説明

エピタキシャル薄膜

【課題】配向基板上に高速、安価で容易にエピタキシャル薄膜を成長させる。
【解決手段】配向基板上に、燃焼化学蒸着法(CCVD)などを用いてペロブスカイト系誘電層を形成する。CCVD装置100の供給端102に供給される前駆物質は、別の供給口106から供給される酸素と反応し、生成物を基板Sに堆積させる。コンデンサにおける誘電体としては、MgO単結晶基板を用い、有機金属化合物を前駆物質としてSrTiOを形成するほか、BaSrTiO形成技術などを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエピタキシャル薄膜に関するものであり、さらに詳細には、とりわけ高温超電導体用のバッファ層、固体酸化物燃料電池(SOFC)における電解質、気体分離膜、または電子デバイスにおける誘電体として用いるためのエピタキシャル薄膜に関するものである。
【0002】
政府契約
米国政府は、米国国防省により締結された契約番号F33615−98−C−5418、ならびに米国エネルギー省により締結されたが契約番号DE−FG02−97ER82345、ACQ−9−29612−01および4500011833に従って、本発明における権利を有する。
【0003】
関連事例
本出願は、1999年1月12日出願の米国特許仮出願番号60/115,519に対する優先権を主張するものであって、本明細書は、この出願の全文に参照して組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
配向基板(textured substrate)上にエピタキシャルコーティングを堆積できることが過去に示されているが、これらのコーティングを製造するための方法は、比較的遅い、費用の嵩む真空装置およびその他広範な装置を必要とする等のいくつかの不利な点を有する。さらに、エピタキシャルコーティングの使用は、過去においてはほんのわずかな用途に限られていた。燃焼化学蒸着法(CCVD)の出現により、これらのコーティングを製造するための新しく、より迅速で、より費用の嵩まない方法が実現した。CCVDを用いることによって、コストの節約および環境への影響の低減が達成されたことに加え、エピタキシャルコーティングの利用がその他いくつかの分野にまで拡大した。
【0005】
このように成功を収めている化学蒸着法には、米国特許第5,652,021号、第5,858,465号および5,863,604号に記載される、Huntらによる燃焼化学蒸着法(CCVD)が挙げられる。本明細書が参照して組み込まれるこれらの特許は、被膜およびコーティングのCCVDに関する方法および装置を開示しており、ここで、試薬と分散媒を混合して試薬混合物を作る。その後、混合物に点火して火炎を生じるか、または混合物をプラズマトーチに送り込む。火炎またはトーチのエネルギーは、試薬混合物を気化させると共に、基板も加熱する。これらのCCVD技術は、広範な新規用途を可能にし、新規組成物を有し、改善された特性を備えた新しいタイプのコーティングを提供している。これら3つの特許に加え、これもHuntらによるものであるが、米国特許第5,997,956号は、CVDのさらなる方法を開示しており、この方法には、近超臨界および超臨界流体溶液を用いる熱噴射の利用が含まれる。この特許において開示されているコーティング製法は、本発明のエピタキシャルコーティングの形成にも有用であり、この特許もまた、参照して組み込まれる。
【0006】
いずれもGoyalらよるものであるが、1998年4月14日に発行された米国特許第5,739,086号、および1998年4月21日に発行された第5,741,377号は、圧延し、アニールして二軸配向した金属基板およびその上に堆積されたエピタキシャルコーティングを有する配向製品を開示している。この製品は、面心立方、体心立方、または六方最密構造を有する二軸配向基板を作るために、金属基板予備成形品を圧延し、アニールすることによって製造される。この基板の表面上にエピタキシャル層を堆積させて、二軸配向積層板を形成する。最初にエピタキシャル層の形態でバッファ層を堆積させ、次にその上にエピタキシャル超電導層を堆積してもよい。パルスレーザ技術、ならびにその他いくつかの技術を用いて、超電導層およびバッファ層を堆積してもよい。
【0007】
1996年6月4日、Kwoによる米国特許第5,523,587号は、エピタキシャルシリコンの低温成長のための方法およびこの方法を用いて製造されるデバイスに対して記述している。最初に基板を提供して誘電性バッファ層を形成させ、次にそのバッファ層上にエピタキシャルシリコンを成長させることによって、エピタキシャルシリコンの薄膜を300℃以下の温度で成長させる。バッファ層を堆積している間、指向性のイオンビームがバッファ層に衝撃を与えて、所望の配向をもたらす。この堆積法は低い温度で実施されるため、ガラス被覆プラスチック等の軽量基板を使用して携帯およびラップトップ電子機器における画面の重量を軽減することができる。しかし、これらの堆積法は、真空およびその他の制限的堆積パラメータを必要とする。
【0008】
1999年10月19日、Budaiらによる米国特許第5,968,877号は、二軸配向Ni基板上に堆積された高TYBCO超電導体を開示している。一層以上のエピタキシャルバッファ層は、C軸延伸YBCO最上層の堆積前に、Ni基板上に堆積される。エピタキシャルバッファ層には、CeO、イットリア安定化ZrO、およびパラジウムが挙げられており、一方、超電導層はYBaCu7−δである。バッファ層は、パスルレーザ、電子ビーム蒸着、またはスパッタリング法によって堆積される。
【0009】
1999年4月1日、Fritzemeierらによる国際特許出願、公開番号WO99/15333には、エピタキシャル層を有する超電導製品が記載されている。この製品は、気相法を用いて部分真空下で製造される。エピタキシャルまたはバッファ層には、CeO、イットリア安定化ZrO、LaAlO、SrTiO、LaNiO、LaCuO、SrRuO、CaRuO、NdGaOおよびNdAlOが挙げられている。気相法を用いることにより、1mmあたりの細孔が約500未満の細孔密度を有する表面のエピタキシャルバッファ層が形成される。
【0010】
1998年4月21日、Barnettらによる米国特許第5,741,406号は、高密度イットリア安定化ジルコニア(YSZ)電解質膜を有する固体酸化物燃料電池、およびこれらの電解質膜を堆積させる方法を開示している。YSZ電解質薄膜は、スパッタリング等のイオン支援堆積法を用いて、ランタンストロンチウムマンガン(LSM)基板上に堆積される。DCバイアス電圧をLSM基板に印加することによって、堆積中に、YSZ膜に対するイオンボンバードがもたらされる。このイオンボンバードは、材料の突起の除去、細孔への再堆積、およびより平坦な膜表面を導く。
