説明

光素子基板、その製造方法、半導体発光素子、及び半導体受光素子

【課題】動作効率や静電耐圧性能の高い半導体光素子を提供する。
【解決手段】フラックス法により混合フラックスとIII族元素とを攪拌混合しながらIII族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させて製造した光素子基板101はSiドープの厚さ約300μmのn型GaN結晶から成り、その上には、アンドープIn0.1Ga0.9N から成る層とアンドープGaN から成る層とを交互に20ペア積層することによって構成された膜厚90nmの多重層105が形成されており、その上には、アンドープGaNから成る障壁層とアンドープIn0.2Ga0.8N から成る井戸層とが順次積層された多重量子井戸層106が形成されている。また、Mgドープのp型Al0.2Ga0.8N から成るp型層107の上には、アンドープのAl0.02Ga0.98N から成る層108を形成した。p側の電極は、p型GaN層111の上に積層したITOからなるITO電極120で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶を、フラックスを用いて結晶成長させるフラックス法と、それを用いて製造される光素子基板、半導体発光素子、及び半導体受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウム(Na)フラックス中で窒化ガリウムを結晶成長させる従来のNaフラックス法によれば、約5MPa程度の圧力下において600℃〜800℃の比較的低い温度で、GaN単結晶を結晶成長させることができる。
【0003】
また、下記の特許文献1〜特許文献5に開示されている従来技術などからも分かる様に、 III族窒化物系化合物半導体結晶をフラックス法によって結晶成長させる従来の製造方法では、通常、下地基板(種結晶)として、サファイア基板上にバッファ層などの半導体層を積層したテンプレートや、GaN単結晶自立基板などが専ら用いられている。
【特許文献1】特開平11−060394号公報
【特許文献2】特開2001−058900号公報
【特許文献3】特開2001−064097号公報
【特許文献4】特開2004−292286号公報
【特許文献5】特開2004−300024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に、LED、LD、光センサなどの半導体光素子の基板を III族窒化物系化合物半導体結晶から形成する場合、それらの素子の内部量子効率を向上させる上でも、外部量子効率を向上させる上でも、駆動電圧を抑制する上でも、或いは、静電耐圧性能や寿命や歩留りなどを向上させる上でも、それらの素子基板の結晶品質は非常に重要になる。
【0005】
しかしながら、従来のNaフラックス法では、透明で転位密度が低く結晶成長面が略平面の高品質な半導体結晶を得ることは困難であった。また、従来のNaフラックス法では、結晶成長速度や収率にも問題があり、このため、電子デバイス基板などへの実用化は困難であった。これらの問題は、Inx Aly Ga1-x-y N(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)から成るその他の III族窒化物系化合物半導体の結晶成長についても同様である。
【0006】
また、前述の様なテンプレートを用いた場合、 III族窒化物系化合物半導体からなる所望の半導体結晶とサファイア基板との間には大きな熱膨張係数差があるため、所望の半導体結晶を厚く積層すると、反応室から半導体結晶を取り出す際にその結晶中にクラックが多数発生してしまう。このため、下地基板として上記の様なテンプレートを用いた場合、例えば膜厚300μm以上の高品質な半導体結晶を得ることは困難となる。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、フラックス法において、高品質な光素子基板を低コストで生産することである。
また、本発明の更なる目的は、それらの光素子基板を用いて、動作効率や静電耐圧性能の高い半導体光素子を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、本発明の第1の手段は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の中から選択された複数種類の金属元素を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる光素子基板の製造方法において、混合フラックスと III族元素とを攪拌混合しながら III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させることである。
【0009】
ただし、本願発明における攪拌混合処理は、揺動、回動、回転などによって反応容器を物理的に運動させることによって実施しても良いし、攪拌棒や攪拌羽根などを用いてフラックスを攪拌することによって実施しても良いし、或いは、加熱手段などを用いてフラックス中に熱勾配を生じさせ、これによってフラックスを熱対流させることで実施しても良い。即ち、本願発明における攪拌混合の処理方式は任意で良い。また、これらの方式は、適当に任意に組み合わせて実施しても良い。
【0010】
また、本発明の第2の手段は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の中から選択された複数種類の金属元素を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる光素子基板の製造方法において、 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる下地基板の少なくとも一部に、混合フラックスに溶解する可溶材料を用い、可溶材料を III族窒化物系化合物半導体結晶の結晶成長工程中に、または III族窒化物系化合物半導体結晶の結晶成長工程後にその成長温度付近で、その混合フラックス中に溶解させることである。
【0011】
ただし、上記の可溶材料としては、シリコン(Si)などを用いることができるが、必ずしもこれに限定する必要はない。
また、上記の可溶材料の露出面上に保護膜を形成し、その保護膜の厚さ又は成膜パターンによって、上記の可溶材料がフラックスに溶解する時期または溶解速度を任意に制御することも可能である。この様な保護膜の材料としては、例えば窒化アルミニウム(AlN)やタンタル(Ta)などを用いることができ、これらの保護膜は、結晶成長や真空蒸着やスパッタリングなどの周知の方法によって成膜させることができる。
【0012】
また、本発明の第3の手段は、上記の第2の手段において、上記の可溶材料の少なくとも一部に、 III族窒化物系化合物半導体結晶の中に添加すべき不純物を含有させることである。
ただし、必要とされる不純物だけでこの可溶材料の全体を構成しても良い。
【0013】
また、本発明の第4の手段は、上記の第2又は第3の手段において、上記の混合フラックスと III族元素とを攪拌混合しながら III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させることである。
ただし、この場合の攪拌混合処理の実施様態に付いても、前記と同様の任意性が許容され得る。
【0014】
また、本発明の第5の手段は、上記の第1乃至第4の何れか1つの手段において、リチウム(Li)又はカルシウム(Ca)、並びにナトリウム(Na)を用いて上記の混合フラックスを構成することである。
即ち、用いる混合フラックスのNaに次ぐ第2の主要成分をリチウム(Li)またはカルシウム(Ca)の少なくとも何れか一方とすることである。
【0015】
また、本発明の第6の手段は、上記の第1乃至第5の何れか1つの手段において、 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる前に、水素(H2 )ガス、窒素(N2 )ガス、アンモニア(NH3 )ガス、希ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、またはRn)またはこれらのガスのうちから2種類以上のガスを任意の混合比で混合した混合ガスをクリーニングガスとして、900℃以上1100℃以下の温度で、1分以上の時間を掛けて、種結晶または下地基板の結晶成長面をクリーニング処理することである。
ただし、このクリーニング処理に掛ける上記の時間は、2分以上10分以下がより望ましい。
【0016】
また、本発明の第7の手段は、上記の第1乃至第6の何れか1つの手段において、所望の III族窒化物系化合物半導体結晶の中に添加すべき不純物として、ボロン(B)、タリウム(Tl)、カルシウム(Ca)、カルシウム(Ca)を含む化合物、珪素(Si)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、炭素(C)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、アルミナ(Al2 3 )、窒化インジウム(InN)、窒化珪素(Si3 4 )、酸化珪素(SiO2 )、酸化インジウム(In2 3 )、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、またはゲルマニウム(Ge)を上記の混合フラックス中に含有させることである。
これらの不純物は、1種類だけを含有させても良いし、同時に複数種類を含有させても良い。これらの選択や組み合わせは任意で良い。
【0017】
また、本発明の第8の手段は、請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の光素子基板の製造方法により製造された光素子基板において、その表面の転位密度を1×105 cm-2以下とし、その最大径を1cm以上とすることである。
