説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】乗員に違和感を与えることなく回転電機をロック可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ロック機構は、エンジンのトルクにより回転する回転要素の状態をロック状態と回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能である。第1の伝達制御手段は、ロック機構をロック状態にする。第2の伝達制御手段は、ロック機構を非ロック状態にする。切り替え手段は、第2の伝達制御手段による制御から第1の伝達制御手段による制御への切り替え要求時に、第2の伝達制御手段による制御から第1の伝達制御手段による制御へ切り替えた場合のエンジン回転数と、現在のエンジン回転数との差が、乗員が違和感を生じない範囲内である場合、第2の伝達制御手段による制御から第1の伝達制御手段による制御に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に好適な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関(エンジン)に加えて、電動機や発電機として機能する回転電機(モータジェネレータ)を備えるハイブリッド車両が知られている。例えば、特許文献1には、エンジン回転数と駆動軸の回転数との回転数比を連続的に変化させる無段変速モードと、モータジェネレータより反力トルクを出力させずに、回転数比を固定にする固定変速比モードと、を有するハイブリッド車両が開示されている。また、このハイブリッド車両は、上述の変速モードを切り替えるために、第1のモータジェネレータを固定(ロック)するためのロック機構を備え、第1のモータジェネレータの回転数を0に近づけた後、ロック機構の係合を行う。また、上述のハイブリッド車両は、当該第1のモータジェネレータの回転数の変化率が所定値以下の場合にロック機構の係合を行う。その他、本発明に関連する技術が、特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−001773
【特許文献2】特開2002−027191
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固定変速比モードでは、エンジン回転数は、車速が定まれば一義的に定まる。一方、無段変速モードでは、最適燃費動作線に基づきエンジンが動作する。従って、無段変速モードから固定変速比モードへ移行する場合のエンジン回転数の変化量は、当該移行時の運転条件次第により異なる。そして、第1モータジェネレータをロックする前後でエンジン回転数が大きく変化した場合、乗員が違和感を生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、乗員に違和感を与えることなく回転電機をロック可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、エンジンのトルクにより回転する回転要素の状態を回転不能なロック状態と回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能なロック機構と、前記回転要素にトルクを付与するトルク付与手段と、前記ロック機構をロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う第1の伝達制御手段と、前記ロック機構を非ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を前記トルク付与手段に受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを前記駆動軸に伝達させるように制御を行う第2の伝達制御手段と、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御への切り替え要求時に、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御へ切り替えた場合のエンジン回転数と、現在のエンジン回転数との差が、乗員が違和感を生じない範囲内である場合、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御に切り替える切り替え手段と、を備える。
【0007】
上記のハイブリッド車両の制御装置は、ハイブリッド車両に搭載され、ロック機構と、トルク付与手段と、第1の伝達制御手段と、第2の伝達制御手段と、切り替え手段と、を備える。ロック機構は、エンジンのトルクにより回転する回転要素の状態をロック状態と回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能である。トルク付与手段は、上述の回転要素にトルクを付与する。第1の伝達制御手段、第2の伝達制御手段、及び切り替え手段は、例えばECU(Electronic Control Unit)である。第1の伝達制御手段は、ロック機構をロック状態にすることで、エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う。第2の伝達制御手段は、ロック機構を非ロック状態にすることで、エンジンのトルクの反力をトルク付与手段に受け持たせつつ、エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う。切り替え手段は、第2の伝達制御手段による制御から第1の伝達制御手段による制御への切り替え要求時に、第2の伝達制御手段による制御から第1の伝達制御手段による制御へ切り替えた場合のエンジン回転数と、現在のエンジン回転数との差(単に、「エンジン回転数差」とも呼ぶ。)が、乗員が違和感を生じない範囲内である場合、第2の伝達制御手段による制御から第1の伝達制御手段による制御に切り替える。上述の「乗員が違和感を生じない範囲」は、乗員が違和感を生じないエンジン回転数差の範囲であって、例えば実験等に基づき予め定められる。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、乗員に違和感を生じさせることなく第2の伝達制御手段による制御から第1の伝達制御手段による制御への切り替えを実行することができる。
【0008】
好適な例では、前記トルク付与手段として回転電機を用いることができる。
【0009】
上記のハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記切り替え手段は、車速が高いほど、前記範囲を大きくする。一般に、車速が高いほど走行に起因した乗員に伝わる音が大きくなり、乗員に許容されるエンジン回転数差は大きくなる。従って、この態様により、ハイブリッド車両の制御装置は、乗員が違和感を生じない範囲で、第2の伝達制御手段による制御から第1の伝達制御手段による制御への切り替え頻度が過度に減少するのを防止することができる。
【0010】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記切り替え手段は、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御へ切り替える場合のエンジン回転数の変化方向と、前記エンジンの要求出力の変化方向とが一致する場合、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御へ切り替える。ここで、「変化方向が一致する」とは、具体的には、前者のエンジン回転数と、後者のエンジンの要求出力とが共に増加する場合又は共に減少する場合を指す。この態様では、ハイブリッド車両の制御装置は、エンジン音と、エンジン出力との増減が一致した場合にのみ制御を切り替えることで、乗員が違和感を生じるのをより確実に抑制することができる。
【0011】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、車両の駆動力を発生する第2の回転電機をさらに備え、前記切り替え手段は、エンジン回転数が、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御へ切り替えた場合のエンジン回転数を跨ぐ場合、前記エンジン回転数を、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御へ切り替えた場合のエンジン回転数に固定をし、当該固定による出力変化分を前記第2の回転電機で補正する。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、制御の切り替え完了前の要求駆動力の変化に起因してエンジン回転数が増減して乗員が違和感を生じるのを抑制することができる。
【0012】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記切り替え手段は、前記現在のエンジン回転数が前記範囲から低回転側に外れている場合、前記エンジンを低トルク側の動作点に遷移させ、前記現在のエンジン回転数が前記範囲から高回転側に外れている場合、前記エンジンを高トルク側の動作点に遷移させる。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、エンジン回転数差を上述の範囲に積極的に近づけることができ、第2の伝達制御手段による制御から第1の伝達制御手段による制御への切り替え頻度を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の各実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成図の一例を示す。
