説明

ブレーキ制御装置

【課題】車両の状態に応じたブレーキアシストが可能なブレーキ制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明のブレーキ制御装置では、横加速度とヨーレイトとに基づいて各輪に対する制動力の配分量を算出する第1制動力配分算出部と、ロール挙動に基づいて各輪に対する制動力の配分量を算出する第2制動力配分算出部と、車両挙動に応じて前記第1制動力配分算出部による配分量と、前記第2制動力配分算出部による配分量とを選択して制動力配分制御を行うこととした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイルシリンダの液圧を制御するブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、前後輪間において所定の条件下で制動配分の変更を行う車両の制動制御装置が開示されている。具体的には、総制動力を一定に維持しつつ、前後輪の制動力配分の変更に伴って発生するヨーレイトの発生を抑制するように、前輪及び後輪の少なくとも一方の輪における左右輪の制動力配分を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−225482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、旋回時における車体のロールを考慮しておらず、必ずしも最適な制動力配分を得られていないという問題があった。
【0005】
本発明は、車両の状態に応じたブレーキアシストが可能なブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のブレーキ制御装置では、横加速度とヨーレイトとに基づいて各輪に対する制動力の配分量を算出する第1制動力配分算出部と、ロール挙動に基づいて各輪に対する制動力の配分量を算出する第2制動力配分算出部と、車両挙動に応じて前記第1制動力配分算出部による配分量と、前記第2制動力配分算出部による配分量とを選択して制動力配分制御を行うこととした。
【発明の効果】
【0007】
よって、ロール挙動の増大を抑制するだけでなく、過度のヨーレイトを抑制することができ、要求制動力を満足しつつ車両の安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置を備えた車両全体システム図である。
【図2】実施例1の液圧制御ユニット内の液圧回路である。
【図3】実施例1のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。
【図4】実施例1のブレーキアシスト制御処理を表すタイムチャートである。
【図5】実施例2のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。
【図6】実施例3のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。
【図7】実施例4のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。
【図8】実施例5のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。
【図9】実施例6のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。
【図10】実施例7のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
図1は実施例1のブレーキ制御装置を備えた車両全体システム図である。実施例1の車両は駆動源としてモータジェネレータを備えたハイブリッド車両もしくは電気自動車である。統合制御コントロールユニット34では、運転者のアクセルペダル操作等に応じて駆動力を出力する制御を実行する。回生制御コントロールユニット33では、ブレーキペダルBPの操作時に、液圧制動力と電気的な回生制動力とを協調制御して、ブレーキコントロールユニット32及び統合制御コントロールユニット34に制御指令を出力し、所望の減速度を達成する。尚、ブレーキコントロールユニット32、回生制御コントロールユニット33及び統合制御コントロールユニット34はCAN通信線CANに接続され、コントロールユニット相互にセンサ情報や制御信号を送受信して車両の走行状態を制御する。
各輪(FR,FL,RR,RL)には、液圧制動力を発生させるホイルシリンダW/Cと、各輪の車輪速を検出する車輪速センサ43とを有する。また、運転者の操舵角を算出する舵角センサ42と、車両挙動(横加速度、前後加速度、ヨーレイト等)を検出する車両挙動センサ41と、運転者のブレーキペダル操作状態を表すマスタシリンダ圧センサ1と、を有する。尚、運転者のブレーキペダル操作量としては、マスタシリンダ圧力に限らずブレーキペダルストロークやブレーキペダル踏力を検出してもよい。また、前後加速度の検出信号の代用としてブレーキランプスイッチのON信号を使用してもよい。ブレーキコントロールユニット32では、CAN通信線CANを介して受信した制御信号に加え、検出された各センサ信号に基づいて制御信号を演算し、液圧制御ユニット31に対して制御指令信号を出力する。尚、液圧制御ニット31内の構成については後述する。
ブレーキペダルBPには、タンデム型のマスタシリンダM/Cが接続され、マスタシリンダ内部は図示しないプライマリシリンダ室とセカンダリシリンダ室とに分離されている。プライマリシリンダ室にはP系統配管U1が接続され、セカンダリシリンダ室にはS系統配管U2が接続されている。P系統配管U1とS系統配管U2は、液圧制御ユニット31に接続されている。液圧制御ユニット31は、各ホイルシリンダW/Cと配管L1,L2,L3及びL4を介して接続されている。
【0010】
[ブレーキ制御装置の全体構成]
図2は実施例1の液圧制御ユニット内の液圧回路である。液圧制御ユニット31のP系統には、左前輪のホイルシリンダW/C(FL)、右後輪のホイルシリンダW/C(RR)が接続され、S系統には、右前輪のホイルシリンダW/C(FR)、左後輪のホイルシリンダW/C(RL)が接続されている。
また、P系統、S系統それぞれに、ギヤポンプ19Pとギヤポンプ19Sとが設けられ(以下、ギヤポンプ19と記載する。)、このギヤポンプ19は、モータM1によって駆動される。マスタシリンダM/Cとギヤポンプ19の吸入側とは、配管U1に接続された管路11Pと、配管U2に接続された管路11S(以下、管路11)によって接続されている。この各管路11上には、常閉型の電磁弁であるゲートインバルブ2P,2Sが設けられている。また、管路11上であって、ゲートインバルブ2P,2S(以下、ゲートインバルブ2)とギヤポンプ19との間にはチェックバルブ6P,6S(以下、チェックバルブ6)が設けられ、この各チェックバルブ6は、ゲートインバルブ2からギヤポンプ19へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
各ギヤポンプ19の吐出側と各ホイルシリンダW/Cとは、管路12P,12S(以下、管路12)によって接続されている。この各管路12上には、各ホイルシリンダW/Cに対応する常開型の比例制御電磁弁であるソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RL(以下、ソレノイドインバルブ4)が設けられている。また、各管路12上であって、各ソレノイドインバルブ4とギヤポンプ19との間にはチェックバルブ7P,7S(以下、チェックバルブ7)が設けられている。この各チェックバルブ7は、ギヤポンプ19からソレノイドインバルブ4へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0011】
更に、各管路12には、各ソレノイドインバルブ4を迂回する管路17FL,17RR,17FR,17RL(以下、管路17)が設けられ、この管路17には、チェックバルブ10FL,10RR,10FR,10RL(以下、チェックバルブ10)が設けられている。この各チェックバルブ10は、ホイルシリンダW/Cからギヤポンプ19へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
マスタシリンダM/Cと管路12とは管路13P,13S(以下、管路13)によって接続され、管路12と管路13とはギヤポンプ19とソレノイドインバルブ4との間において合流する。この各管路13上には、常開型の比例制御電磁弁であるゲートアウトバルブ3P,3S(以下、ゲートアウトバルブ3)が設けられている。
また各管路13には、各ゲートアウトバルブ3を迂回する管路18P,18S(以下、管路18)が設けられ、この管路18には、チェックバルブ9P,9S(以下、チェックバルブ9)が設けられている。この各チェックバルブ9は、マスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/Cへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
