説明

III−V族窒化物系半導体基板及びその製造方法、III−V族窒化物系半導体デバイス、III−V族窒化物系半導体基板のロット

【課題】良好な結晶性を有する窒化物系結晶を再現良くエピタキシャル成長させることが可能な、III‐V族窒化物系半導体基板及びその製造方法、III‐V族窒化物系半導体デバイス、III‐V族窒化物系半導体基板のロットを提供する。
【解決手段】III‐V族窒化物系単結晶からなり、平坦な表面を有するIII‐V族窒化物系半導体基板であって、基板面内の任意の点における基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したベクトルが、基板面外の特定の点又は領域を向いている。例えば、GaN基板21の基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したときにできるベクトルは、矢印23で表わされているように、GaN基板21の外部の収束中心領域24に向かって収束するような分布となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III‐V族窒化物系半導体基板及びその製造方法、III‐V族窒化物系半導体デバイス、III‐V族窒化物系半導体基板のロットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化ガリウムアルミニウム(GaAlN)等の窒化物系半導体材料は、禁制帯幅が充分大きく、バンド間遷移も直接遷移型であるため、短波長発光素子への適用が盛んに検討されている。また、電子の飽和ドリフト速度が大きいこと、ヘテロ接合による2次元キャリアガスの利用が可能なこと等から、電子素子への応用も期待されている。
【0003】
既に世の中に広く普及しているシリコン(Si)や砒化ガリウム(GaAs)等は、それぞれSi基板、GaAs基板といった同種の材料からなる基板の上に、デバイスを作るためのエピタキシャル成長層を、ホモエピタキシャル成長させて使用されている。同種基板上のホモエピタキシャル成長では、成長の初期からステップフローモードで結晶成長が進行するため、結晶欠陥の発生が少なく、平坦なエピタキシャル成長表面が得られやすい。
【0004】
一方、窒化物系半導体は、バルク結晶成長が難しく、最近ようやく実用に耐えるレベルのGaN自立基板が開発され、使われ始めた段階にある。現在、広く実用化されているGaN成長用の基板はサファイアであり、単結晶サファイア基板の上に有機金属気相成長法(MOVPE法)や分子線気相成長法(MBE)、ハイドライド気相成長法(HVPE)等の気相成長法で、いったんGaNをヘテロエピタキシャル成長させ、その上に連続で、あるいは別の成長炉でデバイスを作るための窒化物系半導体エピ層を成長させる方法が一般に用いられている。
【0005】
サファイア基板は、GaNと格子定数が異なるため、サファイア基板上に直接GaNを成長させたのでは単結晶膜を成長させることができない。このため、サファイア基板上に一旦500℃程度の低温でAlNやGaNのバッファ層を成長させ、この低温成長バッファ層で格子の歪みを緩和させてからその上にGaNを成長させる方法が考案された(例えば、特許文献1参照。)。この低温成長窒化物層をバッファ層として用いることで、GaNの単結晶エピタキシャル成長は可能になった。しかし、この方法でも、やはり基板と結晶の格子のずれは如何ともし難く、成長の開始当初は前述のステップフローモードではなく、3次元島状成長モードで結晶成長が進行する。このため、こうして得られたGaNは、109〜1010cm-2もの転位密度を有している。この欠陥は、GaN系デバイス特にLDや紫外発光LEDを製作する上で障害となる。
【0006】
近年、サファイアとGaNの格子定数差に起因して発生する欠陥の密度を低減する方法として、ELO(例えば、非特許文献1参照。)や、FIELO(例えば、非特許文献2参照。)、ペンデオエピタキシー(例えば、非特許文献3参照。)といった成長技術が報告された。これらの成長技術は、サファイア等の基板上に成長させたGaN上に、SiO2等でパターニングされたマスクを形成し、マスクの窓部からさらにGaN結晶を選択的に成長させて、マスク上をGaNがラテラル成長で覆うようにすることで、下地結晶からの転位の伝播を防ぐものである。これらの成長技術の開発により、GaN中の転位密度は107cm-2台程度にまで、飛躍的に低減させることができるようになった。例えば、特許文献2には、この技術の一例が開示されている。
【0007】
更に、サファイア基板等の異種基板上に、転位密度を低減したGaN層を厚くエピタキシャル成長させ、成長後に下地から剥離して、GaN層を自立したGaN基板として用いる方法が特許文献3の他、いろいろ提案されている。例えば、特許文献4では、前述のELO技術を用いてサファイア基板上にGaN層を形成した後、サファイア基板をエッチング等により除去し、GaN自立基板を得ることが提案されている。また、VAS(Void-Assisted Separation:例えば、非特許文献4、特許文献5参照。)や、DEEP(Dislocation Elimination by the Epi-growth With inverted-Pyramidal pits:例えば、非特許文献5、特許文献6参照。)などが公開されている。VASは、サファイア等の基板上で、網目構造のTiN薄膜を介してGaNを成長することで、下地基板とGaN層の界面にボイドを形成し、GaN基板の剥離と低転位化を同時に可能にしたものである。また、DEEPは、エッチング等で除去が可能なGaAs基板上にパターニングしたSiN等のマスクを用いてGaNを成長させ、結晶表面に故意にファセット面で囲まれたピットを複数形成し、前記ピットの底部に転位を集積させることで、その他の領域を低転位化するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4‐297023号公報
