説明

化学的にプログラムされたワクチン接種法

本明細書において、化学的にプログラムされたワクチン接種のための方法を提供する。方法は、対象における共有結合性ポリクローナル抗体応答を誘導する段階、および該ポリクローナル応答が標的指向性(targeting)化合物でプログラムする段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の分野
本開示は全体として、対象における免疫応答に関し、かつより具体的には共有結合性ポリクローナル抗体応答を誘導することに関し、該ポリクローナル応答は、誘導されるポリクローナル応答に共有結合するよう設計された標的指向性(targeting)化合物の投与または添加の後に、多様な標的抗原に結合するようプログラムされることができる。
【背景技術】
【0002】
背景情報
特定の制限があるにも関わらず、ワクチン接種の昔ながらの伝統は非常に成功している。典型的には、1回または複数回の免疫化後に疾患関連の免疫応答が達成され、予防または治療効果が認められるレベルの応答を得るには数日から数週間かかる。従って、ワクチン接種は本来予測的に行うもので、免疫応答の速度論は、免疫状態を即座に作る能力が望まれる、攻撃的な病原体または急速に作用する毒素に対するワクチン戦略の有効性を制限している。理想的には、免疫はウイルスもしくは細菌のような非自己抗原または癌もしくはCCR5のようなウイルス侵入受容体に関連する自己抗原に対して、特異的かつ迅速に向けられるものであろう。後者の抗原類は、寛容の破綻に関与し、最近になって取り組みが始まったばかりの固有の攻撃を示す。最もよく用いられるワクチン接種戦略は、全タンパク質、ウイルス、または他の複合免疫原を用い、非機能的および機能的エピトープの両方に対して反応性の抗体を誘導するが;理想的なアプローチは機能的または中和エピトープ、例えば、HIV-1上の保存中和エピトープに対してのみ免疫を向けるものであろう。理想的には、免疫機能の年齢関連の低下を回避することが望まれる。従って、当技術分野において、新しく、改善されたワクチン接種法がまだ必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
開示の概要
本開示は、設計された反応性ハプテンと結合したKLHで対象を予備免疫し、続いて誘導されるポリクローナル抗体と反応するよう設計された標的指向性物質を投与すると、標的指向性物質の特異性を有する、プログラムされた共有結合性ポリクローナル抗体応答を引き起こすという独創的な発見に基づいている。
【0004】
一つの態様において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体を産生する方法であって、対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し;それにより標的抗原に対する共有結合性ポリクローナル抗体応答を生じさせる段階を含む方法を提供する。
【0005】
標的抗原は、腫瘍抗原、癌抗原、自己抗原、毒素、細菌抗原、ウイルス抗原、またはインテグリンなどの任意の抗原でありうる。例えば、インテグリンはαvβ3またはαvβ5でありうる。特定の場合に、抗原が癌である場合、癌は黒色腫、結腸癌、神経膠腫、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、造血器(hematopoietic)癌、または頭頸部癌である。
【0006】
一つの局面において、担体タンパク質はKLH、BSAおよびオバルブミンから選択される。
【0007】
本開示は、本開示の方法後に対象によって産生される共有結合性ポリクローナル抗体の強化(enriched)集団を提供する。
【0008】
別の態様において、本開示は、対象において、標的分子を発現する細胞、組織または体液に及ぶ疾患または状態を治療または予防する方法を提供する。該方法は、対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物分子を投与し;それにより該対象における共有結合性ポリクローナル抗体応答を誘導し、かつ該疾患または該状態を治療または予防する段階を含む。
【0009】
一つの局面において、疾患または状態は感染症であり、かつ標的分子は微生物病原体またはウイルスによって発現される。
【0010】
さらに別の態様において、本開示は、対象において、標的分子を発現する細胞、組織または体液に及ぶ疾患または状態を治療または予防する方法を提供する。該方法は、それを必要としている対象に、本開示の方法によって産生される抗体を、標的指向性化合物との組み合わせで投与する段階を含む。
【0011】
本開示は、局所投与、経口投与または当技術分野において公知の他の手段を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】化学的プログラミングによる抗体再指向(redirection)を例示する図である。(A)化学アダプターによるプログラミング後、抗JWハプテン抗体は癌細胞表面上のαvβ3およびαvβ5を認識する。(B)JWハプテン、SCS-873およびcRGD-dk化学アダプター、ならびにジケトンタグを持たないSCS-397およびcRGD対照リガンドの構造。
【図2】インテグリンおよびインテグリン発現細胞へのcp38C2結合によるアダプターの検証を例示する図である。(A)cp38C2のヒトインテグリンαvβ3およびαvβ5への特異的結合を、方法の項に記載するとおりELISAによって測定した。LM609(抗αvβ3)およびP1F6(抗αvβ5)ならびにマウスmAb 38C2も試験した。示したデータは三通りの試料の平均±SDである。(B)マウスB16黒色腫、マウス結腸癌CT26へのcp38C2結合のフローサイトメトリー分析。ヒトM21黒色腫およびマウス内皮MS1細胞株における試験については、補助情報(Supporting Information)を参照されたく、これらはすべてその表面上にインテグリンαvβ3およびαvβ5の両方を発現し、方法の項に記載のとおりに実施した。細胞を、表示のリガンドでプログラムされたcp38C2 mAb(太線)およびプログラムされていない38C2 mAb(細線)で染色した。結合抗体をFITC結合ロバ抗マウスIgGで検出した。
【図3】高い力価の共有結合性抗体応答の誘導を例示する図である。マウスをJW-KLHで免疫化し、続いてJW-KLHをさらに2回注射して追加免疫した。(A)BALB/C、(B)C57BL6、および(C)FCγRIIIノックアウトマウスからプールした免疫血清の表示の希釈液の固定化JW-BSAへの直接結合を、材料および方法の項に記載するとおりELISAにより測定した。この酸非感受性結合は共有結合性抗体価の間接的な尺度を提供した。
【図4】抗JWハプテン抗体結合のアダプター仲介性再指向を例示する図である。抗JWハプテンマウス血清のヒトインテグリンαvβ3へのSCS-873存在下での特異的結合を、方法の項に記載するとおりELISAによって測定した。マウスLM609(抗αvβ3)および38C2(抗JW)mAbも試験した。血清を免疫化後第0日、第22日、および第50日に試験した。
【図5】アダプターを標的とする抗体により仲介される同系マウスにおける腫瘍成長の阻害を例示する図である。(A)SCSによる処置はJW-KLHで免疫化したBALB/CマウスにおいてCT26腫瘍の成長を有効に阻害した。マウス(1群あたり6匹)を、第2日から第17日の間、PBS単独、PBS中60μg/mL SCS-873、またはPBS中27.5μg/mL SCS-397の200μL腹腔内注射で処置した。平均腫瘍体積±SDを、移植後第12日から第30日まで、3日間隔で評価した。(B)cRCG-dkによる処置はJW-KLHで免疫化したBALB/CマウスにおいてCT26腫瘍の成長を有効に阻害した。マウス(1群あたり6匹)を、第2日から第17日の間、PBS単独、PBS中77μg/mL cRGD-dk、またはPBS中42.5μg/mL cRGDの200μL腹腔内注射で処置した。平均腫瘍体積±SDを、移植後第12日から第30日まで、3日間隔で評価した。(C)SCS-873による処置はJW-BSAで免疫化したC57BL6マウスにおいてB16腫瘍の成長を有効に阻害した。マウス(1群あたり6匹)を、腫瘍誘導後第2日から第17日の間、PBS単独、PBS中60μg/mL SCS-873、またはPBS中27.5μg/mL SCS-397の200μL腹腔内注射で処置した。平均腫瘍体積±SDを、移植後第12日から第24日まで、3日間隔で評価した。(D)SCS-873による処置はJW-BSAで免疫化したFcγRIIIノックアウトマウスにおいてB16腫瘍の成長を有効に阻害した。マウス(1群あたり6匹)を、腫瘍誘導後第2日から第17日の間、PBS単独、PBS中60μg/mL SCS-873、またはPBS中27.5μg/mL SCS-397の200μL腹腔内注射で処置した。平均腫瘍体積±SDを、移植後第12日から第24日まで、3日間隔で評価した。
【図6】化学的にプログラムされた抗体のNK細胞仲介性ADCC活性を例示する図である。(A)放射標識したCT26腫瘍細胞をSCS-873またはcRGD-dkでプログラムされたBALB/Cマウス血清と混合し、かつエフェクターとしてのBALB/C脾臓単離NK細胞存在下で溶解を測定した。(B)放射標識したB16腫瘍細胞をSCS-873またはcRGD-dkでプログラムされたC57BL6マウス血清と混合し、エフェクターとしてのC57BL6脾臓単離NK細胞存在下で溶解を測定した。示した値は三通りの試料の平均(±SD)である。
【図7】化学的にプログラム可能な共有結合性ワクチン戦略の広い可能性を例示する図である。多様な標的指向性分子(示すとおり異なる幾何学的形状)の開発に従い、いくつかの疾患および生物学的脅威に取り組むために化学的にプログラムされたワクチンを作製することができる。
【図8】モノクローナル抗体38C2および33F12がa-JWハプテンと共役結合による酸に安定な複合体を形成することを例示する図である。JW-BSAと高い親和性で結合する20のモノクローナル抗体を産生し、かつ試験した(1)。材料および方法の項に記載するとおりa-JWハプテン結合ELISAを用いて結合を評価した。グラフは、酸洗浄なし(A)または酸洗浄後(B)の結合ELISA(405nmの吸光度)の結果を示す。アッセイしたモノクローナル抗体のうち2つだけ(33F12および38C2)でa-JWハプテンへの共有結合が確認された。これらの抗体の共有結合を複数のアッセイ法を用いて確認した(1)。共有結合はアルドール反応の触媒メカニズムの鍵でもあるため、これらの抗体だけがアッセイした20のうちの触媒抗体であった。
【図9】インテグリン発現細胞へのcp38C2結合によるアダプターの検証を例示する図である。すべてその表面上にインテグリンavp3およびavPsの両方を発現する、ヒト黒色腫M21およびマウス内皮MSI細胞株へのcp38C2結合のフローサイトメトリー分析を、方法の項に記載のとおりに実施した。細胞を、cp38C2 mAb(太線)およびプログラムされていない38C2 mAb(細線)で染色した。結合抗体をFITC結合ロバ抗マウスIgGで検出した。
【図10】補体(CDC)存在下、再指向抗体による腫瘍細胞殺滅を例示する図である。抗体およびウサギ補体存在下での放射標識したCT26およびMSI細胞の溶解を、方法の項に記載するとおり標準の[51Cr]-放出アッセイ法により測定した(2)。示した値は三通りの試料の平均(±SD)である。
【図11】化学的にプログラムされた抗体のNK細胞仲介性ADCC活性を例示する図である。(A)抗HLA mAbおよびSCS-873でプログラムされたマウス血清の、ADCCによる放射標識M21細胞を溶解する能力を、方法の項に記載するとおり標準の[5Cr]-放出アッセイ法により評価した。ヌード脾臓単離NK細胞をエフェクター細胞として用いた!(B)エフェクターとしてのヌード、SCID、BALB/C、またはC57BL6脾臓単離NK細胞存在下での、抗HLA mAbの、ADCCによる放射標識M21細胞を溶解する能力。示した値は三通りの試料の平均(±SD)である。
【図12】CT26腫瘍発生前および発生中の、JW-BSA免疫化BALB/Cマウス抗体価を例示する図である。BALB/Cマウスを、発表されている方法に従ってJW-KLHで免疫化し、第15日および第43日に抗原追加免疫した(1)。第65日に、マウスを抗JW価がマッチする群となるよう分類し、右側腹部にPBS中のCT26細胞懸濁液0.1mL(2×105細胞/マウス)を皮下注射した。JW-KLH免疫化マウスからの個々のJW抗血清を第22、第50日、および第85日に採取し、インビトロアッセイ法に用いた。抗体濃度を材料および方法の項ですでに記載したとおりに定量した。抗体価を群の各マウスについて405nmのシグナル強度で示す(異なる色の点で表す)。パネルはSCS-397(A)、cRGD(B)、SCS-873(C)およびcRGD-dk(D)で処置した異なるマウス群の力価を示す。
【図13】B16腫瘍発生前および発生中の、JW-BSA免疫化C57BL6およびC57BL6/FcyRIIIノックアウトマウス抗体価を例示する図である。C57BL6およびC57BL6/FcyRIIIノックアウトマウスを、発表されている方法に従ってJW-KLHで免疫化し、第15日および第43日に追加免疫した(1)。第65日に、マウスを抗JW価がマッチする群となるよう分類し、右側腹部にPBS中のB16細胞懸濁液0.1mL(2×105細胞/マウス)を皮下注射した。JW-KLH免疫化マウスからの個々のJW抗血清を第22、第50日、および第85日に採取し、インビトロアッセイ法に用いた。抗体濃度を材料および方法の項ですでに記載したとおりに定量した。抗体価を群の各マウスについて405nmのシグナル強度で示す(異なる色の点で表す)。パネルはSCS-397(A)、またはSCS-873(C)で処置したC57BL6 JW-KLH免疫化マウス、およびSCS-397(C)またはSCS-873(D)で処置したC57BL6/FcyRIIIノックアウトJW-KLH免疫化マウスの力価を示す。
【図14】免疫化用のKLHを標識するためのハプテンを例示する図である。例示ハプテン、NHSエステルをタンパク質と水溶液中で混合し、アミン基とのアミド結合形成を通じてタンパク質を標識する。
【図15】本明細書に記載の反応性モジュール、可変リンカーモジュールおよび標的指向性モジュールを含む、図8のハプテンを例示する図である。HTV-1療法のための例示的CCR5標的指向性化合物も示す。
【図16】BMS-378806(AIDS, 2004 Nov 19;18:2327-30;Antivir Ther - 2002;7(Suppl 1):S1-251)に基づくHIV-1ウイルスエンベロープ標的指向性物質を例示する図である。
【図17】HIV-1の伝染を妨げる化学的にプログラムされたワクチンアプローチを例示する図である。
【図18】化学的にプログラムされたモノクローナル38C2およびアプラビロックに基づくプログラミング物質を介してのウイルス中和を例示する図である。陽性対照:SHIVおよびHIV-1アッセイ法におけるbNAb b12;SIVアッセイ法におけるCD4-Ig。