ただし、上記の転位密度は、低いほど望ましく、また上記の最大径は大きいほど望ましい。特に、工業的な実用性を考慮すると、所望の半導体基板は、直径約45mm程度の円形のものや、約27mm四方の角形のものや、或いは約12mm四方の角形のものなどがより望ましい。
【0018】
また、本発明の第9の手段は、上記の第8の手段において、上記の光素子基板の厚さを300μm以上にすることである。
ただし、上記の半導体基板の厚さは、400μm以上がより望ましく、更に望ましくは400μm〜600μm程度が良い。
【0019】
また、本発明の第10の手段は、結晶成長基板の上に III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶層を複数層積層することによって構成される半導体発光素子において、その結晶成長基板を請求項8又は請求項9に記載の光素子基板から構成することである。
これらの半導体発光素子としては、例えばLED(発光ダイオード)やLD(半導体レーザ)などをあげることができる。
【0020】
また、本発明の第11の手段は、結晶成長基板の上に III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶層を複数層積層することによって構成される半導体受光素子において、その結晶成長基板を請求項8又は請求項9に記載の光素子基板から構成することである。
これらの半導体受光素子としては、例えば撮像装置を構成する受光素子や、光センサなどをあげることができる。
【0021】
また、本発明の第12の手段は、上記の第10の手段の半導体発光素子において、 III族窒化物系化合物半導体からなる発光層と、窒素分圧比が40%以上80%以下の水素(H2 )と窒素(N2 )の混合気体からなるキャリアガスを用いた結晶成長処理によって発光層の上に積層された、アルミニウムとアクセプタ不純物とを含有する III族窒化物系化合物半導体結晶層とを備えることである。
【0022】
また、本発明の第13の手段は、結晶成長基板の上に III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶層を複数層積層することによって構成される半導体発光素子の製造方法において、 III族窒化物系化合物半導体からなる透明なバルク状の半導体結晶から結晶成長基板を構成し、アルミニウムとアクセプタ不純物とを含有する半導体結晶層を、窒素分圧比が40%以上80%以下の水素(H2 )と窒素(N2 )の混合気体からなるキャリアガスを用いた結晶成長処理によって、上記の発光層の上に積層することである。
【0023】
ただし、上記の本発明の第12及び第13の手段においては、より望ましい窒素分圧比は50〜75%であり、更に望ましくは60〜70%が良い。また、アルミニウムとアクセプタ不純物とを有する上記の半導体結晶層は、必ずしも結晶成長基板上に直接積層する必要はなく、この半導体結晶層と結晶成長基板との間には、その他の結晶成長処理などによってその他の任意の半導体層を積層しても良い。また、その様なその他の任意の半導体層を結晶成長によって積層する際の結晶成長条件は任意で良く、上記の窒素分圧比などには何ら拘束されない。
【0024】
また、本発明の第14の手段は、上記の第10又は第11の手段の光素子において、少なくとも一方のコンタクト層と活性層との間にコンタクト層の側から、アンドープの無添加半導体層、不純物が添加された添加半導体層の順で、2層1組にて構成された複数組の耐電圧構造を備えることである。
【0025】
ただし、上記の光素子は、LEDでも半導体レーザでも撮像装置の受光素子でも光センサでも良い。また、上記のコンタクト層は、n形のコンタクト層であっても、p形のコンタクト層であってもよく、また、n側とp側の両方のコンタクト層に対してそれぞれ同時に上記の構造を適用しても良い。
また、上記の不純物は、n形の不純物であってもp形の不純物であってもよく、複数の種類の不純物を同時に添加しても良い。また、n形の不純物とp形の不純物とを同時に添加しても良い。ただし、両方の形の不純物を混在させて1層の添加半導体層を形成する場合には、例えばn形コンタクト層では、p形の不純物よりもn形の不純物の方をより高い濃度で用いるものとする。
また、上記の活性層は、MQW構造のものであっても、SQW構造のものであっても、その他の積層構造であっても良い。
【0026】
また、本発明の第15の手段は、上記の第14の手段において、上記のコンタクト層をn形のコンタクト層とし、上記の不純物をn形の不純物とすることである。
【0027】
また、本発明の第16の手段は、上記の第10の手段において、組成比の相異なる複数のアンドープの III族窒化物系化合物半導体結晶層を他の2つのp型層の間に交互に繰り返し積層することによって形成されたDBR多重層を設けることである。
このDBR多重層は、最低2層1ペアの多層構造から構成することができるが、より望ましくは2〜10ペア程度の多層構造にすると良い。この積層数が小さいと当該DBR多重層における光の反射率があまり向上しないか、或いは、静電耐圧性能の向上があまり期待できない。また、この積層数が大き過ぎると、駆動電圧が高くなる。
また、上記の他の2つのp型層の一方の半導体結晶層をp型コンタクト層とすることがより望ましい。この構成によって、当該DBR多重層の挿入に基づく発光素子の駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0028】
また、本発明の第17の手段は、上記の第16の手段において、複数のアンドープのGaN結晶層と、複数のアンドープのAlx Ga1-x N結晶層(0<x<1)とから上記のDBR多重層を形成することである。
以上の本発明の手段により、前記の課題を効果的、或いは合理的に解決することができる。
【0029】
また、本発明の第18の手段は、結晶成長基板の上に III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶層を複数層積層することによって構成される半導体光素子の製造方法において、請求項8または請求項9に記載の光素子基板の結晶成長面を、 III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶層を結晶成長させる前に、水素(H2 )ガス、窒素(N2 )ガス、アンモニア(NH3 )ガス、希ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、またはRn)またはこれらのガスのうちから2種類以上のガスを任意の混合比で混合した混合ガスをクリーニングガスとして、900℃以上1100℃以下の温度で、1分以上の時間を掛けて、クリーニング処理することである。
ただし、このクリーニング処理に掛ける上記の時間は、2分以上10分以下がより望ましい。
【発明の効果】
【0030】
以上の本発明の手段によって得られる効果は以下の通りである。
即ち、本発明の第1乃至第7の何れか1つの手段によれば、フラックス法において、高品質な半導体結晶を効率的に低コストで生産するこができ、これによって、請求項8又は請求項9の特徴を有する光素子基板を、現実的な生産レベルで高品質かつ効率的に製造することができる。
【0031】
特に、本発明の第1の手段によれば、攪拌混合処理に基づいて、混合フラックス中への窒素の溶解速度が効果的に増大すると共に、当該フラックス中において、結晶材料が均一に分布する。また、この様な理想的なフラックスを常時結晶成長面にムラなく供給することができる。したがって、本発明の第1の手段によれば、透明で転位密度が低く結晶成長面が略平面の高品質な光素子基板を得ることができる。また、これらの高品質な光素子基板は、上記の作用による高い結晶成長速度や収率に基づいて、所望のバルク状に大きく結晶成長させることも容易である。
【0032】
また、本発明の第2の手段によれば、半導体結晶の結晶成長工程中に、又は半導体結晶の結晶成長工程後に半導体結晶の成長温度付近で、上記の可溶材料がフラックス中に溶解するので、所望の半導体結晶を反応室から取り出す際の降温作用などに伴って、下地基板と半導体結晶(光素子基板)との間に応力が働くことがない。したがって、本発明の第2の手段によれば、所望の光素子基板のクラックの発生密度を従来よりも大幅に低減させることができる。
また、上記の可溶材料としては、例えばシリコン(Si)などの様な比較的安価な材料を用いることができるため、GaN単結晶自立基板を下地基板として用いる従来の場合よりも、生産コストを安く抑えることができる。
【0033】
また、本発明の第3の手段によって、上記の可溶材料がフラックスに溶け出す現象を不純物の添加処理として利用すれば、所望の光素子基板に不純物の添加が必要な場合に、その不純物の添加処理を他の方法によって実施する必要がなくなる。また、同時に、必要となる不純物材料を節約することもできる。
【0034】
また、本発明の第4の手段によれば、上記の第2又は第3の手段においても、上記の第1の手段における攪拌混合処理の作用・効果と同等の作用・効果を得ることができる。
【0035】
また、本発明の第5の手段によれば、リチウム(Li)またはカルシウム(Ca)のフラックス中における混合比に基づいて、半導体結晶の収率や成長速度を好適または最適に調整することができ、これによって、所望の光素子基板の生産性を好適または最適に調整することができる。
【0036】
また、本発明の第6の手段によれば、半導体結晶を結晶成長させるべき結晶成長面上の異物または不純物が当該結晶成長面から良好に排除されるので、所望の光素子基板をより良質に結晶成長させることができる。
【0037】
また、本発明の第7の手段によれば、所望の電気伝導特性やバンドギャップを有する光素子基板を任意に結晶成長させることができる。
【0038】
また、本発明の第8の手段によれば、発光素子(LED、LD)、受光素子などの光素子の基板、又はその半導体ウェハの基板として有用な結晶成長基板(光素子基板)を実用レベルで良質に低コストで構成することができる。
