説明

モータトルク制御装置

【課題】 本発明は、主に電気自動車のモータトルクの抑制に用いて好適の、モータトルク制御装置に関し、シフトポジションを変更した際のショックを抑制できるようにする。
【解決手段】 各シフトポジション毎の目標トルクをそれぞれ設定する目標トルク設定手段15と、現在のシフトポジションに対応した目標トルクを目標トルク設定手段15から選択する目標トルク選択手段24と、シフトポジションが切り替えられると、目標トルク選択手段24で新たに選択された目標トルクに対して所定のゲインで一次遅れ処理を行い最終的な指示トルクとして出力する目標トルク補正手段26とを備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に電気自動車のモータトルクの抑制に用いて好適の、モータトルク制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池やバッテリからの電力によりモータを駆動して走行する電気自動車が開発又は一部で実用化されている。また、上述したような電気自動車以外にも、エンジンにより発電した電力によりモータを駆動して走行するハイブリッド式電気自動車も実用化されている。
ところで、電気自動車では、通常はクラッチ機構やトランスミッション(変速機構)を備えておらず、モータの出力軸が直接(又は最終減速ギアやデファレンシャルギアを介して)駆動輪に接続されている。
【0003】
一方、トランスミッションを備えていない電気自動車であっても、車室内においては、トランスミッションを備えた車両と同様にシフトレバーが設けられる場合がある。例えば、図4に示す例では、シフトポジション(シフトレンジ)として、P(パーキング;駐車),R(リバース;後退),N(ニュートラル;中立),D(ドライブ;走行)及びL(ロー;低速)の各ポジションが設けられている。
【0004】
ここで、Pレンジは、設定される目標トルクが常に0[Nm]であって、且つモータ出力軸に機械的なロックが作動するポジションであり、駐車時に使用するシフトポジションである。また、Nレンジもモータトルクは常に0[Nm]に保持され、モータを無負荷状態で使用するシフトポジションである。
また、Dレンジ及びLレンジは、走行時に使用するシフトポジションであって、同じアクセル開度であれば、アクセル全開時を除いてDレンジよりもLレンジの方が大きな出力トルクに設定されるようになっている。また、Rレンジは後退走行時に使用するシフトポジションである。なお、このようなモータの目標トルクはECU108により指示トルクとして出力され、この指示トルクに基づいてインバータの作動が制御される。
ところで、電気自動車では、シフトポジションに関わらず、常時全てのシフトポジションにおける目標トルクを算出又は設定しており、シフトポジションが選択されると、ECUではそのシフトポジションに対応した目標トルクを指示トルクとして出力するようになっている。
【0005】
これは、例えば頻繁にシフトレバー操作が行われた場合に、その都度目標トルクを算出していると応答遅れが生じる可能性があるからであり、このため、上述のように、常に全てのシフトポジションにおける目標トルクを求めておき、選択されたシフトポジション応じた目標トルクを出力するようにしているのである。
ここで、目標トルクの算出手法について簡単に説明すると、図4はモータやインバータの作動を制御するECU108の要部構成を示す模式図であって、ECU108には、Pレンジ及びNレンジでの目標トルクを設定する第1モータトルク設定部116、Dレンジでの目標トルクを設定する第2モータトルク設定部118、Lレンジでの目標トルクを設定する第3モータトルク設定部120、Rレンジでのモータ2の目標トルクを設定する第4モータトルク設定部122が設けられている。そして、上述のように、現在のシフトポジションに関わらず、これらの各トルク設定部116〜122において、常に各シフトポジションにおける目標トルクが設定されるようになっている。
【0006】
このうち、第1モータトルク設定部116には固定値0[Nm]が設定されており、これにより、Pレンジ及びNレンジにおいては、常に目標トルクが0[Nm]となる。また、第2及び第3モータトルク設定部118,120には、アクセル開度と車速とをパラメータとするマップ(Dレンジマップ及びLレンジマップ)が設けられており、アクセル開度センサ112及び車速センサ114からの検出情報に基づいてDレンジ及びLレンジでの目標トルクが設定されるようになっている。
