説明

エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、金属箔付き樹脂シート、樹脂シート、積層板、多層板

【課題】有害物質の発生を伴わずに難燃性を確保し、吸湿してもガラス転移温度が低下しにくく、誘電率及び誘電正接を共に低減することができるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】リン変性エポキシ樹脂(A)、リン変性硬化剤(B)、及びリン原子を含有しない硬化剤(C)を含有するエポキシ樹脂組成物に関する。前記リン原子を含有しない硬化剤(C)として、4官能フェノール樹脂(C1)と、数平均分子量が500〜3000であり1分子中に平均1.0〜3.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテル(C2)とから選ばれるものが用いられている。リン含有量が前記エポキシ樹脂組成物の樹脂固形分に対して1.5〜4.5質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の製造に用いられるエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、金属箔付き樹脂シート(樹脂付き金属箔)、樹脂シート、積層板、多層板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子・電気機器に用いられる銅張積層板は火災の防止・遅延といった安全性が強く要求されていることから、難燃化のために臭素原子等のハロゲン原子を導入したエポキシ樹脂組成物が広く用いられてきた。エポキシ樹脂を高臭素化することは比較的容易であり、高臭素化したエポキシ樹脂と、臭素化されていないエポキシ樹脂または低臭素化されたエポキシ樹脂とを組み合わせることで、高ガラス転移温度、耐熱性等の積層板に必要な性能を得ることができる。
【0003】
一方、近年では環境対策として、臭素原子等のハロゲン原子の代わりにエポキシ樹脂にリン原子を導入したエポキシ樹脂組成物も用いられてきている。また、硬化剤にリン原子を導入する技術も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、近年では、通信分野等において信号伝送の高速化が進んでいるが、そのために信号周波数を高くすると一般に伝送ロスが増大し機器の機能に支障を生じる。そこで、プリント配線板用の多層板においても、誘電率(Dk)、誘電正接(Df)の低い材料を用いることにより伝送ロスを小さくすることが必要となってきている。
【0005】
しかしながら、ハロゲン原子の代わりにリン原子を導入したエポキシ樹脂組成物は、誘電率、誘電正接が高くなり誘電特性が低下する傾向がある。
【0006】
従来、エポキシ樹脂組成物等の誘電特性を向上させる技術として、水酸基を有するポリフェニレンエーテルを硬化剤として用いること(例えば、特許文献2、3参照)や、水酸基を有するポリフェニレンエーテルをグリシジル化したエポキシ樹脂を用いること(例えば、特許文献4参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−501063号公報
【特許文献2】特開2004−231728号公報
【特許文献3】特開2004−217854号公報
【特許文献4】特許第3879831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、水酸基を有するポリフェニレンエーテルを用いてエポキシ樹脂組成物を調製する場合、このエポキシ樹脂組成物を用いて作製されたプリプレグ、金属箔付き樹脂シート、樹脂シート、積層板、多層板は、吸湿するとガラス転移温度が大幅に低下しやすくなるという問題点があった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、有害物質の発生を伴わずに難燃性を確保し、吸湿してもガラス転移温度が低下しにくく、誘電率及び誘電正接を共に低減することができるエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、金属箔付き樹脂シート、樹脂シート、積層板、多層板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、リン変性エポキシ樹脂(A)、リン変性硬化剤(B)、及びリン原子を含有しない硬化剤(C)を含有するエポキシ樹脂組成物であって、前記リン原子を含有しない硬化剤(C)として、4官能フェノール樹脂(C1)と、数平均分子量が500〜3000であり1分子中に平均1.0〜3.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテル(C2)とから選ばれるものが用いられていると共に、リン含有量が前記エポキシ樹脂組成物の樹脂固形分に対して1.5〜4.5質量%であることを特徴とするものである。
【0011】
前記エポキシ樹脂組成物において、リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)を含有し、前記リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)として、数平均分子量が500〜3000であり1分子中に平均1.5〜2.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテルと1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂とを反応させて得られたエポキシ樹脂が用いられていることが好ましい。
【0012】
前記エポキシ樹脂組成物において、リン変性エポキシ樹脂(A)として、下記式(I):
