説明

アイソレーション構造の形成方法

【課題】収縮率および引っ張り応力の低いアイソレーション構造の形成方法の提供。
【解決手段】基板表面に多孔質化剤を含む第1のポリシラザン組成物を塗布および焼成して、屈折率が1.3以下の多孔質シリカ質膜を形成させ、次いでその膜の表面に第2のポリシラザン組成物を含浸させ、焼成することにより、屈折率1.4以上のシリカ質膜からなるアイソレーション構造を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスにおける絶縁膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の様な電子デバイスにおいては、半導体素子、例えばトランジスタ、抵抗、およびその他、が基板上に配置されているが、これらは電気的に絶縁されている必要がある。したがって、これら素子の間には、素子を分離するためのアイソレーション構造が必要である。
【0003】
一方、電子デバイスの分野においては、近年、高密度化、および高集積化が進んでいる。このような高密度および高集積度化が進むと、必要な集積度に見合った、微細なアイソレーション構造を形成させることが要求される。そのようなニーズに合致した新たなアイソレーション構造のひとつとして、トレンチ・アイソレーション構造が挙げられる。この構造は、半導体基板の表面に微細な溝を形成させ、その溝の内部に絶縁物を充填して、溝の両側に形成される素子の間を電気的に分離する構造である。このような素子分離のための構造は、従来の方法に比べてアイソレーション領域を狭くできるため、昨今要求される高集積度を達成するために有効な素子分離構造である。また、素子を三次元に積層して高密度化を図る場合には、導電性材料の層の間に絶縁層を設けることも必要である。このような絶縁膜としては金属膜下絶縁膜や金属配線層間絶縁膜などがある。
【0004】
このようなアイソレーション構造を形成させるための方法として、溝構造を有する基板の表面に、酸化物の前駆体を含む組成物を塗布し、溝を埋設した後に焼成して酸化膜を形成させる方法(特許文献1)、基板表面の溝を酸化物の前駆体を含む組成物により埋設した後に、さらに高密度プラズマCVDによって絶縁膜を埋め込む方法(特許文献2)が検討されている。また、基板表面に多孔質シリカ前駆体を塗布して多孔質シリカ膜を形成し、その上にCVDにより酸化膜をさらに形成して、層間絶縁膜を形成する方法(特許文献3)も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−150702号公報
【特許文献2】特開2008−103645号公報
【特許文献3】特開2008−235479号公報
【特許文献4】特許第4408994号公報
【特許文献5】特開2002−075982号公報
【特許文献6】特開2004−331733号公報
【特許文献7】特開2006−188547号公報
【特許文献8】特開2006−316077号公報
【特許文献9】特開平11−116815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、昨今の非常に微細な構造を有するデバイスに対して、従来のアイソレーション構造の形成方法により絶縁膜を形成した場合には、微細なトレンチ壁が酸化膜の応力に十分耐えることができずにクラックの発生や基板の変形が起きやすいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるアイソレーション構造の形成方法は、
基板表面に多孔質化剤を含む第1のポリシラザン組成物を塗布して塗膜を形成させる塗布工程、
前記塗膜を焼成して、屈折率が1.3以下の多孔質シリカ質膜を形成させる第1焼成工程、
前記多孔質シリカ質膜に第2のポリシラザン組成物を含浸させる含浸工程、および
前記多孔質シリカ質膜を焼成することにより、屈折率1.4以上のシリカ質膜からなるアイソレーション構造を形成させる第2焼成工程、
を含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、収縮率および応力の低いアイソレーション構造を形成することができる。このようなアイソレーション構造によれば、トレンチ・アイソレーション構造におけるクラックやパターン倒れ、あるいは絶縁膜における膜剥がれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明によるアイソレーション構造の形成方法を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明によるアイソレーション構造の形成方法は、各種のアイソレーション構造の形成に用いることができる。すなわち、基板表面に掲載されたトレンチ等をシリカ質膜で埋設することも、平坦な基板表面、あるいは素子が配置された基板表面をシリカ質膜で被覆することもできる。