【特許文献2】特開平10‐312971号公報
【特許文献3】特開2000‐22212号公報
【特許文献4】特開平11‐251253号公報
【特許文献5】特開2003‐178984号公報
【特許文献6】特開2003‐165799号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.71(18)2638(1997)
【非特許文献2】Jpan.J.Appl.Phys.38,L184(1999)
【非特許文献3】MRS Internet J.Nitride Semicond.Res. 4S1,G3.38(1999)
【非特許文献4】Y.Oshima et.al.,Jpn.J.Appl.Phys.Vol.42(2003)pp.L1-L3
【非特許文献5】K.Motoki et.al.,Jpn.J.Appl.Phys.Vol.40(2001)pp.L140-L143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このような方法で作製したGaN基板には解決すべき課題が残されていた。
【0011】
上述のように、GaNの自立基板を作製するためのGaNの結晶は、一度は格子定数の大きく異なるサファイアやGaAsといった異種基板上にヘテロエピタキシャル成長させられる。異種基板上に成長したGaN結晶は、下地基板となる前記異種基板との格子定数差や線膨張係数差に起因する反りを生じさせる。この反りは、下地基板を除去したGaN自立基板においても、顕著に観察されることが知られている。結晶成長中に既に反りが生じ始め、反った形のまま成長する場合もあるし、歪を内在したまま成長し、下地基板を除去することによって反りを生じることもある。例えば、特許文献3では、下地基板にGaAs基板を用いて作製したGaN自立基板において、上に凸の反りが生じる例が図示されている(特許文献3の図11、図15)。
【0012】
GaN基板が反っている場合、その反りに対応するように、GaN基板の結晶軸も面内で分布を持っている。このことは、特許文献3の図15でも指摘されている通りである。
【0013】
GaNの自立基板は、他の半導体材料基板と同様に、表面に鏡面研磨が施された形で市販されていることが多い。このため、見た目には平坦なGaN基板であっても、研磨前の元のGaN基板が反っていると、結晶軸の傾きに分布が生じる原因となる。
【0014】
この状態を、模式図を使って説明する。
【0015】
図6は、結晶軸の傾きの方向をあらわすパラメータを定義するための説明図である。ある任意の点Aにおいて、基板表面14に対し、基板表面14に最も近い低指数面15がある傾きを持っていたと仮定する。このとき、結晶軸の傾きは、基板表面14の法線に対して、基板表面14に最も近い低指数面15の法線ベクトル16がどちらにどれだけ傾いているかを調べれば良い。これは、X線回折測定によって、容易に知ることができる。研磨前の元の基板がどちらに反っていたかを知るには、この基板表面14に最も近い低指数面15の法線ベクトル16を、基板表面14に投影したときにできるベクトル17が、基板の面内でどちらを向いているかを見れば分かる。
【0016】
図7は、凸の反りを持っていた表面を平坦に研磨加工したGaN基板の、結晶軸の傾きの分布を示す基板断面模式図であり、図8は、凸の反りを持っていた表面を平坦に研磨加工したGaN基板の、基板表面から見た結晶軸の傾きの分布を示すために、基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したときにできるベクトルの基板面内分布の様子を示す模式図である。
【0017】
研磨前の元の基板が表面に対し上に凸に反っていた場合、研磨後、表面が平坦になった基板18でも、その結晶軸は、基板内部で、図7のように表面側で広がった分布を持つ。基板18の内部に描いた線19は、結晶軸(基板表面に最も近い低指数面の法線)の方向を示している。このような基板18においては、前述の基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したときにできるベクトルが、図8の矢印20で表わされているように、基板18の外側に向かって放散するような分布となる。
【0018】
このような結晶軸の傾きの分布を持ったGaN基板上にAlGaN混晶系のエピタキシャル層を成長すると、AlGaN混晶のモフォロジやクラックの出やすさにばらつきが大きく、GaN基板上に形成するエピタキシャル層の再現性が乏しいという問題があった。これは、GaN基板上にいったんGaN層をホモエピタキシャル成長させた後でも、同じ傾向が見られた。これは、従来のSiやGaAsといった半導体材料では見られなかった問題であり、異種基板上にヘテロエピタキシャル成長させた厚膜層を基板として用いている、III‐V族窒化物系半導体材料に特有の問題であると言える。
【0019】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、良好な結晶性を有する窒化物系結晶を再現良くエピタキシャル成長させることが可能な、III‐V族窒化物系半導体基板及びその製造方法、III‐V族窒化物系半導体デバイス、III‐V族窒化物系半導体基板のロットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、平坦な表面を有するIII‐V族窒化物系単結晶の半導体基板であって、基板面内の任意の点における基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したベクトルが、基板面外の特定の点又は領域を向いていることを特徴とするIII‐V族窒化物系半導体基板にある。
【0021】
前記III‐V族窒化物系半導体基板は、III‐V族窒化物系単結晶だけからなる自立した基板としてもよい。
【0022】
