説明

交流電動機の制御装置

【課題】パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音の官能上の感度を低減する。
【解決手段】ECU3は、モータの回転に伴って発生する雑音の周波数成分であり、且つ、その周波数がモータの回転数整数倍である高調波の周波数成分のうち、振幅が最大である高調波の周波数を求める周波数算出部35と、パルス幅過変調制御方式による制御を実施するときのキャリア周波数を、周波数算出部35によって求められた高調波の周波数に設定する周波数設定部36と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正弦波パルス幅変調方式よりも基本波成分の振幅を大きくするパルス幅過変調制御方式による制御が実施可能に構成された交流電動機の制御装置に関する。特に、車両に搭載される交流電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)インバータ装置等の交流電動機の制御装置において、キャリア周波数に基づく騒音を削減する種々の装置、方法が提案されている。
【0003】
例えば、PWMパルスの周波数を決めるキャリア周波数を周期的、又は、ランダムに変動させるPWMインバータ装置が開示されている(特許文献1参照)。このPWMインバータ装置によれば、キャリア周波数に起因する特定の周波数成分を分散化することで聴感上の騒音を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−20320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のPWMインバータ装置では、ハイブリッド車等の車両に搭載される交流電動機の制御に用いられている正弦波パルス幅変調方式におけるキャリア周波数に起因する騒音を低減することはできるものの、その他の方式における雑音を低減することはできない。
【0006】
すなわち、ハイブリッド車等の車両に搭載される交流電動機の制御においては、正弦波パルス幅変調方式、パルス幅過変調制御方式、及び、矩形波電圧制御方式が、要求されるトルク及び回転数に応じて切り換えられて使用されている(特開2006−320039号公報、特開2010−166707号公報等参照)ため、上記特許文献1に記載のPWMインバータ装置では、パルス幅過変調制御方式、及び、矩形波電圧制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音を低減することはできないのである。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音の官能上の感度を低減することが可能な交流電動機の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る交流電動機の制御装置は、以下のように構成されている。
【0009】
すなわち、本発明に係る交流電動機の制御装置は、正弦波パルス幅変調方式よりも基本波成分の振幅を大きくするパルス幅過変調制御方式による制御が実施可能に構成された交流電動機の制御装置であって、前記交流電動機の回転に伴って発生する雑音の周波数成分であり、且つ、その周波数が前記交流電動機の回転数の整数倍である高調波の周波数成分のうち、振幅が最大である高調波の周波数を求める周波数算出手段と、前記パルス幅過変調制御方式による制御を実施するときのキャリア周波数を、前記周波数算出手段によって求められた高調波の周波数に設定する周波数設定手段と、を備えることを特徴としている。
【0010】
かかる構成を備える交流電動機の制御装置によれば、前記交流電動機の回転に伴って発生する雑音の周波数成分であり、且つ、その周波数が前記交流電動機の回転数の整数倍である高調波の周波数成分のうち、振幅が最大である高調波の周波数が求められ、求められた高調波の周波数に、前記パルス幅過変調制御方式による制御を実施するときのキャリア周波数が設定されるため、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音の官能上の感度を低減することができる。
【0011】
