説明

半導体装置、及び半導体装置の製造方法

【課題】電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能な半導体装置、及び半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】SiCからなる基板10と、基板10上に設けられ、AlNからなるバッファ層12と、バッファ層12上に設けられ、GaNからなるチャネル層14と、チャネル層14上に設けられ、AlGaNからなる電子供給層16と、電子供給層16上に設けられたソース電極20、ドレイン電極22及びゲート電極24と、を具備し、チャネル層14の電子供給層16側の領域14bにおけるCの濃度は、チャネル層14のバッファ層12側の領域14aにおけるCの濃度より高いHEMT100、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置、及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いたHEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)は、高周波用出力増幅用素子として用いられることがある。HEMTでは、チャネル層と電子供給層との界面に生じる二次元電子ガス(2DEG)をキャリアとして利用する。電気的なストレス等が加わることにより、2DEGの電子が窒化物半導体層中のトラップに捕獲されることがある。電子の捕獲のため、例えばドレイン電流等、HEMTに流れる電流が時間と共に変動することがある。特許文献1には、窒化ガリウム(GaN)層の品質を高めることで、電流の変動を抑制する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−147663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、電流の変動の抑制が十分でないことがある。また、電流変動の抑制と、ピンチオフ特性の確保との両立が難しいことがある。本願発明は、上記課題に鑑み、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能な半導体装置、及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、炭化シリコンからなる基板と、前記基板上に設けられ、窒化アルミニウムからなるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられ、窒化ガリウムからなるチャネル層と、前記チャネル層上に設けられ、窒化物半導体からなる電子供給層と、前記電子供給層上に設けられたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、を具備し、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域における炭素の濃度は、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域における炭素の濃度より高い半導体装置である。本発明によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0006】
上記構成において、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域における炭素の濃度は4×1016atoms/cm以上であり、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域における炭素の濃度は2×1016atoms/cm以下である構成とすることができる。この構成によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0007】
本発明は、炭化シリコンからなる基板と、前記基板上に設けられ、窒化アルミニウムからなるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられ、窒化ガリウムからなるチャネル層と、前記チャネル層上に設けられ、窒化物半導体からなる電子供給層と、前記電子供給層上に設けられたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、を具備し、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域におけるシリコンの濃度と酸素の濃度との合計値は、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域におけるシリコンの濃度と酸素の濃度との合計値より小さい半導体装置である。本発明によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0008】
上記構成において、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域におけるシリコンの濃度と酸素の濃度との合計値は1×1016atoms/cm以下であり、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域におけるシリコンの濃度と酸素の濃度との合計値は2×1016atoms/cm以上である構成とすることができる。この構成によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0009】
本発明は、炭化シリコンからなる基板と、前記基板上に設けられ、窒化アルミニウムからなるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられ、窒化ガリウムからなるチャネル層と、前記チャネル層上に設けられ、窒化物半導体からなる電子供給層と、前記電子供給層上に設けられたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、を具備し、前記バッファ層の炭素の濃度は2×1019atoms/cm以下である半導体装置である。本発明によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0010】
本発明は、炭化シリコンからなる基板と、前記基板上に設けられ、窒化アルミニウムからなるバッファ層と、前記バッファ層上に設けられ、窒化ガリウムからなるチャネル層と、前記チャネル層上に設けられ、窒化物半導体からなる電子供給層と、前記電子供給層上に設けられたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、を具備し、前記バッファ層の酸素の濃度とシリコンの濃度との合計値は2×1017atoms/cm以上である半導体装置である。本発明によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0011】
本発明は、窒化シリコンからなる基板上に、窒化アルミニウムからなるバッファ層を設ける工程と、MOCVD法により、前記バッファ層上に、窒化ガリウムからなるチャネル層を設ける工程と、前記チャネル層上に、窒化物半導体からなる電子供給層を設ける工程と、前記電子供給層上に、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を設ける工程と、を有し、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域の成長温度は、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域の成長温度よりも高い半導体装置の製造方法である。本発明によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0012】
