説明

半導体装置の製造方法

【課題】前工程においてトランジスタごとに不純物の種類や量を変えることによる、製造コストや製造時間の増大を抑制する。
【解決手段】本発明による半導体装置の製造方法は、第1の閾値電圧及び第1のドレイン・ソース間電流を呈するようなデバイスパラメータをもって設計された第1のトランジスタを含む半導体回路を形成する半導体回路形成工程(ステップS11)と、第1のトランジスタにストレス電圧を印加して第1の閾値電圧とは異なる第2の閾値電圧及び前記第1のドレイン・ソース間電流とは異なる第2のドレイン・ソース間電流の少なくとも一方を第1のトランジスタが呈するようにする特性制御工程(ステップS14)と、第1のトランジスタが第2の閾値電圧及び第2のドレイン・ソース間電流の少なくとも一方を呈する状態で出荷する出荷工程(ステップS16)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置の製造方法に関し、特に、多様なトランジスタを有する半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造プロセスは、大きく分けて、拡散工程及びウェハ試験工程からなる前工程と、組立・仕上工程及び試験工程からなる後工程とに分けられる。前工程には、半導体基板上に薄膜を堆積し、所望の形状に加工する工程や、半導体基板や堆積した薄膜に不純物を注入する工程が含まれる。前工程が終了すると、ウェハ状態の半導体装置が完成する。後工程では、前工程を経たウェハのダイシング、及びダイシングによって個片化されたチップのパッケージングが行われ、さらにパッケージ化された半導体装置の試験も行われる。この試験で良品と判断された半導体装置は出荷される。
【0003】
特許文献1には、後工程で行われる試験の一種であるバーンインテストに関する技術が開示されている。バーンインテストは、出荷後の通常動作中に不良となる可能性が高い部位を事前に発見することを目的とするもので、半導体装置の内部回路にストレス電圧を印加し、その結果から半導体装置の不良を検出するテストである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−262798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の半導体装置ではトランジスタの役割が多様化しており、それに応じて、トランジスタに求められる閾値電圧Vthやドレイン・ソース間電流Idsの値も多様化している。このように多様な値は、従来、前工程において、チャネル部分に注入する不純物の種類や量をトランジスタごとに変えることによって実現されている。
【0006】
しかしながら、前工程においてトランジスタごとに不純物の種類や量を変えることは、製造コストや製造時間を増大させる原因となる。そこで、これらの増大を抑制するための対策が求められている。
【0007】
また、トランジスタの閾値電圧Vthやドレイン・ソース間電流Idsの絶対値は、経年変化により次第に大きくなることが知られている。このような変化は半導体装置の設計を困難にするので、変化を抑制するための対策が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面による半導体装置の製造方法は、第1の閾値電圧及び第1のドレイン・ソース間電流を呈するようなデバイスパラメータをもって設計された第1のトランジスタを含む半導体回路を形成する半導体回路形成工程と、前記第1のトランジスタにストレス電圧を印加して前記第1の閾値電圧とは異なる第2の閾値電圧及び前記第1のドレイン・ソース間電流とは異なる第2のドレイン・ソース間電流の少なくとも一方を前記第1のトランジスタが呈するようにする特性制御工程と、前記第1のトランジスタが前記第2の閾値電圧及び前記第2のドレイン・ソース間電流の少なくとも一方を呈する状態で出荷する出荷工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の他の一側面による半導体装置の製造方法は、所定の特性が互いに同一となるよう設計された第1及び第2のトランジスタを含む半導体回路を形成する半導体回路形成工程と、前記第1のトランジスタに対して第1のストレス電圧を印加して、前記第1及び第2のトランジスタの前記所定の特性を互いに異ならせる特性制御工程と、前記第1及び第2のトランジスタの両方に対して第2のストレス電圧を印加することによりバーンインテストを行う試験工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体回路形成工程において同一種類の不純物を同一量チャネル部分に注入したトランジスタの特性を、特性制御工程によって互いに異ならせることができる。したがって、製造コストの低減や製造時間の短縮を実現できる。
【0011】
また、ストレス電圧の印加によって特性を制御することは経年変化を疑似的に発生させることでもあるので、経年変化を飽和状態に近づけ、出荷後の経年変化を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)及び(b)はそれぞれ、Nチャンネル型MOSトランジスタ及びPチャンネル型MOSトランジスタを示す図である。
【図2】式(1)においてn=0.5、A=10−5とした場合の閾値電圧変化量の時間変化をプロットした図である。
【図3】閾値電圧変化量の時間変化の具体的な例を示す図である。
【図4】(a)及び(b)は、本発明の好ましい実施の形態による半導体装置の製造方法の処理フローを示す図である。
【図5】印加時間を200秒とした場合の、Nチャンネル型MOSトランジスタのドレイン・ソース間電圧と閾値電圧変化量の関係を示す図である。
【図6】印加時間を200秒とした場合の、Pチャンネル型MOSトランジスタのゲート・ソース間電圧と閾値電圧変化量の関係を示す図である。
【図7】本発明の好ましい実施の形態による半導体装置の製造方法に対応する半導体装置の回路構成を示す図である。
