説明

半導体結晶成長方法および半導体結晶成長装置

【課題】 半導体結晶成長処理されるべき基板を保持する基板ホルダが、大気に曝されることを防止し、基板ホルダに付着する堆積物を除去することによって、基板ホルダおよび堆積物が半導体結晶を成長させる際の酸素汚染源となることを防止し、特性に優れた半導体結晶を得る。
【解決手段】 半導体結晶の成長が完了した基板27の取外された基板ホルダ28が、基板導入室22の所定位置から取出されるとき、半導体結晶成長の過程において基板ホルダ28に付着した堆積物を基板ホルダ処理室26で除去するとき、および堆積物が除去された基板ホルダ28を基板導入室22の所定位置にセッティングするとき、のいずれのときにおいても、基板ホルダ28は、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中で取り扱われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体結晶成長方法および半導体結晶成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor)などの電子デバイス、半導体レーザなどの光デバイスは、半導体基板上に半導体薄膜を積層した構造を有し、その作製には有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD法)、分子線結晶成長法(Molecular Beam Epitaxy;MBE法)などの結晶成長法が用いられている。
【0003】
近年、特にデバイス構造が一層複雑化、多様化、精密化するのに伴って、これらに応えるべく、単原子層レベルでの結晶成長が可能であり、また薄膜形成元素の原子比が良好に制御された薄膜を形成することのできるMBE法が、注目され、実用化されている。
【0004】
図4は、MBE法を用いる従来の半導体結晶成長装置1の構成を簡略化して示す系統図である。半導体結晶成長装置1は、大略、基板セット台2と、基板導入室3と、準備室4と、分子線結晶成長室5とを含んで構成される。
【0005】
基板セット台2は、大気中において、半導体結晶が成長されるべき基板を基板ホルダにセットするための台である。基板導入室3は、密閉空間を形成することのできるたとえば金属製の容器状の室であり、対向する室壁3a,3bには、基板と基板ホルダとを搬入/搬出する出入口が形成され、この出入口には開閉自在のシャッタが設けられる。また基板導入室3には、基板導入室3中に搬入された基板および基板ホルダを加熱する不図示の加熱手段が備えられる。
【0006】
準備室4は、基板導入室3と同様に密閉空間を形成することのできる金属製の容器状の室であり、一方が基板導入室3の出入口に接続され、他方が分子線結晶成長室5のチャンバ8に形成される基板および基板ホルダの出入口に接続される。
【0007】
準備室4には、基板導入室3から出入口を介して基板および基板ホルダを受渡しされるアウトガスステージ6であって、基板と基板ホルダとを加熱するヒータ7を備えるとともに、基板と基板ホルダとを基板導入室3から分子線結晶成長室5まで搬送するアウトガスステージ6が設けられる。上記基板導入室3および準備室4は、不図示の真空吸引装置を備え、内部空間を真空(低圧)雰囲気に制御することができるように構成される。
【0008】
分子線結晶成長室5は、基板と基板ホルダとを収容するチャンバ8と、チャンバ8内に設けられて基板と基板ホルダとを加熱する基板ヒータ9と、複数の分子線セル10(クヌーセンセルとも呼ばれる)とを含んで構成される。チャンバ8には、不図示の真空吸引装置が設けられ、内部空間を真空雰囲気に制御可能である。
【0009】
基板ヒータ9は、準備室4のアウトガスステージ6から受渡しされた基板と基板ホルダとを保持し、結晶成長温度まで加熱する。分子線セル10は、基板ヒータ9に保持される基板に対向するようにしてチャンバ8に設けられる。
【0010】
分子線セル10の中には結晶成長させて薄膜を形成するための固体原料が収容される。分子線セル10内の固体原料をたとえば電子ビームで溶融し、分子線セル10が分子線として原料の蒸気を基板に向けて射出することによって、基板の表面に半導体結晶を成長させる。分子線セル10を複数個設けることによって、半導体結晶の原料を個別に分子線セル10に収容することができ、各分子線セル10からの原料蒸気の射出の有無および射出量を制御することによって、半導体結晶膜の組成比を精度良く調整することができる。
【0011】
図5は、従来の半導体結晶成長装置1を用いた半導体結晶成長方法を説明するフローチャートである。以下、図5を参照して従来の半導体結晶成長装置1を用いた半導体結晶成長方法について説明する。
【0012】
ステップa1では、まず、大気中の基板セット台2上で基板ホルダに半導体結晶成長させるための基板をセットする。ステップa2では、基板ホルダと基板とを、基板導入室3まで搬送し、その出入口から基板導入室3中へ導入する。ステップa3では、基板導入室3に備えられる加熱手段によって、基板と基板ホルダとを約150℃に加熱し、第1次アウトガスを行う。なお、この第1次アウトガス実行時、基板導入室3内は、真空雰囲気に保たれる。
【0013】
ステップa4では、基板と基板ホルダとが、基板導入室3から準備室4のアウトガスステージ6へと搬送される。ステップa5では、アウトガスステージ6に設けられるヒータ7によって、基板と基板ホルダとを約400℃に加熱し、第2次アウトガスを行う。この第2次アウトガス実行時、準備室4内は、真空雰囲気に保たれる。ステップa6では、基板と基板ホルダとをアウトガスステージ6から分子線結晶成長室5へと搬送する。
【0014】
ステップa7では、チャンバ8内を真空雰囲気とし、チャンバ8内の基板ヒータ9によって、基板が適切な処理温度に加熱され、基板表面の酸化膜を適切な条件下、たとえばガリウムヒ素(GaAs)基板上に成長させる場合はAs照射下で酸化膜が除去できる580℃以上に基板を10分程度加熱し、さらに結晶成長させることに対して適切な処理温度に加熱され、分子線セル10の適切な温度条件下で、分子線セル10を臨む基板の表面に半導体結晶成長される。
【0015】
ステップa8では、基板と基板ホルダとを分子線結晶成長室5から準備室4のアウトガスステージ6へと搬送する。ステップa9では、基板と基板ホルダとを、アウトガスステージ6から基板導入室3へと搬送する。その後、基板導入室3を窒素でリークして大気圧とし、基板と基板ホルダとを基板導入室3の外へ取出す。ステップa10では、基板導入室3から大気中の基板セット台2まで、基板と基板ホルダとを搬送する。ステップa11では、基板セット台2上で半導体結晶成長された基板を、基板ホルダから取外す。