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基を示し、nは0〜4の整数を示す。)で表される有機リン化合物及びキノン化合物の反応生成物と、ノボラック型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂とを反応させて得られたものが用いられていることが好ましい。
【0015】
前記エポキシ樹脂組成物において、リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)を含有し、前記リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)として、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、フェノールノボラック型エポキシ樹脂とから選ばれるものが用いられていることが好ましい。
【0016】
前記エポキシ樹脂組成物において、リン変性硬化剤(B)として、下記式(I):
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基を示し、nは0〜4の整数を示す。)で表される有機リン化合物と、フェノール類及びホルムアルデヒドを反応させて得られる縮合生成物を少なくとも1種のモノマーアルコールでエーテル化した化合物とを反応させて得られたものが用いられていることが好ましい。
【0019】
前記エポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂組成物の樹脂固形分に対して35〜350質量%の無機充填材を含有することが好ましい。
【0020】
本発明に係るプリプレグは、前記エポキシ樹脂組成物を基材に含浸し乾燥して得られたものであることを特徴とするものである。
【0021】
本発明に係る金属箔付き樹脂シートは、前記エポキシ樹脂組成物を金属箔に塗布し乾燥して得られたものであることを特徴とするものである。
【0022】
本発明に係る樹脂シートは、前記エポキシ樹脂組成物を有機フィルムに塗布し乾燥して得られたものであることを特徴とするものである。
【0023】
本発明に係る積層板は、前記プリプレグ、前記金属箔付き樹脂シート、前記樹脂シートから選ばれる少なくとも1種を所要枚数重ねて加熱加圧し積層成形したものであることを特徴とするものである。
【0024】
本発明に係る多層板は、前記プリプレグ、前記金属箔付き樹脂シート、前記樹脂シートから選ばれる少なくとも1種を内層用回路板に重ねて加熱加圧し積層成形したものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、有害物質の発生を伴わずに難燃性を確保し、吸湿してもガラス転移温度が低下しにくく、誘電率及び誘電正接を共に低減することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
本発明においてエポキシ樹脂組成物は、リン変性エポキシ樹脂(A)、リン変性硬化剤(B)、及びリン原子を含有しない硬化剤(C)を含有するものである。
【0028】
リン変性エポキシ樹脂(A)としては、例えば、有機リン化合物及びキノン化合物の反応生成物と、エポキシ樹脂とを反応させて得られるものを用いることができる。
【0029】
本発明において有機リン化合物としては、吸湿後のガラス転移温度を高めることができ、溶解性が良好で、リン含有量も高い点から、上記式(I)で表される有機リン化合物が好ましい。上記式(I)において、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基、好ましくは炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基を示す。nは0〜4の整数を示す。上記式(I)で表される有機リン化合物の好ましい具体例としては、3,4,5,6−ジベンゾ−1,2−オキサフォスファン−2−オキシドを挙げることができる。
【0030】
その他、有機リン化合物として、ジフェニルホスフィンオキシド等を用いることができる。
【0031】
有機リン化合物と反応させるキノン化合物の具体例としては、1,4−ベンゾキノン、1,2−ベンゾキノン、トルキノン、1,4−ナフトキノン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
リン変性エポキシ樹脂(A)の原料となるエポキシ樹脂として、硬化物の耐熱性確保、特にガラス転移温度を高める点から、好ましくはフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂が用いられる。ノボラック型エポキシ樹脂は、好ましくは、エポキシ樹脂全量の20質量%以上(上限は100質量%)の割合で配合される。
【0033】
リン変性エポキシ樹脂(A)の原料となるエポキシ樹脂が全体としてノボラック型エポキシ樹脂を含む混合物である場合、ノボラック型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂の具体例としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を持つもの、例えばビスフェノール型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0034】
リン変性エポキシ樹脂(A)は、例えば、トルエン等の溶剤中において上記の有機リン化合物及びキノン化合物を反応させた後、その反応生成物とエポキシ樹脂とを混合し反応させることにより得ることができる。
【0035】
