形成することができる。
【0075】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。たとえば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(たとえば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施形態の音叉振動子の構造を模式的に示す平面図。
【図2】図1のA−A線に沿って切断した断面図。
【図3】音叉振動子の電気機械結合係数を計算した結果を示すグラフ。
【図4】音叉振動子の電気機械結合係数を計算した結果を示すグラフ。
【図5】実施形態の音叉振動子の製造方法を模式的に示す断面図。
【図6】実施形態の音叉振動子の製造方法を模式的に示す断面図。
【図7】実施形態の音叉振動子の製造方法を模式的に示す断面図。
【図8】本実施形態の音叉振動子を適用した発振器の基本的構成を示す回路図。
【図9】本実施形態の音叉振動子を適用した発振器を概略的に示す平面図。
【図10】本実施形態の音叉振動子を適用した発振器を概略的に示す断面図。
【図11】本実施形態の音叉振動子を適用した発振器の製造工程例を概略的に示す図。
【図12】本実施形態の音叉振動子を適用したリアルタイムクロックを概略的に示す回路ブロック図。
【図13】本実施形態の音叉振動子を適用したリアルタイムクロックを概略的に示す上面透視図。
【図14】本実施形態の音叉振動子を適用したリアルタイムクロックを概略的に示す側面透視図。
【図15】本実施形態の音叉振動子を適用した電波時計受信モジュールを概略的に示す回路ブロック図。
【符号の説明】
【0077】
1…SOI基板、2…シリコン基板、3…酸化物層、3a,4a…開口部、4…半導体層(シリコン層)、5…下地層、10…振動部、12…支持部、14a…第1ビーム部、14b…第2ビーム部、20…駆動部、22…第1電極層、24…圧電体層、26…第2電極層、100…音叉振動子、401 増幅器、403 抵抗、404,405 コンデンサ、410 帰還回路、500 発振器、502 封止材、503 IC、504 ボンディングワイヤ、505 リードフレーム、506 接合材、539 蓋部材、540 シール部材、541 実装端子、570 外部端子、600 リアルタイムクロック、601 基板、602,603 計時用接続端子、605 分周回路、606 計時カウンタ、607 セレクト入力端子、608 データ入力端子、609,610 シフトレジスタ、612 コマンドデコーダ、613 インバータ、614 クロック入力端子、615 データ出力端子、620 制御部、651 ICチップ、652 リードフレーム、653 アイランド部、654 電極パッド、655 ボンディングワイヤ、656 入出力用リード端子、657 振動子用筐体、658 リード、659 接続パッド、660 樹脂、800 電波時計受信モジュール、801 受信部、802 アンプ、805 周波数フィルタ、806 検波・整流回路、807 波形整形回路、808 CPU,810 周辺回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の上方に形成された酸化物層と、該酸化物層の上方に形成された半導体層と、を有する基体と、
前記半導体層と前記酸化物層を加工して形成された、半導体層からなる音叉型の振動部と、
前記振動部の屈曲振動を生成するための駆動部と、
を含み、
前記振動部は、支持部と、該支持部を基端として片持ち梁状に形成された二本のビーム部と、を有し、
前記駆動部は、前記二本のビーム部の上方にそれぞれ一対ずつ形成され、ひとつの駆動部は、第1電極層と、該第1電極層の上方に形成された圧電体層と、該圧電体層の上方に形成された第2電極層とを有し、
前記ビーム部の厚さをT0とし、前記圧電体層の厚さをT1とするとき、T0/T1≦1である、音叉振動子。
【請求項2】
請求項1において、
0.3≦T0/T1≦1.0である、音叉振動子。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記駆動部の幅をW1とし、前記ビーム部の幅をW0とするとき、0.2≦W1/W0≦0.4である、音叉振動子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛あるいはチタン酸ジルコン酸鉛固溶体からなる、音叉振動子。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記圧電体層は、窒化アルミニウムあるいは窒化アルミニウム固溶体からなる、音叉振動子。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記基体は、SOI基板である、音叉振動子。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記振動部と前記駆動部の前記第1電極層との間に下地層を有する、音叉振動子。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の音叉振動子を含む、電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−283529(P2008−283529A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126716(P2007−126716)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】