説明

アニール用治具及びアニール方法

【課題】基板へのパーティクル等の汚染粒子の付着を大幅に減少させることができ、液晶用基板のような大型の基板を処理する場合でも治具内部の基板の処理空間に結露が発生せず、治具に吸着や破損が生じず、均熱空間に収納可能な基板枚数を増大できるアニール用治具及びアニール方法を提供する。
【解決手段】本発明のアニール用治具10Aは、容器本体12の上部が蓋部材16によって閉じられたときの容器本体12と蓋部材16との接触部18に、水蒸気などの処理用ガスの通過を許容し所定の粒径以上のパーティクル等の汚染粒子の通過を阻止する微細流路が形成される。容器本体12は、処理空間11と外部とを連通し基板1が載置部13に載置されたときに基板1によって塞がれる連通路14を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーティティクルやコンタミネーションなどの汚染粒子による液晶用基板や半導体基板の汚染を大幅に低減できるアニール用治具及びアニール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルやICの製造工程では、液晶パネル用ガラス基板(液晶用基板)や半導体基板を、水蒸気または酸素を含む高温の雰囲気中で一定時間処理するアニール処理が行われる。このアニール処理により、基板上に酸化膜を形成したり、シリコン欠陥中の未結合手(ダングリングボンド)を水素で終端したり、層間絶縁膜を平坦化する(例えば、下記特許文献1、2参照)。
【0003】
アニール処理においては、基板を収容する処理容器やこの処理容器に接続された配管が高温のガスに曝されるため、このガスが処理容器や配管と反応してパーティクルやコンタミネーション等(汚染粒子)が発生する。特に、処理用ガスとして高温の水蒸気を用いる水蒸気アニールは、基板に対する各種処理を加速する効果があるが、その反応性の高さゆえ、汚染粒子が多く発生する。これらの汚染粒子は、処理容器や配管内に滞留して経時的に増加するため、基板に付着して汚染し、液晶やICの性能を低下させる要因となる。このような問題に対処するため、本出願人は、汚染粒子の付着低減に関して、種々の提案を行なってきた(下記特許文献3,4)。
【0004】
特許文献3に示されたアニール方法は、液晶用基板又は半導体基板を密閉可能な容器内に収容し、基板を、その表側面を上にして水平とした状態に対して特定の角度に傾けた状態で高温アニール処理をするものである。このアニール方法によれば、上方から見た基板の投影面積を減少させるので、パーティクルの付着を減少させることができる。
特許文献4に示されたアニール装置は、処理容器の内側に、高温高圧条件下においてもパーティクルの発生が少ないセラミックスをコーティングすることにより、パーティクルの発生を大幅に減少させたものである。
【0005】
【特許文献1】特開平5−67607号公報
【特許文献2】特開平11−152567号公報
【特許文献3】特開2005−64334号公報
【特許文献4】特開2005−64370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さらに、本出願人は、上記特許文献3、4の技術に対して同等以上に汚染粒子の付着を低減できる技術を開発し、特願2005−198573号を出願した(以下、先行出願1という)。
【0007】
図6は、上記先行出願1の水蒸気アニール用治具200の構成を示す図である。図6に示すように、この水蒸気アニール用治具200は、平板状の基板201の外縁部を支持して基板201を内部に収容する下部支持部材202と、下部支持部材202の上部全体を覆う上部蓋部材204とからなり、上部蓋部材204と下部支持部材202は、基板201を処理する温度及び圧力の範囲において水蒸気分子を導入できかつ所定の粒径以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止する接触面を有するものである。なお、図6では、上部蓋部材204と下部支持部材202との接触部分が上記の「接触面」となる。
【0008】
このような先行出願1の発明によれば、水蒸気アニール処理に際し、基板処理面への水蒸気の供給を確保しつつパーティクル等の汚染粒子の侵入が阻止されるので、水蒸気アニール処理の効果を維持しつつ汚染粒子による基板の汚染を大幅に低減できる。
