説明

光CVD装置

【課題】成膜材料のマスクパターンへの付着を低減し、大型の被処理基板の成膜にも好適な光CVD装置を提供する。
【解決手段】処理室と、該処理室内に設けられ、被処理体を載置するための基板載置部と、載置された前記被処理体の表面にVUV光を照射するためのVUV光源を備えた光CVD装置であって、前記処理室の内部に、更に、前記被処理体の表面に接触して配置されるマスクを設け、このマスクの本体201には、梁202と共に、成膜用ガスの付着を抑制する温度(100℃)に前記マスクを保持するための熱線203が一体に設けられ、又は、フレーム205にも前記マスクの温度を当該温度に保持するための熱線や加熱配管が一定に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光などの光を用いた基板処理技術に関し、特に、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイや有機EL照明、有機薄膜太陽電池の製造において用いられる封止技術や表面平坦化技術等に使用される光CVD(Chemical Vapor Deposition)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイや有機EL照明の製造においては、製造した有機EL素子を、最終段階でガラス封止するが、最終段階に至る工程途中においては、酸化珪素膜(SiO膜)や窒化珪素膜(SiN膜)等のバリア膜を用いて仮封止が行われる。この仮封止においては、10−1g/m・day程度の水蒸気透湿度が要求され、また、低温でバリア膜を形成することが要求される。特に、近年、被処理基板が大型化しており、例えば1500mm×1800mm以上の大型基板にも対応する必要がある。
【0003】
低温でCVD法により成膜する技術として、光CVD法が既に知られている。この光CVD法においては、例えば、処理室の上部に石英製の光透過窓を設け、光透過窓の外側にキセノンランプ等の光源を設け、処理室内へ処理用ガスを導入するとともに、光透過窓を介して光源からの光を、処理室内の被処理基板に照射し、被処理基板にCVD膜を堆積するものである。
【0004】
かかる光CVD法に関し、下記の特許文献1には、光透過窓の厚さを薄くするため、複数の光透過窓を用いた基板処理装置において、半導体の被処理基板を移動させながら、光透過窓を介して、光源からの光を被処理基板に照射して、被処理基板を処理する技術が開示されている。
【0005】
下記の特許文献2には、光源とウェハとの間、特に、チャンバの上面を構成する石英ガラスなどの透明物体と前記光源との間に、遮光板を設け、当該遮光板により形成される開口部を通して紫外線をウェハに照射することにより、当該ウェハ内の異なる部分に異なる種類又は厚さの膜を形成する光CVD装置が開示されている。
【0006】
また、下記の特許文献3によれば、反応室内において、テーパ状の多数の孔を形成した仕切板を被処理体の上方に配置することにより、窓板の汚染を防止するものが開示されている。
【0007】
更には、下記の特許文献4によれば、光CVD装置内に、光の照射部を設け、当該照射部からの光を被処理体である基板の表面にマスクを介して照射することにより、CVD膜を選択的に形成する方法も既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−146811号公報
【特許文献2】特開平6−310434号公報
【特許文献3】特開平4−37117号公報
【特許文献4】特開平1−290770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来技術は、主に、半導体装置を形成するためのものであることから、シリコンウェハサイズの被処理体に成膜を施すためのものであり、上述したような大型の被処理基板については十分な検討は行われていなかった。
【0010】
特に、有機ELディスプレイや有機EL照明、有機薄膜太陽電池では、被処理基板が大型化しており、そのため、光CVDによる成膜時において、基板と、所定のパターンを形成したマスクとの間のギャップ精度を、所定の値に維持することが、重要な要素となる。即ち、このギャップが不均一である場合、光の回り込みによりパターニング精度が低下してしまう。また、成膜材料は、被処理基板だけではなく、マスクやパターン(以下、「マスクパターン」と総称する)にも付着し、この付着が多い場合には、成膜材料の無駄となるだけではなく、生産時、即ち、光CVD装置を稼動している期間において、上述したマスクパターンを交換してクリーニングする回数が増加してしまい、これでは、その生産性が著しく低下してしまうという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上述した従来技術における問題点に鑑みて達成されたものであり、特に、成膜材料のマスクパターンへの付着を低減し、大型の被処理基板の成膜にも好適な光CVD装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、まず、内部に被処理体を収納し、かつ、減圧が可能であり、当該減圧下で前記被処理体の表面に成膜するための成膜用ガスが導入される処理室と、前記処理室内に設けられ、前記被処理体を載置するための基板載置部と、前記基板載置部上に載置された前記被処理体の表面に光を照射するための光源とを備え、前記被処理体の表面に成膜を行う光CVD装置において、前記処理室の内部に、更に、前記被処理体の表面に接触して配置されるマスクを設けており、そして、当該マスクは、当該マスクの温度を、前記成膜用ガスの付着を抑制する温度に保持するための手段を備えた光CVD装置が提供される。