【図2】ハイブリッド駆動装置の概略構成図の一例である。
【図3】(a)無段変速モードの場合の動作共線図を示す。(b)固定変速比モードの場合の動作共線図を示す。
【図4】第1実施形態に係るエンジン動作点のマップを示す。
【図5】第1実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図6】第2実施形態に係るエンジン動作点のマップを示す。
【図7】第2実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図8】変形例3に係るハイブリッド駆動装置の概略構成図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0015】
[全体構成]
始めに、図1を参照し、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を適用したハイブリッド車両1の構成の一例について説明する。図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14、及びハイブリッド駆動装置10を備える。
【0016】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、A/D(Analog to Digital)変換器及び入出力インターフェイスなどを有し、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する制御を実行する。そして、ECU100は、本発明における「第1の伝達制御手段」及び「第2の伝達制御手段」として機能する。なお、本発明に係る各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えば各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等であってもよい。
【0017】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動するドライブユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。
【0018】
PCU11は、不図示のインバータを含み、バッテリ12と後述する各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いはバッテリ12を介さない各モータジェネレータ相互間の電力の入出力を制御する制御ユニットである。具体的には、PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して各モータジェネレータに供給すると共に、各モータジェネレータによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給する。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される。
【0019】
バッテリ12は、複数の単位電池セルを直列接続した構成を有し、各モータジェネレータを力行するための電力に係る電力供給源として機能する電池ユニットである。
【0020】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度「Ta」を検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0021】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速「V」を検出するセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0022】
[ハイブリッド駆動装置の構成]
ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。図2は、ハイブリッド駆動装置10の概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。以後では、「連結」とは、動力(回転)の伝達を直接的に行う構造を含むほか、1又は2以上の部材を介して動力の伝達を間接的に行う構造も含む。
【0023】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「モータMG1」と略称する。)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「モータMG2」と略称する。)、入力軸400、ロック機構500、MG2リダクション機構600及び減速機構700を備える。
【0024】
エンジン200は、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能する直列4気筒ガソリンエンジンである。エンジン200は、公知のガソリンエンジンであり、ここでは、その詳細な構成を割愛するが、エンジン200の出力動力たるエンジントルク「Te」は、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の入力軸400に連結されている。
【0025】
モータMG1は、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する力行機能と、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生機能とを備えた電動発電機である。モータMG1は、本発明における「トルク付与手段」の一例である。
【0026】
モータMG2は、モータMG1よりも体格の大きい電動発電機であり、モータMG1と同様に、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する力行機能と、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生機能とを備える。モータMG2は、本発明における「第2の回転電機」の一例である。
【0027】
尚、モータMG1及びモータMG2は、同期電動発電機として機能し、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。
【0028】
動力分割機構300は、遊星歯車機構であり、中心部に設けられたサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられたリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤ(不図示)と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支するキャリアC1とを備える。
【0029】
ここで、サンギヤS1は、モータMG1のロータROに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転数はモータMG1の回転数(以後、「MG1回転数Nmg1」と呼ぶ。)と等価である。サンギヤS1は、本発明における「回転要素」の一例である。また、リングギヤR1は、減速機構700及びMG2リダクション機構600の後述するリングギヤR2に連結されており、その回転数は、駆動軸OUTの回転数(以後、「出力回転数Nout」と呼ぶ。)と等価である。更に、キャリアC1は、エンジン200のクランク軸に連結された入力軸400と連結されており、その回転数は、エンジン200の回転数(以後、「エンジン回転数Ne」と呼ぶ。)と等価である。
【0030】
MG2リダクション機構600は、動力分割機構300と同様の遊星歯車機構である。MG2リダクション機構600は、中心部に設けられたサンギヤS2と、サンギヤS2の外周に同心円状に設けられたリングギヤR2と、サンギヤS2とリングギヤR2との間に配置されてサンギヤS2の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤ(不図示)と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支するキャリアC2とを備える。また、サンギヤS2には、モータMG2のロータが連結される。
【0031】
ここで、MG2リダクション機構600のリングギヤR2は、先に述べたように動力分割機構300のリングギヤR1と連結され、車軸と一義的な回転状態を呈する。また、キャリアC2は、固定要素により回転不能に固定されている。従って、残余の一回転要素たるサンギヤS2に固定されたモータMG2には、駆動軸OUTの回転がMG2リダクション機構600を構成する各ギヤのギヤ比に応じて定まる減速比に応じて減速された形で伝達される。このように、MG2リダクション機構600は、減速ギヤ機構として機能する。そして、MG2リダクション機構600と動力分割機構300とによって規定される複合型遊星歯車機構は、回転二自由度の差動機構である。よって、モータMG2の回転数(以後、「MG2回転数Nmg2」と呼ぶ。)は、車速Vに応じて一義的に定まる。
【0032】
減速機構700は、車軸と一義的な回転状態を呈する駆動軸OUTと、この駆動軸OUTに連結された減速ギヤ(符号省略)と、デファレンシャル(符号省略)とを含むギヤ機構である。各車軸の回転数は、減速機構700により所定のギヤ比に従って減速された状態で駆動軸OUTに伝達される。この駆動軸OUTには、先に述べたようにリングギヤR1及びリングギヤR2が連結されており、各リングギヤが、車速Vと一義的な回転状態を呈する構造となっている。
【0033】