【図19】HIV-1JR-FL中和アッセイ法におけるアプラビロックによるインビトロプログラミングを例示する図である。
【図20】HIV-1 CCCR5結合FACSにおけるアプラビロックによるインビボプログラミングを例示する図である。
【図21】HIV-1アッセイ法におけるBMSエントリー阻害剤でプログラムされた38C2を例示する図である。
【図22】アプラビロック-ジケトンおよびアプラビロック-ラクタムのgp120結合ELISAを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
開示の詳細な説明
ワクチン開発における難題に取り組むために、共有結合性抗体応答を誘導するためのアプローチとして反応性免疫化が開発された。反応性免疫化は当初、触媒モノクローナル抗体の産生のために設計され、免疫原として共有結合性抗体を誘発するよう設計された反応性化学物質を用いる点で、通常の免疫化アプローチとは異なる。β-ジケトン免疫原による免疫化は、アルドール反応のようなエナミンおよびイミニウムに基づく変換を触媒するために用いうる共有結合性抗体の再生可能な誘導を可能にすることがこれまでに明らかにされている。共有結合性モノクローナル抗体は、様々な特異性の設計されたリガンドとのそれらの共有結合を介してプログラムされることができ、そのような化学的にプログラムされた抗体は様々な疾患の動物モデルにおいて強力な生物活性を有することも明らかにされている。事実、ヒト疾患の治療における化学的にプログラムされたモノクローナル抗体の有効性を調査するために、いくつかのヒトでの試験が進行中である。これらの成功を考慮すると、治療上の結果を得るために共有結合性ポリクローナル応答がインビボで効率的に誘導されうる。本明細書において、「即時免疫」を有する処置動物を提供するために、誘導されるポリクローナル応答が、適切に設計されたプログラミング化合物の注射によってプログラムされうることが示される。
【0014】
高度免疫グロブリンの受動伝達において達成される免疫の状態を即座に作る能力は、公衆衛生において途方もない影響を有していた。受動免疫化とは異なり、能動免疫化はワクチン学の基礎であり、固有の制限を有する予測的戦略である。しかし、能動および受動免疫化の要素を組み合わせて、ワクチン学に対する有効な化学的に推進されるアプローチを作製することができる。マウスの3つの系統において共有結合性ポリクローナル抗体のレザバーを作るために反応性免疫化を用い、マウスを続いて同系のCT26結腸腫瘍またはB16F10黒色腫を移植した。設計したインテグリンαvβ3およびαvβ5アダプターリガンドの投与後、誘導される共有結合性ポリクローナル抗体はアダプターリガンドと自己集合し、動物は移植された腫瘍に対する即時の、化学的にプログラムされた、ポリクローナル応答を開始した。顕著な治療応答が、アジュバント療法に頼ることなく観察された。化学的にプログラムされた免疫応答は、抗体依存性細胞毒性および補体誘導性細胞毒性によって推進された。ワクチン学に対するこの型の化学的に推進されるアプローチは、生物学によって推進されるワクチンアプローチに難治性であることが判明している疾患に対して防護するための経路を提供しうる。
【0015】
従って、一つの局面において、本開示は対象において共有結合性抗体応答を誘導するための免疫化アプローチを提供する。
【0016】
キーホールリンペットヘモシニアン(KLH)は研究、バイオテクノロジーおよび治療適用のための抗体産生における担体タンパク質として広く用いられている。ハプテンは、一般には免疫原性でなく、抗体産生の形での免疫システムからの応答を刺激するために担体タンパク質の助けを必要とする、ペプチド、小さいタンパク質および薬物分子などの、低分子量の物質である。KLHはこの目的のために最も広く用いられている担体タンパク質である。KLHはいくつかの理由により有効な担体タンパク質である。その大きいサイズおよび異なる/外来のエピトープは実質的な免疫応答を起こし、ハプテンを連結するのに利用可能なリジン残基を多く含むことで、ハプテン:担体タンパク質の高い比が可能となり、それによってハプテン特異的抗体を産生する見込みが高くなる。
【0017】
ハプテンは、いくつかの方法を用いてKLHに連結することができる。カルボキシルを1級アミンに共有結合するために、単純な1段階連結を架橋剤EDCを用いて実施することができる。この方法は実施するのが最も単純で、「無作為な」配向によって可能性があるすべてのエピトープに対する抗体産生が可能となる。しかし、この手順は一般にある程度の重合を引き起こし、それによって溶解性が低下して、結合体をより扱いにくくする。
【0018】
KLHは、リジン残基をスルフヒドリル反応性マレイミド基に変換する、架橋剤Sulfo-SMCCで活性化することができる。次いで、スルフヒドリル含有ハプテンをKLHと反応させて、重合を起こすことなく免疫原を完成することができる。この反応の特異性は、システインが所望のエピトープから離れて局在する状況にとって(例えば、末端システインをペプチドのいずれかの末端に付加しうるペプチドにおいて)理想的である。この2段階手順の最初の部分が完了している、マレイミド活性化KLHは市販されている。KLHを本開示における例示的分子として用いるが、ロコガイヘモシアニン(Blue Carrierとして販売);ウシ血清アルブミン(BSA);カチオン化BSA(cBSA);オバルブミンおよびその他を含む、他の担体タンパク質も開示する方法に含まれることが理解されるべきである。
【0019】
本開示は、標的指向性物質および/または生体物質が抗体の結合部位に共有結合により連結されている、様々な抗体標的指向性化合物を提供する。1つまたは複数の標的指向性物質を連結する場合、標的指向性物質の少なくとも1つをその標的に結合しうるように連結してもよい。これは、標的指向性物質を、標的に対するその結合特異性をもたらす様式で連結することにより、および標的指向性物質がその標的に抗体による立体障害なしに結合しうるように、標的指向性物質を抗体結合部位から十分に離すことにより達成してもよい。
【0020】
標的指向性物質には、薬物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣体、糖タンパク質、プロテオグリカン、脂質 糖脂質、リン脂質、リポ多糖、核酸、プロテオグリカン、炭水化物などの、5,000ダルトンまたはそれ未満の低分子有機化合物が含まれるが、それらに限定されるわけではない。標的指向性物質には、抗新生物剤を含む周知の治療化合物が含まれうる。抗新生物標的指向性物質には、タルグパクリタキセル(targpaclitaxel)、ダウノルビシン、ドキソルビシン、カルミノマイシン、4'-エピアドリアマイシン、4-デメトキシ-ダウノマイシン、11-デオキシダウノルビシン、13-デオキシダウノルビシン、アドリアマイシン-14-ベンゾエート、アドリアマイシン-14-オクタノエート、アドリアマイシン- 14-ナフタレン-eアセテート、ビンブラスチン、ビンクリスチン、マイトマイシンC、N-メチルマイトマイシンC、ブレオマイシンA2、ジデアザテトラヒドロ葉酸、アミノプテリン、メトトレキサート、コルヒチンおよびシスプラチンなどが含まれうる。抗微生物剤には、ゲンタマイシンを含むアミノグリコシド、リファンピシン、3'-アジド-3'-デオキシチミジン(AZT)およびアシロビル(acylovir)などの抗ウイルス化合物、フルコナゾールを含むアゾール、アンホテリシンBなどのプリレ(plyre)マクロライド、およびカンジシジンなどの抗真菌剤、アンチモン化合物などの抗寄生虫化合物などが含まれる。ホルモン標的指向性物質には、ジフテリア毒素などの毒素、CSF、GSF、GMCSF、TNF、エリスロポエチン、免疫調節物質、またはインターフェロンもしくはインターロイキンなどのサイトカインなどのサイトカイン、神経ペプチド、HGH、FSH、またはLHなどの生殖ホルモン、甲状腺ホルモン、アセチルコリンなどの神経伝達物質、およびエストロゲン受容体などのホルモン受容体が含まれる。
【0021】
いくつかの態様において、標的指向性物質は抗体ではない。他の態様において、標的指向性物質は金属キレートではない。標的指向性物質は天然の免疫グロブリンと比べて低分子であってもよい。標的指向性物質を抗体結合部位のアミノ酸残基に共有結合するのに必要な任意の連結部分を含む、標的指向性物質は、サイズが少なくとも約300ダルトンであってもよく、サイズが少なくとも約400、500、600、700、800、900、1,000、1,100、1,200、1,300、1,400、1,500、1,600、1,700、1,800、1,900、2,000、2,500、3,000、3,500、4,000、4,500または5,000ダルトンであってもよく、さらに大きいサイズも可能である。
【0022】
本開示の標的指向性化合物において適した標的指向性物質はタンパク質またはペプチドでありうる。「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを意味するために、交換可能に用いられる。本明細書において用いられるこれらの用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工の化学類縁体である、アミノ酸ポリマーにもあてはまる。これらの用語は天然アミノ酸ポリマーにもあてはまる。アミノ酸は、ペプチドの結合機能が維持されているかぎり、LまたはD型でありうる。ペプチドは可変の長さでありうるが、一般には約4から200アミノ酸までの間の長さである。ペプチドは、ペプチド内の2つの隣接していないアミノ酸の間に分子内結合を有する環状、例えば、骨格と骨格、側鎖と骨格、および側鎖と側鎖との環化であってもよい。環状ペプチドは当技術分野において周知の方法によって調製することができ、例えば、米国特許第6,013,625号を参照されたい。
【0023】
標的分子に対する結合活性を示すタンパク質またはペプチドの標的指向性物質は、当技術分野において周知である。例えば、標的指向性物質はウイルスペプチド細胞融合阻害剤であってもよい。これにはHIV感染細胞上の融合受容体を標的とするT-20 HIV-1 gp41融合阻害剤(T-20については、Kang et alの米国特許第6,281,331号および第6,015,881号;Nagashima et al. J. Infectious Diseases 183:1121, 2001;他のHIV阻害剤については、Barneyの米国特許第6,020,459号およびJeffs et alの国際公開公報第0151673A2号参照)、RSV細胞融合阻害剤(Antczakの国際公開公報第0164013A2号およびMcKimm-Breschkin, Curr. Opin. Invest. Drugs 1:425-427, 2000 (VP-14637)参照)、ニューモウイルス(pneumovirus)属細胞融合阻害剤(Nitz et al.の国際公開公報第9938508A1参照)などが含まれうる。標的指向性物質には、LHRH、ボンベシン/ガストリン放出ホルモン、ソマトスタチン(例えば、RC-121オクタペプチド)などのペプチドホルモンまたはペプチドホルモン類縁体が含まれ、これらは卵巣、乳房、前立腺肺の小細胞、結腸直腸、胃、および膵臓の様々な癌のいずれかを標的とするために用いてもよい。例えば、Schally et al., Eur. J. Endocrinology, 141:1-14, 1999を参照されたい。
【0024】
本開示の標的指向性化合物において用いるのに適したペプチド標的指向性物質は、ペプチド配列の無作為なライブラリを提示(display)するファージライブラリのインビボ標的指向化を用いて特定してもよい(例えば、Arap et al., Nature Medicine, 2002 8(2):121-7;Arap et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2002 99(3): 1527-1531;Trepel et al. Curr. Opin. Chem. Biol. 2002 6(3):399-404参照)。
【0025】
いくつかの態様において、標的指向性物質はインテグリンに特異的である。インテグリンは、細胞接着事象およびシグナル伝達プロセスにおいて機能する、ヘテロ二量体の膜貫通糖タンパク質複合体である。インテグリンαvβ3は多くの細胞上で発現され、破骨細胞の骨基質への接着、血管平滑筋細胞の遊走、および血管形成を含むいくつかの生物学的に関連するプロセスを仲介することが明らかにされている。インテグリンαvβ3アンタゴニストは、関節リウマチ、癌、および眼疾患などの、血管新生に関与する疾患を含む、いくつかのヒト疾患の治療において用いられる可能性がある。
【0026】
インテグリンに適した標的指向性物質には、RGDペプチドもしくはペプチド模倣体または非RGDペプチドもしくはペプチド模倣体が含まれる。本明細書において用いられる、「Arg-Gly-Aspペプチド」または「RGDペプチド」への言及は、「受容体のArg-Gly-Aspファミリー」の受容体、例えば、インテグリンに対する結合部位として機能しうる、1つまたは複数のArg-Gly-Asp含有配列を有するペプチドを意味することが意図される。インテグリンはαサブユニットおよびβサブユニットを含み、α1β1、α2β1、α3β1、α4β1、α5β1、α6β1、α7β1、α8β1、α9β1、α6β4、α4β7、αDβ2、αvβ6、αLβ2、αMβ2、α4β7、αvβ1、αvβ3、αvβ5、αvβ6、αvβ8、αxβ2、αIIbβ3、αIELbβ7などを含む多くの型が含まれる。
【0027】
配列RGDはいくつかの基質タンパク質中に存在し、インテグリンによる基質への細胞結合の標的である。血小板は多量のタンパク質GP IIb/IIIaのRGD-細胞表面受容体を含み、このタンパク質は主に、他の血小板および傷害された血管の内皮表面との相互作用を通じて、冠動脈血栓症の発生の原因となる。RGDペプチドなる用語は、それらが同じRGD受容体と相互作用するという条件で、その機能的等価物であるアミノ酸(例えば、RLDまたはKGD)も含む。RGD配列を含むペプチドは、例えば、Applied Biosystems, Inc., Foster City, Calif.製のものなどの、自動ペプチド合成機を用い、当技術分野において周知の手段によって、アミノ酸から合成することができる。
【0028】
本明細書において用いられる「非RGD」ペプチドとは、インテグリンのそのリガンド(例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲンなど)への結合のアンタゴニストまたはアゴニストであるが、RGD結合部位を含まないペプチドを意味する。非RGDインテグリンペプチドはαvβ3(例えば、米国特許第5,767,071号および同第5,780,426号参照)について、ならびにα4β1(VLA-4)、α4β7(例えば、米国特許第6,365,619号;Chang et al., Bioorganic & Medicinal Chem Lett, 12:159-163 (2002);Lin et al., Bioorganic & Medicinal Chem Lett, 12:133-136 (2002)参照)などの他のインテグリンについて公知である。
