説明

駆動制御装置

【課題】 駆動機械の過大慣性振動を検出し、この過大慣性振動を抑制して安定な制御系を実現する駆動制御装置を提供する。
【解決手段】 位置指令信号と位置信号を入力とし駆動機械1の速度指令信号を出力する位置制御手段5と、速度指令信号と速度信号を入力としトルク指令信号を出力する速度制御手段6と、駆動機械1を駆動するトルクがトルク指令信号に一致するよう制御するトルク制御手段2と、開ループ周波数応答のゲイン交差周波数が、周波数の増加に伴い開ループ周波数応答の位相が増加するときの位相交差周波数以下となる状態を検出することにより、慣性設定値に対する駆動機械の慣性が大きいことで制御系が不安定となり発生する過大慣性振動を検出する振動検出手段7と、過大慣性振動が検出された場合に速度制御手段6或いは位置制御手段5のゲインを変更することで振動を抑制する振動抑制手段8を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットや工作機械など各種産業機械を駆動する駆動制御装置に関するものであり、特に過大慣性振動を抑制し制御系を安定化させる駆動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の駆動制御装置では、駆動制御装置にて予め設定される慣性設定値に対し、駆動機械の慣性が非常に大きい(過大慣性である)場合、駆動機械と駆動制御装置からなる制御系全体の安定性が低下し、振幅が大きな振動(以下、過大慣性振動と記述する)が発生する問題がある。上記の過大慣性振動は、駆動機械が機械共振特性を有している場合に発生する数100Hz〜数kHzの高い周波数の発振とは異なり、数Hz〜数10Hz程度の低い周波数で発振する。
【0003】
このような問題に対して、従来の駆動制御装置では、外部から入力される指令より生成した規範速度信号と、駆動機械の速度信号との偏差に補償ゲインを乗じて速度ずれ補償信号を生成し、速度ずれ補償信号を速度指令信号に加算することにより、駆動機械の過大慣性に起因して発生する過大慣性振動を抑制し、制御系の安定化を図るよう構成している。
【0004】
また、位置指令信号と駆動機械の位置信号との偏差、速度指令信号と速度信号との偏差、あるいは規範速度信号と速度信号との偏差のいずれかを監視しておき、これら偏差が予め設定されたしきい値以下、または発振が発生するまで上記補償ゲインを大きくするよう構成されている(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−306779号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の駆動制御装置では、過大慣性振動を抑制するためには、規範速度信号と速度信号との偏差に乗じる補償ゲインを事前に十分に大きくしておく必要がある。しかしながら、補償ゲインを大きく設定した状態で、比較的小さな慣性を有する駆動機械を駆動する場合、制御系全体のループゲインが大きくなるため、制御系の安定性が低下し、不安定となる問題がある。
【0007】
また、位置指令信号と位置信号との偏差、速度指令信号と速度信号との偏差あるいは速度規範速度信号と速度信号との偏差のいずれかに基づいて補償ゲインを大きくする構成では、過大慣性により各偏差が大きくなると補償ゲインを大きくするので、過大慣性振動を抑制できる。また、慣性が小さい駆動機械を駆動する場合は偏差が小さくなるので、補償ゲインを大きくしない。よって、制御系は不安定とはならない。しかしながら、偏差を予め設定されたしきい値との比較しかしていないので、過大慣性以外の他の要因で発生する振動に対しても補償ゲインを大きくすることになる。そのため、本来であれば補償ゲインを大きくする必要がない、あるいは補償ゲインを大きくしても効果がない場合でも補償ゲインを大きくし、制御系を不安定にする問題がある。
【0008】