尚、モータMG2は、モータMG1及びエンジン200と異なり、駆動軸OUTに対し、その出力トルク(以後、「MG2トルクTmg2」と呼ぶ。)を作用させることが可能である。従って、モータMG2は、駆動軸OUTにトルクを付加してハイブリッド車両1の走行をアシストすることも可能であり、駆動軸OUTからのトルクの入力により電力回生を行うことも可能である。MG2トルクTmg2は、モータMG1の入出力トルク(以後、「MG1トルクTmg1」と呼ぶ。)と共に、PCU11を介してECU100により制御される。
【0034】
ハイブリッド駆動装置10は、図示破線枠A1及びA2に相当する部位に、レゾルバ等の回転センサが設けられている。これら回転センサは、ECU100と電気的に接続された状態にあり、検出された回転数(回転角速度)は、夫々ECU100に対し一定又は不定の周期で送出されている。補足すると、図示破線枠A1に相当する部位の回転数とは、MG2回転数Nmg2であり、図示破線枠A2に相当する部位の回転数とは、MG1回転数Nmg1である。
【0035】
動力分割機構300は、上述した構成の下で、エンジン200から入力軸400に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1によってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率、具体的には各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率で分配する。即ち、動力分割機構300は、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能である。この際、リングギヤR1の歯数に対するサンギヤS1の歯数としてのギヤ比「P」を定義すると、エンジン200からキャリアC1に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギヤS1に作用するトルク「Tes」は下記(1)式により、また駆動軸OUTに現れるトルク(以後、「エンジン直達トルクTer」と呼ぶ。)は下記(2)式により、夫々表される。
【0036】
Tes=−Te×P/(1+P)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+P)・・・(2)
ロック機構500は、サンギヤS1の状態を、回転不能なロック状態と回転可能な解放状態との間で選択的に切り替え可能に構成された係合装置である。ここで、サンギヤS1は、既に述べた通りモータMG1に連結されており、サンギヤS1がロック状態にある場合、モータMG1もまた回転不能なロック状態となる。以後では、ECU100がサンギヤS1をロック状態にすることを適宜「モータMG1をロックする」とも表現する。ロック機構500は、例えば、一対の係合要素の各々に形成された歯状部材を相互に噛合させることにより係合要素同士を係合させる電磁ドグクラッチ等の噛合式係合装置であってもよいし、所謂電磁カムロック式の係合装置であってもよい。他の例では、ロック機構500は、不図示の油圧制御機構により供給される制御油圧に応じて相互に係合及び解放可能に構成された複数の係合要素を備えた湿式多板型ブレーキ装置であってもよい。
【0037】
尚、本発明に係る「差動機構」に係る実施形態上の構成は、動力分割機構300のものに限定されない。例えば、本発明に係る差動機構は、複数の遊星歯車機構が組み合わされた複合型遊星歯車機構であってもよい。
【0038】
[制御方法]
以下では、ECU100が実行する制御方法について具体的に説明する。
【0039】
(各変速モードでの基本制御)
ハイブリッド車両1は、ロック対象となる動力分割機構300のサンギヤS1の状態に応じて、固定変速比モード及び無段変速モードを選択可能である。以下、各変速モードでの基本的な制御について説明する。
【0040】
図3(a)、(b)は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。具体的には、図3(a)は、無段変速モードの場合の動作共線図を示す。また、図3(b)は、固定変速比モードの場合の動作共線図を示す。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0041】
図3(a)において、縦軸は回転数を表しており、横軸は、左から順にモータMG1(一義的にサンギヤS1)、エンジン200(一義的にキャリアC1)及びモータMG2(一義的に駆動軸OUT)を表す。
【0042】
ここで、動力分割機構300は、相互に差動関係にある複数の回転要素を備えた回転二自由度の遊星歯車機構であり、サンギヤS1、キャリアC1及びリングギヤR1のうち二要素の回転数が定まった場合に、残余の一回転要素の回転数が必然的に定まる。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表される。
【0043】
図3(a)において、車速V及び出力回転数Noutと一義的な関係にあるモータMG2の動作点が動作点「m1」であるとする。この場合、モータMG1の動作点が動作点「g1」であれば、残余の回転要素の一たるキャリアC1に連結されたエンジン200の動作点は、動作点「e1」となる。この際、ECU100は、出力回転数Noutを維持したままモータMG1の動作点を動作点「g2」及び動作点「g3」に変化させた場合、エンジン200の動作点は、夫々動作点「e2」及び動作点「e3」へと変化する。
【0044】
即ち、この場合、ECU100は、モータMG1を回転数制御機構として機能させることによって、エンジン200を所望の動作点で動作させる。この状態に対応する変速モードが、無段変速モードである。無段変速モードでは、エンジン200の動作点(以後、「エンジン動作点」と呼ぶ。)は、基本的にエンジン200の燃料消費率が最小となるエンジン動作点(以後、「最適燃費動作点」と呼ぶ。)に制御される。このように、無段変速モードでは、動力分割機構300は、一種のCVT(Continuously Variable Transmisson:無段変速装置)として機能する。なお、この場合のエンジン動作点とは、エンジン回転数NeとエンジントルクTeとの組み合わせによって規定されるエンジン200の一動作条件を意味する。以後では、エンジン動作線とは、エンジン動作点を結んだ線を指す。
【0045】
ここで、無段変速モードでは、MG1回転数Nmg1は可変である必要がある。このため、ECU100は、無段変速モードを選択する場合、ロック機構500を、サンギヤS1が非ロック状態となるように制御する。
【0046】
また、駆動軸OUTにエンジン直達トルクTerを供給するため、ECU100は、エンジントルクTeに応じてサンギヤS1の回転軸であるサンギヤ軸310に現れる先述のトルクTesと大きさが等しく且つ符号が反転した(即ち、負トルクである)反力トルクを、モータMG1からこのサンギヤ軸310に供給する。この場合、動作点g1或いは動作点g2といった正回転領域の動作点で、モータMG1は正回転負トルクの電力回生状態(即ち、発電状態)となる。このように、ECU100は、無段変速モードでは、モータMG1を反力要素として機能させることにより、駆動軸OUTにエンジントルクTeの一部を供給しつつ、サンギヤ軸310に分配されるエンジントルクTeの一部で電力回生(発電)を行う。駆動軸OUTに対し要求されるトルクがエンジン直達トルクTerで不足する場合、ECU100は、この回生電力を利用する形で、或いは適宜バッテリ12から電力を持ち出して、モータMG2から駆動軸OUTに対し適宜アシストトルクとしてのMG2トルクTmg2を供給する。
【0047】
一方、例えば高速軽負荷走行時等、例えば出力回転数Noutが高い割にエンジン回転数Neが低く済むような運転条件では、モータMG1が、例えば動作点g3の如き負回転領域の動作点となる。モータMG1は、エンジントルクTeの反力トルクとして負トルクを出力しているから、この場合、モータMG1は、負回転負トルクの状態となって力行状態となる。即ち、この場合、モータMG1の入出力トルクであるMG1トルクTmg1は、ハイブリッド車両1の駆動トルクとして駆動軸OUTに伝達される。他方、ECU100は、エンジン直達トルクTerとMG2トルクTmg2との総和がドライバの要求するトルクに合致するように、エンジン200、モータMG1及びモータMG2が相互に協調的に制御する。従って、このようにモータMG1が力行状態に陥った場合、モータMG2は、駆動軸OUTに供給される、要求トルクに対し過剰なトルクを吸収するため、負トルク状態となる。この場合、モータMG2は、正回転負トルクの状態となって電力回生状態となる。このような状態においては、モータMG1からの駆動力をモータMG2での電力回生に利用し、この回生電力によりモータMG1を力行駆動する、といった所謂動力循環と称される非効率な電気パスが生じることとなる。動力循環が生じた状態では、ハイブリッド駆動装置10のシステム効率が低下する。
【0048】
そこで、ECU100は、予めこのような動力循環が生じ得るものとして定められた運転領域において、ロック機構500によりサンギヤS1をロック状態に制御する。その様子が図3(b)に示される。ロック機構500によりサンギヤS1がロック状態に移行すると、モータMG1の動作点は、回転数「0」に対応する図示動作点「g4」に固定される。
【0049】
この場合、出力回転数Noutとこの0回転とにより、残余のエンジン回転数Neは一義的に固定され、その動作点は図示動作点「e4」となる。即ち、サンギヤS1がロックされた場合、エンジン回転数Neは、車速Vと一義的なMG2回転数Nmg2により一義的に決定される。即ち、この場合、変速比が一定となる。この状態に対応する変速モードが固定変速比モードである。
【0050】