【0013】
また、本発明では、前記に記載した光CVD装置において、前記マスクは、その一部に梁を取り付けており、そして、前記温度保持手段としての熱線を、当該梁の一部に、一体に設けていることが好ましく、又は、前記マスクは、その周囲にフレームを備えており、更に、当該フレームにも、当該マスクの温度を前記成膜用ガスの付着を抑制する温度に保持するための手段を備えていることが好ましく、更には、前記フレームの一部には、前記温度保持手段として、熱線、又は/及び、加熱配管を、当該フレームと一体に設けることが好ましい。
【0014】
加えて、本発明では、前記に記載した光CVD装置において、前記基板載置部の前記被処理体との接触面側には、緩衝材を取り付けると共に、前記マスクの前記被処理体との接触面側には、スペーサを取り付けて基板への熱伝導を防止することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
即ち、上述した本発明によれば、特に、大型の被処理基板の成膜において、成膜材料の当該マスクへの付着を抑制し、成膜材料の無駄を抑制することが可能となると共に、成膜処理を行っている期間においても、マスクを交換してクリーニングする回数の増加を大幅に低減することが可能であり、生産性をも著しく向上することが可能な実用的にも優れた光CVD装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態になる光CVD装置(縦型と横型)の概略構成を示す図である。
【図2】上記光CVD装置の特徴であるマスクの詳細構造を示す、一部断面を含む展開斜視図である。
【図3】上記マスクの変形例の構造を示す、一部断面を含む展開斜視図である。
【図4】上記光CVD装置の動作の一例を示すフローチャート図である。
【図5】上記光CVD装置における基板とマスクとがコンタクト(接触)した際の状態を説明するための一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態になる光CVD装置について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
まず、添付の図1には、本発明が適用される光CVD装置の全体構成が示されており、特に、図1(A)は縦型の光CVD装置の構成を、そして、図1(B)は横型の光CVD装置の構成をそれぞれ示している。
【0019】
図1(A)において、符号10は、その内部において、被処理体である、例えば、有機ELディスプレイや有機EL照明、有機薄膜太陽電池など、大型の基板11を処理する処理室であり、その内部は、基板処理時には減圧される。また、処理室10の内部には、その表面上に基板11を載置する基板載置部として、冷却盤12と緩衝材13とが設けられており、より具体的には、板状の冷却盤12の一方の表面上に、やはり板状の緩衝材13を取り付けて形成されている。なお、この冷却盤12は、所謂、水循環式の冷却盤であり、その内部には、冷却用配管121が内蔵されており、例えば、水等の冷媒をその内部に循環することにより、基板11を冷却している。なお、基板11を冷却する理由としては、光CVD法を用いる場合、高温部には成膜されないためであり、当該冷却機構により、その表面に載置した基板11を、その表面上の成膜が促進される温度にまで冷却する。また、上記の緩衝材13としては、復元弾性力に優れ、かつ、熱伝導に優れた素材で形成されることが好ましい。
【0020】
また、処理室10の内部には、以下に詳細を述べるマスク20が、上記基板載置部に載置された基板11の表面に対向するように配置されている。なお、符号21は、当該マスク20が基板11と接触する面側に設けられたスペーサを示しており、より具体的には、例えば、粒径の揃ったプレスチックのボールや、フォトリソグラフにより形成したスペーサであり、断熱効果を備えた素材により形成されることが好ましい。これは、不要成膜抑制の為のマスクの熱を、基板に伝えないためである。
【0021】
なお、この例では、上記冷却盤12と緩衝材13からなる基板載置部を、処理室10の内部に固定して配置し、他方、上記のマスク20は、処理室10の外部に配置された駆動部14により、図に白抜きの矢印で示すように、基板11の表面に対して近接又は離間する方向への移動、基板の表面のX、Y方向への移動が可能となっており、更には、X−Y面内の回転角θの補正も可能となっている。