例えば、上記式(I)で表される有機リン化合物を用いる場合、有機リン化合物とキノン化合物との反応は、キノン化合物1モルに対して有機リン化合物を1〜2モルの範囲で配合し、予め有機リン化合物をジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の不活性溶剤に溶解したものにキノン化合物を添加し加熱攪拌することにより行うことができる。
【0036】
ここで、添加する際のキノン化合物としては、予め粉末状にしたものや溶剤に溶解したものを用いることができる。また、有機リン化合物とキノン化合物との反応は発熱を伴うものであるため、急激な発熱が起きないように所定量のキノン化合物を滴下法により添加することが望ましい。そしてキノン化合物の添加後、例えば50〜150℃で1〜4時間の間反応を進行させる。
【0037】
その後、有機リン化合物とキノン化合物との反応生成物と、エポキシ樹脂とを反応させてリン変性エポキシ樹脂(A)を合成する際には、例えば、上記の反応生成物にエポキシ樹脂を添加し、必要に応じてトリフェニルホスフィン等の触媒を添加し、反応温度を100〜200℃に設定し、攪拌しながら反応を進行させる。
【0038】
このようにして得られるリン変性エポキシ樹脂(A)は、難燃性を確保しつつ耐熱性の低下も抑制する点からは、合成条件を適宜に変更することにより、リン含有量を1.2〜4質量%に調整すると共に、エポキシ当量を200〜600g/eqに調整することが好ましい。
【0039】
本発明においてリン変性硬化剤(B)としては、有機リン化合物と、フェノール類及びホルムアルデヒドを反応させて得られる縮合生成物を少なくとも1種のモノマーアルコールでエーテル化した化合物(以下、「化合物(B1)」という。)とを反応させて得られたものが好ましいものとして例示される。具体的には、リン変性硬化剤(B)として、特表2008−501063号公報(特許文献1)に記載されたリン変性硬化剤を用いることができる。
【0040】
上記フェノール類の具体例としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ビスフェノールA等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
これらのフェノール類と、ホルムアルデヒドとを反応させて1種又は2種以上のモノマー、ダイマー、又はそれ以上の縮合生成物を得た後、この縮合生成物を少なくとも1種のモノマーアルコールで部分的又は完全にエーテル化し化合物(B1)とする。これにより、例えば、メチレン結合及び/又はジメチレンエーテル結合を有し、ベンゼン環上にCHOH基を有する化合物(B1)を得ることができる。
【0042】
上記モノマーアルコールの具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール等の炭素数1〜20の直鎖又は分岐のアルコール等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
このようにして得られたリン変性硬化剤(B)は、数平均分子量が好ましくは50〜10000、重量平均分子量が好ましくは100〜15000である。
【0044】
有機リン化合物としては、吸湿後のガラス転移温度を高めることができ、溶解性が良好で、リン含有量も高い点から、上記式(I)で表される有機リン化合物を好ましく用いることができ、その具体例としては、3,4,5,6−ジベンゾ−1,2−オキサフォスファン−2−オキシドを挙げることができる。その他の有機リン化合物の具体例としては、ジメチルホスファイト、ジフェニルホスファイト、エチルホスホン酸、ジエチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸、フェニルホスフィン、ビニルリン酸等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
上記の有機リン化合物及び化合物(B1)からリン変性硬化剤(B)を合成する際には、例えば、有機リン化合物と化合物(B1)とを反応器中で混合し、170℃以上かつこれらの化合物の分解温度未満の温度で2〜6時間反応を進行させる。この際、副生成物等を除去するために反応器中の圧力を大気圧未満の圧力、例えば0.1bar(10kPa)未満まで低下させ、必要に応じて気体又は揮発性有機液体でパージしながら反応を進行させる。
【0046】
有機リン化合物と化合物(B1)は、好ましくは2:1〜1:2の範囲の質量比で混合する。必要に応じて、有機リン化合物と化合物(B1)との混合物に触媒や溶剤等を添加することができる。
【0047】
このようにして得られるリン変性硬化剤(B)は、リン含有量が好ましくは4〜12質量%であり、メトラー軟化点が好ましくは100〜250℃である。
【0048】
本発明においてリン原子を含有しない硬化剤(C)としては、4官能フェノール樹脂(C1)と、数平均分子量が500〜3000であり1分子中に平均1.0〜3.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテル(C2)とから選ばれるものを用いる。これにより、エポキシ樹脂組成物を用いて作製されたプリプレグ、金属箔付き樹脂シート、樹脂シート、積層板及び多層板が吸湿しても、これらのガラス転移温度は低下しにくく、しかも誘電率及び誘電正接を共に低減し、誘電特性を高めることができるものである。
【0049】
4官能フェノール樹脂(C1)としては、主成分として1分子中に4個の水酸基を有するフェノール樹脂であれば、特に限定されることなく用いることができる。
【0050】