【0016】
ステップa12では、次に処理するべき基板があるか否かが判断される。次の処理基板があるとき、ステップa1へ戻って以降のステップに進む。次の処理するべき基板が無いとき、エンドへ進んで半導体結晶成長処理を終了する。
【0017】
従来の半導体結晶成長装置1を用いる半導体結晶成長では、基板に半導体結晶を成長させた後、基板導入室3から基板と基板ホルダとを取出して基板セット台2まで搬送するとき、基板セット台2上で基板ホルダから基板を取外すとき、また基板セット台2から基板導入室3まで基板ホルダを搬送するとき、基板ホルダが大気に曝される。
【0018】
基板ホルダに保持される基板の表面に半導体結晶を成長させるとき、基板のみでなく基板ホルダにも分子線セル10から射出される半導体結晶原料が付着し堆積される。基板ホルダが大気に曝されるとき、基板ホルダに付着した堆積物が大気中の酸素で酸化される。
【0019】
基板ホルダに付着し酸化された堆積物は、基板ホルダにセットされる新たな処理基板とともに、基板導入室3へ導入され、さらに準備室4を経て分子線結晶成長室5内へ搬入されて半導体結晶成長処理される。このとき、堆積物が付着した基板ホルダは基板とともに基板導入室3および準備室4において第1次および第2次アウトガスが行われるけれども、堆積物の酸化が著しいので堆積物中の酸素を充分に放出させることができず、半導体結晶成長処理の間にも堆積物から放出される酸素が半導体結晶成長薄膜の汚染源となる。
【0020】
従来の半導体結晶成長装置1によって作製した半導体結晶成長薄膜について1事例を示すと、その酸素濃度が2×1016cm−3以上と高いものであった。このような酸素濃度が高い半導体結晶成長薄膜は、電子移動度が低く、半導体レーザ素子として使用した場合、その動作電流が出力10mWのレーザで動作電流が50mAを超えるような特性の芳しくないものであった。また、基板ホルダも堆積物が、その厚さで0.3mm程度になるまでそのまま使用していたので、上記の問題に拍車をかけることとなっていた。
【0021】
このような酸素汚染を防止する従来技術として、基板導入室を備え、基板導入室に付属する基板導入フランジの正面に、内部の気密性を保持することができる作業用腕導入口とガス排気・導入系を有する基板導入ボックスとを備えた窒素ボックスを配置し、基板導入フランジと窒素ボックスの開口部間とを気密性の膜によって接続するMBE装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0022】
特許文献1に開示のMBE装置によれば、半導体結晶成長処理するべき新基板が、基板導入ボックスへ導入され、基板導入ボックス内が窒素(N)ガス雰囲気に制御された後、基板導入ボックスと窒素ボックスとの間仕切りを開き、半導体結晶成長処理された基板と上記新基板とを、Nガス雰囲気制御された窒素ボックス内で交換する。交換された処理済みの基板は、基板導入ボックスへ搬送され、間仕切りが閉じられて、装置外へと搬出される。
【0023】
このように、基板ホルダに対する基板の着脱がNガス雰囲気制御された窒素ボックス内で行われるので、基板ホルダが大気に曝されることがない。したがって、基板ホルダに付着する堆積物も大気に曝されることがなく、酸化されないので、基板ホルダが成長室内で基板とともに半導体結晶成長処理されるとき、基板ホルダの堆積物からの汚染ガスの放出が低減される。
【0024】
しかしながら、特許文献1では、基板ホルダが大気中へ取出されることなく繰返し使用されるので、基板ホルダに対する堆積物の付着量が増大する一方であり、増大した堆積物が半導体結晶成長処理を阻害するおそれがあり、この基板ホルダに付着する堆積物自体をいかにして処理するかということについては、全く開示されていない。
【0025】
また結晶成長法の1つであるMOCVD法において、反応管内に設けられ基板が載置されるサセプタを、基板が載置される前に、半導体薄膜を成長させる温度よりも高い温度で空焼きすることが提案されている(特許文献2参照)。
【0026】
特許文献2に開示の技術によれば、サセプタを空焼きすることによって、サセプタおよび反応管に吸着した未反応有機金属および反応生成物が、再び活性化してサセプタおよび反応管から飛散するので、未反応有機金属および反応生成物がガス化して生成される物質が、その後形成される半導体クラッド層中へ混入することが防止されるとする。
【0027】
特許文献2はMOCVD法に係る技術であり、半導体クラッド層の形成に用いる原料が基本的に気体である。したがって、サセプタの空焼き温度が、たとえば900℃程度であっても、サセプタおよび反応管に付着する未反応有機金属および反応生成物を活性化して飛散させることができる。
【0028】
しかしながら、分子線結晶成長法における半導体結晶成長薄膜の原料として用いられる物質は、MOCVD法において用いられる気体原料のみに限定されるものではなく、融点の高い固体物質が用いられることもある。たとえば、固体原料を元にして半導体結晶成長薄膜を生成する際、固体原料から生成されて基板以外の所に付着する反応生成物である堆積物を、特許文献2に開示されるような900℃程度の加熱では除去することができないという問題がある。
【0029】
【特許文献1】実開昭61−138237号公報
【特許文献2】特開平11−168068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明の目的は、半導体結晶成長処理されるべき基板を保持する基板ホルダが、大気に曝されることを防止するとともに、基板ホルダに付着する堆積物を除去することによって、基板ホルダおよび堆積物が半導体結晶を成長させる際の酸素汚染源となることを防止し、特性に優れた半導体結晶を得ることができる半導体結晶成長方法および半導体結晶成長装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、基板を基板ホルダに装着し、その基板の表面に半導体結晶を成長させる半導体結晶成長方法であって、
半導体結晶の成長が完了した基板が取外された基板ホルダを所定の位置から取出す取出工程と、
半導体結晶成長の過程において基板ホルダに付着した堆積物を除去するクリーニング工程と、
