ダイヤモンド材料
高い化学的純度、すなわち低い窒素含量と、高い同位体純度、すなわち低い13C含量とを有する単結晶ダイヤモンド、その製造方法及び該単結晶ダイヤモンドを含むソリッドステートシステムを開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドの合成方法及び該方法で製造され得る合成ダイヤモンド材料に関する。この合成ダイヤモンド材料は高い化学的純度と高い同位体純度を有するので、スピントロニクス(spintronic)用途に適した量子スピン欠陥用ホスト材料として使うのに理想的である。
【背景技術】
【0002】
ここ20年間にわたって、暗号法及び量子計算の2つの主要な応用分野のための単一光子源の使用及び操作に相当の関心があった。
これらの応用分野は、量子スケールに基づいて自然界に存在する基本的性質を利用し;測定が行なわれるまで、2つ以上の利用可能なスピン状態を有する粒子を全てのこれらのスピン状態の重ね合わせを有する粒子とみなすしかない。
いくつかの方法を用いて、個別のスピン状態を有する粒子、例えば光子、電子、原子核、原子欠陥などのスピン状態を操作することができ、またエネルギー源又は検出器を用いてスピン状態を検出及び/又は可制御的に変更することができる。個別のスピン状態を有する電子、光子、原子核又は原子欠陥は、伝統的コンピューターにおける「ビット」と類似しているので、「量子ビット」(又は「qubit」若しくは「qbit」)と呼ばれる。しかし、スピン状態の量子の性質のため、量子ビットは1種の2つのスピン状態のみならずこれらのスピン状態の重ね合わせでも存在し得る。スピン状態のこの重ね合わせが、量子ビットに基づいたコンピューターが古典的コンピューターができるよりずっと高速で一定の問題を計算できるようにしており、暗号用途では、盗聴者もがメッセージの内容を知ることなく、受信者にメッセージが送達されたかを発信者が確実に知ることができるようにする。
量子情報処理に必要なキーとなる要素は、個々の量子システムへの量子ビットの低エラーコーディング;ゲート時間に比べて長い時間の量子情報の蓄積;及び速い量子ゲートを形成する2量子ビットの制御できる相互関係である。
【0003】
量子ドット半導体から過冷却イオントラップの範囲の量子ビットホストとして使用するため多数の材料及び構造が提案されている。今日までの代替物は、極低温でしか操作できず、又は非常に短い横緩和寿命(「T2」と称する)を有するという欠点がある。対照的に、ダイヤモンド中の窒素空孔(nitrogen-vacancy)「NV」欠陥は、室温(約27℃(300K))の適用範囲でそれを使うのに十分長いT2を有し得る。ダイヤモンドのNV中心は個別の量子化磁気スピン状態を有するので、量子ビット用途に使用することができる。NV中心は、電子常磁性共鳴(EPR)、フォトルミネセンス(PL)、光吸収分光法及び一軸応力下分光法などの技法を利用して完全に特徴づけられている。ダイヤモンドにおいて、NV中心は、中性と負電荷の両状態で同定されている(それぞれ「NV0」及び「NV-」)。その負電荷状態(NV-)のNV中心は、中性状態(NV0)のNV中心の575nmに対して637nmにゼロフォノンライン(zero phonon line)(「ZPL」)を有する。
【0004】
量子ビット用途に好適な材料を製造するときの1つの主要問題は、量子ビットがデコヒーレンスしないようにするか、又はシステムがデコヒーレンスするのにかかる時間を長くする(すなわち「デコヒーレンス時間」を長くする)ことである。デコヒーレンスは一般的に量子が古典的になるプロセスと解釈されており;このプロセスによって、量子を1つと表現する重ね合わせ及び絡み合いから巨視的世界の決定論が生じる。デコヒーレンス時間を量子化して、横緩和時間T2を用いて比較することができる。T2は、NMR(核磁気共鳴)及びMRI(磁気共鳴映像法)技術で使われる専門用語であり、「位相散逸(dephasing)時間」又は「スピン-スピン緩和時間」としても知られる。横緩和は、ある材料に加えられた主磁場に垂直な励起磁気モーメントが平衡、すなわち、該磁場に平行に戻る緩和を表す。長いT2時間は、量子ゲートの配列の操作のためにより多くの時間を当てることができ、ひいては実行すべきより複雑な量子計算を可能にするので、量子計算等の用途で望ましい。
【0005】
特定の材料では、デコヒーレンス時間は検討している特有の磁気モーメントと関係していることがあり、例えばダイヤモンドでは、13C原子核と関係がある磁気モーメントはNV-中心の電子スピン状態の磁気モーメントと比較して異なるT2を有し得る。これらの各磁気モーメントは、量子用途で有利に使用され得るが、このタイプの用途では多くの点で異なる利益及び限界を示すので、そのT2がどの磁気モーメントについて報告されているかを明らかにすることが重要である。この明細書では、特に断らない限り、「T2」は、量子スピン欠陥、例えばダイヤモンドのNV-中心の電子スピン状態のデコヒーレンス時間を表し、他のT2値が適宜限定され、例えば「T2[13C]」は13C核磁気モーメントのT2時間を表すだろう。
【0006】
US7,122,837では、ダイヤモンドのNV中心が制御様式で創造される。一実施形態では、CVDプロセスを利用して単結晶ダイヤモンドを形成してから、アニールしてNV中心を除去する。次に、制御された数のNV中心を用いて単結晶ダイヤモンドの薄層を形成する。電子回路で使う量子ビットをNV中心が形成する。CVD形成ダイヤモンドでは、アニーリングに加えて、マスク及び制御されたイオン注入を利用して、光学用途とナノ電気機械装置形成の両方のための構造を創造する。導波路をNV中心に光学的につなげて形成し、さらに光源及び光の検出器に連結してNV中心と相互作用させ得る。
Kennedy及びLinares(Phys. Stat. Sol. (b), 233 (2002), 416-426)は、-272℃(1.5K)〜-173℃(100K)の温度で32μsのT2を有するNV中心を含むダイヤモンドを開示している。
Gaebel et al., Nature Physics, 2, June 2006, 408-413は、イオン注入によって形成されたNV中心を含む天然存在度の単結晶ダイヤモンドを開示しており、これは個々の欠陥から350μsのハーンエコー減衰時間(Hahn echo decay time)(デコヒーレンス時間T2)を示す。
NV-欠陥内の内部光学遷移は典型的に約10nsかかる。実行可能な量子計算装置では、T2時間はこれよりずっと大きいはずであり、エラー訂正などに十分なゲート操作を可能にする。従って、約500μs(0.5ms)より長いT2時間は、デコヒーレンスが失われる前に、相当数、典型的に約5×104のゲート操作を提供する。
一部の用途でさらに重要なパラメーターは、NV量子ビットからの読み書き情報に使用できる光学遷移の一時的なスペクトルの安定性に関連している。これは、個々の量子ビットから放出された光子間で絡み合いが達成される場合に特に重要である。量子の絡み合いのために識別不能に必要な条件の1つを保証するため、これらの光子の周波数は同一でなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に基づき、量子スピン欠陥用のホスト材料であって、材料に取り込まれるとき、量子スピン欠陥が、室温で、現在実証されているより長いT2時間を有する材料の必要性があることが明白である。さらに、最終用途で必要なように、特徴づけ及び「読み出し」のために容易にアクセスできる形態及び/又は場所でこれらの量子スピン欠陥を提供することが望ましいだろう。さらに、該量子スピン欠陥に読み書きするために使用する光学遷移の周波数が安定していることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この点について、本発明者らは、化学蒸着(CVD)法を利用してダイヤモンド材料を調製する条件を慎重に制御することによって、高い化学的純度と高い同位体純度を合わせ持つダイヤモンド材料を提供できることを見い出した。特に、CVDプロセスで使用する材料の化学的純度と同位体純度を両方とも制御することによって、量子スピン欠陥用ホストとして使用するのに特に適した合成ダイヤモンド材料を得ることができることが分かった。驚くべきことに、該材料を量子スピン欠陥のホストとして使用した場合、室温で長いT2時間が得られ、かつデバイスに読み書きするために使用する光学遷移の周波数が安定していることが分かった。
【0009】
さらに詳細には、本発明は、高い化学的純度及び高い同位体純度のダイヤモンド材料の調製方法であって、以下の工程:
実質的に結晶欠陥がない表面を有するダイヤモンド基板を供給する工程;
高純度ガスを含む源ガス混合物を供給する工程(ここで、前記源ガス混合物中の窒素濃度は約300ppb以下である);
その全C含量の少なくとも約99%の量で12Cを含む固体炭素源を供給する工程(ここで、前記固体炭素源は低い窒素不純物含量を有する);
前記源ガス混合物及び前記固体炭素源の少なくとも一部を活性化及び/又は解離させてガス状炭素種を形成する工程;及び
前記基板の表面上でホモエピタキシャルダイヤモンド成長させる工程
を含む方法を提供する。
この点について、本発明者ら驚くべきことに、高い同位体純度を有する固体酸素源を使用することによって、製造されるダイヤモンド材料の化学的純度と同位体純度を両方とも有意に高められることが分かった。
【0010】
本発明はさらに、高い化学的純度及び高い同位体純度のダイヤモンド材料の調製方法であって、以下の工程:
実質的に結晶欠陥がない表面を有するダイヤモンド基板を供給する工程;
高純度ガスを含む源ガス混合物と炭素源ガスを供給する工程(ここで、前記高純度ガスは、前記源ガス混合物中の全窒素レベルに約300ppb以下寄与し、前記炭素源ガスは、該炭素源ガスの全C含量の少なくとも99%の量で12Cを含み、かつ約20ppb以下の量で窒素不純物を含む);
前記源ガスを解離させる工程;及び
前記基板の表面上でホモエピタキシャルダイヤモンド成長させる工程
(このとき下記条件の少なくとも1つを満たす:
(a)基板の温度が約800℃〜約1000℃の範囲である;及び
(b)前記全源ガス混合物の、O2当量として測定される、体積で約0.5%〜約5%の量で酸素を前記源ガスに添加する)
を含む方法を提供する。
本発明の方法は、高い化学的純度と高い同位体純度を有する合成ダイヤモンド材料を提供する。この点について、本発明はさらに、本明細書で定義される方法によって得られる合成ダイヤモンド材料を提供する。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、合成ダイヤモンド材料の層であって、該ダイヤモンド層が約5ppb以下の全窒素濃度及び約0.9%以下の13Cの全濃度を有する、合成ダイヤモンド材料の層を提供する。
本発明の合成ダイヤモンド材料の層は、非常に低い不純物レベル及び非常に低い付随点欠陥レベルを有する。さらに、本発明の合成ダイヤモンド材料は、非常に低い転位密度、低い歪み、並びに空孔及び自己格子間濃度(self-interstitial concentratio)を有し、成長温度と関係がある熱力学的値に十分に近く、該材料の光吸収は本質的に、完全な天然ダイヤモンド格子の光吸収である。それ自体、ダイヤモンドである材料においてさらに改善し得ない。
その高い化学的純度及び高い同位体純度の結果として、本発明の合成ダイヤモンド材料は量子スピン欠陥用ホストとしての使用に特に適している。
従って、本発明はさらに、ホスト材料と量子スピン欠陥とを含むソリッドステートシステムであって、前記量子スピン欠陥が室温で約500μs以上のT2を有するソリッドステートシステムを提供する。
本発明のソリッドステートシステムでは、量子スピン欠陥、例えばNV欠陥は室温で驚くほど長いT2値を有する。
量子スピン欠陥がホスト材料に存在する場合、該材料の最終用途では、量子スピン欠陥を特徴づけて読み出す必要があるだろう。ホスト材料と欠陥を含むシステムが、例えば量子計算用途に有用であるためには、量子スピン欠陥を特徴づけ及び読み出すために使用する光学遷移の周波数が高いスペクトル安定性を有する必要がある。このことが、ある量子スピン欠陥をいずれの他の量子スピン欠陥からも区別できないことを保証する。驚くべきことに、本発明の合成ダイヤモンド材料又は本発明の方法で製造されたダイヤモンド材料の層に量子スピン欠陥を導入した場合、量子スピン欠陥は特に安定し光学遷移を示す。
量子スピン欠陥、例えば負電荷状態のNV中心のスペクトル安定性は、室温(約27℃(300K))で測定される経時的に中心から放出された光子の周波数の広がりによって定量化される。負電荷状態のNV中心の場合、測定される光子は、ms=±1励起状態の電子がms=0基底状態に緩和(すなわち、下方遷移)するときに放出される光子である。ゼロフォノンライン(ZPL)と関係がある光子は約4.7×1014Hz(470THz)の周波数に対応する637nmという公称波長を有する。多数の光子の周波数を測定することによって、特定の周波数を有する光子の数対光子の周波数のグラフをプロットすることができる。従って、本発明の合成ダイヤモンド材料層は、量子スピン欠陥用ホストに適している。
【0012】
量子スピン欠陥の読み出しを行なうために使用する技術、かつその調製方法、例えば、数ミクロンの表面内で欠陥を導入できるだけの注入手法のおかげで、この特徴づけは一般的にホスト材料の表面の約100μm以内の材料の領域上で行なわれる。従って、ホスト材料のこの領域は特に高い品質(すなわち、実質的に損傷がない)の領域であり、また量子スピン欠陥が容易にアクセスできるように該材料のこの領域内に位置していることが望ましい。この点で、本発明者らは、低い表面粗さRqを獲得するようにダイヤモンドホスト材料の表面を加工することによって、加工表面から100μm未満の距離に量子スピン欠陥が位置するホスト材料として本発明の合成ダイヤモンド材料を使用した場合、高いT2値及び高いスペクトル安定性を得ることができることを見い出した。量子スピン欠陥のこの位置決めは、例えば、導波路への光学的連結によって、量子スピン欠陥を特徴づけ及び「読み出し」できるように、最終用途で容易にアクセスできることを意味する。
【0013】
従って、さらなる態様では、本発明は、ホスト材料と量子スピン欠陥を含むソリッドステートシステムの調製方法であって、以下の工程:
前記ホスト材料内に量子スピン欠陥を形成する工程(ここで、前記ホスト材料の表面は、前記量子スピン欠陥が形成される所に最も近い表面上の点に中心がある約5μmの半径の円によって定義される領域内の前記単結晶ダイヤモンドの表面粗さRqが約10nm以下であるように加工されている)
を含む方法を提供する。
或いは、表面の加工前にホスト材料内に量子スピン欠陥を形成して、読み出し及び特徴づけを容易にすることができる。この点について、本発明はさらに、ホスト材料と量子スピン欠陥を含むソリッドステートシステムの調製方法であって、以下の工程:
前記量子スピン欠陥が形成されている所に最も近い表面上の点に中心がある約5μmの半径の円によって定義される領域内の前記単結晶ダイヤモンドの表面粗さRqが約10nm以下であるように量子スピン欠陥が形成されているホスト材料の表面を加工する工程
を含む方法を提供する。
【0014】
本明細書では、用語「ppm」を用いて百万分率を表す。
本明細書では、用語「ppb」を用いて十億分率を表す。
本明細書では、用語「高い化学的純度」を用いて、中性置換窒素の濃度が約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下、好ましくは約0.05ppb以下である、ダイヤモンド材料を表す。
【0015】
好ましくは、高い化学的純度のダイヤモンドはさらに以下の基準の1つ以上を満たす。
(i)ホウ素の濃度が約100ppb以下、好ましくは約50ppb以下、好ましくは約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下である;
(ii)非補償置換ホウ素の濃度が約100ppb以下、好ましくは約50ppb以下、好ましくは約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下である;
(iii)ケイ素の濃度が約100ppb以下、好ましくは約50ppb以下、好ましくは約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下、好ましくは約0.05ppb以下である;
(iv)約1332.5cm-1のシフトにおけるダイヤモンドラマン線の強度に対して正規化された737nmのフォトルミネセンス(PL)線の強度で特徴づけられる(両者とも約-196℃(約77K)の温度で測定される)ケイ素空孔(「SiV」とも称する)の濃度が約0.5以下、好ましくは約0.2以下、好ましくは約0.1以下、好ましくは約0.05以下、好ましくは約0.02以下、好ましくは約0.01以下、好ましくは約0.005以下である;
(v)固有常磁性欠陥、すなわち非ゼロスピン磁気スピンX-/+を有する欠陥の濃度が約1ppm以下、好ましくは約0.5ppm以下、好ましくは約0.2ppm以下、好ましくは約0.1ppm以下、好ましくは約0.05ppm以下、好ましくは約0.02ppm以下、好ましくは約0.01ppm以下、好ましくは約0.005ppm以下、好ましくは約0.001ppm以下である;
(vi)いずれの単一の非水素不純物の濃度も約5ppm以下であり、好ましくは水素とその同位体を除くいずれの単一の不純物のレベルも約1ppm以下、好ましくは約0.5ppm以下である;
(vii)水素とその同位体を除く全不純物含量が約10ppm以下であり、好ましくは水素とその同位体を除く全不純物含量が約5ppm以下、好ましくは約2ppm以下である;及び
(viii)水素不純物(詳細には水素とその同位体)の濃度が約1018cm-3以下、好ましくは約1017cm-3以下、好ましくは約1016cm-3以下、好ましくは約1015cm-3以下である。
【0016】
ダイヤモンドは、(i)〜(viii)のいずれの特徴をいずれの数及びいずれの組合せで満たしてもよい。一実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の2つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の3つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の4つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の5つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の6つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の7つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の8つ全てを満たしてよい。
固有常磁性欠陥は、転位及び空孔クラスターのような、該材料に固有の非ゼロスピンを有する格子欠陥である。g=2.0028で電子常磁性共鳴(EPR)を用いて該欠陥の濃度を決定することができる。この線は格子欠陥の存在に関連していると考えられる。
二次イオン質量分析(SIMS)、グロー放電質量分析(GDMS)、燃焼質量分析(CMS)、電子常磁性共鳴(EPR)及び赤外線(IR)吸収によって不純物濃度を測定することができ、単置換窒素についてはさらに270nmの光吸収測定(燃焼解析で破壊的に分析したサンプルから得た標準値に対して較正される)によって測定され得る。上記「不純物」は、特に断らない限り、水素とその同位体形を除外する。
特に、SIMSを用いて、ホウ素の濃度及びケイ素の濃度を決定し得る。
静電容量-電圧(CV)技術を用いて、非補償置換ホウ素の濃度を測定し得る。
約1332.5cm-1のシフトにおけるダイヤモンドラマン線の強度に対して正規化された737nmのフォトルミネセンス(PL)線の強度(両者とも約-196℃(約77K)の温度で測定される)によって、ケイ素空孔、Si-Vの濃度を特徴づけ得る。
EPR技術を用いて、常磁性欠陥の濃度を決定し得る。
約100ppb(約1×106cm-3)の下限感度のSIMSでダイヤモンド材料中の全窒素を測定することができる。
EPRによって、単置換窒素として存在する窒素を測定することができる。感度の下限は1ppb未満(約2×1014cm-3未満)である。
NV中心として存在する窒素は、W15 EPR中心と関連付けられており、EPRによって、約1ppb(約2×1014cm-3)の濃度に至るまで測定することができる。共焦点フォトルミネセンス(共焦点PL)は個々のNV中心を同定できるので、計数手段を用いて極端に低い濃度を測定することができる。
SIMSは非常に感度の高い技術であり、典型的に数nm〜数μmの範囲の薄層の元素分析を行なうために使用できる。この技術では、表面を一次イオンビームでスパッタし、スパッタされた材料の、表面からイオンとして離れる部分を質量分析法で分析する。特定種の計数率を標準濃度と比較することによって、かつスパッタホールの深さを測定することによって、深さ対濃度のプロファイルを生成することができる。所定領域で一連の値を取ってから平均値を求めることができる。
【0017】
本明細書で使用する場合、用語「高い同位体純度」は、SIMSで測定したところ、12C原子が100%以下かつ約99%以上、好ましくは約99.2%以上、好ましくは約99.4%以上、好ましくは約99.6%以上、好ましくは約99.7%以上、好ましくは約99.8%以上、好ましくは約99.9%以上、好ましくは約99.95%以上、好ましくは約99.98%以上、好ましくは約99.99%以上、好ましくは約99.998%以上である、全C原子の百分率として表した分率である、ダイヤモンドを指す。
本明細書では、用語「量子スピン欠陥」を用いて、2つ以上の磁気スピン状態を有し、かつホスト材料中に取り込まれると量子ビットを形成する常磁性欠陥中心を表す。好ましくは量子スピン欠陥はNV中心である。
本明細書では、用語「スピントロニクス用途」を用いて、電子の量子スピン状態を活用するのみならず電子の電荷状態を利用する用途を表す。例として、量子計算、量子暗号法及び磁気測定が挙げられ、詳細には、例えば、Chernobrod and Berman, Journal of Applied Physics, 97 (2005), 014903Oに記載されているようにDetected Magnetic Resonance (ODMR)法がある。
本明細書では、用語「室温」を用いて約27℃(300K)の温度を表す。
用語「表面粗さRa」(「中心線平均」又は「c.l.a」と表すこともある)は、British Standard BS 1134 Part 1及びPart 2に従い、針式プロフィロメーター(stylus profilometer)によって、0.08mmの長さにわたって測定された、平均線からの表面プロファイルの絶定偏差の算術平均を表す。Raの数学的記述(“Tribology”, I. M. Hutchings, Pub. Edward Arnold (London), 1992, 8〜9ページより)は以下の通りである。
【0018】
【数1】
【0019】
「表面粗さRq」は、二乗平均平方根を表す(「RMS粗さ」と称することもある)。Rqに言及している場合、それは典型的に、British Standard BS 1134 Part 1及びPart 2に従い、針式プロフィロメーターを用いて0.08mmの長さに渡って測定されるか、又は原子間力顕微鏡のような走査プローブ機器を用いて、数μm×数μmの面積(例えば1μm×1μm又は2μm×2μm)にわたって測定され;Rqに言及している場合、Rqを走査プローブ機器を用いて測定すると特に述べていない限り、Rqは針式プロフィロメーターを用いて測定される。Rqの数学的記述(“Tribology”, I. M. Hutchings, Pub. Edward Arnold (London), 1992, 8〜9ページより)は以下の通りである。
【0020】
【数2】
【0021】
ガウス分布(Gaussian distribution)の表面高を有する表面では、Rq=1.25Raである(“Tribology”, I. M. Hutchings, Pub. Edward Arnold (London), 1992, 8〜9ページより)。
本発明の方法は、合成ダイヤモンドを製造するための化学蒸着(CVD)法である。ホモエピタキシャル結晶CVDダイヤモンドを含め、ダイヤモンド材料の合成方法は今やよく確立されており、特許及び他の文献に広く記載されている。ダイヤモンド材料が基板の成長表面上に沈着される場合、本方法は一般的に合成装置に入力される源ガスを供給する工程を含む。合成装置内部では、合成環境の源ガスは、原子形態の水素又はハロゲン(例えばF、Cl)並びにC又は炭素含有ラジカル及び他の反応種、例えばCHx、CFx(xは1〜4であり得る)に解離される。さらに、窒素源及びホウ素源として酸素含有源が存在することもある。多くのプロセスでは、ヘリウム、ネオン又はアルゴン等の不活性ガスも存在する。従って、典型的な源ガスは炭化水素CxHy(式中、x及びyはそれぞれ1〜10であり得る)、又はハロカーボンCxHyHalz(式中、x及びzはそれぞれ1〜10であり得、yは0〜10であり得る)、及び任意に以下の1種以上を含んでよい:COx(式中、xは0.5〜2であり得る)、O2、H2、N2、NH3、B2H6及び不活性ガス。各ガスは、その天然の同位体比で存在してよく、又は相対同位体比を人工的に制御してもよい。例えば、水素は重水素又は三重水素として存在してよく、炭素は12C又は13Cとして存在してよい。
【0022】
本発明の方法で使用する基板は、好ましくはダイヤモンド基板、好ましくはホモエピタキシャルダイヤモンド合成で使うのに適しているダイヤモンド基板である。本発明の基板は低複屈折Ia又はIIb型天然ダイヤモンド又は低複屈折Ib又はIIa型高圧高温(HPHT)合成ダイヤモンドであってよい。基板は、上にCVDダイヤモンド基板層が、基板の成長表面がCVDダイヤモンド基板層の表面であるように合成されているHPHT合成ダイヤモンド層を含んでよい。或いは、本発明の基板が単結晶CVDダイヤモンドであってよい。基板は、ホモエピタキシャル単結晶CVDダイヤモンド合成によって製造されたホモエピタキシャル単結晶CVDダイヤモンドであってよい(本明細書ではホモエピタキシャル基板としても知られる)。
【0023】
用語「低複屈折」を用いて、下記特性の少なくとも1つを有する基板を表す。この特性については、本発明のダイヤモンド材料と関連付けて詳細に説明する。
a)X線トポグラフィーで特徴づけられる拡張欠陥の密度が、約0.014cm2以上の面積にわたって約1000/cm2以下;
b)光学等方性が、約0.1mm3以上の体積にわたって約1×10-4以下;及び
c)(004)反射に対するFWHM(「半値全幅(Full Width at Half Maximum)」)のX線ロッキングカーブ幅が約120アーク秒以下。
【0024】
好ましくは、ダイヤモンド基板は、極端に低レベルの複屈折を有する。ダイヤモンドでは、複屈折は典型的に多数の拡張欠陥(例えば転位、転位束及び積層欠陥)の存在と関係があり、高レベルの局所歪みとその結果として複屈折をもたらす。好ましくは主表面積の約70%以上、好ましくは主表面積の約80%以上、好ましくは主表面積の約90%以上、好ましくは主表面積の約95%以上、好ましくは主表面積の約98%以上にわたる基板の厚さを通じた測定によって評価される最大複屈折が1×10-4以下、好ましくは5×10-5以下、好ましくは1×10-5以下、好ましくは5×10-6以下、好ましくは1×10-6以下である。「Metripol」(Oxford Cyrosystems Ltd., Oxford, UK)のような機器を用いて複屈折を評価することができる。このような低複屈折のダイヤモンド材料はホモエピタキシャルダイヤモンド層の成長中に基板からホモエピタキシャルダイヤモンド層内に伝播する拡張欠陥(該欠陥は非ゼロ核スピンを有し、ひいては近くの量子スピン欠陥のT2時間を減少させ得る不純物原子で「装飾」され得る)の単位面積当たりの数を減らすので、該低複屈折のダイヤモンド材料を使用するのが有利である。
好ましくは、ダイヤモンド基板内の窒素濃度は、SIMS測定又はEPR測定によって決定した場合、約200ppm以下、好ましくは約150ppm以下、好ましくは約100ppm以下、好ましくは約50ppm以下、好ましくは約20ppm以下、好ましくは約10ppm以下、好ましくは約5ppm以下、好ましくは約2ppm以下、好ましくは約1ppm以下、好ましくは約0.5ppm以下、好ましくは約0.1ppm以下、好ましくは約0.01ppm以下、好ましくは約0.001ppm以下である。ダイヤモンド基板中の低い窒素濃度は、窒素不純物のより高い濃度によるダイヤモンドの格子膨張と関係があり、また基板とダイヤモンド材料との間の界面における格子不整合を除くために発生され得るいずれの界面転位とも関係がある歪みを減らすことから有利である。ダイヤモンド基板中の低い窒素濃度は、基板とCVDダイヤモンド層との間の界面から約100μm未満である量子スピン欠陥のT2時間を増やすというさらなる利点を有する。
【0025】
合成後、ダイヤモンド材料への支持層として作用するように基板を保持してよい。或いは、合成後にダイヤモンド材料から基板を除去し、処分してダイヤモンド材料を自立物として残してよい。ダイヤモンド材料は1つ以上のさらなる層(以後、「中間支持層」と称する)を含んでよい。従って、一実施形態では、本発明のダイヤモンド材料は、高い化学的純度の層(しかし普通の炭素同位体比)を含んで、付着基板(量子スピン欠陥(例えばNV中心)を含む高い化学的純度及び高い同位体純度の層が続く)内の不純物関連スピン中心の作用を除去することができる。或いは、ダイヤモンド材料を基板から分離し、基板を処分して、ダイヤモンド層と1つ以上の中間支持層を含むダイヤモンド材料を残してよい。
基板がダイヤモンド基板である場合、その上でダイヤモンドの成長が起こる基板の表面は、実質的に{100}、{110}又は{111}表面であってよい。これらの各表面は、該表面には限られた数のステップエッジがあることを意味する低指数を有するので、これらの表面は有利である。
基板がダイヤモンド基板である場合、基板は、実質的に<100>方向に沿って横たわっているエッジによって囲まれ得る(001)主要面を有することが好ましい。基板が、[001]方向から約10°以下、好ましくは5°以下、好ましくは4°以下、好ましくは3°以下、好ましくは2°以下、好ましくは1°以下だけ異なる法線を持つ主要面を有することがさらに好ましい。基板が、[001]方向から約0.01°以上、好ましくは約0.05°以上、好ましくは約0.2°以上、好ましくは約0.5°以上だけ異なる法線を持つ主要面を有することがさらに好ましい。或いは、基板が、[001]方向から約0.01°〜約2°、好ましくは約0.05°〜約1.5°、好ましくは約0.5°〜約1°だけ異なる法線を持つ主要面を有することが好ましい。基板のエッジが実質的に<100>方向に沿って整列している場合、基板のエッジが<100>方向の約10°以内、好ましくは<100>方向の約5°以内、<100>方向の約3°以内にあることが好ましい。
【0026】
本明細書では、方向、例えば結晶学的方向又は基板の成長表面に関する方向に言及する場合、用語「実質的に」は、前記方向の約10°以内、或いは前記方向の約5°以内、或いは前記方向の約4°以内、或いは前記方向の約3°以内を意味する。
その上で成長が起こる基板の表面は、実質的に結晶欠陥がない。以後使用する場合、用語「結晶欠陥」は、拡張結晶欠陥及び/又は構造上の結晶欠陥、例えば該材料に固有の転位、積層欠陥、双晶境界などを表す。
本明細書では、基板の成長表面を表す場合に「実質的に結晶欠陥がない」という表現は、後述するように、暴露(revealing)プラズマエッチングによって決定した場合、約5×103mm-2以下、好ましくは約1×102mm-2以下の成長表面上の結晶欠陥を表す。
実質的に結晶欠陥がない成長表面を有する基板を使用するのが有利である。その上でダイヤモンド材料が合成される基板の成長表面が多数の結晶欠陥を含むと、合成ダイヤモンド材料中の結晶欠陥の濃度が高くなるからである。合成ダイヤモンド材料中の結晶欠陥の濃度が低いと、常磁性欠陥の濃度を下げ、ダイヤモンド層内の量子ビット欠陥中心のT2を増やすので、スピントロニクス用途に有利である。結晶欠陥は材料中の歪みの存在をもたらし、順次、量子スピン欠陥の光学特性に影響を及ぼし得るので、結晶欠陥の密度を下げることが有利である。
【0027】
結晶欠陥密度は、欠陥を暴露するために最適化されたプラズマエッチング又は化学エッチング(「暴露エッチング」と称する)の使用後の光学評価によって最も容易に特徴づけられる。2つのタイプの結晶欠陥を暴露することができる。
1)基板材料に固有の結晶欠陥、例えば転位、積層欠陥、双晶境界など。選択された合成又は天然ダイヤモンドでは、これらの結晶欠陥の密度は、約50/mm2以下、さらに典型的に約102/mm2以下であり得るが、他の場合には約106/mm2以上であり得る;
2)研磨の結果として生じる当該欠陥であり、研磨の結果生じる結晶欠陥、研磨ラインに沿った、転位構造や「チャタートラック(chatter track)」の形態の微小亀裂が挙げられ、それによって基板の表面下に機械的に損傷した層を形成する。
使用し得る暴露エッチングの一タイプは、必要に応じて少量のArと必要な少量のO2と共に主に水素を用いるプラズマエッチングである。典型的な酸素エッチング条件は、約50×102Pa〜約450×102Paの圧力、約1%〜約5%の酸素含量、0%〜約30%のアルゴン含量及びバランス水素を含むエッチングガス(全ての百分率は体積についてである)、約600℃〜約1100℃(さらに典型的には約800℃)の基板温度及び約3〜約60分の持続時間である。次にエッチング表面を光学顕微鏡で検査し、表面フィーチャーの数を数える。
【0028】
暴露プラズマエッチングを行なう方法は、単結晶CVDダイヤモンド層の通常の合成方法の一部であるin situプラズマエッチングの第1段階と非常に似ているので、エッチングを行ない得る1つの方法は、単結晶CVDダイヤモンド層の合成と実質的に同じである。当業者は該技法に精通しているだろう。
有利には、基板の表面Raを最小限にすべきである。好ましくは、いずれのプラズマエッチング前の基板の成長表面のRaも約10nm以下、好ましくは約5nm以下、好ましくは約2nm以下、好ましくは約1nm以下、好ましくは約0.5nm以下、好ましくは約0.2nm以下である。
基板の所要のRa及び/又は結晶方位は、高い完全性のより大きい断片から、好ましくは高い完全性の一片の単一成長セクターから基板を機械的に鋸引きするか又はレーザー鋸引きすることによって達成され得る。次に基板の主表面をラッピング及びスケイフ(scaife)研磨などの宝石細工術を利用して加工することができる。このような技術は当該技術分野で周知であり、本明細書では「機械加工」と称する。好ましくは、基板の成長表面をスケイフ研磨する。
機械加工した基板は、機械加工の正確な仕様によるが、表面下に数μmから数十μmまでの深さまでに広がる機械的に損傷を受けた層(「表面下損傷層」とも称する)を有することがある。
【0029】
