説明

内表面に薄膜を有する中空成形品の成形方法および成形装置

【課題】 蒸着面が汚染されることがなく、在庫管理も格別に必要としない、内表面に薄膜を有する中空成形品の成形方法を提供する。
【解決手段】可動金型(17)とスライド金型(10)とを使用する。また蒸着用チャンバー(25)の内部にターゲット電極等の蒸着要素が設けられている蒸着装置も使用する。可動金型(17)とスライド金型(10)とにより本体部(H)と蓋体(F)を1次成形する。本体部は可動金型(17)に、蓋体はスライド金型(10)に残った状態で型を開く。可動金型(17)に残っている本体部の内表面を蒸着用チャンバー(25)で覆って金型内で蒸着する。次いで、蒸着された本体部に蓋体が整合するようにスライド金型(10)を駆動する。そして、2次成形用の樹脂を射出して本体部と蓋体とを一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定側金型と、該固定側金型に対して移動可能な移動金型とを使用して一対の半中空体をその開口部に突き合わせ部を有するように射出成形する1次成形と、この1次成形により成形された一対の半中空体の少なくとも一方の内表面に薄膜を形成する蒸着形成と、この蒸着成形が終わった一対の半中空体の開口部を金型の凹部に残った上状態で突き合わせ、そして突き合わせ部に溶融樹脂を射出して一対の半中空体を一体化して中空体を得る2次成形とからなる、内表面に薄膜を有する中空成形品の成形方法、この成形方法の実施により得られる中空成形品およびこの成形方法の実施に使用される成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中空体の内表面の一部に数μmオーダの薄膜を有する中空成形品として、例えば車両に装備されているフロントランプ、テールランプ等を挙げることがきる。このようなランプは、電球が取り付けられる凹状の本体部と、この本体部の開口部に一体的に取り付けられているレンズ部とからなっている。本体部は、例えば射出成形により成形され、そして外表面等の不要箇所をマスキングして蒸着専用の真空タンク中に専用のハンガーを使用して吊り下げ、次いで後述するような蒸着方法により薄膜が形成されている。そして、薄膜が形成された本体部と別途成形されたレンズ部を、それぞれの金型にセットし、本体部の開口部とレンズ部の縁とを整合・突き合わせ、突き合わされた接合部に溶融樹脂を射出して一体化して、内表面に薄膜を有する中空成形品が成形されている。
【0003】
このような本体部の内表面あるいは基板の表面に薄膜を形成する蒸着方法は従来周知で、例えば蒸着しようとする基板とターゲットを対向させておき、数Pa〜数10Pa程度のアルゴンガス雰囲気中でターゲットに数kVの負の電圧を印加し、そして放電させて薄膜を形成するスパッタリング方法、真空容器の中に基板と蒸発源とを収納して成幕する真空蒸着法、基板に数kVの負の電圧を印加し数Paのアルゴンガスの圧力下で真空蒸着をするイオンプレーティング方法等が知られ、また化学蒸着法も知られている。
【0004】
【特許文献1】特公平2−38377号
【特許文献2】特許第3326752号
【特許文献3】特許第3047213号
【0005】
特許文献1には、射出成形による中空成形品の成形方法が示されている。すなわち、固定金型とスライド金型とにより構成されている一対のキヤビティにより一対の半中空成形品をその開口部の周囲に接合部を有するように成形する1次成形と、一方の半中空成形品は固定金型の方に、他方の半中空成形品はスライド金型の方に残るようにして型を開き、そしてスライド金型を一対の半中空成形品の接合部が整合する位置へスライドさせ、次いで型締めする工程と、その後接合部に溶融樹脂を射出して接合する2次成形とからなる中空成形品を成形する成形方法が示されている。また、特許文献2には、特許文献1に示されているような成形方法において、1次成形時に一方の半中空成形品の接合部すなわち突合部の内側にガイド部を一体的に成形し、2次成形のために、他方の半中空成形品の突合部を、一方の半中空成品の突合部に嵌合するとき、他方の半中空成形品の突合部を一方の半中空成形品の突合部のガイド部により案内させるようにした成形方法が示されている。また、特許文献3には、上記のようにして中空成形品を成形するとき、2次成形時に突合わせた部分の射出充填点における接線となす角度が90度より小さいようにして射出する成形方法が示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の形成方法により内表面に薄膜を有する中空成形品を成形しようとすると、前もって本体部を例えば射出成形により成形し、そして真空タンク中へ搬入して蒸着しなければならないので、問題点も多い。例えば、本体部は前もって成形され保管されるので、保管取扱中に蒸着する表面に手あか、塵埃等が付着し、蒸着不良を起こすことがある。これを避けるためには、取り扱いに最大限の注意を払わなければならないので、コスト高になる。また、前もって成形される本体部は一旦保管されるようになっているので、在庫管理が必要となる問題もある。さらには、本体部を一旦金型から取り出して蒸着し、そして再度金型に装着して接合しなければならず、生産性が悪い。