【0007】
また、第4モータトルク設定部122では、第2モータトルク設定部118で設定された目標トルクに対しモータの回転方向を逆転させることでRレンジの目標トルクを出力するようになっている。また、ECU108には目標トルク選択手段124が設けられている。そして、この目標トルク選択手段124では、シフトポジションセンサ110で検出されたシフトポジションに対応したモータトルク設定部116〜122を選択することにより、シフトポジションに応じた目標トルクを選択し出力するようになっている。
【0008】
なお、例えば特許文献1にも電気自動車のトルク制御に関する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002−271915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術では、例えば車両停止時にアクセルペダルを踏み込んだ状態でNレンジからDレンジにシフトポジションを変更すると、Nレンジの目標トルク0[Nm]からDレンジの目標トルクへ指示トルクが急変するため、急発進状態となるという課題がある。
このため、アクセルペダルを踏み込んだ状態でNレンジからDレンジに変更した場合には走行を禁止することも考えられるが、このように走行を禁止すると使い勝手が低下するという課題がある。
【0010】
また、車両走行中にDレンジからLレンジに変更した場合には、Dレンジの目標トルクとLレンジの目標トルクとが異なるため、やはり指示トルクが急変し、ショックが発生するという課題がある。
なお、特許文献1の技術では、DレンジやRレンジ等の走行レンジからNレンジやPレンジ等の停止レンジにシフト操作された際に生じる車体振動を抑制するための技術が開示されている。
【0011】
具体的には、モータのシフト位置が走行レンジから停止レンジに切り替えられると、モータ指示トルクを0に切り替えるのではなく、停止レンジに切り替わる直前のモータ指示トルクを予め設定された減少関数に基づいて設定時間内に徐々に0まで下げることで車体振動を抑制するようにしている。
しかしながら、この技術は走行レンジから停止レンジに切り替えられた際の制御であって、走行レンジに切り替えられた際の制御に関しては何ら考慮されていない。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、シフトポジションを変更した際のショックを抑制できるようにした、モータトルク制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このため、本発明のモータトルク制御装置は、車両に搭載された駆動源としてのモータの出力トルクを制御するモータトルク制御装置であって、該車両の複数のシフトポジションのうち現在選択されているシフトポジションを検出するシフトポジションセンサと、該車両のアクセル操作量を検出するアクセルポジションセンサと、該アクセルポジションセンサから得られた該アクセル操作量に基づいて各シフトポジション毎の目標トルクをそれぞれ設定する目標トルク設定手段と、該シフトポジションセンサからの情報に基づいて現在のシフトポジションに対応した目標トルクを目標トルク設定手段から選択する目標トルク選択手段と、該シフトポジションセンサからの情報に基づいて該車両の走行レンジに対応するシフトポジションへの切り替えが検出されると、該目標トルク選択手段で新たに選択された目標トルクに対して所定のゲインで一次遅れ処理を行い最終的な指示トルクとして出力する目標トルク補正手段とを備えたことを特徴としている(請求項1)。
【0014】
また、該シフトポジション切り替え後の目標トルクをT、該ゲインをk、前回の制御周期で出力された指示トルクをTn-1、今回の制御周期における指示トルクをTn とすると、該目標トルク補正手段は、下式
n =T・k+Tn-1 ・(1−k)
により指示トルクを周期的に求めるのが好ましい(請求項2)。
【0015】
また、該ゲインを該シフトポジション切り替え後の経過時間に伴い漸増させるゲイン変更手段を有するのが好ましい(請求項3)。
さらには、該ゲイン変更手段は、該シフトポジション切り替え時における該ゲインの初期値を0とするとともに、所定時間後に該ゲインを1まで徐々に増大させ、その後該ゲインを1に保持するのが好ましい(請求項4)。
