説明

ハイブリッド車およびその制御方法

【課題】走行用の動力を出力する内燃機関とこの内燃機関の出力軸に動力を入出力する電動機と唯一の蓄電装置としてのキャパシタとを備える車両において、内燃機関をより確実に始動する。
【解決手段】エンジンを始動するときには、キャパシタの下限電圧Vlowとして対象のコースを走行する際に設定されている電圧Vsetより低い始動用電圧Vstartを用いてモータによりエンジンをモータリングして始動する。これにより、エンジンをより確実に始動することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車およびその制御方法に関し、詳しくは、走行用の動力を出力する内燃機関とこの内燃機関の出力軸に動力を入出力する出力軸用電動機とこの出力軸用電動機を含む車載された複数の電動機と電力のやり取りを行なう唯一の蓄電装置としてのキャパシタとを備えるハイブリッド車およびこうしたハイブリッド車の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド車としては、エンジンと、エンジンのクランクシャフトにキャリアが接続されると共に車軸側にリングギヤが接続されたプラネタリギヤと、プラネタリギヤのサンギヤに接続されたモータMG1と、プラネタリギヤのリングギヤに接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2と電力のやり取りを行なう二次電池として構成されたバッテリとを備え、エンジンを始動するときにはバッテリの出力制限をバッテリの若干の劣化を伴う程度の所定超過出力分だけ拡張するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この車両では、こうしたバッテリの出力制限を拡張することにより、エンジンをより確実に始動している。
【特許文献1】特開2006−296183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のハイブリッド車では、二次電池として構成されたバッテリの若干の劣化を伴う程度にバッテリの出力制限を超過することによりエンジンの始動性を良好なものとしているが、車両の運動エネルギを電力として回収したり走行用の動力を出力する電動機とこの電動機により回生された電力を蓄えたりこの電動機に電力を供給する唯一の蓄電装置としてのキャパシタとを搭載するハイブリッド車では、キャパシタの若干の劣化を伴う程度の出力制限の拡張は、キャパシタの破損に直接の要因となるため、考えることは困難である。一方、キャパシタの使用電圧範囲の上限は、キャパシタの上限電圧(耐圧)に対して余裕をもった目標電圧が用いられ、キャパシタの使用電圧範囲の下限は、キャパシタからの電力の供給を受けて駆動する電動機の性能を十分に発揮させる必要からできる限り目標電圧に近い状態とするために車両の制動の際に電動機で回生される電力により目標電圧にすることができる電圧が用いられる。このため、キャパシタの実質的な電圧が使用電圧範囲となるようキャパシタの入出力制限が設定されることになる。特にレース用に開発されたハイブリッド車では、サーキット毎に車両の制動の際に電動機で回生される電力が異なることからサーキット毎にキャパシタの使用電圧範囲の下限を設定するのが望ましい。こうしたキャパシタの入出力制限を用いてエンジンを始動する際に、キャパシタの実質的な電圧が使用電圧範囲の下限近傍にあるときには、エンジンを始動することができない場合が生じ、不都合である。
【0004】
本発明のハイブリッド車およびその制御方法は、走行用の動力を出力する内燃機関とこの内燃機関の出力軸に動力を入出力する電動機と唯一の蓄電装置としてのキャパシタとを備える車両において、内燃機関をより確実に始動すること主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のハイブリッド車およびその制御方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明のハイブリッド車は、
走行用の動力を出力する内燃機関と、
前記内燃機関の出力軸に動力を入出力する出力軸用電動機と、
前記出力軸用電動機を含む車載された複数の電動機と電力のやり取りを行なう唯一の蓄電装置としてのキャパシタと、
前記内燃機関が運転されているときには前記キャパシタの使用電圧範囲として予め定められた運転時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて前記複数の電動機を制御し、前記内燃機関の始動指示がなされたときには前記運転時電圧範囲の下限電圧より低い電圧を下限電圧とする始動時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて前記出力軸用電動機により前記内燃機関がクランキングされるよう前記出力軸用電動機を制御する電動機制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0007】