【0009】
ところで、液晶用基板は年々大型化しており、汚染粒子から保護すべき基板表面面積は、半導体基板の10倍以上となることがある。このような大型の基板を先行出願1の水蒸気アニール用治具200で処理する場合、以下のような問題があった。
【0010】
(1)大型の基板に合わせてアニール用治具の内容積が増大するため、アニール用治具内の水蒸気が増加する。このため、処理後の温度低下に伴い、アニール用治具内の処理空間に結露が発生しやすい。
(2)アニール用治具の内容積が増大するため、処理後の温度低下に伴い、アニール用治具内の処理空間の気体が収縮して処理空間が負圧となり、上部蓋部材が下部支持部材に吸着したり、アニール用治具が破損したりする可能性がある。
(3)複数枚の基板を処理する場合、アニール用治具を用いない従来の方法では基板支持カセットに基板を高さ方向に間隔をおいて搭載する。アニール用治具を用いた場合、複数のアニール用治具に基板を1枚ずつ収容して、この複数のアニール用治具を、基板支持カセットに高さ方向に間隔をあけて搭載する。アニール用治具を用いた場合、アニール用治具を用いない場合と比べて、アニール用治具の高さが加わるため、熱処理炉内の均熱空間にセット可能な基板枚数が減少し、生産性が低下する。
【0011】
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものであり、基板へのパーティクル等の汚染粒子の付着を大幅に減少させることができ、液晶用基板のような大型の基板を水蒸気アニール処理する場合でも治具内部の基板の処理空間に結露が発生せず、治具に吸着や破損が生じず、均熱空間に収納可能な基板枚数を増大できるアニール用治具及びアニール方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明のアニール用治具及びアニール方法は、以下の手段を採用する。
(1)本発明は、内部に基板を収容してアニール処理を行うためのアニール用治具であって、上部が開放し基板を載置する載置部を有する容器本体と、該容器本体の上部に載置されて該上部を閉じ前記容器本体との間に基板の処理空間を形成する蓋部材とを備え、前記容器本体の上部が前記蓋部材によって閉じられたときの前記容器本体と前記蓋部材との接触部に、処理用ガスの通過を許容し所定の粒径以上の粒子の通過を阻止する微細流路が形成され、前記容器本体は、前記処理空間と外部とを連通し前記基板が前記載置部に載置されたときに前記基板によって塞がれる連通路を有する、ことを特徴とする。
【0013】
上記構成のアニール用治具によれば、所定の処理用ガスを用いたアニール処理において、容器本体と蓋部材との接触部に形成される微細流路と、基板と容器本体の接触部のフィルタ機能により基板の処理面へのパーティクル等の汚染粒子の侵入が阻止される。一方で、処理用ガスは微細流路を通過して基板の処理面へ到達する。このため、従来のアニール処理の効果を維持しつつ基板への汚染粒子の付着を大幅に低減できる。
【0014】
また、アニール処理中は、基板によって連通路が塞がれるので、パーティクル等の汚染粒子の侵入が阻止されるが、処理後においては、温度低下に伴い処理空間の気体が収縮した際に、基板が載置部から若干浮くことにより連通路が開放され、外部からの気体が処理空間に流入する。このように基板が逆止弁として機能することにより内部の処理空間が負圧となるのを防止できるので、大型の基板を処理するためのアニール用治具であっても吸着や破損といった問題は生じない。
【0015】
また、アニール処理中、連通路を通じて基板の裏面に処理用ガスが供給され、処理用ガスによって基板及び処理空間が加熱されるので、内部の処理空間と外部との温度差を小さくできる。このため、容器内外の圧力差が生じにくく、アニール処理中の基板の浮き上がりを防止することにより、外部から処理空間へのパーティクル等の汚染粒子の侵入を防止できる。
【0016】
(2)また、上記(1)のアニール用治具において、前記連通路は、前記容器本体の側面で開口している。
【0017】
このように、連通路が容器本体の側面で開口しているので、複数のアニール用治具を積み重ねた場合でも、あるアニール用治具の連通路が他のアニール用治具によって塞がれることがなく、上述した連通路の機能が損なわれない。したがって、アニール用治具を複数段積み重ねて、複数枚の基板を処理できる。