また、駆動機械が機械共振特性を有している場合、補償ゲインを大きくしすぎると、機械共振特性に起因して発振する。発振が発生した場合、補償ゲインをそれ以上大きくできないため、過大慣性振動抑制を抑制することができない問題がある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、駆動機械が過大慣性振動していることを誤検出することなく検出し、過大慣性振動を抑制し、安定な制御系を実現する駆動機械制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の駆動制御装置は、駆動機械の位置の目標値である位置指令信号と駆動機械の位置の現在値を示す位置信号を入力として、位置比例ゲインを用いた比例演算により駆動機械の速度の目標値である速度指令信号を出力する位置制御手段と、速度指令信号と駆動機械の速度の現在値を示す速度信号を入力として、速度比例ゲインと速度積分ゲインを用いた比例積分演算により駆動機械を駆動するトルクの目標値であるトルク指令信号を出力する速度制御手段と、トルク指令信号を入力として、駆動機械を駆動するトルクがトルク指令信号に一致するよう制御するトルク制御手段と、開ループ周波数応答のゲイン交差周波数が、周波数の増加に伴い開ループ周波数応答の位相が増加するときの位相交差周波数以下となる状態を検出することにより、慣性設定値に対する駆動機械の慣性が大きいことで制御系が不安定となり発生する過大慣性振動を検出する第1の検出手段と、振動検出手段により振動が検出された場合に速度制御手段或いは位置制御手段のゲインを変更することで振動を抑制する振動抑制手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の駆動制御装置によれば、トルク指令信号に現れる所定の値以下の周波数を検出することにより、駆動機械が過大慣性振動していることを検出でき、他の要因で振動している場合に誤検出することはない。また、速度比例ゲインと速度積分ゲインとの比率と、速度積分ゲインと位置比例ゲインとの比率の少なくとも片方を小さくするよう速度比例ゲイン、速度積分ゲイン、位置比例ゲインを変更することにより過大慣性振動を抑制することができる。駆動機械が機械共振を有している場合であっても、速度積分ゲインまたは位置比例ゲインのどちらかを小さくすることで、機械共振特性に起因した発振を発生させることなく、過大慣性振動を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、この発明の実施の形態1の駆動制御装置のブロック図である。
【図2】図2は、駆動機械の構成を表すブロック図である。
【図3】図3は、トルク指令信号から駆動機械の位置信号までの周波数応答のグラフを示す図である。
【図4】図4は、外乱に対する駆動機械の位置信号の応答波形のグラフを示す図である。
【図5】図5は、この発明の実施の形態2の駆動制御装置のブロック図である。
【図6】図6は、この発明の実施の形態3の駆動制御装置のブロック図である。
【図7】図7は、この発明の実施の形態4の駆動制御装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる駆動制御装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
実施の形態1.
<駆動制御装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態1による駆動制御装置を示すブロック図である。
駆動機械1は、図2に示すように、負荷機械11と、負荷機械11を駆動する電動機12などから構成され、電動機12はタイミングベルトやボールネジといったトルク伝達機構13を介して負荷機械11を駆動する。電動機12のトルクTは、トルク制御手段2によりトルク指令信号Tに一致するよう制御される。位置検出手段3は、駆動機械1の位置の現在値を検出して位置信号θを出力する。速度演算手段4は、駆動機械1の位置信号θを入力として、駆動機械1の速度の現在値を示す速度信号ωを出力する。
【0015】
位置制御手段5は、駆動機械1の位置の目標値である位置指令信号θrと位置信号θmを入力として、駆動機械1の速度の現在値を示す速度信号ωを出力する。速度制御手段6は、速度指令信号ωと速度信号ωを入力として、トルク指令信号Tを出力する。
【0016】
振動検出手段(第1の検出手段)7は、トルク指令信号Tを入力とし、駆動機械1が所定の値以下の周波数で振動していることを検出する。そして、特に振動検出手段7は、後で詳細に述べるが、慣性設定値に対する駆動機械1の慣性が大きいことを制御系が不安定となり振動する過大慣性振動が発生しているとき、この過大慣性振動を検出する。
【0017】
振動抑制手段8は、振動検出手段7により駆動機械1が所定の周波数の値以下の周波数で振動していることを検出した場合に、位置制御手段5および速度制御手段6のゲインを変更する。
【0018】
<基本動作>
次に、動作について説明する。
位置制御手段5は、位置指令信号θと位置信号θとの偏差に位置比例ゲインKpを乗じた信号を速度指令信号ωとして出力する。すなわち、次式の演算を行う。
【数1】