堆積物が除去された基板ホルダを所定の位置にセッティングするセット工程とを含み、
取出工程、クリーニング工程およびセット工程を通じて、基板ホルダが、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中に在ることを特徴とする半導体結晶成長方法である。
【0032】
また本発明は、取出工程の前に半導体結晶の成長が完了した基板を基板ホルダから取外す基板取外工程と、
セット工程の後に基板ホルダに半導体結晶の成長処理が行われていない基板を装着する基板装着工程とを含み、
基板取外工程および基板装着工程において、基板ホルダが、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中に在ることを特徴とする。
【0033】
また本発明は、クリーニング工程において、基板ホルダに付着した堆積物の除去は、物理的な方法によって行われることを特徴とする。
【0034】
また本発明は、物理的な方法が、イオンミリングであることを特徴とする。
また本発明は、クリーニング工程において、基板ホルダが在る雰囲気は、酸素および水蒸気の分圧が1×10−6Pa以下または酸素および水蒸気の含有量が10ppb以下であることを特徴とする。
【0035】
本発明は、基板を基板ホルダに装着し、その基板の表面に半導体結晶を成長させる半導体結晶成長装置であって、
基板ホルダと基板ホルダに装着される基板とを加熱して第1次アウトガスを行う基板導入室と、
基板ホルダと基板ホルダに装着される基板とを、基板導入室における加熱温度よりも高い温度に加熱して第2次アウトガスを行う準備室と、
アウトガスが行われた基板の表面に半導体結晶を成長させる成長室と、
半導体結晶の成長が完了した基板が取外された基板ホルダから半導体結晶成長の過程において付着した堆積物を除去処理するための基板ホルダ処理室とを含むことを特徴とする半導体結晶成長装置である。
また本発明は、成長室が、分子線結晶成長室であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、基板を基板ホルダに装着し、その基板の表面に半導体結晶を成長させる半導体結晶成長方法は、半導体結晶の成長が完了した基板が取外された基板ホルダを所定の位置から取出す取出工程と、半導体結晶成長の過程において基板ホルダに付着した堆積物を除去するクリーニング工程と、堆積物が除去された基板ホルダを所定の位置にセッティングするセット工程とを含み、基板ホルダが、取出工程、クリーニング工程およびセット工程を通じて、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中で取扱われる。このことによって、基板ホルダおよび基板ホルダに付着した堆積物が酸化することを防止し、かつ堆積物が基板ホルダから除去されるので、半導体結晶成長中に基板ホルダおよび堆積物が酸素の発生源になることを防止できる。したがって、酸素濃度が低く、特性の優れた半導体結晶薄膜を生成することができる。また、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中でクリーニング工程を実行するので、たとえば堆積物を大気中で削ったり、エッチングなどで除去する場合と比べて、基板ホルダを、短時間で次の半導体結晶成長に使用することが可能になる。これは大気中で堆積物の除去処理を行うと、大気成分とくに水分が多く付着するので、付着した水分を基板ホルダから除去するために、基板ホルダの空焼きまたは表面再処理などの工程を行わなければならず、その工程を実行するための時間が必要となるためである。
【0037】
また本発明によれば、取出工程の前に半導体結晶の成長が完了した基板を基板ホルダから取外す基板取外工程と、セット工程の後に基板ホルダに半導体結晶の成長処理が行われていない基板を装着する基板装着工程とが含まれ、基板取外工程および基板装着工程において、基板ホルダは、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中に在る。堆積物が酸化すると、その結合エネルギが大きくなるので、除去に時間がかかったり、堆積物を除去している間に、堆積物が雰囲気中へ酸素を放出するので、放出された酸素による再酸化、また基板ホルダへの酸素の再付着が生じるけれども、基板取外工程において基板ホルダを不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中に置くことによって、基板ホルダおよび基板ホルダに付着する堆積物の酸化を防止し、堆積物の酸化に起因する上記の問題を解決することができる。
【0038】
また、クリーニング後の基板ホルダに対する基板の装着も、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中で行うことによって、クリーニングした清浄な基板ホルダの表面に酸素源となる水分などが吸着することを防止できる。特にクリーニング後の基板ホルダの表面には酸素などの元になる水分が付着しやすいので、基板装着工程をクリーニング工程の後に不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中で行うことによって一層酸素汚染防止の効果を得ることができる。さらに、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中であっても、少量の水分および酸素が存在するので、基板ホルダに堆積物が付着していると、それが酸化の原因となり得るけれども、基板装着工程では、堆積物が基板ホルダから除去されているので酸化の原因が取り除かれる。
【0039】
また本発明によれば、クリーニング工程において、基板ホルダに付着した堆積物の除去は、物理的な方法、好ましくはイオンミリングによって行われる。化学的方法であるエッチング、また物理的方法であってもたとえば殺ぎ落としなどの方法では、基板ホルダを大気に曝さざるを得ないけれども、イオンミリングによれば、酸素および水蒸気が少ない不活性ガス雰囲気または真空雰囲気などで、堆積物の除去処理を行うことが可能であり、クリーニング工程を通じても基板ホルダの酸素汚染を防止することができる。なお、物理的方法としては、イオンミリング以外にも逆スパッタ、加熱剥離などの方法を用いることができる。
【0040】
