説明

ハイブリッド車の制御装置

【課題】モータの引き摺り損失や動力循環の発生を防止もしくは抑制できる前後輪駆動方式のハイブリッド車の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関と第1電動機とが第1動力分配合成機構および駆動軸を介して一方の主駆動輪に動力伝達可能に連結され、かつ第2電動機が第2動力分配合成機構および駆動軸を介して主駆動輪に動力伝達可能に連結されるとともに、第3電動機が他方の副駆動輪に内蔵されて動力伝達可能に連結されたハイブリッド車の制御装置において、解放状態にされることにより第2電動機と主駆動輪との間の動力伝達を遮断する解放クラッチと、解放クラッチが解放状態にされ、かつ第1電動機が力行制御される場合に、第3電動機の発電量に応じて解放クラッチの係合・解放状態を設定する解放クラッチ制御手段(ステップS15,S16)とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、前後輪のいずれか一方を内燃機関と電動機とからなるハイブリッド駆動装置により駆動し、他方をホイール内に配置した電動機により駆動する前後輪駆動方式のハイブリッド車の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車の一形態として、車輪のホイール内にモータを組み込んで車輪をモータで直接駆動するいわゆるインホイールモータ方式の車両が開発されている。このインホイールモータは、駆動輪の近傍に設けられて駆動輪に直接動力を伝達するものであるから、従来の車両に設けられている変速機やデファレンシャルなどの動力伝達機構を設ける必要がなくなり、車両の構成を簡素化することができる。その一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された車両は、前輪および後輪のそれぞれに駆動力を出力して走行可能な車両であって、前輪および後輪のいずれか一方に対して駆動力を出力可能なエンジンおよびモータからなる動力ユニット(ハイブリッド駆動装置)と、他方の車輪のそれぞれに設けられて対応する車輪に駆動力を出力可能なモータとを備えた構成となっている。
【0003】
具体的には、特許文献1に記載された車両は、エンジンと、そのエンジンの出力軸にダンパを介して接続された3軸式の動力分配統合機構と、その動力分配統合機構の1軸に接続された発電可能なモータと、動力分配統合機構の他の1軸に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸に取り付けられた減速ギヤと、動力分配統合機構のさらに他の1軸に接続されるとともにギヤ機構およびデファレンシャルギヤを介して左右の後輪に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸に減速ギヤを介して接続されたモータと、左右の前輪およびそれぞれのホイール内に配置されて対応する前輪に駆動力を出力する左右のモータ(すなわちインホイールモータ)とから構成されている。
【0004】
また、特許文献2には、内燃機関もしくは電気モータにより前後輪の一方を主駆動輪として駆動する車両であって、他方の従駆動輪の左右の車輪のホイール内にそれら左右の車輪をそれぞれ駆動する電気モータ(すなわちインホイールモータ)と減速機との組が設けられ、車速が所定の速度以上になった場合にインホイールモータへの給電を停止するように構成された車両の左右輪駆動装置が記載されている。
【0005】
なお、特許文献3には、エンジンおよびモータを備えたハイブリッド車において、モータと動力伝達機構とをモータ切り離し手段を介して接続することにより、エンジン走行中のモータ引き摺りによる損失を防止するように構成されたハイブリッド車が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−203998号公報
【特許文献2】特開2004−328991号公報
【特許文献3】特開2005−106266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載されている車両は、後輪をエンジンおよびモータからなるハイブリッド駆動装置により駆動するハイブリッド車であって、前輪の左右の車輪にインホイールモータをそれぞれ搭載した構成の四輪駆動方式の車両となっている。そのため、車両の走行中に、モータの引き摺り損失あるいはモータ同士の間での動力循環などの影響により効率が低下する可能性があり、車両の燃費をさらに向上させるためには未だ改良の余地があった。
【0008】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、前後輪のいずれか一方にインホイールモータを搭載した前後輪駆動方式のハイブリッド車を対象として、モータの引き摺り損失や動力循環の発生を防止もしくは抑制して燃費の向上を図ることのできるハイブリッド車の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、内燃機関と第1電動機とが該第1電動機の回転を制御することにより該内燃機関の出力トルクを変速するようにそれぞれ第1動力分配合成機構および駆動軸を介して前後輪いずれか一方の主駆動輪に動力伝達可能に連結され、かつ第2電動機が第2動力分配合成機構および前記駆動軸を介して前記主駆動輪に動力伝達可能に連結されるとともに、第3電動機が前後輪いずれか他方の副駆動輪に内蔵されて動力伝達可能に連結されたハイブリッド車の制御装置において、解放状態にされることにより前記第2電動機と前記主駆動輪との間の動力伝達を遮断する解放クラッチと、前記解放クラッチが解放状態にされ、かつ前記第1電動機が力行制御される場合に、前記第3電動機の発電量に応じて前記解放クラッチの係合・解放状態を選択的に設定する解放クラッチ制御手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記解放クラッチ制御手段が、前記第3電動機の発電量に応じて前記第1電動機の出力トルクを変更する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0011】
さらに、請求項3の発明は、内燃機関と第1電動機とが該第1電動機の回転を制御することにより該内燃機関の出力トルクを変速するようにそれぞれ第1動力分配合成機構および駆動軸を介して前後輪いずれか一方の主駆動輪に動力伝達可能に連結され、かつ第2電動機が第2動力分配合成機構および前記駆動軸を介して前記主駆動輪に動力伝達可能に連結されるとともに、第3電動機が前後輪いずれか他方の副駆動輪に内蔵されて動力伝達可能に連結されたハイブリッド車の制御装置において、解放状態にされることにより前記第2電動機と前記主駆動輪との間の動力伝達を遮断する解放クラッチと、前記第1電動機の発電量を検出する発電量検出手段と、要求される駆動力に対して前記主駆動輪で受け持つ主駆動力と前記副駆動輪で受け持つ副駆動力とを算出する駆動力配分算出手段と、前記発電量検出手段により検出された前記第1電動機の発電量に相当する第1電動機出力が前記駆動力配分算出手段により算出された前記副駆動力よりも小さい場合に、前記解放クラッチを解放状態にするとともに前記第1電動機出力を出力するように前記第3電動機を力行制御し、前記第1電動機出力が前記副駆動力以上の場合に、前記解放クラッチを係合状態にするとともに前記副駆動力を出力するように前記第3電動機を力行制御する前後輪駆動制御手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0012】