前記III‐V族窒化物系単結晶は、六方晶系が好ましく、また、基板表面に最も近い低指数面をC面とするのがよい。さらに、そのC面は、III族面とするのが好ましい。
【0023】
前記III‐V族窒化物系単結晶を六方晶系とし、且つ基板表面に最も近い低指数面をA面又はM面又はR面のいずれかとしてもよい。
【0024】
前記基板表面は、鏡面研磨加工が施されているのが好ましい。
【0025】
また、本発明は、前記III‐V族窒化物系半導体基板を製造する方法であって、異種基板上に前記III‐V族窒化物系単結晶をヘテロエピタキシャル成長させた後、当該異種基板を除去することにより前記III‐V族窒化物系半導体基板を得ることを特徴とするIII‐V族窒化物系半導体基板の製造方法である。
【0026】
また、本発明は、前記III‐V族窒化物系半導体基板を製造する方法であって、基板の反りに起因して発生する結晶方位の傾きよりも大きいオフ角を基板に持たせ、表面側が凹面に反ったIII‐V族窒化物系単結晶の表面を有する基板の当該表面側を平坦に研磨して前記III‐V族窒化物系半導体基板を得ることを特徴とするIII‐V族窒化物系半導体基板の製造方法である。
【0027】
また、本発明は、前記III‐V族窒化物系半導体基板上に、少なくともAlxGa(1-x)N(1≧x>0)で表される層を含む結晶層が形成されていてもよい。
【0028】
また、本発明は、前記III‐V族窒化物系半導体基板上に、少なくともAlxGa(1-x)N(1≧x>0)で表される層を含む複数の結晶層が形成されていることを特徴とするIII‐V族窒化物系半導体デバイスである。
【0029】
また、本発明は、複数のIII‐V族窒化物系半導体基板から構成されるIII‐V族窒化物系半導体基板のロットであって、前記ロットを構成する個々の基板が、前記III‐V族窒化物系半導体基板であることを特徴とするIII‐V族窒化物系半導体基板のロットである。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように本発明によれば、III‐V族窒化物系半導体基板に固有の問題である、結晶軸の傾きのばらつきが存在しているような基板であっても、当該基板上に窒化物系結晶層、特にAlGaN混晶層をエピタキシャル成長させた際に、デバイス作成上問題となるような表面荒れやクラックを抑えることができるIII‐V族窒化物系半導体基板及びその製造方法、III‐V族窒化物系半導体デバイス、III‐V族窒化物系半導体基板のロットを提供することができる。
【0031】
また、本発明のIII‐V族窒化物系半導体基板を用いることで、設計通りの特性を有する発光素子や電子素子を製造することが可能となる。また、エピタキシャル成長工程、デバイスプロセス工程の両工程において、製造歩留まりを高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】参考例に係る、凹の反りを持っていた表面を平坦に研磨加工したGaN基板の、結晶軸の傾きの分布を示す基板断面模式図である。
【図2】参考例に係る、凹の反りを持っていた表面を平坦に研磨加工したGaN基板の、基板表面から見た結晶軸の傾きの分布を示すために、基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したときにできるベクトルの基板面内分布の様子を示す模式図である。
【図3】参考例に係る、GaN基板の結晶軸の傾きが基板の内部の特定の点又はある面積を有する特定の領域に向かって収束するようなGaN基板の、結晶軸の傾きの分布を示す基板断面模式図である。
【図4】参考例に係る、GaN基板の結晶軸の傾きが基板の内部の特定の点又はある面積を有する特定の領域に向かって収束するようなGaN基板の、基板表面から見た結晶軸の傾きの分布を示すために、基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトル、基板表面に投影したときにできるベクトルの基板面内分布の様子を示す模式図である。
【図5】自立したGaN基板上に、AlxGa(1-x)N(1≧x>0)で表される層を含むLED構造のエピタキシャル成長層を積層したLED用エピタキシャルウェハの断面構造を模式的に表した図である。
【図6】結晶軸の傾きの方向をあらわすパラメータを定義するための説明図である。
【図7】従来例に係る凸の反りを持っていた表面を平坦に研磨加工したGaN基板の、結晶軸の傾きの分布を示す基板断面模式図である。
【図8】従来例に係る凸の反りを持っていた表面を平坦に研磨加工したGaN基板の、基板表面から見た結晶軸の傾きの分布を示すために、基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したときにできるベクトルの基板面内分布の様子を示す模式図である。
【図9】本発明の一実施例に係る、GaN基板の結晶軸の傾きが基板の外部の特定の点又はある面積を有する特定の領域に向かって収束するようなGaN基板の、結晶軸の傾きの分布を示す基板断面模式図である。
【図10】本発明の一実施例に係る、GaN基板の結晶軸の傾きが基板の外部の特定の点又はある面積を有する特定の領域に向かって収束するようなGaN基板の、基板表面から見た結晶軸の傾きの分布を示すために、基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したときにできるベクトルの基板面内分布の様子を示す模式図である。破線で示した円は、前記投影ベクトルが向かう収束中心領域となる特定の領域を仮想的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
参考例に係るIII‐V族窒化物系半導体基板について、図1及び図2を用いて説明する。
【0034】