また本発明によれば、クリーニング工程において、基板ホルダが在る雰囲気は、酸素および水蒸気の分圧が1×10−6Pa以下または酸素および水蒸気の含有量が10ppb以下である。このような酸素および酸素源となる水蒸気が極めて少ない高真空中で基板ホルダから堆積物を除去することによって、堆積物が除かれるとともに、基板ホルダに対する酸素吸着が防止されるので、半導体結晶成長処理する際の基板ホルダからの酸素放出が防止され、半導体結晶中の酸素濃度をたとえば1×1015cm−3以下にして、半導体結晶の特性を良好なものにすることができる。
【0041】
本発明によれば、基板を基板ホルダに装着し、その基板の表面に半導体結晶を成長させる半導体結晶成長装置は、基板ホルダと基板ホルダに装着される基板とを加熱して第1次アウトガスを行う基板導入室と、基板ホルダと基板ホルダに装着される基板とを、基板導入室における加熱温度よりも高い温度に加熱して第2次アウトガスを行う準備室と、アウトガスが行われた基板の表面に半導体結晶を成長させる成長室と、半導体結晶の成長が完了した基板が取外された基板ホルダから半導体結晶成長の過程において付着した堆積物を除去処理するための基板ホルダ処理室とを含んで構成される。
【0042】
このように、基板ホルダ処理室を設けることによって、基板ホルダから堆積物を除去する処理を迅速に行うことが可能になる。また、基板導入室に、その内部空間をたとえば窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気にすることができ、かつ基板の取外しとセッティングとを行える基板セット室を設けることが好ましく、基板セット室を設けることによって、基板の取外しとセッティングとを一層スムーズに行うことができる。たとえば半導体結晶成長処理された基板を、基板導入室から移送するために窒素箱などを使用すると、窒素箱に窒素などの不活性ガスを常時供給することが困難であるため、窒素箱の密閉度にもよるが、窒素箱中の酸素濃度が上昇し、酸化されてしまうおそれがある。しかしながら、基板セット室を基板導入室に付設することによって、酸化のおそれがなく、また基板の搬送系なども共用できるので、装置全体のコストも低減することができる。
【0043】
また本発明によれば、成長室が分子線結晶成長室であり、分子線結晶成長(MBE)装置において、一層の効果を奏することができる。分子線結晶成長は、高真空たとえば1×10−6Pa以下の雰囲気中で実施されるので、酸素の影響を非常に受け易い。また結晶成長時、基板ホルダが少なくとも400℃〜1000℃程度まで加熱されるので、基板ホルダに酸素源があれば、半導体結晶の成長に最も近いところに酸素汚染源が存在することになる。しかしながら、酸素の影響を受け易い装置において、基板ホルダを清浄に保つ(堆積物の除去も含めて)ことができるので、成長される半導体結晶の酸素汚染を一層顕著に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
図1は、本発明の実施の第1形態である半導体結晶成長装置20の構成を簡略化して示す系統図である。半導体結晶成長装置20は、大略、基板セット室21と、基板導入室22と、2つの第1および第2準備室23,24と、成長室25と、基板ホルダ処理室26とを含んで構成される。半導体結晶成長装置20は、基板27を基板ホルダ28に装着し、その基板27の表面に半導体結晶を成長させることに用いられる。
【0045】
基板セット室21は、外観が直方体形状を有し、その内部に密閉空間が形成される容器状部材であり、基板導入室22に接して設けられる。基板セット室21と基板導入室22との接続部には、基板セット室21と基板導入室22とを連通する出入口が形成され、その出入口には開閉自在の扉が設けられて、扉を閉めることによって、基板セット室21と基板導入室22とを随意に独立室とすることが可能である。また上記扉をあけることによって、基板27と基板ホルダ28とを、出入口を通して基板セット室21と基板導入室22との間で出入させることができる。
【0046】
基板セット室21には、内部の気密性を保持することができる作業用腕導入口31が設けられる。操作者は、作業用腕導入口31からハンドリング操作することによって、基板ホルダ28から半導体結晶成長が完了した基板27を取外したり、また基板ホルダ28に新たに半導体結晶を成長させる基板27を装着したりすることができる。この基板セット室21には、配管を介して窒素(N)ガス供給源32が接続され、基板27を基板ホルダ28に対して着脱するとき、基板セット室21の内部空間を酸素濃度が10ppb以下のNガス雰囲気にすることができる。
【0047】
基板セット室21に連なるようにして設けられる基板導入室22は、その内部に密閉空間を形成することのできるたとえば金属製のチャンバであり、対向する室壁22a,22bには、基板27と基板ホルダ28とを搬入/搬出する出入口が形成され、この出入口には開閉自在のシャッタが設けられる。また基板導入室22には、基板導入室22中に搬入された基板27および基板ホルダ28を加熱する不図示の加熱手段が備えられる。
【0048】
さらに基板導入室22には、第1真空吸引装置33が接続され、第1真空吸引装置33が第1流量調整バルブ34を介して基板導入室22の内部空間を、真空雰囲気1×10−4Pa以下にすることができる。
【0049】
基板導入室22では、出入口を通して基板セット室21から基板ホルダ28と基板ホルダ28に装着される基板27とが導入された後、出入口の扉を閉じて遮断し、その内部空間を第1真空吸引装置33で真空雰囲気とし、基板27と基板ホルダ28とを加熱して第1次アウトガスを行う。第1次アウトガスは、基板27と基板ホルダ28とを約150℃で30分加熱して行われる。
【0050】
第1準備室23は、基板導入室22と同様に密閉空間を形成することのできる金属製の筒状部材によって構成され、一方が基板導入室22の室壁22bに形成される出入口に接続され、他方が成長室25のチャンバ37に形成される基板27および基板ホルダ28の出入口に接続される。
【0051】
第1準備室23には、基板導入室22から出入口を介して基板27および基板ホルダ28を受渡しされるアウトガスステージ38であって、基板27と基板ホルダ28とを加熱するヒータ39を備えるとともに、基板27と基板ホルダ28とを基板導入室22から成長室25まで搬送するアウトガスステージ38が設けられる。第1準備室23にも第1真空吸引装置33が接続され、第1真空吸引装置33が第2流量調整バルブ35を介して第1準備室23の内部空間を、真空雰囲気にすることができる。第1準備室23では、真空雰囲気中で、アウトガスステージ38に備えられるヒータ39によって基板27と基板ホルダ28とを約400℃で30分加熱して第2次アウトガスを行う。