すなわち、前記交流電動機の回転に伴って発生する雑音は、当該交流電動機の回転数、回転子(ロータ)の極数、固定子(ステータ)のティース個数等によって、振幅が最大である高調波の周波数(次数)が決まる(図6参照)。したがって、振幅が最大となる候補の高調波の周波数(次数)を予め測定しておき、候補の高調波の中から、振幅が最大となる高調波を選定して、その周波数にキャリア周波数を設定することによって、キャリア周波数に起因する雑音が、前記交流電動機の回転に伴って発生する雑音と判別できなくなる(図8参照)ため、キャリア周波数に起因する雑音の官能上の感度を低減することができるのである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る交流電動機の制御装置によれば、前記交流電動機の回転に伴って発生する雑音の周波数成分であり、且つ、その周波数が前記交流電動機の回転数の整数倍である高調波の周波数成分のうち、振幅が最大である高調波の周波数を求められ、求められた高調波の周波数に、前記パルス幅過変調制御方式による制御を実施するときのキャリア周波数が設定されるため、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数に起因する雑音の官能上の感度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る交流電動機の制御装置が適用されるモータ駆動制御システムの一例を示す全体構成図である。
【図2】図1に示すモータ駆動制御システムにおける交流電動機の制御モードの一例を示す説明図である。
【図3】図2に示す制御モードと交流電動機の動作状態との関係、の一例を示すグラフである。
【図4】図1に示す制御装置の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図5】本発明に係る交流電動機の制御装置における機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図6】交流電動機の回転に伴って発生する雑音の高調波成分の一例を示すグラフである。
【図7】交流電動機の回転数とキャリア周波数に起因する雑音の周波数と、の関係の一例を示すグラフである。
【図8】本発明に係る交流電動機の制御装置による効果の一例を示すグラフである。
【図9】図5に示す交流電動機の制御装置における動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る「交流電動機の制御装置」の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
−モータ駆動制御システム−
まず、図1を参照して、本発明に係る「交流電動機の制御装置」が適用されるモータ駆動制御システムの全体構成について説明する。図1は、本発明に係る交流電動機の制御装置が適用されるモータ駆動制御システムの一例を示す全体構成図である。モータ駆動制御システム100は、直流電圧発生部1αと、平滑コンデンサC0と、インバータ13と、モータM1と、ECU3と、を備える。
【0016】
モータM1は、例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車等、電気エネルギによって走行用の駆動力を発生可能な車両において、その駆動輪を駆動するトルクを発生する交流電動機である。なお、モータM1は、電動機及び発電機の両方の機能を有するように構成されてもよい。ここで、モータM1は、特許請求の範囲の「交流電動機」に相当する。
【0017】
直流電圧発生部1αは、バッテリ11と、システムリレーSR1、SR2と、平滑コンデンサC1と、コンバータ12と、を備えている。バッテリ11は、例えば、リチウムイオン等の蓄電池で構成される。バッテリ11の電圧Vbおよびバッテリ11に対して入出力される電流Ibは、それぞれ、電圧センサ21及び電流センサ22によって検出される。また、システムリレーSR1は、バッテリ11の正極端子と電力線42との間に介設され、システムリレーSR2は、バッテリ11の負極端子と電力線41との間に介設されている。なお、システムリレーSR1、SR2は、ECU3からの信号SEによってオン、オフ制御される。
【0018】
コンバータ12は、リアクトルL1と、スイッチング素子Q1、Q2と、ダイオードD1、D2と、を備えている。スイッチング素子Q1、Q2は、電力線43と電力線41との間に直列に介設されている。また、スイッチング素子Q1、Q2のオン、オフは、それぞれ、ECU3からのスイッチング制御信号S1、S2によって制御される。
【0019】
なお、スイッチング素子Q1、Q2を構成する電力用半導体スイッチング素子としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等を用いることができる。ダイオードD1、D2は、それぞれ、スイッチング素子Q1、Q2と逆並列に接続されている。リアクトルL1は、スイッチング素子Q1、Q2の接続ノードと電力線42との間に介設される。平滑コンデンサC0は、電力線43と電力線41との間に介設されている。
【0020】
