説明

半導体装置

【課題】GaN電子走行層、AlGaN電子供給層、およびGaNキャップ層が順次積層された半導体装置において、高周波数動作および高出力動作を実現することが可能な半導体装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、基板10上に順次積層されたGaN電子走行層12、AlGaN電子供給層14、およびGaNキャップ層16と、GaNキャップ層16上に形成されたゲート電極18と、ゲート電極18の両側であって、AlGaN電子供給層14上に形成されたソース電極20およびドレイン電極22と、ゲート電極18とソース電極20との間のGaNキャップ層16に形成された第1の凹部30と、を具備し、第1の凹部30が有する底面32下におけるGaNキャップ層16の厚さは、ゲート電極18下におけるGaNキャップ層16の厚さに比べて薄い半導体装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特に、GaN系の半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系半導体を用いた半導体装置は、高周波かつ高出力で動作するパワー素子として用いられている。特に、マイクロ波、準ミリ波、ミリ波などの高周波帯域での増幅に適した半導体装置として、例えば高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)などのFETが知られている。
【0003】
GaN系半導体を用いたHEMT(以下、GaN系HEMTと称す)においては、高周波数動作および高出力動作が求められ、それを実現するためには、相互コンダクタンスおよび耐圧を高くすることが求められている。例えば、特許文献1に、ゲート電極とドレイン電極との間およびゲート電極とソース電極との間のAlGaN電子供給層に凹部を設けたGaN系HEMTが開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、GaN電子走行層およびAlGaN電子供給層からなるGaN系HEMTにおいて、AlGaN電子供給層上にGaNキャップ層が設けられた構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−286740号公報
【非特許文献1】T.Kikkawa、他9名、「An Over 200−W Output Power GaN HEMT Push−Pull Amplifier with High Reliability」、2004 IEEE MTT−S Digest、2004年、p.1347−1350
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板上にGaN電子走行層、AlGaN電子供給層、およびGaNキャップ層が順次積層されたGaN系HEMTにおいて、GaNキャップ層は、ゲート電極端での電界緩和による耐圧の向上、AlGaN電子供給層の表面を保護すると共に表面電荷の影響を受け難くすることによる高信頼性の確保、閾値電圧の制御性、または相互コンダクタンスの線形性の向上などのために設けられており、それぞれの目的に応じた厚さにGaNキャップ層を厚膜にすることが求められる。
【0007】
GaNキャップ層には、GaN電子走行層およびAlGaN電子供給層に生じる分極の向きと反対の向きのピエゾ分極が生じる。GaNキャップ層が厚膜になるほど、GaNキャップ層に生じるピエゾ分極は大きくなり、この結果、2DEG(2次元電子ガス)の濃度が低下する。これにより、相互コンダクタンス(gm)および最大順電流(Ifmax)の低下が引き起こされる。したがって、GaN系HEMTに求められている高周波数動作および高出力動作を実現することが難しくなってしまう。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、GaN電子走行層、AlGaN電子供給層、およびGaNキャップ層が順次積層された半導体装置において、高周波数動作および高出力動作を実現することが可能な半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基板上に順次積層されたGaN電子走行層、AlGaN電子供給層、およびGaNキャップ層と、前記GaNキャップ層上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極の両側を挟む位置の前記AlGaN電子供給層上に形成されたソース電極およびドレイン電極と、前記ゲート電極と前記ソース電極との間の前記GaNキャップ層に形成された第1の凹部と、を具備し、前記第1の凹部が有する底面下における前記GaNキャップ層の厚さは、前記ゲート電極下における前記GaNキャップ層の厚さに比べて薄いことを特徴とする半導体装置である。本発明によれば、GaNキャップ層の厚さを薄くした部分に対応する2DEG濃度が向上するので、相互コンダクタンス(gm)および最大順電流(Ifmax)の低下を抑制でき、高周波数動作および高出力動作が可能な半導体装置が得られる。
