説明

作業ロボット

【課題】人との接触防止を確実にするとともに、壁際ギリギリまでの作業を可能にし、作業性能の向上を実現する作業ロボットを提供する。
【解決手段】障害物までの距離を測定する距離測定手段と、障害物が移動物体か静止物体かを判別する判別手段と、走行を停止すべき障害物までの距離の閾値Dxを算出する閾値算出手段と、前記距離測定手段により測定された距離計測値Mi が前記閾値Dxに達した時に走行を停止させる走行制御手段と、を備え、前記閾値算出手段は前記判別手段による判別の結果に基づいて、障害物が移動物体であると判別された場合に前記閾値Dxを減少させ、一方、障害物が静止物体であると判別された場合に前記閾値Dxを増大させて、前記閾値Dxを算出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床面上を移動する機能を備えた作業ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人が存在する空間内で走行を行う作業ロボットとしては、下記の特許文献1〜5が提案されている。
【特許文献1】特開昭59−77517(要約書)
【特許文献2】特開平1−106205(要約書)
【特許文献3】特開昭58−24910(要約書)
【特許文献4】特開平7−248824(要約書)
【特許文献5】特開平9−185412(要約書)
【0003】
特許文献1のロボットは、非接触式の障害物感知センサーを、左右方向に複数の感知エリアA1〜A3に分けて検出するように、車体の左右方向に複数並設し、所定時間間隔ごとに障害物を計測し、A1〜A3の障害物検出の有無の変化に基づいて、障害物が静止物体か移動物体かを判別し、静止物体の場合には回避指令を、移動物体の場合には停止指令を走行手段に出力する。
【0004】
特許文献2のロボットは、本体から周囲の障害物までの距離を所定時間毎に計測し、障害物を検知して本体が停止した後、所定時間おきに障害物の位置と幅を算出し、同一の算出結果が連続して得られた場合は障害物が静止していると認識して障害物を回避し、同一の算出結果が得られない時には障害物が移動していると認識して、進行方向に障害物を検出しなくなるまで待機させた後、本体を走行させる。
【0005】
特許文献3のロボットは、水平方向首振り超音波センサーを用いて、障害物が静止物体か移動物体であるかの識別を行い、固定物の場合には迂回して運行を続け、移動物の場合には一旦停止して、移動物が通過してから運行を継続する。
【0006】
特許文献4のロボットは、 人体を検出できる1次元アレイ赤外線センサと、人体以外の物体を検知できる超音波センサーとを備え、両方のセンサーの信号から、物体と人体とを区別して検知し、人体を検知した場合、搬送装置の移動を中止し、人体に対して警告を発する。
【0007】
特許文献5のロボットは、障害物までの距離を検出する距離センサーと、人体から放射される赤外線を検出可能な赤外線センサーを有し、距離センサーが障害物を検出した時に、赤外線センサーでその障害物が人体かどうかを判断し、人体の場合は、停止し、一定時間待機するとともに、一定時間を経過してもなお障害物が存在する場合には回避動作に移り、障害物が無くなれば走行を再開する。また、障害物が人であった場合には、前方からの移動を促すメッセージを表示、または発音したり、回避方向を表示もしくは発音する。
【発明の開示】
【0008】
人が存在する空間内で走行を行いながら、清掃などの作業を行うロボットでは、障害物として、壁や柱などの静止障害物と、人などの移動障害物とが存在する。
このようなロボットでは、非接触障害物検知センサーによって障害物を検知し、ロボットが障害物に接触しないように、障害物との間に所定の間隔(以降、停止間隔とする)を空けて停止するように走行制御を行う。
【0009】
清掃などの床面作業においては、障害物が壁や柱などの静止障害物の場合は、壁際ギリギリまで隈なく作業するために、停止間隔は短くする必要がある。一方、人などの移動障害物に対しては、障害物が移動するため、接触防止のためには、停止間隔を長くする必要がある。