インバータ13は、電力線43と電力線41との間に、それぞれ、並列に設けられる、U相の上下アーム131と、V相の上下アーム132と、W相の上下アーム133と、を備えている。各相の上下アームは、電力線43と電力線41との間に直列に接続されたスイッチング素子から構成されている。例えば、U相の上下アーム131は、スイッチング素子Q3、Q4から構成され、V相の上下アーム132は、スイッチング素子Q5、Q6から構成され、W相の上下アーム133は、スイッチング素子Q7、Q8から構成されている。スイッチング素子Q3〜Q8には、それぞれ、ダイオードD3〜D8が逆並列に接続されている。また、スイッチング素子Q3〜Q8のオン、オフは、それぞれ、ECU3からのスイッチング制御信号S3〜S8によって制御される。
【0021】
モータM1は、例えば、3相の永久磁石型同期電動機であって、U相、V相、W相の3つのコイルの一端が中性点に共通に接続されて構成されている。そして、各相のコイルの他端は、それぞれ、各相上下アーム131〜133のスイッチング素子の中間点に接続されている。
【0022】
コンバータ12は、各スイッチング周期内でスイッチング素子Q1、Q2が相補的に、且つ、交互にオン、オフするべく制御される。コンバータ12は、昇圧動作時には、バッテリ11から供給される電圧Vbを電圧VH(インバータ13への入力電圧に相当する)へ昇圧する。この昇圧動作は、スイッチング素子Q2のオン期間においてリアクトルL1に蓄積される電磁エネルギを、スイッチング素子Q1及びダイオードD1を介して電力線43へ供給することによって行われる。
【0023】
また、コンバータ12は、降圧動作時には、電圧VHを電圧Vbに降圧する。この降圧動作は、スイッチング素子Q1のオン期間においてリアクトルL1に蓄積される電磁エネルギを、スイッチング素子Q2及びダイオードD2を介して電力線42へ供給することによって行われる。上記昇圧動作及び降圧動作における電圧変換比(電圧VHと電圧Vbとの比)は、上記スイッチング周期に対するスイッチング素子Q1、Q2のオン期間比(デューティ比)によって制御される。なお、スイッチング素子Q1、Q2を、それぞれ、オン及びオフに固定すれば、電圧VH=電圧Vb(電圧変換比=1.0)とすることもできる。
【0024】
平滑コンデンサC0は、コンバータ12からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をインバータ13へ供給するコンデンサである。電圧センサ23は、平滑コンデンサC0の両端の電圧、すなわちシステム電圧VHを検出し、その検出値をECU3へ出力するセンサである。
【0025】
インバータ13は、モータM1のトルク指令値Trqαが正(Trqα>0)の場合には、ECU3からのスイッチング制御信号S3〜S8に、それぞれ、応答したスイッチング素子Q3〜Q8のスイッチング動作によって直流電圧を交流電圧に変換して、正のトルクを出力するべくモータM1を駆動する。また、インバータ13は、モータM1のトルク指令値Trqαが「0」の場合(Trqα=0)には、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作によって直流電圧を交流電圧に変換し、トルクを「0」にするべくモータM1を駆動する。これによって、モータM1は、トルク指令値Trqαで指定された「0」、又は、正のトルクを発生するべく駆動される。
【0026】
更に、モータ駆動制御システム100が搭載された車両の回生制動時には、モータM1のトルク指令値Trqαが負に設定される(Trqα<0)。この場合には、インバータ13は、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作によって、モータM1が発電した交流電圧を直流電圧に変換して、その変換した直流電圧をコンバータ12へ供給する。ここで、「回生制動」とは、ハイブリッド車等の車両を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴う制動、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(又は、加速を停止)させることを含む。
【0027】
電流センサ24は、モータM1に流れるモータ電流を検出するセンサであって、その検出値をECU3へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は「0」であるので、電流センサ24は、2相分のモータ電流(例えば、V相電流iv及びW相電流iw)を検出するように配置すればよい。
【0028】