【0029】
インテグリン標的指向性物質はペプチド模倣アゴニストまたはアンタゴニストであってもよく、これはRGDペプチドまたは非RGDペプチドのペプチド模倣アゴニストまたはアンタゴニストであってもよい。本明細書において用いられる「ペプチド模倣体」なる用語は、天然の親ペプチドの生物作用を模倣または拮抗することが可能な、非ペプチド構造の要素を含む化合物である。RGDペプチドのペプチド模倣体は、RGDアミノ酸配列の類似のペプチド鎖ファルマコフォア基を保持しているが、結合部位配列におけるアミノ酸またはペプチド結合を持たない有機分子である。同様に、非RGDペプチドのペプチド模倣体は、非RGD結合部位配列の類似のペプチド鎖ファルマコフォア基を保持しているが、結合部位配列におけるアミノ酸またはペプチド結合を持たない有機分子である。「ファルマコフォア」は、特定の応答を生じる、または所望の活性を有するために化合物に必要とされる官能基の特定の三次元配置である。「RGDペプチド模倣体」なる用語は、有機/非ペプチド構造によって支持されるRGDファルマコフォアを含む分子を含む化合物を意味することが意図される。RGDペプチド模倣体(または非RGDペプチド模倣体)は、それ自体がペプチド結合で連結された通常のまたは修飾アミノ酸を含む、より大きい分子の一部でありうることが理解される。
【0030】
RGDペプチド模倣体は当技術分野において周知で、GPIIb/IIIa、αvβ3およびαvβ5などのインテグリンに関して記載されている(例えば、Miller et al., J. Med. Chem. 2000, 43:22-26;および国際特許公報の国際公開公報第0110867号、国際公開公報第9915178号、国際公開公報第9915170号、国際公開公報第9815278号、国際公開公報第9814192号、国際公開公報第0035887号、国際公開公報第9906049号、国際公開公報第9724119号および国際公開公報第9600730号を参照されたく;Kumar et al., Cancer Res. 61:2232-2238 (2000)も参照されたい)。多くのそのような化合物は複数のインテグリンに特異的である。RGDペプチド模倣体は一般にはコアまたは鋳型(「フィブリノゲン受容体アンタゴニスト鋳型」とも呼ぶ)に基づき、これらはスペーサーによってコアの一端の酸性基およびコアの他端の塩基性基に連結される。酸性基は一般にはカルボン酸官能基である一方で、塩基性基は一般にはアミジンまたはグアニジンなどのN含有部分である。典型的には、コア構造は酸性部分と塩基性窒素部分との間にしっかりした間隔を空ける形状を加え、この目的のために1つまたは複数の環構造(例えば、ピリジン、インダゾールなど)またはアミド結合を含む。
【0031】
フィブリノゲン受容体アンタゴニストについて、一般に、RGDペプチド模倣体の酸性基と塩基性基の窒素との間に、約12から15個、おそらくは13または14個の介在共有結合が存在する(最も短い分子内経路により)。ビトロネクチン受容体アンタゴニストについては、酸性部分と塩基性部分との間の介在共有結合の数は一般に短く、2から5個、または3もしくは4個である。フィブリノゲンアンタゴニスト鋳型の酸性部分とピリジンの窒素原子との間の適切な間隔を得るために、特定のコアを選択してもよい。一般に、フィブリノゲンアンタゴニストは酸性部分(例えば、プロトンを供与するか、または電子対を受容する原子)と塩基性部分(例えば、プロトンを受容するか、または電子対を供与する)との間に約16オングストローム(1.6nm)の分子内距離を有するが、ビトロネクチンアンタゴニストはそれぞれの酸性中心と塩基性中心との間に約14オングストローム(1.4nm)を有する。フィブリノゲン受容体様物質からビトロネクチン受容体様物質への変換についての詳細な記載は、米国特許第6,159,964号において見いだすことができる。
【0032】
ペプチド模倣RGDコアは、0から6個の二重結合を含み、N、OおよびSから選択される0から6個のヘテロ原子を含む、5〜11員芳香族または非芳香族の単環系または多環系を含むことができる。環系は無置換であってもよく、または炭素もしくは窒素原子上で置換されていてもよい。ビトロネクチン結合のために有用である適した置換基を有するコア構造には、国際公開公報第98/14192号に記載のベンズアザピン(benzazapine)、米国特許第6,239,168号に記載のベンズジアザピン(benzdiazapine)、および米国特許第6,008,213号に記載の縮合三環式化合物などの、単環式および二環式の基が含まれる。
【0033】
米国特許第6,159,964号は、RGDペプチド模倣体のコア構造(フィブリノゲン鋳型と呼ぶ)を開示するその文書の表1に参照文献の大規模なリストを含み、RGDペプチド模倣体を調製するために用いることができる。ビトロネクチンRGDおよびフィブロネクチンRGDペプチド模倣体は米国特許第6,335,330号;同第5,977,101号;同第6,088,213号;同第6,069,158号;同第6,191,304号;同第6,239,138号;同第6,159,964号;同第6,117,910号;同第6,117,866号;同第6,008,214号;同第6,127,359号;同第5,939,412号;同第5,693,636号;同第6,403,578号;同第6,387,895号;同第6,268,378号;同第6,218,387号;同第6,207,663号;同第6,011,045号;同第5,990,145号;同第6,399,620号;同第6,322,770号;同第6,017,925号;同第5,981,546号;同第5,952,341号;同第6,413,955号;同第6,340,679号;同第6,313,119号;同第6,268,378号;同第6,211,184号;同第6,066,648号;同第5,843,906号;同第6,251,944号;同第5,952,381号;同第5,852,210号;同第5,811,441号;同第6,114,328号;同第5,849,736号;同第5,446,056号;同第5,756,441号;同第6,028,087号;同第6,037,343号;同第5,795,893号;同第5,726,192号;同第5,741,804号;同第5,470,849号;同第6,319,937号;同第6,172,256号;同第5,773,644号;同第6,028,223号;同第6,232,308号;同第6,322,770号;同第5,760,028号および米国特許出願公開第2003/0175921号に開示されている。
【0034】
標的指向性化合物の標的指向性物質が結合する標的分子は、標的部分が免疫グロブリン結合部位の外側である場合、非免疫グロブリン分子であってもよく、または免疫グロブリン分子であってもよい。開示する化合物から抗原として機能し、従って、免疫グロブリン結合部位に結合する、標的指向性物質を除外することは意図されない。そのような標的指向性物質が非免疫グロブリン分子および/または免疫グロブリン分子の結合部位の外側に位置する標的部分にも結合するとすれば、標的指向性物質は本明細書に含まれ、一般に、標的分子は有機、無機、タンパク質、脂質、炭水化物、核酸などを含む、任意の型の分子でありうる。
【0035】
標的分子はタンパク質、炭水化物、脂質または核酸などの生体分子であってもよい。標的分子は細胞(「細胞表面発現」)、もしくはウイルスなどの他の粒子(「粒子表面発現」)に結合していることもあり、または細胞外であってもよい。細胞または粒子と結合している場合、標的分子は、細胞または粒子の表面上で、標的指向性化合物の標的指向性物質が体の液相からの表面受容体と接触可能な様式で発現されうる。
【0036】
いくつかの態様において、標的分子は主に、またはもっぱら病的状態または患部細胞、組織もしくは体液と結合する。従って、本発明の抗体標的指向性化合物の標的指向性物質を用いて、細胞、細胞外基質生体分子または体液生体分子を標的とすることにより、標的指向性化合物を患部組織に送達することができる。以下の実施例において開示する例示的標的分子には、インテグリン(本明細書において例示するとおり)、サイトカイン受容体、サイトカイン、ビタミン受容体、細胞表面酵素、ウイルスおよび細菌病原体などの病原体(例えば、HIV-1ウイルスおよびHIV-1ウイルス感染細胞などが含まれる。
【0037】
上記で示唆した一つの態様において、標的分子は感染病原体と結合し、微生物細胞の表面上またはウイルス粒子の表面上で発現される。従って、標的指向性物質が細胞表面発現または粒子発現された感染病原体と結合しうる抗体標的指向性組成物は、個体の体内の微生物病原体を標的とすることにより、抗菌薬として用いることができる。
【0038】
本開示の別の標的分子は、前立腺特異的抗原(PSA)、すなわち前立腺癌、乳癌および骨転移を含む様々な疾患状態に関係するとされているセリンプロテアーゼである。
【0039】
本明細書において用いられる「抗体」には、B細胞の産生物である免疫グロブリンおよびその変異体ならびにT細胞の産生物であるT細胞受容体(TcR)およびその変異体が含まれる。免疫グロブリンは、免疫グロブリンκおよびλ、α、γ、δ、εおよびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子によって実質的にコードされる、1つまたは複数のポリペプチドを含むタンパク質である。軽鎖はκまたはλのいずれかとして分類される。重鎖はγ、μ、α、δ、またはεとして分類され、これらは次いで免疫グロブリンのクラス、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEをそれぞれ規定する。同様に重鎖のサブクラスも公知である。例えば、ヒトのIgG重鎖はIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4サブクラスのいずれかでありうる。
【0040】
典型的な免疫グロブリン構造単位は4量体を含むことが知られている。各4量体は2つの同じポリペプチド鎖対からなり、各対は1つの「軽」鎖(約25kD)および1つの「重」鎖(約50〜70kD)を有する。各鎖のN末端は、抗原認識を主として担う、約100〜110個またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を規定する。可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)なる用語は、それぞれこれらの軽鎖および重鎖を意味する。
【0041】
結合部位とは、抗原結合に関与する抗体分子の部分を意味する。抗原結合部位は重(「H」)鎖および軽(「L」)鎖のN末端可変(「V」)領域のアミノ酸残基によって形成される。抗体可変領域は、「フレームワーク領域」(FR)として公知のより保存された隣接配列の間にはさまれた「超可変領域」または「相補性決定領域」(CDR)と呼ぶ3つの非常に異なる配列を含む。抗体分子において、軽鎖の3つの超可変領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)および重鎖の3つの超可変領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)が3次元空間において互いに関連して配置されて、抗原結合表面またはポケットを形成する。従って、抗体結合部位は、抗体のCDRを構成するアミノ酸および結合部位ポケットを構成する任意のフレームワーク残基を表す。
【0042】
本開示は、抗体の結合部位を修飾して、インビボで特定の標的分子に対する結合特異性を生じる方法も含む。そのような方法は、抗体の結合部位において反応性アミノ酸側鎖を共有結合する段階を含む。典型的には、抗体は標的分子に対して特異的とは考えられない。
【0043】
本明細書において用いられる薬物動態とは、経時的な血清中の投与した化合物の濃度を意味する。薬力学とは、経時的な標的および非標的組織中の投与した化合物の濃度ならびに標的組織への効果(有効性)および非標的組織への効果(毒性)を意味する。
【0044】
本開示は、個体において、共有結合性ポリクローナル抗体応答を誘導することによって、標的分子を発現する細胞、組織または体液に及ぶ疾患または状態を治療または予防する方法も提供する。該方法は、患者などの対象に、ハプテン化KLHまたは他の担体タンパク質の予備免疫有効量を投与する段階を含む。続いて、KLH-ハプテン分子による最初の免疫化の後に、対象に状態に応じた反応性免疫原または標的指向性化合物を投与する。例えば、反応性免疫原(「化学アダプター」とも呼ぶ)には、本明細書に記載の低分子化合物、ペプチドまたは他の免疫原が含まれる。本明細書において用いる例示的反応性免疫原には、SCS-873およびcRGD-dkが含まれる。
【0045】
本明細書において用いられる「共有結合性抗体」なる用語は、酸(例えば、0.05Mクエン酸、pH2.5)による処理後に放出されない、本開示の抗体を意味する。従って、本開示の共有結合性抗体は酸安定分子と考えられる。
【0046】
対象は哺乳動物などの動物であってもよい。いくつかの態様において、対象はヒトである。いくつかの態様において、標的分子はインテグリンであり、疾患は癌腫である。癌腫におけるインテグリン発現の関連は当技術分野において周知であり、例えば、米国特許第5,753,230号および同第5,766,591号、それらの開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0047】
一つの局面において、本開示は本開示の方法によって産生される共有結合性ポリクローナル抗体の強化集団を含む。そのような抗体の集団は、当技術分野において周知のとおり、腫瘍細胞などの細胞または組織(例えば、細胞外基質生体分子)の撮像を含む、様々な治療適用において有用である。従って、個体における細胞または組織(例えば、細胞外基質生体分子)を撮像する方法が提供される。そのような方法において、細胞または組織は標的分子を発現する。該方法は、対象に検出可能な標識に連結した本開示の共有結合性ポリクローナル抗体を投与する段階を含む。そのような方法において用いるための検出可能な標識は放射性同位体でありうるか、または核磁気共鳴(NMR)撮像において用いうるものなどの非放射性同位体であってもよい。後者の場合、基本的にSimkins et al., Nat. Med., 4(5):623-6 (1998)に記載のとおり、抗体標的指向性物質をキレート、例えば、常磁性金属ガドリニウムのジエチレントリアミンペンタアセテート(DTPA)に連結してもよい。
【0048】
本開示の抗体がヒトの医学的治療および診断においてのみならず、獣医学、農業、環境および他の分野においても用いられることは容易に明らかであると考えられる。
【0049】
別の局面において、本開示は式I:

の化合物またはその薬学的に許容される塩を提供し、
式中、リンカーは-O-、-NH-、-S-、-(C1-C20)アルキル-、-(CH2CH2O)m-、-NHC(=O)(CH2)n-、-C(=O)(CH2)q-、

、およびそれらの組み合わせから独立して選択され、ここでm、n、およびqがそれぞれ独立して0から20までの整数であり;
R1は独立して

であり;かつ
標的指向性モジュールは治療化合物である。
【0050】
別の局面において、本開示は式II:

の化合物を提供し、式中、リンカーは、

である。
【0051】
別の局面において、本開示は式:

の化合物を提供し、式中、各nは独立して0から20までの整数である。
【0052】
別の局面において、本開示は式IIIまたは式III':

の化合物を提供し、式中、リンカーは、

である。
【0053】
別の局面において、本開示は式:

の化合物を提供する。
【0054】
別の局面において、本開示は式IV:

の化合物を提供し、式中、リンカーは、

である。
【0055】
別の局面において、本開示は式:

の化合物を提供し、式中、各nは独立して0から20までの整数である。
【0056】
別の局面において、本開示は式V:

の化合物を提供し、式中、リンカーは、

である。
【0057】
別の局面において、本開示は式:

の化合物を提供し、式中、各nは独立して0から20までの整数である。
【0058】
別の局面において、本開示は式VI:

の化合物を提供し、式中、リンカーは、

である。
【0059】
別の局面において、本開示は式:

の化合物を提供し、式中、各nは独立して0から20までの整数である。
【0060】
別の局面において、本開示は式VII:

の化合物を提供し、式中、リンカーは、

である。
【0061】
別の局面において、本開示は式:

の化合物を提供し、式中、各nは独立して0から20までの整数である。
【0062】
別の局面において、本開示は式VIII:

の化合物を提供し、式中、リンカーは、

である。
【0063】
別の局面において、本開示は式:

の化合物を提供し、式中、各nは独立して0から20までの整数である。
【0064】
別の局面において、本開示は式IX:

の化合物を提供し、式中、リンカーは、

である。
【0065】
別の局面において、本開示は式:

の化合物を提供し、式中、各nは独立して0から20までの整数である。
【0066】
別の局面において、本開示は式XまたはX':

の化合物を提供し、式中、リンカーは、

である。
【0067】
別の局面において、本開示は式:

の化合物を提供し、式中、各nは独立して0から20までの整数である。
【0068】
別の局面において、本開示は式XI:

の化合物またはその薬学的に許容される塩を提供し、式中、各リンカーは、-O-、-NH-、-S-、-(C1-C20)アルキル、-(CH2CH2O)m-、NHC(=O)(CH2)n、-C(=O)(CH2)q

、およびそれらの組み合わせから独立して選択され、ここでm、n、およびqがそれぞれ独立して0から20までの整数であり;
R1は独立して

であり;かつ
標的指向性モジュールは治療化合物である。
【0069】
別の局面において、本開示は式XIの化合物を提供し、式中、各リンカーは独立して

である。
【0070】
別の局面において、本開示は、それを必要としている患者において治療薬の半減期を延長する方法であって、式Iの化合物をそれを必要としている患者に投与する段階を含む方法を提供する。
【0071】
別の局面において、本開示は、それを必要としている患者においてHIV-1感染症を阻止する方法であって、




の化合物またはそれらの組み合わせ、あるいはその薬学的に許容される塩を、そのような治療を必要としている患者に投与する段階を含む方法を提供し、
上記式中、各リンカーが、-O-、-NH-、-S-、-(C1-C20)アルキル、-(CH2CH2O)m-、-NHC(=O)(CH2)n、-C(=O)(CH2)q

