説明

ディスクブレーキ

【課題】 複数のキャリパを用いることなくモータおよびマスタシリンダの小型化を図ることができるディスクブレーキを提供する。
【解決手段】 電子制御ディスクブレーキ1は、キャリパ2のアウタパッド7b側に設け、ブレーキ液圧に応じてアウタパッド7bをブレーキディスクBDに押し付ける液圧ピストン9と、キャリパ2のインナパッド7a側に設けたモータ5と、キャリパ2のインナパッド7a側に設け、モータ5の回転力を直進運動に変換し、インナパッド7aをブレーキディスクBDに押し付けるボールねじ機構6と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向配置された一対のパッドを車輪と一体に回転するブレーキディスクに押し付けることで車輪を制動するディスクブレーキの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来のディスクブレーキとしては、例えば、1つの車輪に電動ディスクブレーキと油圧ディスクブレーキをそれぞれ設け、2つのディスクブレーキに制動力を分担させることで、モータおよび作動圧発生手段(マスタシリンダ)の小型化を図るものが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−351965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術にあっては、1つの車輪に2つのブレーキキャリパが設けられるため、部品点数増に伴うばね下荷重の増加、車両への搭載性悪化を伴うという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、複数のキャリパを用いることなくモータおよび作動圧発生手段の小型化を図ることができるディスクブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明では、キャリパの第1パッド側に設け、運転者の制動操作量に応じた発生した作動圧に応じて第1パッドをブレーキディスクに押し付けるピストン機構と、キャリパの第2パッド側に設けた電動モータと、キャリパの第2パッド側に設け、電動モータの回転力を直進運動に変換し、第1パッドと第2パッドのうち少なくとも第2パッドをブレーキディスクに押し付ける運動変換機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、ピストン機構と電動モータにより一対のパッドを進退させる構成としたため、複数のキャリパを用いることなくモータおよび作動圧発生手段の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づく各実施例により説明する。
【実施例1】
【0008】
[システム構成]
図1は実施例1の電子制御ディスクブレーキを適用したブレーキ装置のシステム構成図、図2は実施例1のブレーキ装置の前輪側油圧回路図である。
【0009】
実施例1のブレーキ装置は、左右前輪100FL,100FRに制動力を付与する電子制御ディスクブレーキ1FL,1FRと、左右後輪100RL,100RRに制動力を付与する電動ディスクブレーキ101RL,101RRとを備えている。
【0010】
電子制御ディスクブレーキ1FL,1FRは、マスタシリンダ(作動圧発生手段)M/Cからのブレーキ液圧とブレーキ・バイ・ワイヤ(BBW)コントローラBBW/ECUからの供給電流に応じて、左右前輪100FL,100FRに制動力を付与する。電子制御ディスクブレーキ1FL,1FRの構造については後述する。
【0011】
電動ディスクブレーキ101RL,101RRは、BBWコントローラBBW/ECUからの供給電流に応じて、左右後輪100RL,100RRに制動力を付与する。なお、電動ディスクブレーキ101RL,101RRは、例えば、特開2002−205634号公報に記載された電動ディスクブレーキ等のように、モータによりパッドをブレーキディスクへ押し付ける一般的なものを用いているため、構造についての説明は省略する。
【0012】
ブレーキペダルBPは、マスタシリンダM/Cのインプットロッド(不図示)に接続されている。マスタシリンダM/Cには、ブレーキ液を貯留するリザーバRSが接続されている。運転者のブレーキ操作は、ブレーキランプスイッチBSにより検出され、BBWコントローラBBW/ECUへと送られる。
【0013】
マスタシリンダM/Cのプライマリ室PRIは、左前輪100FLの電子制御ディスクブレーキ1FLの液圧ピストン9のシリンダ室9a(図3参照)と連通する液圧配管102FLと接続されるとともに、ストロークシミュレータSSと液圧配管(連通路)103を介して接続されている。マスタシリンダM/Cのセカンダリ室SECは、右前輪100FRの電子制御ディスクブレーキ1FRの液圧ピストン9のシリンダ室9aと連通する液圧配管102FRと接続されている。
【0014】
液圧配管(作動圧供給通路)102FL,102FR上には、マスタシリンダM/Cと電子制御ディスクブレーキ1FL,1FRとの連通状態を維持・遮断する常開のソレノイドイン弁(流量制御弁)104FL,104FRと、マスタシリンダ圧を検出する圧力センサ105FL,105FRとが設けられている。また、液圧配管103上には、マスタシリンダM/CとストロークシミュレータSSとの連通状態を維持・遮断する遮断弁106が設けられている。
【0015】
BBWコントローラBBW/ECUには、ブレーキランプスイッチBSからの信号と、圧力センサ105FL,105FRからの信号と、各車輪100FL,100FR,100RL,100RRの車輪速を検出する車輪速センサ107FL,107FR,107RL,107RRからの信号と、車両の加速度を検出する加速度センサ107からの信号とが入力される。
【0016】
BBWコントローラBBW/ECUは、各センサからの入力信号に基づいて、運転者のペダル操作に従う通常ブレーキ制御の演算と、アンチスキッドブレーキ制御(ABS)、車両挙動安定化制御(VDC)、車間距離制御および障害物回避制御制御等車両の情報を用いてタイヤのスリップや車両挙動を制御するための演算を行い、車両に必要な制動力を算出し、各車輪100FL,100FR,100RL,100RRに必要な制動力目標値を演算する。そして、各制動力目標値を電子制御ディスクブレーキ1FL,1FRのブレーキコントローラB/ECU(制動力制御手段)および電動ディスクブレーキ101FL,101FRのコントローラ(不図示)へ出力する。
【0017】
[電子制御ディスクブレーキの構成]
図3は実施例1の電子制御ディスクブレーキの側面断面図、図4は電子制御ディスクブレーキの平面図、図5は電子制御ディスクブレーキの正面図である。
実施例1の電子制御ディスクブレーキ1FL,1FR(以下、電子制御ディスクブレーキ1と記載する。)は、メインハウジング(基部)3と、エンドハウジング4と、モータ(電動モータ)5と、ボールねじ機構(運動変換機構)6と、互いに対向する一対のパッド7(インナパッド(第2パッド)7a,アウタパッド(第1パッド)7b)と、ブリッジ(第1パッド支持部)8と、液圧ピストン(ピストン機構)9とを備えている。メインハウジング3、エンドハウジング4およびブリッジ8により、実施例1のキャリパ2が構成される。
【0018】
メインハウジング3は、車体側部材に固定されたキャリアCRに対し、車輪軸方向(=ブレーキディスクBDの軸方向)へ相対変位可能に支持されている。メインハウジング3の内部には、中空部3aが形成され、モータ5、ボールねじ機構6および推力センサ(圧力検出手段)10(10FL,10FR)が収納されている。実施例1の電子制御ディスクブレーキ1は、キャリパ2のメインハウジング3がキャリアCRに対し車輪軸方向へ相対変位可能に支持された浮動型キャリパを有するフローティング型ディスクブレーキである。
【0019】
モータ5は、モータステータ5a、モータロータ(回転部材)5bおよび回転角センサ5cを備えている。モータステータ5aは、メインハウジング3に固定されており、モータロータ5bは、モータステータ5aに対し車輪軸方向周りに回転可能に設けられている。回転角センサ5cは、モータステータ5aに対するモータロータ5bの回転角(回転数)を検出し、検出信号をブレーキコントローラB/ECUへ出力する。
【0020】
ボールねじ機構6は、ボールねじナット6a、ねじ軸(直進部材)6bおよび複数のボール6cとから構成されている。ボールねじナット6aは、モータロータ5bと一体に設けられ、フロントベアリング11aおよびエンドベアリング11bにより車輪軸方向周りに回転可能に支持されている。フロントベアリング11aは、メインハウジング3に固定され、エンドベアリング11bは、エンドベアリング11bとエンドハウジング4との間に介装されたベアリングホルダ12に支持されている。ボールねじナット6a、ねじ軸6bおよりボール6cにより、実施例1のねじ伝達機構が構成される。
【0021】
ベアリングホルダ12は、メインハウジング3に対し、車輪軸方向へ相対変位可能に設けられている。ベアリングホルダ12とエンドハウジング4との間には、推力センサ10が介装されている。