回転角センサ(レゾルバ)25は、モータM1のロータの回転角θを検出するセンサであって、その検出値をECU3へ出力する。ECU3は、回転角θに基づいてモータM1の回転数RT(回転速度)及び角速度ω(rad/s)を算出することができる。
【0029】
ECU(Electronic Control Unit)3は、モータ駆動制御システム100全体の動作を制御する電子制御装置であって、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、バックアップRAM等を備えている。
【0030】
ROMには、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるテーブル、マップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラム、マップ等に基づいて演算処理を実行する。また、RAMはCPUでの演算結果、各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMはイグニッションスイッチのOFF時などにおいて保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0031】
ECU3は、例えば、トルク指令値Trqα、電圧センサ21によって検出された電圧Vb、電流センサ22によって検出された電流Ib、電圧センサ23によって検出されたシステム電圧VH、電流センサ24からのモータ電流iv、iw、回転角センサ25からの回転角θ等に基づいて、後述する制御方式によって、モータM1がトルク指令値Trqαに従ったトルクを出力するように、コンバータ12及びインバータ13の動作を制御する。すなわち、ECU3は、コンバータ12及びインバータ13を制御するスイッチング制御信号S1〜S8を生成して、コンバータ12及びインバータ13へ出力する。
【0032】
−制御モード−
次に、ECU3によるモータM1の制御について詳しく説明する。図2は、図1に示すモータ駆動制御システム100におけるモータM1の制御モードの一例を示す説明図である。図2を参照して、モータ駆動制御システム100では、モータM1の制御、すなわちインバータ13における電力変換について、3つの制御を切り換えて使用する。
【0033】
正弦波PWM制御モードでは、正弦波状の電圧指令と搬送波(例えば、三角波)との電圧比較に従って、各相上下アーム素子のオン、オフが制御される。この結果、上アーム素子のオン期間に対応するハイレベル期間と、下アーム素子のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティが制御される。なお、正弦波状の電圧指令の振幅が搬送波振幅以下の範囲に制限されるこの正弦波PWM制御モードでは、モータM1への印加電圧(以下、「モータ印加電圧」ともいう)の基本波成分を入力電圧の約0.61倍までしか高めることができない。以下では、インバータ13の入力電圧(すなわち、システム電圧VH)に対するモータ印加電圧(線間電圧)の基本波成分(実効値)の比を「変調率」という。
【0034】
過変調PWM制御モードは、電圧指令(正弦波成分)の振幅が搬送波振幅より大きい範囲で上記正弦波PWM制御モードと同様のPWM制御を行うものである。特に、電圧指令を本来の正弦波波形から歪ませること(振幅補正)によって基本波成分を高めることができ、変調率を正弦波PWM制御モードでの最高変調率(0.61)から0.78の範囲まで高めることができる。なお、過変調PWM制御モードでは、電圧指令(正弦波成分)の振幅が搬送波振幅より大きいため、モータM1に印加される線間電圧は、正弦波ではなく歪んだ電圧となる。
【0035】
一方、矩形波電圧制御モードでは、上記一定期間内で、ハイレベル期間及びローレベル期間の比が1:1の矩形波1パルス分が交流電動機に印加される。これにより、矩形波電圧制御モードでは、変調率は0.78まで高められる。
【0036】
モータM1においては、回転数、出力トルクが増加すると誘起電圧が高くなるので、必要となる駆動電圧(モータ必要電圧)が高くなる。コンバータ12による昇圧電圧、すなわちシステム電圧VHは、このモータ必要電圧よりも高く設定する必要がある。一方、システム電圧VHには、限界値(VH最大電圧)が存在する。したがって、モータM1の動作状態に応じて、正弦波PWM制御モード又は過変調PWM制御モードによるPWM制御モードと、矩形波電圧制御モードとが選択的に適用される。なお、矩形波電圧制御モードでは、モータ印加電圧の振幅が固定されるので、トルク指令値に対するトルク偏差(トルク実績値(推定値)とトルク指令値との差)に基づく矩形波電圧パルスの位相制御によってトルク制御が実行される。
【0037】
−制御モードの切り換え−