上記構成において、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域の成長温度は、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域の成長温度よりも40℃以上高い構成とすることができる。この構成によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0013】
本発明は、窒化シリコンからなる基板上に、窒化アルミニウムからなるバッファ層を設ける工程と、MOCVD法により、前記バッファ層上に、窒化ガリウムからなるチャネル層を設ける工程と、前記チャネル層上に、窒化物半導体からなる電子供給層を設ける工程と、前記電子供給層上に、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を設ける工程と、を有し、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域の成長レートは、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域の成長レートより大きい半導体装置の製造方法である。本発明によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0014】
上記構成において、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域の成長レートは、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域の成長レートの1.5倍以上である構成とすることができる。この構成によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0015】
本発明は、窒化シリコンからなる基板上に、窒化アルミニウムからなるバッファ層を設ける工程と、MOCVD法により、前記バッファ層上に、窒化ガリウムからなるチャネル層を設ける工程と、前記チャネル層上に、窒化物半導体からなる電子供給層を設ける工程と、前記電子供給層上に、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を設ける工程と、を有し、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域の成長圧力は、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域の成長圧力より高い半導体装置の成長方法である。本発明によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0016】
上記構成において、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域の成長圧力は、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域の成長圧力より13.33kPa以上高い構成とすることができる。この構成によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0017】
本発明は、窒化シリコンからなる基板上に、窒化アルミニウムからなるバッファ層を設ける工程と、原料にアンモニアを含むMOCVD法により、前記バッファ層上に、窒化ガリウムからなるチャネル層を設ける工程と、前記チャネル層上に、窒化物半導体からなる電子供給層を設ける工程と、前記電子供給層上に、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を設ける工程と、を有し、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域を設ける工程におけるアンモニアの流量比は、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域を設ける工程におけるアンモニアの流量比より大きい半導体装置の成長方法である。本発明によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0018】
本発明は、シリコンを含む原料ガスを用いるMOCVD法により、窒化シリコンからなる基板上に、窒化アルミニウムからなるバッファ層を設ける工程と、前記バッファ層上に、窒化ガリウムからなるチャネル層を設ける工程と、前記チャネル層上に、窒化物半導体からなる電子供給層を設ける工程と、前記電子供給層上に、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を設ける工程と、を有する半導体装置の製造方法である。本発明によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【0019】
本発明は、MOCVD法により、窒化シリコンからなる基板上に、窒化アルミニウムからなるバッファ層を設ける工程と、前記バッファ層上に、窒化ガリウムからなるチャネル層を設ける工程と、前記チャネル層上に、窒化物半導体からなる電子供給層を設ける工程と、前記電子供給層上に、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を設ける工程と、を有し、前記バッファ層の成長レートは0.5μm/h以下である半導体装置の製造方法である。本発明によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することが可能な半導体装置、及び半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、比較例1に係るHEMTを例示する断面図である。
【図2】図2(a)は、比較例1に係るHEMTのバンド構造を例示する模式図である。図2(b)は、比較例2に係るHEMTのバンド構造を例示する模式図である。
【図3】図3(a)は、バッファリーク評価のためのサンプルを例示する模式図である。図3(b)は、ピンチオフリーク評価のためのサンプルを例示する模式図である。
【図4】図4(a)は、比較例1におけるバッファリーク電流の電界強度依存性を例示する模式図である。図4(b)は、比較例2におけるバッファリーク電流の電界強度依存性を例示する模式図である。
【図5】図5(a)は、比較例1におけるピンチオフリーク電流の電界強度依存性を例示する模式図である。図5(b)は、比較例2におけるピンチオフリーク電流の電界強度依存性を例示する模式図である。
【図6】図6(a)は、実施例1に係るHEMTを例示する断面図である。図6(b)は、実施例1に係るHEMTのバンド構造を例示する模式図である。
【図7】図7(a)は、バッファリーク評価のためのサンプルを例示する模式図である。図7(b)は、ピンチオフリーク評価のためのサンプルを例示する模式図である。
【図8】図8(a)は、実施例1におけるバッファリーク電流の電界強度依存性を例示する模式図である。図8(b)は、実施例1におけるピンチオフリーク電流の電界強度依存性を例示する模式図である。
【図9】図9(a)から図9(c)は、実施例1に係るHEMTの製造方法を例示する断面図である。
【図10】図10(a)及び図10(b)は、実施例1に係るHEMTの製造方法を例示する断面図である。
【図11】図11(a)は、実施例2に係るHEMTを例示する断面図である。図11(b)は、実施例2に係るHEMTのバンド構造を例示する模式図である。