次に、速度演算手段4は次式で表されるように、位置信号θを微分することにより、速度信号ωを出力する。
【数2】

【0019】
次に、速度制御手段6は、速度指令信号ωrと速度信号ωを入力として、速度比例ゲインKと速度積分ゲインωpiとを用いて、次式に示すPI(propotional-integral:比例−積分)制御演算によりトルク指令信号Tを出力する。
【数3】

速度比例ゲインKvは、駆動機械1の慣性の設定値である慣性設定値Jと、後述する速度応答設定値ωscとを用いて、次式示す演算により設定されるものとする。
【数4】

説明を容易にするため、以下の説明ではトルク制御手段2の伝達特性を1とし、トルク指令信号Tから位置信号θまでの伝達特性をG(s)が慣性Jの剛体特性、すなわちG(s)が次式のように表されるものとする。
【数5】

このとき、トルク指令信号Tの箇所で制御ループを切り開いたときの開ループ伝達関数L(s)は、速度比例ゲインK、速度積分ゲインωpi、位置比例ゲインKおよび式(
5)を用いて、次式のように表される。
【数6】

式(6)より、開ループ伝達関数L(s)のゲイン特性が0dBと交差する周波数であるゲイン交差周波数ωgcは、次式のように近似できる。
【数7】

【0020】
ゲイン交差周波数ωgcは制御系の速応性や安定性の尺度として扱われ、ゲイン交差周波数ωgcが大きいほど速応性を向上させることができ、ゲイン交差周波数ωgcにおける位相余裕が大きいほど制御系の安定性が向上する。式(4)中の速度応答設定値ωscは、ゲイン交差周波数ωgcの設計値で表しており、式(7)より、慣性設定値Jが駆動機械1の慣性Jと等しい場合(J=J)、ゲイン交差周波数ωgcは速度応答設定値ωscと等しくなる(ωsc=ωgc)。
【0021】
一般的に、速度応答設定値ωsc、すなわち速度比例ゲインKを大きくすることで、ゲイン交差周波数ωgcが大きくなるよう調整される。実際の制御系は、演算時間や駆動機械1に内在するむだ時間などによる遅れ要素を含んでいるため、開ループ周波数応答の位相特性は、周波数が増加するに従い位相が減少するよう変化し、さらに周波数が増加すると−180度よりも小さくなる。そのため、速度比例ゲインKを大きくしすぎると、ゲイン交差周波数ωgcにおける位相余裕が小さくなるため制御系の安定性が低下する。また、開ループ周波数応答の位相が−180度よりも小さく、位相遅れが大きい周波数領域に機械共振特性が存在すると、その共振ピークにより共振周波数付近のゲインが大きくなるため、速度比例ゲインKを大きくしすぎると、やはり制御系は不安定となる。
【0022】
<過大慣性振動が発生する条件>
次に、過大慣性振動が発生する条件について説明する。
図4は、慣性設定値をJ=1、速度応答設定値をωsc=1で固定とし、駆動機械1の慣性Jを変化させたときの開ループ伝達関数の周波数応答を表している。また、図5は、図4と同じ条件を使用したときの外乱に対する位置信号θの応答波形を表す。図4および図5では、(a)慣性設定値Jが駆動機械1の慣性Jと等しい条件(J=J)(細線)、(b)慣性設定値Jが駆動機械1の慣性Jより大きく,制御系が安定限界となる条件(太線)、(c)慣性設定値Jが条件(b)よりもさらに大きく制御系が不安定となる条件(点線)における結果を示している。また,条件(a),(b),(c)における位相特性は同じであるため各線が一致している。また、図5中に示す一点鎖線は、位相遅れが0のときの位相特性を表しており、位相遅れが存在すると、太線が示すとおり、周波数が増加するに従い開ループ位相は減少し、位相遅れが増大する。
【0023】
図5に示すとおり、慣性設定値Jが駆動機械1の慣性Jと等しい場合は、外乱に対する位置信号θは速やかに0に収束している。しかしながら、慣性設定値Jに対し、駆動機械1の慣性Jが大きくなるに従い、開ループ伝達関数L(s)のゲイン特性が全体的に小さくなり、ゲイン交差周波数ωgcが低くなる。それに伴い、ゲイン交差周波数ωgcにおける位相遅れが増大し、位相余裕が小さくなるため、位置信号θの応答が振動的となる。条件(b)は、制御系が安定限界となる条件であり、ゲイン交差周波数ωgcにおける位相余裕は0となり、位置信号θの応答波形には持続振動が発生する。条件(c)のように、慣性設定値Jに対し、駆動機械1の慣性Jがさらに大きくなると、ゲイン交差周波数ωgcにおける位相余裕は負となり、制御系は不安定となる。このとき発生する振動周波数は、ほぼゲイン交差周波数ωgcと等しくなる。
【0024】
以上のことより、慣性設定値Jに対する駆動機械1の慣性Jが大きくなることで制御系が不安定となり、過大慣性振動が発生する条件は、周波数が増加するに従い開ループ周波数応答の位相が増加するとき−180度と交差する周波数である位相交差周波数ωpcを用いて、次式のように表すことができる。
【数8】