ねじ軸6bは、ボールねじナット6aと複数のボール6cを介してねじ結合されており、先端にはインナパッド7aが取り付けられている。
【0022】
図3および図6に示すように、ボールねじ機構6には、ボールねじナット6aの外周に形成されたラッチ溝13aと、ソレノイド13bと、このソレノイド13bにより揺動し、ラッチ溝13aと離間・係合するラッチ13cとからなるラッチ機構(係止手段)13が設けられている。
【0023】
ブリッジ8は、メインハウジング3からブレーキディスクBDをまたいでアウタパッド7b側まで延設され、液圧ピストン9を介してアウタパッド7bを支持している。
液圧ピストン9は、ブリッジ8に形成されたシリンダ室9aとこのシリンダ室9a内を摺動するピストン9bとを備えている。シリンダ室9aは、ブリッジ8およびメインハウジング3に形成された液圧配管102(102FL,102FR)を介してマスタシリンダM/Cと連通している。メインハウジング3には、液圧配管102を開閉するソレノイドイン弁104(104FL,104FR)が取り付けられている。
【0024】
ピストン9bは、マスタシリンダM/Cからシリンダ室9aに供給されたブレーキ液圧に応じて車輪軸方向へ伸長することで、先端に固定されたアウタパッド7bがブレーキディスクBDへと押し付けられる。
【0025】
ブレーキコントローラB/ECUは、推力センサ10FL,10FRからの信号に基づいて、インナパッド7aおよびアウタパッド7bによるブレーキディスクBDの押付力を算出し、算出した押付力がBBWコントローラBBW/ECUから送られた制動力目標値と対応する押付力となるように、回転角センサ5cの信号をフィードバックしつつ、モータ5を制御する。
【0026】
ブレーキコントローラB/ECUは、図7に示すように、推力センサ10および圧力センサ105からの信号を参照し、モータ5が実際に作動する制御領域において、モータ5の出力によるモータ押付力(ボールねじ機構6の押付力)が、ペダルストロークに応じた液圧ピストン9による液圧ピストン押付力(液圧ピストン9の押付力)よりも大きくなるようにモータ5を制御する。
【0027】
また、ブレーキコントローラB/ECUは、BBWコントローラBBW/ECU(ABS制御手段)がABS制御を実施しているとき、ソレノイドイン弁104FR,104FRを閉じ、マスタシリンダM/Cから液圧ピストン9のシリンダ室9aへのブレーキ液圧の供給を遮断する。同時に、遮断弁106を開き、ブレーキ液圧をストロークシミュレータSSへ吸収させることで、運転者のペダルストロークを可能とする。
【0028】
さらに、ブレーキコントローラB/ECUは、モータ5の電圧低下時や温度上昇による自己保持制御の介入時、ソレノイド13bを駆動し、ラッチ13cをラッチ溝13aと係合させ、インナパッド7aがブレーキディスクBDから離間する方向へのボールねじナット6aの回転変位を規制する。
【0029】
次に、作用を説明する。
[通常制動時]
図8は、実施例1の制動力発生作用を示すタイムチャートである。
時点t1では、運転者がブレーキペダルBPの踏み込みを開始したため、マスタシリンダM/Cのブレーキ液は、ペダルストローク量に応じて液圧配管102(102FL,102FR)から液圧ピストン9のシリンダ室9aへと供給され、ピストン9bは伸長を開始する。
【0030】
時点t2では、BBWコントローラBBW/ECUはブレーキランプスイッチBSの信号から運転者のブレーキ操作を検出するとともに、圧力センサ105の検出値をあらかじめ設定された回数読み込んだため、圧力センサ105の検出値から各車輪の制動力目標値を算出し、各ブレーキコントローラB/ECUに制動力目標値を送信する。ブレーキコントローラB/ECUは、モータ5の駆動を開始する。
【0031】
時点t3では、モータ起動の無駄時間が経過したため、モータ5が正転方向に回転を開始する。ここで、「正転方向」とは、インナパッド7aをブレーキディスクBDに向かって前進させるモータ5の回転方向をいう。モータ5の回転により、モータロータ5bと一体に設けられたボールねじナット6aが回転し、ねじ軸6bが前進を開始する。
【0032】
このとき、アウタパッド7bは、ブレーキディスクBDとの隙間を埋めてブレーキディスクBDを押し付け始めている。アウタパッド7bによるブレーキディスクBDの押付力の反力(押付反力)は、ブリッジ8→メインハウジング3→エンドハウジング4→ベアリングホルダ12の順に伝達する。このとき、エンドハウジング4がベアリングホルダ12を押す力、すなわち液圧ピストン押付力は、推力センサ10により検出され、BBWコントローラBBW/ECUへと送られる。
【0033】
時点t4では、インナパッド7aがブレーキディスクBDとの隙間を埋めてブレーキディスクBDを押し付け始める。これにより、ブレーキディスクBDは、インナパッド7aおよびアウタパッド7bから摩擦抵抗を受けるため、ブレーキ押付力が発生し、車輪に制動力が付与される。
【0034】
インナパッド7aによるブレーキディスクBDの押付反力は、ねじ軸6b→ボールねじナット6a→エンドベアリング11b→ベアリングホルダ12→エンドハウジング4→メインハウジング3へと伝達される。このとき、ベアリングホルダ12がエンドハウジング4を押す力、すなわちモータ押付力は、推力センサ10により検出され、BBWコントローラBBW/ECUへと送られる。つまり、推力センサ10は、ペダル操作に応じて発生する液圧ピストン押付力と、モータ出力により発生するモータ押付力との和を検出することができる。
【0035】
メインハウジング3は、キャリアCRに対して車輪軸方向に相対変位可能であるため、エンドハウジング4から伝達された押付反力により、ねじ軸6bの進行方向と反対に移動し、ブリッジ8を引き寄せる。これにより、インナパッド7aの押付反力をアウタパッド7bの押付力として作用させることができる。
【0036】
ここで、浮動型キャリパを用いた従来の電動ディスクブレーキでは、時点t3でインナパッドが前進を開始し、時点t4でブレーキディスクとの隙間が埋まり、インナパッドの押付力によってアウタパッドがブレーキディスクに引き寄せられ、時点t5でアウタパッドとブレーキディスクとの差が埋まって初めてブレーキ押付力が発生していた。つまり、モータ停止からブレーキ押付力が発生するまでの初期応答性の面で問題があった。
【0037】
これに対し、実施例1の電子制御ディスクブレーキ1では、アウタパッド7b側に運転者のペダルストロークに応じて前進する液圧ピストン9を設けたため、時点t3でインナパッド7aが前進を開始するとき、アウタパッド7bは既にブレーキディスクBDとの隙間を埋めている。よって、時点t4でインナパッド7aがブレーキディスクBDとの隙間を埋めたときにはブレーキ押付力を発生させることができ、従来の電動ディスクブレーキに比べて、初期応答性を向上させることができる。
【0038】
通常、キャリパ2とブレーキディスクBD間には、ブレーキディスクBDの熱倒れや、ノックバックにより隙間が存在しており、実施例1の電子制御ディスクブレーキ1では、その隙間を液圧ピストン9の押し出し速度と、電動ブレーキの押し出し速度の和算で埋めることから、制動応答性を向上させることができる。
【0039】
緩制動等、急激なペダル操作が実施されない走行シーンでは、運転者のブレーキ操作が検出されてモータ5が駆動する以前(ペダル操作検知時間+モータ作動無駄時間経過前)のペダル操作において、液圧ピストン9はペダルストロークに応じてピストン9bを前進させている。実施例1では、モータ押付力が液圧ピストン押付力よりも大きくなるようにモータ5を駆動するため、インナパッド7aがブレーキディスクBDを押し付けるとき、アウタパッド7b側ではピストン9bが後退してブリッジ8の面位置に張り付いた状態(底付き状態)となる(図9)。このため、ブレーキジャダー発生時にもピストン9bが振動して液圧が変動するのを抑制することができるため、ペダルストローク分の液圧のみを圧力センサ105で検出することが可能となり、液圧ピストン押付力を正確に把握することができる。
【0040】
一方、急激なペダル操作が行われた場合には、ペダルストローク速度に合わせてブレーキ液が液圧ピストン9に送り込まれるため、遅れなく液圧ピストン9は前進し、アウタパッド7bはブレーキディスクBDとの隙間を埋める。
【0041】
図10に示すように、BBWコントローラBBW/ECUは、ブレーキランプスイッチBSの信号からブレーキペダルBPが操作されたことを検出するとともに、圧力センサ105の検出信号からブレーキペダルストロークを、誤検出を十分に回避可能な回数検出した後、電子制御ディスクブレーキ1のブレーキコントローラB/ECUに制動力目標値を出力する。ブレーキコントローラB/ECUでは、推力センサ10の検出信号との比較演算を行うとともに、モータ出力の演算を行い、モータ5の制御を開始する。モータ5はモータ起動の無駄時間経過後に動き出し、ねじ軸6bを前進させる。
【0042】