一方、特許文献1に示されている射出成形方法によると、各工程が自動化でき中空成形品を量産できるという利点があり、また複雑な形状の中空成形品も製造できる利点がある。また、特許文献2に記載の発明によると、突合部に多少の変形が生じても、2次成形時に突合部を密に突き合わることができ、それにより2次成形用の樹脂が漏れない効果が得られる。さらには、特許文献3に記載の発明によると、接合強度が大きく、2次成形用の溶融樹脂の射出箇所が少なくても接合できる特徴を有する。このような利点あるいは特徴を有するので、上記した発明は現在も有効に実施されているが、前記従来の成形方法によっては中空成形品の内表面に数μmオーダの薄膜を成形することはできない。
本発明は、上記したような従来の射出成形方法を適用して、蒸着面が汚染されることがなく、それ故蒸着不良による品質の低下がなく、また在庫管理も格別に必要としない、さらには自動成形も容易な、内表面に薄膜を有する中空成形品の成形方法、この成形方法の実施により得られる中空成形品およびこの成形方法の実施に使用される成形装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、固定側型と移動金型とにより成形される一対の半中空体の少なくとも一方の半中空体の内表面を、前記固定側金型あるいは移動金型に残した状態で、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素が設けられている蒸着用チャンバーで覆って金型内で蒸着するように構成される。そして、蒸着された一方の半中空体と他方の半中空体の開口部合を、それぞれの金型に残した状態で突き合わせ、その突合部に溶融樹脂を射出充填して一体化するように構成される。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、固定側金型と、該固定側金型に対して移動可能な移動金型とを使用して一対の半中空体をその開口部に突き合わせ部を有するように射出成形する1次成形と、この1次成形により成形された一対の半中空体の一方の半中空体が固定側金型の方に、他方の半中空体が移動金型の方に残った状態で型を開いて、半中空体の少なくとも一方の内表面に薄膜を形成する蒸着形成と、この蒸着成形が終わった一対の半中空体の開口部を金型に残った上状態で突き合わせ、そして突き合わせ部に溶融樹脂を射出して一対の半中空体を一体化して中空体を得る2次成形とからなる成形方法であって、前記蒸着形成は、前記1次成形後前記金型を開いて、前記金型に残っている状態の半中空体を、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素が設けられている蒸着用チャンバーで覆って金型内で実施するように構成される。請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の成形方法において、固定側金型と、該固定側金型に対して第1、2の成形位置へスライド可能に設けられているスライド金型とを使用するように構成され、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の成形方法の実施により得られる内表面に薄膜を有する中空成形品のように構成される。
請求項4に記載の発明は、固定側金型と該固定側金型に対して第1、2の成形位置へ移動可能に設けられている移動金型とからなる金型装置と、蒸着装置との組み合わせからなり、前記固定側金型のパーティングライン側には、対をなす半中空体を成形するための固定側コアと固定側凹部とが設けられ、前記移動金型のパーティングライン側には、前記固定側コアと固定側凹部とそれぞれ共働する移動側凹部と移動側コアとが形成され、前記移動金型の第1の成形位置では、前記固定側コアと移動側凹部とにより、また固定側凹部と移動側コアとにより、対をなす半中空体が1次成形され、前記移動金型の第2の成形位置では、前記固定側凹部と移動側凹部とにそれぞれ残っている対をなす半中空体が一体化される2次成形がされるようになっていると共に、前記蒸着装置は、前記金型が開かれたとき、そのパーティングライン間に挿入される蒸着用チャンバーを備え、該蒸着用チャンバーの開口部には前記固定側金型あるいは移動金型のパーティングライン面に固定側凹部あるいは移動側凹部を取り囲んで気密状態に圧接されるシール手段が設けられ、その内部にはターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素が設けられている。