この本発明のハイブリッド車では、内燃機関が運転されているときには、唯一の蓄電装置であるキャパシタの使用電圧範囲として予め定められた運転時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて内燃機関の出力軸に動力を入出力する出力軸用電動機を含む車載された複数の電動機を制御する。これにより、キャパシタを運転時電圧範囲内で充放電し、複数の電動機の性能を十分に発揮させて走行することができる。内燃機関の始動指示がなされたときには、運転時電圧範囲の下限電圧より低い電圧を下限電圧とする始動時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて出力軸用電動機により内燃機関がクランキングされるよう出力軸用電動機を制御する。これにより、より確実に内燃機関を始動することができる。
【0008】
こうした本発明のハイブリッド車において、前記始動時電圧範囲の下限電圧は、前記出力軸用電動機により前記内燃機関をアイドル回転数でモータリングすることができる電力を前記キャパシタから供給することができる電圧として設定されてなるものとすることもできる。こうすれば、内燃機関をアイドル回転数でモータリングして始動することができる。
【0009】
また、本発明のハイブリッド車において、前記ハイブリッド車はレース用の車両であり、前記運転時電圧範囲の下限電圧は、レース用のコースを走行したときに該コースにおいて最も大きな出力が要求される箇所の直前で車両の制動の際に前記複数の電動機の少なくとも一部を回生制御することにより得られる電力により前記キャパシタの電圧が前記運転時電圧範囲の上限電圧となるように設定されてなる電圧である、ものとすることもできる。こうすれば、複数の電動機の性能を十分に発揮させて走行することができる。
【0010】
さらに、本発明のハイブリッド車において、前記複数の電動機は、前記内燃機関の出力軸に接続された車軸とは異なる第2の車軸に動力を入出力可能な第2電動機を備えるものとすることもできる。この場合、前記第2電動機は、前記第2の車軸に取り付けられた車輪に直接動力を出力するインホイールモータであるものとすることもできる。
【0011】
本発明のハイブリッド車の制御方法は、
走行用の動力を出力する内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に動力を入出力する出力軸用電動機と、前記出力軸用電動機を含む車載された複数の電動機と電力のやり取りを行なう唯一の蓄電装置としてのキャパシタと、を備えるハイブリッド車の制御方法であって、
前記内燃機関が運転されているときには前記キャパシタの使用電圧範囲として予め定められた運転時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて前記複数の電動機を制御し、前記内燃機関の始動指示がなされたときには前記運転時電圧範囲の下限電圧より低い電圧を下限電圧とする始動時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて前記出力軸用電動機により前記内燃機関がクランキングされるよう前記出力軸用電動機を制御する、
ことを特徴とする。
【0012】
この本発明のハイブリッド車の制御方法では、内燃機関が運転されているときには、唯一の蓄電装置であるキャパシタの使用電圧範囲として予め定められた運転時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて内燃機関の出力軸に動力を入出力する出力軸用電動機を含む車載された複数の電動機を制御する。これにより、キャパシタを運転時電圧範囲内で充放電し、複数の電動機の性能を十分に発揮させて走行することができる。内燃機関の始動指示がなされたときには、運転時電圧範囲の下限電圧より低い電圧を下限電圧とする始動時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて出力軸用電動機により内燃機関がクランキングされるよう出力軸用電動機を制御する。これにより、より確実に内燃機関を始動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例としてのレース用に開発されたハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、左右前輪29a,29bに取り付けられた二つの前輪用モータ24,26を有する前輪駆動系21と、エンジン32とエンジン32のクランクシャフト33に取り付けられたモータ36とからの動力をトランスミッション34とデファレンシャルギヤ38とを介して左右後輪39a,39bに出力する後輪駆動系31と、前輪用モータ24,26やモータ36と電力のやり取りを行なうキャパシタ50と、左右前輪29a,29bや左右後輪39a,39bに取り付けられたホイールシリンダ66a,66b,68a,68bに油圧を作用させることにより制動トルクを付与する電子制御式油圧ブレーキユニット(以下、「ECB」という。)60と、ハイブリッド自動車20の全体をコントロールするメイン電子制御ユニット70とを備える。
