説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】例えば、部品コストが増大することを極力抑制しつつ、エンジンシステムの設計に制約を生じさせたり、エンジンシステムのサイズを増大させたりすることなく、排気を浄化する。
【解決手段】ECU(100)は、エンジン(200)の始動後において、触媒(222)の温度Tが、排気に含まれる未燃焼物質のうち触媒(222)に吸着した吸着物が触媒(222)から脱離し始める脱離開始温度(T1)以上になった場合に、エンジン(200)の空燃比が、エンジン(200)が始動してから触媒(222)の温度が脱離開始温度(T1)に到達するまでに設定されていた空燃比に比べてリーン状態となるように、エンジン(200)を制御する。排気浄化装置(1)によれば、排気流路を介して最終的にエンジン(200)の外部に排出される排気中の炭化水素を低減することが可能であり、例えば、排気管(210)とは別に設けられたバイパス管を介して排気を浄化しなくても、排気に含まれる炭化水素等の未燃焼物質を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アルコールを含む燃料を用いて駆動されるフレックス燃料車(flexible-fuel vehicle;FFV)の動力源であるエンジン等の内燃機関から排出される排気を浄化するための内燃機関の排気浄化装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内燃機関の一例であるエンジンでは、燃料中のアルコール濃度が高いほど空燃比を減少させることによって、排気に含まれる窒素酸化物(NOx)及びアルデヒド類を減少させる技術(例えば、特許文献1参照。)、触媒温度が低下した際に空燃比をリーン状態からストイキ状態に制御することによって排気の悪化を抑制しつつ、燃費を向上させる技術(例えば、特許文献2参照。)、或いは、エンジンの排気通路にアルコールラッパを設け、エンジンの始動時において排気に含まれるアルコール成分を吸着する技術(例えば、特許文献3及び4参照。)が開示されている。また、この種の内燃機関に使用可能な触媒の一例として、モノリス担体上にアルコール等を浄化する触媒層を有する触媒が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0003】
一方、FFVの動力源であるエンジン等の内燃機関では、排気管にバイパスされたバイパス路に設けられ、且つ排気中の炭化水素ガスを吸着する吸着材によって吸着された炭化水素ガスを、エンジンを暖機させた後に浄化することによって、排気を浄化する方法が採用される場合が多い。
【0004】
【特許文献1】特開平4−255543号公報
【特許文献2】特開2007−77857号公報
【特許文献3】特開平1−257710号公報
【特許文献4】特開昭62−189309号公報
【特許文献5】特開平3−109941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、排気管に設けられた触媒とは別に設けられた吸着材を用いて排気を浄化した場合、排気管とは別にバイパス路を設けることになり、内燃機関においてバイパス路を設けるスペースを確保する必要が生じる。したがって、内燃機関の設計に制約が生じたり、内燃機関のサイズを大型化させたりする問題点が生じる。加えて、内燃機関を構成する部品の部品点数が増大し、内燃機関のコストを増大させてしまう問題点も生じる。
【0006】
よって、本発明は上記問題点等に鑑みてなされたものであり、例えば、部品コストが増大することを極力抑制しつつ、内燃機関の設計に制約を生じさせたり、内燃機関のサイズを増大させたりすることなく、排気を浄化できる内燃機関の排気浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置は上記課題を解決するために、内燃機関の排気を排出する排気流路の途中に配置され、且つ前記排気を浄化する触媒と、前記触媒の温度が、前記排気に含まれる未燃焼物質のうち前記触媒に吸着した吸着物が前記触媒から脱離し始める脱離開始温度以上になった場合に、前記内燃機関の空燃比が、前記内燃機関が始動してから前記触媒の温度が前記脱離開始温度に到達するまでに設定されていた空燃比に比べてリーン状態となるように、前記内燃機関を制御する制御手段とを備える。
