説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、プレイグニッションが発生した場合に、その発生要因に応じて適切な制御を実施することを目的とする。
【解決手段】ECU40は、プレイグニッション検出装置36を備える。そして、プレイグニッションを検出した場合には、エンジン回転数に応じてプレイグニッションの発生要因が異なることを利用して、エンジン回転数に基いて個々の発生要因に応じた制御を実行する。即ち、低回転領域では、プレイグニッションの発生要因であるオイルの自着火を低減するための制御を実行する。中回転領域では、点火プラグ24の電極部での熱面着火を低減するための制御を実行する。また、高回転領域では、点火プラグ24のポケット内での熱面着火を低減するための制御を実行する。これらの制御により、各種の運転状態において、プレイグニッションを効果的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、プレイグニッションを検出する構成とした内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開平11−93757号公報)に開示されているように、筒内の混合気が点火される前に自着火する現象(プレイグニッション)を検出する構成とした内燃機関の制御装置が知られている。従来技術では、ノッキングの発生に対処して点火時期を遅角したにも拘らず、ノッキングが解消されない場合に、この状態をプレイグニッションが発生したものとして検出する。そして、プレイグニッションが発生した気筒では、燃料噴射量や吸入空気量を減少させ、出力を低下させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−93757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来技術では、ノッキングの継続状態に基いてプレイグニッションが発生した気筒を検出し、当該気筒の出力を低下させる構成としている。しかしながら、プレイグニッションは各種の要因によって発生するものであり、発生要因を考慮しない一律の制御では、これを効率よく抑制するのが難しい。即ち、従来技術のように、単にプレイグニッションの有無を検出して出力を低下させるだけの方法では、十分な抑制効果が得られないという問題がある。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、プレイグニッションが発生した場合に、その発生要因を推定し、発生要因に応じて適切な制御を実施することが可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、内燃機関の機関回転数を取得する回転数取得手段と、
内燃機関の燃焼室内で発生するプレイグニッションを検出するプレイグニッション検出手段と、
前記プレイグニッション検出手段によりプレイグニッションが検出された場合に、前記機関回転数に基いてプレイグニッションの発生要因を推定する発生要因推定手段と、
プレイグニッションが検出された場合に、前記発生要因推定手段により推定した発生要因に基いて個々の発生要因に応じた制御を実行し、プレイグニッションを抑制するプレイグニッション抑制手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明によると、前記発生要因推定手段は、プレイグニッションの発生要因がそれぞれ異なる領域として設定された複数の回転数領域を備え、前記機関回転数が何れの回転数領域に属するかを判定することにより前記発生要因を推定する構成としている。
【0008】
第3の発明によると、前記プレイグニッション抑制手段は、前記発生要因推定手段により前記機関回転数が所定の低回転判定値以下であると判定された場合に、前記機関回転数を上昇させる低回転領域の回転数制御手段を備える構成としている。
【0009】
第4の発明は、前記燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射手段を備え、
前記プレイグニッション抑制手段は、前記発生要因推定手段により前記機関回転数が所定の低回転判定値以下であると判定された場合に、前記燃料噴射手段により圧縮行程で燃料を噴射する圧縮行程燃料噴射手段を備える構成としている。
【0010】
第5の発明によると、前記プレイグニッション抑制手段は、前記発生要因推定手段により前記機関回転数が所定の低回転判定値よりも高く、かつ所定の高回転判定値以下であると判定された場合に、前記機関回転数を上昇させる中回転領域の回転数制御手段を備える構成としている。
【0011】
第6の発明は、前記燃焼室内に気流を発生させる気流発生手段を備え、