【図12】図12(a)及び図12(b)は、実施例2に係るHEMTの製造方法を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず比較例について説明する。図1は、比較例1に係るHEMTを例示する断面図である。
【0023】
図1に示すように、比較例1に係るHEMT100Rは、基板110、バッファ層112、チャネル層114、電子供給層116、ソース電極120、ドレイン電極122及びゲート電極124、並びに保護層126を備える。
【0024】
基板110は炭化シリコン(SiC)からなる。バッファ層112は、例えば厚さ25nmの窒化アルミニウム(AlN)からなる。バッファ層112は、基板110上に設けられている。チャネル層114は、例えば厚さ1200nmの窒化ガリウム(GaN)からなる。チャネル層114は、バッファ層112上に設けられている。電子供給層116は、例えば厚さ20nmの窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)からなる。電子供給層116は、チャネル層114上に設けられている。ソース電極120及びドレイン電極122は、例えば電子供給層116に近い方から順にチタン層とアルミニウム層(Ti/Al)、又はタンタル/アルミニウム(Ta/Al)等の金属を積層して形成されるオーミック電極である。ゲート電極124は、例えば電子供給層116に近い方から順に、ニッケル/アルミニウム(Ni/Al)等の金属を積層してなる。ゲート電極124は、ソース電極120とドレイン電極122との間に位置する。ソース電極120及びドレイン電極122には、例えば金(Au)等の金属からなる配線が接続される。なお、配線は不図示である。電子供給層116上には例えば窒化シリコン(SiN)等の絶縁体からなる保護層126が設けられている。
【0025】
例えばソース電極120を接地し、ドレイン電極122に正電位、ゲート電極124に負電位をそれぞれ印加すると、チャネル層114と電子供給層116との界面に2DEGが発生する。2DEGがキャリアとなり、ソース−ドレイン間に電流が流れる。電気的ストレスが加わることにより、2DEGを構成する電子がトラップに捕獲され、例えばドレイン電流が変動することがある。電気的ストレスとは、例えば直流信号、又は大電力の高周波信号等である。電流の変動については、図2(a)及び図2(b)において後述する。
【0026】
次に比較例2に係るHEMTについて説明する。比較例2では、チャネル層114を構成するGaNを高品質化している。すなわち、比較例2におけるGaNに含まれる炭素(C)等の不純物の濃度は、比較例1よりも低い。他の構成は、図1に示したものと同じである。不純物の濃度を低減するためには、例えばチャネル層114を成長させるためのMOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)における成長温度を高くする等の方法がある。例えば、比較例1においては成長温度を1100℃、比較例2においては成長温度を1200℃とする。次にバンド構造について説明する。
【0027】
図2(a)は、比較例1に係るHEMTのバンド構造を例示する模式図である。図2(b)は、比較例2に係るHEMTのバンド構造を例示する模式図である。破線で示したEfはフェルミエネルギーを表す。実線で示したEcはコンダクションバンドの底のエネルギーを表す。点線で示したEtは、コンダクションバンドより下の深い準位(トラップ)のエネルギーを表す。図2(a)及び図2(b)において、HEMTの各部位に対応する領域は、図1と同じ符号で示した。また格子斜線の領域は2DEGを示す。既述したように、2DEGがキャリアとなりドレイン電流が流れる。しかし電気的ストレスが印加されることにより、時間と共に、ドレイン電流が変動することがある。
【0028】
図2(a)に示すように、チャネル層114におけるEcは高い。例えばチャネル層114とバッファ層112との界面付近におけるエネルギー差Ec−Efは1.5eV程度である。またチャネル層114のバッファ層112側の領域において、トラップのエネルギーEtが、フェルミエネルギーEfより高くなる。トラップはイオン化されているため、電気的ストレス等により高エネルギーとなった電子を捕獲することができる。つまり、2DEGの電子がトラップに捕獲されることがある。電子の捕獲により、2DEGの濃度は低下する。2DEGの濃度の低下により、HEMTのドレイン電流は減少する。また、捕獲された電子が放出されることがある。このように、時間と共にドレイン電流の変動が生じることがある。
【0029】
図2(b)に示すように、比較例2においては、チャネル層114のコンダクションバンドのエネルギーEcが、比較例1におけるEcより低い。これは、チャネル層114を形成するGaNを高品質化しているため、C等のようなアクセプタとなる不純物の寄与が低減したことによる。これにより、チャネル層114は低抵抗化する。チャネル層114とバッファ層112との界面付近におけるエネルギー差Ec−Efは例えば0.4〜0.6eV程度である。トラップのエネルギーEtは、フェルミエネルギーEfより低くなる。トラップは電子に占有されるため、2DEGの電子のトラップへの捕獲は抑制される。この結果、ドレイン電流の変動は抑制される。
【0030】
しかしながら、図2(b)においては、エネルギーEcが、チャネル層114の全体にわたって低下する。このため、2DEG付近においてもエネルギーEcは低下し、エネルギー差Ec−Efが小さくなる。この結果、チャネル層114からバッファ層112にかけて、エネルギーEcの傾きが緩やかになる。言い換えれば、2DEG付近における障壁が低くなる。従って、ソース−ドレイン間に電圧が印加されると、2DEGの電子が障壁を乗り越え易くなる。この結果、比較例2においては、リーク電流が増大し、ピンチオフ特性の劣化が生じる可能性がある。
【0031】
上記のようなバンド構造の違いにより、I−V特性に違いが生じる。バンド構造が、I−V特性に及ぼす影響について説明する。I−V特性の評価として、バッファリーク及びピンチオフリークの評価を行った。
【0032】
バッファリークの評価は、チャネル層114の電子供給層116側の領域を流れる電流(以下、「バッファリーク電流」とする)の電界強度依存性を評価するものである。チャネル層114の電子供給層116に近い領域における電子の挙動は、バッファリークに影響する。ピンチオフリークの評価は、チャネル層114のバッファ層112側の領域を流れる電流(「ピンチオフリーク電流」とする)の電界強度依存性を評価するものである。チャネル層114のバッファ層112に近い領域における電子の挙動は、ピンチオフリークに影響する。
【0033】
サンプルについて説明する。図3(a)は、バッファリーク評価のためのサンプルを例示する模式図である。矢印は、電子の流れを表す。
【0034】
図3(a)に示すように、バッファリーク評価のためのサンプル100Aは、基板110、バッファ層112、チャネル層114、電子供給層116、ソース電極120及びドレイン電極122を備える。ゲート電極124は設けられていない。基板110、及び各層の材質及び寸法は、図1において例示したものと同じである。ソース電極120及びドレイン電極122は、電子供給層116に近い方から、Ti/Alを積層してなる。チャネル層114及び電子供給層116の一部は、例えばエッチングにより除去されている。エッチングは例えば塩素系のエッチャントを用いたRIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)とする。エッチングにより、チャネル層114の上面に、電子供給層116を貫通するような凹部114cが形成される。凹部114cはソース電極120とドレイン電極122との間に位置し、幅Wは2000nm、深さDは100nmである。幅方向は、図3(a)の左右方向である。深さ方向は、図3(a)の上下方向である。