他方、数平均分子量が500〜3000であり1分子中に平均1.0〜3.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテル(C2)としては、例えば、直鎖構造の構成単位として−O−X−O−の構造を有するものを用いることができる。ここでXは、置換又は無置換のフェニレン基、あるいは置換又は無置換の2個のフェニレン基が炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素で結合した2価の基等が挙げられる。フェニレン基の置換基としては、水酸基、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基等が挙げられる。
【0051】
ポリフェニレンエーテルの分子量が500未満であると、水酸基の量が多くなり誘電率が低下しにくくなる場合がある。ポリフェニレンエーテルの分子量が3000を超えると、エポキシ樹脂組成物を調整する際における溶剤への溶解性が低下する場合がある。
【0052】
さらに本発明では、上記のポリフェニレンエーテルとして、数平均分子量が500〜2000であり1分子中に平均1.5〜2.5個の水酸基を有するものを用いることが好ましい。このようなポリフェニレンエーテルを用いることで、エポキシ樹脂組成物を調製する際における溶剤への溶解性を特に高めることができる。
【0053】
リン原子を含有しない硬化剤(C)としては、さらにフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤、ジシアンアミド、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
そして、ハロゲンを用いることなく、リン変性硬化剤(B)を用いることで、有害物質の発生を伴わずに積層板や多層板に必要な難燃性及び耐熱性を確実に確保しつつ、リン原子を含有しない硬化剤(C)を用いることで、誘電特性を高めることができ、そして層間接着性の低下も抑制することができるものである。
【0055】
リン変性硬化剤(B)及びリン原子を含有しない硬化剤(C)は、好ましくは、リン変性エポキシ樹脂(A)及びリン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)との化学量論上の当量比(硬化剤(B)、(C)の当量/エポキシ樹脂(A)、(D)の当量)が0.5〜1.5となる量、より好ましくは当量比が0.8〜1.2となる量で配合される。この範囲を逸脱すると、硬化物の物性等が低下する場合があり、例えばガラス転移温度が低下する場合がある。
【0056】
エポキシ樹脂組成物には、リン変性エポキシ樹脂(A)のほか、リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)が含有されていてもよい。このリン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)としては、数平均分子量が500〜3000であり1分子中に平均1.5〜2.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテルと1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂とを反応させて得られたエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0057】
このようなエポキシ樹脂を用いることで、誘電特性を高めることができ、そしてポリフェニレンエーテル構造を有するエポキシ樹脂の相溶性が向上し、リン変性エポキシ樹脂(A)等の他の樹脂成分と相溶させることができる。
【0058】
1分子中に平均1.5〜2.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテルとしては、例えば、直鎖構造の構成単位として−O−X−O−の構造を有するものを用いることができる。ここでXは、置換又は無置換のフェニレン基、あるいは置換又は無置換の2個のフェニレン基が炭素数20以下の直鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素で結合した2価の基等が挙げられる。フェニレン基の置換基としては、水酸基、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基等が挙げられる。
【0059】
ポリフェニレンエーテルの数平均分子量が500未満であると、水酸基の量が多くなり誘電率が低下しにくくなる場合がある。ポリフェニレンエーテルの数平均分子量が3000を超えると、これを用いて製造した上記エポキシ樹脂の相溶性が低下する場合がある。
【0060】
上記のポリフェニレンエーテルと反応させる1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
上記のポリフェニレンエーテルと1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂とを反応させるにあたっては、例えば、当量比を考慮して配合量を設定し、これらをジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の不活性溶剤に溶解し、必要に応じてイミダゾール系化合物等の硬化促進剤を添加し、反応温度を100〜200℃に設定して攪拌しながら反応を進行させる。
【0062】
エポキシ樹脂組成物には、リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)として、上記のポリフェニレンエーテルと1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂とを反応させて得られたエポキシ樹脂のほか、他のエポキシ樹脂が含有されていてもよい。このようなエポキシ樹脂の具体例としては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