そして、請求項4の発明は、内燃機関と第1電動機とが該第1電動機の回転を制御することにより該内燃機関の出力トルクを変速するようにそれぞれ第1動力分配合成機構および駆動軸を介して前後輪いずれか一方の主駆動輪に動力伝達可能に連結され、かつ第2電動機が第2動力分配合成機構および前記駆動軸を介して前記主駆動輪に動力伝達可能に連結されるとともに、第3電動機が前後輪いずれか他方の副駆動輪に内蔵されて動力伝達可能に連結されたハイブリッド車の制御装置において、解放状態にされることにより前記第2電動機と前記主駆動輪との間の動力伝達を遮断する解放クラッチと、係合状態にされることにより前記第1電動機の回転を固定する固定クラッチと、前記解放クラッチが解放状態にされ、かつ前記第1電動機が力行制御される場合に、前記固定クラッチを係合状態にする固定クラッチ制御手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、車両の走行中に、第2電動機が運転されない状態であるためにその第2電動機で発生する引き摺り損失を抑制するため、解放クラッチが解放状態にされて第2電動機と駆動軸すなわち主駆動輪との間の動力伝達が遮断された場合であって、なおかつ内燃機関と共に第1動力分配合成機構に連結されて内燃機関の出力トルクを変速するために回転制御される第1電動機が力行状態である場合には、副駆動輪の駆動力を制御する第3電動機の力行・回生状態が考慮されて、その第3電動機の発電量に基づいて解放クラッチの係合・解放状態が選択的に設定されるように制御される。例えば、解放クラッチが解放状態にされ、かつ第1電動機が力行制御されている状態で、第3電動機で発電しても車両のドライバビリティに影響しないような場合は、解放クラッチがそのまま解放状態に維持され、第3電動機が回生制御されて発電が行われる。一方、第3電動機で発電することにより車両のドライバビリティに影響を及ぼすような場合には、解放クラッチが係合状態にされて第2電動機の回転が制御される。
【0014】
したがって、第3電動機の発電量に応じて、解放クラッチの係合・解放状態を適宜に切り替えて設定することができる。そのため、第2電動機での引き摺り損失や、第1電動機が力行される際に第2電動機で発電しながら走行することによる効率が低下した状態すなわちいわゆる動力循環が発生する機会、あるいは解放クラッチの係合・解放状態が切り替えられる頻度を低減することができ、その結果、車両の燃費を向上させることができる。また、解放クラッチが係合・解放されることに伴うドライバビリティの低下を防止もしくは抑制することができる。
【0015】
また、請求項2の発明によれば、解放クラッチが解放状態にされ、かつ第1電動機が力行制御されている状態で、例えば、第3電動機で発電しても車両のドライバビリティに影響しないような場合は、解放クラッチがそのまま解放状態に維持され、第3電動機が回生制御されて発電が行われる。一方、第3電動機で発電することにより車両のドライバビリティに影響を及ぼすような場合には、第1電動機の力行制御における出力トルクが抑制される。そのため、第3電動機の発電量に応じて、解放クラッチの係合・解放状態を適宜に切り替えて設定することができ、その結果、第2電動機での引き摺り損失や第1電動機と第2電動機との間の動力循環などが発生する機会、あるいは解放クラッチの係合・解放状態が切り替えられる頻度を低減して、車両の燃費を向上させることができる。また、解放クラッチが係合・解放されることに伴うドライバビリティの低下を防止もしくは抑制することができる。
【0016】
さらに、請求項3の発明によれば、内燃機関と共に第1動力分配合成機構に連結されて内燃機関の出力トルクを変速するために回転制御される第1電動機の発電量が求められ、その発電量に相当する出力、言い換えるとその発電量の電力を発生させるために必要な出力である第1電動機出力と、車両に要求される駆動力を主駆動輪と副駆動輪とで分担させる際の配分比から求まる副駆動輪で受け持つ駆動力である副駆動力とが比較される。そして、第1電動機出力が副駆動力よりも小さい場合は、解放クラッチが解放状態にされ、併せて第3電動機が第1電動機出力分を出力するように力行制御される。そのため、第2電動機で発生する引き摺り損失を抑制して車両の燃費を向上させることができる。一方、第1電動機出力が副駆動力以上の場合は、解放クラッチが係合状態にされ、併せて第3電動機が副駆動力を出力するように力行制御される。そのため、副駆動輪で受け持つべき駆動力を第3電動機により出力することができ、その結果、前後輪駆動状態で走行する際の走行性能を適切に確保することができる。
【0017】
そして、請求項4の発明によれば、車両の走行中に、第2電動機で発生する引き摺り損失を抑制するために解放クラッチが解放されて第2電動機と駆動軸すなわち主駆動輪との間の動力伝達が遮断された場合であって、なおかつ内燃機関と共に第1動力分配合成機構に連結されて内燃機関の出力トルクを変速するために回転制御される第1電動機が力行状態である場合には、固定クラッチが係合状態にされて第1電動機の回転が固定される。したがって、内燃機関の出力トルクが一定に維持された状態で、その内燃機関の出力トルクにより車両が駆動される。また、その際に第3電動機は回生制御される。そのため、第2電動機での引き摺り損失や第1電動機と第2電動機との間の動力循環が発生する機会、あるいは解放クラッチの係合・解放状態が切り替えられる頻度を低減することができ、その結果、車両の燃費を向上させることができる。また、解放クラッチが係合・解放されることに伴うドライバビリティの低下を防止もしくは抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。図6にこの発明で対象とするハイブリッド車の構成および制御系統の一例を示してある。図6に示す車両Veは、動力の発生原理が異なる2種類の動力源を有している。すなわち、エンジン(ENG)1と、発電機能のある電動機として第1,第2の2つのモータ・ジェネレータ(MG1、MG2)2,3とが動力源として設けられている。
【0019】
エンジン1は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン、あるいは天然ガスエンジンなどの燃料を燃焼して動力を出力する動力機関であり、好ましくは、例えば電子制御式のスロットルバルブ(図示せず)を備え出力を電気的に自動制御することができ、また所定の負荷に対して回転数を制御することにより燃費が最も良好な最適運転点に設定できる内燃機関である。
【0020】