単結晶CVDダイヤモンド層の次の成長時に、基板の機械的損傷層の効果を減じるために使用できる特有の一方法は、in situプラズマエッチングの利用である。原則として、このエッチングはin situである必要はないが、in situエッチングは一般的に成長プロセスもプラズマに基づく場合に最も便利である。プラズマエッチングは沈着又はダイヤモンド成長プロセスと同様の条件を使用できるが、エッチング速度の良い制御を得るためには、いずれの炭素含有源ガスも存在せず、一般的にわずかに低温である。例えば、下記条件の1つ以上から成り得る。
(i)必要に応じて少量のArと所要の少量のO2を含む主に水素を利用する酸素エッチング。典型的酸素エッチング条件は、50×102Pa〜450×102Paの圧力、1%〜5%の酸素含量、約0%〜約30%のアルゴン含量及びバランス水素(全ての百分率は体積による)を含むエッチングガス、基板温度約600℃〜約1100℃(さらに典型的には約800℃)及び約3分〜60分の典型的持続時間。
(ii)(i)と同様であるが、酸素が存在しない水素エッチング。
(iii)アルゴン、水素及び酸素に基づくだけでないエッチングの代替方法は、例えば、ハロゲン、他の不活性ガス又は窒素を利用する当該方法を利用し得る。
【0030】
典型的にエッチングは、酸素エッチング後の水素エッチングから成り、次いでプロセスは炭素源ガスの導入による合成に直接移る。エッチング時間/温度を選択して、非常に粗い面を形成することなく、また表面を横断し、ひいては深い窪みをもたらす拡張欠陥(例えば転位)に沿って広範にエッチングすることなく、機械加工によるいずれの残存表面損傷をも除去することができ、かついずれの表面汚染をも除去することができる。エッチングは攻撃的なので、プラズマによってチャンバーから何の材料も気相中又は基板表面に運ばれないようにエッチング要素に合わせたてチャンバー設計及び材料選択が望ましい。酸素エッチング後の水素エッチングは、結晶欠陥にはあまり特異的ではなく、酸素エッチング(該欠陥を激しく攻撃する)によって生じた成角に丸みをつけて、その後の成長のためにより滑らかで良い表面を与える。
或いは、基板の表面の成長前in situプラズマエッチングを、ex situ等方性エッチング、例えば同時係属出願PCT/IB2008/050215に記載されているようなAr-Cl2誘導結合プラズマエッチングと置き替えるか又は該エッチングを先に行なってよい。Ar-Cl2誘導結合プラズマエッチングを利用して、基板の表面を調製することもでき、その上のCVDダイヤモンド層が最終的に量子スピン欠陥を含むであろう。in situプラズマエッチングの前にex situ等方性エッチング、例えばAr-Cl2エッチングを行なうと、過度に表面粗さを増やすことなく、実質的に損傷がない表面をもたらすので、有利である。好ましくは、ex situ Ar-Cl2誘導結合プラズマエッチングを利用する場合、その後にin situエッチングを行ない、該in situエッチングの持続時間は典型的に約3分〜約15分の範囲である。
Ar-Cl2誘導結合プラズマエッチングを約0.5mTorr(約0.0667Pa)〜約100mTorr(約13.3Pa)の範囲、さらに好ましくは約1mTorr(約0.133Pa)〜約30mTorr(約4.00Pa)の範囲、さらに好ましくは約2mTorr(約0.267Pa)〜約10mTorr(1.33Pa)の範囲の操作圧力で行なってよい。エッチャントは好ましくは少なくとも不活性ガス、好ましくはアルゴンと、ハロゲン含有ガス、好ましくは塩素(Cl2)とから成る混合ガスである。好ましくはハロゲン含有ガスは、プロセスに添加されたガス混合物中に約1%〜約99%、さらに好ましくは約20%〜約85%、さらに好ましくは約40%〜約70%の範囲の濃度(体積で)で存在する。好ましくはガス混合物のバランスの大部分はArで補われ、さらに好ましくはガスのバランスの全部がArで補われる。
或いは不活性ガスがヘリウム、ネオン、クリプトン若しくはキセノンであってよく、又はこれらの2種以上の混合物を含むか、又はこれらの1種以上とアルゴンの混合物を含んでよい。
【0031】
上述したように、本発明者らは、源ガスを形成するガスのそれぞれに存在する化学的不純物の含量を慎重に制御することによって、かつ本発明の方法の炭素源中に存在する12C及び13C同位体の比率を制御することによって、驚くほど高い品質のダイヤモンド材料を製造できることを見い出した。
材料を量子スピン欠陥用ホストとして使う予定の場合には、製造されるダイヤモンド材料中の13Cの含量を減らすことが特に望ましい。これは、13Cは非ゼロ核磁気スピンを有するので、量子スピン欠陥と相互作用し、かつ量子スピン欠陥のデコヒーレンス(T2)時間に有害な影響を及ぼすからである。さらに、13Cの存在はダイヤモンド格子中に歪みを導入する。
【0032】
本発明の方法で使用する源ガスは、一般的に水素、1種以上の希ガス、例えばヘリウム、ネオン又はアルゴン、及び酸素を含む。本発明の各方法では、源ガスを構成するガスは、高純度ガスである。これは、ガスが高い化学的純度を有することを意味する。窒素は大気中の最も豊富なガスなので、窒素は、ガス源中に最も一般的に取り込まれる不純物である。窒素は、置換不純物原子としても容易にダイヤモンド中に取り込まれる。この点について、特定ガスの化学的純度をその中に存在する窒素不純物の含量を基準にして数量化することができる。特に、源ガスの一部を形成する水素ガスは、好ましくは約1ppm以下の窒素不純物を含み、希ガスは好ましくは約1ppm以下の窒素不純物を含み、及び/又は酸素は好ましくは約1ppm以下の窒素不純物を含む。
本発明の一実施形態では、炭素源は固体炭素源である。この実施形態の方法では、固体炭素源を活性化してガス状炭素種を生じさせてから基板上のホモエピタキシャルダイヤモンド成長のために使用する。適切な固体炭素源の例としてはグラファイト及びダイヤモンドが挙げられる。典型的に該固体源はガス状前駆体(例えばCH4)から作られる。一実施形態では、固体炭素源がダイヤモンドである。別の実施形態では、固体炭素源がグラファイト構造中への窒素の取込みが確実に最小限になるように調製されたグラファイトである。
上述したように、窒素は大気中の最も豊富なガスであり、結果として、窒素によるガス状炭素源の汚染を回避するのは困難である。しかし、本発明者らは、固体炭素源を使用することによって、この効果を最小限にできることを見い出した。この点について、本発明者らは、固体炭素源を活性化してガス状炭素種を形成してからガス状種を再沈着させることによって、形成される固体の化学的純度が向上(すなわち窒素含量が減少)するが、出発固体材料中に存在したのと実質的に同一比の12C:13Cを保持することを認めた。これは、固体炭素源を生成するために用いた炭素源ガスの化学的純度は低減し得るが、それでも高い化学的純度の生成物を得られることを意味する。
【0033】
成長表面にある活性種、ひいては成長プロセス自体は本質的に炭素源ガスと無関係であり、プラズマ中に存在する原子比のみに依存すること(マイクロ波プラズマCVDプロセスの場合)は技術上周知である。発明者らは驚くべきことに固体炭素源を使用する場合にもこれが真実であることを実証した。
本発明の方法で使用する固体炭素源は、源の全C含量の約99%以上、好ましくは約99.2%以上、好ましくは約99.4%以上、好ましくは約99.6%以上、好ましくは約99.8%以上、好ましくは約99.9%以上、好ましくは約99.95%以上、好ましくは約99.98%以上、好ましくは約99.99%以上、好ましくは約99.998%以上の量で12Cを含む。これは、固体炭素源の活性化によって製造されるガス状炭素が高い同位体純度を有することを意味する。
炭素源は、低い窒素不純物含量を有するように選択される。本明細書では、用語「低い窒素不純物含量」を用いて、約10ppm以下の窒素の濃度を表す。好ましくは固体炭素源中の窒素の濃度は、SIMS又は燃焼分析によって測定した場合、好ましくは約5ppm以下、好ましくは約2ppm以下、好ましくは約1ppm以下である。
固体炭素源がダイヤモンドである場合、同位体が濃縮された固体炭素源を用いて従来のHPHTによってか又は市販のガスに典型的な化学的純度である同位体が濃縮された炭素源ガス(すなわち源ガスを構成する炭素含有ガスは必ずしも高い化学的純度でない)を用いてCVD技術によって固体炭素源を製造することができる。CVDプロセスでは、該炭素源ガスは望ましくなく高含量の窒素を含む可能性があるが、合成環境内に存在する窒素の約1/1000しか固体ダイヤモンドに取り込まれないことが分かった。このダイヤモンドを次に固体炭素源として本発明の方法で使用する場合、該固体炭素源を活性化することによって生成されるガス状炭素種は、必ず最初の炭素源より低い窒素含量を有するが、12C同位体濃縮の同レベルを保持する。従って、本発明は、最終CVDダイヤモンド層中の窒素含量を有意に減らすように、同位体が濃縮された炭素源ガスの化学的純度を改善しながら、実質的に固体炭素源の合成用に使うガスのレベルで12C含量を維持する手段を提供する。
【0034】
同位体が濃縮された炭素源ガスの例は、99.5%より高い12C含量に濃縮され、窒素(N2として)含量が3ppm以下のCH4(Spectra Stable Isotopes, Columbia, Maryland, USA)である。典型的に、12Cの濃縮レベルが高いほど、化学的不純物、特に窒素N2のレベルが高くなり、モル当たりのガスのコストが劇的に上昇する。
固体炭素源を使用する本発明の実施形態では、CVD法による固体炭素源の合成で使う源ガス混合物中の窒素の濃度は約10ppm以下、好ましくは約5ppm以下、好ましくは約3ppm以下、好ましくは約1ppm以下、或いは約500ppb以下、或いは約300ppb以下である。ガスクロマトグラフィーによって源ガス中の窒素の濃度を決定することができる。源ガス混合物中の窒素含量を最小限にすることが、最終的にダイヤモンド材料中に取り込まれる窒素の量を最小限にするので望ましい。これは、順次、提供される材料の品質を高め、ひいては量子スピン欠陥のホスト材料として特に有用にするので望ましい。
この量で窒素を含む源ガス混合物は商業的に入手可能である。源ガスの例は、不純物含量が体積で0.5ppm以下のH2(例えば「H2 6.5」、例えばCK Gases Ltd., Hook, Hampshire, UKから入手可能)(Pdディフューザー(例えばJohnson Matthey Inc., West Chester, PA, USA)に通してさらに精製して、体積で約5ppb以下の不純物レベルを達成し得る);不純物含量が体積で1ppm以下のAr(例えば「Ar 6.0」、例えばCK Gases Ltd., Hook, Hampshire UKから入手可能)(清浄器(例えばJohnson Matthey Inc., West Chester, PA, USA)に通してさらに精製して体積で約5ppb以下の不純物レベルを達成し得る)である。
本発明の方法で固体炭素源を使用する場合、源ガス混合物は、好ましくは最小限の意図的に加えた炭素含有ガスを含む。この点について、固体炭素源は好ましくは、ガス状炭素種の約80%以上、好ましくは約85%以上の炭素、好ましくは約90%以上、好ましくは約95%以上、好ましくは約98%以上、好ましくは約99%以上、好ましくは実質的に100%を供給する。従って、源ガス混合物中に存在する炭素含有種だけが不純物として存在する当該炭素含有種であることが好ましい。
【0035】
本発明の方法では、固体炭素源の少なくとも一部を活性化してガス状炭素種を供給する。
固体炭素源の「活性化」は、固体炭素をガス状炭素及び炭素含有種、例えば、原子炭素、CHxラジカル(xは1、2又は3である);複数の炭素原子を含むラジカル、例えばC2Hx(xは1〜5の整数である)のような種に変換することを意味する。ガスが安定した分子、例えばCH4を含んでもよい。
発明者らは、固体炭素源を活性化する以下の2種の一般的方法を特定した。
(i)ダイヤモンド沈着が起こるのと同じチャンバー内での活性化、及び
(ii)ダイヤモンド沈着が起こるチャンバーから離れた活性化。
これら2種の技術の後者(方法(ii))が好ましい。この方法は、固体炭素源の活性化の速度よりずっと高い制御、ひいては本発明のダイヤモンド材料を形成するため再沈着プロセスに供給される炭素濃度の高い制御を可能にするからである。
【0036】
活性化が離れて起こる実施形態では、固体炭素源の活性化は好ましくは反応器(本明細書では、「活性化反応器」と称する)、例えば化学蒸着反応器内で起こる。この反応器は、チャンバーと、ガス入口と、ガス出口とを含み、活性化に使用するエネルギー源がマイクロ波プラズマであり、マイクロ波エネルギーを反応器に供給する手段を含む。マイクロ波がエネルギー源の場合、活性化反応器のチャンバーは好ましくは使用するマイクロ波の周波数の共振空洞である。好ましくは、固体炭素源はマイクロ波プラズマを利用して加熱される。源ガス、典型的に水素とアルゴンの混合物を固体炭素源上を通過させ、プラズマ、例えばマイクロ波プラズマ、熱フィラメントを利用して、又は固体炭素源を直接加熱することによってエネルギーを供給する。固体炭素源を約700℃〜約1200℃の温度に加熱する。正確な温度は、所望速度でダイヤモンド沈着反応器にガス状炭素種を供給するように選択される。活性化反応器内で生じたガス混合物をダイヤモンド沈着反応器に供給すべき場合、活性化反応器内の圧力はダイヤモンド沈着反応器内の圧力より高くなければならない。或いは、活性化反応器からのガス混合物を圧縮(すなわち、その圧力を上昇させる)した後にダイヤモンド沈着反応器に供給するか、或いはダイヤモンド沈着反応器へのその後の送達用の貯蔵設備に供給してよい。ダイヤモンド沈着反応器にガスを直接供給すると、圧縮及び/又は貯蔵中にN2などの不純物によってガスが汚染される可能性を減らすので好ましい。
局部的に切断するためのレーザーの使用のような当業者が精通している活性化の代替方法も可能である。
【0037】
ダイヤモンド沈着と同じチャンバー内で固体炭素源の活性化が起こる実施形態では、反応器はCVDダイヤモンド沈着反応器であり、その中で、固体炭素源を水素ラジカルでエッチングしてガス状炭素種を生成し、引き続き隣接単結晶ダイヤモンド基板上に再沈着させて高い同位体純度と高い化学的純度の単結晶CVDダイヤモンド層を形成できるように固体炭素源が処理される。
本発明の代替実施形態では、炭素源がガスである。好適な炭素源ガスの例としては、限定するものではないが、CxHy(式中、x及びyは、それぞれ独立に1〜10の整数であってよい(例えばCH4、C2H6、C2H4、C2H2など)、CxHyHalz(式中、x及びzは、独立に1〜10の整数であってよく、yは0〜10であってよい)又はCOx(式中、xは0.5〜2.0の範囲である)が挙げられる。好ましくは炭素源ガスがCH4である。炭素源がガス状である場合、発明者らは、プロセス条件を最適化することによって、高い化学的純度と高い同位体純度を有する生成物が得られることを見い出した。
さらに詳細には、高い化学的純度と高い同位体純度を有する材料は、以下のいずれかによって得られることが分かった:
(i)基板温度を約800℃より高くかつ約1000℃未満であることを保証すること;又は
(ii)源ガス混合物に酸素を、全ガス流量のO2当量として測定される、体積で全ガス流量の約0.5%〜約5%の範囲で添加する。
酸素濃度は、全ガス流量を構成する体積分率(百分率として表す)として測定され;例えば、全ガス流量が500sccm(標準立方センチメートル(standard cubic centimetres))で、その10sccmがO2である場合、O2当量の体積分率は2%であり;例えば、全ガス流量が500sccmで、その10sccmがCOである場合、O2当量の体積分離は1%である。
【0038】
理論に拘束されることを望むものではないが、発明者らは、上記特徴(i)の最適温度範囲は2つの相反する因子によって決まると考える。第1に、発明者らは、同一の基板と成長条件では、基板温度が約700℃から約1000℃に上昇するにつれて、SIMSやEPR等の手法で測定される窒素取込みのレベルが減少することを実験的に見い出した。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、これは、基板温度が上昇するにつれて減少する、N原子のダイヤモンド成長表面への固着係数の結果であると考えられる。第2に、発明者らは、所定厚のCVDダイヤモンド成長では、基板温度が約700℃から約1000℃に上昇するにつれて、CVDダイヤモンド層の成長表面が、マクロステップ、ヒロック(hillock)及び双晶の観察によって特徴づけられるように、粗面化の増加を示すことを実験的に見い出した。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、この粗面化の増加は、成長しているダイヤモンド膜内へのN及び他の欠陥の取込みのさらに過激な部位をもたらすと考えられる。このようにして発明者らは、2つの競合する作用、その一方は基板温度が上昇するにつれて窒素取込みを減少させ、他方は基板温度が上昇するにつれて窒素取込みを増加させることを確認した。温度に伴うこれら2つの作用の変化率はいずれの選択厚のCVDダイヤモンド成長でも同一ではないので、所定の層厚にとって窒素の取込みが最小限になる成長温度を同定することができる。
この点について、基板温度は、好ましくは約840℃より高く、好ましくは約860℃より高く、好ましくは約880℃より高く、好ましくは約900℃より高く、好ましくは約920℃より高く、好ましくは約950℃より高い。最も好ましくは、基板温度が約950℃〜約1000℃の範囲である。
上記特徴(ii)に関し、いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、上記(ii)で述べた量で源ガス混合物に少量の酸素を添加すると、基板温度の上昇に伴う粗面化作用(順次、窒素取込みの増加をもたらす)が低減し、結果として、酸素を添加しないことを除き同一の条件と比較していずれの特定厚のCVDダイヤモンド成長及び成長温度でもNの取込みが減少することが実験的に分かった。
添加される酸素は、O2の形態、又は酸素含有種の形態、例えばCOx(式中、xは0.5〜2の範囲である)、例えばCO又はCO2のいずれかである。
酸素は、好ましくは全ガス流量の約1体積%〜全ガス流量の約3体積%、好ましくは全ガス流量の約1体積%〜全ガス流量の約2体積%の範囲の量で源ガス混合物に添加される。
【0039】
12Cに関して同位体が濃縮されたガス状炭素源を本発明の方法で使用する場合、ガス状炭素源は、約10ppm以下、或いは約5ppm以下、或いは約3ppm以下、或いは約1ppm以下、或いは約0.5ppm以下の濃度の窒素を含む。該炭素源は市販されている。
従って、(i)若しくは(ii)又は(i)と(ii)の両方を利用することによって、CVDダイヤモンド層の窒素不純物含量を最小限にできる方法が提供される。
本発明者らは、より高濃度の窒素を含む市販のガス状炭素源を、上述したように固体炭素源を形成することによって精製し得ることを見い出した。
さらに詳細には、化学的純度は低いが、12Cに関して同位体が濃縮された炭素源ガスを用いて通常のCVD技術で固体炭素源、例えば多結晶性ダイヤモンドを形成することができる。この方法では、生成されるダイヤモンド材料中に、合成環境に存在する窒素の約1/1000が取り込まれるであろう。次に多結晶性ダイヤモンドを活性化して、化学的純度が向上したガス状炭素源を与え得る。
この点について、本発明は、特に、固体炭素源を使用すると共に上記条件(i)及び(ii)の一方又は両方を確実に満たすことによって、上記2つの方法を併用することを企図する。
【0040】
本発明の方法は、ダイヤモンド材料の表面を加工して、実質的に結晶欠陥がない表面を形成するさらなる工程を含んでよい。
好ましくは約50nm以下、約20nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約2nm以下、約1nm以下、約0.5nm以下の表面粗さRqにダイヤモンド材料の表面を加工する。
ダイヤモンド材料の表面を、使用すべき量子スピン欠陥に最も近いか、又は量子スピン欠陥がイオン注入などのプロセスによる表面の加工後にもたらされる場合には該量子スピン欠陥の所望位置に最も近い表面上の点に中心がある約5μm、好ましくは約10μm、好ましくは約20μm、好ましくは約50μm、好ましくは約100μmの半径の円によって定義される領域内の表面の表面粗さRqが、約10nm以下、約5nm以下、約2nm以下、約1nm以下、約0.5nm以下、約0.2nm以下、約0.1nm以下であるように加工し得る。好ましくは走査プローブ機器を用いてRqを測定する。
表面が巨視的湾曲、例えば約10μm〜約100μmの曲率半径のレンズを有して量子欠陥中心からの光出力を集めて焦点を合わせる場合、粗さは該巨視的湾曲に関連する。表面の粗さから根底にある曲率が減算され得る走査プローブ機器を用いて(例えば原子間力顕微鏡を用いて)、このような物体の粗さを測定することができる。
例えば、スケイフ研磨などの通常の機械加工にダイヤモンド材料の表面を供することによって、表面の平坦度及び粗さを改善することができる。このような手法は技術上周知である。機械加工操作は、ダイヤモンド材料の表面の平坦度を改善し(インターフェロメトリー等の技術上周知の巨視的方法で測定し得るように)、かつ粗さを低減する(Ra又はRqで表されるように)が、同時にこのような調製は、望ましくないであろう基板損傷を導入し得る。基板損傷の存在は、ダイヤモンド材料を、材料内にある量子スピン欠陥の正確な読み出し及び特徴づけのため、表面下約100μmの深さまで材料の品質が高いことが重要であるスピントロニクス用途で使用する予定の場合に特に望ましくない。
従って、機械加工後、ダイヤモンド表面をエッチング、好ましくは等方性エッチング、及び/又は再成長工程によって処理してよい。
エッチング表面は、最後の機械的プロセスのグリットサイズに基づいて、機械加工されたままの表面から材料の最小厚を除去して、機械加工損傷がないか又は実質的になく、かつ損傷エッチングフィーチャーがないか又は実質的にない表面を与えることを意味する。
好ましくは上述したように基板の表面の調製と関連して誘導結合プラズマ(ICP)エッチングにより、好ましくはハロゲン及び不活性ガスを含むガス混合物を用いて、好ましくは該不活性ガスがアルゴンであり、好ましくはハロゲンが塩素であるガス混合物を用いてエッチングを行なう。Ar/Cl2プラズマエッチングは、ダイヤモンド層の表面(その上に、常磁性を有するか、又は電荷を持っている表面汚染物質として他の化学種が存在し得る)を浄化する。
【0041】
等方的にエッチングされた表面は、表面のRqを実質的に高めない。測定値Rqa及びRqbは、ダイヤモンド層の表面の同一領域について取られる。「同一領域」とは、技術上周知なように、複数の測定値及び測定値の一般妥当性を検証する必要がある統計解析を利用するときに、合理的に実際と同じくらい近い等価領域を意味する。特に等方的にエッチングされた表面は粗さRqa(エッチング後)及び元の表面粗さRqb(エッチング前)を、Rqa/Rqbが好ましくは1.5未満、さらに好ましくは1.4未満、さらに好ましくは1.2未満、さらに好ましくは1.1未満であるように有してよく、さらに、等方性エッチングは好ましくは以下の特徴の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つをもたらす。
・エッチングされた表面は滑らかであり、好ましくはエッチング前の元の表面より滑らかであり、かつ特にエッチングされた表面のRq(Rqa)は好ましくは10nm未満、好ましくは5nm未満、好ましくは2nm未満、好ましくは1nm未満、好ましくは0.5nm未満、好ましくは0.3nm未満である;
・材料の厚さの除去が少なくとも0.2μm、さらに好ましくは少なくとも0.5μm、さらに好ましくは少なくとも1.0μm、さらに好ましくは少なくとも2μm、さらに好ましくは少なくとも5μm、さらに好ましくは少なくとも10μmを超える。
【0042】
機械加工損傷がないか又は実質的にない表面をもたらすため、最後の機械的プロセスのグリットサイズに基づいて、機械加工されたままの表面からダイヤモンドの最小厚をエッチングによって除去することは、表面損傷を有意に減らすのに十分な深さの除去が必要であり、ひいては表面損傷層と同じオーダーの厚さのエッチングによる除去が必要である。典型的に表面損傷層は、0.2μm〜20μmの範囲の厚さを有する(又は非常に攻撃的な宝石細工技術を用いた場合にはさらに厚い)。従って、好ましくはエッチングは、除去されるダイヤモンドの厚さが、少なくとも0.2μm、さらに好ましくは少なくとも0.5μm、さらに好ましくは少なくとも1.0μm、さらに好ましくは少なくとも2μm、さらに好ましくは少なくとも5μm、さらに好ましくは少なくとも10μmである厚さのダイヤモンドを表面から除去する。表面損傷層は典型的に、いずれかの宝石細工加工の最終段階で用いた最大のダイヤモンドグリット粒子のサイズとほぼ同一の厚さを有し;例えば1〜2μmサイズのダイヤモンドグリットでスケイフ研磨された表面は、典型的に約2μm厚の表面損傷層を有するであろう。従って、本発明の方法によるエッチング後に残る宝石細工加工からの損傷の量を最小限にするため、本発明の方法で除去される材料の量は、好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも0.2倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも0.5倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも0.8倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも1.0倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも1.5倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも2倍であるべきである。エッチング後、ダイヤモンド層の表面は好ましくは10nm未満、さらに好ましくは5nm未満、さらに好ましくは2nm未満、さらに好ましくは1nm未満、さらに好ましくは0.5nm未満、さらに好ましくは0.3nm未満のエッチング後表面粗さRqaを有する。
エッチング表面がダイヤモンド層の表面全体に広がってよく、或いはフォトリソグラフィー等の既知技術を用いて表面にエッチングされた構造上のフィーチャー(例えば光導波路)のような表面の一部にわたって広がってよく、そして表面のこの部分はそれ自体、ダイヤモンド層の表面を形成する。
さらに、低いRqaを有するエッチングされたダイヤモンド表面は、好ましくは暴露エッチング試験によって暴露される欠陥の数が約5×103/mm2以下、好ましくは約100/mm2以下であるように、実質的に加工損傷がない。
【0043】
表面を成長によって形成する場合、マスキング法を利用して、表面をダイヤモンド層の表面の一部に限定することができ、そしてこの部分がダイヤモンド層の表面に相当する。或いはさらに好ましくは、ダイヤモンド層の表面の全体に表面が広がることがあり、この表面全体が本発明のダイヤモンド層の表面を形成する。
再成長によって形成される表面は、第2のダイヤモンド薄層を成長させることを意味し、次にこの薄層の表面を、成長したままの状態のダイヤモンド層の表面として使用する。
第2のダイヤモンド薄層は好ましくはCVD合成によって成長し、薄くて巨視的成長ステップの形成を制限する。前もって機械的に調製された表面上に成長したこの層の厚さは約100μm以下、好ましくは約50μm以下、好ましくは約30μm以下、好ましくは約20μm以下、好ましくは約10μm以下、好ましくは約3μm以下、好ましくは約1μm以下、好ましくは約100nm以下、好ましくは約50nm以下、好ましくは約20nm以下、好ましくは約10nm以下である。第2のダイヤモンド薄層の厚さは、約1nm以上、好ましくは約10nm以上、好ましくは約30nm以上、好ましくは約100nm以上、好ましくは約300nm以上、好ましくは約1μm以上であってよい。一部の実施形態では、前もって機械的に調製された表面上に成長したこの層の厚さが約100nm〜約50μm、或いは約500nm〜約20μm、或いは約1μm〜約10μmである。
【0044】
単層成長法及び軸外表面の使用を含めたいくつかの技術を利用して第2のダイヤモンド薄層を調製して、表面ステップの伝播を制御し、ひいては非常に平坦かつ滑らかな表面を保持することができる。
一部の実施形態では、第2の薄層が量子スピン欠陥を含むか又は含むことになる。該実施形態では、好ましくは第2の薄層は本明細書に記載の技術を利用して、炭素が、本明細書に記載の1種以上の技術を利用して層の窒素含量が最小限であるように調製される。
第2のダイヤモンド薄層の表面がダイヤモンド層の表面を形成し、好ましくは約10nm以下、好ましくは約5nm以下、好ましくは約3nm以下、好ましくは約2nm以下、好ましくは約1nm以下、好ましくは約0.5nm以下、好ましくは約0.3nm以下、好ましくは約0.2nm以下、好ましくは約0.1nm以下のRqを有する。このように、この表面は非常に低い表面粗さを有し、さらに加工損傷がない。
【0045】
上記エッチング、好ましくは等方性エッチング及び再成長の技術を併用して、表面をまずエッチングしてから薄層を再成長させてダイヤモンド層の表面を形成することができる。このやり方は一般的に、エッチングが全ての機械加工損傷を除去するのに十分に完成しなかった場合にのみ有利である。
上述した等方性エッチング、及び再成長法によって本発明のダイヤモンド材料の表面を調製するのが有利である。この調製は、材料をスピントロニクス用途で使う予定の場合に、量子スピン欠陥の光学読み書きが可能であるように、調製表面に隣接するダイヤモンド材料の部分に特に、実質的に欠陥及び不純物がないことを保証する。
本発明の方法はさらに、製造されるダイヤモンド材料の表面終端を制御するための工程を含んでよい。ダイヤモンド表面は、極端に低い圧力(例えば、数μTorrの圧力)の条件下を除き、かつ数百℃に加熱することによって終端種が脱着される場合しか、裸の炭素原子から成ることはほとんどない。最も一般的な終端種は、全ての同位体形態のH、O及びOHである。特に、非ゼロ電子スピン量子数及び/又は非ゼロ核磁気スピン量子数を有する種による表面の終端を最小限にすることが望ましい。これらの種は材料中に存在するいずれの量子スピン欠陥のデコヒーレンス時間及び/又はスペクトル安定性にも影響を及ぼし得るからである。特に、ゼロに等しい核スピン量子数若しくはゼロに等しい電子スピン粒子数又はゼロに等しい核スピン量子数と電子スピン量子数の両方を有する原子でダイヤモンドの表面を終端処理することが望ましいであろう。水素(1H)は1/2の核スピン量子数を有するので、超微細相互作用によってNV-欠陥の遷移の分割を引き起こすことがあり;二重水素(2H)は1の核スピン量子数を有するので、超微細相互作用によってNV-欠陥の遷移の分割を引き起こし得る。従って、これらの2つの同位体は、量子スピン欠陥のデコヒーレンス時間及び/又はスペクトル安定性に有害な影響を及ぼす可能性がある。同位体16Oはゼロの核スピン量子数を有するので、NV-量子スピン欠陥との超微細相互作用はなく、16Oは超微細相互作用によってデコヒーレンス時間又はスペクトル安定性に何ら作用しない。従って、考えられる他の終端種より16Oで末端処理するのが有利であると考えられる。天然存在度酸素は99.76%の16Oを含む。
発明者らは、完全に16O酸素で終端処理した表面はいかなる不対電子をも持たないので、16O終端原子の電子と、量子スピン欠陥を含むNV-中心の不対電子との間には何の相互作用もないはずであると考える。
例えば、表面を実質的にエッチングするのに不十分な条件下で低圧16Oプラズマに表面をさらすことによって(例えばBioRad PT7150 RF Plasma Barrel Etcher内で約1分〜15分間、約20Paの圧力にて16Oプラズマ内)、16O終端処理表面を調製することができる。
好ましくは、16O酸素で終端処理されている、量子スピン欠陥に最も近い表面の領域の割合は約95%以上、約98%以上、約99%以上、約99.5%以上、約99.8%以上、約99.9%以上である。
X線光電子分光法などの技術上周知の方法で表面終端を特徴づけることができる。
【0046】
本発明の方法は、約100ppb以下の全窒素濃度及び約0.9%以下の13Cの濃度を有する合成ダイヤモンド材料の層を製造することができる。
本発明の合成ダイヤモンド材料の層の好ましい厚さは、該材料を使用する最終用途によって決まるであろう。例えば、合成ダイヤモンド層の厚さは、100μm以下、或いは約50μm以下、或いは約20μm以下、或いは約10μm以下であってよい。これは、ダイヤモンド層を従来のダイヤモンド支持層と併用するつもりの場合に有利である。取扱いの容易さのため、ダイヤモンド材料の層は少なくとも0.1μm以上、好ましくは約0.2μm以上、好ましくは約0.5μm以上の厚さを有してよい。
ダイヤモンド層を通常のダイヤモンド支持層、例えば天然存在度ダイヤモンドから形成された層と併用する実施形態では、ダイヤモンド材料の層の支持層側から支持層の一部をエッチングで取り除いて、支持層を貫いて下のダイヤモンド材料の層への窓を形成することによって、本発明のダイヤモンド材料の層にアクセスすることができる。
或いは、本発明の合成ダイヤモンド材料の層の厚さは100μm以上、場合によっては200μm以上であってよい。合成ダイヤモンド材料の厚さは約2000μm未満、或いは約1000μm未満である。有利なことに、層がこのような厚さを有する場合、機械的に頑強な十分な厚さであり、基板から引き離して合成ダイヤモンド材料の自立層を提供することができる。合成ダイヤモンドの層を厚くし過ぎると、コストが相当高くなり、層の作製が困難になり、特に、前述したように、表面粗さRa又はRqは厚さが増すにつれて高くなる傾向があり、層内への窒素の取込みの制御をより困難にする。
【0047】
合成ダイヤモンド材料の層の化学的純度を最大にするため、合成ダイヤモンド材料の層内の窒素の全濃度を最小限にすることが望ましい。この点について、窒素の全濃度は、約100ppb以下、好ましくは約50ppb以下、好ましくは約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下である。合成ダイヤモンド材料中の実質的に全ての窒素が単置換窒素の形態なので、EPRによって窒素の量を定量することができる。
NV中心として存在する窒素は、W15 EPR中心と関連付けられており、EPRによって、約1ppb(約2×1014cm-3)の濃度に至るまで測定することができる。共焦点フォトルミネセンス(共焦点PL)は個々のNV中心を同定できるので、計数手段を用いて極端に低い濃度を測定することができる。発明者らは、全窒素濃度が約100ppbの場合、NV中心の濃度は典型的にCVDダイヤモンド中の全N濃度の約1/10〜約1/100、さらに典型的には約1/50〜約1/20、さらに典型的には約1/30であることを見い出した。この割合をより低いNV濃度に外挿することは妥当であると考えられる。
いくつかの最終用途では、特にダイヤモンド層を量子スピン欠陥用ホストとして使う予定の場合、ダイヤモンド層の同位体純度を最大にすることが望ましい。この点について、本発明のダイヤモンド層の13Cの全含量は、好ましくは約0.9%以下、好ましくは約0.8%以下、好ましくは約0.7%以下、好ましくは約0.5%以下、好ましくは約0.3%以下、好ましくは約0.2%以下、好ましくは約0.1%以下、好ましくは約0.05%以下、好ましくは約0.02%以下、好ましくは約0.01%以下である。