前記プレイグニッション抑制手段は、前記発生要因推定手段により前記機関回転数が所定の低回転判定値よりも高く、かつ所定の高回転判定値以下であると判定された場合に、前記気流発生手段により前記燃焼室内に気流を発生させる気流制御手段を備える構成としている。
【0012】
第7の発明によると、前記プレイグニッション抑制手段は、前記発生要因推定手段により前記機関回転数が所定の高回転判定値よりも高いと判定された場合に、前記機関回転数を低下させる高回転領域の回転数制御手段を備える構成としている。
【0013】
第8の発明によると、前記プレイグニッション抑制手段は、前記発生要因推定手段により前記機関回転数が所定の高回転判定値よりも高いと判定された場合に、燃料噴射量を増量させる噴射増量手段を備える構成としている。
【0014】
第9の発明は、内燃機関の出力を一定とした状態でトルクと機関回転数との比率を調整することが可能な調整手段を備え、
前記回転数制御手段は、前記調整手段により一定の出力を維持しつつ前記機関回転数を変化させる構成としている。
【0015】
第10の発明は、プレイグニッションの発生履歴がある運転領域で再び運転が行われるのを回避するプレイグニッション再発回避手段を備える構成としている。
【0016】
第11の発明は、プレイグニッションが発生したことを報知する報知手段を備える構成としている。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、発生要因推定手段は、機関回転数に応じてプレイグニッションの発生要因が異なることを利用して、機関回転数に基いて発生要因を推定することができる。これにより、プレイグニッション抑制手段は、プレイグニッションの発生要因に対応して、これを抑制するための適切な制御を実行することができる。従って、各種の運転状態において、プレイグニッションを効果的に抑制することができる。
【0018】
第2の発明によれば、発生要因推定手段は、機関回転数が何れの回転数領域に属するかを判定することにより、プレイグニッションの発生要因を推定することができる。
【0019】
第3の発明によれば、低回転領域では、筒内に流入したオイルが点火前に自着火することにより、プレイグニッションが誘発されることが多い。これに対し、低回転領域の回転数制御手段は、機関回転数を上昇させることにより、オイルが筒内で反応する時間を短縮することができる。従って、筒内でのオイルの自着火を低減し、低回転領域でのプレイグニッションを効果的に抑制することができる。
【0020】
第4の発明によれば、圧縮行程燃料噴射手段は、圧縮行程で筒内に燃料を直接噴射し、この噴射燃料により過熱したオイルの冷却(消火)を効率よく行うことができる。従って、低回転領域でのオイルの自着火を抑制することができる。
【0021】
第5の発明によれば、中回転領域では、筒内の混合気が点火プラグの電極部に接触して熱面着火することにより、プレイグニッションが発生することが多い。これに対し、中回転領域の回転数制御手段は、機関回転数を上昇させることにより、筒内でのガス流動を強くしてプラグの電極温度を低下させることができる。従って、プラグ電極部での熱面着火を低減し、中回転領域でのプレイグニッションを効果的に抑制することができる。
【0022】
第6の発明によれば、気流制御手段は、中回転領域で筒内に気流を発生させることにより、ガス流動を強化することができる。これにより、プラグの電極部を効率よく冷却し、混合気の熱面着火を抑制することができる。
【0023】
第7の発明によれば、高回転領域では、点火プラグのポケット内で混合気が熱面着火し、プレイグニッションが発生することが多い。これに対し、高回転領域の回転数制御手段は、機関回転数を低下させることにより、点火プラグのポケット内の温度を低下させることができる。これにより、ポケット内での熱面着火を低減し、高回転領域でのプレイグニッションを効果的に抑制することができる。
【0024】
第8の発明によれば、噴射増量手段は、高回転領域で燃料噴射量を増量させることができる。これにより、噴射燃料の冷却効果によって筒内のガス温度を低下させ、プラグのポケット内での熱面着火を抑制することができる。
【0025】
第9の発明によれば、低回転領域、中回転領域及び高回転領域の回転数制御手段は、調整手段により一定の出力を維持しつつ、機関回転数を変化させることができる。これにより、内燃機関の出力を変化させずに機関回転数を上昇または低下させることができるので、プレイグニッションを抑制しながらも、運転性を確保することができる。
【0026】
第10の発明によれば、プレイグニッション再発回避手段は、過去にプレイグニッションの発生履歴がある運転領域を避けて運転を行うことができ、プレイグニッションの発生を未然に防止することができる。
【0027】