各モータ・ジェネレータ2,3は、一例として、同期電動機によって構成されており、発電機および電動機として機能するように、言い換えると、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備するように構成されている電動機である。それら2つのモータ・ジェネレータ2,3は、それぞれ、ロータ2a,3aおよびステータ2b,3bを有しており、それらのステータ2b,3bがいずれもケーシング4などに固定されている。
【0021】
また、各モータ・ジェネレータ2,3は、それぞれに対応して設けられたインバータ5,6を介して、バッテリあるいはキャパシタなどの蓄電装置7,8にそれぞれ接続されている。また、インバータ5とインバータ6とを接続する電気回路9が設けられており、蓄電装置7と蓄電装置8との間で電力の授受を行うことが可能なように構成されているとともに、モータ・ジェネレータ2とモータ・ジェネレータ3との間で、蓄電装置7,8を経由することなく、電力の授受を行うことが可能なように構成されている。したがって、一方のモータ・ジェネレータ2(もしくは3)を発電機として機能させ、その発電された電力を他方のモータ・ジェネレータ3(もしくは2)に与えてこれをモータとして機能させるようことが可能なように構成されている。また蓄電装置7,8からそれぞれのモータ・ジェネレータ2,3に電力を供給して、そのモータ・ジェネレータ2,3をモータとして機能させることも可能なように構成されている。
【0022】
上記のエンジン1および各モータ・ジェネレータ2,3による動力源から出力される動力が、第1,第2の2つの動力合成分配機構10,11および駆動軸12を経由して車両Veの左右の後輪であって(図6では車両Veの左側半分を省略して示している)、この発明における主駆動輪に相当する駆動輪13に伝達されるように動力伝達経路が構成されている。すなわち、エンジン1およびこの発明における第1電動機に相当する第1モーター・ジェネレータ2が、第1動力合成分配機構10および駆動軸12を介して駆動輪13に動力伝達可能に連結されている。また、この発明における第2電動機に相当する第2モータ・ジェネレータが、第2動力合成分配機構11および駆動軸12を介して駆動輪13に動力伝達可能に連結されている。なお、エンジン1の出力軸1aと第1動力合成分配機構10との間に、ダンパ機構(図示せず)などのトルク変動や振動などに対する緩衝装置を配置することもできる。
【0023】
第1動力合成分配機構10は、動力の合成もしくは分配の機能を有する3要素の差動歯車機構により構成されるものであって、したがって、例えばシングルピニオン型遊星歯車機構やダブルピニオン型遊星歯車機構を用いて構成することができる。この図6に示す例では、キャリア10cを入力要素、サンギヤ10sを反力要素、リングギヤ10rを出力要素としたシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されている。
【0024】
すなわち、外歯歯車であるサンギヤ10sの外周側に、内歯歯車であるリングギヤ10rがサンギヤ10sに対して同心円上に配置され、これらのサンギヤ10sとリングギヤ10rとに噛み合っているピニオンギヤ10pが、キャリア10cによって自転自在かつ公転自在に保持されている。そして、そのキャリア10cにエンジン1の出力軸1aすなわちクランクシャフトなどの出力部材が連結されている。したがってキャリア10cが入力要素となっている。
【0025】
また、第1動力分配機構10のリングギヤ10rに、駆動軸12が連結されている。そしてその駆動軸12は、デファレンシャル14を介して、駆動輪13に連結されている。したがってリングギヤ10rが出力要素となっている。
【0026】
そして、第1動力分配機構10のサンギヤ10sに、第1モータ・ジェネレータ(MG1)2が連結されている。すなわち、第1モータ・ジェネレータ2のロータ2aがサンギヤ10sに連結され、前述したように第1モータ・ジェネレータ2のステータ2bはケーシング4などに固定されている。したがってサンギヤ10sが反力要素となっている。
【0027】
さらに、第1モーター・ジェネレータ2のロータ2aは、クラッチ15に連結されている。すなわち、このクラッチ15は、その本体部分がケーシング4等に固定されていて、係合状態にされることによりロータ2aの回転を規制して固定するいわゆるブレーキ装置であり、したがってこの発明における固定クラッチに相当するものである。なお、このクラッチ15は、通常時は解放状態に設定されている。
【0028】
一方、第2動力合成分配機構11は、上記の第1動力合成分配機構10と同様に、動力の合成もしくは分配の機能を有する3要素の差動歯車機構により構成されるものであって、したがって、例えばシングルピニオン型遊星歯車機構やダブルピニオン型遊星歯車機構を用いて構成することができる。この図6に示す例では、サンギヤ11sを入力要素、リングギヤ11rを反力要素、キャリア11cを出力要素としたシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されている。
【0029】
すなわち、外歯歯車であるサンギヤ11sの外周側に、内歯歯車であるリングギヤ11rがサンギヤ11sに対して同心円上に配置され、これらのサンギヤ11sとリングギヤ11rとに噛み合っているピニオンギヤ11pが、キャリア11cによって自転自在かつ公転自在に保持されている。そして、そのサンギヤ11sには、第2モータ・ジェネレータ3のロータ3aが連結されている。したがってサンギヤ11sが入力要素となっている。
【0030】
また、第2動力合成分配機構11のキャリア11cに、駆動軸12が連結されている。そしてその駆動軸12は、デファレンシャル14を介して、駆動輪13に連結されている。したがってキャリア11cが出力要素となっている。
【0031】
そして、第2動力合成分配機構11のリングギヤ11rは、クラッチ16に連結されている。すなわち、このクラッチ16は、その本体部分がケーシング4等に固定されていて、係合状態にされることによりリングギヤ11rの回転を規制して固定するいわゆるブレーキ装置である。したがってリングギヤ11rが反力要素となっている。
【0032】
ここで、クラッチ16は、通常時は係合状態に設定されていてリングギヤ11rの回転を固定しているブレーキ装置であって、このクラッチ16を解放状態にすることにより、リングギヤ11rの固定が解除されてリングギヤ11rが第2動力合成分配機構11の反力要素として機能しなくなる。すなわち、第2動力合成分配機構11が差動機構として機能しなくなって各回転要素の間で動力伝達が行われない状態になる。したがって、このクラッチ16は、解放状態にされることにより第2モータ・ジェネレータ3と駆動軸12すなわち駆動輪13との間の動力伝達を遮断するブレーキ装置であり、この発明における固定クラッチに相当するものである。
【0033】
