駆動力制御装置
【課題】駆動力源からタイヤに伝達されるトルクを振動させる場合に、トルクの伝達経路で衝突音が生じることを抑制する。
【解決手段】車両が走行するにあたり、駆動力源からタイヤに伝達する基準トルクを求め、基準トルクから振動トルクを求め、駆動力源からタイヤに振動トルクを伝達することにより、タイヤと路面との間における摩擦係数を制御する駆動力制御装置において、駆動力源から前輪のタイヤおよび後輪に至る経路に減速機が設けられており、減速機を経由して前輪および後輪のタイヤに伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来するか否かを判断する判断手段(ステップS4)と、振動トルクが駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断された場合は、振動トルクが駆動側または回生側の一方となるように、前輪に伝達する要求トルクと、後輪に伝達する要求トルクとの分配比を制御するトルク分配比制御手段(ステップS5)とを有する。
【解決手段】車両が走行するにあたり、駆動力源からタイヤに伝達する基準トルクを求め、基準トルクから振動トルクを求め、駆動力源からタイヤに振動トルクを伝達することにより、タイヤと路面との間における摩擦係数を制御する駆動力制御装置において、駆動力源から前輪のタイヤおよび後輪に至る経路に減速機が設けられており、減速機を経由して前輪および後輪のタイヤに伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来するか否かを判断する判断手段(ステップS4)と、振動トルクが駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断された場合は、振動トルクが駆動側または回生側の一方となるように、前輪に伝達する要求トルクと、後輪に伝達する要求トルクとの分配比を制御するトルク分配比制御手段(ステップS5)とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の駆動力源からタイヤに伝達するトルクを制御することにより、タイヤと路面との間の摩擦係数を調整することことの可能な駆動力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両に駆動力源が搭載されており、その駆動力源のトルクがタイヤに伝達されて、タイヤと路面との間で駆動力が発生する。ここで、駆動力源からタイヤに伝達されるトルクが同じであり、かつ、タイヤの回転数が同じであっても、タイヤと路面との間における摩擦係数が変化すると、駆動力も変化する。このように、車両の挙動は、タイヤと路面との間の摩擦係数により変化する。一方、タイヤと路面との間の摩擦係数と、タイヤに伝達されるトルク特性との関係に着目し、タイヤに伝達するトルクを振動させることにより、タイヤと路面との間の摩擦係数を任意に制御する技術が、特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載された車両制御装置では、車両の各車輪を駆動する電動モータが設けられており、必要とされる駆動トルクを得るためのモータトルク指令値にしたがって、電動モータが駆動および制御される。また、通常の制御では、各車輪あるいは電動モータの駆動トルクを検出し、検出された駆動トルクが、モータトルク指令値となるようにフィードバック制御される。さらに、上記の通常の制御に加えて、電動モータの駆動信号に微少振動の信号を重畳することによりタイヤに微少振動を与えて、タイヤの摩擦力を制御することが記載されている。例えば、タイヤに与えるトルクの微少振動の振幅、周波数、位相を制御して、タイヤと路面との間の摩擦係数を任意に調整することにより、車両の走行性能および挙動が安定化するものとされている。
【0004】
【特許文献1】再公表特許WO02/000463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の駆動力源からタイヤに至る動力伝達経路には、歯車伝動装置、巻き掛け伝動装置、摩擦伝動装置、トラクション伝動装置などが設けられており、このうち、歯車伝動装置は、回転要素同士の滑りが生じることがないため、動力損失が少ないという利点がある。しかしながら、電動モータからタイヤに至る動力伝達経路に歯車伝動装置が設けられている車両において、特許文献1に記載されているように、電動モータからタイヤに伝達するトルクに微少振動を与える制御をおこなったときに、電動モータのトルクが駆動側と回生側とを交互に行き来するように振動されると、歯車同士の噛み合い部分で、バックラッシに起因する歯当たり音が生じる虞があった。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、駆動力源からタイヤに伝達されるトルクを振動させる場合に、駆動力源からタイヤに至る動力伝達経路で衝突音が生じることを抑制できる駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、路面に接触するタイヤと、このタイヤに伝達するトルクを発生する駆動力源とを有する車両が走行するにあたり、前記駆動力源から前記タイヤに伝達することが要求されている基準トルクを求め、この基準トルクを境界として交番的に変化する振動トルクを求め、前記駆動力源から前記タイヤに振動トルクを伝達することにより、前記タイヤと路面との間における摩擦係数を制御する駆動力制御装置において、前記駆動力源からトルクが伝達される前輪のタイヤおよび後輪のタイヤが設けられており、前記駆動力源から前輪のタイヤまたは後輪のタイヤの少なくとも一方に至るトルクの伝達経路に、凹部と凸部との噛み合いによりトルク伝達をおこなう伝動装置が設けられているとともに、前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来するか否かを判断する判断手段と、前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、前記振動トルクが駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断された場合は、前記伝動装置を経由して前記タイヤに伝達される振動トルクが、前記駆動側または回生側の一方となるように、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めるトルク分配比算出手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値未満であるか否かを判断する変化量判断手段を備え、前記トルク分配比算出手段は、前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断され、かつ、前記基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値未満である場合に、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求める手段と、前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断され、かつ、前記基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値を越えている場合は、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めることを禁止する手段とを含むことを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2の構成に加えて、前記トルク分配比算出手段は、前記基準トルクの微分値の絶対値が予め定められた第1所定値を越えており、かつ、前記基準トルクの2階微分値が所定値以下である場合に、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めることを禁止する手段を含むことを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1の構成に加えて、前記トルク分配比算出手段は、前記前輪または後輪のいずれか一方で発生する駆動側の振動トルクが、零ニュートンメートルから離れる向きで変化する過程で、前記振動トルクを前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、前記後輪に伝達する後輪用トルクとに分配する手段を含むことを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1の構成に加えて、前記トルク分配比算出手段は、前記前輪または後輪のいずれか一方で発生する駆動側の振動トルクが、前記基準トルクよりも大きく、かつ、前記基準トルクと前記振動トルクとの差が最大となった時点から、前記振動トルクを前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、前記後輪に伝達する後輪用トルクとに分配する手段を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、駆動力源からタイヤに伝達する基準トルクを求め、この基準トルクを境界として交番的に変化する振動トルクを生じさせることにより、タイヤと路面との間における摩擦係数を制御することができる。また、駆動力源から伝動装置を経由してタイヤに伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来する場合は、伝動装置を経由してタイヤに伝達される振動トルクが、駆動側または回生側のいずれか一方に設定されるように、前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、後輪のタイヤに伝達される後輪用トルクとの分配比を制御する。したがって、伝動装置を経由して振動トルクが伝達されるときに、凹部と凸部との衝突音が生じることを抑制できる。
【0013】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値未満である場合は、前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求める。これに対して、基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値を越えている場合は、前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めることを禁止する。したがって、タイヤに振動トルクを伝達すると車体が上下方向に振動することが予測される場合は、タイヤに振動トルクを伝達することが禁止される。
【0014】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果を得られる他に、基準トルクの変化量が相対的に大きい場合でも、その変化勾配が緩やかになろうとしている場合は、タイヤに振動トルクを伝達することが許可される。
【0015】
請求項4の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、前輪または後輪のいずれか一方で発生する駆動側の振動トルクが、零ニュートンメートルから離れる向きで変化する過程で、振動トルクを前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、後輪に伝達する後輪用トルクとに分配することも可能である。したがって、他方の車輪に分配される要求トルクが相対的に少ない値から開始されることとなり、駆動力源から他方の車輪にトルクが伝達される経路で、凹部と凸部との噛み合いにより生じる衝撃を相対的に少なくすることができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、前輪または後輪のいずれか一方で発生する駆動側の振動トルクが、基準トルクよりも大きく、かつ、基準トルクと振動トルクとの差が最大となった時点から、振動トルクを前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、後輪に伝達する後輪用トルクとに分配する。したがって、他方の車輪に分配される要求トルクが、零ニュートンメートルから開始することとなり、駆動力源から他方の車輪にトルクが伝達される経路で、凹部と凸部との噛み合いにより生じる衝撃を最小限とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明における駆動力源は、タイヤと動力伝達可能に接続された動力発生装置である。この駆動力源としては、電動モータ、エンジン、油圧モータが挙げられる。電動モータは、電気エネルギを運動エネルギに変換する回転装置であり、電動モータに供給する電力の電流値を制御することにより、電動モータのトルクを制御可能である。電動モータとしては、運動エネルギを電気エネルギに変換する機能を兼備したモータ・ジェネレータを用いることができる。前記エンジンは、燃料を燃焼させた時の熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置であり、エンジンとしては内燃機関、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンを用いることができる。これらのエンジンは、吸入空気量、燃料噴射量を制御することにより、出力トルクを制御可能である。また、ガソリンエンジンおよびLPGエンジンは、点火時期を制御することにより、出力トルクを制御可能である。油圧モータは、オイルの流体エネルギをロータの運動エネルギに変換する流体機械であり、油圧モータは回転式の油圧モータ、例えば、歯車モータ、ベーンモータ、ねじモータを用いることができる。油圧モータでは、ロータに運動エネルギを与えるオイルの油圧を制御することにより、ロータの出力トルクを制御可能である。