【0010】
上記構成において、前記ゲート電極下における前記GaNキャップ層の厚さは10nm以上である構成とすることができる。この構成によれば、ゲート電極端部での電界集中を緩和でき、耐圧を向上できる。
【0011】
上記構成において、前記第1の凹部が有する底面下における前記GaNキャップ層の厚さは5nm以下である構成とすることができる。この構成によれば、2DEG濃度をより向上できる。
【0012】
上記構成において、前記ゲート電極の前記ソース電極側の端部と前記第1の凹部の前記ゲート電極側の端部との間隔は0.2μm以上である構成とすることができる。この構成によれば、空乏層の形状悪化および耐圧の低下を抑制できる。
【0013】
上記構成において、前記第1の凹部の前記ソース電極側の端部は前記ソース電極の側面にまで延在するように形成されている構成とすることができる。この構成によれば、ゲート電極とソース電極との間全体で、2DEG濃度を向上できる。
【0014】
上記構成において、前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間の前記GaNキャップ層に形成された第2の凹部を具備し、前記第2の凹部が有する底面下における前記GaNキャップ層の厚さは、前記ゲート電極下における前記GaNキャップ層の厚さに比べて薄い構成とすることができる。この構成によれば、第2の凹部を設けてGaNキャップ層の厚さを薄くした部分に対応する2DEG濃度を向上でき、また、ドレイン電極端部での電界集中を緩和でき、ドレイン耐圧を向上できる。
【0015】
上記構成において、前記第2の凹部は、前記第2の凹部が有する底面下における前記GaNキャップ層の厚さが前記ドレイン電極に向かって段々に薄くなる多段構造を有している構成とすることができる。この構成によれば、ドレイン電極端部での電界集中をより緩和でき、ドレイン耐圧をより向上できる。
【0016】
上記構成において、前記第2の凹部の前記ドレイン電極側の端部は前記ドレイン電極の側面にまで延在するように形成されている構成とすることができる。この構成によれば、ゲート電極とドレイン電極との間全体で、2DEGの濃度を向上できる。
【0017】
上記構成において、前記基板の材料がSiC、GaNおよびサファイアの何れかにおいて、前記基板の主面は(0001)面であり、前記基板の材料がSiにおいて、前記基板の主面は(111)面である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、GaNキャップ層の厚さを薄くした部分に対応する2DEG濃度が向上するので、相互コンダクタンス(gm)および最大順電流(Ifmax)の低下を抑制でき、高周波数動作および高出力動作が可能な半導体装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は比較例に係る半導体装置の例を示す断面模式図である。
【図2】図2は比較例に係る半導体装置に生じる分極について説明するための図である。
【図3】図3は実施例1に係る半導体装置の例を示す断面模式図である。
【図4】図4(a)から図4(c)は実施例1に係る半導体装置の製造方法の例を示す断面模式図である。
【図5】図5はシミュレーションに用いた実施例1に係る半導体装置の各構成部の寸法の例を説明するための断面模式図である。
【図6】図6は比較例に係る半導体装置と実施例1に係る半導体装置との最大順電流(Ifmax)についてのミュレーション結果の図である。
【図7】図7はゲート電極と第1の凹部との間隔を変化させた場合における空乏層の形状ついてのシミュレーション結果の図である。
【図8】図8はゲート電極と第1の凹部との間隔を変化させた場合における電流電圧特性についてのシミュレーション結果の図である。
【図9】図9は実施例2に係る半導体装置の例を示す断面模式図である。