【0008】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置によれば、内燃機関は、例えば、アルコール及びガソリンの混合燃料を燃焼させることによって車両の駆動力を発生させるエンジンである。内燃機関の動作時において、内燃機関で燃料が燃焼することによって発生する排気は、排気管等の排気流路の途中に設けられた触媒によって浄化された後、内燃機関の外部に排出される。
【0009】
前記排気に含まれる未燃焼物質とは、燃料が十分に燃焼し切れなかったことによって発生した物質をいい、例えば、燃料に含まれたエタノール等のアルコール成分、又はアルコール成分に由来するアルデヒド等の成分、若しくはHC等の炭化水素をいう。このような未燃焼成分は、触媒の温度が、内燃機関の動作時における温度に比べて相対的に低温状態にある場合に、触媒に吸着し易い。より具体的には、例えば、未燃焼物質を構成する主たる物質であるアルコール成分及びアルデヒド等の極性分子は、約70℃で触媒に吸着する。このような吸着物は、触媒の温度上昇に伴って、そのままの状態で、或いは炭化水素として触媒から脱離する。
【0010】
そこで、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置によれば、制御手段は、前記触媒の温度が、前記排気に含まれる未燃焼物質のうち前記触媒に吸着した吸着物が前記触媒から脱離し始める脱離開始温度以上になった場合に、前記内燃機関の空燃比が、前記内燃機関が始動してから前記触媒の温度が前記脱離開始温度に到達するまでに設定されていた空燃比に比べてリーン状態となるように、前記内燃機関を制御する。
【0011】
ここで、「脱離開始温度」とは、未燃焼物質のうち触媒に吸着した吸着物が触媒から脱離し始める温度をいう。触媒の温度が脱離開始温度以上である場合に、内燃機関の空燃比が、前記内燃機関が始動してから前記触媒の温度が前記脱離開始温度に到達するまでに設定されていた空燃比より大きくなるように、例えば、制御手段の制御下で吸気バルブの開度が大きく設定されることによって、内燃機関に吸入される酸素の吸入量が高められ、内燃機関の空燃比をリーン状態に設定できる。その結果、触媒に触れる排気中の酸素量が増大し、触媒から脱離する吸着物と反応する酸素が増え、触媒から脱離した吸着物及び酸素の反応が促進される。
【0012】
したがって、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置によれば、排気流路を介して最終的に内燃機関の外部に排出される排気中の炭化水素を低減することが可能であり、例えば、排気管とは別に設けられたバイパス管を介して排気を浄化しなくても、排気に含まれる炭化水素等の未燃焼物質を低減できる。よって、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置によれば、内燃機関の部品コストが増大することを極力抑制しつつ、内燃機関の設計に制約を生じさせたり、内燃機関のサイズを増大させたりすることなく、排気を浄化できる。
【0013】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の一の態様では、前記制御手段が前記内燃機関の空燃比を前記リーン状態に維持し続ける維持期間の終了タイミングは、前記吸着物が前記触媒から脱離し終える脱離完了温度に前記触媒の温度が到達したタイミングであってもよい。
【0014】
この態様によれば、「脱離完了温度」とは、吸着物として触媒に吸着した未燃焼物質が脱離物として触媒から脱離し終える温度をいう。この態様によれば、内燃機関を始動させてから、触媒の温度が脱離完了温度に到達するまでの期間において、通常の空燃比、言い換えれば、前記内燃機関が始動してから前記触媒の温度が前記脱離開始温度に到達するまでに設定されていた空燃比で内燃機関を動作させる場合に比べて、効率良く排気を浄化することが可能である。より具体的には、例えば、吸着物の一例であるアルコールの脱離完了温度である約300℃に触媒の温度が到達するまでは、空燃比をリーン状態に維持することによって排気の浄化を優先し、その後は、内燃機関の燃費を優先して空燃比を設定することができる。
【0015】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の他の態様では、前記制御手段が前記内燃機関の空燃比を前記リーン状態に維持し続ける維持期間の終了タイミングは、前記吸着物が前記触媒に吸着する吸着量の予測値に基づいて設定されていてもよい。