【図8】本発明の好ましい実施の形態による半導体装置の製造方法に対応する半導体装置の変形例を示す図である。
【図9】本発明の好ましい実施の形態による半導体装置の製造方法に対応する半導体装置の他の変形例を示す図である。
【図10】本発明の好ましい実施の形態による半導体装置の製造方法に対応する半導体回路を複数個備える半導体装置の回路構成を示す図である。
【図11】式(2)に示される、ドレイン・ソース間電流の正規化変化量の時間変化の一例をプロットした図である。
【図12】トランジスタに一般的な動作電圧を印加し続けたと仮定した場合の、ドレイン・ソース間電流の正規化変化量の時間変化の一例を示す図である。
【図13】図1(a)に示したNチャンネル型MOSトランジスタについて、印加時間を200秒とした場合の、ドレイン・ソース間電圧とドレイン・ソース間電流の正規化変化量との関係を示す図である。
【図14】図1(a)に示したNチャンネル型MOSトランジスタについて、ドレイン・ソース間電圧を2.0[V]とした場合の、ドレイン・ソース間電流の正規化変化量の時間変化を示す図である。
【図15】図1(b)に示したPチャンネル型MOSトランジスタについて、印加時間を200秒とした場合の、ゲート・ソース間電圧とドレイン・ソース間電流の正規化変化量との関係を示す図である。
【図16】図1(b)に示したNチャンネル型MOSトランジスタについて、ゲート・ソース間電圧を−2.4[V]とした場合の、ドレイン・ソース間電流の正規化変化量の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。以下の説明では、まず初めに、図1〜図6を参照しながら、本実施の形態による半導体装置の製造方法の原理並びに処理フローについて、説明する。その後、本実施の形態による半導体装置の製造方法に対応する半導体装置の具体例を挙げる。
【0014】
図1(a)及び(b)はそれぞれ、Nチャンネル型MOSトランジスタ10及びPチャンネル型MOSトランジスタ10を示している。以下の説明では、同図に示すように、トランジスタ10のドレイン・ソース間電圧及びゲート・ソース間電圧をそれぞれVNds,VNgsと表し、トランジスタ10のドレイン・ソース間電圧及びゲート・ソース間電圧をそれぞれVPds,VPgsと表す。また、各トランジスタのドレイン・ソース間電流をIdsと表す。本発明はNチャンネル型MOSトランジスタ10、Pチャンネル型MOSトランジスタ10のいずれにも適用可能であるが、以下では、Nチャンネル型MOSトランジスタ10を例にとって説明する。
【0015】
トランジスタ10は、使用に伴って閾値電圧Vthの絶対値が大きくなっていくという性質を有する。これはホットキャリア劣化と呼ばれるもので、閾値電圧Vthと時間tとの間に次の式(1)の関係が成り立つことが知られている。ただし、式(1)中のΔVthは、閾値電圧Vthの初期値Vth0からの変化量の絶対値(=|Vth−Vth0|)である。また、nは0より大きく1より小さい実数である。したがって、tの対時間増加率は、時間の経過に伴って次第に小さくなる。また、Aは、少なくともトランジスタ10のドレイン・ソース間電圧VNds、ゲート・ソース間電圧VNgs、及びチャネル長によって決まる定数である。Aは、ドレイン・ソース間電圧VNdsに比例する。
【0016】
【数1】

【0017】
図2は、式(1)においてn=0.5、A=10−5とした場合の変化量ΔVthの時間変化をプロットした図である。同図では、縦軸・横軸をともに対数軸としている。
【0018】
式(1)及び図2から理解されるように、変化量ΔVthは、ドレイン・ソース間電圧VNdsが一定であるという条件の下では、時間のn乗に比例して増加する。一度大きくなった変化量ΔVthは、その後ドレイン・ソース間電圧VNdsがゼロとなっても、再び小さくなることはない。また、定数Aがドレイン・ソース間電圧VNdsに比例することから、図2にも示すように、変化量ΔVthは、ドレイン・ソース間電圧VNdsが大きいほど大きい値となる。
【0019】
以上のようなホットキャリア劣化は、Nチャンネル型MOSトランジスタの設計を難しくすることから、一般には好ましくない特性であるとされている。しかし、本実施の形態による半導体装置の製造方法では、この性質を積極的に利用し、多様な閾値電圧Vthを有するトランジスタを実現する。
【0020】
具体的な例を挙げて説明する。図3は、変化量ΔVthの時間変化の具体的な例を示す図である。同図に示すように、この例では、2.0[V]のドレイン・ソース間電圧VNdsが20秒間印加された場合、閾値電圧Vthは0.01[V]上昇する(ΔVth=0.01[V]。ポイントA)。また、2.0[V]のドレイン・ソース間電圧VNdsが130秒間印加された場合、閾値電圧Vthは0.05[V]上昇する(ΔVth=0.05V。ポイントB)。また、2.5[V]のドレイン・ソース間電圧VNdsが35秒間印加された場合、閾値電圧Vthは0.1[V]上昇する(ΔVth=0.1[V]。ポイントC)。
【0021】
逆に言えば、2.0[V]のドレイン・ソース間電圧VNdsを20秒間印加すれば、閾値電圧Vthを0.01[V]上昇させることができる。同様に、2.0[V]のドレイン・ソース間電圧VNdsを130秒間印加すれば、閾値電圧Vthを0.05[V]上昇させることができ、2.5[V]のドレイン・ソース間電圧VNdsを35秒間印加すれば、閾値電圧Vthを0.1[V]上昇させることができる。
【0022】
本実施の形態では、初めにある一定の閾値電圧Vth0で複数のトランジスタを形成する。そして、トランジスタごとに、閾値電圧Vthの目標値に応じたドレイン・ソース間電圧VNds(ストレス電圧Vstress)を、目標値に応じた時間(印加時間tstress)だけ与える。これにより、多様な閾値電圧Vthを実現する。
【0023】
図4(a)及び(b)は、本実施の形態による半導体装置の製造方法の処理フローを示す図である。