【図10】図10は実施例2の変形例に係る半導体装置の例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る実施例を説明する前に、比較例とその課題についてまず説明する。図1は比較例に係る半導体装置の例を示す断面模式図である。比較例に係る半導体装置は、例えばGaN系HEMTである。
【0021】
図1のように、比較例に係る半導体装置100は、例えばSiCからなる基板10の(0001)面上にGaN電子走行層12、AlGaN電子供給層14、GaNキャップ層16、および絶縁膜17が順次積層され、GaNキャップ層16上面に接してゲート電極18が設けられている。ゲート電極18両側のAlGaN電子供給層14上面に、ソース電極20およびドレイン電極22が設けられている。ソース電極20とドレイン電極22との間におけるGaNキャップ層16は凹部が形成されてなく、上面は平面形状をしている。ソース電極20およびドレイン電極22上面にはそれぞれメッキ層24が設けられている。メッキ層24、ソース電極20、GaNキャップ層16、絶縁膜17、ゲート電極18、およびドレイン電極22を覆うように保護膜26が設けられている。
【0022】
ここで、比較例に係るGaN系HEMTに生じる分極について説明し、併せて2DEG(2次元電子ガス)の濃度について説明する。分極には、GaN系半導体結晶を形成する原子の電気陰性度の違いに起因する自発分極と、格子定数の違いによる半導体膜中の応力に起因するピエゾ分極と、がある。
【0023】
図2は比較例に係るGaN系HEMTに生じる分極について説明するための図である。図2のように、GaN電子走行層12、AlGaN電子供給層14、およびGaNキャップ層16それぞれには、基板10側が正となる自発分極PSPが生じる。また、AlGaN電子供給層14には、AlGaN電子供給層14中の格子定数の違い(例えば、GaNの格子定数はa軸が3.18Å、c軸が5.17Åであるのに対し、AlNの格子定数はa軸が3.11Å、c軸が4.98Åである)による応力に起因したピエゾ分極PPEが、自発分極PSPと同じ向きに発生する。一方、GaNキャップ層16には、GaNキャップ層16とAlGaN電子供給層14との間の格子定数の違いによる歪みに起因したピエゾ分極PPEが、自発分極PSPと反対の向きに発生する。このように、GaNキャップ層16を設けることで、GaN電子走行層12とAlGaN電子供給層14との界面でのピエゾ効果を妨げる方向のピエゾ効果が生み出される。GaNキャップ層16に発生するピエゾ分極PPEは、GaNキャップ層16が厚膜になるほど大きくなる。
【0024】
GaN電子走行層12とAlGaN電子供給層14との界面に生じる2DEG(図1中の番号28参照)の濃度は、GaN電子走行層12とAlGaN電子供給層14との分極の差により増減する。AlGaN電子供給層14上にGaNキャップ層16を設けた場合は、GaN電子走行層12とAlGaN電子供給層14との界面でのピエゾ効果を妨げる方向のピエゾ効果が生み出されることから、GaN電子走行層12とAlGaN電子供給層14との界面に生じる2DEGの濃度は低減される。2DEGの濃度が低下すると抵抗は増加する。
【0025】
このように、比較例に係るGaN系HEMTによれば、AlGaN電子供給層14上に厚膜のGaNキャップ層16を設けることで、ゲート電極18端部での電界緩和による耐圧の向上、AlGaN電子供給層14の表面を保護すると共に表面電荷の影響を受け難くすることによる高信頼性の確保、閾値電圧の制御性、または相互コンダクタンスの線形性の向上を実現できる一方で、2DEG濃度が低下してしまうため、相互コンダクタンス(gm)および最大順電流(Ifmax)が低下してしまう。このため、比較例に係るGaN系HEMTでは、高周波数動作および高出力動作を実現することが難しい。そこで、GaN電子走行層、AlGaN電子供給層、およびGaNキャップ層が順次積層されたGaN系HEMTにおいて、高周波数動作および高出力動作が可能な半導体装置の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0026】
図3は実施例1に係る半導体装置の例を示す断面模式図である。実施例1に係る半導体装置200は、例えばGaN系HEMTである。図3のように、例えばSiCからなる基板10の(0001)面上に、GaN電子走行層12、AlGaN電子供給層14、GaNキャップ層16、および例えばSiN膜である絶縁膜17が順次積層されている。GaN電子走行層12およびAlGaN電子供給層14は不純物の添加はない。GaNキャップ層16への不純物の添加は本質的には必要ないが、半導体表面のフェルミレベルを安定させ、信頼性を高める目的で、1×1018cm−3程度のn型層としている。