【発明の効果】
【0016】
本発明のモータトルク制御装置によれば、シフトポジションの切り替えが検出されると、目標トルクに対して所定のゲインで一次遅れ処理を行い最終的な指示トルクとして出力するので、切り替え前のシフトポジションでの目標トルクから切り替え後のシフトポジションでの目標トルクに指示トルクを連続的に変化させることができる。
これにより、指示トルクの不連続な急変化を抑制できトルクショックを抑制することができる。特に、車両停止時にアクセルペダルを踏み込んだ状態でNレンジからDレンジにシフトポジションを変更した場合に、違和感なく速やかに発進することができる利点があるほか、車両走行中にDレンジからLレンジに変更した場合にも、指示トルクの急変を防止してショックを抑制することができるという利点がある。
【0017】
また、シフトポジション切り替え後は経過時間に応じてゲインを漸増させることより、シフトポジションの切り替え直後は緩やかに指示トルクを変更させながら、その後速やかに指示トルクをシフトポジション切り替え後の目標トルクに収束させることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面により、本発明の一実施形態にかかるモータトルク制御装置について説明すると、図1は本装置が適用される車両を示す模式図、図2は本装置の要部構成を示す模式図、図3はその作用を説明するタイムチャートである。
図1において、1は電気自動車(車両)、2は車両1に搭載された駆動源としてのモータ2を示している。なお、モータ2は本実施形態では三相交流モータが適用されている。また、車両1にはクラッチ機構やトランスミッション(変速機)は設けられておらず、モータ2の出力軸2aは減速ギア及びデファレンシャルギアを一体化したデファレンシャルギアアッセンブリ3を介してドライブシャフト4及び駆動輪5に接続されている。
【0019】
また、車両1には主電源としてのバッテリ6が設けられており、このバッテリ6からの電力供給を受けてモータ2が駆動するようになっている。また、図示するように、モータ2にはインバータ7が接続されており、このインバータ7によりバッテリ6からの直流電流が三相交流電流に変換されるとともに、モータ2の出力トルク及び回転数が制御されるようになっている。さらに、インバータ7にはモータコントロールユニットとしての電子制御装置(ECU)8が接続されており、このECU8によりモータ2の出力トルクが設定されるとともに、この出力トルク指令値(指示トルク)等の信号がインバータ7に出力されるようになっている。これにより、インバータ7の作動が制御されて、モータ2の出力トルクや回転数が制御されるようになっている。
【0020】
また、上述のように、車両1には変速機は設けられていないものの、モータ2の作動態様を切り替えるためのシフトポジション選択手段としてシフトレバー(図示省略)が設けられており、シフトポジション(シフトレンジ)として、P(パーキング;駐車),R(リバース;後退),N(ニュートラル;中立),D(ドライブ;走行)及びL(ロー;低速)の各ポジションが設けられている。
【0021】
一方、図2に示すように、ECU8には、図示しないシフトレバーにより選択された現在のシフトポジション(シフトレンジ)を検出するシフトポジションセンサ10,アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量を検出するアクセル開度センサ(アクセルポジションセンサ)12、モータ2の回転数(車速と等価)を検出するモータ回転数センサ(或いは車速センサ)14等の各種スイッチ・センサ類が接続されており、ECU8は、各スイッチ・センサ類からの信号を処理してインバータユニット7にモータ2の指示トルク信号を出力するようになっている。
【0022】
ここで、図2に示すように、ECU8には、モータ2に対する目標トルクをシフトポジション毎に設定する目標トルク設定手段15と、シフトポジションセンサ10からの情報に基づいて現在のシフトポジションに対応した目標トルクを目標トルク設定手段15から選択する目標トルク選択手段24と、シフトポジションセンサ10からの情報に基づいてシフトポジションの切り替えが検出されると目標トルク選択手段24で新たに選択された目標トルクに対して補正を施す目標トルク補正手段26とを備えている。