、およびそれらの組み合わせから独立して選択され、ここでm、n、およびqがそれぞれ独立して0から20までの整数であり;かつ
各R1が独立して

である。
【0072】
別の局面において、本開示は、それを必要としている患者においてHIV-1感染症を阻止する方法であって、式II、III、III'、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、またはXIの化合物を、そのような治療を必要としている患者に投与する段階を含む方法を提供し、HIV-1感染症は、CCR5受容体および/またはCXCR4受容体を遮断することにより阻止される。
【0073】
別の局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体を産生する方法であって、対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより標的抗原に対する共有結合性ポリクローナル抗体応答を生じさせる段階を含む方法を提供する。
【0074】
別の局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体を産生する方法であって、対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより標的抗原に対する共有結合性ポリクローナル抗体応答を生じさせる段階を含む方法を提供し、該標的抗原は、腫瘍抗原、自己抗原、毒素、癌抗原、細菌抗原、ウイルス抗原、またはインテグリンである。
【0075】
別の局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体を産生する方法であって、対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより標的抗原に対する共有結合性ポリクローナル抗体応答を生じさせる段階を含む方法を提供し、該標的抗原は腫瘍抗原、自己抗原、毒素、癌抗原、細菌抗原、ウイルス抗原、またはインテグリンであり、該インテグリンはαvβ3またはαvβ5である。
【0076】
別の局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体を産生する方法であって、対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより標的抗原に対する共有結合性ポリクローナル抗体応答を生じさせる段階を含む方法を提供し、該標的抗原は腫瘍抗原、自己抗原、毒素、癌抗原、細菌抗原、ウイルス抗原、またはインテグリンであり、癌は黒色腫、結腸癌、神経膠腫、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、造血器癌、または頭頸部癌である。
【0077】
別の局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体を産生する方法であって、対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより標的抗原に対する共有結合性ポリクローナル抗体応答を生じさせる段階を含む方法を提供し、担体タンパク質はKLH、BSAおよびオバルブミンから選択される。
【0078】
別の局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体を産生する方法であって、対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより標的抗原に対する共有結合性ポリクローナル抗体応答を生じさせる段階を含む方法を提供し、該対象はヒトである。
【0079】
別の局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体を産生する方法であって、対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより標的抗原に対する共有結合性ポリクローナル抗体応答を生じさせる段階を含む方法を提供し、標的抗原は腫瘍抗原、自己抗原、毒素、癌抗原、細菌抗原、ウイルス抗原、またはインテグリンであり、標的抗原はCCR5である。
【0080】
別の局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体を産生する方法であって、対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより標的抗原に対する共有結合性ポリクローナル抗体応答を生じさせる段階を含む方法を提供し、標的抗原は腫瘍抗原、自己抗原、毒素、癌抗原、細菌抗原、ウイルス抗原、またはインテグリンであり、標的抗原はCCR5であり、CCR5標的指向性化合物は式I〜IXの任意の1つを有する。
【0081】
別の局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体を産生する方法であって、対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより標的抗原に対する共有結合性ポリクローナル抗体応答を生じさせる段階を含む方法を提供し、標的指向性化合物は式I〜IXの任意の1つを有する。
【0082】
別の局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体の強化集団を提供する。
【0083】
別の局面において、本開示は、対象において、標的分子を発現する細胞、組織または体液に及ぶ疾患または状態を治療または予防する方法であって;対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより該対象における共有結合性ポリクローナル抗体応答を誘導し、かつ該疾患または該状態を治療または予防する段階を含む方法を提供する。
【0084】
別の局面において、本開示は、対象において、標的分子を発現する細胞、組織または体液に及ぶ疾患または状態を治療または予防する方法であって;対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより該対象における共有結合性ポリクローナル抗体応答を誘導し、かつ該疾患または該状態を治療または予防する段階を含む方法を提供し、該疾患または該状態は感染症であり、標的分子は微生物病原体またはウイルスによって発現される。
【0085】
別の局面において、本開示は、対象において、標的分子を発現する細胞、組織または体液に及ぶ疾患または状態を治療または予防する方法であって、それを必要としている対象に、抗体および標的指向性化合物を投与する段階を含む方法を提供する。
【0086】
別の局面において、本開示は、対象において、標的分子を発現する細胞、組織または体液に及ぶ疾患または状態を治療または予防する方法であって、それを必要としている対象に、抗体および標的指向性化合物を投与する段階を含む方法を提供し、該化合物はインビボで投与される。
【0087】
別の局面において、本開示は、対象において、標的分子を発現する細胞、組織または体液に及ぶ疾患または状態を治療または予防する方法であって、それを必要としている対象に、抗体および標的指向性化合物を投与する段階を含む方法を提供し、該化合物は局所投与される。
【0088】
別の局面において、本開示は、対象において、標的分子を発現する細胞、組織または体液に及ぶ疾患または状態の治療または予防する方法であって、それを必要としている対象に、抗体および標的指向性化合物を投与する段階を含む方法を提供し、該化合物は経口投与される。
【0089】
別の局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体を産生する方法であって、対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより標的抗原に対する共有結合性ポリクローナル抗体応答を生じさせる段階を含む方法を提供し、標的抗原はタンパク質または炭水化物である。
【0090】
別の局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体の集団から単離されたモノクローナル抗体を提供する。
【0091】
別の局面において、本開示は、対象において、標的分子を発現する細胞、組織または体液に及ぶ疾患または状態を治療または予防する方法であって;対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより該対象における共有結合性ポリクローナル抗体応答を誘導し、かつ該疾患または該状態を治療または予防する段階を含む方法を提供し、該疾患または該状態は感染症であり、該標的分子は微生物病原体またはウイルスによって発現され、該標的分子はHIVまたはインフルエンザによって発現される。
【0092】
別の局面において、本開示は、インフルエンザの治療および予防において用いるための化学的にプログラムされたワクチンおよび抗体を提供する。タミフルおよびリレンザなどのインフルエンザノイラミニダーゼ阻害剤への反応性リンカーの結合は、抗体38C2および免疫化によって誘導されるポリクローナル抗体の、インフルエンザウイルスに結合して中和するための化学的プログラミングを提供する。標的指向性化合物の投与は再投与なしで1ヶ月間免疫を提供しうるため、即時免疫ワクチンは散発性のインフルエンザ大発生の魅力的な解決法であるべきである。さらに、ヒト化38C2または反応性が同じヒトポリクローナル抗体の備蓄を、受動伝達のために容易に用いうる。ノイラミニダーゼ阻害剤の小カクテルは多くのインフルエンザ株を妨げるために役立ちうる。理想的には保存された、インフルエンザウイルス上のエピトープを互いに結合する化合物は、即時免疫ワクチンおよび抗体に向かう新規標的指向性物質として用いうる。
【0093】
古典的なワクチン戦略の失敗は、おそらくはHIV-1ワクチンの長い探究において最も明白である。HIVの発見以来25年以上が経ち、広域中和抗体b12の発見以来17年が経つが、有効なHIVワクチンは見つからないままである。非常にささやかな成功の徴候がタイの大規模なワクチン試験から最近報告された。明らかに、長年の実績のあるワクチンアプローチはHIV-1ではうまくいかず、DNAワクチン接種のような多くの新規アプローチも同様に失敗している。一般に、有効なHIV-1ワクチンは強力なT細胞性免疫および広域中和抗体を誘導すべきであると示唆されており、この目標を達成するための多くの試みが失敗している。HIV-1ワクチンにおける中和抗体の役割についての実験的裏付けは、動物攻撃モデルにおける中和抗体の受動伝達に関与する試験から得られる。いくつかの試験から、十分な量の広域中和抗体(bNAb)の伝達が、マカクモデルにおける静脈内、膣、または直腸攻撃に対する無効化免疫(sterilizing immunity)を達成しうることが明らかにされている。または、動物モデルにおける遺伝子に基づくアプローチを用いての広域中和抗体の送達も、これらのモデルにおいて有効であることが判明している。従って、十分な力価のbNAbを誘発する免疫原を設計しうる場合には、有効なHIV-1ワクチンを産生しうる。b12の発見以来長年の間、さらなるbNabは以下の5つしか記載されていない;2G12、2F5、4E10、ならびに最近ではPG9およびPG16。従って、自然の感染におけるそのような応答の発生はまれであるようである。抗体に基づくワクチンに対する希望は、b12エピトープがCD4結合部位として決定されて以来長年の間、この型の強力なbNAbを誘導しうる免疫原が説明されたことがないという事実により、または残る5つのbNAbの特異性を反復する際に、さらに抑えられている。この失敗は、HIV-1ワクチン設計、すなわち中和エピトープ対非機能的エピトープに対する抗体を定量的に誘発する免疫原の設計または開発の主要課題の1つを指し示している。
【0094】
前記のとおり、この怖じ気づくような挑戦への1つの道は、アデノ随伴ウイルスのような遺伝子に基づくアプローチを用いてbNAbのカクテルを送達することである。これはより多くの注目に値する興味をそそるアプローチであるが、一般には遺伝子療法に対する固有のリスクや制限があり、かつ実質的にすべての遺伝子療法に共通のリスクや制限の議論はスペースのせいで除外されるが、抗体の固定のカクテル(これが可能であると示されるならば)を送達するアプローチは耐性ウイルスの出現にもかかわらず容易に適応されることはないと考えられる。出現ウイルスに対抗するために、bNAbのカクテルを容易に改変することを可能にする、遺伝子療法の一般的問題がないシステムが理想的であると考えられる。有害活性に応じて様々な抗体の絶対濃度を独立して調節または遮断することを可能にするシステムも望ましいと考えられる。
【0095】
従って、一つの局面において、本開示は、共有結合性ポリクローナル抗体応答の設計されたリガンドまたはプログラミング物質によるインビボプログラミングに基づく、化学的にプログラムされたワクチンを提供する。このアプローチは、現在複数の臨床試験中である、化学的にプログラムされたモノクローナル抗体技術に基づいている。反応性免疫化プロトコールおよび免疫原を、ウサギおよびマカクモデルを含む動物モデルにおいて最適化してもよい。本開示は、HIV-1補助受容体およびウイルス標的指向化のためのプログラミング物質の調製も提供し、これは共有結合性抗体上での提示のために最適化し、HIV-1の伝染を妨げるための最も有望なアプローチを決定するための単独の物質としておよび組み合わせとしてインビボで試験してもよい(例えば、CXCR4およびCCR5)。最適化したプロトコールおよび試薬を用いて、開示する化学的にプログラムされたワクチンアプローチの、アカゲザルのR5-SHIVSF162P3による膣攻撃からの防護に対する有効性を評価してもよい。このアプローチは、弱毒ウイルス、タンパク質免疫化(組換えまたは不活化ウイルス)または遺伝子アプローチに基づく、標準のワクチン開発と対照的である。プログラミング可能な共有結合性抗体応答の誘導における能動免疫を応答のデザイナーリガンドプログラミングと結合することにより、頑強で、柔軟でかつ強力な伝染の妨害が提供される。この型の化学によって推進されるアプローチをワクチン学に適用して、特にHIV-1における、生物学によって推進されるワクチンアプローチに難治性であることが判明している疾患に対して防護するためのワクチンへの経路を提供してもよい。このアプローチは、HIV-1に対する新規かつ有効なワクチンを提供し、ウイルス疾患の予防に広く適用可能でありうるアプローチの妥当性を確認することから、非常に重要である。
【0096】
現行のワクチン戦略を用いて難治性と見られる攻撃に取り組むために、本開示は癌におけるワクチン学への化学によって推進されるアプローチの可能性を用いる戦略を提供する。化学的にプログラム可能なワクチン戦略は、共有結合性抗体応答を誘導するために反応性免疫化を用い、モノクローナル抗体による試験に基づいている。反応性免疫化は触媒モノクローナル抗体の産生のために開発された。反応性免疫化は、共有結合性抗体を誘発するよう設計された反応性化学物質を免疫原として用いる点で、通常の免疫化アプローチと異なる。β-ジケトン免疫原による免疫化は、アルドール反応のようなエナミンおよびイナミンに基づく変換を触媒するために用いうる共有結合性抗体の再現可能な誘導を可能にする。新しいクラスの治療分子も、共有結合性モノクローナル抗体を、様々な特異性の設計されたリガンドとのそれらの共有結合反応を介してプログラミングすることにより開発され、そのような化学的にプログラムされた抗体は様々な疾患の動物モデル、例えば、癌および糖尿病の治療において強力な生物活性を有する。このアプローチはモノクローナル抗体療法の形であるが、共有結合性ポリクローナル応答は、効率的に誘導され、かつ治療結果を得るためにインビボでプログラムされてもよい。適切に設計されたプログラミング化合物の注入によりプログラムされた、3種の株のマウスにおいて誘導した共有結合性ポリクローナル応答は、自己抗原インテグリンαvβ3のリガンド結合部位におけるポリクローナル応答に定量的に焦点を当てることにより、処置動物にそれらの移植腫瘍に対する「即時免疫」を提供した。抗体依存性細胞毒性(ADCC)のような古典的な抗体エフェクター機能はこのシステムで有効であり、化学的にプログラムされたポリクローナル抗体は自然の抗体と同様に機能するという考えを支持している。
【0097】
本開示は、霊長類モデルにおいてHIV-1の伝染を有効に妨げる、頑強でかつ広く防護的な化学的にプログラムされたワクチンを提供する。この非慣習的なアプローチは抗ウイルスワクチン開発または霊長類において研究されたことがなく、HIV-1ワクチン開発における主要な問題に取り組むものである。開示するHIV-1に対する化学的にプログラムされたワクチンアプローチを図11に例示する。
【0098】
共有結合性ポリクローナル抗体は、霊長類において反応性免疫化を用いて誘導されることができ、かつこれらのポリクローナル応答は、特異的ウイルス標的指向性および/もしくは補助受容体標的指向性のリガンドまたはプログラミング物質の静脈内投与後にインビボでプログラムされることができる。二重特異的プログラミング物質を図11に例示し、これはウイルス結合アームおよび補助受容体結合アームを有する。プログラムされたポリクローナル応答はウイルス上の中和エピトープおよびHIV-1補助受容体CCR5上の遮断エピトープに定量的に向けられ、それにより動物がウイルスによって攻撃された場合にウイルスを中和し、ウイルス侵入を妨げる。または、プログラミング物質の小カクテルを投与して、ウイルスサブタイプおよび補助受容体エピトープの集団を妨げてもよい。ポリクローナル応答は低分子でプログラムされるため、これは処置動物において数週間持続し、標準のポリクローナル抗体応答に典型的な半減期で低下すると予想される。1日に複数回の投与を必要とすることもある典型的な低分子薬物とは対照的に、HIV-1に対する持続免疫には、定期的な、おそらくは一ヶ月間隔でのプログラミング物質の投与が必要であると考えられる。このアプローチでは、10mg/kgの抗体をプログラムするのに100マイクログラム/kg未満の用量のプログラミング物質で十分であることに留意することが重要である。プログラミング物質の用量を変えることで、標的とする任意のエピトープに対するポリクローナル抗体の相対レベルを調節してもよい。従って、応答の強さおよびその標的上の相対分布を制御してもよく、プログラミング物質を休止する場合には、任意の予期しない有害効果は時間と共に減少することになる。
【0099】
ウイルスの遺伝的変異性に十分に対処し、ウイルスの逃避の可能性を低減する一方で、予防効果を拡大する、より多くのかつ多様なプログラミング分子を生成してもよい。さらに、設計したリガンドの投与後に「即時免疫」を提供しうる、免疫化していない個体への受動伝達のために、汎用性のプログラム可能な共有結合性ポリクローナル抗体が容易に利用可能でありうる。このアプローチはbNAbの受動伝達よりも著しく費用効果が高く、遺伝子療法よりも安全で、これらのアプローチのいずれよりも柔軟である。このアプローチは弱毒ウイルス、タンパク質免疫化(組換えまたは不活化ウイルス)、または遺伝子アプローチに基づくワクチン開発の標準的な例とは対照的である。プログラミング可能な共有結合性抗体応答の誘導における能動免疫を応答のデザイナーリガンドプログラミングと結合することにより、頑強で、柔軟でかつ強力な伝染の妨害が提供される。ワクチン学に対するこの型の化学によって推進されるアプローチは、特にHIV-1における、生物学によって推進されるワクチンアプローチに難治性であることが判明している疾患に対する防護へのワクチンの経路を提供する。将来、低分子の経口投与によってポリクローナル抗体応答をプログラムすることが可能となる可能性がある。このアプローチは、HIV-1に対する新規かつ有効なワクチンを提供し、ウイルス疾患の予防に広く適用可能でありうるアプローチの妥当性を確認することから、非常に重要である。
【0100】
化学的にプログラムされたワクチン戦略への2つの主要な成分がある。すなわち免疫原/免疫化およびプログラミング物質である。確実に成功するために、これらの成分のそれぞれを詳細に研究し、確実に最良の成分を用いるために、代替の反応性免疫原ならびにプログラミング物質を比較した。R5-SHIVSF162P3/マカクモデルは、伝染を妨げ、モノクローナル抗体による排除免疫を生じるための鍵となるメカニズムを評価するための、bNAb b12の可能性について大々的に研究されているため、このモデルを用いての、化学的にプログラムされたワクチンアプローチのインビボで防護を提供する可能性を用いてもよい。
【0101】
反応性免疫原および反応性免疫化
癌の齧歯類モデルにおける化学的にプログラムされたワクチンの初期の試験において、ジケトンハプテンを、次いでインビボでプログラムされる共有結合性ポリクローナル抗体の誘導のために、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に結合した。同じハプテンでの免疫化により調製された、化学的にプログラムされたモノクローナル抗体による試験から、これらの抗体はジケトンと共有結合により反応するが、β-ラクタムとも反応することが見いだされた。後者の場合、不可逆的アミド連結が生じる。この型の連結はより長い薬物動態を提供するため、現在臨床試験中の4つの異なる化学的にプログラムされたモノクローナル抗体においてこれを用いる。このアプローチのためのβ-ラクタムを用いてのインビボでの共有結合性抗体の可能なプログラミングまたは反応性免疫原としてのそれらの可能性はまだ研究されていない。第三の反応性免疫原は環状ジアゾジカルボキシアミドである。この官能基は、エン様反応においてチロシンのフェノール基と反応し、安定な不可逆的共有結合を生じる(スキーム1参照)。

【0102】
プログラミング物質(PA)は以下次の3つの部分を含む:(1)所望の標的に結合する標的指向性モジュール(TM)、(2)インビボでの静脈内投与後に誘導される共有結合性抗体と反応して安定な共有結合連結を形成する反応性成分、および(3)標的指向性モジュールを反応性成分と連結するリンカー分子。2つのCCR5(アプラビロック、マラビロック)、CXCR4(GSK812397)、およびいくつかのHIV-1エンベロープ標的指向性モジュール(BMS;一例を示す)が特定され、これらをリンカー分子を介して反応性部分に付加するための、十分な構造活性相関が報告されている。PAの体裁および活性を最適化するために、異なる長さのリンカーを有する各化合物を調製してもよい(スキーム2参照)。

【0103】
補助受容体標的指向化
アプラビロック系プログラミング物質の合成は、プロリン触媒アルドール反応に基づくものであってもよい(スキーム3および4参照;標的指向性モジュール-リンカーのみを示す)。

【0104】
モノクローナル抗体38C2をプログラムし、HIV-1、SIV、SHIVを中和するための可能性を、アプラビロック系プログラミング物質を用いて試験した。ヒトおよびマカクPBMSならびに遺伝子改変細胞株に対するその特異的結合はCCR5特異的結合を確認した(図18参照)。
【0105】
このデータは、ヒトおよびマカクCCR5のいずれも、新規の化学的にプログラムされた抗体を用いて強力に妨げ、それによりウイルス侵入を抑止しうることを示唆している。TMの効力の劇的な増大は、抗体上のTMの二価の提示に基づく抗体への結合を通じて観察されうる。このアプローチを用いてCCR5妨害をさらに探究するため、マラビロック系PAを調製した。代謝毒性により臨床開発が停止されたアプラビロックとは異なり、マラビロックは承認されたCCR5阻害剤である。

【0106】
本発明者らは、アプラビロック系PAを単一の低分子として適用する場合の数桁低い用量で適用することになる、本発明者らのアプローチにおいて毒性は予期しておらず、マラビロック系PAは広い幅および高い効力ならびに潜在的により良好な薬物動態を示す重要な代替物でありうると考える。2つの区別をつけて連結したマラビロックTMの合成スキームを以下に提供し、ここで2つの型のアジド含有マラビロックTMが可能である(スキーム5参照)。