【0027】
GaNキャップ層16の上面に接して、例えば基板10側からNiとAuとの積層体であるゲート電極18が設けられている。ゲート電極18の両側を挟む位置のAlGaN電子供給層14の上面には、例えば基板10側からTiとAlの積層体であるソース電極20およびドレイン電極22とが設けられている。つまり、GaNキャップ層16は、ソース電極20とドレイン電極22との間でAlGaN電子供給層14上面を延在して設けられていて、GaNキャップ層16の端面は、ソース電極20およびドレイン電極22の側面に接している。
【0028】
ゲート電極18とソース電極20との間に位置するGaNキャップ層16には、第1の凹部30が形成されている。第1の凹部30は底面32を有し、底面32下にはGaNキャップ層16が存在する。つまり、底面32下におけるGaNキャップ層16の厚さは、ゲート電極18下におけるGaNキャップ層16の厚さよりも薄い。また、第1の凹部30は、GaNキャップ層16の端部にまで延在しており、底面32はソース電極20の側面と接続する。つまり、第1の凹部30のソース電極20側の端部は、ソース電極20の側面にまで延在して形成されている。
【0029】
ソース電極20およびドレイン電極22の上面には、例えばAuからなり、厚さが3μmのメッキ層24が設けられている。メッキ層24、ソース電極20、GaNキャップ層16、絶縁膜17、ゲート電極18、およびドレイン電極22を覆うように、例えばSiNからなり、厚さが400nmの保護膜26が設けられている。
【0030】
次に、実施例1に係るGaN系HEMTの製造方法を説明する。図4(a)から図4(c)は実施例1に係るGaN系HEMTの製造方法の例を示す断面模式図である。
【0031】
図4(a)のように、基板10の上面に、例えばMOCVD法(有機金属気相成長法)を用いて、GaN電子走行層12、AlGaN電子供給層14、およびGaNキャップ層16をエピタキシャル成長により順次積層する。
【0032】
図4(b)のように、GaNキャップ層16上に、ソース電極20およびドレイン電極22を形成すべき領域に開口部を有するフォトレジストを露光法により形成し、塩素系ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)法により、フォトレジストをマスクにしてGaNキャップ層16を除去する。これにより、ソース電極20およびドレイン電極22を形成すべき領域で、AlGaN電子供給層14の表面が露出する。次いで、AlGaN電子供給層14およびGaNキャップ層16上に、第1の凹部30を形成すべき領域に開口部を有するフォトレジストを形成し、塩素系ガスを用いたRIE法により、フォトレジストをマスクにしてGaNキャップ層16を除去する。この際、GaNキャップ層16が残存するようにエッチングをする。これにより、底面32下にGaNキャップ層16が残存する第1の凹部30が形成される。
【0033】
図4(c)のように、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用い、図4(b)の工程により表面が露出したAlGaN電子供給層14上面に、基板10側からTi/Alからなるソース電極20およびドレイン電極22を形成する。次いで、例えばプラズマCVD法により、GaNキャップ層16上面、ソース電極20上面、およびドレイン電極22上面にSiN膜からなる絶縁膜17を堆積する。次いで、ゲート電極18を形成すべき領域の絶縁膜17をエッチングにより除去した後、除去した領域のGaNキャップ層16上面に、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用いて、基板10側からNi/Auからなるゲート電極18を形成する。次いで、ソース電極20およびドレイン電極22の上面の絶縁膜17をエッチングにより除去した後、例えばメッキ法を用いて、ソース電極20とドレイン電極22の上面にメッキ層24を形成する。その後、例えばプラズマCVD法により、SiNを全面堆積する。これにより、メッキ層24、ソース電極20、GaNキャップ層16、絶縁膜17、ゲート電極18、およびドレイン電極22を覆う保護膜26が形成される。以上の工程により、図3に示すようなGaN系HEMTが完成する。
【0034】