【0018】
この発明の伝動装置は、凹部と凸部との間に、バックラッシ、つまり、円周方向の隙間もしくはガタが不可避的に形成されている。この発明における伝動装置には、歯車同士の噛み合い力によりトルク伝達をおこなう歯車伝動装置が含まれる。この歯車伝動装置を用いた動力伝達装置としては、入力回転数と出力回転数との比を変更可能な変速機、入力回転数と出力回転数との比を変更できない減速機、駆動力源の動力を前輪と後輪とに分配するトランスファ、左右の車輪に回転数差が生じることを許容するデファレンシャルなどが含まれる。上記変速機には、遊星歯車式変速機、選択歯車式変速機、常時噛み合い式変速機などが含まれる。さらに、この発明の伝動装置には、変速機の出力軸と推進軸との連結部分に設けられるスプライン結合、つまり、内歯と外歯との噛み合いによりトルク伝達をおこなう機構も含まれる。この発明における駆動側は、タイヤの回転を促進するトルクを与える領域であり、回生側は、タイヤの回転を阻害するトルク(制動力)をタイヤに与える領域である。
【0019】
つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。図2は、車両2の概略構成を示す平面図である。この車両1は4個の車輪、具体的には、右前輪2および左前輪3および右後輪4および左後輪5を有している。各車輪は、ホイール6にタイヤ7を取り付けて構成されるとともに、そのホイール6の内側に電動モータ8を配置した車輪、つまり、インホイールモータ形式の車輪である。この電動モータ8は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行(駆動)機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備したモータ・ジェネレータである。すなわち、電動モータ8が電動機として動作させることが力行制御であり、電動モータ8を発電機として動作させることが回生制御である。また、電動モータ8からホイール6に至る動力の伝達経路には減速機9が配置されている。この減速機9は、入力回転数よりも出力回転数の方が低回転となる構成であり、減速機9としては、例えば、常時噛み合い式の歯車変速機構を用いることが可能である。
【0020】
このように、図2に示された車両1は、各車輪のタイヤ7に伝達するトルクを、独立して制御することの可能な四輪駆動車である。この電動モータ8および減速機9および各車輪は、懸架装置を介して車体により支持されている。この懸架装置は、ショックアブソーバ、スプリングなどを有する公知のものである。さら、車体には電源13が設けられている。この電源13としては、放電および充電をおこなうことの可能な二次電池、例えば、バッテリまたはキャパシタを用いることが可能である。さらに、二次電池に加えて、燃料電池を用いることもできる。この電源13と各電動モータ8とが、インバータ(図示せず)を有する電気回路により接続されている。
【0021】
また、各車輪に与える制動力を制御する制動装置が設けられている。この制動装置は、ホイール7と一体回転するロータと、このロータを挟み付けるディスクキャリパと、ディスクキャリパを作動させるホイールシリンダ10と、ホイールシリンダ10の油圧を制御するアクチュエータ11とを有している。ホイールシリンダ10は、各車輪毎に設けられており、アクチュエータ11は車体に設けられている。さらに、各車輪、特に前輪の操舵角を制御する操舵装置12が設けられている。この操舵装置12は、室内に設けられたステアリングホイール、車体の下方に設けられたタイロッド、ステアリングホイールの回転操作をタイロッドの動作力に変換するギヤボックスなどを有する公知の構造である。この操舵装置12のステアリングホイールが運転者により操作されると、右前輪2および左前輪3の操舵角が変化し、かつ、右後輪4および左後輪5の操舵角が変化する構成である。つまり、車両1は四輪の操舵角を制御可能である。さらに、制動装置および電動モータ8を制御する電子制御装置14が設けられており、電子制御装置14には、アクセルペダルの操作状態、ブレーキペダルの操作状態、各車輪の操舵角、車両1の重心周りのヨーレート、車速、各車輪の回転数、電動モータ8の回転数およびトルク、各車輪で支持する荷重、各車輪における懸架装置のストロークなどを検出するセンサやスイッチの信号が入力される。この電子制御装置14からは、電動モータ8の回転数およびトルクを制御する振動、ホイールシリンダ10の油圧を制御する信号などが出力される。
【0022】
図2に示す車両1は、走行性能を制御する機能として、アンチロックブレーキシステム、トラクションコントロールシステムなどを備えている。これらのシステムは、タイヤ7の摩擦力を最大に発揮させて車体を安定化させるように、タイヤ7の摩擦力を制御するものであり、例えば、コーナリングフォースが充分大きく、かつ、制動力が大きくなるような目標スリップ率を求め、タイヤ7の実際のスリップ率を目標スリップ率に近づけるように、制動装置のホイールシリンダ10の油圧制御、電動モータ8の回転数およびトルクの制御などをおこなうことにより、車両1の操舵性能、動力性能、制動性能、旋回性能などを確保しようとするものである。このような制御をおこなうため電子制御装置14には、タイヤ7のスリップ率と、タイヤ7と路面との間の摩擦係数との関係を表すマップおよびデータが記憶されており、このデータおよびマップに基づいて、ホイールシリンダ10の油圧、および電動モータ8のトルクおよび回転数が制御される。
【0023】
一方、タイヤ7のスリップ率と、タイヤ7と路面との間の摩擦係数との対応関係は、路面条件により異なる。また、タイヤ7に伝達するトルクを変動させる、つまり、トルクに振動を与えることで、タイヤ7と路面との間の摩擦係数を、任意に調整することが可能であることが知られている。具体的にはタイヤ7に与える電動モータ8のトルクを振動させるときに、その振動の振幅、周波数、位相などを制御することにより、タイヤ7と路面との間の摩擦係数を、任意に調整することが知られている。この原理は、再公表特許公報WO−02/000463号公報に記載されている。例えば、タイヤ7に代えてゴムブロックを用いた摩擦モデルは、下記の振動方程式(1)で表すことができる。
【数1】
【0024】
この振動方程式1において、Fnは、ゴムブロックが路面に接触する垂直方向の荷重であり、μ・Fnは、一定方向に滑るゴムブロックに作用する摩擦力(μは、路面の摩擦係数)であり、mは、ゴムブロックの質量、kは、ゴムブロックと路面間のバネ定数、cは、ゴムブロックの減衰係数、ω0 は、ゴムブロックの共振周波数である。この振動方程式1を解くことにより、ゴムブロックに微少振動を与えないときの摩擦力と、ゴムブロックに微少振動を与えた場合の摩擦力との比μre1が、次式(2)で求められる。
【数2】
【0025】
上記の2つの数式から、制御対象となるタイヤ7の前後方向、具体的には回転方向に振動トルクを与えることにより、タイヤ7と路面との間おける摩擦係数を任意に調整できることが分かる。上記の比μre1は、与える振動トルクの周波数ωに依存し、周波数ωが共振周波数ω0 に近づくほど、比re1の値が小さくなる傾向を示す。また、共振周波数ω0 より高い周波数の振動トルクを周波数変調により与えることで、比re1の値を相対的に大きくすることも可能である。さらに、タイヤ7の回転方向に振動トルクを付与することで、タイヤ7の前後方向における摩擦係数とスリップ率との関係は、スリップ率が増加することにともない摩擦係数が大きくなる傾向になることが知られており、これは、再公表特許公報WO−02/000463号公報にも記載されている。
【0026】
この実施例では、実際の摩擦係数が、目標摩擦係数となったか否かを推定するため、電子制御装置14には、スリップ率と摩擦係数との関係を示すマップおよびデータが記憶されている。そして、タイヤ7のスリップ率を推定するとともに、マップおよびデータから、実際の摩擦係数を推定可能である。なお、各タイヤ7のスリップ率は、各車輪の回転速度を検知するセンサの信号に基づいて推定可能であり、その推定方法は、特開2002−274356号公報、特開平6−258196号公報などに記載されているように周知であるので、具体的な説明を省略する。このように、タイヤに伝達するトルクを振動させることにより、タイヤと路面との間における前後方向の摩擦係数を調整することが可能である。なお、タイヤに振動トルクを与えた場合と与えない場合とを比較すると、前後方向におけるスリップ率が同じであるとすれば、振動トルクを与えた場合の方が、振動トルクを与えない場合に比べて、タイヤの前後方向の摩擦係数が小さくなることが知られている。また、タイヤに振動トルクを与えた場合と与えない場合とを比較すると、前後方向におけるスリップ率が同じであるとすれば、タイヤに振動トルクを与えた場合の方が、振動トルクを与えない場合に比べて、タイヤの左右方向、つまり幅方向の摩擦係数が大きくなることが知られている。これらの原理は、例えば、再公表特許公報WO−02/000463号公報に記載されている。
【0027】
ところで、図2のパワートレーンでは、電動モータ8からタイヤ7に至る動力伝達経路に減速機9が配置されている。この減速機9は、歯車同士の噛み合い部分にバックラッシが形成されている。このため、電動モータ8からタイヤ7に伝達されるトルクが振動して、電動モータ8のトルクが駆動側と回生側との間を行き来すると、歯車同士の噛み合い部分で歯と歯が衝突して衝撃音が発生する可能性があった。ここで、駆動側とは、電動モータ8が力行制御されることを意味し、回生側とは電動モータ8が回生制御されることを意味する。
【0028】
(第1制御例)
そこで、この実施例では、電動モータ8からタイヤ7に伝達されるトルクに振動を与えるときに、歯車同士の噛み合い部分で歯と歯が衝突して衝撃音が発生することを抑制するために、図1のフローチャートを実行する。図1のフローチャートは、車両1の走行中に、タイヤ7に伝達するトルクを振動させる例である。まず、車速およびアクセル開度をパラメータとして要求駆動力を求め、その要求駆動力に基づいて、電動モータ8から出力する基準トルクを求める(ステップS1)。このステップS1の処理をおこなうため、基準トルクを求めるためのデータおよびマップが、電子制御装置14に記憶されている。また、車両1は四輪駆動車であるため、前輪および後輪の全てのタイヤ7について、基準トルクが求められる。
【0029】
また、このステップS1では、前輪のタイヤ7に伝達する前輪用要求トルクと、後輪のタイヤに伝達する後輪用要求トルクとの分配比を等分にする制御、または、前輪と後輪との間における支持荷重の分配比に基づいて、前輪のタイヤ7に伝達する前輪用要求トルクと、後輪のタイヤに伝達する後輪用要求トルクとの分配比を決定する制御をおこなうことが可能である。ここでは、前輪のタイヤ7に伝達する前輪用要求トルクと、後輪のタイヤ7に伝達する後輪用要求トルクとの分配比を等分にする場合を例として、以下の制御を説明する。なお、前記基準トルクとは、前輪のタイヤ7に伝達する前輪用要求トルクと、後輪のタイヤに伝達する後輪用要求トルクとの分配比が等分であるときの要求トルクである。
【0030】
このステップS1についで、各タイヤ7に伝達するトルクの振動を開始する条件が成立しているか否かが判断される(ステップS2)。例えば、タイヤ7と路面との間の摩擦係数を調整するために、トルク振動を開始するか否かを、ドライバーの意思により選択するスイッチが設けられていれば、そのスイッチの操作状態に基づいて、ステップS2の判断をおこなうことができる。このステップS2で否定的に判断された場合は、各タイヤ7に伝達するトルクを振動させることなく、スタートに戻る。
【0031】
これに対して、ステップS2で肯定的に判断された場合は、各車輪のタイヤ7毎に、基準トルクT0に基づいて振動トルクのゲイン(振幅)Tおよび振動トルクの周波数Fを求める(ステップS3)。このステップS3の処理を図3の波形図により説明する。この図3は基準トルクT0と振動トルクとの関係を示す波形図である。図3においては、縦軸がトルクであり、横軸が時間である。図3のように、基準トルクに所定トルクを加算し、かつ、基準トルクから所定トルクを減算して、基準トルクを境界として上下に変動するトルク、つまり、振動トルクが求められる。このように、振動トルクは、基準トルクを境界として、基準トルクよりも高い位相と、基準トルクよりも低い位相との間を、所定の周期で交互に行き来する。つまり、振動トルクは基準トルクを境界として交番的に変化する。基準トルクT0は零Nmとの差で表され、この基準トルクT0と振動トルクとの差(最大差)が、ゲイン(振幅)Tであり、単位時間あたりにおける振動周期の回数が周波数である。
【0032】
この振動周期は、基準トルクを開始点として、その基準トルクよりも高くなり、ついで、基準トルクを経由して、基準トルクよりも低くなり、その後、基準トルクに戻るまでの時間である。この実施例では、車速と摩擦係数との対応関係を示すデータおよびマップが電子制御装置14に記憶されており、車速から目標摩擦係数が求められる。ついで、その目標摩擦係数毎に、ゲインTおよび周波数を決定したマップおよびデータが、電子制御装置14に記憶されており、ステップS3では、このマップおよびデータを用いて、ゲインTおよび周波数が求められる。なお、振動トルクは次式により求められる。
振動トルク=T0+Tsinωt
ここで、ωはタイヤの角速度であり、tは時間である。
【0033】