本発明のダイヤモンド材料の層は高い化学的純度を有するので、好ましくは「高い化学的純度」の定義と関連する上述した基準を満たす。
さらに、先に強調したように、窒素の低い全濃度、13Cの低い全濃度の組合せと、好ましくは量子スピン欠陥の位置又は所望位置に直接隣接した表面の損傷の量が確実に最小限になるように意図的に調製された表面とを有する本明細書で定義される合成ダイヤモンド材料の層を量子スピン欠陥用ホスト材料として使う場合、スピン欠陥が特に安定していることを見い出した。これは、量子スピン欠陥に近い表面内の損傷の存在はこれまでこの特性に関連付けられたことがないので、特に驚くべきことである。
【0048】
有利には、本発明の合成ダイヤモンド材料の層は低複屈折を有し得る。ダイヤモンド材料の層の複屈折は歪みが原因であり、層内の拡張欠陥又は構造上の結晶欠陥の存在、特に転位、微小亀裂、小角粒界、双晶面、双晶境界、点欠陥、小角粒界並びに合成ダイヤモンド層の結晶格子への他のいずれの崩壊の指標ともなる。
当業者には分かるように、同位体純度の増加に伴ってダイヤモンドの熱伝導度が上昇する。従って、本発明のダイヤモンド材料の層は特に高い熱伝導度を有する。従って、一実施形態では、本発明のダイヤモンド材料の層が低複屈折をも有する場合、それは非常に高い電力負荷に耐える必要がある用途で使うのに特に適している。該用途の例はダイヤモンドラマンレーザーでの使用である。
ダイヤモンド材料の層を量子スピン欠陥用ホストとして使用する予定の場合、拡張欠陥又は構造上の結晶欠陥の存在は、量子スピン欠陥中心の領域のダイヤモンド格子を変形することがあり、かつ状態にバンドギャップを加え得るので望ましくない。さらに、歪みの存在はNV-欠陥と関係がある光学遷移の歪み誘起動作をもたらす。ダイヤモンド層内の不均一な歪みは実務の複雑さを増し、異なるNV-中心は異なる振動数で光子を放出するであろう。放出された光子が区別できないためには、該方法の測定誤差内で同一周波数で光子が放出されなければならない。従って、不均一な歪みの存在の効果を軽減するため、異なる欠陥中心の遷移をそれらが同一になるようにシュタルク(Stark)シフトさせるため外部印加電場というさらなる複雑さが必要であろう。こういう状況だから、該結晶欠陥の存在を最小限にすることが望ましい。
【0049】
本発明の一実施形態では、合成ダイヤモンド材料の層は下記基準の1つ以上を有する。
a)X線トポグラフィーによって特徴づけられる拡張欠陥の密度が、約0.014cm2以上の面積にわたって約1000/cm2以下;
b)約0.1mm3以上の体積にわたって約1×10-4以下の光学等方性;及び
c)(004)反射に対するFWHM(「半値全幅(Full Width at Half Maximum)」)X線ロッキングカーブ幅が約120アーク秒以下。
本明細書で使用する場合、用語「拡張欠陥」は、転位及び積層欠陥などの欠陥を表す。
本発明の合成ダイヤモンド材料の層は、基準(a)〜(c)の少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つを有し得る。好ましくは合成ダイヤモンド材料の層は基準(a)及び(b)、又は基準(a)及び(c)、又は基準(b)及び(c)、さらに好ましくは(a)、(b)及び(c)を満たす。
好ましくは、合成ダイヤモンド材料の層は、約1000/cm2以下、好ましくは約400/cm2以下、好ましくは約300/cm2以下、好ましくは約200/cm2以下、好ましくは約100/cm2以下の、X線トポグラフィーによって特徴づけられる拡張欠陥の密度を有する。好ましくは、拡張欠陥が特徴づけられる面積は、約0.014cm2以上、好ましくは約0.1cm2以上、好ましくは約0.25cm2以上、好ましくは約0.5cm2以上、好ましくは約1cm2以上、好ましくは約2cm2以上である。
好ましくは、合成ダイヤモンド材料の層は、約1×10-4以下、好ましくは約5×10-5以下、好ましくは約1×10-5以下、好ましくは約5×10-6以下、好ましくは約2×10-6以下、好ましくは約1×10-6以下の光学等方性を有する。好ましくはこの光学等方性は、約0.1mm3以上、好ましくは約0.5mm3以上、好ましくは約1mm3以上、好ましくは約3.4mm3以上、好ましくは約8mm3以上、好ましくは約27mm3以上、好ましくは約64mm3以上、好ましくは約125mm3以上、好ましくは約512mm3以上、好ましくは約1000mm3以上の体積にわたって測定される。
好ましくは、合成ダイヤモンド材料の層は、約120アーク秒以下、好ましくは約50アーク秒以下、好ましくは20アーク秒以下、好ましくは約10アーク秒以下、好ましくは約7アーク秒以下、好ましくは約5アーク秒以下、好ましくは約3アーク秒以下、好ましくは約2アーク秒以下、好ましくは約1.5アーク秒以下の(004)X線ロッキングカーブ半値全幅(FWHM)を有する。好ましくは(004)X線ロッキングカーブFWHMは、約1mm×1mm以上、好ましくは約2mm×2mm以上、好ましくは約4mm×4mm以上、好ましくは約7mm×7mm以上、好ましくは約15mm×15mm以上の面積にわたって測定される。
【0050】
量子スピン欠陥用ホスト材料として使う前に、本発明の合成ダイヤモンド材料の層の表面を本明細書に記載の機械加工及び/又はエッチング及び/又は再成長手法で調製してよい。
或いは、本発明の合成ダイヤモンド材料の層の表面を、該材料に量子スピン欠陥を形成した後に、本明細書に記載の機械加工及び/又はエッチング及び/又は再成長手法で調製してよい。
本発明のソリッドステートシステムは、ホスト材料と量子スピン欠陥を含み、この量子スピン欠陥は室温で驚くほど長いデコヒーレンス時間を有する。
ホスト材料は好ましくはダイヤモンド材料である。ホスト材料がダイヤモンドである場合、それはCVDダイヤモンド材料(すなわち化学蒸着プロセスで調製された合成ダイヤモンド材料)、好ましくは単結晶ダイヤモンド材料、好ましくは単結晶CVDダイヤモンドであってよい。好ましくはホスト材料は本発明の方法で製造されたダイヤモンド材料又は本明細書で定義される合成ダイヤモンド材料の層である。これは、これらのダイヤモンド材料が高い化学的純度と高い同位体純度を併せ持し、量子スピン欠陥用ホストとして使うのに有利であることが分かったからである。
ホスト材料が単結晶ダイヤモンドである場合、好ましくはそれは単一の{100}成長セクターから形成される。
ホスト材料の表面を本明細書に記載の機械加工及び/又はエッチング及び/又は再成長手法で調製してよい。好ましくはホスト材料の表面を約50nm以下、約20nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約2nm以下、約1nm以下、約0.5nm以下の表面粗さRqに加工する。
ホスト材料の表面を、使用すべき量子スピン欠陥に最も近いか、又は量子スピン欠陥がイオン注入などのプロセスによる表面の加工後にもたらされる場合には該量子スピン欠陥の所望位置に最も近い表面上の点に中心がある約5μm、好ましくは約10μm、好ましくは約20μm、好ましくは約50μm、好ましくは約100μmの半径の円によって定義される領域内の表面の表面粗さRqが、約10nm以下、約5nm以下、約2nm以下、約1nm以下、約0.5nm以下、約0.2nm以下、約0.1nm以下であるように加工し得る。好ましくは走査プローブ機器を用いてRqを測定する。
【0051】
ホスト材料が本発明に従って製造されたダイヤモンド材料である場合、本発明の方法は、該ダイヤモンド材料に量子スピン欠陥、例えばNV-中心を形成するためのさらなる工程を含んでよい。或いは、本発明の合成ダイヤモンド材料の層に量子スピン欠陥、例えばNV-中心を形成してよい。
量子スピン欠陥がNV-中心である場合、窒素イオン注入、窒素原子注入又は窒素含有イオン注入によってNV-中心を形成することができる。或いは、ダイヤモンド層内にNV-中心を成長させてもよい。用語「内に成長させる」は、層の成長中に、成長表面に取り込まれたN原子及び空孔からNV中心が自発的に生じることを意味する。詳細には、空孔の近似的な熱力学的平衡濃度がCVDダイヤモンドの成長表面上に存在し、これらの一部がバルクダイヤモンド中に取り込まれることは技術上周知である。従って、N原子と空孔がNV中心を自発的に形成するように、相互に隣接する固体中にN原子と空孔が取り込まれる、小さいが有限の機会がある。
量子スピン欠陥がNV-中心である場合、それは14N又は15Nを含でよい。NV-中心が14Nのみ又は15Nのみを含み、14Nと15Nの混合物を含まないことが望ましい。NV-中心のN原子が単一同位体であると、全ての場合に電子遷移のエネルギーが同一であることを意味するので有利である。単一同位体のNV-中心の形成は、イオン注入法による当該中心の製造と完全に適合性である。
【0052】
イオン注入を利用して、ダイヤモンド材料の表面の中及び下に1つ以上の原子種を送達して、ダイヤモンド層の表面下の所定深さに注入原子のピーク濃度があるNV-中心注入層を形成することができる。次に、中にNV-中心が注入されているダイヤモンド層上にダイヤモンドのキャッピング層を合成することができる。ダイヤモンドのキャッピング層は、好ましくは本明細書の方法を利用して合成される。
成長後、技術上周知のイオン注入法を利用した後、真空中又は不活性雰囲気内で約600℃〜約900℃、好ましくは約750℃〜約850℃の範囲の温度で、約0.1時間〜約16時間、好ましくは約0.5時間〜約8時間、好ましくは約1時間〜約6時間、好ましくは約2時間〜約4時間の時間アニールすることによってダイヤモンド層内にNV-中心を形成することができる。この温度範囲内で、イオン注入プロセスの副生物として生成される、ダイヤモンド層内の空孔が移動性になる。この温度範囲で、置換Nが空孔捕獲用の大きい断面を有するので、アニーリングプロセス中にNV中心が形成される。
【0053】
有利には、量子スピン欠陥の形成の前か後、好ましくは第1アニーリング工程後に、本発明の方法はさらに、約1000℃より高い、好ましくは約1100℃より高い、好ましくは約1200℃より高い、好ましくは約1300℃より高い、好ましくは約1400℃より高い、好ましくは約1500℃より高い、好ましくは約1600℃より高い温度で、約0.1時間〜約16時間、好ましくは約0.5時間〜約8時間、好ましくは約1時間〜約6時間、好ましくは約2時間〜約4時間のさらなるアニーリング工程を含む。このアニーリング工程を、約1×10-3Pa(約1×10-5mbarである)未満の圧力の真空下、又は好ましくはダイヤモンドが炭素の熱力学的に安定した形態であるような(広く「ダイヤモンド安定化圧力」と呼ばれる)超高圧条件下、典型的に約4GPa〜約10GPa(温度によって決まる)下で行なうことができる。この最後のアニールが、NV中心のT2とスペクトル安定性の両方に影響を及ぼし得る、注入によって残されたいずれの残存損傷をも除去する。
第2のアニーリング工程は、固体内(すなわち表面上でない)のいずれの水素原子もが、第2アニーリング工程の最小温度より高い(すなわち約1000℃より高い)温度で有意に移動性になるというさらなる利点を有する。従って、該アニーリング工程を含めることによって、材料の水素濃度を低減することができる。水素1Hとその同位体の濃度は、好ましくは約1018cm-3以下、好ましくは約1017cm-3以下、好ましくは約1016cm-3以下、好ましくは約1015cm-3以下である。1Hは1/2の核スピンを有するのでNV中心と相互作用してそのT2時間を短くすることから、固体中の1Hの濃度の低減は有利である。
好ましくは、量子スピン欠陥は、ホスト材料の表面、好ましくは上述したように加工したホスト材料の表面の約100μm以下、好ましくは約50μm以下、好ましくは約30μm以下、好ましくは約20μm以下、好ましくは約10μm以下、好ましくは約5μm以下、好ましくは約2μm以下、好ましくは約1μm以下以内で形成される。このことは、光学デバイスを用いてNV中心を特徴づけかつ解読できることを意味するので有利である。
【0054】
イオン注入を利用してダイヤモンド層内に形成される量子スピン欠陥は、量子スピン欠陥の配列がダイヤモンド層内に生成されるように正確に配置される。量子スピン欠陥の配列は、ダイヤモンド層内で一次元、二次元又は三次元であってよい。量子スピン欠陥は、配列内で均一又は不均一に分布していてよい。異なるエネルギーで原子又はイオンを注入することによる注入法を利用して三次元配列を形成することができる。さらに、合成ダイヤモンドはいくつかのダイヤモンド層を含んでよく、各ダイヤモンド層は少なくとも1つの量子スピン欠陥を含む。
いくつかの量子スピン欠陥を一次元配列又は二次元配列で配置し得る多数の方法があり、上記議論はいかなる特定の配列の使用をも排除しない。量子スピン欠陥が一次元配列(いくつかの量子スピン欠陥が直線に沿って配置されている)にある場合、量子スピン欠陥を均一に間隔をあけて配置し、或いは不均一に間隔をあけて配置してよい。量子スピン欠陥を均一に間隔をあけて配置すると、相互のそれらの相互作用をよく制御できるので好ましい。量子スピン欠陥を一次配列で配置する場合、合成ダイヤモンド層の表面にある結晶学的方向で配列を整えることができる;例えば、[001]方向の約3°以内に法線を有する表面では、<100>又は<110>方向の約5°以内に配列があってよい。
量子スピン欠陥を二次元配列で配置する場合、配列の2本の軸のそれぞれに沿った量子スピン欠陥の分布が同一又は異なってよく、均一又は不均一であってよい。配列の軸は直交又は非直交であってよい。好ましい二次元配列は直交軸を有し、量子スピン欠陥が軸に沿って均一に間隔をあけて配置されている。二次元配列が直交軸を有する場合、合成ダイヤモンド層の表面にある結晶学的方向で軸を整えることができ;例えば、[001]方向の約3°以内に法線を有する表面では、二次元配列の軸は<100>又は<110>方向の約5°以内にあってよい。
【0055】
スピントロニクス用途が安定した制御できる単一光子源を必要とする場合、実験的実用性が最も近いNV中心間の距離について制限を課す。これらの実用性は、単一欠陥に読み書きできる光学/磁気的方法に関連し、かつパラメーターT2に及ぼす高濃度の常磁性欠陥の影響にも関連する。
アンサンブルEPR測定は、約1ppbのNV-濃度についての上限を決定するためW15 EPR中心による可能性を提供するが、共焦点フォトルミネセンス(PL)測定は非常に低レベルまで定量化が可能である。これをどのように行なうかを示す模式図を図7に示す。共焦点顕微鏡を用いて、室温における単一NV中心の検出を達成することができる。共焦点顕微鏡法は技術上周知であり、Ph. Tamarat et al(J. Phys. Chem. A, 104 (2000), 1-16)に記載され、使用されている。
好ましくは、量子スピン欠陥がNV中心である場合、ダイヤモンド層内に形成されるNV中心の濃度は、約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下、好ましくは約0.05ppb以下、好ましくは約0.02ppb以下、好ましくは約0.01ppb以下、好ましくは約0.005ppb以下、好ましくは約0.001ppb以下、好ましくは約0.0001ppb以下、好ましくは約0.00001ppb以下、好ましくは約0.000001ppb以下である。この濃度は、量子デバイスの一部でないNV中心間の相互作用を減らし、それによって、量子スピン欠陥を含むNV中心のデコヒーレンス時間T2を増やし、かつスペクトル安定性を高めるので有利である。
【0056】
当業者には分かるように、特定の関連性のあるソリッドステート材料の最終用途で量子ビットとして使用するのは、量子スピン欠陥の濃度と分離である。例えば、スピントロニクス用途で利用する予定の量子スピン欠陥がホスト材料の薄層内にある場合、この層以外の他の量子スピン欠陥の濃度はあまり重要でない。しかし、本発明は、例えば、ホスト材料の全体にわたって分布されている量子スピン欠陥の三次元配列があり得るソリッドステートシステム(ここで、各量子スピン欠陥内では個々にアドレス指定可能である)をも提供する。この場合、全ての量子スピン欠陥の濃度と分離が特定の関連性がある。この点について、本発明は、ホスト材料の薄層に限定されず、合成ダイヤモンドホスト材料のバルク部分を含み、そのバルク全体を通じて実質的に同一の特性を有するソリッドステートシステムにも拡張する。
ホスト材料中の量子ビット欠陥中心のデコヒーレンス時間T2は、特に、ホスト材料中の他の欠陥、特に磁気スピンを有する欠陥の接近によって不利に減少する。本明細書では、用語「他の欠陥」を用いて、量子ビット中心として作用するよう意図されていない、ホスト材料中に存在する欠陥を表す。
ホスト材料がダイヤモンド層である場合、量子スピン欠陥のT2に影響を及ぼす、ダイヤモンド層中に存在する他の欠陥は、一般的に以下の4つの機構のうちの1つによって量子スピン欠陥のT2に影響を及ぼす。
・欠陥が常磁性であり、ひいてはスピンを有する場合、双極子スピンカップリング;
・電場又は電荷、例えば量子ビット欠陥中心が位置する局所電場電位の変化が隣接欠陥上の電荷から生じる場合。さらに、該欠陥は例えば熱励起によってランダムに電荷状態を変えて、量子ビット欠陥中心のエネルギー状態に変化を引き起こし得る。本質的に、状態にバンドギャップを加えるいずれの欠陥も局所電場を上昇させ得る。
・格子歪み(これが格子の局所弾性特性、ひいては量子ビット欠陥中心の詳細構造を変え、例えば次にゼロフォノンラインエネルギー又は線幅に影響を及ぼすので);及び
・局所光学特性、例えば吸収、屈折率及び散乱など;量子ビット欠陥中心との相互作用は一般的に光学手段によることから、詳細な光子構造を効率的に外界とつなぐ必要があるので、ダイヤモンド材料の全てのこれらの光学的態様が重要である。
【0057】
従って、該欠陥の存在を最小限にすることに加えて、例えば、本発明の方法を用いてダイヤモンドホスト材料を製造することによって、磁気スピンを有する他の要素から、いかなる相互作用をも最小限にするのに十分な距離で量子スピン欠陥を確実に分離することも望ましい。
この点について、好ましくは、量子スピン欠陥を磁気スピンを有する他の要素(すなわち他のNV中心)から、いずれの断面切断によってもNV中心間の平均距離が0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、好ましくは1μm以上、好ましくは2μm以上、好ましくは5μm以上、好ましくは10μm以上、好ましくは20μm以上、好ましくは50μm以上であるように分離する。
上記距離は、量子ビットとして使用する予定の個々のNV中心と磁気スピンを有する他の要素との間の距離又はスピントロニクス用途で一緒に使用する予定の一群の2つ以上のNV中心と磁気スピンを有する他の要素との間の距離であってよい。
当業者には分かるように、重要なのは、ダイヤモンド材料の、読み出し及び/又は特徴づけする予定の部分のNV中心の密度とNV中心の間隔である。
【0058】
本発明の合成ダイヤモンド層の高い化学的純度及び高い同位体純度のため、該層内に、室温で驚くほど長いT2時間を有する量子スピン欠陥、特にNV中心を形成することができる。
極低温を採用する必要がないことを意味するので、室温でこれらの長いT2時間が観察されることは特に有利である。
この点について、本発明は、ホスト材料、好ましくは本発明の合成ダイヤモンド材料の層と、量子スピン欠陥を含むソリッドステートシステムであって、量子スピン欠陥が室温で約500μs以上、好ましくは約700μs以上、好ましくは約900μs以上、好ましくは約1ms以上、好ましくは約1.2ms以上、好ましくは約1.4ms以上、好ましくは約1.6ms以上、好ましくは約2.0ms以上、好ましくは約3.0ms以上、好ましくは約4.0ms以上、好ましくは約5.0ms以上、好ましくは約8ms以上、好ましくは約10ms以上、好ましくは約15ms以上、好ましくは約20ms以上、好ましくは約25ms以上、好ましくは約30ms以上、好ましくは約50ms以上のT2を有する、ソリッドステートシステムを提供する。
T2の最大値はT1、すなわち「スピン-格子緩和時間」によって基本的に制限される。実際には、T2の最大値はT1の値の約1/5〜1/10であることが分かっている。通常、T2の値は1000msを超えないだろう。
ESR法を利用して量子スピン欠陥のT2時間を決定することができる。T2を測定するために採用されるESR法は、ハーンエコー減衰(Hahn echo decay)を利用してスピンコヒーレンスの寿命(すなわちT2)を測定する。例えば、量子スピン欠陥がNV中心である場合、スピン偏極集団を用いて単一NV中心についてハーンエコー減衰測定を行なう。スピン偏極集団は3A基底状態(すなわちms=0)から3E第1励起三重項状態(すなわちms=-1)までのレーザー励起によって作り出された後、基底状態へ戻る減衰がスピン角運動量の非保存に起因するスピン偏極状態を残すことになる(D. Redman et al, J. Opt. Soc. Am. B, 9 (1992), 768)。次にNV中心のスピンが、NV中心のスピンを反転させるマイクロ波パルスを利用する一連の変換を受ける(該シーケンスを図8に示す)。パルスは形態π/2-t0-π-t0-π/2(ここで、t0はパルス間の時間である)を取る。次に蛍光を通じてNV中心のスピンが読み出される。パスル間の異なる時間t0で測定を繰り返して、デコヒーレンス時間T2を測定することができる。
【0059】
T2値を測定する方法は以下の通りである。この方法をNV中心を特徴づけることに関連して述べてあるが、類似の方法を利用してNV中心以外の量子スピン欠陥のT2値を決定でことが当業者には分かるであろう。
(i)レーザー励起を利用する共焦点顕微鏡システムを用いて単一NV中心を見つける(図7に模式的に示す)。
(ii)NV中心について「同時測定」を行なって、選択したNV中心が実際に単一NV中心であることを確認する。この測定は、光子周波数安定性測定に使われるシステムと同様のシステムを使用するが、ずっと狭くて速い走査時間を用い、数えられる光子の代わりに測定される1つの光子と次の光子との間の時間遅延を利用する。図6は、ゼロに同時事象がない(特徴づけられるNVが実際に単一NV中心であることを示唆している)同時試験の結果を示す。
同定されたNV中心のT2時間を今度こそは決定することができる。
(iii)非縮退共鳴(例えば1.299T)に及ぼす磁場の存在下、NV-中心のZPL未満の波長で(例えば532nmで)操作する連続波(「cw」)レーザーを用いてNV中心を励起させてms=0状態のスピン偏極集団を作り出す(NV中心の電子構造の理由で)。
(iv)次に、1μs未満から多数のμsまで体系的に変化する「遅延時間」、t0で分離される例えば、約35GHzの周波数の一連の短い(数nsの持続時間)強烈な(16Wピーク出力)マイクロ波パルスにスピン偏極NV-中心を供して、スピン状態を「反転」させる。第1パルスは、磁化をコヒーレント重ね合わせms=0及びms=-1状態に回転させるπ/2パルスである。第1パルスの時間t0後の第2パルスは、スピンを逆さにするπパルスである。第1パルスの時間2t0後の第3パルス(別のπ/2パルス)は、スピンを回転させてその元の状態に戻す。このシーケンスを図8に示す。マイクロ波パルスのシーケンス中、NV中心からの蛍光放出の強度をモニターする。蛍光放出の強度は、t0の値が変化するにつれて変化する。このプロセスをt0時間より長く体系的に繰り返す。
(v)蛍光強度(「ハーンエコー振幅」とも称する)をt0時間の関数としてプロットする。蛍光の強度は指数関数的に降下する曲線の変調を示し、該変調のピークにわたって近似的に指数曲線(「電子スピンエコーエンベロープ」とも称する)を適合させることができる。発明者らは、データを選択して下記式に適合させた。
I ∝ exp(-1/TM)
式中、Iは、蛍光強度であり、Tmは、T2と等価な相記憶時間(phase memory time)である。本例では、T2の値を、Iの値が初期強度の1/e≒0.367に低減している電子スピンエコーエンベロープ上の点として定義した(eは周知であり、超越数e=2.7182818…)。
文献には、電子スピンエコーエンベロープのフィッティング及びT2の値の抽出への多くのアプローチがある。上記アプローチは保守的なアプローチとみなされる。
この方法(電子スピンエコーエンベロープからのT2値の抽出とは異なる)はCharnock及びKennedy(Phys. Rev. B, 64 (2001), 041201-1〜041201-4)に記載されている。
【0060】
量子スピン欠陥を含むソリッドステートシステムにおいては、読み書きに使われる量子スピン欠陥の光学的遷移の周波数が安定的であって、2つ以上の欠陥が量子力学的に同一の光子を生じさせるように該2つ以上の欠陥の周波数を合わせられることが必要である。
後述する方法に従って量子スピン欠陥からの発光の安定性を決定することができる。この方法をNV中心を特徴づけることに関連して述べてあるが、類似の方法を利用してNV中心以外の量子スピン欠陥からの発光の安定性を決定し得ることが当業者には分かるであろう。
637nmにおけるNV-中心からのゼロフォノンライン発光の波長(又は周波数)安定性の決定は、要求される精度が通常の分光法を利用するには高すぎるので、高精度法の使用を要する(すなわち通常の分光法によっては、約30GHzの周波数分解能に等価な約0.05nmよりもよくは該ラインの位置を決定できない)。実際には、ZPLの真の線幅の測定が必要である。
本例では、発明者らはZPLの安定性を決定するためにレーザー分光法を利用することを選択したが、当技術分野で開示されている他の方法を使用できるであろう。低温(例えば-269℃(4K))でのフォトルミネセンス励起(PLE)測定を利用するダイヤモンド中の単一NV中心についてのレーザー分光法は、Jelezkoら(F. Jelezko, I. Popa, A. Gruber, C. Tietz, J. Wrachtrup, A. Nizovtsev and S. Kilin, “Single spin states in a defect center resolved by optical spectroscopy,” Appl. Phys. Lett., 81 (2002), 2160-2162)に記載されている。発明者らは、低温ではなく室温でこの技術を利用した。
【0061】
PLEによるNV-中心のZPLの安定性の決定を以下のように行なった。
(i)共焦点顕微鏡を用いてレーザー照射(例えば532nm)で単一NV中心を同定し、T2時間の決定には同時測定を利用する。
(ii)波長可変励起レーザー(637nmで出力可能な波長可変レーザー及び約5MHz未満の周波数同調ステップを有する)の焦点を共焦点顕微鏡を用いてNV中心に合わせ、レーザーの周波数を例えばZPL周波数の両側の約3GHzの範囲にわたって637nmでNV- ZPLを横断して走査する。サンプルから「反射」して戻る照射は光路に従うので、典型的にZPLの波長で光を入れるための通常分光計セットを用いて検出できる。
(iii)単一NV中心は、基底状態から励起状態への実際の遷移が起こる周波数でのみ入射レーザー光線を吸収し;これが、検出器によって測定される強度の減少として観察される。周波数は検出器の強度の減少と関係があり、励起周波数対光子数のヒストグラムに周波数をプロットする。
(iv)周波数走査を複数回繰り返して、例えば図9に示すように、明確に定義されたピークのある統計的に有意なヒストグラムを構築する。
(v)ヒストグラムのピークの半値全幅(「FWHM」)で安定性を特徴づける。
【0062】
上記方法では、使用する検出器は、その機能が周波数ではなくレーザー走査として「反射」された照射の強度を測定することなので通常の分光計であってよい。
上記方法では、特に励起出力が増すと「光退色(photo bleaching)」(すなわちNV中心から電子が失われる)が起こり得る。例えば、532nm又は488nmで「リポンプ(repump)」レーザーを適用して、この退色を逆転させ得る。リポンプは、単置換窒素不純物から伝導バンドへ電子を励起させるのに十分なエネルギーを有し、これらの電子はNV中心によって再捕獲され得る。このプロセスは決定論的でなく、いつでもNV-電荷状態のNV中心を残すわけではない。PLE走査間に連続的にか又はパルスとしてリポンプを適用できるが、連続的リポンピングは、単一PLE走査中に素早い点滅及びおそらくスペクトル拡散を引き起こす。走査間のパルスリポンプは中断せずに単一走査を完了させられるが、点滅又は走査から走査へのスペクトル飛び越しをもたらし得る。
特定周波数を有する光子の数対その光子の周波数のヒストグラムのピークのFWHMの理論上の最小値は約13.3MHzである。この値は、他の点欠陥又は拡張欠陥を持たない、ほかの点では完璧な同位体的に純粋なダイヤモンドの単一NV中心に当てはまるであろう。
好ましくは、本発明のソリッドステートシステムでは、ms=±1の励起状態からms=0の基底状態への遷移の安定性が、特定周波数を有する光子の数対その光子の周波数のヒストグラムのピークのFWHMが約500MHz以下、好ましくは約300MHz以下、好ましくは約200MHz以下、好ましくは約150MHz以下、好ましくは約100MHz以下、好ましくは約80MHz以下、好ましくは約50MHz以下であるようなものである(ここで、該FWHMを評価する光子の数は約5×105以上、好ましくは約106以上、好ましくは約107以上、好ましくは約108以上である)。
本発明のソリッドステートシステムは、量子リピーター、量子暗号デバイス、量子計算デバイス又は他のスピントロニクスデバイス、例えば磁気計であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1(a)】15NV-及び14NV-中心のエネルギーレベル模式図を示す。
【図1(b)】15NV-中心から光学的に検出された電子常磁性共鳴スペクトルを示し、挿入図に14NV-中心の同スペクトルを示す。
【図2(a)】15NV中心の二次元配列を形成するための15Nイオンの二次元配列の合成ダイヤモンド材料への注入の概略図を示す。
【図2(b)】注入時のダイヤモンド中の高エネルギー窒素イオンの径路と終点を表すモンテカルロ(Monte-Carlo)シミュレーションの結果を示す。
【図3】15Nの単結晶CVDダイヤモンド層へのイオン注入によって形成された15NV中心の二次元配列の共焦点顕微鏡画像を示す。
【図4】本発明のダイヤモンド層内のNV中心の蛍光励起スペクトルを示す。
【図5】エコースポットが単一NV中心に対応している、単結晶CVDダイヤモンド層の領域の共焦点顕微鏡画像を示す。
【図6】連続的光子間の時間遅延(「光子間時間遅延(interphoton time delay)」)が0nsの遅延時間ではゼロの同時速度を有する(全ての光子が単一NV中心由来であることを示唆している)ことを示す。
【図7】共焦点顕微鏡(共焦点蛍光顕微鏡を含む)を用いて非常に低い濃度のNV中心を測定することができ、かつマイクロ波又はラジオ周波数シグナルを用いて基底状態から励起状態に電子を励起させることができる模式配置を示す。
【図8】NV中心のスピンを逆転させるマイクロ波パルスを用いる一連の変換を示す。
【図9】複数のPLE走査を行なった(数走査ごとにリポンプパルスを含む)単一NV中心の結果及び放出された光子の周波数と放出が当該周波数である回数とのストグラム(ピークの半値全幅が約250MHzであることを示している)を示す。
【図10】異なる同位体純度、詳細には、天然存在度の13Cを有する単結晶ダイヤモンド(26)と比較した99.99%の13C(22)及び99.6%の13C(24)の本発明の単結晶ダイヤモンド材料内のNV中心のT2のハーンエコー測定の結果の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
上述したように、ダイヤモンド内のNV中心は1つより多くの磁気スピン状態を有するので、量子ビット用途に使用することができる。図1(a)は、15NV-及び14NV-中心のエネルギーレベル模式図を示し、基底状態スピン構造の超微細カップリングエネルギーの差異を示している。これらの中心のスピン構造を図1(b)の光学的に検出された磁気共鳴スペクトルで見ることもできる。図1(a)及び1(b)は、NV中心の磁気スピン状態の非退縮を明白に示している。図1(a)が示すように、磁気スピン状態間には、より高いエネルギーの磁気スピン状態を占めるNV中心がエネルギーを失い得るいくつかの許容遷移がある。NV中心が高エネルギー磁気スピン状態から低エネルギー磁気スピン状態への遷移を受けるときに失われるエネルギーが光子として放出されるので、光検出器を用いて検出かつ特徴づけることができる。
図2(a)は、NV中心の合成ダイヤモンド材料への注入の概略図を示す。この図中、NV中心は2MeV(メガ電子ボルト)のエネルギーでN++イオンの注入によって形成される。この図に示すNV中心は全て同エネルギーで注入されて二次元配列を形成する。
図2(b)は、注入時のダイヤモンド中の高エネルギー窒素イオンの径路を表すモンテカルロシミュレーションの結果を示す。イオンの最終位置の分布は約1.1μmの平均深さを有し、約0.5μmの半値全幅で横方向に特徴づけられる。この図中、NV中心は2MeVのエネルギーでN++イオンの注入によって形成される。注入されたイオンの径路は一直線でないが、ダイヤモンド構造の炭素原子との衝突間の一連の直線セグメントで構成されている。一部の衝突が炭素原子をその正常部位から突き落として自己格子間(self-interstitial)炭素原子及び空孔を形成して損傷ゾーンを形成する。損傷ゾーンの横方向の広がりは、注入されたN++イオンの分布の広がりとほぼ同じであるが、注入されたN++イオン毎に形成された多く(例えば102〜103)の自己格子間原子及び空孔がある。
【0065】
図3は、単結晶CVDダイヤモンド層内の注入されたNV中心の二次元配列の共焦点顕微鏡画像を示す。画像中の各ドットが単一NV中心に相当する。ドットのクラスター(そのうちの4つが実質的に正方形の配列に見える)は注入プロセスによって形成されたNV中心であり、他のランダムに分布されたドットは、成長プロセス中の窒素原子及び空孔の取込みによって形成されるNV中心(「固有NV中心」とも称する)に起因する。
図7に示す共焦点顕微鏡配置中、(2)はレーザーであり、(4)はアバランシェフォトダイオード(avalanche photodiode)(APD)であり、(6)はダイヤモンド表面であり、(8)は単一NV中心であり、(10)はマイクロ波及びラジオ周波数である。
以下の実施例で本発明をさらに説明する。当然のことながら、実施例は説明目的のためだけであり、上述した本発明を限定するものではない。本発明の範囲を逸脱することなく、細部の変更を行ない得る。
単結晶CVDダイヤモンドで単一NV中心のT2値を測定した。この特定中心の選択は、個々の中心のスピン状態への接近を許す光学的読み出しの利用能に関連する。
【実施例】
【0066】
実施例1〜4は、本発明の材料の合成のために用いた方法の態様を説明する。
(実施例1)
この実施例は、本発明の一実施形態の単結晶CVDダイヤモンドの調製に関する。
厚さ約1.5mm及び横方向3mm×3mmの寸法の4つの単結晶CVDダイヤモンド基板(Element Six Ltd, Isle of Man, www.e6cvd.com)を選択して熱酸化性酸混合物で浄化した。