【0011】
まず、シャロー・トレンチ・アイソレーションにおけるトレンチをシリカ質膜で埋設する場合を例にアイソレーション構造を形成する方法を図を参照しながら説明すると以下の通りである。
【0012】
(A)塗布工程
まず、シャロー・トレンチ・アイソレーション構造を形成させるための溝構造、すなわち凹凸を有する基板1を用意する(図1(A))。基板の材質は特に限定されず、従来知られている任意の基板、たとえばシリコン基板を用いることができる。また基板表面に溝を形成するには、任意の方法を用いることができる。具体的な例は、以下に示すような方法である。
【0013】
まず、シリコン基板表面に、例えば熱酸化法により、シリカ質膜を形成させる。ここで形成させるシリカ質膜の厚さは一般に5〜30nmである。
【0014】
必要に応じて、形成されたシリカ質膜上に、例えば減圧CVD法により、窒化シリコン膜を形成させる。この窒化シリコン膜は、後のエッチング工程におけるマスク、あるいは後述する研磨工程におけるストップ層として機能させることのできるものである。窒化シリコン膜は、形成させる場合には、一般に100〜400nmの厚さで形成させる。
【0015】
このように形成させたシリカ質膜または窒化シリコン膜の上に、フォトレジストを塗布する。必要に応じてフォトレジスト膜を乾燥または硬化させた後、所望のパターンで露光および現像してパターンを形成させる。露光の方法はマスク露光、走査露光など、任意の方法で行うことができる。また、フォトレジストも解像度などの観点から任意のものを選択して用いることができる。
【0016】
形成されたフォトレジスト膜をマスクとして、窒化シリコン膜およびその下にあるシリカ質膜を順次エッチングする。この操作によって、窒化シリコン膜およびシリカ質膜に所望のパターンが形成される。
【0017】
パターンが形成された窒化シリコン膜およびシリカ質膜をマスクとして、シリコン基板をドライエッチングして、トレンチ・アイソレーション溝を有する基板1を形成させる(図1(A))。
【0018】
形成されるトレンチ・アイソレーション溝の幅は、フォトレジスト膜を露光するパターンにより決定される。半導体素子におけるトレンチ・アイソレーション溝の幅は、目的とする半導体素子により適切に設定される。本発明においてはトレンチ・アイソレーション溝の溝幅がより狭く、またアスペクト比がより高い場合に優れた特性を示す。すなわち、溝の幅aが5〜50nmであることが好ましく、5〜40nmであることがより好ましい。また、溝の幅aに対する溝の深さbの比、すなわちアスペクト比b/aが10〜100であることが好ましく、10〜50であることがより好ましい。
【0019】
次いで、このように準備されたシリコン基板1上に、シリカ質膜の基本的な構造を構成する材料、つまり前駆体となる第1のポリシラザン組成物を塗布して、塗膜を形成させる。この組成物は、従来知られている任意のポリシラザン化合物と、多孔質化剤とを溶媒に溶解させたものを用いることができる。
【0020】
本発明に用いられるポリシラザン化合物は特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り任意に選択することができる。これらは、無機化合物あるいは有機化合物のいずれのものであってもよい。これらポリシラザンのうち、好ましいものとして下記一般式(Ia)〜(Ic)で表される単位の組み合わせからなるものが挙げられる。
【化1】

(式中、m1〜m3は重合度を表す数である)
このようなポリシラザンはペルヒドロポリシラザンと呼ばれる無機ポリシラザン化合物である。このうち、特に好ましいものとしてスチレン換算重量平均分子量が700〜30,000であるものが好ましい。
【0021】
また、他のポリシラザンの例として、例えば、主として一般式:
【化2】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、もしくはこれらの基以外でフルオロアルキル基等のケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。但し、R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子であり、nは重合度を表す数である)で表される骨格を有する数平均分子量が約100〜50,000のポリシラザンまたはその変性物が挙げられる。このような有機ポリシラザンは、シリカ質膜の前駆体として機能するほか、後述の多孔質化剤として機能することもある。これらのポリシラザン化合物は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0022】
また、本発明に用いられる第1のポリシラザン組成物は、多孔質化剤を含んでなる。この多孔質化剤は、塗膜が乾燥され、焼成されたときに、成分の一部が分解して揮散するなどして、シリカ質膜の内部に空孔を形成させるものである。このような多孔質化剤は特に限定されないが、例えば、下記のようなものを挙げることができる。
(a)前記一般式(II)で示される、有機基置換されたポリシラザン。焼成条件により、置換された有機基が焼成時に揮発して膜内に空孔を形成するのでシリカ質膜の原料として作用するとともに、多孔質化剤としても機能する。特に好ましくは、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を有するポリシラザンが挙げられる。
(b)ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸(特許文献4および5)
(c)アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの単独重合体および共重合体からなる群から選択され、かつ側基の少なくとも一部にカルボキシル基または水酸基を含む有機樹脂(特許文献6)
(d)シロキシ基含有重合体。例えばシロキシ基含有ポリエチレンオキサイド化合物、またはそれをモノマー単位として含む共重合体(特許文献7および8)。
【0023】
これらのうち、ペルヒドロポリシラザンの水素の一部がアミノ基に置換された、ポリアミノシラザンが特に好ましい多孔質化剤である。この中で特に好ましいものは、以下の式(III)の構造を有する、数平均分子量が約800以下のポリアミノシラザンである。
【化3】

(式中、R、およびRは、水素原子または炭化水素基置換されたアミノ基であり、RaおよびRbは同時に水素ではなく、
は水素原子または炭化水素基であり、
前記R、R、またはRが炭化水素基を含む場合には、その炭化水素基はそれぞれ独立に脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基であり、好ましくはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、およびアリールアルキル基からなる群から選択されるものであり、炭化水素基に含まれる炭素数は一般に20以下、好ましくは10以下であり、
これらのうち、特に好ましい炭化水素基は、炭素数1〜8、特に炭素数1〜4のアルキル基であり、
pは繰り返し単位数である)
【0024】
本発明に用いられる第1のポリシラザン組成物は、前記のポリシラザン化合物および多孔質化剤を溶解し得る溶媒を含んでなる。ここで用いられる溶媒は、前記の浸漬用溶液に用いられる溶媒とは別のものである。このような溶媒としては、前記の各成分を溶解し得るものであれば特に限定されるものではないが、好ましい溶媒の具体例としては、次のものが挙げられる:
(a)芳香族化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等、(b)飽和炭化水素化合物、例えばn−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン、i−デカン等、(c)脂環式炭化水素化合物、例えばエチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、p−メンタン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、リモネン等、(d)エーテル類、例えばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル(以下、MTBEという)、アニソール等、および(e)ケトン類、例えばメチルイソブチルケトン(以下、MIBKという)等。これらのうち、(b)飽和炭化水素化合物、(c)脂環式炭化水素化合物(d)エーテル類、および(e)ケトン類がより好ましい。
【0025】