請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の成形装置において、移動金型が固定側金型に対して第1、2の成形位置へ回転可能に設けられている可動金型であるように構成される。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によると、固定側金型と移動金型とにより成形される一対の半中空体の少なくとも一方の半中空体の内表面を、前記固定側金型あるいは移動金型に残した状態で、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素が設けられている蒸着用チャンバーで覆って金型内で蒸着するように構成されているので、すなわち半中空体を金型から取り出すことなく、蒸着用チャンバーを使用して金型内で蒸着するので、蒸着する表面が手あか、塵埃等により汚染されることはない。したがって、本発明によると蒸着状態の良好な高品質の内表面に薄膜を有する中空成形品を得ることができる、という本発明に特有の効果が得られる。また、金型内に残っている状態で金型内で蒸着するので、半中空体の在庫管理が不要となる。さらには、蒸着装置を準備するだけで、特別な金型を使用することなく、安価に自動成形もできる効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、内表面に反射幕のような薄膜を有する碗状の本体部と、この本体部の開口部を封鎖する薄いレンズ状の蓋体とを射出成形により成形し、そして金型内で本体部の内表面に薄膜を形成し、次いで本体部の開口部を蓋体で封鎖して内部に薄膜を有する中空成形品の成形例について説明する。始めに、本発明の成形装置の実施の形態を説明する。図1は、第1の実施の形態に係わる成形装置の金型を閉じた状態で模式的に示す断面図であるが、同図に示されているように、第1の実施の形態によると、固定型1と、スライド金型10と、可動金型17とからなっている。そして、スライド金型10は固定型1の方に、図1において上下方向にスライド的に駆動されるように取り付けられている。
【0011】
固定型1は、従来周知のように架台に固定されている。そして、この固定型1を横切るようにして図1に示されている実施の形態では1本の主スプル2が形成されている。また、固定型1の頂部からは支持部材3が上方へ延び、この支持部材3にスライド金型10を駆動するピストンシリンダユニット4が取り付けられている。このピストンシリンダユニット4に作動流体を給排することにより、スライド金型10が、図1に示されている第1の位置へ、あるいは後述する上方の第2の位置へと駆動される。
【0012】
スライド金型10には、1次成形用のスプル11と、2次成形用のスプル12とが上下方向に所定の間隔をおいて設けられている。この1次成形用のスプル11は、図1に示されている第1の位置で固定型1の主スプル2と整合し、後述する第2の位置では2次成形用のスプル12の方が主スプル2と整合する。スライド金型10のパーティングライン面Pの上方の位置には、碗状の本体部を成形するためのスライド側コア13が設けられている。このスライド側コア13の周りには所定の間隔をおいて接合部を成形するための小コア14が設けられている。また、パーティングライン面Pの下方位置には、蓋体を成形するためのスライド側凹部15が設けられている。このスライド側凹部15にはゲート16が開口している。
【0013】
可動金型17のパーティングライン面P側には、スライド側コア13と対をなす本体部成形用の可動側凹部18が設けられている。この可動側凹部18にはゲート16が開口している。また、可動金型17のパーティングライン面P側の下方位置には、スライド側凹部15と対をなす可動側コア19が設けられている。このスライド側コア19の周りには所定の間隔をおいて接合部を成形するための小コア19’が設けられている。また、可動金型17のパーティングライン面P側には、固定型1の主スプル2と整合するランナ5が形成されている。
【0014】