【0039】
また、本発明の第9の手段によれば、発光素子(LED、LD)、受光素子などの光素子の基板、又はその半導体ウェハの基板として有用な結晶成長基板(光素子基板)を実用レベルで良質に厚く構成することができる。
【0040】
また、本発明の第10の手段によれば、半導体発光素子の結晶成長基板の結晶品質を従来よりも容易に高めることができるので、従来よりも特性の良い半導体発光素子を量産することが容易となる。結晶成長基板の良質化によって改善することができる半導体発光素子の特性としては、内部量子効率、外部量子効率、駆動電圧、静電耐圧性能、寿命、歩留りなどを挙げることができる。
【0041】
また、特に半導体レーザの場合、出力光の共振器における共振効率を高くするためには、発光層にて発光する光の周波数軸方向の半値幅が十分に狭いことや、共振器反射面での反射率が高いことが重要になる。例えば、特に端面発光型の半導体レーザの場合には、共振器の端面が劈開によって綺麗に形成できることが重要となり、また、特に面発光型の半導体レーザの場合には、結晶成長面の粗さ(凹凸)が小さいことが重要となる。また、出力光は、出力前に反射によって共振器中を多数回往復するので、共振器自身の透明性も出力性能を高める上で非常に重要である。したがって、これらの観点から考えても、本発明の第10の手段によれば、半導体レーザの出力性能を従来よりも容易に高めることができる。
【0042】
また、本発明の第11の手段によれば、半導体受光素子の結晶成長基板の結晶品質を従来よりも容易に高めることができるので、従来よりも特性の良い半導体受光素子を量産することが容易となる。結晶成長基板の良質化によって改善することができる半導体受光素子の特性としては、内部量子効率、外部量子効率、駆動電圧、静電耐圧性能、寿命、歩留りなどを挙げることができる。
【0043】
また、本発明の第12または第13の手段によれば、アクセプタ不純物とアルミニウムを有する III族窒化物系化合物半導体からなる上記の半導体結晶層のキャリアの移動度及びフォトルミネセンス強度を大きくし、表面粗さを小さくし、更にこの結晶各部におけるアルミニウム組成比のバラツキや膜厚のバラツキなどを当該半導体結晶層で小さくすることができる。これは、キャリアガス中の窒素濃度の範囲を最適化することで、アルミニウムを含む III族窒化物系化合物半導体層の結晶品質が改善され、表面モフォロジーが平坦化されるからである。また、このような効果は、エピタキシャル成長中の結晶からの原子の再蒸発による欠陥の生成や表面荒れが抑制されるために得られるものと考えることもできる。
そして、これらの半導体結晶の積層によって、例えば、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ(LD)、撮像装置の受光素子、光センサ、フォトカプラなどの任意の光素子の動作効率などを良好にすることができる。
【0044】
また、本発明の第14の手段によれば、2層1組にて構成される上記の耐電圧構造が、コンタクト層の側から複数組連続して半導体素子の中に形成されるので、この静電耐圧特性の向上に寄与する上記の複数組の耐電圧構造から成る部分において、少なくとも2層以上の添加半導体層が具備されるので、この構成によれば、高い静電圧が印加された際にキャリアが素子中の結晶構造の欠陥に集中する現象を従来よりも良好に緩和することができる。したがって、本発明の第14の手段によれば、発光強度または受光感度などの素子の発光性能または受光性能を少なくとも従来程度に十分確保したまま、素子の静電耐圧特性を従来よりも更に良好に得ることができる。
【0045】
また、結晶成長基板に近い側である下方側にn形の半導体層を積層し、その反対側である上方側にp形の半導体層を積層する場合に、本発明の第15の手段によれば、上記の耐電圧構造が、結晶成長基板に近い側のコンタクト層に隣接または接近して複数組形成される。したがって、本発明の第15の手段によれば、活性層の結晶成長温度よりも高い温度で結晶成長させる高温成長層を上記の耐電圧構造の中に形成しても、その結晶成長過程の高温環境における熱ダメージを活性層に与える恐れがない。
【0046】
このため、本発明の第15の手段によれば、結晶成長基板に近い側である下方側にn形の半導体層を積層し、その反対側である上方側にp形の半導体層を積層する場合に、活性層の結晶品質と上記の耐電圧構造の結晶品質とを同時に高く確保することが可能となり、よって、当該光素子の発光性能または受光性能を効果的に維持または向上させることができる。
【0047】
また、本発明の第16の手段によれば、アンドープの半導体結晶層を用いて構成されるDBR多重層の光学的な反射作用によって、発光素子の外部量子効率が向上すると共に、そのアンドープ層の導電特性に基づいて素子の静電耐圧性能をも同時に向上させることができる。この静電耐圧性能の向上は、上記の第14の手段と類似のキャリア集中の緩和作用などによるものと考えることができる。
【0048】
また、本発明の第16の手段によれば、結晶成長基板の転位密度が低いので、各半導体結晶層の転位密度がそれぞれ何れも低く抑えられる。このため、この結晶品質の改善作用とアンドープ層の積層作用の双方の相乗効果によって、当該半導体発光素子の静電耐圧性能がより改善されるものと考えることができる。
また、この半導体発光素子はフリップチップタイプであるので、前述の本願発明の作用・効果に基づいて光素子基板の透明性が大きく改善されることも、上記の外部量子効率の向上に同時に大きく寄与している。
【0049】
また、本発明の第17の手段によれば、発光素子の駆動電圧や内部量子効率を著しく劣化させない範囲内で、上記のDBR多重層の各界面における屈折率の差を大きく確保することができる。このため、その範囲内で上記のDBR多重層の反射率を効果的に高くすることができる。
【0050】
また、本発明の第18の手段によれば、半導体結晶を結晶成長させるべき結晶成長面上の異物または不純物が当該結晶成長面から良好に排除されるので、所望の半導体光素子を構成する各半導体結晶層をより良質に結晶成長させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
なお、請求項2に記載の可溶材料の露出面に形成することができる上記の成膜パターンは、フォトリソグラフィーやエッチングなどの周知の技法で形成可能である。また、上記の溶解時期は、これらの保護膜の厚さを薄くする程早めることができ、また、上記の溶解速度は、フラックスに対する上記の可溶材料の露出面積を広くするほど高く設定することができる。即ち、これらの設定によれば、上記の可溶材料の露出面が高温のフラックスに接触した時点から上記の可溶材料の溶解が開始され、かつ、その溶解速度はその露出面の面積に略比例するので、これらの設定条件を適当に調整することによって、上記の可溶材料の溶解開始時刻や溶解所要時間や溶解速度などを任意に調整することができる。また、上記の可溶材料の溶解所要時間は、その可溶材料の種類や厚さやフラックスの温度などによっても任意に調整することができる。
【0052】
また、上記のフラックス法による結晶成長に用いる種結晶や下地基板の製造方法は任意で良く、フラックス法、HVPE法、MOVPE法、MBE法などが有効である。また、その大きさや厚さも任意で良いが、工業的な実用性を考慮すると、直径約45mm程度の円形のものや、約27mm四方の角形や約12mm四方の角形などがより望ましい。また、種結晶や下地基板の結晶成長面の曲率半径は大きいほど望ましい。
また、それらの種結晶や下地基板の転位密度は低いほど望ましいが、請求項2乃至請求項4の何れかの方法を用いる場合には必ずしもその限りではない。即ち、この場合、逆に転位密度が低過ぎると上記の可溶材料(下地基板)がフラックス中に溶解し難くなることがあるため注意を要する。
【0053】
また、用いる結晶成長装置としては、フラックス法が実施可能なものであれば任意でよく、例えば、特許文献1〜5に記載されているもの等を適用又は応用することができる。ただし、フラックス法に従って結晶成長を実施する際の結晶成長装置の反応室の温度は、1000℃程度にまで任意に昇降温制御できることが望ましい。また、反応室の気圧は、約100気圧(約1.0×107 Pa)程度にまで任意に昇降圧制御できることが望ましい。また、これらの結晶成長装置の電気炉、ステンレス容器(反応容器)、原料ガスタンク、及び配管などは、例えば、ステンレス系(SUS系)材料やアルミナ系材料や銅等によって形成することが望ましい。
【0054】
また、請求項14または請求項15に記載の光素子を製造する際、例えば特に、上記の活性層における発光波長または受光波長を450nm以上480nm以下とする場合には、上記のコンタクト層の側から数えて2組目以降の各耐電圧構造を構成する各半導体層の膜厚の総和の値と、そのコンタクト層の側から数えて1組目の耐電圧構造を構成する添加半導体層の膜厚の値との合計値を140nm以上600nm以下にすることがより望ましい。
【0055】
この構成によって、発光特性または受光特性を従来以上に維持しつつ、静電耐圧特性を従来よりも改善することができる。なお、この膜厚が厚過ぎると次の(理由1)または(理由2)による発光性能または受光性能の低下を招き、この膜厚が薄過ぎるとこれらの半導体層自身の抵抗が小さくなり過ぎて静電耐圧特性の向上が難しくなる。
【0056】
(理由1)この無添加半導体層自身の抵抗が大きくなり過ぎるため。
(理由2)この無添加半導体層を後述の800℃〜900℃程度の比較的低い結晶成長温度で成長させると、この無添加半導体層の表面に適度の荒れを形成することができる。この時、この無添加半導体層の膜厚が厚過ぎると、その表面荒れによってこの無添加半導体層の結晶品質や、その後に結晶成長させる例えば活性層などの半導体層の結晶品質を良好に確保することが困難になるため。
【0057】
