説明

ハイブリッド車両

【課題】 簡単かつ低コストな構成でありながら、ディーゼルエンジン及び電動発電機が搭載されたハイブリッド車両において、アトキンソンサイクルを採用することで、燃費を改善して環境保護に貢献することができるハイブリッド車両を提供する。
【解決手段】 本発明は、ディーゼルエンジンと電動機とを駆動源として備えたハイブリッド車両であって、ディーゼルエンジン1をアトキンソンサイクルにて運転することを特徴とする。また、ディーゼルエンジン1、メカニカルクラッチ機構2、電動発電機3、変速機4が、出力伝達方向下流側に向けて、この順番で配設されたことを特徴とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンと電動機を駆動源として搭載した所謂ハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両には内燃機関及び電動発電機が搭載され、当該車両の走行の際には、内燃機関からの動力で車両を駆動すると共に、走行条件(車速、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)、内燃機関の運転状態、走行路面状況、変速段位置、バッテリ残量など)に応じて電動発電機を電動機として動作させ、当該電動機としての電動発電機から出力される動力で車両の駆動を補助(アシスト)することなどが行われている。
【0003】
このようなハイブリッド車両に利用されるガソリンエンジンにおいては、例えば特許文献1に記載されているように、アトキンソンサイクルにて燃焼を行わせることが知られている。
【0004】
ここで、アトキンソンサイクルとは、容積型の内燃機関において圧縮比よりも膨張比を大きくすることで熱効率を改善した内燃機関の燃焼方法であり、例えば、アトキンソンサイクルを実現するために、吸気バルブを閉じるタイミングを通常の内燃機関よりも遅らせて吸気行程の下死点以降に設定することが行われており、このように吸気バルブの閉弁時期を遅らせて下死点以降も開弁維持する期間を設けることにより、一旦シリンダ内に導かれた吸入吸気の一部を吸気ポート側へ戻し、実質的な圧縮開始時期を遅らせる(実質的な圧縮比を低下させる)ようにしたもので、かかる燃焼方式はミラーサイクルと称され、アトキンソンサイクルを実現しようとした燃焼サイクルの一例として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−264117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、ハイブリッド車両において内燃機関としてディーゼルエンジンを採用したものにおいては、上述したようなアトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)を採用したケースは知られていない。
【0007】
すなわち、ディーゼルエンジンの場合には、ディーゼルエンジンの特徴としてポンピングロスが小さいために、構成が複雑化して高コスト化する割にはアトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)により得られる効果が小さいとの理由により採用が見送られているのが実情である。
【0008】
この一方、ハイブリッド車両においても、より一層の低燃費化の要請、低燃費化による環境保護への貢献などの観点から、種々の試みがなされている。
【0009】
本発明者等は、種々の研究、実験、検討等を行ううちに、ハイブリッド車両においては、ディーゼルエンジンを動力源とする場合であっても、アトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)による燃費改善効果を十分に発揮させることができる場合があることを見い出した。
【0010】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、簡単かつ低コストな構成でありながら、ディーゼルエンジン及び電動発電機が搭載されたハイブリッド車両において、アトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)を採用することで、燃費を改善して環境保護に貢献することができるハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため、本発明に係るハイブリッド車両は、
ディーゼルエンジンと電動機とを駆動源として備えたハイブリッド車両であって、
ディーゼルエンジンをアトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)にて運転することを特徴とする。
【0012】
また、本発明において、ハイブリッド車両の駆動系において、ディーゼルエンジン、回転連結接断機構、電動発電機、変速機が、出力伝達方向下流側に向けて、この順番で配設されたことを特徴とすることができる。
【0013】
また、本発明において、回転連結接断機構により電動発電機との回転連結が解放された状態で、ディーゼルエンジンがアイドル運転を行う場合において、ディーゼルエンジンがアトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)で運転されることを特徴とすることができる。
【0014】
また、本発明において、発進の際に、電動発電機によるアシストを受け、燃費が悪化しない領域でディーゼルエンジンがアトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)で運転されることを特徴とすることができる。
【0015】
また、本発明において、前記回転連結接断機構が、機械的に回転連結を接断可能なメカニカルクラッチ機構であることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡単かつ低コストな構成でありながら、ディーゼルエンジン及び電動発電機が搭載されたハイブリッド車両において、アトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)を採用することで、燃費を改善して環境保護に貢献することができるハイブリッド車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両の駆動源系の全体構成を概略的に示す全体構成図である。