これらの溶媒は、溶剤の蒸発速度の調整のため、人体への有害性を低くするため、または各成分の溶解性の調製のために、適宜2種以上混合したものも使用できる。
【0026】
本発明に用いられる第1のポリシラザン組成物は、必要に応じてその他の添加剤成分を含有することもできる。そのような成分として、例えばポリシラザンの架橋反応を促進する架橋促進剤等、二酸化ケイ素に転化させる反応の触媒、組成物の粘度を調製するための粘度調整剤などが挙げられる。また、半導体装置に用いられたときにナトリウムのゲッタリング効果などを目的に、リン化合物、例えばトリス(トリメチルシリル)フォスフェート等、を含有することもできる。
【0027】
また、前記の各成分の含有量は、塗布条件や焼成条件などによって変化する。ただし、ポリシラザン化合物の含有率がポリシラザン組成物の総重量を基準として1〜30%であることが好ましく、2〜20%とすることがより好ましい。ただし、ポリシラザン組成物に含まれるポリシラザンの濃度はこれに限定されるものではなく、本発明において特定されたアイソレーション構造を形成できるのであれば、任意濃度のポリシラザン組成物を用いることができる。また、多孔質化剤の含有量は、その種類などによって変化するが、ポリシラザン組成物の総重量を基準として40〜90重量%であることが好ましく、50〜90重量%であることがより好ましい。なお、この多孔質化剤とポリシラザン化合物との配合比を調整することで、後述するシリカ質膜の屈折率を調整することもできる。
【0028】
第1のポリシラザン組成物は、任意の方法で基板上に塗布することができる。具体的には、スピンコート、カーテンコート、ディップコート、およびその他が挙げられる。これらのうち、塗膜面の均一性などの観点からスピンコートが特に好ましい。塗布される塗膜の厚さ、すなわち基板表面の溝のない部分における塗膜の厚さは、20〜150nmであることが好ましく、30〜100nmであることがより好ましい。この塗膜の厚さが過度に高いと、膜厚の均一性が損なわれることがあり、一方で膜厚が薄すぎると、溝内に充填されるポリシラザン組成物が不足し、トレンチの側壁が倒れたり、十分な膜厚のシリカ質膜が形成できないことがあるので注意が必要である。この塗布工程により、トレンチ内に第1のポリシラザン組成物2が充填される(図1(B))。
【0029】
(B)第1焼成工程
塗布工程に引き続き、塗膜を焼成して、塗膜全体をシリカ質膜に転化させる。この焼成によって、塗膜が多孔質シリカ質膜に転化される、焼成は、硬化炉やホットプレートを用いて、水蒸気を含んだ、不活性ガスまたは酸素雰囲気下で行うことが好ましい。水蒸気は、ケイ素含有化合物またはケイ素含有重合体、ならびに存在する場合にはポリシラザン化合物を二酸化ケイ素に十分に転化させるのに重要であり、好ましくは1%以上、より好ましくは10%以上、最も好ましくは20%以上とする。特に水蒸気濃度が20%以上であると、シラザン化合物のシリカ質膜への転化が進行しやすくなり、ボイドなどの欠陥の発生が少なくなり、シリカ質膜の特性が改良されるので好ましい。雰囲気ガスとして不活性ガスを用いる場合には、窒素、アルゴン、またはヘリウムなどを用いる。
【0030】
硬化させるための温度条件は、用いるポリシラザン組成物の種類や、工程の組み合わせ方によって変化する。しかしながら、温度が高いほうがケイ素含有化合物、ケイ素含有重合体、およびポリシラザン化合物がシリカ質膜に転化される速度が速くなる傾向にあり、また、温度が低いほうがシリコン基板の酸化または結晶構造の変化によるデバイス特性への悪影響が小さくなる傾向がある。このような観点から、本発明による方法では、一般に200〜1000℃、好ましくは400〜900℃で焼成を行う。ここで、目標温度までの昇温時間は一般に1〜100℃/分であり、目標温度に到達してからの硬化時間は一般に1分〜10時間、好ましくは15分〜3時間、である。必要に応じて焼成温度または焼成雰囲気の組成を段階的に変化させることもできる。
【0031】
また、必要に応じて、さらに追加加熱をすることもできる。この追加加熱は、焼成をさらに進行させるために行うものである。第1焼成により反応が進んでいるため、追加加熱は水蒸気を含まない雰囲気、たとえば窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で行うこともできる。また一般的に第1焼成よりも高い温度で行うことができるが、通常は1000℃以下で行われる。
【0032】