【0052】
本実施の形態では、成長室25は、分子線結晶成長室である。すなわち、本実施形態の半導体結晶成長装置20は、分子線結晶成長装置である。成長室25は、基板27と基板ホルダ28とを収容する金属製のチャンバ37と、チャンバ37内に設けられて基板27と基板ホルダ28とを加熱する基板ヒータ40と、複数(本実施形態では5個)の分子線セル41とを含んで構成される。チャンバ37には、第2真空吸引装置42が設けられ、チャンバ37の内部を高真空雰囲気とすることができる。本実施の形態では、半導体結晶成長中の真空度は1×10−4Paであったが、酸素量および水分量はプロセスガスモニター(たとえば四重極質量分析計)の検出限界(1×10−8Pa)以下であった。
【0053】
基板ヒータ40は、第1準備室23のアウトガスステージ38から受渡しされた基板27と基板ホルダ28とを保持し、結晶成長温度まで加熱する。チャンバ37に設けられる分子線セル41の構成および分子線セル41による半導体結晶成長の作用は、前述の図4で示す分子線結晶成長室5と同じであるので、その説明を省略する。
【0054】
基板ホルダ処理室26は、処理チャンバ43と、処理チャンバ43内に設けられて基板ホルダ28を加熱する基板ホルダヒータ44と、基板ホルダヒータ44に保持されている基板ホルダ28に対向するようにして処理チャンバ43に設けられるイオン銃45と、処理チャンバ43の内部空間を吸引して真空雰囲気にする第3真空吸引装置46とを含んで構成される。
【0055】
第3真空吸引装置46は、処理チャンバ43の内部空間を、酸素および水蒸気の分圧が1×10−6Pa以下または酸素および水蒸気の含有量が10ppb以下の真空雰囲気にすることができる。イオン銃45は、上記真空雰囲気に制御された処理チャンバ43内で、基板ホルダヒータ44に保持される基板ホルダ28に向けて、たとえばアルゴン(Ar)イオンを照射することができる。
【0056】
すなわち、基板ホルダ処理室26は、半導体結晶の成長が完了した基板27が取外された基板ホルダ28を、基板ホルダヒータ44で加熱し、加熱された状態にある基板ホルダ28に対して、イオン銃45からイオン照射することによって、成長室25内における半導体結晶成長の過程において基板ホルダ28に付着した堆積物を除去処理するための装置である。
【0057】
基板ホルダ28には、その裏側に回り込んで堆積物が付着する場合もあるので、基板ホルダ28の表側をクリーニングした後、基板ホルダ28を基板セット室21へ搬送し、基板セット室21で基板ホルダ28を裏返し、再び基板ホルダ処理室26へ搬送し、基板ホルダ28の裏側がイオン銃45を臨むように基板ホルダヒータ44にセットし、基板ホルダ28の裏側もクリーニングすることが好ましい。なお、より好ましくは、基板ホルダ処理室26内に、基板ホルダ28の表裏を反転させることのできる表裏反転装置を設け、基板ホルダ処理室26内で基板ホルダ28を表裏反転させ、表裏のクリーニングを行うのが良い。
【0058】
第2準備室24は、第1準備室23と同様に密閉空間を形成することのできる金属製の容器状部材によって構成され、一方が基板ホルダ処理室26の処理チャンバ43の基板導入室22を臨む側の壁に形成される出入口に接続され、他方が基板導入室22の室壁22aに形成される出入口に接続される。なお、処理チャンバ43に形成される出入口にも開閉自在のシャッタが設けられ、処理チャンバ43の内部空間を独立空間とし、前述のように第3真空吸引装置46によって真空雰囲気とすることができる。第2準備室24には、基板セット室21において、半導体結晶成長が完了した基板27が取外され、その後基板セット室21から基板導入室22へ導入された基板ホルダ28を、基板導入室22から基板ホルダ処理室26へと搬送する不図示の搬送手段が設けられる。第2準備室22にも第3流量調整バルブ36を介して第1真空吸引装置33が接続され、第2準備室22内の空間を真空雰囲気にし、搬送される基板ホルダ28が大気に曝されることを防止できるように構成される。
【0059】
図2は、半導体結晶成長方法を説明するフローチャートである。以下、図2を参照して、半導体結晶成長装置20を用いた半導体結晶成長方法について説明する。
【0060】
スタートでは、半導体結晶成長装置20を動作可能な状態におき、基板導入室22、第1および第2準備室23,24、成長室25、基板ホルダ処理室26を真空雰囲気とし、結晶成長処理するべき基板27が準備され、基板ホルダ28は基板導入室22内において予め定められる所定位置にセットされている状態である。
【0061】
ステップb1では、たとえばGaAsの基板27を基板セット室21で基板ホルダ28にセットする基板装着工程が行われる。このセットは、より詳細には次のように行われる。まず基板セット室21を大気開放し、基板セット室21の基板出入口から基板27を基板セット室21内へ導入する。基板導入後、基板出入口を閉じ、窒素供給源32から基板セット室21へNガスを供給し、基板セット室21内を、酸素濃度が10ppb以下のNガス雰囲気にする。その後、基板セット室21と基板導入室22との出入口を開き、基板ホルダ28を基板セット室21内へ移動させ、基板セット室21で基板ホルダ28に基板27をセット(装着)する。
【0062】
ステップb2では、基板27と基板ホルダ28とを、基板導入室22へ導入し、基板セット室21と基板導入室22との出入口を閉じる。ステップb3では、第1真空吸引装置33で基板導入室22内を真空吸引しながら、第1次アウトガスを行う。第1次アウトガス条件は、前述のように、150℃×30分である。このステップb3における基板導入室22の到達真空度は、従来と比較して1桁以上良化していた。
【0063】
ステップb4では、第1次アウトガスを終えた基板27と基板ホルダ28とを、基板導入室22から第1準備室23へと搬送し、アウトガスステージ38へ受渡す。ステップb5では、第1真空吸引装置33で第1準備室23内を真空吸引しながら、アウトガスステージ38で第2次アウトガスを行う。第2次アウトガス条件は、前述のように、400℃×30分である。この第2次アウトガス時における第1準備室23内の到達真空度も、従来に比べて1桁以上良化していた。
【0064】