【0025】
<振動検出手段の動作:過大慣性振動の検出>
次に、振動検出手段7の動作について説明する。
慣性設定値Jに対する駆動機械1の慣性Jが大きくなることで制御系が不安定となる条件は式(8)で表されるが、駆動機械1の慣性Jが未知である場合、実際のゲイン交差周波数ωgcも未知である。しかしながら、式(8)より、慣性設定値Jに対する駆動機械1の慣性Jが大きいことで制御系が不安定となるときに発生する振動周波数は、位相交差周波数ωpcよりも低くなる。振動検出手段7では、トルク指令信号Tを入力とし、位相交差周波数ωpc以下の周波数の振動を検出することにより、駆動機械1が過大慣性振動していることを検出している。位相交差周波数ωpcは、速度積分ゲインωpiと位置比例ゲインKを用いて次式のように表すことができる。
【数9】

【0026】
よって、トルク指令信号Tを入力とし、位置比例ゲインKと速度積分ゲインωpiを用いて演算される位相交差周波数ωpc以下の周波数を振動検出することにより、駆動機械1が過大慣性振動していることを検出することができる。検出信号として使用するトルク指令信号Tに過大慣性振動の周波数より高い周波数成分が含まれる場合は、式(9)で表される位相交差周波数ωpcの数倍程度の遮断周波数をもつローパスフィルタをトルク指令信号Tに作用させた信号を検出信号として使用することにより、過大慣性振動の周波数より高い周波数成分による影響を低減することができる。
【0027】
また、K>ωpiのとき、式(9)は次式となる。
【数10】

よって、Kp>ωpiのときは、トルク指令信号Tを入力とし、位置比例ゲインK以下の周波数を振動検出することにより、式(9)に含まれる乗算や平方根の計算をすることなく簡単な比較計算で、駆動機械1が過大慣性振動していることを検出することができる。検出信号として使用するトルク指令信号Tに過大慣性振動の周波数より高い周波数成分が含まれる場合は、式(10)で表される位置比例ゲインKの数倍程度の遮断周波数をもつローパスフィルタをトルク指令信号Trに作用させた信号を検出信号として使用することにより、過大慣性振動の周波数より高い周波数成分による影響を低減することができる。
【0028】
<過大慣性振動の検出の他の方法>
また、ωpi>Kのとき、式(9)は次式となる。
【数11】