【0035】
上記のサンプル100Aのソース電極120とドレイン電極122との間に電圧を印加することで、ソース−ドレイン間にバッファリーク電流が流れる。なお、図3(a)に矢印で示すように、電子は主にチャネル層114の電子供給層116側の領域を流れる。
【0036】
高品質化していないGaNにより形成されたチャネル層114を有するサンプル100Aを用いて、比較例1におけるバッファリーク電流の電界強度依存性を評価した。高品質化したGaNにより形成されたチャネル層114を有するサンプル100Aを用いて、比較例2におけるバッファリーク電流の電界強度依存性を評価した。
【0037】
図3(b)は、ピンチオフリーク評価のためのサンプルを例示する模式図である。図3(b)の格子斜線は空乏層を表す。
【0038】
図3(b)に示すように、ピンチオフリーク評価のサンプル100Bとして、HEMT100Rを用いた。材質及び寸法は、図1において例示したものと同じである。ソース電極120及びドレイン電極122は、電子供給層116に近い方から、Ti/Alを積層してなる。ゲート電極124は、電子供給層116に近い方から、Ni/Auを積層してなる。ゲート電極124の長さLは1μmである。長さ方向は、図3(b)の左右方向である。ゲート電極124に−3Vの電圧を印加することにより、空乏層118をチャネル層114の深い位置まで形成する。サンプル100Bのソース電極120とドレイン電極122との間に電圧を印加することで、ドレイン電流が流れる。図3(b)に矢印で示すように、電子は主にチャネル層114のバッファ層112側の領域を流れる。図3(b)のように、空乏層118を形成した状態においてI−V特性を評価することにより、ピンチオフリークを評価する。
【0039】
高品質化していないGaNにより形成されたチャネル層114を有するサンプル100Bを用いて、比較例1におけるピンチオフリーク電流の電界強度依存性を評価した。高品質化したGaNにより形成されたチャネル層114を有するサンプル100Bを用いて、比較例2におけるピンチオフリーク電流の電界強度依存性を評価した。
【0040】
まずバッファリークについて説明する。図4(a)は、比較例1におけるバッファリーク電流の電界強度依存性を例示する模式図である。図4(b)は、比較例2におけるバッファリーク電流の電界強度依存性を例示する模式図である。横軸は電界強度、縦軸はバッファリーク電流を表す。電界強度はソース−ドレイン間の電界の強さであり、ソース−ドレイン間電圧に依存する。
【0041】
図4(a)及び図4(b)に示すように、電界強度の増大に伴い、バッファリーク電流は大きくなる。比較例1よりも比較例2の方が、バッファリーク電流の増大が大きい。例えば比較例1において、電界強度がE1の場合、バッファリーク電流はI1となる。比較例2において、電界強度がE1の場合、バッファリーク電流はI1より大きいI2となる。
【0042】
図2(a)に示したように、比較例1では、電子が、ソース−ドレイン間のチャネル層14における障壁を乗り越え難い。このため図4(a)に示すように、比較例1においては比較例2よりも、バッファリーク電流は小さくなる。図2(b)に示したように、比較例2における2DEG付近におけるエネルギーの差Ec−Efは、比較例1よりも小さい。従って、2DEGの電子が、ソース−ドレイン間のチャネル層14における障壁を乗り越えやすい。言い換えれば、チャネル層114にバッファリーク電流が流れやすい。この結果、図4(b)に示すように、比較例2においてはバッファリーク電流が大きくなる。
【0043】
次にピンチオフリークについて説明する。図5(a)は、比較例1におけるピンチオフリーク電流の電界強度依存性を例示する模式図である。図5(b)は、比較例2におけるピンチオフリーク電流の電界強度依存性を例示する模式図である。縦軸はピンチオフリーク電流を表す。
【0044】
図5(a)及び図5(b)に示すように、ソース−ドレイン間の電界強度の増大に伴い、ピンチオフリーク電流は大きくなる。ピンチオフリーク電流の増大は、比較例2の方が、比較例1よりも大きい。例えば比較例1において、電界強度がE2の場合、ピンチオフリーク電流はI3となる。比較例2において、電界強度がE2の場合、ピンチオフリーク電流はI3より大きいI4となる。
【0045】
図2(a)に示したように、比較例1におけるチャネル層114のバッファ層112付近の領域では、Ecが高い。このため、ピンチオフリーク電流が抑制される。図2(b)に示したように、比較例2では、Ec−Efが小さいため、ピンチオフリーク電流が増大する。
【0046】
以上のように、比較例1においては、チャネル層114の電子供給層116側の領域のエネルギー差Ec−Efが高いため、バッファリーク電流及びピンチオフリーク電流は小さい。しかし、チャネル層114のバッファ層112側の領域には、電子が捕獲されていないトラップが形成される。高エネルギーを有する電子がトラップに捕獲されるため、ドレイン電流が変動する。
【0047】
比較例2においては、チャネル層114のバッファ層112側の領域において、トラップのエネルギーEtが低下する。従って、電子の捕獲によるドレイン電流の変動は抑制される。しかし、チャネル層114の電子供給層116側の領域のエネルギー差Ec−Efが低い。ソース−ドレイン間電圧により、高エネルギーとなった電子が、チャネル層114における障壁を乗り越える。これにより、ピンチオフ特性が劣化する。このように、HEMTにおいて、電流の変動の抑制と、ピンチオフ特性の確保との両立することは困難であった。
【0048】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0049】
図6(a)は、実施例1に係るHEMTを例示する断面図である。図1において既述した構成と同じ構成については、説明を省略する。
【0050】
図6(a)に示すように、実施例1に係るHEMT100は、基板10、バッファ層12、チャネル層14、電子供給層16、ソース電極20、ドレイン電極22、ゲート電極24及び保護層26を備える。バッファ層12は、例えば基板10の上面に接触している。チャネル層14は、例えばバッファ層12の上面に接触している。電子供給層16は、例えばチャネル層14の上面に接触している。ソース電極20、ドレイン電極22及びゲート電極24は、例えば電子供給層16の上面に接触している。
【0051】
図6(a)に破線で示すように、チャネル層14は2つの領域14a及び14bを含む。チャネル層14のバッファ層12側の領域を領域14a、電子供給層16側の領域を領域14bとする。領域14bにおけるCの濃度は例えば4×1016atoms/cm以上である。領域14aにおけるCの濃度は例えば2×1016atoms/cm以下である。このように、領域14bにおけるCの濃度は、領域14aにおけるCの濃度より高い。領域14bにおけるシリコン(Si)の濃度と酸素(O)の濃度との合計値は、例えば1×1016atoms/cm以下である。領域14aにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値は、例えば2×1016atoms/cm以上である。このように、領域14bにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値は、領域14aにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値より小さい。領域14a及び領域14b各々の厚さは、例えば600nmである。次にバンド構造について説明する。
