ハイブリッド車両の制御装置
【課題】ハイブリッド車両において、クラッチを用いた動力伝達モードの切替えを好適に行う。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置(100)は、第1電動機(MG1)、第2電動機(MG2)及び内燃機関(200)を含む動力要素と、駆動軸(500)と、第1回転要素(S1)、第2回転要素(R1)、第3回転要素(C1)を有する動力伝達機構(300)と、第1クラッチ(710)と、第2クラッチ(720)とを備えたハイブリッド車両を制御する。ハイブリッド車両の制御装置は、第1クラッチ及び第2クラッチを制御する切替手段(160)と、第2クラッチを結合させる第1制御手段(120)と、内燃機関の回転数を推定する回転数推定手段(130)と、推定された回転数が所定の閾値未満である場合に、内燃機関が起動していない状態で第1クラッチを結合させる第2制御手段(140)とを備える。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置(100)は、第1電動機(MG1)、第2電動機(MG2)及び内燃機関(200)を含む動力要素と、駆動軸(500)と、第1回転要素(S1)、第2回転要素(R1)、第3回転要素(C1)を有する動力伝達機構(300)と、第1クラッチ(710)と、第2クラッチ(720)とを備えたハイブリッド車両を制御する。ハイブリッド車両の制御装置は、第1クラッチ及び第2クラッチを制御する切替手段(160)と、第2クラッチを結合させる第1制御手段(120)と、内燃機関の回転数を推定する回転数推定手段(130)と、推定された回転数が所定の閾値未満である場合に、内燃機関が起動していない状態で第1クラッチを結合させる第2制御手段(140)とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の回転要素の動作を制御することにより多様な動力伝達態様を実現可能に構成されたハイブリッド車両を制御するハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のハイブリッド車両では、エンジンから出力された動力を全て電動機の駆動電力に変換して駆動軸に出力するシリーズモードと、エンジンから出力された動力を機械的な動力のまま駆動軸に出力すると共に残余を電力に変換して駆動軸へと出力するパラレルモードとが、運転状況等に応じて自動的に切替えられる。
【0003】
上述した動力伝達モードの切替動作は、動力伝達機構として構成されるプラネタリギヤに、切り離し及び結合が可能なクラッチを設けることで実現される。例えば特許文献1には、駆動軸への動力伝達を制御する第1クラッチ及びプラネタリギヤを一体的に回転させるための第2クラッチを備えたハイブリッド車両が記載されている
クラッチは、例えば回転可能なドグクラッチ等として構成され、その係合時には、係合部の回転数が同期される。このような同期制御においては、エンジンのトルクや回転数が制御される。例えば特許文献2では、シリーズモードからパラレルモードに切替える際に、エンジントルクを増加させてから回転数を同期させるという技術が提案されている。また特許文献3では、変速機入力軸の回転数がエンジンの起動回転数以上となるように制御してから、エンジンを変速機入力軸と係合するという技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−209706号公報
【特許文献2】特開2000−299903号公報
【特許文献3】特開2005−313757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献3に記載されているような技術では、クラッチを係合する際に、先ず変速機入力軸の回転数を増加させることが求められるため、係合のタイミングが遅れてしまうおそれがある。このため、変速機入力軸の回転数をエンジンの起動回転数以上とするのに時間がかかってしまうと、その分だけ動力伝達モードの切替えが遅れてしまう。動力伝達モードの切替えが遅れてしまうと、例えば最適な燃費を実現することが難しくなる他、ドライバビリティを大幅に悪化させてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、クラッチを用いた動力伝達モードの切替えを好適に行うことが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のハイブリッド車両の制御装置は上記課題を解決するために、第1電動機、第2電動機及び内燃機関を含む動力要素と、前記動力要素からの動力を車軸に伝達する駆動軸と、前記第1電動機に連結された第1回転要素、前記第2電動機及び前記駆動軸に夫々連結された第2回転要素、並びに前記内燃機関に連結された第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する動力伝達機構と、前記第2回転要素の前記第2電動機及び前記駆動軸との連結を切り離し及び結合可能な第1クラッチと、前記第1回転要素、前記第2回転要素及び前記第3回転要素のうち2つの回転要素を、互いに切り離し及び結合可能な第2クラッチとを備えたハイブリッド車両を制御する装置であって、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチの結合状態を夫々制御することで動力伝達モードを切替える切替手段と、前記切替手段によって、前記第1クラッチが切り離された状態から結合された状態へと切替えられる場合に、前記第1クラッチを切り離したままで前記第2クラッチを結合させるように前記切替手段を制御する第1制御手段と、前記第1クラッチを切り離したままで、前記第1クラッチ結合後の前記内燃機関の回転数を推定する回転数推定手段と、前記回転数推定手段において推定された前記内燃機関の回転数が所定の閾値未満である場合に、前記内燃機関が起動していない状態で前記第1クラッチを結合するように前記切替手段を制御する第2制御手段とを備える。
【0008】
本発明に係るハイブリッド車両は、駆動軸に対し動力を供給可能な動力要素として、例えば夫々モータジェネレータ等の電動発電機として構成され得る第1及び第2電動機、並びに燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等を問わない各種の態様を採り得る内燃機関を少なくとも備えた車両である。本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、このようなハイブリッド車両を制御する制御装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
【0009】
本発明に係るハイブリッド車両には、上述した各動力要素及び駆動軸間で動力を伝達する動力伝達機構が備えられている。動力伝達機構は、第1電動機に連結される第1回転要素、第2電動機及び駆動軸に夫々連結された第2回転要素、並びに内燃機関に連結された第3回転要素を含む複数の回転要素を有しており、各回転要素の状態(端的には、回転態様を規定する物理状態であり、回転可能であるか否か及び他の回転要素と連結された状態にあるか否か等を含む)に応じて定まる各種の動力伝達モードに従って動力伝達を行う。動力伝達機構は、一又は複数の遊星歯車機構等のギヤ機構を好適な一形態として採り得、複数の遊星歯車機構を含む場合には、各遊星歯車機構を構成する回転要素の一部が複数の遊星歯車機構相互間で適宜共有され得る。
【0010】
本発明に係るハイブリッド車両には更に、動力伝達機構における第2回転要素の第2電動機及び駆動軸との連結を切り離し及び結合可能な第1クラッチと、第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素のうち2つの回転要素を、互いに切り離し及び結合可能な第2クラッチとが備えられている。第1クラッチは、回転可能とされた2つの係合部が互いに係合することによって第2電動機及び駆動軸への動力伝達を実現し、切り離されることによって第2電動機及び駆動軸への動力伝達を遮断できる。第2クラッチは、回転可能とされた2つの係合部が互いに係合することによって2つの回転要素を互いに連結し、例えば遊星歯車機構として構成される動力伝達機構を一体的に回転させる。第2クラッチは、典型的には、第2回転要素及び第3回転要素を連結するものとして構成される。
【0011】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、上述した第1クラッチ及び第2クラッチを制御することで動力伝達機構の状態を変化させ、動力伝達モードを切替える切替手段を備えている。切替手段は、第1クラッチ及び第2クラッチの結合状態を制御することで、少なくとも4つの動力伝達モードを実現できる。具体的には、第1クラッチ及び第2クラッチが共に切り離された状態となる動力伝達モード(以下、適宜「第1モード」と称する)と、第1クラッチが切り離されていると共に第2クラッチが結合されている状態となる動力伝達モード(以下、適宜「第2モード」と称する)と、第1クラッチ及び第2クラッチが共に結合された状態となる動力伝達モード(以下、適宜「第3モード」と称する)と、第1クラッチが結合されていると共に第2クラッチが切り離されている状態となる動力伝達モード(以下、適宜「第4モード」と称する)とを夫々実現可能である。
【0012】
第1モードでは、第1クラッチが切り離されているため、動力伝達機構から駆動軸には動力が出力されない。このため、ハイブリッド車両は、動力伝達機構より下流側に位置する第2電動機から出力された動力によって走行する。即ち、第1モードは、内燃機関からの動力を利用せず、電力のみで走行するモードと呼べる。第1モードでは特に、第2クラッチも切り離されているため、動力伝達機構における引き摺り等によるエネルギ損失を防止できる。よって、極めて高いエネルギ効率を実現することが可能である。
【0013】
第2モードでは、上述した第1モードと同様に第1クラッチが切り離されているため、動力伝達機構から駆動軸には動力が出力されない。このため、ハイブリッド車両は、動力伝達機構より下流側に位置する第2電動機から出力された動力によって走行する。但し、第2モードでは、第2クラッチが結合された状態とされているため、動力伝達機構が一体的に回転する。このため、内燃機関の動力を第1電動機に伝達して回生させることができる。第1電動機において回生した電力は、第2電動機の動力として利用できるため、第1モードと比べて車両の走行距離を伸ばすことが可能である。
【0014】
第3モードでは、第1クラッチが結合されているため、動力伝達機構から駆動軸に動力が出力される。このため、ハイブリッド車両は、内燃機関からの動力により走行することになる。尚、第2クラッチが結合されており動力分割機構が一体的に回転できるため、内燃機関からの動力の一部を第1電動機による回生に利用することが可能である。また、第2電動機から動力を出力して、内燃機関からの動力をアシストするような駆動も可能となる。第3モードでは、上述した第2モードでは効率向上効果を得にくい高速低負荷走行時の効率向上を図ることができる。更には、第1電動機及び第2電動機に不具合が発生した場合の緊急退避走行(即ち、内燃機関のみでの走行)も可能である。
【0015】
第4モードでは、上述した第3モードと同様に第1クラッチが結合されているため、動力伝達機構から駆動軸に動力が出力される。このため、ハイブリッド車両は、内燃機関からの動力により走行することになる。ここで第4モードでは特に、内燃機関から出力された動力が目標とする動力より大きい場合には、その動力の残余が第1電動機に伝達され回生される。一方で、内燃機関から出力された動力が目標とする動力より小さい場合には、内燃機関から出力された動力及び第1電動機から出力された動力が駆動軸へと出力されると共に、残余動力が第2電動機において回生される。第4モードによれば、車速によらず高効率を実現することができる。
【0016】
以上のように、本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、車両の走行状況等に応じて動力伝達モードを適宜切替えることにより、効率の高い運転を実現できる。尚、切替手段による動力伝達モードの切替動作は、車両の走行状況等に応じて出力されるモード切替指示に基づいて自動的に行われる。