【0016】
この態様によれば、吸着物の予測値は、例えば、内燃機関を始動させてから、触媒を暖機する暖機過程までの期間における内燃機関の運転履歴と、触媒の劣化状態とに基づいて、制御手段、或いはその他の予測手段を用いて予測される。より具体的には、内燃機関を始動させてから、触媒を暖機する暖機過程までの期間において、内燃機関中を流れるガス量及び空燃比の履歴に対応する触媒の劣化度に基づいて、決定される。尚、このような予測値は、内燃機関の運転と並行して特定されてもよいし、内燃機関の運転に先んじて予め取得されていてもよい。
【0017】
したがって、この態様によれば、吸着物を最も効率良く酸素と反応させることが可能な期間において、排気に含まれる酸素量を増やすことができるため、効率良く排気を浄化することが可能である。
【0018】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の他の態様では、前記制御手段は、前記内燃機関に使用される燃料中のアルコール濃度が高いほど前記内燃機関の空燃比をリーン側に設定してもよい。
【0019】
この態様によれば、通常、燃料に含まれるアルコール濃度が高いほど未燃焼物質も増大し、吸着物が触媒に吸着する吸着量も増大することから、脱離開始温度以上の温度で触媒から脱離する吸着物の脱離量も相対的に増大する。したがって、この態様によれば、アルコール濃度が高いほど空燃比をリーン側に設定することによって、触媒から脱離した吸着物と反応する酸素量を増やすことができ、排気を効率良く浄化することが可能である。
【0020】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の他の態様では、前記触媒は、前記吸着物を吸着する吸着部材と、前記吸着部材から見て前記排気に曝される側に形成されており、前記吸着物のうち前記吸着部材から脱離した脱離物を浄化する触媒本体とを有していてもよい。
【0021】
この態様によれば、吸着部材に適した材料と、触媒本体に適した材料とを別々に選択することができるため、吸着物を吸着する吸着性と、脱離物を浄化する消化作用との夫々に優れた材料を別々に選択でき、吸着部材及び触媒本体を共通の材料で構成する場合に比べて、触媒全体が排気を浄化する浄化性能を高めることが可能である。
【0022】
この態様では、前記吸着部材は、前記触媒本体に比べて比表面積が大きく、且つ比熱が高くてもよい。
【0023】
この態様によれば、吸着部材として、例えば、アルミナを用いることによって、吸着部材が吸着物を吸着する吸着性能を高めることが可能である。
【0024】
本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の他の態様では、前記触媒本体は、前記吸着物を浄化する触媒物質と、前記触媒物質を担持する支持体とを有しており、前記触媒物質の濃度は、前記吸着部材から前記排気に曝される側に行くほど高くてもよい。
【0025】
この態様によれば、前記吸着部材から前記排気に曝される側に行くほど触媒本体のうち排気に触れる部分の割合が増大するため、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属からなる触媒物質を一様な濃度で支持体に含ませる場合に比べて、触媒に要するコストを抑制しつつ、脱離物のうち排気中の酸素と反応する物質の割合を高めることができ、脱離排気を浄化する浄化性能を高めることが可能である。
【0026】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の実施形態を説明する。
【0028】
<1:内燃機関の排気浄化装置の構成>
図1を参照しながら、本実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置を備えたエンジンシステムの構成を説明する。図1は、本実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置を備えたエンジンシステムの概略構成を示した模式図である。
【0029】
図1に示すように、本実施形態に係るエンジンシステム300は、本発明の「内燃機関」の一例であるエンジン200と、本発明に係る「内燃機関の排気浄化装置」の一例である排気浄化装置1と、燃料性状センサ110と、水温センサ150とを備えている。
【0030】