また、上記の活性層における発光波長または受光波長を、例えば特に、510nm以上550nm以下とする場合には、上記のコンタクト層の側から数えて2組目以降の各耐電圧構造を構成する各半導体層の膜厚の総和の値と、そのコンタクト層の側から数えて1組目の耐電圧構造を構成する添加半導体層の膜厚の値との合計値を50nm以上250nm以下にすることがより望ましい。
【0058】
この構成によって、発光特性または受光特性を従来以上に維持しつつ、静電耐圧特性を従来よりも改善することができる。なお、この膜厚が厚過ぎると上記の(理由1)または(理由2)による発光性能または受光性能の低下を招き、この膜厚が薄過ぎるとこれらの半導体層自身の抵抗が小さくなり過ぎて静電耐圧特性の向上が難しくなる。
【0059】
また、コンタクト層の側から数えて1組目の耐電圧構造を構成する無添加半導体層の膜厚は、100nm以上300nm以下にすることがより望ましい。なお、この膜厚が厚過ぎると前述の(理由1)による発光性能または受光性能の低下を招き、この膜厚が薄過ぎるとこの無添加半導体層自身の抵抗が小さくなり過ぎて静電耐圧特性の向上が難しくなる。
【0060】
また、コンタクト層の側から数えて1組目の耐電圧構造を構成する添加半導体層の膜厚は、10nm以上100nm以下にすることがより望ましい。なお、この膜厚が厚過ぎると前述の(理由2)による発光性能または受光性能の低下を招き、この膜厚が薄過ぎると、キャリアの横方向への分散作用が不足して静電耐圧特性の向上が難しくなる。
【0061】
また、コンタクト層の側から数えて2組目の耐電圧構造を構成する添加半導体層の膜厚は、20nm以上40nm以下にすることがより望ましい。なお、この膜厚が厚過ぎると前述の(理由2)による発光性能または受光性能の低下を招き、この膜厚が薄過ぎると、キャリアの横方向への分散作用が不足して静電耐圧特性の向上が難しくなる。
【0062】
なお、本明細書で言う「 III族窒化物系化合物半導体」一般には、2元、3元、又は4元の「Al1-x-y Gay Inx N;0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y≦1」成る一般式で表される任意の混晶比の半導体が含まれ、更に、p形或いはn形の不純物が添加された半導体もまた、これらの「 III族窒化物系化合物半導体」の範疇である。
【0063】
また、上記の III族元素(Al,Ga,In)の内の少なくとも一部をボロン(B)やタリウム(Tl)等で置換したり、或いは、窒素(N)の少なくとも一部をリン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置換したりしても良い。
また、上記のp形の不純物(アクセプター)としては、例えば、マグネシウム(Mg)や、或いはカルシウム(Ca)等の公知のp形不純物を添加することができる。
【0064】
また、上記のn形の不純物(ドナー)としては、例えば、シリコン(Si)や、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、或いはゲルマニウム(Ge)等の公知のn形不純物を添加することができる。
また、これらの不純物(アクセプター又はドナー)は、同時に2元素以上を添加しても良いし、同時に両形(p形とn形)を添加しても良い。
【0065】
なお、上記の光素子基板の上にIII族窒化物系化合物半導体層を結晶成長させる方法としては、分子線気相成長法(MBE)、有機金属気相成長法(MOVPE)、ハイドライド気相成長法(HVPE)、液相成長法等が有効である。
【0066】
発光層又は活性層は、単層構造、単一量子井戸(SQW)構造、多重量子井戸(MQW)構造、或いはその他任意の構造をとることができる。特に、これらの半導体結晶層を多重量子井戸(MQW)構造とする場合には、少なくともインジウム(In)を含むIII族窒化物系化合物半導体AlyGa1-y-zInzN(0≦y<1, 0<z≦1)から成る井戸層を含むものが良い。したがって、発光層又は活性層は、例えば、添加又は無添加のGa1-zInzN(0<z≦1)から成る井戸層と、当該井戸層よりもバンドギャップの大きい任意の組成比のIII族窒化物系化合物半導体AlGaInNから成る障壁層などから構成することができる。
【0067】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
ただし、本発明の実施形態は、以下に示す個々の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0068】
本実施例1で用いる結晶成長装置の断面図を図1に示す。
1.結晶成長装置
この結晶成長装置は、フラックス法によって、基板8の結晶成長面上に所望の半導体結晶を成長させるためのものであり、耐熱耐圧容器1の内部に配設された加熱容器2には、窒素含有ガス7を導入するためのガス導入パイプ4が連結されている。また、加熱容器2の反対側には、揺動装置5から伸びるシャフト6がガス導入パイプ4と同軸になる様に連結されている。この揺動装置5は、モータ及びモータ制御装置などから構成されている。窒化ホウ素からなる反応容器3には、混合フラックスと上記の基板8を入れる。
【0069】
2.フラックス法による結晶成長
図1の結晶成長装置を用いて、窒化ガリウム単結晶を結晶成長させる結晶成長について以下説明する。
(1)まず、MOVPE法によってサファイア基板の結晶成長面上に膜厚3μmのGaN膜を形成し、これによって、図1の基板8を完成させた。
(2)次に、反応容器3の底部にこの基板8を配置し、更にこの反応容器3にナトリウム(Na)とリチウム(Li)を入れた。この時のナトリウム(Na)の量は、約8.8gであり、リチウム(Li)の量は、約0.027gであった。モル比に換算すれば、99:1である。
【0070】
(3)次に、この反応容器3を加熱容器2の中にセットし、反応容器3を一定の方向に傾けた。この設定によって、基板8はナトリウム(Na)とリチウム(Li)との混合フラックスに触れない様に設定された。
【0071】
(4)次に、約1000℃に加熱した窒素ガス(N2 )を約30分間反応室に通して、この基板8の結晶成長面のクリーニングを行った。この時、加熱容器2内のガス圧を0〜10気圧(1〜10×105 Pa)程度の間で周期的に変動させて、加熱容器2内への窒素(N2 )ガスの流し込み(圧縮)及び排気を繰り返すことによって、クリーニングガスの流入/排気処理を行った。
【0072】
(5)その後、新たに窒素ガスを導入して、加熱容器2内のガス圧を10気圧(約10×105 Pa)まで昇圧して、その温度を890℃に設定した。
(6)その後、揺動装置5を用いて反応容器3を揺動させることによって、図2−A,−B,−Cに例示する様に、原料液9(混合フラックス)を左右に行き来させて、GaN膜の結晶成長面が常時薄い混合フラックス9で覆われる様にした。また、この揺動を継続しながら、上記の温度と圧力も4時間一定に維持した。この時の揺動周期は、毎分1往復〜数往復程度で良い。
【0073】
(7)その後、基板8にフラックスが触れない様に反応容器3を傾けたまま、略常温常圧にまで降温及び降圧して、基板8を加熱容器2内から取り出し、この基板8の周りに付着したフラックス(Na,Li)をエタノールを用いて除去した。これにより、基板8上に結晶成長した厚さが均一で透明なバルク状のGaN単結晶を得た。
【0074】
以上の方法で得られたこのGaN単結晶の厚さは約10μmであり最大径は5cm以上であった。
また、このGaN単結晶について、フォトルミネッセンスを常温下で測定したところ、波長325nmの励起光に対して、10mW以上の強度を示した。
また、(100)面で反射されるX線のXRDピーク半値幅を測定したところ、100arc.sec.以下であった。
以上のことから、例えば厚さ400μmの透明で転位密度が低い所望の高品質な光素子基板は、上記の結晶成長処理を約160時間行えば得られることが分かる。
【0075】
なお、上記の結晶成長では、混合フラックスの第2の主要成分をリチウム(Li)としたが、混合フラックスの第2の主要成分としてリチウム(Li)の代わりにカルシウム(Ca)を用いても良い。また、リチウム(Li)に加えて更にカルシウム(Ca)を用いる様にしても良い。
【0076】
また、結晶原料である窒素(N)を含有するガスとしては、窒素ガス(N2 )、アンモニアガス(NH3 )、またはこれらのガスの混合ガスなどを用いることができる。また、所望の半導体結晶を構成する III族窒化物系化合物半導体の上記の組成式においては、上記の III族元素(Al,Ga,In)の内の少なくとも一部をボロン(B)やタリウム(Tl)等で置換したり、或いは、窒素(N)の少なくとも一部をリン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)などで置換したりすることもできる。
【0077】
また、p形の不純物(アクセプター)としては、例えばアルカリ土類金属(例:マグネシウム(Mg)やカルシウム(Ca)等)などを添加することができる。また、n形の不純物(ドナー)としては、例えば、シリコン(Si)や、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、或いはゲルマニウム(Ge)等のn形不純物を添加することができる。また、これらの不純物(アクセプター又はドナー)は、同時に2元素以上を添加しても良いし、同時に両形(p形とn形)を添加しても良い。即ち、これらの不純物は、例えばフラックス中に予め溶融させておくこと等により、所望の半導体結晶中に添加することができる。
【実施例2】
【0078】
本実施例2におけるフラックス法での結晶成長工程に用いる下地基板(テンプレート10)の作成手順について、以下図3を用いて説明する。
1.下地基板の作成
(1)まず、シリコン基板11(本願の可溶材料)の裏面に保護膜15を成膜する。この保護膜15は、例えばMOVPE法などに従ってAlN層を積層することによって成膜しても良いし、或いはタンタル(Ta)などの適当な金属をスパッタリング装置又は真空蒸着装置を用いて成膜する様にしても良い。