【0023】
このうち、目標トルク設定手段15は、Pレンジ及びNレンジでのモータ2の目標トルクを設定する第1モータトルク設定部16、Dレンジでのモータ2の目標トルクを設定する第2モータトルク設定部18、Lレンジでのモータ2の目標トルクを設定する第3モータトルク設定部20、Rレンジでのモータ2の目標トルクを設定する第4モータトルク設定部22を備えている。そして、シフトポジションに関わらず、これらの各トルク設定部16〜22において、常に各シフトポジションにおける目標トルクが設定されるようになっている。
【0024】
また、目標トルク選択手段24では、シフトポジションセンサ10で検出されたシフトポジションに対応したモータトルク設定部16〜22を選択することにより、シフトポジションに応じた目標トルクを選択し、出力するようになっている。
ここで、第1モータトルク設定部16には固定値として0[Nm]が記憶されており、Pレンジ及びNレンジでの目標トルクは、常に0[Nm]に設定されるようになっている。
【0025】
また、第2モータトルク設定部18には、アクセル開度と車速とをパラメータとして目標トルクを求めるマップ(Dレンジマップ)が設けられており、アクセル開度センサ12及び車速センサ14からの検出情報に基づいてDレンジでの目標トルクが設定されるようになっている。
また、第3モータトルク設定部20においてもアクセル開度と車速とをパラメータとして目標トルクを求めるマップ(Lレンジマップ)が設けられている。なお、このLレンジマップはDレンジマップに対して、アクセル開度及び車速が同じであればLレンジマップで設定される目標トルクの方が大きな値となるような特性に設定されている。
【0026】
また、第4モータトルク設定部22では、上記第2モータトルク設定部18で設定された目標トルクの符号を反転させることで、Rレンジの目標トルクを出力するようになっている。つまり、この場合にはDレンジの目標トルクと絶対値が同じでモータ2の出力軸2aの回転方向のみが変更されることとなる。
また、目標トルク補正手段26は、シフトポジションの切り替え時に目標トルクの急変を抑制するために、目標トルクに対していわゆるなまし制御を行う手段である。具体的には、目標トルク補正手段26はシフトポジション切り替え時に目標トルクがパルス状に不連続に変化するのを抑制してトルクショックの発生を防止するものであり、インバータ7に出力される指示トルクを連続的に変化させる機能を有している。なお、本実施形態では目標トルク補正手段26においてゲインkを用いた一次遅れ処理が実行される。
【0027】
ここで、シフトポジション切り替え後に設定される目標トルクをT、ゲインをk、今回の制御周期において実際にインバータ7に出力される指示トルクをTn 、前回の制御周期にインバータ7に出力された指示トルクをTn-1 とすると、目標トルク補正手段26において、以下の式(1)により指示トルクTn が周期的に算出されるようになっている。
n =T・k+Tn-1 ・(1−k)・・・・・(1)
そして、このような一次遅れ処理を実行することにより、シフトポジション切り替え前の目標トルクとシフトポジション切り替え後の目標トルクとが連続的に変化し、トルクショックを防止することができる。
【0028】
また、本実施形態においては、ゲインkの値を変更するゲイン変更部(ゲイン変更手段)28が設けられており、このゲイン変更部28において、時間の経過に応じてゲインkが徐々に増大するようになっている。
これは、シフトポジション切り替え直後は緩やかに指示トルクを変更しながらも、その後は速やかにシフトポジション切り替え後の目標トルクに指示トルクを収束させるためである。そこで、ゲイン変更部28では、シフトポジションスイッチ10からの検出情報に基づいてシフトポジションの切り替えを検出すると、上記ゲイン変更部28においてタイマをスタートさせて、タイマのカウンタに応じてゲインkを変更するようになっている。
【0029】
ここで、ゲイン変更部28には図2に示すような特性のマップが設けられている。このマップにおいては、タイマのカウンタ=0のときのゲインkの初期値は0に設定されており、カウンタの増大とともにゲインkはリニアに増大するような特性に設定されている。また、所定時間経過するとゲインkは最大値1に達し、以降はゲインk=1を保持するようになっている。
【0030】