中でも、環境対策の点からは、臭素原子等のハロゲン原子を含有しないものが好ましい。また、エポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度を高める点からは、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0064】
本発明においてエポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内において、上記成分(A)〜(D)と共に他の成分を配合することができる。このような他の成分の具体例としては、無機充填材、硬化促進剤等が挙げられる。
【0065】
無機充填材は、これをエポキシ樹脂組成物に配合することで誘電特性を高めることができる。無機充填材としては、例えば、溶融シリカ等が挙げられる。中でも、平均粒子径(メジアン径)1〜5μmのものが好ましい。無機充填材の含有量は、エポキシ樹脂組成物の樹脂固形分に対して35〜350質量%であることが好ましい。上記の含有量が少な過ぎると誘電特性の向上が不十分となる場合があり、上記の含有量が多過ぎると他の物性や流動特性に悪影響を与える場合がある。
【0066】
なお、本明細書においてエポキシ樹脂組成物の「樹脂固形分」とは、エポキシ樹脂組成物に配合される上記成分(A)〜(D)等の樹脂成分による固形分(無機充填材は含まない。)のことである。
【0067】
硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール類、第3級アミン類、第4級アンモニウム塩、有機ホスフィン類等が挙げられる。
【0068】
また、本発明においてエポキシ樹脂組成物は、溶剤で希釈することによりワニスとして調製してもよい。このような溶剤の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。
【0069】
本発明においてエポキシ樹脂組成物は、リン含有量がエポキシ樹脂組成物の樹脂固形分に対して1.5〜4.5質量%、好ましくは1.7〜4.0質量%である。リン含有量を上記の範囲内とすることで、臭素原子等を含有するハロゲン系化合物を用いずとも十分な難燃性を確保することができると共に、電子・電気機器に用いられる積層板や多層板に必要な耐熱性を得ることができる。リン含有量が1.5質量%未満であると、積層板や多層板に必要な難燃性を得ることができない場合がある。一方、リン含有量が4.5質量%を超えると、積層板や多層板に必要な耐熱性を得ることができない場合がある。
【0070】
本発明においてプリプレグを作製する際には、上記のエポキシ樹脂組成物をワニスとして調製し、このワニスを基材に含浸する。そして、例えば乾燥機中で120〜190℃、3〜15分間の加熱乾燥をすることにより、半硬化状態(Bステージ)にしたプリプレグを作製することができる。
【0071】
基材としては、ガラスクロス、ガラスペーパー、ガラスマット等のガラス繊維布の他、クラフト紙、天然繊維布、有機合成繊維布等も用いることができる。
【0072】
本発明において金属箔付き樹脂シートを作製する際には、上記のエポキシ樹脂組成物をワニスとして調製し、このワニスを金属箔の一方の面にロールコーター等を用いて塗布する。そして、例えば乾燥機中で120〜190℃、3〜15分間の加熱乾燥をすることにより、半硬化状態(Bステージ)にした金属箔付き樹脂シートを作製することができる。
【0073】
この金属箔付き樹脂シートの樹脂部分の厚さは、例えば5〜80μmである。金属箔としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔、真鍮箔、ニッケル箔等の金属箔を単独で用いることができ、あるいは合金等の複合材料よりなる箔を用いることができる。このような金属箔の厚さは、例えば9〜70μmである。
【0074】
本発明において樹脂シートを作製する際には、上記のエポキシ樹脂組成物をワニスとして調製し、このワニスを有機フィルムの一方の面にキャスティング法等を用いて塗布する。そして、例えば乾燥機中で100〜200℃、1〜40分間の加熱乾燥をすることにより、半硬化状態(Bステージ)にした樹脂シートを作製することができる。
【0075】
この有機フィルムを用いた樹脂シートの樹脂部分の厚さは、例えば5〜80μmである。有機フィルムとしては、ワニスに溶解しないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム等を用いることができる。なお、予め有機フィルムの表面を離型剤で処理しておくと、成形された樹脂シートを有機フィルムから容易に剥離することができて作業性が向上する。
【0076】
本発明において積層板は、上記のようにして得られたプリプレグ、金属箔付き樹脂シート、樹脂シートから選ばれる少なくとも1種を所要枚数重ね、例えば140〜220℃、0.5〜5.0MPa、40〜240分間の条件下で加熱加圧して積層成形することによって作製することができる。
【0077】
この際、片面側又は両面側の最外層のプリプレグ又は樹脂シートに金属箔を重ね、これらを加熱加圧して積層成形することにより、金属張積層板を作製することができる。金属箔としては、銅箔、銀箔、アルミニウム箔、ステンレス箔等を用いることができる。
【0078】
なお、金属箔付き樹脂シートを用いる場合には、これを最外層とし、かつ金属箔側を外側にして加熱加圧して積層成形することにより、金属張積層板を作製することができる。
【0079】
本発明において多層板は、次のようにして作製することができる。予め積層板の片面又は両面にアディティブ法やサブトラクティブ法等により内層用の回路を形成すると共に、酸溶液等を用いてこの回路の表面に黒化処理を施すことにより、内層用回路板を作製しておく。
【0080】