第11の発明によれば、報知手段は、車両の運転者等にプレイグニッションの発生を報知することができ、内燃機関の点検、修理等を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1に適用されるハイブリッド車のシステム構成を示す構成図である。
【図3】エンジン回転数の領域とプレイグニッションの発生要因との関係を示す説明図である。
【図4】エンジンの回転数、トルク及び出力の関係を示す特性線図である。
【図5】圧縮行程で燃料噴射を実行した状態を示す説明図である。
【図6】TCVを作動させた状態を示す説明図である。
【図7】プレイグニッション再発回避制御の内容を説明するための説明図である。
【図8】本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1乃至図8を参照しつつ、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための構成図である。本実施の形態のシステムは、内燃機関としてのエンジン10を備えており、エンジン10の各気筒には、ピストン12の往復動作により拡大,縮小する燃焼室14が設けられている。ピストン12は、エンジンの出力軸であるクランク軸16に連結されている。また、各気筒には、燃焼室14に開口する吸気ポート18及び排気ポート20が設けられている。吸気ポート18には、各気筒に吸入空気を吸込む吸気通路が接続され、この吸気通路には、吸入空気量を調整するスロットルバルブ等が設けられている。また、排気ポート20には、各気筒から排気ガスを排出する排気通路が接続されている。なお、吸気通路、排気通路及びこれらの通路に配置される構造物については、図示を省略している。
【0030】
一方、各気筒には、燃焼室14内(筒内)に燃料を噴射する直噴型の燃料噴射手段としての燃料噴射弁22と、筒内の混合気に点火する点火プラグ24と、吸気ポート18を燃焼室14に対して開,閉する吸気バルブ26と、排気ポート20を燃焼室14に対して開,閉する排気バルブ28とが設けられている。ここで、点火プラグ24は、一般的に公知な構造を有し、後述の図3に示すように、筒状のハウジング24aと、ハウジング24aの内周側に設けられた筒状の絶縁碍子24bと、絶縁碍子24bの内周側に配置された中心電極24cと、中心電極24cとの間に火花放電を生じさせる接地電極24dとを備えている。
【0031】
また、吸気ポート18には、筒内に気流を発生させる気流発生手段としてのタンブルコントロールバルブ(TCV)30が設けられている。TCV30は、吸気ポート18の一部を遮ることで吸入空気の偏流を生じさせ、これにより筒内にタンブル流(縦渦流)を発生させることができる。また、エンジン10は、排気圧を利用して吸入空気を過給する過給機32(図2参照)を備えている。
【0032】
さらに、本実施の形態のシステムは、クランク角センサ34、プレイグニッション検出装置36等を含むセンサ系統と、エンジン10の運転状態を制御するECU(Electronic Control Unit)40とを備えている。クランク角センサ34は、クランク軸16の回転に同期した信号を出力するもので、本実施の形態の回転数取得手段を構成している。ECU40は、クランク角センサ34の出力に基いて機関回転数(エンジン回転数)を検出したり、クランク角を検出することができる。プレイグニッション検出装置36については、後述する。
【0033】
センサ系統には、クランク角センサ34とプレイグニッション検出装置36に加えて、車両やエンジンの制御に必要な各種のセンサ(例えば吸入空気量を検出するエアフローセンサ、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサ、排気空燃比を検出する空燃比センサ、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ等)が含まれており、これらのセンサはECU40の入力側に接続されている。また、ECU40の出力側には、前記スロットルバルブ、燃料噴射弁22、点火プラグ24、TCV30等を含む各種のアクチュエータが接続されている。このアクチュエータには、プレイグニッションが発生したときに点灯させる警報ランプ38も含まれている。
【0034】
そして、ECU40は、エンジンの運転情報をセンサ系統により検出し、その検出結果に基いて各アクチュエータを駆動することにより、運転制御を行う。具体的には、クランク角センサ34の出力に基いてエンジン回転数とクランク角とを検出し、エアフローセンサにより吸入空気量を検出する。また、吸入空気量とエンジン回転数とに基いて機関負荷(負荷率)を算出し、クランク角の検出値に基いて燃料噴射時期、点火時期等を決定する。そして、吸入空気量、負荷率等に基いて燃料噴射量を算出し、燃料噴射弁22を駆動すると共に、点火プラグ24を駆動する。また、ECU40は、何れかの気筒でプレイグニッションが発生した場合に、この状態をプレイグニッション検出装置36により検出し、後述の各種制御によりプレイグニッションを抑制する。