【0022】
また、処理室10の一部(図1(A)では側壁、図1(B)では天井壁)には、例えば、合成石英からなる透明窓部15が取り付けられており、当該窓部に対向した位置には、VUV光(真空紫外光)を基板11に照射するためのVUV光源16が配置されている。また、図中の符号17は、これら駆動部15やVUV光源16の動作を制御するための制御部である。更に、図中の符号18は、内部にレーザ光源を備え、レーザ変位計としても機能すると共に、撮像装置としての機能をも備えたCCDカメラユニットであり、これにより基板11とマスク20の表面を観察しながら、当該マスク20を基板11上の所定の位置に移動する。なお、その出力は演算部19を介して上記制御部17へ送られる。また、ここでは図示しないが、処理室10の一部には、更に、バルブ等が設けられており、これにより、減圧下で、処理室10の内部にキャリアガスを含む成膜用ガスが導入されることは、当業者であれば明らかであろう。
【0023】
図1(B)に示す横型の光CVD装置も、上記の縦型と同様の構成要件により構成されているが、しかしながら、この横型では、図からも明らかなように、基板11、冷却盤12と緩衝材13からなる基板載置部は、横方向に配置されると共に、透明窓部15は、処理室10の天井壁に取り付けられ、そして、VUV光源16も、CCDカメラ18と共に、処理室10の上方に配置されている。更に、本実施例では、上記の構成とは異なり、マスク20を処理室10の内部に固定して配置し、他方、上記冷却盤12と緩衝材13からなる基板載置部を移動可能としている。即ち、基板載置部が、基板11の表面に対して、近接又は離間する方向、及び、基板の表面のX、Y方向へ移動可能とし、そして、回転角θの補正も可能となっている。
【0024】
続いて、添付の図2により、上述したマスク20の詳細な構造について説明する。まず、金属の薄板に所定のパターン(開口部)を形成してマスク本体201を製作する。このマスクの製作の後に、その形状を幾何学的に解析し、その結果、その強度を保持するに十分な梁202を作成し、上記マスク20の一方の面に取り付ける。なお、これは、上述したように、有機ELディスプレイや有機EL照明、有機薄膜太陽電池など、大型の基板11を処理する工程において採用される本発明の光CVD装置では、そのマスク20も、当該基板の大型化に伴って大型化するためであり、その結果、当該梁202の採用により、マスク20を上記処理室10内において移動し、又は、その表面に基板11を載置することが可能となる。なお、この梁202の断面は、その一部断面を図に示すように、「コ」の字状になっている。
【0025】
続いて、上述した梁202の一部、即ち、上記断面「コ」の字状の部分の内部に、例えば、ニクロム線などの熱線203を挿入する。なお、この図に示す例では、当該熱線203を、枠(口)状の部分と、十字状の部分に分け、これらを上記断面「コ」の字状の部分に挿入する。その後、これらを一体化して、更に、フレーム205に嵌めこんで完成する。なお、図中の符号204は、熱線203の端子部(コネクタ)を、そして、206は、これらの端子部(コネクタ)をフレームの外部へ取り出すための貫通穴を示している。
【0026】
上述したマスク20の構成によれば、上述したように、ますます大型化するマスクにとって必要となる梁202を利用することにより、当該マスク20の温度を一定に調整することが、同時に可能となる。
【0027】
なお、上記の例では、梁202の断面「コ」の字状の部分に熱線203を挿入する例について説明したが、しかしながら、本発明はこれに限定されることなく、即ち、熱線に代えて、例えば、梁202の一部に高抵抗の薄膜を塗布(コーティング)により形成(配線)することによっても、同様の効果を得ることが出来る。
【0028】
更に、添付の図3は、上述したマスクを構成するフレームの他の変形例になる構成を示しており、この変形例では、図からも明らかなように、当該フレーム205’の内部に、更に、例えば、温水や加熱した気体などの流体を循環するための加熱用配管207、及び/又は、熱線208を組み込んだものである。なお、かかるフレーム205’の構造によれば、上記マスク20だけではなく、そのフレームをも含め、全体の温度を、適宜、一定に調整することが可能となる。
【0029】
次に、上述したマスク20を備えた本発明になる光CVD装置の動作の一例について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0030】