ギヤポンプ19の吸入側にはリザーバ16P,16S(以下、リザーバ16)が設けられ、このリザーバ16とギヤポンプ19とは管路15P,15S(以下、管路15)によって接続されている。リザーバ16とギヤポンプ19との間にはチェックバルブ8P,8S(以下、チェックバルブ8)が設けられて、この各チェックバルブ8は、リザーバ16からギヤポンプ19へ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。ホイルシリンダW/Cと管路15とは管路14P,14S(以下、管路14)によって接続され、管路15と管路14とはチェックバルブ8とリザーバ16との間において合流する。この各管路14には、それぞれ常閉型の電磁弁であるソレノイドアウトバルブ5FL,5RR,5FR,5RL(以下、ソレノイドアウトバルブ5)が設けられている。
各ソレノイドバルブ(ゲートインバルブ2、ゲートアウトバルブ3、ソレノイドインバルブ4、ソレノイドアウトバルブ5)は、ブレーキコントロールユニット32によって制御される。ブレーキコントロールユニット32は、他のコントロールユニットからの制御信号や、各センサの入力信号等に基づいて、制動力を上乗せするブレーキアシスト制御、車輪のロックを回避するアンチスキッドブレーキ制御(ABS)、車両の挙動を安定化させる車両挙動安定化制御(VDC)を行う。また、他のコントローラから車間距離制御および障害物回避制御等車両の情報を用いてタイヤのスリップや車両挙動を制御するための演算を行い、車両として必要な制動力(全ての輪)を算出し、各車輪に必要な制動力目標値を演算して制御指令を出力する。
【0012】
(ブレーキアシスト制御処理)
図3は実施例1のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。本制御はブレーキコントロールユニット32内において所定制御周期毎に繰り返し演算され、演算された指令値に基づいて液圧制御ユニット31に制御信号を出力する。
ステップS101では、各センサ信号の入力処理を実行する。センサ信号の生値は各コントローラ等の読み取り周期に対応してエリアシングノイズの影響を受けないハード的なローパスフィルタを通過後の信号として読み込まれる。そして、車体振動、電気的ノイズの重畳を除去するソフト的ローパスフィルタ処理を行う。ローパスフィルタ周波数特性は、運転者が急峻な操作をした場合でも、圧力の変化や挙動の変化を十分に検出できる程度の周波数に設定する。
ステップS102では、入力処理されたセンサ信号のうち、運転者のブレーキペダル操作が検出されるマスタシリンダ圧センサ1の信号を常時検出する。また、検出した圧力が予め設定された所定圧力Px(例えば、0のように踏み込み操作を表す値)よりも大きいときは運転者のブレーキペダル操作が有ると判定する。尚、所定圧力Pxは、マスタシリンダ圧センサ1の誤差を考慮し、誤検出を回避できる余裕を持った値とすることが好ましい。
ステップS103では、CAN通信線CANにて送信された外部のコントロールユニットからの制動要求に基づく等価マスタシリンダ圧を検出する。検出信号はマスタシリンダ相当圧力の他、車体減速度、車両制動力等でもよく、車両のブレーキ諸元よりマスタシリンダ相当圧に換算して扱うことができる。この外部ECUとは、例えば自動車間制御システムが挙げられ、車間距離が設定車間距離よりも短くなると、相対速度と車間距離等に応じた要求減速度を要求するものである。
【0013】
ステップS104では、ローパスフィルタ処理後の挙動信号として車輪速度、舵角、ヨーレイト、横加速度、前後加速度を用いて車両のオーバーステア(以下、OSとも記載する)、アンダーステア(以下、USとも記載する)を判断する。この判断の方法には以下の第1の方法と第2の方法とを有する。第1の方法は、ヨーレイト偏差に基づく判断手法である。まず、舵角を予め同定した車両のヨーレイト伝達関数に基づき(舵角値×車両ヨーレイト伝達関数)にて舵角推定ヨーレイト値を算出する。そして、ヨーレイトセンサ値と舵角推定ヨーレイト値の偏差を演算する(ヨーレイトセンサ値−舵角推定ヨーレイト値:OS信号1)。このヨーレイト偏差(OS信号1)が右旋回時、左旋回時にそれぞれ予め定めた第1の所定値を超え、かつ、ヨーレイトセンサ値が増加傾向の場合にOSと判断する。一方、右旋回時、左旋回時にそれぞれ予め定めた第2の所定値を下回り、かつ、ヨーレイトセンサ値が減少傾向の場合にはUSと判断する。ここで、実施例1ではOS時にはヨーレイト偏差が正の値として出力され、US時にはヨーレイト偏差が負の値として出力される。尚、第1の所定値及び第2の所定値は、いずれもヒステリシスが設定されており、第1の所定値よりも小さな所定値a1を下回ったときにはOS判断をニュートラルステア判断とし、第2の所定値よりも大きな所定値a2を上回ったときにはUS判断をニュートラルステア判断とする。
第2の方法は、横滑り角に基づく判断手法である。四輪の車輪速センサ値の平均値又は旋回等の条件に応じて上位から数番目に早い値をセレクトした値から車体速度を算出する。そして、検出したヨーレイト、横加速度及び車体速度を用いて、(ヨーレイト−横加速度/車体速度)から横滑りの変化を求め、その積分値により車体横滑り角を求める。この車体横滑り角が予め設定した第3所定値よりも大きいときはOSと判断し、同じく横滑りの変化が負で車体横滑り角が予め設定した第4所定値よりも小さいときUSと判断する。尚、第3所定値及び第4の所定値はいずれもヒステリシスが設定されており、第3の所定値よりも小さな所定値a3を下回ったときにはOS判断をニュートラルステア判断とし、第4の所定値よりも大きな所定値a4を上回ったときにはUS判断をニュートラルステア判断とする。
【0014】
ステップS105では、車両挙動が修正すべき状態であると判断したときのために、ヨーレイトセンサ値と舵角推定ヨーレイト値との差を微分し、ヨー加速度を求め、そのヨー加速度と車両諸元として既知の車体回転方向イナーシャとの積により修正ヨーモーメントを算出する。
【0015】
ステップS106では、ロール挙動を算出すると共に、荷重移動量を算出する。言い換えると、各輪の接地荷重を算出する(接地荷重算出部)。この算出方法には以下が行われる。ロール挙動算出については、まず、検出した横加速度と、前後加速度と、既知の車両諸元に基づくロール・ピッチ機構モデルとに基づいてピッチ角及びロール角を算出する。そして、このピッチ角及びロール角に基づいて各車輪に作用する荷重移動量(ロールやピッチによる荷重移動後の輪荷重を意味する)を算出する。
次に、横加速度の検出値と車両諸元として既知の車両重量,重心位置との関係から前輪に作用する横方向の力と後輪の横方向の力とを算出する。また、横加速度検出値と前後加速度検出値に応じた車両諸元として既知の各輪の輪荷重算出結果又は実験的に予め求めた横加速度及び前後加速度によって変化する輪荷重関係特性に基づいて、静的停車荷重における各輪の荷重比から前輪及び後輪の荷重を算出する。次に、現在の横加速度と前後加速度とのベクトル和から路面摩擦係数を算出する。
そして、前輪及び後輪の横方向の力と、前輪及び後輪の荷重と、路面摩擦係数から算出した前輪及び後輪の横方向の反力値(摩擦円の半径に相当)を算出する。
【0016】
ステップS107では、大きなロールが発生しているか否かを判断する。まず、ステップS106において算出した荷重移動量が挙動安定に影響を及ぼす第5の所定値を超えているか否かを判断し、超えているときは大きなロールが発生していると判断する。ロールが発生することで荷重移動が発生するからである。
次に、反力値に対して実際に作用している力の比率、すなわち、車輪の発生可能な反力としてどの程度の余裕を持っているかを表す余裕率を考える。(前輪の反力値/前輪の横方向の力)を前輪余裕率とし、(後輪の反力値/後輪の横方向の力)を後輪余裕率とする。余裕率が大きいときは発生可能な力に余裕があり、十分な反力を出せる状態であり、余裕率が小さいときは発生可能な力が限界にきており、これ以上はあまり反力を出せない状態である。
このとき、前輪余裕率と後輪余裕率の差が第6の所定値を超えているか否かを判断し、ロールが発生していると判断した状態で、前輪余裕率<後輪余裕率のときは、アンダーステアと判断し、前輪余裕率>後輪余裕率のときは、オーバーステアと判断する。このようにアンダーステアやオーバーステアと判断されたときは大きなロールが発生していると判断する。また、これは、前後輪において、摩擦円に対して作用している横力の比率を表し、作用している力が摩擦円を超えている場合はスリップ状態であって、これ以上反力を出せないため、余裕率は小さな値となり、これ以上制動力を配分しても意味がない状態となる。一方、作用している力が摩擦円内の場合は作用する力に対向することができている状態であって、まだ反力を出せるため、余裕率は大きな値となり、制動力を配分することで更に力を発生可能なことを意味する。