また、障害物検知センサーは、床面上の小さな凹凸に対する誤検出を防止するために、検知領域を床面より少し上に設定することが多い。この場合、移動障害物が人の場合には、障害物検知センサーがスネより上が検知対象となり、スネに対して飛び出している足のつま先がロボットに接触しやすいという問題があった。
【0010】
従来の、走行ロボットにおいても、移動障害物と静止障害物を識別する機能を持ったものはある。しかし、その識別結果は、走行停止後の走行パターンの選択(すぐに回避行動に移るか、障害物が無くなるまで待機するかなど)に用いられているのみで、停止間隔を制御する目的で使用されているものは無く、壁際ギリギリの作業ができなかったり、人に接触しやすかったりという問題は解決されていなかった。
【0011】
したがって本発明の目的は、人との接触防止を確実にするとともに、壁際ギリギリまでの作業を可能にすることで、作業品質の向上を実現する作業ロボットを提供するものである。
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、床面上を移動する移動手段を有する作業ロボットにおいて、障害物までの距離を測定する距離測定手段と、障害物が移動物体か静止物体かを判別する判別手段と、走行を停止すべき障害物までの距離の閾値Dxを算出する閾値算出手段と、前記距離測定手段により測定された距離計測値Mi が前記閾値Dxに達した時に走行を停止させる走行制御手段と、を備え、前記閾値算出手段は前記判別手段による判別の結果に基づいて、障害物が移動物体であると判別された場合(移動物体とおぼしき場合)に前記閾値Dxを増大させ、一方、障害物が静止物体であると判別された場合(静止物体とおぼしき場合)に前記閾値Dxを減少させて、前記閾値Dxを算出することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、障害物の種別の判別結果に基づき、障害物が人間などの移動物体であると判別された場合には閾値Dxを増大させて、余裕のある距離で停止させることにより、人への接触防止を図っている。そのため、人のつま先などが本作業ロボットに接触するのを確実に防止することができる。
一方、障害物が静止物体であると判別された場合には、前記閾値Dxを減少させて、壁際ギリギリまでの作業を可能としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において、前記距離測定手段は、走行中に所定間隔毎に、障害物までの距離を繰り返し測定し、前記判別手段は走行中に前記所定間隔毎に、前記判別を繰り返し行い、前記閾値算出手段は前記距離測定手段による距離の測定および前記判別手段による判別を行う毎に前記閾値Dxの更新演算を行うのが好ましい。
この態様によれば、所定間隔毎に、判別を繰り返し行うことにより、走行を停止すべき障害物までの距離の閾値Dxをきめ細かく、かつ、リアルタイムに算出することができる。
【0015】
本発明において、前記閾値算出手段は、今回までの距離計測値M1 〜Mi の変化に基づいて、前記閾値Dxを算出するのが好ましい。
この態様によれば、今回までの距離計測値M1 〜Mi の変化に応じて前記閾値Dxを算出することにより、障害物の実体に応じた適切な閾値Dxを算出することができる。
【0016】
本発明において、過去の距離計測値M1 〜Mi-1 のうち最小値MH を記憶する記憶手段を更に備え、前記最小値MH に所定値Aを加算した値MH +Aよりも、最新の距離計測値Mi が大きい場合に、前記閾値算出手段が前記閾値Dxを1段階Δu増大させるのが好ましい。
この態様によれば、障害物の実体を正確に把握し得ると共に、当該移動物体との距離を十分にとることができる。また、計測誤差である所定値A以下の変化を排除することにより、閾値Dxの値を正確に算出することができる。
【0017】