また、複数枚の基板を処理する場合でも、アニール用治具を従来のような基板支持カセットに搭載せずに、直接積み重ねるので、アニール装置内の均熱空間にセット可能な基板枚数が増大し、生産性を向上できる。
【0018】
(3)また、上記(1)又は(2)のアニール用治具において、前記処理空間の高さ寸法は8mm以下とする。
【0019】
このように処理空間の高さを最小限に抑えることで、蓋部材と基板との距離が近接するため、アニール処理が終了し熱処理炉を開放した後も、基板全体が高温状態の容器本体と蓋部材に囲まれていることにより、急激に温度低下することがない。このため、大型の基板を処理するためのアニール用治具により水蒸気アニール処理する場合であっても結露の発生を防止できる。
【0020】
(4)また、上記(1)〜(3)のいずれかのアニール用治具において、前記容器本体と前記蓋部材の少なくとも一方は、石英、SiC、グラファイト又は無アルカリガラスかなる。
【0021】
これらの材料は、高温高圧の水蒸気と反応性が低いため、処理用ガスとして水蒸気を用いる場合でも、パーティクル等の汚染粒子の発生を抑制できる。
【0022】
(5)また、本発明は、上記(1)〜(4)のいずれかのアニール用治具を用いたアニール方法であって、処理面を上方に向けた基板を、前記連通路を塞ぐように前記容器本体の前記載置部に載置し、この基板を載置した容器本体を前記蓋部材によって閉じ、この状態のアニール用治具を、前記連通路が外部と連通する状態で処理用ガスの雰囲気中に置いて前記基板に対して熱処理を行う、ことを特徴とする。
【0023】
(6)また、本発明は、上記(2)のアニール用治具を用いたアニール方法であって、処理面を上方に向けた基板を、前記連通路を塞ぐように前記容器本体の前記載置部に載置し、この基板が載置された容器本体を前記蓋部材によって閉じ、この状態のアニール用治具を複数準備して積み重ね、この複数のアニール用治具を処理用ガスの雰囲気中に置いて前記基板に対して熱処理を行うことを特徴とする。
【0024】
(7)また、上記のアニール方法において、前記処理用ガスは水蒸気である。
【0025】
上記のアニール方法によれば、アニール処理の効果を維持したまま、基板へのパーティクル等の汚染粒子の付着を大幅に低減できる。また、大型の基板を処理するためのアニール用治具であっても吸着や破損の問題が生じず、結露も発生しない。
また、処理用ガスとして水蒸気を用いた場合は、他の処理用ガス(例えば酸素)よりもアニール装置の内部でパーティクル等が発生しやすいが、水蒸気による高い処理効果を得つつ、基板へのパーティクル等の汚染粒子の付着を大幅に低減できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のアニール用治具及びアニール方法によれば、基板へのパーティクル等の汚染粒子の付着を大幅に減少させることができ、液晶用基板のような大型の基板を水蒸気アニール処理する場合でも治具内部の基板の処理空間に結露が発生せず、治具に吸着や破損が生じず、均熱空間に収納可能な基板枚数を増大できるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0028】
[第1実施形態]
図1に、本発明の第1実施形態のアニール用治具10Aの構成を示す。図1において、(A)は平面図、(B)は(A)における1B−1B線断面図である。
図1に示すアニール用治具10Aは、内部に基板1を収容してアニール処理を行うためのものである。処理対象となる基板1は、本実施形態では、液晶用基板(ガラス基板)であり、矩形平板状に形成されている。この基板1の大きさは、例えば、縦寸法lsが400mm、横寸法wsが500mm、厚さtsが0.7mmである。
但し、基板1は円形その他の形状であってもよい。また、基板1は、半導体基板1(シリコンウエハ)であってもよい。
【0029】
アニール用治具10Aは、容器本体12と蓋部材16とを備える。
容器本体12は、平板状の底部12aと、底部12aの周縁から上方に延びる側部12bとからなり、上部が開放し基板1を載置する載置部13を有する。
蓋部材16は、平板状に形成されており、容器本体12の上部に載置されて、この上部を閉じ容器本体12との間に基板1の処理空間11を形成する。本実施形態では蓋部材16は、容器本体12の側部12bの上面で支持されて、容器本体12の上部を閉じるようになっている。