【0024】
まず初めに、事前準備として、図4(a)に示すように、特性(ここでは閾値電圧Vth)の目標値ごとに、ストレス電圧Vstress(ドレイン・ソース間電圧VNds)とその印加時間tstressを決定する(ステップS1)。具体的な例を図3に即して説明すると、次の表1のようになる。
【0025】
【表1】

【0026】
ステップS1の処理を行うにあたっては、本実施の形態による処理のターゲットとなるトランジスタ10と同一のデバイスパラメータ(構成薄膜の導電型(P型又はN型)、チャネル部分及びソース・ドレイン領域に注入する不純物の種類及び量、チャネル長、ゲート幅、ゲート膜厚など)で設計したサンプルトランジスタを複数作成することが好ましい。そして、それぞれに異なるドレイン・ソース間電圧VNdsを与えて図3に示すようなグラフを作成し、このグラフからストレス電圧Vstressと印加時間tstressを決定することが好ましい。
【0027】
或いは、印加時間tstressを先に決めてもよい。この場合、複数のサンプルトランジスタに、先に決定した印加時間tstressにわたってそれぞれ異なるドレイン・ソース間電圧VNdsを与え、その結果からストレス電圧Vstressを決定することが好ましい。
【0028】
図5は、印加時間tstressを200秒とした場合の、ドレイン・ソース間電圧VNdsと変化量ΔVthの関係を示す図である。この例では、ゲート・ソース間電圧VNgsを1.5[V]としている。同図から、印加時間tstressを200秒とする前提の下で例えば閾値電圧Vthの目標値をVth0+0.1[V](変化量ΔVth=0.1[V])に設定するのであれば、ストレス電圧Vstress(ドレイン・ソース間電圧VNds)を1/0.5=2.0[V]とすればよいことが理解される。
【0029】
なお、ストレス電圧Vstressと印加時間tstressを決定するにあたっては、トランジスタ10のゲート・ソース間電圧VNgs及び動作温度を予め決定しておくことが好ましい。トランジスタ10のドレイン−ソース間の抵抗はゲート・ソース間電圧VNgs及び動作温度によって大きく異なるため、実質的なドレイン・ソース間電圧VNdsがゲート・ソース間電圧VNgs及び動作温度に大きく依存するからである。
【0030】
また、半導体装置内に含まれるトランジスタ間での閾値電圧Vthの差がある程度以上大きい場合には、出発点としての閾値電圧の初期値Vth0を異ならせてもよい。この場合、ストレス電圧Vstress及び印加時間tstressは、初期値Vth0ごとに決定することが好ましい。
【0031】
さらに、所望の目標特性を得るためのストレス電圧Vstress及び印加時間tstressは、チャネル長、ゲート幅、ゲート膜厚、ソース・ドレイン領域に注入する不純物の種類及び量など、チャネル部分に注入する不純物の種類及び量以外のデバイスパラメータによっても異なる場合がある。そのような場合、ストレス電圧Vstress及び印加時間tstressは、これらのデバイスパラメータの組み合わせごとに決定することが好ましい。
【0032】
次に、製造段階での処理について、図4(b)を参照しながら説明する。製造段階では、まず初めに、シリコン基板上に半導体回路を形成する(半導体回路形成工程。ステップS11)。具体的な例を挙げると、製造する半導体装置がDRAM(Dynamic Random Access Memory)である場合、ここで形成する半導体回路には、メモリセルアレイやその周辺回路が含まれる。
【0033】
半導体回路内には多数のトランジスタが含まれるが、用途によって求められる閾値電圧Vth(目標値。第2の閾値電圧)はまちまちである。しかし、半導体回路形成工程では、これらのトランジスタを同一のデバイスパラメータをもって設計する。具体的には、閾値電圧Vthが共通の初期値Vth0(第1の閾値電圧)を呈するようなデバイスパラメータをもって設計する。これは、各トランジスタのチャネル部分に注入する不純物の種類及び量を互いに同一とすることで実現できる。これにより、形成された各トランジスタの閾値電圧Vthは、互いに同一の初期値Vth0となる。初期値Vth0は、各トランジスタの目標値より小さい値とする。ホットキャリア劣化による閾値電圧Vthの変化は、上昇のみであるからである。
【0034】
なお、半導体回路に含まれるすべてのトランジスタの初期値Vth0を、ステップS11の段階で必ずしも同一にしなければならないわけではない。上述したように、トランジスタ間での閾値電圧Vthの差がある程度以上大きい場合には、初期値Vth0を異ならせてもよい。また、トランジスタのチャネル長、ゲート幅、ゲート膜厚、ソース・ドレイン領域に注入する不純物の種類及び量などの各種デバイスパラメータについても、トランジスタごとに異なっていてもよい。これらの場合、上述したように、ステップS1の処理の際、初期値Vth0を含むデバイスパラメータの組み合わせごとに、ストレス電圧Vstress及び印加時間tstressを決定しておけばよい。
【0035】
シリコン基板上に半導体回路を形成したら、次にウェハ試験を実施し(ステップS12)、その後、組立・仕上工程を実施する(ステップS13)。組立・仕上工程には、ウェハのダイシング、及びダイシングによって個片化されたチップのパッケージングなどが含まれる。
【0036】
次に、テスタを用いて、形成した半導体回路内の各トランジスタに対して選択的に、ステップS1の処理で決定したストレス電圧Vstressを、決定した印加時間tstressにわたって印加する(特性制御工程。ステップS14)。この印加は、トランジスタごとに行ってもよいし、特性の目標値が互いに同一である複数のトランジスタ(トランジスタグループ)ごとに行うこととしてもよい。この工程により各トランジスタの特性が制御され、各トランジスタは、それぞれの目標値(第2の閾値電圧)に等しい閾値電圧Vthを呈するようになる。
【0037】