【0011】
上述したリファレンス及び特許には、高誘電率を有する低損失誘電基板を必要とする用途において、バッファ層として適したエピタキシャル薄膜を提供するものは未だない。
【発明の概要】
【0012】
本明細書に記載の開発されたCCVD法は、多くのタイプの薄膜、厚膜およびその他のコーティングを形成するために有用であることは明らかである。格子整合基板上へのエピタキシャル膜の堆積に用いる時、CCVD法は、非常に高密度で、場合によっては単結晶のコーティングを生じる。これらのエピタキシャルコーティングは、高温超電導体の分野においてバッファ層を製造するために有用であるばかりでなく、固体酸化物燃料電池(SOFC)、気体分離システムおよびマイクロエレクトロニクス等のその他いくつかの分野においても優れたコーティングを提供することができる。上述の米国特許第5,652,021号、第5,858,465号、第5,863,604号および第5,997,956号に記載されているようないくつかの異なるCCVD法が開発されている。本明細書は、これらの特許記載の技術に応用可能である。用途の要件次第では、本発明のエピタキシャルコーティングを製造するためにこれらのCCVD法の1つ以上を用いることがある。これらの要件には、堆積速度、温度制限および酸化還元またはエンハンスメントがあげられるが、それらに限定されない。
【0013】
本発明の多様なエピタキシャルコーティングのうちの一部を製造するために、圧延配向ニッケル基板をCCVDを用いて所望の材料でコーティングする。薄膜次第では、類似の格子パラメータを有する他の材料を用いることもできるが、ニッケルは好ましい材料である。ニッケルが好ましいのは、比較的安価であり、高融点を有し、容易に圧延配向化され、また安価な市販の材料を用いてエッチングすることができるためである。さらに、ニッケルの格子パラメータは、エピタキシャル膜の形成においてその他多くの材料の格子との整合し易い。それゆえ、ニッケルは、多くの用途の基板として申し分なく適している。しかし、本明細書に記載する方法は、本発明に従ってエピタキシャル膜を成長させるために、コストがあまり問題にならない場合等、用途によってはその他の基板材料に用いられることは明らかである。また、堆積法に用いられる基板が最終製品の構成要素である必要はない(多くの場合、構成要素ではない)。配向基板上にエピタキシャル層(複数を含む)を堆積させた後、多くの場合、堆積層または好ましいエピタキシャル配向を有する層を残して基板はエッチングにより除去される。追加の層が必要な場合、配向金属基板をエッチングにより除去する前に堆積させてもよいし、またはその後で堆積させてもよい。勿論、一部の用途に関しては、最終製品の一部として元々の配向基板を残すことが望ましいこともある。特定の構造および各エピタキシャル薄膜のコーティング法の詳細は、それらの個々の用途に対して以下でさらに説明する。
【0014】
高温超電導体の分野において、一般的には、第2世代超電導線は4つの構成要素、すなわち、可撓性金属基板、バッファ層、YBaCu7−x(YBCO)等の超電導層、および絶縁層または導電層の形態の最終層から構成される。バッファ層は、超電導体塗布中に金属基板を酸化から保護するため、ならびに金属基板の超電導層への拡散を防止するために用いられる。バッファ層は、また、所望の結晶学的配向を超電導層に与えなければならない。高温超伝導体(HTSC)は、電流リード線、モータ、伝送ケーブル、発電機、変圧器、および電流制限器等の電力用途に対して非常に大きな可能性を有するが、最も実用的な用途を可能にするには、銅並みのコストレベルにしなければならない。最高技術水準のHTSCパウダー・イン・チューブ(powder−in−tube)線の大量生産コストに関しては、どんなに甘く見積もっても、目標額を大きく上回っている。しかもこの線には性能限界がある。従って、YBCOおよび付随するバッファ層を低コストで、化学量論比を良好に制御しながら容易に堆積させることができ、スケールアップに適する方法が、HTSC線の大量、低コスト製造のためには必要である。大気圧燃焼化学蒸着(CCVD)法および雰囲気調節化学蒸着(CACVD)技術では、安価な化学前駆物質および低コストの機器が用いられ、また、線材およびテープを連続的に間断なく加工するように設定することができる。先行法および先行法による製品は、経費および柔軟性において、CCVD法およびCCVD法によって得られる高品質のエピタキシャルバッファ層とは比較にならない。
【0015】
BednorzおよびMullerによる高温超電導の発見以来、電力設備およびその他の大型電気用途のために、高臨界電流密度を有する柔軟で長い導線の製造に多大な検討が行われている。上述のYBCOは、これらの用途に対してすばらしい可能性を有する液体窒素冷却超伝導体のようなものである。しかし、「弱いリンク」、すなわちYBCOに関する電流路内の結晶粒界における散逸的挙動がこの材料の主要な限界であった。この限界を克服し、高臨界電流密度(J)値(77Kで、10から10A/cmまで)を得るためには、超電導線またはテープの結晶学的な配向が、導線全長にわたって内面および外面に高い整合度をもつことが必要である。両方のイオンビーム支援堆積(IBAD)技術および圧延支援二軸配向基板(RABiTS)技術の両者における近年の技術革新は、高J値をもたらし、脆性および弱いリンクについての問題の軽減させた。これらの技術革新を適用することにより、長いYBCO線長の製造が期待される。物理蒸着技術、金属−有機化学蒸着法(MOCVD)を含む通常の化学蒸着技術、ゾル−ゲルおよび金属−有機堆積を含む溶液技術等のその他いくつかの方法が、上記の多層酸化物を堆積させるために利用できる。しかし、これらの方法のすべてが費用と拡張性に限界がある。従って、エピタキシャルまたは好ましい配向および良好な化学量論的制御を有するバッファ層酸化物を製造するためには、費用が嵩まず、容易に拡張可能な製法を開発することが最も重要である。上述したCCVD法を用いることで実用可能である。
【0016】
本発明のエピタキシャルコーティングの1つのタイプは、これらの高温超伝導体用のバッファ層として、SrTiO、LaAlO、およびSrLaAlO等の選択されたペロブスカイト酸化物を使用するものである。現在、SrTiO、LaAlO、およびSrLaAlO等の選択されたペロブスカイト酸化物は、膜全体が望ましい立方配向を示すように、配向金属基板上にエピタキシャルによって堆積されていない。本明細書中に、Ni上のSrTiOのCCVD堆積についての条件および結果を記載する。その他の配向金属基板上のSrTiOのCCVD堆積、ならびにNiおよびその他の配向金属基板上のLaAlOおよびSrLaAlOのCCVD堆積に関する条件は、類似したものであると考えられる。