【0035】
ここで、プレイグニッション検出装置36は、筒内での燃焼状態に応じて点火プラグ24の電極間に流れるイオン電流を検出するもので、本実施の形態のプレイグニッション検出手段を構成している。プレイグニッション検出装置36によれば、イオン電流の波形等に基いてプレイグニッションが発生したことを検出することができる。なお、イオン電流によるプレイグニッションの検出方法は、一般的に公知な方法である。この他にも、プレイグニッションの検出方法としては、筒内圧やノッキングの振動周波数に基いて検出を行う方法が知られている。具体的には、例えば点火時期が到来する前に筒内圧が通常よりも大きく上昇した場合や、ノッキング中に生じる振動周波数にプレイグニッション特有の周波数成分が含まれていた場合に、これらの状態をプレイグニッションとして検出する。
【0036】
本発明では、上記のように筒内圧やノッキングの振動周波数に基いて検出を行う方法を、プレイグニッション検出手段として採用してもよい。また、本実施の形態では、図1に示すように、プレイグニッション検出装置36をECU40と別個の装置により構成したが、本発明では、この検出装置36をECU40に内蔵してもよい。また、本発明では、プレイグニッション検出装置を使用せず、ECU40の演算処理によりプレイグニッション検出手段を実現してもよい。
【0037】
一方、本実施の形態では、エンジン10をハイブリッド車の車両50に搭載する構成としている。図2は、本発明の実施の形態1に適用されるハイブリッド車のシステム構成を示す構成図である。図2に示すように、車両50には、電動モータ52、動力分割機構54等が搭載されている。電動モータ52は、エンジン10と共に動力源を構成するもので、エンジン10及び電動モータ52の出力側は、動力分割機構54に連結されている。そして、動力分割機構54の出力側は、減速機構等を含む伝達機構56を介して車輪58に連結されると共に、ジェネレータ60にも連結されている。また、電動モータ52及びジェネレータ60は、インバータ62を介してバッテリ64と接続されている。
【0038】
ここで、動力分割機構54は、ECU40から入力される制御信号に応じて、エンジン10及び電動モータ52の駆動力を所望の比率で伝達機構56に伝達するものである。従って、ECU40は、動力分割機構54を制御することにより、車輪58側に伝達されるエンジン10及び電動モータ52の駆動力の配分を任意に変更することができる。これにより、エンジン10の駆動力による機関走行、電動モータ52の駆動力によるモータ走行、および両方の駆動力を併用するハイブリッド走行が実現される。
【0039】
また、動力分割機構54は、本実施の形態において、エンジン10の出力を一定とした状態でエンジントルクとエンジン回転数との比率を調整することが可能な調整手段を構成している。一般に、出力はエンジン回転数に応じて変化するが、動力分割機構54によれば、この変化を補償するように前記駆動力の配分を変更することにより、一定の出力を維持しつつエンジン回転数を変化させることができる。
【0040】
[実施の形態1の特徴]
本実施の形態では、プレイグニッションを検出した場合に、エンジン回転数に基いてプレイグニッションの発生要因を推定し、個々の発生要因に応じた制御を実行する。より具体的に述べると、本願発明者は、プレイグニッションがエンジン回転数に応じて異なる要因で発生することを見出した。特に、過給機を備えたエンジンでは、筒内の状況に応じてプレイグニッションの発生要因が多様化する傾向がある。このため、本実施の形態では、プレイグニッションの発生要因がそれぞれ異なる複数の回転数領域を予め設定しておき、エンジン回転数が何れの回転数領域に属するかを判定することにより、プレイグニッションの発生要因を推定する。これらの回転数領域は、ECU40に予め記憶された回転判定値N1,N2に基いて区分されるものである。
【0041】
図3は、エンジン回転数の領域とプレイグニッションの発生要因との関係を示す説明図である。この図に示すように、本実施の形態では、エンジン回転数の領域を、例えば低回転領域、中回転領域および高回転領域からなる3つの回転数領域に区分している。この区分において、低回転領域は、エンジン回転数Neが低回転判定値N1以下の領域(Ne≦N1)として定義され、中回転領域は、エンジン回転数Neが低回転判定値N1よりも大きく、かつ高回転判定値N2以下の領域(N1<Ne≦N2)として定義されている。また、高回転領域は、エンジン回転数Neが高回転判定値N2よりも大きい領域(N2<Ne)として定義されている。さらに、低回転判定値N1は、例えば2000rpm程度の値に設定され、高回転判定値N2は、例えば4000rpm程度の値に設定されている。なお、上述した回転数領域の区分数及び判定値N1,N2の具体値は、本実施の形態で示す一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。以下、個々の回転数領域におけるプレイグニッションの発生要因と、これに対処するプレイグニッション抑制制御について説明する。