図1は、凹の反りを持っていた表面を平坦に研磨加工したGaN基板の、結晶軸の傾きの分布を示す基板断面模式図であり、図2は、凹の反りを持っていた表面を平坦に研磨加工したGaN基板の、基板表面から見た結晶軸の傾きの分布を示すために、基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したときにできるベクトルの基板面内分布の様子を示す模式図である。
【0035】
研磨前の元のGaN基板が表面に対し上に凹に反っていた場合、研磨後、GaN基板1の結晶軸は、基板内部で、図1のように表面側ですぼまった分布を持つ。GaN基板1の内部に描いた線2は、結晶軸の方向を示している。このようなGaN基板1においては、前述の基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したときにできるベクトルは、図2の矢印3で表わされているように、GaN基板1の内部の特定領域に向かって収束するような分布となる。
【0036】
発明者は、GaN基板の結晶軸の傾き分布が異なる、即ち、図8と図2のような2種類の結晶軸の傾き分布を持つ自立したGaN基板を多数作製し、その上にAl0.1Ga0.9Nエピタキシャル層を常圧MOVPE法で0.2μm成長し、その表面モフォロジがGaN基板の結晶軸の傾き方向の分布に依存するかどうかを調査した。その結果、GaN基板の結晶軸の傾きが、図8のように基板の外側に向かって放散するような分布をとるGaN基板では、その上に成長させたAl0.1Ga0.9Nエピタキシャル層にクラックが出やすく、また、表面の粗さを測定しても、平均的に粗く、またばらつきの大きい傾向があることを見出した。一方、GaN基板の結晶軸の傾きが、図2のように基板の内部に向かって収束するようなGaN基板では、その上に成長させたAl0.1Ga0.9Nエピタキシャル層にクラックが出にくく、エピタキシャル層の表面粗さも小さい値となった。更に、GaN基板の結晶軸の傾きが、図2のように基板の中心の1点に向かって収束するようなGaN基板でなくとも、図4に示すように、GaN基板4の結晶軸の傾きが基板の内部の特定の点又はある面積を有する特定の領域に向かって収束するようなGaN基板であれば、その上に成長させたAlGaN系エピタキシャル層にクラックが出にくく、エピタキシャル層の表面粗さも小さくなることを見出した。矢印6は、基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したときにできるベクトルを表わしている。(図3は、図4のような結晶軸の傾き分布を持つ基板の断面における結晶軸の様子を模式的に表した図である。GaN基板4の内部に描いた線5は、結晶軸の方向を示している。)
【0037】
また、発明者は、GaN基板にオフ角をつけた場合、前記の法線ベクトルを基板表面に投影したときにできるベクトルは、図10のように基板外部の特定の点又はある面積を有する特定の領域に向かって収束するような分布を持つことがあり、この場合においても、前記の基板の内部の特定の点又はある面積を有する特定の領域に向かって前記投影ベクトルが収束するような基板と同様の効果が得られることも見出した。
【0038】
図9は、GaN基板の結晶軸の傾きが基板の外部の特定の点又はある面積を有する特定の領域に向かって収束するようなGaN基板の、結晶軸の傾きの分布を示す基板断面模式図である。GaN基板21の内部に描いた線22は、結晶軸の方向を示している。
【0039】
図10は、GaN基板の結晶軸の傾きが基板の外部の特定の点又はある面積を有する特定の領域に向かって収束するようなGaN基板21の、基板表面から見た結晶軸の傾きの分布を示すために、基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したときにできる矢印23で示されたベクトルの基板面内分布の様子を示す模式図である。破線で示した円は、前記投影ベクトルが向かう収束中心領域24となる特定の領域を仮想的に示したものである。
【0040】
前記投影ベクトルが収束する点又はある面積を有する特定の領域は、基板面内よりも基板の外にあるほうが望ましく、更に、基板の外であっても、なるべく基板から離れた点にあるほうが望ましい。前記の点又は領域が遠くに位置するほど、前記投影ベクトルの方向のばらつきが小さくなり、理想的な均一な結晶方位分布を持つ基板に近づくからである。しかし、現実的には、現状の下地基板から厚膜エピタキシャル成長した層を剥離してGaN基板を得る方法では、多かれ少なかれ基板の反りが発生するため、理想的な結晶方位分布を持つ基板を得ることは難しい。そこで、現在の技術で実現可能な策として、本発明のような基板が有効となるのである。
【0041】
理論的には、基板の反りに起因して発生する結晶方位の傾きよりも、はるかに大きいオフ角を基板に持たせることで、上記のベクトルが収束する点又はある面積を有する特定の領域を基板の外に遠ざけることができる。しかし、オフ角の大きすぎる基板は、その上でのエピタキシャル成長が難しくなったり、デバイス作成時の加工が難しくなるので、基板に付加するオフ角度としては、20°以下とするのが好ましい。
【0042】
GaN基板にGaN系のエピタキシャル成長を行った場合、エピタキシャル表面に筋状のモフォロジが現れることが往々にして見られる。このモフォロジは、下地の結晶方位に沿った方向に現れるため、前記投影ベクトルが収束する点又はある面積を有する特定の領域が基板の内側にある場合は、その収束点を中心に、結晶の6回対象性を反映したような対称な形にモフォロジが発生することがある。そうすると、方向の異なる筋状のモフォロジがぶつかる点に結晶の盛り上がりが生じ、場合によっては、後のプロセス工程で、フォトリソグラフィの精度を低下させるなどの不具合を引き起こす原因となることがある。しかし、前記の収束点が基板の外側にある場合は、前記投影ベクトルの方向が基板面内で平行に近くなり、点対称な形で分布しなくなるため、前記筋状のモフォロジが互いにぶつかる頻度も減るという別の効果も生じる。
【0043】
ここで、特定の領域とは、特定の点の近傍という意味であり、略円形をなしている。
【0044】