【0015】
前輪用モータ24,26は、同期発電電動機や減速機、ハブベアリング等を一体化したいわゆるインホイールモータとして構成された互いに同一のものであり、インバータ42,44を介してキャパシタ50と電力のやりとりを行なう。すなわち、前輪用モータ24,26は、左右前輪29a,29bに対して制動力や駆動力を左右独立に分配して出力可能な動力ユニットとして機能する。前輪用モータ24,26は、モータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という。)40により駆動制御を受けている。
【0016】
エンジン32は、ガソリンまたは軽油等の炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン32の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するメイン電子制御ユニット70により燃料噴射量や点火時期、吸入空気量等の制御を受けている。
【0017】
トランスミッション34は、例えば油圧駆動の6速の変速機として構成されており、ドライバーによるアップスイッチ81やダウンスイッチ82の操作に基づく信号を入力するメイン電子制御ユニット70によりアップシフトやダウンシフトが行なわれるよう変速制御される。
【0018】
モータ36は、発電機として作動することができると共に電動機として作動可能な周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ46を介してキャパシタ50と電力のやりとりを行なう。モータ36は、前輪用モータ24,26と同様に、モータECU40により駆動制御を受けている。モータECU40には、前輪用モータ24,26やモータ36を駆動制御するために必要な信号、例えば前輪用モータ24,26やモータ36の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ25,27,37からの信号や図示しない電流センサにより検出される前輪用モータ24,26やモータ36に印加される相電流等が入力されており、モータECU40からは、インバータ42,44,46へのスイッチング制御信号が出力される。インバータ42,44,46は、それぞれ6つのスイッチング素子と6つのダイオードとからなる周知のインバータ回路として構成されており、正極母線および負極母線がキャパシタ50の入出力端子に接続されている。モータECU40は、メイン電子制御ユニット70と通信しており、メイン電子制御ユニット70からの制御信号によって前輪用モータ24,26やモータ36を駆動制御すると共に必要に応じて前輪用モータ24,26やモータ36の運転状態に関するデータをメイン電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ25,27,37からの信号に基づいて前輪用モータ24,26やモータ36の回転数Nfl,Nfr,Nmも演算している。
【0019】
キャパシタ50は、例えば電気二重層キャパシタとして構成されており、キャパシタ用電子制御ユニット(以下、「キャパシタECU」という。)52により充放電の制御が行なわれている。キャパシタECU52には、キャパシタ50の端子間に取り付けられた電圧センサ54により検出されるキャパシタ50の端子間電圧Vcapやキャパシタ50からの電力ラインに取り付けられた電流センサ56により検出されるキャパシタ50を流れる電流Icap,キャパシタ50に取り付けられた温度センサ58により検出されるキャパシタ50の温度Tcapなどが入力されている。キャパシタECU52は、メイン電子制御ユニット70と通信しており、必要に応じてメイン電子制御ユニット70に充放電に必要な制御信号を送信したり、キャパシタ50の状態に関するデータをメイン電子制御ユニット70に出力する。
【0020】