この時点で液圧ピストン9はブレーキディスクBDとの隙間を埋め、ブレーキディスクBDからの押付反力によりねじ軸6bを前進方向へ引き寄せ始めており、互いに押付力を伝達可能な状態になると、液圧ピストン9は前進を止め、押付力を保ちつつねじ軸6bに押し戻されて後退を始める。
【0043】
上記作動を行うことにより、別途液圧キャリパと電動ブレーキキャリパとを持つ従来装置と比べても、ねじ軸6bの移動量を半減させることができ、応答性を向上させることができる。また、モータ5の出力と液圧ピストン9の出力を合算して制動力を発生させることができるため、複数のキャリパを用いることなくモータ5およびマスタシリンダM/Cの小型化を図ることができる。
【0044】
[ピストンの断面積確保]
実施例1の電子制御ディスクブレーキ1では、電動ブレーキの失陥時ではない通常の制動に電動ブレーキと液圧ブレーキとを併用する構成であることから、ブレーキディスクBDを挟んでインナパッド7a側にモータ5およびボールねじ機構6を配置し、アウタパッド7b側に液圧ピストン9を配置している。
【0045】
つまり、液圧ブレーキを通常の制動に利用するためには、制動力を確保するために出力(液圧ピストン押付力)を大きくする必要がある。そして、出力を大きくするためには、ブレーキ液と接するピストン9bの断面積をできるだけ大きくする必要がある。ここで、例えば、ピストンをモータおよびボールねじ機構とともにインナパッド側に配置した場合、キャリパ断面積の大部分がモータおよびボールねじ機構からなる電動ブレーキ機構に浸食されるため、ピストン断面積を大きく取ることができない。
【0046】
これに対し、実施例1の電子制御ディスクブレーキ1では、液圧ピストン9と電動ブレーキ機構とをブレーキディスクBDを挟んで対向する位置に配置したため、電動ブレーキ機構と干渉することなく、キャリパ断面積(ブリッジ8の断面積)をフルに使って大きなピストン断面積を確保することができ、通常の制動に必要な液圧ブレーキの制動力を得ることができる。
【0047】
[ABS作動時]
ブレーキコントローラB/ECUは、ABS作動時、ソレノイドイン弁104を閉じることで、マスタシリンダM/Cから押し出されるブレーキ液を液圧ピストン9に作用させない状態とした上で、BBWコントローラBBW/ECUからの制動力目標値に応じてモータ押付力を増減する。これにより、高精度のABS制御が可能となる。
【0048】
このとき、ブレーキペダルBPは板踏み状態(ペダルを踏み込もうとしても踏込みができない状態)となるため、遮断弁106を開き、ブレーキ液をストロークシミュレータSSに吸収させることで、ABS作動時におけるペダルフィーリングの悪化を防止することができる。
【0049】
[モータ出力低下時]
ブレーキコントローラB/ECUは、モータ5の電圧低下、モータ5の温度上昇に伴い自己保護制御が介入した場合等、モータ5の出力が低下した場合には、ソレノイド13bを駆動してラッチ13cをラッチ溝13aと係合させる。これにより、ラッチ機構13が作動する直前のモータ押付力が保持されるとともに、運転者がブレーキペダルBPをさらに踏み増すことにより、モータ押付力を維持したまま液圧ピストン押付力を上昇させ、制動力を増大させることができる。つまり、制動時にモータ5が作動不能となった場合であっても、液圧ピストン9のみで発生する制動力よりも大きな制動力を発生させることができるため、液圧ピストン押付力のみで車両を停止させる場合と比較して、制動距離を短縮することができる。
【0050】
このとき、遮断弁106が開いている場合には、遮断弁106を閉じ、ストロークシミュレータSSをマスタシリンダM/Cと切り離すことにより、マスタシリンダM/Cで発生したブレーキ液を液圧ピストン9に供給することができ、マスタシリンダM/Cの必要液室容量を低減することができる。
【0051】
次に、効果を説明する。
実施例1のディスクブレーキにあっては、以下に列挙する効果を奏する。
【0052】
(1) キャリパ2のアウタパッド7b側に設け、ブレーキ液圧に応じてアウタパッド7bをブレーキディスクBDに押し付ける液圧ピストン9と、キャリパ2のインナパッド7a側に設けたモータ5と、キャリパ2のインナパッド7a側に設け、モータ5の回転力を直進運動に変換し、インナパッド7aをブレーキディスクBDに押し付けるボールねじ機構6と、を備える。これにより、複数のキャリパを用いることなくモータ5およびマスタシリンダM/Cの小型化を図ることができる。
【0053】
(2) 液圧ピストン9の押付力により発生する制動力とボールねじ機構6の押付力により発生する制動力とを合算した制動力が、ブレーキストロークに基づく車輪の制動力目標値となるように、モータ5を制御するブレーキコントローラB/ECUを備える。これにより、運転者の要求制動力に合致した制動力を車輪に付与することができる。
【0054】
(3) ブレーキコントローラB/ECUは、モータ押付力が液圧ピストン押付力よりも大きくなるようにモータ5を制御するため、ブレーキジャダー発生時にも液圧ピストン押付力を正確に把握でき、ブレーキストロークに応じてモータ5を精度良く制御することができる。
【0055】
(4) ブレーキコントローラB/ECUは、ABS作動時、マスタシリンダM/Cと液圧ピストン9のシリンダ室9aとを連通する液圧配管102上に設けたソレノイドイン弁104を閉じるため、マスタシリンダM/Cから押し出されるブレーキ液を液圧ピストン9に作用させず、モータ押付力のみを増減することでより高精度のABS制御を実施することができる。
【0056】
(5) 液圧配管102上に配置し、ABS作動時にマスタシリンダM/Cにより発生した作動圧を吸収するストロークシミュレータSSを備えるため、ABS作動時の板踏み状態を回避でき、ペダルフィーリングの悪化を防止することができる。
【0057】
(6) 液圧配管102とストロークシミュレータSSとを連通する液圧配管103上に遮断弁106を備えるため、ストロークシミュレータの消費液量を削減し、液圧ピストン9の消費液量を増加することにより、マスタシリンダM/Cの必要液室容量を低減でき、マスタシリンダM/Cの小型化を図ることができる。
【0058】
(7) ボールねじ機構6との係合によりインナパッド7aをブレーキディスクBDから離間させる方向への回転変位を規制可能なラッチ機構13を設け、ブレーキコントローラB/ECUは、モータ5の出力低下時、ラッチ機構13をボールねじ機構6と係合させる。これにより、モータ出力低下時にはインナパッド7aの位置を固定し、マスタシリンダM/Cからの液圧により液圧ピストン9の押付力が逃げないようにすることで、液圧ピストン押付力のみで高制動力を確保することができる。
【0059】
(8) キャリパ2をキャリアCRに対し車輪軸方向へ相対変位可能に支持した浮動型キャリパとしたため、ブレーキ踏み込み開始からブレーキ押付力が発生するまでの初期応答性を向上させることができる。
【0060】
(9) ベアリングホルダ12とエンドハウジング4との車輪軸方向間に、車輪軸方向に作用する圧力を検出する推力センサ10を設け、ブレーキコントローラB/ECUは、推力センサ10により検出された推力がブレーキストロークに基づく車輪の制動力目標値に応じた値となるように、モータ5を制御する。これにより、液圧ピストン押付力とモータ出力により発生するモータ押付力との和の実測値に基づいてモータ5の回転角を制御可能となるため、モータ回転角からモータ押付力を推定する従来の電動ディスクブレーキと比較して、ブレーキ制御の精度をより高めることができる。
【実施例2】
【0061】
実施例2のブレーキ装置は、電子制御ディスクブレーキの構成のみが実施例1と異なり、システム構成は実施例1と同様であるため、図示ならびに説明を省略する。
【0062】
[電子制御ディスクブレーキの構成]
図11は実施例2の電子制御ディスクブレーキの側面断面図、図12は電子制御ディスクブレーキの平面図、図13は電子制御ディスクブレーキの正面図、図14は電子制御ディスクブレーキの背面図である。
なお、実施例2において、実施例1と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0063】
実施例2の電子制御ディスクブレーキ20は、車輪(図示せず)とともに回転するブレーキディスクBDと、このブレーキディスクBDに対して車幅方向の内側位置でアクスル等の車体側部材に固定されているハウジング(基部)21と、車輪軸方向に沿って移動自在となるようにハウジング21に支持されているキャリパ22とを備えている。
【0064】
キャリパ22は、ブレーキディスクBDの外周をまたいで設けられているブリッジ部(第1パッド支持部)23と、このブリッジ部23に対して車幅方向の内側に延在している筒状のシリンダ部(第2パッド支持部)24とを備えている。実施例2の電子制御ディスクブレーキ20は、キャリパ22を支持するハウジング21がキャリアCRに対し車輪軸方向で位置不変に固定された固定型キャリパを有するオポーズドシリンダー型ディスクブレーキである。
【0065】