【0052】
図6(b)は、実施例1に係るHEMTのバンド構造を例示する模式図である。図6(b)と図2(a)とを比較すると、領域14aにおいてEcは低下している。これに対し、領域14bにおいてEcはほとんど低下していない。言い換えれば、領域14bにおいて、Ec−Efは高く維持される。バッファ層12のチャネル層14側におけるコンダクションバンドのエネルギーをEb1とする。バッファ層12のエネルギーについては、実施例2において後述する。
【0053】
領域14bにおけるCの濃度が高い。言い換えれば、アクセプタとなる不純物の濃度(アクセプタ濃度)が高い。また、Siの濃度とOの濃度の合計値が小さい。言い換えれば、ドナーとなる不純物の濃度(ドナー濃度)が低い。抵抗率は、アクセプタ濃度とドナー濃度との差であるアクセプタ濃度−ドナー濃度、に依存する。領域14bにおいては、アクセプタ濃度−ドナー濃度が大きい。この結果、領域14bは高抵抗化する。言い換えれば、Ecが高くなる。このため、2DEG付近において、急峻な障壁が形成される。従って、2DEGの電子が障壁を越え難くなる。
【0054】
領域14aにおいてEc−Efは小さい。チャネル層14とバッファ層12との界面付近における、Ec−Efは例えば0.4〜0.6eV程度である。領域14aにおけるCの濃度は低い。言い換えれば、アクセプタとなる不純物の濃度が低い。また領域14aにおけるSiの濃度とOの濃度の合計値は大きい。言い換えれば、ドナーとなる不純物の濃度が高い。この結果、領域14aは低抵抗化する。このようにEc−Efは小さくなる。Ec−Efが小さくなることにより、トラップのエネルギーEtはフェルミエネルギーEfより小さくなる。トラップは電子に占有される。その結果、高エネルギーを有する電子のトラップへの捕獲は抑制される。
【0055】
実施例1におけるバッファリーク及びピンチオフリークについて説明する。まずサンプルについて説明する。図7(a)は、バッファリーク評価のためのサンプルを例示する模式図である。図7(a)に示すように、チャネル層14に凹部14cが形成されている。図7(a)に矢印で示すように、サンプル100Cにおいて、電子は主にチャネル層14の領域14bを流れる。
【0056】
図7(b)は、ピンチオフリーク評価のためのサンプルを例示する模式図である。図3(b)及び図6(a)において既述した構成については説明を省略する。図6(b)に示すように、空乏層18が形成されている。矢印で示すように、サンプル100Dにおいて、電子は主にチャネル層14の領域14aを流れる。
【0057】
図8(a)は、実施例1におけるバッファリーク電流の電界強度依存性を例示する模式図である。図8(a)に示すように、電界強度がE1の場合、バッファリーク電流はI5である。I5は、図4(b)に示したI2より小さく、例えば図4(a)に示したI1と同程度の大きさである。図6(b)に示したように、領域14bに高い障壁が形成され、電子がソース−ドレイン間において障壁を乗り越え難いためである。
【0058】
図8(b)は、実施例1におけるピンチオフリーク電流の電界強度依存性を例示する模式図である。図8(b)に示すように、電界強度がE2の場合、ピンチオフリーク電流はI6である。I6は、図5(a)に示したI3より大きく、例えば図5(b)に示したI4と同程度の大きさである。
【0059】
次に実施例1に係るHEMT100の製造方法について説明する。図9(a)から図10(b)は、実施例1に係るHEMTの製造方法を例示する断面図である。
【0060】
図9(a)に示すように、まずMOCVD法を用いて、SiCからなる基板10上に、例えば厚さ25nmの、AlNからなるバッファ層12をエピタキシャル成長させる。バッファ層12の成長条件を以下に示す。なお、成長温度とは、成長時の基板の温度である。成長圧力とは、MOCVD法に用いる炉内の圧力である。
成長温度:1100℃
成長圧力:20kPa
原料:トリメチルアルミニウム(TMA:Tri Methyl Aluminum)、アンモニア(NH
【0061】
図9(b)に示すように、MOCVD法により、バッファ層12上に、例えば厚さ600nmの、GaNからなるチャネル層14の領域14aをエピタキシャル成長させる。成長条件を以下に示す。
成長温度:1200℃
成長圧力:20kPa
成長レート:0.3nm/sec
原料:トリメチルガリウム(TMG:Tri Methyl Gallium)、NH
TMGの流量:90μmol/min
NHの流量:0.9mol/min
【0062】
図9(c)に示すように、MOCVD法により、領域14a上に、例えば厚さ600nmの、GaNからなる領域14bをエピタキシャル成長させる。成長条件を以下に示す。
成長温度:1100℃
他の成長条件は領域14aの成長条件と同じである。このように、領域14aの成長温度は、領域14bの成長温度より高い。領域14aと領域14bとは、チャネル層14を形成する。チャネル層14を設ける工程は、領域14aを設ける工程と、領域14bを設ける工程とを含む。
【0063】
図10(a)に示すように、MOCVD法により、チャネル層14上に、例えば厚さ20nmのAlGaNからなる電子供給層16をエピタキシャル成長させる。成長条件を以下に示す。
成長温度:1100℃
成長圧力:20kPa
原料:TMA、TMG、NH
【0064】
図10(b)に示すように、例えばプラズマCVD法(Plasma Chemical Vapor Deposition)を用いて、電子供給層16上に、第1SiN層を設ける。第1SiN層をパターニングして、電子供給層16を露出させる。露出した電子供給層16に、例えば蒸着法等により、Ti/Al等の金属からなるオーミック電極を形成する。オーミック電極は、ソース電極20及びドレイン電極22として機能する。さらに第1SiN層をパターニングして、電子供給層16を露出させる。例えば蒸着法等により、電子供給層16上に、例えばNi/Au等の金属からなるゲート電極24を形成する。第1SiN層上に第2SiN層を設ける。第1SiN層と第2SiN層とにより、保護層26が形成される。以上の工程により、実施例1に係るHEMT100が形成される。
【0065】
実施例1に係るHEMT100は、SiCからなる基板10と、AlNからなるバッファ層12と、GaNからなるチャネル層14と、AlGaNからなる電子供給層16と、ソース電極20と、ドレイン電極22と、ゲート電極24と、を備える。チャネル層14の電子供給層16側の領域14bにおけるCの濃度は、チャネル層14のバッファ層12側の領域14aにおけるCの濃度よりも高い。従って、2DEG付近に高い障壁が形成される。また、領域14aにおいてEc−Efが低下し、トラップのエネルギーEtがフェルミエネルギーEfより低くなる。言い換えれば、領域14aは低抵抗化し、領域14bは高抵抗化するこのため実施例1によれば、ドレイン電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することができる。
【0066】
また、領域14bにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値は、領域14aにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値よりも小さい。このため、領域14aは低抵抗化し、領域14bは高抵抗化する。従って、実施例1によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することができる。
【0067】