固定変速比モードでは、ECU100は、本来モータMG1が負担すべきエンジントルクTeの反力トルクを、ロック機構500の物理的な係合力により代替させる。即ち、この場合、ECU100は、モータMG1を電力回生状態にも力行状態にも制御する必要がないため、モータMG1を停止させる。従って、基本的には、モータMG2を稼動させる必要もなくなり、モータMG2は、言わば空転状態となる。結局、固定変速比モードでは、駆動軸OUTに現れる駆動トルクが、エンジントルクTeのうち、動力分割機構300により駆動軸OUT側に分割された直達トルクTerのみとなり、ハイブリッド駆動装置10は、機械的な動力伝達を行うのみとなって、その伝達効率が向上する。
【0051】
尚、固定変速比モードにおいて、ECU100は、モータMG2を必ずしも停止させる必要はない。例えば、ハイブリッド車両1には、各種の電装補器類が備わっており、それら電装補器類の駆動には然るべき駆動電力が必要となる。モータMG2は、この駆動電力に対応する電力をバッテリ12に供給するために、小規模の電力回生を行ってもよい。この場合、ECU100は、エンジントルクTeの直達成分がハイブリッド車両1を走行させるために要求されるトルクに対し余剰となるようにエンジントルクTeを制御し、余剰分のトルクをモータMG2で回生させる。また、ECU100は、エンジン直達トルクTerのみでは駆動トルクが不足する場合、モータMG2を力行駆動させ、MG2トルクTmg2によって駆動トルクを適宜アシストする。
【0052】
(固定変速比モードへの切り替え要求時の制御)
次に、無段変速モードから固定変速比モードへの変速モードの切り替え要求(以後、「ロック要求」とも呼ぶ。)があった場合にECU100が実行する制御について第1実施形態及び第2実施形態で説明する。
【0053】
<第1実施形態>
第1実施形態では、ECU100は、以下に説明する第1制御乃至第5制御のいずれか一つ又は複数組み合わせて実行する。以下、第1制御乃至第5制御について具体的に説明する。
【0054】
1−1.第1制御
概略的には、第1制御では、ECU100は、モータMG1のロックの前後のエンジン回転数Neの変化量が所定範囲内にあるという条件を、無段変速モードから固定変速比モードに切り替えるための条件(「ロック条件」とも呼ぶ。)に加える。これにより、ECU100は、乗員に違和感を生じさせることなく変速モードの切り替えを実行する。
【0055】
具体的には、ECU100は、ロック要求があった場合、エンジン回転数Neと、変速モードを固定変速比モードへ切り替えた場合のエンジン回転数Neの推定値(「ロック時エンジン回転数NeL」とも呼ぶ。)との差(「エンジン回転数差dNe」とも呼ぶ。)を監視する。ECU100は、ロック時エンジン回転数NeLを、例えば現在の車速V及びアクセル開度Ta等に基づき、所定のマップ又は式を参照して算出する。上述のマップ等は、予め実験等に基づき作成され、ECU100のメモリに記憶される。
【0056】
そして、ECU100は、エンジン回転数差dNeが所定範囲(以後、「許容回転数差範囲Wd」とも呼ぶ。)内にある場合、モータMG1をロックして変速モードを固定変速比モードへ切り替える。上述の許容回転数差範囲Wdは、乗員が違和感を生じないエンジン回転数差dNeの範囲に設定され、例えば、実験等に基づき予め定められる。具体的には、許容回転数差範囲Wdは、所定の下限値(「第1下限値a1」とも呼ぶ。)及び所定の上限値(「第1上限値b1」とも呼ぶ。)により定められる。なお、第1下限値a1は0又は負値であり、第1上限値b1は0又は正値である。以後では、エンジン回転数差dNeは、説明の便宜上、ロック時エンジン回転数NeLよりも現在のエンジン回転数Neが大きい場合を正値とする。
【0057】
これにより、ECU100は、無段変速モードから固定変速比モードへ変速モードを切り替える際に乗員に違和感を与えるのを抑制することができる。これについて補足説明する。図3(b)に示すように、固定変速比モードでは、MG1回転数Nmg1が「0」となるため、ロック時エンジン回転数NeLは、車速Vが定まれば一義的に定まる。一方、無段変速モードでは、上述したように、要求パワーごとに熱効率が高いエンジン200の動作点を結んだ最適燃費動作線に基づきエンジン200が動作する。従って、無段変速モードから固定変速比モードへ変速モードを切り替えた場合のエンジン200の変化量、即ちエンジン回転数差dNeは、当該切り替え時の運転条件次第により符号及び大きさが異なってくる。従って、ECU100が無段変速モードから固定変速比モードへ変速モードを切り替える場合、運転条件によってはエンジン回転数Neの変化量及びこれに基づくエンジン音の変化の仕方が大きく変わる可能性がある。また、エンジン回転数Neの変化量は、当該切り替え時のハイブリッド車両1の駆動力の変化量とは必ずしも一致しない。従って、固定変速比モードへの変速モードの切り替え時に、エンジン回転数Neが大きく変化した場合、乗員は違和感を覚える可能性がある。
【0058】
以上を勘案し、ECU100は、ロック要求があった場合に、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdにあるか否か判定し、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdにある場合のみ変速モードを固定変速比モードへ切り替える。このようにすることで、ECU100は、変速モードの切り替え時での乗員の違和感の発生を抑制することができる。
【0059】
1−2.第2制御
好適には、ECU100は、第1制御に加えて、車速Vが大きいほど許容回転数差範囲Wdを大きくする。これにより、ECU100は、固定変速比モードへの切り替えの頻度が過度に減少するのを抑制する。
【0060】
具体的には、第2制御では、ECU100は、車速Vが所定の閾値「Vth」よりも高い場合には、所定比率「k1」を第1下限値a1に乗じると共に、所定比率「k2」を第1上限値b1に乗じることで、許容回転数差範囲Wdを拡大する。閾値Vthは、変速モードの切り替えに起因した違和感が生じにくいと判断される車速Vの下限値等に予め実験等に基づき設定される。また、比率「k1」、「k2」は、1より大きい値であり、例えば実験等に基づき予め定められる。
【0061】
第2制御の効果について補足説明する。一般に、車速Vが高いほど、走行に伴う乗員に伝わる音が大きくなる。従って、車速Vが高いほど、乗員が許容可能なエンジン回転数差dNeは大きくなると考えられる。以上を勘案し、第2制御では、ECU100は、車速Vが閾値Vthよりも高い場合には、比率k1、k2に基づき許容回転数差範囲Wdを拡大する。これにより、ECU100は、乗員の違和感が発生しない範囲で、固定変速比モードへの切り替えの頻度が過度に減少するのを抑制することができる。
【0062】
1−3.第3制御
さらに、好適には、ECU100は、第2制御に加えて、又はこれに代えて、以下に述べる第3制御を実行する。なお、第3制御の作用効果については、後述する「2.動作点イメージ」のセクションで別途詳しく説明する。
【0063】
第3制御では、ECU100は、ロック要求時にエンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeLより低回転であることにより、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdから外れる場合、無段変速モードで運転可能なエンジン200の動作領域の範囲で、エンジン200を低トルク側のエンジン動作点に遷移させる。
【0064】
これにより、ECU100は、許容回転数差範囲Wdで使用可能なエンジン200の出力の幅を拡大することができる。即ち、ECU100は、この場合、エンジン200の出力を変えずにエンジン回転数Neを上げてエンジン回転数差dNeを許容回転数差範囲Wdに近づけることができる。従って、第3制御を実行することで、ECU100は、ロック要求があった時点でエンジン回転数差dNeが第1下限値a1を下回る場合であっても、エンジン回転数Neを上げて固定変速比モードへの切り替えを可能にする。従って、ECU100は、固定変速比モードへの変速モードの切り替え頻度を増やすことができる。
【0065】
同様に、ECU100は、第3制御では、ロック要求時にエンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeLより高回転であることによりエンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdにない場合、無段変速モードで運転可能なエンジン200の動作領域の範囲で、エンジン200を高トルク側のエンジン動作点に遷移させる。
【0066】
これにより、ECU100は、エンジン200の出力を変えずにエンジン回転数Neを上げてエンジン回転数差dNeを許容回転数差範囲Wdに近づけることができる。従って、第3制御を実行することで、ECU100は、ロック要求があった時点でエンジン回転数差dNeが第1上限値b1を上回る場合であっても、エンジン回転数Neを下げて固定変速比モードへの切り替えを可能にする。従って、ECU100は、固定変速比モードへの変速モードの切り替え頻度を増やすことができる。
【0067】
特に、エンジン200が熱効率の高効率域の広いディーゼルエンジンの場合には、第3制御は好適に実行される。即ち、ECU100は、エンジン200がディーゼルエンジンの場合、第3制御を実行することで、燃費の悪化を抑制しつつ、固定変速比モードへの変速モードの切り替え頻度を増やすことができる。
【0068】
1−4.第4制御
さらに、好適には、ECU100は、第3制御に加えて、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdから大きく外れる場合、最適燃費動作線をエンジン動作線に設定する。
【0069】