そして、この内層用回路板の片面又は両面に、上記のプリプレグ、金属箔付き樹脂シート、樹脂シートから選ばれる少なくとも1種を所要枚数重ね、さらに必要に応じてその外面に金属箔を重ねて、これを加熱加圧して積層成形することにより多層板を作製することができる。
【0081】
そして、上記のようにして作製した積層板や多層板の片面又は両面にアディティブ法やサブトラクティブ法等によって回路を形成し、必要に応じて、レーザ加工やドリル加工等により穴あけを行い、この穴にめっきを施してバイアホールやスルーホールを形成する等の工程を経ることによって、プリント配線板や多層プリント配線板を作製することができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0083】
エポキシ樹脂組成物の配合成分として以下のものを用いた。
【0084】
(1)リン変性エポキシ樹脂(A)
・3,4,5,6−ジベンゾ−1,2−オキサフォスファン−2−オキシド(式(I)で表される有機リン化合物)及び1,4−ナフトキノンの反応生成物と、ノボラック型エポキシ樹脂との反応により得られるリン変性エポキシ樹脂、東都化成(株)製、FX289 EK75、エポキシ当量315g/eq、リン含有量2.2質量%
(2)リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)
・ポリフェニレンエーテルとエポキシ樹脂(エポトートYD−128)との反応物(i)
数平均分子量が500〜2000であり1分子中に平均1.5〜2.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテル(SABICイノベーティブプラスチックス社製、MX90)56.95g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製、エポトートYD−128)43.05g、2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業(株)製、キュアゾール 2E4MZ)0.1g、トルエン70gを冷却管付きフラスコに入れ、110℃の熱を加え5時間反応させることで、反応物(i)を合成した。得られた反応物(i)について、JIS K7236:1986に従ってエポキシ当量を求めたところ、エポキシ当量は759であり、固形分濃度は60質量%であった。
【0085】
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、DIC(株)製、Epiclon N690 75M、エポキシ当量210〜240g/eq
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂、東都化成(株)製、エポトートYD−128
(3)リン変性硬化剤(B)
・特表2008−501063号公報(特許文献1)の実施例8に従って、式(I)で表される有機リン化合物と、フェノール類及びホルムアルデヒドを反応させて得られる縮合生成物をモノマーアルコールでエーテル化した化合物とを反応させて得られたリン変性フェノール化合物
(4)リン原子を含有しない硬化剤(C)
・ジシアンジアミド
・4官能フェノール樹脂(C1)、明和化成(株)製、MEH7600
・数平均分子量が500〜2000であり1分子中に平均1.5〜2.5個の水酸基を有するポリフェニレンエーテル(C2)、SABICイノベーティブプラスチックス社製、MX90
(5)無機充填材
・溶融シリカ、(株)龍森製、FUSELEX AS−1、平均粒子径3.2μm(メジアン径)
(6)硬化促進剤
・2−エチル−4−メチルイミダゾール、四国化成工業(株)製、キュアゾール 2E4MZ
(7)溶剤
・ジメチルホルムアミド
・トルエン
・メチルエチルケトン
上記の各成分を下記[表1]に示す配合量で配合して調製したエポキシ樹脂組成物を適宜に溶剤で希釈してワニスとし、このワニスをガラスクロス(日東紡(株)製、WEA7628)に含浸させた後、これを乾燥機にて160℃で3分間加熱乾燥させることにより、半硬化状態(Bステージ)にしたプリプレグを作製した。
【0086】
得られたプリプレグを8枚積層し、2枚の銅箔(日鉱グールド・フォイル(株)製、厚さ18μmのJTC箔)の間に挟み、200℃、30MPaの条件で120分間加熱加圧成形し、銅張積層板を作製した。
【0087】
このようにして得られた銅張積層板について、下記の評価を行った。
【0088】
[難燃性]
銅張積層板(厚さ1.6mm)の銅箔を除去した後、長さ125mm、幅12.5mmのテストピースを切り出した。このテストピースを用いて、Underwriters Laboratoriesの「Test forFlammability of Plasticmaterials-UL94」に準じて燃焼挙動の評価を行った。
【0089】
[誘電特性(誘電率、誘電正接)]
誘電特性(高周波特性)として、誘電率及び誘電正接(1GHz)をJIS C6481に従って測定した。
【0090】
[ガラス転移温度(Tg)]
吸湿前後の銅張積層板について、JIS C6481に従ってDSC法(Differentialscanning calorimetry)によりガラス転移温度を測定した。なお、銅張積層板の吸湿は40℃、90%RH、96時間の条件で行った。
【0091】
[相溶性]
銅張積層板を切断した後、断面を研磨し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて断面観察を行い、相溶性を確認した。
【0092】
評価の結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