このようなkを上述の式(1)に代入することで、シフトポジション切り替え直後はゲインk=0となり、シフトポジション切り替え前の目標トルクがそのまま指示トルクとして出力されることになる。
そして、これ以降徐々にゲインkが増大することにより、シフトポジション切り替え後の目標トルクの影響度合いが増大し、ゲインk=1となると、式(1)によりシフトポジション切り替え後の目標トルク=指示トルクとなる。
【0031】
なお、ゲインk=固定値としてもよく、この場合にも、シフトポジション切り替え後に徐々に指示トルクを変化させることができる。しかしながら、上述したようにゲインkを時間の経過に応じて0から1に変更することにより、切り替え直後は緩やかに指示トルクを変更させながら、その後速やかに指示トルクをシフトポジション切り替え後の目標トルクに収束させることができる。
【0032】
本発明の一実施形態に係るモータトルク制御装置は上述のように構成されているので、例えば車両走行中にドライバがDレンジからLレンジにシフトポジションを操作した場合の作用について図3のタイムチャートを用いて説明すると以下のようになる。
まず、ECU8ではシフトポジションに関わらず、各モータトルク設定部16〜22において各シフトポジション毎の目標トルクを設定する。そして、目標トルク選択手段24では、シフトポジションセンサ10からの情報に基づいて現在のシフトポジションに対応した目標トルクを選択し、これを指示トルクとして出力する。
【0033】
したがって、Dレンジで走行中には、第2モータトルク設定部18で設定された目標トルクを選択して、これを指示トルクとして出力している。そして、ドライバが図示しないシフトレバーを操作してシフトポジションをDレンジからLレンジに選択すると、目標トルク選択手段24ではLレンジに対応した目標トルクを選択する。
このため、従来では、シフトポジションを切り替えると(t=t1)、図3に線cで示すようにインバータ7への指示トルクがDレンジの目標トルクからLレンジの目標トルクに不連続に変化してしまい、トルクショックが生じていた。
【0034】
一方、本装置によれば、目標トルク選択手段24で選択された目標トルクに対して一次遅れ処理を施すとともに、ゲイン変更部28のタイマをスタートさせてタイマのカウンタに応じてゲインkを変更し、ゲインkを初期値0から1に向けて徐々に変更していくので、最終的に出力される指示トルクとして図3の線aに示すような特性を得ることができる。
すなわち、まず一次処理遅れを施すことで、指示トルクをDレンジの目標トルクからLレンジの目標トルクに連続的に変化させることができ、トルクショックを抑制することができる。さらに、本実施形態においては、ゲインkを時間に応じて徐々に1に近づけるように変化させることにより、シフトポジションの切り替え直後は緩やかに指示トルクを変更させながら、その後速やかに指示トルクをシフトポジション切り替え後の目標トルクに収束させることができる利点がある。
【0035】
ここで、図3の線bはゲインk=一定(例えばk=0.5)としたときの特性を示している。図示するように、シフトポジション切り替え直後においては、線aで示すゲイン可変の特性のほうが緩やかに指示トルクが変化しているが、その後指示トルクは速やかにDレンジの目標トルクに収束している。このため、線bで示す特性に対し、線aで示す特性のほうが早期にLレンジでの目標トルクに収束する(t=t2,t3参照)。
【0036】
以上のように、本実施形態に係るモータトルク制御装置によれば、シフトポジションの切り替えが検出されると、切り替え後のシフトポジションでの目標トルクに対して一次遅れ処理を行って最終的な指示トルクとして出力するので、切り替え前後での目標トルクを連続的に変化させることができるという利点がある。
これにより、指示トルクの不連続な急変化を抑制できトルクショックを抑制することができるようになる。特に、車両停止時にアクセルペダルを踏み込んだ状態でNレンジからDレンジにシフトポジションを変更した場合に、違和感なく速やかに発進することができるようになるという利点があるほか、車両走行中にDレンジからLレンジに変更した場合にも、指示トルクの急変を防止してショックを抑制することができるという利点がある。
【0037】
また、同様にRレンジとDレンジとの間での切り替えの際にも不快なトルクショックを抑制することができる利点がある