このステップS3についで、各電動モータ8で振動トルクを発生すると、各減速機9を構成する歯車同士の噛み合い部分で歯当たりが生じるか否かが判断される(ステップS4)。このステップS4の判断例を、図4および図5の波形図により説明する。図4および図5において、縦軸がトルクであり、横軸が時間である。この図4の波形図は、4個の車輪の全てについて基準トルクT0が駆動側に設定されている例である。この図4の波形図に示すように、基準トルクT0から求められる振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来する場合は、各減速機9を構成する歯車同士の噛み合い部分で歯当たりが生じるため、ステップS4で肯定的に判断される。一方、図5の波形図は、4個の車輪の全てについて基準トルクT0が回生側に設定されている例である。図5の波形図のように、基準トルクT0から求められる振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来する場合は、各減速機9を構成する歯車同士の噛み合い部分で歯当たりが生じるため、ステップS4で肯定的に判断される。
【0034】
このようにステップS4で肯定的に判断された場合は、前輪のタイヤ7に伝達する要求トルクと、後輪のタイヤ7に伝達する要求トルクとの分配比を変更し(ステップS5)、スタートに戻る。このステップS5の処理を、図6および図7の波形図により説明する。図6および図7において、縦軸がトルクであり、横軸が時間である。図6は、図4のように基準トルクが駆動側にある場合に、トルク分配比を変更する例である。この図6では、前輪用要求トルクは駆動側に設定され、後輪用要求トルクは回生側に設定されている。また、前輪用要求トルクに対応する振動トルクは駆動側に設定され、後輪用要求トルクに対応する振動トルクは回生側に設定されている。例えば、
前輪用要求トルク=T+2T0
後輪用要求トルク=T
に設定されている。
【0035】
図7は、図5のように基準トルクが回生側にある場合について、トルク分配比を変更する例である。この図7では、前輪用要求トルクは駆動側に設定され、後輪用要求トルクは回生側に設定されている。また、前輪用要求トルクに対応する振動トルクは駆動側に設定され、後輪用要求トルクに対応する振動トルクは回生側に設定されている。例えば、
前輪用要求トルク=T
後輪用要求トルク=−(T−2T0)
に設定されている。
【0036】
このように、ステップS1では前輪用要求トルクと後輪用要求トルクとが均等に設定されていたが、ステップS5では不均等になっている。なお、車両1の全体としての駆動力は、ステップS1の場合とステップS5の場合とが、共に同じになるように、前輪用要求トルクおよび後輪用要求トルクが決定される。一方、ステップS4の判断時点で、4個の車輪の基準トルクが全て駆動側にあり、かつ、振動トルクが駆動側にある場合は、ステップS4で否定的に判断されてスタートに戻る。また、ステップS4の判断時点で、4個の車輪の基準トルクが全て回生側にあり、かつ、振動トルクが回生側にある場合も、ステップS4で否定的に判断されてスタートに戻る。つまり、ステップS4で否定的に判断された場合は、ステップS3で求められた振動トルクが、各タイヤ7に伝達される。
【0037】
上記のように図1の制御を実行すれば、各タイヤ7の摩擦係数を調整するために、電動モータ8から振動トルクを出力するときに、減速機9で歯打ち音が生じることを抑制できる。また、ステップS1で求めた各基準トルクと、ステップS5で求めた各要求トルクとは異なるが、ステップS3で用いる振動ゲインと、ステップS5で用いる振動ゲインとが同じであるため、ステップS3の時点で要求されている車両の走行特性は確保される。また、図6の波形図に示すように、後輪の振動トルクの絶対値の最小部分を、零Nmに可能な限り近くするか、または零Nmに設定することで、後輪の電動モータ8の回生によるエネルギ損失を、最低限にすることができる。一方、図7の波形図に示すように、前輪の振動トルクの絶対値の最小部分を、零Nmに可能な限り近くするか、または零Nmに設定することで、後輪の電動モータ8の回生によるエネルギ損失を、最低限にすることができる。
【0038】
つぎに、図1の制御の一部を変更する例を説明する。例えば、図4の波形図のように、基準トルクT0が駆動側にあり、かつ振動トルクが、駆動側および回生側に跨っていることにより、ステップS4で肯定判断された場合に、ステップS5では、後輪用要求トルクを駆動側に設定し、かつ、その振動トルクを駆動側のみに設定するとともに、前輪用要求トルクを回生側に設定し、かつ、その振動トルクを回生側のみに設定するように、前輪用要求トルクと、後輪用要求トルクとの分配比を変更することも可能である。
【0039】
また、図5の波形図のように、基準トルクT0が回生側にあり、かつ振動トルクが、駆動側および回生側に跨っていることにより、ステップS4で肯定判断された場合に、ステップS5では、後輪用要求トルクを駆動側に設定し、かつ、その振動トルクを駆動側のみに設定するとともに、前輪用要求トルクを回生側に設定し、かつ、その振動トルクを回生側のみに設定するように、前輪用要求トルクと、後輪用要求トルクとの分配比を変更することも可能である。
【0040】
さらに、図2に示されたパワートレーンでは、電動モータ8から前輪に至る動力伝達経路、および電動モータ8から後輪に至る動力伝達経路の両方に、減速機9が設けられているが、前輪または後輪のうちのいずれか一方では、歯当たりが生じる伝動装置が設けられていない場合は、その振動トルクが駆動側および回生側に跨ったとしても、歯当たりが生じない。このためステップS5で前輪用要求トルクと後輪用要求トルクとの分配比を変更する際に、歯当たりが生じる伝動装置が設けられていない車輪では、振動トルクが回生側および駆動側に跨るような、トルク分配比とすることもできる。また、車体に搭載された電動モータのトルクが、伝動装置を経由して前輪および後輪の両方に伝達される構成の四輪駆動車において、図1の制御を実行することも可能である。
【0041】
この第1制御例は、請求項1に対応するものであり、図1に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS4が、この発明の判断手段に相当し、ステップS5が、この発明のトルク分配比算出手段に相当する。また、図2に示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、タイヤ7が、この発明のタイヤに相当し、電動モータ8が、この発明の駆動力源に相当し、減速機9が、この発明の伝動装置に相当する。
【0042】
(第2制御例)
つぎに、図2の車両で実行可能な第2制御例を説明する。この第2制御例は請求項2および3に対応する。前述の基準トルクの変化例を図8に示す。この図8では、時刻t1以降で基準トルクが駆動側で低下し、時刻t3以降は基準トルクが駆動側から回生側に切り替わっている。その後、基準トルクが回生側で増加し、さらに、時刻t5以降は基準トルクが回生側で減少している。ついで、基本トルクが回生側から駆動側に切り替わり、時刻t6以降は、基準トルクが駆動側で再度減少している。まず、時刻t1から時刻t5の間における前輪用要求トルクの変化を、図9のタイムチャートにより説明する。図8のように、時刻t1から時刻t2の間は基準トルクT0がT以上であり、その基準トルクT0から求められる振動トルクが駆動側にあり、零Nmを跨がないため、図9に示すように、
前輪用要求トルク>T
になっている。また、図8に示すように基準トルクが駆動側で減少しているため、図9に示す前輪用要求トルクも駆動側で減少している。
【0043】
そして、図8のように、時刻t2以降で基準トルクT0がT未満、かつ、零Nmを越える値になると、基準トルクT0から求められる振動トルクが零Nmを跨ぐため、前述のように、前輪用要求トルクと後輪用要求トルクとの分配比とが変更されて、図9に示すように、
前輪用要求トルク=T+2T0
まで上昇される。その後、図8に示す基準トルクT0が駆動側で低下するため、図9に示す前輪用要求トルクも駆動側で低下する。そして、図8のように、時刻t3で基準トルクT0が駆動側から回生側に切り替わると、振動トルクが零Nmを跨ぐことを防止するために、図9に示すように、
前輪用要求トルク=T
に固定される。さらに、図8に示すように基準トルクT0が回生側で増加しており、時刻t4以降は基準トルクT0が−T以上になり、その基準トルクT0から振動トルクを求めても零Nmを跨がないため、図9のように、時刻t4以降は基準トルクT0が前輪用要求トルクとなっている。
【0044】
このように、基準トルクT0の変化量が相対的に大きくなると、図9に示すように、
前輪用要求トルク=T
から
前輪用要求トルク=−T
に急激に変化する可能性がある。このように、前輪用要求トルクが急激に変化すると、そのトルク変動が懸架装置を経由して車体に伝達されて車体が上下方向に振動して、乗員が違和感を持つ可能性がある。
【0045】
このような不具合を未然に防止するため第2制御例では、タイヤに振動トルクを伝達することを禁止する条件および許可する条件を規定している。より具体的には、第2制御例は、前記の第1制御例を禁止する条件および許可する条件を具体的に提供するサブルーチンであり、この第2制御例を図10のフローチャートにより説明する。図10のフローチャートがスタートされると、まず、タイヤに振動トルクを伝達する要求があるか否かが判断される(ステップS2)。このステップS2の判断は、図1のステップS2の判断と同じである。このステップS2で否定的に判断された場合は、スタートに戻る。これに対して、ステップS2で肯定的に判断された場合は、図8に示された基準トルクT0が、駆動側で、T未満であり、かつ、零Nmを越えているか否かが判断される(ステップS11)。
【0046】
このステップS11で肯定的に判断された場合は、基準トルクの微分値の絶対値T0′が予め定められた第1所定値(閾値)α未満であるか否かが判断される(ステップS12)。このステップS12は、基準トルクの変化量が相対的に小さいか否かを判断するステップである。このステップS12で肯定的に判断された場合は、前述した不具合が生じる可能性がないため、図6に基づいて説明した処理をおこない(ステップS13)、スタートに戻る。つまり、ステップS13では、
前輪用要求トルク=T+2T0
後輪用要求トルク=−T
ゲイン=T
として各タイヤ7の振動トルクを求める。
【0047】
一方、前記ステップS12で否定的に判断された場合、つまり、基準トルクT0の変化量が相対的に大きい場合は、基準トルクの2階(2回)微分値T0″が、予め定められた第2所定値(閾値)βを越えているか否かが判断される(ステップS14)。このステップS14は、基準トルクの変化量の勾配が、相対的に緩やかになろうとしているか、または、現状維持か、さらに、相対的に急激になろうとしているかを判断するステップである。このステップS14で肯定的に判断されるということは、基準トルクの変化勾配が相対的に緩やかになりつつある(なまり始めている)ことになる。そこで、ステップS14で肯定的に判断された場合は、ステップS13に進む。これに対して、ステップS14で否定的に判断された場合は、基準トルクの変化勾配が現状維持か、あるいは、さらに急激になろうとしていると考えられるため、タイヤ7に振動トルクを伝達する制御を禁止し(ステップS15)、スタートに戻る。つまり、ステップS15に進んだ場合は、図6に基づいて説明した制御が禁止される。
【0048】
ところで、前記ステップS11で否定的に判断された場合は、図8において基準トルクT0が、回生側で零Nmと−Tとの間にあるか否かが判断される(ステップS16)。このステップS16で否定的に判断されるということは、例えば、図8の時刻t4ないし時刻t5の基準トルクT0であり、その基準トルクに基づいて振動トルクを求めても、その振動トルクが零Nmを跨ぐことはないため、スタートに戻る。これに対して、ステップS16で肯定的に判断された場合は、基準トルクの微分値の絶対値T0′が、予め定められた第1所定値(閾値)α未満であるか否かが判断される(ステップS17)。このステップS17の判断の意味は、ステップS12と同じであり、ステップS17の判断は回生側についておこなっている。このステップS17で肯定的に判断された場合は、基準トルクの変化量が相対的に小さいため、図7に基づいて説明した制御を実行してタイヤに振動トルクを伝達し(ステップS18)、スタートに戻る。つまり、ステップS18では、
前輪用要求トルク=T
後輪用要求トルク=−(T−2T0)
ゲイン=T
として各タイヤ7の振動トルクを求める。
【0049】
一方、前記ステップS17で否定的に判断されるということは、基準トルク変化量が相対的に大きいため、基準トルクの2階微分値T0″が、予め定められた第2所定値(閾値)−β未満であるか否かが判断される(ステップS19)。このステップS19で肯定的に判断されるということは、基準トルクの変化勾配が相対的に緩やかになりつつある(なまり始める)ことになる。そこで、ステップS19で肯定的に判断された場合は、ステップS18に進む。これに対して、ステップS19で否定的に判断された場合は、基準トルクの変化勾配が一層急になるか、または現状維持であると考えられるため、ステップS15に進む。つまり、ステップS19からステップS15に進んだ場合は、図7に基づいて説明した制御が禁止される。
【0050】
ここで、図8のタイムチャートと図10のフローチャートとの関係を説明すると、図8の点Aから点Bに至る途中では、ステップS11で肯定的に判断される。また、図の点Bから点Cの間では、ステップS12,S14,S15のルーチンで進む。これに対して、図8の点Dでは、基準トルクの変化量が相対的に大きいため、ステップS12で否定的に判断され、タイヤに振動トルクを与えることが禁止される。その後に基準トルクの勾配が緩やかになっているため、例えば領域Eでは、ステップS19からステップS18に進む。つまり、タイヤに振動トルクを与える制御が許可、より具体的には再開される。なお、基準トルクが回生側から駆動側に変化する過程で、その変化量が急激であり、かつ、一層急激になる場合の例、および基準トルクが回生側から駆動側に変化する過程で、その変化量が急激であり、かつ、勾配がその後に緩やかになる(なまり始める)場合の例は、特に説明していないが、基本的な原理は、基準トルクが駆動側から回生側に変化する場合と同じである。