図3は、図2に示す制御モードとモータM1の動作状態と、の関係の一例を示すグラフである。図3に示すように、低回転数域AR1では、トルク変動を小さくするために正弦波PWM制御モードが用いられ、中回転数域AR2では、過変調PWM制御モードが用いられ、高回転数域AR3では、矩形波電圧制御モードが適用される。
【0038】
例えば、モータM1に要求されるトルクTR0が一定であって、回転数が増加する要求がある場合には、図3に示すように、回転数RT1から回転数RT2の範囲で、過変調PWM制御モードが用いられることになる。
【0039】
図4は、図1に示す制御装置(ECU3)の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。図4に示すように、ECU3は、PWM制御部31と、矩形波電圧制御部32と、制御モード切換部33とを備えている。PWM制御部31は、正弦波PWM制御部311と、過変調PWM制御部312とを含む。
【0040】
正弦波PWM制御部311は、正弦波PWM制御モードを実行する機能部である。具体的には、正弦波PWM制御部311には、トルク指令値Trqαと、電流センサ24によって検出されるモータ電流iv,iwと、回転角センサ25によって検出される回転角θ、が入力される。そして、正弦波PWM制御部311は、これらの信号に基づいて、インバータ13に印加する電圧指令値Vdα,Vqαを電流フィードバック制御によって生成し、生成された電圧指令値Vdα,Vqαに基づいて、インバータ13を駆動するためのスイッチング制御信号S3〜S8を生成して制御モード切換部33へ出力する。
【0041】
過変調PWM制御部312は、過変調PWM制御モードを実行する機能部である。具体的には、過変調PWM制御部312も、正弦波PWM制御部311と同様の電流フィードバック制御によって、インバータ13を駆動するためのスイッチング制御信号S3〜S8を生成し、生成されたスイッチング制御信号S3〜S8を制御モード切換部33へ出力する。なお、過変調PWM制御部312には、正弦波PWM制御部311による正弦波PWM制御モードに電圧振幅の補正を行う機能が追加されており、電圧指令値の基本波成分を高めることができる。
【0042】
矩形波電圧制御部32は、矩形波電圧制御モードを実行する機能部である。具体的には、矩形波電圧制御部32には、トルク指令値Trqαと、モータ電流iv,iwと、回転角θと、が入力される。そして、矩形波電圧制御部32は、これらの信号に基づいて、インバータ13に印加する電圧の位相をトルクフィードバック制御によって設定し、その設定された電圧位相に基づいて、インバータ13を駆動するためのスイッチング制御信号S3〜S8を生成して制御モード切換部33へ出力する。また、矩形波電圧制御部32は、トルク指令値Trqαに対する実際のトルク(推定値)の差を示すトルク偏差ΔTrqを制御モード切換部33へ出力する。
【0043】
制御モード切換部33は、3つの制御モード(正弦波PWM制御モード、過変調PWM制御モード、矩形波電圧制御モード)を切り換える機能部である。具体的には、制御モード切換部33には、正弦波PWM制御部311から電圧指令値Vdα,Vqαが入力され、電圧センサ23(図1参照)からシステム電圧VHが入力される。そして、制御モード切換部33は、システム電圧VHと電圧指令値Vdα,Vqαとから算出される変調率に基づいて、PWM制御モードから矩形波電圧制御モードへの切り換えを行う。更に具体的には、制御モード切換部33は、変調率が0.78に達するとPWM制御モードから矩形波電圧制御モードへ切り換える。なお、制御モード切換部33は、変調率が0.61以下のときは、正弦波PWM制御モードを選択し、変調率が0.61を超えると、過変調PWM制御モードを選択する。したがって、制御モード切換部33は、変調率が0.78に達すると過変調PWM制御モードから矩形波電圧制御モードへ切り換える。
【0044】
一方、矩形波電圧制御モードでは変調率は0.78(一定)であるので、矩形波電圧制御モードからPWM制御モード(過変調PWM制御モード)への切り換えは、電流位相に基づいて行われる。すなわち、制御モード切換部33は、矩形波電圧制御部32からトルク偏差ΔTrqが入力され、モータ電流iv,iw及び回転角θが入力される。そして、制御モード切換部33は、これらの信号を用いて電流位相に基づいて矩形波電圧制御モードからPWM制御モード(過変調PWM制御モード)への切り換えを行う。
【0045】
−交流電動機の制御装置(ECU)の機能構成−
次に、図5を参照して本発明に係る「交流電動機の制御装置」の主要部の構成について説明する。図5は、本発明に係るモータM1の制御装置(ECU3)の機能構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0046】