【0017】
ここで本発明では特に、切替手段によって、第1クラッチが切り離された状態から結合された状態へと切替えられる場合に、先ず第1制御手段が、第1クラッチを切り離したままで第2クラッチを結合させるように切替手段を制御する。即ち、第1クラッチが結合される際には、第2クラッチの結合が先に実行される。尚、第1クラッチを結合しようとする場合に、既に第2クラッチが結合されている場合には、第1制御手段は切替手段を制御せずに済む。
【0018】
第2クラッチが結合されると、回転数推定手段において、第1クラッチ結合後の内燃機関の回転数が推定される。この回転数の推定は、第1クラッチを切り離したままで行われる。即ち、仮に第1クラッチを結合した場合に実現されるであろう内燃機関の回転数が推定される。尚、内燃機関の回転数は、例えば車速等を用いて推定することができる。
【0019】
回転数推定手段において推定された内燃機関の回転数は、所定の閾値未満であるか否かが判定される。尚、ここでの「所定の閾値」とは、第1クラッチを係合した場合に、内燃機関において不具合が生じてしまう程に回転数が低いか否かを判定するための値であり、典型的にはエンジンのアイドル回転数や起動回転数が設定される。推定された内燃機関の回転数が所定の閾値未満である場合には、第2制御手段が、内燃機関が起動していない状態で第1クラッチを結合するように切替手段を制御する。即ち、それまで停止していた内燃機関を起動する前に第1クラッチを結合させる。或いは、起動していた内燃機関を停止させてから第1クラッチを結合させる。尚、ここでの「起動していない状態」とは、内燃機関から動力が出力されていない状態を指しており、仮に内燃機関が回転していたとしても、それが他の動力要素から出力された動力による回転であれば、「起動していない状態」に含まれるものとする。
【0020】
ここで仮に、内燃機関の回転数が所定の閾値未満である場合に、内燃機関を起動させた状態で第1クラッチを結合させたとする。この場合、内燃機関は、自立回転できない状態で駆動軸と結合されてしまうことになる。このため、内燃機関では失火や共振等が発生する発生が高く、それに起因するドライバビリティの悪化が予想される。
【0021】
しかるに本発明では、上述したように、エンジンが起動していない状態で第1クラッチが結合されるため、上述した内燃機関で発生する様々な不具合を防止することができる。また、第1クラッチを結合する際には、係合部の回転を同期させる同期制御が行われることになるが、本発明では第2クラッチが結合された状態とされているため、比較的精度の高い第1電動機を用いた同期制御が実行できる。よって、結合時間の短縮や結合時のショックの低減など、制御性及び商品性の向上が実現可能である。
【0022】
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、クラッチを用いた動力伝達モードの切替えを好適に行うことが可能である。
【0023】
本発明のハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記内燃機関が起動していない状態で前記第1クラッチが結合された場合に、前記第1クラッチ結合後の前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段と、前記回転数検出手段において検出された前記内燃機関の回転数が所定の閾値以上となった場合に、前記内燃機関を起動させる起動制御手段とを更に備える。
【0024】
この態様によれば、内燃機関が起動していない状態で第1クラッチが結合された後、回転数検出手段によって、内燃機関の回転数が検出される。即ち、回転数推定手段のように、第1クラッチを結合せずに回転数を推定するのではなく、実際に第1クラッチが結合された状態での回転数が検出される。尚、内燃機関の回転数の検出は、第1クラッチの結合後、一定又は不定の周期で検出される。
【0025】
本態様では、検出された内燃機関の回転数が所定の閾値以上となった場合、起動制御手段によって、停止されていた内燃機関が起動される。第1クラッチ係合後の内燃機関の回転数が所定の閾値以上であれば、内燃機関が起動したとしても不具合が起こることはないと考えられる。よって、内燃機関から出力される動力を利用した走行を好適に実現することが可能である。
【0026】
本発明のハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記回転数推定手段において推定された前記内燃機関の回転数が所定の閾値以上である場合に、前記内燃機関を起動させると共に前記第1電動機による回生を行いつつ、前記第1クラッチを結合するように前記切替手段を制御する第3制御手段を更に備える。
【0027】
この態様によれば、回転数推定手段において推定された内燃機関の回転数が所定の閾値以上である場合(即ち、上述した内燃機関を起動させない状態での第1クラッチの係合が行われない場合)には、内燃機関は起動され、内燃機関の動力を利用して第1電動機による回生が行われる。即ち、内燃機関から出力された動力が動力伝達機構を介して伝達され、第1電動機において発電が行われる。
【0028】
本態様では、上述した状態で第1クラッチの同期制御が行われ結合が実行される。即ち、内燃機関が動力を出力し、第1電動機がその反力を取る状態で、第1クラッチの結合制御が実行される。この場合、内燃機関が起動した状態であるため、トルク及び回転数が比較的安定した状態を作り出すことができる。よって、第1クラッチの同期制御における制御性を向上させることができる。また、第1電動機において回生が行われているため、電力不足による第1クラッチの結合制御の中止を防止できる。更に、第2電動機による発電が不要となるため、エネルギ効率の向上を実現することができる。
【0029】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】ハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】エンジン200の一断面構成を例示する模式図である。
【図4】ECUの構成を示すブロック図である。
【図5】ハイブリッド車両の制御装によって実現される4つの動力伝達モードを示すマトリクス図である。
【図6】第1モードの構成を示す共線図である。
【図7】第2モードの構成を示す共線図である。
【図8】第3モードの構成を示す共線図である。
【図9】第4モードの構成を示す共線図である。
【図10】ハイブリッド車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図11】第1クラッチ係合時の同期制御を示す共線図(その1)である。
【図12】第1クラッチ係合時の同期制御を示す共線図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0032】
先ず、本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、ハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0033】
図1において、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、ハイブリッド駆動装置10、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14及びECU100を備えて構成されている。
【0034】
ECU100は、CPU、ROM及びRAM等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「ハイブリッド車両の制御装置」の一例である。ECU100は、例えばROM等に格納された制御プログラムに従って、ハイブリッド車両1における各種制を実行可能に構成されている。
【0035】
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給する。また、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能な不図示のインバータを含んでいる。即ち、PCU11は、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御可能に構成された電力制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0036】
バッテリ12は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な蓄電手段である。
【0037】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0038】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速Vを検出可能に構成されたセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0039】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1のパワートレインとして機能する動力ユニットである。ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0040】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、主にエンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、入力軸400、駆動軸500、減速機構600、第1クラッチ710及び第2クラッチ720を備えて構成されている。
【0041】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能するように構成されている。ここで、図3を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図3は、エンジン200の一断面構成を例示する模式図である。尚、本発明における「内燃機関」とは、例えば2サイクル又は4サイクルレシプロエンジン等を含み、少なくとも一の気筒を有し、当該気筒内部の燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等の物理的又は機械的な伝達手段を適宜介して駆動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念である。係る概念を満たす限りにおいて、本発明に係る内燃機関の構成は、エンジン200のものに限定されず各種の態様を有してよい。また、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図3においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。
【0042】
図3において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介して、クランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0043】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100(不図示)と電気的に接続されており、ECU100では、このクランクポジションセンサ206から出力されるクランク角信号に基づいて、エンジン200の機関回転数NEが算出される構成となっている。
【0044】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210を介して吸気バルブ211の開弁時に気筒201内部へ導かれる。一方、吸気ポート210には、インジェクタ212の燃料噴射弁が露出しており、吸気ポート210に対し燃料を噴射することが可能な構成となっている。インジェクタ212から噴射された燃料は、吸気バルブ211の開弁時期に前後して吸入空気と混合され、上述した混合気となる。
【0045】
燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に供給される構成となっている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
【0046】
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節可能なスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルペダルの開度(即ち、上述したアクセル開度Ta)に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0047】
排気管215には、三元触媒216が設置されている。三元触媒216は、エンジン200から排出される排気中のNOx(窒素酸化物)を還元すると同時に、排気中のCO(一酸化炭素)及びHC(炭化水素)を酸化可能に構成された触媒装置である。尚、触媒装置の採り得る形態は、このような三元触媒に限定されず、例えば三元触媒に代えて或いは加えて、NSR触媒(NOx吸蔵還元触媒)或いは酸化触媒の各種触媒が設置されていてもよい。
【0048】
排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ217が設置されている。更に、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ218が配設されている。これら空燃比センサ217及び水温センサ218は、夫々ECU100と電気的に接続されており、検出された空燃比及び冷却水温は、夫々ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
【0049】
図2に戻り、モータジェネレータMG1は、本発明に係る「第1電動機」の一例たる電動発電機であり、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。モータジェネレータMG2は、本発明に係る「第2電動機」の一例たる電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有するが、他の構成を有していてもよい。
【0050】
動力分割機構300は、中心部に設けられた、本発明に係る「第1回転要素」の一例たるサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられた、本発明に係る「第2回転要素」の一例たるリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤP1と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支する、本発明に係る「第3回転要素」の一例たるキャリアC1とを備えている。即ち、動力分割機構300は、本発明に係る「動力伝達機構」の一例たる動力伝達装置である。
【0051】
ここで、サンギヤS1は、サンギヤ軸310を介してMG1のロータRT1に連結されており、その回転数はMG1の回転数Nmg1(以下、適宜「MG1回転数Nmg1」と称する)と等価である。また、リングギヤR1は、駆動軸500、減速機構600を介してMG2のロータRT2に結合されており、その回転数はMG2の回転数Nmg2(以下、適宜「MG2回転数Nmg2」と称する)と一義的な関係にある。更に、キャリアC1は、エンジン200の先に述べたクランクシャフト205に連結された入力軸400と連結されており、その回転数は、エンジン200の機関回転数NEと等価である。尚、ハイブリッド駆動装置10において、MG1回転数Nmg1及びMG2回転数Nmg2は、夫々レゾルバ等の回転センサにより一定の周期で検出されており、ECU100に一定又は不定の周期で送出されている。
【0052】
一方、駆動軸500は、ハイブリッド車両1の駆動輪たる右前輪FR及び左前輪FLを夫々駆動するドライブシャフトSFR及びSFL(即ち、これらドライブシャフトは、本発明に係る「車軸」の一例である)と、各種減速ギヤ及び差動ギヤを含む減速装置としての減速機構600を介して連結されている。従って、モータジェネレータMG2から駆動軸500に供給されるモータトルクTmg2は、減速機構600を介して各ドライブシャフトへと伝達され、各ドライブシャフトを介して伝達される各駆動輪からの駆動力は、同様に減速機構600及び駆動軸500を介してモータジェネレータMG2に入力される。従って、MG2回転数Nmg2は、ハイブリッド車両1の車速Vと一義的な関係にある。
【0053】
動力分割機構300は、係る構成の下で、エンジン200からクランクシャフト205を介して入力軸400に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1とピニオンギヤP1とによってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率(各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能となっている。
【0054】
動力分割機構300の動作を分かり易くするため、リングギヤR1の歯数に対するサンギヤS1の歯数としてのギヤ比ρを定義すると、エンジン200からキャリアC1に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギヤ軸310に現れるトルクTesは下記(1)式により、また駆動軸500に現れるトルクTer(即ち、エンジン200からの直達トルク)は下記(2)式により夫々表される。
【0055】
Tes=−Te×ρ/(1+ρ)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+ρ)・・・(2)
本実施形態に係る動力分割機構300は更に、リングギヤR1及び駆動軸500間に第1クラッチ710を備えており、その係合状態によって、リングギヤR1と駆動軸500及びMG2との連結を切り離し及び結合可能である。具体的には、第1クラッチ710が切り離された状態においては、エンジン200やMG1からリングギヤR1を介して出力される動力は、駆動軸500及びMG2には伝達されない。一方、第1クラッチ710が係合された状態においては、リングギヤR1を介して出力される動力が、駆動軸500及びMG2に伝達される。
【0056】
また動力分割機構300は、リングギヤR1及びキャリアC1間の連結を切り離し及び結合可能な第2クラッチ720を備えている。第2クラッチ720の係合時には、リングギヤR1及びキャリアC1が互いに連結されるため、動力分割機構300が一体的に回転されることになる。即ち、第2クラッチ720は、動力分割機構300の一体的な回転動作を許容するか否かを決定するための機構である。
【0057】
上述した第1クラッチ710及び第2クラッチ720は、例えば回転可能な噛合い式のドグクラッチとして構成されており、夫々独立して制御可能とされる。このようにすれば、第1クラッチ710及び第2クラッチ720の係合状態を夫々制御することにより、複数種類の動力伝達モードを実現できる。具体的な動力伝達モードの構成については、後に詳述する。
【0058】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置であるECU100の具体的な構成について、図4を参照して説明する。ここに図4は、ECUの構成を示すブロック図である。
【0059】
図4において、ECU100は、モード変更指示部110、第1制御部120、回転数推定部130、第2制御部140、第3制御部150、モード切替制御部160、回転数検出部170及び起動制御部180を備えて構成されている。
【0060】
モード変更指示部110は、入力される各種パラメータ(例えば、ハイブリッド車両1の運転状況を示すパラメータ)に基づいて、動力伝達モードを変更すべきか否かを判定する。ここでの判定条件は、例えばROM等の記憶装置に予め記憶されており、ハイブリッド車両1は、運転状況に応じて最適な動力伝達モードとなるように制御される。モード変更指示部110は、動力伝達モードを変更すべきと判定した場合は、動力伝達モードを変更するようにモード変更命令を出力する。
【0061】
第1制御部120は、本発明の「第1制御手段」の一例であり、モード変更指示部110から第1クラッチ710を係合させる指示が出た際に、第2クラッチ720を係合するようにモード切替制御部160を制御する。
【0062】
回転数推定部130は、本発明の「回転数推定手段」の一例であり、例えば演算回路やメモリ等を含んで構成されている。回転数推定部130は、第1クラッチ710を係合することなく、第1クラッチ710が係合された場合のエンジン200の回転数を推定する。エンジン200の回転数は、例えば車速等を用いて推定することが可能である。
【0063】
第2制御部140は、本発明の「第2制御手段」の一例であり、回転数推定部130において推定されたエンジン200の回転数が所定の閾値未満である場合に、モード切替制御部160を制御して第1クラッチを係合させる。具体的には、エンジン200を起動させない状態で、第1クラッチ710の係合制御を行うようにする。
【0064】
第3制御部150は、本発明の「第3制御手段」の一例であり、回転数推定部130において推定されたエンジン200の回転数が所定の閾値以上である場合に、モード切替制御部160を制御して第1クラッチを係合させる。第3制御部150による具体的な制御方法については後に詳述する。
【0065】
モード切替制御部160は、本発明の「切替手段」の一例であり、第1制御部120、第2制御部140及び第3制御部150からの指示によって、動力分割機構300の第1クラッチ710及び第2クラッチ720の係合状態を制御する。
【0066】
回転数検出部170は、本発明の「回転数検出手段」の一例であり、第1クラッチ710が係合された後のエンジン200の回転数を検出する。回転数検出部170は、エンジン200の回転数を直接検出するような回転数センサとして構成されてもよいし、例えばMG1等の回転数等を用いて間接的にエンジン200の回転数を検出するものとして構成されてもよい。
【0067】
起動制御部180は、本発明の「起動制御手段」の一例であり、回転数検出部170において検出された回転数が所定の閾値以上である場合に、エンジン200を起動させる。
【0068】
尚、ECU100は、上述した各手段を含んで構成された一体の電子制御ユニットであり、上記各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係る上記手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0069】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両における動力伝達モードについて、図5から図9を参照して説明する。ここに図5は、ハイブリッド車両の制御装置によって実現される4つの動力伝達モードを示すマトリクス図である。また図6は、第1モードの構成を示す共線図、図7は、第2モードの構成を示す共線図、図8は、第3モードの構成を示す共線図、図9は、第4モードの構成を示す共線図である。
【0070】
図5及び図6において、第1モードでは、第1クラッチ710が切り離されている(即ち、OFFである)ため、動力分割機構300におけるリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力されない。このため、ハイブリッド車両1は、動力分割機構300より下流側に位置するMG2から出力された動力によって走行する。即ち、第1モードは、エンジン200からの動力を利用せず、電力のみで走行するモードと呼べる。第1モードでは特に、第2クラッチ720も切り離されている(即ち、OFFである)ため、動力分割機構300における引き摺り等によるエネルギ損失を防止できる。よって、極めて高いエネルギ効率を実現することが可能である。
【0071】