【0107】
容易に入手可能なベンジル保護トロピノンを対応するオキシムに変換し、続いてナトリウム金属還元により、エンド-およびエキソ-アミノトロパン19の分離可能な混合物を提供してもよい。分離したエキソ-生成物19を様々な長さのTBS保護アルキルアルコール端部を有する酸20と結合させて、中間体21を提供してもよい。ジクロロメタン中、0℃でPCl5により塩素化し、続いてtert-アミルアルコール中でアセチルヒドラジドを加え、tert-アミルアルコール中、酢酸存在下で環化し、水素化によりベンジル保護を除去して、トリアゾール生成物22を得る。保護アミノアルデヒド23を前記のとおりに調製して、中間体22との還元的アミノ化に用い、続いてPd(OH)2存在下、水素によりCbzを除去して、所望のアミン24を得てもよい。最後に、塩化4,4-ジフルオロシクロヘキサンカルボニル25と結合させ、TBS保護ヒドロキシル官能基をアジドに相互変換して、マラビロック系標的指向性モジュール26の合成が完了する。確立された合成経路により入手できるアミン中間体27を様々な長さのアルキルアジド酸塩化物28から選択したものと結合させることにより、代替のリンカー結合位置を用いて、別のマラビロック系標的指向性モジュール29を得ることもできる。
【0108】
証拠により、自然のHIV-1感染症は主にCCR5受容体を通じて起こることが示唆されているが、その後、CXCR4補助受容体へのウイルスの適応が疾患の進行およびAIDSと関連づけられている。強力な低分子CXCR4阻害剤の開発により、CCR5およびCXCR4の両方を妨げる化学的にプログラムされたワクチンが提供される。例えば、以下に示すGSK812397。

【0109】
上記に示すとおり、CXCR4アンタゴニストGSK812397についてのSARデータに基づく2つの型のアジド含有標的指向性モジュールを用いて、最適なリンカー結合点を特定してもよい。合成計画はGSK812397へのプロセス化学経路に基づいている(スキーム6参照)。

【0110】
ここで、DME中で2-アミノ-6-ブロモピリジン30を1,1,3-トリクロロアセトンと反応させ、続いてHCl存在下で環化して、5-ブロモイミダゾ[1,2-α]ピリジン-2-カルバルデヒド31を得る。続く31のN-アルキル置換ピペラジン32との反応により鍵となる中間体33を得る。ピペラジン環は1つの可能なリンカー結合点として役立つ。Cbz保護アミノアルキル鎖を1つまたはアルキル置換基R1として用いてもよい。容易に入手可能なテトラヒドロキノリノン34をキラルアミン35による還元的アミノ化にかけて、所望の不斉中心を組み込み、再結晶により鏡像異性体として純粋な生成物を単離してもよい。続いて、アルキルアルデヒドR2CHOにより還元的アミノ化を行った後、TFA存在下でp-メトキシベンジル補助基を加水分解して、所望の中間体36を得る。R2置換基は第二のリンカー結合点として役立ちうる。還元的アミノ化結合または中間体36および33と、続くイミダゾール環におけるヒドロキシメチル官能基の組み込み、Cbzの除去、およびアジド含有カルボン酸のNHS活性化エステルとの結合により、所望のCXCR4標的指向性モジュール37および38を得る。
【0111】
ウイルスエンベロープ標的指向化
最近、BMSは以前に発見したgp120/CD4複合体形成の阻害剤の進化した類縁体;BMS-3788806を報告した。この新しい化合物は有望な薬物動態学的プロファイルである60 pM活性を示し、広く中和する(本発明者らのSHIVエンベロープの基礎となるHIV-1 SF-162を含む)。BMSによって実施されたSAR試験により、C7位がリンカー結合の最良の点であることが示唆されている。本発明者らの合成経路は文献によるBMS-3788806合成に基づいており、市販のインドール39から出発する(スキーム7参照)。

【0112】
インドール39を任意の所望の長さのアジド-ポリエチレングリコールリンカーでO-アルキル化し、続いて3塩化アルミニウム存在下で2-クロロ-2-オキソ酢酸メチルと反応させて、中間体40を得る。メタノール中、炭酸カリウムと反応させ、続いてN-ベンゾイルピペラジンとDEPBTの仲介により結合させて、所望のアジド含有標的指向性モジュール41を得る。BMS-3788806の変形は文献では公知で、代替TMとして探究することができる。
【0113】
各TMの初期の特徴づけは、リンカーおよび反応性モジュールへのその結合と、続く、モノクローナル抗体38C2および動物の反応性免疫原による免疫化後に調製したポリクローナル抗体との反応を含む。得られる抗体は、1つの結合部位に1つのTMまたはIgG分子1つに2つのTMを提示する。効力を高める手段として、各TMを二官能性リンカーに連結してもよく、ここで得られる抗体は1つの結合部位に2つのTMまたはIgG1つに4つのTMを提示する。適用範囲の広さを増大する手段として、異なる型のTM(例えば、CCR5 TMおよびエンベロープTM)を、二官能性リンカーを用いて結合してもよい(スキーム8参照)。

【0114】
これらの場合に、各抗体結合部位は2つの異なるTMを提示する。プログラムされた抗体を抗体中和試験で試験してもよい。一官能性標的指向性モジュールおよび構築ブロック中間体は、銅触媒アジドアルキン環付加(クリック)反応を通じて容易に入手可能である。従って、アジド含有標的指向性モジュールをNHS-活性化エステル-アルキン1またはβ-ラクタムアルキン3のいずれかと結合して、それぞれNHS-標的指向性モジュール2およびラクタムを備える標的指向性モジュール4を得ることができる。
【0115】
二官能性ラクタムを備える標的指向性モジュールを、市販のBoc保護プロパルギルグリシン5から出発して合成することができる。5をTMS保護アルキニルアミン6とDIC/HOBTの仲介により結合させて、対応するBocアミド7を得る。ジクロロメタン中20%トリフルオロ酢酸を用いてBocを除去し、続いてトリエチルアミン存在下でNHS-標的指向性モジュール1と反応させて、中間体8を得る。末端アルキンのTMS保護は、無保護アルキンと標的指向性モジュール2のアジドとの優先的な化学選択的クリック反応の基礎を提供する。続いて、AgPF6存在下、第二のアルキンを脱保護し、β-ラクタムアルキン9と銅の仲介により結合させて、二官能性標的指向性モジュール10の合成を完了する。
【0116】
ハプテン単位と連結したGp120阻害剤
1型および2型のハプテン単位と連結したGp120阻害剤を以下に示す。

【0117】
gp120阻害剤を以下に示すとおり、クロマトグラフィをまったくかほとんど行わずに、高収率で調製してもよい(スキーム9参照)。

【0118】
化学的にプログラムされたワクチンの霊長類試験
R5-SHIVSF162P3/マカクモデルおよび膣攻撃を用いて化学的にプログラムされたワクチンアプローチの有効性を試験してもよい。HIV-1の伝染は最も典型的には粘膜表面を通過して起こるため、ワクチンアプローチの有効性を試験するためには、これが最も妥当なモデルであると考えられる。免疫化プロトコールおよびPAの組み合わせを最適化してもよい。雌インドアカゲザルのためのすべてのプロトコールを再検討し、施設の動物飼育および使用委員会によって承認されている。動物を米国実験動物飼育公認協会(American Association for Accreditation of Laboratory Animal Care)の基準に従って飼育する。すべての実験開始時に、すべての動物は実験的に未処置で、HIV-1、SIV、およびD型レトロウイルスに対する抗体陰性である。群はそれぞれ6匹の動物からなる。第1群および第2群を、最適化したプロトコールに従い、反応性免疫原で免疫化する。第3群は免疫化しないままにする。免疫化後、抗体価を求め、最適なプログラミング物質を第1群および第3群に投与する。遊離のプログラミング物質が排出されると判定された時点で、動物をウイルスで攻撃する。以前の試験で確立したとおり、攻撃の30日前に、動物を酢酸メドロキシプロゲステロン(Depo-Provera)で筋肉内注射により処置する。1mlのPBS中で希釈した攻撃ウイルスを、シリンジ外筒に連結した8フレンチの小児用栄養管で、腟内に非外傷性に導入する。マカクを、ウイルス攻撃後約15分間、会陰をわずかに上げて、固定状態で維持する。攻撃用量は、すべての対照動物の感染を一貫して引き起こした以前の試験に基づき、300 TCID50である。すべての実験動物を、定期的に日常的な血液検査、CD4およびCD8リンパ球サブセット数、抗体血清濃度、中和滴定、血液化学および血漿ウイルス負荷を評価することによりモニターする。鼠径リンパ節の生検を行い、長期共培養アッセイ法による感染についてモニターする。
【0119】
以下の実施例は例示を意図しているが、本開示を限定するものではない。
【実施例】
【0120】
材料および方法
抗体、試薬、標的指向性物質
mAb 38C2は記載のとおりに調製し、Sigma-Aldrich(St. Louis、MO)から市販されている。抗体mAb LM609、mAb P1F6、および精製インテグリンタンパク質はChemicon(Temecula、CA)から入手した。FITC結合ロバ抗マウスIgGポリクローナル抗体およびセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体はJackson ImmunoResearch Laboratories(West Grove、PA)から入手した。JW-KLHおよびJW-BSAは記載のとおりに調製した。(4)標的指向性物質SCS-873、SCS-397、およびcRGD-dkは発表された方法に従って調製した(10、13、35)。cRGDペプチド(シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Phe-Lys))はPeptides International, Inc.(Louisville、Kentucky)から入手した。
【0121】
細胞株、細胞、および動物
マウス結腸癌細胞株CT26(BALB/Cマウスと同系)はAmerican Type Culture Collection(ATCC、Manassas、VA)から購入し、4mM L-グルタミン、1.5g/L炭酸水素ナトリウム、4.5g/Lグルコース、1mMピルビン酸ナトリウム、10%FCS、および抗生物質を補充したDMEM中で維持した。B16F10マウス黒色腫細胞株(C57BL/6と同系)はATCCから購入し、10%FCSおよび抗生物質を含むRPMI培地1640中で維持した。C57BL6バックグラウンドの雌(5〜6週齢)BALB/C、C57BL6、およびFcgRIIIノックアウトマウス、系統名B6.129P2-Fcgr3tm1Sjv/JはJackson Labsから入手した。NK細胞はBALB/CおよびC57BL6マウスの脾臓から、MACSシステムを製造業者(Miltenyi Biotech、Auburn、CA)の推奨に従い用いて単離した。非NK細胞(すなわち、B細胞、T細胞、樹状細胞、マクロファージ、顆粒球および赤血球系細胞)は、CD19、CD4(L3T4)、CD8a(Ly-2)、CD5(Ly-1)、Ly-6G(Gr-1)およびTer-119に対するビオチン結合抗体、ならびに抗ビオチンMicroBeadsのカクテルで枯渇させた。NK画分の純度はFACS分析により判定して>95%であった。
【0122】
反応性免疫化およびELISA力価測定(titering)
マウスをJW-KLHで、発表されている方法に従って免疫化し、第15日および第43日に抗原追加免疫した(4)。JW-KLH免疫化マウスからの個々のJW-抗血清を第22日、第50日および第85日に採取し、インビトロアッセイ法に用いた。ELISAのために、Costar 96穴ELISAプレート(Corning、Acton、MA)を25μL PBS中100ngのJW-BSAでコーティングし、4℃で終夜インキュベートした。150μLのTBS/3%BSAにより37℃で2時間ブロックした後、50μLの異なる希釈(1:500から1:64000)のプール(各系統マウス5匹)血清を各ウェルに加え、プレートを37℃で2時間インキュベートした。洗浄および検出を、HRP結合ヤギ抗マウスIgG抗体(TBS/1%BSA中1:3000希釈)を用いて基本的に記載のとおり(14)に実施した。いくつかの実験では、最初の洗浄段階の後に、50μLの0.05Mクエン酸、pH2.5による追加のインキュベーション(酸洗浄)を室温で15分間行った。抗JW IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgGA、およびIgM抗体の定量、ELISAをビオチン結合ヤギ抗マウスIg特異的抗体およびストレプトアビジン結合HRP(Caltag)を用いて実施した。本明細書において用いられる「共有結合性抗体価」は、クエン酸洗浄段階の後に測定した抗体価と定義される。
【0123】
化学的プログラミング、ELISAおよび細胞におけるインテグリンへの結合の評価、補体依存性細胞毒性、ならびに抗体依存性細胞毒性アッセイ法を以前に記載のとおり(14)に実施した。
【0124】
同系結腸癌モデル
第65日に、JW-KLH-免疫化BALB/Cマウスを選別して(それぞれ動物6匹の6群)、抗JW価が対応する群を形成し、右側腹部にPBS中のCT26細胞懸濁液0.1mL(2×105細胞/マウス)を皮下に接種した(腫瘍モデル第0日)。第2、5、8、11、14、および17日に、動物に200μLのPBS中、同じ量の標的指向性化合物をさらに腹腔内注射した。処置動物の腫瘍体積を、第12日に開始して3日ごとに、スライドカリパスを用いて皮膚の上から二次元で測定し、腫瘍体積を以下の式に従って計算した:1/2(幅)2×長さ。1週間に1回マウスの体重を量ることにより、毒性をモニターした。第30日に、すべてのマウスを安楽死させ、腫瘍を切開かつ秤量した。結果を各群について平均±SDで報告する。差は、対応のない両側スチューデントt検定を用いて、P<0.05で統計学的に有意と考えた。動物実験はすべて実験開始前に、Scripps Research Instituteの施設の動物飼育および使用委員会によって承認された。
【0125】
同系黒色腫モデル
JW-KLHで免疫化したC57BL6およびFcgRIIIノックアウトマウスを用いてB16黒色腫モデルを、すべてのマウスを第24日に安楽死させた以外は上記のとおりに実施した。
【0126】
結果および考察
以前の試験において、共有結合性モノクローナル抗体38C2は、様々な標的指向性物質でプログラムされ、免疫不全マウスのヒト腫瘍異種移植を用いて複数の癌モデルで試験した。誘発した共有結合性免疫応答の可能性を探究するために、本発明者らは免疫適格マウスおよび同系癌モデルに変更した。本発明者らは、様々なマウス系統において高い力価の共有結合性抗体応答を誘発しうるかどうかを調べることを目的とした。本発明者らはまた、癌に関連するマウス(自己)標的に結合し、マウス癌モデルの腫瘍成長に影響を及ぼすよう誘導された応答がプログラムされうることを示そうと努めた。インテグリンαvβ3およびαvβ5の表面タンパク質は多様な腫瘍型により、血管形成脈管構造上で発現されるため、これらを標的抗原として選択した。さらに、本発明者らは以前、化学的にプログラムされたモノクローナル抗体38C2(cp38C2)を用いて、これらのインテグリンの治療標的としての検証を行った。インテグリンαvβ3およびαvβ5の化学的にプログラムされた免疫応答による標的指向化を図1Aに例示する。化合物SCS-873およびcRGD-dk(図1B)は、共有結合性抗体とそれらのジケトンタグを通じて反応し、免疫応答の結合を細胞表面上で発現されるインテグリンに再指向する、化学アダプターとして役立つ。細胞結合抗体はそれらのFc領域を通じて補体カスケードの分子(C1qなど)、および免疫エフェクター細胞(ナチュラルキラー細胞など)の表面上で発現されるFc受容体に結合しうるため、プログラムされた免疫は補体誘導性細胞毒性および抗体依存性細胞毒性に向けうる可能性がある。
【0127】
ヒトおよびマウスのインテグリンに結合するためのSCS-873およびcRGD-dkプログラム抗体mAb 38C2
mAb 38C2をマウス癌細胞株上で発現されるインテグリンαvβ3およびαvβ5に結合するよう再プログラムするSCS-873およびcRGD-dkの能力を確認するために、SCS-873またはcRGD-dkとの反応後に生成されるcp38C2の特異的結合を、ヒトインテグリンαvβ3およびαvβ5を用い、ELISAで確立した(図2A)。いずれの化合物も、38C2をαvβ3およびαvβ5に結合するよう向かわせる上で有効であったが;重要なことに、どのプログラムされた抗体もインテグリンαIIbβ3には十分に結合しなかった。次に、フローサイトメトリーを用いて、本発明者らはcpAbがマウス細胞、結腸癌株CT26および黒色腫株B16上で発現されるインテグリン受容体に結合することを明らかにした(図2B)。プログラムされたSCS-873抗体は、プログラムされたcRGD-dk抗体よりも、CT26細胞に対し強固な結合を示した。B16細胞では、プログラムされたcRGD-dk抗体の実質的結合は観察されなかったが、プログラムされたSCS-873抗体を用いて実質的染色が観察された。SCS-873について以前に示したとおり(14)、cRGD-dkはマウス内皮細胞株MS1およびヒト黒色腫細胞株M21由来の細胞を有効に染色した(補助情報参照)。これらおよび他の試験において、対応するジケトンタグを持たない標的指向性物質、SCS-397およびcRGDは陰性対照として役立ち;これらの分子はmAb 38C2またはβ-ジケトンハプテンJWによる免疫化を通じて誘導されるポリクローナル抗体に結合するために必要なジケトン官能基を持たない。
【0128】
反応性免疫化
共有結合している様々なモノクローナル抗体の調製のために、JWハプテンに結合したキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)(JW-KLH)または他のジケトンハプテンに結合したKLHによる免疫化を用いてきた。反応性免疫化は、反応性化学物質、この場合はβ-ジケトンを免疫原として用い、免疫システムに免疫応答成熟中の抗体と反応性抗原との間の共有結合生成のために選択する機会を提供する点で、古典的な免疫化アプローチと異なる。ここで、免疫化を通じて共有結合性ポリクローナル抗体応答を誘発するために、マウスの3つの系統(BALB/C、C57BL/6、および-FcγRIII(受容体ノックアウトマウス))をJW-KLHで免疫化し、続いてJW-KLHの注射を2回行って追加免疫した。各系統の免疫化した動物から免疫血清をプールし、ELISAにより共有結合性抗体応答の誘導について調べた。20のモノクローナル抗体のパネルを用いて、本発明者らは、エナミン構造を通じてJWハプテンに共有結合しているモノクローナル抗体は酸処理(0.05Mクエン酸、pH2.5)後に放出されないが、高親和性であっても、非共有結合によりJWに結合している抗体は酸洗浄後に容易に放出されることを示した(補助情報参照)。非共有結合性複合体は、抗体親和性クロマトグラフィで典型的に溶離剤として用いる緩衝液型である低pHで容易に分解される。従って、酸洗浄ELISAは共有結合性ポリクローナルJW価を概算することを可能にする。実質的な共有結合性抗体価はマウスの3つの系統すべてで見いだされ(図3)、かつ、IgAは例外として、様々な抗体アイソタイプが抗JW応答を構成することが判明した(表1)。
【0129】
【表1】