ECB60は、ブレーキペダル85の踏み込みにより加圧されるマスタシリンダ61と、マスタシリンダ61の圧力(ブレーキ踏力)に応じて車両に作用させるべき制動力のうちのECB60の分担割合に応じた制動トルクが左右前輪29a,29bや左右後輪39a,39bに作用するようにホイールシリンダ66a,66b,68a,68bへの油圧を調整するブレーキアクチュエータ64と、ブレーキアクチュエータ64を駆動制御するブレーキ用電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という。)62と、を備える。ブレーキECU62には、マスタシリンダ61に取り付けられたマスタシリンダ圧センサ61aにより検出されるマスタシリンダ圧(ブレーキ踏力Fb)や左右前輪29a,29bおよび左右後輪39a,39bに設けられた図示しない車輪速センサからの車輪速などが入力されており、ブレーキECU62からはブレーキアクチュエータ64への駆動信号が出力されている。ブレーキECU62は、メイン電子制御ユニット70と通信しており、メイン電子制御ユニット70からの制御信号によって左右前輪29a,29bや左右後輪39a,39bに制動トルクを作用させると共に必要に応じてECB60の状態に関するデータをメイン電子制御ユニット70に出力する。
【0021】
メイン電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。メイン電子制御ユニット70には、ステアリングに取り付けられてトランスミッション34のアップシフトやダウンシフトを指示するアップスイッチ81やダウンスイッチ82からの信号やアクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBPなどが入力ポートを介して入力されている。メイン電子制御ユニット70は、上述したように、モータECU40やキャパシタECU52,ブレーキECU62と通信ポートを介して接続されており、モータECU40やキャパシタECU52,ブレーキECU62と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0022】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、アクセルペダル83の踏み込み量に応じてエンジン32の吸入空気量などを調整すると共にキャパシタ50に蓄えられた電力を用いてモータ36からトルク出力を行ない、ブレーキペダル85の踏み込み力(踏力)に応じたブレーキトルクをECB60と前輪用モータ24,26とから出力し、前輪用モータ24,26の回生トルクの出力により得られる回生電力をキャパシタ50に蓄える。実施例では、レース用の車両としてハイブリッド自動車20を構成しているため、キャパシタ50の制御としては、キャパシタ50の最大電圧(耐圧)Vmaxより1割〜2割程度低い電圧を上限電圧Vhiとしてキャパシタ50の入力制限を行ない、前輪用モータ24,26からの回生トルクの出力によりレース用のコースを走行したときにコースにおいて最も大きな出力が要求される箇所(例えば、長い直線の入口)の直前でキャパシタ50の電圧が上限電圧Vhiとなるようにコース毎に設定された最低電圧Vsetをキャパシタ50の下限電圧Vlowとして設定して出力制限を行なう。例えば、耐圧が900Vのキャパシタを用いた場合、上限電圧Vhiとしてはコースに無関係に750Vや800Vなどを用い、下限電圧VlowとしてはAコースでは500Vを用い、Bコースでは580Vを用いるなどとして運用するのである。このように下限電圧Vlowをコース毎に設定するのは、コース上で最もモータ36からの出力が要求される箇所で最大出力によりモータ36を駆動するためである。したがって、実施例のハイブリッド自動車20では、上限電圧Vhiと下限電圧Vlowとによって設定されるキャパシタ50の使用電圧範囲に基づくキャパシタ50の入出力制限Win,Woutを用いてモータ36や前輪用モータ24,26を駆動制御することになる。なお、キャパシタ50の出力制限Woutの設定については後述する。
【0023】
次に、実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にエンジン32の始動する際の動作について説明する。図2は、エンジン32を始動するときにメイン電子制御ユニット70により実行される始動時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンが実行されると、メイン電子制御ユニット70のCPU72は、まず、対象のコースに設定されたキャパシタ50の下限電圧Vlowとして用いる電圧Vsetより小さな始動用電圧Vstartをキャパシタ50の下限電圧Vlowとして設定する(ステップS100)。ここで、始動用電圧Vstartとしては、実施例では、モータ36によりエンジン32をアイドル回転数Nidlでモータリングするのに必要な電力を供給することができる最低電圧かこの電圧より若干高い電圧を用いている。モータ36やエンジン32にもよるが、例えば、耐圧が900Vのキャパシタを用いた場合、120Vや150Vなどを用いることができる。即ち、エンジン32を運転して走行しているときには、キャパシタ50の使用電圧範囲は上限電圧Vhiと電圧Vsetが設定された下限電圧Vlowとなり、エンジン32を始動するときには、キャパシタ50の使用電圧範囲は上限電圧Vhiと始動用電圧Vstartが設定された下限電圧Vlowとなる。