【0017】
すなわち、本制御は、各輪に作用する横方向の力が摩擦円の限界に到達する前、言い換えると各輪において反力が確保できる状態から制御が実行される。このように、ロール状態を判定するにあたり、余裕率に基づいて判断することで、ピッチ&ロール後に車両がどのような挙動を示すかをフィードフォワード的に認識することができるという作用効果が得られる。車両挙動が乱れないピッチやロール挙動は問題とはならないからである。
ステップS108では、ステップS104で判断したOS,US判断結果の何れかがOSもしくはUSと判断しているときはステップS109に進み、何れもOSもしくはUSと判断していないときはステップS110に進む。
【0018】
ステップS109では、ステップS104で算出した修正すべきヨーモーメントを発生させるための左右輪制動力を車両の諸元値及び重心位置から算出する(第1制動力配分算出部に相当)。
ステップS110では、ステップS107にて算出した荷重比を基に、ステップS102及びS103にて検出した各々の制動要求の内、大きいほうの制動要求を基準に左右輪の制動力を算出する(第2制動力配分算出部に相当)。
ステップS111では、ステップS102において運転者のブレーキ操作が有るか否かを判断する。操作有りの場合はステップS112に進み、操作無しの場合はステップS113に進む。
ステップS112では、ステップS109又はS110にて算出された左右の制動力差を現在の旋回状態の旋回外前輪と旋回内後輪にて発生させるように配分し、旋回内前輪と旋回外後輪には配分を行わないようにしつつ、ブレーキ諸元より制動力に見合った液圧となるように各輪の液圧を算出する。具体的には、車両の総接地荷重に対する各車輪の接地荷重の比率に応じて接地荷重の大きい車輪に対しては算出されたステップS110で算出された配分量を大きく補正する。すなわち、一系統の配分しか行われないため、一方の系統のみで配分するにあたって、反力が得られる範囲で配分量を大きくすることで、車両挙動の安定性を確保する。
ステップS113では、ステップS109又はS110にて算出された左右の制動力差を現在の旋回状態の旋回外前輪と旋回内後輪にて発生させるよう配分し、ブレーキ諸元より制動力に見合った液圧となるように各輪の液圧を算出する。
【0019】
図4は実施例1のブレーキアシスト制御処理の作動を表すタイムチャートである。初期状態は、運転者のブレーキ操作がなく、ステアリング操作もしていない直進走行状態である。
時刻t1において、外部ECUからの要求により制動力を発生させるべく、各輪にブレーキ液圧が供給される。このとき、旋回状態ではないため各輪に均等に制動力が発生する。尚、前輪と後輪とではブレーキ容量が異なるため、同圧を供給したとしても、前輪制動力が大きくなるように配分されるが、特に限定しない。
時刻t2において、運転者がステアリング操作を開始すると、それに伴って車体にロールが発生すると共に荷重移動が生じるため、荷重変化量も発生し始める。
【0020】
時刻t3において、荷重移動量が第5の所定値を超えると、大きなロールが発生していると判断する。このとき、車両としてはOSでもUSでもないため、荷重移動量に見合った制動力配分が算出される。これにより、旋回内前輪及び旋回内後輪のブレーキ液圧は減少し、旋回外前輪及び旋回外後輪のブレーキ液圧はその分増大する。これにより、旋回外輪に大きな制動力が作用し、旋回内輪には小さな制動力が作用するため、結果としてヨーレイト変化を抑制する制動力を作用させることになる。これにより、ロールが大きくても車両挙動としては安定方向に向かうため、更なるロールの増大等を招くことがない。
【0021】
時刻t4において、運転者のブレーキ操作が介入したと判断されると、旋回内外輪で配分していた状態から、旋回外前輪と旋回内後輪のみで制動力を配分し(すなわち、X配管の一方の系統のみ制動力配分を実施し)、旋回外後輪と旋回内前輪にはマスタシリンダ液圧をそのまま供給する。これにより、運転者のブレーキペダル操作によってマスタシリンダ内のブレーキ液が押し出されると、旋回外後輪と旋回内前輪にブレーキ液が供給されるため、ブレーキペダルストロークを確保でき、運転者に石踏みのような違和感を与えることがない。すなわち、外部ECU等の指令に基づいて自動的に制動力を発生させるにあたっては、ゲートアウトバルブ3を閉じ、ゲートインバルブ2を開き、ギヤポンプ19によりマスタシリンダM/Cからブレーキ液を吸い込んで、各輪のソレノイドインバルブ4上流へと供給する。ソレノイドインバルブ4はそれぞれの制動力配分に応じた開度であり、更にマスタシリンダからブレーキ液が供給されたとしても、ゲートアウトバルブ3は閉じており、通常通りにホイルシリンダに対してブレーキ液を供給できず、ブレーキペダルストロークの不足を招く。よって、旋回外後輪と旋回内前輪の系統のゲートアウトバルブ3を開き、マスタシリンダM/Cからブレーキ液を供給可能とすることで、ブレーキペダルストロークを確保し、運転者の違和感を抑制する。
【0022】
時刻t5において、運転者が更にステアリングを切り込み始めると、更に車両にヨーレイトが発生し始め、ヨーレイト偏差の増大や横滑り角の増大が生じ始める。そして、時刻t6において、ヨーレイト偏差が第1の所定値を超えると、オーバーステア状態と判断され、修正ヨーモーメントに見合った制動力配分が行われる。旋回外前輪以外の輪における液圧を大きく減少させ、各輪における横方向の力を確保し、これによりオーバーステアを抑制する。尚、OS信号1かOS信号2のいずれかが成立したときはオーバーステアと判断するため、途中で横滑り角が第3の所定値を上回ったとしてもオーバーステア判断には変わりない。同様に、オーバーステア状態と判断された後、OS信号1がニュートラルステアと判定されても、OS信号2がオーバーステアと判定しているときは、継続してOS判定による制御を行う。
【0023】
時刻t7において、運転者のブレーキ操作が終了したと判断すると、マスタシリンダ圧が供給されていた旋回内前輪と旋回外後輪に、再度、修正ヨーモーメントに応じた制動力配分が為される。
時刻t8において、横滑り角が所定値a3を下回ると、オーバーステアからニュートラルステアへと修正されたと判断し、荷重移動量に応じた制動力が配分される。
【0024】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)制動力要求値に基づき車両の前後左右の各車輪に対して制動力を与えることのできる液圧制御ユニット32(制動力発生部)と、車両に作用する横加速度、ヨーレイトを算出する車両挙動センサ41(横加速度算出手段、ヨーレイト算出手段)と、車両のロール挙動を算出するステップS106(以下、ロール挙動算出手段)と、算出された横加速度とヨーレイトとに基づいて、各輪に対する制動力の配分量を算出するステップS109(以下、第1制動力配分算出部)と、算出されたロール挙動に基づいて各輪に対する前記制動力の配分量を算出するステップS110(以下、第2制動力配分算出部)と、検出された車両挙動に応じて第1制動力配分算出部による配分量と、第2制動力配分算出部による配分量とを選択して制動力配分制御を行うステップS113(以下、制動力配分制御部)とを有するブレーキコントロールユニット32と、を備えた。
【0025】
車両のロール状態に基づいて制動力を配分する第2制動力配分算出部を備えたことで、輪荷重が増大した旋回外輪には制動力を高く配分し、輪荷重が減少した旋回内輪には制動力を低く配分する。これにより、車輪の摩擦円の大きさに応じて制動力を付与することができる。加えて、このように制動力を配分すると、旋回外輪側の制動力の増大によって車両にはヨーレイトの増大を抑制する方向のベクトルが発生するため、ロール挙動の増大を抑制するだけでなく、過度のヨーレイトを抑制することができ、要求制動力を満足しつつ車両の安定性を向上することができる。
【0026】
(2)少なくとも算出された横加速度とヨーレイトとに基づいて車両のアンダーステア傾向とオーバーステア傾向である車両不安定挙動を検出するステップS104(車両挙動検出部)を有し、制動力配分制御部は、車両挙動検出部により検出された車両不安定挙動に基づいて第1制動力配分算出部による配分量と第2制動力配分算出部による配分量とを選択する。
アンダーステア傾向やオーバーステア傾向が検出されたときは、ある輪が受け止められる力の限界を迎えつつあることを表しており、このときは、更に積極的に車両不安定挙動を抑制するように制御することで、車両の安定性を高めることができる。
【0027】
(3)ブレーキコントロールユニット32は、車両挙動検出部により車両不安定挙動が検出されずにロール挙動算出手段によって所定以上のロール挙動が検出された場合は、第2制動力配分算出部によって算出された配分量に応じて制動力配分を行う。言い換えると、ロール挙動が検出されていても、車両不安定挙動が検出されたときは、第1制動力配分算出部によって算出された配分量に応じて制動力配分を行う。