この焼成工程において、多孔質化剤に含まれる揮発成分が塗膜内から揮発または昇華する。この結果、シリカ質膜の内部に空孔3が形成されて、多孔質のシリカ質膜4が形成される(図1(C))。このようなシリカ質膜は、屈折率が比較的低い特徴と有しており、本発明においては第1焼成工程後のシリカ質膜の屈折率は1.35以下であり、好ましくは
1.3以下である。ここで、屈折率は、M−44型分光エリプソメーター(商品名、J.A.ウーラム社製)によって測定することができる。
【0033】
(C)含浸工程
次に、得られた多孔質膜に第2のポリシラザン組成物を含浸させる。ここで、用いられる第2のポリシラザン組成物は、ポリシラザン化合物を含み、多孔質化剤を含まない組成物である。この組成物に用いられるポリシラザン化合物、溶媒、およびその他の添加剤などは、多孔質化剤を含まない点を除いて、第1のポリシラザンと同じ成分を用いることが好ましい。そのような材料を用いることで第2のポリシラザン組成物に由来するシリカ質材料と、多孔質シリカ質膜との親和性が高くなり、クラックまたは基板の変形が改良される傾向にある。
【0034】
また、第2のポリシラザン組成物に含まれる各成分の含有量は、第1のポリシラザン組成物において記載した範囲から選択されることが好ましい。ただし、微細な空孔に組成物を含浸させる必要があるので、一般的に粘度は低いことが好ましい。
【0035】
第2のポリシラザン組成物を多孔質シリカ質膜に含浸させる方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができる。例えば、多孔質シリカ質膜を第2のポリシラザン組成物中に浸漬したり、多孔質シリカ質膜の表面に、スピン塗布、ブラシ塗布などの方法で第2のポリシラザン組成物を塗布することもできる。なお、第2のポリシラザン組成物のポリシラザン化合物の含有量は、塗布方法などに応じて適当に調整される。例えば、含浸を浸漬によって行う場合、あるいは含浸をスピン塗布により行う場合には、ポリシラザン化合物の含有率がポリシラザン組成物の総重量を基準として3〜18%であることが好ましく、5〜16%とすることがより好ましい。また、スピン塗布を採用する場合には、塗布条件は500〜3,000rpmであることが好ましく、700〜2,000rpmとすることがより好ましい。なお、第2のポリシラザン組成物の濃度は、形成されている多孔質シリカ質膜に含浸させる必要があるためには低粘度であることが好ましい一方で、含浸後にはシリカ質膜中に存在する空孔または空隙等に保持されるために高粘度であることが好ましい。このため、第1のポリシラザン組成物に比較して適当な濃度範囲が狭くなっている。
【0036】
このような方法により、第2のポリシラザン組成物を基板表面に接触させることにより、多孔質シリカ質膜に含浸させることができる。すなわち、シリカ質膜内から特定の成分が揮発することにより空孔ができるため、ほとんどの空孔と基板表面の間には連続した経路がある。このため、基板表面に塗布された組成物は、その経路を通じて空孔内に流入する(図1(D))。このとき、必要に応じて含浸が完了するまで放置することもできるが、通常、直ちに含浸が完了するため、特別に放置する必要はない。
【0037】
(D)第2焼成工程
第2のポリシラザン組成物を空孔内に流入させた後、さらに焼成を行うことにより、空孔内にシリカ質材料5を形成させる。この焼成によって、多孔質シリカ質膜の空孔をシリカ質材料で充填して、最終的なシリカ質膜(絶縁膜)6を形成させる。焼成は、基本的に第1焼成工程と同様の条件で行うことができる。
【0038】
なお、第1焼成工程および第2焼成工程のうち、少なくとも一方が水蒸気を含んだ、不活性ガスまたは酸素雰囲気下で行われることが必要であるが、第1焼成工程および第2焼成工程の両方が、水蒸気を含んだ、不活性ガスまたは酸素雰囲気下で行われることが好ましい。
【0039】
第2焼成後のシリカ質膜6は、空孔内がシリカ質材料5で充填されているため、第1焼成工程後の多孔質シリカ質膜よりも屈折率が高くなる。具体的には、最終的なシリカ質膜の屈折率は1.4以上であり、好ましくは1.42以上である。
【0040】
また、第1焼成後の多孔質シリカ質膜と、第2焼成後のシリカ質膜との屈折率の差は0.05以上であることが好ましく、0.12以上であることが好ましい。
【0041】
このようにして得られた、本発明によるシャロー・トレンチ・アイソレーション構造は、収縮率が低く、溝部近傍の引張り応力が低減されており、物理的強度が高いという特徴を有するものである。このような特徴は、トレンチなどをまず相対的に収縮率の低いシリカ質膜である割合まで埋設し、その後、収縮率が相対的に高いシリカ質膜で完全に埋設をするため、トレンチ等に充填される収縮率が高いシリカ質膜の割合を低減することにより達成されていると考えられる。