上記のように、3要素の差動歯車機構により構成された第2動力合成分配機構11の入力要素および出力要素に第2モーター・ジェネレータ3および駆動軸12がそれぞれ連結され、第2動力合成分配機構11の反力要素がクラッチ16により通常時は固定されていることによって、その第2動力合成分配機構11の遊星歯車機構の差動作用により、第2動力合成分配機構11に伝達される第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクを減速させて駆動軸12に伝達すること、言い換えると、第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクを増幅させて駆動軸12に伝達することが可能である。すなわち、第2動力合成分配機構11の入力要素であるサンギヤ11sに入力された第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクは、そのトルクの回転数が減速されて、すなわちトルクが増幅されて出力要素であるキャリア11cに連結された駆動軸12に出力される。
【0034】
したがって、クラッチ16が係合されている通常時に第2モータ・ジェネレータ3を力行制御してトルクを出力することにより、駆動軸12には、第1動力合成分配機構10を経由して伝達されたエンジン1および第1モーター・ジェネレータ2の出力トルクに加えて、第2動力合成分配機構11で増幅された第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクが付加されることになる。そのため、駆動輪13に駆動力を発生させて車両Veを走行させる場合に、駆動軸12および駆動輪13に伝達されるトルクに対して、増幅された第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクを付加することができ、駆動輪13に十分な駆動力を発生させることができる。
【0035】
なお、前述したように、クラッチ16は、通常時は係合状態に設定されていて第2動力合成分配機構11のリングギヤ11rの回転を固定し、そのリングギヤ11rを、第2動力合成分配機構11が第2モータ・ジェネレータ3と駆動軸12との間における減速機となる場合の反力要素として機能させているが、解放状態に設定されることにより、第2モータ・ジェネレータ3と駆動軸12すなわち駆動輪13との間の動力伝達を遮断することができる。したがって、第2モータ・ジェネレータ3が回転制御されていない状態で車両Veが走行している場合に、クラッチ16を解放状態に設定して第2モータ・ジェネレータ3と駆動輪13との間の動力伝達を遮断することにより、第2モータ・ジェネレータ3が連れ回されて引き摺り損失が発生してしまうことを回避することができる。
【0036】
そして、車両Veの左右の前輪であって、この発明における副駆動輪に相当する駆動輪17に、この発明における第3電動機に相当する第3モータ・ジェネレータ18が内蔵されて動力伝達可能に連結されている。具体的には、駆動輪17のホイール内部には、第3モータ・ジェネレータ18が組み込まれている。すなわち、第3モータ・ジェネレータ18はいわゆるインホイールモータ(IWM)18であって、一例として、同期電動機によって構成されており、発電機および電動機として機能するように、言い換えると、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備するように構成されている電動機である。
【0037】
インホイールモータ18は、インバータ19を介してバッテリあるいはキャパシタなどの蓄電装置20に接続されている。また、インバータ19は、前述のインバータ5とインバータ6とを接続する電気回路9に同様に接続されている。したがって、この蓄電装置20が、前述の蓄電装置7および蓄電装置8との間で相互に電力の授受を行うことが可能であるとともに、このインホイールモータ18が、前述のモータ・ジェネレータ2およびモータ・ジェネレータ3との間で、蓄電装置7,8,20を経由することなく、電力の授受を行うことも可能になっている。
【0038】
つぎに、制御系統について説明する。上記のように構成された車両Veを制御する電子制御装置(ECU)21が設けられている。電子制御装置21には、例えば、車速センサ、エンジン1の回転数センサ、各モータ・ジェネレータ2,3,18の回転数センサ、駆動軸12の回転数センサ、各駆動輪13,17の回転数センサ、各駆動輪13,17のトルクセンサ、各蓄電装置7,8,20の充電量を検知するセンサ(いずれも図示せず)などの各種センサ類からの信号、および各インバータ5,6,19からの信号などが入力される。
【0039】
このうち、各インバータ5,6,19から入力される信号に基づいて、各モータ・ジェネレータ2,3,18が力行制御される際の電力供給量あるいは各モータ・ジェネレータ2,3,18が回生制御される際の発電量を検出することができる。
【0040】
これに対して、電子制御装置21からは、エンジン1を制御する信号、各モータ・ジェネレータ2,3,18(すなわち各インバータ5,6,19)をそれぞれ制御する信号、そして各クラッチ15,16をそれぞれ制御する信号などが出力される。
【0041】
車両Veにおいて、エンジン1が運転されて、その出力トルクが第1動力合成分配機構10のキャリア10cに伝達されると、第1モータ・ジェネレータ2により反力トルクが受け持たれて、エンジン1の出力トルクがリングギヤ10rに伝達される。そしてリングギヤ10rに伝達されたトルクが、駆動軸12およびデファレンシャル14を経由して駆動輪13に伝達されて駆動力が発生する。このとき動力分配機構14においては、前述したように、3要素の差動歯車機構により構成された第1動力合成分配機構10の各回転要素にエンジン1および第1モーター・ジェネレータ2ならびに駆動軸12がそれぞれ連結されていることによって、その第1動力合成分配機構10の遊星歯車機構の差動作用により、第1動力合成分配機構10に伝達されるエンジン1の出力トルクを変速させて駆動軸12に伝達することが可能である。
【0042】
すなわち、第1動力合成分配機構10の入力要素であるキャリア10cに入力されたエンジン1の出力トルクは、反力要素であるサンギヤ10sに連結された第1モータ・ジェネレータ3の回転を制御することにより、トルクの回転数が変速されて出力要素であるリングギヤ10rに連結された駆動軸12に出力される。したがって、キャリア10cにエンジン1の出力が入力されている状態でサンギヤ10sに連結された第1モータ・ジェネレータ3の回転を連続的に制御することにより、リングギヤ10rすなわち駆動軸12の回転数を無段階に(連続的に)制御することが可能である。つまり、第1動力合成分配機構10は無段変速機としての機能を有している。
【0043】