本発明は、結晶表面に垂直に近い結晶軸の傾き方向の面内分布、すなわち、基板面内の任意の点における基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したベクトルが、基板面内外の特定の点又は領域を向いていることを特徴とするIII‐V族窒化物系半導体基板であり、その基板上にAlGaN系のエピタキシャル成長層を積層したエピタキシャルウェハであり、そのエピタキシャルウェハからダイジング加工等によりチップ状に切り出して作製したIII‐V族窒化物系半導体デバイスである。
【0045】
本発明における「自立した」基板とは、自らの形状を保持でき、ハンドリングに不都合が生じない程度の強度を有する基板をいう。このような強度を具備するために、自立基板の厚みは、好ましくは200μm以上が良い。また、III‐V族窒化物系半導体基板は、直径2インチ以上の面積を有することがデバイスの量産性の点から好ましい。III‐V族窒化物系半導体基板の結晶性は、2結晶法X線回折のロッキングカーブの半値幅を250秒以下とするのが好ましい。
【0046】
本発明におけるIII‐V族窒化物系半導体とは、InxGayAl1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表される半導体が挙げられる。このうち、GaN、AlGaN等の半導体が好ましく用いられる。強度、製造安定性等、基板材料に求められる特性を満足するからである。
【0047】
本発明にかかるIII‐V族窒化物系半導体基板は、下地に異種基板を付けた状態のヘテロエピタキシャルウェハであっても構わないが、III‐V族窒化物系結晶だけからなる自立した基板であることが望ましい。これは、下地に異種基板が付いた状態であると、下地基板結晶とIII‐V族窒化物系半導体結晶の線膨張係数差によって、エピタキシャル成長に用いる際に基板を加熱すると、反り状態が室温時に比べ大きく変化してしまい、本発明の要点である結晶軸の傾き方向の分布が変わってしまうおそれがあるためである。
【0048】
本発明にかかるIII‐V族窒化物系半導体基板は、六方晶系の結晶であることが望ましい。これは、六方晶系のIII‐V族窒化物系半導体結晶の方が、立方晶系の結晶に比べて安定で、結晶性の高いIII‐V族窒化物系半導体結晶のエピタキシャル層を厚く堆積させることが可能であり、従って、デバイスを作製する際の自由度を高く取れる利点があるためである。もちろん、立方晶系の結晶であっても構わない。
【0049】
本発明にかかるIII‐V族窒化物系半導体基板は、基板表面に最も近い低指数面が六方晶系のC面であることが望ましい。これは、III‐V族窒化物系半導体結晶自体が、元来、C軸配向性の強い結晶であり、基板を製造するための結晶成長及び、本発明にかかる基板上にIII‐V族窒化物系半導体結晶をエピタキシャル成長させる際に、結晶性の高い成長が可能だからである。もちろん、C面以外の面、例えばA面やR面であっても構わない。
【0050】
本発明にかかるIII‐V族窒化物系半導体基板は、基板表面に最も近い低指数面が六方晶系のC面の、特にIII族面であることが望ましい。III‐V族窒化物系半導体結晶のC面は、強い極性を有しており、C面基板は表裏がIII族面とV族面に分かれる。このうち、III族面を表面として用いるのは、III族面がV族面に比べて化学的、機械的、また熱的に安定であり、エピ成長に対しても、その後のデバイス作製プロセスに対しても、歩留まりを高く保つことができるためである。また、表面がIII族面であれば、裏面は自動的にV族面となる。裏面がV族面になっていると、LEDチップやLDチップの作製プロセスのように、最終的に下地基板を薄くしてデバイスを作製するようなプロセスにおいて、裏面の研磨除去が容易になるという利点もある。
【0051】
本発明にかかるIII‐V族窒化物系半導体基板は、鏡面研磨加工が施されていることが望ましい。これは、もともと表面に凹凸のある基板では、例え結晶軸の傾きの無い理想的な結晶基板であっても、その上にエピ成長を行ったとき、その表面は下地表面の凹凸を反映した凹凸のある表面になってしまい、デバイス作製プロセス、特にフォトリソグラフィ工程で素子形成歩留まりを大きく下げる結果につながるからである。
【0052】
本発明にかかるIII‐V族窒化物系半導体基板は、異種基板上にIII‐V族窒化物系半導体結晶がヘテロエピタキシャル成長された後、異種基板を何らかの方法で除去することにより得られた自立基板であることが望ましい。これは、例えば昇華法やフラックス法といった他の基板製造方法で得られた基板に比べ、大口径で厚さも十分な結晶が得られる利点があるためである。
【0053】
本発明にかかるIII‐V族窒化物系半導体基板は、表面側が凹面に反った基板を平坦に研磨して得ることが望ましい。表面側が凹面に反った基板で、必ず結晶軸の傾き方向が基板の内側向きとなるわけではない。例えば、研磨前の基板の肉厚に分布があり周辺に比べて中央部が薄い場合は、結晶軸の傾き方向が基板の外側に向かっていても、基板の外観は表面側が凹面になっている場合がある。しかし、肉厚がほぼ一定になるように成長した結晶においては、反りの向きと結晶軸の傾き方向とは対応がとれ、表面側が凹面に反った基板で、結晶軸の傾き方向が基板の内側向きとなるためである。
【0054】
本発明にかかるIII‐V族窒化物系半導体基板は、その裏面も平坦に研磨加工されていることが望ましい。一般に、GaN系の自立基板は、異種の下地基板にヘテロエピ成長させたものを何らかの手法で剥離させて得られていることが多く、このため、剥離したままの基板の裏面は、梨地状に荒れていたり、下地基板の一部が付着していることが多い。また、基板の反りに起因して、平坦でない場合もある。これらは、基板上にエピタキシャル層を成長させる際に、基板の温度分布の不均一を生じる原因となり、その結果、エピの均一性を悪化させたり、再現性を悪くしてしまうからである。
【0055】