【0079】
(2)次に、MOVPE法に従う結晶成長によって、厚さ約400μmのシリコン基板11の上にAlGaNから成るバッファ層12を約4μm積層し、更にその上にGaN層13を積層する。このGaN層13は、所望の半導体結晶のフラックス法による成長が開始されるまでの間に、幾らかはフラックスに溶け出す場合があるので、その際に消失されない厚さに積層しておく。
以上の工程(1)、(2)により、テンプレート10(下地基板)を作製することができる。
【0080】
2.結晶成長装置の構成
図4−A,−Bに本実施例1の結晶成長装置の構成図を示す。この結晶成長装置は、窒素ガスを供給するための原料ガスタンク21と、育成雰囲気の圧力を調整するための圧力調整器22と、リーク用バルブ23と、結晶育成を行うための電気炉25を備えており、電気炉25、原料ガスタンク21と電気炉25とをつなぐ配管等は、ステンレス系(SUS系)またはアルミナ系の材料、或いは銅等により形成されている。
【0081】
そして、上記の電気炉25の内部には、ステンレス容器24(反応室)が配置されており、このステンレス容器24には、坩堝26(反応容器)がセットされている。この坩堝26は、例えば、ボロンナイトライド(BN)やアルミナ(Al2 3 )などから形成することができる。
また、電気炉25内の温度は、1000℃以下の範囲内で任意に昇降温制御することができる。また、ステンレス容器24の中の結晶雰囲気圧力は、圧力調整器22,29やリーク用バルブ23などによって、1.0×107 Pa以下の範囲内で配管28を介して任意に昇降圧制御することができる。
【0082】
図4−Bにステンレス容器24の断面図を示す。反応室の側壁27は円筒形に形成されており、その外側下方の足部には、加熱用のヒータHがリング状に配設されている。このヒータHは、該反応室の底部を介して坩堝26(反応容器)を加熱することによって、坩堝26内の混合フラックス9に熱対流を発生させるためのものである。
【0083】
3.結晶成長工程
以下、図4−A,−Bの結晶成長装置を用いた本実施例の結晶成長工程について、図5−A〜Cを用いて説明する。
(1)まず、反応容器(坩堝26)の中に、ナトリウム(Na)とリチウム(Li)及び III元素であるGaを入れ、その反応容器(坩堝26)を結晶成長装置の反応室(ステンレス容器24)の中に配置してから、反応室の中のガスを排気する。ただし、ナトリウム(Na)とリチウム(Li)のモル比は、99:1とした。また、この坩堝中には必要に応じて、例えばアルカリ土類金属等の前述の任意の添加物を予め投入しておいても良い。また、これらの作業を空気中で行うとNaがすぐに酸化してしまうため、基板や原材料を反応容器にセットする作業は、Arガスなどの不活性ガスで満たされたグローブボックス内で実施する。
【0084】
(2)次に、反応室のガス圧を0〜10気圧(1〜10×105 Pa)程度の間で周期的に変動させて、反応室内への窒素(N2 )ガスの流し込み(圧縮)及び排気を繰り返すことによって、基板の結晶成長面のクリーニング処理を行う。この時の処理温度は900℃とし、該クリーニング処理時間は約30分とする。
【0085】
(3)次に、この坩堝の温度を850℃以上880℃以下に調整しつつ、この温度調整工程と並行して、結晶成長装置の反応室には、新たに窒素ガス(N2 )を送り込み、この反応室のガス圧を3〜5気圧(3〜5×105 Pa)程度に維持する。この時、上記のテンプレート10の保護膜15は、上記の昇温の結果生成される融液(混合フラックス)に浸し、テンプレート10の結晶成長面、即ち、GaN層13の露出面は、その融液と窒素ガスとの界面付近に配置する。
【0086】
(4)その後、図4−BのヒータHを加熱して、混合フラックス9の熱対流を発生させて、これによって、フラックスを攪拌混合させつつ、上記(3)の結晶成長条件を継続的に維持した。
【0087】
以上の様な条件設定により、GaとNaとの融液と窒素ガスとの界面付近が、継続的に III族窒化物系化合物半導体の材料原子の過飽和状態となるので、所望の半導体結晶(n型GaN単結晶20)をテンプレート10(図3)の結晶成長面から順調に成長させることができる(図5−A)。ここで、n型の半導体結晶(n型GaN単結晶20)が得られるのは、フラックス中に融解したシリコン基板11がn型の添加物(Si)として、成長中の結晶中に添加されるためである(図5−B)。
【0088】
ただし、保護膜15を厚く積層しておくことによって、結晶成長工程の実施中には、シリコン基板11がフラックス中に融解しない様にしても良い。この場合には、シリコン(Si)などの添加物がドープされていない無添加の光素子基板を結晶成長させることもできる。
【0089】
4.結晶成長基板の溶解
以上の結晶成長工程によって、n型GaN単結晶20が例えば約500μm以上の十分な膜厚にまで成長したら、引き続き坩堝の温度を850℃以上880℃以下に維持して、保護膜15及びシリコン基板11がフラックス中に全て溶解するのを待ち(図5−B〜C)、その後も、窒素ガス(N2 )のガス圧を3〜5気圧(3〜5×105 Pa)程度に維持したまま、反応室の温度を100℃以下にまで降温する。
【0090】
ただし、シリコン基板11をフラックス中に溶解させる工程と上記の降温工程とは、幾らか並行に重ねて実施する様にしても良い。また、保護膜15やシリコン基板11は、例えば上記のようにして、GaN単結晶20の成長工程中に少なくともその一部がフラックス中に溶解する様にしても良い。これらの各工程の並列同時進行の様態は、例えば保護膜15の成膜形態などにより適当に調整することができる。
【0091】
5.フラックスの除去
次に、結晶成長装置の反応室から上記のn型GaN単結晶20(所望の半導体結晶)を取り出して、これを30℃以下にまで降温してからその周辺も30℃以下に維持して、n型GaN単結晶20の周りに付着したフラックス(Na)をエタノールを用いて除去する。
以上の各工程を順次実行することによって、従来よりも大幅にクラックが少ない高品質の厚さが400μm以上の光素子基板(n型GaN単結晶20)をフラックス法によって低コストで製造することができる。
【実施例3】
【0092】
本実施例3では、後述のLEDの細部(p型層107)の結晶成長条件を決定するために、まず、p型AlGaN結晶層のサンプルを試作して、それらの半導体層の各特性を調査した。
【0093】
このサンプル(p型AlGaN結晶層)の結晶成長処理では、キャリアガスに水素(H2 )と窒素(N2 )の2種混合ガスを用いたた有機金属気相成長法に基づいて、そのキャリアガスの窒素分圧比を0から1に変化させて、上記のp型AlGaN結晶層を積層した。また、結晶成長基板にはサファイア基板を使用した。この時使用した原料ガスは、アンモニアガス(NH3 )、トリメチルガリウム(Ga(CH3)3)、トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3)、トリメチルインジウム(In(CH3)3)、シラン(SiH4)並びにシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C5H5)2) である。また、金属原料源のガスを供給するためのバブラには、窒素(N2 )を用いた。
【0094】
上記のサンプル(p型AlGaN結晶層)は、サファイア基板にAlNバッファ層、アンドープGaN層を設けた上にAl0.24Ga0.76N:Mg層を設けて同一条件で低抵抗化処理したのちに得たものである。即ち、目的のp型AlGaN結晶層のアクセプタ不純物としてはマグネシウムをドープした。
次の表1に、これらのサンプルから得られた各半導体の物性を示す。
【表1】

【0095】
以下、上記のキャリアガスの窒素分圧比をRと記す。この表1では、R=1.0の場合を基準として、それよりも望ましい特性が得られた場合を○印で示している。また、R=1.0の場合と略同等の特性が得られた場合を△印で、特性が低下した場合を×印で示した。ただし、これらの評価項目としては、以下のものを採用した。
(1)PL強度
波長326nmのフォトルミネッセンスの強度を比較した。強度が高い場合ほど望ましい。
(2)移動度
ホール移動度を比較した。ホール移動度が高い場合ほど望ましい。
(3)表面粗さ
表面の粗さを比較した。即ち、サンプル(p型AlGaN結晶層)の表面の高さ平均面を基準面とするその表面の各部の高さ変位の二乗平均の平方根(r.m.s.)によって示される表面粗さが小さいほど望ましい。
(4)Al成分分布
サンプル中の各部のAl組成比を測定し、そのバラツキを比較した。Al組成比が均一であるほど望ましい。
(5)膜厚分布
サンプル(p型AlGaN結晶層)の膜厚を測定し、そのバラツキを比較した。膜厚が均一であるほど望ましい。
【0096】
これらの調査結果より、キャリアガスを窒素と水素で構成してその窒素分圧比を0.6≦R≦0.7とした場合に最も良い物性が得られるものと判断することができる。
以下、この様な条件にしたがって形成されたp型AlGaN結晶層を有するLEDの製造例について開示する。
【0097】
図6に、そのLEDの模式的な断面図を示す。このLED100の光素子基板(結晶成長基板101)は、先の実施例2の製造方法に従って製造された結晶性に優れた透明なバルク状の半導体単結晶であり、シリコン(Si)が5×1018cm-3ドープされた厚さ約300μmのGaN結晶から成る。
【0098】
また、この光素子基板(結晶成長基板101)の上には、膜厚1.5nmのアンドープIn0.1Ga0.9N から成る層1051と膜厚3nmのアンドープGaN から成る層1052とを交互に20ペア積層することによって構成された膜厚90nmの多重層105が形成されている。更にその上には、膜厚17nmのアンドープGaNから成る障壁層1062と膜厚3nmのアンドープIn0.2Ga0.8N から成る井戸層1061とが順次積層された多重量子井戸層106が形成されている。