【0051】
また、この第2制御例において、第1所定値αは、基準トルクの変化量が相対的に小さいか否かを判断するための閾値である。これに対して、第2所定値βは、基準トルクの変化勾配が、緩やかになろうとしているのか、さらに急激になろうとしているのか、あるいは、現状維持なのかを判断する閾値である。つまり、第1所定値αと第2所定値βとは、技術的意義が異なり、相対的な大小関係は存在しない。なお、図10の各判断ステップで用いる所定値は、予め実験またはシミュレーションにより求めて電子制御装置14に記憶されている。
【0052】
このように、第2制御例においては、基準トルクの変化量が相対的に大きいか小さいかに基づいて、振動トルクをタイヤに伝達する制御を禁止するか、または許可するかを判断している。さらに具体的には、基準トルクの変化勾配が、緩やかになろうとしているのか、さらに急激になろうとしているのか、あるいは、現状維持なのかを判断し、その判断結果に基づいて、振動トルクをタイヤに伝達する制御を禁止するか、または許可するかを判断している。したがって、第2制御例によれば、タイヤに振動トルクを伝達した場合に、懸架装置を介して車体が振動し、乗員が違和感を持つことを回避できる。ここで、図10に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS12,S16が、この発明の変化量判断手段に相当し、ステップS13,S14,S15,S17,S18,S19が、この発明のトルク分配比算出手段に相当する。
【0053】
(第3制御例)
つぎに、第1制御例で説明した図1のフローチャートにおいて、ステップS5でおこなうことの可能な他の制御例を説明する。例えば、図11に示すように、前輪に駆動側の振動トルクを与え、後輪に振動トルクを与えていない(零[Nm])とともに、その振動トルクが、零ニュートンメートルに近づく過程または、最も零ニュートンメートルに近いときに、図1のステップS4で歯当たりが生じると判定されて、ステップS5で、前輪に与えられる振動トルクを駆動側で増加し、かつ、後輪に回生側の振動トルクを与えることを想定する。このような制御をおこなうと、後輪用の減速機8の歯車同士の噛み合い部分では、後輪に回生側の振動トルクが与えられた時点で、駆動側の歯車の歯面が被駆動側の歯面に衝突して振動が発生する。このとき、駆動側の歯車の歯面の加速度を考慮すると、歯車同士の衝突により生じる振動は、
T/I=d(dθ/dt)dt
として求めることが可能である。ここで、Tは歯車に加わるトルクであり、Iはギヤイナーシャモーメントであり、θはギヤの回転角度である。そして、回生側の振動トルクX(Nm)の絶対値の大きさにより加速度が決まる。つまり、回生側の振動トルクX[Nm]の絶対値の大きさが相対的に大きくなるほど、加速度が相対的に大きくなり、歯車同士の衝突による振動が相対的に大きくなる。
【0054】
この第3制御例は、前輪および後輪に伝達するトルクの分配比が変更されて、振動トルクを与えられていなかった車輪に、零Nmを越える振動トルクが与えられて、その車輪に連結された変速機の歯車同士が衝突することを抑制することを目的としておこなわれるものである。この第3制御例を図12のフローチャートに基づいて説明する。ここでは、便宜上、前輪で駆動側に基準トルクが設定され、後輪のトルクが零[Nm]に設定されている場合の例を説明する。まず、ステップS2の判断がおこなわれる。このステップS2の判断は、図1におけるステップS2の判断と同じである。
【0055】
このステップS2で否定的に判断された場合はリターンし、ステップS2で肯定的に判断された場合は、駆動側で減少する基準トルクT0が、所定値T2未満になったか否かが判断される(ステップS21)。ここで、所定値T2は、駆動側トルクの値であり、図3および図4で説明したゲインTと同じ大きさであり、零[Nm]を基準とする値である。前記のように、振動トルクは基準トルクを境界として交番的に変化するのであるから、基準トルクが、振動トルクのゲインTと同じ大きさの所定値T2未満になれば、振動トルクが零[Nm]以下になることを予測できるため、その所定値T2をステップS21の判断に用いているのである。
【0056】
このステップS21で否定的に判断された場合は、前輪に伝達される振動トルクが駆動側にのみ発生するためリターンする。これに対して、ステップS21で肯定的に判断された場合は、そのまま前輪に振動トルクを与えると、その振動トルクが駆動側と回生側とを交互に行き来して、前輪に連結された減速機の歯車同士の噛み合い部分で衝突が生じる可能性がある。そこで、振動トルク(T0+Tsinωt)が、駆動側で零[Nm]を越えているか否かが判断される(ステップS22)。このステップS22で肯定的に判断された場合は、所定のタイミングで、振動トルクを、前輪タイヤに伝達する要求トルクと、後輪のタイヤに伝達する要求トルクとに分配する制御をおこない(ステップS23)、リターンする。このステップS23では、前輪の振動トルクが駆動側にのみ発生し、後輪の振動トルクが回生側でのみ発生するように、トルクの分配比が決定される。また、後輪の振動トルクが、零[Nm]を開始点として回生側へ向けて徐々に増加するように、前輪に伝達する前輪用要求トルクと、後輪に伝達する後輪用要求トルクとの分配を開始するタイミングを決定する。
【0057】
このステップS23の処理をより具体的に説明する。前述のように、後輪に回生側のトルクを伝達する開始時点で、零[Nm]を越える絶対値で回生トルクが与えられると、その後輪に連結された減速機9の歯車同士の噛み合い部分で衝突が生じる。例えば、図13に示すように、前輪に与えられている基準トルクT0が、駆動側で徐々に減少しているとき、前輪に与えられる振動トルクが基準トルクよりも大きく、かつ、振動トルクが、基準トルクT0とゲインTとの和と一致した時刻t1から、振動トルクを図14に示すように基準トルクT0を前輪用要求トルクと後輪用要求トルクとに分配する制御を開始すると、後輪の振動トルクが零[Nm]を開始点として回生側で発生する。
【0058】
ここで、前輪に与えられる振動トルクが、基準トルクT0とゲインTとの和と一致した時点とは、図13のように、前輪の振動トルクが1回の振動周期で最大(sinωT=1)となる瞬間である。言い換えれば、振動トルクと基準トルクとの差が、1回の振動周期で最大となる瞬間である。このように、前輪に伝達する前輪用要求トルクと、後輪に伝達する後輪用要求トルクとに分配を開始するタイミングを決定すると、後輪の減速機の駆動側の歯車が、被駆動側の歯車に衝突する加速度は、零[rad/s2 ]となる。したがって、歯車に形成されたバックラッシに起因して、歯車の歯面同士が衝突したとしても、その振動を最小限とすることができる。なお、ステップS23では、振動トルクが零ニュートンメートルから離れる向きで変化する過程で、振動トルクを、前輪用要求トルクと、後輪用要求トルクとに分配する制御を開始することもできる。この場合は、後輪で発生する回生トルクを、相対的に少なくすることができる。
【0059】
一方、ステップS22で否定的に判断された場合は、振動トルク(出力トルク)を零「Nm]とする処理をおこなう(ステップS24)。このステップS24の処理を、図15および図16のタイムチャートにより説明する。算出される振動トルクが、図15のように破線で示すように零[Nm]未満となる範囲では、実際に出力する振動トルクを、図16に破線で示すように零[Nm]とする処理をおこなう。このステップS24についで、振動トルクが、駆動側で零[Nm]を越えるか否かが判断され(ステップS25)、ステップS25で肯定的に判断された場合は、ステップS23に進む。このステップS25で否定的に判断された場合は、ステップS24に戻る。ここで、図12のフローチャートに示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS21およびステップS22およびステップS23が、請求項4および請求項5のトルク分配比算出手段に相当する。ステップS22で説明した所定値T2が、請求項4の所定値に相当する。なお、第3制御例は、後輪に振動トルクを与え、前輪には振動トルクを与えていないときに、ステップS23に進み、振動トルクを前輪および後輪に分配する制御にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明の駆動力制御装置で実行可能な第1制御例を示すフローチャートである。
【図2】この発明の駆動力制御装置の対象となる車両の概念図である。
【図3】この発明でタイヤに伝達される振動トルクを示す波形図である。
【図4】この発明で基準トルクが駆動側にある場合の振動トルク例を示す波形図である。
【図5】この発明で基準トルクが回生側にある場合の振動トルク例を示す波形図である。
【図6】図4の波形図に基づいて、要求トルクおよび振動トルクを変更する例を示す波形図である。
【図7】図5の波形図に基づいて、要求トルクおよび振動トルクを変更する例を示す波形図である。
【図8】車両のタイヤに伝達される基準トルクの経時変化例を示すタイムチャートである。
【図9】前輪用要求トルクの経時変化例を示すタイムチャートである。
【図10】この発明の駆動力制御装置で実行可能な第2制御例を示すフローチャートである。
【図11】第3制御例を実行する前の振動トルクを示す第1のタイムチャートである。
【図12】第3制御例を示すフローチャートである。
【図13】第3制御例に相当する振動トルクを示す第2のタイムチャートである。
【図14】第3制御例に相当する振動トルクを示す第3のタイムチャートである。
【図15】第3制御例に相当する振動トルクを示す第4のタイムチャートである。
【図16】第3制御例に相当する振動トルクを示す第5のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0061】
1…車両、 7…タイヤ、 8…電動モータ、 9…減速機、 14…電子制御装置。
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の駆動力源からタイヤに伝達するトルクを制御することにより、タイヤと路面との間の摩擦係数を調整することことの可能な駆動力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両に駆動力源が搭載されており、その駆動力源のトルクがタイヤに伝達されて、タイヤと路面との間で駆動力が発生する。ここで、駆動力源からタイヤに伝達されるトルクが同じであり、かつ、タイヤの回転数が同じであっても、タイヤと路面との間における摩擦係数が変化すると、駆動力も変化する。このように、車両の挙動は、タイヤと路面との間の摩擦係数により変化する。一方、タイヤと路面との間の摩擦係数と、タイヤに伝達されるトルク特性との関係に着目し、タイヤに伝達するトルクを振動させることにより、タイヤと路面との間の摩擦係数を任意に制御する技術が、特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載された車両制御装置では、車両の各車輪を駆動する電動モータが設けられており、必要とされる駆動トルクを得るためのモータトルク指令値にしたがって、電動モータが駆動および制御される。また、通常の制御では、各車輪あるいは電動モータの駆動トルクを検出し、検出された駆動トルクが、モータトルク指令値となるようにフィードバック制御される。さらに、上記の通常の制御に加えて、電動モータの駆動信号に微少振動の信号を重畳することによりタイヤに微少振動を与えて、タイヤの摩擦力を制御することが記載されている。例えば、タイヤに与えるトルクの微少振動の振幅、周波数、位相を制御して、タイヤと路面との間の摩擦係数を任意に調整することにより、車両の走行性能および挙動が安定化するものとされている。
【0004】