ここで、第1動力合成分配機構10における変速比制御について説明すると、この第1動力合成分配機構10における変速比制御は、エンジン1の燃費を向上させることを目的として、エンジン1の運転状態と、第1動力合成分配機構10の変速比とを協調制御するものである。例えば、加速要求(アクセル開度)および車速に基づいて、車両Veにおける要求駆動力が求められる。これは、例えば予め用意したマップなどから求めることができる。その要求駆動力と車速とからエンジン1の要求出力が算出され、その要求出力を最小の燃費で出力する目標エンジン回転数が、マップなどから求められる。そして、実エンジン回転数を燃費の良好な目標エンジン回転数に近づけるように、第1モータ・ジェネレータ2の出力(トルク×回転数)が制御される。この制御と並行して、実エンジン出力を目標エンジン出力に近づけるように、エンジン1の電子スロットルバルブの開度などが制御される。このように、第1動力合成分配機構10の変速比を制御することにより、エンジン1の運転状態を最適燃費線に沿って制御することが可能である。
【0044】
また、第2モータ・ジェネレータ3を電動機として駆動させ、第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクを、第2動力合成分配機構11を経由させて駆動輪13に伝達させる制御を実行可能である。すなわち、駆動輪13にトルクを伝達して駆動力を発生させる場合、エンジン1または第2モータ・ジェネレータ3の少なくとも一方の出力トルクを駆動輪13に伝達可能であり、いずれの動力源の出力トルクまたは両方の動力源の出力トルクを伝達するかが、電子制御装置21に入力される信号およびデータに基づいて判断される。
【0045】
また、車両Veが惰力走行する場合は、車両Veの運動エネルギが第2動力合成分配機構11および第1動力合成分配機構10を経由してエンジン1に伝達され、エンジンブレーキ力が発生する。また、この車両Veの惰力走行時に、駆動輪13側から第2動力合成分配機構11に伝達された運動エネルギの一部を第2モータ・ジェネレータ3に伝達することにより、その第2モータ・ジェネレータ3で回生制動力を発生させ、発生した電力を蓄電装置8に蓄電することが可能である。
【0046】
あるいは、上記のような車両Veの惰力走行時もしくは車両Veが第2モータ・ジェネレータ3以外の動力源の出力トルクにより駆動されている走行時に、上記のような第2モータ・ジェネレータ3での回生制動力を必要としない場合は、前述したように、クラッチ16を解放状態に制御して、第2モータ・ジェネレータ3と駆動軸12すなわち駆動輪13との間の動力伝達を遮断することにより、第2モータ・ジェネレータ3での引き摺り損失の発生を回避することができる。
【0047】
一方、駆動輪17に内蔵された第3モータ・ジェネレータ18の駆動時には、バッテリ20の直流電力がインバータ19によって交流電力に変換され、その交流電力がインホイールモータ18に供給されることによりインホイールモータ18が力行されて、駆動輪17に駆動トルクが付与される。また、インホイールモータ18は駆動輪17の回転エネルギを利用して回生制御することも可能である。すなわち、インホイールモータ18の回生・発電時には、駆動輪17の回転(運動)エネルギがインホイールモータ18によって電気エネルギに変換され、その際に生じる電力がインバータ19を介してバッテリ20に蓄電される。このとき、駆動輪17には回生・発電に基づく制動トルクが付与される。
【0048】
したがって、電子制御装置21によってインホイールモータ18の回転状態を制御すること、すなわちインホイールモータ18の力行・回生状態を制御することにより、例えば要求駆動力に基づいて駆動輪17に作用させる駆動力(もしくは制動力)を制御することができる。言い換えると、要求駆動力に基づいて走行のために駆動輪17に駆動トルク(もしくは制動トルク)を付与することができる。
【0049】
このように、この車両Veは、動力源としてのエンジン1および各モータ・ジェネレータ2,3と各動力合成分配機構10,11とから構成されるハイブリッド駆動装置により駆動される左右後輪13すなわち駆動輪13と、インホイールモータ18により駆動される左右前輪17すなわち駆動輪17とを備えた前後輪駆動方式の四輪駆動車両Veとなっている。そして、電子制御装置21では、車両Veを走行させる際の要求駆動力に対して、駆動輪13で受け持つ駆動力と駆動輪17で受け持つ駆動力とを、もしくは駆動輪13で受け持つ駆動力と駆動輪17で受け持つ駆動力との割合(すなわち駆動力の前後輪への配分比)を、車両Veの走行状態やエンジン1あるいは各モータ・ジェネレータ2,3,18の運転状態などに基づいて算出するように構成されている。
【0050】
前述したように、この発明のハイブリッド車Veは、第2モータ・ジェネレータ3の引き摺り損失や各モータ・ジェネレータ2,3の間での動力循環の発生を防止もしくは抑制して燃費を向上させることを目的としていて、そのために、以下の制御を実行するように構成されている。
【0051】
(第1制御例)
先ず、この発明の制御装置による第1制御例を説明する。この第1制御例は、第2モータ・ジェネレータ3と主駆動輪である駆動輪13との間の動力伝達経路を接続・遮断するクラッチ16の係合・解放状態を、副駆動輪である駆動輪17を駆動させる第3モータ・ジェネレータ18すなわちインホイールモータ18の発電量に応じて選択的に設定する制御を行うようにした例である。
【0052】
図1は、その第1制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、先ず、クラッチ16が解放状態であるか否かは判断される(ステップS11)。前述したようにこのクラッチ16は、解放されることにより第2モータ・ジェネレータ3のロータ3aと駆動軸12すなわち駆動輪13との間の動力伝達を遮断するこの発明における解放クラッチである。
【0053】
したがって、クラッチ16が解放状態でないこと、すなわちクラッチ16が係合状態であって第2モータ・ジェネレータ3と駆動輪13との間で動力伝達が可能な状態であることにより、このステップS11で否定的に判断された場合は、ステップS12へ進み、この発明による制御は実行されず通常の制御が実行される。そしてその後、この図1のフローチャートで示されるルーチンを一旦終了する。
【0054】
一方、クラッチ16が解放状態であること、すなわち第2モータ・ジェネレータ3と駆動輪13との間の動力伝達が遮断された状態であることにより、ステップS11で肯定的に判断された場合には、ステップS13へ進み、第1モータ・ジェネレータ2が力行制御されているか否かが判断される。第1モータ・ジェネレータ2の回転制御の状態が力行状態でないことにより、このステップS13で否定的に判断された場合は、前述のステップS11で否定的に判断された場合と同様に、ステップS12へ進み、そしてその後、この図1のフローチャートで示されるルーチンを一旦終了する。
【0055】
一方、第1モータ・ジェネレータ2の回転制御の状態が力行状態であることにより、ステップS13で肯定的に判断された場合には、ステップS14へ進み、その状態でインホイールモータ18を回生制御した際の発電量が算出されるとともに、その発電量を発電するようにインホイールモータ18を回生制御した場合に車両Veのドライバビリティに影響が有るか否かが判断される。
【0056】