【0017】
本明細書中に記載のエピタキシャルコーティングの別のタイプには、固体酸化物燃料電池(SOFC)に用いるための電解質および電極が含まれる。燃料電池は、電力を多様な燃料から発生させる基本的に新規な方法である。燃料電池の開発および商品化が成功すると、著しい環境的利点がもたらされ、地球全体の汚染が大幅に低減されると考えられてきた。燃料電池の鍵となる利点は、高いエネルギー変換効率である。熱エネルギーの仲介なしで、燃料電池は電気化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する。その他の利点としては、簡単な構造、高い負荷効率、熱併給発電についての可能性、および極めて低い汚染物質の排出が挙げられる。現在、燃料電池の市場は、製造に必要な化学前駆物質と堆積装置が高価であるため、宇宙船およびその他の特殊用途に限られている。複雑な後堆積処理/焼結なしに低コストで高品質のSOFC薄膜を堆積させるための加工法が、燃料電池の商品化を広く行き渡らせるために最も重要である。さらに、一般に普及させるためには、SOFCの性能/効率を改善しなければならない。本発明は、エピタキシャル、および場合によっては単結晶薄膜を提供して、SOFC性能を改善するために電解質および電極の両方に必要なミクロ構造を提供するものである。さらに、CCVD法は、その大気開放型機能によって、その他のCVD法と比べて少なくとも50%資本コストを削減し、75%の運転コストでこれらの層を連続的に堆積させることができ、それゆえ、SOFC産業に著しい商業的利点を提供する。
【0018】
酸化物電解質を製造するための現在の方法は、所望の粉体化学量論比および特性の利用可能度、膜厚(原料の利用可能度および方法制限の結果)、および細孔がなく、理想的な結晶粒界/界面ミクロ構造のための高密度化によって制限される。従ってこれらの制限は、SOFCの開発、および性能、効率の改善可能性の妨げとなる。近年、YSZ電解質を十分に高密度化し、厚さを4〜5μmへと大幅に低減させることによって、YSZ基燃料電池の電力密度を1.6W/cmに増大させることができることが示された。これは、エピタキシャル電解質を製造するための技術が、原料の利用可能度に左右されることなく、非常に薄く十分に高密度の電解質層をもたらし、SOFCの商品化の可能性が大いに改善することを示す。
【0019】
CCVD法は、高密度でエピタキシャルの電解質薄膜および多孔質で粘着性の電極を生じ、また、その他のコーティング技術と併用して、製造時間およびコストが低減され、優れた固体酸化物燃料電池を造ることができる。安価な前駆物質を用いて大気開放型で運転することによって、CCVDは、エピタキシャル電解質層の連続コーティングを提供し、これは、より低温でのイオン伝導性を増大させる。CCVDに基づく方法は、結晶粒界/界面抵抗を最小化し、分極を低下させることによって、燃料電池の性能をより良好にすることもできる。加えて、CCVDシステムの投資要件は、真空に基づくシステムと比較して少なくとも10分の1に削減され、その処理量も、他の生産技術を用いたものよりはるかに多い。CCVD法は、一般に、可燃性燃料として用いられる溶媒にすべての必要元素成分を溶解した溶液を使用する。ドーパントおよび化学量論比を容易に調節変更できることは、多層および複数化合物の膜を一工程で堆積させることを可能にし、このことは、処理量をさらに増大させ、生産コストを低下させる。堆積は、排気室内、クリーンルーム内、または屋外において、常圧および常温で行うことができる。
【0020】
本発明によれば、気体分離膜を生成することもできる。気体分離膜の用途の一つとして、酸素の生産が挙げられる。混合伝導性酸化物膜は、現在の商業的手段、すなわち、低温工学、圧力変動吸着(PSA)、および高分子膜より低いコストで酸素を生産することができる。これらの酸素半透膜の開発には、多孔質基板、好ましくは同じ材料の基板上に支持された混合伝導性酸化物の薄膜を含むハイブリッド膜の製造が求められている。CCVDを用いて、高品質で高密度で気密なピンホールのない、サブミクロンスケールの混合伝導性酸化物層を、多孔質セラミック基板上に堆積させることができる。こうしたハイブリッド膜は、酸素に対する高い選択透過性および高い輸送率の両方を提供し、このことによって、商業的に半透過性膜を使用した酸素生産を行うことができる。純粋な酸素の生産コストを低下させることによって、本発明の膜は、いくつかの産業を大いに向上させることができる。主としてメタンからなる天然ガスは、メタンを合成ガスに転化するために純粋な酸素を用いることによって、清浄な燃焼性輸送燃料に変換することができる。こうした燃料の商業規模での生産は、従来、エネルギー集中型の極低温処理による、酸素生産性のコスト高が妨げとなっていた。代替法は、酸素に対して高いイオンおよび電子伝導性を示す、混合伝導性ペロブスカイトセラミック酸化物に基づく高密度セラミック膜の使用である。これらのタイプの膜は、空気またはその他の酸素含有混合気体から純粋な酸素を分離製造する、潜在的に経済的で、清浄で、効率的な手段として大きな関心を集めてきた。酸素分離膜のその他の用途は、医療用途のための小規模な酸素ポンプから燃焼工程における大規模な利用、例えば、石炭のガス化にもおよぶ。混合伝導性酸化物膜の別の用途は、化学処理の分野に見出すことができ、これには、天然ガス等の軽い炭化水素をエタン−エテン混合物を含む付加価値製品に部分酸化すること、合成ガスの生産、廃棄物の削減および回収が挙げられる。
【0021】
望ましいペロブスカイト構造(ABO)は、隅共有BO八面体(この場合、Bは、遷移金属カチオンである)の立方配列からなる。BO八面体格子間のA部位イオンは、アルカリ、アルカリ土類、または希土類イオンのいずれかによって占有され得る。多くの場合、BO八面体は、Bカチオンより一般には大きいAイオンの存在のために歪んでおり、傾斜している。電子伝導の開始は、主として、B部位カチオンの性質に依存する。全電導性は、受容体ドープ希土類アルミン酸塩の場合のように、主にイオン性であることも可能であるし、またはペロブスカイトを含む前期遷移金属の場合のように、主に電子性であることも可能である。B部位に遷移金属を含む一部のペロブスカイト酸化物(ABO)は、イオン伝導性および電子伝導性の両方を示す良好な混合伝導性材料であることがわかる。それらの高い電子およびイオン伝導性のため、これらの材料は、電極および外部回路なしで酸素半透膜として用いることができる。酸素伝導性セラミック材料には、チタニアおよびセリアのいずれかをドープしたイットリア安定化ジルコニアが挙げられる。受容体ドープペロブスカイト酸化物を用いて伝導される場合には、一般式La1−xCo1−y3−δ(式中、Aは、Sr、BaまたはCaであり、Bは、Fe、CuまたはNiである)を有するものが挙げられる。