次に、実施例1に係る半導体装置200での最大順電流(Ifmax)と比較例に係る半導体装置100での最大順電流(Ifmax)とを比較したシミュレーション結果を説明する。
【0035】
まず、図5を用いて、シミュレーションを行った実施例1に係る半導体装置200の各構成部の寸法を説明する。図5のように、シミュレーションを行った実施例1に係る半導体装置200は、GaN電子走行層12の膜厚が0.3μmであり、AlGaN電子供給層14は組成比がAl0.25Ga0.75Nで、膜厚が22nmである。ゲート電極18の厚さは0.5μmであり、ソース電極20およびドレイン電極22の厚さは1.0μmである。第1の凹部30の底面32下におけるGaNキャップ層16の膜厚T1は5nmであり、ゲート電極18下におけるGaNキャップ層16の膜厚T2は15nmである。ゲート電極18のゲート長Lgは0.25μmである。ゲート電極18のソース電極20側の端部とソース電極20のゲート電極18側の端部との間隔Lgsは1.0μmである。ゲート電極18のドレイン電極22側の端部とドレイン電極22のゲート電極18側の端部との間隔Lgdは3.0μmである。そして、ゲート電極18のソース電極20側の端部と第1の凹部30のゲート電極18側の端部との間隔Lgrを、0.5μm、0.2μm、および0μmに変化させてシミュレーションを行った。
【0036】
シミュレーションを行った比較例に係る半導体装置100の各構成部の寸法および材料は、GaNキャップ層16の膜厚を5nmおよび15nmとした以外は、図3および図5で説明した実施例1に係る半導体装置200の各構成部の寸法および材料と同じである。
【0037】
図6は、最大順電流(Ifmax)のシミュレーション結果である。横軸のキャップ層5nmおよびキャップ層15nmは、比較例に係る半導体装置100でGaNキャップ層16の膜厚を5nmおよび15nmとした場合のシミュレーション結果である。Lgr0.5μm、Lgr0.2μm、Lgr0μmは、実施例1に係る半導体装置200でゲート電極18と第1の凹部30との間隔Lgrを0.5μm、0.2μm、0μmとした場合のシミュレーション結果である。縦軸は、GaNキャップ層16の膜厚を5nmにした比較例に係る半導体装置100での最大順電流(Ifmax)の値を基準(100%)とした場合の最大順電流(Ifmax)の相対値を示している。なお、シミュレーションは、最大順電流(Ifmax)を、ゲート−ソース間に2Vの電圧を、ドレイン−ソース間に10Vの電圧を印加したときのドレイン−ソース間の電流として定義した。
【0038】
図6のように、比較例に係る半導体装置100では、GaNキャップ層16の厚さを5nmから15nmに厚くすることで、最大順電流(Ifmax)は低下する。これは、前述したように、GaNキャップ層16の厚さが厚くなることで、GaNキャップ層16に生じるピエゾ分極が大きくなり、その結果、2DEGの濃度が低下したためである。
【0039】
一方、実施例1に係る半導体装置200のようにゲート電極18とソース電極20との間のGaNキャップ層16に第1の凹部30を設けた場合は、ゲート電極18下のGaNキャップ層16の膜厚を15nmと厚膜にしているにも関わらず、ゲート電極18とソース電極20との間のGaNキャップ層16の膜厚を5nmとしているため、GaNキャップ層16の膜厚を5nmとした比較例に係る半導体装置100での最大順電流(Ifmax)と同程度の最大順電流(Ifmax)特性が得られる。また、ゲート電極18と第1の凹部30との間隔Lgrが異なる場合でも、同程度の大きさの最大順電流(Ifmax)が得られる。
【0040】
このように、実施例1によれば、GaNキャップ層16上に形成されたゲート電極18と、AlGaN電子供給層14上に形成されたソース電極20と、の間のGaNキャップ層16に第1の凹部30を形成し、第1の凹部30の底面32下におけるGaNキャップ層16の厚さを、ゲート電極18下におけるGaNキャップ層16の厚さより薄くする。これにより、GaNキャップ層16に生じるピエゾ分極の大きさを小さくすることができ、ゲート電極18とソース電極20との間でのGaN電子走行層12とAlGaN電子供給層14との界面に生じる2DEG濃度が向上する。つまり、第1の凹部30を設けたことで厚さが薄くなったGaNキャップ層16に対応する部分の2DEG濃度が向上する。この結果、相互コンダクタンス(gm)および最大順電流(Ifmax)などの低下が抑制され、高周波数動作および高出力動作が可能なGaN系HEMTが得られる。