4つの基板を約1.5mmの間隔があくようにモリブデンキャリア上にろう付けした。針式プロフィロメーター(「Taylor Hobson FormTalysurf 50」, Taylor Hobson Ltd, Leicester, UK)を用いて基板のRa測定(基板毎に5回の0.08mm測定)を行なった。全ての場合にRaが約1mm未満であることを示した。ランダムに選択した基板を1μm×1μmの面積について原子間力顕微鏡(Veeco「Dimension 3100」)を用いてさらに測定した。Rqが0.5mmであることを示した。
【0067】
次にCVDダイヤモンド沈着反応器内に該配列を置いて以下のin situプラズマエッチングシーケンスに供した。
下記条件を利用する酸素エッチング:
約20kPaの圧力;
H2−300sccm、Ar−15sccm、O2−10sccmのガス流量;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定、O2(「O2 6.0」CK Gases Ltd., Hook, Hampshire, UK)−1ppm未満として規定され、供給業者によって約0.8ppmと検定された;
約800℃の温度;及び
持続時間−10分;
その後、下記条件下の水素エッチング:
約20kPaの圧力;
H2−300sccm、Ar−15sccmのガス流量;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定;
約780℃の温度;及び
持続時間−10分。
入力ガス流から酸素を除去することによって、酸素エッチングから水素エッチングに移る。
エッチングシーケンスの完了時、下記条件を用いてCVDダイヤモンド層を沈着させた。
約20kPaの圧力(約150Torr);
成長中の表面温度975〜1000℃;
sccm(標準平方センチメート)のガス流量:H2−600、Ar−50、CH4−15、O2−9;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定、CH4−体積で10ppm未満の不純物として規定され、供給業者によって8±1ppmと測定された、O2(「O2 6.0」CK Gases Ltd., Hook, Hampshire, UK)−1ppm未満の不純物として規定され、供給業者によって約0.8ppmと検定された;及び
CH4同位体純度:99.6%超えの12C。
【0068】
電力を調整して必要温度(975〜1000℃)を達成した。約3kWだった。
沈着プロセスを約24時間行なった後に終了した。基板上に沈着された、同位体が濃縮されたCVDダイヤモンド層の厚さを測定すると、約50μm〜約60μmだった。
約5μmの深さへのSIMS深さプロファイリングは、12C含量が99.5〜99.6%の範囲であり、同位体が濃縮されたCH4源ガスと実質的に同一であることを示した。さらに、SIMSは、全窒素含量が約100ppbの検出限界未満であることを示した。
共焦点PL測定は、約1010cm-3(約4μmのNV中心の平均分離と等価)のNV欠陥濃度を確証した。NV対全窒素の比は典型的に約1:30であることが分かっているので、これは全窒素濃度を約3×1011原子/cm3とみなす。これらの成長したままのNV中心の1つをハーンエコー法で特徴づけると、約1.6msのT2時間を有した。
成長したままのNV中心から放出された光子の安定性(そのT2時間を予め測定した)を本出願の他の場所に記載した方法で特徴づけた。放出された光子の周波数対その発生回数のヒストグラムのFWHMは、106個の放出された光子について測定した全数の光子にわたって安定性が200MHz〜250MHzだったことを示す。
上述したように、固体炭素源の使用を含む方法によっても本発明の合成ダイヤモンド層を製造することができる。下記実施例2〜4で詳述するように該方法を実施することができ、放出された光子のT2値及び安定性について同様の結果が得られると予測される。
【0069】
(実施例2)
この実施例は低窒素含量の同位体が濃縮された炭素源として引き続き使用する多結晶性ダイヤモンドの合成及び特徴づけに関する。
多結晶性CVDダイヤモンドの合成に適した通常の2.45HGzマイクロ波プラズマ反応器を使用する。直径約50mm及び厚さ5mmのモリブデン基板を反応器内に置いた後、2〜4μmの天然ダイヤモンド粉末を手作業でまく。
多結晶性CVD層を下記条件で基板上で成長させる。
圧力−20kPa(約150Torr);
成長中の表面温度:975〜1000℃;
sccm(標準平方センチメート)のガス流量:H2−600、Ar−50、CH4−15;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定、CH4−10ppm未満の不純物として規定され、供給業者によって8±1ppmと測定された;及び
CH4同位体純度:99.6%超えの12C。
電力を調整して必要温度(975〜1000℃)を達成した。約3kWだった。
成長プロセスの終了時、多結晶性CVDダイヤモンドの厚さは約1mmである。多結晶性ダイヤモンドの層を基板から除去する。
材料の小片についてSIMS測定を行うことができ、CVDダイヤモンド材料の窒素含量は、この技術の約100ppbの検出限界未満である。炭素同位体比をもSIMS測定で測定できる。該測定は、CVDダイヤモンド中の炭素同位体比が99.6%の12Cであり、前駆体CH4の同位体比と実質的に同じであることを示す。このようにしてプロセスは同位体が濃縮された炭素源ガスと同じ同位体比であるが、同位体が濃縮された炭素源ガスの窒素不純物含量より実質的に低い(SIMSの感度によって制限されるが少なくとも100倍)窒素不純物含量の炭素源材料を形成する。
【0070】
(実施例3)
この実施例は、高い同位体純度と高い化学的純度を併せ持つ合成単結晶ダイヤモンドの合成用炭素源として実施例2の固体炭素源を使用する場合の本発明の実施形態に関する。
実施例2で合成されたダイヤモンドの層をレーザーでカットして、公称外径48mm及び公称内径36mmのアニュラスを形成する。導電性銀ペイントを用いて50mm径、5mm厚のモリブデンキャリア上にアニュラスを熱付着させる(Acheson ElectroDag 1415, Agar Scientific, Stansted, UK)。
表面をスケイフ研磨した寸法が約3mm×3mm×0.5mmの4つの単結晶CVDダイヤモンドプレート(Element Six Ltd, Isle of Man, www.e6cvd.com)を熱酸化性酸混合物を用いて浄化し、アニュラスの中心開口内のモリブデンキャリア上にろう付けする(Au-Taろう付け材を用いて)。
タングステンキャリア、熱付着させた多結晶性ダイヤモンドアニュラス及びろう付けした単結晶CVDダイヤモンドプレートを含むアセンブリーを実施例2で用いた反応器と同様のCVD反応器に入れる。
次に下記条件を利用して単結晶ダイヤモンド基板上でCVDダイヤモンドの層を成長させる。
圧力−20kPa(約150Torr);
成長中の単結晶基板温度:900〜960℃;
成長中の多結晶性アニュラス温度:975〜1000℃;
sccm(標準平方センチメート)のガス流量:H2−600、Ar−20;及び
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定。
【0071】
多結晶性ダイヤモンドアニュラスは、単結晶ダイヤモンド基板よりわずかに高く、あまりよく放熱されないので、プラズマにより近く、測定すると、単結晶ダイヤモンド基板よりわずかに熱かった。
多結晶性材料をプラズマにさらす温度及び/又は面積を増やすことによって、多結晶性ダイヤモンドのエッチングの速度、ひいては単結晶ダイヤモンドの成長速度を高めることができる。特に、熱付着されていない多結晶性ダイヤモンド材料を使用するか又は多結晶性ダイヤモンド材料をモリブデンキャリア上に間隔をあけて配置するか又は多結晶性ダイヤモンド材料片をプラズマに垂直に立たせることによって、全て多結晶性ダイヤモンド材料の温度とエッチング速度を高め、それによってガス炭素濃度、ひいては単結晶ダイヤモンドの成長速度を高める。
水素-アルゴンプラズマはアニュラスの多結晶性ダイヤモンドをゆっくりエッチングし、単結晶基板上にCVDダイヤモンドを沈着させる。アニュラスの多結晶性ダイヤモンドのエッチング速度は非常に遅いので、単結晶基板上の沈着速度も非常に遅い(典型的に1μm/時間未満)。成長の約24時間後にプロセスを終了させてアセンブリーを除去する。
この被覆単結晶基板の1つをSIMSで分析することができる。12C及び13C同位体の同位体比の深さプロファイルは、表面から約5μmの深さでは、12C含量が約99.6%であり、固体炭素源と実質的に同一であり;約5μmの深さより下では、12Cの濃度が約98.9%、すなわち同位体が濃縮されていない炭素の濃度であることを示す。さらなるSIMS測定を利用して窒素の全濃度を決定することができる。該測定値は、表面の約5μm以内のCVDダイヤモンドの全窒素含量は、この方法の約100ppbという限界又はそれ未満であることを示す。
共焦点PL測定値を利用してNV欠陥濃度を決定することができる。該測定値は約109cm-3のNV欠陥濃度を確証する。これらの成長したままのNV中心の1つをハーンエコー法を利用して特徴づけ得る。分析したNV中心は約1.6msのT2時間を有することが分かる。
従って、本発明の方法によって、12Cに関して同位体が濃縮され、かつ非常に低い窒素含量を有する単結晶CVDダイヤモンドが合成される。
【0072】
(実施例4)
この実施例は、高い同位体純度と高い化学的純度を併せ持つ合成単結晶ダイヤモンドの合成用炭素源として実施例2の固体炭素源を使用する場合の本発明のさらなる実施形態に関する。
この実施例は、実施例2と実施例3で用いたのと同様の2つのマイクロ波プラズマCVDダイヤモンド合成反応器を利用する。第1の反応器を用いて、実施例2に従って調製された固体炭素源をガス状炭素種に変換する。第1の反応器を第2の反応器に連結して、第1の反応器のガス出力の一部又は全てを制御可能に、ダイヤモンドが沈着される条件下の第2の反応器に流せるようにする。
実施例2の固体炭素源をモリブデンキャリア(50mm径、5mm厚)に熱付着させ(Acheson ElectroDag 1415を用いて)、第1の反応器に入れる。活性化のために用いた条件は以下の通りである。
圧力−24kPa(約180Torr);
エッチング中の多結晶性層温度:約1000℃;
sccm(標準平方センチメート)のガス流量:H2−350、Ar−15;及び
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定。
プラズマに加えるマイクロ波出力の調整(約3kW)によって多結晶性層の温度を約1000℃で維持する。プラズマによって放出された光の定性的光放出分光学はプラズマ中の原子炭素の存在を示し、ダイヤモンドのエッチングが起こっていることを実証する。活性化プロセスは、第2の反応器内で前成長エッチングシーケンスが開始されるのとほぼ同じ温度で開始され、第1の反応器で生成される炭素含有ガスは、最初は第2の反応器に供給されるのではなく全部廃棄される。
スケイフで表面を研磨した寸法が約3mm×3mm×0.5mmの4つの単結晶CVDダイヤモンドプレート(基板)(Element Six Ltd, Isle of Man, www.e6cvd.com)を熱酸化性酸混合物を用いて浄化し、50mm径、5mm厚のモリブデンキャリア上にろう付けする(Au-Taろう付け材を用いて)。
【0073】
針式プロフィロメーター(「Taylor Hobson FormTalysurf 50」, Taylor Hobson Ltd, Leicester, UK)を用いて基板のRa測定値(基板毎に5回の0.08mm測定)を記録することができる。全ての場合にRaが約1mm未満である。ランダムに選択した基板を1μm×1μmの面積について原子間力顕微鏡(Veeco「Dimension 3100」)を用いてさらに測定することができる。これはRqが0.5mmであることを示す。
モリブデンキャリアと単結晶基板を第2の反応器に入れ、以下のin situプラズマエッチングシーケンスに供する。
下記条件を利用する酸素エッチング:
約20kPaの圧力;
H2−300sccm、Ar−15sccm、O2−10sccmのガス流量;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定、O2(「O2 6.0」CK Gases Ltd., Hook, Hampshire, UK)−1ppm未満として規定され、供給業者によって約0.8ppmと検定された;
約800℃の温度;及び
持続時間−10分;
その後、下記条件下で水素エッチング:
約20kPaの圧力;
H2−300sccm、Ar−15sccmのガス流量;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定;
約780℃の温度;及び
持続時間−10分。
【0074】
入力ガス流から酸素を除去することによって、酸素エッチングから水素エッチングに移る。
エッチングシーケンスが完了したら、第2チャンバーへの水素とアルゴンの直接ガス流量をゆっくり減らし、一方、第1チャンバーから第2チャンバーに全ガス流量が入るまで第1チャンバーから第2チャンバーへのガス流量をゆっくり増やす。
ガス流量が確立されたとき、第2の反応器内の条件は以下の通りである。
約20kPaの圧力;
第2チャンバーへの全ガス流量300sccm;及び
約860℃の基板温度。
第2反応器内のプラズマへのマイクロ波出力を調整して所望温度を達成する。プラズマによって放出された光の定性的光放出分光学は、プラズマ中の原子炭素の存在を示す。
全部で約24時間プロセスを行なって終了する。反応器から除去するときにモリブデンキャリアから被覆単結晶基板を除去する。マイクロメートルによる厚さの測定値は、元の基板上に約8μm〜約12μmの層が沈着されたことを示す。
ランダムに選択された被覆基板をさらに特徴づける。約5μmの深さへのSIMS深さプロファイリングを利用して同位体純度を決定することができる。約5μmの深さへの12C濃度は約99.6%であり、実質的に固体炭素源と同じである。さらなるSIMS測定によって全窒素含量を決定し得る。全窒素含量は、約100ppbの検出限界未満である。
共焦点PL測定値を利用してNV欠陥濃度を決定することができる。これらの測定値は、約109cm-3のNV欠陥濃度を確証する。これらの成長したままのNV中心の1つをハーンエコー法を利用して特徴づけ得る。測定されたT2時間は約1.6msである。
放出された光子の周波数対発生回数のヒストグラムのFWHMによってスペクトル安定性を特徴づけ得る。これは、約106個の放出された光子について測定された光子の全数にわたって安定性が200MHz〜250MHzであることを示す。
【0075】
(比較例1)
比較例1は、源ガスへの酸素添加を省くことを除き、実施例1の方法に従った。使用した正確な条件は以下の通りだった。
圧力−約20kPa(約150Torr);
成長中の表面温度:975〜1000℃;
sccm(標準平方センチメート)のガス流量:H2−600、Ar−50、CH4−15;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−体積で10ppb未満として測定、CH4−体積で10ppmとして規定され、供給業者によって8±1ppmと測定された;及び
CH4同位体純度:99.6%超えの12C。
電力を調整して必要温度(975〜1000℃)を達成した。約3kWだった。
プロセスを約24時間行なった後、終了し、CVDダイヤモンド層の厚さが約60μm〜約70μmの範囲であることが分かった。約5μmの深さへのSIMS深さプロファイリングは、12C含量が99.5〜99.6%の範囲であり、CH4源ガスとほぼ同一であることを示した。さらに、全窒素含量のSIMS測定値は約1ppmであることが分かった。
EPRによるNV中心のアンサンブル測定は約5ppb(約1015cm-3)の濃度を与えた。これは隣接NV中心間の約0.1μmの平均分離に等しい。PLE測定は、いずれの単離NV中心(すなわち、約1012cm-3のNV中心の濃度に等価の、約1μmより多く離れているNV中心)をも同定できなかった。
ハーンエコー法を用いた室温でのT2時間の測定は、約20μsのT2時間を与えた。
前もってT2時間を測定した成長したままのNV中心から放出された光子の安定性を、本出願の他の場所に記載した方法を利用して特徴づけ、放出された光子の周波数対発生回数のヒストグラムのFWHMは、約106個の測定された全数の放出光子にわたって安定性が400MHz〜500MHzだったことを示す。
【0076】
(実施例5)
この実施例は、実施例1に従って製造された材料のサンプルへのイオン注入による15NV中心の形成に関する。
実施例1のダイヤモンド層の合成に従い、窒素イオンの注入後のアニーリングによって、15NV中心を形成した。約15μm離れた約0.1μm径の領域に2MeVの15N++イオンを注入した。用量を選択して約1000イオン/領域とした。広く入手可能な「TRIM」ソフトウェアを利用する注入プロセスのモンテカルロシミュレーションは、複数回の衝突を通じて初期ビームから発散したイオンが、初期ビームに垂直な横方向寸法が数μmの体積を通して分布されるようになることを示した。
サンプルを約800℃の温度で3時間アニールしてから、約1200℃で5時間さらにアニールした。両アニールは真空炉内で約10-6Paの圧力にて行なって、ダイヤモンドの黒鉛化を抑制した。アニーリングは、注入された15N原子の一部を、これも注入プロセス中に形成された空孔と結合させて15NV中心にする。高エネルギーイオンの注入中に多数の空孔が生成されるので、これらの空孔の一部は、サンプル中に存在する「固有の」14N窒素とNV中心を作り出し得る(天然存在度窒素は約0.37%の15N窒素を含む)。
NV中心の生成後、共焦点蛍光顕微鏡を用いてそれらを検出した(図7)。初期イオンビームの1μm以内の50のNV中心の超微細構造を測定して、固有の14NV中心と注入された15NV中心とを区別することができる。測定した全てのNV中心は、15NV超微細構造が、分析した領域内には制御された配列を妨げるであろう「固有の」窒素14NV中心が存在しないことを示唆していることを示した。
従って、この実施例は、本発明の方法によって、本発明の単結晶ダイヤモンド内に制御されたNV中心の制御された配列を生成できることを実証する。
【0077】
(実施例6)
この実施例は、成長したままのNV中心濃度の特徴づけに関する。
図4は、負電荷状態で単結晶CVDダイヤモンド層に成長したNV中心の蛍光励起スペクトルを示す。安定性測定に用いられる波長可変レーザーを使用し、NV-中心のZPLの両側で約3GHzのレーザー周波数を走査し(スペクトルの主ピーク)、かつNV中心からの光子放出の強度(蛍光強度)測定することによってスペクトルを得た。このスペクトルは-272℃(1.6K)の温度で記録された。Ib型及び天然ダイヤモンド中の固有NV中心はこの鮮明さを示すが、本発明のダイヤモンド層内のNV中心についてこの図で観察されるゼロフォノンラインの周波数安定性を示さない。
Ib型及び天然ダイヤモンドには他のイオン性欠陥、おそらく窒素が存在することがあり、これらの欠陥の帯電-再帯電周期が固有NV中心の位置に変動電場をもたらし得るというのが発明者らの主張であり、蛍光スペクトルはシャープなままでなく、例えば図9に示す周波数安定性を示さないことを意味している。従って、本発明のダイヤモンド層内の窒素濃度の減少が、より高い窒素濃度の合成ダイヤモンド材料に比べて本発明のNV中心の安定性を良くする。
【0078】
(実施例7)
この実施例はダイヤモンド層内の窒素濃度に関する。
本発明の方法に従ってダイヤモンド層を成長させた。ダイヤモンド層の窒素純度を電子常磁性共鳴(EPR)及び二次イオン質量分析(SIMS)調査で特徴づけた。SIMSはダイヤモンド層内の全窒素濃度が0.1ppm(百万分率)未満であることを示した。機器の検出レベル及び室温連続波EPRは、単置換窒素濃度が<0.1ppb(十億分率)だったことを示す。
532nmの励起と、約700nmの結像深さに相当する開口数NA=1.4の対物レンズとを利用する共焦点顕微鏡を用いて、このダイヤモンド層のNV中心の濃度を決定した(図5参照)。
図5に示される各輝点を試験して、それらが単一NV中心であることを示した。この試験は、光子の放出間に常に時間遅延があった(発光中心が単一NV中心である場合にのみ真実であり得る)ことを検査する。
10のダイヤモンド層の実施例セットにわたって、NV中心の濃度を測定すると0.01〜10μm-3の範囲だった。これは約1010cm-3〜約1013cm-3のバルク濃度に相当する。
【0079】
(実施例8)
この実施例は先の実施例で開示した方法を利用し、かつ単結晶CVDダイヤモンドの調製に関する。
実施例1の方法を利用して、同位体が濃縮されたCVDダイヤモンドの層を単結晶CVDダイヤモンド基板上に作った。実施例1と比較した差異は以下の通りだった。
CH4窒素含量:15ppmN2当量で測定
CH4同位体純度:99.99%超えの12C
NV欠陥の成長した濃度を共焦点PL法を用いて評価すると、約1010cm-3であった。NV中心の1つを選択し、そのT2時間を室温でハーンエコー法を利用して測定した。ハーンエコー振幅は15msの時間について遅延がないことを示した。これは、15msよりずっと長いT2時間を示唆している。この測定の結果を図10に示す。図10では、99.99%の13C(22)の結果を99.6%の13C(24)及び天然存在度の13C(26)と比較している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドの合成方法及び該方法で製造され得る合成ダイヤモンド材料に関する。この合成ダイヤモンド材料は高い化学的純度と高い同位体純度を有するので、スピントロニクス(spintronic)用途に適した量子スピン欠陥用ホスト材料として使うのに理想的である。
【背景技術】
【0002】
ここ20年間にわたって、暗号法及び量子計算の2つの主要な応用分野のための単一光子源の使用及び操作に相当の関心があった。
これらの応用分野は、量子スケールに基づいて自然界に存在する基本的性質を利用し;測定が行なわれるまで、2つ以上の利用可能なスピン状態を有する粒子を全てのこれらのスピン状態の重ね合わせを有する粒子とみなすしかない。
いくつかの方法を用いて、個別のスピン状態を有する粒子、例えば光子、電子、原子核、原子欠陥などのスピン状態を操作することができ、またエネルギー源又は検出器を用いてスピン状態を検出及び/又は可制御的に変更することができる。個別のスピン状態を有する電子、光子、原子核又は原子欠陥は、伝統的コンピューターにおける「ビット」と類似しているので、「量子ビット」(又は「qubit」若しくは「qbit」)と呼ばれる。しかし、スピン状態の量子の性質のため、量子ビットは1種の2つのスピン状態のみならずこれらのスピン状態の重ね合わせでも存在し得る。スピン状態のこの重ね合わせが、量子ビットに基づいたコンピューターが古典的コンピューターができるよりずっと高速で一定の問題を計算できるようにしており、暗号用途では、盗聴者もがメッセージの内容を知ることなく、受信者にメッセージが送達されたかを発信者が確実に知ることができるようにする。
量子情報処理に必要なキーとなる要素は、個々の量子システムへの量子ビットの低エラーコーディング;ゲート時間に比べて長い時間の量子情報の蓄積;及び速い量子ゲートを形成する2量子ビットの制御できる相互関係である。
【0003】
量子ドット半導体から過冷却イオントラップの範囲の量子ビットホストとして使用するため多数の材料及び構造が提案されている。今日までの代替物は、極低温でしか操作できず、又は非常に短い横緩和寿命(「T2」と称する)を有するという欠点がある。対照的に、ダイヤモンド中の窒素空孔(nitrogen-vacancy)「NV」欠陥は、室温(約27℃(300K))の適用範囲でそれを使うのに十分長いT2を有し得る。ダイヤモンドのNV中心は個別の量子化磁気スピン状態を有するので、量子ビット用途に使用することができる。NV中心は、電子常磁性共鳴(EPR)、フォトルミネセンス(PL)、光吸収分光法及び一軸応力下分光法などの技法を利用して完全に特徴づけられている。ダイヤモンドにおいて、NV中心は、中性と負電荷の両状態で同定されている(それぞれ「NV0」及び「NV-」)。その負電荷状態(NV-)のNV中心は、中性状態(NV0)のNV中心の575nmに対して637nmにゼロフォノンライン(zero phonon line)(「ZPL」)を有する。
【0004】
量子ビット用途に好適な材料を製造するときの1つの主要問題は、量子ビットがデコヒーレンスしないようにするか、又はシステムがデコヒーレンスするのにかかる時間を長くする(すなわち「デコヒーレンス時間」を長くする)ことである。デコヒーレンスは一般的に量子が古典的になるプロセスと解釈されており;このプロセスによって、量子を1つと表現する重ね合わせ及び絡み合いから巨視的世界の決定論が生じる。デコヒーレンス時間を量子化して、横緩和時間T2を用いて比較することができる。T2は、NMR(核磁気共鳴)及びMRI(磁気共鳴映像法)技術で使われる専門用語であり、「位相散逸(dephasing)時間」又は「スピン-スピン緩和時間」としても知られる。横緩和は、ある材料に加えられた主磁場に垂直な励起磁気モーメントが平衡、すなわち、該磁場に平行に戻る緩和を表す。長いT2時間は、量子ゲートの配列の操作のためにより多くの時間を当てることができ、ひいては実行すべきより複雑な量子計算を可能にするので、量子計算等の用途で望ましい。
【0005】
特定の材料では、デコヒーレンス時間は検討している特有の磁気モーメントと関係していることがあり、例えばダイヤモンドでは、13C原子核と関係がある磁気モーメントはNV-中心の電子スピン状態の磁気モーメントと比較して異なるT2を有し得る。これらの各磁気モーメントは、量子用途で有利に使用され得るが、このタイプの用途では多くの点で異なる利益及び限界を示すので、そのT2がどの磁気モーメントについて報告されているかを明らかにすることが重要である。この明細書では、特に断らない限り、「T2」は、量子スピン欠陥、例えばダイヤモンドのNV-中心の電子スピン状態のデコヒーレンス時間を表し、他のT2値が適宜限定され、例えば「T2[13C]」は13C核磁気モーメントのT2時間を表すだろう。
【0006】
US7,122,837では、ダイヤモンドのNV中心が制御様式で創造される。一実施形態では、CVDプロセスを利用して単結晶ダイヤモンドを形成してから、アニールしてNV中心を除去する。次に、制御された数のNV中心を用いて単結晶ダイヤモンドの薄層を形成する。電子回路で使う量子ビットをNV中心が形成する。CVD形成ダイヤモンドでは、アニーリングに加えて、マスク及び制御されたイオン注入を利用して、光学用途とナノ電気機械装置形成の両方のための構造を創造する。導波路をNV中心に光学的につなげて形成し、さらに光源及び光の検出器に連結してNV中心と相互作用させ得る。
Kennedy及びLinares(Phys. Stat. Sol. (b), 233 (2002), 416-426)は、-272℃(1.5K)〜-173℃(100K)の温度で32μsのT2を有するNV中心を含むダイヤモンドを開示している。
Gaebel et al., Nature Physics, 2, June 2006, 408-413は、イオン注入によって形成されたNV中心を含む天然存在度の単結晶ダイヤモンドを開示しており、これは個々の欠陥から350μsのハーンエコー減衰時間(Hahn echo decay time)(デコヒーレンス時間T2)を示す。
NV-欠陥内の内部光学遷移は典型的に約10nsかかる。実行可能な量子計算装置では、T2時間はこれよりずっと大きいはずであり、エラー訂正などに十分なゲート操作を可能にする。従って、約500μs(0.5ms)より長いT2時間は、デコヒーレンスが失われる前に、相当数、典型的に約5×104のゲート操作を提供する。
一部の用途でさらに重要なパラメーターは、NV量子ビットからの読み書き情報に使用できる光学遷移の一時的なスペクトルの安定性に関連している。これは、個々の量子ビットから放出された光子間で絡み合いが達成される場合に特に重要である。量子の絡み合いのために識別不能に必要な条件の1つを保証するため、これらの光子の周波数は同一でなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に基づき、量子スピン欠陥用のホスト材料であって、材料に取り込まれるとき、量子スピン欠陥が、室温で、現在実証されているより長いT2時間を有する材料の必要性があることが明白である。さらに、最終用途で必要なように、特徴づけ及び「読み出し」のために容易にアクセスできる形態及び/又は場所でこれらの量子スピン欠陥を提供することが望ましいだろう。さらに、該量子スピン欠陥に読み書きするために使用する光学遷移の周波数が安定していることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この点について、本発明者らは、化学蒸着(CVD)法を利用してダイヤモンド材料を調製する条件を慎重に制御することによって、高い化学的純度と高い同位体純度を合わせ持つダイヤモンド材料を提供できることを見い出した。特に、CVDプロセスで使用する材料の化学的純度と同位体純度を両方とも制御することによって、量子スピン欠陥用ホストとして使用するのに特に適した合成ダイヤモンド材料を得ることができることが分かった。驚くべきことに、該材料を量子スピン欠陥のホストとして使用した場合、室温で長いT2時間が得られ、かつデバイスに読み書きするために使用する光学遷移の周波数が安定していることが分かった。
【0009】
さらに詳細には、本発明は、高い化学的純度及び高い同位体純度のダイヤモンド材料の調製方法であって、以下の工程:
実質的に結晶欠陥がない表面を有するダイヤモンド基板を供給する工程;
高純度ガスを含む源ガス混合物を供給する工程(ここで、前記源ガス混合物中の窒素濃度は約300ppb以下である);
その全C含量の少なくとも約99%の量で12Cを含む固体炭素源を供給する工程(ここで、前記固体炭素源は低い窒素不純物含量を有する);
前記源ガス混合物及び前記固体炭素源の少なくとも一部を活性化及び/又は解離させてガス状炭素種を形成する工程;及び
前記基板の表面上でホモエピタキシャルダイヤモンド成長させる工程
を含む方法を提供する。
この点について、本発明者ら驚くべきことに、高い同位体純度を有する固体酸素源を使用することによって、製造されるダイヤモンド材料の化学的純度と同位体純度を両方とも有意に高められることが分かった。
【0010】
本発明はさらに、高い化学的純度及び高い同位体純度のダイヤモンド材料の調製方法であって、以下の工程:
実質的に結晶欠陥がない表面を有するダイヤモンド基板を供給する工程;
高純度ガスを含む源ガス混合物と炭素源ガスを供給する工程(ここで、前記高純度ガスは、前記源ガス混合物中の全窒素レベルに約300ppb以下寄与し、前記炭素源ガスは、該炭素源ガスの全C含量の少なくとも99%の量で12Cを含み、かつ約20ppb以下の量で窒素不純物を含む);
前記源ガスを解離させる工程;及び
前記基板の表面上でホモエピタキシャルダイヤモンド成長させる工程
(このとき下記条件の少なくとも1つを満たす:
(a)基板の温度が約800℃〜約1000℃の範囲である;及び
(b)前記全源ガス混合物の、O2当量として測定される、体積で約0.5%〜約5%の量で酸素を前記源ガスに添加する)
を含む方法を提供する。
本発明の方法は、高い化学的純度と高い同位体純度を有する合成ダイヤモンド材料を提供する。この点について、本発明はさらに、本明細書で定義される方法によって得られる合成ダイヤモンド材料を提供する。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、合成ダイヤモンド材料の層であって、該ダイヤモンド層が約5ppb以下の全窒素濃度及び約0.9%以下の13Cの全濃度を有する、合成ダイヤモンド材料の層を提供する。
本発明の合成ダイヤモンド材料の層は、非常に低い不純物レベル及び非常に低い付随点欠陥レベルを有する。さらに、本発明の合成ダイヤモンド材料は、非常に低い転位密度、低い歪み、並びに空孔及び自己格子間濃度(self-interstitial concentratio)を有し、成長温度と関係がある熱力学的値に十分に近く、該材料の光吸収は本質的に、完全な天然ダイヤモンド格子の光吸収である。それ自体、ダイヤモンドである材料においてさらに改善し得ない。
その高い化学的純度及び高い同位体純度の結果として、本発明の合成ダイヤモンド材料は量子スピン欠陥用ホストとしての使用に特に適している。
従って、本発明はさらに、ホスト材料と量子スピン欠陥とを含むソリッドステートシステムであって、前記量子スピン欠陥が室温で約500μs以上のT2を有するソリッドステートシステムを提供する。
本発明のソリッドステートシステムでは、量子スピン欠陥、例えばNV欠陥は室温で驚くほど長いT2値を有する。
量子スピン欠陥がホスト材料に存在する場合、該材料の最終用途では、量子スピン欠陥を特徴づけて読み出す必要があるだろう。ホスト材料と欠陥を含むシステムが、例えば量子計算用途に有用であるためには、量子スピン欠陥を特徴づけ及び読み出すために使用する光学遷移の周波数が高いスペクトル安定性を有する必要がある。このことが、ある量子スピン欠陥をいずれの他の量子スピン欠陥からも区別できないことを保証する。驚くべきことに、本発明の合成ダイヤモンド材料又は本発明の方法で製造されたダイヤモンド材料の層に量子スピン欠陥を導入した場合、量子スピン欠陥は特に安定し光学遷移を示す。
量子スピン欠陥、例えば負電荷状態のNV中心のスペクトル安定性は、室温(約27℃(300K))で測定される経時的に中心から放出された光子の周波数の広がりによって定量化される。負電荷状態のNV中心の場合、測定される光子は、ms=±1励起状態の電子がms=0基底状態に緩和(すなわち、下方遷移)するときに放出される光子である。ゼロフォノンライン(ZPL)と関係がある光子は約4.7×1014Hz(470THz)の周波数に対応する637nmという公称波長を有する。多数の光子の周波数を測定することによって、特定の周波数を有する光子の数対光子の周波数のグラフをプロットすることができる。従って、本発明の合成ダイヤモンド材料層は、量子スピン欠陥用ホストに適している。
【0012】
量子スピン欠陥の読み出しを行なうために使用する技術、かつその調製方法、例えば、数ミクロンの表面内で欠陥を導入できるだけの注入手法のおかげで、この特徴づけは一般的にホスト材料の表面の約100μm以内の材料の領域上で行なわれる。従って、ホスト材料のこの領域は特に高い品質(すなわち、実質的に損傷がない)の領域であり、また量子スピン欠陥が容易にアクセスできるように該材料のこの領域内に位置していることが望ましい。この点で、本発明者らは、低い表面粗さRqを獲得するようにダイヤモンドホスト材料の表面を加工することによって、加工表面から100μm未満の距離に量子スピン欠陥が位置するホスト材料として本発明の合成ダイヤモンド材料を使用した場合、高いT2値及び高いスペクトル安定性を得ることができることを見い出した。量子スピン欠陥のこの位置決めは、例えば、導波路への光学的連結によって、量子スピン欠陥を特徴づけ及び「読み出し」できるように、最終用途で容易にアクセスできることを意味する。