【0099】
更に、この多重量子井戸層106の上には、Mgを2 ×1019/cm3ドープした膜厚15nmのp型Al0.2Ga0.8N から成るp型層107が形成されており、また、p型層107の上には、膜厚300nmのアンドープのAl0.02Ga0.98N から成る層108を形成した。更にその上には、マグネシウムが1×1020cm-3ドープされたGaN結晶からなる膜厚80nmのp型GaN層110が積層されており、その上には、マグネシウムが2×1020cm-3ドープされたGaN結晶からなる膜厚20nmのp型GaN層111が積層されている。
【0100】
また、p側の電極は、p型GaN層111の上に積層した膜厚約300nmのITOからなるITO電極120で構成した。更に、最上部には、SiO2膜より成る保護膜130が形成されている。
一方、結晶成長基板101の裏面に蒸着によって積層されたn側のn電極140は、膜厚約18nmのバナジウム(V) より成る第1層141と、膜厚約500nmのアルミニウム(Al)より成る第2層142との多層構造に構成されている。
ただし、n電極140は、例えばロジウム(Rh)などの金属を用いて単層構造に形成しても良い。
【0101】
以上の構成のLED100において、上記のp型Al0.2Ga0.8N から成るp型層107を形成する際には、原料ガスのキャリアガスとして窒素分圧比がR=2/3なる窒素と水素の混合ガスを用い、かつ、その他の半導体結晶層の結晶成長においては原料ガスのキャリアガスを窒素のみで(即ち、R=1.0として)構成した。このLED100の発光強度は、p型層107をR=1.0として形成した上記と同構成の他の試作品に比べて約2割程度向上していた。
【0102】
この様に、窒素分圧比Rを最適化して形成された、アクセプタ不純物とアルミニウムを有する III族窒化物系化合物半導体層は、LEDやLDの発光層の直上に形成することで当該発光層等に対し広いバンドギャップを有する半導体層として良好に作用する。また、アルミニウムを有するこの III族窒化物系化合物半導体層を非常に良質に形成することができたその他の理由としては、先の実施例2の製造方法に基づいて製造した、極めて良質の半導体結晶からなる結晶成長基板を基板101に用いたためだと考えられる。即ち、結晶成長基板の品質と結晶成長条件(窒素分圧比R)の各最適化の良好な相乗効果によって、上記のLED100の発光強度が約2割も向上したものと考えられる。
【0103】
また、上記のLED100に関し、−1000vの静電耐圧による耐性テストを実施したところ、従来よりも高い静電耐圧性能を検証することができた。この耐圧性能は、結晶成長基板101の転位密度が非常に低いことと、上記の膜厚300nmのアンドープのAl0.02Ga0.98N から成る層108を挿入したこととの相乗効果によって、得られたものと考えられる。
【0104】
更に、上記のLED100の構成は、次の点でも有利である。
(1)導電性基板を用いることによって、AlNバッファ層やアンドープGaN層やn+ 層などの従来のn+ 層積層工程以前の結晶成長工程が不要である。
(2)上下に電極を有するので、電極間の短絡が発生し難い。
(3)上下電極構造により、n+ 層にn電極を形成するためのドライエッチング工程が不要である。
(4)上下電極構造により、裏面のn電極自身で反射金属膜を兼ねることができる。
(5)上下電極構造により、上面の略全面を光取り出し面にすることができる。
(6)上下電極構造により、電流の密度分布が均一化されるため、発光ムラが発生し難くなる。
【実施例4】
【0105】
図7に、本実施例4のLED200の模式的な断面図を示す。このLED200には、結晶性に優れた透明なバルク状の厚さ約400μmの光素子基板201が用いられており、この上に、シリコン(Si)を1×1018/cm3ドープしたGaNから成る膜厚約5μmのn型コンタクト層204(高キャリヤ濃度n+層)が形成されている。
上記の光素子基板201は、先の実施例2の製造方法に従って製造された半導体単結晶からなり、シリコン(Si)が5×1018cm-3ドープされた厚さ約400μmのGaN結晶で構成されている。
【0106】
また、上記のn型コンタクト層204の上には、シリコン(Si)を1×1017/cm3ドープした膜厚25nmのn型Al0.15Ga0.85Nから成るn型層205が形成されている。更にその上には、膜厚3nmのアンドープIn0.2Ga0.8Nから成る井戸層2061と膜厚20nmのアンドープGaNから成る障壁層2062とを3ペア積層して多重量子井戸構造の発光層206が形成されている。
【0107】
更に、この発光層206の上には、Mgを2×1019/cm3ドープした膜厚25nmのp型Al0.15Ga0.85Nから成るp型層207が形成されている。p型層207の上には、膜厚47nmのアンドープGaNから成る層2081と膜厚49nmのアンドープAl0.25Ga0.75Nから成る層2082とを5ペア積層したDBR多重層208が形成されている。DBR多重層208の上には、Mgを8×1019ドープした膜厚100nmのp型GaNから成るp型コンタクト層209を形成した。
【0108】
又、p型コンタクト層209の上には金属蒸着による薄膜金属層211が形成されている。薄膜金属層211は、p型コンタクト層208に接合する膜厚約10Åのコバルト(Co)またはニッケル(Ni)より成る金属層で構成されている。正電極220は、膜厚約3000Åのロジウム(Rh)により形成した。尚、正電極220は銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、または、これらの金属を少なくとも1種類以上含んだ合金より成る金属層により構成しても良い。
【0109】
多層構造のn電極240は、n型コンタクト層204の一部露出された部分の上から、膜厚約18nmのバナジウム(V)より成る第1層241と膜厚約100nmのアルミニウム(Al)より成る第2層242とを積層させることにより構成されている。また、最上部には、SiO2膜より成る保護膜230が形成されている。
【0110】
上記のDBR多重層208の挿入作用により、LED200の発光出力は、当該DBR多重層208を持たない、他の略同等構造のLEDサンプルの発光出力の約1.4倍に向上した。
また、アンドープ半導体結晶層の多層構造から成るこのDBR多重層208の挿入作用により、順方向電圧で6000Vと言う極めて高い耐圧性能を得ることができた。また、この様な高い耐圧性能が得られたその他の要因の一つとして、結晶成長基板(光素子基板201)の転位密度が低いことをあげることができる。即ち、結晶成長基板の良質化とアンドープ半導体結晶層から成る多層構造(DBR多重層208)の挿入との相乗効果によって、上記の様な優れた耐圧性能が得られたものと考えられる。
【実施例5】
【0111】
図8は、本実施例5のLED300の断面図である。このLED300は、前述のLED200の光素子基板201と同一構造を有する光素子基板310の結晶成長面上に、n形コンタクト層330、静電耐圧部340、n形クラッド層350、MQW活性層360、p形クラッド層370、及びp形コンタクト層380を順次結晶成長させて得られたものである。ただし、上記の静電耐圧部340は、下側から無添加半導体層341、添加半導体層342、無添加半導体層343、及び添加半導体層344の順に、各半導体層を順次結晶成長によって積層したものである。この静電耐圧部340では、無添加半導体層341と添加半導体層342とで、本発明の1組目の耐電圧構造が構成されており、更に、無添加半導体層343と添加半導体層344とで本発明の2組目の耐電圧構造が構成されている。
【0112】
以下、上記のLED300の製造方法を、図8を用いて説明する。
上記のLED300の各半導体層は何れも、有機金属化合物気相成長法(MOVPE)による気相成長により結晶成長されたものである。ここで用いられたガスは、キャリアガス(H2 又はN2 )と、アンモニアガス(NH3 )と、トリメチルガリウム(Ga(CH3)3:以下「TMG」と書く。) と、トリメチルインジウム(In(CH3)3:以下「TMI」と書く。) と、トリメチルアルミニウム(Al(CH3)3:以下「TMA」と書く。) と、シラン(SiH4 )と、シクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C5 5 2 :以下「CP2 Mg」と書く。)などである。
ただし、これらの半導体層を結晶成長させる方法としては、上記の有機金属化合物気相成長法(MOVPE)の他にも、分子線気相成長法(MBE)、ハライド気相成長法(HVPE)等を用いることができる。
【0113】
(結晶成長面のクリーニング)
まず最初に、水素を流しながら、光素子基板310の温度を1050℃まで上昇させ、その結晶成長面のクリーニングを約5分間行う。
【0114】
(n形コンタクト層330)
次に、水素ガス(キャリアガス)とアンモニアガスを流しながら光素子基板310の温度を1100℃まで上昇させ、基板温度が1100℃になったら直ちに、原料ガスにTMG、アンモニアガス、不純物ガスにシランガスを用いて、Si濃度が4.5×1018〔cm-3〕のGaNよりなるn形コンタクト層330を4μmの膜厚で成長させる。
【0115】
(静電耐圧部340)
(1)無添加半導体層341
次に、シランガスのみを止め、1100℃で、TMG、アンモニアガスを用いて、アンドープGaNからなる無添加半導体層341を200nmの膜厚で成長させる。
(2)添加半導体層342
続いて、TMGを止めて、温度を850℃まで降下させる。850℃になったら、TMG及びシランガスを追加して、Siを4.5×1018〔cm-3〕ドープしたGaNからなる添加半導体層342を50nmの膜厚で成長させる。
なお、この無添加半導体層341と添加半導体層342の2層の半導体層によって、n形コンタクト層330の側から数えて1組目の本発明の耐電圧構造が構成される。