一般に、ロック要求時にエンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdから大きく外れている場合、第3制御を実行しても、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdになる可能性は低い。即ち、この場合、ECU100が変速モードを固定変速比モードへ切り替える可能性は低い。従って、この場合、ECU100が第3制御に基づき、エンジン動作点を最適燃費動作線からずらしてエンジン200を動作させることは、燃費の観点から好ましくない。
【0070】
以上を勘案し、第4制御では、ECU100は、エンジン回転数差dNeが大きく許容回転数差範囲Wdから外れる場合、具体的には、エンジン回転数差dNeが所定の下限値(「第2下限値a2」とも呼ぶ。)より小さい場合又は所定の上限値(「第2上限値b2」とも呼ぶ。)より大きい場合、ECU100は最適燃費動作線をエンジン動作線に設定する。ここで、第2下限値a2は、第1下限値a1より小さい値に設定され、例えば、ECU100が第3制御を実行することで許容回転数差範囲Wdに遷移する可能性があるエンジン回転数差dNeの下限値等に実験等により予め設定される。同様に、第2上限値b2は、第1上限値b1より大きい値に設定され、例えば、ECU100が第3制御を実行することで許容回転数差範囲Wdに遷移する可能性があるエンジン回転数差dNeの上限値等に実験等により予め設定される。
【0071】
なお、ECU100は、第2制御と第4制御とを共に実行する場合であって、車速Vが閾値Vthより大きい場合、許容回転数差範囲Wdを広げると共に、第2下限値a2及び第2上限値b2の絶対値を大きくしてもよい。即ち、この場合、ECU100は、比率k1を第2下限値a2に乗じると共に、比率k2を第2上限値b2に乗じることで、第2下限値a2及び第2上限値b2の絶対値を大きくする。これにより、ECU100は、許容回転数差範囲Wdの拡大に応じて第2下限値a2及び第2上限値b2を適切に設定し、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdに遷移する可能性があるか否か適切に判定することができる。
【0072】
1−5.第5制御
また、好適には、第4制御に加えて、又はこれに加えて、ECU100は、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdに存在するという条件(単に「対象ロック条件」とも呼ぶ。)以外のロック条件が満たされない場合には、第3制御によらず最適燃費動作線をエンジン動作線とする。一般に、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdに存在しないという理由以外でモータMG1をロックすることができない場合には、ECU100は、第3制御を実行しても、燃費を不要に悪化させる可能性がある。以上を勘案し、ECU100は、この場合、無段変速モードを継続し、かつ、最適燃費動作線をエンジン動作線とする。これにより、ECU100は、不要な燃費悪化を抑制することができる。
【0073】
2.エンジン動作点イメージ
次に、第1制御乃至第5制御の実行時でのエンジン動作点について図4を用いて説明する。図4は、エンジン回転数NeとエンジントルクTeとの対応を示すマップである。図4において、線「L1」は、第1制御乃至第5制御に基づき変速モードを切り替える場合のエンジン動作線を示し、線「L2」は、最適燃費動作線を示し、線「L3」は、無段変速モードでのエンジン動作領域のうち、各エンジン回転数Neに対しエンジントルクTeが最大となるエンジン動作点を結んだ動作線(「CVT領域上限動作線」とも呼ぶ。)に相当する。また、線「L4」は、無段変速モードでのエンジン動作領域のうち、各エンジン回転数Neに対しエンジントルクTeが最小となるエンジン動作点を結んだ動作線(「CVT領域下限動作線」とも呼ぶ。)に相当する。また、線「P1」は、等パワー線を示す。回転数「Ne1」は、エンジン回転数差dNeが第2下限値a2である場合のエンジン回転数Neに相当し、回転数「Ne2」は、エンジン回転数差dNeが第1下限値a1である場合のエンジン回転数Neに相当し、回転数「Ne3」は、エンジン回転数差dNeが第1上限値b1である場合のエンジン回転数Neに相当し、回転数「Ne4」は、エンジン回転数差dNeが第2上限値b2である場合のエンジン回転数Neに相当する。また、図4中の「切り替え許可範囲」とは、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdに属するエンジン回転数Neの範囲を指す。
【0074】
図4に示すように、ECU100は、エンジン回転数Neが回転数Ne1より小さい場合には、第4制御に基づき、エンジン動作点を最適燃費動作線上に設定する(線L1、L2参照)。これにより、ECU100は、変速モードを固定変速比モードへ切り替える可能性が低い場合に、不要に燃費を悪化させることを抑制することができる。
【0075】
次に、ECU100は、エンジン回転数Neが回転数Ne1以上回転数Ne2未満の場合、第3制御に基づき、無段変速モードで運転可能なエンジン動作点のうち、最も低いエンジントルクTeのエンジン動作点を結んだCVT領域下限動作線上でエンジン200を動作させる(線L1、L4参照)。これにより、ECU100は、エンジン200の出力を変えることなくエンジン回転数Neを上昇させ、エンジン回転数差dNeを許容回転数差範囲Wdに近づけることができる。従って、ECU100は、この場合、変速モードを固定変速比モードへ切り替える頻度を増加させることができる。
【0076】
なお、この場合であっても、ECU100は、対象ロック条件以外のロック条件に基づき、変速モードを固定変速比モードへ切り替えないと判断した場合には、第5制御に基づき、燃費悪化を抑制するため、最適燃費動作線に基づきエンジン200を動作させる。これにより、ECU100は、不要な燃費悪化を抑制する。
【0077】
そして、ECU100は、エンジン回転数Neが回転数Ne2以上回転数Ne3以下である場合、変速モードを固定変速比モードへ切り替える。この場合、ECU100は、モータMG1のロックが完了するまでの間、線L3と線L4との間に設定される所定の動作線(「ロック待機時動作線」とも呼ぶ。)に従いエンジンを動作させる(線L1参照)。このように、ECU100は、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdにある場合に固定変速比モードへ切り替えることで、変速モードの切り替えに起因して乗員にエンジン回転数Neの変化に基づく違和感を与えるのを抑制することができる。
【0078】
次に、ECU100は、エンジン回転数Neが回転数Ne3より大きく回転数Ne4以下の場合、第3制御に基づき、無段変速モードで運転可能なエンジン動作点のうち、最も高いエンジントルクTeのエンジン動作点でエンジン200を動作させる(線L1、L3参照)。これにより、ECU100は、エンジンパワーを変えることなくエンジン回転数Neを減少させ、エンジン回転数差dNeを許容回転数差範囲Wdに近づけることができる。従って、ECU100は、この場合、変速モードを固定変速比モードへ切り替える頻度を増やすことができる。
【0079】
なお、この場合であっても、ECU100は、対象ロック条件以外のロック条件が満たされない場合には、第5制御に基づき、燃費悪化を抑制するため、最適燃費動作線に基づきエンジン200を動作させる。これにより、ECU100は、不要な燃費悪化を抑制する。
【0080】
そして、ECU100は、エンジン回転数Neが回転数Ne4より大きい場合、第4制御に基づき、エンジン動作点を最適燃費動作線上に設定する(線L1、L2参照)。これにより、ECU100は、固定変速比モードへ遷移する可能性が低い場合に、不要に燃費を悪化させることを抑制することができる。
【0081】
なお、図4では、ECU100は、エンジン回転数Neが回転数Ne1と回転数Ne2との間に存在する場合、エンジン動作点をCVT領域下限動作線上に設定したが、第3制御の実施形態はこれに限定されない。これに代えて、ECU100は、最適燃費動作線とCVT領域下限動作線との間であって現在のエンジン動作点よりも低トルク側に存在するエンジン動作点に基づきエンジン200を動作させてもよい。同様に、ECU100は、エンジン回転数Neが回転数Ne3と回転数Ne4との間に存在する場合、エンジン動作点をCVT領域上限動作線上に設定したが、第3制御の実施形態はこれに限定されない。これに代えて、ECU100は、最適燃費動作線とCVT領域上限動作線との間であって現在のエンジン動作点よりも高トルク側に存在するエンジン動作点に基づきエンジン200を動作させてもよい。
【0082】
3.処理フロー
図5は、第1実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。なお、図5に示すフローチャートでは、ECU100は、上述の第1制御乃至第5制御を実行する。ECU100は、図5に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0083】
まず、ECU100は、燃費に基づくロック条件が成立したか否か判定する(ステップS100)。具体的には、ECU100は、無段変速モードよりも固定変速比モードの方が燃費がよいか否か判定する。そして、ECU100は、燃費に基づくロック条件が成立したと判断した場合(ステップS100;Yes)、ステップS102へ処理を進める。一方、ECU100は、燃費に基づくロック条件が成立していないと判断した場合(ステップS100;No)、変速モードを無段変速モードに設定する(ステップS101)。そして、ECU100は、この場合、第5制御に基づき、最適燃費動作線に従いエンジン200を動作させる(ステップS112)。