【図2】同上実施の形態に係るアトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)による燃費改善運転領域の一例を示す運転領域マップである。
【図3】同上実施の形態に係るアトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)の一例を示すP−V線図である。
【図4】通常のディーゼルエンジンの燃焼サイクルの一例を示すP−V線図である。
【図5】従来のハイブリッド車両の駆動源系の概略的な全体構成を概略的に示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施の形態を、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0019】
本発明に係るハイブリッド車両の一実施の形態を、図1〜図5に基づいて説明する。
図1は、本実施の形態に係るハイブリッド車両の駆動減の構成を概略的に示す全体構成図である。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係るハイブリッド車両においては、ディーゼルエンジン(内燃機関)1の出力軸には、機械的に回転連結を接断可能(接続及び切断可能)なメカニカルクラッチ機構(回転連結接断機構)2が接続されると共に、このメカニカルクラッチ機構2の出力軸に電動発電機3が回転連結されている。
【0021】
そして、電動発電機3の出力軸には変速機4が連結され、変速機4の出力軸にはドライブシャフト等が連結されている。
【0022】
ここで、電動発電機3が電動機として動作するときに、ディーゼルエンジン1と電動機とが共通の出力軸に対して出力トルクを出力するようになっている。
【0023】
また、電動発電機3は所定の運転状態において発電機として動作し、発電した電気をバッテリ等に蓄えることができるように構成されている(図5等参照)。
【0024】
ところで、これまでのディーゼルエンジンと電動発電機を駆動源として搭載したハイブリッド車両においては、種々の技術的な事情やコンセプトの相違などから、図5に示すように、ディーゼルエンジン1の出力軸に電動発電機3が直結され、電動発電機3の出力軸がメカニカルクラッチ機構2を介して変速機4が接断可能に回転連結されていた。
【0025】
これに対して、本実施の形態に係るハイブリッド車両では、図1に示したように、ディーゼルエンジン1、メカニカルクラッチ機構2、電動発電機3、変速機4を、出力伝達方向の下流側に向けて、この順番にレイアウトしたことで、図5の従来のレイアウトに対して、例えば、電動発電機3を電動機として使用するような期間において、ディーゼルエンジン1はメカニカルクラッチ機構2により回転連結が断たれた状態においてアイドル運転で待機運転される頻度が増え、アイドル運転時間が長くなるといった使用態様となることが確認された。
【0026】
また、メカニカルクラッチ機構2により回転連結が断たれた状態でのアイドル運転は、従来のように電動発電機3を連れ廻りする必要がないので、より軽負荷での運転状態となる。
【0027】
既述したように、アトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)は、ディーゼルエンジン1に採用した場合においては、低速高負荷領域などにおいて燃費が悪化するなどの観点から従来あまり有益でないとされてきたが、アイドル運転領域を含む軽負荷領域では燃費改善効果を期待できる。
【0028】
従って、ハイブリッド車両のように、電動発電機3によるアシストを受けることでディーゼルエンジン1が負担すべき負荷を小さくすることができる場合には、アトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)を採用することに大きなメリットがある。
【0029】
このため、本実施の形態に係るハイブリッド車両では、搭載するディーゼルエンジン1においてアトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)を採用する。
【0030】
アトキンソンサイクルを実際のディーゼルエンジン1にて実現するためには、吸気バルブの閉弁時期を遅らせて実質的な圧縮比を下げた運転(ミラーサイクル運転)を行うことが、比較的構造が簡単で信頼性やコスト的に有利であるため、本実施の形態に係るディーゼルエンジン1では、所望の吸気バルブの開閉タイミングを実現可能にカムシャフトのカムプロフィールが変更されている。
【0031】
なお、可変バルブタイミング機構(VVAなど)を採用して、運転状態に応じて、適宜に吸気バルブの開閉タイミングを変更制御してアトキンソンサイクル(図3)と通常の燃焼サイクル(図4)とを切り替えることが可能な構成とすることも可能である。
【0032】
そして、具体的には、本実施の形態では、以下のようなディーゼルエンジンを実現するようになっている。
(1)通常のディーゼルエンジンに対して、吸気バルブの閉弁時期を遅くする(例えば、下死点以降まで)ことにより、実質的な圧縮行程を小さくする(図3、図4参照)。
【0033】
(2)通常のディーゼルエンジンに対して、燃焼室内の容積を小さくする(圧縮比を上げる)ことで、膨張行程を大きくする(図3、図4参照)。
【0034】
上記(1)、(2)により、ディーゼルエンジンにおいて圧縮行程よりも膨張行程を大きくすることでアトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)が実現され熱効率が改善される。すなわち、燃料消費量(g/h)を変えずに正味仕事を増加させることができ、燃費(燃料消費率)を改善することができる。
【0035】
ただし、かかる燃費改善効果の背反として、吸気行程の下死点を通過してから吸気バルブが閉弁されるため、下死点後吸気バルブが閉じるまでの間において、一旦シリンダ内に吸い込まれた吸入空気がピストンの上昇に伴い吸気ポート側に吐き出されることになるので、吸気慣性過給効果の小さい低速運転領域では、吸入空気量が減少する傾向となるおそれがある。
【0036】
このため、アトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)を採用した場合、低速領域では、高負荷時においてトルクの低下と燃焼不良による燃費の悪化等の悪影響を招くおそれがある。
【0037】