図5及び図7において、第2モードでは、上述した第1モードと同様に第1クラッチ710が切り離されているため、動力分割機構300におけるリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力されない。このため、ハイブリッド車両1は、動力分割機構300より下流側に位置するMG2から出力された動力によって走行する。但し、第2モードでは、第2クラッチ720が結合されている(即ち、ONである)ため、動力分割機構300が一体的に回転する。このため、エンジン200の動力をMG1に伝達して回生させることができる。MG1において回生した電力は、MG2の動力として利用できる。このため第2モードでは、第1モードと比べて車両の走行距離を伸ばすことが可能である。
【0072】
図5及び図8において、第3モードでは、第1クラッチ710が結合されているため、動力分割機構300におけるリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力される。このため、ハイブリッド車両1は、エンジン200からの動力により走行することになる。尚、第2クラッチ720が結合されており、動力分割機構300が一体的に回転できるため、エンジン200からの動力の一部をMG1による回生に利用することが可能である。また、MG2から動力を出力して、エンジン200からの動力をアシストするような駆動も可能となる。第3モードでは、上述した第2モードでは効率向上効果を得にくい高速低負荷走行時の効率向上を図ることができる。更には、MG1及びMG2に不具合が発生した場合の緊急退避走行(即ち、エンジン200のみでの走行)も可能である。
【0073】
図5及び図9において、第4モードでは、上述した第3モードと同様に第1クラッチ710が結合されているため、動力分割機構300におけるリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力される。このため、ハイブリッド車両1は、エンジン200からの動力により走行することになる。ここで第4モードでは特に、エンジン200から出力された動力が目標とする動力より大きい場合には、その動力の残余がMG1に伝達され回生される。一方で、エンジン200から出力された動力が目標とする動力より小さい場合には、エンジン200から出力された動力及びMG1から出力された動力が駆動軸500へと出力されると共に、残余動力がMG2において回生される。第4モードによれば、車速によらず高効率を実現することができる。
【0074】
以上のように、本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、車両の走行状況等に応じて動力伝達モードを適宜切替えることにより、効率の高い運転を実現できる。
【0075】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置による具体的な制御及びその効果について、図10を参照して説明する。ここに図10は、ハイブリッド車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0076】
図10において、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置では、第1クラッチ710を係合するようにモード変更指示部110から要求が出されると(ステップS01:YES)、第2制御部120によって、第1クラッチ710を係合させないままで、第2クラッチ720が係合される(ステップS02)。即ち、第1クラッチ710を結合しようとする場合には、先ず第2クラッチ720の結合が先に実行される。尚、既に第2クラッチ720が結合されている場合には、ステップS02の処理は省略することができる。
【0077】
第2クラッチ720が結合されると、回転数推定部130において、第1クラッチ710係合後のエンジン200の回転数が推定される(ステップS03)。ここでのエンジン200の回転数の推定は、第1クラッチ710を切り離したままで行われる。即ち、実際に第1クラッチ710を係合させることなく、車速等のパラメータを用いた演算によって、エンジン200の回転数が推定される。
【0078】
エンジン200の回転数が推定されると、その回転数が、所定の閾値以上であるか否かが判定される(ステップS04)。所定の閾値には、例えばエンジンのアイドル回転数や起動回転数が設定されている。
【0079】
ここで、推定されたエンジン200の回転数が所定の閾値以上である場合(ステップS04:YES)、第3制御部150の指示によって、エンジン200が起動した状態での第1クラッチの同期制御が実行され(ステップS05)、第1クラッチ710が係合される(ステップS06)。以下では、図11を参照して、エンジン200が起動した状態での第1クラッチ710の係合制御について説明する。ここに図11は、第1クラッチ係合時の同期制御を示す共線図(その1)である。
【0080】
図11において、第1クラッチ710の係合時には、先ず第2クラッチ720が係合される。即ち、リングギヤR1及びキャリアC1間が連結され、動力分割機構300が一体的に回転可能とされる。続いて、エンジン200からトルクを出力して係合部の回転数(即ち、リングギヤR1の回転数)が上昇される。この際、サンギヤS1側では、MG1で反力を取ることにより回生が行われる。即ち、MG1では、エンジン200の動力を利用して発電が行われる。
【0081】
第1クラッチ710の回転数が同期されると、実際に係合が実行される。このような係合制御では、エンジン200が起動した状態で行われるため、トルク及び回転数が比較的安定した状態を作り出すことができる。よって、第1クラッチ710の同期制御における制御性を向上させることができる。また、MG1において回生が行われているため、電力不足による第1クラッチ710の結合制御の中止を防止できる。更に、MG2による発電が不要となるため、エネルギ効率の向上を実現することができる。
【0082】
図10に戻り、エンジン200の回転数が所定の閾値未満である場合(ステップS04:NO)、エンジン200が起動しているか否かが判定される(ステップS07)。エンジン200が起動している場合には(ステップS07:YES)、燃料噴射が停止される(ステップS08)。即ち、エンジン200の運転が停止される。一方、エンジンが起動していない場合には(ステップS07:NO)、上述したステップS08の処理は省略される。
【0083】
以上の結果、エンジン200の回転数が所定の閾値未満である場合には、エンジンが起動していない状態で第1クラッチ710が係合される。以下では、図12を参照して、エンジン200が起動していない状態での第1クラッチ710の係合制御について説明する。ここに図12は、第1クラッチ係合時の同期制御を示す共線図(その2)である。
【0084】
図12において、第1クラッチ710の係合時には、先ず第2クラッチ720が係合される。即ち、リングギヤR1及びキャリアC1間が連結され、動力分割機構300が一体的に回転可能とされる。続いて、比較的精度の高いMG1のレゾルバ等から回転数を検出し、その回転数を利用して同期制御を行う。即ち、ここではMG1の動力を利用して高い精度で同期制御が実行できる。このようにMG1の回転数が利用できるのは、第2クラッチ720の係合によって、動力分割機構300が一体的に回転しているからである。
【0085】
第1クラッチ710の回転数が同期されると、エンジン200が起動していない状態のまま、実際に係合が実行される。ここで仮に、エンジン200の回転数が所定の閾値未満である場合に、エンジン200を起動させた状態で第1クラッチ710を係合させたとする。この場合、エンジン200は、自立回転できない状態で駆動軸500と結合されてしまうことになる。このため、エンジン200では失火や共振等が発生する発生が高く、それに起因するドライバビリティの悪化が予想される。本実施形態に係る係合制御では、上述したようなエンジン200で発生する様々な不具合を防止することができる。
【0086】
再び図10に戻り、第1クラッチ710が係合されると、この時点でエンジン200が起動しているか否かが判定される(ステップS09)。即ち、第1クラッチ710の係合制御が、エンジン200を起動した状態で行われたのか、或いはエンジン200を起動していない状態で行われたのかが判定される。
【0087】
ここで、エンジン200が起動していないと判定された場合(ステップS09:NO)、回転数検出部170において、エンジン200の回転数が検出される(ステップS10)。即ち、回転数推定部130のように、第1クラッチ710を係合させずに回転数を推定するのではなく、実際に第1クラッチ710が係合された状態での回転数が検出される。
【0088】
エンジン200の回転数が検出されると、検出された回転数が所定の閾値以上となっているか否かが判定される(ステップS11)。尚、ここでの所定の閾値は、典型的には推定された回転数に対する値(即ち、ステップS04の処理で用いられる所定の閾値)と同じものとして設定される。但し、必ずしも完全に同じ値にする必要はなく、多少のマージンを含んだ異なる値が設定されても構わない。
【0089】
検出されたエンジン200の回転数が所定の閾値以上になっていると判定された場合(ステップS11:YES)起動制御部180によって、停止されていたエンジン200が起動される(ステップS12)。第1クラッチ710係合後のエンジン200の回転数が所定の閾値以上であれば、エンジン200が起動したとしても不具合が起こることはないと考えられる。よって、エンジン200から出力される動力を利用した走行を好適に実現することが可能である。
【0090】
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、第1クラッチ710及び第2クラッチ720を用いた動力伝達モードの切替えを好適に行うことが可能である。
【0091】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0092】
1…ハイブリッド車両、10…ハイブリッド駆動装置、11…PCU、12…バッテリ、13…アクセル開度センサ、14…車速センサ、100…ECU、110…モード変更指示部、120…第1制御部、130…回転数推定部、140…第2制御部、150…第3制御部、160…モード切替制御部、170…回転数検出部、180…起動制御部、200…エンジン、205…クランクシャフト、300…動力分割機構、310…サンギヤ軸、S1…サンギヤ、C1…キャリア、R1…リングギヤ、MG1…モータジェネレータ、MG2…モータジェネレータ、400…入力軸、500…駆動軸、600…減速機構、710…第1クラッチ、720…第2クラッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の回転要素の動作を制御することにより多様な動力伝達態様を実現可能に構成されたハイブリッド車両を制御するハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のハイブリッド車両では、エンジンから出力された動力を全て電動機の駆動電力に変換して駆動軸に出力するシリーズモードと、エンジンから出力された動力を機械的な動力のまま駆動軸に出力すると共に残余を電力に変換して駆動軸へと出力するパラレルモードとが、運転状況等に応じて自動的に切替えられる。
【0003】
上述した動力伝達モードの切替動作は、動力伝達機構として構成されるプラネタリギヤに、切り離し及び結合が可能なクラッチを設けることで実現される。例えば特許文献1には、駆動軸への動力伝達を制御する第1クラッチ及びプラネタリギヤを一体的に回転させるための第2クラッチを備えたハイブリッド車両が記載されている
クラッチは、例えば回転可能なドグクラッチ等として構成され、その係合時には、係合部の回転数が同期される。このような同期制御においては、エンジンのトルクや回転数が制御される。例えば特許文献2では、シリーズモードからパラレルモードに切替える際に、エンジントルクを増加させてから回転数を同期させるという技術が提案されている。また特許文献3では、変速機入力軸の回転数がエンジンの起動回転数以上となるように制御してから、エンジンを変速機入力軸と係合するという技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−209706号公報
【特許文献2】特開2000−299903号公報