燃料性状センサ110は、例えば光屈折式や静電容量式のセンサであり、燃料の性状やアルコール濃度等を検出することができる。燃料性状センサ110は、燃料タンクから内燃機関に燃料を供給するデリバリパイプ等に設けられ、ECU100と電気的に接続されている。
【0031】
水温センサ150は、エンジン200の冷却水の温度を検出するセンサであり、シリンダ201の周囲等に設けられ、ECU100と電気的に接続されている。尚、エンジン200の燃焼状態を検出できるようなものであれば、この水温センサ150に代えて又は加えて、吸気温センサや油温センサ等を用いることも可能である。
【0032】
排気浄化装置1は、本発明の「制御手段」の一例であるECU(Electronic Control Unit)100と、本発明の「触媒」の一例である触媒222を備えて構成されている。
【0033】
ECU100は、エンジンシステムの動作全体を制御する電子制御ユニットであり、データ処理及び当該処理に基づくエンジンの制御等が可能なように、例えば演算回路やメモリ等を含んで構成されている。
【0034】
ここで、エンジン200の排気に含まれる、エタノール等のアルコール成分、又はアルコール成分に由来するアルデヒド等の成分、若しくは炭化水素(HC)等の未燃焼物質は、触媒222の温度Tが、エンジン200の動作時における温度に比べて相対的に低温状態にある場合に、触媒222に吸着し易い。より具体的には、例えば、未燃焼物質を構成する主たる物質であるアルコール成分及びアルデヒド等の極性分子は、約70℃で触媒222に吸着する。このような吸着物は、触媒222の温度上昇に伴って、そのままの状態で、或いは炭化水素として触媒から脱離する。
【0035】
そこで、本実施形態では、ECU100は、エンジン200の始動後において、触媒222の温度Tが、排気に含まれる未燃焼物質のうち触媒222に吸着した吸着物が触媒222から脱離し始める脱離開始温度T1以上になった場合に、エンジン200の空燃比が、エンジン200が始動してから触媒222の温度が脱離開始温度T1に到達するまでに設定されていた空燃比に比べてリーン状態となるように、エンジン200を制御する。
【0036】
より具体的には、触媒222の温度Tが脱離開始温度T1以上である場合に、エンジン200の空燃比が、エンジン200が始動してから触媒222の温度Tが脱離開始温度T1に到達するまでに設定されていた空燃比より大きくなるように、ECU100の制御下で吸気バルブ208の開度が大きく設定されることによって、シリンダ201に吸入される酸素の吸入量が高められ、エンジン200の空燃比がリーン状態に設定される。その結果、触媒222に触れる排気中の酸素量が増大し、触媒222から脱離する吸着物と反応する酸素が増え、触媒222から脱離した吸着物及び酸素の反応が促進される。
【0037】
したがって、排気浄化装置1によれば、排気流路を介して最終的にエンジン200の外部に排出される排気中の炭化水素を低減することが可能であり、例えば、排気管210とは別に設けられたバイパス管を介して排気を浄化しなくても、排気に含まれる炭化水素等の未燃焼物質を低減できる。よって、排気浄化装置1によれば、エンジンシステム300の部品コストが増大することを極力抑制しつつ、エンジン200及びエンジンシステム300の設計に制約を生じさせたり、エンジン200及びエンジンシステム300のサイズを増大させたりすることなく、排気を浄化できる。
【0038】
尚、ECU100の制御下において、エンジン200の空燃比をリーン状態に維持し続ける維持期間の終了タイミングを、未燃焼物質のうち触媒222に吸着した物質である吸着物が触媒222から脱離し終える脱離完了温度T2に触媒222の温度Tが到達したタイミングに設定することができる。
【0039】
エンジン200の空燃比をリーン状態に維持する維持期間を終了タイミングを、吸着物が触媒222から脱離し終える脱離完了温度T2に触媒222の温度Tが到達したタイミングに設定することによって、エンジン200を始動させてから、触媒222の温度Tが脱離完了温度T2に到達するまでの期間において、通常の空燃比、言い換えれば、エンジン200が始動してから触媒222の温度が脱離開始温度T1に到達するまでに設定されていた空燃比でエンジン200を動作させる場合に比べて、効率良く排気を浄化することが可能である。より具体的には、ECU100は、例えば、未燃焼物質の一例であるアルコールの脱離完了温度T1である約300℃に触媒222の温度Tが到達するまでは、空燃比をリーン状態に維持するようにエンジンシステム300の各構成要素の動作を制御することによって排気の浄化を優先し、その後、エンジン200の燃費を優先して空燃比を設定することができる。