領域14aにおけるCの濃度は2×1016atoms/cm以下としたが、例えば1.5×1016atoms/cm以下、又は1×1016atoms/cm以下等としてもよい。領域14aにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値は2×1016atoms/cm以上としたが、例えば2.5×1016atoms/cm以上、又は3×1016atoms/cm以上としてもよい。このように領域14aにおいては、アクセプタとなるC等の不純物の濃度を低くし、ドナーとなるSi及びO等の不純物の濃度を高くすることが好ましい。
【0068】
領域14bにおけるCの濃度は4×1016atoms/cm以上としたが、例えば4.5×1016atoms/cm以上、又は5×1016atoms/cm以上としてもよい。領域14bにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値は1×1016atoms/cm以下としたが、例えば0.8×1016atoms/cm以下、又は0.5×1016atoms/cm以下としてもよい。このように領域14bにおいては、アクセプタとなるC等の不純物の濃度を高くし、ドナーとなるSi及びO等の不純物の濃度を低くすることが好ましい。領域14b中のアクセプタ濃度とドナー濃度との差は、領域14a中のアクセプタ濃度とドナー濃度との差より大きいことが好ましい。
【0069】
領域14aにおけるCの濃度は、例えば2×1016atoms/cm未満、1.5×1016atoms/cm未満、又は1×1016atoms/cm未満でもよい。領域14aにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値は、例えば2×1016atoms/cm、2.5×1016atoms/cm、又は3×1016atoms/cmのそれぞれより大きくてもよい。領域14bにおけるCの濃度は、例えば4×1016atoms/cm、4.5×1016atoms/cm、又は5×1016atoms/cmのそれぞれより大きくてもよい。領域14bにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値は、例えば1×1016atoms/cm未満、0.8×1016atoms/cm未満、又は0.5×1016atoms/cm未満としてもよい。
【0070】
上記のような不純物濃度を有するチャネル層14を製造するためには、成長条件を調整すればよい。例えば図9(a)及び図9(b)において説明したように、領域14aの成長温度は、領域14bの成長温度より高いことが好ましい。成長温度を高めることにより、CのGaNへの取り込みを抑制することができる。またSi及びOのGaNへの取り込みが促進される。領域14aの成長温度を1200℃、領域14bの成長温度を1100℃としたが、成長温度は変更可能である。領域14aの成長温度が、領域14bの成長温度より40℃以上高いことが好ましい。成長温度の差は、例えば50℃以上、100℃以上、又は120℃以上としてもよい。
【0071】
領域14aと領域14bとを所望の組成とするためには、成長温度以外に、例えば成長レート、成長圧力、又は原料の量等を変更してもよい。成長レートの例を示す。
領域14aの成長レート:1.0μm/h
領域14bの成長レート:2.0μm/h
このように、領域14bの成長レートは領域14aの成長レートより大きい。これにより、領域14bにおけるCの濃度を、領域14aにおけるCの濃度より高くすることができる。また、領域14bにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値を、領域14aにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値よりも低くすることができる。特に、領域14bの成長レートが、領域14aの成長レートの1.5倍以上であることが好ましい。成長レートの比は、例えば1.8倍以上又は2倍以上でもよい。
【0072】
成長圧力の例を示す。
領域14aの成長圧力:300torr(39.99kPa)
領域14bの成長圧力:150torr(19.99kPa)
このように、領域14aの成長圧力は、領域14bの成長圧力より高い。これにより、領域14bにおけるCの濃度を、領域14aにおけるCの濃度より高くすることができる。特に、領域14aの成長圧力が、領域14bの成長圧力より、13.33kPa(100torr)以上高いことが好ましい。成長圧力の差は、例えば150torr以上、又は200torr以上でもよい。
【0073】
NHの流量比の例を示す。流量比とは、原料となる全ガスの流量に対する、NHの流量の比である。
領域14aを設ける工程におけるNHの流量比:2000
領域14bを設ける工程におけるNHの流量比:4000
このように、領域14aを設ける工程におけるNHの流量比は、領域14bを設ける工程におけるNHの流量比よりも大きくする。これにより、領域14bにおけるCの濃度を、領域14aにおけるCの濃度より高くすることができる。領域14aを設ける工程におけるNHの流量比は、領域14bを設ける工程におけるNHの流量比の1.5倍以上とすることが好ましい。
【0074】
実施例1では、領域14aと領域14bとの間において、Cの濃度、及びSiの濃度とOの濃度の合計値、の両方を異ならせた。構成はこれに限定されない。例えばチャネル層14は、領域14bにおけるCの濃度が領域14aにおけるCの濃度より高い、及び領域14bにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値が領域14aにおけるSiの濃度とOの濃度との合計値よりも小さい、の少なくとも一方の構成を有してもよい。また実施例1では、成長温度、成長レート、成長圧力及びNHの流量比を、それぞれ独立して調整する例を説明した。成長温度、成長レート、成長圧力及びNHの流量比の全て、又は2つ以上の条件を変更して、チャネル層14を成長させてもよい。電子供給層16上に、例えばGaN等の窒化物半導体からなるキャップ層を設け、キャップ層上に各電極を設けてもよい。
【0075】
また、チャネル層14の組成が、領域14aと領域14bとの間で離散的に変化する例を説明したが、構成はこれに限定されない。例えばチャネル層14の組成が連続的に変化してもよい。具体的には、チャネル層14のバッファ層12側から電子供給層16側にかけて、Cの濃度が連続的に高くなり、Siの濃度とOの濃度との合計値が連続的に小さくなるとしてもよい。領域14aと領域14bとで組成が異なり、かつ領域14aと領域14bの境界付近では組成が連続的に変化するとしてもよい。チャネル層14は、異なる組成を有する3つ以上の領域を含むとしてもよい。チャネル層14を設ける工程では、成長条件を連続的に変化させながらチャネル層14を成長させてもよい。3つ以上の異なる成長条件を用いてチャネル層14を成長させてもよい。
【実施例2】
【0076】
実施例2は、バッファ層12の不純物濃度を変更する例である。図11(a)は、実施例2に係るHEMTを例示する断面図である。図1(a)及び図6(a)において既述した構成については、説明を省略する。
【0077】
図11(a)に示すように、実施例2に係るHEMT200は、基板10、バッファ層12、チャネル層14、電子供給層16、ソース電極20、ドレイン電極22、ゲート電極24及び保護層26を備える。
【0078】
バッファ層12は、AlNからなる。バッファ層12のCの濃度は2×1019atoms/cm以下である。バッファ層12のSiの濃度は、例えば5×1017atoms/cmである。また、バッファ層12のSiの濃度とOの濃度との合計値は、2×1017atoms/cm以上である。このように、バッファ層12においては、アクセプタとなる不純物の濃度が低く、ドナーとなる不純物の濃度が高い。従って、バッファ層12は低抵抗化する。