次に、半導体回路の試験工程を行う(ステップS15)。試験工程では、通常どおりのバーンインテストを含む各種の試験を行う。バーンインテストでは、各トランジスタにストレス電圧を与えることで、出荷後の通常動作中に不良となる可能性が高い部位を発見する。ここで与えられるストレス電圧は、半導体回路内の各トランジスタに対して一斉に与えられる点、及び印加時間が極めて短く、実質的に閾値電圧Vthに影響を及ぼさない点で、特性制御工程のストレス電圧とは全く異なっている。
【0038】
試験工程において良品と判定された半導体装置は、梱包のうえ出荷される(ステップS16)。この出荷の時点において、半導体装置内の各トランジスタはそれぞれの目標値(第2の閾値電圧)に等しい閾値電圧Vthを呈する。出荷された半導体装置は他の工場に運ばれ、そこで必要に応じてモジュール化される。一方、試験工程において不良品と判定された半導体装置は廃棄される(ステップS17)。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態による半導体装置の製造方法によれば、半導体回路形成工程において同一種類の不純物を同一量チャネル部分に注入したトランジスタの特性を、特性制御工程によって互いに異ならせることができる。したがって、製造コストの低減や製造時間の短縮を実現できる。
【0040】
また、本実施の形態による半導体装置の製造方法によれば、閾値電圧Vthの経年変化を抑制することも可能になる。以下、詳しく説明する。
【0041】
初めに、経年変化について説明する。特性制御工程において印加するストレス電圧は、半導体回路を通常動作させる場合のドレイン・ソース間電圧VNdsに比べて相当大きい値である。本実施の形態において、短時間で閾値電圧Vthを目立って変化させられるのは、極めて大きい値のストレス電圧をトランジスタに印加しているからである。通常動作中は、ドレイン・ソース間電圧VNdsが小さいため、このようにドラスティックな変化は現れない。しかしながら、通常動作中においても閾値電圧Vthは少しずつ変化する。これが、上記経年変化である。
【0042】
ここで、式(1)において0<n<1であることからも明らかなように、閾値電圧Vthの対時間増加率は、変化量ΔVthが大きくなるにつれて次第に小さくなっていく(飽和していく)。逆に言えば、初めから変化量ΔVthが大きければ、そこからの変化は変化量ΔVthが0である状態からの変化に比べて小さくなる。
【0043】
本実施の形態による半導体装置の製造方法では、特性制御工程において、変化量ΔVthを0より大きくしている。別の言い方をすれば、経年変化を疑似的に発生させている。したがって、特性制御工程を経たトランジスタの経年変化は、特性制御工程を経ないトランジスタのそれに比べて小さくなる。つまり、出荷後の経年変化が抑制される。
【0044】
ここまで、Nチャンネル型MOSトランジスタであるトランジスタ10(図1(a))に着目して説明してきたが、Pチャンネル型MOSトランジスタであるトランジスタ10(図1(b))についても、同様の特性制御工程によって同様の効果を得ることができる。ただし、Pチャンネル型MOSトランジスタでは、ホットキャリア劣化ではなく、NBTI(Negative Bias Temperature Instability)と呼ばれる現象を利用する。NBTIも、ホットキャリア劣化と同様、使用に伴ってトランジスタ10の閾値電圧Vthが大きくなっていくという現象である。NBTIは、変化量ΔVthが上記式(1)で表される点でホットキャリア劣化と共通している一方、定数Aが、ドレイン・ソース間電圧VPdsではなくゲート・ソース間電圧VPgsに比例するという点で、ホットキャリア劣化と相違している。このため、トランジスタ10の閾値電圧Vthを制御するためのストレス電圧Vstressは、ドレイン・ソース間電圧VPdsではなくゲート・ソース間電圧VPgsとなる。
【0045】
図6は、印加時間tstressを200秒とした場合の、ゲート・ソース間電圧VPgsと変化量ΔVthの関係を示す図である。ドレイン・ソース間電圧VPdsは0[V]としている。同図と図5を比較すると理解されるように、トランジスタ10(図5)とトランジスタ10(図6)とでは、横軸に示すストレス電圧の種類及びその符号が異なる他は、同様の特性が示される。図6から、印加時間tstressを200秒とする前提の下で例えば閾値電圧Vthの目標値をVth0+0.1[V]に設定するのであれば、ストレス電圧Vstress(ゲート・ソース間電圧VPgs)を1/(−0.42)≒−2.4[V]とすればよいことが理解される。
【0046】
また、本実施の形態による半導体装置の製造方法によれば、トランジスタ10,10のドレイン・ソース間電流Idsについても、閾値電圧Vthと同様に制御することが可能である。この点については、後ほどまとめて説明する。
【0047】
図7は、本実施の形態による半導体装置の製造方法に対応する半導体装置1の回路構成を示す図である。同図に示すように、半導体装置1は、トランジスタ10,10(第1のトランジスタ)からなるCMOS10−1を有する半導体回路2を備える。具体的な例を挙げると、半導体装置1は例えばDRAMであり、CMOS10−1は例えばワード線を制御するためのワードドライバである。半導体回路2は、これらトランジスタ10,10の閾値電圧Vthを、上述した特性制御工程において制御できるように構成されている。
【0048】
半導体回路2は、図7に示すように、CMOS10−1の他、それぞれ第2のトランジスタ(Nチャンネル型MOSトランジスタ又はPチャンネル型トランジスタ若しくはその両方)を含む回路10−2,10−3を備えている。回路10−2,10−3の内部構成はどのようなものであっても構わないが、例えばCMOS10−1と同様のCMOSであってよい。以下では、完成品としての回路10−2,10−3内部のNチャンネル型MOSトランジスタ及びPチャンネル型トランジスタはそれぞれ、トランジスタ10,10とは異なる閾値電圧Vthを有するものとして説明する。ただし一方で、それぞれのデバイスパラメータは、半導体回路形成工程の終了時点ではそれぞれトランジスタ10,10と同一の特性を有するよう、設計される。