【0084】
次に、ECU100は、第2制御に基づき、ステップS102で車速Vが閾値Vthより大きいか否か判定する(ステップS102)。そして、ECU100は、車速Vが閾値Vthより大きいと判断した場合(ステップS102;Yes)、第1下限値a1及び第2下限値a2に比率k1を乗じると共に、第1上限値b1及び第2上限値b2に比率k22を乗じる(ステップS103)。ここで、比率k1、k2は、1より大きい値に設定される。これにより、ECU100は、車速Vに応じて乗員が違和感を有しない範囲で許容回転数差範囲Wdを拡大し、第1制御によるロック条件の追加に基づく固定変速比モードへの変速モードの切り替え頻度の減少を抑制することができる。また、ECU100は、許容回転数差範囲Wdの拡大に合わせて、第2下限値a2及び第2上限値b2を設定する。
【0085】
次に、ECU100は、第1制御に基づき、エンジン回転数Neにロック時エンジン回転数NeLを減じた値が第1下限値a1以上かつ第1上限値b1以下であるか否か判断する(ステップS104)。即ち、ECU100は、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdに存在するか否か判定する。そして、ECU100は、エンジン回転数差dNeが第1下限値a1以上かつ第1上限値b1以下であると判断した場合(ステップS104;Yes)、ロック待機時動作線に従いエンジン200を動作させる(ステップS105)。そして、ECU100は、変速モードを固定変速比モードへ遷移させる(ステップS106)。このように、ECU100は、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wd内であると判断した場合に固定変速比モードへ変速モードを切り替えることで、乗員に違和感を与えることなく変速モードを切り替えることができる。
【0086】
一方、ECU100は、エンジン回転数差dNeが第1下限値a1よりも小さい、又は、第1上限値b1よりも大きいと判断した場合(ステップS104;No)、変速モードを無段変速モードに設定する(ステップS107)。これにより、ECU100は、固定変速比モードへ変速モードを切り替えることにより、乗員に違和感を与えるのを抑制することができる。
【0087】
次に、ECU100は、第3制御に基づき、エンジン回転数Neにロック時エンジン回転数NeLを減じた値、即ちエンジン回転数差dNeが第2下限値a2以上かつ第1下限値a1未満であるか否か判定する(ステップS108)。そして、ECU100は、エンジン回転数差dNeが第2下限値a2以上かつ第1下限値a1未満であると判断した場合(ステップS108;Yes)、CVT領域下限動作線に従いエンジン200を動作させる(ステップS109)。これにより、ECU100は、要求駆動力を満たしつつ、エンジン回転数Neを上げて、エンジン回転数差dNeを許容回転数差範囲Wdに近づけることができる。従って、ECU100は、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wd内に存在しないことに起因して変速モードを固定変速比モードへ切り替える頻度が減少するのを抑制することができる。
【0088】
一方、ECU100は、エンジン回転数差dNeが第2下限値a2未満又は第1下限値a1以上であると判断した場合(ステップS108;No)、ステップS110へ処理を進める。
【0089】
ステップS110では、ECU100は、第3制御に基づき、エンジン回転数差dNeが第1上限値b1より大きく、かつ、第2上限値b2以下であるか否か判定する(ステップS110)。そして、ECU100は、エンジン回転数差dNeが第1上限値b1より大きく、かつ、第2上限値b2以下であると判断した場合(ステップS110;Yes)、CVT領域上限動作線に従いエンジン200を動作させる(ステップS111)。これにより、ECU100は、要求駆動力を満たしつつ、エンジン回転数Neを下げて、エンジン回転数差dNeを許容回転数差範囲Wdに近づけることができる。従って、ECU100は、対象ロック条件が満たされないことに起因して変速モードを固定変速比モードへ切り替える頻度が減少するのを抑制することができる。
【0090】
一方、ECU100は、エンジン回転数差dNeが第1上限値b1より大きく、かつ、第2上限値b2以下であるという条件が満たされない場合(ステップS110;No)、最適燃費動作線に従いエンジン200を動作させる(ステップS112)。言い換えると、ECU100は、エンジン回転数差dNeが第2下限値a2より小さい、又は、エンジン回転数差dNeが第2上限値b2よりも大きいと判断した場合には、第4制御に基づき、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdになる可能性が低いと判断し、最適燃費動作線に従いエンジン200を動作させる。これにより、ECU100は、不要な燃費悪化を抑制することができる。
【0091】
<第2実施形態>
第2実施形態では、上述した第1制御乃至第5制御に代えて、又は、これに加えて、以下に説明する第6制御及び第7制御を実行する。
【0092】
1−1.第6制御
第6制御では、ECU100は、第1制御と同様にエンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdにある場合に限り変速モードを固定変速比モードに切り替える。ここで、第6制御では、ECU100は、ロック時エンジン回転数NeLへのエンジン回転数Neの変化方向と、エンジン200の要求出力の変化方向とが一致する場合にのみモータMG1をロックする。
【0093】
具体的には、ECU100は、エンジン200の要求出力が増加中の場合には、第1上限値b1を「0」に設定する。これにより、ECU100は、ロック時エンジン回転数NeLへのエンジン回転数Neの変化方向が増加方向の場合にのみ変速モードを固定変速比モードに切り替える。即ち、この場合、ロック時エンジン回転数NeLへのエンジン回転数Neの変化方向と、エンジン200の要求出力の変化方向とは、共に増加方向で一致する。
【0094】
一方、ECU100は、エンジン200の要求出力が減少中の場合には、第1下限値a1を「0」に設定する。これにより、ECU100は、ロック時エンジン回転数NeLへのエンジン回転数Neの変化方向が減少方向の場合にのみ変速モードを固定変速比モードに切り替える。即ち、この場合、ロック時エンジン回転数NeLへのエンジン回転数Neの変化方向と、エンジン200の要求出力の変化方向とは、共に減少方向で一致する。
【0095】
このようにすることで、ECU100は、固定変速比モードへ変速モードを切り替える場合のエンジン回転数Neの変化方向を、エンジン200の出力が増加中の場合には単調増加に、エンジン200の出力が減少の場合には単調減少にさせることができる。従って、ECU100は、エンジン200の音が大きくなる場合には駆動力が大きくなり、エンジン200の音が小さくなる場合には駆動力が小さくなるように、エンジン200の音の大小と駆動力の大小との関係を保ち、乗員に違和感を与えるのを防止することができる。
【0096】
1−2.第7制御
第7制御では、ECU100は、第6制御に加え、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdにあり、モータMG1を非ロック状態からロック状態へ遷移させる時(単に「ロック状態遷移時」とも呼ぶ。)に、エンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeLを跨いだ場合、エンジン回転数Neをロック時エンジン回転数NeLに固定する。そして、ECU100は、エンジン回転数Neの固定に伴うエンジン200の出力の過不足分をモータMG2により補う。即ち、ECU100は、エンジン回転数Neの固定に伴い駆動力が不足する場合には、当該不足分の駆動力をモータMG2から出力させる。一方、ECU100は、エンジン回転数Neの固定に伴い駆動力が過多の場合には、その過度分の駆動力をモータMG2で回生させる。
【0097】
第7制御の効果について補足説明する。ロック要求時にエンジン回転数差dNeが第6制御に基づき設定された許容回転数差範囲Wdにあった場合であっても、ロック状態遷移時に、運転者の操作に基づき要求駆動力が変化することがある。例えば、エンジン200の出力増加中に、第6制御に基づくロック条件が成立し、当該切り替え制御を行っている途中に、エンジン200の要求出力が急に大きくなる場合がある。この場合、当該切り替え制御を終了する前にエンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeLを上回ってしまう可能性がある。その結果、エンジン回転数Neは、ロック時エンジン回転数NeLを跨いだ後再びロック時エンジン回転数NeLへ遷移するため、増加から減少に転じることとなる。従って、この場合、運転者の操作に基づくエンジン200の要求出力の変化方向が単調増加であったとしても、エンジン回転数Neは、ロック状態遷移時にそれと異なる挙動になってしまう。
【0098】
以上を勘案し、ECU100は、第7制御を実行することで、運転者の操作に基づく駆動力の増減とエンジン回転数Neの増減との関係がロック状態遷移時に崩れるのを抑制し、乗員に違和感を与えるのを抑制することができる。
【0099】
2.エンジン動作点イメージ
次に、第6制御の実行時でのエンジン動作点について図6を用いて説明する。図6は、エンジン回転数NeとエンジントルクTeとの対応を示すマップである。なお、図6では、図4と同様の要素については適宜同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0100】