本発明において、前記最小値MH に所定値Aを加算した値MH +Aよりも、最新の距離計測値Mi が小さい場合には、前記閾値算出手段が前記閾値Dxを1段階Δd減少させるのが好ましい。
この態様によれば、移動物体が本作業ロボットの前方を横切った場合など、移動物体が去った後、静止物体にロボットを接近させることができる。
【0018】
本発明において、前記閾値Dxには予め上限値Dmax および下限値Dmin が設定されているのが好ましい。
この態様によれば、本作業ロボットが障害物に近づき過ぎたり、不必要に遠方で停止するのを防止することができる。
【0019】
実施例1:
以下、本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
図1に示すように、本作業ロボットは、床面上を自走するための駆動輪6a,6bを有する走行アセンブリ1と、床面に対する作業を行う作業アセンブリ2(図2)とを備えている。本作業車は、作業アセンブリ2を交換することにより、床面に対して種々の作業を行うことが可能であ。
【0020】
走行アセンブリ1:
図1A,Bに示すように、走行アセンブリ1は、該走行アセンブリ1の走行を行うための1対の駆動輪6a,6bと、走行アセンブリ1のバランスをとるための補助輪9a,9bとを備えている。前記駆動輪6a,6bは、それぞれ、駆動モータ5a,5bによって駆動される。駆動モータ5a,5bは正逆回転可能で、たとえば、マイコンからなる制御手段8によって制御される。
【0021】
直進走行時には、前記2つの駆動モータ5a,5bが同方向に回転することで、走行アセンブリ1は前進または後退することができる。旋回動作を行う際には、前記2つの駆動モータ5a,5bがそれぞれ逆方向に回転することにより旋回することができる。前記2つの駆動モータ5a,5bの回転の比率を制御することで、走行アセンブリ1はカーブ走行を行うこともできる。したがって、駆動モータ5a,5bおよび駆動輪6a,6bは移動手段を構成している。
【0022】
作業アセンブリ2:
図2に示すように、走行アセンブリ1の後部には、たとえば、床面の清掃を行ったり、あるいは、床面への液剤の塗布等を行う作業アセンブリ2が取り付けられる。なお、作業アセンブリ2は、種々の作業に応じて取り替えられる。
【0023】
図1Aに示すように、前記走行アセンブリ1の前部には、複数の超音波式センサ3と、複数の光学式センサ17とが設けられている。これら複数のセンサのうち、2つの超音波センサ3は、走行アセンブリ1の左右にある障害物までの距離信号を制御手段8に送信する。一方、残りの超音波式センサ3および光学式センサ17は、走行アセンブリ1の前方にある障害物までの距離信号を制御手段8に送信する。前記超音波式センサ3および光学式センサ17は、各々、前記走行アセンブリ1の幅方向Xに互いに離間して設けられている。
【0024】
なお、走行アセンブリ1の前部外縁部には、障害物との接触を検知するためのバンパーセンサ10が設けられている。また、前記回転中心Oの近傍には、該回転中心Oのまわりの走行アセンブリ1の回転角度(方位)を測定するジャイロセンサ(方位センサ)7が設けられている。
【0025】
なお、本作業ロボットのより詳しい機器構成については、たとえば、特開2003−10088の液体塗布走行装置を採用することができる。
【0026】
制御手段8:
図3に示すように、走行アセンブリ1に設けられた前記制御手段8は、CPU(演算手段)30およびメモリ40を備えている。制御手段8には、超音波センサ3、バンパーセンサ10および光学式センサ17が、図示しないインターフェイスを介して接続されている。
【0027】
CPU30には、距離測定手段31、判別手段32、閾値算出手段33、走行制御手段34およびセンサ制御手段35などが設けられている。
前記CPU30は、該CPU30に接続された各機器からの情報に対応して、メモリ40に格納されているプログラムや閾値等を随時読み出し、走行制御手段34を制御すると共に、作業アセンブリ2に対して種々の作業を行わせる。
【0028】