【0040】
また、ECU100は、エンジン200の空燃比をリーン状態に維持し続ける維持期間の終了タイミングを、未燃焼物質のうち触媒222に吸着した吸着物の吸着量の予測値に基づいて設定することもできる。
【0041】
吸着物の予測値は、例えば、エンジン200を始動させてから、触媒222を暖機する暖機過程までの期間におけるエンジン200の運転履歴と、触媒222の劣化状態とに基づいて、ECU100、或いはその他の予測手段を用いて予測可能である。より具体的には、ECU100、或いはその他の予測手段は、例えば、エンジン200を始動させてから、触媒222を暖機する暖機過程までの期間において、エンジン200中を流れるガス量及び空燃比の履歴に対応する触媒222の劣化度に基づいて、吸着量の予測値を特定できる。尚、このような予測値は、エンジン200の運転と並行して特定されてもよいし、エンジン200の運転に先んじて予め取得されていてもよい。
【0042】
このような予測値に基づいて設定されたタイミングまでエンジン200の空燃比をリーン状態に維持することによって、触媒222に吸着した吸着物を最も効率良く酸素と反応させることが可能な期間において、排気に含まれる酸素量を増やすことができるため、効率良く排気を浄化することが可能である。
【0043】
また、ECU100は、燃料性状センサ110が取得した燃料に関するデータに基づいて、エンジン200に使用される燃料中のアルコール濃度が高いほどエンジン200の空燃比をリーン側に設定することも可能である。
【0044】
通常、燃料に含まれるアルコール濃度が高いほど未燃焼物質も増大し、吸着物が触媒222に吸着する吸着量も増大することから、脱離開始温度T1以上の温度で触媒222から脱離する吸着物の脱離量も相対的に増大する。したがって、ECU100の制御下で、燃料中のアルコール濃度が高いほど空燃比をリーン側に設定することによって、触媒222から脱離した吸着物と反応する酸素量を増やすことができ、排気を効率良く浄化することも可能である。
【0045】
エンジン200は、吸気管206、シリンダ201、排気管210、吸気バルブ208、排気バルブ209、燃料タンク223、EGR装置229を備えている。
【0046】
吸気管206は、シリンダ201と外気とを連通しており、シリンダ201内へ外気(空気)を吸入可能に構成されている。吸気管206の管路には、吸入空気を浄化するクリーナ211と、吸入空気の質量流量(即ち、吸入空気量)を検出するエアフローメータ212と、シリンダ201内部への吸入空気量を調節するスロットルバルブ214と、スロットルバルブ214の開度を検出するスロットルポジションセンサ215と、運転者によるアクセルペダル226の踏み込み量を検出するアクセルポジションセンサ216と、踏み込み量に基づいてスロットルバルブ214を駆動するスロットルバルブモータ217とが備えられている。
【0047】
シリンダ201は、その内部において、点火プラグ202で点火して、燃料混合気を燃焼させる。このときの爆発力に応じたピストン203の往復運動は、コネクションロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。この回転運動によって、エンジン200を搭載する車両が駆動される。また、シリンダ201の周囲には、クランク角を検出することでエンジン200の回転数を検出可能なクランクポジションセンサ218、及びノックの有無或いは程度を検出するノックセンサ219等の各種センサが配設されている。各センサの出力は、対応する検出信号としてECU100へと供給される。
【0048】
排気管210には、触媒222が備えられている。触媒222は、例えば、白金、パラジウム、及びロジウムなどの貴金属を活性成分とした三元触媒である。触媒222は、エンジン200から排気を排出する排気流路の途中に設けられており、排気中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)などを除去する機能を有する。
【0049】