【特許文献3】特開2005−313757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献3に記載されているような技術では、クラッチを係合する際に、先ず変速機入力軸の回転数を増加させることが求められるため、係合のタイミングが遅れてしまうおそれがある。このため、変速機入力軸の回転数をエンジンの起動回転数以上とするのに時間がかかってしまうと、その分だけ動力伝達モードの切替えが遅れてしまう。動力伝達モードの切替えが遅れてしまうと、例えば最適な燃費を実現することが難しくなる他、ドライバビリティを大幅に悪化させてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、クラッチを用いた動力伝達モードの切替えを好適に行うことが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のハイブリッド車両の制御装置は上記課題を解決するために、第1電動機、第2電動機及び内燃機関を含む動力要素と、前記動力要素からの動力を車軸に伝達する駆動軸と、前記第1電動機に連結された第1回転要素、前記第2電動機及び前記駆動軸に夫々連結された第2回転要素、並びに前記内燃機関に連結された第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する動力伝達機構と、前記第2回転要素の前記第2電動機及び前記駆動軸との連結を切り離し及び結合可能な第1クラッチと、前記第1回転要素、前記第2回転要素及び前記第3回転要素のうち2つの回転要素を、互いに切り離し及び結合可能な第2クラッチとを備えたハイブリッド車両を制御する装置であって、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチの結合状態を夫々制御することで動力伝達モードを切替える切替手段と、前記切替手段によって、前記第1クラッチが切り離された状態から結合された状態へと切替えられる場合に、前記第1クラッチを切り離したままで前記第2クラッチを結合させるように前記切替手段を制御する第1制御手段と、前記第1クラッチを切り離したままで、前記第1クラッチ結合後の前記内燃機関の回転数を推定する回転数推定手段と、前記回転数推定手段において推定された前記内燃機関の回転数が所定の閾値未満である場合に、前記内燃機関が起動していない状態で前記第1クラッチを結合するように前記切替手段を制御する第2制御手段とを備える。
【0008】
本発明に係るハイブリッド車両は、駆動軸に対し動力を供給可能な動力要素として、例えば夫々モータジェネレータ等の電動発電機として構成され得る第1及び第2電動機、並びに燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等を問わない各種の態様を採り得る内燃機関を少なくとも備えた車両である。本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、このようなハイブリッド車両を制御する制御装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
【0009】
本発明に係るハイブリッド車両には、上述した各動力要素及び駆動軸間で動力を伝達する動力伝達機構が備えられている。動力伝達機構は、第1電動機に連結される第1回転要素、第2電動機及び駆動軸に夫々連結された第2回転要素、並びに内燃機関に連結された第3回転要素を含む複数の回転要素を有しており、各回転要素の状態(端的には、回転態様を規定する物理状態であり、回転可能であるか否か及び他の回転要素と連結された状態にあるか否か等を含む)に応じて定まる各種の動力伝達モードに従って動力伝達を行う。動力伝達機構は、一又は複数の遊星歯車機構等のギヤ機構を好適な一形態として採り得、複数の遊星歯車機構を含む場合には、各遊星歯車機構を構成する回転要素の一部が複数の遊星歯車機構相互間で適宜共有され得る。
【0010】
本発明に係るハイブリッド車両には更に、動力伝達機構における第2回転要素の第2電動機及び駆動軸との連結を切り離し及び結合可能な第1クラッチと、第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素のうち2つの回転要素を、互いに切り離し及び結合可能な第2クラッチとが備えられている。第1クラッチは、回転可能とされた2つの係合部が互いに係合することによって第2電動機及び駆動軸への動力伝達を実現し、切り離されることによって第2電動機及び駆動軸への動力伝達を遮断できる。第2クラッチは、回転可能とされた2つの係合部が互いに係合することによって2つの回転要素を互いに連結し、例えば遊星歯車機構として構成される動力伝達機構を一体的に回転させる。第2クラッチは、典型的には、第2回転要素及び第3回転要素を連結するものとして構成される。
【0011】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、上述した第1クラッチ及び第2クラッチを制御することで動力伝達機構の状態を変化させ、動力伝達モードを切替える切替手段を備えている。切替手段は、第1クラッチ及び第2クラッチの結合状態を制御することで、少なくとも4つの動力伝達モードを実現できる。具体的には、第1クラッチ及び第2クラッチが共に切り離された状態となる動力伝達モード(以下、適宜「第1モード」と称する)と、第1クラッチが切り離されていると共に第2クラッチが結合されている状態となる動力伝達モード(以下、適宜「第2モード」と称する)と、第1クラッチ及び第2クラッチが共に結合された状態となる動力伝達モード(以下、適宜「第3モード」と称する)と、第1クラッチが結合されていると共に第2クラッチが切り離されている状態となる動力伝達モード(以下、適宜「第4モード」と称する)とを夫々実現可能である。
【0012】
第1モードでは、第1クラッチが切り離されているため、動力伝達機構から駆動軸には動力が出力されない。このため、ハイブリッド車両は、動力伝達機構より下流側に位置する第2電動機から出力された動力によって走行する。即ち、第1モードは、内燃機関からの動力を利用せず、電力のみで走行するモードと呼べる。第1モードでは特に、第2クラッチも切り離されているため、動力伝達機構における引き摺り等によるエネルギ損失を防止できる。よって、極めて高いエネルギ効率を実現することが可能である。
【0013】
第2モードでは、上述した第1モードと同様に第1クラッチが切り離されているため、動力伝達機構から駆動軸には動力が出力されない。このため、ハイブリッド車両は、動力伝達機構より下流側に位置する第2電動機から出力された動力によって走行する。但し、第2モードでは、第2クラッチが結合された状態とされているため、動力伝達機構が一体的に回転する。このため、内燃機関の動力を第1電動機に伝達して回生させることができる。第1電動機において回生した電力は、第2電動機の動力として利用できるため、第1モードと比べて車両の走行距離を伸ばすことが可能である。
【0014】
第3モードでは、第1クラッチが結合されているため、動力伝達機構から駆動軸に動力が出力される。このため、ハイブリッド車両は、内燃機関からの動力により走行することになる。尚、第2クラッチが結合されており動力分割機構が一体的に回転できるため、内燃機関からの動力の一部を第1電動機による回生に利用することが可能である。また、第2電動機から動力を出力して、内燃機関からの動力をアシストするような駆動も可能となる。第3モードでは、上述した第2モードでは効率向上効果を得にくい高速低負荷走行時の効率向上を図ることができる。更には、第1電動機及び第2電動機に不具合が発生した場合の緊急退避走行(即ち、内燃機関のみでの走行)も可能である。
【0015】
第4モードでは、上述した第3モードと同様に第1クラッチが結合されているため、動力伝達機構から駆動軸に動力が出力される。このため、ハイブリッド車両は、内燃機関からの動力により走行することになる。ここで第4モードでは特に、内燃機関から出力された動力が目標とする動力より大きい場合には、その動力の残余が第1電動機に伝達され回生される。一方で、内燃機関から出力された動力が目標とする動力より小さい場合には、内燃機関から出力された動力及び第1電動機から出力された動力が駆動軸へと出力されると共に、残余動力が第2電動機において回生される。第4モードによれば、車速によらず高効率を実現することができる。
【0016】
以上のように、本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、車両の走行状況等に応じて動力伝達モードを適宜切替えることにより、効率の高い運転を実現できる。尚、切替手段による動力伝達モードの切替動作は、車両の走行状況等に応じて出力されるモード切替指示に基づいて自動的に行われる。
【0017】
ここで本発明では特に、切替手段によって、第1クラッチが切り離された状態から結合された状態へと切替えられる場合に、先ず第1制御手段が、第1クラッチを切り離したままで第2クラッチを結合させるように切替手段を制御する。即ち、第1クラッチが結合される際には、第2クラッチの結合が先に実行される。尚、第1クラッチを結合しようとする場合に、既に第2クラッチが結合されている場合には、第1制御手段は切替手段を制御せずに済む。
【0018】
第2クラッチが結合されると、回転数推定手段において、第1クラッチ結合後の内燃機関の回転数が推定される。この回転数の推定は、第1クラッチを切り離したままで行われる。即ち、仮に第1クラッチを結合した場合に実現されるであろう内燃機関の回転数が推定される。尚、内燃機関の回転数は、例えば車速等を用いて推定することができる。
【0019】
回転数推定手段において推定された内燃機関の回転数は、所定の閾値未満であるか否かが判定される。尚、ここでの「所定の閾値」とは、第1クラッチを係合した場合に、内燃機関において不具合が生じてしまう程に回転数が低いか否かを判定するための値であり、典型的にはエンジンのアイドル回転数や起動回転数が設定される。推定された内燃機関の回転数が所定の閾値未満である場合には、第2制御手段が、内燃機関が起動していない状態で第1クラッチを結合するように切替手段を制御する。即ち、それまで停止していた内燃機関を起動する前に第1クラッチを結合させる。或いは、起動していた内燃機関を停止させてから第1クラッチを結合させる。尚、ここでの「起動していない状態」とは、内燃機関から動力が出力されていない状態を指しており、仮に内燃機関が回転していたとしても、それが他の動力要素から出力された動力による回転であれば、「起動していない状態」に含まれるものとする。
【0020】
ここで仮に、内燃機関の回転数が所定の閾値未満である場合に、内燃機関を起動させた状態で第1クラッチを結合させたとする。この場合、内燃機関は、自立回転できない状態で駆動軸と結合されてしまうことになる。このため、内燃機関では失火や共振等が発生する発生が高く、それに起因するドライバビリティの悪化が予想される。
【0021】
しかるに本発明では、上述したように、エンジンが起動していない状態で第1クラッチが結合されるため、上述した内燃機関で発生する様々な不具合を防止することができる。また、第1クラッチを結合する際には、係合部の回転を同期させる同期制御が行われることになるが、本発明では第2クラッチが結合された状態とされているため、比較的精度の高い第1電動機を用いた同期制御が実行できる。よって、結合時間の短縮や結合時のショックの低減など、制御性及び商品性の向上が実現可能である。
【0022】
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、クラッチを用いた動力伝達モードの切替えを好適に行うことが可能である。
【0023】
本発明のハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記内燃機関が起動していない状態で前記第1クラッチが結合された場合に、前記第1クラッチ結合後の前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段と、前記回転数検出手段において検出された前記内燃機関の回転数が所定の閾値以上となった場合に、前記内燃機関を起動させる起動制御手段とを更に備える。