ロール挙動に応じた第2制動力配分算出部による配分は、車輪が過度にスリップする前に開始される制御であり、車輪が過度にスリップし始める車両不安定挙動の場合には、その不安定挙動を抑制する制御を優先することで、車両挙動の安定化を図ることができる。
【0028】
(4)運転者のブレーキ操作に応じてブレーキ液圧を発生するマスタシリンダM/Cと、各車輪のうち右前輪と左後輪とを接続する配管からなるS系統(第1系統)と、各車輪のうち左前輪と右後輪とを接続する配管からなるP系統(第2系統)と、運転者のブレーキ操作の有無を検出するマスタシリンダ圧センサ1(以下、ブレーキ操作状態検出部)と、を備え、ブレーキコントロールユニット32は、ブレーキ操作状態検出部によりブレーキ操作が検出されているときに制動力配分制御部により制動力配分制御を行う場合、系統のうち旋回前外輪と旋回後内輪となる一方の系統に対して制動力配分を実行し、他方の系統に対してはマスタシリンダM/Cからブレーキ液を圧送する。
よって、運転者のブレーキペダル操作時に石踏みの発生を回避することができ、ブレーキペダルストロークを確保することで、運転者に与える違和感を回避することができる。
【0029】
(5)マスタシリンダM/Cとは別に設けられ各車輪に対してマスタシリンダM/Cから吸入したブレーキ液を自動的に各車輪に対して送るギヤポンプ19を有し、ブレーキコントロールユニット32は、ブレーキ操作状態検出部によりブレーキ操作が検出されているときに制動力配分制御部により制動力配分制御を行う場合、P,S系統のうち旋回前外輪と旋回後内輪となる一方の系統に対してギヤポンプ19を用いて制動力配分を実行し、他方の系統に対してはマスタシリンダM/Cからブレーキ液を圧送し、ブレーキ操作が検出されていないときは2系統ともギヤポンプ19を用いて制動力配分制御を行う。
旋回前外輪は車両挙動を制御する上で重要な輪である。最も荷重が多く作用する輪であると共に、車両に大きなヨーモーメントを発生できる輪だからである。そこで、この系統にはギヤポンプ10からブレーキ液を圧送することで、効果的に車両挙動の安定化を図ることができる。
【0030】
(6)ステップS112において、算出された各輪の接地荷重から車両の総接地荷重を算出し(総接地荷重算出部)、前記算出された総接地荷重に対する各車輪の接地荷重の比率に応じて接地荷重の大きい車輪に対しては第2制動力配分算出部により算出された配分量を大きく補正する。
よって、片方の系統のみで制動力を配分する場合でも、反力が得られる範囲で制動力配分量を大きくすることで車両挙動の安定性を図りつつ、制動力を確保することができる。
【実施例2】
【0031】
次に実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
【0032】
(ブレーキアシスト制御処理)
図5は実施例2のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。ステップS101からS103及びステップS111からS114まで、及びステップS106は実施例1と同じであるため、異なるステップについてのみ説明する。
【0033】
ステップS204では、各輪の車輪速差に基づいて旋回方向を検出する。右旋回時であれば左輪の車輪速が大きく、右輪の車輪速は小さい。一方、左旋回時であれば右輪の車輪速が大きく、左輪の車輪速は小さい。しかし、右側もしくは左側の一方のみが低μ路の場合、ブレーキ液圧を供給することで車輪がロックし、旋回外輪であっても車輪速が低くなる場合がある。これらも含めて左右車輪速差に基づく旋回方向(実際の旋回方向と一致しているか否かは別である)を検出する。
ステップS205では、ヨーレイト信号に基づいて旋回方向を検出する。例えばヨーレイト信号が正のときは右旋回時、負のときは左旋回時として検出する。
ステップS206では、舵角に基づいて旋回方向を検出する。
【0034】
ステップS207では、スプリットμ路か否かを判断し、スプリットμ路と判断されたときはステップS208に進み、それ以外のときはステップS209に進む。スプリットμ路とは、左右輪間で路面摩擦係数が異なる路面を意味する。例えば、右旋回時においては、左右輪の路面摩擦係数が同じであれば、左車輪速>右車輪速で、かつ、左右車輪速差が所定値となる関係が得られるが、右側の路面摩擦係数が低いと、右車輪速が過度に低下し、左右車輪速差が所定値よりも大きくなる。この状態では、車両挙動は高μ路側の左輪を中心に旋回方向の力が作用するため、実際のヨーレイトは左旋回を示す。すると、運転者は意図しない左旋回を感知し、カウンターステアを与えるために右旋回方向にステアリングを操舵する。すなわち、車輪速で見ると右旋回だが、実際のヨーレイトは左旋回を示し、運転者はステアリングを右に操舵しているときは、スプリットμ路と判断できるのである。
【0035】
ステップS208では、ヨーレイトが発生する旋回方向側のブレーキ配分を低下させる。すなわち、高μ路側の車輪を中心に旋回してしまっているため、高μ路側のブレーキ配分を低下させることで、車両挙動を安定させる。また、スプリットμ路でないときは、ステップS209において、実施例1のステップS110と同様に、荷重配分に応じた制動力配分を実行する。
【0036】
以上説明したように、実施例2にあっては下記の作用効果を得ることができる。
(7)各車輪の車輪速度を検出する車輪速センサ43(車輪速度検出部)と、車両のヨーレイトを算出する車両挙動センサ41(ヨーレイト算出部)と、車輪速度に基づいて車両の旋回方向を算出するステップS204(第1旋回方向算出部)と、ヨーレイトに基づいて車両の旋回方向を算出するステップS205(第2旋回方向算出部)と、左右輪間で異なる路面摩擦係数の路面であるスプリットμ路を走行中か否かを判定するステップS207(スプリットμ判定部)と、を備え、ブレーキコントロールユニット32は、第1制動力配分算出部により算出された配分量を制動力発生部によって各車輪に制動力を発生中で、スプリットμ路走行中と判定したときは、ステップS208において、第2旋回方向算出部により算出された旋回方向の内輪側に対する制動力の配分量を外輪側に対する制動力の配分量より小さくなるように補正する。
【0037】
まず、スプリットμ路を走行中、低μ路側で車輪がロック傾向となると、車輪速で見たときには、高μ路側の車輪速は大きく、低μ路側の車輪速は小さい。次に、制動力でみたときには、高μ路側の車輪における制動力が強く、低μ路側における制動力が弱い。左右輪が共に高μ路で走行している車両の場合、左右輪のうち、例えば右の車輪速が小さく、左の車輪速が大きいときは、右側に旋回しているときである。しかし、スプリットμ路において右側が低μ路でスリップしていると、上記と同様の車輪速の関係となるものの、左の制動力が強いため、実際には車両は左旋回することになる。つまり、車輪速のみで判断する旋回方向と、実際に発生するヨーレイトに基づいて判断する旋回方向と逆の関係となる。この旋回方向の判断の齟齬を利用してスプリットμ路を判定することができる。そして、スプリットμ路と判断されたときは、実ヨーレイトが検出されている旋回方向の内輪の制動力を低下させることで、車両挙動を安定化させることができる。
【0038】
(8)運転者の操舵角を算出する舵角センサ42と、舵角センサ42の操舵角に基づいて旋回方向を算出するステップS206(第3旋回方向算出部)と、を備え、ブレーキコントロールユニット32は、第1旋回方向算出部による旋回方向判断と第2旋回方向算出部による旋回方向判断とが異なり、かつ、第3旋回方向算出部による旋回方向が第2旋回方向算出部による旋回方向判断と異なるときは、スプリットμ路と判定する。
すなわち、上述したように、直進走行時における制動時にスプリットμ路によってヨーレイトが発生すると、運転者はカウンターステアにより車両挙動を安定させようとするため、ヨーレイトが発生している方向とは逆方向にステアリングを操舵する。この習性を利用してスプリットμ路を判定することで、より精度の高い判定をすることができる。
【実施例3】
【0039】
次に実施例3について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
【0040】
(ブレーキアシスト制御処理)
図6は実施例3のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。ステップS101は実施例1と同じであるため、異なる点について説明する。
ステップS301では、マスタシリンダ圧に基づいてブレーキ操作を検出する。マスタシリンダ圧が所定値以上のときは、運転者によるブレーキ操作があったと判断する。
ステップS302では、車輪速変化量から前後加速度センサ値を差し引いて路面勾配Gを算出する。
ステップS303では、前後加速度センサ値から路面勾配Gを差し引いて実減速度を算出する。