尚、触媒222の詳細な構成、及び触媒222が排気を浄化する浄化作用については後に詳細に説明する。本実施形態では、排気管210の途中に触媒が一つ設けられている構成を例に挙げるが、触媒は、排気管210の途中に複数設けられていてもよい。触媒が複数設けられている場合には、後述する触媒222に特有の構成及びその浄化作用は、排気管210の最も下流側に設けられた触媒に適用される。
【0050】
排気管210における触媒222の上流側には、空燃比センサ221が備えられている。空燃比センサ221は、例えばジルコニア固体電解質などで構成されており、排気管210中の排気ガスの空燃比(A/F)を検出すると共に、検出信号をECU100へと供給する。
【0051】
吸気バルブ208は、ECU100の制御下で、シリンダ201内部と吸気管206との連通状態を制御することが可能に構成されている。排気バルブ209は、シリンダ201内部と排気管210との連通状態を制御することが可能に構成されている。シリンダ201内部で燃焼した燃料混合気は排気となり、吸気バルブ208の開閉に連動して開閉する排気バルブ209を通過して排気管210を介して排気される。これらの開閉タイミングは、可変動バルブ装置(図示せず)によって調整される。可変動バルブ装置は、吸気バルブ208及び排気バルブ209の開閉時期を制御できるものであればよく、例えば油圧式、カムバイワイヤ、電磁駆動バルブ等を用いることができる。
【0052】
燃料タンク223は、エンジン200の燃焼に供する燃料を貯蔵している。給油される燃料は、ガソリン及びアルコールの混合燃料である。この燃料は、ポンプ225によって適宜吸い上げられ、燃料噴射バルブ207へと供給される。燃料噴射バルブ207は、燃料タンク223から供給される燃料を、ECU100の制御に従って、吸気管206内に噴射する。噴射された燃料は、吸気管206を介して吸入された空気と混合されて混合気を形成し、該混合気がシリンダ201内での燃焼に使用される。
【0053】
EGR装置229は、EGR通路228、及びEGR制御バルブ227を備える。EGR通路228は、吸気管206と排気管210とを連通する。EGR制御バルブ227は、EGR通路に備えられており、ECU100の制御下で開閉される。このEGR制御バルブ227の開閉によって、内部EGRガスは適宜排気管210から吸気管206へと導入される。
【0054】
<2:触媒の構成>
次に、図2及び図3を参照しながら、触媒222の構成を詳細に説明する。図2は、触媒222の全体構成を図式的に示した断面図である。図3は、触媒222の一部を拡大して示した断面図である。
【0055】
図2において、触媒222は、基材222a、吸着部材222b、及び触媒本体222cの夫々からなる各層部分がこの順で積層された多層構造を有している。
【0056】
吸着部材222bは、エンジン200の動作時において、排気管210によって構成される排気流路を流れる排気中のアルコール、アルデヒド、及び炭化水素(HC)等の未燃焼物質、即ち、シリンダ201内の燃焼室で燃料混合気を爆発させた際に、当該燃料混合気のうち燃焼し切れなかった成分であるアルコール、アルデヒド及びHCを吸着物として吸着する。触媒本体222cは、吸着部材222bから見て排気に曝される側に形成されており、吸着部材222bに吸着された吸着物のうち吸着部材222bから脱離した脱離物を浄化する。より具体的には、吸着部材222bから脱離したアルコール、アルデヒド及びHC等の脱離物を排気中に含まれる酸素で酸化することによって、排気に含まれるHC及び一酸化炭素(CO)の割合を低減し、排気の浄化を促進させることが可能である。
【0057】
このような構成を有する触媒222によれば、吸着部材222bに適した材料と、触媒本体222cに適した材料とを別々に選択することができるため、吸着物を吸着する吸着性と、脱離物を浄化する消化作用との夫々に優れた材料を別々に選択でき、吸着部材222b及び触媒本体222cを共通の材料で構成する場合に比べて、触媒222が排気を浄化する浄化性能を高めることが可能である。
【0058】
吸着部材222bは、触媒本体222cに比べて比表面積が大きく、且つ比熱が高い材料の一例であるアルミナで構成されている。吸着部材222bによれば、吸着部材222bが未燃焼物質の一部である吸着物を吸着する吸着性能を高めることが可能である。
【0059】
図3において、触媒本体222cは、吸着物を浄化する触媒物質222c−1と、触媒物質222c−1を担持する支持体222c−2とを有している。触媒物質222c−1の濃度は、吸着部材222bから見て排気に曝される側に行くほど高い。
【0060】