【0024】
そして、モータ36の回転数Nmやエンジン32の回転数Ne,キャパシタ50の端子間電圧Vcapなどを入力し(ステップS110)、入力したキャパシタ50の端子間電圧Vcapと設定した下限電圧Vlowとを用いてキャパシタ50の出力制限Woutを設定する(ステップS120)。実施例では、キャパシタ50の端子間電圧Vcapから下限電圧Vlowを減じた値が所定値(例えば上限電圧Vhiの5%)以上のときにはキャパシタ50の定格最大出力を出力制限Woutとして設定し、キャパシタ50の端子間電圧Vcapから下限電圧Vlowを減じた値が所定値未満のときにはキャパシタ50の端子間電圧Vcapが下限電圧Vlowに近づくほど小さくなるように、そしてキャパシタ50の端子間電圧Vcapが下限電圧Vlowに至ったときに値0となるように出力制限Woutを設定するものとした。キャパシタ50の端子間電圧Vcapと出力制限Woutとの関係の一例を図3に示す。図中、実線は始動用電圧Vstartが下限電圧Vlowに設定されたときの出力制限Woutを示し、一点鎖線は電圧Vsetが下限電圧Vlowに設定されたときの出力制限Woutを示す。このように、始動用電圧Vstartが設定された下限電圧Vlowを用いてキャパシタ50の出力制限Woutを設定することにより、エンジン32をより確実に始動することができる。なお、モータ36の回転数Nmについては、回転位置検出センサ37からの信号により演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。また、エンジン32の回転数Neについては、クランクシャフト33に取り付けられた図示しないクランクポジションセンサからの信号により演算されてRAM76に記憶されたものを読み出すことにより入力するものとした。さらに、キャパシタ50の端子間電圧Vcapについては、電圧センサ54により検出されたものをキャパシタECU52から通信により入力するものとした。
【0025】
こうしてキャパシタ50の出力制限Woutを設定すると、エンジン32をモータリングするためのトルクとして予め設定されたトルクTmsetを仮モータトルクTmtmpと設定すると共に(ステップS130)、設定した出力制限Woutをモータ36の回転数Nmで除してモータ36から出力してもよい最大トルクとしてのトルク制限Tmaxを計算し(ステップS140)、仮モータトルクTmtmpとトルク制限Tmaxとのうち小さい方をモータ36のトルク指令Tm*として設定してモータECU40に送信して(ステップS150)、このエンジン32の回転数Neがアイドル回転数Nidlに至るまでステップS110からステップS150の処理を繰り返す(ステップS160)。そして、エンジン32の回転数Neがアイドル回転数Nidlに至ると燃料噴射制御や点火制御を開始して(ステップS170)、エンジン32が完爆するのを確認し(ステップS180)、キャパシタ50の下限電圧Vlowに対象のコースに設定されている電圧Vsetを設定して(ステップS190)、本ルーチンを終了する。
【0026】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、エンジン32を始動するときには、キャパシタ50の下限電圧Vlowとして対象のコースを走行する際に設定されている電圧Vsetより低い始動用電圧Vstartを用いてモータ36によりエンジン32をモータリングして始動するから、エンジン32をより確実に始動することができる。しかも、始動用電圧Vstartとしてモータ36によりエンジン32をアイドル回転数Nidlでモータリングするのに必要な電力を供給することができる最低電圧かこの電圧より若干高い電圧を用いるから、エンジン32をアイドル回転数Nidlまでモータリングしてから始動することができる。
【0027】
実施例のハイブリッド自動車20では、始動用電圧Vstartとして、モータ36によりエンジン32をアイドル回転数Nidlでモータリングするのに必要な電力を供給することができる最低電圧かこの電圧より若干高い電圧を用いるものとしたが、対象のコースを走行する際に設定されている電圧Vsetより低い電圧であれば如何なる電圧としても構わない。
【0028】
実施例のハイブリッド自動車20では、キャパシタ50の端子間電圧Vcapから下限電圧Vlowを減じた値が所定値以上のときにはキャパシタ50の定格最大出力を出力制限Woutとして設定し、キャパシタ50の端子間電圧Vcapから下限電圧Vlowを減じた値が所定値未満のときにはキャパシタ50の端子間電圧Vcapが下限電圧Vlowに近づくほど小さくなるように、そしてキャパシタ50の端子間電圧Vcapが下限電圧Vlowに至ったときに値0となるように出力制限Woutを設定するものとしたが、キャパシタ50の端子間電圧Vcapが下限電圧Vlowに至ったときに値0を出力電圧Woutに設定するものとすれば、如何なる手法により出力制限Woutを設定するものとしても構わない。