【0041】
ゲート電極18下におけるGaNキャップ層16の膜厚T2は、AlGaN電子供給層14の表面を保護し且つゲート電極18端部での電界集中を緩和して耐圧を向上させるために、10nm以上である場合が好ましい。また、ゲート電極18を空乏層から遠ざけて表面電荷の影響を受け難くし特性の変動を抑えて高信頼性を確保するために、ゲート電極18下のGaNキャップ層16の膜厚T2は、100nm程度である場合が好ましい。つまり、ゲート電極18下のGaNキャップ層16の膜厚T2は、10nm以上100nm以下の場合が好ましく、30nm以上100nm以下の場合がより好ましく、60nm以上100nm以下の場合がさらに好ましい。
【0042】
第1の凹部30が有する底面32下におけるGaNキャップ層16の膜厚T1は、2DEG濃度を向上させるために、5nm以下である場合が好ましい。また、AlGaN電子供給層14の表面を保護する目的からは、第1の凹部30の底面32下におけるGaNキャップ層16の膜厚T1は、1.5nm以上である場合が好ましい。つまり、第1の凹部30の底面32下におけるGaNキャップ層16の膜厚T1は、1.5nm以上5nm以下である場合が好ましく、2nm以上4.5nm以下である場合がより好ましく、2.5nm以上4nm以下である場合がさらに好ましい。
【0043】
ここで、図7(a)から図7(c)を用い、実施例1に係る半導体装置200において、ゲート電極18と第1の凹部30との間隔Lgrを変化させた場合における、空乏層の形状の変化についてのシミュレーション結果を説明する。シミュレーションを行った実施例1に係る半導体装置200の各構成部の寸法は、図5で説明した寸法と同じであり、図7(b)にゲート電極18と第1の凹部30との間隔Lgrを0.2μmとした場合、図7(c)に間隔Lgrを0μmとした場合のシミュレーション結果を示す。また、比較として、図7(a)には、GaNキャップ層16の膜厚を5nmとし、その他の構成部の寸法および材料を図3および図5で説明した実施例1に係る半導体装置200の各構成部の寸法および材料と同じにした、比較例に係る半導体装置100のシミュレーション結果を示す。シミュレーションは、ゲート電圧を−6V、ソース−ドレイン間電圧を60Vにして行った。なお、図7(a)から図7(c)で、空乏層34が形成される領域を斜線部で表す。
【0044】
図7(a)から図7(c)のように、第1の凹部30が設けられていない比較例に係る半導体装置100の場合と(図7(a))、ゲート電極18と第1の凹部30との間隔Lgrを0.2μmにした実施例1に係る半導体装置200の場合と(図7(b))では、同様の形状の空乏層34が形成される。これに対し、間隔Lgrを0μmにした実施例1に係る半導体装置200の場合では(図7(c))、空乏層34が延びずに、GaN電子走行層12での空乏層34の幅が狭まっている。このことから、間隔Lgrを0μmとした場合は、第1の凹部30が設けられていない場合や間隔Lgrを0.2μmとした場合とゲート長が等しくゲート容量が同じであるのに、実効ゲート長は短くなりショートチャネル効果が生じ得る。
【0045】
次に、図8を用い、ゲート電極18と第1の凹部30との間隔Lgrを変化させた場合における、オフ状態での電流電圧特性についてのシミュレーション結果を説明する。横軸はソース−ドレイン間の電圧であり、縦軸はソース−ドレイン間の電流である。シミュレーションを行った実施例1に係る半導体装置200の各構成部の寸法は、図5で説明した寸法と同じである。また、比較として、GaNキャップ層16の膜厚を5nmとし、その他の構成部の寸法および材料を図3および図5で説明した実施例1に係る半導体装置200の各構成部の寸法および材料と同じにした、比較例に係る半導体装置100のシミュレーション結果も示す。図8中の一点鎖線はゲート電極18と第1の凹部30との間隔Lgrを0.2μmにした場合のシミュレーション結果であり、二点鎖線は間隔Lgrを0μmにした場合のシミュレーション結果である。破線は第1の凹部30が設けられていない比較例に係る半導体装置100でのシミュレーション結果である。
【0046】
図8のように、第1の凹部30が設けられていない比較例に係る半導体装置100の場合と、ゲート電極18と第1の凹部30との間隔Lgrを0.2μmにした実施例1に係る半導体装置200の場合とでは、同程度の耐圧特性を有する。これに対して、間隔Lgrを0μmにした実施例1に係る半導体装置200の場合では、耐圧が低下してリーク電流特性が劣化している。
【0047】