実施例1〜4と比較例1とを対比すると、いずれも誘電率及び誘電正接は低いものの、実施例1〜4の吸湿前後のガラス転移温度の差が12〜15℃であるのに対し、比較例1の吸湿前後のガラス転移温度の差が26℃であることから、実施例1〜4の方が吸湿してもガラス転移温度が低下しにくいことが確認された。
【0095】
また、実施例1と実施例2〜4とを対比すると、リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)として、数平均分子量が500〜3000であり1分子中に平均1.5〜2.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテルと1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂とを反応させて得られたエポキシ樹脂を用いた実施例2〜4の方が相溶性が向上していることが確認された。
【0096】
また、比較例2は、リン含有量が少な過ぎるので、積層板や多層板に必要な難燃性を得ることができないことが確認された。
【0097】
また、比較例3は、リン含有量が多過ぎるので、吸湿前後のガラス転移温度が共に低く、積層板や多層板に必要な耐熱性を得ることができないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン変性エポキシ樹脂(A)、リン変性硬化剤(B)、及びリン原子を含有しない硬化剤(C)を含有するエポキシ樹脂組成物であって、前記リン原子を含有しない硬化剤(C)として、4官能フェノール樹脂(C1)と、数平均分子量が500〜3000であり1分子中に平均1.0〜3.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテル(C2)とから選ばれるものが用いられていると共に、リン含有量が前記エポキシ樹脂組成物の樹脂固形分に対して1.5〜4.5質量%であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)を含有し、前記リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)として、数平均分子量が500〜3000であり1分子中に平均1.5〜2.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテルと1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂とを反応させて得られたエポキシ樹脂が用いられていることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
リン変性エポキシ樹脂(A)として、下記式(I):
【化1】

(式中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基を示し、nは0〜4の整数を示す。)で表される有機リン化合物及びキノン化合物の反応生成物と、ノボラック型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂とを反応させて得られたものが用いられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)を含有し、前記リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)として、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、フェノールノボラック型エポキシ樹脂とから選ばれるものが用いられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
リン変性硬化剤(B)として、下記式(I):
【化2】

(式中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基を示し、nは0〜4の整数を示す。)で表される有機リン化合物と、フェノール類及びホルムアルデヒドを反応させて得られる縮合生成物を少なくとも1種のモノマーアルコールでエーテル化した化合物とを反応させて得られたものが用いられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂組成物の樹脂固形分に対して35〜350質量%の無機充填材を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を基材に含浸し乾燥して得られたものであることを特徴とするプリプレグ。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を金属箔に塗布し乾燥して得られたものであることを特徴とする金属箔付き樹脂シート。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を有機フィルムに塗布し乾燥して得られたものであることを特徴とする樹脂シート。
【請求項10】
請求項7に記載のプリプレグ、請求項8に記載の金属箔付き樹脂シート、請求項9に記載の樹脂シートから選ばれる少なくとも1種を所要枚数重ねて加熱加圧し積層成形したものであることを特徴とする積層板。
【請求項11】
請求項7に記載のプリプレグ、請求項8に記載の金属箔付き樹脂シート、請求項9に記載の樹脂シートから選ばれる少なくとも1種を内層用回路板に重ねて加熱加圧し積層成形したものであることを特徴とする多層板。

【公開番号】特開2011−202135(P2011−202135A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73572(P2010−73572)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】