しかし、本実施の形態では、ハイブリッド車両に搭載されたディーゼルエンジン1であることから、低速トルクが不足する領域では電動発電機3によるアシストを受けることができるため、このような背反をカバーすることができ、以って燃費を改善できる軽負荷領域でディーゼルエンジン1を有効に利用することとしてアトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)における利益を享受することが可能である。
【0038】
すなわち、本実施の形態に係るハイブリッド車両によれば、図1に示したように、ディーゼルエンジン1、メカニカルクラッチ機構2、電動発電機3、変速機4を、出力伝達方向の下流側に向けて、この順番にレイアウトしたことで、従来に比べて、ディーゼルエンジン1はメカニカルクラッチ機構2により回転連結が断たれた状態においてアイドル運転で待機運転される頻度が増えアイドル運転時間が長くなるため、アトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)を採用することでアイドル燃費の改善を図ることができる。
【0039】
また、図2の燃費改善領域(ハッチング部)に示すように、中速から高速の中負荷及び高負荷領域や、電動発電機3を電動機として作動させないような軽負荷領域や、電動発電機3を電動機として作動させてディーゼルエンジン1の負担を軽減させて軽負荷領域でディーゼルエンジン1を運転させることで、アトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)による燃費改善効果を有効に享受することができる。
【0040】
なお、可変バルブタイミング機構を搭載している場合には、図2に示した燃費悪化領域でディーゼルエンジン1を運転させなければならないような場合(バッテリ充電不足などの場合)には、アトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)(図3)から一時的に通常の燃焼サイクル(図4)に切り替えるような制御を行わせることも可能である。
【0041】
なお、本実施の形態に係るハイブリッド車両におけるレイアウト(図1)の場合、車両が一時的に停止しているような状態でディーゼルエンジン1がアイドル待機運転しているような場合以外にも、車両減速時や降坂時などは、メカニカルクラッチ2が切断されてディーゼルエンジン1が単独でアイドル運転(アイドル待機)されるケースが多くなるため、アトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)による燃費改善効果を有効に享受することができる。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態に係るハイブリッド車両によれば、ディーゼルエンジン1、メカニカルクラッチ機構2、電動発電機3、変速機4を、出力伝達方向下流側に向けて、この順番にレイアウトしたことで、アトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)による燃費改善効果を有効に享受することができる。
【0043】
すなわち、本実施の形態によれば、簡単かつ低コストな構成でありながら、ディーゼルエンジン及び電動発電機が搭載されたハイブリッド車両において、アトキンソンサイクル(或いはミラーサイクル)を採用することで、燃費を改善して環境保護に貢献することができるハイブリッド車両を提供することができる。
【0044】
ところで、本実施の形態において、内燃機関1は、例えばディーゼル燃焼を行うディーゼルエンジンとすることができるが、本発明は、これに限定されるものではなく、ガソリンその他の物質を燃料とする容積型の内燃機関とすることができる。
【0045】
また、本発明に係る変速機4は、手動式変速機、自動式変速機の何れにも適用可能である。
【0046】
また、本発明に係る回転連結接断機構は、上述したメカニカルクラッチ機構に限定されるものではなく、例えば、トルクコンバータ式の動力伝達機構などを採用することもできる。
【0047】
すなわち、ディーゼルエンジンが、電動発電機との回転連結から解放されて略無負荷状態でアイドル運転などを行うことができるものであれば、本発明は適用可能である。
【0048】
以上で説明した実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 ディーゼルエンジン
2 メカニカルクラッチ機構(回転連結接断機構)
3 電動発電機
4 変速機


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンと電動機とを駆動源として備えたハイブリッド車両であって、
ディーゼルエンジンをアトキンソンサイクルにて運転することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
ハイブリッド車両の駆動系において、ディーゼルエンジン、回転連結接断機構、電動発電機、変速機が、出力伝達方向下流側に向けて、この順番で配設されたことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
回転連結接断機構により電動発電機との回転連結が解放された状態で、ディーゼルエンジンがアイドル運転を行う場合において、ディーゼルエンジンがアトキンソンサイクルで運転されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
発進の際に、電動発電機によるアシストを受け、燃費が悪化しない領域でディーゼルエンジンがアトキンソンサイクルで運転されることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記回転連結接断機構が、機械的に回転連結を接断可能なメカニカルクラッチ機構であることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1つに記載のハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−22977(P2013−22977A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156529(P2011−156529)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】