【0022】
気体分離膜の別の用途は、水素の生産である。純粋な水素の発生は、水素添加脱硫法および製油所における水素処理法等の多様な大規模工業用途に求められている。輸送燃料および水素燃料電池の新興分野において、水素対炭素比が増大すると、水素ガスに対する要求量が大幅に増加することが予想される。水素は、天然ガス等の原燃料から、ならびに石炭の触媒ガス化、非酸化性メタン転化および水蒸気改質等の工程の流れから抽出することができる。蒸留および圧力変動吸着等の、その他のよりエネルギー集中型の方法と比較した場合、膜に基づく分離法は、水素を分離するために経済性に優れた環境に優しい代替法である。工業的に用いるためには、これらの分離膜は、高温(1000℃以下)および高圧(600psi以下)で安定でなければならない。工業的に使用する膜としては、通常遭遇する排出流による腐食または被毒に対して十分に高い耐性性を持たなければならない。
【0023】
高分子膜、無機(非金属多孔質または無孔質)膜、および高密度(金属)膜の3タイプの膜を使用することによって、水素を含有する気体混合物から極めて純度の高い水素を生産することができる。高分子膜は、通常供給される原料中の反応性化学物質により、選択制、耐久性が制限される。多孔質無機膜は、非常に高い水素透過性を示すが、脆性であることおよび水素選択性が非常に低いことを欠点として有する。プロトン伝導性固体酸化物セラミック材料から誘導される無機膜は、より低い透過性を示し、脆性であり、プロトンの伝導を誘導するために膜の各面の電極を通して印加される電流を必要とする。電場の印加を必要としないプロトン伝導性膜の例には、イットリア安定化ジルコン酸ストロンチウムおよびイットリア安定化セリン酸ストロンチウム等のペロブスカイトが挙げられる。
【0024】
パラジウムおよびパラジウム合金膜は、膜反応器への利用に大きな関心を招いた。膜反応器は、単一装置で分離器と反応器の両方の機能を果たす。これらの膜は、水素に対して卓越した選択性を示し、高温(1000℃以下)で運転することができるという点で、高分子膜よりも、また、無機(非金属)膜よりも優れている。パラジウム基膜は、硫化水素等の硫黄含有気体汚染物質によって容易に毒される。硫黄失活に関連する欠陥を克服するために、パラジウム金属は、硫黄含有化合物による影響を受けないイットリア安定化ジルコン酸ストロンチウムの薄膜でコーティングされる。
【0025】
エピタキシャル薄膜の別の実際的な用途は、コンデンサ内の誘電体としてのものである。コンデンサは、電子回路において鍵となる受動部品の1つであるため、ほぼすべての電子製品に用いられている。それらは、それらの物理的構造および誘電率に依存するキャパシタンス値に従って利用される。本発明は、低損失でエピタキシャルのペロブスカイト膜を堆積させて、極めて高い誘電率を有する誘電層を製造するために、CCVD法を利用する。これによって、より大きなキャパシタンス対サイズ比を有するコンデンサを生じ、結果として、個々のコンデンサおよびすべての回路に求められるサイズおよび重量を低減させる。この利点は、独立した部品と共に、埋設されたデバイスにも利用することができる。
【0026】
一旦、コンデンサが形成されると、その厚さおよび寸法は固定されるので、キャパシタンスを変更するために調整可能なファクターは、誘電率のみである。本発明のエピタキシャル誘電体は、DCバイアスを印加して、高誘電率で低損失の強誘電物質で製造されたコンデンサのキャパシタンスを調整することを可能にする。これらの電気同調式コンデンサは、広範な用途に用いることができる。例えば、通常コンデンサと抵抗器で構成される単一フィルタ回路は、誘電率、およびキャパシタンスを電気的に調節することによって、多重周波数フィルタとしての機能を果たすことができる。印刷回路板に埋設されたコンデンサも、この多重周波数性能を利用することができる。無線通信において、誘電率の電気的な調節は、位相アレーレーダのために非常に望ましい移相を誘導する。さらに、これらの同調式装置は、多様な周波数における電気通信用のフィルタおよび発振器として用いることもできる。先行技術のコンデンサでは、実際の材料加工で望ましい特性を達成することができない。塊状材料からスライスされた誘電体材料の薄いディスクは、実際に調節するために、ほぼ1000V程度の電圧を必要とする。さらに、前もって堆積させた誘電体膜は、損失が大きすぎて、この効果を実際に利用することができない。
【0027】
従って、本発明の第1の目的は、超電導体の保護および絶縁を提供する高温超電導体用の薄膜、エピタキシャルバッファ層を提供することである。
【0028】
本発明の別の目的は、固体酸化物燃料電池用の高密度で細孔のない電解質を提供することである。
【0029】
本発明のさらなる目的は、混合気体流から酸素または水素を分離するための高密度で細孔のない膜を提供することである。
【0030】
本発明のさらなる別の目的は、コンデンサに用いるための高誘電率で低損失の誘電層を提供することである。
【0031】
本発明のさらなる別の目的は、高誘電率で低損失の誘電層を用いることによって電気的に調節可能なコンデンサを提供することである。
【0032】
本発明のこれらおよびその他の目的は、以下に続く明細書および図面のさらなる検討によって容易に明らかになるであろう。
【0033】
添付の図面を参照し、以下のさらなる説明から、本発明の前述およびその他の目的および利点をさらに十分にご理解頂けよう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のエピタキシャル薄膜を堆積させるために用いられる装置の側平面図である。
【図2】図1の装置の正面図である。
【図3】配向Ni上の望ましい単一配向のSrTiOを示す極点図である。
【図4】配向Ni上の典型的な微小構造である。
【図5】2つのサンプルA、Bおよび参考文献からのYSZについての伝導度対温度のプロットである。
【図6】本発明に従ってエピタキシャル層を有する1つの燃料電池を示す。
【図7】図6の燃料電池を形成するための1つの方法を示す。