本発明にかかるIII‐V族窒化物系半導体基板は、III‐V族窒化物系半導体基板上に、少なくともAlxGa(1-x)N(1≧x>0)で表される層を含む結晶層をエピタキシャル成長して作成した基板であることが望ましい。これは、本発明の基板が、特にAlxGa(1-x)N(1≧x>0)で表される混晶層をエピタキシャル成長した際に、良質のエピタキシャル層が得られるという特徴を有するためである。III‐V族窒化物系半導体を成長する手段は、異種基板上にIII‐V族窒化物系半導体結晶を成長させるテンプレートであればMOVPE(有機金属気相成長)法かMBE(分子線成長)法、自立基板であればHVPE(ハイドライド気相成長)法であることが望ましい。自立基板にHVPE法を用いるのは、結晶成長速度が速く、基板の作製に適するからである。
【0056】
基板面内の結晶軸の傾きの方向は、X線回折測定により求めることができる。具体的には、結晶を回折面に対して垂直な軸の周りに回転させながら、X線の回折ピークを測定する。すると、結晶軸が傾いている場合、ピーク位置がシフトして観測される。この回折ピークが、結晶のどの方向に対して最も大きくシフトするかを見れば、結晶軸の傾き方向が判別できる。基板面内の複数の点で、結晶軸の傾きを測定すれば、傾きの分布も容易に判別が可能である。
【0057】
結晶表面に垂直に近い結晶軸の傾き方向の面内分布が、基板面内外の特定の点又は領域を向いている基板で良質なAlGaN結晶が成長できるメカニズムははっきりしていないが、結晶表面に垂直に近い結晶軸の傾き方向の面内分布が、基板面内外の特定の点又は領域を向いているということは、基板の格子定数が、基板の表面側ほど狭まっていることが考えられ、これがGaNよりも格子定数の小さなAlGaNのエピタキシャル成長に向いているというモデルが考えられる。また、AlGaN結晶は、GaNよりも線膨張係数が小さいことも関与している可能性が高い。
【実施例】
【0058】
[参考例1]
VAS法を用いて、自立したGaN基板を作製した。基板の作製手順、条件は、以下の通りである。
【0059】
市販の直径2インチの単結晶サファイアC面基板上に、MOVPE法で、TMGとNH3を原料として、アンドープGaN層を300nm成長した。成長圧力は常圧、始めに基板温度は600℃で低温バッファ層を20nm成長し、その後、基板温度を1100℃に昇温して、GaN層を成長した。キャリアガスは、水素と窒素の混合ガスである。結晶の成長速度は4μm/hであった。この方法で、サファイア基板上にGaNエピタキシャル層を付けた、いわゆるGaNテンプレートを20枚用意した。
【0060】
次に、これらGaNテンプレートのGaNエピタキシャル層上に、EB蒸着器を用いて金属Ti膜を20nm蒸着し、これを電気炉に入れて、NH3を20%混合したH2の気流中で、950〜1050℃の範囲で温度を変えて20min間の熱処理を施し、金属Ti膜を網目状のTiN膜に変化させると同時に、GaN層中に多数のボイドを形成した。ここで、金属Tiの熱処理温度を変えて試料を作製したのは、GaN層中に形成されるボイドの密度を故意に変えるためである。一般に、低温で熱処理を施すほど、形成されるボイドの密度は低くなる傾向にある。
【0061】
GaN層にボイドを形成したGaNテンプレートをHVPE炉に入れ、該GaNテンプレートを下地基板として、その上にGaNを550μm堆積した。HVPE成長に用いた原料はNH3とGaClで、キャリアガスとしてN2を用いた。成長条件は、常圧、基板温度1040℃である。GaN層は成長終了後の降温過程においてボイド層を境にサファイア基板から剥離し、表面を(0001)Ga面とする、自立したGaN基板が得られた。
【0062】
ボイド形成密度の低いGaNテンプレート上に成長したGaN層は、全般に剥がれにくい傾向があり、GaN成長後の基板を炉から取り出しても、GaN層はサファイア基板に固着したままであった。サファイア基板が固着した状態で取り出されたものは、400℃に加熱したホットプレート上に載せ、室温から400℃まで急激に昇温しては、冷やすというヒートサイクルを数回繰り返すことにより、GaN層だけをサファイア基板から分離することができた。こうして得られた自立したGaN基板は、表面を上向きに置いたとき、上に凸に反る傾向が見られた。
【0063】
一方、ボイド形成密度の高いGaNテンプレート上に成長したGaN層は、成長中に既に剥離が途中まで進行しており、成長終了後の降温過程においてボイド層を境にサファイア基板から完全に剥離して、GaN層がサファイア基板から完全に分離した形で成長炉から取り出された。こうして得られた自立したGaN基板は、表面を上向きに置いたとき、下に凸に反る傾向が見られた。
【0064】
上記のような方法で、上に凸に反ったGaN基板9枚と、下に凸に反ったGaN基板11枚が得られた。
【0065】
得られたGaN基板は、表面と裏面を鏡面研磨し、厚さ350μmの基板に仕上げた。20枚のGaN基板は、いずれも透明で、平坦な鏡面を持っており、その表面粗さは表面段差計を用いて500μm範囲をスキャンした時のRa値がすべて10nm以下となっていた。
【0066】
こうして作製したGaN基板の、表面に対するC軸の傾き方向を調べるため、すべてのGaN基板でX線回折測定を行った。測定は、基板の中央を基点に基板の<1−101>方向に平行な方向及び垂直な方向で7mm間隔に、井桁状に合計25点を測定し、各点で測定されたC軸の傾きのベクトルを、基板表面に投影したときのベクトルの向き、即ちC軸の傾きの方向が、基板面内でどのように分布しているかを調べた。その結果、表面を上向きに置いたとき、上に凸に反っていたGaN基板9枚は、C軸の傾きの大きさにばらつきはあるものの、いずれも図8のように、傾きの方向が基板の外側に向かって発散するような分布が見られた。一方、下に凸に反っていたGaN基板11枚は、図4のように傾きの方向が基板の内側の特定の領域に向かって収束するような分布が見られた。
【0067】