図5に示すように、ECU3は、CPUがROM等に記憶された制御プログラムを読み出して実行することによって、機能的に、正弦波PWM制御部311、過変調PWM制御部312、矩形波電圧制御部32、制御モード切換部33、ノイズ記憶部34、周波数算出部35、周波数設定部36等の機能部として機能する。ここで、ノイズ記憶部34、周波数算出部35、及び、周波数設定部36は、本発明に係る「交流電動機の制御装置」を構成する。
【0047】
正弦波PWM制御部311、過変調PWM制御部312、矩形波電圧制御部32、及び、制御モード切換部33については、図4を用いて説明した通りである。また、正弦波PWM制御部311、過変調PWM制御部312、矩形波電圧制御部32、及び、制御モード切換部33は公知である(特開2010−166707号公報参照)ため、ここでは、これらの詳細な構成についての説明を省略する。
【0048】
ノイズ記憶部34は、モータM1の回転に伴って発生する雑音の周波数成分であって、且つ、その周波数がモータM1の回転数RTの整数倍である高調波の周波数成分を記憶するものである。ここで、ノイズ記憶部34は、特許請求の範囲の「周波数算出手段」の一部に相当する。
【0049】
例えば、モータM1の回転子(ロータ)の極数が8極であって、固定子(ステータ)に形成されたティースの個数が48個である場合には、モータM1が回転する際に発生する雑音は、モータM1の回転数RTの8倍、24倍、48倍の周波数の高調波(それぞれ、8次、24次、48次の高調波という)成分の振幅が他の周波数成分と比較して著しく大きくなる。よって、この場合には、図6に示すように、ノイズ記憶部34には、8次高調波の振幅、24次高調波の振幅、及び、48次高調波の振幅が、モータM1の回転数RTに対応するノイズ周波数(基本周波数)NMと対応付けてマップ(又は、テーブル)としてROM等に記憶されている。
【0050】
図6は、モータM1の回転に伴って発生する雑音の高調波成分の一例を示すグラフである。図6に示すグラフG31、G32、G33の横軸は、全て、モータM1の回転数RTに対応するノイズ周波数(基本周波数)NMである。図6(a)に示すグラフG31は、8次高調波の振幅のノイズ周波数(基本周波数)NMとの関係を示すグラフであって、図6(b)に示すグラフG32は、24次高調波の振幅のノイズ周波数(基本周波数)NMとの関係を示すグラフであって、図6(c)に示すグラフG33は、48次高調波の振幅のノイズ周波数(基本周波数)NMとの関係を示すグラフである。
【0051】
再び、図5に戻って、ECU3の機能構成について説明する。
【0052】
周波数算出部35は、モータM1の回転に伴って発生する雑音の周波数成分であり、且つ、その周波数がモータM1の回転数RTの整数倍である高調波の周波数成分のうち、振幅が最大である高調波の周波数を求める機能部である。ここで、周波数算出部35は、特許請求の範囲の「周波数算出手段」の一部に相当する。
【0053】
ここで、図6、図7を参照して、周波数算出部35の機能を具体的に説明する。図3を用いて述べたように、ここでは、モータM1の回転数RTが、回転数RT1から回転数RT2の範囲で過変調PWM制御が実行される場合について説明する。このように、モータM1の回転数RTが、回転数RT1から回転数RT2の範囲で過変調PWM制御が実行される場合には、基本回転数NMが、回転数RT1に対応する基本周波数N10と、回転数RT2に対応する基本周波数N20との間において、周波数算出部35によって、振幅が最大である高調波の周波数が求められることになる。
【0054】
また、図6を用いて説明したように、ここでは、モータM1の回転数RTの8倍、24倍、48倍の周波数の高調波(それぞれ、8次、24次、48次の高調波という)成分の振幅が他の周波数成分と比較して著しく大きくなるため、8次、24次、48次高調波の振幅のうち、最も振幅の大きい高調波の周波数が周波数算出部35によって求められることになる。したがって、ここでは、図6(b)に示す24次の高調波の周波数が周波数算出部35によって求められることになる。
【0055】
図7は、モータM1の回転数RTとキャリア周波数に起因する雑音の周波数と、の関係の一例を示すグラフである。図7の横軸は、キャリア周波数に起因する雑音の周波数であり、縦軸は、モータM1の回転数RTである。図3を用いて述べたように、ここでは、モータM1の回転数RTが、回転数RT1以下の範囲においては、正弦波PWM制御が実行される。グラフG1は、正弦波PWM制御が実行されるときにおける、モータM1の回転数RTとキャリア周波数に起因する雑音の周波数との関係を示すグラフである(特開2010−132141号公報参照)。