【図8】多孔質で柱状のミクロ構造を示すサファイア上のLSMのSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の一定の実施形態に関する以下の詳細な説明および図を参照することによって、本発明をより容易に理解することができる。本発明のエピタキシャル薄膜は、多くの適当な技術を用いて堆積させることができるが、好ましい堆積法は、上述の米国特許に記載されているようなCCVDである。さらに、基板の酸化を避けるためまたはその他の理由のために還元雰囲気が必要とされる時には、雰囲制御気化学蒸着法(CACVD)技術を用いることが望ましい。還元雰囲気または真空環境を提供するその他の堆積技術を用いることもできるが、CCVD特許中に十分詳細に記載されているように、CCVDおよびCACVD法の多数の利点によりそれらが好ましい方法である。
【0036】
ニッケル上でエピタキシャル薄膜を成長させるための1つの堆積方法は、CACVDを利用して、堆積工程中のニッケルの酸化を回避または低減するものである。図1および2は、本発明のエピタキシャル薄膜を堆積させるために用いることができるCCVDおよびCACVD装置100を図示しており、以下に記載する実施例については、これらの図を参照されたい。ニードル101は、供給端102において前駆物質が供給され、また、スエージ加工して絞りを設けるか、またはスエージ加工せず排出オリフィス103を設ける。電極104および105は、ニードル101の両端に取付けられ、必要時にニードル内の前駆物質を加熱するためにDCまたはAC電流を供給する。チップ酸素は、供給口106に供給され、管路107を通ってニードル101の周りを進み、オリフィス200から排出される。水素パイロットガスは、供給口108に供給され、管路109を通ってチップ酸素の周りを進み、排出口201から排出される。排出オリフィス103および基板Sは、パイロットガスの水素によって提供される局所的な還元雰囲気中に配置される。コーティングおよび基板の両方またはいずれか一方の酸化を回避するために、シールド110を装置の本体111に取付けてもよく、それによって、雰囲気制御堆積法が可能となる。シールドガスは、アルゴン等の不活性ガスであり、シールド110を通して、パイロット水素の周りに供給される。さらに酸化防護が必要な場合は、装置100および基板Sの全体をチャンバー内に配置してもよく、堆積中、および堆積後に基板を冷却している間、追加のアルゴンを堆積エリアの周りに供給することができる。装置100は、一例にすぎず、その他の堆積法用デバイスを含むその他のタイプのデバイスを用いて本明細書に記載の薄膜を製造することができる。
【0037】
基板上に膜を形成するための装置100を利用するための方法には、上述したHuntらによる米国特許第5,997,956号に記載されているものが挙げられる。その特許中で論議されているように、化学蒸着法および粉体形成は、近超臨界および超臨界流体溶液を含む流体溶液の熱噴射を用いて、非常に細かい霧化、噴霧化、水蒸気化またはガス化を生じることによって達成することができる。溶解された化学前駆物質が高い蒸気圧を有する必要はないが、高い蒸気圧の前駆物質は、低い蒸気圧の前駆物質より良好に作用する。ノズルまたはリストリクション管の端の直前、または端において溶液流体を加熱することによって、前駆物質が化学反応するための、または霧化前に溶解するための時間を最短にすることができる。この方法を用いて、多様な金属有機物質および無機前駆物質からコーティングを堆積させることができる。
【0038】
上記のタイプのデバイスを用いて、高温超伝導体、固体酸化物燃料電池(SOFC)における電解質、ガス分離膜、および電子装置における誘電体を含む用途においてバッファ層として用いるために適するエピタキシャル薄膜を生成した。CCVD、CACVD、またはその他一切の適する堆積方法を用いることによって、細孔がない、または実質的に細孔がない結晶粒界および高密度構造を有するエピタキシャル膜を生成することができる。高温超電導体においてバッファ層として用いるために、いくつかの異なるタイプの材料を開示する。本発明のエピタキシャル薄膜を説明するために、一定の実施例を以下に提供するが、以下の実施例は、本発明の膜の単なる代表であり、制限を意味するものではなく、またこうした膜の網羅的なリストでもない。
【実施例1】
【0039】
本実施例では、SrTiO(STO)を圧延配向Ni上に堆積させた。前駆物質溶液には、1.26gのSr−2−エチルヘキサノエート(2eh)(トルエンを用いて希釈して1.5重量%Srにしたもの)、1.11gのTi−ジ−I−プロポキシドビスアセチルアセトネート(イソプロパノールを用いて希釈して0.94重量%Tiにしたもの)、51mLの変性エタノール、および300gのプロパンが含まれていた。1.75Aの加熱電流をニードルに供給しながら、この溶液を3mL/分の速度でニードルに供給した。80psiのチップ酸素を3L/分の速度で供給し、15psiのパイロット水素を18L/分の速度で供給し、50psiのアルゴンを32L/分の速度でシールドガスとして用いた。堆積は、950℃の基板温度で10分間行った。
【0040】
堆積バッファ層は、非常にエピタキシャルであり、図3に示すように単一立方平面内配向を示した。図3は、Ni上のCCVD堆積SrTiOバッファ層の上に堆積されたYBaCu(YBCO)超電導体の極点図である。YBCO層の極点図は、バッファ層と同じ単一面内配向を示しており、これは、超電導体が高臨界電流密度を示すために必要なことである。STOの典型的な面内寸法は、(111)面に対して8.89°の半値全幅(FWHM)に決定された。典型的な面外寸法は、(002)面に対して7.53°FWHMであった。図4は、SrTiOの典型的なミクロ構造である。この膜は、高密度で連続的であり、このことによって、膜は、高臨界電流密度を示す超電導体のテンプレートとして働くことができる。超伝導体用途に用いるためには、ペロブスカイトバッファ層の厚さが、50〜1000nmの間であるべきである。最初のオージェ試験は、これらの厚さが金属基板および生成し得るあらゆる酸化物の拡散を防ぐことを示している。YBCO膜は、Ni上のCCVD堆積SrTiO膜の上に良好に堆積された。コーティングされた試料の長さはおよそ2cmであるが、この長さをリール・ツー・リール(reel−to−reel)システムに有用な長さまで延ばすことができる。
【0041】