シリンダ部24内には、ブレーキディスクBDの車幅方向の内側を向いている一方の摺動面25aに対向して筒状のピストン26が摺動自在に配置されている。なお、シリンダ部24の内周面に形成した周溝にOリング34が装着されている。
ブリッジ部23の車幅方向の外側には、ブレーキディスクBDの車幅方向の外側を向いている他方の摺動面25bに対向するようにキャリパ爪28が形成されている。
そして、ピストン26にインナパッド7aが固定されてブレーキディスクBDの一方の摺動面25aに対向しているとともに、キャリパ爪28には実施例1と同一構成の液圧ピストン9を介してアウタパッド7bが固定されている。アウタパッド7bは、ブレーキディスクBDの他方の摺動面25bに対向している。
【0066】
ハウジング21は、車幅方向の外側および内側の両側を向く方向に開口部を設けている筒状のハウジング本体29と、ハウジング本体29の外周の一部から外側に膨出し、回転力を発生するモータ30および減速遊星歯車機構31を内蔵したモータハウジング32と、ハウジング本体29の車幅方向の内側を向く方向で開口している開口部を閉塞しているコントローラハウジング33とを備えている。
【0067】
また、ハウジング本体29内には、車幅方向の外側を向いて開口している開口部側からキャリパ22のシリンダ部24が摺動自在に挿入されている。この際、キャリパ22に設けたガイド穴(不図示)に、ハウジング本体29の回転規制ボルト(不図示)のねじ部が挿入されている。これにより、キャリパ22は、ガイド穴に挿通した回転規制ボルトによって回転が規制されながら、ハウジング本体29内をシリンダ部24が摺動することによって車輪軸方向に移動自在とされている。なお、ハウジング本体29の車幅方向の外側の開口部近くの内周面に形成した周溝にはOリング34が装着されている。
そして、ハウジング本体29内に、減速遊星歯車機構31から伝達された回転力を直進力に変換してピストン26およびキャリパ爪28に伝達するねじ伝達機構(運動変換機構)が配置されている。
【0068】
ねじ伝達機構は、ピストン26に同軸に固定したボールねじスクリュ(第2直進部材)35と、このボールねじスクリュ35にころがりねじで係合しているボールねじナット(第1直進部材)36と、このボールねじスクリュ35にすべりねじで係合している台形ねじスクリュ37と、台形ねじスクリュ37およびボールねじナット36に、減速遊星歯車機構31から伝達された回転力を伝達するアウトプットギア(回転部材)38とで構成されている。
【0069】
アウトプットギア38とボールねじナット36とボール39とにより、実施例2の第1ねじ伝達機構が構成される。また、台形ねじスクリュ37とボールねじスクリュ35とボール39とにより、実施例2の第2ねじ伝達機構が構成される。
【0070】
ボールねじスクリュ35は、長手方向の一端が閉塞され、他端が開口している中空の棒状部材である。このボールねじスクリュ35の外周面にはねじ溝が形成されているととともに、他端に設けた開口部の内周面に、台形ねじ形の雌ねじ35aが形成されている。そして、ピストン26の軸心位置に、ボールねじスクリュ35の一端が固定されている。
【0071】
ボールねじナット36は円筒形状の部材であり、その内周面に、ボールねじスクリュ35のねじ溝に対応するねじ溝が形成されており、これらボールねじスクリュ35のねじ溝およびボールねじナット36のねじ溝の間に、多数のボール39が介装されている。なお、ボールねじスクリュ35のねじ溝およびボールねじナット36のねじ溝の間の両端部には、ボール転動面(ねじ溝の面)へのコンタミの侵入を防止するシール部材40が介装されている。
【0072】
また、シリンダ部24の内周面とボールねじナット36の外周との間には、一対のアンギュラ玉軸受け41が軸方向に背面組み合わせの状態で介装されており、ボールねじナット36は、軸方向の移動が規制されながら回転自在にシリンダ部24に支持されている。そして、ボールねじナット36のアウトプットギア38に近接する外周には、スプライン溝36aが形成されている。
【0073】
台形ねじスクリュ37は、一端側の外周に台形ねじ形の雄ねじ37aが形成され、他端側に、減速遊星歯車機構31を構成するアウトプットギア38が固定された棒状部材である。すなわち、台形ねじスクリュ37の雄ねじ37aより他端側には鍔部37bが形成され、この鍔部37bよりさらに他端側の外周にスプライン溝が形成され、最も他端におねじが形成されている。
【0074】
そして、台形ねじスクリュ37の雄ねじ37aは、ボールねじスクリュ35の他端の開口部内周面に形成した台形ねじ形の雌ねじ35aに螺合しながら、ボールねじスクリュ35内に設けられている中空部35bに進入している。また、台形ねじスクリュ37のスプライン溝に、アウトプットギア38の軸穴に設けたスプライン溝がスプライン結合され、台形ねじスクリュ37の他端に形成した雄ねじに固定ナット42を締結することで、アウトプットギア38が鍔部37b側に押し付けられながら、台形ねじスクリュ37の他端に固着されている。
【0075】
アウトプットギア38は、ハウジング本体29およびコントローラハウジング33の内壁に配置した軸受43により軸方向の移動が規制されながら回転自在に支持されており、アウトプットギア38の回転が台形ねじスクリュ37に伝達されると、ボールねじスクリュ35の直進力として変換される。
また、アウトプットギア38の外径側には、筒状の回転伝達部38aが形成されており、この回転伝達部38aの内周面にスプライン溝38bが形成されている。そして、回転伝達部38aのスプライン溝38bが、ボールねじナット36の外周に形成したスプライン溝36aとスプライン結合されている。これにより、回転伝達部38aを介して伝達されたアウトプットギア38の回転力は、ボールねじナット36の直進力として変換される。
【0076】
ここで、ボールねじスクリュ35およびボールねじナット36のねじ巻き方向と、台形ねじスクリュ37およびボールねじスクリュ35の開口部内周面に形成した雌ねじ35aのねじ巻き方向は、同一方向に設定されている。このため、アウトプットギア38から台形ねじスクリュ37およびボールねじナット36に同時に回転力が伝達されると、ボールねじスクリュ35およびボールねじナット36の一方がブレーキディスクBD側に直進していき、他方がブレーキディスクBDから離間する方向に直進していく。
【0077】
そして、ボールねじスクリュ35の直進移動距離に対し、ボールねじナット36の直進移動距離が2倍となるように、ボールねじスクリュ35およびボールねじナット36のねじリードが、台形ねじスクリュ37および雌ねじ35aのねじリードより大きく設定されている。
【0078】
一方、モータハウジング32内に配置されているモータ30は、モータハウジング32の内周面に固定されているリング形状のステータ30aと、メインシャフト44の外周に圧入固定され、メインシャフト44とともにステータ30a内に同軸に回転自在に配置されている略円筒形状のロータ30bとで構成されている。モータハウジング32には、モータ30の回転角(回転数)を検出する回転角センサ49が設けられている。
【0079】
減速遊星歯車機構31は、サンギアとして機能する前述したメインシャフト44(以下、サンギア44と称する)と、モータハウジング32の内周面に固定されているリングギア45と、これらサンギア44およびリングギア45の間で噛み合っている複数のピニオン46と、これら複数のピニオン46を支持しているキャリア47とを備えたシングルピニオン式の遊星歯車である。そして、キャリア47の外周にギアが形成されており、このキャリア47に、ハウジング本体29内に配置したアウトプットギア38が噛み合っている。
【0080】
また、ハウジング本体29の車幅方向の内側の開口部を閉塞するように、ハウジング本体29にコントローラハウジング33が一体化されているが、ねじ伝達機構を構成している台形ねじスクリュ37の他端側の端面に対向しているコントローラハウジング33の内壁が端面から離間する方向に凹んだ形状となっている。これにより、台形ねじスクリュ37の他端側の端面に対向する位置に、空気吸収室48が設けられている。
【0081】
コントローラハウジング33内に配置されたブレーキコントローラB/ECUは、モータ30の回転角を検出する回転角センサ49の検出値からモータ押付力を推定するとともに、圧力センサ105の検出値から液圧ピストン押付力を推定してインナパッド7aおよびアウタパッド7bによるブレーキディスクBDの押付力を算出し、算出した押付力がBBWコントローラBBW/ECUから送られた制動力目標値と対応する押付力となるようにモータ5を制御する。
【0082】
次に、作用を説明する。
[通常制動時]
運転者がブレーキペダルBPの踏み込みを開始すると、マスタシリンダM/Cのブレーキ液は、ペダルストローク量に応じて液圧配管102(102FL,102FR)から液圧ピストン9のシリンダ室9aへと供給され、ピストン9bは前進を開始する。
【0083】