【0130】
SCS-873の免疫血清への添加後、ELISAにより示されるとおり、血清はインテグリンαvβ3に結合するよう効率的にプログラムされた(図4)。プログラムされた免疫グロブリンはすべて、アダプターリガンドによってプログラムされたため同じ抗原特異性を示すが、様々なアイソタイプの抗体は異なる提示価のアダプターリガンドを提示し;IgMは10のアダプターリガンドを提示し、細胞表面に非常に強く結合するが、IgGクラスは2つのアダプターリガンドを提示し、異なる範囲の免疫エフェクター機能を誘導する。免疫前血清はSCS-873と反応せず、SCS-873添加後にインテグリンに結合しなかった。
【0131】
プログラムされたポリクローナル免疫応答は癌モデルにおいて治療効果を有する
本発明者らは、マウスCT26結腸腫瘍モデル(24)およびB16同系黒色腫モデル(25)の2つの同系癌モデルにおいてこのアプローチの治療上の可能性を評価した。第一のモデルにおいて、CT26細胞をJW-KLH-免疫化BALB/Cマウスの右側腹部に皮下注射することにより、腫瘍の誘導を実施した。抗JW価がほぼ同等のマウス6匹の異なる3群を、2つの独立の実験において腫瘍誘導後第2日から第17日の間処置した。第一の実験において(図5A)、マウスにPBS単独、PBS中60μg/mL SCS-873、またはPBS中27.5μg/mL SCS-397(SCS-873の用量と等モル濃度)の200μL腹腔内(i.p.)注射を、方法および方法の項に記載するスケジュールに従って投与した。第二の実験において(図5B)、マウスにPBS単独、PBS中77μg/mL cRGD-dk、またはPBS中42.5μg/mL cRGDの200μL i.p.注射を投与した。腫瘍体積を、移植後第12日から第30日まで3日間隔で測定し、実験終了時に切除および秤量した。共有結合により免疫応答をプログラムするよう設計した標的指向性物質で処置した動物で、腫瘍成長の大幅で統計学的に有意な低減が観察された。第30日に、SCS-873処置によりPBS処置に比べて腫瘍重量の約75%の低減(P<0.003)が見られ、cRGD-dk処置では約90%の低減(P<0.0002)が見られた。抗JW免疫グロブリンへの結合に必要なジケトンタグを持たないリガンド(SCS-397およびcRGD)によるマウスの処置では、PBS処置を超えない程度の効果であった。
【0132】
本発明者らは次に、C57BL6マウスのB16同系黒色腫モデルにおける本発明者らのアプローチを評価した。以前の試験では、免疫無防備状態のマウスにおける異種移植ヒト黒色腫のSCS-873およびmAb38C2を用いての治療の有効性が示されている。フローサイトメトリー試験で、SCS-873のB16細胞への強い結合およびcRGD-dkのこれらの細胞へのわずかな結合が示された(図2)ため、このモデルではSCS-873治療だけを試験した。あらかじめJW-KLHで免疫化したC57BL/6マウスの右側腹部に2×105のB16細胞を皮下(s.c.)注射することにより、腫瘍誘導を実施した。マウス6匹の3群を、腫瘍誘導後第2日から第17日の間処置した。マウスにPBS単独、PBS中60μg/mL SCS-873、またはPBS中27.5μg/mL SCS-397の200μL i.p.注射を、方法および方法の項に記載するスケジュールに従って投与した。図5Cに示すとおり、この非常に進行性の腫瘍の成長は、SCS-873で処置したマウスで有意に阻害され(PBS処置に比べて、78%成長阻害、P<0.004);SCS-373およびPBS緩衝液で処置したマウスで腫瘍体積はほぼ同等であった。
【0133】
ポリクローナル抗体エフェクター機能は化学的にプログラムされることができる
抗体エフェクター機能ADCCおよびCDCは、治療抗体の腫瘍成長阻害活性の根元にある鍵となるメカニズムであると考えられる(25)。ADCCは活性化Fcγ受容体、FcγRIIIによって仲介され、その阻害対応物FcγRIIBによって調節される(25)。ナチュラルキラー細胞はFcγRIIIを発現するが、FcγRIIBは発現せず、ADCCに関与する主要な細胞型である。本発明者らは、プログラム可能な免疫化戦略を用いて観察される治療効果の重要な成分は、抗体仲介性細胞毒性によってもたらされるとの仮説を立てた。従って、本発明者らは、FcγRIIIを持たないC57BL/6マウス(Jackson Laboratoryからの系統B6.129P2-Fcgr3tmlSjv/J)におけるB16腫瘍の成長を評価した。これらの動物において、Fcgr3tmlSjv標的指向化突然変異はFcγRIIIのリガンド結合α鎖を除去し、マウスはNK細胞仲介性の抗体依存性細胞毒性を欠く。FcγRIIIノックアウトマウスは、ほぼ同等のレベルの免疫化によって誘導される共有結合によるジケトン結合抗体を産生した(図3)。しかし、FcγRIIIノックアウトマウスにおいて、SCS-873による処置は腫瘍成長を阻害せず(図5D)、ADCCがこのモデルにおける治療作用の主要なメカニズムであることを明白に示していた。
【0134】
ADCCが本発明者らのプログラムされた抗体の活性を仲介するという本発明者らの仮説をさらに確認するために、C57BL6およびBALB/Cマウスの脾臓からNK細胞を単離し、標的としてB16黒色腫およびCT26結腸癌を用い、インビトロでそれらのADCC能力を評価した。免疫化動物由来で、SCS-873およびcRGD-dkでプログラムされた血清は、CT26およびB16細胞のNK細胞による殺滅を明らかに増強した(図6)。これらの結果は、mAb 38C2およびヒト黒色腫株M21を用いて以前に報告されたものと類似していた。補体誘導性細胞毒性を誘導するポリクローナル抗体の能力を調べるために、本発明者らは標準の[51Cr]-放出アッセイ法を用い、SCS-873でプログラムされたポリクローナル血清およびウサギ補体存在下で、放射標識したCT26およびMS1細胞の溶解を試験した。この実験から、SCS-873処置した免疫血清存在下でCT26細胞の有意なCDCに基づく殺滅が示され、この免疫化戦略および化学的プログラミングのCDCを誘導する能力が裏付けられた(補助情報参照)。
【0135】
要約
新規でかつより有効なワクチン戦略の開発が公衆衛生のために重要である。何十年にもわたる努力にも関わらず、HIV-1およびマラリアなどの疾患に対して有効なワクチンは入手できない。本発明者らは、化学に基づくワクチンアプローチが探究不足で、ワクチン学の困難な領域に食い込むための機会を提供しうると考えている。規定の特異性の免疫グロブリンを産生するように免疫システムを教育することを目的とする、生物学に基づくワクチンアプローチとは対照的に、本明細書に記載の化学に基づくワクチンアプローチは、プログラム可能な免疫グロブリンの生物学に基づく誘導をリガンド設計および共有結合による自己集合と結合することにより、免疫システムに規定の特異性を提供する。最も初期の関連する化学に基づくワクチン戦略は、抗ジニトロフェニルおよび抗α-ガラクトシル抗体などの一般的な自然抗体をジニトロベンゼンおよびガラクトシル-α(1-3)ガラクトースのような非常に免疫原性が高い抗原で修飾することにより、これらの特異性を標的に再指向させることを目的としていた。そのような自然抗体の特異性は典型的には親和性が低く、本発明者らの知るかぎり、そのような試験が疾患モデルにおいて有効性を報告したことはない。より最近になって、フルオレセイン-ハプテンに基づく免疫化が無効で親和性が低い自然抗体アプローチの代替法として提唱された。この戦略では、誘導される親和性の高い抗フルオレセイン免疫グロブリンがフルオレセイン結合体でプログラムされる。この戦略は癌の動物モデルでは有効であったが、サイトカインまたは放射線アジュバント療法との併用時だけであり、非共有結合性アプローチに固有の治療上の制限を示唆していると考えられる。
【0136】
本発明者らの化学的にプログラムされた共有結合性モノクローナル抗体アプローチの有効性は、疾患の複数の動物モデルにおいて立証されており、現在、化学的にプログラムされた抗体が複数の臨床試験で評価されている。ここで、本発明者らは共有結合性ワクチン戦略としてのこのアプローチの有効性を示す。本発明者らは、高い力価の共有結合性抗体応答が3つのマウス系統で誘導され、得られたポリクローナル抗体応答をインテグリンαvβ3およびαvβ5を標的とするよう再プログラムされえ、治療効果を伴うことを示した。初期の自然抗体または抗フルオレセイン応答に基づく非共有結合性アプローチとは異なり、アジュバント療法は必要とされない。黒色腫、神経膠腫、卵巣癌、子宮頸癌、および乳癌の悪性進行はすべて、インテグリンαvβ3の発現レベルに、およびいくつかの場合にはαvβ5に強く相関していたため、本発明者らが標的としたインテグリンは非常に興味が持たれる。加えて、これらのインテグリンは血管形成内皮細胞の表面上で発現され、従って、抗血管形成療法の標的である。本明細書において示す試験は、黒色腫および結腸癌療法においてこれらの受容体を標的にする可能性をさらに確認する。
【0137】
本発明者らは自己受容体に対して誘導された共有結合性抗体応答のプログラミングに努力を集中したが、このアプローチは多様な疾患に広く適用可能であると考えている(図7参照)。例えば、HIV-1のようなウイルス上の異なるエピトープに対して向けられたいくつかのリガンドの開発は、ウイルス逃避の可能性を低減するか、または予防効果を拡大する、プログラムされた免疫を生じると考えられる。汎用性の共有結合性ワクチンアプローチは他の利点を有する可能性もある。最近の試験は、インフルエンザに応答しての循環中のB記憶細胞の長続きする特性を強調してきた。そのような長続きする共有結合性ワクチン応答は、そのようなワクチンを一生の早い段階で与える場合には、液性免疫の年齢関連の低下に対する解決策となる可能性がある。さらに、広く採用する場合、汎用のプログラム可能な共有結合性ポリクローナル抗体は、非免疫化個体への受動伝達のために容易に利用可能であると考えられ、該個体は設計したリガンドの投与後に「即時免疫」を提供されうる。
【0138】
経口で利用可能なプログラミング物質は、生物学的脅威または汎流行に応答して備蓄し、まとめて投与しうる化合物により免疫応答を誘導する、便利な手段を提供すると考えられる。このアプローチは、古典的なモノクローナル抗体療法に比べて、かなりの経済的利点を有するはずである。このアプローチは多様な抗体イソ型を誘導するため、免疫システムが利用可能な全範囲のエフェクター機能および結合価をこのアプローチにおいて開発することができる。
【0139】
Kuroiwa et al.(Nat. Biotec. 27(2):173-181, 2009)(参照により本明細書に組み入れられる)によって例示されるとおり、本明細書に記載の方法によって抗体を産生するために動物システム(例えば、トランスジェニック動物)を用いることも可能である。本明細書において、炭疽防護抗原による過免疫は、高い比率の抗原特異的hIgGを含むhIgG仲介性の液性免疫応答を誘発した。精製した、完全ヒトおよびキメラhIgGは、インビトロ毒素中和アッセイ法において非常に活性で、インビボマウス攻撃アッセイ法において防護的であった。Kuroiwaらの結果は、ヒト治療用の大量の高活性抗体を産生するために、ウシシステムを用いる可能性を示している。または、ポリクローナル抗体を産生するために、マウスシステムを含む他の動物システムを用いうる。次いで、そのような抗体を哺乳動物(例えば、ヒト)に標的指向性化合物と共に投与しうる。
【0140】
アプラビロックによるインビトロプログラミング
図19は、HIV-1JR-FL中和アッセイ法におけるアプラビロックによるインビトロプログラミングを例示する。
【0141】
ポリクローナルIgGを、未処置および免疫化したウサギからプロテインAカラムを用いて精製した(#8188−未処置;#8132−ジケトン免疫化;#8136−ラクタム免疫化)。
【0142】
精製したIgGを10当量のアプラビロック-ジケトンまたはアプラビロック-ラクタムで24時間処理し、続いて48時間透析した。
【0143】
アプラビロック-ジケトン:

【0144】
アプラビロック-ラクタム:

【0145】
中和アッセイ法の結果を図19に示す。ウサギ8132をジケトンで免疫化し;8136をラクタムで免疫化した。
【0146】
アプラビロックによるインビボプログラミング
図20は、HIV-1 CCCR5結合FACSにおけるアプラビロックによるインビボプログラミングを例示する。
【0147】
ウサギに2mg/kg用量のアプラビロック-アダプターをIV注射した。
【0148】
#7915−ジケトン-アプラビロックを注射した未処置のウサギ
【0149】
#8132−ジケトン-アプラビロックを注射したジケトン免疫化ウサギ
【0150】
#8136−ラクタム-アプラビロックを注射したラクタム免疫化ウサギ
【0151】
#8188−ラクタム-アプラビロックを注射した未処置のウサギ
【0152】
CCR5結合FACSの結果を図20に示す。TZM-BL−ccr5陽性細胞株、HeLa−ccr5陰性。
【0153】
BMSエントリー阻害剤でプログラムされた38C2
38C2は、BMS-ラクタム(2.2当量)でプログラムされ、脱塩カラムを用いて精製した後、透析(48h)した。メトドール(methodol)アッセイ法においてプログラムされた38C3について触媒活性は観察されなかった。作成物を図21に示すgp120結合ELISAで試験した。38C2単独でもいくらかの背景結合があることに留意されたい。

【0154】
図22は、38C2/BMS、ヒトSec Ab、およびマウスSec Abのgp120結合ELISAを例示する。
【0155】
アプラビロック-ジケトン:

【0156】
アプラビロック-ラクタム:

【0157】
本開示を前記の実施例に関して記載してきたが、改変および変形は本開示の精神および範囲内に含まれることが理解されるべきである。従って、本開示は添付の特許請求の範囲によってのみ制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:

の化合物またはその薬学的に許容される塩:
式中、
リンカーは-O-、-NH-、-S-、-(C1-C20)アルキル-、-(CH2CH2O)m-、-NHC(=O)(CH2)n-、-C(=O)(CH2)q-、

、およびそれらの組み合わせから独立して選択され、ここでm、n、およびqがそれぞれ独立して0から20までの整数であり;
R1は独立して

であり;かつ
標的指向性(targeting)モジュールは治療化合物である。
【請求項2】
式II:

を有する、請求項1記載の化合物:
式中、
リンカーは、

である。
【請求項3】
式IIの前記化合物が、式:

を有し、式中、各nが独立して0から20までの整数である、請求項2記載の化合物。
【請求項4】
式IIIまたは式III':

を有する、請求項1記載の化合物:
式中、
リンカーは、

である。
【請求項5】
式IIIまたはIII'の前記化合物が、式:

を有する、請求項4記載の化合物。
【請求項6】
式IV:

を有する、請求項1記載の化合物:
式中、
リンカーは、

である。
【請求項7】
式IVの前記化合物が、式:

を有し、式中、各nが独立して0から20までの整数である、請求項6記載の化合物。
【請求項8】
式V:

を有する、請求項1記載の化合物:
式中、
リンカーは、

である。
【請求項9】
式Vの前記化合物が、式:

を有し、式中、各nが独立して0から20までの整数である、請求項8記載の化合物。
【請求項10】
式VI:

を有する、請求項1記載の化合物:
式中、
リンカーは、

である。
【請求項11】
式VIの前記化合物が、式:

を有し、式中、各nが独立して0から20までの整数である、請求項10記載の化合物。
【請求項12】
式VII:

を有する、請求項1記載の化合物:
式中、
リンカーは、

である。
【請求項13】
式VIIの前記化合物が、式:

を有し、式中、各nが独立して0から20までの整数である、請求項12記載の化合物。
【請求項14】
式VIII:

を有する、請求項1記載の化合物:
式中、
リンカーは、

である。
【請求項15】
式VIIIの前記化合物が、式:

を有し、式中、mおよびnのそれぞれが独立して0から20までの整数である、請求項14記載の化合物。
【請求項16】
式IX:

を有する、請求項1記載の化合物:
式中、
リンカーは、

である。
【請求項17】
式IXの前記化合物が、式:

を有し、式中、mおよびnのそれぞれが独立して0から20までの整数である、請求項16記載の化合物。
【請求項18】
式XまたはX':

を有する、請求項1記載の化合物:
式中、
リンカーは、

である。
【請求項19】
式XまたはX'の前記化合物が、式:

を有し、式中、各nが独立して0から20までの整数である、請求項18記載の化合物。
【請求項20】
式XI:

の化合物またはその薬学的に許容される塩:
式中、
各リンカーは、-O-、-NH-、-S-、-(C1-C20)アルキル、-(CH2CH2O)m-、NHC(=O)(CH2)n、-C(=O)(CH2)q

、およびそれらの組み合わせから独立して選択され、ここでm、n、およびqがそれぞれ独立して0から20までの整数であり;
R1は独立して

であり;かつ
標的指向性モジュールは治療化合物である。
【請求項21】
各リンカーが独立して

である、請求項20記載の化合物。
【請求項22】
それを必要としている患者において治療薬の半減期を延長する方法であって、
式Iを有する請求項1記載の化合物をそれを必要としている患者に投与する段階を含む、方法。
【請求項23】
それを必要としている患者においてHIV-1感染症を阻止する方法であって、
該方法が、




の化合物またはそれらの組み合わせ、あるいはその薬学的に許容される塩を、そのような治療を必要としている患者に投与する段階を含み、
上記式中、
各リンカーが、-O-、-NH-、-S-、-(C1-C20)アルキル、-(CH2CH2O)m-、NHC(=O)(CH2)n、-C(=O)(CH2)q

、およびそれらの組み合わせから独立して選択され、ここでm、n、およびqがそれぞれ独立して0から20までの整数であり;
かつ各R1が独立して

である、方法。
【請求項24】
HIV-1感染症が、CCR5受容体および/またはCXCR4受容体を遮断することにより阻止される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
共有結合性ポリクローナル抗体を産生する方法であって、
対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および
該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより標的抗原に対する共有結合性ポリクローナル抗体応答を生じさせる段階
を含む、方法。
【請求項26】
前記標的抗原が、腫瘍抗原、自己抗原、毒素、癌抗原、細菌抗原、ウイルス抗原、またはインテグリンである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記インテグリンがαvβ3またはαvβ5である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記癌が黒色腫、結腸癌、神経膠腫、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、造血器(hematopoietic)癌、または頭頸部癌である、請求項26記載の方法。
【請求項29】
前記担体タンパク質がKLH、BSAおよびオバルブミンから選択される、請求項25記載の方法。
【請求項30】
前記対象がヒトである、請求項25記載の方法。
【請求項31】
前記標的抗原がCCR5である、請求項26記載の方法。
【請求項32】
CCR5標的指向性化合物が請求項1記載の式Iを有する、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記標的指向性化合物が請求項1記載の式Iを有する、請求項25記載の方法。
【請求項34】
共有結合性ポリクローナル抗体の強化(enriched)集団。
【請求項35】
対象において、標的分子を発現する細胞、組織または体液に及ぶ疾患または状態を治療または予防する方法であって;
対象を担体タンパク質-ハプテン複合体の免疫有効量で予備免疫する段階;および
該対象に標的指向性化合物を投与し、それにより該対象における共有結合性ポリクローナル抗体応答を誘導し、かつ該疾患または該状態を治療または予防する段階
を含む、方法。
【請求項36】
前記疾患または前記状態が感染症であり、かつ前記標的分子が微生物病原体またはウイルスによって発現される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
対象において、標的分子を発現する細胞、組織または体液に及ぶ疾患または状態を治療または予防する方法であって、
それを必要としている対象に、請求項34記載の抗体および標的指向性化合物を投与する段階を含む、方法。
【請求項38】
前記化合物がインビボで投与される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記化合物が局所投与される、請求項37記載の方法。
【請求項40】
前記化合物が経口投与される、請求項37記載の方法。
【請求項41】
前記標的抗原がタンパク質または炭水化物である、請求項25記載の方法。
【請求項42】
請求項34記載の共有結合性ポリクローナル抗体の集団から単離された、モノクローナル抗体。
【請求項43】
前記標的分子がHIVまたはインフルエンザによって発現される、請求項37記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2012−517447(P2012−517447A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549348(P2011−549348)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/023770
【国際公開番号】WO2010/093706
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(399038620)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (51)
【Fターム(参考)】