距離測定手段31は、前方の障害物を検出する超音波式センサ3や光学式センサ17からの距離信号に基づき、当該前方の障害物までの距離を演算して測定する。距離測定手段31は、本ロボットの走行中に、たとえば所定時間毎(たとえば一定の微小時間ごと)に繰り返し障害物までの距離の測定を行う。
【0029】
判別手段32は、障害物が移動物体か静止物体かの判別を前記所定間隔毎に行う。
閾値算出手段33は、走行を停止すべき障害物までの距離の閾値Dxを算出する。閾値算出手段33は、後述するように、距離測定手段31による距離の測定および判別手段32による判別を行う毎に、前記閾値Dxの更新演算を行う。閾値算出手段33は、今回までの距離計測値M1 〜Mの変化に基づいて前記閾値Dxを算出する。
【0030】
走行制御手段34は、走行アセンブリ1の駆動モータ5a,5b(図1A)の制御を行い、駆動モータ5a,5bを駆動させて本ロボットの走行を行わせる。一方、走行制御手段34は、距離測定手段31により測定された距離計測値Mi が前記閾値Dxに達した時等に、駆動モータ5a,5bを停止させ、本ロボットの走行を停止させる。
【0031】
メモリ40には、ホールド値記憶部41および閾値記憶部42等の記憶部が設けられている。
ホールド値記憶部41には、距離測定手段31により測定された過去の距離計測値M1 〜Mi-1 に基づくホールド値(最小値)MH が記憶される。
閾値記憶部42には、上限値Dmax および下限値Dmin が予め記憶されている。
なお、現在の(更新された)閾値Dxは、前記メモリ40の閾値記憶部42に記憶させてもよいし、CPU30の一時的な記憶部に記憶させてもよい。
【0032】
走行動作の説明:
図4は、ロボットが進行方向の障害物に近づく時の、超音波センサ3からの距離信号に基づき、距離測定手段31が測定した距離計測値の時間変化の一例を示したグラフである。
図4の折れ線グラフに示すように、前方の障害物が壁などの静止物体の場合(図5A)には、ロボットが障害物に近づくにつれて、前方障害物距離センサーの計測値は単調に(概ね一定の割合で)減少する。
【0033】
一方、障害物が人などの移動物体であった場合(図5B)には、超音波センサ3の計測値は、図4の丸印を結んだ折れ線グラフに示すように、ばらつきながら減少しつつ、直前の計測値に対して大きな値をとることもある。超音波距離センサーの計測値がばらつく原因としては、以下の事柄が考えられる。
【0034】
すなわち、人が移動することにより、本作業ロボットと人(障害物)との距離が変化することや、衣服などにより超音波が減衰され、衣服の細かな動きによって反射波の強度が変化することなどが原因と考えられる。また、図5Bに示すように、足や靴など、障害物の形状が複雑であり、ロボットの走行と、人の細かな動きにより、超音波が人に当たる位置が微妙に変化し、反射波の強度が変化することも考えられる。
【0035】
閾値Dxの算出方法:
停止間隔値Dxつまり閾値Dxを算出する方法の一例について、図6Aのグラフを用いて説明する。まず、閾値Dxの算出方法の概念について説明する。
【0036】
1.走行開始時に、ホールド値MH を距離計測範囲の最大値(初期値)に設定し、閾値Dxを、予め設定された下限値Dmin (この例では10cm)に設定する。閾値算出手段33は、以下に説明するように、距離計測値M1 〜Mi の変化に基づいて閾値Dxを算出する。本ロボットの走行の結果、今回の距離計測値Mi が閾値Dxに達すると、CPU30は走行制御手段34に本ロボットの走行を停止させる。
【0037】
2.ここで、走行中に最新の距離計測値Mi が、二点鎖線で示す警戒距離Cd(この例では2m)以下であり、かつ、前記ホールド値MH よりも小さい値の時には、当該最新の距離計測値Mi を新たなホールド値MH としてホールド値記憶部41に記憶させる。前記ホールド値MH の変化を、図6Aのグラフの破線で示す。
【0038】