ステップS304では、ブレーキ操作により発生する減速度の半分(2で除した値)を1系統発生ブレーキGとして算出する。すなわち、マスタシリンダ圧から運転者の要求している要求減速度が理解でき、2系統のうち、1系統で達成すべき減速度は要求減速度の半分だからである。
ステップS305では、実減速度が1系統発生ブレーキGに誤判定を考慮した所定値を加算した値よりも小さいか否かを判定し、小さいときは1系統のブレーキが失陥しており、要求減速度を達成できていないと判断し、ステップS306において1系統ブレーキ失陥フラグを1にセットする。一方、大きいときはブレーキ失陥が発生していないと判断し、ステップS307において1系統ブレーキ失陥フラグを0にセットする。
ステップS308では、1系統ブレーキ失陥フラグが1か否かを判断し、1のときは失陥が発生しており、失陥した系統にブレーキを制動力配分しても意味が無いため、ステップS309に進み、失陥した系統は閉じて、正常な他方の系統のみで制動力を発生させる。このとき、荷重移動量を考慮して正常な系統の前輪と後輪との間で制動力配分を実行し、更に、要求減速度を達成するようにマスタシリンダ圧以上の液圧を作用させるべく制動力アシストを実行する。一方、ブレーキ失陥がないときは、通常の制動を継続する。
【0041】
以上説明したように、実施例3にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(9)各車輪のうち右前輪と左後輪とを接続する配管からなるS系統(第1系統)と、各車輪のうち左前輪と右後輪とを接続する配管からなるP系統(第2系統)と、車両に作用する前後方向の加速度を算出する車両挙動センサ41(前後加速度算出手段)と、走行中の路面勾配を算出するステップS302(路面勾配算出部)と、マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ1と、を備え、ブレーキコントロールユニット32は、所定のマスタシリンダ圧が検出されているときに、車両挙動センサ41により検出された前後加速度と、算出された路面勾配とから求められた前後加速度の差の差分加速度から第1系統または第2系統のうち一方の系統失陥を判定するステップS304,S305(以下、失陥判定部)と、失陥判定部により一方の系統の失陥が判定されると他方の系統に対してマスタシリンダからのブレーキ液圧を配分するステップS308(第3制動力配分制御部)を備えた。
よって、制動力配分を制御しているときに、一方のブレーキ系統の失陥を検出したときは、制動力を配分しても制動力が得られないから、制動力の配分を停止することで、適正な制動力を得ることができる。特に、下り勾配路において、ブレーキ失陥が発生したときは車両に制動方向の力が作用しにくいため、特に有効である。
【実施例4】
【0042】
次に実施例4について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
【0043】
(ブレーキアシスト制御処理)
【0044】
図7は実施例4のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。ステップS401は実施例1のステップS101と同じであるため、異なる点について説明する。
ステップS402では、ヨーレイト信号に基づいて旋回方向を算出する。
ステップS403では、マスタシリンダ圧に基づいてブレーキ操作を検出する。
ステップS403では、車輪速変化量から前後加速度センサ値を差し引いて路面勾配Gを算出する。
ステップS404では、路面勾配に基づいて補正液圧を算出する。すなわち、運転者のブレーキ操作により発生するマスタシリンダ圧から、運転者の要求制動力を把握することができる。しかし、下り勾配路を走行しているときには、車両重量分の慣性力が作用するため、要求制動力を達成できない。そこで、路面勾配に基づく補正液圧を算出し、運転者のブレーキ操作による要求制動力を達成できるようにする。
ステップS405では、運転者の要求液圧として、マスタシリンダ液圧に路面勾配補正液圧を加算した値を設定する。
【0045】
以上説明したように、実施例4にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(10)車両の走行中の路面勾配を算出するステップS403(路面勾配算出部)を有し、算出された路面勾配が下り勾配のときは、路面勾配に応じた補正液圧を要求液圧に加算する。
これにより、路面勾配によって車両重量の慣性力が作用したとしても、運転者の要求制動力を得ることができる。尚、同様に上り勾配のときは、路面勾配に応じた補正液圧を要求液圧から減算することとしてもよい。この場合、過度の減速度を発生させることがなく、運転者に与える違和感を抑制することができる。
【実施例5】
【0046】
次に実施例5について説明する。基本的な構成は実施例4と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
(ブレーキアシスト制御処理)
図8は実施例5のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。ステップS401〜ステップS405は、実施例4と同じであるため、省略する。
【0047】
ステップS506では、荷重移動量を算出し、前輪の運転者要求液圧として、マスタシリンダ圧液圧に路面勾配補正液圧を加算した値を設定する。一方、後輪の運転者要求液圧として、マスタシリンダ液圧に路面勾配補正液圧を減算した値を設定する。これにより、路面勾配によって前輪側に荷重が移動し、前輪の摩擦円が大きく、後輪の摩擦円が小さくなっている場合であっても、両輪に制動力を効率よく発生させて、安定した制動力を得ることができる。
(11)車両の走行中の路面勾配を算出するステップS403(路面勾配算出部)を有し、算出された路面勾配が下り勾配のときは、路面勾配に応じた補正液圧を前輪側に加算し、後輪側から減算する。
これにより、路面勾配の影響で荷重移動量が前方寄りに変化したとしても、荷重移動量に応じて制動力を付与することができ、車両挙動の安定化を図りつつ、運転者の要求制動力を適切に得ることができる。尚、実施例5と同様に、上り勾配のときは、路面勾配に応じた補正液圧を後輪側に加算し、前輪側から減算することとしてもよい。この場合、前輪側から減算する制動力は、後輪側に加算する分と路面勾配に応じた補正液圧の両方である。
【実施例6】
【0048】
次に実施例6について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。図9は実施例6のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。実施例1では、外部ECU(具体的には、自動車間制御システム等)からの要求制動力に基づいて制御した。これに対し、実施例6では、ステップS603において、ハイブリッドコントロールユニット(HEV/EV ECU)からの要求制動力に基づいて制御する点が異なる。
すなわち、車両挙動や荷重移動量を算出するには、車両に発生する制動力を認識する必要があり、回生制動力も含めて制動力を認識する必要がある。そこで、回生制動力とブレーキ液圧による制動力との合計制動力から荷重移動量や車両挙動を算出し、荷重移動量に応じて、かつ、回生制動力を考慮してブレーキ液圧を算出する。これにより、車両の制動状態に応じたブレーキ液圧を供給することができる。
【実施例7】
【0049】
次に、実施例7について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
(ブレーキアシスト制御処理)
図10は実施例7のブレーキアシスト制御処理を表すフローチャートである。実施例7の制御は、実施例1のブレーキアシスト制御処理によって荷重移動量に応じた制動力配分等の算出が行われた後に、確認的に実行される処理である。
ステップS701では、アンチロックブレーキ制御(以下、ABS制御)が作動しているか否かを判断し、作動しているときはステップS702に進み、非作動のときは既に算出された制動力配分に応じた処理をそのまま実行する。
ステップS702では、要求液圧として、対角輪ごとの最大圧を設定する。言い換えると、各系統における最大圧を要求液圧として設定する。
【0050】
すなわち、実施例1のように各輪の摩擦円の内側であって、タイヤの反力の限界よりも手前の段階から制動力を適切に配分していると、タイヤの反力の限界、すなわち摩擦円の近辺における制動力が発生しているときも、過度の制動力を発生させないような制御がなされることになる。
一方、ABS制御とは、車輪がスリップしたときに作動する制御であり、制御が開始されると、一旦減圧して過度のスリップを抑制した後は、敢えて増圧により再度スリップさせ、再度減圧することを繰り返すことで、路面μに対して最大の制動力を得つつコーナリングフォースも確保するものである。よって、摩擦円を超える制動力を発生させなければ、最大の制動力を発揮することができないとも言える。