【0049】
CMOS10−1、回路10−2,10−3はいずれも、グランド電位が供給されるグランド配線に接続されている。また、CMOS10−1の一方の被制御端子(トランジスタ10のソース)及び回路10−2は、グランド電位より高い電源電位VDDが供給される電源配線(Power Rail)PRに、共通に接続されている。回路10−3は、他の電源配線に接続されている。また、CMOS10−1の入出力端子及び回路10−3は、共通の信号配線SLに接続されている。CMOS10−1がワードドライバの一部である場合、信号配線SLはワード線である。
【0050】
電源配線PRのうちCMOS10−1と回路10−2との間の部分には、スイッチとしてのNチャンネル型MOSトランジスタ20が設けられる。図7ではトランジスタ20をNチャンネル型MOSトランジスタとしているが、他の種類のトランジスタであってもよい。トランジスタ20を設置する目的は、特性制御工程においてトランジスタ10の特性を制御するために後述するストレス電圧Vdstressを電源配線PRに印加する際、制御対象でない回路10−2にストレス電圧Vdstressが印加されないようにすることにある。したがって、トランジスタ20は、ストレス電圧Vdstress印加時にオフ(非導通)となり、それ以外のときにオン(導通)となる必要がある。このようなオンオフ制御は、外部(テスタ)からトランジスタ20のゲートに電圧VSEL1を供給することによって実現される。
【0051】
なお、図7では、トランジスタ20をもう1つ描いているが、これは、電源配線PRのうちCMOS10−1と図示しない他の回路との間の部分に設けられているものである。このように、トランジスタ20は複数設けられていてもよい。この場合、電圧VSEL1は各トランジスタ20のゲートに共通に供給される。
【0052】
信号配線SLのうちCMOS10−1と回路10−3との間の部分には、スイッチとしてのトランジスタ21が設けられる。図7ではトランジスタ21をNチャンネル型MOSトランジスタとしているが、他の種類のトランジスタであってもよい。トランジスタ21を設置する目的は、特性制御工程においてトランジスタ10の特性を制御するために後述するストレス電圧Vgstressを信号配線SLに印加する際、制御対象でない回路10−3にストレス電圧Vgstressが印加されないようにすることにある。したがって、トランジスタ21は、ストレス電圧Vgstress印加時にオフ(非導通)となり、それ以外のときにオン(導通)となる必要がある。このようなオンオフ制御は、外部(テスタ)からトランジスタ21のゲートに電圧VSEL2を供給することによって実現される。
【0053】
図示していないが、トランジスタ21についても、必要に応じ、複数設けてもよい。この場合、電圧VSEL2は各トランジスタ21のゲートに共通に供給される。
【0054】
なお、以上説明したトランジスタ20,21の代替として、アンチヒューズ素子を用いることも可能である。アンチヒューズ素子は、初期状態では非導通であり、一定以上の電圧をかけると非可逆的に導通する素子である。この場合、電圧VSEL1,VSEL2は、非導通状態のアンチヒューズ素子を導通させる目的で外部(テスタ)から供給される。
【0055】
電源配線PRのうちトランジスタ20とCMOS10−1の間の部分には、第1の電圧受入配線L1の一端が接続される。第1の電圧受入配線L1の他端には図示しないテストパッドが形成されており、このパッドを通じて、外部(テスタ)からストレス電圧Vdstressが供給される。第1の電圧受入配線L1の一端と他端の間には、スイッチ11が設けられる。
【0056】
同様に、信号配線SLのうちトランジスタ21とCMOS10−1の間の部分には、第2の電圧受入配線L2の一端が接続される。第2の電圧受入配線L2の他端には図示しないテストパッドが形成されており、このパッドを通じて、外部(テスタ)からストレス電圧Vgstressが供給される。第2の電圧受入配線L2の一端と他端の間には、スイッチ12が設けられる。
【0057】
図示していないが、スイッチ11,12も、トランジスタ20などと同様に、外部(テスタ)からオンオフ制御可能に構成される。具体的なスイッチ11,12としては、NチャンネルMOSトランジスタなどのトランジスタを用いてもよいし、ヒューズ素子を用いてもよい。ヒューズ素子は、初期状態では導通状態であり、一定以上の電圧をかけると非可逆的に非導通となる素子である。
【0058】
以下、以上説明した回路構成を有する半導体装置1において、トランジスタ10,10の閾値電圧Vthを制御する手順について、図4も再度参照しながら説明する。
【0059】
初めに、閾値電圧Vthの目標値に基づき、トランジスタ10,10に印加すべきストレス電圧Vstressとその印加時間tstressとを決定する(ステップS1)。決定方法の詳細は、上述したとおりである。そして、半導体基板上に、図7に示す半導体装置1を形成する(ステップS11)。この時点におけるトランジスタ10,10それぞれの閾値電圧Vth0の絶対値は、それぞれの目標値の絶対値を下回る値となる。半導体基板上に半導体装置1を形成した後には、ウェハ試験(ステップS12)及び組立・仕上工程(ステップS13)を順次行う。
【0060】
次に、トランジスタ10,10それぞれに対して、ステップS1で決定した印加時間tstressにわたって、ストレス電圧Vstressを印加する特性制御工程を実行する(ステップS14)。特性制御工程では、以下に詳しく説明するように、他の回路10−2,10−3にはストレス電圧Vstressは印加されず、トランジスタ10,10のみにストレス電圧Vstressが印加される。したがって、特性制御工程が完了すると、トランジスタ10の閾値電圧Vthと回路10−2,10−3内部のNチャンネル型MOSトランジスタの閾値電圧Vthとは互い異なる値となる。同様に、トランジスタ10の閾値電圧Vthと回路10−2,10−3内部のPチャンネル型MOSトランジスタの閾値電圧Vthとは互いに異なる値となる。