よって、ωpi>Kpのときは、トルク指令信号Tを入力とし、速度積分ゲインωpi以下の周波数を振動検出することにより、式(9)に含まれる乗算や平方根の計算をすることなく簡単な比較計算で、駆動機械1が過大慣性振動していることを検出することができる。検出信号として使用するトルク指令信号Tに過大慣性振動の周波数より高い周波数成分が含まれる場合は、式(11)で表される速度積分ゲインωpiの数倍程度の遮断周波数をもつローパスフィルタをトルク指令信号Tに作用させた信号を検出信号として使用することにより、過大慣性振動の周波数より高い周波数成分による影響を低減することができる。
【0029】
<過大慣性振動の検出のさらに他の方法>
ここでは、トルク指令信号Tに現れる過大慣性振動を検出するようにしたが、トルク指令信号Trの代わりに、次式に示すトルク指令信号Tの比例成分に相当するTrpを用いてもよい。
【数12】

これにより、摩擦や重力負荷などの定常成分を除去することができ、過大慣性振動の検出が容易となる。
【0030】
<過大慣性振動の検出のさらに他の方法>
また、過大慣性振動が発生する場合、トルク指令信号Tだけでなく、駆動機械1の位置信号θmあるいは速度信号ωmにも同様の過大慣性振動が発生する。よって、トルク指令信号Tの代わりに、位置信号θmあるいは速度信号ωmに現れる過大慣性振動を検出するようにしても良い。また、これまで述べた過大慣性振動の検出方法により検出された振動の振幅が所定のしきい値以上であるとき駆動機械1が過大振動していることを検出するようにしてもよい。
【0031】
<振動抑制手段の動作>
次に、振動抑制手段8の動作について説明する。
駆動機械1が過大慣性振動を発生する条件である式(8)は、次式のように変形できる。
【数13】

式(13)より、速度比例ゲインKと速度積分ゲインωpiとの比率である第1の比率と、速度比例ゲインKvと位置比例ゲインKpとの比率である第2の比率の少なくとも片方が大きくなるように速度比例ゲインKを大きくする、あるいは速度積分ゲインωpiまたは位置比例ゲインKを小さくすることで、制御系の安定性は向上し、過大慣性振動を抑制することができる。
【0032】
また、制御系の安定余裕が十分大きくない、あるいは駆動機械1が機械共振特性を有しおり速度比例ゲインKを大きくすると制御系が発振するような場合であっても、速度積分ゲインωpiあるいは位置比例ゲインKを小さくし、第1の比率または第2の比率を大きくすることで、制御系を発振させることなく、過大慣性振動を抑制することができる。
また、第1の比率と第2の比率を大きくする代わりに、第1の比率と第2の比率を大きくすることと同等の効果をもつ制御ループを追加してもよい。
【0033】
実施の形態2.
<過大慣性検出手段の追加>
図3は、本発明の実施の形態2による駆動制御装置を示すブロック図である。図1と同一の部分については同一の符号を付して、説明を省略する。図3に示すブロック図において、実施の形態1と異なる部分は、加速度演算手段14により位置信号θを2回微分することにより駆動機械1の加速度の現在値を示す加速度信号aを演算し、トルク指令信号Tと加速度信号aを入力として、トルク指令信号Trの大きさと、加速度信号aの大きさとの比率と、慣性設定値Jに所定のゲインKを乗じたものを比較し、過大慣性検出手段9を追加し、振動検出手段7の出力と過大慣性検出手段9の出力に基づいて駆動機械1が過大慣性振動していることを検出するようにしたことである。
【0034】
<過大慣性検出手段の動作>
過大慣性検出手段9の動作について説明する。
駆動機械1が慣性Jの剛体特性であるとした場合、駆動機械1に入力されるトルク指令信号Tと加速度信号amとの関係は、駆動機械1の慣性Jを用いて次式のように表される。
【数14】