上述したように、ECU100は、エンジン200の出力増加中では、第1上限値b1を「0」に設定する。従って、図6に示すように、エンジン200の出力増加中では、ECU100は、エンジン回転数Neが回転数Ne2以上かつロック時エンジン回転数NeL以下の場合に、固定変速比モードへの変速モードの切り替えを行う。これにより、ECU100が変速モードの切り替えを実行した場合であっても、駆動力が大きくなるのに合わせてエンジン200の音が大きくなる。従って、ECU100は、エンジン音の大小と駆動力の大小との関係が崩れることに起因した運転者の違和感の発生を抑制することができる。
【0101】
一方、ECU100は、エンジン200の出力減少中では、第1下限値a1を「0」に設定する。従って、図6に示すように、エンジン200の出力減少中では、ECU100は、エンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeL以上回転数Ne3以下の場合に、固定変速比モードへの変速モードの切り替えを行う。これにより、ECU100が変速モードの切り替えを実行した場合であっても、駆動力が小さくなるのに合わせてエンジン200の音が小さくなる。従って、ECU100は、エンジン音の大小と駆動力の大小との関係が崩れることに起因した運転者の違和感の発生を抑制することができる。
【0102】
なお、ECU100は、エンジン回転数Neが回転数Ne1より小さい場合には、第1実施形態と同様、第4制御に基づき、エンジン動作点を最適燃費動作線上に設定する(線L1、L2参照)。また、ECU100は、エンジン回転数Neが回転数Ne1以上回転数Ne2未満の場合には、第3制御に基づき、CVT領域上限動作線上でエンジン200を動作させる(線L1、L4参照)。さらに、ECU100は、エンジン回転数Neが回転数Ne3より大きく回転数Ne4以下の場合、第3制御に基づき、CVT領域下限動作線上でエンジン200を動作させる(線L1、L3参照)。また、ECU100は、エンジン回転数Neが回転数Ne4より大きい場合、第4制御に基づき、エンジン動作点を最適燃費動作線上に設定する(線L1、L2参照)。
【0103】
3.処理フロー
図7は、第2実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。なお、図7に示すフローチャートでは、ECU100は、上述の第6制御及び第7制御を実行している。ECU100は、図5に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0104】
まず、ECU100は、燃費に基づくロック条件が成立したか否か判定する(ステップS200)。そして、ECU100は、燃費に基づくロック条件が成立したと判断した場合(ステップS200;Yes)、ステップS201へ処理を進める。一方、ECU100は、燃費に基づくロック条件が成立していないと判断した場合(ステップS200;No)、変速モードを無段変速モードに設定する(ステップS214)。そして、ECU100は、最適燃費動作線に従いエンジン200を動作させる(ステップS215)。
【0105】
次に、ECU100は、第6制御に基づき、エンジン200の要求出力が増加中であるか否か判定する(ステップS201)。そして、ECU100は、エンジン200の要求出力が増加中であると判断した場合(ステップS201;Yes)、エンジン回転数Neからロック時エンジン回転数NeLを減じた値が、第1下限値a1以上かつ0以下にあるか否か判定する(ステップS202)。これにより、ECU100は、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wdに属するか判定する。特に、ECU100は、第1上限値b1を「0」に設定することにより、固定変速比モードへ変速モードを切り替える場合のエンジン回転数Neの変化方向と、エンジン200の要求出力の変化方向とが共に増加方向で一致するか否か判定する。
【0106】
一方、ECU100は、エンジン200の要求出力が増加中でないと判断した場合(ステップS201;No)、エンジン回転数Neからロック時エンジン回転数NeLを減じた値が、「0」以上第1上限値b1以下にあるか否か判定する(ステップS208)。このように、ECU100は、第1下限値a1を「0」に設定することにより、固定変速比モードへ変速モードを切り替える場合のエンジン回転数Neの変化方向と、エンジン200の要求出力の変化方向とが共に減少方向で一致するか否か判定する。
【0107】
そして、ECU100は、ステップS202でエンジン回転数Neからロック時エンジン回転数NeLを減じた値が、第1下限値a1以上かつ「0」以下にあると判断した場合(ステップS202;Yes)、固定変速比モードへの変速モードの移行を開始する(ステップS203)。この場合、ECU100は、エンジン回転数Neの変化方向と、エンジン200の要求出力の変化方向とが一致することから、変速モードを固定変速比モードへ移行しても乗員の違和感は生じないと判断する。一方、ECU100は、エンジン回転数Neからロック時エンジン回転数NeLを減じた値が、第1下限値a1未満又は「0」より大きいと判断した場合(ステップS202;No)、変速モードを無段変速モードに設定し(ステップS214)、最適燃費動作線に従いエンジン200を動作させる(ステップS215)。これにより、ECU100は、変速モードの切り替えに起因して乗員に違和感を与えるのを抑制する。
【0108】
次に、ECU100は、ステップS203で固定変速比モードへの変速モードの移行を開始した場合、第7制御に基づき、エンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeL以上であるか否か判定する(ステップS204)。これにより、ECU100は、エンジン回転数Neがロック状態遷移時にロック時エンジン回転数NeLを跨ぐか否か判定する。そして、ECU100は、エンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeL以上であると判断した場合(ステップS204;Yes)、即ち、エンジン回転数Neがロック状態遷移時にロック時エンジン回転数NeLを跨ぐと判断した場合、エンジン回転数Neをロック時エンジン回転数NeLに固定する(ステップS205)。そして、ECU100は、ステップS205の処理に起因した不足出力分をモータMG2でアシストする(ステップS206)。これにより、ECU100は、要求駆動力を満たしつつ、ロック完了時での乗員の違和感の発生を抑制することができる。一方、ECU100は、エンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeL未満であると判断した場合(ステップS204;No)、ステップS207へ処理を進める。
【0109】
そして、ECU100は、ステップS207では、モータMG1のロックが完了したか否か判定する(ステップS207)。そして、ECU100は、モータMG1のロックが完了したと判断した場合(ステップS207;Yes)、フローチャートの処理を終了する。一方、ECU100は、モータMG1のロックが完了していないと判断した場合(ステップS207;No)、ステップS204ヘ処理を戻し、引き続きロック状態遷移時にエンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeLを跨ぐか否か監視する。
【0110】
一方、ECU100は、ステップS208でエンジン回転数Neからロック時エンジン回転数NeLを減じた値が、「0」以上かつ第1上限値b1以下にあると判断した場合(ステップS208;Yes)、固定変速比モードへの変速モードの移行を開始する(ステップS209)。この場合、ECU100は、エンジン回転数Neの変化方向と、エンジン200の要求出力の変化方向とが減少方向で一致することから、変速モードを固定変速比モードへ移行しても乗員の違和感は生じないと判断する。一方、ECU100は、エンジン回転数Neからロック時エンジン回転数NeLを減じた値が、「0」未満又は第1上限値b1より大きいと判断した場合(ステップS208;No)、変速モードを無段変速モードに設定し(ステップS214)、最適燃費動作線に従いエンジン200を動作させる(ステップS215)。これにより、ECU100は、変速モードの切り替えに起因して乗員に違和感を与えるのを抑制する。
【0111】
そして、ECU100は、ステップS209で固定変速比モードへの移行を開始した場合、第7制御に基づき、エンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeL以下であるか否か判定する(ステップS210)。これにより、ECU100は、エンジン回転数Neがロック状態遷移時にロック時エンジン回転数NeLを跨ぐか否か判定する。そして、ECU100は、エンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeL以下であると判断した場合(ステップS210;Yes)、即ち、エンジン回転数Neがロック状態遷移時にロック時エンジン回転数NeLを跨ぐと判断した場合、エンジン回転数Neをロック時エンジン回転数NeLに固定する(ステップS211)。そして、ECU100は、ステップS211の処理に起因した過度出力分をモータMG2で回生する(ステップS212)。これにより、ECU100は、要求駆動力を満たしつつ、ロック完了時での乗員の違和感の発生を抑制することができる。一方、ECU100は、エンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeLより大きいと判断した場合(ステップS210;No)、ステップS213へ処理を進める。