【0042】
本発明によるアイソレーション構造の形成方法は、前記した(A)〜(D)の工程を必須とするが、必要に応じて、下記の補助工程を組み合わせることもできる。
【0043】
(a)溶媒除去工程
塗布工程後、または含浸工程後、焼成に先立って、ポリシラザン組成物が塗布された基板をプリベーク処理をすることができる。この工程では、塗膜中に含まれる溶媒の少なくとも一部を除去することを目的とする。
【0044】
通常、溶媒除去工程では、実質的に一定温度で加熱する方法がとられる。このとき、実質的にポリシラザンの酸化または重合反応が起こらない条件で溶媒除去を行うべきである。したがって、溶媒除去工程における温度は通常50〜250℃、好ましくは80〜200℃、の範囲内である。溶媒除去工程の所要時間は一般に0.5〜10分、好ましくは1〜5分、である。
【0045】
(b)研磨工程
焼成後、形成されたシリカ質膜の不要な部分は除去することが好ましい。そのために、まず研磨工程により、基板上の溝部内側に形成されたシリカ質膜を残し、基板表面の平坦部上に形成されたシリカ質膜を研磨により除去する。この工程が研磨工程である。この研磨工程は、硬化処理の後に行うほか、プリベーク工程を組み合わせる場合には、プリベーク直後に行うこともできる。
【0046】
研磨は、一般的にCMPにより行う。このCMPによる研磨は、一般的な研磨剤および研磨装置により行うことができる。具体的には、研磨剤としてはシリカ、アルミナ、またはセリアなどの研磨材と、必要に応じてその他の添加剤とを分散させた水溶液などを用いることができる、研磨装置としては、市販の一般的なCMP装置を用いることができる。
【0047】
(c)エッチング工程
前記の研磨工程において、基板表面の平坦部上に形成されたポリシラザン組成物に由来するシリカ質膜はほとんど除去されるが、基板表面の平坦部に残存しているシリカ質膜を除去するために、さらにエッチング処理を行うことが好ましい。エッチング処理はエッチング液を用いるのが一般的であり、エッチング液としては、シリカ質膜を除去できるものであれば特に限定されないが、通常はフッ化アンモニウムを含有するフッ酸水溶液を用いる。この水溶液のフッ化アンモニウム濃度は5%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
【0048】
以上、本発明によるアイソレーション構造の形成方法を、シャロー・トレンチ・アイソレーションを形成させる場合について説明した。しかし、この方法は、金属膜下絶縁膜や金属配線層間絶縁膜についても同様に適用できる。その場合には、基板として、平坦な半導体基板や、表面に素子が形成された基板を用いる。なお、素子の耐熱性などの観点から、温度条件などを調整することが必要な場合もある。
【0049】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0050】
調製例1 多孔質化剤の調製
小型圧力容器に反応溶媒であるキシレンをとり密閉した。その反応溶媒中にテトラクロロシランを200.0g(1.18mol)添加した後、メチルアミンを291.6g(9.38mol)100分間かけて撹拌しながら注入し、多孔質化剤であるポリアミノシラザンを得た。得られた重合体の重量平均分子量は555であった。
【0051】
調製例2 ペルヒドロポリシラザンの調製
まず、特許文献9に記載された方法に準じて、以下の通りペルヒドロポリシラザンを合成した。
【0052】
内容積2リットルの四つ口フラスコにガス吹き込み管、メカニカルスターラー、ジュワーコンデンサーを装着した。反応器内部を乾燥窒素で置換した後、四つ口フラスコに乾燥ピリジン1500mLを入れ、これを氷冷した。次にジクロロシラン100gを加えると白色固体状のアダクト(SiHCl・2CN)が生成した。反応混合物を氷冷し、攪拌しながらアンモニア70gを吹き込んだ。引き続き乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、余剰のアンモニアを除去した。
【0053】