駆動機械1の慣性Jが、慣性設定値Jに比べて大きい場合、次式が成立する。
【数15】

式(15)に示す条件を所定のゲインKを用いて次式のように表すと、駆動機械1の慣性Jが慣性設定値JのK倍になることを検出することができる
【数16】

実際には、測定した信号の除算を行うのは演算量が大きくなる。そこで、式(16)式を変形し、次式に示す条件式を用いて駆動機械1の慣性が慣性設定値Jよりも過大、すなわち過大慣性であることを検出する。
【数17】

【0035】
<過大慣性検出の他の方法>
実際には、トルク指令信号Trおよび加速度信号aの符号を考慮する必要がある。そこで、式(17)において、トルク指令信号Trの絶対値と加速度信号aの絶対値を用いて次式に示す条件式を用いることで、各変数の符号に対応することができる。
【数18】

【0036】
<過大慣性検出の他の方法>
また、トルク指令信号Trおよび加速度信号amに、トルク指令信号Tの符号を乗じたものを使用し、次式に示す条件式を用いてもよい。
【数19】

次に、所定のゲインKの設定について説明する。(13)式に示す過大慣性振動が発生する条件式に(4)式を代入して変形すると、次式が得られる。
【数20】

速度積分ゲインωpiおよび位置比例ゲインKpは、速度応答設定値ωscの数分の一程度に設定すると、良好な制御特性が得られることが知られている。ここでは、速度積分ゲインωpiおよび位置比例ゲインKは、速度応答設定値ωscに対する比率であるRpi,Rpを用いて次式のように設定されるものとする。
【数21】