図2に、蒸着装置20の実施の形態が模式的に示されている。図2に示されている実施の形態によると、蒸着装置20は多関節ロボット21に取り付けられている蒸着用チャンバー25からなっている。そして、本実施の形態によると、例えばスパッタリング法が適用されるので、蒸着装置20は、真空蒸着に必要な排気ポンプなどからなる真空源30、不活性ガスタンクあるいは炭酸ガスのような不活性ガスを製造する不活性ガス供給源31、電源装置32等も備えている。さらに詳しく説明すると、多関節ロボット21の基台22から立ち上がっているスタンド23の頂部からは多関節アーム24が延びている。そして、その先端部に蒸着チャンバー25が取り付けられている。蒸着用チャンバー25は、所定開口面積あるいは容積の蒸着用凹部26を有する。そして、蒸着用凹部26の開口部に、スライド金型10のパーティングラインP面に圧接されるOリング27が設けられている。したがって、蒸着用凹部26をOリング27を介在させて可動金型17のパーティングラインP面に所定の力で圧接すると、その内部は本体部を取り囲み蒸着に必要な真空度の蒸着用チャンバー25が形成されることになる。
【0015】
このように構成されている蒸着用凹部26内に蒸着要素が設けられている。蒸着要素は、本実施の形態ではスパッタリング法が適用されるようになっているので、図2には示されていないが、蒸着用凹部26の開口部の近くにターゲット電極が、そして奥の方に基板電極が設けられている。これらの電極には直流または高周波電源が接続されて、そして基板電極は金型内の基板に電気的に接続されるようになっている。また、蒸着用凹部26内にはアルゴンガスのような不活性ガスを導入するためのガス導入管が開口し、さらには真空吸引管も開口している。これらのガス導入管、真空吸引管、電極に連なった給電線等は、ロボットの多関節アーム24およびスタンド23の内部を延び、そして連結パイプ28、28、…を介して前述した不活性ガス供給源31、真空源30および電源装置32にそれぞれ接続されている。
【0016】
次に、上記第1の実施の形態に係わる成形装置を使用した成形例について、図3も使用して説明する。図1に示されているように、スライド金型10が下方の第1の位置に在るとき型締めする。そうすると、スライド側コア13と可動金型17の可動側凹部18とにより本体成形用キャビテイChが構成される。また、スライド金型10のスライド側凹部15と可動側コア19とにより蓋体成形用キャビテイCfが構成される。従来周知のようにして、主スプル2から溶融樹脂を射出する。そうすると、溶融樹脂は主スプル2、1次成形用スプル12、ランナ5およびゲート16、16を通って、本体成形用キャビテイChと蓋体成形用キャビテイCfとに充填される。この1次成形により、本体部Hと蓋体Fとがその開口部の周囲に接合用の半溝M’を有するように成形される。この1次成形が終わった状態が図3の(イ)に示されている。
【0017】
冷却固化を待って、本体部Hは可動金型17の方に、蓋体Fはスライド金型10の方に残した状態で可動金型17を開く。この型開きにより、本体部Hの内表面はパーティングラインP面に露出する。そこで、多関節ロボット21を利用して蒸着用チャンバー25を、パーティングラインP面の間に挿入し、本体部Hを取り囲むようにして、可動金型17のパーティングラインP面にOリング27を介して圧接する。このようにして圧接した状態が、図3の(ロ)に示されている。蒸着装置20の真空源30と、不活性ガス供給源31とを駆動して蒸着用チャンバー25内を数Pa〜数10Pa程度のアルゴンガス雰囲気にする。そして、ターゲットには負の電圧を、本体部Hには正の数CVの電圧を印加し、そして放電させる。そうすると、本体部Hの内表面に従来周知のように薄膜Uが形成され、薄膜を有する本体HU1が得られる。。
【0018】
蒸着が終了したら、蒸着用チャンバー25を金型のパーティングラインP面間から待避させる。そうして、本体HU1と蓋体Fの開口部が整合する、上方の2次成形位置へスライド金型10をスライドさせる。このように整合した位置が図3の(ハ)に示されている。この整合位置で型締めする。そうすると、図3の(ニ)に示されているように本体HU1と蓋体Fの突き合わせ部の外周部に半溝M’、M’により接合部すなわち接合用のキャビテイMが構成される。主スプル2から、溶融樹脂を射出する。溶融樹脂は、2次成形用スプル12からゲートを介して接合用のキャビテイMに充填される。この2次成形により本体HU1と蓋体Fは一体化される。可動金型17を開いて、内表面に薄膜を有する中空成形品を取り出す。以下同様にして成形する。
【0019】
上記第1の実施の形態によると、スライド金型10と可動金型17には、一対の本体部と蓋体とを成形する凹部あるいはコアが設けられているので、1サイクルで1個の薄膜を有する中空成形品しか得られないが、複数個の対の凹部あるいはコアを設けると、複数個当て成形できることは明らかである。また、蓋体Hの内側面にも前述したようにして薄膜を成形できることも明らかである。さらには、接合用のキャビテイの構造は上記実施の形態に限定されることなく、例えば前述した引用文献2、3に記載されているように構成することもできる。