【0042】
(1)低回転領域(Ne≦N1)
低回転領域では、図3(1)に示すように、筒内に流入したオイルが点火前に自着火することにより、プレイグニッションが誘発されることが多い。即ち、この領域では回転数が低いので、筒内に流入したオイルが熱を吸収して化学反応を起こす時間が十分にあり、オイルの自着火が生じ易い。このオイルの自着火に対処する方法としては、例えばプレイグニッションが生じた場合にエンジン回転数を上昇させ、オイルが筒内で反応する時間を短縮することが有効となる。そこで、本実施の形態では、低回転領域でプレイグニッションが発生した場合に、エンジン回転数を上昇させる回転数制御(低回転領域の回転数制御)を実行する。この回転数制御によれば、低回転領域では、筒内でのオイルの自着火を低減し、プレイグニッションの発生を効果的に抑制することができる。
【0043】
また、車両の運転中にエンジン回転数を変化させると、エンジンの出力が変動して運転性が悪化する。このため、本実施の形態では、上述した回転数制御を行う場合に、ECU40により動力分割機構54を制御し、一定の出力を維持しつつエンジン回転数を変化させる。図4は、エンジンの回転数、トルク及び出力の関係を示す特性線図である。図4に示すように、通常の走行状態では、エンジンの運転状態がロード・ロード線に沿って制御される。これに対し、低回転領域の回転数制御を行う場合には、エンジンの運転状態を、例えば図4中の点Aから等出力線に沿って矢示A1方向に変化させ、回転数を上昇させた分だけトルクを減少させる。これにより、エンジンの出力を変化させずにエンジン回転数を上昇させることができるので、回転数制御によりプレイグニッションを抑制しながらも、運転性を確保することができる。
【0044】
また、本実施の形態では、低回転領域でプレイグニッションが発生した場合に、圧縮行程で燃料を噴射する圧縮行程噴射制御を実行する。図5は、圧縮行程で燃料噴射を実行した状態を示す説明図である。この図に示すように、圧縮行程噴射制御によれば、燃料噴射弁22から筒内に燃料を直接噴射し、この噴射燃料により過熱したオイルの冷却(消火)を効率よく行うことができる。従って、低回転領域でのオイルの自着火を抑制することができる。
【0045】
(2)中回転領域(N1<Ne≦N2)
中回転領域では、点火プラグ24の電極部、特に筒内に突出した接地電極24dの温度が上昇し易い。この状態では、図3(2)に示すように、筒内の混合気が接地電極24dと接触して熱面着火することにより、プレイグニッションが発生することが多い。この熱面着火に対処する方法としては、例えばプレイグニッションが生じた場合にエンジン回転数を上昇させ、筒内でのガスの流れ(ガス流動)を強くすることにより、プラグの電極温度を低下させることが有効となる。そこで、本実施の形態では、中回転領域でプレイグニッションが発生した場合に、エンジン回転数を上昇させる回転数制御(中回転領域の回転数制御)を実行する。この回転数制御によれば、中回転領域では、筒内でのガス流動によりプラグの電極部を効率よく冷却し、電極部での熱面着火を低減することができる。従って、プレイグニッションの発生を効果的に抑制することができる。なお、上述した中回転領域の回転数制御においても、低回転領域の場合と同様に、図4中の等出力線に沿って一定の出力を維持しつつエンジン回転数を変化させる制御を実施する。
【0046】
また、本実施の形態では、中回転領域でプレイグニッションが発生した場合に、TCV30を作動させ、筒内気流制御を実行する。図6は、TCVを作動させた状態を示す説明図である。この図に示すように、TCV30によれば、筒内にタンブル流を発生させることができ、このタンブル流により筒内のガス流動を強化することができる。これにより、プラグの電極部を効率よく冷却し、混合気の熱面着火を抑制することができる。
【0047】
(3)高回転領域(N2<Ne)
高回転領域では、図3(3)に示すように、点火プラグ24のポケット(ハウジング24aと絶縁碍子24bとの間に形成された環状の隙間)内で混合気が熱面着火し、プレイグニッションが発生することが多い。より詳しく述べると、高回転領域では、筒内のガス流動が非常に速くなるので、プラグの電極部では熱面着火が生じ難い。これに対し、ポケットの内部は比較的高温である上に混合気が滞留し易いので、混合気の熱面着火がポケット内で発生することが多い。この熱面着火に対処する方法としては、例えばプレイグニッションが生じた場合にエンジン回転数を低下させ、点火プラグ24の温度(特に、ポケット内の絶縁碍子24bの温度)を低下させることが有効となる。