このような構成を有する触媒本体222cによれば、吸着部材222bから見て排気に曝される側に行くほど触媒本体222cのうち排気に触れる部分の割合が増大するため、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属からなる触媒物質222c−1を一様な濃度で支持体222c−2に含ませる場合に比べて、触媒222に要するコストを抑制しつつ、脱離物のうち排気中の酸素と反応する物質の割合を高めることができ、触媒222が排気を浄化する浄化性能を高めることが可能である。
【0061】
<3:排気浄化装置による処理動作>
次に、図4を参照しながら、上述の内燃機関の排気浄化装置1の処理動作を説明しつつ、当該排気浄化装置1の各構成要素の動作を詳細に説明する。図4は、本実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置によって実行可能な排気浄化方法の主要な工程を順に示したフローチャートである。
【0062】
図4において、ECU100は、各種センサから取得したデータ等に基づいて、エンジン200が始動したか否かを判定する(ステップS10)。エンジン200が始動していないと判定された場合は、以下の各工程が実行されることなく、排気浄化装置1による処理動作を終了する。
【0063】
次に、ECU100は、水温センサ150から取得したデータに基づいて、エンジン200の冷却水の温度が所定の温度以下である否かを判定する(ステップS20)。冷却水の温度が所定の温度以下でない場合、即ち、冷却水の温度が所定の温度より高い場合には、以下の各工程が実行されることなく、排気浄化装置1による処理動作を終了する。
【0064】
次に、ECU100は、目標空燃比を算出する(ステップS30)。目標空燃比とは、触媒22の温度Tが、脱離開始温度T1以上になった場合に、エンジン200の排気を浄化することを目的として設定される空燃比をいう。このような空燃比は、エンジン200を通常運転させる際の空燃比よりリーン側に設定される。加えて、このような空燃比は、燃料中のアルコール濃度が高いほどリーン側に設定することによって、アルコール濃度に応じて増大する脱離物を酸化する。
【0065】
次に、ECU100は、不図示の温度センサによって取得された触媒222の温度Tが、脱離開始温度T1以上である否かを判定する(ステップS40)。ここで、触媒222の温度Tが、脱離開始温度T1より低い場合には、再度ステップS30に戻る。
【0066】
次に、ECU100は、触媒222の温度Tが、脱離完了温度T2を超えたか否かを判定する(ステップS50)。触媒222の温度Tが、脱離完了温度T2を超えている場合には、以下の各工程が実行されることなく、排気浄化装置1による処理動作を終了する。
【0067】
次に、ECU100は、吸気バルブ208の開度等を変更することによって、エンジン200の空燃比を目標空燃比に設定する。これにより、エンジン200の空燃比がリーン状態に設定される。尚、目標空燃比は、エンジン200の空燃比がリーン状態に維持されている期間において随時変更されてもよい。
【0068】
次に、空燃比をリーン状態に維持するリーン制御の終了(ステップS70)、触媒222の温度Tの特定(ステップS80)、及び触媒222の温度Tが、脱離完了温度T2を超えたか否かをECU100が判定する処理(ステップS90)を並行して実行し、触媒222の温度Tが、脱離完了温度T2以下である場合には、ステップS60に戻る。尚、触媒222の温度Tが低温である際に触媒222に吸着した吸着物は、触媒222の温度Tが上昇したとしても相対的に脱離に時間を要するため、ECU100は、吸着物の吸着量の予測値に基づいて特定し直された空燃比に目標空燃比としてエンジン200の空燃比を設定する制御を実行する。
【0069】
本実施形態では、触媒222の温度Tが脱離完了温度T2を超えていた場合であっても、引き続き空燃比をリーン状態に維持してもよい(ステップS100)。このような場合、ECU100は、燃料性状センサ110から取得したデータに基づいて、燃料の補給が有ったか否かを判定する(ステップS110)。燃料の補給がなかった場合には、ステップS10に戻る。燃料の補給があった場合には、ECU100は、燃料中のアルコール濃度に関するデータを取得し(ステップS120)、アルコール濃度が高いほど空燃比をリーン側に設定し、触媒222から脱離した脱離物を酸化させることによって、排気を浄化する。