得られた生成物をブッフナーロートを用いて乾燥窒素雰囲気下で減圧濾過し、濾液1200mLを得た。エバポレーターを用いてピリジンを留去したところ、40gのペルヒドロポリシラザンを得た。得られたペルヒドロポリシラザンの数平均分子量をGPC(展開液:CDCl)により測定したところ、ポリスチレン換算で800であった。そのIRスペクトルを測定したところ、波数()3350cm−1及び1200cm−1付近のN−Hに基づく吸収、2170cm−1のSi−Hに基づく吸収、および1020〜820cm−1のSi−N−Siに基づく吸収を示すことが確認された。
【0054】
実施例1
調製例1で得られた多孔質化剤と、20重量%のペルヒドロポリシラザンを含むジブチルエーテル溶液とを、固形分の重量比が85:15となるように混合して、第1のポリシラザン組成物を調製した。この組成物を基板上にスピン塗布し、150℃で3分間乾燥させた。さらに酸素と水蒸気との混合ガス(HO/(O+HO)=80モル%)を8L/分の流速で流す雰囲気下、400℃で30分間第1焼成に付した。さらに窒素雰囲気下、850℃で30分間追加加熱を行い、多孔質シリカ質膜を得た。この多孔質シリカ質膜の屈折率は1.27であった。
【0055】
次に、この多孔質シリカ質膜の表面に、調製例2で調製されたペルヒドロポリシラザンを10重量%の濃度でジブチルエーテル溶液に溶解させた第2のポリシラザン組成物をスピン塗布し、さらに第1焼成工程と同じ加熱条件で第2焼成に付し、シリカ質膜(絶縁膜)を得た。このシリカ質膜の屈折率は1.43であった。
【0056】
比較例1
基板表面に10重量%のペルヒドロポリシラザンを含むジブチルエーテル溶液(Spinfil450(商品名)、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)をスピン塗布し、乾燥させた後、実施例1の第1焼成と同じ条件で焼成を行い、比較のシリカ質膜を得た。
【0057】
断面観察
実施例1および実施例1の含浸工程前における多孔質シリカ質膜の断面を電子走査顕微鏡で観察した。含浸工程前の膜の断面には多数の空孔が確認され、多孔質であることが確認された。一方、実施例1のシリカ質膜の断面には空孔がほとんど認められず、空孔がシリカ質材料で充填された緻密な膜であることが確認された。
【0058】
物性および電気特性の評価
実施例1および比較例1、ならびに実施例1の含浸工程前における多孔質シリカ質膜の引っ張り応力および収縮率を測定した。それぞれの評価は、以下のように行った。
(a)収縮率
焼成の前後の膜厚をM−44型分光エリプソメーター(商品名、J.A.ウーラム社製)によって測定し、収縮率を求めた。
(b)引っ張り応力
直径10.16cm、厚さ0.5mmのシリコンウェハーのそりをFLX−2320型レーザー内部応力測定装置(商品名、KLA−Tencor社製)に入力した。さらに、このシリコンウェハーに各例と同様の方法でシリカ質膜を形成させ、前記レーザー内部応力装置を用いて23℃において引っ張り応力を測定した。なお、引っ張り応力の測定に必要な膜厚はM−44型分光エリプソメーター(商品名、J.A.ウーラム社製)を用いて測定した。
【0059】
得られた結果は表1に示すとおりであった。
【0060】
【表1】

【0061】
本発明の方法により製造された実施例1のシリカ質膜は、比較例1のシリカ質膜に比べて、収縮率が低く、引っ張り応力が小さかった。シリカ質膜中のクラックや基板の変形は、製造時、特に焼成過程に起こる膜の収縮や膜中に発生する引っ張り応力が主な原因と考えられており、シリカ質膜の収縮率および応力の低減効果によって、クラックや基板の変形の改良が可能となる。また、幅の狭いトレンチが形成された基板に対して、実施例1および比較例1と同様の方法でシリカ質膜を形成させた場合、比較例1によるシリカ質膜ではクラックが発生したのに対して、実施例1によるシリカ質膜ではクラックの発生を回避することができた。
【0062】
比較例2
調製例1で得られた多孔質化剤と、20重量%のペルヒドロポリシラザンを含むジブチルエーテル溶液とを、固形分の重量比が30:70となるように混合して、第1のポリシラザン組成物を調製した。この組成物を用いて、実施例1と同様の条件により、多孔質シリカ質膜を得た。このシリカ質膜の屈折率は1.42であり、また収縮率は22%であり、比較例1よりも高い値となった。また、このシリカ質膜にはクラックの発生が確認された。これは、多孔質化剤の配合量が少ないことに起因するものと考えられる。
【0063】
比較例3
第1焼成の雰囲気を乾燥酸素雰囲気に変更したほかは実施例1と同様にして、シリカ質膜を形成させた。得られたシリカ質膜には、クラックが観察された。これは、第1焼成および第2焼成のいずれも水蒸気雰囲気以下で行わなかったためと考えられる。
【0064】
実施例2