図6に示す燃料電池600のような燃料電池の形成では、CCVDまたはCACVDを用いて、単結晶またはエピタキシャルYSZを圧延配向単結晶Ni基板上に堆積させ、YSZ電解質を形成する。LaSrMnO(LSM)等のカソードは、電解質層の上に堆積させる。カソードは、CCVDまたはCACVDによって完全に堆積させることができ、または50〜200nmの中間層をCCVDまたはCACVD法を用いて堆積させることができ、また、ゾル−ゲル等のその他の堆積法を用いて大部分のカソードを堆積させることができる。カソードが支持層となるため、Niをエッチングして電解質から除去することができる。その後、アノードを電解質上に堆積させて、燃料電池を完成する。図7は、こうした燃料電池を形成するための1つの方法を示している。
【0042】
燃料電池を形成するために、上記の方法のいくつかの異なる変型を用いることができる。加えて、BaCeO等のその他の電解質を用いてもよく、また、あらゆる単結晶基板を用いることができる。同様に、適切なあらゆる電極材料を用いてもよい。エピタキシャルおよびほぼ単結晶の電解質は、結晶粒界の影響を最小化することによって多結晶電解質より高い性能を提供する。エッチング工程は、電解質を直接電極に堆積させることによって回避することができる。例えば、NiOおよびYSZ粉体は、圧縮してペレットにし、焼結して、アノード用の高密度ディスクを生じることができる。その後、CCVDまたはCACVDを用いて、電解質をこれらの高密度ディスク上に直接堆積させる。還元雰囲気下で被覆ディスクを熱処理すると、NiOがNiに還元され、アノードに空孔が生じる。その後、スクリーン印刷またはブラッシングによって、カソード(例えば、Ag)ペーストを電解質に塗布し、熱処理を利用して、カソード用の多孔質金属層を残してペーストの有機部分を除去する。電解質のCCVDコーティングに先立ち、アノードディスクを追加のアノード材料で浸漬塗装することができる。
【0043】
燃料電池は、電解質薄膜およびその電解質層の両面上の多孔質電極を用いて組立てることとなる。この製法には、CCVD技術のみならず、その他のコーティング/形成法も含まれる。一般的に、電極材料、例えば、YSZは、円滑に格子が適合し得る大粒子状(>1cm)の基板の上に堆積させることとなる。その後、5分の1マイクロメートル付近の高密度で細孔/結晶粒界のないエピタキシャルYSZ膜を堆積させる。従って、カソード、例えば、LSMは、CCVDまたはスクリーン印刷等によってYSZ層上に塗布することとなる。その後、基板は、基板の性質に依存してエッチングまたは単に溶融によって除去することとなる。最後に、アノード、おそらくNi−YSZは、CCVD法によって、またはCCVD技術およびNi(またはNiO)スラリーと共に濾過することにより多孔質YSZを堆積させることによって、暴露YSZ表面上に形成する。この方法における工程の開発には、二層電解質(セリア/YSZ)の使用、または高密度YSZ層の上により粗いミクロ構造のYSZを生じることが含まれ得る。最初に、CCVDによりYSZ上に薄いLSM層(ナノメートル範囲)を成長させ、次に、その他のコーティング法により厚さを増大させることによって多孔質LSM層を堆積させて、界面抵抗をさらに低下させることができる。一般的には、強いLSM層を用いるが、これは、基板の除去後、加工中にそれが支持層として働くためである。基板の除去後、厚さ10〜30μmのNi−YSZ層を暴露面上に堆積させることとなる。このアノード層は、効率を最大化し、分極を最小化するために薄くする。
【0044】
TPB(気体、電極および電解質間の3つの界面)線長を増大させると、燃料電池における反応速度が上がるものと一般には考えられている。多孔質複合材料電極(サーメット、例えば、Ni−YSZ、Ru−YSZ)を用いることによって、TPB線長を増大させることができる。電極は、気体状化学種またはイオンの電解質への輸送を促進し、その間、界面における関連電気化学反応から電子を回収することができるように、多孔質であると共に電子伝導性である必要がある。相接電極層が微細孔サイズを有することも好ましい。
【0045】
CCVDを使用して伝導性を増大させることは、膜厚を減少させること、およびSOFCにおける電解質として高エピタキシャルおよび単結晶薄膜を用いることによって達成された。これらの単結晶電解質製造についての実行可能性を試験するために、厚さ480および410nmのYSZ膜を1050℃以下の温度でCCVDによってサファイア基板上に堆積させた。これらのYSZ膜は、火炎温度1400℃で10.8μm/時、および堆積温度1150℃で2.5μm/時といった速い堆積速度で、サファイア基板上に堆積させた。これらの火炎温度において、基板温度は、それぞれ、約900から1100℃、および800℃未満である。サンプルは、インピーダンス分光法に関する試験をした。8モルパーセント(m/o)のイットリア(8YSZ)を有する十分に安定化したジルコニアは、堆積研究および工程開発用の主な電解質材料として用いることができる。これは、酸素イオン伝導性が適切なレベルであり、酸化および還元環境の両方において安定であるため、SOFCにおける最も一般的な電解質である。十分に安定化された層を用いることは、最大の導電性を生じ、部分的に安定化されたジルコニアに関わる相転移の問題を回避するために好ましい。
【0046】
Heraeus C−1000銀ペーストおよび銀リード線からなる電極をサンプル上で800℃で10分間燃焼した後、これら2つのサンプルは、試験信号を印加するために外に出ているリード線を備える加熱炉に入れた。周波数を2×10Hzから0.1Hzまで掃引し、その間、600、675および730℃でインピーダンススペクトルを得た。計算導電度値を参考文献15からのデータと共に図5に示す。この図は、サンプルA、B、および参考文献15からのYSZについての伝導度(単位:Ω−1cm−1)対温度(1000/T、K−1)のプロットである。CCVD堆積YSZ膜について得られた高い伝導度は、高いエピタキシー度および膜中に結晶粒界が不在であることによって説明することができる。高いエピタキシー度および結晶粒界の不在は、界面および境界の抵抗を減少させ、それゆえ、伝導度を増大させる。小さいずれの原因は、YSZ膜を通り抜ける伝導ではなく、膜表面を横切る伝導(サファイアは伝導性でないので、小さいに違いない)および、サンプルの形状の寸法誤差である。ここで試験に用いた構造は、YSZ膜に基づくデータをもたらすことはできるが、基板のため、この伝導度データを燃料電池用途に直接適用することはできない。SEMによる観察では、膜は高密度で均一であり結晶粒界または細孔を有さなかった。サファイア上のYSZ膜のXRDパターンは、(111)の好ましい配向を示した。CCVDによってA軸サファイア上に堆積されたYSZ膜についての(111)ピークのXRD極点図パターンを得た。強度は、4つの45度ψ位置(互いに90°)におけるものを除いて1未満(最大0.5%未満である)であり、極点図の起点における非常に小さいピークである。この極点図は、YSZ膜における高いエピタキシー度を示している。