【0048】
そこで、本実施の形態では、高回転領域でプレイグニッションが発生した場合に、エンジン回転数を低下させる回転数制御(高回転領域の回転数制御)を実行する。この回転数制御によれば、高回転領域では、筒内での燃焼による単位時間当りの発熱量を減少させ、プラグの温度を効率よく低下させることができる。従って、プラグのポケット内での熱面着火を低減し、プレイグニッションの発生を効果的に抑制することができる。
【0049】
なお、上述した高回転領域の回転数制御においても、他の回転数領域の場合と同様に、一定の出力を維持しつつエンジン回転数を変化させる制御を実施する。但し、高回転領域では、エンジンの運転状態を、例えば図4中の点Aから等出力線に沿って矢示A2方向に変化させ、回転数を低下させた分だけトルクを増大させる。さらに、本実施の形態では、高回転領域でプレイグニッションが発生した場合に、燃料噴射量を通常よりも増量させる噴射増量制御を実行する。この噴射増量制御によれば、噴射燃料の冷却効果によって筒内のガス温度を低下させ、プラグのポケット内での熱面着火を抑制することができる。
【0050】
(その他の制御)
プレイグニッションが一度発生した運転領域を使用すると、発生時と同じ筒内環境が再現されることによりプレイグニッションが再発し易い。このため、本実施の形態では、プレイグニッションの発生履歴がある運転領域で再び運転が行われるのを回避するプレイグニッション再発回避制御を実行する。図7は、プレイグニッション再発回避制御の内容を説明するための説明図である。この再発回避制御では、まず、プレイグニッションが発生したときに、例えばエンジントルクとエンジン回転数とに基いて設定される運転領域全体のうち、何れの運転領域でプレイグニッションが発生したのかを記憶する。
【0051】
具体的に述べると、例えば図7中に示す運転領域Aでプレイグニッションが発生した場合には、この運転領域Aをプレイグニッションの発生履歴がある領域(以下、プレイグニッション発生領域と称す)として記憶する。その後、エンジンが運転領域Aで運転されそうになった場合には、エンジンの運転状態を、例えば運転領域Aから等出力線に沿って矢示A1方向に変化させ、プレイグニッションの発生履歴がない運転領域Bに移行させる。従って、運転領域Aの近傍では、前述したロード・ロード線として、図7中に点線で示す特性線が使用されることになる。この構成によれば、過去にプレイグニッションの発生履歴がある運転領域Aを避けて運転を行うことができ、プレイグニッションの発生を未然に防止することができる。しかも、運転領域Aから運転領域Bへの回避を同一の等出力線上で行うことにより、エンジンの出力を変化させずに済むので、運転性を良好に保持することができる。
【0052】
また、本実施の形態では、プレイグニッションの発生を検出した場合に、警報ランプ38を点灯させる。これにより、車両の運転者等にプレイグニッションの発生を報知することができ、エンジンの点検、修理等を促すことができる。
【0053】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
図8は、本発明の実施の形態1において、ECUにより実行される制御のフローチャートである。この図に示すルーチンは、内燃機関の運転中に繰返し実行されるものとする。図8に示すルーチンでは、まず、プレイグニッション検出装置36の出力に基いて、何れかの気筒でプレイグニッションが発生したか否かを判定する(ステップ100)。この判定成立時には、エンジン回転数Neが低回転判定値N1以下であるか否かを判定し、またエンジン回転数Neが高回転判定値N2以下であるか否かを判定する(ステップ102,104)。ステップ102,104の判定結果により、エンジン回転数Neが低回転領域、中回転領域及び高回転領域の何れに属しているかを判定することができる。
【0054】
そして、ステップ102の判定成立時には、低回転領域であるから、前述のように一定の出力を維持しつつ、低回転領域の回転数制御を実行し、エンジン回転数を上昇させる(ステップ106)。また、少なくともプレイグニッションが発生した気筒では、圧縮行程噴射制御を実行することにより、圧縮行程で燃料を噴射する(ステップ108)。一方、ステップ102の判定が不成立で、ステップ104の判定が成立した場合には、中回転領域であるから、一定の出力を維持しつつ、中回転領域の回転数制御を実行し、エンジン回転数を上昇させる(ステップ110)。また、前述のようにTCV30を作動させることにより、筒内気流制御を実行する(ステップ112)。さらに、ステップ104の判定成立時には、高回転領域であるから、前述のように一定の出力を維持しつつ、高回転領域の回転数制御を実行し、エンジン回転数を低下させる(ステップ114)。また、少なくともプレイグニッションが発生した気筒では、燃料噴射量を通常よりも増量させることにより、噴射増量制御を実行する(ステップ116)。