【0020】
上記第1の実施の形態によると、スライド金型10は固定型1の方に設けられているが、スライド金型55が可動盤56の方に設けられ、固定盤40には固定金型41が設けられた第2の実施の形態が、図4に示されている。固定盤40には1本の主スプル42が設けられ、この主スプル42は固定盤40と固定金型41との間に設けられているランナ43に連通し、このランナ43には1次成形用の第1、2のスプル44、45と、2次成形用の第3のスプル46とが連通している。そして、主スプル42とランナ43との合流点に本出願人が提案している特許第3047213号に示されているようなスプル切換装置RKが設けられている。このスプル切換装置RKを操作することにより、主スプル42は1次成形用の第1、2のスプル44、45に、あるいは2次成形用の第3のスプル46に切り替わる。
【0021】
このように構成されている固定金型41のパーティングライン面Pに本体部を成形するための固定側コア50が設けられ、その周囲に所定の間隔をおいて接合部を成形するための小コア51が形成されている。この固定側コア50の頂部に1次成形用の第1のスプル44が開口している。また、パーティングライン面Pの下方位置に蓋体を成形するための固定側凹部52が設けられている。この凹部52には1次成形用の第2のスプル45が開口している。
【0022】
スライド金型55は、図4の(イ)において、上下方向にスライド可能に可動盤56に取り付けられている。このスライド金型56は、前述したようなアクチュエータすなわちピストンシリンダユニットにより駆動されるが、このような駆動装置は示されていない。スライド金型55のパーティングライン面Pには、固定側コア50に対応するスライド側凹部57が設けられ、その下方の所定位置には固定側凹部52に対応するスライド側コア58が設けられている。スライド側コア58の周囲には、接合部を成形するための小コア59が形成されている。
【0023】
次に、成形例について説明する。図4の(イ)に示されている状態で型締めする。そうすると、固定側コア50とスライド側凹部57とにより本体部を成形するためのキャビテイが構成される。同時に固定側凹部52とスライド動側コア58とにより蓋体Fを成形するためのキャビテイが構成される。溶融樹脂が1次成形用のランナ43に流れるように、スプル切換装置RKを切換える。そして、主スプル42から従来周知のようにして溶融樹脂を射出する。溶融樹脂は、主スプル42、スプル切換装置RK、ランナ43および1次成形用の第1、2のスプル44、45から本体部成形用のキャビテイと、蓋体成形用のキャビテイとに充填される。これにより本体部Hと蓋体Fとが実質的に同時に成形される。次いで、可動盤56を開く。このとき、成形品の形状等により、本体部Hはスライド金型55のスライド側凹部57の方に残って、そして蓋体Fは固定金型41の固定側凹部52に残って開かれる。このよにして開かれた状態が、図4の(ロ)に示されている。
【0024】
前述したように、多関節ロボット21を利用して蒸着用チャンバー25を、本体部Hあるいはスライド側凹部57を取り囲むようにして、スライド金型55のパーティングライン面PにOリング27を介して圧接する。そして、前述したようにして薄膜Uを形成する。蒸着用チャンバー25を待避させる。そうして、本体部Hと蓋体Fとの開口部が整合する2次成形位置へ、スライド金型55をスライドさせる。このようにして整合した位置が図4の(ハ)に示されている。この整合位置で型締めする。そうして、スプル切換装置RKを切り替え、2次成形用の溶融樹脂を主スプル42から射出する。溶融樹脂は、ランナ43’を通り、2次成形用の第3のスプル46から、接合用空間Mに充填される。これにより、本体部Hと蓋体Fとが一体化された内表面に薄膜を有する中空成形品が得られる。
【0025】
図5に、円盤あるいは円柱状の固定金型60と、同様に円盤あるいは円柱状を呈する回転金型70とからなる第3の実施の形態が示されている。図5の(イ)は固定金型60を、そしてその(ロ)は回転金型70を開いてパーティグライン面P側から見た斜視図であるが、これらの図に示されているように固定金型60のパーティングライン面Pには、中心部から半径方向に所定量偏った位置に、本体部を成形するための固定側凹部61が形成されている。そして、この固定側凹部61から円周方向に120度離れた位置に蓋体を成形するための固定側コア62が形成されている。また、固定側凹部61あるいは固定側コア62から120度隔たった位置に固定側の逃げ63が設けられている。この固定側の逃げ63は所定深さに形成され、後述するように2次成形時に本体部成形用のコアが入ることになる。このように構成されている固定金型60の中心部には射出機のノズルに連通するスプル64形成され、このスプル64はパーティングライン面Pに形成されているランナ65および図示されないゲートを介して固定側凹部61に開口している。