【0029】
実施例では、レース用のハイブリッド自動車20に本発明を適用した場合について説明したが、一般の公道を走行するハイブリッド自動車に本発明を適用してもよい。
【0030】
実施例では、前輪に取り付けられたインホイールモータとしての前輪用モータ24,26と、エンジン32のクランクシャフト33に取り付けられたモータ36と、前輪用モータ24,26やモータ36と電力のやり取りが可能なキャパシタ50とを備えるハイブリッド自動車20に本発明を適用した場合について説明したが、走行用の動力を出力する内燃機関と、この内燃機関の出力軸に動力を入出力する電動機と、この電動機を含む車載された複数の電動機と電力のやり取りを行なう唯一の蓄電装置としてのキャパシタと、を備える自動車であれば如何なる自動車に適用するものとしてもよい。
【0031】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン32が「内燃機関」に相当し、モータ36が「出力軸用電動機」に相当し、モータ36や前輪用モータ24,26が「複数の電動機」に相当し、キャパシタ50が「キャパシタ」に相当し、エンジン32を運転して走行しているときには、上限電圧Vhiと電圧Vsetが設定された下限電圧Vlowとからなるキャパシタ50の使用電圧範囲に基づく入出力制限Win,Woutを用いてモータ36や前輪用モータ24,26を制御し、エンジン32を始動するときには、上限電圧Vhiと電圧Vsetより低い始動用電圧Vstartとからなるキャパシタ50の使用電圧範囲に基づく入出力制限Win,Woutを用いてエンジン32をアイドル回転数Nidlまでモータリングして始動するようモータ36を制御する図2の始動時制御ルーチンを実行するメイン電子制御ユニット70やトルク指令Tm*に基づいてモータ36を制御するモータECU40とが「電動機制御手段」に相当する。
【0032】
本発明のハイブリッド車において、「内燃機関」としては、ガソリンまたは軽油等の炭化水素系の燃料により動力を出力するものに限定されるものではなく、如何なるタイプの内燃機関としても構わない。「出力軸用電動機」としては、同期発電電動機として構成されたモータ36に限定されるものではなく、内燃機関の出力軸に動力を入出力することができるものであれば如何なるタイプの電動機としても構わない。「キャパシタ」としては、電気二重層キャパシタとして構成されたキャパシタ50に限定されるものではなく、蓄電可能なものであれば如何なるタイプのキャパシタとしても構わない。「電動機制御手段」としては、エンジン32を運転して走行しているときには、上限電圧Vhiと電圧Vsetが設定された下限電圧Vlowとからなるキャパシタ50の使用電圧範囲に基づく入出力制限Win,Woutを用いてモータ36や前輪用モータ24,26を制御し、エンジン32を始動するときには、上限電圧Vhiと電圧Vsetより低い始動用電圧Vstartとからなるキャパシタ50の使用電圧範囲に基づく入出力制限Win,Woutを用いてエンジン32をアイドル回転数Nidlまでモータリングして始動するようモータ36を制御するものに限定されるものではなく、内燃機関が運転されているときにはキャパシタの使用電圧範囲として予め定められた運転時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて複数の電動機を制御し、内燃機関の始動指示がなされたときには運転時電圧範囲の下限電圧より低い電圧を下限電圧とする始動時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて出力軸用電動機により内燃機関がクランキングされるよう出力軸用電動機を制御するものであれば如何なるものとしても構わない。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0033】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、車両や蓄電装置の製造産業に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例としてのレース用に開発されたハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】メイン電子制御ユニット70により実行される始動時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】キャパシタ50の端子間電圧Vcapと出力制限Woutとの関係の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