【0056】
グラフG21は、過変調PWM制御が実行されるときにおいて、キャリア周波数FCが、基本周波数NMの8次高調波の周波数(=8×NM)に設定された場合の、モータM1の回転数RTとキャリア周波数FCに起因する雑音の周波数との関係を示すグラフである。グラフG22は、過変調PWM制御が実行されるときにおいて、キャリア周波数FCが、基本周波数NMの24次高調波の周波数(=24×NM)に設定された場合の、モータM1の回転数RTとキャリア周波数FCに起因する雑音の周波数との関係を示すグラフである。グラフG23は、過変調PWM制御が実行されるときにおいて、キャリア周波数FCが、基本周波数NMの48次高調波の周波数(=48×NM)に設定された場合の、モータM1の回転数RTとキャリア周波数に起因する雑音の周波数との関係を示すグラフである。
【0057】
図3を用いて述べたように、モータM1の回転数RTが、回転数RT1から回転数RT2の範囲で過変調PWM制御が実行されるため、図7に示すように、キャリア周波数FCが、基本周波数NMの8次高調波の周波数(=8×NM)に設定された場合には、キャリア周波数FCに起因する雑音は、周波数N11から周波数N21の範囲の周波数となる。また、キャリア周波数FCが、基本周波数NMの24次高調波の周波数(=24×NM)に設定された場合には、キャリア周波数FCに起因する雑音は、周波数N12から周波数N22の範囲の周波数となる。更に、キャリア周波数FCが、基本周波数NMの48次高調波の周波数(=48×NM)に設定された場合には、キャリア周波数FCに起因する雑音は、周波数N13から周波数N23の範囲の周波数となる。
【0058】
再び、図5に戻って、ECU3の機能構成について説明する。
【0059】
周波数設定部36は、パルス幅過変調制御方式による制御を実施するときのキャリア周波数FCを、周波数算出部35によって求められた高調波の周波数に設定する機能部である。ここで、周波数設定部36は、特許請求の範囲における「周波数設定手段」に相当する。
【0060】
図6を用いて説明したように、ここでは、モータM1の回転数RTの24倍である24次高調波の周波数(=24×NM)が周波数算出部35によって求められるため、周波数設定部36は、パルス幅過変調制御を実行するときのキャリア周波数FCを24次高調波の周波数(=24×NM)に設定する。この場合には、図7において、グラフG22に沿って、キャリア周波数FCが設定されることになるので、キャリア周波数FCに起因する雑音は、周波数N12から周波数N22の範囲の周波数となる。
【0061】
図8は、本発明に係るモータM1の制御装置(ECU3)の効果の一例を示すグラフである。図の横軸は、ノイズ周波数であり、縦軸は、ノイズの振幅である。グラフG4は、モータM1の回転に伴う雑音であり、グラフG5は、パルス幅過変調制御方式による制御を実施するときのキャリア周波数FCに起因する雑音である。図7を用いて説明したように、ここでは、パルス幅過変調制御方式による制御を実施するときのキャリア周波数FCに起因する雑音は、周波数N12から周波数N22の範囲の周波数となる。
【0062】
また、パルス幅過変調制御を実行するときのキャリア周波数FCが、モータM1の回転に伴って発生する雑音の周波数成分であり、且つ、その周波数がモータM1の回転数RTの整数倍である高調波の周波数成分のうち、振幅が最大である高調波の周波数(ここでは、24次高調波の周波数)に設定されるため、図8のグラフG5で示すキャリア周波数FCに起因する雑音が、図8のグラフG4で示すモータM1の回転に伴って発生する雑音と判別できなくなる(図8のグラフG4で示すモータM1の回転に伴って発生する雑音のほうが、図8のグラフG5で示すキャリア周波数FCに起因する雑音よりも振幅が大きくなる)ため、キャリア周波数FCに起因する雑音の官能上の感度を低減することができる。
【0063】
−ECUの動作−
次に、図9を参照して、ECU3の動作を説明する。図9は、図5に示すモータM1の制御装置(ECU3)の動作の一例を示すフローチャートである。図9に示すように、まず、周波数設定部36によって、制御モード切換部33でパルス幅過変調制御方式による制御を実施するべく切り換えられているか否かの判定が行われる(ステップS101)。ステップS101でNOの場合には、処理が待機状態とされる。ステップS101でYESの場合には、処理がステップS103へ進められる。
【0064】