【0026】
回転金型70のパーティングライン面Pには、回転側コア71と回転側凹部72とが円周方向に120度の間隔をおいて形成されている。この回転側コア71は、固定側凹部61と対をなし、所定位置で型締めすると本体部を成形するためのキャビテイが構成される。また、回転側凹部72は固定側コア62と共働して蓋体を成形するためのキャビテイが構成する。回転金型70にも、回転側コア61あるいは回転側凹部72から120度隔たった位置に回転側の逃げ73が設けられている。この回転側の逃げ73に、前述したように2次成形時に蓋体成形用の固定側コア62が入ることになる。このように構成されている回転金型70の中心部のパーティングライン面Pにはゲートを介して回転側凹部72に連通するランナ75が形成されている。
【0027】
なお、固定側コア62、回転側コア72等の外周部には、図1、4に示されているような、あるいは特許文献2、3に示されているような本体部および蓋体の開口部に接合用の凹部を成形するための小コア等が設けられているが、図5には示されていない。また、回転金型60を所定角度例えば往復動的に駆動する駆動装置、型締装置等も示されていない。蒸着装置20には、図2に示されている装置が適用される。
【0028】
図5の(イ)は固定金型60を、そしてその(ロ)は回転金型70を開いてパーティグライン面P側から見た斜視図で、図5の(ハ)〜(ヘ)は、金型60、70を開いてパーティグライン面P側から見た平面図であるが、これらの図を参照しながら上記金型60、70を使用した成形例について説明する。図5の(イ)、(ロ)あるいは(ハ)、(ニ)に示されている状態で型締めする。そうすると、固定金型60の固定側凹部61と回転金型70の回転側コア71とにより、本体部を成形するためのキャビテイが構成される。また、固定金型60の固定側コア62と回転金型70の回転側凹部72とにより蓋体を成形するためのキャビテイが構成される。さらに、ランナ65、75は、上記キャビテイにゲートを介して開口する。スプル64から射出・充填される溶融樹脂は、それぞれのランナ65、75からそれぞれのキャビテイに充填される。この1次成形により、本体部と蓋体とが実質的に同時に成形される。ある程度の冷却固化を待って、固定金型60の固定側凹部61の方に本体部が、そして回転金型70の回転側凹部72の方に蓋体が残った状態で回転金型70を開く。そうして、本体部が残っている固定側凹部61を、前述した蒸着用チャンバー25で取り囲むようにして、パーティングライン面Pに圧接する。そして、前述したようにして、本体部の内周面に薄膜を形成する。
【0029】
薄膜の形成が終わったら、蒸着用チャンバー25をパーティングラインP面間から待避させる。図5の(ロ)において矢印で示されているように、回転金型70を時計針の回転方向と逆方向に120度回転させる。そうすると、蒸着が終わって固定金型60の固定側凹部61に残っている本体部と、回転側凹部72に残っている蓋体は、その開口部において整合する。このように整合した状態では、図5の(ホ)、(ヘ)に示されているように、固定金型60の固定側コア62は、回転金型70の回転側の逃げ73に位置し、回転金型70の回転側コア72は、固定金型60の固定側の逃げ63に位置するようになる。これにより、型締めできる。型締めして、図示されない2次成形用の溶融樹脂を本体部と蓋体の突き合わせ部の接合空間に充填する。この2次成形により本体部の内周面に薄膜が形成された内表面に薄膜を有する中空成形品が得られる。
【0030】
上記第3の実施の形態では、固定金型60には円周方向に120度の間隔をおいて固定側凹部61と固定側コア62と固定側の逃げ63とが設けられているので、1サイクルで1個の内表面に薄膜を有する中空成形品しか得られないが、60度の間隔をおいて同様な凹部、コア等を2個当て設けると、2個当て成形できることは明らかである。また、蓋体の内表面にも同様にして薄膜を成形できることも明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わる金型を示す断面図である。