【数22】

このとき、K=(ωsc/ωpi)+(ωscKp)=Rpi+Rpと設定すると、過大慣性検出手段9は、駆動機械1の慣性Jが過大慣性振動が発生する大きさと等しくなるとき過大慣性を検出することになる。K<(ωsc/ωpi)+(ωsc/Kp)=Rpi+Rpと設定すれば、制御系が不安定とならない条件においても過大慣性を検出することができる。
【0037】
実施の形態1で説明した振動検出手段7の出力と過大慣性検出手段9の出力に基づいて、駆動機械1が過大慣性振動していることを検出するよう構成することで、駆動機械1が過大慣性以外の要因で振動している場合でも誤検出することなく、確実に過大慣性振動を検出でき、振動抑制手段8の動作により過大慣性振動を抑制することが可能となる。
例えば、第1の検出手段の出力と、第2の検出手段の出力の少なくとも片方、あるいは両方の出力が過大慣性振動を検出しているとき駆動機械1が過大慣性振動していることを検出するようにしてもよい。
また、第1の検出手段の出力により駆動機械1が過大慣性振動していることを検出し、第2の検出手段の出力により、過大慣性振動が抑制され、収束していることを判断するようにしてもよい。
【0038】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3による駆動制御装置を示すブロック図である。図1と同一の部分については同一の符号を付して、説明を省略する。図6に示すブロック図において実施の形態1と異なる部分は、加速度演算手段14により位置信号θを2回微分することで駆動機械1の加速度の現在値を示す加速度信号aを演算し、トルク指令信号Tと加速度信号aに基づいて駆動機械1の慣性Jを推定演算し、推定演算された慣性推定値を慣性設定値Jに設定する推定演算手段15と、慣性設定値に基づいて速度制御手段6或いは位置制御手段5のゲインを変更するゲイン変更手段16と、振動検出手段7により駆動機械1が過大慣性振動していることを検出したとき、慣性推定演算手段15の推定演算を動作させる推定演算動作切替手段17を備えたことである。
【0039】
まず、図6において、振動検出手段7および推定演算切替手段17がない場合の動作について説明する。慣性推定演算手段15は、トルク指令信号Tと加速度信号aを入力とし、最小二乗法などの逐次計算によりトルク指令信号Tと加速度信号amの比に相当する値を演算することにより駆動機械1の慣性Jの値を推定し、慣性推定値を慣性設定値Jnとして設定する。式(4)に示すように、逐次計算される慣性設定値Jに基づいて速度比例ゲインKが変更されるようゲイン変更手段16が構成される場合を考えると、駆動機械1が過大慣性振動している場合であっても、慣性設定値Jが駆動機械1の慣性Jに近づくよう慣性推定演算手段15における推定演算が進展することにより過大慣性振動は抑制される。
【0040】
しかしながら、この種の最小二乗法などの逐次計算を用いた駆動機械1の慣性推定演算では、駆動機械1を速度一定で長時間駆動するような場合、加速度変化が小さい状態が長く続くために、その後に速度が急に変化すると慣性推定値の更新が急激となり、推定動作へ悪影響を及ぼすことになる。また、慣性推定値に基づいて速度比例ゲインKを変更する場合、速度比例ゲインも急激に変化するため駆動機械1へ入力するトルクも急変することになる。そのため、加速度変化が小さい状態が長く続く場合には推定動作を停止させるよう構成されている。そのため、加速度変化が小さい状態が長く続く場合、あるいは指令が入力されない場合に過大慣性振動が発生すると、推定演算が動作しないため過大慣性振動が長く続くことになる。
【0041】
これに対し、本実施の形態では、図6に示すように、振動検出手段7により駆動機械1が過大慣性振動していることを検出したとき、慣性推定動作切替手段17により慣性推定演算手段15の推定演算が動作するように切り替えるよう構成しているため、加速度変化が小さい状態が長く続く場合や指令が入力されない場合においても、推定演算を動作させることができ、過大慣性振動を抑制することができる。
【0042】
実施の形態4.
図7は、本発明の実施の形態4による駆動制御装置を示すブロック図である。図6と同一の部分については同一の符号を付して、説明を省略する。図7に示すブロック図において、実施の形態3と異なる部分は、振動検出手段7により駆動機械1が過大慣性振動していることを検出したときのみ慣性推定演算手段15の推定速度を増大させるよう構成したことである。
【0043】
このように構成することで、駆動機械1が過大慣性振動している場合であっても、推定演算時間が短縮されるため、過大慣性振動を速やかに抑制することができる。
また、上述のとおり、完成推定演算手段15の推定速度を増大すると推定動作に悪影響を及ぼすが、過大慣性振動を検出しているときのみ推定速度を増大させ、過大慣性振動が抑制された後、推定速度を通常の値に戻すことにより、定常的な推定動作に影響を及ぼさないようにできる。
実施の形態3、または実施の形態4では、慣性推定演算手段15で演算される慣性推定値に従い、速度比例ゲインKを変更する場合について記載したが、完成推定値に基づき速度積分ゲインωpi、または位置比例ゲインKを変更してもよい。
また、実施の形態3、または実施の形態4では、第1の検出手段7により過大振動を検出する場合について説明したが、第2の検出手段、または第1の検出手段の出力と第2の検出手段の出力により駆動機械1が過大慣性振動していることを検出してもよい。
【0044】
実施の形態5.
<PI制御演算、IP制御演算>
実施の形態1および実施の形態2における速度制御手段6は、式(3)に示すPI制御演算としたが、速度制御手段6は、次式に示す演算を行うIP制御演算としてもよい。
【数23】

このとき、実施の形態1および実施の形態2で示した振動検出手段7、過大慣性検出手段9の動作は同じである。
【0045】
速度制御手段6をIP制御演算にすることで、式(13)に示す駆動機械1が過大慣性振動を発生する条件は、次式に示す条件となる。
【数24】