【0055】
次の処理では、警報ランプ38を点灯させ、プレイグニッションが発生したことを車両の運転者等に報知する(ステップ118)。そして、プレイグニッションが発生した時点の運転領域を、プレイグニッション発生領域としてECU40の記憶回路に記憶する(ステップ120)。
【0056】
一方、ステップ100の判定が不成立の場合には、何れの気筒でもプレイグニッションが発生していないので、通常の運転制御を実行するが、この運転制御中には、プレイグニッション発生領域で運転が行われようとしていないかどうかを判定する(ステップ122)。そして、この判定成立時には、前述のようにプレイグニッション再発回避制御を実行し、図7に例示したような回避運転を行う(ステップ124)。
【0057】
以上詳述した通り、本実施の形態によれば、エンジン回転数に応じてプレイグニッションの発生要因が異なることを利用して、エンジン回転数に基いて個々の発生要因に応じた適切な制御を実行することができる。従って、これらの制御により、各種の運転状態において、プレイグニッションを効果的に抑制することができる。
【0058】
なお、上述した実施の形態1では、図8中のステップ102,104が請求項1,2における発生要因推定手段の具体例を示し、ステップ106〜116が請求項1,3乃至8におけるプレイグニッション抑制手段の具体例を示している。また、ステップ106は請求項3,9における低回転領域の回転数制御手段の具体例、ステップ108は請求項4における圧縮行程燃料噴射手段の具体例、ステップ110は請求項5,9における中回転領域の回転数制御手段の具体例、ステップ112は請求項6における気流制御手段の具体例、ステップ114は請求項7,9における高回転領域の回転数制御手段の具体例、ステップ116は請求項8における噴射増量手段の具体例をそれぞれ示している。さらに、ステップ120〜124は請求項10におけるプレイグニッション再発回避手段の具体例、ステップ118は請求項11における報知手段の具体例をそれぞれ示している。
【0059】
また、実施の形態1では、エンジン回転数を、高回転領域、中回転領域及び低回転領域からなる3つの回転数領域に区分する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、必要に応じてエンジン回転数を2つの回転数領域に区分したり、4つ以上の回転数領域に区分する構成としてもよい。
【0060】
また、実施の形態1では、ハイブリッド車において、動力分割機構54により一定の出力を維持しつつエンジン回転数を変化させる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明は、ハイブリッド車に限定されるものではなく、エンジンのみを動力源とする通常の車両に適用してもよい。また、本発明では、回転数を変化させる場合に、必ずしも一定の出力を維持する必要はなく、他の補償制御等により出力の変動を出来るだけ抑制する構成としてもよい。
【0061】
また、実施の形態1では、プレイグニッションを抑制する制御として、低回転領域、中回転領域及び高回転領域の回転数制御、圧縮行程噴射制御、筒内気流制御、燃料増量制御をそれぞれ実行する構成とした。しかし、本発明では、必ずしも上記制御を全て実行する必要はなく、上記制御のうち必要なものを適宜組合わせて実行する構成としてもよい。従って、本発明において、例えば圧縮行程噴射制御や筒内気流制御を実施しない場合には、直噴型の燃料噴射弁22に代えて吸気ポート噴射型の燃料噴射弁を採用したり、TCV30を省略する構成としてもよい。
【0062】
さらに、本発明に適用される気流発生手段は、TCV30に限るものではない。即ち、気流発生手段としては、例えば吸入空気にスワールを発生させるSCV(スワールコントロールバルブ)を用いてもよい。また、1気筒に2つの吸気バルブがある場合には、両者のバルブ開度を異ならせることにより筒内に吸入空気の偏った流れを生じさせる構成とし、この構成により気流発生手段を実現してもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 エンジン(内燃機関)
12 ピストン
14 燃焼室
16 クランク軸
18 吸気ポート
20 排気ポート
22 燃料噴射弁(燃料噴射手段)
24 点火プラグ
26 吸気バルブ
28 排気バルブ
30 タンブルコントロールバルブ(気流発生手段)
32 過給機