これは、クラッチ16が解放状態にされかつ第1モータ・ジェネレータ2が力行制御されている状態、すなわちエンジン1の出力トルクにより車両Veを駆動して走行している状態で、インホイールモータ18を回生制御した場合に、その回生制御の際のインホイールモータ18の発電量に基づく制動トルクが駆動輪17に作用することにより、ショックが発生するなどして車両Veのドライバビリティが低下してしまうことを回避するための制御である。
【0057】
したがって、上記の状態でインホイールモータ18を回生制御しても車両Veのドライバビリティには影響しないと判断されたことにより、このステップS14で否定的に判断された場合は、ステップS15へ進み、インホイールモータ18が回生制御される。したがって、インホイールモータ18は、車両Veのドライバビリティに影響しない状態に限って回生制御されることになり、車両Veの乗員に与えるショックや違和感の発生が回避されて、車両Veのドライバビリティが良好に維持される。そしてその後、この図1のフローチャートで示されるルーチンを一旦終了する。
【0058】
これに対して、上記の状態でインホイールモータ18を回生制御することにより車両Veのドライバビリティに影響を及ぼす可能性が有ると判断されたことにより、ステップS14で肯定的に判断された場合には、ステップS16へ進み、クラッチ16が係合状態に設定されて、第2モータ・ジェネレータ3と駆動輪13との間で動力伝達が可能な状態にされる。
【0059】
したがって、車両Veの走行時に、第1モータ・ジェネレータ2が力行制御されていて、なおかつインホイールモータ18で回生制御を行うと車両Veのドライバビリティに影響を及ぼす可能性が有る場合にのみ、クラッチ16が係合状態にされる。すなわち、第2モータ・ジェネレータ3と駆動輪13との間が動力伝達可能な状態にされる。その結果、車両Veの走行時に第2モータ・ジェネレータ3で引き摺り損失が発生する機会や、第1モータ・ジェネレータ2と第2モータ・ジェネレータ3との間でいわゆる動力循環が発生する機会が低減する。そしてその後、この図1のフローチャートで示されるルーチンを一旦終了する。
【0060】
このように、この第1制御例では、インホイールモータ18の発電量に応じて、インホイールモータ18を回生制御して所定の発電量を発電した際に車両Veのドライバビリティに与える影響に応じて、クラッチ16の係合・解放状態を適宜に切り替えて設定することができる。そのため、第2モータ・ジェネレータ3での引き摺り損失や、第1モータ・ジェネレータ2と第2モータ・ジェネレータ3との間の動力循環が発生する機会、あるいはクラッチ16の係合・解放状態が切り替えられる頻度を低減することができる。その結果、車両Veの燃費を向上させることができ、また、クラッチ16が係合・解放される際や、インホイールモータ18が回生制御される際のショックや違和感の発生を防止もしくは抑制することができる。
【0061】
(第2制御例)
つぎに、この発明の制御装置による第2制御例を説明する。この第2制御例は、第2モータ・ジェネレータ3と駆動輪13との間の動力伝達経路を接続・遮断するクラッチ16の係合・解放状態を、駆動輪17を駆動させる第3モータ・ジェネレータ18すなわちインホイールモータ18の発電量に応じて選択的に設定するとともに、第1モータ・ジェネレータ2の出力トルクを変更する制御を行うようにした例である。
【0062】
図2は、その第2制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。また、ステップS21以外の各ステップにおける制御内容は、前述の図1に示す第1制御例と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0063】
図2において、ステップS14で肯定的に判断された場合には、ステップS21へ進み、第1モータ・ジェネレータ2の力行制御が抑制されるとともに、インホイールモータ18の回生制御が抑制される。言い換えると、力行制御されている第1モータ・ジェネレータ2の出力トルクが低下するように変更されるとともに、インホイールモータ18での発電量を抑制するようにそのインホイールモータ18が回生制御される。そしてその後、この図2のフローチャートで示されるルーチンを一旦終了する。
【0064】
このように、この第2制御例では、クラッチ16が解放状態にされ、かつ第1モータ・ジェネレータ2が力行制御されている状態で、例えば、インホイールモータ18で発電しても車両Veのドライバビリティに影響しないような場合は、クラッチ16がそのまま解放状態に維持され、インホイールモータ18が回生制御されて発電が行われる。一方、インホイールモータ18で発電することにより車両Veのドライバビリティに影響を及ぼすような場合には、第1モータ・ジェネレータ2の力行制御における出力トルクが抑制される。
【0065】
したがって、インホイールモータ18の発電量に応じて、クラッチ16の係合・解放状態を適宜に切り替えて設定することができ、そのため、第2モータ・ジェネレータ3での引き摺り損失や第1モータ・ジェネレータ2と第2モータ・ジェネレータ3との間の動力循環などが発生する機会、あるいはクラッチ16の係合・解放状態が切り替えられる頻度を低減することができる。その結果、車両Veの燃費を向上させることができ、また、クラッチ16が係合・解放される際や、インホイールモータ18が回生制御される際のショックや違和感の発生を防止もしくは抑制することができる。
【0066】
(第3制御例)
つぎに、この発明の制御装置による第3制御例を説明する。この第3制御例は、第2モータ・ジェネレータ3と駆動輪13との間の動力伝達経路を接続・遮断するクラッチ16の係合・解放状態を、第1モータ・ジェネレータ2の発電量と車両Veの駆動力の前後輪に対する配分比とに基づいて選択的に設定する制御を行うようにした例である。
【0067】
図3は、その第3制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図3において、先ず、第1モータ・ジェネレータ2の発電量、すなわち第1動力合成分配機構10でエンジン1の出力トルクを変速するために反力要素として第1モータ・ジェネレータ2が回生制御される際の発電量から、その発電量に相当する第1電動機出力P_MG1、言い換えると、その発電量の電力を発生させるために必要な第1電動機出力P_MG1が求められる(ステップS31)。
【0068】
また、車両Veに要求される駆動力(必要出力)を前後輪の振り分ける際の配分比、言い換えると、必要出力を、後輪(主駆動輪)すなわち駆動輪13で受け持つ駆動力と、前輪(副駆動輪)すなわち駆動輪17で受け持つ駆動力との割合が求められ、その配分比から駆動輪(前輪)17で受け持つ副駆動力P_Frが求められる(ステップS32)。すなわち、「副駆動力P_Fr=必要出力×前輪(フロント)配分比」として算出される。
【0069】
第1モータ・ジェネレータ2の発電量に相当する第1電動機出力P_MG1、および駆動輪(前輪)17で受け持つ副駆動力P_Frが求められると、それら第1電動機出力P_MG1と副駆動力P_Frとの大きさが比較され、第1電動機出力P_MG1が副駆動力P_Frよりも小さいか否かが判断される(ステップS33)。
【0070】