【0070】
以上説明した排気浄化装置1の動作処理によれば、排気流路を介して最終的にエンジン200の外部に排出される排気中の炭化水素を低減することが可能であり、例えば、排気管210とは別に設けられたバイパス管を介して排気を浄化しなくても、排気に含まれる炭化水素等の未燃焼物質を低減できる。よって、排気浄化装置1によれば、エンジンシステム300の部品コストが増大することを極力抑制しつつ、エンジン200及びエンジンシステム300の設計に制約を生じさせたり、エンジン200及びエンジンシステム300のサイズを増大させたりすることなく、排気を浄化できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の一実施形態を備えたエンジンシステムの概略構成を模式的に示した模式図である。
【図2】本実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置が備える触媒の構成を図式的に示した断面図である。
【図3】本実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置が備える触媒222の詳細な構成を図式的に示した要部断面図である。
【図4】本実施形態に係る内燃機関の排気浄化装置による排気浄化方法の主要な工程を順に示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
1・・・排気浄化装置、100・・・ECU、200・・・エンジン、222・・・触媒、222a・・・基材、222b・・・吸着部材、222c・・・触媒本体、300・・・エンジンシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気を排出する排気流路の途中に配置され、且つ前記排気を浄化する触媒と、
前記触媒の温度が、前記排気に含まれる未燃焼物質のうち前記触媒に吸着した吸着物が前記触媒から脱離し始める脱離開始温度以上になった場合に、前記内燃機関の空燃比が、前記内燃機関が始動してから前記触媒の温度が前記脱離開始温度に到達するまでに設定されていた空燃比に比べてリーン状態となるように、前記内燃機関を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記制御手段が前記内燃機関の空燃比を前記リーン状態に維持し続ける維持期間の終了タイミングは、前記吸着物が前記触媒から脱離し終える脱離完了温度に前記触媒の温度が到達したタイミングであること
を特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記制御手段が前記内燃機関の空燃比を前記リーン状態に維持し続ける維持期間の終了タイミングは、前記吸着物が前記触媒に吸着する吸着量の予測値に基づいて設定されていること
を特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記内燃機関に使用される燃料中のアルコール濃度が高いほど前記内燃機関の空燃比をリーン側に設定すること
を特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記触媒は、前記吸着物を吸着する吸着部材と、前記吸着部材から見て前記排気に曝される側に形成されており、前記吸着物のうち前記吸着部材から脱離した脱離物を浄化する触媒本体とを有していること
を特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記吸着部材は、前記触媒本体に比べて比表面積が大きく、且つ比熱が高いこと
を特徴とする請求項5に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
前記触媒本体は、前記吸着物を浄化する触媒物質と、前記触媒物質を担持する支持体とを有しており、前記触媒物質の濃度は、前記吸着部材から前記排気に曝される側に行くほど高いこと
を特徴とする請求項5又は6の何れか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−138800(P2010−138800A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315817(P2008−315817)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】