34 クランク角センサ(回転数取得手段)
36 プレイグニッション検出装置
38 警報ランプ
40 ECU
50 車両
52 電動モータ
54 動力分割機構(調整手段)
56 伝達機構
58 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の機関回転数を取得する回転数取得手段と、
内燃機関の燃焼室内で発生するプレイグニッションを検出するプレイグニッション検出手段と、
前記プレイグニッション検出手段によりプレイグニッションが検出された場合に、前記機関回転数に基いてプレイグニッションの発生要因を推定する発生要因推定手段と、
プレイグニッションが検出された場合に、前記発生要因推定手段により推定した発生要因に基いて個々の発生要因に応じた制御を実行し、プレイグニッションを抑制するプレイグニッション抑制手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記発生要因推定手段は、プレイグニッションの発生要因がそれぞれ異なる領域として設定された複数の回転数領域を備え、前記機関回転数が何れの回転数領域に属するかを判定することにより前記発生要因を推定する構成としてなる請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記プレイグニッション抑制手段は、前記発生要因推定手段により前記機関回転数が所定の低回転判定値以下であると判定された場合に、前記機関回転数を上昇させる低回転領域の回転数制御手段を備えてなる請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射手段を備え、
前記プレイグニッション抑制手段は、前記発生要因推定手段により前記機関回転数が所定の低回転判定値以下であると判定された場合に、前記燃料噴射手段により圧縮行程で燃料を噴射する圧縮行程燃料噴射手段を備えてなる請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記プレイグニッション抑制手段は、前記発生要因推定手段により前記機関回転数が所定の低回転判定値よりも高く、かつ所定の高回転判定値以下であると判定された場合に、前記機関回転数を上昇させる中回転領域の回転数制御手段を備えてなる請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記燃焼室内に気流を発生させる気流発生手段を備え、
前記プレイグニッション抑制手段は、前記発生要因推定手段により前記機関回転数が所定の低回転判定値よりも高く、かつ所定の高回転判定値以下であると判定された場合に、前記気流発生手段により前記燃焼室内に気流を発生させる気流制御手段を備えてなる請求項1乃至5のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記プレイグニッション抑制手段は、前記発生要因推定手段により前記機関回転数が所定の高回転判定値よりも高いと判定された場合に、前記機関回転数を低下させる高回転領域の回転数制御手段を備えてなる請求項1乃至6のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記プレイグニッション抑制手段は、前記発生要因推定手段により前記機関回転数が所定の高回転判定値よりも高いと判定された場合に、燃料噴射量を増量させる噴射増量手段を備えてなる請求項1乃至7のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
内燃機関の出力を一定とした状態でトルクと機関回転数との比率を調整することが可能な調整手段を備え、
前記回転数制御手段は、前記調整手段により一定の出力を維持しつつ前記機関回転数を変化させる構成としてなる請求項3,5,7のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項10】
プレイグニッションの発生履歴がある運転領域で再び運転が行われるのを回避するプレイグニッション再発回避手段を備えてなる請求項1乃至9のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項11】
プレイグニッションが発生したことを報知する報知手段を備えてなる請求項1乃至10のうち何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−163322(P2011−163322A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30408(P2010−30408)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】