BBWコントローラBBW/ECUは、ブレーキランプスイッチBSの信号から運転者のブレーキ操作を検出し、圧力センサ105の検出値をあらかじめ設定された回数読み込むと、圧力センサ105の検出値から各車輪の制動力目標値を算出し、各ブレーキコントローラB/ECUに制動力目標値を送信する。ブレーキコントローラB/ECUは、制動力目標値に応じてモータ5を正転させる。
【0084】
モータ30のロータ30bが所定回転数まで回転すると、その回転力が減速遊星歯車機構31に伝達される。減速遊星歯車機構31はリングギア45が固定されているので、減速されながら増力した回転力となり、アウトプットギア38から、台形ねじスクリュ37およびボールねじナット36に同時に回転力が伝達される。
【0085】
台形ねじスクリュ37がアウトプットギア38から回転力が伝達されると、ボールねじスクリュ35は車幅方向の外側に向かって直進する。このボールねじスクリュ35の直進によりピストン26が車幅方向の外側に直進する。
一方、アウトプットギア38から回転伝達部38aを介して回転力が伝達されたボールねじナット36は、ボールねじスクリュ35が直進する方向と反対の車幅方向の内側に向けて直進していく。ここで、ボールねじナット36は、一対のアンギュラ玉軸受け41を介してキャリパ22のシリンダ部24に一体化されているので、ボールねじナット36が車幅方向の内側に向けて直進すると、キャリパ22のキャリパ爪28も車幅方向の内側に移動していく。
【0086】
そして、ボールねじナット36は、ボールねじスクリュ35とともに車幅方向の外側に直進移動しながら、ボールねじスクリュ35の直進移動距離に対して2倍の直進移動距離で車幅方向の内側へ移動するので、キャリパ爪28の車幅方向内側への直進が増幅される。
【0087】
このように、ピストン26が車幅の外側に移動してインナパッド7aをブレーキディスクBDの一方の摺動面25aに押圧し、キャリパ爪28も車幅方向の内側に移動してアウタパッド7bをブレーキディスクBDの他方の摺動面25bに押圧することで制動力を発生させる。
【0088】
上記作動を行うことにより、別途液圧キャリパと電動ブレーキキャリパとを持つ従来装置と比べて、ボールねじナット36の移動量を低減させることができ、応答性を向上させることができる。また、モータ30の出力と液圧ピストン9の出力を合算して制動力を発生させることができるため、複数のキャリパを用いることなくモータ5およびマスタシリンダM/Cの小型化を図ることができる。
【0089】
さらに、液圧ピストン9と電動ブレーキ機構とをブレーキディスクBDを挟んで対向する位置に配置したため、電動ブレーキ機構と干渉することなく、キャリパ断面積(ブリッジ8の断面積)をフルに使って大きなピストン断面積を確保することができ、通常の制動に必要な液圧ブレーキの制動力を得ることができる。
【0090】
また、実施例2の電子制御ディスクブレーキ20では、固定型キャリパを有するオポーズドシリンダー型のディスクブレーキとしたため、制動解除時のアウタパッド7bの引きずりを防止することができる。つまり、従来の浮動型キャリパを有するフローティング型電動ディスクブレーキでは、運転者がブレーキ操作を止めたとき、モータを逆転させることでインナパッドを後退させることができる。ところが、アウタパッドの変位は、インナパッドのブレーキディスク押付反力に依存するため、インナパッドに押付反力が入力されなくなった時点で後退を停止する。したがって、制動解除後であっても、アウタパッドがブレーキディスクと接触した状態となり、引きずりが発生するおそれがある。
【0091】
これに対し、実施例2では、モータ30の正転・逆転によりアウタパッド7bを前進・後退させることができるため、アウタパッド7bとブレーキディスクBDとの接触による引きずりを防止することができる。
【0092】
次に、効果を説明する。
実施例2のディスクブレーキにあっては、実施例1の効果(1)〜(6)に加え、以下の効果を奏する。
【0093】
(10) キャリパ22を固定型キャリパとしたため、制動解除時におけるアウタパッド7bとブレーキディスクBDとの接触による引きずりを防止することができる。
【実施例3】
【0094】
図15は、実施例3のブレーキ装置の前輪側油圧回路図である。
実施例3では、図2に示した実施例1の構成に対して、ブレーキペダルBPのストローク量を検出するペダルストロークセンサ108を追加し、ブレーキペダルBPのストローク量に応じて電子制御ディスクブレーキを制御する点で異なる。なお、その他のシステム構成および電子制御ディスクブレーキの構成については、実施例1と同様であるため、図示ならびに説明を省略する。
【0095】
[ブレーキ制御処理]
図16は、実施例3のBBWコントローラBBW/ECUおよび各ブレーキコントローラB/ECUが実行するブレーキ制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、この制御処理は、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0096】
ステップS1では、BBWコントローラBBW/ECUにおいて、ペダルストロークセンサ108からブレーキペダルBPのストローク量を読み込み、ステップS2へ移行する。
【0097】
ステップS2では、BBWコントローラBBW/ECUにおいて、ステップS1で読み込んだストローク量が制御閾値よりも大きいか否かを判定する。YESの場合にはステップS3へ移行し、NOの場合にはステップS13へ移行する。ここで、制御閾値は、ブレーキペダルBPの遊びに相当する値とする。
【0098】
ステップS3では、BBWコントローラBBW/ECUにおいて、ステップS1で読み込んだストローク量に応じた要求制動力(車両に必要な制動力)を求めると共に、求めた要求制動力から各車輪100FL,100FR,100RL,100RRの制動力目標値を演算し、演算した制動力目標値をブレーキコントローラB/ECUおよび電動ディスクブレーキ101RL,101RRへ出力してステップS4へ移行する。ここで、各制動力目標値は、図17に示すように、総制動力(要求制動力)に対し常に後輪のキャリパ押付力よりも前輪のキャリパ押付力が大きくなるように設定する。
【0099】
ステップS4では、各ブレーキコントローラB/ECUにおいて、推力センサ10FL,10FRの信号に基づいて、インナパッド7aおよびアウタパッド7bによるブレーキディスクBDの押付力を算出し、ステップS5へ移行する。
【0100】
ステップS5では、各ブレーキコントローラB/ECUにおいて、算出した押付力がBBWコントローラBBW/ECUから送られた制動力目標値と対応する押付力となるように、回転角センサ5cの信号をフィードバックしつつ、モータ5を作動し、ステップS6へ移行する。このとき、モータ5の出力によるモータ押付力(ボールねじ機構6の押付力)が、ペダルストロークに応じた液圧ピストン9による液圧ピストン押付力(液圧ピストン9の押付力)よりも大きくなるようにモータ5を制御する。
【0101】
ステップS6では、各ブレーキコントローラB/ECUにおいて、前回の制御周期で読み込まれたブレーキペダルBPのストローク量とステップS1で読み込まれた今回のストローク量との差からペダルストローク速度を算出し、ステップS7へ移行する。ステップS6の処理は、操作量変化速度検出手段に相当する。
【0102】
ステップS7では、各ブレーキコントローラB/ECUにおいて、ステップS6で算出したペダルストローク速度がソレノイドイン弁閉閾値よりも高いか否かを判定する。YESの場合にはステップS8へ移行し、NOの場合にはステップS15へ移行する。ここで、ソレノイドイン弁閉閾値は、例えば、30mm/sとする。
【0103】
ステップS8では、各ブレーキコントローラB/ECUにおいて、圧力センサ105FL,105FRにより検出されたマスタシリンダ圧を読み込み、ステップS9へ移行する。
【0104】
ステップS9では、各ブレーキコントローラB/ECUにおいて、ステップS9で読み込んだマスタシリンダ圧から液圧ピストン押付力を算出し、ステップS10へ移行する。ここで、液圧ピストン押付力Fは、下記の式から算出できる。
F=P×A
ここで、Pはマスタシリンダ圧、Aはピストン受圧面積である。
【0105】
ステップS10では、各ブレーキコントローラB/ECUにおいて、推力センサ10FL,10FRにより検出された推力からステップS9で算出した液圧ピストン押付力を減算してモータ押付力を算出し、ステップS11へ移行する。
【0106】
ステップS11では、各ブレーキコントローラB/ECUにおいて、ステップS10で算出したモータ押付力がステップS9で算出した液圧ピストン押付力よりも大きいか否かを判定する。YESの場合にはステップS12へ移行し、NOの場合にはステップS15へ移行する。
【0107】
ステップS12では、各ブレーキコントローラB/ECUにおいて、ソレノイドイン弁104を閉じ、ステップS15へ移行する。
【0108】
ステップS13では、各ブレーキコントローラB/ECUにおいて、ソレノイドイン弁104を開き、ステップS14へ移行する。
【0109】
ステップS14では、各ブレーキコントローラB/ECUにおいて、遮断弁106を閉じ、リターンへ移行する。