図7(a)から図7(c)および図8で説明したように、空乏層34の形状悪化および耐圧の低下を抑える目的から、ゲート電極18のソース電極20側の端部と第1の凹部30のゲート電極18側の端部との間隔Lgrは、0.2μm以上である場合が好ましい。特に、第1の凹部30を製造する際の位置合せなどのプロセスマージンを考慮すると、間隔Lgrは0.4μm以上である場合がより好ましい。また、間隔Lgrは、2DEG濃度の低下を抑制できる程度の長さ以下である場合が好ましい。
【0048】
図3のように、第1の凹部30のソース電極20側の端部は、ソース電極20の側面にまで延在するように形成されている場合が好ましい。これにより、ゲート電極18とソース電極20との間全体で、2DEGの濃度を向上させることができる。
【0049】
実施例1において、基板10はSiCである場合を例に示したが、Si基板、GaN基板、サファイア基板である場合でもよい。GaN電子走行層12、AlGaN電子供給層14、GaNキャップ層16などを、SiC、GaNおよびサファイアの何れかからなる基板10の(0001)面上に形成し、あるいは、Siからなる基板10の(111)面上に形成することで、自発分極およびピエゾ分極を大きくすることができる。このように、基板10の材料がSiC、GaNおよびサファイアの何れかである場合において、基板10の主面は(0001)面であり、基板10の材料がSiである場合において、基板10の主面は(111)面であることが好ましい。
【実施例2】
【0050】
実施例2は、ゲート電極とドレイン電極との間に位置するGaNキャップ層に第2の凹部を有する場合の例である。図9は実施例2に係る半導体装置の例を示す断面模式図である。
【0051】
図9のように、実施例2に係る半導体装置300は、ゲート電極18とドレイン電極22との間に位置するGaNキャップ層16に、第2の凹部36が形成されている。第2の凹部36は底面38を有し、底面38下にはGaNキャップ層16が存在する。つまり、底面38下におけるGaNキャップ層16の厚さは、ゲート電極18下におけるGaNキャップ層16の厚さよりも薄い。また、第2の凹部36は、GaNキャップ層16の端部にまで延在しており、底面38はドレイン電極22の側面と接続する。つまり、第2の凹部36のドレイン電極22側の端部は、ドレイン電極22の側面にまで延在して形成されている。その他の構成については、実施例1と同じであり、図3に示しているためここでは説明を省略する。
【0052】
このように、実施例2によれば、GaNキャップ層16上に形成されたゲート電極18と、AlGaN電子供給層14上に形成されたドレイン電極22と、の間のGaNキャップ層16に第2の凹部36を形成し、第2の凹部36の底面38下におけるGaNキャップ層16の厚さを、ゲート電極18下におけるGaNキャップ層16の厚さより薄くする。これにより、ゲート電極18とドレイン電極22との間でのGaN電子走行層12とAlGaN電子供給層14との界面に生じる2DEGの濃度が向上し、ドレイン電極22端部での電界集中の緩和、ドレイン耐圧の向上が実現できる。
【0053】
第2の凹部36が有する底面38下におけるGaNキャップ層16の厚さは、実施例1と同様の理由から、1.5nm以上5nm以下である場合が好ましく、2nm以上4.5nm以下である場合がより好ましく、2.5nm以上4nm以下である場合がさらに好ましい。また、ゲート電極18とドレイン電極22との間全体で、2DEGの濃度を向上させるために、第2の凹部36のドレイン電極22側の端部は、ドレイン電極22の側面にまで延在するように形成されている場合が好ましい。
【0054】
実施例2において、第1の凹部30の深さと第2の凹部36の深さとは同じ場合でも異なる場合でもよい。言い換えると、第1の凹部30の底面32下におけるGaNキャップ層16の厚さと第2の凹部36の底面38下におけるGaNキャップ層16の厚さとは同じ場合でも異なる場合でもよい。第1の凹部30と第2の凹部36との深さが同じ場合は、第1の凹部30と第2の凹部36とを同一プロセス工程で同時に形成できる。このため、プロセス工数の増加を抑制できる。一方、第1の凹部30と第2の凹部36との深さが異なる場合は、ゲート電極18とソース電極20との間の抵抗と、ゲート電極18とドレイン電極22との間の抵抗と、をそれぞれ個別に制御することが可能となる。
【0055】