【0079】
バンド構造について説明する。図11(b)は、実施例2に係るHEMTのバンド構造を例示する模式図である。
【0080】
図11(b)に示すように、バッファ層12のコンダクションバンドのエネルギーはEb2である。Eb2は、実施例1におけるエネルギーEb1より低い。バッファ層12のエネルギーの低下により、チャネル層14のバッファ層12側の領域14aにおいて、コンダクションバンドは下げられる。言い換えれば領域14aにおいて、Ec−Efは小さくなる。このため、トラップのエネルギーEtはフェルミエネルギーEcより小さくなる。この結果、電子のトラップへの捕獲は抑制される。その一方、領域14bにおいて、Ec−Efは高く維持される。このため、電子が障壁を乗り越えることは抑制される。
【0081】
次に実施例2に係るHEMT200の製造方法について説明する。図12(a)及び図12(b)は、実施例2に係るHEMTの製造方法を例示する断面図である。実施例1において既述した構成については説明を省略する。
【0082】
図12(a)に示すように、MOCVD法により、基板10上に、厚さ25nmのAlNからなるバッファ層12をエピタキシャル成長させる。成長条件を以下に示す。
成長温度:1100℃
成長圧力:20kPa
成長レート:0.5μm/h以下
原料:TMA、TMG、NH、SiH(シラン)
原料に含まれるSiHがドーパントとなり、SiがドープされたAlNからなるバッファ層12が形成される。バッファ層12のSiの濃度は、例えば5×1017atoms/cmである。
【0083】
図12(b)に示すように、MOCVD法により、バッファ層12上に、厚さ1200nmのGaNからなるチャネル層14をエピタキシャル成長させる。チャネル層14を設ける工程は、領域によって異なる成長条件を用いるものではなく、チャネル層14全体において同一の成長条件を用いる。成長条件を以下に示す。
成長温度:1100℃
成長圧力:20kPa
成長レート:0.3μm/sec
原料:TMG、NH
TMGの流量:90μmol/min
NHの流量:0.9mol/min
【0084】
実施例2に係るHEMT200は、SiCからなる基板10と、AlNからなるバッファ層12と、GaNからなるチャネル層14と、AlGaNからなる電子供給層16と、ソース電極20と、ドレイン電極22と、ゲート電極24と、を備える。バッファ層12のCの濃度は2×1019atoms/cm以下である。また、バッファ層12のSiの濃度とOの濃度との合計値は、2×1017atoms/cm以上である。バッファ層12において、アクセプタ濃度−ドナー濃度は小さい。従って、バッファ層12は低抵抗化する。このため、バッファ層12のコンダクションバンドのエネルギーはEb2に低下する。チャネル層14の領域14aにおいてEc−Efが低下する。このため、電子の捕獲が抑制される。また、領域14bには高い障壁が形成される。このため、実施例2によれば、電流の変動を抑制し、かつピンチオフ特性を確保することができる。
【0085】
バッファ層12のCの濃度は、例えば1.5×1019atoms/cm以下、又は1×1019atoms/cm以下でもよい。バッファ層12のCの濃度は、2×1019atoms/cm未満、1.5×1019atoms/cm未満、又は1×1019atoms/cm未満でもよい。また、バッファ層12のSiの濃度とOの濃度との合計値は、例えば2.5×1017atoms/cm以上、又は3×1017atoms/cm以上でもよい。バッファ層12のSiの濃度とOの濃度との合計値は、2×1017atoms/cm、2.5×1017atoms/cm、又は3×1017atoms/cm、のそれぞれより大きくてもよい。バッファ層12は、例えばCの濃度が2×1019atoms/cm以下、及びSiの濃度とOの濃度との合計値が2×1017atoms/cm以上、の少なくとも一方の構成を有してもよい。
【0086】
低抵抗化したバッファ層12を形成するためには、バッファ層12の成長条件を調整すればよい。成長温度が高い方が、AlNへのCの取り込みは抑制される。また成長レートが小さいほど、AlNへのCの取り込みは抑制される。成長温度を1100℃、成長レートを0.5μm/h以下、原料にSiHを含めればよい。また、ジシラン(Si)等、SiH以外のSiを含む原料ガスを用いてもよい。成長温度は1050℃以上とすることができ、例えば1150℃以上、1200℃以上としてもよい。また成長温度は1050℃、1100℃、1150℃、又は1200℃より大きくてもよい。成長レートは0.5μm/h以下としたが、0.4μm/h以下、又は0.3μm/h以下としてもよい。また成長レートは、0.5μm/h未満、0.4μm/h未満、又は0.3μm/h未満としてもよい。
【0087】
実施例1と実施例2とを組み合わせてもよい。つまり、チャネル層14の領域14aを高抵抗化、領域14bを低抵抗化し、かつバッファ層12を低抵抗化してもよい。またHEMTの製造工程において、図10(a)において説明した成長条件によりバッファ層12を設け、かつ図9(b)及び図9(c)において説明した成長条件により領域14aと領域14bとを設けてもよい。
【0088】
電子供給層16は、AlGaNからなるとしたが、AlGaN以外の窒化物半導体からなるとしてもよい。窒化物半導体とは、窒素(N)を含む半導体であり、例えば窒化インジウムアルミニウム(InAlN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化インジウム(InN)、及び窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等がある。電子供給層16は、窒化物半導体のうち、InAlN、AlInGaN等からなるとしてもよい。
【0089】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0090】
10 基板
12 バッファ層
14 チャネル層
14a、14b 領域
16 電子供給層
20 ソース電極
22 ドレイン電極
24 ゲート電極
100、200 HEMT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化シリコンからなる基板と、
前記基板上に設けられ、窒化アルミニウムからなるバッファ層と、
前記バッファ層上に設けられ、窒化ガリウムからなるチャネル層と、
前記チャネル層上に設けられ、窒化物半導体からなる電子供給層と、
前記電子供給層上に設けられたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、を具備し、
前記チャネル層の前記電子供給層側の領域における炭素の濃度は、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域における炭素の濃度より高いことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記チャネル層の前記電子供給層側の領域における炭素の濃度は4×1016atoms/cm以上であり、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域における炭素の濃度は2×1016atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
炭化シリコンからなる基板と、
前記基板上に設けられ、窒化アルミニウムからなるバッファ層と、
前記バッファ層上に設けられ、窒化ガリウムからなるチャネル層と、
前記チャネル層上に設けられ、窒化物半導体からなる電子供給層と、