【0051】
このとき、荷重移動量に応じて最適制御を実行しているときに、例えば、旋回内輪後輪において過度のスリップが発生し、ABS制御が開始したとする。ところが、この旋回内後輪は最も荷重が低下する輪であり、配分される制動力が低いため、ABS制御において再度の増圧により制動力を得て、スリップさせようとしても、十分な制動力配分が得られず、適正なABS制御、ひいては十分な制動力が得られないおそれがある。そこで、この場合には、ABS制御が開始した後は、旋回外前輪に配分される液圧と同じ液圧を旋回内後輪にも出力することとした。旋回外前輪は荷重移動量も大きく、もともと制動力配分としても大きな液圧が供給されているから、旋回内後輪には十分な液圧を発生させることができ、適正なABS制御を行うことによって制動力を確保することができるのである。尚、旋回内後輪に高めの液圧に基づく制動力が発生するため、その分、旋回外前輪の配分量を減少させて総制動力を要求制動力と一致させるように制御することが望ましい。
【0052】
以上説明したように、実施例7にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(12)車両のアンチロックブレーキ制御(以下、ABS制御)が作動中か否かを検出するステップS701(ABS作動状態検出部)を備え、ブレーキコントロールユニット32は、ABS制御が作動中と判断したときは、各系統における最大圧をABS制御作動輪の要求液圧として設定する。
よって、ABS制御作動後も、制動力配分制御によって小さな制動力しか配分されないという事態を回避し、また、十分な制動力を付与することで減圧・保持・増圧を繰り返しながら最大限の制動力を発生させることができる。
【0053】
以下、上記各実施例から把握しうる技術的思想について列挙する。
(A1)制動力要求値に基づき車両の前後左右の各車輪に対して制動力を与えることのできる制動力発生部と、車両に作用する横加速度を算出する横加速度算出手段、及びヨーレイトを算出するヨーレイト算出手段と、
車両のロール挙動を算出するロール挙動算出手段と、
算出された横加速度とヨーレイトとに基づいて、各輪に対する制動力の配分量を算出する第1制動力配分算出部と、
算出されたロール挙動に基づいて各輪に対する前記制動力の配分量を算出する第2制動力配分算出部と、
検出された車両挙動に応じて第1制動力配分算出部による配分量と、第2制動力配分算出部による配分量とを選択して制動力配分制御を行う制動力配分制御部とを有するコントロールユニットと、を備えたことを特徴とするブレーキ制御装置。
車両のロール状態に基づいて制動力を配分する第2制動力配分算出部を備えたことで、輪荷重が増大した旋回外輪には制動力を高く配分し、輪荷重が減少した旋回内輪には制動力を低く配分する。これにより、車輪の摩擦円の大きさに応じて制動力を付与することができる。加えて、このように制動力を配分すると、旋回外輪側の制動力の増大によって車両にはヨーレイトの増大を抑制する方向のベクトルが発生するため、ロール挙動の増大を抑制するだけでなく、過度のヨーレイトを抑制することができ、要求制動力を満足しつつ車両の安定性を向上することができる。
【0054】
(A2)上記(A1)に記載のブレーキ制御装置において、
少なくとも算出された横加速度とヨーレイトとに基づいて車両のアンダーステア傾向とオーバーステア傾向である車両不安定挙動を検出する車両挙動検出部を有し、
制動力配分制御部は、車両挙動検出部により検出された車両不安定挙動に基づいて第1制動力配分算出部による配分量と第2制動力配分算出部による配分量とを選択することを特徴とするブレーキ制御装置。
アンダーステア傾向やオーバーステア傾向が検出されたときは、ある輪が受け止められる力の限界を迎えつつあることを表しており、このときは、更に積極的に車両不安定挙動を抑制するように制御することで、車両の安定性を高めることができる。
【0055】
(A3)上記(A1)に記載のブレーキ制御装置において、
コントロールユニットは、車両挙動検出部により車両不安定挙動が検出されずにロール挙動算出手段によって所定以上のロール挙動が検出された場合は、第2制動力配分算出部によって算出された配分量に応じて制動力配分を行うことを特徴とするブレーキ制御装置。
ロール挙動に応じた第2制動力配分算出部による配分は、車輪が過度にスリップする前に開始される制御であり、車輪が過度にスリップし始める車両不安定挙動の場合には、その不安定挙動を抑制する制御を優先することで、車両挙動の安定化を図ることができる。
【0056】
(A4)上記(A1)に記載のブレーキ制御装置において、
運転者のブレーキ操作に応じてブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、
各車輪のうち右前輪と左後輪とを接続する配管からなる第1系統と、
各車輪のうち左前輪と右後輪とを接続する配管からなる第2系統と、
運転者のブレーキ操作の有無を検出するブレーキ操作状態検出部と、
を備え、
コントロールユニットは、ブレーキ操作状態検出部によりブレーキ操作が検出されているときに制動力配分制御部により制動力配分制御を行う場合、系統のうち旋回前外輪と旋回後内輪となる一方の系統に対して制動力配分を実行し、他方の系統に対してはマスタシリンダからブレーキ液を圧送する。
よって、運転者のブレーキペダル操作時に石踏みの発生を回避することができ、ブレーキペダルストロークを確保することで、運転者に与える違和感を回避することができる。
【0057】
(A5)上記(A4)に記載のブレーキ制御装置において、
マスタシリンダとは別に設けられ各車輪に対してマスタシリンダから吸入したブレーキ液を自動的に各車輪に対して送るポンプを有し、
コントロールユニットは、ブレーキ操作状態検出部によりブレーキ操作が検出されているときに制動力配分制御部により制動力配分制御を行う場合、前記系統のうち旋回前外輪と旋回後内輪となる一方の系統に対してポンプを用いて制動力配分を実行し、他方の系統に対してはマスタシリンダからブレーキ液を圧送し、ブレーキ操作が検出されていないときは2系統ともポンプを用いて制動力配分制御を行うことを特徴とするブレーキ制御装置。
旋回前外輪は車両挙動を制御する上で重要な輪である。最も荷重が多く作用する輪であると共に、車両に大きなヨーモーメントを発生できる輪だからである。そこで、この系統にはポンプからブレーキ液を圧送することで、効果的に車両挙動の安定化を図ることができる。
【0058】
(A6)上記(A1)に記載のブレーキ制御装置において、
各車輪のうち右前輪と左後輪とを接続する配管からなる第1系統と、
各車輪のうち左前輪と右後輪とを接続する配管からなる第2系統と、
車両に作用する前後方向の加速度を算出する前後加速度算出手段と、
走行中の路面勾配を算出する路面勾配算出部と、
マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧検出部と、
を備え、
コントロールユニットは、所定のマスタシリンダ圧が検出されているときに、前後加速度算出手段により算出された前後加速度と、算出された路面勾配とから求められた前後加速度の差の差分加速度から第1系統または第2系統のうち一方の系統失陥を判定する失陥判定部と、
失陥判定部により一方の系統の失陥が判定されると他方の系統に対してマスタシリンダからのブレーキ液圧を配分する第3制動力配分制御部と、
を備えたことを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、制動力配分を制御しているときに、一方のブレーキ系統の失陥を検出したときは、制動力を配分しても制動力が得られないから、制動力の配分を停止することで、適正な制動力を得ることができる。特に、下り勾配路において、ブレーキ失陥が発生したときは車両に制動方向の力が作用しにくいため、特に有効である。
【0059】
(A7)上記(A1)に記載のブレーキ制御装置において、
各車輪の車輪速度を検出する車輪速度検出部と、
車両のヨーレイトを算出するヨーレイト算出部と、
車輪速度に基づいて車両の旋回方向を算出する第1旋回方向算出部と、
ヨーレイトに基づいて車両の旋回方向を算出する第2旋回方向算出部と、
左右輪間で異なる路面摩擦係数の路面であるスプリットμ路を走行中か否かを判定するスプリットμ判定部と、
を備え、
コントロールユニットは、第1制動力配分算出部により算出された配分量を制動力発生部によって各車輪に制動力を発生中で、スプリットμ路走行中と判定したときは、第2旋回方向算出部により算出された旋回方向の内輪側に対する制動力の配分量を外輪側に対する制動力の配分量より小さくなるように補正することを特徴とするブレーキ制御装置。
車輪速のみで判断する旋回方向と、実際に発生するヨーレイトに基づいて判断する旋回方向と逆の関係となり、この旋回方向の判断の齟齬を利用してスプリットμ路を判定することができる。そして、スプリットμ路と判断されたときは、実ヨーレイトが検出されている旋回方向の内輪の制動力を低下させることで、車両挙動を安定化させることができる。