3.最新の距離計測値Mi が、ホールド値MH よりも、所定値(計測誤差範囲)Aを越えて大きい時は、前述のように、障害物が人などの移動物体である可能性が高い。判別手段32は、最新の距離計測値Mi が、ホールド値MH に所定値Aを加えた値(以下、「誤差加算値」という)MH +Aよりも大きい場合には、障害物が移動物体であると判別する。かかる場合には、閾値算出手段33は、図6Aの実線のグラフに示すように、判別の度ごとに、閾値Dxを1段階Δu増加させる。なお、図6Aに示すグラフでは、所定値Aの値を3cm、増加させる1段階Δuの値を5cmに設定している。
【0039】
4.最新の距離計測値Mi が、誤差加算値MH +Aよりも大きくない場合には、静止物体の可能性が高い。判別手段32は、最新の距離計測値Mi が誤差加算値MH +A以下の場合には、障害物が静止物体等であると判別する。かかる場合には、閾値算出手段33は、判別の度ごとに閾値Dxを1段階Δd(この例では0.5cm)減少させる。
なお、移動物体の場合の距離測定値のばらつきを利用して閾値Dxを増加させるのであるから、閾値Dxを減少させる1段階Δdは、閾値Dxを増加させる場合の1段階Δuよりも小さく設定するのが好ましい。減少させる1段階Δdが、増加させる1段階Δuよりも大きいと、閾値Dxの減少が早く、その結果、閾値Dxが十分な大きさにならなくなるのを防止するためである。
【0040】
5.閾値Dxが、予め設定された上限値Dmax (この例では30cm)よりも大きい場合は、ホールド値MH を初期値に戻す。
【0041】
移動物体を検出した場合:
つぎに、人(移動物体)を検出した場合の距離計測値Mi と閾値Dxとの関係について、図6Aに基づいて具体的に説明する。
距離計測値M1 〜M4 :距離計測値M1 〜M4 は、警戒距離Cdよりも大きいため、破線で示すホールド値MH は初期値のままである。また、閾値Dxも初期値である下限値Dmin に設定されたままである。
距離計測値M5 :警戒距離Cd以下であり、かつ、ホールド値MH よりも小さい値であるので、当該距離計測値M5 を新たなホールド値MH としてホールド値記憶部41に記憶させる。なお、閾値Dxは、依然、下限値Dmin のままである。
【0042】
距離計測値M6 〜M8 :誤差加算値MH +Aよりも大きいので、閾値Dxを1段階Δuづつ増加させる。一方、ホールド値MH は変化しない。
距離計測値M9 〜M10:誤差加算値MH +A以下なので、閾値Dxを1段階Δdだけ減少させる。距離計測値M10は警戒距離Cd以下であり、かつ、ホールド値MH よりも小さい値なので、距離計測値M10を新たなホールド値MH としてホールド値記憶部41に記憶させる。
【0043】
距離計測値M11:誤差加算値MH +Aよりも大きいので、閾値Dxを1段階Δu増加させる。その結果、閾値Dxが上限値Dmax を越えて大きくなったので、ホールド値MH を初期値に戻す。
距離計測値M12〜M15:警戒距離Cd以下であり、かつ、ホールド値MH よりも小さい値であるので、当該距離計測値M12〜M14を新たなホールド値MH としてホールド値記憶部41に記憶させる。一方、誤差加算値MH +A以下なので、閾値Dxを1段階Δdづつ減少させる。
【0044】
距離計測値M16:誤差加算値MH +Aよりも大きいので、閾値Dxを1段階Δu増加させた結果、閾値Dxが上限値Dmax を越えて大きくなったので、ホールド値MH を初期値に戻す。
【0045】
距離計測値M17〜M20:誤差加算値MH +A以下なので、閾値Dxを1段階Δdづつ減少させる。一方、減少後の閾値Dxが、依然、上限値Dmax を越えて大きいので、ホールド値MH を初期値のまま下げない。
距離計測値M21:距離計測値M21が閾値Dxに達したので、本作業ロボットの走行を停止させる。
【0046】
人が近くを横切った場合:
つぎに、人が警戒距離Cd以下の近くを横切った場合における距離計測値Mi と閾値Dxの関係について、図6Bを用いて説明する。