【0110】
ステップS15では、各ブレーキコントローラB/ECUにおいて、遮断弁106を開き、リターンへ移行する。
【0111】
次に、作用を説明する。
[キックバック防止作用]
実施例1のブレーキ装置では、モータ5の制御精度を高めるべく、モータ押付力が液圧ピストン押付力よりも大きくなるようにモータ5を制御している。ところが、液圧ピストン押付力がブレーキペダルBPの踏み込み速度に応じて遅れなく立ち上がるのに対し、モータ5が停止状態から回転を開始する制動初期では、液圧ピストン押付力の立ち上がりに対してモータ押付力の立ち上がりに遅れが生じる。この遅れは、モータ5のサーボ制御の遅れ等に起因している。
【0112】
図18は、制動初期(制動開始から55msec経過後)におけるブレーキペダルBPのペダル操作速度と液圧ピストン押付力とモータ押付力との差との関係を示す図である。図18から明らかなように、ペダル操作速度が所定値(30mm/s)を超えると、ペダル操作速度が高いほど液圧ピストン押付力とモータ押付力との差が大きくなる。
【0113】
このため、運転者がブレーキペダルBPを早踏みしたとき、モータ5の押付力が立ち上がるまでの間に、マスタシリンダ圧の上昇によって液圧配管102に押し込まれたブレーキ液が液圧ピストン9のシリンダ室9aに流れ込み、その後、モータ押付力の発生に伴い液圧ピストン9のブレーキ液がマスタシリンダM/Cへ逆流することで、ブレーキペダルBPが押し戻される、いわゆるキックバックが発生し、ペダルフィーリングに悪影響を及ぼす。図19に、ブレーキペダルBPの操作速度が100mm/sのときのペダルストロークの時系列変化を示す。この例では、モータ作動無駄時間の終了時点でモータ押付力が立ち上がるのに伴い、ペダルストロークが減少し、キックバックが発生している。
【0114】
これに対し、実施例3では、ステップS7でペダルストローク速度がソレノイドイン弁閉閾値(30mm/s)よりも高いと判定された場合には、ステップS12でソレノイドイン弁104を閉じる。これにより、液圧ピストン9のシリンダ室9aとマスタシリンダM/Cとが遮断され、モータ押付力の立ち上がりによってピストン9bがシリンダ室9a内に押し込まれた場合であっても、マスタシリンダM/Cへとブレーキ液が逆流するのを防止でき、ブレーキペダルBPのキックバックの発生を防止できる。
【0115】
また、上記ソレノイドイン弁104の閉作動は、ステップS2でペダルストロークが制御閾値以下となるまでの間、すなわち、ブレーキ操作が終了するまで継続されるため、ブレーキ操作時のキックバックの発生を確実に防止できる。
なお、ステップS12でソレノイドイン弁104を閉じた後は、続くステップS15で遮断弁106を開弁しているため、ブレーキ液圧をストロークシミュレータSSへ吸収させることで、運転者のペダルストロークを可能とする。
【0116】
さらに、実施例3では、ステップS7でペダルストローク速度がソレノイドイン弁閉閾値(30mm/s)よりも高い場合には、ステップS11で液圧ピストン押付力とモータ押付力とを比較している。そして、モータ押付力が液圧ピストン押付力よりも大きくなったときには、ステップS11からステップS12へと進んでソレノイドイン弁104を閉じるが、モータ押付力が液圧ピストン押付力以下のときには、ステップS11からステップS15へと進み、ソレノイドイン弁104を閉じない。
【0117】
例えば、ブレーキペダルPBの操作速度とソレノイドイン弁閉閾値との比較のみでソレノイドイン弁104を閉じると、液圧ピストン9によるアウタパッド7bの押し出し効果が阻害され、制動初期の応答性悪化を招く。このため、実施例1では、モータ押付力が液圧ピストン押付力以下のときには、ソレノイドイン弁104を開いておくことで、制動初期の応答性向上とブレーキペダルBPのキックバック防止との両立を図ることができる。
【0118】
次に、効果を説明する。
実施例3のディスクブレーキにあっては、実施例1の効果(1)〜(9)に加え、以下に列挙する効果を奏する。
【0119】
(11) ブレーキコントローラB/ECUは、ペダルストローク速度がソレノイドイン弁閉閾値よりも大きい場合、ソレノイドイン弁104を閉じるため、運転者がブレーキペダルBPを早踏みした際のキックバックの発生を防止できる。
【0120】
(12) ブレーキコントローラB/ECUは、運転者のブレーキ操作が終了するまでソレノイドイン弁104の閉状態を維持するため、ブレーキ操作時のキックバックの発生を確実に防止できる。
【0121】
(13) ブレーキコントローラB/ECUは、モータ押付力が液圧ピストン押付力よりも大きい場合、ソレノイドイン弁104を閉じるため、制動初期の応答性向上とブレーキペダルBPのキックバック防止との両立を図ることができる。
【実施例4】
【0122】
実施例4のブレーキ装置は、実施例3のブレーキ制御処理において、車両停車時にソレノイドイン弁104が閉じた状態が継続することに伴う電力消費を低減するものである。なお、その他のシステム構成および電子制御ディスクブレーキの構成については、実施例1と同様であるため、図示ならびに説明を省略する。
【0123】
[消費電力低減制御処理]
図20は、実施例4のBBWコントローラBBW/ECUおよび各ブレーキコントローラB/ECUが実行する消費電力低減制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。この制御処理は、図16のステップS12でソレノイドイン弁104が閉作動したとき開始し、運転者のブレーキ操作が終了したときは直ちに終了する。また、この制御処理は、左右輪の片側ずつ順に行う。
【0124】
ステップS21では、BBWコントローラBBW/ECUにおいて、各車輪速センサ107FL,107FR,107RL,107RRにより検出された各車輪速を読み込み、ステップS22へ移行する。
【0125】
ステップS22では、BBWコントローラBBW/ECUにおいて、ステップS21で読み込んだ各車輪速が全て0km/hであるか否か、すなわち、車両が停止しているか否かを判定する。YESの場合にはステップS23へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
【0126】
ステップS23では、BBWコントローラBBW/ECUにおいて、カウンタをカウントアップし、ステップS24へ移行する。
【0127】
ステップS24では、BBWコントローラBBW/ECUにおいて、カウンタが所定値以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS25へ移行し、NOの場合にはステップS21へ移行する。ここで、所定値は、所定時間T(例えば、30sec)に相当する値とする。所定時間Tは、例えば、図21に示すように、ソレノイドイン弁104の液圧に対する連続作動可能時間から決定してもよい。図21に示すように、シリンダ室9aとマスタシリンダ圧との差が大きいほどソレノイドイン弁104の連続作動可能時間は短くなるため、それに応じて所定時間Tも短く設定する必要がある。
【0128】
ステップS25では、BBWコントローラBBW/ECUにおいて、ペダルストロークセンサ108からブレーキペダルBPのストローク量を読み込み、ステップS26へ移行する。
【0129】
ステップS26では、BBWコントローラBBW/ECUにおいて、ステップS25で読み込んだペダルストローク量に応じた要求制動力を求めると共に、求めた要求制動力から各車輪100FL,100FR,100RL,100RRの制動力目標値を演算し、演算した制動力目標値をブレーキコントローラB/ECUおよび電動ディスクブレーキ101RL,101RRへ出力してステップS27へ移行する。
【0130】
ステップS27では、ブレーキコントローラB/ECUにおいて、圧力センサ105FL,105FRにより検出されたマスタシリンダ圧を読み込み、ステップS28へ移行する。
【0131】
ステップS28では、ブレーキコントローラB/ECUにおいて、ステップS27で読み込んだマスタシリンダ圧と推力センサ10FL,10FRにより検出された推力からモータ押付力を算出し、ステップS29へ移行する。
【0132】
ステップS29では、ブレーキコントローラB/ECUにおいて、ステップS27で読み込んだマスタシリンダ圧とステップS28で算出したモータ押付力とから、ソレノイドイン弁104が閉じた状態の液圧ピストン9内の圧力を算出し、ステップS30へ移行する。ここで、液圧ピストン9内の圧力Pは、下記の式から算出できる。
P=F/A
Fは液圧ピストン押付力、Aはピストン受圧面積である。
【0133】
ステップS30では、ブレーキコントローラB/ECUにおいて、モータ押付力の液圧換算値がステップS27で読み込んだマスタシリンダ圧よりも所定量だけ高くなるようなモータ押付力を演算し、ステップS31へ移行する。ここで、所定量は、当該所定量だけマスタシリンダ圧が増加したとき、踏力変動が気にならない程度、すなわち、人が感じない程度の値、例えば、2N以下とする。
【0134】