次に、得られた20枚の自立したGaN基板上に、MOVPE法でSiドープGaN層を2μm成長させ、更に同一炉内で連続してAl組成X=0.1のSiドープAlGaN混晶層を0.2μm成長させ、エピタキシャルウェハを作製した。GaN層の成長圧力は常圧、成長時の基板温度は1100℃とした。原料は、III族原料としてTMGを、V族原料としてNH3を、ドーパントとしてモノシランを用いた。キャリアガスは、水素と窒素の混合ガスである。結晶の成長速度は4μm/h、エピ層のキャリア濃度は、2×1018cm-3とした。また、AlGaN層の成長は、成長圧力、基板温度はGaN層成長と同じ、原料は、III族原料としてTMGとTMAを、V族原料としてNH3を、ドーパントとしてモノシランを用いた。キャリアガスは、水素と窒素の混合ガスである。結晶の成長速度は0.5μm/h、エピ層のキャリア濃度は、2×1018cm-3とした。
【0068】
上記の20枚のエピタキシャルウェハの表面をノマルスキ顕微鏡で観察し、クラックの発生の有無を調べた。また、表面段差計(DEKTAKII)を用いて基板面内5点で、500μm範囲をスキャンした時のRa値を計測した。その結果を表1にまとめて示す。表1中で、(a)は、C軸の傾き方向の分布が基板の外側に向かっていた9枚のGaN基板上のエピタキシャル層を、(b)は、C軸の傾き方向の分布が基板の内側に向かっていた11枚のGaN基板上のエピタキシャル層をそれぞれ示している。クラック発生率は、エピタキシャルウェハ全面を200倍の視野で顕微鏡観察した際に、少しでもクラック発生の見られたウェハ数を(a)、(b)のそれぞれのウェハ全数で除した値、Ra値は、面内5点の平均値を更に(a)、(b)のそれぞれのウェハで平均した値である。尚、クラックの発生している基板でRaを測定する際には、クラック部を外して測定している。
【0069】
【表1】

【0070】
以上の結果から、C軸の傾き方向の分布が基板の内側に向かっている基板を用いることで、AlGaN混晶エピが、クラックを発生することなく、平坦な表面状態でエピタキシャル成長できることを確認した。
【0071】
[参考例2]
市販の直径2インチの単結晶サファイアC面基板上に、MOVPE法で、TMGとNH3を原料として、アンドープGaN層を300nm成長した。サファイア基板は、面方位をm軸方向に0.2°オフさせたものを用いた。MOVPEの成長圧力は常圧とし、始めに基板温度は600℃で低温バッファ層を20nm成長した後、基板温度を1100℃に昇温して、GaN層を300nm成長した。キャリアガスは、水素と窒素の混合ガスを用いた。結晶の成長速度は4μm/hであった。この方法で、サファイア基板上にGaNエピタキシャル層を付けた、いわゆるGaNテンプレートを10枚用意した。
【0072】
次に、これらGaNテンプレートのGaNエピタキシャル層上に、EB蒸着器を用いて金属Ti膜を20nm蒸着し、これを電気炉に入れて、NH3を20%混合したH2の気流中、1050℃で、20min間の熱処理を施し、金属Ti膜を網目状のTiN膜に変化させると同時に、GaN層中に多数のボイドを形成した。
【0073】
GaN層にボイドを形成したGaNテンプレートをHVPE炉に入れ、該GaNテンプレートを下地基板として、その上にGaNを650μm堆積した。HVPE成長に用いた原料はNH3とGaClで、キャリアガスとしてN2を用いた。成長条件は、常圧、基板温度1050℃である。GaN層は成長終了後の降温過程においてボイド層を境にサファイア基板から自然に剥離し、表面を(0001)Ga面とする、自立したGaN基板が得られた。
【0074】
得られたGaN基板は、表面と裏面を鏡面研磨し、厚さ430μmの基板に仕上げた。10枚のGaN基板は、いずれも透明で、平坦な鏡面を持っており、その表面粗さは表面段差計を用いて500μm範囲をスキャンした時のRa値がすべて10nm以下となっていた。
【0075】
こうして作製したGaN基板の、表面に対するC軸の傾き方向を調べるため、すべてのGaN基板でX線回折測定を行った。測定は、基板の中央を基点に基板の<1−101>方向に平行な方向及び垂直な方向で7mm間隔に、井桁状に合計25点を測定し、各点で測定されたC軸の傾きのベクトルを、基板表面に投影したときのベクトルの向き、即ちC軸の傾きの方向が、基板面内でどのように分布しているかを調べた。その結果、すべてのGaN基板で、図4のように傾きの方向が基板の内側の特定の領域に向かって収束するような分布が見られた。
【0076】
因みに、同条件で作製した自立したGaN基板の転位密度を測定したところ、基板面内9点の分布が2±0.6×10cm-2と、基板面内全域にわたって均一に低転位化できていることが確認できた。即ち、本発明にかかる結晶軸の傾きの分布規定が、GaN基板の欠陥密度を悪くする要因にはなっていないことを確認した。
【0077】
この基板上に、減圧MOVPE法を用いて、図5に示す構造のLED用エピタキシャル層を成長した。成長した層は、基板7側から順に、Siドープn型GaNバッファ層8、Siドープn型Al0.15Ga0.85Nクラッド層9、3周期のInGaN−MQW層10、Mgドープp型Al0.15Ga0.85Nクラッド層11、Mgドープp型Al0.10Ga0.90Nクラッド層12及びMgドープp型GaNコンタクト層13である。
【0078】
10枚のGaN基板すべてに同一のLED構造のエピタキシャル層を成長し、LED用エピタキシャルウェハを作製し、その表面をノマルスキ顕微鏡で観察して、クラックの発生の有無を調べた。また、表面段差計(DEKTAKII)を用いて基板面内5点で、500μm範囲をスキャンした時のRa値を計測した。その結果、いずれのLED用エピタキシャルウェハにおいても、エピタキシャル層にクラックの発生は見られなかった。また、10枚のLED用エピタキシャルウェハのエピタキシャル層表面の粗さは、最も悪いものでも200Å以下であり、デバイス作製プロセスを流すのに十分な平坦性を備えていることを確認した。
【0079】