【特許文献1】再公表特許WO02/000463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の駆動力源からタイヤに至る動力伝達経路には、歯車伝動装置、巻き掛け伝動装置、摩擦伝動装置、トラクション伝動装置などが設けられており、このうち、歯車伝動装置は、回転要素同士の滑りが生じることがないため、動力損失が少ないという利点がある。しかしながら、電動モータからタイヤに至る動力伝達経路に歯車伝動装置が設けられている車両において、特許文献1に記載されているように、電動モータからタイヤに伝達するトルクに微少振動を与える制御をおこなったときに、電動モータのトルクが駆動側と回生側とを交互に行き来するように振動されると、歯車同士の噛み合い部分で、バックラッシに起因する歯当たり音が生じる虞があった。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、駆動力源からタイヤに伝達されるトルクを振動させる場合に、駆動力源からタイヤに至る動力伝達経路で衝突音が生じることを抑制できる駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、路面に接触するタイヤと、このタイヤに伝達するトルクを発生する駆動力源とを有する車両が走行するにあたり、前記駆動力源から前記タイヤに伝達することが要求されている基準トルクを求め、この基準トルクを境界として交番的に変化する振動トルクを求め、前記駆動力源から前記タイヤに振動トルクを伝達することにより、前記タイヤと路面との間における摩擦係数を制御する駆動力制御装置において、前記駆動力源からトルクが伝達される前輪のタイヤおよび後輪のタイヤが設けられており、前記駆動力源から前輪のタイヤまたは後輪のタイヤの少なくとも一方に至るトルクの伝達経路に、凹部と凸部との噛み合いによりトルク伝達をおこなう伝動装置が設けられているとともに、前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来するか否かを判断する判断手段と、前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、前記振動トルクが駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断された場合は、前記伝動装置を経由して前記タイヤに伝達される振動トルクが、前記駆動側または回生側の一方となるように、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めるトルク分配比算出手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値未満であるか否かを判断する変化量判断手段を備え、前記トルク分配比算出手段は、前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断され、かつ、前記基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値未満である場合に、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求める手段と、前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断され、かつ、前記基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値を越えている場合は、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めることを禁止する手段とを含むことを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2の構成に加えて、前記トルク分配比算出手段は、前記基準トルクの微分値の絶対値が予め定められた第1所定値を越えており、かつ、前記基準トルクの2階微分値が所定値以下である場合に、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めることを禁止する手段を含むことを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1の構成に加えて、前記トルク分配比算出手段は、前記前輪または後輪のいずれか一方で発生する駆動側の振動トルクが、零ニュートンメートルから離れる向きで変化する過程で、前記振動トルクを前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、前記後輪に伝達する後輪用トルクとに分配する手段を含むことを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1の構成に加えて、前記トルク分配比算出手段は、前記前輪または後輪のいずれか一方で発生する駆動側の振動トルクが、前記基準トルクよりも大きく、かつ、前記基準トルクと前記振動トルクとの差が最大となった時点から、前記振動トルクを前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、前記後輪に伝達する後輪用トルクとに分配する手段を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、駆動力源からタイヤに伝達する基準トルクを求め、この基準トルクを境界として交番的に変化する振動トルクを生じさせることにより、タイヤと路面との間における摩擦係数を制御することができる。また、駆動力源から伝動装置を経由してタイヤに伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来する場合は、伝動装置を経由してタイヤに伝達される振動トルクが、駆動側または回生側のいずれか一方に設定されるように、前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、後輪のタイヤに伝達される後輪用トルクとの分配比を制御する。したがって、伝動装置を経由して振動トルクが伝達されるときに、凹部と凸部との衝突音が生じることを抑制できる。
【0013】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値未満である場合は、前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求める。これに対して、基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値を越えている場合は、前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めることを禁止する。したがって、タイヤに振動トルクを伝達すると車体が上下方向に振動することが予測される場合は、タイヤに振動トルクを伝達することが禁止される。
【0014】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果を得られる他に、基準トルクの変化量が相対的に大きい場合でも、その変化勾配が緩やかになろうとしている場合は、タイヤに振動トルクを伝達することが許可される。
【0015】
請求項4の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、前輪または後輪のいずれか一方で発生する駆動側の振動トルクが、零ニュートンメートルから離れる向きで変化する過程で、振動トルクを前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、後輪に伝達する後輪用トルクとに分配することも可能である。したがって、他方の車輪に分配される要求トルクが相対的に少ない値から開始されることとなり、駆動力源から他方の車輪にトルクが伝達される経路で、凹部と凸部との噛み合いにより生じる衝撃を相対的に少なくすることができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、前輪または後輪のいずれか一方で発生する駆動側の振動トルクが、基準トルクよりも大きく、かつ、基準トルクと振動トルクとの差が最大となった時点から、振動トルクを前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、後輪に伝達する後輪用トルクとに分配する。したがって、他方の車輪に分配される要求トルクが、零ニュートンメートルから開始することとなり、駆動力源から他方の車輪にトルクが伝達される経路で、凹部と凸部との噛み合いにより生じる衝撃を最小限とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明における駆動力源は、タイヤと動力伝達可能に接続された動力発生装置である。この駆動力源としては、電動モータ、エンジン、油圧モータが挙げられる。電動モータは、電気エネルギを運動エネルギに変換する回転装置であり、電動モータに供給する電力の電流値を制御することにより、電動モータのトルクを制御可能である。電動モータとしては、運動エネルギを電気エネルギに変換する機能を兼備したモータ・ジェネレータを用いることができる。前記エンジンは、燃料を燃焼させた時の熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置であり、エンジンとしては内燃機関、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンを用いることができる。これらのエンジンは、吸入空気量、燃料噴射量を制御することにより、出力トルクを制御可能である。また、ガソリンエンジンおよびLPGエンジンは、点火時期を制御することにより、出力トルクを制御可能である。油圧モータは、オイルの流体エネルギをロータの運動エネルギに変換する流体機械であり、油圧モータは回転式の油圧モータ、例えば、歯車モータ、ベーンモータ、ねじモータを用いることができる。油圧モータでは、ロータに運動エネルギを与えるオイルの油圧を制御することにより、ロータの出力トルクを制御可能である。
【0018】
この発明の伝動装置は、凹部と凸部との間に、バックラッシ、つまり、円周方向の隙間もしくはガタが不可避的に形成されている。この発明における伝動装置には、歯車同士の噛み合い力によりトルク伝達をおこなう歯車伝動装置が含まれる。この歯車伝動装置を用いた動力伝達装置としては、入力回転数と出力回転数との比を変更可能な変速機、入力回転数と出力回転数との比を変更できない減速機、駆動力源の動力を前輪と後輪とに分配するトランスファ、左右の車輪に回転数差が生じることを許容するデファレンシャルなどが含まれる。上記変速機には、遊星歯車式変速機、選択歯車式変速機、常時噛み合い式変速機などが含まれる。さらに、この発明の伝動装置には、変速機の出力軸と推進軸との連結部分に設けられるスプライン結合、つまり、内歯と外歯との噛み合いによりトルク伝達をおこなう機構も含まれる。この発明における駆動側は、タイヤの回転を促進するトルクを与える領域であり、回生側は、タイヤの回転を阻害するトルク(制動力)をタイヤに与える領域である。
【0019】
つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。図2は、車両2の概略構成を示す平面図である。この車両1は4個の車輪、具体的には、右前輪2および左前輪3および右後輪4および左後輪5を有している。各車輪は、ホイール6にタイヤ7を取り付けて構成されるとともに、そのホイール6の内側に電動モータ8を配置した車輪、つまり、インホイールモータ形式の車輪である。この電動モータ8は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行(駆動)機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備したモータ・ジェネレータである。すなわち、電動モータ8が電動機として動作させることが力行制御であり、電動モータ8を発電機として動作させることが回生制御である。また、電動モータ8からホイール6に至る動力の伝達経路には減速機9が配置されている。この減速機9は、入力回転数よりも出力回転数の方が低回転となる構成であり、減速機9としては、例えば、常時噛み合い式の歯車変速機構を用いることが可能である。
【0020】
このように、図2に示された車両1は、各車輪のタイヤ7に伝達するトルクを、独立して制御することの可能な四輪駆動車である。この電動モータ8および減速機9および各車輪は、懸架装置を介して車体により支持されている。この懸架装置は、ショックアブソーバ、スプリングなどを有する公知のものである。さら、車体には電源13が設けられている。この電源13としては、放電および充電をおこなうことの可能な二次電池、例えば、バッテリまたはキャパシタを用いることが可能である。さらに、二次電池に加えて、燃料電池を用いることもできる。この電源13と各電動モータ8とが、インバータ(図示せず)を有する電気回路により接続されている。
【0021】
また、各車輪に与える制動力を制御する制動装置が設けられている。この制動装置は、ホイール7と一体回転するロータと、このロータを挟み付けるディスクキャリパと、ディスクキャリパを作動させるホイールシリンダ10と、ホイールシリンダ10の油圧を制御するアクチュエータ11とを有している。ホイールシリンダ10は、各車輪毎に設けられており、アクチュエータ11は車体に設けられている。さらに、各車輪、特に前輪の操舵角を制御する操舵装置12が設けられている。この操舵装置12は、室内に設けられたステアリングホイール、車体の下方に設けられたタイロッド、ステアリングホイールの回転操作をタイロッドの動作力に変換するギヤボックスなどを有する公知の構造である。この操舵装置12のステアリングホイールが運転者により操作されると、右前輪2および左前輪3の操舵角が変化し、かつ、右後輪4および左後輪5の操舵角が変化する構成である。つまり、車両1は四輪の操舵角を制御可能である。さらに、制動装置および電動モータ8を制御する電子制御装置14が設けられており、電子制御装置14には、アクセルペダルの操作状態、ブレーキペダルの操作状態、各車輪の操舵角、車両1の重心周りのヨーレート、車速、各車輪の回転数、電動モータ8の回転数およびトルク、各車輪で支持する荷重、各車輪における懸架装置のストロークなどを検出するセンサやスイッチの信号が入力される。この電子制御装置14からは、電動モータ8の回転数およびトルクを制御する振動、ホイールシリンダ10の油圧を制御する信号などが出力される。
【0022】
図2に示す車両1は、走行性能を制御する機能として、アンチロックブレーキシステム、トラクションコントロールシステムなどを備えている。これらのシステムは、タイヤ7の摩擦力を最大に発揮させて車体を安定化させるように、タイヤ7の摩擦力を制御するものであり、例えば、コーナリングフォースが充分大きく、かつ、制動力が大きくなるような目標スリップ率を求め、タイヤ7の実際のスリップ率を目標スリップ率に近づけるように、制動装置のホイールシリンダ10の油圧制御、電動モータ8の回転数およびトルクの制御などをおこなうことにより、車両1の操舵性能、動力性能、制動性能、旋回性能などを確保しようとするものである。このような制御をおこなうため電子制御装置14には、タイヤ7のスリップ率と、タイヤ7と路面との間の摩擦係数との関係を表すマップおよびデータが記憶されており、このデータおよびマップに基づいて、ホイールシリンダ10の油圧、および電動モータ8のトルクおよび回転数が制御される。