【0024】
この態様によれば、内燃機関が起動していない状態で第1クラッチが結合された後、回転数検出手段によって、内燃機関の回転数が検出される。即ち、回転数推定手段のように、第1クラッチを結合せずに回転数を推定するのではなく、実際に第1クラッチが結合された状態での回転数が検出される。尚、内燃機関の回転数の検出は、第1クラッチの結合後、一定又は不定の周期で検出される。
【0025】
本態様では、検出された内燃機関の回転数が所定の閾値以上となった場合、起動制御手段によって、停止されていた内燃機関が起動される。第1クラッチ係合後の内燃機関の回転数が所定の閾値以上であれば、内燃機関が起動したとしても不具合が起こることはないと考えられる。よって、内燃機関から出力される動力を利用した走行を好適に実現することが可能である。
【0026】
本発明のハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記回転数推定手段において推定された前記内燃機関の回転数が所定の閾値以上である場合に、前記内燃機関を起動させると共に前記第1電動機による回生を行いつつ、前記第1クラッチを結合するように前記切替手段を制御する第3制御手段を更に備える。
【0027】
この態様によれば、回転数推定手段において推定された内燃機関の回転数が所定の閾値以上である場合(即ち、上述した内燃機関を起動させない状態での第1クラッチの係合が行われない場合)には、内燃機関は起動され、内燃機関の動力を利用して第1電動機による回生が行われる。即ち、内燃機関から出力された動力が動力伝達機構を介して伝達され、第1電動機において発電が行われる。
【0028】
本態様では、上述した状態で第1クラッチの同期制御が行われ結合が実行される。即ち、内燃機関が動力を出力し、第1電動機がその反力を取る状態で、第1クラッチの結合制御が実行される。この場合、内燃機関が起動した状態であるため、トルク及び回転数が比較的安定した状態を作り出すことができる。よって、第1クラッチの同期制御における制御性を向上させることができる。また、第1電動機において回生が行われているため、電力不足による第1クラッチの結合制御の中止を防止できる。更に、第2電動機による発電が不要となるため、エネルギ効率の向上を実現することができる。
【0029】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】ハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】エンジン200の一断面構成を例示する模式図である。
【図4】ECUの構成を示すブロック図である。
【図5】ハイブリッド車両の制御装によって実現される4つの動力伝達モードを示すマトリクス図である。
【図6】第1モードの構成を示す共線図である。
【図7】第2モードの構成を示す共線図である。
【図8】第3モードの構成を示す共線図である。
【図9】第4モードの構成を示す共線図である。
【図10】ハイブリッド車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図11】第1クラッチ係合時の同期制御を示す共線図(その1)である。
【図12】第1クラッチ係合時の同期制御を示す共線図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0032】
先ず、本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、ハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0033】
図1において、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、ハイブリッド駆動装置10、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14及びECU100を備えて構成されている。
【0034】
ECU100は、CPU、ROM及びRAM等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「ハイブリッド車両の制御装置」の一例である。ECU100は、例えばROM等に格納された制御プログラムに従って、ハイブリッド車両1における各種制を実行可能に構成されている。
【0035】
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給する。また、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能な不図示のインバータを含んでいる。即ち、PCU11は、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御可能に構成された電力制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0036】
バッテリ12は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な蓄電手段である。
【0037】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0038】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速Vを検出可能に構成されたセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0039】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1のパワートレインとして機能する動力ユニットである。ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0040】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、主にエンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、入力軸400、駆動軸500、減速機構600、第1クラッチ710及び第2クラッチ720を備えて構成されている。
【0041】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能するように構成されている。ここで、図3を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図3は、エンジン200の一断面構成を例示する模式図である。尚、本発明における「内燃機関」とは、例えば2サイクル又は4サイクルレシプロエンジン等を含み、少なくとも一の気筒を有し、当該気筒内部の燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等の物理的又は機械的な伝達手段を適宜介して駆動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念である。係る概念を満たす限りにおいて、本発明に係る内燃機関の構成は、エンジン200のものに限定されず各種の態様を有してよい。また、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図3においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。
【0042】
図3において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介して、クランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0043】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100(不図示)と電気的に接続されており、ECU100では、このクランクポジションセンサ206から出力されるクランク角信号に基づいて、エンジン200の機関回転数NEが算出される構成となっている。
【0044】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210を介して吸気バルブ211の開弁時に気筒201内部へ導かれる。一方、吸気ポート210には、インジェクタ212の燃料噴射弁が露出しており、吸気ポート210に対し燃料を噴射することが可能な構成となっている。インジェクタ212から噴射された燃料は、吸気バルブ211の開弁時期に前後して吸入空気と混合され、上述した混合気となる。
【0045】
燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に供給される構成となっている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
【0046】
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節可能なスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルペダルの開度(即ち、上述したアクセル開度Ta)に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0047】
排気管215には、三元触媒216が設置されている。三元触媒216は、エンジン200から排出される排気中のNOx(窒素酸化物)を還元すると同時に、排気中のCO(一酸化炭素)及びHC(炭化水素)を酸化可能に構成された触媒装置である。尚、触媒装置の採り得る形態は、このような三元触媒に限定されず、例えば三元触媒に代えて或いは加えて、NSR触媒(NOx吸蔵還元触媒)或いは酸化触媒の各種触媒が設置されていてもよい。
【0048】
排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ217が設置されている。更に、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ218が配設されている。これら空燃比センサ217及び水温センサ218は、夫々ECU100と電気的に接続されており、検出された空燃比及び冷却水温は、夫々ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
【0049】
図2に戻り、モータジェネレータMG1は、本発明に係る「第1電動機」の一例たる電動発電機であり、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。モータジェネレータMG2は、本発明に係る「第2電動機」の一例たる電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有するが、他の構成を有していてもよい。
【0050】
動力分割機構300は、中心部に設けられた、本発明に係る「第1回転要素」の一例たるサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられた、本発明に係る「第2回転要素」の一例たるリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤP1と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支する、本発明に係る「第3回転要素」の一例たるキャリアC1とを備えている。即ち、動力分割機構300は、本発明に係る「動力伝達機構」の一例たる動力伝達装置である。
【0051】
ここで、サンギヤS1は、サンギヤ軸310を介してMG1のロータRT1に連結されており、その回転数はMG1の回転数Nmg1(以下、適宜「MG1回転数Nmg1」と称する)と等価である。また、リングギヤR1は、駆動軸500、減速機構600を介してMG2のロータRT2に結合されており、その回転数はMG2の回転数Nmg2(以下、適宜「MG2回転数Nmg2」と称する)と一義的な関係にある。更に、キャリアC1は、エンジン200の先に述べたクランクシャフト205に連結された入力軸400と連結されており、その回転数は、エンジン200の機関回転数NEと等価である。尚、ハイブリッド駆動装置10において、MG1回転数Nmg1及びMG2回転数Nmg2は、夫々レゾルバ等の回転センサにより一定の周期で検出されており、ECU100に一定又は不定の周期で送出されている。