【0047】
イットリア安定化ジルコニア(8m/0イットリア、8YSZ)、セリア(CeO)、イットリア−ドープセリア(YDC)、イットリア安定化酸化ビスマス(YSB)およびサマリア−ドープセリア(SDC)を含む酸化物電解質材料をCCVD法を用いて基板に堆積させた。一般に用いられるカソードであるストロンチウムドープ亜マンガン酸ランタン(LSM)もCCVD技術によって堆積させた。堆積パラメータを調節して、LSM膜について多孔質、柱状構造を達成した。イットリア安定化ジルコニア基固体酸化物燃料電池は、アノードとしてNi−YSZを、電解質としてYSZを、およびカソードとして銀を用いて組立てた。セリア膜は、石英ガラスおよびサファイア基板、両方の上に堆積させた。セリアナイト層の高結晶性膜を700℃という低さの火炎温度で製造した。XRDパターンは、(200)の好ましい配向、および堆積温度が上昇するにつれて増大するエピタキシー度を示した。YDC、YSBおよびSDC薄膜もサファイア基板上に堆積させて、SOFC用のセリア基およびビスマス基電解質の製造におけるCCVDの実行可能性を開発した。CCVDを用いて、高結晶性で高密度の膜を製造した。前駆物質溶液の濃度、堆積温度、および霧化の設定を調節することによって、粘着性で柱状のLSMカソード層をサファイア基板に堆積させた。堆積層の膜厚には、約420nmの層が挙げられる。1350℃でのCCVD処理によって堆積させたYSZ薄膜のSEM写真は、結晶粒界がない高密度膜を示し、対照用の異物である白い球も確認された。膜は、霧化度の変化によって達成される波状構造を示し、また、柱状構造も達成された。さらに、YSZ(111)XRD極点図は、A面サファイア上で強いエピタキシーを示し、CeO(111)XRD極点図は、アルミン酸ランタン(100)上で強いエピタキシーを示した。
【0048】
主要な電極材料候補は、Ni−YSZおよびLaドープマンガン酸ストロンチウム(LSM)である。これらの材料は、CCVDによって、またはその他の方法を併用して電解質上に堆積させる。多孔質LSMの例を図8に示す。コーティング技術を併用することについての別の例には、CCVD法を用いて高密度電解質上に電解質材料の多孔質層を最初に堆積させることが含まれる。多孔質層を堆積させた後、次の工程では、電極材料を細孔に浸潤させて、長いTPB線長を維持しながら相接多孔質電極を形成することである。
【実施例2】
【0049】
本実施例では、CCVDを用いてLSMをA面サファイア上に堆積させた。前駆物質溶液は、0.21gのMn−2eh(ミネラルスピリットで希釈し、6重量%Mnにしたもの)、1.96gのLa−2eh(ミネラルスピリットで希釈し、2重量%Laにしたもの)、0.97gのSr−2eh(2−エチルヘキサン酸中の10重量%Sr、およびトルエンでさらに希釈して1.25重量%Srにしたもの)からなる。この溶液をトルエンに添加して全量10mLとし、その後、60gのプロパンに添加した。この溶液を速度3mL/分、全堆積時間30分で供給した。2.42Aの電流を3500mL/分のチップ酸素を伴うニードルに供給した。チップ酸素は60psiであった(水素もアルゴンも伴わない)。火炎温度は、1200〜1400℃に維持した。図8において、サファイア上のLSMのSEM写真は、多孔質で柱状のミクロ構造を示している。電極層の多孔度は、気体状化学種またはイオンを電解質に輸送し、その間、界面における関連電気化学反応から電子を回収することができるために十分でなければならない。
【実施例3】
【0050】
本実施例では、CCVDを用いてYSBをA面サファイア上に堆積させた。前駆物質溶液は、2.88gのBa−2eh(キシレン中の8.5重量%Ba、およびトルエンでさらに希釈して2重量%Baにしたもの)、0.08gのY−eh(トルエンで希釈して0.69重量%Yにしたもの)からなる。この溶液をトルエンに添加して全量10mLとし、その後、60gのプロパンに添加した。この溶液を速度3mL/分、全堆積時間29分で供給した。2.50Aの電流を3300mL/分のチップ酸素を伴うニードルに供給した。火炎温度は、1200℃に維持した。チップ酸素は60psiであった(水素もアルゴンも伴わない)。
【実施例4】
【0051】
本実施例では、CCVDを用いてYDCをA面サファイア上に堆積させた。前駆物質溶液は、1.17gのCe−2eh(2−エチルヘキサン酸中の12重量%Ce、およびトルエンでさらに希釈して1.8重量%Ceにしたもの)、0.22gのY−2eh(トルエンで希釈して0.69重量%Yにしたもの)からなる。この溶液をトルエンに添加して全量14mLとし、その後、51gのプロパンに添加した。この溶液を速度3mL/分、全堆積時間21分で供給した。2.76Aの電流を3500mL/分のチップ酸素を伴うニードルに供給した。火炎温度は、1350℃に維持した。チップ酸素は60psiであった(水素もアルゴンも伴わない)。
【0052】
気体分離膜、特に水素選択性膜の分野では、SrZrOおよびSrCeO等の水素伝導性ペロブスカイトセラミック酸化物コーティングをパラジウム上に堆積させる。これらの膜は、高密度であり、均一であり、ピンホールがなく、サブミクロン厚である。300℃におけるこれらの複合材料膜による水素輸送率は、約70GPUである。
【実施例5】
【0053】
本実施例では、CCVDを用いてSrZrOをPd上に堆積させた。前駆物質溶液は、2.19gのSr−2eh(2−エチルヘキサン酸中の10重量%Sr、およびトルエンでさらに希釈して1.5重量%Srにしたもの)、0.912gのZr−2eh(ミネラルスピリットで希釈して6重量%Zrにしたもの)、0.24gのY−2eh(トルエンで希釈して0.7重量%Yにしたもの)からなる。この溶液を160mLのISPに添加し、その後、75gのプロパンに添加した。この溶液を速度3.13mL/分、全堆積時間38分で供給した。3.0Aの電流を5930mL/分のチップ酸素(80psi)および1200mL/分のパイロット水素を伴うニードルに供給した。火炎温度は、1150℃に維持した。
【0054】
コンデンサ用のエピタキシャル誘電体は、広範な誘電体材料から形成することができる。CCVD法を用いて、単一層のエピタキシャル(XRDにより決定)SrTiO、Ba0.5Sr0.5TiO、およびBa0.6Sr0.4TiO膜を(100)MgO単結晶基板上に首尾よくコーティングした。実施例を以下に記載する。
【実施例6】