本実施形態において、容器本体12と蓋部材16は、基板1の形状に合わせて矩形状に形成されているが、円形その他の形状であってもよい。
【0030】
容器本体12の上部が蓋部材16によって閉じられたときの容器本体12と蓋部材16との接触部18には、基板1を処理する温度及び圧力の範囲において、処理用ガスの通過を許容し所定の粒径以上の粒子の通過を阻止する微細流路が形成される。ここで、処理用ガスは、水蒸気、酸素等である。微細流路によって通過が阻止される粒子は、アニール処理中にアニール装置内の処理室を浮遊するパーティクルやコンタミネーションである。
【0031】
接触部18の平面度は、10〜20μmの範囲で設定し、かつ表面粗さも、平面度と同等に設定する。この構成により、容器本体12の上に蓋部材16を載置したときに、両者の接触部18は、容器本体12を気密に閉じるほどには完全に密着せず、その間に、平面度と表面粗さで決まる微細流路が形成される。この微細流路は、最大平面度の約1/10の約1〜2μmの範囲となり、水蒸気などの処理用ガスの通過を許容でき、かつ所定の粒径(この場合、1〜2μm)以上のパーティクル及びコンタミネーションの侵入を阻止することができる。
【0032】
容器本体12と蓋部材16の少なくとも一方は、石英、SiC、グラファイト、又は無アルカリガラスからなるのが好ましい。これらの材料は、高温高圧の水蒸気と反応性が低いため、パーティクルやコンタミネーションの発生を抑制できる。
【0033】
さらに、容器本体12は、内部の処理空間11と外部とを連通し基板1が載置部13に載置されたときに基板1によって塞がれる連通路14を有する。本実施形態において、連通路14は、容器本体12の底部12aを上下に貫通する縦穴14aである。ただし、連通路14はこの構造に限られず、内部の処理空間11と外部とを連通し基板1が載置部13に載置されたときに基板1によって塞がれる形状であれば、容器本体12の側面で開口する流路構造であってもよい。
【0034】
アニール用冶具10Aにおいて、処理空間11の高さ寸法htは、基板1と蓋部材16が少なくとも接触しない高さ以上8mm以下であるのが良い。このように処理空間11の高さを最小限に抑えることで、蓋部材16と基板1との距離が近接するため、アニール処理が終了しアニール装置を開放した後も、基板1の全体が高温状態の容器本体12と蓋部材16に囲まれていることにより、急激に温度低下することがない。このため、大型の基板1を処理するためのアニール用治具10Aにより水蒸気アニール処理しても結露の発生を防止できる。
【0035】
本実施形態のアニール方法では、処理面を上方に向けた基板1を、連通路14を塞ぐように容器本体12の載置部13に載置し、この基板1を載置した容器本体12を蓋部材16によって閉じ、この状態のアニール用治具10Aを、連通路14が外部と連通する状態で処理用ガスの雰囲気中に置いて基板1に対して熱処理を行う。
【0036】
このようなアニール方法は、例えば、図2に示す構成の水蒸気アニール装置20を用いて実施することができる。
この水蒸気アニール装置20は、内部圧力を調整可能な圧力容器21と、内部に処理室22を形成する石英ガラス等からなる処理容器23と、圧力容器21と処理容器23との間に設けられたヒータ24と、処理室22に導入するための水蒸気を発生させるボイラ25とを備えている。処理容器23の内部には、上述したアニール用治具10Aを載置するための載置台26が設けられている。
【0037】
圧力容器21には、圧力容器21内に空気等のガスを供給するためのガス供給ライン27と、圧力容器21内のガスを排気するためのガス排気ライン28が接続さており、バルブ31a,31bの制御によって、内部圧力が調整できるように構成されている。
処理容器23には、処理室22に窒素等の不活性ガスを供給するための不活性ガスライン29と、ボイラ25で発生させた水蒸気を処理室22に導入する水蒸気ライン32と、処理室22のガスを排気する処理室排気ライン31が接続されている。ボイラ25には、水供給ライン30が接続されている。バルブ31c,31d,31eの制御によって、処理室22への不活性ガス及び水蒸気の導入・排出が制御される。
【0038】