【0013】
従って、さらなる態様では、本発明は、ホスト材料と量子スピン欠陥を含むソリッドステートシステムの調製方法であって、以下の工程:
前記ホスト材料内に量子スピン欠陥を形成する工程(ここで、前記ホスト材料の表面は、前記量子スピン欠陥が形成される所に最も近い表面上の点に中心がある約5μmの半径の円によって定義される領域内の前記単結晶ダイヤモンドの表面粗さRqが約10nm以下であるように加工されている)
を含む方法を提供する。
或いは、表面の加工前にホスト材料内に量子スピン欠陥を形成して、読み出し及び特徴づけを容易にすることができる。この点について、本発明はさらに、ホスト材料と量子スピン欠陥を含むソリッドステートシステムの調製方法であって、以下の工程:
前記量子スピン欠陥が形成されている所に最も近い表面上の点に中心がある約5μmの半径の円によって定義される領域内の前記単結晶ダイヤモンドの表面粗さRqが約10nm以下であるように量子スピン欠陥が形成されているホスト材料の表面を加工する工程
を含む方法を提供する。
【0014】
本明細書では、用語「ppm」を用いて百万分率を表す。
本明細書では、用語「ppb」を用いて十億分率を表す。
本明細書では、用語「高い化学的純度」を用いて、中性置換窒素の濃度が約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下、好ましくは約0.05ppb以下である、ダイヤモンド材料を表す。
【0015】
好ましくは、高い化学的純度のダイヤモンドはさらに以下の基準の1つ以上を満たす。
(i)ホウ素の濃度が約100ppb以下、好ましくは約50ppb以下、好ましくは約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下である;
(ii)非補償置換ホウ素の濃度が約100ppb以下、好ましくは約50ppb以下、好ましくは約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下である;
(iii)ケイ素の濃度が約100ppb以下、好ましくは約50ppb以下、好ましくは約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下、好ましくは約0.05ppb以下である;
(iv)約1332.5cm-1のシフトにおけるダイヤモンドラマン線の強度に対して正規化された737nmのフォトルミネセンス(PL)線の強度で特徴づけられる(両者とも約-196℃(約77K)の温度で測定される)ケイ素空孔(「SiV」とも称する)の濃度が約0.5以下、好ましくは約0.2以下、好ましくは約0.1以下、好ましくは約0.05以下、好ましくは約0.02以下、好ましくは約0.01以下、好ましくは約0.005以下である;
(v)固有常磁性欠陥、すなわち非ゼロスピン磁気スピンX-/+を有する欠陥の濃度が約1ppm以下、好ましくは約0.5ppm以下、好ましくは約0.2ppm以下、好ましくは約0.1ppm以下、好ましくは約0.05ppm以下、好ましくは約0.02ppm以下、好ましくは約0.01ppm以下、好ましくは約0.005ppm以下、好ましくは約0.001ppm以下である;
(vi)いずれの単一の非水素不純物の濃度も約5ppm以下であり、好ましくは水素とその同位体を除くいずれの単一の不純物のレベルも約1ppm以下、好ましくは約0.5ppm以下である;
(vii)水素とその同位体を除く全不純物含量が約10ppm以下であり、好ましくは水素とその同位体を除く全不純物含量が約5ppm以下、好ましくは約2ppm以下である;及び
(viii)水素不純物(詳細には水素とその同位体)の濃度が約1018cm-3以下、好ましくは約1017cm-3以下、好ましくは約1016cm-3以下、好ましくは約1015cm-3以下である。
【0016】
ダイヤモンドは、(i)〜(viii)のいずれの特徴をいずれの数及びいずれの組合せで満たしてもよい。一実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の2つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の3つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の4つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の5つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の6つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の7つをいずれの組合せで満たしてもよい。代替実施形態では、ダイヤモンドは、特徴(i)〜(viii)の8つ全てを満たしてよい。
固有常磁性欠陥は、転位及び空孔クラスターのような、該材料に固有の非ゼロスピンを有する格子欠陥である。g=2.0028で電子常磁性共鳴(EPR)を用いて該欠陥の濃度を決定することができる。この線は格子欠陥の存在に関連していると考えられる。
二次イオン質量分析(SIMS)、グロー放電質量分析(GDMS)、燃焼質量分析(CMS)、電子常磁性共鳴(EPR)及び赤外線(IR)吸収によって不純物濃度を測定することができ、単置換窒素についてはさらに270nmの光吸収測定(燃焼解析で破壊的に分析したサンプルから得た標準値に対して較正される)によって測定され得る。上記「不純物」は、特に断らない限り、水素とその同位体形を除外する。
特に、SIMSを用いて、ホウ素の濃度及びケイ素の濃度を決定し得る。
静電容量-電圧(CV)技術を用いて、非補償置換ホウ素の濃度を測定し得る。
約1332.5cm-1のシフトにおけるダイヤモンドラマン線の強度に対して正規化された737nmのフォトルミネセンス(PL)線の強度(両者とも約-196℃(約77K)の温度で測定される)によって、ケイ素空孔、Si-Vの濃度を特徴づけ得る。
EPR技術を用いて、常磁性欠陥の濃度を決定し得る。
約100ppb(約1×106cm-3)の下限感度のSIMSでダイヤモンド材料中の全窒素を測定することができる。
EPRによって、単置換窒素として存在する窒素を測定することができる。感度の下限は1ppb未満(約2×1014cm-3未満)である。
NV中心として存在する窒素は、W15 EPR中心と関連付けられており、EPRによって、約1ppb(約2×1014cm-3)の濃度に至るまで測定することができる。共焦点フォトルミネセンス(共焦点PL)は個々のNV中心を同定できるので、計数手段を用いて極端に低い濃度を測定することができる。
SIMSは非常に感度の高い技術であり、典型的に数nm〜数μmの範囲の薄層の元素分析を行なうために使用できる。この技術では、表面を一次イオンビームでスパッタし、スパッタされた材料の、表面からイオンとして離れる部分を質量分析法で分析する。特定種の計数率を標準濃度と比較することによって、かつスパッタホールの深さを測定することによって、深さ対濃度のプロファイルを生成することができる。所定領域で一連の値を取ってから平均値を求めることができる。
【0017】
本明細書で使用する場合、用語「高い同位体純度」は、SIMSで測定したところ、12C原子が100%以下かつ約99%以上、好ましくは約99.2%以上、好ましくは約99.4%以上、好ましくは約99.6%以上、好ましくは約99.7%以上、好ましくは約99.8%以上、好ましくは約99.9%以上、好ましくは約99.95%以上、好ましくは約99.98%以上、好ましくは約99.99%以上、好ましくは約99.998%以上である、全C原子の百分率として表した分率である、ダイヤモンドを指す。
本明細書では、用語「量子スピン欠陥」を用いて、2つ以上の磁気スピン状態を有し、かつホスト材料中に取り込まれると量子ビットを形成する常磁性欠陥中心を表す。好ましくは量子スピン欠陥はNV中心である。
本明細書では、用語「スピントロニクス用途」を用いて、電子の量子スピン状態を活用するのみならず電子の電荷状態を利用する用途を表す。例として、量子計算、量子暗号法及び磁気測定が挙げられ、詳細には、例えば、Chernobrod and Berman, Journal of Applied Physics, 97 (2005), 014903Oに記載されているようにDetected Magnetic Resonance (ODMR)法がある。
本明細書では、用語「室温」を用いて約27℃(300K)の温度を表す。
用語「表面粗さRa」(「中心線平均」又は「c.l.a」と表すこともある)は、British Standard BS 1134 Part 1及びPart 2に従い、針式プロフィロメーター(stylus profilometer)によって、0.08mmの長さにわたって測定された、平均線からの表面プロファイルの絶定偏差の算術平均を表す。Raの数学的記述(“Tribology”, I. M. Hutchings, Pub. Edward Arnold (London), 1992, 8〜9ページより)は以下の通りである。
【0018】
【数1】
【0019】
「表面粗さRq」は、二乗平均平方根を表す(「RMS粗さ」と称することもある)。Rqに言及している場合、それは典型的に、British Standard BS 1134 Part 1及びPart 2に従い、針式プロフィロメーターを用いて0.08mmの長さに渡って測定されるか、又は原子間力顕微鏡のような走査プローブ機器を用いて、数μm×数μmの面積(例えば1μm×1μm又は2μm×2μm)にわたって測定され;Rqに言及している場合、Rqを走査プローブ機器を用いて測定すると特に述べていない限り、Rqは針式プロフィロメーターを用いて測定される。Rqの数学的記述(“Tribology”, I. M. Hutchings, Pub. Edward Arnold (London), 1992, 8〜9ページより)は以下の通りである。
【0020】
【数2】
【0021】
ガウス分布(Gaussian distribution)の表面高を有する表面では、Rq=1.25Raである(“Tribology”, I. M. Hutchings, Pub. Edward Arnold (London), 1992, 8〜9ページより)。
本発明の方法は、合成ダイヤモンドを製造するための化学蒸着(CVD)法である。ホモエピタキシャル結晶CVDダイヤモンドを含め、ダイヤモンド材料の合成方法は今やよく確立されており、特許及び他の文献に広く記載されている。ダイヤモンド材料が基板の成長表面上に沈着される場合、本方法は一般的に合成装置に入力される源ガスを供給する工程を含む。合成装置内部では、合成環境の源ガスは、原子形態の水素又はハロゲン(例えばF、Cl)並びにC又は炭素含有ラジカル及び他の反応種、例えばCHx、CFx(xは1〜4であり得る)に解離される。さらに、窒素源及びホウ素源として酸素含有源が存在することもある。多くのプロセスでは、ヘリウム、ネオン又はアルゴン等の不活性ガスも存在する。従って、典型的な源ガスは炭化水素CxHy(式中、x及びyはそれぞれ1〜10であり得る)、又はハロカーボンCxHyHalz(式中、x及びzはそれぞれ1〜10であり得、yは0〜10であり得る)、及び任意に以下の1種以上を含んでよい:COx(式中、xは0.5〜2であり得る)、O2、H2、N2、NH3、B2H6及び不活性ガス。各ガスは、その天然の同位体比で存在してよく、又は相対同位体比を人工的に制御してもよい。例えば、水素は重水素又は三重水素として存在してよく、炭素は12C又は13Cとして存在してよい。
【0022】
本発明の方法で使用する基板は、好ましくはダイヤモンド基板、好ましくはホモエピタキシャルダイヤモンド合成で使うのに適しているダイヤモンド基板である。本発明の基板は低複屈折Ia又はIIb型天然ダイヤモンド又は低複屈折Ib又はIIa型高圧高温(HPHT)合成ダイヤモンドであってよい。基板は、上にCVDダイヤモンド基板層が、基板の成長表面がCVDダイヤモンド基板層の表面であるように合成されているHPHT合成ダイヤモンド層を含んでよい。或いは、本発明の基板が単結晶CVDダイヤモンドであってよい。基板は、ホモエピタキシャル単結晶CVDダイヤモンド合成によって製造されたホモエピタキシャル単結晶CVDダイヤモンドであってよい(本明細書ではホモエピタキシャル基板としても知られる)。
【0023】
用語「低複屈折」を用いて、下記特性の少なくとも1つを有する基板を表す。この特性については、本発明のダイヤモンド材料と関連付けて詳細に説明する。
a)X線トポグラフィーで特徴づけられる拡張欠陥の密度が、約0.014cm2以上の面積にわたって約1000/cm2以下;
b)光学等方性が、約0.1mm3以上の体積にわたって約1×10-4以下;及び
c)(004)反射に対するFWHM(「半値全幅(Full Width at Half Maximum)」)のX線ロッキングカーブ幅が約120アーク秒以下。
【0024】
好ましくは、ダイヤモンド基板は、極端に低レベルの複屈折を有する。ダイヤモンドでは、複屈折は典型的に多数の拡張欠陥(例えば転位、転位束及び積層欠陥)の存在と関係があり、高レベルの局所歪みとその結果として複屈折をもたらす。好ましくは主表面積の約70%以上、好ましくは主表面積の約80%以上、好ましくは主表面積の約90%以上、好ましくは主表面積の約95%以上、好ましくは主表面積の約98%以上にわたる基板の厚さを通じた測定によって評価される最大複屈折が1×10-4以下、好ましくは5×10-5以下、好ましくは1×10-5以下、好ましくは5×10-6以下、好ましくは1×10-6以下である。「Metripol」(Oxford Cyrosystems Ltd., Oxford, UK)のような機器を用いて複屈折を評価することができる。このような低複屈折のダイヤモンド材料はホモエピタキシャルダイヤモンド層の成長中に基板からホモエピタキシャルダイヤモンド層内に伝播する拡張欠陥(該欠陥は非ゼロ核スピンを有し、ひいては近くの量子スピン欠陥のT2時間を減少させ得る不純物原子で「装飾」され得る)の単位面積当たりの数を減らすので、該低複屈折のダイヤモンド材料を使用するのが有利である。
好ましくは、ダイヤモンド基板内の窒素濃度は、SIMS測定又はEPR測定によって決定した場合、約200ppm以下、好ましくは約150ppm以下、好ましくは約100ppm以下、好ましくは約50ppm以下、好ましくは約20ppm以下、好ましくは約10ppm以下、好ましくは約5ppm以下、好ましくは約2ppm以下、好ましくは約1ppm以下、好ましくは約0.5ppm以下、好ましくは約0.1ppm以下、好ましくは約0.01ppm以下、好ましくは約0.001ppm以下である。ダイヤモンド基板中の低い窒素濃度は、窒素不純物のより高い濃度によるダイヤモンドの格子膨張と関係があり、また基板とダイヤモンド材料との間の界面における格子不整合を除くために発生され得るいずれの界面転位とも関係がある歪みを減らすことから有利である。ダイヤモンド基板中の低い窒素濃度は、基板とCVDダイヤモンド層との間の界面から約100μm未満である量子スピン欠陥のT2時間を増やすというさらなる利点を有する。
【0025】
合成後、ダイヤモンド材料への支持層として作用するように基板を保持してよい。或いは、合成後にダイヤモンド材料から基板を除去し、処分してダイヤモンド材料を自立物として残してよい。ダイヤモンド材料は1つ以上のさらなる層(以後、「中間支持層」と称する)を含んでよい。従って、一実施形態では、本発明のダイヤモンド材料は、高い化学的純度の層(しかし普通の炭素同位体比)を含んで、付着基板(量子スピン欠陥(例えばNV中心)を含む高い化学的純度及び高い同位体純度の層が続く)内の不純物関連スピン中心の作用を除去することができる。或いは、ダイヤモンド材料を基板から分離し、基板を処分して、ダイヤモンド層と1つ以上の中間支持層を含むダイヤモンド材料を残してよい。
基板がダイヤモンド基板である場合、その上でダイヤモンドの成長が起こる基板の表面は、実質的に{100}、{110}又は{111}表面であってよい。これらの各表面は、該表面には限られた数のステップエッジがあることを意味する低指数を有するので、これらの表面は有利である。
基板がダイヤモンド基板である場合、基板は、実質的に<100>方向に沿って横たわっているエッジによって囲まれ得る(001)主要面を有することが好ましい。基板が、[001]方向から約10°以下、好ましくは5°以下、好ましくは4°以下、好ましくは3°以下、好ましくは2°以下、好ましくは1°以下だけ異なる法線を持つ主要面を有することがさらに好ましい。基板が、[001]方向から約0.01°以上、好ましくは約0.05°以上、好ましくは約0.2°以上、好ましくは約0.5°以上だけ異なる法線を持つ主要面を有することがさらに好ましい。或いは、基板が、[001]方向から約0.01°〜約2°、好ましくは約0.05°〜約1.5°、好ましくは約0.5°〜約1°だけ異なる法線を持つ主要面を有することが好ましい。基板のエッジが実質的に<100>方向に沿って整列している場合、基板のエッジが<100>方向の約10°以内、好ましくは<100>方向の約5°以内、<100>方向の約3°以内にあることが好ましい。
【0026】
本明細書では、方向、例えば結晶学的方向又は基板の成長表面に関する方向に言及する場合、用語「実質的に」は、前記方向の約10°以内、或いは前記方向の約5°以内、或いは前記方向の約4°以内、或いは前記方向の約3°以内を意味する。
その上で成長が起こる基板の表面は、実質的に結晶欠陥がない。以後使用する場合、用語「結晶欠陥」は、拡張結晶欠陥及び/又は構造上の結晶欠陥、例えば該材料に固有の転位、積層欠陥、双晶境界などを表す。
本明細書では、基板の成長表面を表す場合に「実質的に結晶欠陥がない」という表現は、後述するように、暴露(revealing)プラズマエッチングによって決定した場合、約5×103mm-2以下、好ましくは約1×102mm-2以下の成長表面上の結晶欠陥を表す。
実質的に結晶欠陥がない成長表面を有する基板を使用するのが有利である。その上でダイヤモンド材料が合成される基板の成長表面が多数の結晶欠陥を含むと、合成ダイヤモンド材料中の結晶欠陥の濃度が高くなるからである。合成ダイヤモンド材料中の結晶欠陥の濃度が低いと、常磁性欠陥の濃度を下げ、ダイヤモンド層内の量子ビット欠陥中心のT2を増やすので、スピントロニクス用途に有利である。結晶欠陥は材料中の歪みの存在をもたらし、順次、量子スピン欠陥の光学特性に影響を及ぼし得るので、結晶欠陥の密度を下げることが有利である。
【0027】
結晶欠陥密度は、欠陥を暴露するために最適化されたプラズマエッチング又は化学エッチング(「暴露エッチング」と称する)の使用後の光学評価によって最も容易に特徴づけられる。2つのタイプの結晶欠陥を暴露することができる。
1)基板材料に固有の結晶欠陥、例えば転位、積層欠陥、双晶境界など。選択された合成又は天然ダイヤモンドでは、これらの結晶欠陥の密度は、約50/mm2以下、さらに典型的に約102/mm2以下であり得るが、他の場合には約106/mm2以上であり得る;
2)研磨の結果として生じる当該欠陥であり、研磨の結果生じる結晶欠陥、研磨ラインに沿った、転位構造や「チャタートラック(chatter track)」の形態の微小亀裂が挙げられ、それによって基板の表面下に機械的に損傷した層を形成する。
使用し得る暴露エッチングの一タイプは、必要に応じて少量のArと必要な少量のO2と共に主に水素を用いるプラズマエッチングである。典型的な酸素エッチング条件は、約50×102Pa〜約450×102Paの圧力、約1%〜約5%の酸素含量、0%〜約30%のアルゴン含量及びバランス水素を含むエッチングガス(全ての百分率は体積についてである)、約600℃〜約1100℃(さらに典型的には約800℃)の基板温度及び約3〜約60分の持続時間である。次にエッチング表面を光学顕微鏡で検査し、表面フィーチャーの数を数える。
【0028】
暴露プラズマエッチングを行なう方法は、単結晶CVDダイヤモンド層の通常の合成方法の一部であるin situプラズマエッチングの第1段階と非常に似ているので、エッチングを行ない得る1つの方法は、単結晶CVDダイヤモンド層の合成と実質的に同じである。当業者は該技法に精通しているだろう。
有利には、基板の表面Raを最小限にすべきである。好ましくは、いずれのプラズマエッチング前の基板の成長表面のRaも約10nm以下、好ましくは約5nm以下、好ましくは約2nm以下、好ましくは約1nm以下、好ましくは約0.5nm以下、好ましくは約0.2nm以下である。
基板の所要のRa及び/又は結晶方位は、高い完全性のより大きい断片から、好ましくは高い完全性の一片の単一成長セクターから基板を機械的に鋸引きするか又はレーザー鋸引きすることによって達成され得る。次に基板の主表面をラッピング及びスケイフ(scaife)研磨などの宝石細工術を利用して加工することができる。このような技術は当該技術分野で周知であり、本明細書では「機械加工」と称する。好ましくは、基板の成長表面をスケイフ研磨する。
機械加工した基板は、機械加工の正確な仕様によるが、表面下に数μmから数十μmまでの深さまでに広がる機械的に損傷を受けた層(「表面下損傷層」とも称する)を有することがある。
【0029】
単結晶CVDダイヤモンド層の次の成長時に、基板の機械的損傷層の効果を減じるために使用できる特有の一方法は、in situプラズマエッチングの利用である。原則として、このエッチングはin situである必要はないが、in situエッチングは一般的に成長プロセスもプラズマに基づく場合に最も便利である。プラズマエッチングは沈着又はダイヤモンド成長プロセスと同様の条件を使用できるが、エッチング速度の良い制御を得るためには、いずれの炭素含有源ガスも存在せず、一般的にわずかに低温である。例えば、下記条件の1つ以上から成り得る。
(i)必要に応じて少量のArと所要の少量のO2を含む主に水素を利用する酸素エッチング。典型的酸素エッチング条件は、50×102Pa〜450×102Paの圧力、1%〜5%の酸素含量、約0%〜約30%のアルゴン含量及びバランス水素(全ての百分率は体積による)を含むエッチングガス、基板温度約600℃〜約1100℃(さらに典型的には約800℃)及び約3分〜60分の典型的持続時間。
(ii)(i)と同様であるが、酸素が存在しない水素エッチング。
(iii)アルゴン、水素及び酸素に基づくだけでないエッチングの代替方法は、例えば、ハロゲン、他の不活性ガス又は窒素を利用する当該方法を利用し得る。
【0030】
典型的にエッチングは、酸素エッチング後の水素エッチングから成り、次いでプロセスは炭素源ガスの導入による合成に直接移る。エッチング時間/温度を選択して、非常に粗い面を形成することなく、また表面を横断し、ひいては深い窪みをもたらす拡張欠陥(例えば転位)に沿って広範にエッチングすることなく、機械加工によるいずれの残存表面損傷をも除去することができ、かついずれの表面汚染をも除去することができる。エッチングは攻撃的なので、プラズマによってチャンバーから何の材料も気相中又は基板表面に運ばれないようにエッチング要素に合わせたてチャンバー設計及び材料選択が望ましい。酸素エッチング後の水素エッチングは、結晶欠陥にはあまり特異的ではなく、酸素エッチング(該欠陥を激しく攻撃する)によって生じた成角に丸みをつけて、その後の成長のためにより滑らかで良い表面を与える。
或いは、基板の表面の成長前in situプラズマエッチングを、ex situ等方性エッチング、例えば同時係属出願PCT/IB2008/050215に記載されているようなAr-Cl2誘導結合プラズマエッチングと置き替えるか又は該エッチングを先に行なってよい。Ar-Cl2誘導結合プラズマエッチングを利用して、基板の表面を調製することもでき、その上のCVDダイヤモンド層が最終的に量子スピン欠陥を含むであろう。in situプラズマエッチングの前にex situ等方性エッチング、例えばAr-Cl2エッチングを行なうと、過度に表面粗さを増やすことなく、実質的に損傷がない表面をもたらすので、有利である。好ましくは、ex situ Ar-Cl2誘導結合プラズマエッチングを利用する場合、その後にin situエッチングを行ない、該in situエッチングの持続時間は典型的に約3分〜約15分の範囲である。
Ar-Cl2誘導結合プラズマエッチングを約0.5mTorr(約0.0667Pa)〜約100mTorr(約13.3Pa)の範囲、さらに好ましくは約1mTorr(約0.133Pa)〜約30mTorr(約4.00Pa)の範囲、さらに好ましくは約2mTorr(約0.267Pa)〜約10mTorr(1.33Pa)の範囲の操作圧力で行なってよい。エッチャントは好ましくは少なくとも不活性ガス、好ましくはアルゴンと、ハロゲン含有ガス、好ましくは塩素(Cl2)とから成る混合ガスである。好ましくはハロゲン含有ガスは、プロセスに添加されたガス混合物中に約1%〜約99%、さらに好ましくは約20%〜約85%、さらに好ましくは約40%〜約70%の範囲の濃度(体積で)で存在する。好ましくはガス混合物のバランスの大部分はArで補われ、さらに好ましくはガスのバランスの全部がArで補われる。
或いは不活性ガスがヘリウム、ネオン、クリプトン若しくはキセノンであってよく、又はこれらの2種以上の混合物を含むか、又はこれらの1種以上とアルゴンの混合物を含んでよい。
【0031】
上述したように、本発明者らは、源ガスを形成するガスのそれぞれに存在する化学的不純物の含量を慎重に制御することによって、かつ本発明の方法の炭素源中に存在する12C及び13C同位体の比率を制御することによって、驚くほど高い品質のダイヤモンド材料を製造できることを見い出した。
材料を量子スピン欠陥用ホストとして使う予定の場合には、製造されるダイヤモンド材料中の13Cの含量を減らすことが特に望ましい。これは、13Cは非ゼロ核磁気スピンを有するので、量子スピン欠陥と相互作用し、かつ量子スピン欠陥のデコヒーレンス(T2)時間に有害な影響を及ぼすからである。さらに、13Cの存在はダイヤモンド格子中に歪みを導入する。
【0032】
本発明の方法で使用する源ガスは、一般的に水素、1種以上の希ガス、例えばヘリウム、ネオン又はアルゴン、及び酸素を含む。本発明の各方法では、源ガスを構成するガスは、高純度ガスである。これは、ガスが高い化学的純度を有することを意味する。窒素は大気中の最も豊富なガスなので、窒素は、ガス源中に最も一般的に取り込まれる不純物である。窒素は、置換不純物原子としても容易にダイヤモンド中に取り込まれる。この点について、特定ガスの化学的純度をその中に存在する窒素不純物の含量を基準にして数量化することができる。特に、源ガスの一部を形成する水素ガスは、好ましくは約1ppm以下の窒素不純物を含み、希ガスは好ましくは約1ppm以下の窒素不純物を含み、及び/又は酸素は好ましくは約1ppm以下の窒素不純物を含む。
本発明の一実施形態では、炭素源は固体炭素源である。この実施形態の方法では、固体炭素源を活性化してガス状炭素種を生じさせてから基板上のホモエピタキシャルダイヤモンド成長のために使用する。適切な固体炭素源の例としてはグラファイト及びダイヤモンドが挙げられる。典型的に該固体源はガス状前駆体(例えばCH4)から作られる。一実施形態では、固体炭素源がダイヤモンドである。別の実施形態では、固体炭素源がグラファイト構造中への窒素の取込みが確実に最小限になるように調製されたグラファイトである。
上述したように、窒素は大気中の最も豊富なガスであり、結果として、窒素によるガス状炭素源の汚染を回避するのは困難である。しかし、本発明者らは、固体炭素源を使用することによって、この効果を最小限にできることを見い出した。この点について、本発明者らは、固体炭素源を活性化してガス状炭素種を形成してからガス状種を再沈着させることによって、形成される固体の化学的純度が向上(すなわち窒素含量が減少)するが、出発固体材料中に存在したのと実質的に同一比の12C:13Cを保持することを認めた。これは、固体炭素源を生成するために用いた炭素源ガスの化学的純度は低減し得るが、それでも高い化学的純度の生成物を得られることを意味する。
【0033】
成長表面にある活性種、ひいては成長プロセス自体は本質的に炭素源ガスと無関係であり、プラズマ中に存在する原子比のみに依存すること(マイクロ波プラズマCVDプロセスの場合)は技術上周知である。発明者らは驚くべきことに固体炭素源を使用する場合にもこれが真実であることを実証した。
本発明の方法で使用する固体炭素源は、源の全C含量の約99%以上、好ましくは約99.2%以上、好ましくは約99.4%以上、好ましくは約99.6%以上、好ましくは約99.8%以上、好ましくは約99.9%以上、好ましくは約99.95%以上、好ましくは約99.98%以上、好ましくは約99.99%以上、好ましくは約99.998%以上の量で12Cを含む。これは、固体炭素源の活性化によって製造されるガス状炭素が高い同位体純度を有することを意味する。
炭素源は、低い窒素不純物含量を有するように選択される。本明細書では、用語「低い窒素不純物含量」を用いて、約10ppm以下の窒素の濃度を表す。好ましくは固体炭素源中の窒素の濃度は、SIMS又は燃焼分析によって測定した場合、好ましくは約5ppm以下、好ましくは約2ppm以下、好ましくは約1ppm以下である。
固体炭素源がダイヤモンドである場合、同位体が濃縮された固体炭素源を用いて従来のHPHTによってか又は市販のガスに典型的な化学的純度である同位体が濃縮された炭素源ガス(すなわち源ガスを構成する炭素含有ガスは必ずしも高い化学的純度でない)を用いてCVD技術によって固体炭素源を製造することができる。CVDプロセスでは、該炭素源ガスは望ましくなく高含量の窒素を含む可能性があるが、合成環境内に存在する窒素の約1/1000しか固体ダイヤモンドに取り込まれないことが分かった。このダイヤモンドを次に固体炭素源として本発明の方法で使用する場合、該固体炭素源を活性化することによって生成されるガス状炭素種は、必ず最初の炭素源より低い窒素含量を有するが、12C同位体濃縮の同レベルを保持する。従って、本発明は、最終CVDダイヤモンド層中の窒素含量を有意に減らすように、同位体が濃縮された炭素源ガスの化学的純度を改善しながら、実質的に固体炭素源の合成用に使うガスのレベルで12C含量を維持する手段を提供する。
【0034】
同位体が濃縮された炭素源ガスの例は、99.5%より高い12C含量に濃縮され、窒素(N2として)含量が3ppm以下のCH4(Spectra Stable Isotopes, Columbia, Maryland, USA)である。典型的に、12Cの濃縮レベルが高いほど、化学的不純物、特に窒素N2のレベルが高くなり、モル当たりのガスのコストが劇的に上昇する。
固体炭素源を使用する本発明の実施形態では、CVD法による固体炭素源の合成で使う源ガス混合物中の窒素の濃度は約10ppm以下、好ましくは約5ppm以下、好ましくは約3ppm以下、好ましくは約1ppm以下、或いは約500ppb以下、或いは約300ppb以下である。ガスクロマトグラフィーによって源ガス中の窒素の濃度を決定することができる。源ガス混合物中の窒素含量を最小限にすることが、最終的にダイヤモンド材料中に取り込まれる窒素の量を最小限にするので望ましい。これは、順次、提供される材料の品質を高め、ひいては量子スピン欠陥のホスト材料として特に有用にするので望ましい。
この量で窒素を含む源ガス混合物は商業的に入手可能である。源ガスの例は、不純物含量が体積で0.5ppm以下のH2(例えば「H2 6.5」、例えばCK Gases Ltd., Hook, Hampshire, UKから入手可能)(Pdディフューザー(例えばJohnson Matthey Inc., West Chester, PA, USA)に通してさらに精製して、体積で約5ppb以下の不純物レベルを達成し得る);不純物含量が体積で1ppm以下のAr(例えば「Ar 6.0」、例えばCK Gases Ltd., Hook, Hampshire UKから入手可能)(清浄器(例えばJohnson Matthey Inc., West Chester, PA, USA)に通してさらに精製して体積で約5ppb以下の不純物レベルを達成し得る)である。
本発明の方法で固体炭素源を使用する場合、源ガス混合物は、好ましくは最小限の意図的に加えた炭素含有ガスを含む。この点について、固体炭素源は好ましくは、ガス状炭素種の約80%以上、好ましくは約85%以上の炭素、好ましくは約90%以上、好ましくは約95%以上、好ましくは約98%以上、好ましくは約99%以上、好ましくは実質的に100%を供給する。従って、源ガス混合物中に存在する炭素含有種だけが不純物として存在する当該炭素含有種であることが好ましい。
【0035】
本発明の方法では、固体炭素源の少なくとも一部を活性化してガス状炭素種を供給する。
固体炭素源の「活性化」は、固体炭素をガス状炭素及び炭素含有種、例えば、原子炭素、CHxラジカル(xは1、2又は3である);複数の炭素原子を含むラジカル、例えばC2Hx(xは1〜5の整数である)のような種に変換することを意味する。ガスが安定した分子、例えばCH4を含んでもよい。
発明者らは、固体炭素源を活性化する以下の2種の一般的方法を特定した。
(i)ダイヤモンド沈着が起こるのと同じチャンバー内での活性化、及び
(ii)ダイヤモンド沈着が起こるチャンバーから離れた活性化。
これら2種の技術の後者(方法(ii))が好ましい。この方法は、固体炭素源の活性化の速度よりずっと高い制御、ひいては本発明のダイヤモンド材料を形成するため再沈着プロセスに供給される炭素濃度の高い制御を可能にするからである。
【0036】
活性化が離れて起こる実施形態では、固体炭素源の活性化は好ましくは反応器(本明細書では、「活性化反応器」と称する)、例えば化学蒸着反応器内で起こる。この反応器は、チャンバーと、ガス入口と、ガス出口とを含み、活性化に使用するエネルギー源がマイクロ波プラズマであり、マイクロ波エネルギーを反応器に供給する手段を含む。マイクロ波がエネルギー源の場合、活性化反応器のチャンバーは好ましくは使用するマイクロ波の周波数の共振空洞である。好ましくは、固体炭素源はマイクロ波プラズマを利用して加熱される。源ガス、典型的に水素とアルゴンの混合物を固体炭素源上を通過させ、プラズマ、例えばマイクロ波プラズマ、熱フィラメントを利用して、又は固体炭素源を直接加熱することによってエネルギーを供給する。固体炭素源を約700℃〜約1200℃の温度に加熱する。正確な温度は、所望速度でダイヤモンド沈着反応器にガス状炭素種を供給するように選択される。活性化反応器内で生じたガス混合物をダイヤモンド沈着反応器に供給すべき場合、活性化反応器内の圧力はダイヤモンド沈着反応器内の圧力より高くなければならない。或いは、活性化反応器からのガス混合物を圧縮(すなわち、その圧力を上昇させる)した後にダイヤモンド沈着反応器に供給するか、或いはダイヤモンド沈着反応器へのその後の送達用の貯蔵設備に供給してよい。ダイヤモンド沈着反応器にガスを直接供給すると、圧縮及び/又は貯蔵中にN2などの不純物によってガスが汚染される可能性を減らすので好ましい。
局部的に切断するためのレーザーの使用のような当業者が精通している活性化の代替方法も可能である。
【0037】