【0112】
そして、ECU100は、ステップS213では、モータMG1のロックが完了したか否か判定する(ステップS213)。そして、ECU100は、モータMG1のロックが完了したと判断した場合(ステップS213;Yes)、フローチャートの処理を終了する。一方、ECU100は、モータMG1のロックが完了していないと判断した場合(ステップS213;No)、ステップS210ヘ処理を戻し、引き続きロック状態遷移時にエンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeLを跨ぐか否か監視する。
【0113】
[変形例]
次に、第1実施形態及び2実施形態の変形例について説明する。以下に示す変形例は、任意に組み合わされて上述の実施形態に適用されてもよい。
【0114】
(変形例1)
図5のステップS102、S103では、ECU100は、車速Vが閾値Vthより大きいか否か判定し、車速Vが閾値Vthより大きい場合、第1下限値a1及び第2下限値a2に比率k1を乗じ、第1上限値b1及び第2上限値b2に比率k2を乗じた。しかし、本発明が適用可能な方法は、これに限定されない。これに代えて、ECU100は、車速Vと比率k1、k2とのマップをメモリ等に記憶し、当該マップを参照して、車速Vに基づき比率k1、k2を決定してもよい。即ち、この場合、第1下限値a1、第2下限値a2、第1上限値b1、及び第2上限値b2は、車速Vに応じて段階的に絶対値が大きくなる。
【0115】
(変形例2)
第7制御は、第6制御を前提としない場合、例えば第1制御とのみ組み合わせた場合であっても、好適に実施される。この場合であっても、ECU100は、ロック状態遷移時に、エンジン回転数Neがロック時エンジン回転数NeLを跨いだ場合、エンジン回転数Neをロック時エンジン回転数NeLに固定する。そして、ECU100は、エンジン回転数Neの固定に伴うエンジン200の出力の過不足分をモータMG2により補う。これにより、ECU100は、要求駆動力を満たしつつ、乗員の違和感の発生を抑制することができる。
【0116】
(変形例3)
本発明を適用することが可能なハイブリッド駆動装置10の機構としては、モータMG1のロータをロックすることにより固定変速比モードを実現するものには限られない。代わりに、例えば、後述する図8で示すように、動力分配機構300aの回転要素のうち、いずれか一つをロック機構(ブレーキ)により固定することで固定変速モードを実現する機構であっても、本発明を適用することが可能である。
【0117】
図8は、変形例3に係るハイブリッド駆動装置10aの概略構成図の一例である。図8において、図2に示すハイブリッド駆動装置10と同様の機能を有する構成要素については、図2と同じ符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0118】
変形例3に係るハイブリッド駆動装置10aでは、エンジン200と、モータMG1とが動力分配機構300aに連結されている。また、駆動軸OUTには、モータMG2がMG2リダクション機構600を介して接続されている。
【0119】
動力分配機構300aは、エンジントルクTeをモータMG1と駆動軸OUTとに分配する機構であり、差動作用を生じるように構成されている。具体的には複数組の差動機構を備え、互いに差動作用を生じる4つの回転要素のうち、第1の回転要素にエンジン200が連結され、第2の回転要素にモータMG1が連結され、第3の回転要素に駆動軸OUTが連結される。第4の回転要素はブレーキ機構500aにより固定可能となっている。
【0120】
動力分配機構300aは、2つの遊星歯車機構を組み合わせて構成される。第1の遊星歯車機構はリングギヤR3、キャリアC3、サンギヤS3を備える。第2の遊星歯車機構はダブルピニオン式であり、リングギヤR4、キャリアC4、サンギヤS4を備える。
【0121】
入力軸400は第1の遊星歯車機構のキャリアC3に連結され、そのキャリアC3は第2の遊星歯車機構のリングギヤR4に連結されている。これらが第1の回転要素を構成する。モータMG1のロータは第1の遊星歯車機構のサンギヤS3に連結され、これらが第2の回転要素を構成している。
【0122】
第1の遊星歯車機構のリングギヤR3と第2の遊星歯車機構のキャリアC4は相互に連結されているとともに駆動軸OUTに連結されている。これらが第3の回転要素を構成している。また、第2の遊星歯車機構のサンギヤS4は回転軸290に連結されており、回転軸290とともに第4の回転要素を構成している。回転軸290はロック機構500aにより固定可能となっている。ロック機構500aはECU100により制御される。
【0123】
ロック機構500aが第4の回転要素を固定していない状態では、モータMG1の回転数を連続的に変化させることによりエンジン回転数Neが連続的に変化し、無段変速モードが実現される。一方、ロック機構500aが第4の回転要素を固定している状態では、動力分配機構300aにより決定される変速比がオーバードライブ状態(即ち、エンジン1より出力される回転数が駆動軸OUTの回転数より小さくなる状態)に固定され、固定変速比モードが実現される。
【0124】
変形例3に係るハイブリッド駆動装置10aにおいても、本発明を適用することが可能である。即ち、ECU100は、無段変速モードから固定変速比モードへの切り替え要求時に、エンジン回転数差dNeが許容回転数差範囲Wd内にある場合、変速モードを固定変速比モードへ切り替える。これにより、ECU100は、変速モードの切り替え時での乗員の違和感の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0125】
1 ハイブリッド車両
10 ハイブリッド駆動装置
12 バッテリ
100 ECU
200 エンジン
300、300a 動力分割機構
400 入力軸
500、500a ロック機構
600 MG2リダクション機構
700 減速機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのトルクにより回転する回転要素の状態を回転不能なロック状態と回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能なロック機構と、
前記回転要素にトルクを付与するトルク付与手段と、
前記ロック機構をロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う第1の伝達制御手段と、
前記ロック機構を非ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を前記トルク付与手段に受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを前記駆動軸に伝達させるように制御を行う第2の伝達制御手段と、
前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御への切り替え要求時に、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御へ切り替えた場合のエンジン回転数と、現在のエンジン回転数との差が、乗員が違和感を生じない範囲内である場合、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御に切り替える切り替え手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記トルク付与手段は、回転電機である請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記切り替え手段は、車速が高いほど、前記範囲を大きくする請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記切り替え手段は、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御へ切り替える場合のエンジン回転数の変化方向と、前記エンジンの要求出力の変化方向とが一致する場合、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御へ切り替える請求項1乃至3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
車両の駆動力を発生する第2の回転電機をさらに備え、
前記切り替え手段は、エンジン回転数が、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御へ切り替えた場合のエンジン回転数を跨ぐ場合、前記エンジン回転数を、前記第2の伝達制御手段による制御から前記第1の伝達制御手段による制御へ切り替えた場合のエンジン回転数に固定をし、当該固定による出力変化分を前記第2の回転電機で補正する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記切り替え手段は、前記現在のエンジン回転数が前記範囲から低回転側に外れている場合、前記エンジンを低トルク側の動作点に遷移させ、前記現在のエンジン回転数が前記範囲から高回転側に外れている場合、前記エンジンを高トルク側の動作点に遷移させる請求項1乃至5のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−71714(P2012−71714A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218625(P2010−218625)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】