【0052】
一方、駆動軸500は、ハイブリッド車両1の駆動輪たる右前輪FR及び左前輪FLを夫々駆動するドライブシャフトSFR及びSFL(即ち、これらドライブシャフトは、本発明に係る「車軸」の一例である)と、各種減速ギヤ及び差動ギヤを含む減速装置としての減速機構600を介して連結されている。従って、モータジェネレータMG2から駆動軸500に供給されるモータトルクTmg2は、減速機構600を介して各ドライブシャフトへと伝達され、各ドライブシャフトを介して伝達される各駆動輪からの駆動力は、同様に減速機構600及び駆動軸500を介してモータジェネレータMG2に入力される。従って、MG2回転数Nmg2は、ハイブリッド車両1の車速Vと一義的な関係にある。
【0053】
動力分割機構300は、係る構成の下で、エンジン200からクランクシャフト205を介して入力軸400に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1とピニオンギヤP1とによってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率(各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能となっている。
【0054】
動力分割機構300の動作を分かり易くするため、リングギヤR1の歯数に対するサンギヤS1の歯数としてのギヤ比ρを定義すると、エンジン200からキャリアC1に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギヤ軸310に現れるトルクTesは下記(1)式により、また駆動軸500に現れるトルクTer(即ち、エンジン200からの直達トルク)は下記(2)式により夫々表される。
【0055】
Tes=−Te×ρ/(1+ρ)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+ρ)・・・(2)
本実施形態に係る動力分割機構300は更に、リングギヤR1及び駆動軸500間に第1クラッチ710を備えており、その係合状態によって、リングギヤR1と駆動軸500及びMG2との連結を切り離し及び結合可能である。具体的には、第1クラッチ710が切り離された状態においては、エンジン200やMG1からリングギヤR1を介して出力される動力は、駆動軸500及びMG2には伝達されない。一方、第1クラッチ710が係合された状態においては、リングギヤR1を介して出力される動力が、駆動軸500及びMG2に伝達される。
【0056】
また動力分割機構300は、リングギヤR1及びキャリアC1間の連結を切り離し及び結合可能な第2クラッチ720を備えている。第2クラッチ720の係合時には、リングギヤR1及びキャリアC1が互いに連結されるため、動力分割機構300が一体的に回転されることになる。即ち、第2クラッチ720は、動力分割機構300の一体的な回転動作を許容するか否かを決定するための機構である。
【0057】
上述した第1クラッチ710及び第2クラッチ720は、例えば回転可能な噛合い式のドグクラッチとして構成されており、夫々独立して制御可能とされる。このようにすれば、第1クラッチ710及び第2クラッチ720の係合状態を夫々制御することにより、複数種類の動力伝達モードを実現できる。具体的な動力伝達モードの構成については、後に詳述する。
【0058】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置であるECU100の具体的な構成について、図4を参照して説明する。ここに図4は、ECUの構成を示すブロック図である。
【0059】
図4において、ECU100は、モード変更指示部110、第1制御部120、回転数推定部130、第2制御部140、第3制御部150、モード切替制御部160、回転数検出部170及び起動制御部180を備えて構成されている。
【0060】
モード変更指示部110は、入力される各種パラメータ(例えば、ハイブリッド車両1の運転状況を示すパラメータ)に基づいて、動力伝達モードを変更すべきか否かを判定する。ここでの判定条件は、例えばROM等の記憶装置に予め記憶されており、ハイブリッド車両1は、運転状況に応じて最適な動力伝達モードとなるように制御される。モード変更指示部110は、動力伝達モードを変更すべきと判定した場合は、動力伝達モードを変更するようにモード変更命令を出力する。
【0061】
第1制御部120は、本発明の「第1制御手段」の一例であり、モード変更指示部110から第1クラッチ710を係合させる指示が出た際に、第2クラッチ720を係合するようにモード切替制御部160を制御する。
【0062】
回転数推定部130は、本発明の「回転数推定手段」の一例であり、例えば演算回路やメモリ等を含んで構成されている。回転数推定部130は、第1クラッチ710を係合することなく、第1クラッチ710が係合された場合のエンジン200の回転数を推定する。エンジン200の回転数は、例えば車速等を用いて推定することが可能である。
【0063】
第2制御部140は、本発明の「第2制御手段」の一例であり、回転数推定部130において推定されたエンジン200の回転数が所定の閾値未満である場合に、モード切替制御部160を制御して第1クラッチを係合させる。具体的には、エンジン200を起動させない状態で、第1クラッチ710の係合制御を行うようにする。
【0064】
第3制御部150は、本発明の「第3制御手段」の一例であり、回転数推定部130において推定されたエンジン200の回転数が所定の閾値以上である場合に、モード切替制御部160を制御して第1クラッチを係合させる。第3制御部150による具体的な制御方法については後に詳述する。
【0065】
モード切替制御部160は、本発明の「切替手段」の一例であり、第1制御部120、第2制御部140及び第3制御部150からの指示によって、動力分割機構300の第1クラッチ710及び第2クラッチ720の係合状態を制御する。
【0066】
回転数検出部170は、本発明の「回転数検出手段」の一例であり、第1クラッチ710が係合された後のエンジン200の回転数を検出する。回転数検出部170は、エンジン200の回転数を直接検出するような回転数センサとして構成されてもよいし、例えばMG1等の回転数等を用いて間接的にエンジン200の回転数を検出するものとして構成されてもよい。
【0067】
起動制御部180は、本発明の「起動制御手段」の一例であり、回転数検出部170において検出された回転数が所定の閾値以上である場合に、エンジン200を起動させる。
【0068】
尚、ECU100は、上述した各手段を含んで構成された一体の電子制御ユニットであり、上記各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係る上記手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0069】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両における動力伝達モードについて、図5から図9を参照して説明する。ここに図5は、ハイブリッド車両の制御装置によって実現される4つの動力伝達モードを示すマトリクス図である。また図6は、第1モードの構成を示す共線図、図7は、第2モードの構成を示す共線図、図8は、第3モードの構成を示す共線図、図9は、第4モードの構成を示す共線図である。
【0070】
図5及び図6において、第1モードでは、第1クラッチ710が切り離されている(即ち、OFFである)ため、動力分割機構300におけるリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力されない。このため、ハイブリッド車両1は、動力分割機構300より下流側に位置するMG2から出力された動力によって走行する。即ち、第1モードは、エンジン200からの動力を利用せず、電力のみで走行するモードと呼べる。第1モードでは特に、第2クラッチ720も切り離されている(即ち、OFFである)ため、動力分割機構300における引き摺り等によるエネルギ損失を防止できる。よって、極めて高いエネルギ効率を実現することが可能である。
【0071】
図5及び図7において、第2モードでは、上述した第1モードと同様に第1クラッチ710が切り離されているため、動力分割機構300におけるリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力されない。このため、ハイブリッド車両1は、動力分割機構300より下流側に位置するMG2から出力された動力によって走行する。但し、第2モードでは、第2クラッチ720が結合されている(即ち、ONである)ため、動力分割機構300が一体的に回転する。このため、エンジン200の動力をMG1に伝達して回生させることができる。MG1において回生した電力は、MG2の動力として利用できる。このため第2モードでは、第1モードと比べて車両の走行距離を伸ばすことが可能である。
【0072】
図5及び図8において、第3モードでは、第1クラッチ710が結合されているため、動力分割機構300におけるリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力される。このため、ハイブリッド車両1は、エンジン200からの動力により走行することになる。尚、第2クラッチ720が結合されており、動力分割機構300が一体的に回転できるため、エンジン200からの動力の一部をMG1による回生に利用することが可能である。また、MG2から動力を出力して、エンジン200からの動力をアシストするような駆動も可能となる。第3モードでは、上述した第2モードでは効率向上効果を得にくい高速低負荷走行時の効率向上を図ることができる。更には、MG1及びMG2に不具合が発生した場合の緊急退避走行(即ち、エンジン200のみでの走行)も可能である。
【0073】
図5及び図9において、第4モードでは、上述した第3モードと同様に第1クラッチ710が結合されているため、動力分割機構300におけるリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力される。このため、ハイブリッド車両1は、エンジン200からの動力により走行することになる。ここで第4モードでは特に、エンジン200から出力された動力が目標とする動力より大きい場合には、その動力の残余がMG1に伝達され回生される。一方で、エンジン200から出力された動力が目標とする動力より小さい場合には、エンジン200から出力された動力及びMG1から出力された動力が駆動軸500へと出力されると共に、残余動力がMG2において回生される。第4モードによれば、車速によらず高効率を実現することができる。
【0074】
以上のように、本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、車両の走行状況等に応じて動力伝達モードを適宜切替えることにより、効率の高い運転を実現できる。
【0075】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置による具体的な制御及びその効果について、図10を参照して説明する。ここに図10は、ハイブリッド車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0076】
図10において、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置では、第1クラッチ710を係合するようにモード変更指示部110から要求が出されると(ステップS01:YES)、第2制御部120によって、第1クラッチ710を係合させないままで、第2クラッチ720が係合される(ステップS02)。即ち、第1クラッチ710を結合しようとする場合には、先ず第2クラッチ720の結合が先に実行される。尚、既に第2クラッチ720が結合されている場合には、ステップS02の処理は省略することができる。