ステップb6では、第2次アウトガスを終えた基板27と基板ホルダ28とを、第1準備室23から成長室25へと搬送する。ステップb7では、第2真空吸引装置42によってチャンバ37内を分子線照射前に1×10−7Pa以下の高真空にし、基板表面の酸化膜を適切な条件下、たとえばGaAs基板上に成長させる場合はAs照射下で酸化膜が除去できる580℃以上に基板を10分程度加熱し、さらに結晶成長させることに対して適切な処理温度に加熱され、分子線セル41から結晶成長原料を射出して、基板27の表面に結晶成長させる。成長時の真空度は1×10−4〜10−6Pa台であった。ここでの結晶成長薄膜は、たとえばAlGaInP系の結晶成長薄膜である。基板27に結晶成長させるとき、同様の成分からなる堆積物が基板ホルダ28に付着する。特に、堆積物がAlGaInP系であると、易酸化性元素であるAlを含むので、堆積物が付着した基板ホルダ28が大気に曝されると、堆積物が酸化し、酸素汚染源になる。したがって、後述するように本発明の半導体結晶成長方法では、基板ホルダ28に付着する堆積物が大気に曝されないようにしてクリーニング除去してしまうことによって、基板27の表面に結晶成長させるとき、結晶成長薄膜に酸素汚染を惹起しないようにする。
【0065】
ステップb8では、基板27の表面に対する結晶成長処理が終了した基板27と基板ホルダ28とを、成長室25から第1準備室23へと搬送する。ステップb9では、基板27と基板ホルダ28とを第1準備室23から基板導入室22へと搬送する。ステップb9では、基板27と基板ホルダ28とを基板導入室22から基板セット室21へと搬送する。ステップb11では、基板セット室21で、結晶成長処理された基板27を基板ホルダ28から取外す。この、基板ホルダ28から基板27を取外す基板取外工程においても、基板27と基板ホルダ28とは、酸素濃度が10ppb以下のNガス雰囲気下に在る。
【0066】
このように結晶成長処理が完了した基板27を基板ホルダ28から取外す工程もNガス雰囲気中で実行することによって、基板ホルダ28に付着した堆積物の酸化を防止できる。酸化した堆積物は結合エネルギが大きいので、クリーニング除去に長時間を要したり、除去中の雰囲気中に酸素を放出して、再酸化や基板ホルダ28に酸素を再付着させるなどの問題を惹起するけれども、上記のようにNガス雰囲気中で基板27を取外すことによって、これらの問題を解消することができる。
【0067】
ステップb12では、基板27の取外された基板ホルダ28が、基板セット室21から基板導入室22へ導入され、基板導入室22の所定位置におかれる。ステップb13では、基板導入室22の所定位置におかれる基板ホルダ28が、所定位置から取出される取出工程が行われ、第2準備室24へと導入される。
【0068】
ステップb14では、第2準備室24内を搬送して基板ホルダ28を基板ホルダ処理室26へ導入する。ステップb15では、基板ホルダ処理室26へ導入された基板ホルダ28が基板ホルダヒータ44にセットされ、第3真空吸引装置46で処理チャンバ43内を、1×10−6Pa以下の高真空雰囲気とし、基板ホルダヒータ44で加熱された状態にある基板ホルダ28に対して、イオン銃45からArイオンを照射し、基板ホルダ28に付着した堆積物を剥離させて除去するクリーニング工程が行われる。このクリーニング工程は、前述のように基板ホルダ28の表裏面に対して実行されることが好ましい。半導体結晶成長装置20の各室は、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気に保たれるけれども、不活性ガスまたは真空中でも少量の水分や酸素は存在するので、堆積物があれば、それが酸化の原因となり得るが、このクリーニング工程において堆積物が基板ホルダ28から除去されているので、酸素汚染の原因の1つを無くすことができる。
【0069】
ステップb16では、クリーニングが終了した基板ホルダ28を、基板ホルダ処理室26から取出し、第2準備室24を介して基板導入室22へと搬送し、基板導入室22の所定位置にセッティングするセット工程が行われる。
【0070】
ステップb17では、次に結晶成長処理するべき基板27があるか否かが判断される。次の結晶成長処理基板27があるとき、ステップb1へ戻り、基板セット室21で、半導体結晶の成長処理が行われていない基板27を、クリーニング処理された基板ホルダ28に装着する基板装着工程が行われる。特に、クリーニング後の基板ホルダ28を用いる基板装着工程がNガス雰囲気中で実行されることによって、クリーニングした清浄な基板ホルダ28の表面に、酸素源となる水分などが吸着することを防止できる。
【0071】
本実施の態様では、このフローを2回以上繰り返し実施した。これによって結晶成長中の酸素量および水分量は四重極質量分析装置での検出限界以下である1×10−8Pa以下であった。
【0072】
一方、次に結晶成長処理するべき基板27が無いとき、エンドへ進んで半導体結晶成長処理を終了する。処理が無い場合でも基板27を基板導入室22内に戻しておくか、または基板セット室21の環境を酸素および水蒸気の分圧が1×10−6Pa以下または酸素および水蒸気の含有量が10ppb以下に保った状態で基板ホルダ28を保管する。このことによって継続的に本発明の効果を得ることができる。
【0073】
図2のフローチャートに示すような半導体結晶成長方法は、半導体結晶成長装置20にたとえば中央処理装置(CPU)を備えるマイクロコンピュータなどを設け、マイクロコンピュータの記憶部に、半導体結晶成長装置20の真空吸引系、搬送系、加熱系、分子線成長室等の動作制御プログラムを予め格納しておき、該プログラムに従って、半導体結晶成長装置20を動作させることによって実現することができる。
【0074】
このようにしてGaAs基板上に結晶成長させたAlGaInP系の結晶成長薄膜の膜中酸素濃度を質量分析装置で測定したところ、1×1015cm−3以下であり、従来に比べて1桁以上酸素濃度が低下したことを確認した。この結晶成長薄膜を用いた光デバイスであるレーザ素子の動作電流は、たとえば出力10mWで、40mA以下であり、これは従来に比べて20%以上減少しており、また信頼性も100%以上向上した。
【0075】
なお、ここで言う信頼性とは、平均寿命(寿命は規定の温度条件下で規定出力を得るための駆動電流値が初期値の20%を越える時間で規定する)が1000時間であったものが2000時間になったということである。
【0076】