【0023】
一方、タイヤ7のスリップ率と、タイヤ7と路面との間の摩擦係数との対応関係は、路面条件により異なる。また、タイヤ7に伝達するトルクを変動させる、つまり、トルクに振動を与えることで、タイヤ7と路面との間の摩擦係数を、任意に調整することが可能であることが知られている。具体的にはタイヤ7に与える電動モータ8のトルクを振動させるときに、その振動の振幅、周波数、位相などを制御することにより、タイヤ7と路面との間の摩擦係数を、任意に調整することが知られている。この原理は、再公表特許公報WO−02/000463号公報に記載されている。例えば、タイヤ7に代えてゴムブロックを用いた摩擦モデルは、下記の振動方程式(1)で表すことができる。
【数1】
【0024】
この振動方程式1において、Fnは、ゴムブロックが路面に接触する垂直方向の荷重であり、μ・Fnは、一定方向に滑るゴムブロックに作用する摩擦力(μは、路面の摩擦係数)であり、mは、ゴムブロックの質量、kは、ゴムブロックと路面間のバネ定数、cは、ゴムブロックの減衰係数、ω0 は、ゴムブロックの共振周波数である。この振動方程式1を解くことにより、ゴムブロックに微少振動を与えないときの摩擦力と、ゴムブロックに微少振動を与えた場合の摩擦力との比μre1が、次式(2)で求められる。
【数2】
【0025】
上記の2つの数式から、制御対象となるタイヤ7の前後方向、具体的には回転方向に振動トルクを与えることにより、タイヤ7と路面との間おける摩擦係数を任意に調整できることが分かる。上記の比μre1は、与える振動トルクの周波数ωに依存し、周波数ωが共振周波数ω0 に近づくほど、比re1の値が小さくなる傾向を示す。また、共振周波数ω0 より高い周波数の振動トルクを周波数変調により与えることで、比re1の値を相対的に大きくすることも可能である。さらに、タイヤ7の回転方向に振動トルクを付与することで、タイヤ7の前後方向における摩擦係数とスリップ率との関係は、スリップ率が増加することにともない摩擦係数が大きくなる傾向になることが知られており、これは、再公表特許公報WO−02/000463号公報にも記載されている。
【0026】
この実施例では、実際の摩擦係数が、目標摩擦係数となったか否かを推定するため、電子制御装置14には、スリップ率と摩擦係数との関係を示すマップおよびデータが記憶されている。そして、タイヤ7のスリップ率を推定するとともに、マップおよびデータから、実際の摩擦係数を推定可能である。なお、各タイヤ7のスリップ率は、各車輪の回転速度を検知するセンサの信号に基づいて推定可能であり、その推定方法は、特開2002−274356号公報、特開平6−258196号公報などに記載されているように周知であるので、具体的な説明を省略する。このように、タイヤに伝達するトルクを振動させることにより、タイヤと路面との間における前後方向の摩擦係数を調整することが可能である。なお、タイヤに振動トルクを与えた場合と与えない場合とを比較すると、前後方向におけるスリップ率が同じであるとすれば、振動トルクを与えた場合の方が、振動トルクを与えない場合に比べて、タイヤの前後方向の摩擦係数が小さくなることが知られている。また、タイヤに振動トルクを与えた場合と与えない場合とを比較すると、前後方向におけるスリップ率が同じであるとすれば、タイヤに振動トルクを与えた場合の方が、振動トルクを与えない場合に比べて、タイヤの左右方向、つまり幅方向の摩擦係数が大きくなることが知られている。これらの原理は、例えば、再公表特許公報WO−02/000463号公報に記載されている。
【0027】
ところで、図2のパワートレーンでは、電動モータ8からタイヤ7に至る動力伝達経路に減速機9が配置されている。この減速機9は、歯車同士の噛み合い部分にバックラッシが形成されている。このため、電動モータ8からタイヤ7に伝達されるトルクが振動して、電動モータ8のトルクが駆動側と回生側との間を行き来すると、歯車同士の噛み合い部分で歯と歯が衝突して衝撃音が発生する可能性があった。ここで、駆動側とは、電動モータ8が力行制御されることを意味し、回生側とは電動モータ8が回生制御されることを意味する。
【0028】
(第1制御例)
そこで、この実施例では、電動モータ8からタイヤ7に伝達されるトルクに振動を与えるときに、歯車同士の噛み合い部分で歯と歯が衝突して衝撃音が発生することを抑制するために、図1のフローチャートを実行する。図1のフローチャートは、車両1の走行中に、タイヤ7に伝達するトルクを振動させる例である。まず、車速およびアクセル開度をパラメータとして要求駆動力を求め、その要求駆動力に基づいて、電動モータ8から出力する基準トルクを求める(ステップS1)。このステップS1の処理をおこなうため、基準トルクを求めるためのデータおよびマップが、電子制御装置14に記憶されている。また、車両1は四輪駆動車であるため、前輪および後輪の全てのタイヤ7について、基準トルクが求められる。
【0029】
また、このステップS1では、前輪のタイヤ7に伝達する前輪用要求トルクと、後輪のタイヤに伝達する後輪用要求トルクとの分配比を等分にする制御、または、前輪と後輪との間における支持荷重の分配比に基づいて、前輪のタイヤ7に伝達する前輪用要求トルクと、後輪のタイヤに伝達する後輪用要求トルクとの分配比を決定する制御をおこなうことが可能である。ここでは、前輪のタイヤ7に伝達する前輪用要求トルクと、後輪のタイヤ7に伝達する後輪用要求トルクとの分配比を等分にする場合を例として、以下の制御を説明する。なお、前記基準トルクとは、前輪のタイヤ7に伝達する前輪用要求トルクと、後輪のタイヤに伝達する後輪用要求トルクとの分配比が等分であるときの要求トルクである。
【0030】
このステップS1についで、各タイヤ7に伝達するトルクの振動を開始する条件が成立しているか否かが判断される(ステップS2)。例えば、タイヤ7と路面との間の摩擦係数を調整するために、トルク振動を開始するか否かを、ドライバーの意思により選択するスイッチが設けられていれば、そのスイッチの操作状態に基づいて、ステップS2の判断をおこなうことができる。このステップS2で否定的に判断された場合は、各タイヤ7に伝達するトルクを振動させることなく、スタートに戻る。
【0031】
これに対して、ステップS2で肯定的に判断された場合は、各車輪のタイヤ7毎に、基準トルクT0に基づいて振動トルクのゲイン(振幅)Tおよび振動トルクの周波数Fを求める(ステップS3)。このステップS3の処理を図3の波形図により説明する。この図3は基準トルクT0と振動トルクとの関係を示す波形図である。図3においては、縦軸がトルクであり、横軸が時間である。図3のように、基準トルクに所定トルクを加算し、かつ、基準トルクから所定トルクを減算して、基準トルクを境界として上下に変動するトルク、つまり、振動トルクが求められる。このように、振動トルクは、基準トルクを境界として、基準トルクよりも高い位相と、基準トルクよりも低い位相との間を、所定の周期で交互に行き来する。つまり、振動トルクは基準トルクを境界として交番的に変化する。基準トルクT0は零Nmとの差で表され、この基準トルクT0と振動トルクとの差(最大差)が、ゲイン(振幅)Tであり、単位時間あたりにおける振動周期の回数が周波数である。
【0032】
この振動周期は、基準トルクを開始点として、その基準トルクよりも高くなり、ついで、基準トルクを経由して、基準トルクよりも低くなり、その後、基準トルクに戻るまでの時間である。この実施例では、車速と摩擦係数との対応関係を示すデータおよびマップが電子制御装置14に記憶されており、車速から目標摩擦係数が求められる。ついで、その目標摩擦係数毎に、ゲインTおよび周波数を決定したマップおよびデータが、電子制御装置14に記憶されており、ステップS3では、このマップおよびデータを用いて、ゲインTおよび周波数が求められる。なお、振動トルクは次式により求められる。
振動トルク=T0+Tsinωt
ここで、ωはタイヤの角速度であり、tは時間である。
【0033】
このステップS3についで、各電動モータ8で振動トルクを発生すると、各減速機9を構成する歯車同士の噛み合い部分で歯当たりが生じるか否かが判断される(ステップS4)。このステップS4の判断例を、図4および図5の波形図により説明する。図4および図5において、縦軸がトルクであり、横軸が時間である。この図4の波形図は、4個の車輪の全てについて基準トルクT0が駆動側に設定されている例である。この図4の波形図に示すように、基準トルクT0から求められる振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来する場合は、各減速機9を構成する歯車同士の噛み合い部分で歯当たりが生じるため、ステップS4で肯定的に判断される。一方、図5の波形図は、4個の車輪の全てについて基準トルクT0が回生側に設定されている例である。図5の波形図のように、基準トルクT0から求められる振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来する場合は、各減速機9を構成する歯車同士の噛み合い部分で歯当たりが生じるため、ステップS4で肯定的に判断される。
【0034】
このようにステップS4で肯定的に判断された場合は、前輪のタイヤ7に伝達する要求トルクと、後輪のタイヤ7に伝達する要求トルクとの分配比を変更し(ステップS5)、スタートに戻る。このステップS5の処理を、図6および図7の波形図により説明する。図6および図7において、縦軸がトルクであり、横軸が時間である。図6は、図4のように基準トルクが駆動側にある場合に、トルク分配比を変更する例である。この図6では、前輪用要求トルクは駆動側に設定され、後輪用要求トルクは回生側に設定されている。また、前輪用要求トルクに対応する振動トルクは駆動側に設定され、後輪用要求トルクに対応する振動トルクは回生側に設定されている。例えば、
前輪用要求トルク=T+2T0
後輪用要求トルク=T
に設定されている。
【0035】
図7は、図5のように基準トルクが回生側にある場合について、トルク分配比を変更する例である。この図7では、前輪用要求トルクは駆動側に設定され、後輪用要求トルクは回生側に設定されている。また、前輪用要求トルクに対応する振動トルクは駆動側に設定され、後輪用要求トルクに対応する振動トルクは回生側に設定されている。例えば、
前輪用要求トルク=T
後輪用要求トルク=−(T−2T0)
に設定されている。
【0036】
このように、ステップS1では前輪用要求トルクと後輪用要求トルクとが均等に設定されていたが、ステップS5では不均等になっている。なお、車両1の全体としての駆動力は、ステップS1の場合とステップS5の場合とが、共に同じになるように、前輪用要求トルクおよび後輪用要求トルクが決定される。一方、ステップS4の判断時点で、4個の車輪の基準トルクが全て駆動側にあり、かつ、振動トルクが駆動側にある場合は、ステップS4で否定的に判断されてスタートに戻る。また、ステップS4の判断時点で、4個の車輪の基準トルクが全て回生側にあり、かつ、振動トルクが回生側にある場合も、ステップS4で否定的に判断されてスタートに戻る。つまり、ステップS4で否定的に判断された場合は、ステップS3で求められた振動トルクが、各タイヤ7に伝達される。
【0037】
上記のように図1の制御を実行すれば、各タイヤ7の摩擦係数を調整するために、電動モータ8から振動トルクを出力するときに、減速機9で歯打ち音が生じることを抑制できる。また、ステップS1で求めた各基準トルクと、ステップS5で求めた各要求トルクとは異なるが、ステップS3で用いる振動ゲインと、ステップS5で用いる振動ゲインとが同じであるため、ステップS3の時点で要求されている車両の走行特性は確保される。また、図6の波形図に示すように、後輪の振動トルクの絶対値の最小部分を、零Nmに可能な限り近くするか、または零Nmに設定することで、後輪の電動モータ8の回生によるエネルギ損失を、最低限にすることができる。一方、図7の波形図に示すように、前輪の振動トルクの絶対値の最小部分を、零Nmに可能な限り近くするか、または零Nmに設定することで、後輪の電動モータ8の回生によるエネルギ損失を、最低限にすることができる。
【0038】
つぎに、図1の制御の一部を変更する例を説明する。例えば、図4の波形図のように、基準トルクT0が駆動側にあり、かつ振動トルクが、駆動側および回生側に跨っていることにより、ステップS4で肯定判断された場合に、ステップS5では、後輪用要求トルクを駆動側に設定し、かつ、その振動トルクを駆動側のみに設定するとともに、前輪用要求トルクを回生側に設定し、かつ、その振動トルクを回生側のみに設定するように、前輪用要求トルクと、後輪用要求トルクとの分配比を変更することも可能である。
【0039】
また、図5の波形図のように、基準トルクT0が回生側にあり、かつ振動トルクが、駆動側および回生側に跨っていることにより、ステップS4で肯定判断された場合に、ステップS5では、後輪用要求トルクを駆動側に設定し、かつ、その振動トルクを駆動側のみに設定するとともに、前輪用要求トルクを回生側に設定し、かつ、その振動トルクを回生側のみに設定するように、前輪用要求トルクと、後輪用要求トルクとの分配比を変更することも可能である。
【0040】
さらに、図2に示されたパワートレーンでは、電動モータ8から前輪に至る動力伝達経路、および電動モータ8から後輪に至る動力伝達経路の両方に、減速機9が設けられているが、前輪または後輪のうちのいずれか一方では、歯当たりが生じる伝動装置が設けられていない場合は、その振動トルクが駆動側および回生側に跨ったとしても、歯当たりが生じない。このためステップS5で前輪用要求トルクと後輪用要求トルクとの分配比を変更する際に、歯当たりが生じる伝動装置が設けられていない車輪では、振動トルクが回生側および駆動側に跨るような、トルク分配比とすることもできる。また、車体に搭載された電動モータのトルクが、伝動装置を経由して前輪および後輪の両方に伝達される構成の四輪駆動車において、図1の制御を実行することも可能である。