【0116】
(3)無添加半導体層343
その後、シランガスのみを止め、同温(850℃)にてアンドープGaNからなる無添加半導体層343を200nmの膜厚で成長させる。
(4)添加半導体層344
最後に、シランガスを追加し、同温(850℃)にてSiを4.5×1018〔cm-3〕ドープしたGaNからなる添加半導体層344を30nmの膜厚で成長させる。
なお、この無添加半導体層343と添加半導体層344の2層の半導体層によって、n形コンタクト層330の側から数えて2組目の本発明の耐電圧構造が構成される。
【0117】
(n形クラッド層350)
次に、シランガスとTMGを止めて、温度を1050℃まで上昇させる。1050℃になったら、TMGを追加し、アンドープGaNよりなる第1の窒化物半導体層を4nm成長させ、次に温度を800℃にして、TMG、TMI、アンモニアを用いて、アンドープIn0.13Ga0.87Nよりなる第2の窒化物半導体層を2nm成長させる。そしてこれらの操作を繰り返し、第1+第2の順で交互に10層づつ積層させ、最後にGaNよりなる第1の窒化物半導体層を4nm成長さた超格子構造の多層膜よりなるn形クラッド層350を64nmの膜厚で成長させる。
【0118】
(MQW活性層360)
次に、温度を800℃にして、膜厚20nmの無添加のGaNから成る障壁層と、膜厚3nmの無添加のIn0.2 Ga0.8 Nから成る井戸層とを交互に積層して構成されるMQW活性層360を成長させる。
【0119】
(p形クラッド層370)
次に、温度1050℃でTMG、TMA、アンモニア、CP2 Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用い、Mgを1×1020〔cm-3〕ドープしたp形Al0.2 Ga0.8 Nよりなる第3の窒化物半導体層を4nmの膜厚で成長させ、続いて温度を800℃にして、TMG、TMI、アンモニア、CP2 Mgを用いて、Mgを1×1020〔cm-3〕ドープしたIn0.03Ga0.97Nよりなる第4の窒化物半導体層を2.5nmの膜厚で成長させる。そしてこれらの操作を繰り返し、第3+第4の順で交互に5層ずつ積層し、最後に第3の窒化物半導体層を4nmの膜厚で成長させた超格子構造の多層膜よりなるp形クラッド層370を36.5nmの膜厚で成長させる。
【0120】
(p形コンタクト層380)
続いて、1050℃でTMG、アンモニア、CP2 Mgを用いて、Mgを1×1020〔cm-3〕ドープしたp形GaNよりなるp形コンタクト層380を70nmの膜厚で成長させる。
【0121】
その後、最上層のp形コンタクト層380の表面に所定の形状のマスクを形成し、RIE(反応性イオンエッチング)装置でp形コンタクト層380側からエッチングを行い、図1に示すようにn形コンタクト層330の一部を露出させる。
【0122】
次に、p形コンタクト層380の上には透光性のp電極391aを蒸着し、また、n形コンタクト層330上にはn電極392を蒸着する。このp電極391aは、p形コンタクト層380に直接接合する膜厚約1.5nmのコバルト(Co)より成る第1層と、このコバルト膜に接合する膜厚約6nmの金(Au)より成る第2層とを順次積層することにより構成する。
更に、透光性のp電極391aの上に蒸着するpパッド電極391bは、膜厚約18nmのバナジウム(V)より成る第1層と、膜厚約1.5μmの金(Au)より成る第2層と、膜厚約10nmのアルミニウム(Al)より成る第3層とを順次積層することにより構成する。
一方、多層構造のn電極392は、n形コンタクト層330の一部露出された部分の上から、膜厚約18nmのバナジウム(V)より成る第1層と、膜厚約100nmのアルミニウム(Al)より成る第2層とを順次積層することにより構成する。
【0123】
なお、透光性のp電極391aの露出面や、エッチングなどによって露出した各半導体層の側壁面などには、SiO2膜より成る保護膜を形成しても良い。また、サファイア基板310の底面に当たる外側の最下部には、例えば膜厚約500nmのアルミニウム(Al)より成る反射金属層を蒸着しても良い。この様な反射金属層を形成する場合には、その材料として、Rh、Ti、Wなどの金属の他にも、例えばTiN、HfNなどの窒化物を用いても良い。
【0124】
以上の様にして作成されたLED300の発光ピーク波長は約470nm(青色発光)で、順方向電流20mAにおける駆動電圧Vfは約3.5vであった。このLED300に対して、1000v〜1800vの逆向きの静電圧を印加する耐久テスト(:人体モデル(HBM)のESD試験)を実施した。その時の各静電圧に対するLED300の生存率は、何れの場合も80%を上回って従来よりも大幅に高い値を示した。
【0125】
この従来よりも格段に優れた耐圧性能は、静電耐圧部340に依るところが非常に大きいが、また、この様な高い耐圧性能が得られたその他の要因の一つとして、結晶成長基板(光素子基板310)の転位密度が低いことをあげることができる。即ち、結晶成長基板の良質化と静電耐圧部340との相乗効果によって、上記の様な優れた耐圧性能が得られたものと考えられる。
【0126】
〔その他の変形例〕
本発明の実施形態は、上記の形態に限定されるものではなく、その他にも以下に例示される様な変形を行っても良い。この様な変形や応用によっても、本発明の作用に基づいて本発明の効果を得ることができる。
【0127】
(変形例1)
例えば、上記の実施例3では、多重量子井戸層106を形成したが、上記実施例3の様なp型AlGaN層を有するLEDにおいては、その発光層は、例えば単層、単一量子井戸構造(SQW)、多重量子井戸構造(MQW)などの任意の構成をとることができる。また、特に、その発光層を多重量子井戸構造とする場合は、少なくともインジウム(In)を含む適当な組成比の III族窒化物系化合物半導体Aly Ga1-y-z Inz N(0 ≦y <1, 0<z ≦1)から成る井戸層をその発光層中に形成すると良い。
また、上記の様なp型AlGaN層を有するこれらの構造は、LDなどのその他の光素子に応用しても良い。
【0128】
(変形例2)
また、上記の実施例5のLED300と同様の静電耐圧構造(光素子基板310や静電耐圧部340など)は、従来の半導体レーザなどに対しても勿論非常に有用になる。即ち、周知の電流狭窄構造や光ガイド層などを備えるそれらの半導体レーザにおいても、上記の静電耐圧構造と同様の構造を備えることによって静電耐圧性能を格段向上させることができる。
【0129】
また、例えば端面発光型の半導体レーザを製造する場合には、共振器の端面が劈開によって綺麗に形成できることが重要となるため、結晶品質の高い結晶成長基板(本願発明の光素子基板)を用いることは格段に有利である。また、これらの半導体レーザの出力光は、出力前に反射によって共振器中を多数回往復するので、共振器自身の透明性を高める観点からも本願発明の光素子基板を用いることは格段に有利となる。
【0130】
(変形例3)
また、例えば「特開2000−174323:GaN系半導体受光素子」などに例示がある様に、所謂PIN構造を有する半導体受光素子が一般に公知であるが、これらの従来の受光素子の内部量子効率を向上させる上でも、外部量子効率を向上させる上でも、静電耐圧性能、寿命、歩留などを改善する上でも、転位密度や透明性などの結晶品質に極めて優れた本願発明の光素子基板を用いることは非常に有利になる。
【0131】
また、本願発明の光素子基板に容易かつ任意に備えることができる導電性に基づいて、これらの受光素子に前述の実施例3のLED100と同様の上下電極構造を与えれば、それらの受光素子についても、以下の利点を備えることができる。
(1)導電性基板を用いることによって、AlNバッファ層やアンドープGaN層やn+ 層などの従来のn+ 層積層工程以前の結晶成長工程が不要である。
(2)上下に電極を有するので、電極間の短絡が発生し難い。
(3)上下電極構造により、n+ 層にn電極を形成するためのドライエッチング工程が不要である。
(4)上下電極構造により、裏面のn電極自身で反射金属膜を兼ねることができる。
(5)上下電極構造により、上面の略全面を受光面にすることができる。
(6)上下電極構造により、電流の密度分布が均一化されるため、受光ムラが発生し難くなる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、 III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶を用いた半導体デバイスの製造に有用である。これらの半導体デバイスとしては、例えばLEDやLDなどの発光素子や受光素子等以外にも、例えばFETなどのその他一般の半導体デバイスを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】実施例1で用いる結晶成長装置の断面図
【図2−A】実施例1で用いる結晶成長装置の動作を例示する断面図
【図2−B】実施例1で用いる結晶成長装置の動作を例示する断面図
【図2−C】実施例1で用いる結晶成長装置の動作を例示する断面図
【図3】実施例2のテンプレート10の作成工程における断面図
【図4−A】実施例2で用いる結晶成長装置の構成図
【図4−B】実施例2で用いる結晶成長装置の部分的な断面図
【図5−A】実施例2の半導体結晶の結晶成長工程における断面図
【図5−B】実施例2の半導体結晶の結晶成長工程における断面図
【図5−C】実施例2の半導体結晶の結晶成長工程における断面図
【図6】実施例3のLED100の断面図
【図7】実施例4のLED200の断面図
【図8】実施例5のLED300の断面図
【符号の説明】
【0134】
2 : 反応室
3 : 反応容器
8 : 種結晶
9 : 混合フラックス
H : ヒータ
10 : テンプレート
20 : 半導体基板
100 : LED
101 : 半導体基板