次に、これらのLED用エピタキシャルウェハに電極を付け、ダイサーで300μm角の大きさに切り出して、LEDチップを作製した。n電極は、GaN基板7の裏面にTi/Auを付けた。p電極は、LED用エピタキシャル層表面にNi/Au透明電極を付けた。
【0080】
作製したLEDチップは、発光波長380nmで、室温で連続電流注入を行った結果、電流50mAにおいて、平均発光出力0.9mWが得られた。各LED用エピタキシャルウェハにおける良品チップの取得歩留まりは、いずれも85%を超え、非常に高歩留まりでLEDチップが取得できることを確認した。
【0081】
[実施例]
参考例2と同様の方法で、GaNの自立基板を作成した。参考例2との違いは、下地に用いるサファイア基板に、面方位をm軸方向に0.5°オフさせたものを用いた点である。
【0082】
得られたGaN基板は、参考例2と同様に、表面と裏面を鏡面研磨し、厚さ430μmの基板に仕上げた。研磨後の基板は透明で、平坦な鏡面を持っており、その表面粗さは表面段差計を用いて500μm範囲をスキャンした時のRa値がすべて10nm以下となっていた。
【0083】
こうして作製したGaN基板の、表面に対するC軸の傾き方向を前記と同様の方法で調べた。その結果、図9及び図10に示したように傾きの方向が基板の外側の特定の点又は特定の領域に向かって収束するような分布が見られた。
【0084】
本方法で得られたGaN自立基板上に、参考例2と同様の構造のLEDを作成し、その特性及び良品歩留りを調査したところ、GaN基板の、表面に対するC軸の傾きの方向が基板の内側の特定の点又は特定の領域に向かって収束している基板を使って作成した場合と、なんら遜色ないか、更に若干歩留りが向上することが確認できた。
【0085】
以上、実施例に基づいて本発明を説明したが、これらは例示であり、それらの各プロセスの組合せ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。たとえば、実施例において、GaN結晶成長にMBE法やLPE(液相成長)法、昇華法などを用いる変形例が容易に考えられる。本実施例では、本発明のIII‐V族窒化物系半導体基板を作製する際の下地基板にサファイア基板を用いた例を挙げたが、GaAsやSi、ZrB2、ZnOなどの従来GaN系エピタキシャル層形成用基板として報告例のある基板は、すべて適用が可能である。
【0086】
また、本実施例では自立したGaN基板の製造方法を例に挙げたが、自立したAlGaN基板に適用することもできる。
【符号の説明】
【0087】
1、4、7、21 GaN基板
2、5、22 線
3、6、23 矢印
8 Siドープn型GaNバッファ層
9 Siドープn型Al0.15Ga0.85Nクラッド層
10 InGaN−MQW層
11 Mgドープp型Al0.15Ga0.85Nクラッド層
12 Mgドープp型Al0.10Ga0.90Nクラッド層
13Mgドープp型GaNコンタクト層
24 収束中心領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な表面を有するIII‐V族窒化物系単結晶の半導体基板であって、基板面内の任意の点における基板表面に最も近い低指数面の法線ベクトルを、基板表面に投影したベクトルが、基板面外の特定の点又は領域を向いていることを特徴とするIII‐V族窒化物系半導体基板。
【請求項2】
III‐V族窒化物系単結晶だけからなる自立した基板であることを特徴とする請求項1に記載のIII‐V族窒化物系半導体基板。
【請求項3】
前記III‐V族窒化物系単結晶は、六方晶系であることを特徴とする請求項2に記載のIII‐V族窒化物系半導体基板。
【請求項4】
前記基板表面に最も近い低指数面がC面、A面、M面又はR面のいずれかであることを特徴とする請求項3に記載のIII‐V族窒化物系半導体基板。
【請求項5】
前記基板表面は、鏡面研磨加工が施されていることを特徴とする請求項4に記載のIII‐V族窒化物系半導体基板。
【請求項6】
請求項5に記載のIII‐V族窒化物系半導体基板を製造する方法であって、基板の反りに起因して発生する結晶方位の傾きよりも大きいオフ角を基板に持たせ、表面側が凹面に反ったIII‐V族窒化物系単結晶の表面を有する基板の当該表面側を平坦に研磨して前記III‐V族窒化物系半導体基板を得ることを特徴とするIII‐V族窒化物系半導体基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5いずれかに記載のIII‐V族窒化物系半導体基板上に、少なくともAlxGa(1-x)N(1≧x>0)で表される層を含む結晶層が形成されていることを特徴とするIII‐V族窒化物系半導体基板。
【請求項8】
請求項1〜5いずれかに記載のIII‐V族窒化物系半導体基板上に、少なくともAlxGa(1-x)N(1≧x>0)で表される層を含む複数の結晶層が形成されていることを特徴とするIII‐V族窒化物系半導体デバイス。
【請求項9】
複数のIII‐V族窒化物系半導体基板から構成されるIII‐V族窒化物系半導体基板のロットであって、前記ロットを構成する個々の基板が、請求項1〜5のいずれかに記載のIII‐V族窒化物系半導体基板であることを特徴とするIII‐V族窒化物系半導体基板のロット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−132613(P2009−132613A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60696(P2009−60696)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【分割の表示】特願2004−244932(P2004−244932)の分割
【原出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】