第1電動機出力P_MG1が副駆動力P_Frよりも小さいことにより、このステップS33で肯定的に判断された場合は、ステップS34へ進み、クラッチ16が解放状態に設定されて、第2モータ・ジェネレータ3と駆動輪13との間の動力伝達が遮断される。
【0071】
そして、上記の第1電動機出力P_MG1を出力するようにインホイールモータ18が力行制御される(ステップS35)。そしてその後、この図3のフローチャートで示されるルーチンを一旦終了する。
【0072】
これに対して、第1電動機出力P_MG1が副駆動力P_Fr以上であることにより、ステップS33で否定的に判断された場合には、ステップS36へ進み、クラッチ16が係合状態に設定されて、第2モータ・ジェネレータ3と駆動輪13との間で動力伝達が可能な状態にされる。
【0073】
続いて、上記の副駆動力P_Frを出力するようにインホイールモータ18が力行制御され(ステップS37)、そして、上記の第1電動機出力P_MG1から副駆動力P_Frを引いた分の力を出力するように第2モータ・ジェネレータ3が力行制御される(ステップS38)。そしてその後、この図3のフローチャートで示されるルーチンを一旦終了する。
【0074】
このように、この第3制御例では、エンジン1と共に第1動力分配合成機構10に連結されてエンジン1の出力トルクを変速するために回転制御される第1モータ・ジェネレータ2の発電量が求められ、その発電量に相当する出力、言い換えると、その発電量の電力を発生させるために必要な出力である第1電動機出力P_MG1と、車両Veに要求される駆動力を駆動輪(後輪)13と駆動輪(前輪)17とで分担させる際の配分比から求まる駆動輪17で受け持つ駆動力である副駆動力P_Frとが比較される。そして、第1モータ・ジェネレータ2の第1電動機出力P_MG1が副駆動力P_Frよりも小さい場合は、クラッチ16が解放状態にされ、併せてインホイールモータ18が第1電動機出力P_MG1分を出力するように力行制御される。
【0075】
そのため、第2モータ・ジェネレータ3で発生する引き摺り損失を抑制して車両Veの燃費を向上させることができる。一方、第1モータ・ジェネレータ2の第1電動機出力P_MG1が副駆動力P_Fr以上の場合は、クラッチ16が係合状態にされ、併せてインホイールモータ18が副駆動力P_Frを出力するように力行制御される。そのため、駆動輪17で受け持つべき駆動力をインホイールモータ18により出力することができ、その結果、車両Veが前後輪駆動状態で走行する際の走行性能を適切に確保することができる。
【0076】
(第4制御例)
つぎに、この発明の制御装置による第4制御例を説明する。この第4制御例は、クラッチ16が解放状態にされ、かつ第1モータ・ジェネレータ2が力行制御される場合に、係合状態にされることにより第2モータ・ジェネレータ3の回転を規制して固定するクラッチ15を係合状態にする制御を行うようにした例である。
【0077】
図4は、その第4制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。また、ステップS41,S42以外の各ステップにおける制御内容は、前述の図1に示す第1制御例と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0078】
図4において、ステップS13で肯定的に判断された場合、すなわち、クラッチ16が解放状態にされていて、かつ第1モータ・ジェネレータ2が力行制御されている場合には、ステップS41へ進み、クラッチ15が係合状態に設定されて、第1モータ・ジェネレータ2の回転が固定される。
【0079】
そして、インホイールモータ18が回生制御され(ステップS42)、そしてその後、この図4のフローチャートで示されるルーチンを一旦終了する。
【0080】
このように、この第4制御例では、車両Veの走行中に、第2モータ・ジェネレータ3で発生する引き摺り損失を抑制するためにクラッチ16が解放されて第2モータ・ジェネレータ3と駆動輪13との間の動力伝達が遮断された場合であって、なおかつエンジン1と共に第1動力分配合成機構10に連結されてエンジン1の出力トルクを変速するために回転制御される第1モータ・ジェネレータ2が力行状態である場合には、クラッチ15が係合状態にされて第1モータ・ジェネレータ2の回転が固定される。
【0081】
したがって、エンジン1の出力トルクが一定に維持された状態で、そのエンジン1の出力トルクにより車両Veが駆動される。また、その際にインホイールモータ18は回生制御される。そのため、第2モータ・ジェネレータ3での引き摺り損失や第1モータ・ジェネレータ2と第2モータ・ジェネレータ3との間の動力循環が発生する機会、あるいはクラッチ16の係合・解放状態が切り替えられる頻度を低減することができ、その結果、車両Veの燃費を向上させることができる。また、クラッチ16が係合・解放されることに伴うドライバビリティの低下を防止もしくは抑制することができる。
【0082】
(第5制御例)
つぎに、この発明の制御装置による第5制御例を説明する。この第5制御例は、第2モータ・ジェネレータ3と駆動輪13との間の動力伝達経路を接続・遮断するクラッチ16の係合・解放状態を、エンジン1の運転・停止状態に応じて選択的に設定する制御を行うようにした例である。
【0083】
図5は、その第5制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図5において、先ず、エンジン1が停止状態であるか否かが判断される(ステップS51)。エンジン1が停止状態であることにより、このステップS51で肯定的に判断された場合は、ステップS52へ進み、クラッチ16の係合状態が引き続き維持される。
【0084】
そして、第2モータ・ジェネレータ3およびインホイールモータ18が、その際の車両Veの走行状態や要求駆動力等に応じて適宜に力行制御あるいは回生制御される(ステップS53)。そしてその後、この図5のフローチャートで示されるルーチンを一旦終了する。
【0085】
これに対して、エンジン1が停止状態でないこと、すなわちエンジン1が運転状態であることにより、ステップS51で否定的に判断された場合には、ステップS54へ進み、クラッチ16が解放状態にされて、第2モータ・ジェネレータ3と駆動輪13との間の動力伝達が遮断される。したがって、エンジン1が出力する動力により車両Veが走行する際に、第2モータ・ジェネレータ3で引き摺り損失が発生してしまうことが回避される。
【0086】
そして、インホイールモータ18が、その際の車両Veの走行状態や要求駆動力等に応じて適宜に力行制御あるいは回生制御される(ステップS55)。したがって、第2モータ・ジェネレータ3での引き摺り損失を回避するためにクラッチ16が解放状態にされた場合に、第2モータ・ジェネレータ3に代わってインホイールモータ18で、車両Veの走行状態や要求駆動力等に応じて力行制御もしくは回生制御が行われる。そしてその後、この図5のフローチャートで示されるルーチンを一旦終了する。
【0087】