【0077】
第2クラッチ720が結合されると、回転数推定部130において、第1クラッチ710係合後のエンジン200の回転数が推定される(ステップS03)。ここでのエンジン200の回転数の推定は、第1クラッチ710を切り離したままで行われる。即ち、実際に第1クラッチ710を係合させることなく、車速等のパラメータを用いた演算によって、エンジン200の回転数が推定される。
【0078】
エンジン200の回転数が推定されると、その回転数が、所定の閾値以上であるか否かが判定される(ステップS04)。所定の閾値には、例えばエンジンのアイドル回転数や起動回転数が設定されている。
【0079】
ここで、推定されたエンジン200の回転数が所定の閾値以上である場合(ステップS04:YES)、第3制御部150の指示によって、エンジン200が起動した状態での第1クラッチの同期制御が実行され(ステップS05)、第1クラッチ710が係合される(ステップS06)。以下では、図11を参照して、エンジン200が起動した状態での第1クラッチ710の係合制御について説明する。ここに図11は、第1クラッチ係合時の同期制御を示す共線図(その1)である。
【0080】
図11において、第1クラッチ710の係合時には、先ず第2クラッチ720が係合される。即ち、リングギヤR1及びキャリアC1間が連結され、動力分割機構300が一体的に回転可能とされる。続いて、エンジン200からトルクを出力して係合部の回転数(即ち、リングギヤR1の回転数)が上昇される。この際、サンギヤS1側では、MG1で反力を取ることにより回生が行われる。即ち、MG1では、エンジン200の動力を利用して発電が行われる。
【0081】
第1クラッチ710の回転数が同期されると、実際に係合が実行される。このような係合制御では、エンジン200が起動した状態で行われるため、トルク及び回転数が比較的安定した状態を作り出すことができる。よって、第1クラッチ710の同期制御における制御性を向上させることができる。また、MG1において回生が行われているため、電力不足による第1クラッチ710の結合制御の中止を防止できる。更に、MG2による発電が不要となるため、エネルギ効率の向上を実現することができる。
【0082】
図10に戻り、エンジン200の回転数が所定の閾値未満である場合(ステップS04:NO)、エンジン200が起動しているか否かが判定される(ステップS07)。エンジン200が起動している場合には(ステップS07:YES)、燃料噴射が停止される(ステップS08)。即ち、エンジン200の運転が停止される。一方、エンジンが起動していない場合には(ステップS07:NO)、上述したステップS08の処理は省略される。
【0083】
以上の結果、エンジン200の回転数が所定の閾値未満である場合には、エンジンが起動していない状態で第1クラッチ710が係合される。以下では、図12を参照して、エンジン200が起動していない状態での第1クラッチ710の係合制御について説明する。ここに図12は、第1クラッチ係合時の同期制御を示す共線図(その2)である。
【0084】
図12において、第1クラッチ710の係合時には、先ず第2クラッチ720が係合される。即ち、リングギヤR1及びキャリアC1間が連結され、動力分割機構300が一体的に回転可能とされる。続いて、比較的精度の高いMG1のレゾルバ等から回転数を検出し、その回転数を利用して同期制御を行う。即ち、ここではMG1の動力を利用して高い精度で同期制御が実行できる。このようにMG1の回転数が利用できるのは、第2クラッチ720の係合によって、動力分割機構300が一体的に回転しているからである。
【0085】
第1クラッチ710の回転数が同期されると、エンジン200が起動していない状態のまま、実際に係合が実行される。ここで仮に、エンジン200の回転数が所定の閾値未満である場合に、エンジン200を起動させた状態で第1クラッチ710を係合させたとする。この場合、エンジン200は、自立回転できない状態で駆動軸500と結合されてしまうことになる。このため、エンジン200では失火や共振等が発生する発生が高く、それに起因するドライバビリティの悪化が予想される。本実施形態に係る係合制御では、上述したようなエンジン200で発生する様々な不具合を防止することができる。
【0086】
再び図10に戻り、第1クラッチ710が係合されると、この時点でエンジン200が起動しているか否かが判定される(ステップS09)。即ち、第1クラッチ710の係合制御が、エンジン200を起動した状態で行われたのか、或いはエンジン200を起動していない状態で行われたのかが判定される。
【0087】
ここで、エンジン200が起動していないと判定された場合(ステップS09:NO)、回転数検出部170において、エンジン200の回転数が検出される(ステップS10)。即ち、回転数推定部130のように、第1クラッチ710を係合させずに回転数を推定するのではなく、実際に第1クラッチ710が係合された状態での回転数が検出される。
【0088】
エンジン200の回転数が検出されると、検出された回転数が所定の閾値以上となっているか否かが判定される(ステップS11)。尚、ここでの所定の閾値は、典型的には推定された回転数に対する値(即ち、ステップS04の処理で用いられる所定の閾値)と同じものとして設定される。但し、必ずしも完全に同じ値にする必要はなく、多少のマージンを含んだ異なる値が設定されても構わない。
【0089】
検出されたエンジン200の回転数が所定の閾値以上になっていると判定された場合(ステップS11:YES)起動制御部180によって、停止されていたエンジン200が起動される(ステップS12)。第1クラッチ710係合後のエンジン200の回転数が所定の閾値以上であれば、エンジン200が起動したとしても不具合が起こることはないと考えられる。よって、エンジン200から出力される動力を利用した走行を好適に実現することが可能である。
【0090】
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、第1クラッチ710及び第2クラッチ720を用いた動力伝達モードの切替えを好適に行うことが可能である。
【0091】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0092】
1…ハイブリッド車両、10…ハイブリッド駆動装置、11…PCU、12…バッテリ、13…アクセル開度センサ、14…車速センサ、100…ECU、110…モード変更指示部、120…第1制御部、130…回転数推定部、140…第2制御部、150…第3制御部、160…モード切替制御部、170…回転数検出部、180…起動制御部、200…エンジン、205…クランクシャフト、300…動力分割機構、310…サンギヤ軸、S1…サンギヤ、C1…キャリア、R1…リングギヤ、MG1…モータジェネレータ、MG2…モータジェネレータ、400…入力軸、500…駆動軸、600…減速機構、710…第1クラッチ、720…第2クラッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電動機、第2電動機及び内燃機関を含む動力要素と、
前記動力要素からの動力を車軸に伝達する駆動軸と、
前記第1電動機に連結された第1回転要素、前記第2電動機及び前記駆動軸に夫々連結された第2回転要素、並びに前記内燃機関に連結された第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する動力伝達機構と、
前記第2回転要素の前記第2電動機及び前記駆動軸との連結を切り離し及び結合可能な第1クラッチと、
前記第1回転要素、前記第2回転要素及び前記第3回転要素のうち2つの回転要素を、互いに切り離し及び結合可能な第2クラッチと
を備えたハイブリッド車両を制御する装置であって、
前記第1クラッチ及び前記第2クラッチの結合状態を夫々制御することで動力伝達モードを切替える切替手段と、
前記切替手段によって、前記第1クラッチが切り離された状態から結合された状態へと切替えられる場合に、前記第1クラッチを切り離したままで前記第2クラッチを結合させるように前記切替手段を制御する第1制御手段と、
前記第1クラッチを切り離したままで、前記第1クラッチ結合後の前記内燃機関の回転数を推定する回転数推定手段と、
前記回転数推定手段において推定された前記内燃機関の回転数が所定の閾値未満である場合に、前記内燃機関が起動していない状態で前記第1クラッチを結合するように前記切替手段を制御する第2制御手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関が起動していない状態で前記第1クラッチが結合された場合に、前記第1クラッチ結合後の前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記回転数検出手段において検出された前記内燃機関の回転数が所定の閾値以上となった場合に、前記内燃機関を起動させる起動制御手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記回転数推定手段において推定された前記内燃機関の回転数が所定の閾値以上である場合に、前記内燃機関を起動させると共に前記第1電動機による回生を行いつつ、前記第1クラッチを結合するように前記切替手段を制御する第3制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項1】
第1電動機、第2電動機及び内燃機関を含む動力要素と、
前記動力要素からの動力を車軸に伝達する駆動軸と、
前記第1電動機に連結された第1回転要素、前記第2電動機及び前記駆動軸に夫々連結された第2回転要素、並びに前記内燃機関に連結された第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する動力伝達機構と、
前記第2回転要素の前記第2電動機及び前記駆動軸との連結を切り離し及び結合可能な第1クラッチと、
前記第1回転要素、前記第2回転要素及び前記第3回転要素のうち2つの回転要素を、互いに切り離し及び結合可能な第2クラッチと
を備えたハイブリッド車両を制御する装置であって、
前記第1クラッチ及び前記第2クラッチの結合状態を夫々制御することで動力伝達モードを切替える切替手段と、
前記切替手段によって、前記第1クラッチが切り離された状態から結合された状態へと切替えられる場合に、前記第1クラッチを切り離したままで前記第2クラッチを結合させるように前記切替手段を制御する第1制御手段と、
前記第1クラッチを切り離したままで、前記第1クラッチ結合後の前記内燃機関の回転数を推定する回転数推定手段と、
前記回転数推定手段において推定された前記内燃機関の回転数が所定の閾値未満である場合に、前記内燃機関が起動していない状態で前記第1クラッチを結合するように前記切替手段を制御する第2制御手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関が起動していない状態で前記第1クラッチが結合された場合に、前記第1クラッチ結合後の前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記回転数検出手段において検出された前記内燃機関の回転数が所定の閾値以上となった場合に、前記内燃機関を起動させる起動制御手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記回転数推定手段において推定された前記内燃機関の回転数が所定の閾値以上である場合に、前記内燃機関を起動させると共に前記第1電動機による回生を行いつつ、前記第1クラッチを結合するように前記切替手段を制御する第3制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−35658(P2012−35658A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174618(P2010−174618)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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