図6Bは、壁に向かってロボットが走行中に、壁とロボットの間を、人が横切った場合(M34〜M38)の例を示している。人が横切った期間で、閾値Dxは一旦、増加するが、人がいなくなれば、前述の算出ルール4、5により、閾値Dxは減少し続けるので、本ロボットを壁に近付けて停止させることが可能になる。
【0047】
距離計測値M31〜M34:警戒距離Cd以下であり、かつ、ホールド値MH よりも小さい値であるので、当該距離計測値Mi を新たなホールド値MH としてホールド値記憶部41に記憶させる。閾値Dxは初期値である下限値Dmin に設定されたままである。
距離計測値M35,M37:誤差加算値MH +Aよりも大きいので、それぞれ1段階Δuづつ閾値Dxを増加させる。
距離計測値M38以降:誤差加算値MH +A以下なので、閾値Dxを1段階Δdづつ減少させる。
【0048】
人が遠くを横切った場合:
つぎに、図7Aに示すように、人が警戒距離Cdよりも遠くを横切った場合(M55〜M61)における距離計測値Mi と閾値Dxの関係について、図7Bを用いて説明する。
距離計測値M50〜M54:警戒距離Cdを越えて大きいため、ホールド値MH および閾値Dxは初期値のままである。
距離計測値M55〜M61(人が横切った期間):誤差加算値MH +Aよりも大きい場合(M56〜M58,M61)には、閾値Dxを1段階Δuづつ増加させる。その結果、距離計測値M61において、閾値Dxが上限値Dmax を越えて大きくなったので、ホールド値MH を初期値に戻す。
【0049】
距離計測値M62〜M71:警戒距離Cdを越えて大きいため、ホールド値MH は初期値のままである。一方、最新の距離計測値Mi が誤差加算値MH +A以下なので、閾値Dxを1段階Δdづつ減少させる。距離計測値Mi が警戒距離Cd以下か否かに拘わらず、閾値Dxを1段階Δdづつ減少させることにより、人などが通り過ぎた後の閾値Dxの値をより早く元の状態に戻すことができるからである。
距離計測値M72〜:警戒距離Cd以下であり、かつ、ホールド値MH よりも小さいので、当該距離計測値Mi を新たなホールド値MH としてホールド値記憶部41に更新記憶させる。一方、誤差加算値MH +A以下なので、閾値Dxを1段階Δdづつ減少させる。したがって、かかる場合にも、閾値Dxが下限値Dmin に近づくので、ロボットが壁際まで接近することができる。
【0050】
以上説明したように、最新の距離計測値Mi が、前述の算出ルールに基づいて算出された閾値Dxに達した場合に、本ロボットの走行を停止させるように走行制御するので、図5B,Dに示すように、障害物を検知して停止したときの、障害物との間隔を、障害物が静止物体の場合と、人等の移動物体の場合とで異なる値(図5のD2>D1)にすることができる。したがって、作業性能を低下させること無く、本ロボットが人に接触するのを防止することができる。
【0051】
本実施例は、超音波距離センサーの計測値の変化パターンにより、障害物が、静止物体か移動物体かを判別したが、複数の障害物検知センサーを用いて、移動物体を判別したり、複数種類のセンサー(例えば、距離センサーと、赤外線センサー)により、障害物が人(移動物体)かを判別するようにしても良く、その判別結果に応じて、閾値Dxの算出を行なうことにより、同様の効果を得ることができる。
【0052】
また、障害物が、人であると判別した場合には、「作業したいので道を空けてください。」などの音声メッセージを発するようにしてもよい。さらに、一定時間待機した後、障害物(人)が居なくなっていれば走行を再開し、障害物がまだ存在すれば、回避走行に移るように構成すると良い。
【0053】
なお、閾値Dxの算出方法としては、別の方法を用いてもよい。たとえば、図7Bの距離計測値M54〜M55のように、大きな距離計測値Mi の値が著しく小さくなった場合など、明らかに移動物体を検出したと判別できる場合には、閾値Dxの値を、直ちに上限値Dmax に更新するようにしてもよい。