このように構成された水蒸気アニール装置20では、基板1が収容された上記のアニール用治具10Aを処理室22に設置した後、ヒータ24により基板1を加熱するとともに、ボイラ25にて水蒸気を発生させこれを処理室22に導入して処理室22を昇圧し、処理室22の昇圧に伴い圧力容器21内に空気を供給して圧力容器21の内部圧力を昇圧し、これによって高圧水蒸気によるアニール処理を実施できる。なお、水蒸気アニール装置としては、図2に示したものに限られず、例えば、特開平11−152567号公報や特開2004−127958号公報に開示された公知の装置を使用することができる。
【0039】
このような水蒸気アニール装置20を用いる場合、本発明のアニール方法は、具体的には、以下のように実施する。
まず、処理面(素子を作り込む面)を上方に向けた基板1を容器本体12の載置部13の上に、連通路14を塞ぐように載置し、容器本体12を蓋部材16で閉じる。そして、基板1を収容したアニール用治具10Aを、上述した水蒸気アニール装置20の処理容器23に収容する。このとき、容器本体12の連通路14が外部と連通する状態(連通路14の外部側の開口が塞がれない状態)で、アニール用治具10Aを処理容器23内の載置台26上に設置する。次に、処理容器23と圧力容器21を閉じて封止する。
【0040】
そして、要求されるアニール処理の種類に応じた所定の圧力条件、温度条件のもと、所定時間、基板1を加熱し、これにより水蒸気アニール処理を行う。ここで、アニール処理としては、熱酸化膜形成、シリコン欠陥中の終端、層間絶縁膜の平坦化などがある。所定の圧力、温度、時間は、例えば0MPa〜5MPa(ゲージ圧)、200℃〜800℃、30min〜60minである。
【0041】
このアニール処理中、処理室22内ではパーティクルやコンタミネーション等の汚染粒子が発生するが、これらの汚染粒子は、容器本体12と蓋部材16との接触部18に形成される微細流路によって、容器本体12と蓋部材16の間から処理空間11へのパーティクル等の汚染粒子の侵入が阻止される。また、容器本体12の連通路14が基板1によって塞がれているので、連通路14から処理空間11へのパーティクル等の汚染粒子の侵入が阻止される。
一方、処理用ガスである水蒸気は微細流路を通過して基板1の処理面へ到達する。このため、従来のアニール処理の効果を維持しつつ基板1への汚染粒子の付着を大幅に低減できる。
【0042】
また、アニール処理中は、基板1によって連通路14が塞がれるので、パーティクル等の汚染粒子の侵入が阻止されるが、処理後においては、温度低下に伴い処理空間11の気体が収縮した際に、基板1が載置部13から若干浮くことにより連通路14が開放され、外部からの気体が処理空間11に流入する。このように基板1が逆止弁として機能することにより、処理空間11の気体が急激に収縮しても、処理空間11が負圧となるのを防止できるので、液晶用基板のような大型の基板1を処理するためのアニール用治具10Aであっても吸着や破損といった問題は生じない。
【0043】
また、アニール処理中、連通路14を通じて基板1の裏面に処理用ガスである水蒸気が供給され、処理用ガスによって基板1及び処理空間11が加熱されるので、内部の処理空間11と外部との温度差を小さくできる。このため、容器内外の圧力差が生じにくく、アニール処理中の基板1の浮き上がりを防止することにより、外部から処理空間11へのパーティクル等の汚染粒子の侵入を防止できる。
【0044】
また、処理空間11の高さ寸法htを、基板1と蓋部材16が少なくとも接触しない高さ以上8mm以下とし、処理空間11の高さを最小限に抑えることで、蓋部材16と基板1との距離が近接する。このため、アニール処理が終了しアニール装置を開放した後も、基板1全体が高温状態の容器本体12と蓋部材16に囲まれるので、基板1及び処理空間11が急激に温度低下することがない。
このため、大型の基板1を処理するためのアニール用治具10Aを用いて水蒸気アニール処理しても結露の発生を防止できる。
【0045】
[第2実施形態]
図3に、本発明の第2実施形態のアニール用治具10Bの構成を示す。第2実施形態のアニール用治具10Bにおける連通路14は、容器本体12の側面で開口している。図3に示す構成例では、連通路14は、第1実施形態と同様の縦穴14aと、縦穴14aから容器本体12の側面まで延びて底部12aを貫通する横穴14bとからなる。横穴14bの数は、1つでも複数でもよい。他の部分の構成は、図1に示した第1実施形態のアニール用治具10Aと同様である。