ダイヤモンド沈着と同じチャンバー内で固体炭素源の活性化が起こる実施形態では、反応器はCVDダイヤモンド沈着反応器であり、その中で、固体炭素源を水素ラジカルでエッチングしてガス状炭素種を生成し、引き続き隣接単結晶ダイヤモンド基板上に再沈着させて高い同位体純度と高い化学的純度の単結晶CVDダイヤモンド層を形成できるように固体炭素源が処理される。
本発明の代替実施形態では、炭素源がガスである。好適な炭素源ガスの例としては、限定するものではないが、CxHy(式中、x及びyは、それぞれ独立に1〜10の整数であってよい(例えばCH4、C2H6、C2H4、C2H2など)、CxHyHalz(式中、x及びzは、独立に1〜10の整数であってよく、yは0〜10であってよい)又はCOx(式中、xは0.5〜2.0の範囲である)が挙げられる。好ましくは炭素源ガスがCH4である。炭素源がガス状である場合、発明者らは、プロセス条件を最適化することによって、高い化学的純度と高い同位体純度を有する生成物が得られることを見い出した。
さらに詳細には、高い化学的純度と高い同位体純度を有する材料は、以下のいずれかによって得られることが分かった:
(i)基板温度を約800℃より高くかつ約1000℃未満であることを保証すること;又は
(ii)源ガス混合物に酸素を、全ガス流量のO2当量として測定される、体積で全ガス流量の約0.5%〜約5%の範囲で添加する。
酸素濃度は、全ガス流量を構成する体積分率(百分率として表す)として測定され;例えば、全ガス流量が500sccm(標準立方センチメートル(standard cubic centimetres))で、その10sccmがO2である場合、O2当量の体積分率は2%であり;例えば、全ガス流量が500sccmで、その10sccmがCOである場合、O2当量の体積分離は1%である。
【0038】
理論に拘束されることを望むものではないが、発明者らは、上記特徴(i)の最適温度範囲は2つの相反する因子によって決まると考える。第1に、発明者らは、同一の基板と成長条件では、基板温度が約700℃から約1000℃に上昇するにつれて、SIMSやEPR等の手法で測定される窒素取込みのレベルが減少することを実験的に見い出した。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、これは、基板温度が上昇するにつれて減少する、N原子のダイヤモンド成長表面への固着係数の結果であると考えられる。第2に、発明者らは、所定厚のCVDダイヤモンド成長では、基板温度が約700℃から約1000℃に上昇するにつれて、CVDダイヤモンド層の成長表面が、マクロステップ、ヒロック(hillock)及び双晶の観察によって特徴づけられるように、粗面化の増加を示すことを実験的に見い出した。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、この粗面化の増加は、成長しているダイヤモンド膜内へのN及び他の欠陥の取込みのさらに過激な部位をもたらすと考えられる。このようにして発明者らは、2つの競合する作用、その一方は基板温度が上昇するにつれて窒素取込みを減少させ、他方は基板温度が上昇するにつれて窒素取込みを増加させることを確認した。温度に伴うこれら2つの作用の変化率はいずれの選択厚のCVDダイヤモンド成長でも同一ではないので、所定の層厚にとって窒素の取込みが最小限になる成長温度を同定することができる。
この点について、基板温度は、好ましくは約840℃より高く、好ましくは約860℃より高く、好ましくは約880℃より高く、好ましくは約900℃より高く、好ましくは約920℃より高く、好ましくは約950℃より高い。最も好ましくは、基板温度が約950℃〜約1000℃の範囲である。
上記特徴(ii)に関し、いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、上記(ii)で述べた量で源ガス混合物に少量の酸素を添加すると、基板温度の上昇に伴う粗面化作用(順次、窒素取込みの増加をもたらす)が低減し、結果として、酸素を添加しないことを除き同一の条件と比較していずれの特定厚のCVDダイヤモンド成長及び成長温度でもNの取込みが減少することが実験的に分かった。
添加される酸素は、O2の形態、又は酸素含有種の形態、例えばCOx(式中、xは0.5〜2の範囲である)、例えばCO又はCO2のいずれかである。
酸素は、好ましくは全ガス流量の約1体積%〜全ガス流量の約3体積%、好ましくは全ガス流量の約1体積%〜全ガス流量の約2体積%の範囲の量で源ガス混合物に添加される。
【0039】
12Cに関して同位体が濃縮されたガス状炭素源を本発明の方法で使用する場合、ガス状炭素源は、約10ppm以下、或いは約5ppm以下、或いは約3ppm以下、或いは約1ppm以下、或いは約0.5ppm以下の濃度の窒素を含む。該炭素源は市販されている。
従って、(i)若しくは(ii)又は(i)と(ii)の両方を利用することによって、CVDダイヤモンド層の窒素不純物含量を最小限にできる方法が提供される。
本発明者らは、より高濃度の窒素を含む市販のガス状炭素源を、上述したように固体炭素源を形成することによって精製し得ることを見い出した。
さらに詳細には、化学的純度は低いが、12Cに関して同位体が濃縮された炭素源ガスを用いて通常のCVD技術で固体炭素源、例えば多結晶性ダイヤモンドを形成することができる。この方法では、生成されるダイヤモンド材料中に、合成環境に存在する窒素の約1/1000が取り込まれるであろう。次に多結晶性ダイヤモンドを活性化して、化学的純度が向上したガス状炭素源を与え得る。
この点について、本発明は、特に、固体炭素源を使用すると共に上記条件(i)及び(ii)の一方又は両方を確実に満たすことによって、上記2つの方法を併用することを企図する。
【0040】
本発明の方法は、ダイヤモンド材料の表面を加工して、実質的に結晶欠陥がない表面を形成するさらなる工程を含んでよい。
好ましくは約50nm以下、約20nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約2nm以下、約1nm以下、約0.5nm以下の表面粗さRqにダイヤモンド材料の表面を加工する。
ダイヤモンド材料の表面を、使用すべき量子スピン欠陥に最も近いか、又は量子スピン欠陥がイオン注入などのプロセスによる表面の加工後にもたらされる場合には該量子スピン欠陥の所望位置に最も近い表面上の点に中心がある約5μm、好ましくは約10μm、好ましくは約20μm、好ましくは約50μm、好ましくは約100μmの半径の円によって定義される領域内の表面の表面粗さRqが、約10nm以下、約5nm以下、約2nm以下、約1nm以下、約0.5nm以下、約0.2nm以下、約0.1nm以下であるように加工し得る。好ましくは走査プローブ機器を用いてRqを測定する。
表面が巨視的湾曲、例えば約10μm〜約100μmの曲率半径のレンズを有して量子欠陥中心からの光出力を集めて焦点を合わせる場合、粗さは該巨視的湾曲に関連する。表面の粗さから根底にある曲率が減算され得る走査プローブ機器を用いて(例えば原子間力顕微鏡を用いて)、このような物体の粗さを測定することができる。
例えば、スケイフ研磨などの通常の機械加工にダイヤモンド材料の表面を供することによって、表面の平坦度及び粗さを改善することができる。このような手法は技術上周知である。機械加工操作は、ダイヤモンド材料の表面の平坦度を改善し(インターフェロメトリー等の技術上周知の巨視的方法で測定し得るように)、かつ粗さを低減する(Ra又はRqで表されるように)が、同時にこのような調製は、望ましくないであろう基板損傷を導入し得る。基板損傷の存在は、ダイヤモンド材料を、材料内にある量子スピン欠陥の正確な読み出し及び特徴づけのため、表面下約100μmの深さまで材料の品質が高いことが重要であるスピントロニクス用途で使用する予定の場合に特に望ましくない。
従って、機械加工後、ダイヤモンド表面をエッチング、好ましくは等方性エッチング、及び/又は再成長工程によって処理してよい。
エッチング表面は、最後の機械的プロセスのグリットサイズに基づいて、機械加工されたままの表面から材料の最小厚を除去して、機械加工損傷がないか又は実質的になく、かつ損傷エッチングフィーチャーがないか又は実質的にない表面を与えることを意味する。
好ましくは上述したように基板の表面の調製と関連して誘導結合プラズマ(ICP)エッチングにより、好ましくはハロゲン及び不活性ガスを含むガス混合物を用いて、好ましくは該不活性ガスがアルゴンであり、好ましくはハロゲンが塩素であるガス混合物を用いてエッチングを行なう。Ar/Cl2プラズマエッチングは、ダイヤモンド層の表面(その上に、常磁性を有するか、又は電荷を持っている表面汚染物質として他の化学種が存在し得る)を浄化する。
【0041】
等方的にエッチングされた表面は、表面のRqを実質的に高めない。測定値Rqa及びRqbは、ダイヤモンド層の表面の同一領域について取られる。「同一領域」とは、技術上周知なように、複数の測定値及び測定値の一般妥当性を検証する必要がある統計解析を利用するときに、合理的に実際と同じくらい近い等価領域を意味する。特に等方的にエッチングされた表面は粗さRqa(エッチング後)及び元の表面粗さRqb(エッチング前)を、Rqa/Rqbが好ましくは1.5未満、さらに好ましくは1.4未満、さらに好ましくは1.2未満、さらに好ましくは1.1未満であるように有してよく、さらに、等方性エッチングは好ましくは以下の特徴の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つをもたらす。
・エッチングされた表面は滑らかであり、好ましくはエッチング前の元の表面より滑らかであり、かつ特にエッチングされた表面のRq(Rqa)は好ましくは10nm未満、好ましくは5nm未満、好ましくは2nm未満、好ましくは1nm未満、好ましくは0.5nm未満、好ましくは0.3nm未満である;
・材料の厚さの除去が少なくとも0.2μm、さらに好ましくは少なくとも0.5μm、さらに好ましくは少なくとも1.0μm、さらに好ましくは少なくとも2μm、さらに好ましくは少なくとも5μm、さらに好ましくは少なくとも10μmを超える。
【0042】
機械加工損傷がないか又は実質的にない表面をもたらすため、最後の機械的プロセスのグリットサイズに基づいて、機械加工されたままの表面からダイヤモンドの最小厚をエッチングによって除去することは、表面損傷を有意に減らすのに十分な深さの除去が必要であり、ひいては表面損傷層と同じオーダーの厚さのエッチングによる除去が必要である。典型的に表面損傷層は、0.2μm〜20μmの範囲の厚さを有する(又は非常に攻撃的な宝石細工技術を用いた場合にはさらに厚い)。従って、好ましくはエッチングは、除去されるダイヤモンドの厚さが、少なくとも0.2μm、さらに好ましくは少なくとも0.5μm、さらに好ましくは少なくとも1.0μm、さらに好ましくは少なくとも2μm、さらに好ましくは少なくとも5μm、さらに好ましくは少なくとも10μmである厚さのダイヤモンドを表面から除去する。表面損傷層は典型的に、いずれかの宝石細工加工の最終段階で用いた最大のダイヤモンドグリット粒子のサイズとほぼ同一の厚さを有し;例えば1〜2μmサイズのダイヤモンドグリットでスケイフ研磨された表面は、典型的に約2μm厚の表面損傷層を有するであろう。従って、本発明の方法によるエッチング後に残る宝石細工加工からの損傷の量を最小限にするため、本発明の方法で除去される材料の量は、好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも0.2倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも0.5倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも0.8倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも1.0倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも1.5倍、さらに好ましくは最大グリット粒子のサイズの少なくとも2倍であるべきである。エッチング後、ダイヤモンド層の表面は好ましくは10nm未満、さらに好ましくは5nm未満、さらに好ましくは2nm未満、さらに好ましくは1nm未満、さらに好ましくは0.5nm未満、さらに好ましくは0.3nm未満のエッチング後表面粗さRqaを有する。
エッチング表面がダイヤモンド層の表面全体に広がってよく、或いはフォトリソグラフィー等の既知技術を用いて表面にエッチングされた構造上のフィーチャー(例えば光導波路)のような表面の一部にわたって広がってよく、そして表面のこの部分はそれ自体、ダイヤモンド層の表面を形成する。
さらに、低いRqaを有するエッチングされたダイヤモンド表面は、好ましくは暴露エッチング試験によって暴露される欠陥の数が約5×103/mm2以下、好ましくは約100/mm2以下であるように、実質的に加工損傷がない。
【0043】
表面を成長によって形成する場合、マスキング法を利用して、表面をダイヤモンド層の表面の一部に限定することができ、そしてこの部分がダイヤモンド層の表面に相当する。或いはさらに好ましくは、ダイヤモンド層の表面の全体に表面が広がることがあり、この表面全体が本発明のダイヤモンド層の表面を形成する。
再成長によって形成される表面は、第2のダイヤモンド薄層を成長させることを意味し、次にこの薄層の表面を、成長したままの状態のダイヤモンド層の表面として使用する。
第2のダイヤモンド薄層は好ましくはCVD合成によって成長し、薄くて巨視的成長ステップの形成を制限する。前もって機械的に調製された表面上に成長したこの層の厚さは約100μm以下、好ましくは約50μm以下、好ましくは約30μm以下、好ましくは約20μm以下、好ましくは約10μm以下、好ましくは約3μm以下、好ましくは約1μm以下、好ましくは約100nm以下、好ましくは約50nm以下、好ましくは約20nm以下、好ましくは約10nm以下である。第2のダイヤモンド薄層の厚さは、約1nm以上、好ましくは約10nm以上、好ましくは約30nm以上、好ましくは約100nm以上、好ましくは約300nm以上、好ましくは約1μm以上であってよい。一部の実施形態では、前もって機械的に調製された表面上に成長したこの層の厚さが約100nm〜約50μm、或いは約500nm〜約20μm、或いは約1μm〜約10μmである。
【0044】
単層成長法及び軸外表面の使用を含めたいくつかの技術を利用して第2のダイヤモンド薄層を調製して、表面ステップの伝播を制御し、ひいては非常に平坦かつ滑らかな表面を保持することができる。
一部の実施形態では、第2の薄層が量子スピン欠陥を含むか又は含むことになる。該実施形態では、好ましくは第2の薄層は本明細書に記載の技術を利用して、炭素が、本明細書に記載の1種以上の技術を利用して層の窒素含量が最小限であるように調製される。
第2のダイヤモンド薄層の表面がダイヤモンド層の表面を形成し、好ましくは約10nm以下、好ましくは約5nm以下、好ましくは約3nm以下、好ましくは約2nm以下、好ましくは約1nm以下、好ましくは約0.5nm以下、好ましくは約0.3nm以下、好ましくは約0.2nm以下、好ましくは約0.1nm以下のRqを有する。このように、この表面は非常に低い表面粗さを有し、さらに加工損傷がない。
【0045】
上記エッチング、好ましくは等方性エッチング及び再成長の技術を併用して、表面をまずエッチングしてから薄層を再成長させてダイヤモンド層の表面を形成することができる。このやり方は一般的に、エッチングが全ての機械加工損傷を除去するのに十分に完成しなかった場合にのみ有利である。
上述した等方性エッチング、及び再成長法によって本発明のダイヤモンド材料の表面を調製するのが有利である。この調製は、材料をスピントロニクス用途で使う予定の場合に、量子スピン欠陥の光学読み書きが可能であるように、調製表面に隣接するダイヤモンド材料の部分に特に、実質的に欠陥及び不純物がないことを保証する。
本発明の方法はさらに、製造されるダイヤモンド材料の表面終端を制御するための工程を含んでよい。ダイヤモンド表面は、極端に低い圧力(例えば、数μTorrの圧力)の条件下を除き、かつ数百℃に加熱することによって終端種が脱着される場合しか、裸の炭素原子から成ることはほとんどない。最も一般的な終端種は、全ての同位体形態のH、O及びOHである。特に、非ゼロ電子スピン量子数及び/又は非ゼロ核磁気スピン量子数を有する種による表面の終端を最小限にすることが望ましい。これらの種は材料中に存在するいずれの量子スピン欠陥のデコヒーレンス時間及び/又はスペクトル安定性にも影響を及ぼし得るからである。特に、ゼロに等しい核スピン量子数若しくはゼロに等しい電子スピン粒子数又はゼロに等しい核スピン量子数と電子スピン量子数の両方を有する原子でダイヤモンドの表面を終端処理することが望ましいであろう。水素(1H)は1/2の核スピン量子数を有するので、超微細相互作用によってNV-欠陥の遷移の分割を引き起こすことがあり;二重水素(2H)は1の核スピン量子数を有するので、超微細相互作用によってNV-欠陥の遷移の分割を引き起こし得る。従って、これらの2つの同位体は、量子スピン欠陥のデコヒーレンス時間及び/又はスペクトル安定性に有害な影響を及ぼす可能性がある。同位体16Oはゼロの核スピン量子数を有するので、NV-量子スピン欠陥との超微細相互作用はなく、16Oは超微細相互作用によってデコヒーレンス時間又はスペクトル安定性に何ら作用しない。従って、考えられる他の終端種より16Oで末端処理するのが有利であると考えられる。天然存在度酸素は99.76%の16Oを含む。
発明者らは、完全に16O酸素で終端処理した表面はいかなる不対電子をも持たないので、16O終端原子の電子と、量子スピン欠陥を含むNV-中心の不対電子との間には何の相互作用もないはずであると考える。
例えば、表面を実質的にエッチングするのに不十分な条件下で低圧16Oプラズマに表面をさらすことによって(例えばBioRad PT7150 RF Plasma Barrel Etcher内で約1分〜15分間、約20Paの圧力にて16Oプラズマ内)、16O終端処理表面を調製することができる。
好ましくは、16O酸素で終端処理されている、量子スピン欠陥に最も近い表面の領域の割合は約95%以上、約98%以上、約99%以上、約99.5%以上、約99.8%以上、約99.9%以上である。
X線光電子分光法などの技術上周知の方法で表面終端を特徴づけることができる。
【0046】
本発明の方法は、約100ppb以下の全窒素濃度及び約0.9%以下の13Cの濃度を有する合成ダイヤモンド材料の層を製造することができる。
本発明の合成ダイヤモンド材料の層の好ましい厚さは、該材料を使用する最終用途によって決まるであろう。例えば、合成ダイヤモンド層の厚さは、100μm以下、或いは約50μm以下、或いは約20μm以下、或いは約10μm以下であってよい。これは、ダイヤモンド層を従来のダイヤモンド支持層と併用するつもりの場合に有利である。取扱いの容易さのため、ダイヤモンド材料の層は少なくとも0.1μm以上、好ましくは約0.2μm以上、好ましくは約0.5μm以上の厚さを有してよい。
ダイヤモンド層を通常のダイヤモンド支持層、例えば天然存在度ダイヤモンドから形成された層と併用する実施形態では、ダイヤモンド材料の層の支持層側から支持層の一部をエッチングで取り除いて、支持層を貫いて下のダイヤモンド材料の層への窓を形成することによって、本発明のダイヤモンド材料の層にアクセスすることができる。
或いは、本発明の合成ダイヤモンド材料の層の厚さは100μm以上、場合によっては200μm以上であってよい。合成ダイヤモンド材料の厚さは約2000μm未満、或いは約1000μm未満である。有利なことに、層がこのような厚さを有する場合、機械的に頑強な十分な厚さであり、基板から引き離して合成ダイヤモンド材料の自立層を提供することができる。合成ダイヤモンドの層を厚くし過ぎると、コストが相当高くなり、層の作製が困難になり、特に、前述したように、表面粗さRa又はRqは厚さが増すにつれて高くなる傾向があり、層内への窒素の取込みの制御をより困難にする。
【0047】
合成ダイヤモンド材料の層の化学的純度を最大にするため、合成ダイヤモンド材料の層内の窒素の全濃度を最小限にすることが望ましい。この点について、窒素の全濃度は、約100ppb以下、好ましくは約50ppb以下、好ましくは約20ppb以下、好ましくは約10ppb以下、好ましくは約5ppb以下、好ましくは約2ppb以下、好ましくは約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下である。合成ダイヤモンド材料中の実質的に全ての窒素が単置換窒素の形態なので、EPRによって窒素の量を定量することができる。
NV中心として存在する窒素は、W15 EPR中心と関連付けられており、EPRによって、約1ppb(約2×1014cm-3)の濃度に至るまで測定することができる。共焦点フォトルミネセンス(共焦点PL)は個々のNV中心を同定できるので、計数手段を用いて極端に低い濃度を測定することができる。発明者らは、全窒素濃度が約100ppbの場合、NV中心の濃度は典型的にCVDダイヤモンド中の全N濃度の約1/10〜約1/100、さらに典型的には約1/50〜約1/20、さらに典型的には約1/30であることを見い出した。この割合をより低いNV濃度に外挿することは妥当であると考えられる。
いくつかの最終用途では、特にダイヤモンド層を量子スピン欠陥用ホストとして使う予定の場合、ダイヤモンド層の同位体純度を最大にすることが望ましい。この点について、本発明のダイヤモンド層の13Cの全含量は、好ましくは約0.9%以下、好ましくは約0.8%以下、好ましくは約0.7%以下、好ましくは約0.5%以下、好ましくは約0.3%以下、好ましくは約0.2%以下、好ましくは約0.1%以下、好ましくは約0.05%以下、好ましくは約0.02%以下、好ましくは約0.01%以下である。
本発明のダイヤモンド材料の層は高い化学的純度を有するので、好ましくは「高い化学的純度」の定義と関連する上述した基準を満たす。
さらに、先に強調したように、窒素の低い全濃度、13Cの低い全濃度の組合せと、好ましくは量子スピン欠陥の位置又は所望位置に直接隣接した表面の損傷の量が確実に最小限になるように意図的に調製された表面とを有する本明細書で定義される合成ダイヤモンド材料の層を量子スピン欠陥用ホスト材料として使う場合、スピン欠陥が特に安定していることを見い出した。これは、量子スピン欠陥に近い表面内の損傷の存在はこれまでこの特性に関連付けられたことがないので、特に驚くべきことである。
【0048】
有利には、本発明の合成ダイヤモンド材料の層は低複屈折を有し得る。ダイヤモンド材料の層の複屈折は歪みが原因であり、層内の拡張欠陥又は構造上の結晶欠陥の存在、特に転位、微小亀裂、小角粒界、双晶面、双晶境界、点欠陥、小角粒界並びに合成ダイヤモンド層の結晶格子への他のいずれの崩壊の指標ともなる。
当業者には分かるように、同位体純度の増加に伴ってダイヤモンドの熱伝導度が上昇する。従って、本発明のダイヤモンド材料の層は特に高い熱伝導度を有する。従って、一実施形態では、本発明のダイヤモンド材料の層が低複屈折をも有する場合、それは非常に高い電力負荷に耐える必要がある用途で使うのに特に適している。該用途の例はダイヤモンドラマンレーザーでの使用である。
ダイヤモンド材料の層を量子スピン欠陥用ホストとして使用する予定の場合、拡張欠陥又は構造上の結晶欠陥の存在は、量子スピン欠陥中心の領域のダイヤモンド格子を変形することがあり、かつ状態にバンドギャップを加え得るので望ましくない。さらに、歪みの存在はNV-欠陥と関係がある光学遷移の歪み誘起動作をもたらす。ダイヤモンド層内の不均一な歪みは実務の複雑さを増し、異なるNV-中心は異なる振動数で光子を放出するであろう。放出された光子が区別できないためには、該方法の測定誤差内で同一周波数で光子が放出されなければならない。従って、不均一な歪みの存在の効果を軽減するため、異なる欠陥中心の遷移をそれらが同一になるようにシュタルク(Stark)シフトさせるため外部印加電場というさらなる複雑さが必要であろう。こういう状況だから、該結晶欠陥の存在を最小限にすることが望ましい。
【0049】
本発明の一実施形態では、合成ダイヤモンド材料の層は下記基準の1つ以上を有する。
a)X線トポグラフィーによって特徴づけられる拡張欠陥の密度が、約0.014cm2以上の面積にわたって約1000/cm2以下;
b)約0.1mm3以上の体積にわたって約1×10-4以下の光学等方性;及び
c)(004)反射に対するFWHM(「半値全幅(Full Width at Half Maximum)」)X線ロッキングカーブ幅が約120アーク秒以下。
本明細書で使用する場合、用語「拡張欠陥」は、転位及び積層欠陥などの欠陥を表す。
本発明の合成ダイヤモンド材料の層は、基準(a)〜(c)の少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つを有し得る。好ましくは合成ダイヤモンド材料の層は基準(a)及び(b)、又は基準(a)及び(c)、又は基準(b)及び(c)、さらに好ましくは(a)、(b)及び(c)を満たす。
好ましくは、合成ダイヤモンド材料の層は、約1000/cm2以下、好ましくは約400/cm2以下、好ましくは約300/cm2以下、好ましくは約200/cm2以下、好ましくは約100/cm2以下の、X線トポグラフィーによって特徴づけられる拡張欠陥の密度を有する。好ましくは、拡張欠陥が特徴づけられる面積は、約0.014cm2以上、好ましくは約0.1cm2以上、好ましくは約0.25cm2以上、好ましくは約0.5cm2以上、好ましくは約1cm2以上、好ましくは約2cm2以上である。
好ましくは、合成ダイヤモンド材料の層は、約1×10-4以下、好ましくは約5×10-5以下、好ましくは約1×10-5以下、好ましくは約5×10-6以下、好ましくは約2×10-6以下、好ましくは約1×10-6以下の光学等方性を有する。好ましくはこの光学等方性は、約0.1mm3以上、好ましくは約0.5mm3以上、好ましくは約1mm3以上、好ましくは約3.4mm3以上、好ましくは約8mm3以上、好ましくは約27mm3以上、好ましくは約64mm3以上、好ましくは約125mm3以上、好ましくは約512mm3以上、好ましくは約1000mm3以上の体積にわたって測定される。
好ましくは、合成ダイヤモンド材料の層は、約120アーク秒以下、好ましくは約50アーク秒以下、好ましくは20アーク秒以下、好ましくは約10アーク秒以下、好ましくは約7アーク秒以下、好ましくは約5アーク秒以下、好ましくは約3アーク秒以下、好ましくは約2アーク秒以下、好ましくは約1.5アーク秒以下の(004)X線ロッキングカーブ半値全幅(FWHM)を有する。好ましくは(004)X線ロッキングカーブFWHMは、約1mm×1mm以上、好ましくは約2mm×2mm以上、好ましくは約4mm×4mm以上、好ましくは約7mm×7mm以上、好ましくは約15mm×15mm以上の面積にわたって測定される。
【0050】
量子スピン欠陥用ホスト材料として使う前に、本発明の合成ダイヤモンド材料の層の表面を本明細書に記載の機械加工及び/又はエッチング及び/又は再成長手法で調製してよい。
或いは、本発明の合成ダイヤモンド材料の層の表面を、該材料に量子スピン欠陥を形成した後に、本明細書に記載の機械加工及び/又はエッチング及び/又は再成長手法で調製してよい。
本発明のソリッドステートシステムは、ホスト材料と量子スピン欠陥を含み、この量子スピン欠陥は室温で驚くほど長いデコヒーレンス時間を有する。
ホスト材料は好ましくはダイヤモンド材料である。ホスト材料がダイヤモンドである場合、それはCVDダイヤモンド材料(すなわち化学蒸着プロセスで調製された合成ダイヤモンド材料)、好ましくは単結晶ダイヤモンド材料、好ましくは単結晶CVDダイヤモンドであってよい。好ましくはホスト材料は本発明の方法で製造されたダイヤモンド材料又は本明細書で定義される合成ダイヤモンド材料の層である。これは、これらのダイヤモンド材料が高い化学的純度と高い同位体純度を併せ持し、量子スピン欠陥用ホストとして使うのに有利であることが分かったからである。
ホスト材料が単結晶ダイヤモンドである場合、好ましくはそれは単一の{100}成長セクターから形成される。
ホスト材料の表面を本明細書に記載の機械加工及び/又はエッチング及び/又は再成長手法で調製してよい。好ましくはホスト材料の表面を約50nm以下、約20nm以下、約10nm以下、約5nm以下、約2nm以下、約1nm以下、約0.5nm以下の表面粗さRqに加工する。
ホスト材料の表面を、使用すべき量子スピン欠陥に最も近いか、又は量子スピン欠陥がイオン注入などのプロセスによる表面の加工後にもたらされる場合には該量子スピン欠陥の所望位置に最も近い表面上の点に中心がある約5μm、好ましくは約10μm、好ましくは約20μm、好ましくは約50μm、好ましくは約100μmの半径の円によって定義される領域内の表面の表面粗さRqが、約10nm以下、約5nm以下、約2nm以下、約1nm以下、約0.5nm以下、約0.2nm以下、約0.1nm以下であるように加工し得る。好ましくは走査プローブ機器を用いてRqを測定する。
【0051】
ホスト材料が本発明に従って製造されたダイヤモンド材料である場合、本発明の方法は、該ダイヤモンド材料に量子スピン欠陥、例えばNV-中心を形成するためのさらなる工程を含んでよい。或いは、本発明の合成ダイヤモンド材料の層に量子スピン欠陥、例えばNV-中心を形成してよい。
量子スピン欠陥がNV-中心である場合、窒素イオン注入、窒素原子注入又は窒素含有イオン注入によってNV-中心を形成することができる。或いは、ダイヤモンド層内にNV-中心を成長させてもよい。用語「内に成長させる」は、層の成長中に、成長表面に取り込まれたN原子及び空孔からNV中心が自発的に生じることを意味する。詳細には、空孔の近似的な熱力学的平衡濃度がCVDダイヤモンドの成長表面上に存在し、これらの一部がバルクダイヤモンド中に取り込まれることは技術上周知である。従って、N原子と空孔がNV中心を自発的に形成するように、相互に隣接する固体中にN原子と空孔が取り込まれる、小さいが有限の機会がある。
量子スピン欠陥がNV-中心である場合、それは14N又は15Nを含でよい。NV-中心が14Nのみ又は15Nのみを含み、14Nと15Nの混合物を含まないことが望ましい。NV-中心のN原子が単一同位体であると、全ての場合に電子遷移のエネルギーが同一であることを意味するので有利である。単一同位体のNV-中心の形成は、イオン注入法による当該中心の製造と完全に適合性である。
【0052】
イオン注入を利用して、ダイヤモンド材料の表面の中及び下に1つ以上の原子種を送達して、ダイヤモンド層の表面下の所定深さに注入原子のピーク濃度があるNV-中心注入層を形成することができる。次に、中にNV-中心が注入されているダイヤモンド層上にダイヤモンドのキャッピング層を合成することができる。ダイヤモンドのキャッピング層は、好ましくは本明細書の方法を利用して合成される。
成長後、技術上周知のイオン注入法を利用した後、真空中又は不活性雰囲気内で約600℃〜約900℃、好ましくは約750℃〜約850℃の範囲の温度で、約0.1時間〜約16時間、好ましくは約0.5時間〜約8時間、好ましくは約1時間〜約6時間、好ましくは約2時間〜約4時間の時間アニールすることによってダイヤモンド層内にNV-中心を形成することができる。この温度範囲内で、イオン注入プロセスの副生物として生成される、ダイヤモンド層内の空孔が移動性になる。この温度範囲で、置換Nが空孔捕獲用の大きい断面を有するので、アニーリングプロセス中にNV中心が形成される。
【0053】
有利には、量子スピン欠陥の形成の前か後、好ましくは第1アニーリング工程後に、本発明の方法はさらに、約1000℃より高い、好ましくは約1100℃より高い、好ましくは約1200℃より高い、好ましくは約1300℃より高い、好ましくは約1400℃より高い、好ましくは約1500℃より高い、好ましくは約1600℃より高い温度で、約0.1時間〜約16時間、好ましくは約0.5時間〜約8時間、好ましくは約1時間〜約6時間、好ましくは約2時間〜約4時間のさらなるアニーリング工程を含む。このアニーリング工程を、約1×10-3Pa(約1×10-5mbarである)未満の圧力の真空下、又は好ましくはダイヤモンドが炭素の熱力学的に安定した形態であるような(広く「ダイヤモンド安定化圧力」と呼ばれる)超高圧条件下、典型的に約4GPa〜約10GPa(温度によって決まる)下で行なうことができる。この最後のアニールが、NV中心のT2とスペクトル安定性の両方に影響を及ぼし得る、注入によって残されたいずれの残存損傷をも除去する。
第2のアニーリング工程は、固体内(すなわち表面上でない)のいずれの水素原子もが、第2アニーリング工程の最小温度より高い(すなわち約1000℃より高い)温度で有意に移動性になるというさらなる利点を有する。従って、該アニーリング工程を含めることによって、材料の水素濃度を低減することができる。水素1Hとその同位体の濃度は、好ましくは約1018cm-3以下、好ましくは約1017cm-3以下、好ましくは約1016cm-3以下、好ましくは約1015cm-3以下である。1Hは1/2の核スピンを有するのでNV中心と相互作用してそのT2時間を短くすることから、固体中の1Hの濃度の低減は有利である。
好ましくは、量子スピン欠陥は、ホスト材料の表面、好ましくは上述したように加工したホスト材料の表面の約100μm以下、好ましくは約50μm以下、好ましくは約30μm以下、好ましくは約20μm以下、好ましくは約10μm以下、好ましくは約5μm以下、好ましくは約2μm以下、好ましくは約1μm以下以内で形成される。このことは、光学デバイスを用いてNV中心を特徴づけかつ解読できることを意味するので有利である。
【0054】
イオン注入を利用してダイヤモンド層内に形成される量子スピン欠陥は、量子スピン欠陥の配列がダイヤモンド層内に生成されるように正確に配置される。量子スピン欠陥の配列は、ダイヤモンド層内で一次元、二次元又は三次元であってよい。量子スピン欠陥は、配列内で均一又は不均一に分布していてよい。異なるエネルギーで原子又はイオンを注入することによる注入法を利用して三次元配列を形成することができる。さらに、合成ダイヤモンドはいくつかのダイヤモンド層を含んでよく、各ダイヤモンド層は少なくとも1つの量子スピン欠陥を含む。
いくつかの量子スピン欠陥を一次元配列又は二次元配列で配置し得る多数の方法があり、上記議論はいかなる特定の配列の使用をも排除しない。量子スピン欠陥が一次元配列(いくつかの量子スピン欠陥が直線に沿って配置されている)にある場合、量子スピン欠陥を均一に間隔をあけて配置し、或いは不均一に間隔をあけて配置してよい。量子スピン欠陥を均一に間隔をあけて配置すると、相互のそれらの相互作用をよく制御できるので好ましい。量子スピン欠陥を一次配列で配置する場合、合成ダイヤモンド層の表面にある結晶学的方向で配列を整えることができる;例えば、[001]方向の約3°以内に法線を有する表面では、<100>又は<110>方向の約5°以内に配列があってよい。
量子スピン欠陥を二次元配列で配置する場合、配列の2本の軸のそれぞれに沿った量子スピン欠陥の分布が同一又は異なってよく、均一又は不均一であってよい。配列の軸は直交又は非直交であってよい。好ましい二次元配列は直交軸を有し、量子スピン欠陥が軸に沿って均一に間隔をあけて配置されている。二次元配列が直交軸を有する場合、合成ダイヤモンド層の表面にある結晶学的方向で軸を整えることができ;例えば、[001]方向の約3°以内に法線を有する表面では、二次元配列の軸は<100>又は<110>方向の約5°以内にあってよい。