式(24)より、振動抑制手段8は、振動検出手段7、過大慣性検出手段9の出力に基づいて、駆動機械1が過大慣性振動していることを検出した場合、速度比例ゲインKと位置比例ゲインKの第2の比率を大きくすることで制御系を安定化させ、過大慣性振動を抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明にかかる駆動制御装置は、産業用ロボットや工作機械など各種産業機械を駆動する駆動制御装置に有用であり、特に、過大慣性振動を発生させる機械を制御する駆動制御装置に好適なものである。
【符号の説明】
【0047】
1 駆動機械
11 負荷機械
12 電動機
13 トルク伝達機構
2 トルク制御手段
3 位置検出手段
4 速度演算手段
5 位置制御手段
6 速度制御手段
7 振動検出手段(第1の検出手段)
8 振動抑制手段
9 振動検出手段(第2の検出手段)
14 加速度演算手段
15 慣性推定演算手段
16 ゲイン変更手段
17 推定演算動作切替手段
18 慣性推定演算速度変更手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動機械の位置の目標値である位置指令信号と前記駆動機械の位置の現在値を示す位置信号を入力として、位置比例ゲインを用いた比例演算により前記駆動機械の速度の目標値である速度指令信号を出力する位置制御手段と、
前記速度指令信号と前記駆動機械の速度の現在値を示す速度信号を入力として、速度比例ゲインと速度積分ゲインを用いた比例積分演算により駆動機械を駆動するトルクの目標値であるトルク指令信号を出力する速度制御制御手段と、
前記トルク指令信号を入力として、前記駆動機械を駆動するトルクが前記トルク指令信号に一致するよう制御するトルク制御手段と、
開ループ周波数応答のゲイン交差周波数が、周波数の増加に伴い開ループ周波数応答の位相が増加するときの位相交差周波数以下となる状態を検出することにより、慣性設定値に対する駆動機械の慣性が大きいことで制御系が不安定となり発生する過大慣性振動を検出する第1の検出手段と、
前記第1の検出手段により振動が検出された場合に前記速度制御手段或いは前記位置制御手段のゲインを変更することで前記振動を抑制する振動抑制手段を備える
ことを特徴とする駆動制御装置。
【請求項2】
前記第1の検出手段は、前記トルク指令信号に基づいて、前記駆動機械が前記位置比例ゲインに基づいて決定される値以下の周波数で振動しているときを、ゲイン交差周波数が位相交差周波数以下となる状態として検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の駆動制御装置。
【請求項3】
前記第1の検出手段は、前記トルク指令信号に基づいて、前記駆動機械が前記速度積分ゲインに基づいて決定される値以下の周波数で振動しているときを、ゲイン交差周波数が位相交差周波数以下となる状態として検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の駆動制御装置。
【請求項4】
慣性設定値に対する駆動機械の慣性が大きいことで制御系が不安定となり発生する過大慣性振動を、前記駆動機械の加速度の現在値を示す加速度信号の大きさと前記トルク指令信号との比率と、前記駆動機械の慣性設定値に所定のゲインを乗じた値とを比較することにより検出する第2の検出手段をさらに備え、
前記第1の検出手段の出力と前記第2の検出手段の出力に基づいて前記駆動機械が過大慣性振動していることを検出する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の駆動制御装置。
【請求項5】
前記振動抑制手段は、前記速度比例ゲインと前記速度積分ゲインとの比率である第1の比率と、前記速度比例ゲインと前記位置比例ゲインとの比率である第2の比率の少なくともいずれか一方を大きくすることにより前記過大慣性振動を抑制する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の駆動制御装置。
【請求項6】
前記トルク信号と前記加速度信号を入力として、前記駆動機械の慣性を推定演算し、前記慣性設定値とする慣性推定演算手段と、前記慣性設定値に基づいて前記速度制御手段或いは速度制御手段のゲインを変更するゲイン変更手段を備え、
前記過大慣性振動を検出したとき前記推定演算手段の推定演算を動作させる
ことを特徴とする請求項5に記載の駆動制御装置。
【請求項7】
前記トルク信号と前記加速度信号を入力として、前記駆動機械の慣性を推定演算し、前記慣性設定値とする慣性推定演算手段と、前記慣性設定値に基づいて前記速度制御手段或いは位置制御手段のゲインを変更するゲイン変更手段を備え、
前記過大慣性振動を検出したとき前記推定演算手段の推定演算速度を増大させる
ことを特徴とする請求項5に記載の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−250509(P2010−250509A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98405(P2009−98405)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】