107 : p型AlGaN層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の中から選択された複数種類の金属元素を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる光素子基板の製造方法において、
前記混合フラックスと前記 III族元素とを攪拌混合しながら前記 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる
ことを特徴とする光素子基板の製造方法。
【請求項2】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の中から選択された複数種類の金属元素を有する混合フラックスの中で、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)又はインジウム(In)の III族元素と窒素(N)とを反応させることによって、 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる光素子基板の製造方法において、
前記 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる下地基板の少なくとも一部に、前記混合フラックスに溶解する可溶材料を用い、
前記可溶材料を
前記 III族窒化物系化合物半導体結晶の結晶成長工程中に、または、
前記 III族窒化物系化合物半導体結晶の結晶成長工程後にその成長温度付近で、
前記混合フラックス中に溶解させる
ことを特徴とする光素子基板の製造方法。
【請求項3】
前記可溶材料は、少なくともその一部に、
前記 III族窒化物系化合物半導体結晶の中に添加すべき不純物を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の光素子基板の製造方法。
【請求項4】
前記混合フラックスと前記 III族元素とを攪拌混合しながら前記 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の光素子基板の製造方法。
【請求項5】
前記混合フラックスは、
リチウム(Li)又はカルシウム(Ca)、並びにナトリウム(Na)を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の光素子基板の製造方法。
【請求項6】
種結晶または前記下地基板の結晶成長面を、
前記 III族窒化物系化合物半導体結晶を結晶成長させる前に、
水素(H2 )ガス、窒素(N2 )ガス、アンモニア(NH3 )ガス、希ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、またはRn)またはこれらのガスのうちから2種類以上のガスを任意の混合比で混合した混合ガスをクリーニングガスとして、
900℃以上1100℃以下の温度で、
1分以上の時間を掛けて、
クリーニング処理する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の光素子基板の製造方法。
【請求項7】
前記混合フラックスは、
前記 III族窒化物系化合物半導体結晶の中に添加すべき不純物として、
ボロン(B)、タリウム(Tl)、カルシウム(Ca)、カルシウム(Ca)を含む化合物、珪素(Si)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、炭素(C)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、アルミナ(Al2 3 )、窒化インジウム(InN)、窒化珪素(Si3 4 )、酸化珪素(SiO2 )、酸化インジウム(In2 3 )、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、またはゲルマニウム(Ge)を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の光素子基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の光素子基板の製造方法により製造された光素子基板であって、
表面の転位密度が1×105 cm-2以下であり、最大径が1cm以上である
ことを特徴とする光素子基板。
【請求項9】
厚さが300μm以上である
ことを特徴とする請求項8に記載の光素子基板。
【請求項10】
結晶成長基板の上に III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶層を複数層積層することによって構成される半導体発光素子において、
前記結晶成長基板は、
請求項8または請求項9に記載の光素子基板から構成されている
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項11】
結晶成長基板の上に III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶層を複数層積層することによって構成される半導体受光素子において、
前記結晶成長基板は、
請求項8または請求項9に記載の光素子基板から構成されている
ことを特徴とする半導体受光素子。
【請求項12】
III族窒化物系化合物半導体からなる発光層と、
窒素分圧比が40%以上80%以下の水素(H2 )と窒素(N2 )の混合気体からなるキャリアガスを用いた結晶成長処理によって前記発光層の上に積層された、アルミニウムとアクセプタ不純物とを含有する III族窒化物系化合物半導体結晶層と
を有する
ことを特徴とする請求項10に記載の半導体発光素子。
【請求項13】
結晶成長基板の上に III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶層を複数層積層することによって構成される半導体発光素子の製造方法において、
III族窒化物系化合物半導体からなる透明なバルク状の半導体結晶から前記結晶成長基板を構成し、
アルミニウムとアクセプタ不純物とを含有する半導体結晶層を、
窒素分圧比が40%以上80%以下の水素(H2 )と窒素(N2 )の混合気体からなるキャリアガスを用いた結晶成長処理によって、
発光層の上に積層する
ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【請求項14】
少なくとも一方のコンタクト層と活性層との間に前記コンタクト層の側から、アンドープの無添加半導体層、不純物が添加された添加半導体層の順で、2層1組にて構成された複数組の耐電圧構造を有する
ことを特徴とする請求項10または請求項11に記載の光素子。
【請求項15】
前記コンタクト層は、
n形のコンタクト層であり、
前記不純物は、
n形の不純物である
ことを特徴とする請求項14に記載の光素子。
【請求項16】
組成比の相異なる複数のアンドープの III族窒化物系化合物半導体結晶層を他の2つのp型層の間に交互に繰り返し積層することによって形成されたDBR多重層を有する
ことを特徴とする請求項10に記載の半導体発光素子。
【請求項17】
前記DBR多重層は、
複数のアンドープのGaN結晶層と、
複数のアンドープのAlx Ga1-x N結晶層(0<x<1)と
から形成されている
ことを特徴とする請求項16に記載の半導体発光素子。
【請求項18】
結晶成長基板の上に III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶層を複数層積層することによって構成される半導体光素子の製造方法において、
請求項8または請求項9に記載の光素子基板の結晶成長面を、
III族窒化物系化合物半導体からなる半導体結晶層を結晶成長させる前に、
水素(H2 )ガス、窒素(N2 )ガス、アンモニア(NH3 )ガス、希ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、またはRn)またはこれらのガスのうちから2種類以上のガスを任意の混合比で混合した混合ガスをクリーニングガスとして、
900℃以上1100℃以下の温度で、
1分以上の時間を掛けて、
クリーニング処理する
ことを特徴とする半導体光素子の製造方法。

【図1】
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【図2−A】
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【図2−B】
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【図2−C】
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【図3】
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【図4−A】
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【図4−B】
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【図5−A】
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【図5−B】
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【図5−C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−246341(P2007−246341A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72748(P2006−72748)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】