【0060】
(A8)上記(A7)に記載のブレーキ制御装置において、
運転者の操舵角を算出する舵角算出手段と、
算出された操舵角に基づいて旋回方向を算出する第3旋回方向算出部と、
を備え、
コントロールユニットは、第1旋回方向算出部による旋回方向判断と第2旋回方向算出部による旋回方向判断とが異なり、かつ、第3旋回方向算出部による旋回方向が第2旋回方向算出部による旋回方向判断と異なるときは、スプリットμ路と判定することを特徴とするブレーキ制御装置。
直進走行時における制動時にスプリットμ路によってヨーレイトが発生すると、運転者はカウンターステアにより車両挙動を安定させようとするため、ヨーレイトが発生している方向とは逆方向にステアリングを操舵する。この習性を利用してスプリットμ路を判定することで、より精度の高い判定をすることができる。
【0061】
(A9)上記(A1)に記載のブレーキ制御装置において、
前記車両の走行中の路面勾配を算出する路面勾配算出部と、
前記算出された路面勾配が上り勾配の場合は前記制動力要求値を前記路面勾配に応じた制動力分減算し、算出された路面勾配が下り勾配の場合は前記制動力要求値を前記路面勾配に応じた制動力分加算することを特徴とするブレーキ制御装置。
これにより、路面勾配によって車両重量の慣性力が作用したとしても、運転者の要求制動力を得ることができる。
【0062】
(A10)上記(A1)に記載のブレーキ制御装置において、
各車輪の接地荷重を算出する接地荷重算出部と、
前記算出された接地荷重から車両の総接地荷重を算出する総接地荷重算出部と、
前記算出された総接地荷重に対する各車輪の接地荷重の比率に応じて接地荷重の大きい車輪に対しては前記算出された第2制動力配分算出部により算出された配分量を大きく補正することを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、片方の系統のみで制動力を配分する場合でも、反力が得られる範囲で制動力配分量を大きくすることで車両挙動の安定性を図りつつ、制動力を確保することができる。
【0063】
(A11)上記(A1)に記載のブレーキ制御装置において、
各車輪のうち右前輪と左後輪とを接続する配管からなる第1系統と、
各車輪のうち左前輪と右後輪とを接続する配管からなる第2系統と、
車輪のロック傾向を検出したときは減圧・保持・増圧を繰り返し、車輪ロックを回避するアンチロックブレーキ制御手段と、
前記アンチロックブレーキ制御手段が作動中か否かを検出するABS作動状態検出部を備え、
コントロールユニットは、アンチロックブレーキ制御手段が作動中と判断したときは、各系統における最大圧をアンチロックブレーキ制御作動輪の要求液圧として設定することを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、制動力配分を制御しているときに、一方のブレーキ系統の失陥を検出したときは、制動力を配分しても制動力が得られないから、制動力の配分を停止することで、適正な制動力を得ることができる。
(B1)制動力要求値に基づき車両の前後左右の各車輪に対して制動力を与えることのできる制動力発生部と、
前記車両に作用する横加速度を算出する横加速度検出装置とヨーレイトを算出するヨーレイト算出装置及びロール挙動を算出するロール挙動算出装置と、
少なくとも前記横加速度検出装置と前記ヨーレイト算出装置によって車両のアンダーステア傾向とオーバーステア傾向である車両不安定挙動を検出する車両挙動検出部と、
前記算出された横加速度とヨーレイトとロール挙動に基づいて、前記各輪に対する前記制動力の配分量を算出し、算出した制動力配分量により制御する制動力配分制御部と、
前記各車輪のうち右前輪と左後輪を接続する配管からなる第1系統と、
左前輪と右後輪とを接続する配管からなる第2系統と、
運転者のブレーキ操作の有無を検出するブレーキ操作状態検出部を備え、
前記ブレーキ操作状態検出部によりブレーキ操作が検出されているときに前記制動力配分制御部により制動力配分制御を行う場合、前記系統のうち旋回前外輪と旋回後内輪となる一方の系統に対して制動力配分を実行し、他方の系統に対してはマスタシリンダからブレーキ液を圧送して制動力配分制御を行うことを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、ロール挙動の増大を抑制するだけでなく、過度のヨーレイトを抑制することができ、要求制動力を満足しつつ車両の安定性を向上することができる。加えて、運転者のブレーキペダル操作時に石踏みの発生を回避することができ、ブレーキペダルストロークを確保することで、運転者に与える違和感を回避することができる。
【0064】
(B2)上記(B1)に記載のブレーキ制御装置において、
前記制動力配分量は、
前記算出された横加速度とヨーレイトに基づいて算出する第1制動力配分算出部と、
前記算出されたロール挙動に基づいて前記各輪に対する前記制動力の配分量を算出する第2制動力配分算出部と、
前記検出された車両挙動に応じて前記第1制動力配分算出部による配分量と、前記第2制動力配分算出部による配分量とを選択して制動力配分制御を行う制動力配分制御部とを有するコントロールユニットを備えたことを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、ロール挙動の増大を抑制するだけでなく、過度のヨーレイトを抑制することができ、要求制動力を満足しつつ車両の安定性を向上することができる。
【0065】
(B3)上記(B2)に記載のブレーキ制御装置において、
前記コントロールユニットは、前記車両挙動検出部により車両不安定挙動が検出されずに前記ロール挙動算出装置によって所定以上のロール挙動が検出された場合は前記第2制動力配分算出部によって算出された配分量に応じて制動力配分を行うことを特徴とするブレーキ制御装置。
ロール挙動に応じた第2制動力配分算出部による配分は、車輪が過度にスリップする前に開始される制御であり、車輪が過度にスリップし始める車両不安定挙動の場合には、その不安定挙動を抑制する制御を優先することで、車両挙動の安定化を図ることができる。
【0066】
(B4)上記(B1)に記載のブレーキ制御装置において、
マスタシリンダとは別に設けられ各車輪に対して前記マスタシリンダから吸入したブレーキ液を自動的に前記各車輪に対して送るポンプを有し、
前記コントロールユニットは、前記ブレーキ操作状態検出部によりブレーキ操作が検出されているときに前記制動力制御部により制動力配分制御を行う場合、前記系統のうち旋回前外輪と旋回後内輪となる一方の系統に対して前記ポンプを用いて制動力配分を実行し、他方の系統に対しては前記マスタシリンダからブレーキ液を圧送し、ブレーキ操作が検出されていないときは前記2系統が前記ポンプを用いて制動力配分制御を行うことを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、運転者のブレーキペダル操作時に石踏みの発生を回避することができ、ブレーキペダルストロークを確保することで、運転者に与える違和感を回避することができる。
【0067】
(B5)上記(B4)に記載のブレーキ制御装置において、
前記制動力発生部は、運転者のブレーキ操作に応じてブレーキ液圧を発生するマスタシリンダであり、
前記マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧検出部と、
前記各車輪のうち右前輪と左後輪とを接続する配管からなる第1系統と、
左前輪と右後輪とを接続する配管からなる第2系統と、
車両のアンチロックブレーキ制御が作動中か否かを検出するABS作動状態検出部とを備え、
前記コントロールユニットは、前記制動力配分制御部による制動力配分制御中に前記ABS作動状態検出部によりアンチロックブレーキ制御作動が検出された場合、各車輪または系統ごとの最大ホイルシリンダ圧を前記制動力要求値とすると共に、前記制動力要求値と前記検出されたマスタシリンダ圧の差分を減少させる。
よって、アンチロックブレーキ制御作動している輪に十分な液圧を発生させることができ、適正なABS制御を行うことができる。また、高めの液圧が供給されることから、アンチロックブレーキ制御作動していない輪の制動力配分を減少させることで、制動力要求値との乖離を解消し、運転者に与える違和感を回避することができる。
【0068】
(B6)上記(B5)に記載のブレーキ制御装置において、
前記車両の走行中の路面勾配を算出する路面勾配算出部と、
前記算出された路面勾配が上り勾配の場合は前記制動力要求値を前記路面勾配に応じた制動力分減算し、算出された路面勾配が下り勾配の場合は前記制動力要求値を前記路面勾配に応じた制動力分加算することを特徴とするブレーキ制御装置。
これにより、路面勾配によって車両重量の慣性力が作用したとしても、運転者の要求制動力を得ることができる。