また、距離計測値Mi の計測は必ずしも一定時間毎に行う必要はなく、たとえば、移動物体を検出した場合には、距離計測値Mi の判別間隔を短くするようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、床面に対する作業を行う作業ロボットの他、警備ロボットや案内ロボットなど自走するロボットに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1Aは本発明の一実施例にかかる作業ロボットの走行アセンブリを示す平面断面図、図1Bは同走行アセンブリの側面断面図である。
【図2】同作業ロボットの概略斜視図である。
【図3】作業ロボットの概略構成図である。
【図4】距離計測値の時間変化を示すグラフである。
【図5】作業ロボットと障害物との関係を示す概略側面図である。
【図6】距離計測値の時間変化を示すグラフである。
【図7】図7Aは作業ロボットと障害物との関係を示す概略側面図、図7Bは距離計測値の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
31:距離測定手段
32:判別手段
33:閾値算出手段
34:走行制御手段
A:所定値
i :距離計測値
H :ホールド値
H +A:誤差加算値
Dx:閾値
max :上限値
min :下限値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面上を移動する移動手段を有する作業ロボットにおいて、
障害物までの距離を測定する距離測定手段と、
障害物が移動物体か静止物体かを判別する判別手段と、
走行を停止すべき障害物までの距離の閾値Dxを算出する閾値算出手段と、
前記距離測定手段により測定された距離計測値Mi が前記閾値Dxに達した時に走行を停止させる走行制御手段と、
を備え、
前記閾値算出手段は前記判別手段による判別の結果に基づいて、障害物が移動物体であると判別された場合に前記閾値Dxを増大させ、一方、障害物が静止物体であると判別された場合に前記閾値Dxを減少させて、前記閾値Dxを算出することを特徴とする作業ロボット。
【請求項2】
請求項1において、前記距離測定手段は、走行中に所定間隔毎に、障害物までの距離を繰り返し測定し、
前記判別手段は走行中に前記所定間隔毎に、前記判別を繰り返し行い、
前記閾値算出手段は前記距離測定手段による距離の測定および前記判別手段による判別を行う毎に前記閾値Dxの更新演算を行う作業ロボット。
【請求項3】
請求項2において、前記閾値算出手段は、今回までの距離計測値M1 〜Mi の変化に基づいて、前記閾値Dxを算出することを特徴とする作業ロボット。
【請求項4】
請求項3において、過去の距離計測値M1 〜Mi-1 のうち最小値MH を記憶する記憶手段を更に備え、
前記最小値MH に所定値Aを加算した値MH +Aよりも、最新の距離計測値Mi が大きい場合に、前記閾値算出手段が前記閾値Dxを1段階Δu増大させることを特徴とする作業ロボット。
【請求項5】
請求項4において、前記最小値MH に所定値Aを加算した値MH +Aよりも、最新の距離計測値Mi が小さい場合には、前記閾値算出手段が前記閾値Dxを1段階Δd減少させることを特徴とする作業ロボット。
【請求項6】
請求項1において、前記閾値Dxには予め上限値Dmax および下限値Dmin が設定されている作業ロボット。
【請求項7】
請求項4において、前記閾値算出手段は、
予め設定された上限値Dmax に前記閾値Dxが達した時に、前記最小値MH をクリアし、初期値に戻すことを特徴とする作業ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−293662(P2006−293662A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113041(P2005−113041)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(000223986)フィグラ株式会社 (68)
【Fターム(参考)】