調製例1で得られた多孔質化剤と、20重量%のペルヒドロポリシラザンを含むジブチルエーテル溶液とを、固形分の重量比が50:50となるように混合して、第1のポリシラザン組成物を調製した。この組成物を用いて、実施例1と同様の条件により焼成したとこと、屈折率1.30の多孔質シリカ質膜が得られた。さらに実施例1と同様に第2のポリシラザン組成物を塗布し、焼成することによりシリカ質膜(絶縁膜)を得た。得られたシリカ質膜の屈折率は1.44であり、引張応力は7.3MPa、収縮率は22%であった。このシリカ質膜にはクラックが発生していないことが確認された。
【0065】
実施例3
調製例1で得られた多孔質化剤と、20重量%のペルヒドロポリシラザンを含むジブチルエーテル溶液とを、固形分の重量比が90:10となるように混合して、第1のポリシラザン組成物を調製した。この組成物を用いて、実施例1と同様の条件により焼成したとこと、屈折率1.22の多孔質シリカ質膜が得られた。さらに実施例1と同様に第2のポリシラザン組成物を塗布し、焼成することによりシリカ質膜(絶縁膜)を得た。得られたシリカ質膜の屈折率は1.44であり、引張応力は−15.1MPa、収縮率は14.1%であった。このシリカ質膜にはクラックが発生していないことが確認された。
【0066】
第2のポリシラザン組成物のペルヒドロポリシラザン濃度を15重量%に変更したほかは実施例1と同様にして、シリカ質膜(絶縁膜)を得た。得られたシリカ質膜の屈折率は1.43であり、引張応力は−12.9MPa、収縮率は15.6%であった。このシリカ質膜にはクラックが発生していないことが確認された。
【符号の説明】
【0067】
1 基板
2 第1のポリシラザン組成物
3 空孔
4 多孔質シリカ質膜
5 シリカ質材料
6 シリカ質膜(絶縁膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に多孔質化剤を含む第1のポリシラザン組成物を塗布して塗膜を形成させる塗布工程、
前記塗膜を焼成して、屈折率が1.35以下の多孔質シリカ質膜を形成させる第1焼成工程、
前記多孔質シリカ質膜に第2のポリシラザン組成物を含浸させる含浸工程、および
前記多孔質シリカ質膜を焼成することにより、屈折率1.4以上のシリカ質膜からなるアイソレーション構造を形成させる第2焼成工程、
を含んでなり、
前記第1焼成工程または第2焼成工程のすくなくとも一方が、水蒸気を含んだ、不活性ガスまたは酸素雰囲気下で行われることを特徴とするアイソレーション構造の形成方法。
【請求項2】
前記第1のポリシラザン組成物および前記第2のポリシラザン組成物が、ペルヒドロポリシラザンを含むものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多孔質化剤がポリアミノシラザンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1焼成工程または第2焼成工程の両方が、水蒸気を含んだ、不活性ガスまたは酸素雰囲気下で行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1焼成工程または第2焼成工程のすくなくとも一方が、200〜1000℃で行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記基板が、基板表面凹凸を有するものであり、その凹部にシリカ質膜からなるアイソレーション構造を形成させて、シャロー・トレンチ・アイソレーション構造を形成させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかの方法で形成されたことを特徴とする、絶縁膜。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかの方法で形成されたアイソレーション構造を具備することを特徴とする基板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−99753(P2012−99753A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248290(P2010−248290)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(504435829)AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社 (79)
【Fターム(参考)】