このように、この第5制御例では、エンジン1が運転されていて、そのエンジン1の出力トルクにより車両Veが走行する場合に、クラッチ16が解放状態にされることにより、第2モータ・ジェネレータ3での引き摺り損失の発生が防止もしくは抑制される。そのため、車両Veの燃費を向上させることができる。
【0088】
また、エンジン1が停止している場合、もしくは停止した場合は、クラッチ16の係合・解放状態が、係合状態に維持される、もしくは解放状態から係合状態に切り替えられる。したがって、エンジン1を始動する際には、クラッチ16は常に係合されている状態となり、そのエンジン1を始動させる際の反力トルクを、第2モータ・ジェネレータ3および第2動力合成分配機構11から駆動輪13に至る動力伝達経路内で吸収することができる。その結果、車両Veのドライバビリティを良好に維持することができる。
【0089】
ここで、上記の各フローチャートに示す制御例と、この発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS15,S16,S21,S41の機能的手段が、この発明の解放クラッチ制御手段に相当する。また、ステップS31の機能的手段が、この発明の発電量検出手段に相当し、ステップS32の機能的手段が、この発明の駆動力配分算出手段に相当し、ステップS34,S35,S36,S37,S38の機能的手段が、この発明の前後輪駆動制御手段に相当する。そして、ステップS41の機能的手段が、この発明の固定クラッチ制御手段に相当する。
【0090】
なお、上述した具体例では、後輪を内燃機関および第1,第2電動機によるいわゆるハイブリッド駆動装置で駆動し、前輪に第3電動機すなわちインホイールモータを設けた構成の車両を例に採って説明したが、この発明では、後輪にインホイールモータを設け、前輪をハイブリッド駆動装置により駆動するように構成した前後輪駆動方式のハイブリッド車両であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】この発明の制御装置による第1制御例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明の制御装置による第2制御例を説明するためのフローチャートである。
【図3】この発明の制御装置による第3制御例を説明するためのフローチャートである。
【図4】この発明の制御装置による第4制御例を説明するためのフローチャートである。
【図5】この発明の制御装置による第5制御例を説明するためのフローチャートである。
【図6】この発明の制御装置を適用可能な車両の構成および制御系統を模式的に示す概念図である。
【符号の説明】
【0092】
1…エンジン(内燃機関;ENG)、 2…第1モータ・ジェネレータ(第1電動機;MG1)、 3…第2モータ・ジェネレータ(第2電動機;MG2)、 10…第1動力合成分配機構、 11…第2動力合成分配機構、 12…駆動軸、 13…駆動輪(主駆動輪)、 15…クラッチ(固定クラッチ)、 16…クラッチ(解放クラッチ)、 17…駆動輪(副駆動輪)、 18…インホイールモータ,第3モータ・ジェネレータ(第3電動機;IWM)、 21…電子制御装置(ECU)、 Ve…車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と第1電動機とが該第1電動機の回転を制御することにより該内燃機関の出力トルクを変速するようにそれぞれ第1動力分配合成機構および駆動軸を介して前後輪いずれか一方の主駆動輪に動力伝達可能に連結され、かつ第2電動機が第2動力分配合成機構および前記駆動軸を介して前記主駆動輪に動力伝達可能に連結されるとともに、第3電動機が前後輪いずれか他方の副駆動輪に内蔵されて動力伝達可能に連結されたハイブリッド車の制御装置において、
解放状態にされることにより前記第2電動機と前記主駆動輪との間の動力伝達を遮断する解放クラッチと、
前記解放クラッチが解放状態にされ、かつ前記第1電動機が力行制御される場合に、前記第3電動機の発電量に応じて前記解放クラッチの係合・解放状態を選択的に設定する解放クラッチ制御手段と
を備えていることを特徴とするハイブリッド車の制御装置。
【請求項2】
前記解放クラッチ制御手段は、前記第3電動機の発電量に応じて前記第1電動機の出力トルクを変更する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車の制御装置。
【請求項3】
内燃機関と第1電動機とが該第1電動機の回転を制御することにより該内燃機関の出力トルクを変速するようにそれぞれ第1動力分配合成機構および駆動軸を介して前後輪いずれか一方の主駆動輪に動力伝達可能に連結され、かつ第2電動機が第2動力分配合成機構および前記駆動軸を介して前記主駆動輪に動力伝達可能に連結されるとともに、第3電動機が前後輪いずれか他方の副駆動輪に内蔵されて動力伝達可能に連結されたハイブリッド車の制御装置において、
解放状態にされることにより前記第2電動機と前記主駆動輪との間の動力伝達を遮断する解放クラッチと、
前記第1電動機の発電量を検出する発電量検出手段と、
要求される駆動力に対して前記主駆動輪で受け持つ主駆動力と前記副駆動輪で受け持つ副駆動力とを算出する駆動力配分算出手段と、
前記発電量検出手段により検出された前記第1電動機の発電量に相当する第1電動機出力が前記駆動力配分算出手段により算出された前記副駆動力よりも小さい場合に、前記解放クラッチを解放状態にするとともに前記第1電動機出力を出力するように前記第3電動機を力行制御し、前記第1電動機出力が前記副駆動力以上の場合に、前記解放クラッチを係合状態にするとともに前記副駆動力を出力するように前記第3電動機を力行制御する前後輪駆動制御手段と
を備えていることを特徴とするハイブリッド車の制御装置。
【請求項4】
内燃機関と第1電動機とが該第1電動機の回転を制御することにより該内燃機関の出力トルクを変速するようにそれぞれ第1動力分配合成機構および駆動軸を介して前後輪いずれか一方の主駆動輪に動力伝達可能に連結され、かつ第2電動機が第2動力分配合成機構および前記駆動軸を介して前記主駆動輪に動力伝達可能に連結されるとともに、第3電動機が前後輪いずれか他方の副駆動輪に内蔵されて動力伝達可能に連結されたハイブリッド車の制御装置において、
解放状態にされることにより前記第2電動機と前記主駆動輪との間の動力伝達を遮断する解放クラッチと、
係合状態にされることにより前記第1電動機の回転を固定する固定クラッチと、
前記解放クラッチが解放状態にされ、かつ前記第1電動機が力行制御される場合に、前記固定クラッチを係合状態にする固定クラッチ制御手段と
を備えていることを特徴とするハイブリッド車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−227051(P2009−227051A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73777(P2008−73777)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】