【0046】
そして、本実施形態のアニール方法では、処理面を上方に向けた基板1を、連通路14を塞ぐように容器本体12の載置部13に載置し、この基板1が載置された容器本体12を蓋部材16によって閉じ、この状態のアニール用治具10Bを複数準備して積み重ね、この複数のアニール用治具10Bを処理用ガスの雰囲気中に置いて基板に対して熱処理を行う。このアニール方法も、第1実施形態と同様に、例えば図2に示した水蒸気アニール装置を用いて実施することができる。
【0047】
このような第2実施形態によれば、連通路14が容器本体12の側面で開口しているので、図3に示すように複数のアニール用治具10Bを積み重ねた場合でも、あるアニール用治具10Bの連通路14が他のアニール用治具10Bによって塞がれることがなく、上述した連通路14の機能が損なわれない。すなわち、アニール処理中は、基板1によって連通路14が塞がれるので、パーティクル等の汚染粒子の侵入が阻止されるが、処理後においては、温度低下に伴い処理空間11の気体が収縮した際に、基板1が載置部13から若干浮くことにより連通路14が開放され、外部からの気体が処理空間11に流入する。したがって、アニール用治具10Bを複数段積み重ねて、複数枚の基板1をアニール処理できる。
【0048】
また、複数枚の基板1を処理する場合でも、アニール用治具10Bを従来のような基板支持カセットに搭載せずに、直接積み重ねるので、アニール装置内の均熱空間にセット可能な基板枚数が増大し、生産性を向上できる。
その他、第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0049】
容器本体12の側面で開口する連通路14は、図3に示した構成に限られず、図4に示す構成であってもよい。図4に示すアニール用治具10Cの連通路14は、容器本体12の底部12aに形成され基板1によって閉じられる凹部14cと、凹部14cから容器本体12の側面まで延びて底部12aを貫通する横穴14bとからなる。横穴の数は、1つでも複数でもよい。
【0050】
また、容器本体12の側面で開口する連通路14は、図5に示す構成であってもよい。図5において(B)は(A)の5Bの矢視図である。図5に示すアニール用治具10Dの連通路14は、容器本体12の底部12aを上下に貫通する縦穴14aと、容器本体12の下面に形成され縦穴14aから容器本体12の側面まで延びる横方向溝14dである。横方向溝14dの数は、1つでも複数でもよい。
【0051】
図4及び図5に示した構成の連通路14を有するアニール用治具10C,10Dによっても、連通路14が容器本体12の側面で開口しているので、このようなアニール用治具10C,10Dを図3に示すように複数段積み重ねた場合でも、上述した連通路14の機能が損なわれない。
【実施例】
【0052】
本発明のアニール用治具を使用せずに基板を露出させて水蒸気アニール処理した場合(比較例)と、本発明のアニール用治具(第1実施形態)を使用して水蒸気アニール処理した場合(本発明)について、縦寸法ls=400mm、横寸法ws=500mm、厚さts=0.7mmの液晶用基板(ガラス基板)を対象とし、以下の条件で試験を行なった。なお、アニール用治具の各寸法の取り方は図1に示す通りである。
【0053】
(試験条件)
処理雰囲気:水蒸気
処理温度:350℃
処理圧力:1.5MPa(ゲージ圧)
処理時間:100分
アニール用治具の材質:石英ガラス
アニール用治具の各寸法:縦寸法lj=424mm,横寸法wj=524mm,高さ寸法hj=8mm,処理空間11の高さ寸法ht=2mm,縦穴14aの縦寸法lo=250mm,縦穴14aの横寸法wo=300mm
【0054】
比較例と本発明の表面汚染度を比較するため、水蒸気アニール処理後のパーティクル数を測定したところ、表1の結果が得られた。
【0055】
【表1】

【0056】
したがって、この表1から、本発明により、基板へのパーティクル等の汚染粒子の付着を大幅に低減できることが分かる。
【0057】