装置が動作を開始すると、まず、被処理体である大型の基板11を、ここでは図示しないロボット等により、装置の内部に搬送する(工程S41)。その後、図示しない位置決めピンなどにより、基板の粗アラインメントを行い(工程S42)、更に、上記CCDカメラ18が備えるレーザ変位計により、基板11の表面と緩衝材13表面との間のギャップを測定する(工程S43)。その後、基板11及び/又はマスク20を撮影可能なギャップ位置への移動(Z軸移動)を行い(工程S44)、カメラにより、基板11及び/又はマスク20の位置の撮影を行う(工程S45)。その後、基板11又はマスク20の駆動により、精アラインメント(X、Y、θ移動)を行い(工程S46)、更に、基板11又はマスク20を駆動(Z移動)することにより、当該基板11とマスク20とのコンタクト(接触)を行い(工程S47)、その後、成膜処理へと移行する。
【0031】
なお、上述したマスク20、更には、緩衝材13を備えた基板載置部の構成によれば、上述した工程S35において基板11とマスク20とのコンタクト(接触)を行った際、添付の図5に示すように、即ち、基板との接触面にスペーサ21を備えたマスク20によれば、当該マスクを基板11に押し付けることにより、マスク20と基板11は、互いに、その歪に沿って、その断面形状を合わせることが出来る。これによれば、マスク20と基板11との間のギャップを均一にすることにより、パターニングの精度を大幅に向上することが可能となる。なお、このことは、有機ELディスプレイや有機EL照明、有機薄膜太陽電池など、大型の基板11を処理する工程においては、特に、有利であろう。
【0032】
そして、成膜処理では、上記処理室10の減圧された内部空間に、例えば、TEOS(Tetra Ethoxy Silane)やOMTS(Octo methyl cyclotetrasiloxane)などの成膜用ガスが導入され、上記VUV光源16からのVUV光の照射に伴って、基板11表面には、マスク20のパターン形状に従って成膜が行われるが、この時、上記マスク20を構成する熱線203に電力を供給する。このことによれば、マスク20全体を、上記TEOS又はOMTSの成膜速度が大幅に抑制される温度、例えば、100℃にまで加熱することにより、TEOSのマスク20上での成膜を抑制することが可能となる。即ち、上述した構造のマスク20を採用することにより、成膜材料の当該マスク20への付着を抑制し、成膜材料の無駄を抑制することが可能となる。更に、大型基板への成膜処理を行う際、即ち、光CVD装置を稼動している期間においても、マスクを交換してクリーニングする回数の増加を大幅に低減することが可能であり、換言すれば、その生産性をも著しく向上することとなる。
【符号の説明】
【0033】
10…処理室、11…基板、12…冷却盤、13…緩衝材、14…駆動部、16…VUV光源、20…マスク、201…マスク本体、202…梁、203、208…熱線、205,205’…フレーム、207…加熱用配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に被処理体を収納し、かつ、減圧が可能であり、当該減圧下で前記被処理体の表面に成膜するための成膜用ガスが導入される処理室と、
前記処理室内に設けられ、前記被処理体を載置するための基板載置部と、
前記基板載置部上に載置された前記被処理体の表面に光を照射するための光源とを備え、前記被処理体の表面に成膜を行う光CVD装置において、
前記処理室の内部に、更に、前記被処理体に対向して配置されるマスクを設けており、そして、
当該マスクは、当該マスクの温度を、前記成膜用ガスの付着を抑制する温度に保持するための手段を備えていることを特徴とする光CVD装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載した光CVD装置において、前記マスクは、その一部に梁を取り付けており、そして、前記温度保持手段を、当該梁の一部にも設けていることを特徴とする光CVD装置。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載した光CVD装置において、前記マスクは、その周囲にフレームを備えており、更に、当該フレームにも、当該マスクの温度を前記成膜用ガスの付着を抑制する温度に保持するための手段を備えていることを特徴とする光CVD装置。
【請求項4】
前記請求項2又は3に記載した光CVD装置において、前記梁又は前記フレームの一部には、前記温度保持手段として、熱線、又は/及び、加熱用配管を、当該梁又は当該フレームと一体に設けていることを特徴とする光CVD装置。
【請求項5】
前記請求項1に記載した光CVD装置において、前記基板載置部の前記被処理体との接触面側には、緩衝材を取り付けると共に、前記マスクの前記被処理体との接触面側には、スペーサを取り付けたことを特徴とする光CVD装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−15163(P2012−15163A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147457(P2010−147457)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】