【0061】
以下、ステップS14(特性制御工程)における処理について、詳しく説明する。以下の説明ではトランジスタ10の処理を先に行うとして説明するが、トランジスタ10の処理を先に行うこととしてもよい。
【0062】
まず初めに、テスタから、電圧VSEL1,VSEL2をともに非活性(ロウ)とする。これにより、トランジスタ20,21がともに非導通となる。なお、トランジスタ20,21がアンチヒューズ素子である場合、この作業は不要である。そして、テスタから第1の電圧受入配線L1にストレス電圧Vdstressを印加し、さらにスイッチ11をオンとする。同時に、テスタから第2の電圧受入配線L2にストレス電圧Vgstressを印加し、さらにスイッチ12をオンとする。これにより、トランジスタ10のドレイン・ソース間電圧VNdsはVdstress−VPdsに等しくなる。VPdsは、トランジスタ10のドレイン・ソース間電圧である。
【0063】
ここで印加するストレス電圧Vdstress,Vgstressの具体的な値は、トランジスタ10のドレイン・ソース間電圧VNds=Vdstress−VPdsが、トランジスタ10について決定されたストレス電圧Vstressに等しくなるように決定する。実際には、サンプルトランジスタとして実際の回路と同様のCMOSを用い、適宜ストレス電圧Vdstress,Vgstressを調節しながら最適値を見つければよい。
【0064】
ストレス電圧Vdstress,Vgstressの最適値について、具体的な数値例を挙げて説明する。例えば、トランジスタ10に対するストレスとして、トランジスタ10に印加すべきストレス電圧Vstressとして2.0[V]が必要とすると、かかるストレス電圧はトランジスタ10を介して与えられることから、両トランジスタをオンとする必要がある。ここで、ストレス電圧Vgstressを1.5[V]とすると、トランジスタ10のゲート・ソース間電圧VNgsは1.5[V]となり、トランジスタ10のゲート・ソース間電圧VPgsおよびドレイン・ソース間電圧VPdsはそのドレイン電圧に依存する。その依存性は、トランジスタのデバイスパラメータに応じてシミュレーションにて得られる。例えば、トランジスタ10のゲート・ソース間電圧VPgsが−1.0[V]、すなわち、そのドレイン電圧が2.5[V]の下では、トランジスタ10のドレイン・ソース間電圧VPdsは0.5[V]となる。したがって、トランジスタ10のドレイン・ソース間電圧VNdsは2.0[V]となり、これは所望のストレス電圧と一致する。トランジスタ10のドレイン電圧はストレス電圧Vdstressと略同じであるので、ストレス電圧Vdstressは2.5[V]となる。
【0065】
なお、ストレス電圧Vgstressは、トランジスタ10,10がともにオン状態となる値とすることが好ましい。また、トランジスタ10のゲート・ソース間電圧VPgsがストレス電圧Vgstress,Vdstressの差Vgstress−Vdstressに等しくなることから、トランジスタ10の閾値電圧Vthに大きな影響を与えないよう、差Vgstress−Vdstressの絶対値があまり大きな値とならないようにすることが好ましい。
【0066】
スイッチ11をオンとしてから印加時間tstressが経過すると、トランジスタ10の閾値電圧Vthは目標値に等しくなる。ここまでの処理で、トランジスタ10の特性制御は終了する。
【0067】
次に、テスタから、ストレス電圧Vdstress,Vgstressを変更する。変更後のストレス電圧Vdstress,Vgstressの具体的な値は、トランジスタ10のゲート・ソース間電圧VPgs=Vgstress−Vdstressが、トランジスタ10について決定されたストレス電圧Vstressに等しくなるように決定する。
【0068】
より具体的には、Vdstressは0[V]とすればよい。この場合、VgstressをVstressと等しくすれば、トランジスタ10に適切なストレス電圧Vstressを印加することが可能になる。なお、このようにVdstressを0[V]とする場合、トランジスタ20はオンとしてもよい。電源配線PRを通じて他の回路10−2に0[V]が印加されても、特に問題は生じないからである。
【0069】
ストレス電圧Vdstress,Vgstressの最適値について、具体的な数値例を挙げて説明する。例えば図6に示した例で閾値電圧Vthの目標値をVth0+0.1[V](変化量ΔVth=0.1[V])に設定する場合、ステップS1で決定されるストレス電圧Vstressは−2.4[V]となる。これは、ストレス電圧Vdstressを0[V]、Vgstressを−2.4[V]とすれば実現できる。
【0070】
なお、同様のストレス電圧Vstress=−2.4[V]は、例えば、ストレス電圧Vdstressを2.4[V]、Vgstressを0[V]として実現してもよい。この場合、トランジスタ10がオフ状態となるので、信号配線SLの電圧が2.4[V]程度まで上昇する可能性がある。この電圧上昇を避ける必要がある場合、CMOS10−1の出力端子に、図8に示す例のようにトランジスタ22を追加し、トランジスタ20と同時にオンオフ制御することとしてもよい。
【0071】
また、図6では、ドレイン・ソース間電圧VPdsを0[V]としていた。こうすることは特性制御の観点からは必須ではないが、ドレイン・ソース間電圧VPdsの電圧が不定になることは好ましくないという観点に立てば、図9に示す例のように、第1の電圧受入配線L1と信号配線SLとを接続する配線L3を設けることも考えられる。配線L3の途中にスイッチ13を設け、トランジスタ10の特性制御時にオン、それ以外のときにオフとなるように制御することで、ドレイン・ソース間電圧VPdsを確実に0[V]とすることが可能になる。