図10は実施例2の変形例に係る半導体装置の例を示す断面模式図である。図10のように、実施例2の変形例に係る半導体装置400は、第2の凹部36が複数の底面38を有し、複数の底面38それぞれにおいて、第2の凹部36の深さがそれぞれ異なっている。言い換えると、複数の底面38それぞれの下におけるGaNキャップ層16の厚さがそれぞれ異なっている。つまり、第2の凹部36は、底面38下におけるGaNキャップ層16の厚さがドレイン電極22に向かうに連れて段々に薄くなる多段構造をしている。
【0056】
このように、実施例2の変形例によれば、第2の凹部36が、底面38下におけるGaNキャップ層16の厚さがドレイン電極22に向かって段々に薄くなる多段構造を有していることで、電界緩和をより促進でき、ドレイン耐圧をより向上させることができる。
【0057】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 基板
12 GaN電子走行層
14 AlGaN電子供給層
16 GaNキャップ層
18 ゲート電極
20 ソース電極
22 ドレイン電極
24 メッキ層
26 保護膜
28 2DEG
30 第1の凹部
32 底面
34 空乏層
36 第2の凹部
38 底面
100 半導体装置
200 半導体装置
300 半導体装置
400 半導体装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に順次積層されたGaN電子走行層、AlGaN電子供給層、およびGaNキャップ層と、
前記GaNキャップ層上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極の両側を挟む位置の前記AlGaN電子供給層上に形成されたソース電極およびドレイン電極と、
前記ゲート電極と前記ソース電極との間の前記GaNキャップ層に形成された第1の凹部と、を具備し、
前記第1の凹部が有する底面下における前記GaNキャップ層の厚さは、前記ゲート電極下における前記GaNキャップ層の厚さに比べて薄いことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記ゲート電極下における前記GaNキャップ層の厚さは10nm以上であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1の凹部が有する底面下における前記GaNキャップ層の厚さは5nm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記ゲート電極の前記ソース電極側の端部と前記第1の凹部の前記ゲート電極側の端部との間隔は0.2μm以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1の凹部の前記ソース電極側の端部は前記ソース電極の側面にまで延在するように形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の半導体装置。
【請求項6】
前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間の前記GaNキャップ層に形成された第2の凹部を具備し、
前記第2の凹部が有する底面下における前記GaNキャップ層の厚さは、前記ゲート電極下における前記GaNキャップ層の厚さに比べて薄いことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第2の凹部は、前記第2の凹部が有する底面下における前記GaNキャップ層の厚さが前記ドレイン電極に向かって段々に薄くなる多段構造を有していることを特徴とする請求項6記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第2の凹部の前記ドレイン電極側の端部は前記ドレイン電極の側面にまで延在するように形成されていることを特徴とする請求項6または7記載の半導体装置。
【請求項9】
前記基板の材料がSiC、GaNおよびサファイアの何れかにおいて、前記基板の主面は(0001)面であり、前記基板の材料がSiにおいて、前記基板の主面は(111)面であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−114269(P2011−114269A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271415(P2009−271415)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】