【0069】
(B7)上記(B6)に記載のブレーキ制御装置において、
前記各車輪の接地荷重を算出する接地荷重算出部と、
前記算出された接地荷重から車両の総接地荷重を算出する総接地荷重算出部と、前記算出された総接地荷重に対する各車輪の接地荷重の比率に応じて接地荷重の大きい車輪に対しては前記算出された第2制動力配分算出部により算出された配分量を大きく補正することを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、片方の系統のみで制動力を配分する場合でも、反力が得られる範囲で制動力配分量を大きくすることで車両挙動の安定性を図りつつ、制動力を確保することができる。
【0070】
(B8)上記(B1)に記載のブレーキ制御装置において、
車両に作用する前後方向の加速度を算出する前後加速度検出装置と、
車両のアンチロックブレーキ制御が作動中か否かを検出するABS作動状態検出部と、
走行中の路面勾配を算出する路面勾配算出部と、
前記制動力発生部は、運転者のブレーキ操作に応じてブレーキ液圧を発生するマスタシリンダであり、
前記マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧検出部と、
前記コントロールユニットは、前記ABS作動状態検出部によってアンチロックブレーキ制御が非作動を検出し、前記マスタシリンダ圧検出部によって所定のマスタシリンダ圧が検出されているときに前記前後加速度検出装置により検出された前後加速度と前記路面勾配算出部により算出された路面勾配から求められた前後加速度の差の差分加速度から前記第1系統または第2系統のうち一方の系統失陥を判定する失陥判定部と、
前記失陥判定部により一方の系統の失陥が判定されると他方の系統に対して前記マスタシリンダからのブレーキ液圧を配分する第3制動力配分制御部とを備えた。
よって、制動力配分を制御しているときに、一方のブレーキ系統の失陥を検出したときは、制動力を配分しても制動力が得られないから、制動力の配分を停止することで、適正な制動力を得ることができる。
【0071】
(C1)運転者のブレーキ操作によってブレーキ液圧を発生し、車両の前後左右の各車輪に対して制動力を与えるマスタシリンダと、
運転者のブレーキ操作の有無を検出するブレーキ操作状態センサと、
前記マスタシリンダからブレーキ液を吸入し前記各車輪に対して制動力を与えるポンプと、
前記車両に作用する横加速度を算出する横加速度センサとヨーレイトを算出するヨーレイトセンサと、ロール挙動を検出するロール挙動算出装置と、
少なくとも前記横加速度センサと前記ヨーレイトセンサによって車両のアンダーステア傾向とオーバーステア傾向である車両不安定挙動を検出する車両挙動検出部と、
前記算出された横加速度とヨーレイトに基づいて、前記各輪に対する前記制動力の配分量を算出する第1制動力配分算出部と、
前記算出されたロール挙動に基づいて前記各輪に対する前記制動力の配分量を算出する第2制動力配分算出部と、
前記ブレーキ操作状態検出部によりブレーキ操作が検出されているときに前記制動力配分制御部により制動力配分制御を行う場合に、前記系統のうち旋回前外輪と旋回後内輪となる一方の系統に対して前記ポンプを用いて制動力配分を実行し、他方の系統に対しては前記マスタシリンダからブレーキ液を圧送し、ブレーキ操作が検出されていないときは前記2系統を前記ポンプを用いて制動力配分制御を行うことを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、ロール挙動の増大を抑制するだけでなく、過度のヨーレイトを抑制することができ、要求制動力を満足しつつ車両の安定性を向上することができる。加えて、運転者のブレーキペダル操作時に石踏みの発生を回避することができ、ブレーキペダルストロークを確保することで、運転者に与える違和感を回避することができる。
(C2)上記(C1)に記載のブレーキ制御装置において、
前記コントロールユニットは、前記車両挙動検出部により車両不安定挙動が検出されずに前記ロール挙動算出部によって所定以上のロール挙動が検出された場合は前記第2制動力配分算出部によって算出された配分量に応じて制動力配分を行うことを特徴とするブレーキ制御装置。
よって、ロール挙動の増大を抑制するだけでなく、過度のヨーレイトを抑制することができ、要求制動力を満足しつつ車両の安定性を向上することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 マスタシリンダ圧センサ
2 ゲートインバルブ
3 ゲートアウトバルブ
4 ソレノイドインバルブ
5 ソレノイドアウトバルブ
16 リザーバ
19 ギヤポンプ
31 液圧制御ユニット
32 ブレーキコントロールユニット
33 回生制御コントロールユニット
34 統合制御コントロールユニット
41 車両挙動センサ
42 舵角センサ
43 車輪速センサ
BP ブレーキペダル
CAN 通信線
L 下流側配管
L1 配管
M/C マスタシリンダ
U 上流側配管
W/C ホイルシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動力要求値に基づき車両の前後左右の各車輪に対して制動力を与えることのできる制動力発生部と、
前記車両に作用する横加速度を算出する横加速度算出手段と、
ヨーレイトを算出するヨーレイト算出手段と、
車両のロール挙動を算出するロール挙動算出手段と、
前記算出された横加速度とヨーレイトとに基づいて、前記各輪に対する前記制動力の配分量を算出する第1制動力配分算出部と、前記算出されたロール挙動に基づいて前記各輪に対する前記制動力の配分量を算出する第2制動力配分算出部と、前記検出された車両挙動に応じて前記第1制動力配分算出部による配分量と、前記第2制動力配分算出部による配分量とを選択して制動力配分制御を行う制動力配分制御部とを有するコントロールユニットと、
を備えたことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ制御装置において、
少なくとも前記算出された横加速度とヨーレイトとに基づいて車両のアンダーステア傾向とオーバーステア傾向である車両不安定挙動を検出する車両挙動検出部を有し、
前記制動力配分制御部は、前記車両挙動検出部により検出された車両不安定挙動に基づいて前記第1制動力配分算出部による配分量と前記第2制動力配分算出部による配分量とを選択することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のブレーキ制御装置において、
前記コントロールユニットは、前記車両挙動検出部により車両不安定挙動が検出されずに前記ロール挙動算出手段によって所定以上のロール挙動が検出された場合は、前記第2制動力配分算出部によって算出された配分量に応じて制動力配分を行うことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のブレーキ制御装置において、
運転者のブレーキ操作に応じてブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、
前記各車輪のうち右前輪と左後輪とを接続する配管からなる第1系統と、
前記各車輪のうち左前輪と右後輪とを接続する配管からなる第2系統と、
運転者のブレーキ操作の有無を検出するブレーキ操作状態検出部と、
を備え、
前記コントロールユニットは、前記ブレーキ操作状態検出部によりブレーキ操作が検出されているときに前記制動力配分制御部により制動力配分制御を行う場合、前記系統のうち旋回前外輪と旋回後内輪となる一方の系統に対して制動力配分を実行し、他方の系統に対しては前記マスタシリンダからブレーキ液を圧送することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のブレーキ制御装置において、
前記マスタシリンダとは別に設けられ各車輪に対して前記マスタシリンダから吸入したブレーキ液を自動的に前記各車輪に対して送るポンプを有し、
前記コントロールユニットは、前記ブレーキ操作状態検出部によりブレーキ操作が検出されているときに前記制動力配分制御部により制動力配分制御を行う場合、前記系統のうち旋回前外輪と旋回後内輪となる一方の系統に対して前記ポンプを用いて制動力配分を実行し、他方の系統に対しては前記マスタシリンダからブレーキ液を圧送し、ブレーキ操作が検出されていないときは前記2系統とも前記ポンプを用いて制動力配分制御を行うことを特徴とするブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−51456(P2012−51456A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195372(P2010−195372)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】