【0072】
図4に戻る。特性制御工程(ステップS14)が終了したら、次に半導体回路の試験工程を行う(ステップS15)。試験工程の詳細は、上述したとおりである。バーンインテストで印加されるストレス電圧は、トランジスタ10,10だけでなく、他の回路10−2,10−3内のトランジスタにも印加される。
【0073】
試験工程(ステップS15)が終了したら、その結果に応じて、出荷(ステップS16)又は廃棄(ステップS17)の処理を行い、一連の工程を完了する。
【0074】
以上説明したように、本実施の形態による半導体装置1によれば、CMOSを構成するNチャンネル型MOSトランジスタ及びPチャンネル型MOSトランジスタそれぞれの特性を個別に制御することが可能になる。
【0075】
なお、上記実施の形態では1つの半導体回路2のみに着目して説明したが、半導体装置1が複数の半導体回路2を備える場合には、これら複数の半導体回路2に対してパラレルに特性制御工程を実行することも可能である。
【0076】
図10は、本実施の形態による半導体装置の製造方法に対応する半導体回路2を複数個備える半導体装置1の回路構成を示している。この半導体装置1では、同図に示すように、上述したストレス電圧Vdstress,Vgstress及び電圧VSEL1,VSEL2が、各半導体回路2にパラレルに供給される。半導体回路2内のスイッチ11〜13の制御信号についても、同様に各半導体回路2にパラレルに供給する(不図示)。これにより、各半導体回路2の内部のトランジスタに、選択的に、印加時間tstressにわたってストレス電圧Vstressを印加することが可能になる。
【0077】
以下、トランジスタ10,10のドレイン・ソース間電流Idsを制御対象とする例について、詳しく説明する。
【0078】
初めに、図1に示したトランジスタ10,10のドレイン・ソース間電流特性について説明する。ドレイン・ソース間電流Idsには、閾値電圧Vthとは逆に、使用に伴って小さくなっていくという性質がある。これも、NチャンネルMOSトランジスタではホットキャリア劣化、PチャンネルMOSトランジスタではNBTIによるものである。
【0079】
ドレイン・ソース間電流Idsとと時間tとの間には、次の式(2)の関係が成り立つ。ただし、式(2)中のΔIdsは、ドレイン・ソース間電流Idsの初期値Ids0からの変化量の絶対値(=|Ids−Ids0|)である。左辺のΔIds/Ids0は、変化量ΔIdsを初期値Ids0で正規化したものである。また、nは0より大きく1より小さい実数であり、Bは、式(3)で表される定数である。式(3)中のC,n,BBは、実験によって決まる定数である。Vdsは、トランジスタ10,10それぞれのドレイン・ソース間電圧である。
【0080】
【数2】

【0081】
図11は、式(2)に示される正規化変化量ΔIds/Ids0の時間変化の一例をプロットした図である。式(2)及び図11から理解されるように、正規化変化量ΔIds/Ids0は、閾値電圧Vthと同様の性質を有する。すなわち、正規化変化量ΔIds/Ids0は、時間のn乗に比例して増加する。また、正規化変化量ΔIds/Ids0の対時間増加率は、正規化変化量ΔIds/Ids0が大きくなるにつれて次第に小さくなる。
【0082】
したがって、ドレイン・ソース間電流Idsについても、閾値電圧Vthと同様の特性制御工程を行うことで上昇させることができ、半導体装置内に形成した複数のトランジスタの特性を、特性制御工程によって互いに異ならせることができる。また、ドレイン・ソース間電流Idsの経年変化を抑制することも可能になる。
【0083】
経年変化の抑制について、具体的な例を挙げて説明する。図12は、トランジスタに一般的な動作電圧を印加し続けたと仮定した場合の、正規化変化量ΔIds/Ids0の時間変化の一例を示している。同図に示すように、正規化変化量ΔIds/Ids0は、印加を開始してから約10年間で、0から0.180まで上昇している。これは、この10年間でドレイン・ソース間電流Idsが18%上昇したことを示している。一方、例えば図示したポイントD(正規化変化量ΔIds/Ids0=0.250)から10年間だと、正規化変化量ΔIds/Ids0の上昇は0.060(6%)に留まっている。したがって、製造時の特性制御工程によって正規化変化量ΔIds/Ids0を0.250まで上昇させておくことで、ドレイン・ソース間電流Idsの10年間の経年変化を12%抑制できることになる。
【0084】
図13は、図1(a)に示したトランジスタ10(Nチャンネル型MOSトランジスタ)について、印加時間tstressを200秒とした場合の、ドレイン・ソース間電圧VNdsと正規化変化量ΔIds/Ids0との関係を示す図である。また、図14は、トランジスタ10について、ドレイン・ソース間電圧VNdsを2.0[V]とした場合の、正規化変化量ΔIds/Ids0の時間変化を示す図である。いずれの図でも、ゲート・ソース間電圧VNgsは1.5[V]としている。これらの図から、例えば、印加時間tstressを200秒、ストレス電圧Vstressを2.0[V]とすれば、特性制御工程において、トランジスタ10のドレイン・ソース間電流IdsをIds−0.1Ids0まで引き下げられることが理解される。
【0085】
図15は、図1(b)に示したトランジスタ10(Pチャンネル型MOSトランジスタ)について、印加時間tstressを200秒とした場合の、ゲート・ソース間電圧VPgsと正規化変化量ΔIds/Ids0との関係を示す図である。また、図16は、トランジスタ10について、ゲート・ソース間電圧VPgsを−2.4[V]とした場合の、正規化変化量ΔIds/Ids0の時間変化を示す図である。いずれの図でも、ドレイン・ソース間電圧VNdsは0.0[V]としている。これらの図から、例えば、印加時間tstressを200秒、ストレス電圧Vstress(ゲート・ソース間電圧VPgs)を−2.4[V]とすれば、特性制御工程において、トランジスタ10のドレイン・ソース間電流IdsをIds−0.1Ids0まで引き下げられることが理解される。