そして、周波数算出部35によって、回転角センサ(レゾルバ)25(図1参照)を介してモータM1の回転数NMが取得される(ステップS103)。次いで、周波数算出部35によって、モータM1の回転に伴って発生する雑音の周波数成分であり、且つ、その周波数がモータM1の回転数NMの整数倍である高調波の周波数成分のうち、最も振幅の大きい高調波の次数nが求められる(ステップS105)。そして、周波数設定部36によって、パルス幅過変調制御を実行するときのキャリア周波数FCが、ステップS105で求められた次数nに対応する周波数(=NM×n)に設定される(ステップS107)。そして処理がステップS101に戻され、ステップS101以降の処理が繰り返し実行される。
【0065】
このようにして、モータM1の回転に伴って発生する雑音の周波数成分であり、且つ、その周波数がモータM1の回転数の整数倍である高調波の周波数成分のうち、振幅が最大である高調波の周波数が求められ、求められた高調波の周波数に、パルス幅過変調制御方式による制御を実施するときのキャリア周波数FCが設定されるため、パルス幅過変調制御方式を使用するときのキャリア周波数FCに起因する雑音の官能上の感度を低減することができる。
【0066】
すなわち、モータM1の回転に伴って発生する雑音は、モータM1の回転数NM、回転子(ロータ)の極数、固定子(ステータ)のティース個数等によって、振幅が最大である高調波の周波数(次数)が決まる(図6参照)。したがって、振幅が最大となる候補の高調波の周波数(次数)n(ここでは、次数n=8、24、48)を予め測定しておき、候補の高調波の中から、振幅が最大となる高調波(ここでは、次数n=24)を選定して、その周波数(=NM×n)にキャリア周波数FCを設定することによって、キャリア周波数FCに起因する雑音が、モータM1の回転に伴って発生する雑音と判別できなくなる(図8参照)ため、キャリア周波数FCに起因する雑音の官能上の感度を低減することができるのである。
【0067】
−他の実施形態−
本実施形態では、「交流電動機の制御装置」を構成するノイズ記憶部34、周波数算出部35、及び、周波数設定部36が機能部として構成されている場合について説明するが、ノイズ記憶部34、周波数算出部35、及び、周波数設定部36の少なくとも1つが電子回路等のハードウェアから構成されている形態でもよい。
【0068】
本実施形態では、正弦波PWM制御、過変調PWM制御、及び、矩形波電圧制御を切り換える場合について説明するが、正弦波PWM制御、及び、過変調PWM制御を切り換える形態でもよいし、過変調PWM制御、及び、矩形波電圧制御を切り換える形態でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、正弦波パルス幅変調方式よりも基本波成分の振幅を大きくするパルス幅過変調制御方式による制御が実施可能に構成された交流電動機の制御装置に利用することができる。特に、車両に搭載される交流電動機の制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
100 モータ駆動制御システム
1α 直流電圧発生部
11 バッテリ
12 コンバータ
13 インバータ
21 電圧センサ
22 電流センサ
23 電圧センサ
24 電流センサ
25 回転角センサ
3 ECU(交流電動機の制御装置)
31 PWM制御部
311 正弦波PWM制御部
312 過変調PWM制御部
32 矩形波電圧制御部
33 制御モード切換部
34 ノイズ記憶部(周波数算出手段の一部)
35 周波数算出部(周波数算出手段の一部)
36 周波数設定部(周波数設定手段)
M1 モータ(交流電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正弦波パルス幅変調方式よりも基本波成分の振幅を大きくするパルス幅過変調制御方式による制御が実施可能に構成された交流電動機の制御装置であって、
前記交流電動機の回転に伴って発生する雑音の周波数成分であり、且つ、その周波数が前記交流電動機の回転数の整数倍である高調波の周波数成分のうち、振幅が最大である高調波の周波数を求める周波数算出手段と、
前記パルス幅過変調制御方式による制御を実施するときのキャリア周波数を、前記周波数算出手段によって求められた高調波の周波数に設定する周波数設定手段と、を備えることを特徴とする交流電動機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−102636(P2013−102636A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245385(P2011−245385)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】