【0055】
スピントロニクス用途が安定した制御できる単一光子源を必要とする場合、実験的実用性が最も近いNV中心間の距離について制限を課す。これらの実用性は、単一欠陥に読み書きできる光学/磁気的方法に関連し、かつパラメーターT2に及ぼす高濃度の常磁性欠陥の影響にも関連する。
アンサンブルEPR測定は、約1ppbのNV-濃度についての上限を決定するためW15 EPR中心による可能性を提供するが、共焦点フォトルミネセンス(PL)測定は非常に低レベルまで定量化が可能である。これをどのように行なうかを示す模式図を図7に示す。共焦点顕微鏡を用いて、室温における単一NV中心の検出を達成することができる。共焦点顕微鏡法は技術上周知であり、Ph. Tamarat et al(J. Phys. Chem. A, 104 (2000), 1-16)に記載され、使用されている。
好ましくは、量子スピン欠陥がNV中心である場合、ダイヤモンド層内に形成されるNV中心の濃度は、約1ppb以下、好ましくは約0.5ppb以下、好ましくは約0.2ppb以下、好ましくは約0.1ppb以下、好ましくは約0.05ppb以下、好ましくは約0.02ppb以下、好ましくは約0.01ppb以下、好ましくは約0.005ppb以下、好ましくは約0.001ppb以下、好ましくは約0.0001ppb以下、好ましくは約0.00001ppb以下、好ましくは約0.000001ppb以下である。この濃度は、量子デバイスの一部でないNV中心間の相互作用を減らし、それによって、量子スピン欠陥を含むNV中心のデコヒーレンス時間T2を増やし、かつスペクトル安定性を高めるので有利である。
【0056】
当業者には分かるように、特定の関連性のあるソリッドステート材料の最終用途で量子ビットとして使用するのは、量子スピン欠陥の濃度と分離である。例えば、スピントロニクス用途で利用する予定の量子スピン欠陥がホスト材料の薄層内にある場合、この層以外の他の量子スピン欠陥の濃度はあまり重要でない。しかし、本発明は、例えば、ホスト材料の全体にわたって分布されている量子スピン欠陥の三次元配列があり得るソリッドステートシステム(ここで、各量子スピン欠陥内では個々にアドレス指定可能である)をも提供する。この場合、全ての量子スピン欠陥の濃度と分離が特定の関連性がある。この点について、本発明は、ホスト材料の薄層に限定されず、合成ダイヤモンドホスト材料のバルク部分を含み、そのバルク全体を通じて実質的に同一の特性を有するソリッドステートシステムにも拡張する。
ホスト材料中の量子ビット欠陥中心のデコヒーレンス時間T2は、特に、ホスト材料中の他の欠陥、特に磁気スピンを有する欠陥の接近によって不利に減少する。本明細書では、用語「他の欠陥」を用いて、量子ビット中心として作用するよう意図されていない、ホスト材料中に存在する欠陥を表す。
ホスト材料がダイヤモンド層である場合、量子スピン欠陥のT2に影響を及ぼす、ダイヤモンド層中に存在する他の欠陥は、一般的に以下の4つの機構のうちの1つによって量子スピン欠陥のT2に影響を及ぼす。
・欠陥が常磁性であり、ひいてはスピンを有する場合、双極子スピンカップリング;
・電場又は電荷、例えば量子ビット欠陥中心が位置する局所電場電位の変化が隣接欠陥上の電荷から生じる場合。さらに、該欠陥は例えば熱励起によってランダムに電荷状態を変えて、量子ビット欠陥中心のエネルギー状態に変化を引き起こし得る。本質的に、状態にバンドギャップを加えるいずれの欠陥も局所電場を上昇させ得る。
・格子歪み(これが格子の局所弾性特性、ひいては量子ビット欠陥中心の詳細構造を変え、例えば次にゼロフォノンラインエネルギー又は線幅に影響を及ぼすので);及び
・局所光学特性、例えば吸収、屈折率及び散乱など;量子ビット欠陥中心との相互作用は一般的に光学手段によることから、詳細な光子構造を効率的に外界とつなぐ必要があるので、ダイヤモンド材料の全てのこれらの光学的態様が重要である。
【0057】
従って、該欠陥の存在を最小限にすることに加えて、例えば、本発明の方法を用いてダイヤモンドホスト材料を製造することによって、磁気スピンを有する他の要素から、いかなる相互作用をも最小限にするのに十分な距離で量子スピン欠陥を確実に分離することも望ましい。
この点について、好ましくは、量子スピン欠陥を磁気スピンを有する他の要素(すなわち他のNV中心)から、いずれの断面切断によってもNV中心間の平均距離が0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、好ましくは1μm以上、好ましくは2μm以上、好ましくは5μm以上、好ましくは10μm以上、好ましくは20μm以上、好ましくは50μm以上であるように分離する。
上記距離は、量子ビットとして使用する予定の個々のNV中心と磁気スピンを有する他の要素との間の距離又はスピントロニクス用途で一緒に使用する予定の一群の2つ以上のNV中心と磁気スピンを有する他の要素との間の距離であってよい。
当業者には分かるように、重要なのは、ダイヤモンド材料の、読み出し及び/又は特徴づけする予定の部分のNV中心の密度とNV中心の間隔である。
【0058】
本発明の合成ダイヤモンド層の高い化学的純度及び高い同位体純度のため、該層内に、室温で驚くほど長いT2時間を有する量子スピン欠陥、特にNV中心を形成することができる。
極低温を採用する必要がないことを意味するので、室温でこれらの長いT2時間が観察されることは特に有利である。
この点について、本発明は、ホスト材料、好ましくは本発明の合成ダイヤモンド材料の層と、量子スピン欠陥を含むソリッドステートシステムであって、量子スピン欠陥が室温で約500μs以上、好ましくは約700μs以上、好ましくは約900μs以上、好ましくは約1ms以上、好ましくは約1.2ms以上、好ましくは約1.4ms以上、好ましくは約1.6ms以上、好ましくは約2.0ms以上、好ましくは約3.0ms以上、好ましくは約4.0ms以上、好ましくは約5.0ms以上、好ましくは約8ms以上、好ましくは約10ms以上、好ましくは約15ms以上、好ましくは約20ms以上、好ましくは約25ms以上、好ましくは約30ms以上、好ましくは約50ms以上のT2を有する、ソリッドステートシステムを提供する。
T2の最大値はT1、すなわち「スピン-格子緩和時間」によって基本的に制限される。実際には、T2の最大値はT1の値の約1/5〜1/10であることが分かっている。通常、T2の値は1000msを超えないだろう。
ESR法を利用して量子スピン欠陥のT2時間を決定することができる。T2を測定するために採用されるESR法は、ハーンエコー減衰(Hahn echo decay)を利用してスピンコヒーレンスの寿命(すなわちT2)を測定する。例えば、量子スピン欠陥がNV中心である場合、スピン偏極集団を用いて単一NV中心についてハーンエコー減衰測定を行なう。スピン偏極集団は3A基底状態(すなわちms=0)から3E第1励起三重項状態(すなわちms=-1)までのレーザー励起によって作り出された後、基底状態へ戻る減衰がスピン角運動量の非保存に起因するスピン偏極状態を残すことになる(D. Redman et al, J. Opt. Soc. Am. B, 9 (1992), 768)。次にNV中心のスピンが、NV中心のスピンを反転させるマイクロ波パルスを利用する一連の変換を受ける(該シーケンスを図8に示す)。パルスは形態π/2-t0-π-t0-π/2(ここで、t0はパルス間の時間である)を取る。次に蛍光を通じてNV中心のスピンが読み出される。パスル間の異なる時間t0で測定を繰り返して、デコヒーレンス時間T2を測定することができる。
【0059】
T2値を測定する方法は以下の通りである。この方法をNV中心を特徴づけることに関連して述べてあるが、類似の方法を利用してNV中心以外の量子スピン欠陥のT2値を決定でことが当業者には分かるであろう。
(i)レーザー励起を利用する共焦点顕微鏡システムを用いて単一NV中心を見つける(図7に模式的に示す)。
(ii)NV中心について「同時測定」を行なって、選択したNV中心が実際に単一NV中心であることを確認する。この測定は、光子周波数安定性測定に使われるシステムと同様のシステムを使用するが、ずっと狭くて速い走査時間を用い、数えられる光子の代わりに測定される1つの光子と次の光子との間の時間遅延を利用する。図6は、ゼロに同時事象がない(特徴づけられるNVが実際に単一NV中心であることを示唆している)同時試験の結果を示す。
同定されたNV中心のT2時間を今度こそは決定することができる。
(iii)非縮退共鳴(例えば1.299T)に及ぼす磁場の存在下、NV-中心のZPL未満の波長で(例えば532nmで)操作する連続波(「cw」)レーザーを用いてNV中心を励起させてms=0状態のスピン偏極集団を作り出す(NV中心の電子構造の理由で)。
(iv)次に、1μs未満から多数のμsまで体系的に変化する「遅延時間」、t0で分離される例えば、約35GHzの周波数の一連の短い(数nsの持続時間)強烈な(16Wピーク出力)マイクロ波パルスにスピン偏極NV-中心を供して、スピン状態を「反転」させる。第1パルスは、磁化をコヒーレント重ね合わせms=0及びms=-1状態に回転させるπ/2パルスである。第1パルスの時間t0後の第2パルスは、スピンを逆さにするπパルスである。第1パルスの時間2t0後の第3パルス(別のπ/2パルス)は、スピンを回転させてその元の状態に戻す。このシーケンスを図8に示す。マイクロ波パルスのシーケンス中、NV中心からの蛍光放出の強度をモニターする。蛍光放出の強度は、t0の値が変化するにつれて変化する。このプロセスをt0時間より長く体系的に繰り返す。
(v)蛍光強度(「ハーンエコー振幅」とも称する)をt0時間の関数としてプロットする。蛍光の強度は指数関数的に降下する曲線の変調を示し、該変調のピークにわたって近似的に指数曲線(「電子スピンエコーエンベロープ」とも称する)を適合させることができる。発明者らは、データを選択して下記式に適合させた。
I ∝ exp(-1/TM)
式中、Iは、蛍光強度であり、Tmは、T2と等価な相記憶時間(phase memory time)である。本例では、T2の値を、Iの値が初期強度の1/e≒0.367に低減している電子スピンエコーエンベロープ上の点として定義した(eは周知であり、超越数e=2.7182818…)。
文献には、電子スピンエコーエンベロープのフィッティング及びT2の値の抽出への多くのアプローチがある。上記アプローチは保守的なアプローチとみなされる。
この方法(電子スピンエコーエンベロープからのT2値の抽出とは異なる)はCharnock及びKennedy(Phys. Rev. B, 64 (2001), 041201-1〜041201-4)に記載されている。
【0060】
量子スピン欠陥を含むソリッドステートシステムにおいては、読み書きに使われる量子スピン欠陥の光学的遷移の周波数が安定的であって、2つ以上の欠陥が量子力学的に同一の光子を生じさせるように該2つ以上の欠陥の周波数を合わせられることが必要である。
後述する方法に従って量子スピン欠陥からの発光の安定性を決定することができる。この方法をNV中心を特徴づけることに関連して述べてあるが、類似の方法を利用してNV中心以外の量子スピン欠陥からの発光の安定性を決定し得ることが当業者には分かるであろう。
637nmにおけるNV-中心からのゼロフォノンライン発光の波長(又は周波数)安定性の決定は、要求される精度が通常の分光法を利用するには高すぎるので、高精度法の使用を要する(すなわち通常の分光法によっては、約30GHzの周波数分解能に等価な約0.05nmよりもよくは該ラインの位置を決定できない)。実際には、ZPLの真の線幅の測定が必要である。
本例では、発明者らはZPLの安定性を決定するためにレーザー分光法を利用することを選択したが、当技術分野で開示されている他の方法を使用できるであろう。低温(例えば-269℃(4K))でのフォトルミネセンス励起(PLE)測定を利用するダイヤモンド中の単一NV中心についてのレーザー分光法は、Jelezkoら(F. Jelezko, I. Popa, A. Gruber, C. Tietz, J. Wrachtrup, A. Nizovtsev and S. Kilin, “Single spin states in a defect center resolved by optical spectroscopy,” Appl. Phys. Lett., 81 (2002), 2160-2162)に記載されている。発明者らは、低温ではなく室温でこの技術を利用した。
【0061】
PLEによるNV-中心のZPLの安定性の決定を以下のように行なった。
(i)共焦点顕微鏡を用いてレーザー照射(例えば532nm)で単一NV中心を同定し、T2時間の決定には同時測定を利用する。
(ii)波長可変励起レーザー(637nmで出力可能な波長可変レーザー及び約5MHz未満の周波数同調ステップを有する)の焦点を共焦点顕微鏡を用いてNV中心に合わせ、レーザーの周波数を例えばZPL周波数の両側の約3GHzの範囲にわたって637nmでNV- ZPLを横断して走査する。サンプルから「反射」して戻る照射は光路に従うので、典型的にZPLの波長で光を入れるための通常分光計セットを用いて検出できる。
(iii)単一NV中心は、基底状態から励起状態への実際の遷移が起こる周波数でのみ入射レーザー光線を吸収し;これが、検出器によって測定される強度の減少として観察される。周波数は検出器の強度の減少と関係があり、励起周波数対光子数のヒストグラムに周波数をプロットする。
(iv)周波数走査を複数回繰り返して、例えば図9に示すように、明確に定義されたピークのある統計的に有意なヒストグラムを構築する。
(v)ヒストグラムのピークの半値全幅(「FWHM」)で安定性を特徴づける。
【0062】
上記方法では、使用する検出器は、その機能が周波数ではなくレーザー走査として「反射」された照射の強度を測定することなので通常の分光計であってよい。
上記方法では、特に励起出力が増すと「光退色(photo bleaching)」(すなわちNV中心から電子が失われる)が起こり得る。例えば、532nm又は488nmで「リポンプ(repump)」レーザーを適用して、この退色を逆転させ得る。リポンプは、単置換窒素不純物から伝導バンドへ電子を励起させるのに十分なエネルギーを有し、これらの電子はNV中心によって再捕獲され得る。このプロセスは決定論的でなく、いつでもNV-電荷状態のNV中心を残すわけではない。PLE走査間に連続的にか又はパルスとしてリポンプを適用できるが、連続的リポンピングは、単一PLE走査中に素早い点滅及びおそらくスペクトル拡散を引き起こす。走査間のパルスリポンプは中断せずに単一走査を完了させられるが、点滅又は走査から走査へのスペクトル飛び越しをもたらし得る。
特定周波数を有する光子の数対その光子の周波数のヒストグラムのピークのFWHMの理論上の最小値は約13.3MHzである。この値は、他の点欠陥又は拡張欠陥を持たない、ほかの点では完璧な同位体的に純粋なダイヤモンドの単一NV中心に当てはまるであろう。
好ましくは、本発明のソリッドステートシステムでは、ms=±1の励起状態からms=0の基底状態への遷移の安定性が、特定周波数を有する光子の数対その光子の周波数のヒストグラムのピークのFWHMが約500MHz以下、好ましくは約300MHz以下、好ましくは約200MHz以下、好ましくは約150MHz以下、好ましくは約100MHz以下、好ましくは約80MHz以下、好ましくは約50MHz以下であるようなものである(ここで、該FWHMを評価する光子の数は約5×105以上、好ましくは約106以上、好ましくは約107以上、好ましくは約108以上である)。
本発明のソリッドステートシステムは、量子リピーター、量子暗号デバイス、量子計算デバイス又は他のスピントロニクスデバイス、例えば磁気計であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1(a)】15NV-及び14NV-中心のエネルギーレベル模式図を示す。
【図1(b)】15NV-中心から光学的に検出された電子常磁性共鳴スペクトルを示し、挿入図に14NV-中心の同スペクトルを示す。
【図2(a)】15NV中心の二次元配列を形成するための15Nイオンの二次元配列の合成ダイヤモンド材料への注入の概略図を示す。
【図2(b)】注入時のダイヤモンド中の高エネルギー窒素イオンの径路と終点を表すモンテカルロ(Monte-Carlo)シミュレーションの結果を示す。
【図3】15Nの単結晶CVDダイヤモンド層へのイオン注入によって形成された15NV中心の二次元配列の共焦点顕微鏡画像を示す。
【図4】本発明のダイヤモンド層内のNV中心の蛍光励起スペクトルを示す。
【図5】エコースポットが単一NV中心に対応している、単結晶CVDダイヤモンド層の領域の共焦点顕微鏡画像を示す。
【図6】連続的光子間の時間遅延(「光子間時間遅延(interphoton time delay)」)が0nsの遅延時間ではゼロの同時速度を有する(全ての光子が単一NV中心由来であることを示唆している)ことを示す。
【図7】共焦点顕微鏡(共焦点蛍光顕微鏡を含む)を用いて非常に低い濃度のNV中心を測定することができ、かつマイクロ波又はラジオ周波数シグナルを用いて基底状態から励起状態に電子を励起させることができる模式配置を示す。
【図8】NV中心のスピンを逆転させるマイクロ波パルスを用いる一連の変換を示す。
【図9】複数のPLE走査を行なった(数走査ごとにリポンプパルスを含む)単一NV中心の結果及び放出された光子の周波数と放出が当該周波数である回数とのストグラム(ピークの半値全幅が約250MHzであることを示している)を示す。
【図10】異なる同位体純度、詳細には、天然存在度の13Cを有する単結晶ダイヤモンド(26)と比較した99.99%の13C(22)及び99.6%の13C(24)の本発明の単結晶ダイヤモンド材料内のNV中心のT2のハーンエコー測定の結果の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
上述したように、ダイヤモンド内のNV中心は1つより多くの磁気スピン状態を有するので、量子ビット用途に使用することができる。図1(a)は、15NV-及び14NV-中心のエネルギーレベル模式図を示し、基底状態スピン構造の超微細カップリングエネルギーの差異を示している。これらの中心のスピン構造を図1(b)の光学的に検出された磁気共鳴スペクトルで見ることもできる。図1(a)及び1(b)は、NV中心の磁気スピン状態の非退縮を明白に示している。図1(a)が示すように、磁気スピン状態間には、より高いエネルギーの磁気スピン状態を占めるNV中心がエネルギーを失い得るいくつかの許容遷移がある。NV中心が高エネルギー磁気スピン状態から低エネルギー磁気スピン状態への遷移を受けるときに失われるエネルギーが光子として放出されるので、光検出器を用いて検出かつ特徴づけることができる。
図2(a)は、NV中心の合成ダイヤモンド材料への注入の概略図を示す。この図中、NV中心は2MeV(メガ電子ボルト)のエネルギーでN++イオンの注入によって形成される。この図に示すNV中心は全て同エネルギーで注入されて二次元配列を形成する。
図2(b)は、注入時のダイヤモンド中の高エネルギー窒素イオンの径路を表すモンテカルロシミュレーションの結果を示す。イオンの最終位置の分布は約1.1μmの平均深さを有し、約0.5μmの半値全幅で横方向に特徴づけられる。この図中、NV中心は2MeVのエネルギーでN++イオンの注入によって形成される。注入されたイオンの径路は一直線でないが、ダイヤモンド構造の炭素原子との衝突間の一連の直線セグメントで構成されている。一部の衝突が炭素原子をその正常部位から突き落として自己格子間(self-interstitial)炭素原子及び空孔を形成して損傷ゾーンを形成する。損傷ゾーンの横方向の広がりは、注入されたN++イオンの分布の広がりとほぼ同じであるが、注入されたN++イオン毎に形成された多く(例えば102〜103)の自己格子間原子及び空孔がある。
【0065】
図3は、単結晶CVDダイヤモンド層内の注入されたNV中心の二次元配列の共焦点顕微鏡画像を示す。画像中の各ドットが単一NV中心に相当する。ドットのクラスター(そのうちの4つが実質的に正方形の配列に見える)は注入プロセスによって形成されたNV中心であり、他のランダムに分布されたドットは、成長プロセス中の窒素原子及び空孔の取込みによって形成されるNV中心(「固有NV中心」とも称する)に起因する。
図7に示す共焦点顕微鏡配置中、(2)はレーザーであり、(4)はアバランシェフォトダイオード(avalanche photodiode)(APD)であり、(6)はダイヤモンド表面であり、(8)は単一NV中心であり、(10)はマイクロ波及びラジオ周波数である。
以下の実施例で本発明をさらに説明する。当然のことながら、実施例は説明目的のためだけであり、上述した本発明を限定するものではない。本発明の範囲を逸脱することなく、細部の変更を行ない得る。
単結晶CVDダイヤモンドで単一NV中心のT2値を測定した。この特定中心の選択は、個々の中心のスピン状態への接近を許す光学的読み出しの利用能に関連する。
【実施例】
【0066】
実施例1〜4は、本発明の材料の合成のために用いた方法の態様を説明する。
(実施例1)
この実施例は、本発明の一実施形態の単結晶CVDダイヤモンドの調製に関する。
厚さ約1.5mm及び横方向3mm×3mmの寸法の4つの単結晶CVDダイヤモンド基板(Element Six Ltd, Isle of Man, www.e6cvd.com)を選択して熱酸化性酸混合物で浄化した。
4つの基板を約1.5mmの間隔があくようにモリブデンキャリア上にろう付けした。針式プロフィロメーター(「Taylor Hobson FormTalysurf 50」, Taylor Hobson Ltd, Leicester, UK)を用いて基板のRa測定(基板毎に5回の0.08mm測定)を行なった。全ての場合にRaが約1mm未満であることを示した。ランダムに選択した基板を1μm×1μmの面積について原子間力顕微鏡(Veeco「Dimension 3100」)を用いてさらに測定した。Rqが0.5mmであることを示した。
【0067】
次にCVDダイヤモンド沈着反応器内に該配列を置いて以下のin situプラズマエッチングシーケンスに供した。
下記条件を利用する酸素エッチング:
約20kPaの圧力;
H2−300sccm、Ar−15sccm、O2−10sccmのガス流量;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定、O2(「O2 6.0」CK Gases Ltd., Hook, Hampshire, UK)−1ppm未満として規定され、供給業者によって約0.8ppmと検定された;
約800℃の温度;及び
持続時間−10分;
その後、下記条件下の水素エッチング:
約20kPaの圧力;
H2−300sccm、Ar−15sccmのガス流量;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定;
約780℃の温度;及び
持続時間−10分。
入力ガス流から酸素を除去することによって、酸素エッチングから水素エッチングに移る。
エッチングシーケンスの完了時、下記条件を用いてCVDダイヤモンド層を沈着させた。
約20kPaの圧力(約150Torr);
成長中の表面温度975〜1000℃;
sccm(標準平方センチメート)のガス流量:H2−600、Ar−50、CH4−15、O2−9;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定、CH4−体積で10ppm未満の不純物として規定され、供給業者によって8±1ppmと測定された、O2(「O2 6.0」CK Gases Ltd., Hook, Hampshire, UK)−1ppm未満の不純物として規定され、供給業者によって約0.8ppmと検定された;及び
CH4同位体純度:99.6%超えの12C。
【0068】
電力を調整して必要温度(975〜1000℃)を達成した。約3kWだった。
沈着プロセスを約24時間行なった後に終了した。基板上に沈着された、同位体が濃縮されたCVDダイヤモンド層の厚さを測定すると、約50μm〜約60μmだった。
約5μmの深さへのSIMS深さプロファイリングは、12C含量が99.5〜99.6%の範囲であり、同位体が濃縮されたCH4源ガスと実質的に同一であることを示した。さらに、SIMSは、全窒素含量が約100ppbの検出限界未満であることを示した。
共焦点PL測定は、約1010cm-3(約4μmのNV中心の平均分離と等価)のNV欠陥濃度を確証した。NV対全窒素の比は典型的に約1:30であることが分かっているので、これは全窒素濃度を約3×1011原子/cm3とみなす。これらの成長したままのNV中心の1つをハーンエコー法で特徴づけると、約1.6msのT2時間を有した。
成長したままのNV中心から放出された光子の安定性(そのT2時間を予め測定した)を本出願の他の場所に記載した方法で特徴づけた。放出された光子の周波数対その発生回数のヒストグラムのFWHMは、106個の放出された光子について測定した全数の光子にわたって安定性が200MHz〜250MHzだったことを示す。
上述したように、固体炭素源の使用を含む方法によっても本発明の合成ダイヤモンド層を製造することができる。下記実施例2〜4で詳述するように該方法を実施することができ、放出された光子のT2値及び安定性について同様の結果が得られると予測される。
【0069】
(実施例2)
この実施例は低窒素含量の同位体が濃縮された炭素源として引き続き使用する多結晶性ダイヤモンドの合成及び特徴づけに関する。
多結晶性CVDダイヤモンドの合成に適した通常の2.45HGzマイクロ波プラズマ反応器を使用する。直径約50mm及び厚さ5mmのモリブデン基板を反応器内に置いた後、2〜4μmの天然ダイヤモンド粉末を手作業でまく。
多結晶性CVD層を下記条件で基板上で成長させる。
圧力−20kPa(約150Torr);
成長中の表面温度:975〜1000℃;
sccm(標準平方センチメート)のガス流量:H2−600、Ar−50、CH4−15;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定、CH4−10ppm未満の不純物として規定され、供給業者によって8±1ppmと測定された;及び
CH4同位体純度:99.6%超えの12C。
電力を調整して必要温度(975〜1000℃)を達成した。約3kWだった。
成長プロセスの終了時、多結晶性CVDダイヤモンドの厚さは約1mmである。多結晶性ダイヤモンドの層を基板から除去する。
材料の小片についてSIMS測定を行うことができ、CVDダイヤモンド材料の窒素含量は、この技術の約100ppbの検出限界未満である。炭素同位体比をもSIMS測定で測定できる。該測定は、CVDダイヤモンド中の炭素同位体比が99.6%の12Cであり、前駆体CH4の同位体比と実質的に同じであることを示す。このようにしてプロセスは同位体が濃縮された炭素源ガスと同じ同位体比であるが、同位体が濃縮された炭素源ガスの窒素不純物含量より実質的に低い(SIMSの感度によって制限されるが少なくとも100倍)窒素不純物含量の炭素源材料を形成する。
【0070】
(実施例3)
この実施例は、高い同位体純度と高い化学的純度を併せ持つ合成単結晶ダイヤモンドの合成用炭素源として実施例2の固体炭素源を使用する場合の本発明の実施形態に関する。
実施例2で合成されたダイヤモンドの層をレーザーでカットして、公称外径48mm及び公称内径36mmのアニュラスを形成する。導電性銀ペイントを用いて50mm径、5mm厚のモリブデンキャリア上にアニュラスを熱付着させる(Acheson ElectroDag 1415, Agar Scientific, Stansted, UK)。
表面をスケイフ研磨した寸法が約3mm×3mm×0.5mmの4つの単結晶CVDダイヤモンドプレート(Element Six Ltd, Isle of Man, www.e6cvd.com)を熱酸化性酸混合物を用いて浄化し、アニュラスの中心開口内のモリブデンキャリア上にろう付けする(Au-Taろう付け材を用いて)。
タングステンキャリア、熱付着させた多結晶性ダイヤモンドアニュラス及びろう付けした単結晶CVDダイヤモンドプレートを含むアセンブリーを実施例2で用いた反応器と同様のCVD反応器に入れる。
次に下記条件を利用して単結晶ダイヤモンド基板上でCVDダイヤモンドの層を成長させる。
圧力−20kPa(約150Torr);
成長中の単結晶基板温度:900〜960℃;
成長中の多結晶性アニュラス温度:975〜1000℃;
sccm(標準平方センチメート)のガス流量:H2−600、Ar−20;及び
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定。
【0071】
多結晶性ダイヤモンドアニュラスは、単結晶ダイヤモンド基板よりわずかに高く、あまりよく放熱されないので、プラズマにより近く、測定すると、単結晶ダイヤモンド基板よりわずかに熱かった。
多結晶性材料をプラズマにさらす温度及び/又は面積を増やすことによって、多結晶性ダイヤモンドのエッチングの速度、ひいては単結晶ダイヤモンドの成長速度を高めることができる。特に、熱付着されていない多結晶性ダイヤモンド材料を使用するか又は多結晶性ダイヤモンド材料をモリブデンキャリア上に間隔をあけて配置するか又は多結晶性ダイヤモンド材料片をプラズマに垂直に立たせることによって、全て多結晶性ダイヤモンド材料の温度とエッチング速度を高め、それによってガス炭素濃度、ひいては単結晶ダイヤモンドの成長速度を高める。
水素-アルゴンプラズマはアニュラスの多結晶性ダイヤモンドをゆっくりエッチングし、単結晶基板上にCVDダイヤモンドを沈着させる。アニュラスの多結晶性ダイヤモンドのエッチング速度は非常に遅いので、単結晶基板上の沈着速度も非常に遅い(典型的に1μm/時間未満)。成長の約24時間後にプロセスを終了させてアセンブリーを除去する。
この被覆単結晶基板の1つをSIMSで分析することができる。12C及び13C同位体の同位体比の深さプロファイルは、表面から約5μmの深さでは、12C含量が約99.6%であり、固体炭素源と実質的に同一であり;約5μmの深さより下では、12Cの濃度が約98.9%、すなわち同位体が濃縮されていない炭素の濃度であることを示す。さらなるSIMS測定を利用して窒素の全濃度を決定することができる。該測定値は、表面の約5μm以内のCVDダイヤモンドの全窒素含量は、この方法の約100ppbという限界又はそれ未満であることを示す。
共焦点PL測定値を利用してNV欠陥濃度を決定することができる。該測定値は約109cm-3のNV欠陥濃度を確証する。これらの成長したままのNV中心の1つをハーンエコー法を利用して特徴づけ得る。分析したNV中心は約1.6msのT2時間を有することが分かる。
従って、本発明の方法によって、12Cに関して同位体が濃縮され、かつ非常に低い窒素含量を有する単結晶CVDダイヤモンドが合成される。
【0072】
(実施例4)
この実施例は、高い同位体純度と高い化学的純度を併せ持つ合成単結晶ダイヤモンドの合成用炭素源として実施例2の固体炭素源を使用する場合の本発明のさらなる実施形態に関する。
この実施例は、実施例2と実施例3で用いたのと同様の2つのマイクロ波プラズマCVDダイヤモンド合成反応器を利用する。第1の反応器を用いて、実施例2に従って調製された固体炭素源をガス状炭素種に変換する。第1の反応器を第2の反応器に連結して、第1の反応器のガス出力の一部又は全てを制御可能に、ダイヤモンドが沈着される条件下の第2の反応器に流せるようにする。
実施例2の固体炭素源をモリブデンキャリア(50mm径、5mm厚)に熱付着させ(Acheson ElectroDag 1415を用いて)、第1の反応器に入れる。活性化のために用いた条件は以下の通りである。
圧力−24kPa(約180Torr);
エッチング中の多結晶性層温度:約1000℃;
sccm(標準平方センチメート)のガス流量:H2−350、Ar−15;及び
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定。
プラズマに加えるマイクロ波出力の調整(約3kW)によって多結晶性層の温度を約1000℃で維持する。プラズマによって放出された光の定性的光放出分光学はプラズマ中の原子炭素の存在を示し、ダイヤモンドのエッチングが起こっていることを実証する。活性化プロセスは、第2の反応器内で前成長エッチングシーケンスが開始されるのとほぼ同じ温度で開始され、第1の反応器で生成される炭素含有ガスは、最初は第2の反応器に供給されるのではなく全部廃棄される。
スケイフで表面を研磨した寸法が約3mm×3mm×0.5mmの4つの単結晶CVDダイヤモンドプレート(基板)(Element Six Ltd, Isle of Man, www.e6cvd.com)を熱酸化性酸混合物を用いて浄化し、50mm径、5mm厚のモリブデンキャリア上にろう付けする(Au-Taろう付け材を用いて)。
【0073】
針式プロフィロメーター(「Taylor Hobson FormTalysurf 50」, Taylor Hobson Ltd, Leicester, UK)を用いて基板のRa測定値(基板毎に5回の0.08mm測定)を記録することができる。全ての場合にRaが約1mm未満である。ランダムに選択した基板を1μm×1μmの面積について原子間力顕微鏡(Veeco「Dimension 3100」)を用いてさらに測定することができる。これはRqが0.5mmであることを示す。
モリブデンキャリアと単結晶基板を第2の反応器に入れ、以下のin situプラズマエッチングシーケンスに供する。
下記条件を利用する酸素エッチング:
約20kPaの圧力;
H2−300sccm、Ar−15sccm、O2−10sccmのガス流量;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定、O2(「O2 6.0」CK Gases Ltd., Hook, Hampshire, UK)−1ppm未満として規定され、供給業者によって約0.8ppmと検定された;
約800℃の温度;及び
持続時間−10分;
その後、下記条件下で水素エッチング:
約20kPaの圧力;
H2−300sccm、Ar−15sccmのガス流量;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−10ppb未満として測定;
約780℃の温度;及び
持続時間−10分。
【0074】
入力ガス流から酸素を除去することによって、酸素エッチングから水素エッチングに移る。
エッチングシーケンスが完了したら、第2チャンバーへの水素とアルゴンの直接ガス流量をゆっくり減らし、一方、第1チャンバーから第2チャンバーに全ガス流量が入るまで第1チャンバーから第2チャンバーへのガス流量をゆっくり増やす。
ガス流量が確立されたとき、第2の反応器内の条件は以下の通りである。
約20kPaの圧力;
第2チャンバーへの全ガス流量300sccm;及び
約860℃の基板温度。
第2反応器内のプラズマへのマイクロ波出力を調整して所望温度を達成する。プラズマによって放出された光の定性的光放出分光学は、プラズマ中の原子炭素の存在を示す。
全部で約24時間プロセスを行なって終了する。反応器から除去するときにモリブデンキャリアから被覆単結晶基板を除去する。マイクロメートルによる厚さの測定値は、元の基板上に約8μm〜約12μmの層が沈着されたことを示す。