【0086】
以上説明したように、本実施の形態による半導体装置の製造方法によれば、トランジスタ10,10のドレイン・ソース間電流Idsについても、閾値電圧Vthと同様に制御できる。
【0087】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0088】
例えば、図7に示した半導体装置1についての説明では閾値電圧Vthを制御する場合についてのみ説明したが、同様の構成及び処理により、各トランジスタのドレイン・ソース間電流Idsを制御することももちろん可能である。
【0089】
また、図7では、1つのCMOS10−1のみを制御対象としたが、半導体回路2内にCMOS10−1と並列に接続される他のCMOSが存在する場合、これらを同時に制御することとしてもよい。
【0090】
また、上記実施の形態では本発明の適用例としてDRAMを挙げたが、本発明はDRAM以外の各種半導体記憶装置を含むその他の半導体装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 半導体装置
2 半導体回路
10−1 CMOS
10 Nチャンネル型MOSトランジスタ
10 Pチャンネル型トランジスタ
10−2,10−3 他の回路
11〜13 スイッチ
20〜22 トランジスタ
L1 第1の電圧受入配線
L2 第2の電圧受入配線
L3 配線
PR 電源配線
SL 信号配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の閾値電圧及び第1のドレイン・ソース間電流を呈するようなデバイスパラメータをもって設計された第1のトランジスタを含む半導体回路を形成する半導体回路形成工程と、
前記第1のトランジスタにストレス電圧を印加して前記第1の閾値電圧とは異なる第2の閾値電圧及び前記第1のドレイン・ソース間電流とは異なる第2のドレイン・ソース間電流の少なくとも一方を前記第1のトランジスタが呈するようにする特性制御工程と、
前記第1のトランジスタが前記第2の閾値電圧及び前記第2のドレイン・ソース間電流の少なくとも一方を呈する状態で出荷する出荷工程と
を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記半導体回路は、前記デバイスパラメータをもって設計された第2のトランジスタを含み、
前記特性制御工程は、前記第1及び第2のトランジスタのうち前記第1のトランジスタに選択的に前記ストレス電圧を印加する
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記特性制御工程により、少なくとも前記第1のトランジスタの閾値電圧が前記第2の閾値電圧に変更され、
前記第2の閾値電圧の絶対値は前記第1の閾値電圧の絶対値より大きい
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記特性制御工程により、少なくとも前記第1のトランジスタのドレイン・ソース間電流が前記第2のドレイン・ソース間電流に変更され、
前記第2のドレイン・ソース間電流の経年変化の割合は前記第1のドレイン・ソース間電流の経年変化の割合より小さい
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記半導体回路のバーンインテストを行う試験工程をさらに備え、
前記試験工程は、前記特性制御工程の終了後前記出荷工程の開始前に実施される
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
所定の特性が互いに同一となるよう設計された第1及び第2のトランジスタを含む半導体回路を形成する半導体回路形成工程と、
前記第1のトランジスタに対して第1のストレス電圧を印加して、前記第1及び第2のトランジスタの前記所定の特性を互いに異ならせる特性制御工程と、
前記第1及び第2のトランジスタの両方に対して第2のストレス電圧を印加することによりバーンインテストを行う試験工程と
を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記所定の特性は、閾値電圧及びドレイン・ソース間電流のうちの少なくとも一方である
ことを特徴とする請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第1及び第2のトランジスタはNチャンネル型MOSトランジスタであり、
前記第1のストレス電圧は、前記第1のトランジスタのドレイン・ソース間電圧である
ことを特徴とする請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1及び第2のトランジスタはPチャンネル型MOSトランジスタであり、
前記第1のストレス電圧は、前記第1のトランジスタのゲート・ソース間電圧である
ことを特徴とする請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記特性制御工程は、所定時間にわたって前記第1のトランジスタに前記第1のストレス電圧を印加し、
前記第1のストレス電圧は、前記所定時間にわたって前記一部のトランジスタに該第1のストレス電圧を印加した場合に、前記所定の特性が所望の目標値となるように決定される
ことを特徴とする請求項6乃至9のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−59996(P2012−59996A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203012(P2010−203012)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(500174247)エルピーダメモリ株式会社 (2,599)
【Fターム(参考)】