【図2】本発明に関わる蒸着装置の実施の形態を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係わる金型を使用した、各成形段階を模式的に示す図で、その(イ)は1次成形が終わった状態を、その(ロ)は蒸着している状態を、その(ハ)は2次成形に入る前の段階を、そしてその(ニ)は2次成形を終わった状態をそれぞれ示す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係わる金型を示す図で、その(イ)は可動金型を開いて拡大して示す断面図で、その(ロ)は蒸着している状態を、その(ハ)は2次成形を終わった状態をそれぞれ縮小して示す断面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係わる金型を示す図で、その(イ)は固定金型を、そしてその(ロ)は回転金型を開いてパーティングライン側から見た斜視図、その(ハ)〜(ヘ)は、固定金型と回転金型を開いてパーティングライン側から見た各成形段階を示す平面図である。
【符号の説明】
【0032】
10 スライド金型 13 スライド側コア
15 スライド側凹部 17 可動金型
18 可動側凹部 19 可動側コア
20 蒸着装置 25 蒸着用チャンバー
30 真空源 32 電源装置
41 固定金型 50 固定側コア
52 固定側凹部 55 スライド金型
57 スライド側凹部 58 スライド側コア
60 固定金型 61 固定側凹部
62 固定側コア 70 回転金型
71 回転側コア 72 回転側凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側金型と、該固定側金型に対して移動可能な移動金型とを使用して一対の半中空体をその開口部に突き合わせ部を有するように射出成形する1次成形と、この1次成形により成形された一対の半中空体の一方の半中空体が固定側金型の方に、他方の半中空体が移動金型の方に残った状態で型を開いて、半中空体の少なくとも一方の内表面に薄膜を形成する蒸着形成と、この蒸着成形が終わった一対の半中空体の開口部を金型に残った上状態で突き合わせ、そして突き合わせ部に溶融樹脂を射出して一対の半中空体を一体化して中空体を得る2次成形とからなる成形方法であって、
前記蒸着形成は、前記1次成形後前記金型を開いて、前記金型に残っている状態の半中空体を、その内部にターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素が設けられている蒸着用チャンバーで覆って金型内で実施することを特徴とする内表面に薄膜を有する中空成形品の成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成形方法において、固定側金型と、該固定側金型に対して第1、2の成形位置へスライド可能に設けられているスライド金型とを使用する、内表面に薄膜を有する中空成形品の成形方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成形方法の実施により得られる内表面に薄膜を有する中空成形品。
【請求項4】
固定側金型と該固定側金型に対して第1、2の成形位置へ移動可能に設けられている移動金型とからなる金型装置と、蒸着装置との組み合わせからなり、
前記固定側金型のパーテイングライン側には、対をなす半中空体を成形するための固定側コアと固定側凹部とが設けられ、前記移動金型のパーテイングライン側には、前記固定側コアと固定側凹部とそれぞれ共働する移動側凹部と移動側コアとが形成され、
前記移動金型の第1の成形位置では、前記固定側コアと移動側凹部とにより、また固定側凹部と移動側コアとにより、対をなす半中空体が1次成形され、前記移動金型の第2の成形位置では、前記固定側凹部と移動側凹部とにそれぞれ残っている対をなす半中空体が一体化される2次成形がされるようになっていると共に、
前記蒸着装置は、前記金型が開かれたとき、そのパーテイングライン間に挿入される蒸着用チャンバーを備え、該蒸着用チャンバーの開口部には前記固定側金型あるいは移動金型のパーテイングライン面に固定側凹部あるいは移動側凹部を取り囲んで気密状態に圧接されるシール手段が設けられ、その内部にはターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素が設けられていることを特徴とする内表面に薄膜を有する中空成形品の成形装置。
【請求項5】
請求項4に記載の成形装置において、移動金型が固定側金型に対して第1、2の成形位置へ回転可能に設けられている可動金型である、内表面に薄膜を有する中空成形品の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−341476(P2006−341476A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168984(P2005−168984)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】