これは、基板27を保持する基板ホルダ28が、Nガス雰囲気または真空雰囲気中で搬送および処理されることによって全く大気に曝されることがなく、また基板ホルダ28に結晶成長処理過程において付着する堆積物が、基板ホルダ処理室26において高真空雰囲気下でクリーニング除去されるので、基板ホルダ28および堆積物が、半導体結晶を成長させる際の酸素汚染源となり得ない。このことによって、基板27上に結晶成長させて作製される半導体結晶成長薄膜の純度が向上し、より優れた性能を発揮することが可能になる。
【0077】
図3は、本発明の実施の第2形態である半導体結晶成長装置50の構成を簡略化して示す系統図である。本実施形態の半導体結晶成長装置50は、実施の第1形態の半導体結晶成長装置20に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0078】
半導体結晶成長装置50において注目すべきは、基板ホルダ処理室51が、Nガス雰囲気中で基板ホルダ28を加熱によってクリーニングするように構成されることであり、また基板導入室22と基板ホルダ処理室51との間で、基板ホルダ28の搬送に窒素ボックス52が設けられ、窒素ボックス52で搬送されてきた基板ホルダ28を基板ホルダ処理室51へ導入しセットするための第2の基板セット室53が設けられることである。
【0079】
窒素ボックス52は、その内部に密閉空間を形成することのできるたとえば金属製の搬送容器である。この窒素ボックス52は、その内部に基板ホルダ28を収納し、基板セット室21と、基板ホルダ処理室51に隣接して設けられる第2の基板セット室53との間を搬送することに用いられる。窒素ボックス52は、堆積物が付着した状態の基板ホルダ28も収納して搬送するので、理想的には窒素ボックス52に窒素ボンベを接続し、基板ホルダ28を収納する内部にNガスを流すことが望ましいけれども、Nガスを常時流しておくことは実際上難しいので、シールの度合いに応じた搬送時間の制限を設けて搬送に利用する。
【0080】
第2の基板セット室53は、基板ホルダ処理室51に隣接して設けられる。第2の基板セット室53の基板ホルダ処理室51との連接部には、基板ホルダ28を第2の基板セット室53から基板ホルダ処理室51へと出入させる出入口が形成され、この出入口には開閉自在のシャッタ部材が設けられ、第2の基板セット室53と基板ホルダ処理室51とを連通させ、またシャッタ部材を閉じることによってそれぞれ独立空間とすることができる。また第2の基板セット室53には、基板ホルダ処理室51との連接部の反対側に、窒素ボックス52を出入させる出入口が形成され、この出入口にも開閉自在のシャッタ部材が設けられ、窒素ボックス52の第2の基板セット室53への出入と、第2の基板セット室53を大気空間から遮断することとを可能にしている。
【0081】
第2の基板セット室53には、基板セット室21に設けられるのと同様の、内部の気密性を保持することができる作業用腕導入口55が設けられる。操作者は、作業用腕導入口55からハンドリング操作することによって、窒素ボックス52から基板ホルダ28を取出して基板ホルダ処理室51内へ導入したり、基板ホルダ処理室51からクリーニング後の基板ホルダ28を取出して窒素ボックス52内へ収納することができる。
【0082】
本実施形態の基板ホルダ処理室51には、処理チャンバ43内を窒素雰囲気とするためのNガス供給源54が設けられる。Nガス供給源54は、処理チャンバ43にNガスを供給し、その内部空間を酸素濃度および水蒸気濃度が10ppb以下のNガス雰囲気にすることができる。なお、Nガスを供給するだけでは、処理チャンバ43内の雰囲気を酸素濃度および水蒸気濃度10ppb以下にすることが難しい場合、Nガス供給源54に処理チャンバ43内を置換するための排気系または真空吸引系を備えることが望ましい。この基板ホルダ処理室51では、基板ホルダヒータ44にセットされた基板ホルダ28を、Nガス雰囲気中で800℃×1時間加熱し、堆積物を剥離させて除去する。
【0083】
以下、半導体結晶成長装置50を用いる半導体結晶成長方法について、結晶成長処理が完了した基板27を基板ホルダ28から取外す基板取外工程から説明する。
【0084】
まず窒素ボックス52を、基板セット室21内に装入する。その後、基板セット室21をNガス雰囲気に調整する。この状態で、結晶成長処理された基板27と基板ホルダ28とが、基板導入室22から基板セット室21へと搬入される。Nガス雰囲気の基板セット室21内で、基板27が基板ホルダ28から取外され、基板ホルダ28が窒素ボックス52の中へ収納される。基板ホルダ28を窒素ボックス52内へ収納した後、窒素ボックス52が閉じられる。このように、窒素ボックス52がNガスを封じきりにして閉じられた後、基板セット室21が大気開放され、基板ホルダ28を収納した窒素ボックス52が、第2の基板セット室53へと搬送される。
【0085】
窒素ボックス52で基板ホルダ28が搬送されると、第2の基板セット室53では、基板ホルダ処理室51との間の出入口を閉じ、窒素ボックス52を出入させる出入口を開放し、該開いた出入口から窒素ボックス52を第2の基板セット室53内へ装入する。窒素ボックス52を第2の基板セット室53内へ装入後、第2の基板セット室53の窒素ボックス出入口を閉じ、基板ホルダ処理室51との間の出入口を開放し、Nガス供給源54を動作させて処理チャンバ43内と第2の基板セット室53内を、Nガス雰囲気にする。
【0086】
ガス雰囲気が、酸素濃度および水蒸気濃度10ppb以下に調整された状態で、窒素ボックス52を開けて基板ホルダ28を取出し、基板ホルダ処理室51へ導入する。基板ホルダ処理室51へ導入された基板ホルダ28は、基板ホルダヒータ44にセットされる。
【0087】
基板ホルダ28が基板ホルダヒータ44にセットされると、第2の基板セット室53と基板ホルダ処理室51との間の出入口を閉じる。次いで基板ホルダヒータ44で基板ホルダ28を800℃×1時間加熱することによって、基板ホルダ28から堆積物を剥離除去する。
【0088】
堆積物のクリーニングが完了すると、第2の基板セット室53と基板ホルダ処理室51との間の出入口を開放し、基板ホルダ処理室51の基板ホルダ28を基板ホルダヒータ44から取外して第2の基板セット室53へと搬送する。
【0089】
第2の基板セット室53に搬送された基板ホルダ28は、ハンドリング操作によって窒素ボックス52内へ収納され、窒素ボックス52が、Nガスを封じきりにして閉じられる。窒素ボックス52が閉じられた後、第2の基板セット室53と基板ホルダ処理室51との間の出入口を閉じ、その反対側の窒素ボックス52の出入口を開放し、窒素ボックス52によってクリーニング済みの基板ホルダ28を基板セット室21へと搬送する。