ステップS31では、ブレーキコントローラB/ECUにおいて、電子制御ディスクブレーキ1FL,1FRのモータ押付力をステップS30で演算した値としたとき、要求制動力を一定に維持する電動ディスクブレーキ101RL,101RRのモータ押付力(後輪モータ押付力)を演算し、ステップS32へ移行する。
【0135】
ステップS32では、BBWコントローラBBW/ECUにおいて、ステップS31でブレーキコントローラB/ECUにより演算された後輪モータ押付力を電動ディスクブレーキ101RL,101RRに送信して後輪モータ押付力を増加させ、ステップS33へ移行する。
【0136】
ステップS33では、ブレーキコントローラB/ECUにおいて、ステップS30で演算したモータ押付力となるようにモータ押付力を低下させ、ステップS34へ移行する。
【0137】
ステップS34では、ブレーキコントローラB/ECUにおいて、ソレノイドイン弁104を開作動し、ステップS35へ移行する。
【0138】
ステップS35では、ブレーキコントローラB/ECUにおいて、回転角センサ5cにより検出されたモータ5の回転角(回転数)を読み込み、ステップS36へ移行する。
【0139】
ステップS36では、ブレーキコントローラB/ECUにおいて、ステップS35で読み込んだモータ回転数がゼロであるか否か、すなわち、ピストン9bが底付き状態であるか否かを判定する。YESの場合にはステップS37へ移行し、NOの場合にはステップS37へ移行する。
【0140】
ステップS37では、ブレーキコントローラB/ECUにおいて、ソレノイドイン弁104を開作動し、ステップS27へ移行する。
【0141】
ステップS38では、ブレーキコントローラB/ECUにおいて、通常の前後輪制動力配分(図17参照)となるようにモータ押付力を増加させ、ステップS39へ移行する。
【0142】
ステップS39では、BBWコントローラBBW/ECUにおいて、通常の前後輪制動力配分となるように後輪モータ押付力を低下させ、リターンへ移行する。
【0143】
次に、作用を説明する。
[消費電力低減作用]
実施例3では、消費電力軽減を図るべく、ペダルストローク速度がソレノイドイン弁閉閾値(30mm/s)よりも高い場合には、ソレノイドイン弁104FLを閉じる制御を行っている。ところが、ソレノイドイン弁104は常開型の電磁弁であるため、閉弁状態を維持するためにはソレノイド(不図示)に電力を供給し続ける必要がある。よって、車両停車時にブレーキペダルBPが踏まれた状態が長時間継続した場合の電力消費量が問題となる。
【0144】
これに対し、実施例4では、ステップS22で車両停車中であると判定され、ステップS24で所定時間T(30sec)が経過した場合、ステップS34でソレノイドイン弁104を開作動することで、ソレノイドイン弁104の消費電力を低減できる。また、ソレノイドイン弁104のサイズは連続作動時間および作動差圧により決定されるため、実施例4の消費電力低減制御を実施することで、ソレノイドイン弁104の小型化が可能となる。
【0145】
ここで、ソレノイドイン弁104を開く場合、液圧ピストン9のシリンダ室9aに封入していたブレーキ液がマスタシリンダへと戻り、シリンダ室9a内のブレーキ液圧とマスタシリンダ圧との差圧に応じた踏力変動が発生し、この踏力変動が大きいと、運転者に違和感を与えてしまう。
【0146】
そこで、実施例4では、ステップS30でモータ押付力の液圧換算値がマスタシリンダ圧よりも2Nだけ高くなるようなモータ押付力を演算し、ステップS33で演算したモータ押付力となるようにモータ押付力を低下させるという一連の処理を、ステップS36でピストン9bが底付き状態であると判定されるまで繰り返し実行する(ステップS27〜ステップS37)。これにより、マスタシリンダ圧を徐々に(2Nずつ)増加させることができるため、運転者に踏力変動を気付かせることなく、ブレーキ液を徐々にマスタシリンダM/Cへと戻すことができる。
【0147】
次に、上述のように踏力変動抑制のために電子制御ディスクブレーキのモータ押付力を低下させる場合、当該電子制御ディスクブレーキに対応する付与される車輪の制動力が低下するため、ブレーキペダルBPの踏み込み量、すなわち運転者の要求制動力に応じた総制動力を維持できず、坂路やクリープトルクによって車両が動いてしまう可能性がある。そこで、実施例4では、ステップS33でモータ押付力を低下させる前のステップS32で、当該モータ押付力の低下量に応じて電動ディスクブレーキ101RL,101RRのモータ押付力を増加させているため、車両の総制動力を一定に保つことができる。
【0148】
次に、効果を説明する。
実施例4のディスクブレーキにあっては、実施例1の効果(1)〜(9),実施例3の効果(11)〜(13)に加え、以下に列挙する効果を奏する。
【0149】
(14) ブレーキコントローラB/ECUは、車両停止中にソレノイドイン弁104を閉じている状態が所定時間T以上継続した場合、ソレノイドイン弁104を開くため、停車中に運転者がブレーキペダルBPを踏み続けた場合のソレノイドイン弁104の消費電力を低減できると共に、ソレノイドイン弁104の小型化を実現できる。
【0150】
(15) ブレーキコントローラB/ECUは、マスタシリンダM/Cに戻されるブレーキ液圧がマスタシリンダ圧よりも所定量(例えば、2N)だけ高くなるように、モータ押付力を低下させるため、運転者に踏力変動を気付かせることなく、液圧ピストン9のシリンダ室9aに封入したブレーキ液を徐々にマスタシリンダM/Cへと戻すことができる。
【0151】
(16) ブレーキコントローラB/ECUは、モータ押付力の低下による車輪の制動力低下分だけ左右後輪100RL,100RRの制動力を増加させるため、車両の総制動力を一定に保つことができる。
【0152】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づく各実施例により説明したが、本発明の具体的な構成は、各実施例に示したものに限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない程度の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0153】
例えば、実施例では、第1パッドをアウタパッド、第2パッドをインナパッドとしたが、ブレーキディスクを挟んで車幅方向外側に第2パッド、車幅方向内側に第1パッドを設けた構成としてもよい。
【0154】
実施例では、マスタシリンダM/Cと液圧ピストン9のシリンダ室9aとを連通する液圧配管102をキャリパ2(22)のハウジング内に形成した例を示したが、図22に示すように、キャリパ2の外側に配管60を設けることで、ハウジング内に配管を形成する手間を省き、工数削減を図ることができる。
また、実施例1,2では、ソレノイドイン弁をハウジング側に設けた例を示したが、車体側に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】実施例1の電子制御ディスクブレーキを適用したブレーキ装置のシステム構成図である。
【図2】実施例1のブレーキ装置の前輪側油圧回路図である。
【図3】実施例1の電子制御ディスクブレーキの側面断面図である。
【図4】実施例1の電子制御ディスクブレーキの平面図である。
【図5】実施例1の電子制御ディスクブレーキの正面図である。
【図6】実施例1のラッチ機構を示す図である。
【図7】実施例1の液圧ピストン押付力とモータ押付力との関係を示す図である。
【図8】実施例1の制動力発生作用を示すタイムチャートである。
【図9】実施例1のピストン底付き作用を示す図である。
【図10】実施例1の急制動時における制動力発生作用を示すタイムチャートである。
【図11】実施例2の電子制御ディスクブレーキの側面断面図である。
【図12】実施例2の電子制御ディスクブレーキの平面図である。
【図13】実施例2の電子制御ディスクブレーキの正面図である。
【図14】実施例2の電子制御ディスクブレーキの背面図である。
【図15】実施例3のブレーキ装置の前輪側油圧回路図である。
【図16】実施例3のBBWコントローラBBW/ECUおよび各ブレーキコントローラB/ECUが実行するブレーキ制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図17】総制動力に対する前後輪のキャリパ押付力の配分を示す図である。
【図18】制動初期(制動開始から55msec経過後)におけるブレーキペダルBPのペダル操作速度と液圧ピストン押付力とモータ押付力との差との関係を示す図である。
【図19】ブレーキペダルBPの操作速度が100mm/sのときのペダルストロークのタイムチャートである。
【図20】実施例4のBBWコントローラBBW/ECUおよび各ブレーキコントローラB/ECUが実行する消費電力低減制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図21】所定時間Tの設定マップである。
【図22】他の実施例の電子制御ディスクブレーキの側面断面図である。