ランダムに選択された被覆基板をさらに特徴づける。約5μmの深さへのSIMS深さプロファイリングを利用して同位体純度を決定することができる。約5μmの深さへの12C濃度は約99.6%であり、実質的に固体炭素源と同じである。さらなるSIMS測定によって全窒素含量を決定し得る。全窒素含量は、約100ppbの検出限界未満である。
共焦点PL測定値を利用してNV欠陥濃度を決定することができる。これらの測定値は、約109cm-3のNV欠陥濃度を確証する。これらの成長したままのNV中心の1つをハーンエコー法を利用して特徴づけ得る。測定されたT2時間は約1.6msである。
放出された光子の周波数対発生回数のヒストグラムのFWHMによってスペクトル安定性を特徴づけ得る。これは、約106個の放出された光子について測定された光子の全数にわたって安定性が200MHz〜250MHzであることを示す。
【0075】
(比較例1)
比較例1は、源ガスへの酸素添加を省くことを除き、実施例1の方法に従った。使用した正確な条件は以下の通りだった。
圧力−約20kPa(約150Torr);
成長中の表面温度:975〜1000℃;
sccm(標準平方センチメート)のガス流量:H2−600、Ar−50、CH4−15;
ガス窒素含量:H2−10ppb未満として測定、Ar−体積で10ppb未満として測定、CH4−体積で10ppmとして規定され、供給業者によって8±1ppmと測定された;及び
CH4同位体純度:99.6%超えの12C。
電力を調整して必要温度(975〜1000℃)を達成した。約3kWだった。
プロセスを約24時間行なった後、終了し、CVDダイヤモンド層の厚さが約60μm〜約70μmの範囲であることが分かった。約5μmの深さへのSIMS深さプロファイリングは、12C含量が99.5〜99.6%の範囲であり、CH4源ガスとほぼ同一であることを示した。さらに、全窒素含量のSIMS測定値は約1ppmであることが分かった。
EPRによるNV中心のアンサンブル測定は約5ppb(約1015cm-3)の濃度を与えた。これは隣接NV中心間の約0.1μmの平均分離に等しい。PLE測定は、いずれの単離NV中心(すなわち、約1012cm-3のNV中心の濃度に等価の、約1μmより多く離れているNV中心)をも同定できなかった。
ハーンエコー法を用いた室温でのT2時間の測定は、約20μsのT2時間を与えた。
前もってT2時間を測定した成長したままのNV中心から放出された光子の安定性を、本出願の他の場所に記載した方法を利用して特徴づけ、放出された光子の周波数対発生回数のヒストグラムのFWHMは、約106個の測定された全数の放出光子にわたって安定性が400MHz〜500MHzだったことを示す。
【0076】
(実施例5)
この実施例は、実施例1に従って製造された材料のサンプルへのイオン注入による15NV中心の形成に関する。
実施例1のダイヤモンド層の合成に従い、窒素イオンの注入後のアニーリングによって、15NV中心を形成した。約15μm離れた約0.1μm径の領域に2MeVの15N++イオンを注入した。用量を選択して約1000イオン/領域とした。広く入手可能な「TRIM」ソフトウェアを利用する注入プロセスのモンテカルロシミュレーションは、複数回の衝突を通じて初期ビームから発散したイオンが、初期ビームに垂直な横方向寸法が数μmの体積を通して分布されるようになることを示した。
サンプルを約800℃の温度で3時間アニールしてから、約1200℃で5時間さらにアニールした。両アニールは真空炉内で約10-6Paの圧力にて行なって、ダイヤモンドの黒鉛化を抑制した。アニーリングは、注入された15N原子の一部を、これも注入プロセス中に形成された空孔と結合させて15NV中心にする。高エネルギーイオンの注入中に多数の空孔が生成されるので、これらの空孔の一部は、サンプル中に存在する「固有の」14N窒素とNV中心を作り出し得る(天然存在度窒素は約0.37%の15N窒素を含む)。
NV中心の生成後、共焦点蛍光顕微鏡を用いてそれらを検出した(図7)。初期イオンビームの1μm以内の50のNV中心の超微細構造を測定して、固有の14NV中心と注入された15NV中心とを区別することができる。測定した全てのNV中心は、15NV超微細構造が、分析した領域内には制御された配列を妨げるであろう「固有の」窒素14NV中心が存在しないことを示唆していることを示した。
従って、この実施例は、本発明の方法によって、本発明の単結晶ダイヤモンド内に制御されたNV中心の制御された配列を生成できることを実証する。
【0077】
(実施例6)
この実施例は、成長したままのNV中心濃度の特徴づけに関する。
図4は、負電荷状態で単結晶CVDダイヤモンド層に成長したNV中心の蛍光励起スペクトルを示す。安定性測定に用いられる波長可変レーザーを使用し、NV-中心のZPLの両側で約3GHzのレーザー周波数を走査し(スペクトルの主ピーク)、かつNV中心からの光子放出の強度(蛍光強度)測定することによってスペクトルを得た。このスペクトルは-272℃(1.6K)の温度で記録された。Ib型及び天然ダイヤモンド中の固有NV中心はこの鮮明さを示すが、本発明のダイヤモンド層内のNV中心についてこの図で観察されるゼロフォノンラインの周波数安定性を示さない。
Ib型及び天然ダイヤモンドには他のイオン性欠陥、おそらく窒素が存在することがあり、これらの欠陥の帯電-再帯電周期が固有NV中心の位置に変動電場をもたらし得るというのが発明者らの主張であり、蛍光スペクトルはシャープなままでなく、例えば図9に示す周波数安定性を示さないことを意味している。従って、本発明のダイヤモンド層内の窒素濃度の減少が、より高い窒素濃度の合成ダイヤモンド材料に比べて本発明のNV中心の安定性を良くする。
【0078】
(実施例7)
この実施例はダイヤモンド層内の窒素濃度に関する。
本発明の方法に従ってダイヤモンド層を成長させた。ダイヤモンド層の窒素純度を電子常磁性共鳴(EPR)及び二次イオン質量分析(SIMS)調査で特徴づけた。SIMSはダイヤモンド層内の全窒素濃度が0.1ppm(百万分率)未満であることを示した。機器の検出レベル及び室温連続波EPRは、単置換窒素濃度が<0.1ppb(十億分率)だったことを示す。
532nmの励起と、約700nmの結像深さに相当する開口数NA=1.4の対物レンズとを利用する共焦点顕微鏡を用いて、このダイヤモンド層のNV中心の濃度を決定した(図5参照)。
図5に示される各輝点を試験して、それらが単一NV中心であることを示した。この試験は、光子の放出間に常に時間遅延があった(発光中心が単一NV中心である場合にのみ真実であり得る)ことを検査する。
10のダイヤモンド層の実施例セットにわたって、NV中心の濃度を測定すると0.01〜10μm-3の範囲だった。これは約1010cm-3〜約1013cm-3のバルク濃度に相当する。
【0079】
(実施例8)
この実施例は先の実施例で開示した方法を利用し、かつ単結晶CVDダイヤモンドの調製に関する。
実施例1の方法を利用して、同位体が濃縮されたCVDダイヤモンドの層を単結晶CVDダイヤモンド基板上に作った。実施例1と比較した差異は以下の通りだった。
CH4窒素含量:15ppmN2当量で測定
CH4同位体純度:99.99%超えの12C
NV欠陥の成長した濃度を共焦点PL法を用いて評価すると、約1010cm-3であった。NV中心の1つを選択し、そのT2時間を室温でハーンエコー法を利用して測定した。ハーンエコー振幅は15msの時間について遅延がないことを示した。これは、15msよりずっと長いT2時間を示唆している。この測定の結果を図10に示す。図10では、99.99%の13C(22)の結果を99.6%の13C(24)及び天然存在度の13C(26)と比較している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高い化学的純度及び高い同位体純度のダイヤモンド材料の調製方法であって、以下の工程:
実質的に結晶欠陥がない表面を有するダイヤモンド基板を供給する工程;
高純度ガスを含む源ガス混合物を供給する工程(ここで、前記源ガス混合物中の窒素濃度は約300ppb以下である);
その全C含量の少なくとも約99%の量で12Cを含む固体炭素源を供給する工程(ここで、前記固体炭素源は低い窒素不純物含量を有する);
前記源ガス混合物及び前記固体炭素源の少なくとも一部を活性化及び/又は解離させてガス状炭素種を形成する工程;及び
前記基板の表面上でホモエピタキシャルダイヤモンド成長させる工程
を含む方法。
【請求項2】
前記固体炭素源がダイヤモンドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体炭素源が、前記ガス状炭素種の約80%以上を供給する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記固体炭素源が、前記ガス状炭素種の実質的に100%を供給する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
以下の条件:
(i)前記基板の温度が約800℃〜約1000℃の範囲である;及び
(ii)前記全源ガス混合物の、O2当量として測定される、体積で約0.5%〜約5%の量で酸素を前記源ガスに添加する;
の少なくとも1つを満たす、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記条件(i)を満たす、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記条件(ii)を満たす、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
高い化学的純度及び高い同位体純度のダイヤモンド材料の調製方法であって、以下の工程:
実質的に結晶欠陥がない表面を有するダイヤモンド基板を供給する工程;
高純度ガスと炭素源ガスを含む源ガス混合物を供給する工程(ここで、前記高純度ガスは、前記源ガス混合物中の全窒素レベルに約300ppb以下寄与し、前記炭素源ガスは、該炭素源ガスの全C含量の少なくとも99%の量で12Cを含み、かつ約20ppb以下の量で窒素不純物を含む);
前記源ガスを解離させる工程;及び
前記基板の表面上でホモエピタキシャルダイヤモンド成長させる工程
(このとき下記条件の少なくとも1つを満たす:
(a)基板の温度が約800℃〜約1000℃の範囲である;及び
(b)前記全源ガス混合物の、O2当量として測定される、体積で約0.5%〜約5%の量で酸素を前記源ガスに添加する)
を含む方法。
【請求項9】
前記条件(a)を満たす、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記条件(b)を満たす、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記炭素源ガスが、約5ppm以下の量で窒素不純物を含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記基板の表面が、実質的に{100}、{110}又は{111}表面である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ダイヤモンド材料の表面を加工して、実質的に結晶欠陥がない表面を形成するさらなる工程を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ダイヤモンド材料の表面を加工して、約50nm以下の粗さRqを有する表面を形成する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記表面を機械研磨によって加工する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記表面をエッチングによって加工する、請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記エッチングがAr/Cl2エッチングである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ホスト材料のさらなる層をホスト材料の加工表面の上に成長させる工程(ここで、前記さらなる層は約100μm以下の厚さを有する)を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記ダイヤモンド材料内に少なくとも1つの単離NV中心を形成する、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記NV中心を窒素イオン注入、窒素原子注入又は窒素含有イオン注入によって形成する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記NV中心を前記ダイヤモンド材料中に成長させる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
約600℃〜約900℃の温度で、約0.1時間〜約16時間の範囲の時間アニールするさらなる工程を含む、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
約1000℃以上の温度で、約0.1時間〜約16時間の範囲の時間アニールするさらなる工程を含む、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
NV中心の濃度が約10ppm以下である、請求項19〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1つのNV中心が、磁気スピンを有する他の要素から約0.02μm以上離れている、請求項19〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれか1項に記載の方法で製造された合成ダイヤモンド材料。
【請求項27】
前記ダイヤモンドが単結晶ダイヤモンドである、請求項26に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項28】
ダイヤモンド層が約5ppb以下の全窒素濃度及び約0.9%以下の13Cの全濃度を有する、合成ダイヤモンド材料層。
【請求項29】
前記ダイヤモンドがCVDダイヤモンドである、請求項28に記載の合成ダイヤモンド材料層。
【請求項30】
前記ダイヤモンドが単結晶ダイヤモンドである、請求項29に記載の合成ダイヤモンド材料層。
【請求項31】
ホウ素の濃度が約100ppb以下である、請求項26〜30のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項32】
非補償置換ホウ素の濃度が約100ppb以下である、請求項26〜31のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項33】
ケイ素の濃度が約100ppb以下である、請求項26〜32のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項34】
約1332.5cm-1のシフトにおけるダイヤモンドラマン線の強度に対して正規化された737nmのフォトルミネセンス線の強度(両者とも-196℃(77K)の温度で測定された)によって特徴づけられるケイ素空孔の濃度が約0.5である、請求項26〜33のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項35】
常磁性欠陥の濃度が約1ppm以下である、請求項26〜34のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項36】
いずれの単一の非水素不純物の濃度も約5ppm以下である、請求項26〜35のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項37】
水素とその同位体を除く全不純物濃度が約10ppm以下である、請求項26〜36のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項38】
前記単結晶ダイヤモンドホスト材料中の水素不純物の濃度が約1018cm-3以下である、請求項26〜37のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項39】
ホスト材料と量子スピン欠陥とを含むソリッドステートシステムであって、前記量子スピン欠陥が室温で約500μs以上のT2を有する前記ソリッドステートシステム。
【請求項40】
前記量子スピン欠陥が室温で約1ms以上のT2を有する、請求項39に記載のシステム。
【請求項41】
前記量子スピン欠陥のms=±1からms=0状態への遷移の安定性が、特定周波数を有する光子の数対その光子の周波数のヒストグラムのピークのFWHMが約500MHz以下であるようなものである、請求項39又は40に記載のシステム。
【請求項42】
前記ホスト材料が、請求項26〜38のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料層である、請求項39〜42のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項43】
前記ホスト材料がCVDダイヤモンドである、請求項39〜42のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項44】
前記CVDダイヤモンドが単結晶CVDダイヤモンドである、請求項39〜43のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項45】
前記量子スピン欠陥が前記ダイヤモンドの表面の約100μm以内に位置している、請求項39〜44のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項46】
前記ホスト材料の表面が実質的に結晶欠陥を含まない、請求項39〜45のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項47】
前記ホスト材料の表面が16Oで終端処理されている、請求項39〜46のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項48】
前記量子スピン欠陥に最も近い、前記ホスト材料の表面の約95%以上が16Oで終端処理されている、請求項47に記載のシステム。
【請求項49】
前記ホスト材料の表面が、約10nm以下の、前記量子スピン欠陥が形成されている所に最も近い表面上の点に中心がある約5μmの半径の円によって定義される領域内の前記単結晶ダイヤモンドの表面粗さRqを有する、請求項46に記載のシステム。
【請求項50】
前記CVDダイヤモンドが高い化学的純度を有する、請求項43〜49のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項51】
前記CVDダイヤモンドが、約10ppb以下の中性単置換窒素の濃度を有する、請求項50に記載のシステム。
【請求項52】
前記CVDダイヤモンドが高い同位体純度を有する、請求項43〜51のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項53】
前記CVDダイヤモンド中の12Cである、全C原子の百分率として表した分率が約99%以上である、請求項52に記載のシステム。
【請求項54】
前記量子スピン欠陥がNV中心である、請求項39〜53のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項55】
前記NV中心が14Nを含む、請求項54に記載のシステム。
【請求項56】
前記NV中心が15Nを含む、請求項54に記載のシステム。
【請求項57】
前記単結晶ダイヤモンドホスト材料中の水素不純物の濃度が約1018cm-3以下である、請求項39〜55のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項58】
前記ホスト材料の表面が機械研磨及びエッチングによって加工されている、請求項49に記載のシステム。
【請求項59】
前記ホスト材料の表面が、前記表面上でホスト材料のさらなる薄層を成長させることによって加工され、かつこのさらなる薄層が約100μm以下の厚さ及び成長したままの表面構造を有する、請求項49に記載のシステム。
【請求項60】
少なくとも1つの量子スピン欠陥が、磁気スピンを有する他の要素から約0.02μm以上離れている、請求項39〜59のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項61】
量子リピーター、量子暗号デバイス、量子計算デバイス、スピントロニクスデバイス又は磁気計である、請求項39〜60のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項1】
高い化学的純度及び高い同位体純度のダイヤモンド材料の調製方法であって、以下の工程:
実質的に結晶欠陥がない表面を有するダイヤモンド基板を供給する工程;
高純度ガスを含む源ガス混合物を供給する工程(ここで、前記源ガス混合物中の窒素濃度は約300ppb以下である);
その全C含量の少なくとも約99%の量で12Cを含む固体炭素源を供給する工程(ここで、前記固体炭素源は低い窒素不純物含量を有する);
前記源ガス混合物及び前記固体炭素源の少なくとも一部を活性化及び/又は解離させてガス状炭素種を形成する工程;及び
前記基板の表面上でホモエピタキシャルダイヤモンド成長させる工程
を含む方法。
【請求項2】
前記固体炭素源がダイヤモンドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体炭素源が、前記ガス状炭素種の約80%以上を供給する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記固体炭素源が、前記ガス状炭素種の実質的に100%を供給する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
以下の条件:
(i)前記基板の温度が約800℃〜約1000℃の範囲である;及び
(ii)前記全源ガス混合物の、O2当量として測定される、体積で約0.5%〜約5%の量で酸素を前記源ガスに添加する;
の少なくとも1つを満たす、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記条件(i)を満たす、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記条件(ii)を満たす、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
高い化学的純度及び高い同位体純度のダイヤモンド材料の調製方法であって、以下の工程:
実質的に結晶欠陥がない表面を有するダイヤモンド基板を供給する工程;
高純度ガスと炭素源ガスを含む源ガス混合物を供給する工程(ここで、前記高純度ガスは、前記源ガス混合物中の全窒素レベルに約300ppb以下寄与し、前記炭素源ガスは、該炭素源ガスの全C含量の少なくとも99%の量で12Cを含み、かつ約20ppb以下の量で窒素不純物を含む);
前記源ガスを解離させる工程;及び
前記基板の表面上でホモエピタキシャルダイヤモンド成長させる工程
(このとき下記条件の少なくとも1つを満たす:
(a)基板の温度が約800℃〜約1000℃の範囲である;及び
(b)前記全源ガス混合物の、O2当量として測定される、体積で約0.5%〜約5%の量で酸素を前記源ガスに添加する)
を含む方法。
【請求項9】
前記条件(a)を満たす、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記条件(b)を満たす、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記炭素源ガスが、約5ppm以下の量で窒素不純物を含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記基板の表面が、実質的に{100}、{110}又は{111}表面である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ダイヤモンド材料の表面を加工して、実質的に結晶欠陥がない表面を形成するさらなる工程を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ダイヤモンド材料の表面を加工して、約50nm以下の粗さRqを有する表面を形成する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記表面を機械研磨によって加工する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記表面をエッチングによって加工する、請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記エッチングがAr/Cl2エッチングである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ホスト材料のさらなる層をホスト材料の加工表面の上に成長させる工程(ここで、前記さらなる層は約100μm以下の厚さを有する)を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記ダイヤモンド材料内に少なくとも1つの単離NV中心を形成する、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記NV中心を窒素イオン注入、窒素原子注入又は窒素含有イオン注入によって形成する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記NV中心を前記ダイヤモンド材料中に成長させる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
約600℃〜約900℃の温度で、約0.1時間〜約16時間の範囲の時間アニールするさらなる工程を含む、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
約1000℃以上の温度で、約0.1時間〜約16時間の範囲の時間アニールするさらなる工程を含む、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
NV中心の濃度が約10ppm以下である、請求項19〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1つのNV中心が、磁気スピンを有する他の要素から約0.02μm以上離れている、請求項19〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれか1項に記載の方法で製造された合成ダイヤモンド材料。
【請求項27】
前記ダイヤモンドが単結晶ダイヤモンドである、請求項26に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項28】
ダイヤモンド層が約5ppb以下の全窒素濃度及び約0.9%以下の13Cの全濃度を有する、合成ダイヤモンド材料層。
【請求項29】
前記ダイヤモンドがCVDダイヤモンドである、請求項28に記載の合成ダイヤモンド材料層。
【請求項30】
前記ダイヤモンドが単結晶ダイヤモンドである、請求項29に記載の合成ダイヤモンド材料層。
【請求項31】
ホウ素の濃度が約100ppb以下である、請求項26〜30のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項32】
非補償置換ホウ素の濃度が約100ppb以下である、請求項26〜31のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項33】
ケイ素の濃度が約100ppb以下である、請求項26〜32のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項34】
約1332.5cm-1のシフトにおけるダイヤモンドラマン線の強度に対して正規化された737nmのフォトルミネセンス線の強度(両者とも-196℃(77K)の温度で測定された)によって特徴づけられるケイ素空孔の濃度が約0.5である、請求項26〜33のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項35】
常磁性欠陥の濃度が約1ppm以下である、請求項26〜34のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項36】
いずれの単一の非水素不純物の濃度も約5ppm以下である、請求項26〜35のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項37】
水素とその同位体を除く全不純物濃度が約10ppm以下である、請求項26〜36のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項38】
前記単結晶ダイヤモンドホスト材料中の水素不純物の濃度が約1018cm-3以下である、請求項26〜37のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項39】
ホスト材料と量子スピン欠陥とを含むソリッドステートシステムであって、前記量子スピン欠陥が室温で約500μs以上のT2を有する前記ソリッドステートシステム。
【請求項40】
前記量子スピン欠陥が室温で約1ms以上のT2を有する、請求項39に記載のシステム。
【請求項41】
前記量子スピン欠陥のms=±1からms=0状態への遷移の安定性が、特定周波数を有する光子の数対その光子の周波数のヒストグラムのピークのFWHMが約500MHz以下であるようなものである、請求項39又は40に記載のシステム。
【請求項42】
前記ホスト材料が、請求項26〜38のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料層である、請求項39〜42のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項43】
前記ホスト材料がCVDダイヤモンドである、請求項39〜42のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項44】
前記CVDダイヤモンドが単結晶CVDダイヤモンドである、請求項39〜43のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項45】
前記量子スピン欠陥が前記ダイヤモンドの表面の約100μm以内に位置している、請求項39〜44のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項46】
前記ホスト材料の表面が実質的に結晶欠陥を含まない、請求項39〜45のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項47】
前記ホスト材料の表面が16Oで終端処理されている、請求項39〜46のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項48】
前記量子スピン欠陥に最も近い、前記ホスト材料の表面の約95%以上が16Oで終端処理されている、請求項47に記載のシステム。
【請求項49】
前記ホスト材料の表面が、約10nm以下の、前記量子スピン欠陥が形成されている所に最も近い表面上の点に中心がある約5μmの半径の円によって定義される領域内の前記単結晶ダイヤモンドの表面粗さRqを有する、請求項46に記載のシステム。
【請求項50】
前記CVDダイヤモンドが高い化学的純度を有する、請求項43〜49のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項51】
前記CVDダイヤモンドが、約10ppb以下の中性単置換窒素の濃度を有する、請求項50に記載のシステム。
【請求項52】
前記CVDダイヤモンドが高い同位体純度を有する、請求項43〜51のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項53】
前記CVDダイヤモンド中の12Cである、全C原子の百分率として表した分率が約99%以上である、請求項52に記載のシステム。
【請求項54】
前記量子スピン欠陥がNV中心である、請求項39〜53のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項55】
前記NV中心が14Nを含む、請求項54に記載のシステム。
【請求項56】
前記NV中心が15Nを含む、請求項54に記載のシステム。
【請求項57】
前記単結晶ダイヤモンドホスト材料中の水素不純物の濃度が約1018cm-3以下である、請求項39〜55のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項58】
前記ホスト材料の表面が機械研磨及びエッチングによって加工されている、請求項49に記載のシステム。
【請求項59】
前記ホスト材料の表面が、前記表面上でホスト材料のさらなる薄層を成長させることによって加工され、かつこのさらなる薄層が約100μm以下の厚さ及び成長したままの表面構造を有する、請求項49に記載のシステム。
【請求項60】
少なくとも1つの量子スピン欠陥が、磁気スピンを有する他の要素から約0.02μm以上離れている、請求項39〜59のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項61】
量子リピーター、量子暗号デバイス、量子計算デバイス、スピントロニクスデバイス又は磁気計である、請求項39〜60のいずれか1項に記載のシステム。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1(b)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2011−529018(P2011−529018A)
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519235(P2011−519235)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001826
【国際公開番号】WO2010/010352
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(503458043)エレメント シックス リミテッド (45)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001826
【国際公開番号】WO2010/010352
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(503458043)エレメント シックス リミテッド (45)
【Fターム(参考)】
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