また、シフトポジション切り替え後は、ゲインkを漸増させることより、シフトポジションの切り替え直後においては比較的緩やかに指示トルクを変更させながら、その後速やかに指示トルクをシフトポジション切り替え後の目標トルクに収束させることができるという利点がある。
【0038】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。例えば上述の実施形態では本装置を電気自動車に適用した場合について説明したが、本装置をハイブリッド式電気自動車に適用しても良い。
また、本実施形態では車両のシフトポジションとして、P,R,N,D,Lの各ポジションを備えているが、シフトポジションについてもこのようなものには限定されず、少なくとも2つのシフトポジションを有していれば良い。
また、本実施形態ではシフトポジション選択手段としてシフトレバーを適用した場合について説明したが、シフトポジション選択手段としては、このようなシフトレバーに限定されるものではなく、ボタン式のシフトスイッチやパドル式のシフトスイッチ等、種々の手段を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係るモータトルク制御装置が適用される車両を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るモータトルク制御装置の要部構成を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るモータトルク制御装置の作用を説明するタイムチャートである。
【図4】従来技術の一例について説明するための図である。
【符号の説明】
【0040】
1 電気自動車(車両)
2 駆動源としてのモータ
10 シフトポジションセンサ
12 アクセル開度センサ(アクセルポジションセンサ)
15 目標トルク設定手段
24 目標トルク選択手段
26 目標トルク補正手段
28 ゲイン変更部(ゲイン変更手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された駆動源としてのモータの出力トルクを制御するモータトルク制御装置であって、
該車両の複数のシフトポジションのうち現在選択されているシフトポジションを検出するシフトポジションセンサと、
該車両のアクセル操作量を検出するアクセルポジションセンサと、
該アクセルポジションセンサから得られたアクセル操作量に基づいて各シフトポジション毎の目標トルクをそれぞれ設定する目標トルク設定手段と、
該シフトポジションセンサからの情報に基づいて現在のシフトポジションに対応した目標トルクを目標トルク設定手段から選択する目標トルク選択手段と、
該シフトポジションセンサからの情報に基づいて該車両の走行レンジに対応するシフトポジションへの切り替えが検出されると、該目標トルク選択手段で新たに選択された目標トルクに対して所定のゲインで一次遅れ処理を行い最終的な指示トルクとして出力する目標トルク補正手段とを備えた
ことを特徴とする、モータトルク制御装置。
【請求項2】
該シフトポジション切り替え後の目標トルクをT、該ゲインをk、前回の制御周期で出力された指示トルクをTn-1 、今回の制御周期における指示トルクをTn とすると、該目標トルク補正手段は、下式
n =T・k+Tn-1 ・(1−k)
により指示トルクを周期的に求める
ことを特徴とする、請求項1記載のモータトルク制御装置。
【請求項3】
該ゲインを該シフトポジション切り替え後の経過時間に伴い漸増させるゲイン変更手段を有する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のモータトルク制御装置。
【請求項4】
該ゲイン変更手段は、該シフトポジション切り替え時における該ゲインの初期値を0とするとともに、所定時間後に該ゲインを1まで徐々に増大させ、その後該ゲインを1に保持する
ことを特徴とする、請求項3記載のモータトルク制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−77585(P2009−77585A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245681(P2007−245681)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】