【0090】
基板セット室21へと搬送された窒素ボックス52は、基板セット室21内へ装入される。このとき、新たに結晶成長処理すべき基板27があれば、窒素ボックス52と同時に、基板セット室21へ装入する。その後、基板セット室21をNガス雰囲気に調整する。この状態で、窒素ボックス52を開き、窒素ボックス52からクリーニングされた基板ホルダ28を取出し、基板ホルダ28に基板27を装着する。基板27が装着された基板ホルダ28を、基板導入室22へ導入し、所定位置にセットする。
【0091】
以降のアウトガスおよび結晶成長させる工程は、実施の第1形態の半導体結晶成長装置20を用いる半導体結晶成長方法と同一であるので、説明を省略する。
【0092】
この実施の第2形態の半導体結晶成長装置50を用いる半導体結晶成長方法では、GaAs基板にAlGaAs系の半導体結晶成長薄膜を形成した。この結晶成長薄膜を用いた光デバイスであるレーザ素子の動作電流は、たとえば出力10mWで、45mA以下であり、これは従来に比べて10%以上減少しており、また信頼性も50%以上向上した。
【0093】
実施の第1および第2形態の各装置20,50を用いる半導体結晶成長方法によって作製された半導体結晶成長薄膜については、基板と結晶成長薄膜との界面の酸素濃度も低減された。従来、界面の酸素濃度が1×1018cm−3であったものが、本発明では1×1016cm−3以下にまで減少した。
【0094】
これは、従来、アウトガス中に酸化した堆積物からの酸素が、基板27表面に付着して実効的な酸化膜層厚を大きくしたり酸化膜除去中に基板ホルダ28からの酸素によって酸化膜を除去した表面の再酸化を引き起こしていたが、本発明では堆積物がクリーニング除去されて酸素汚染源になることがないので、基板表面の酸化が抑制され、結晶成長処理前の酸化膜除去工程で基板の酸化膜が効果的に除去できることによる。また、装置に対する酸素および水の導入量が各段に減少し、準備室などの残留ガス量も減少したことによる。
【0095】
以上に述べたように、本実施の形態では、基板ホルダの堆積物のクリーニングは、イオンミリングおよび熱剥離であるけれども、これに限定されることなく、逆スパッタによって行われてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施の第1形態である半導体結晶成長装置20の構成を簡略化して示す系統図である。
【図2】半導体結晶成長方法を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の実施の第2形態である半導体結晶成長装置50の構成を簡略化して示す系統図である。
【図4】MBE法を用いる従来の半導体結晶成長装置1の構成を簡略化して示す系統図である。
【図5】従来の半導体結晶成長装置1を用いた半導体結晶成長方法を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0097】
20,50 半導体結晶成長装置
21 基板セット室
22 基板導入室
23 第1準備室
24 第2準備室
25 成長室
26,51 基板ホルダ処理室
27 基板
28 基板ホルダ
52 窒素ボックス
53 第2の基板セット室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を基板ホルダに装着し、その基板の表面に半導体結晶を成長させる半導体結晶成長方法であって、
半導体結晶の成長が完了した基板が取外された基板ホルダを所定の位置から取出す取出工程と、
半導体結晶成長の過程において基板ホルダに付着した堆積物を除去するクリーニング工程と、
堆積物が除去された基板ホルダを所定の位置にセッティングするセット工程とを含み、
取出工程、クリーニング工程およびセット工程を通じて、基板ホルダが、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中に在ることを特徴とする半導体結晶成長方法。
【請求項2】
取出工程の前に半導体結晶の成長が完了した基板を基板ホルダから取外す基板取外工程と、
セット工程の後に基板ホルダに半導体結晶の成長処理が行われていない基板を装着する基板装着工程とを含み、
基板取外工程および基板装着工程において、基板ホルダが、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中に在ることを特徴とする請求項1記載の半導体結晶成長方法。
【請求項3】
クリーニング工程において、
基板ホルダに付着した堆積物の除去は、物理的な方法によって行われることを特徴とする請求項1または2記載の半導体結晶成長方法。
【請求項4】
物理的な方法が、イオンミリングであることを特徴とする請求項3記載の半導体結晶成長方法。
【請求項5】
クリーニング工程において、
基板ホルダが在る雰囲気は、酸素および水蒸気の分圧が1×10−6Pa以下または酸素および水蒸気の含有量が10ppb以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の半導体結晶成長方法。
【請求項6】
基板を基板ホルダに装着し、その基板の表面に半導体結晶を成長させる半導体結晶成長装置であって、
基板ホルダと基板ホルダに装着される基板とを加熱して第1次アウトガスを行う基板導入室と、
基板ホルダと基板ホルダに装着される基板とを、基板導入室における加熱温度よりも高い温度に加熱して第2次アウトガスを行う準備室と、
アウトガスが行われた基板の表面に半導体結晶を成長させる成長室と、
半導体結晶の成長が完了した基板が取外された基板ホルダから半導体結晶成長の過程において付着した堆積物を除去処理するための基板ホルダ処理室とを含むことを特徴とする半導体結晶成長装置。
【請求項7】
成長室が、分子線結晶成長室であることを特徴とする請求項6記載の半導体結晶成長装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−126310(P2007−126310A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318633(P2005−318633)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】