以上の説明から明らかなように、本発明のアニール用治具及びアニール方法によれば、基板へのパーティクル等の汚染粒子の付着を大幅に減少させることができ、液晶用基板のような大型の基板を水蒸気アニール処理する場合でも治具内部の基板の処理空間に結露が発生せず、治具に吸着や破損が生じず、均熱空間に収納可能な基板枚数を増大できるという優れた効果が得られる。
【0058】
なお、上記の第1及び第2の実施形態では、処理用ガスとして水蒸気を用いたアニール処理について説明したが、本発明は、その他の処理用ガス(例えば酸素)を用いたアニール処理に対しても同様に適用することができる。
【0059】
上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1実施形態のアニール用治具の構成を示す図である。
【図2】本発明のアニール方法の実施に使用する水蒸気アニール装置の一構成例を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態のアニール用治具の構成を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態のアニール用治具の別の構成例を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態のアニール用治具の別の構成例を示す図である。
【図6】先行出願1(特願2005−198573号)の水蒸気アニール用治具の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 基板
10A,10B,10C,10D アニール用治具
11 処理空間
12 容器本体
13 載置部
14 連通路
14a 縦穴
14b 横穴
14c 凹部
14d 横方向溝
16 蓋部材
18 接触部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に基板を収容してアニール処理を行うためのアニール用治具であって、
上部が開放し基板を載置する載置部を有する容器本体と、該容器本体の上部に載置されて該上部を閉じ前記容器本体との間に基板の処理空間を形成する蓋部材とを備え、
前記容器本体の上部が前記蓋部材によって閉じられたときの前記容器本体と前記蓋部材との接触部に、処理用ガスの通過を許容し所定の粒径以上の粒子の通過を阻止する微細流路が形成され、
前記容器本体は、前記処理空間と外部とを連通し前記基板が前記載置部に載置されたときに前記基板によって塞がれる連通路を有する、ことを特徴とするアニール用治具。
【請求項2】
前記連通路は、前記容器本体の側面で開口している請求項1記載のアニール用治具。
【請求項3】
前記処理空間の高さ寸法は8mm以下である請求項1又は2記載のアニール用治具。
【請求項4】
前記容器本体と前記蓋部材の少なくとも一方は、石英、SiC、グラファイト又は無アルカリガラスかなる請求項1乃至3のいずれかに記載のアニール用治具。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のアニール用治具を用いたアニール方法であって、
処理面を上方に向けた基板を、前記連通路を塞ぐように前記容器本体の前記載置部に載置し、この基板を載置した容器本体を前記蓋部材によって閉じ、この状態のアニール用治具を、前記連通路が外部と連通する状態で処理用ガスの雰囲気中に置いて前記基板に対して熱処理を行う、ことを特徴とするアニール方法。
【請求項6】
請求項2記載のアニール用治具を複数用いたアニール方法であって、
処理面を上方に向けた基板を、前記連通路を塞ぐように前記容器本体の前記載置部に載置し、この基板が載置された容器本体を前記蓋部材によって閉じ、この状態のアニール用治具を複数準備して積み重ね、この複数のアニール用治具を処理用ガスの雰囲気中に置いて前記基板に対して熱処理を行う、ことを特徴とするアニール方法。
【請求項7】
前記処理用ガスは水蒸気である請求項5又は6記載のアニール方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−78606(P2008−78606A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91272(P2007−91272)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】