【符号の説明】
【0156】
BBW/ECU BBWコントローラ(ABS制御手段)
BD ブレーキディスク
B/ECU ブレーキコントローラ(制動力制御手段)
M/C マスタシリンダ(作動圧発生手段)
1 電子制御ディスクブレーキ
2 キャリパ
3 メインハウジング
4 エンドハウジング
5 モータ(電動モータ)
6 ボールねじ機構(運動変換機構)
7a インナパッド(第1パッド)
7b アウタパッド(第2パッド)
8 ブリッジ
9 液圧ピストン(ピストン機構)
10 推力センサ
13 ラッチ機構(係止手段)
102 液圧配管(作動圧供給通路)
103 液圧配管(連通路)
104 ソレノイドイン弁(流量制御弁)
105 圧力センサ
106 遮断弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と一体に回転するブレーキディスクと、
このブレーキディスクを挟んで対向配置された第1パッドおよび第2パッドと、
前記第1パッドおよび第2パッドを車体に対して車輪軸方向で相対変位可能に支持するキャリパと、
運転者の制動操作量に応じた作動圧を発生する作動圧発生手段と、
前記キャリパの前記第1パッド側に設け、前記作動圧に応じて前記第1パッドを前記ブレーキディスクに押し付けるピストン機構と、
前記キャリパの前記第2パッド側に設けた電動モータと、
前記キャリパの前記第2パッド側に設け、前記電動モータの回転力を直進運動に変換し、前記第1パッドと前記第2パッドのうち少なくとも第2パッドを前記ブレーキディスクに押し付ける運動変換機構と、
を備えることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
請求項1に記載のディスクブレーキにおいて、
前記操作量を検出する制動操作量検出手段と、
前記ピストン機構の押し付け力により発生する制動力を検出する第1の制動力検出手段と、
前記運動変換機構の押し付け力により発生する制動力を検出する第2の制動力検出手段と、
前記制動操作量に基づき前記車輪の制動力目標値を算出する目標制動力算出手段と、
前記第1の制動力検出手段にて検出した制動力と前記前記第2の制動力検出手段にて検出した制動力とを合算した制動力が、前記目標制動力算出手段にて算出した制動力目標値となるように、前記電動モータを制御する制動力制御手段を備えることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項3】
請求項2に記載のディスクブレーキにおいて、
前記制動力制御手段は、前記運動変換機構の押付力が前記ピストン機構の押付力よりも大きくなるように前記電動モータを制御することを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項4】
請求項2または請求項3のいずれか1項に記載のディスクブレーキにおいて
前記車輪のロック傾向に応じて制動力を制御するABS制御手段と、
前記作動圧発生手段と前記ピストン機構とを連通する作動圧供給通路上に設けた流量制御弁と、
を備え、
前記制動力制御手段は、ABS作動時、前記流量制御弁を閉じることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項5】
請求項4に記載のディスクブレーキにおいて、
前記作動圧供給通路上に配置し、ABS作動時に前記作動圧発生手段により発生した作動圧を吸収するストロークシミュレータを備えることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項6】
請求項5に記載のディスクブレーキにおいて、
前記作動圧供給通路と前記ストロークシミュレータとを連通する連通路上に遮断弁を備えることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項7】
請求項2ないし請求項6のいずれか1項に記載のディスクブレーキにおいて、
前記作動圧発生手段と前記ピストン機構とを連通する作動圧供給通路上に設けた流量制御弁と、
運転者の制動操作量の変化速度を検出する操作量変化速度検出手段と、
を備え、
前記制動力制御手段は、前記制動操作量の変化速度が所定値よりも大きい場合、前記流量制御弁を閉じることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項8】
請求項7に記載のディスクブレーキにおいて、
前記制動力制御手段は、運転者の制動操作が終了するまで前記流量制御弁の閉状態を維持することを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のディスクブレーキにおいて、
前記制動力制御手段は、前記運動変換機構の押付力が前記ピストン機構の押付力よりも大きい場合、前記流量制御弁を閉じることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9のいずれか1項に記載のディスクブレーキにおいて、
前記制動力制御手段は、車両停止中に前記流量制御弁を閉じている状態が所定時間以上継続した場合、前記流量制御弁を開くことを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項11】
請求項10に記載のディスクブレーキにおいて、
前記制動力制御手段は、前記作動圧供給通路の前記流量制御弁よりも前記作動圧発生手段側の圧力変動が所定量以下となるように、前記運動変換機構の押付力を低下させることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載のディスクブレーキにおいて、
前記制動力制御手段は、前記運動変換機構の押付力低下による車輪の制動力低下分だけ他の車輪の制動力を増加させることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載のディスクブレーキにおいて、
前記運動変換機構との係合により前記第2パッドを前記ブレーキディスクから離間させる方向への運動変換機構の変位を規制可能な係止手段を設け、
前記制動力制御手段は、前記モータの出力低下時、前記係止手段を前記運動変換機構と係合させることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載のディスクブレーキにおいて、
前記キャリパは、前記電動モータおよび前記運動変換機構を収容した基部と、前記第1パッドを支持する第1パッド支持部とを一体に設け、車体側部材に対し車輪軸方向へ相対変位可能に支持した浮動型キャリパであり、
前記運動変換機構は、前記基部に収容し、前記基部に対し車輪軸方向で位置不変に固定し前記電動モータの回転軸と一体に回転する回転部材と、前記第2パッドを支持し前記キャリパに対し車輪軸方向へ相対変位可能な直進部材と、前記回転部材の回転運動を直進運動に変換して前記直進部材へ伝達するねじ伝達機構と、を有することを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項15】
請求項14に記載のディスクブレーキにおいて、
前記回転部材と前記基部との車輪軸方向間に、車輪軸方向に作用する圧力を検出する圧力検出手段を設け、
前記制動力制御手段は、前記推力検出手段により検出された圧力が前記制動操作量に基づく前記車輪の制動力目標値に応じた値となるように、前記電動モータを制御することを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項16】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載のディスクブレーキにおいて、
前記キャリパは、前記電動モータおよび前記運動変換機構を収容し車体側部材に対し車輪軸方向で位置不変に固定した基部と、前記第1パッドを支持し前記基部に対し車輪軸方向へ相対変位可能な第1パッド支持部と、前記第2パッドを支持し前記基部および前記第1パッド支持部それぞれに対し車輪軸方向へ相対変位可能な第2パッド支持部と、を有する固定型キャリパであり、
前記運動変換機構は、前記電動モータの回転軸と一体に回転する回転部材と、前記第1パッド支持部と一体に設け前記基部に対し車輪軸方向へ相対変位可能な第1直進部材と、前記第2パッド支持部と一体に設け前記基部に対し車輪軸方向へ相対変位可能な第2直進部材と、前記回転部材の回転運動を直進運動に変換して前記第1直進部材へ伝達する第1ねじ伝達機構と、前記回転部材の回転運動を直進運動に変換して前記第2直進部材へ伝達する第2ねじ伝達機構と、を有することを特徴とするディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−115313(P2009−115313A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253638(P2008−253638)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】