【0041】
この第1制御例は、請求項1に対応するものであり、図1に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS4が、この発明の判断手段に相当し、ステップS5が、この発明のトルク分配比算出手段に相当する。また、図2に示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、タイヤ7が、この発明のタイヤに相当し、電動モータ8が、この発明の駆動力源に相当し、減速機9が、この発明の伝動装置に相当する。
【0042】
(第2制御例)
つぎに、図2の車両で実行可能な第2制御例を説明する。この第2制御例は請求項2および3に対応する。前述の基準トルクの変化例を図8に示す。この図8では、時刻t1以降で基準トルクが駆動側で低下し、時刻t3以降は基準トルクが駆動側から回生側に切り替わっている。その後、基準トルクが回生側で増加し、さらに、時刻t5以降は基準トルクが回生側で減少している。ついで、基本トルクが回生側から駆動側に切り替わり、時刻t6以降は、基準トルクが駆動側で再度減少している。まず、時刻t1から時刻t5の間における前輪用要求トルクの変化を、図9のタイムチャートにより説明する。図8のように、時刻t1から時刻t2の間は基準トルクT0がT以上であり、その基準トルクT0から求められる振動トルクが駆動側にあり、零Nmを跨がないため、図9に示すように、
前輪用要求トルク>T
になっている。また、図8に示すように基準トルクが駆動側で減少しているため、図9に示す前輪用要求トルクも駆動側で減少している。
【0043】
そして、図8のように、時刻t2以降で基準トルクT0がT未満、かつ、零Nmを越える値になると、基準トルクT0から求められる振動トルクが零Nmを跨ぐため、前述のように、前輪用要求トルクと後輪用要求トルクとの分配比とが変更されて、図9に示すように、
前輪用要求トルク=T+2T0
まで上昇される。その後、図8に示す基準トルクT0が駆動側で低下するため、図9に示す前輪用要求トルクも駆動側で低下する。そして、図8のように、時刻t3で基準トルクT0が駆動側から回生側に切り替わると、振動トルクが零Nmを跨ぐことを防止するために、図9に示すように、
前輪用要求トルク=T
に固定される。さらに、図8に示すように基準トルクT0が回生側で増加しており、時刻t4以降は基準トルクT0が−T以上になり、その基準トルクT0から振動トルクを求めても零Nmを跨がないため、図9のように、時刻t4以降は基準トルクT0が前輪用要求トルクとなっている。
【0044】
このように、基準トルクT0の変化量が相対的に大きくなると、図9に示すように、
前輪用要求トルク=T
から
前輪用要求トルク=−T
に急激に変化する可能性がある。このように、前輪用要求トルクが急激に変化すると、そのトルク変動が懸架装置を経由して車体に伝達されて車体が上下方向に振動して、乗員が違和感を持つ可能性がある。
【0045】
このような不具合を未然に防止するため第2制御例では、タイヤに振動トルクを伝達することを禁止する条件および許可する条件を規定している。より具体的には、第2制御例は、前記の第1制御例を禁止する条件および許可する条件を具体的に提供するサブルーチンであり、この第2制御例を図10のフローチャートにより説明する。図10のフローチャートがスタートされると、まず、タイヤに振動トルクを伝達する要求があるか否かが判断される(ステップS2)。このステップS2の判断は、図1のステップS2の判断と同じである。このステップS2で否定的に判断された場合は、スタートに戻る。これに対して、ステップS2で肯定的に判断された場合は、図8に示された基準トルクT0が、駆動側で、T未満であり、かつ、零Nmを越えているか否かが判断される(ステップS11)。
【0046】
このステップS11で肯定的に判断された場合は、基準トルクの微分値の絶対値T0′が予め定められた第1所定値(閾値)α未満であるか否かが判断される(ステップS12)。このステップS12は、基準トルクの変化量が相対的に小さいか否かを判断するステップである。このステップS12で肯定的に判断された場合は、前述した不具合が生じる可能性がないため、図6に基づいて説明した処理をおこない(ステップS13)、スタートに戻る。つまり、ステップS13では、
前輪用要求トルク=T+2T0
後輪用要求トルク=−T
ゲイン=T
として各タイヤ7の振動トルクを求める。
【0047】
一方、前記ステップS12で否定的に判断された場合、つまり、基準トルクT0の変化量が相対的に大きい場合は、基準トルクの2階(2回)微分値T0″が、予め定められた第2所定値(閾値)βを越えているか否かが判断される(ステップS14)。このステップS14は、基準トルクの変化量の勾配が、相対的に緩やかになろうとしているか、または、現状維持か、さらに、相対的に急激になろうとしているかを判断するステップである。このステップS14で肯定的に判断されるということは、基準トルクの変化勾配が相対的に緩やかになりつつある(なまり始めている)ことになる。そこで、ステップS14で肯定的に判断された場合は、ステップS13に進む。これに対して、ステップS14で否定的に判断された場合は、基準トルクの変化勾配が現状維持か、あるいは、さらに急激になろうとしていると考えられるため、タイヤ7に振動トルクを伝達する制御を禁止し(ステップS15)、スタートに戻る。つまり、ステップS15に進んだ場合は、図6に基づいて説明した制御が禁止される。
【0048】
ところで、前記ステップS11で否定的に判断された場合は、図8において基準トルクT0が、回生側で零Nmと−Tとの間にあるか否かが判断される(ステップS16)。このステップS16で否定的に判断されるということは、例えば、図8の時刻t4ないし時刻t5の基準トルクT0であり、その基準トルクに基づいて振動トルクを求めても、その振動トルクが零Nmを跨ぐことはないため、スタートに戻る。これに対して、ステップS16で肯定的に判断された場合は、基準トルクの微分値の絶対値T0′が、予め定められた第1所定値(閾値)α未満であるか否かが判断される(ステップS17)。このステップS17の判断の意味は、ステップS12と同じであり、ステップS17の判断は回生側についておこなっている。このステップS17で肯定的に判断された場合は、基準トルクの変化量が相対的に小さいため、図7に基づいて説明した制御を実行してタイヤに振動トルクを伝達し(ステップS18)、スタートに戻る。つまり、ステップS18では、
前輪用要求トルク=T
後輪用要求トルク=−(T−2T0)
ゲイン=T
として各タイヤ7の振動トルクを求める。
【0049】
一方、前記ステップS17で否定的に判断されるということは、基準トルク変化量が相対的に大きいため、基準トルクの2階微分値T0″が、予め定められた第2所定値(閾値)−β未満であるか否かが判断される(ステップS19)。このステップS19で肯定的に判断されるということは、基準トルクの変化勾配が相対的に緩やかになりつつある(なまり始める)ことになる。そこで、ステップS19で肯定的に判断された場合は、ステップS18に進む。これに対して、ステップS19で否定的に判断された場合は、基準トルクの変化勾配が一層急になるか、または現状維持であると考えられるため、ステップS15に進む。つまり、ステップS19からステップS15に進んだ場合は、図7に基づいて説明した制御が禁止される。
【0050】
ここで、図8のタイムチャートと図10のフローチャートとの関係を説明すると、図8の点Aから点Bに至る途中では、ステップS11で肯定的に判断される。また、図の点Bから点Cの間では、ステップS12,S14,S15のルーチンで進む。これに対して、図8の点Dでは、基準トルクの変化量が相対的に大きいため、ステップS12で否定的に判断され、タイヤに振動トルクを与えることが禁止される。その後に基準トルクの勾配が緩やかになっているため、例えば領域Eでは、ステップS19からステップS18に進む。つまり、タイヤに振動トルクを与える制御が許可、より具体的には再開される。なお、基準トルクが回生側から駆動側に変化する過程で、その変化量が急激であり、かつ、一層急激になる場合の例、および基準トルクが回生側から駆動側に変化する過程で、その変化量が急激であり、かつ、勾配がその後に緩やかになる(なまり始める)場合の例は、特に説明していないが、基本的な原理は、基準トルクが駆動側から回生側に変化する場合と同じである。
【0051】
また、この第2制御例において、第1所定値αは、基準トルクの変化量が相対的に小さいか否かを判断するための閾値である。これに対して、第2所定値βは、基準トルクの変化勾配が、緩やかになろうとしているのか、さらに急激になろうとしているのか、あるいは、現状維持なのかを判断する閾値である。つまり、第1所定値αと第2所定値βとは、技術的意義が異なり、相対的な大小関係は存在しない。なお、図10の各判断ステップで用いる所定値は、予め実験またはシミュレーションにより求めて電子制御装置14に記憶されている。
【0052】
このように、第2制御例においては、基準トルクの変化量が相対的に大きいか小さいかに基づいて、振動トルクをタイヤに伝達する制御を禁止するか、または許可するかを判断している。さらに具体的には、基準トルクの変化勾配が、緩やかになろうとしているのか、さらに急激になろうとしているのか、あるいは、現状維持なのかを判断し、その判断結果に基づいて、振動トルクをタイヤに伝達する制御を禁止するか、または許可するかを判断している。したがって、第2制御例によれば、タイヤに振動トルクを伝達した場合に、懸架装置を介して車体が振動し、乗員が違和感を持つことを回避できる。ここで、図10に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS12,S16が、この発明の変化量判断手段に相当し、ステップS13,S14,S15,S17,S18,S19が、この発明のトルク分配比算出手段に相当する。
【0053】
(第3制御例)
つぎに、第1制御例で説明した図1のフローチャートにおいて、ステップS5でおこなうことの可能な他の制御例を説明する。例えば、図11に示すように、前輪に駆動側の振動トルクを与え、後輪に振動トルクを与えていない(零[Nm])とともに、その振動トルクが、零ニュートンメートルに近づく過程または、最も零ニュートンメートルに近いときに、図1のステップS4で歯当たりが生じると判定されて、ステップS5で、前輪に与えられる振動トルクを駆動側で増加し、かつ、後輪に回生側の振動トルクを与えることを想定する。このような制御をおこなうと、後輪用の減速機8の歯車同士の噛み合い部分では、後輪に回生側の振動トルクが与えられた時点で、駆動側の歯車の歯面が被駆動側の歯面に衝突して振動が発生する。このとき、駆動側の歯車の歯面の加速度を考慮すると、歯車同士の衝突により生じる振動は、
T/I=d(dθ/dt)dt
として求めることが可能である。ここで、Tは歯車に加わるトルクであり、Iはギヤイナーシャモーメントであり、θはギヤの回転角度である。そして、回生側の振動トルクX(Nm)の絶対値の大きさにより加速度が決まる。つまり、回生側の振動トルクX[Nm]の絶対値の大きさが相対的に大きくなるほど、加速度が相対的に大きくなり、歯車同士の衝突による振動が相対的に大きくなる。
【0054】
この第3制御例は、前輪および後輪に伝達するトルクの分配比が変更されて、振動トルクを与えられていなかった車輪に、零Nmを越える振動トルクが与えられて、その車輪に連結された変速機の歯車同士が衝突することを抑制することを目的としておこなわれるものである。この第3制御例を図12のフローチャートに基づいて説明する。ここでは、便宜上、前輪で駆動側に基準トルクが設定され、後輪のトルクが零[Nm]に設定されている場合の例を説明する。まず、ステップS2の判断がおこなわれる。このステップS2の判断は、図1におけるステップS2の判断と同じである。
【0055】
このステップS2で否定的に判断された場合はリターンし、ステップS2で肯定的に判断された場合は、駆動側で減少する基準トルクT0が、所定値T2未満になったか否かが判断される(ステップS21)。ここで、所定値T2は、駆動側トルクの値であり、図3および図4で説明したゲインTと同じ大きさであり、零[Nm]を基準とする値である。前記のように、振動トルクは基準トルクを境界として交番的に変化するのであるから、基準トルクが、振動トルクのゲインTと同じ大きさの所定値T2未満になれば、振動トルクが零[Nm]以下になることを予測できるため、その所定値T2をステップS21の判断に用いているのである。
【0056】
このステップS21で否定的に判断された場合は、前輪に伝達される振動トルクが駆動側にのみ発生するためリターンする。これに対して、ステップS21で肯定的に判断された場合は、そのまま前輪に振動トルクを与えると、その振動トルクが駆動側と回生側とを交互に行き来して、前輪に連結された減速機の歯車同士の噛み合い部分で衝突が生じる可能性がある。そこで、振動トルク(T0+Tsinωt)が、駆動側で零[Nm]を越えているか否かが判断される(ステップS22)。このステップS22で肯定的に判断された場合は、所定のタイミングで、振動トルクを、前輪タイヤに伝達する要求トルクと、後輪のタイヤに伝達する要求トルクとに分配する制御をおこない(ステップS23)、リターンする。このステップS23では、前輪の振動トルクが駆動側にのみ発生し、後輪の振動トルクが回生側でのみ発生するように、トルクの分配比が決定される。また、後輪の振動トルクが、零[Nm]を開始点として回生側へ向けて徐々に増加するように、前輪に伝達する前輪用要求トルクと、後輪に伝達する後輪用要求トルクとの分配を開始するタイミングを決定する。