【0055】
本実施例では、CCVD法を用いてSrTiOコーティングをMgO上に堆積させた。SrTiO前駆物質の溶液は、2−エチルヘキサン酸ストロンチウムの形態の0.0452重量%のSr、0.0449重量%のTi(ジ−i−プロポキシド)ビス(アセチルアセトネート)、13.3329重量%のトルエン、0.5828重量%のイソプロパノール、および85.9919重量%のプロパンを含有した。溶液の流量を2.0mL/分に、チップ酸素の流量は、80psiで4000mL/分に保った。基板表面で測定した堆積温度は、900から1100℃であった。
【実施例7】
【0056】
本実施例では、CCVD法を用いてBa0.5Sr0.5TiOコーティングをMgO上に堆積させた。Ba0.5Sr0.5TiO前駆物質の溶液は、2−エチルヘキサン酸ストロンチウムの形態の0.0146重量%のSr、2−エチルヘキサン酸バリウムの形態の0.0420重量%のBa、0.0311重量%のTi(ジ−i−プロポキシド)ビス(アセチルアセトネート)、13.3774重量%のトルエン、0.0104重量%のイソプロパノール、0.5023重量%の1−ブタノール、および86.0404重量%のプロパンを含有した。溶液の流量は、2.0mL/分に、チップ酸素の流量は、80psiで4000mL/分に保った。基板表面で測定した堆積温度は、900から1100℃であった。
【実施例8】
【0057】
本実施例では、CCVD法を用いてBa0.6Sr0.4TiOコーティングをMgO上に堆積させた。Ba0.6Sr0.4TiO前駆物質の溶液は、2−エチルヘキサン酸ストロンチウムの形態の0.0143重量%のSr、2−エチルヘキサン酸バリウムの形態の0.0615重量%のBa、0.0355重量%のTi(ジ−i−プロポキシド)ビス(アセチルアセトネート)、12.6049重量%のトルエン、0.0118重量%のイソプロパノール、1.5333重量%の1−ブタノール、および85.7412重量%のプロパンを含有した。溶液の流量は、2.0mL/分に、チップ酸素の流量は、80psiで4000mL/分に保った。基板表面で測定した温度は、900から1100℃であった。
【0058】
本明細書中で用いた技術は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、これらによって限定されるものではない。明細書および添付の特許請求で用いる単数形「a」「an」および「the」は、特に文脈が明確に指図しない限り、複数の指示対照を含む。
【0059】
本出願を通して、出版物が参照される場合には、本出願はこれらの出版物全文の開示を本出願に参照して組み込み、本発明が属する技術分野の状態をより完全に説明する。
【0060】
本発明の範囲から逸脱することなく、多様な修正または変形を施すことができることは、当業者には明白であろう。本発明のその他の実施形態は、本出願において開示した明細書の再考から当業者には明らかとなろう。本明細書は、特許請求が示している本発明の範囲における単なる一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向金属基板を含む製品であって、その基板上には、[SrTiO]LaAlO、およびSrLaAlOからなる群から選択される材料を含むエピタキシャルバッファ層が形成されている製品。
【請求項2】
前記金属基板がNiを含有する、請求項1に記載の製品。
【請求項3】
前記エピタキシャルバッファ層上に超電導層をさらに含んでいる、請求項1に記載の製品。
【請求項4】
前記超電導層が、YBaCu7−x、YbBaCu7−x、およびNdBaCu7−xからなる群から選択される、請求項3に記載の製品。
【請求項5】
前記超電導層上に最終層をさらに含む、請求項3に記載の製品。
【請求項6】
前記最終層が絶縁体である、請求項5に記載の製品。
【請求項7】
前記絶縁体がSrTiO、LaAlO、およびSrLaAlO、CeO、YSZおよびRE(式中、REは希土類金属である)からなる群から選択される、請求項6に記載の製品。
【請求項8】
前記最終層が伝導体である、請求項5に記載の製品。
【請求項9】
前記最終層がAgおよびLaNiOからなる群から選択される、請求項8に記載の製品。
【請求項10】
Ni含有配向基板、
前記基板上のエピタキシャルバッファ層(前記エピタキシャルバッファ層は、[SrTiO]LaAlO、およびSrLaAlOからなる群から選択される)、
前記エピタキシャルバッファ層上のYBaCu7−xの超電導層、および
前記超電導層上の最終層、
を含む製品。
【請求項11】
SOFC用の電解質であって、前記電解質がエピタキシャル薄膜からなる電解質。
【請求項12】
前記エピタキシャル薄膜が実質的に単結晶を含む、請求項11に記載の電解質。
【請求項13】
電解質の表面に直接堆積された電極を有する、請求項11に記載の電解質。
【請求項14】
アノード層、
前記アノード層上の電解質層、および
前記電解質層上のカソード層、
を含み、前記電解質層がエピタキシャル薄膜を包含するSOFC。
【請求項15】
前記エピタキシャル薄膜が単結晶を含む、請求項14に記載のSOFC。
【請求項16】
気体分離膜であって、前記膜が、高密度であり気密であり、且つ、ピンホールのない薄膜を含む膜。
【請求項17】
第1導電部、誘電部、および第2導電部を含み、前記誘電層がエピタキシャル薄膜を含むコンデンサ。
【請求項18】
前記コンデンサのキャパシタンスが第1導電部と第2導電部の間に印加されるDCバイアスを変化させることによって調整されるように、前記薄膜が強誘電材料から形成される、請求項17に記載のコンデンサ。
【請求項19】
配向金属基板を提供すること、
[SrTiO]LaAlO、およびSrLaAlOからなる群から選択される材料を含むバッファ層を配向金属基板上に堆積させるために、燃焼化学蒸着法を実施すること、
を含む製法によって形成されるエピタキシャルバッファ層。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−44705(P2011−44705A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−166139(P2010−166139)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【分割の表示】特願2000−594127(P2000−594127)の分割
【原出願日】平成12年1月12日(2000.1.12)
【出願人】(599060917)エヌジマット・カンパニー (2)
【Fターム(参考)】