前記電子供給層上に設けられたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、を具備し、
前記チャネル層の前記電子供給層側の領域におけるシリコンの濃度と酸素の濃度との合計値は、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域におけるシリコンの濃度と酸素の濃度との合計値より小さいことを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
前記チャネル層の前記電子供給層側の領域におけるシリコンの濃度と酸素の濃度との合計値は1×1016atoms/cm以下であり、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域におけるシリコンの濃度と酸素の濃度との合計値は2×1016atoms/cm以上であることを特徴とする請求項3記載の半導体装置。
【請求項5】
炭化シリコンからなる基板と、
前記基板上に設けられ、窒化アルミニウムからなるバッファ層と、
前記バッファ層上に設けられ、窒化ガリウムからなるチャネル層と、
前記チャネル層上に設けられ、窒化物半導体からなる電子供給層と、
前記電子供給層上に設けられたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、を具備し、
前記バッファ層の炭素の濃度は2×1019atoms/cm以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
炭化シリコンからなる基板と、
前記基板上に設けられ、窒化アルミニウムからなるバッファ層と、
前記バッファ層上に設けられ、窒化ガリウムからなるチャネル層と、
前記チャネル層上に設けられ、窒化物半導体からなる電子供給層と、
前記電子供給層上に設けられたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極と、を具備し、
前記バッファ層の酸素の濃度とシリコンの濃度との合計値は2×1017atoms/cm以上であることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
窒化シリコンからなる基板上に、窒化アルミニウムからなるバッファ層を設ける工程と、
MOCVD法により、前記バッファ層上に、窒化ガリウムからなるチャネル層を設ける工程と、
前記チャネル層上に、窒化物半導体からなる電子供給層を設ける工程と、
前記電子供給層上に、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を設ける工程と、を有し、
前記チャネル層の前記バッファ層側の領域の成長温度は、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域の成長温度よりも高いことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記チャネル層の前記バッファ層側の領域の成長温度は、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域の成長温度よりも40℃以上高いことを特徴とする請求項7記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
窒化シリコンからなる基板上に、窒化アルミニウムからなるバッファ層を設ける工程と、
MOCVD法により、前記バッファ層上に、窒化ガリウムからなるチャネル層を設ける工程と、
前記チャネル層上に、窒化物半導体からなる電子供給層を設ける工程と、
前記電子供給層上に、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を設ける工程と、を有し、
前記チャネル層の前記電子供給層側の領域の成長レートは、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域の成長レートより大きいことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記チャネル層の前記電子供給層側の領域の成長レートは、前記チャネル層の前記バッファ層側の領域の成長レートの1.5倍以上であることを特徴とする請求項9記載の半導体装置の成長方法。
【請求項11】
窒化シリコンからなる基板上に、窒化アルミニウムからなるバッファ層を設ける工程と、
MOCVD法により、前記バッファ層上に、窒化ガリウムからなるチャネル層を設ける工程と、
前記チャネル層上に、窒化物半導体からなる電子供給層を設ける工程と、
前記電子供給層上に、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を設ける工程と、を有し、
前記チャネル層の前記バッファ層側の領域の成長圧力は、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域の成長圧力より高いことを特徴とする半導体装置の成長方法。
【請求項12】
前記チャネル層の前記バッファ層側の領域の成長圧力は、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域の成長圧力より13.33kPa以上高いことを特徴とする請求項11記載の半導体装置の成長方法。
【請求項13】
窒化シリコンからなる基板上に、窒化アルミニウムからなるバッファ層を設ける工程と、
原料にアンモニアを含むMOCVD法により、前記バッファ層上に、窒化ガリウムからなるチャネル層を設ける工程と、
前記チャネル層上に、窒化物半導体からなる電子供給層を設ける工程と、
前記電子供給層上に、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を設ける工程と、を有し、
前記チャネル層の前記バッファ層側の領域を設ける工程におけるアンモニアの流量比は、前記チャネル層の前記電子供給層側の領域を設ける工程におけるアンモニアの流量比より大きいことを特徴とする半導体装置の成長方法。
【請求項14】
シリコンを含む原料ガスを用いるMOCVD法により、窒化シリコンからなる基板上に、窒化アルミニウムからなるバッファ層を設ける工程と、
前記バッファ層上に、窒化ガリウムからなるチャネル層を設ける工程と、
前記チャネル層上に、窒化物半導体からなる電子供給層を設ける工程と、
前記電子供給層上に、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を設ける工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項15】
MOCVD法により、窒化シリコンからなる基板上に、窒化アルミニウムからなるバッファ層を設ける工程と、
前記バッファ層上に、窒化ガリウムからなるチャネル層を設ける工程と、
前記チャネル層上に、窒化物半導体からなる電子供給層を設ける工程と、
前記電子供給層上に、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を設ける工程と、を有し、
前記バッファ層の成長レートは0.5μm/h以下であることを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−69772(P2013−69772A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206120(P2011−206120)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】