【0057】
このステップS23の処理をより具体的に説明する。前述のように、後輪に回生側のトルクを伝達する開始時点で、零[Nm]を越える絶対値で回生トルクが与えられると、その後輪に連結された減速機9の歯車同士の噛み合い部分で衝突が生じる。例えば、図13に示すように、前輪に与えられている基準トルクT0が、駆動側で徐々に減少しているとき、前輪に与えられる振動トルクが基準トルクよりも大きく、かつ、振動トルクが、基準トルクT0とゲインTとの和と一致した時刻t1から、振動トルクを図14に示すように基準トルクT0を前輪用要求トルクと後輪用要求トルクとに分配する制御を開始すると、後輪の振動トルクが零[Nm]を開始点として回生側で発生する。
【0058】
ここで、前輪に与えられる振動トルクが、基準トルクT0とゲインTとの和と一致した時点とは、図13のように、前輪の振動トルクが1回の振動周期で最大(sinωT=1)となる瞬間である。言い換えれば、振動トルクと基準トルクとの差が、1回の振動周期で最大となる瞬間である。このように、前輪に伝達する前輪用要求トルクと、後輪に伝達する後輪用要求トルクとに分配を開始するタイミングを決定すると、後輪の減速機の駆動側の歯車が、被駆動側の歯車に衝突する加速度は、零[rad/s2 ]となる。したがって、歯車に形成されたバックラッシに起因して、歯車の歯面同士が衝突したとしても、その振動を最小限とすることができる。なお、ステップS23では、振動トルクが零ニュートンメートルから離れる向きで変化する過程で、振動トルクを、前輪用要求トルクと、後輪用要求トルクとに分配する制御を開始することもできる。この場合は、後輪で発生する回生トルクを、相対的に少なくすることができる。
【0059】
一方、ステップS22で否定的に判断された場合は、振動トルク(出力トルク)を零「Nm]とする処理をおこなう(ステップS24)。このステップS24の処理を、図15および図16のタイムチャートにより説明する。算出される振動トルクが、図15のように破線で示すように零[Nm]未満となる範囲では、実際に出力する振動トルクを、図16に破線で示すように零[Nm]とする処理をおこなう。このステップS24についで、振動トルクが、駆動側で零[Nm]を越えるか否かが判断され(ステップS25)、ステップS25で肯定的に判断された場合は、ステップS23に進む。このステップS25で否定的に判断された場合は、ステップS24に戻る。ここで、図12のフローチャートに示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS21およびステップS22およびステップS23が、請求項4および請求項5のトルク分配比算出手段に相当する。ステップS22で説明した所定値T2が、請求項4の所定値に相当する。なお、第3制御例は、後輪に振動トルクを与え、前輪には振動トルクを与えていないときに、ステップS23に進み、振動トルクを前輪および後輪に分配する制御にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明の駆動力制御装置で実行可能な第1制御例を示すフローチャートである。
【図2】この発明の駆動力制御装置の対象となる車両の概念図である。
【図3】この発明でタイヤに伝達される振動トルクを示す波形図である。
【図4】この発明で基準トルクが駆動側にある場合の振動トルク例を示す波形図である。
【図5】この発明で基準トルクが回生側にある場合の振動トルク例を示す波形図である。
【図6】図4の波形図に基づいて、要求トルクおよび振動トルクを変更する例を示す波形図である。
【図7】図5の波形図に基づいて、要求トルクおよび振動トルクを変更する例を示す波形図である。
【図8】車両のタイヤに伝達される基準トルクの経時変化例を示すタイムチャートである。
【図9】前輪用要求トルクの経時変化例を示すタイムチャートである。
【図10】この発明の駆動力制御装置で実行可能な第2制御例を示すフローチャートである。
【図11】第3制御例を実行する前の振動トルクを示す第1のタイムチャートである。
【図12】第3制御例を示すフローチャートである。
【図13】第3制御例に相当する振動トルクを示す第2のタイムチャートである。
【図14】第3制御例に相当する振動トルクを示す第3のタイムチャートである。
【図15】第3制御例に相当する振動トルクを示す第4のタイムチャートである。
【図16】第3制御例に相当する振動トルクを示す第5のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0061】
1…車両、 7…タイヤ、 8…電動モータ、 9…減速機、 14…電子制御装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面に接触するタイヤと、このタイヤに伝達するトルクを発生する駆動力源とを有する車両が走行するにあたり、前記駆動力源から前記タイヤに伝達することが要求されている基準トルクを求め、この基準トルクを境界として交番的に変化する振動トルクを求め、前記駆動力源から前記タイヤに振動トルクを伝達することにより、前記タイヤと路面との間における摩擦係数を制御する駆動力制御装置において、
前記駆動力源からトルクが伝達される前輪のタイヤおよび後輪のタイヤが設けられており、前記駆動力源から前輪のタイヤまたは後輪のタイヤの少なくとも一方に至るトルクの伝達経路に、凹部と凸部との噛み合いによりトルク伝達をおこなう伝動装置が設けられているとともに、
前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来するか否かを判断する判断手段と、
前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、前記振動トルクが駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断された場合は、前記伝動装置を経由して前記タイヤに伝達される振動トルクが、前記駆動側または回生側の一方となるように、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めるトルク分配比算出手段と
を備えていることを特徴とする駆動力制御装置。
【請求項2】
前記基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値未満であるか否かを判断する変化量判断手段を備え、
前記トルク分配比算出手段は、
前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断され、かつ、前記基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値未満である場合に、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求める手段と、
前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断され、かつ、前記基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値を越えている場合は、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めることを禁止する手段と
を含むことを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記トルク分配比算出手段は、前記基準トルクの微分値の絶対値が予め定められた第1所定値を越えており、かつ、前記基準トルクの2階微分値が所定値以下である場合に、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めることを禁止する手段を含むことを特徴とする請求項2に記載の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記トルク分配比算出手段は、前記前輪または後輪のいずれか一方で発生する駆動側の振動トルクが、零ニュートンメートルから離れる向きで変化する過程で、前記振動トルクを前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、前記後輪に伝達する後輪用トルクとに分配する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記トルク分配比算出手段は、前記前輪または後輪のいずれか一方で発生する駆動側の振動トルクが、前記基準トルクよりも大きく、かつ、前記基準トルクと前記振動トルクとの差が最大となった時点から、前記振動トルクを前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、前記後輪に伝達する後輪用トルクとに分配する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。
【請求項1】
路面に接触するタイヤと、このタイヤに伝達するトルクを発生する駆動力源とを有する車両が走行するにあたり、前記駆動力源から前記タイヤに伝達することが要求されている基準トルクを求め、この基準トルクを境界として交番的に変化する振動トルクを求め、前記駆動力源から前記タイヤに振動トルクを伝達することにより、前記タイヤと路面との間における摩擦係数を制御する駆動力制御装置において、
前記駆動力源からトルクが伝達される前輪のタイヤおよび後輪のタイヤが設けられており、前記駆動力源から前輪のタイヤまたは後輪のタイヤの少なくとも一方に至るトルクの伝達経路に、凹部と凸部との噛み合いによりトルク伝達をおこなう伝動装置が設けられているとともに、
前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来するか否かを判断する判断手段と、
前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、前記振動トルクが駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断された場合は、前記伝動装置を経由して前記タイヤに伝達される振動トルクが、前記駆動側または回生側の一方となるように、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めるトルク分配比算出手段と
を備えていることを特徴とする駆動力制御装置。
【請求項2】
前記基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値未満であるか否かを判断する変化量判断手段を備え、
前記トルク分配比算出手段は、
前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断され、かつ、前記基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値未満である場合に、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求める手段と、
前記伝動装置を経由して前記前輪のタイヤまたは後輪のタイヤのうちの少なくとも一方に伝達される振動トルクが、駆動側と回生側とを交互に行き来すると判断され、かつ、前記基準トルクの変化量が予め定められた第1所定値を越えている場合は、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めることを禁止する手段と
を含むことを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記トルク分配比算出手段は、前記基準トルクの微分値の絶対値が予め定められた第1所定値を越えており、かつ、前記基準トルクの2階微分値が所定値以下である場合に、前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと前記後輪に伝達する後輪用トルクとの分配比を求めることを禁止する手段を含むことを特徴とする請求項2に記載の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記トルク分配比算出手段は、前記前輪または後輪のいずれか一方で発生する駆動側の振動トルクが、零ニュートンメートルから離れる向きで変化する過程で、前記振動トルクを前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、前記後輪に伝達する後輪用トルクとに分配する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記トルク分配比算出手段は、前記前輪または後輪のいずれか一方で発生する駆動側の振動トルクが、前記基準トルクよりも大きく、かつ、前記基準トルクと前記振動トルクとの差が最大となった時点から、前記振動トルクを前記前輪のタイヤに伝達する前輪用トルクと、前記後輪に伝達する後輪用トルクとに分配する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−268337(P2009−268337A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283487(P2008−283487)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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