20 ハイブリッド自動車、21 前輪駆動系、24,26 前輪用モータ、25,27 回転位置検出センサ、29a,29b 前輪、31 後輪駆動系、32 エンジン、33 クランクシャフト、34 トランスミッション、36 モータ、37 回転位置検出センサ、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 後輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、42,44,46 インバータ、50 キャパシタ、52 キャパシタ用電子制御ユニット(キャパシタECU)、54 電圧センサ、56 電流センサ、58 温度センサ、60 電子制御式油圧ブレーキユニット(ECB)、61 マスタシリンダ、61a マスタシリンダ圧センサ、62 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU)、64 ブレーキアクチュエータ、66a,66b,68a,68b ホイールシリンダ、70 メイン電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、81 アップスイッチ、82 ダウンスイッチ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力を出力する内燃機関と、
前記内燃機関の出力軸に動力を入出力する出力軸用電動機と、
前記出力軸用電動機を含む車載された複数の電動機と電力のやり取りを行なう唯一の蓄電装置としてのキャパシタと、
前記内燃機関が運転されているときには前記キャパシタの使用電圧範囲として予め定められた運転時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて前記複数の電動機を制御し、前記内燃機関の始動指示がなされたときには前記運転時電圧範囲の下限電圧より低い電圧を下限電圧とする始動時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて前記出力軸用電動機により前記内燃機関がクランキングされるよう前記出力軸用電動機を制御する電動機制御手段と、
を備えるハイブリッド車。
【請求項2】
前記始動時電圧範囲の下限電圧は、前記出力軸用電動機により前記内燃機関をアイドル回転数でモータリングすることができる電力を前記キャパシタから供給することができる電圧として設定されてなる請求項1記載のハイブリッド車。
【請求項3】
請求項1または2記載のハイブリッド車であって、
前記ハイブリッド車は、レース用の車両であり、
前記運転時電圧範囲の下限電圧は、レース用のコースを走行したときに該コースにおいて最も大きな出力が要求される箇所の直前で車両の制動の際に前記複数の電動機の少なくとも一部を回生制御することにより得られる電力により前記キャパシタの電圧が前記運転時電圧範囲の上限電圧となるように設定されてなる電圧である、
ハイブリッド車。
【請求項4】
前記複数の電動機は、前記内燃機関の出力軸に接続された車軸とは異なる第2の車軸に動力を入出力可能な第2電動機を備える請求項1ないし3のいずれか1つの請求項に記載のハイブリッド車。
【請求項5】
前記第2電動機は、前記第2の車軸に取り付けられた車輪に直接動力を出力するインホイールモータである請求項4記載のハイブリッド車。
【請求項6】
走行用の動力を出力する内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に動力を入出力する出力軸用電動機と、前記出力軸用電動機を含む車載された複数の電動機と電力のやり取りを行なう唯一の蓄電装置としてのキャパシタと、を備えるハイブリッド車の制御方法であって、
前記内燃機関が運転されているときには前記キャパシタの使用電圧範囲として予め定められた運転時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて前記複数の電動機を制御し、前記内燃機関の始動指示がなされたときには前記運転時電圧範囲の下限電圧より低い電圧を下限電圧とする始動時電圧範囲に基づく駆動制限を用いて前記出力軸用電動機により前記内燃機関がクランキングされるよう前記出力軸用電動機を制御する、
ことを特徴とするハイブリッド車の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−18739(P2009−18739A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184134(P2007−184134)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】